1 00:00:01,785 --> 00:00:03,754 (ふすまの開く音) (座布団を置く音) 2 00:00:03,754 --> 00:00:13,764 ♬~ 3 00:00:13,764 --> 00:00:17,768 (桜咲朱音) 〈そこから おっ父の噺を見るのが…〉 4 00:00:17,768 --> 00:00:22,823 ♬~ 5 00:00:22,823 --> 00:00:25,826 〈私は大好きだった〉 6 00:00:44,778 --> 00:00:47,764 (阿良川志ん太) 「そしたら 大家が うち来てさ→ 7 00:00:47,764 --> 00:00:50,734 ちょいと 道具箱 預かる なんてこと言うからさ→ 8 00:00:50,734 --> 00:00:52,786 ああ じゃあ 道具箱ってことは→ 9 00:00:52,786 --> 00:00:55,756 大家さん 大工なんか やんのかなあ と思ってね→ 10 00:00:55,756 --> 00:00:57,758 じゃあ どうぞ! って貸したんだよ」。 11 00:00:57,758 --> 00:00:59,760 「あの年で大工なんて務ま…」。 12 00:00:59,760 --> 00:01:02,746 (せき) (志ん太)「あれ もうろくだね」。 13 00:01:02,746 --> 00:01:04,731 「おまえが もうろくだよ!」。 (観客の笑い声) 14 00:01:04,731 --> 00:01:07,734 (志ん太)「おまえ… おまえ それ なんじゃねえか!?」。 15 00:01:08,735 --> 00:01:11,738 (吉乃紗季)かたい! かたいよ 志んちゃん! 16 00:01:11,738 --> 00:01:13,740 かたいですか…。 17 00:01:13,740 --> 00:01:16,743 (紗季)そうだよ。 気負いすぎ。 18 00:01:16,743 --> 00:01:19,746 (志ん太)ああ… ですかね。 (ため息) 19 00:01:19,746 --> 00:01:23,734 (紗季)例の試験もあるし 娘ちゃんも大きいしで→ 20 00:01:23,734 --> 00:01:26,737 グ~ッてなるのは分かるけど…。 21 00:01:32,759 --> 00:01:35,729 もっと こう スーッときて ワッ! ってね。 22 00:01:35,729 --> 00:01:38,715 頑張るんだよ。 (志ん太)ありがとうございます。 23 00:01:41,735 --> 00:01:44,738 (樫尾公久) 随分 買ってるんですね。 24 00:01:44,738 --> 00:01:48,742 正直 パッとしないというか ピンとこなかったんですけど…。 25 00:01:48,742 --> 00:01:51,745 まあ 今日の出来も いまいちだったしね。 26 00:01:51,745 --> 00:01:53,747 (樫尾)なら なんで? 27 00:01:53,747 --> 00:01:55,749 (ため息) 28 00:01:55,749 --> 00:01:59,753 (紗季)私は あの子の会心の一席を見たことがある。 29 00:02:01,755 --> 00:02:05,759 (紗季の声)こんなとこで くすぶっていい男 じゃないんだよ あの子はさ。 30 00:02:05,759 --> 00:02:07,761 (ため息) 31 00:02:07,761 --> 00:02:12,716 (携帯電話の振動音) (志ん太のため息) 32 00:02:12,716 --> 00:02:15,736 (携帯電話の振動音) (志ん太)朱音の…? 33 00:02:15,736 --> 00:02:17,738 (児童)じゃあ 後でね! 34 00:02:17,738 --> 00:02:19,790 (児童)じゃあね~! (児童)バイバ~イ! 35 00:02:19,790 --> 00:02:21,725 〓(尾崎ママ)はあ!? 36 00:02:21,725 --> 00:02:25,746 ちょっと! そんな言い方ないんじゃない!? あなた どうして そんな…。 37 00:02:25,746 --> 00:02:27,748 だから それは さっき…。 (尾崎ママ)はあ!? 38 00:02:27,748 --> 00:02:29,783 (尾崎ママ)だからも何もないから! (泣き声) 39 00:02:29,783 --> 00:02:32,753 ああ うちの子は こんなに泣いて…! (柳谷先生)尾崎さん 大きな声は…。 40 00:02:32,753 --> 00:02:34,738 (尾崎ママ)申し訳ないとか思わないの!? (ため息) 41 00:02:34,738 --> 00:02:36,740 (尾崎ママ)まったく…。 これだから 今の子は…。 42 00:02:36,740 --> 00:02:38,742 全然 話 聞かないじゃん! 43 00:02:40,761 --> 00:02:44,831 分かった。 じゃあ やってみせるから見て。 44 00:02:44,831 --> 00:02:46,833 やってみせる? (ジャンボ)えっ? 45 00:02:47,751 --> 00:02:51,772 ええー… 事の始まりは 5時間目の国語の時間。 46 00:02:51,772 --> 00:02:56,777 「そんけいする人」をテーマに書いた作文を 一人一人 発表してた。 47 00:02:56,777 --> 00:03:00,747 「そんけいする人 五年三組 桜咲あかね」。 48 00:03:00,747 --> 00:03:03,734 「わたしのそんけいする人は おっ父です」。 49 00:03:03,734 --> 00:03:06,753 「おっ父は落語家で 話が とっても面白くて…」。 50 00:03:06,753 --> 00:03:10,774 「ダハハ…! そんけい? ハハッ…! やっば!」。 51 00:03:10,774 --> 00:03:13,744 「ママ 言ってたぜ おまえのパパはヒモだって」。 52 00:03:13,744 --> 00:03:15,796 「それを そんけい?」。 53 00:03:15,796 --> 00:03:19,766 「ヒモ? 何? それ」 「ヒヒッ! そんなことも知らねえのか?」。 54 00:03:19,766 --> 00:03:22,753 やばっ! 「仕事してない 駄目なパパだって言ってんだ」。 55 00:03:22,753 --> 00:03:25,772 「はあ!?」。 (柳谷)すごい! 56 00:03:25,772 --> 00:03:28,742 あの… ホントに このとおり そのままでして…。 57 00:03:28,742 --> 00:03:32,729 でも だからって 泣かせるまで言わなくても…! 58 00:03:32,729 --> 00:03:36,750 さっきから被害者ぶってるけどさ けんか売ったの そっちだろ? 59 00:03:36,750 --> 00:03:39,753 なめたこと言ってんじゃねえぞ この…! 60 00:03:39,753 --> 00:03:41,738 やーめーろ。 61 00:03:41,738 --> 00:03:43,757 えっ おっ父! なんで!? 62 00:03:43,757 --> 00:03:48,779 (志ん太)柳谷先生 すみません。 毎度毎度 朱音がご迷惑を…。 63 00:03:48,779 --> 00:03:52,766 そちらさんも すみません。 うちの子が…。 64 00:03:52,766 --> 00:03:54,768 おっ父! こいつらは…! 65 00:03:54,768 --> 00:03:57,738 「こいつら」!? うっ…! 66 00:03:57,738 --> 00:04:01,725 (志ん太)どんな理由であれ 乱暴な言葉を使うのは よくない。 67 00:04:01,725 --> 00:04:03,727 朱音なら分かるよな? 68 00:04:03,727 --> 00:04:06,746 (尾崎ママ) お父さんが話の分かる方で助かります。 69 00:04:06,746 --> 00:04:10,750 ホントに その子は…。 (志ん太)柳谷先生から話は聞いてます。 70 00:04:10,750 --> 00:04:14,821 親子そろって 私のことをおっしゃっていたそうで…。 71 00:04:14,821 --> 00:04:18,825 お互い 子に恥じない親でありたいものですね。 72 00:04:21,762 --> 00:04:23,764 じゃあ これで…。 73 00:04:23,764 --> 00:04:25,765 帰るぞ 朱音。 74 00:04:29,736 --> 00:04:31,738 荷物 取ってこい。 うん! 75 00:04:34,724 --> 00:04:36,726 (ため息) 76 00:04:46,736 --> 00:04:50,757 ♬~(防災無線の音楽) 77 00:04:50,757 --> 00:04:53,760 (志ん太)うん! うまい うまい。 78 00:04:53,760 --> 00:04:56,763 朱音も食べろ。 溶けるぞ。 79 00:04:58,732 --> 00:05:00,734 …ごめんなさい。 80 00:05:01,768 --> 00:05:05,772 (朱音の声)おっ父はすごいってことを 言いたくて 言い返したのに→ 81 00:05:05,772 --> 00:05:10,760 逆に おっ父が 嫌な気持ちになったんじゃないかって…。 82 00:05:15,749 --> 00:05:21,738 (志ん太)馬鹿野郎。 俺に気を使うなんて10年早いんだよ。 83 00:05:24,741 --> 00:05:27,761 (志ん太の声)落語家には 3つの階級があってな。 84 00:05:27,761 --> 00:05:31,698 下から 前座 二ツ目 真打って 分かれてるんだ。 85 00:05:31,698 --> 00:05:33,717 (朱音の声)おっ父は二ツ目でしょ? 86 00:05:33,717 --> 00:05:35,719 (志ん太の声)よく覚えてたな。 87 00:05:39,739 --> 00:05:43,743 (志ん太の声) 今度 真打になるための試験があってな。 88 00:05:43,743 --> 00:05:47,747 それに合格すれば 真打になれる。 89 00:05:47,747 --> 00:05:49,766 真打になれば ギャラが上がっ…。 90 00:05:49,766 --> 00:05:52,752 あっ… お金が たくさんもらえる。 91 00:05:55,755 --> 00:05:58,758 そうなりゃ 誰にも文句なんて言わせねえ。 92 00:06:00,760 --> 00:06:02,762 だから 変な気を使うな。 93 00:06:02,762 --> 00:06:05,765 どーんと構えてりゃいいんだよ。 94 00:06:05,765 --> 00:06:09,769 じゃあ 父ちゃん 稽古するから 朱音も宿題やれよ! 95 00:06:09,769 --> 00:06:12,756 はーい! うん! 96 00:06:12,756 --> 00:06:14,758 (ふすまの閉まる音) 97 00:06:19,779 --> 00:06:21,781 だよなあ…。 98 00:06:26,753 --> 00:06:30,757 真打になる。 ならないと…。 99 00:06:30,757 --> 00:06:32,892 じゃないと…。 100 00:06:32,892 --> 00:06:34,894 〓(座布団を置く音) 〓ひっくち。 101 00:06:41,718 --> 00:06:44,721 さて まずは 今日のネタをさらうか。 102 00:06:45,772 --> 00:06:49,776 「おう 与太! 与太郎! 与太~!」。 103 00:06:52,779 --> 00:06:54,731 (桜咲真幸)あっ もう…! 104 00:06:54,731 --> 00:06:57,751 これ 昼のカレーうどんの…。 105 00:06:57,751 --> 00:07:02,739 にしても 尾崎ママ めっちゃキレてんじゃん。 キモッ! 106 00:07:02,739 --> 00:07:07,744 (真幸)…ったく 朱音と徹の馬鹿。 また やらかして…。 107 00:07:09,729 --> 00:07:11,731 ただいま! ん? 108 00:07:11,731 --> 00:07:14,784 ああ~ やっちまった カレーかぶり。 109 00:07:14,784 --> 00:07:18,755 もう… どんだけ カレー 好きなのよ みんな。 110 00:07:18,755 --> 00:07:20,807 「しょうがねえな ホントに」。 111 00:07:20,807 --> 00:07:24,744 「ええー 与太 えっ おまえ… おまえ そ… そっちから行ったの? おまえ」。 112 00:07:24,744 --> 00:07:28,748 「おまえ そんな… おまえ 表から入ろうとするんじゃないよ。 ええ?」。 113 00:07:28,748 --> 00:07:31,751 「裏から入んだよ 裏から。 ねえ。 待ってろ おめえは。 うん」。 114 00:07:31,751 --> 00:07:33,737 (せき払い) 115 00:07:33,737 --> 00:07:35,739 《見える》 116 00:07:37,774 --> 00:07:40,777 《部屋の中には おっ父一人しかいない》 117 00:07:40,777 --> 00:07:45,732 《なのに… だけど 部屋の中には3人いる》 118 00:07:45,732 --> 00:07:47,751 《体の向きが変わる度に→ 119 00:07:47,751 --> 00:07:50,737 顔や しゃべり方 声が コロコロ変わる》 120 00:07:50,737 --> 00:07:53,773 《意地悪な人 怒りっぽい人 のんきな人→ 121 00:07:53,773 --> 00:07:55,759 いろんな人が顔を出す》 122 00:07:55,759 --> 00:07:58,778 《すごい…! 魔法みたいだ!》 123 00:07:58,778 --> 00:08:00,730 ヒヒッ…! 124 00:08:00,730 --> 00:08:02,749 (志ん太)「チェッ!」。 125 00:08:02,749 --> 00:08:05,735 (2人)「ペッ! いらねえ ちくしょう!!」。 126 00:08:05,735 --> 00:08:07,737 《どうやったら できるんだろう…!》 127 00:08:07,737 --> 00:08:10,757 「ば… ばあさん! ばあさん! へっ! ばあさん!」。 128 00:08:10,757 --> 00:08:13,743 (真幸)お~い お母さん 帰ったよ~。 129 00:08:13,743 --> 00:08:15,745 ひっくち! 130 00:08:16,763 --> 00:08:20,750 はあ…。 ホント 落語馬鹿ばっか。 131 00:08:24,738 --> 00:08:29,743 (真幸)まあ しゃあないか。 来週だしね。 132 00:08:33,747 --> 00:08:36,750 (手を合わせる音) (志ん太・真幸・朱音)いただきます! 133 00:08:37,734 --> 00:08:39,753 あむっ! 134 00:08:39,753 --> 00:08:41,755 うん 美味しい! 135 00:08:41,755 --> 00:08:44,741 うん うまい! うまくいったなあ! 136 00:08:49,763 --> 00:08:51,748 おやすみなさい! 137 00:08:54,734 --> 00:08:57,737 (真幸)ちょっと! 起きなよ 徹! 138 00:08:57,737 --> 00:08:59,789 (志ん太)う~ん…。 139 00:08:59,789 --> 00:09:03,777 ほら! ちょっと! まだ稽古するんじゃないの? 寝るの? 140 00:09:03,777 --> 00:09:06,763 う~ん… やる…。 141 00:09:06,763 --> 00:09:10,734 じゃあ おやりよ! もう遅いよ。 私は先に寝るから。 142 00:09:10,734 --> 00:09:12,752 う~ん…。 143 00:09:12,752 --> 00:09:16,756 (真幸)そういや 徹 読んだの? 朱音の作文。 144 00:09:16,756 --> 00:09:19,759 (志ん太)えっ? いや…。 145 00:09:19,759 --> 00:09:24,748 ♬~ 146 00:09:24,748 --> 00:09:29,769 (寝息) 147 00:09:29,769 --> 00:09:45,835 ♬~ 148 00:09:45,835 --> 00:09:49,839 (寝息) 149 00:09:56,763 --> 00:09:58,765 (係員)受付 こちらでございます! 150 00:10:03,770 --> 00:10:06,773 あっ おっ父だ! うちのより大きい! 151 00:10:06,773 --> 00:10:09,776 えっ そうか? 同じに見えるけど…。 152 00:10:09,776 --> 00:10:11,778 (阿良川志ぐま)おっ 元気がいいねえ。 ん? 153 00:10:12,745 --> 00:10:14,764 (真幸)志ぐま師匠! 154 00:10:14,764 --> 00:10:16,733 久しぶりだねえ 真幸ちゃん。 155 00:10:16,733 --> 00:10:20,753 ご無沙汰してます。 いつも 主人がお世話になってます。 156 00:10:20,753 --> 00:10:22,755 いやいや 俺なんて全然…。 157 00:10:22,755 --> 00:10:25,792 しかし 月日が流れるのは早いねえ。 158 00:10:25,792 --> 00:10:27,744 ねえ 師匠! おっ父は? 159 00:10:27,744 --> 00:10:30,763 (真幸)馬鹿! ん? ああ…。 160 00:10:30,763 --> 00:10:35,768 まあ あれだ。 今は そっとしといてやんな。 161 00:10:37,737 --> 00:10:41,724 《阿良川流真打昇進試験》 162 00:10:41,724 --> 00:10:44,777 《出演者の噺を 客と師匠が審査》 163 00:10:44,777 --> 00:10:46,746 《審査結果を集計し→ 164 00:10:46,746 --> 00:10:50,750 技量を認められた者だけが 真打に昇進できる》 165 00:10:50,750 --> 00:10:52,752 《今年の審査員長は→ 166 00:10:52,752 --> 00:10:57,757 うちの師匠の兄弟子で 当代一の呼び声高い…》 167 00:11:05,732 --> 00:11:08,735 (志ん太)《だ… だから どうした!?》 168 00:11:08,735 --> 00:11:11,721 《この日のために どれだけ かけてきたと思ってる!》 169 00:11:11,721 --> 00:11:15,742 《いつもと同じ 自分の芸を信じるだけ》 170 00:11:15,742 --> 00:11:20,747 《でも もし しくじったら…》 171 00:11:21,748 --> 00:11:23,750 (志ん太)《いや…!》 (顔をたたく音) 172 00:11:23,750 --> 00:11:27,754 馬鹿か 俺は! 気持ちで負けて どうする!? 173 00:11:27,754 --> 00:11:32,759 《やるしかないんだ。 俺には それしか道がないんだ!》 174 00:11:35,762 --> 00:11:38,731 (司会)ええー では 始めてまいりましょう。 175 00:11:38,731 --> 00:11:43,770 ただ今より 阿良川流真打昇進試験を開演いたします! 176 00:11:43,770 --> 00:11:47,907 最初の出場者は この方です。 177 00:11:47,907 --> 00:11:52,762 ♬~(おはやし) 178 00:11:52,762 --> 00:11:59,068 ♬~(おはやし) (志ん太の荒い息遣い) 179 00:12:08,761 --> 00:12:10,730 (志ん太)ええー…。 180 00:12:10,730 --> 00:12:15,718 まずは 1番手でございまして 私 阿良川志ん太と申します。 181 00:12:16,769 --> 00:12:19,739 (志ん太)《おっ…! 寄席と全然違う》 182 00:12:19,739 --> 00:12:21,741 《空気が重たく冷たい》 183 00:12:21,741 --> 00:12:23,743 (志ん太)ええー…。 (せき払い) 184 00:12:23,743 --> 00:12:28,748 《何より お客さんの 値踏みするような目…》 185 00:12:28,748 --> 00:12:34,771 (志ん太)いやあ 本日は 五月晴れの中 こんな悪趣味な試験にお越しいただき→ 186 00:12:34,771 --> 00:12:36,739 ありがとうございます。 187 00:12:36,739 --> 00:12:39,759 (志ん太) 《いまいちか? そんなことない?》 188 00:12:39,759 --> 00:12:42,779 ホントにですね 皆さんの一票で 私の人生が変わる。 189 00:12:42,779 --> 00:12:44,731 《馬鹿か? 何 考えてる!?》 190 00:12:44,731 --> 00:12:47,717 なんだか 政治家みてえだなあ なんて思いましてね。 だったら…。 191 00:12:47,717 --> 00:12:49,719 《今は 枕に集中しろ!》 192 00:12:49,719 --> 00:12:51,721 《はっ…!》 193 00:12:53,773 --> 00:12:55,775 (つばを飲み込む音) 194 00:12:55,775 --> 00:12:58,811 (志ん太)い… いやあ 私は落語家なもんでね…。 195 00:12:58,811 --> 00:13:00,747 (志ぐま)《まずい テンポが速すぎる》 196 00:13:00,747 --> 00:13:02,782 そんなとこも政治家みてえだなあと…。 197 00:13:02,782 --> 00:13:05,752 (志ん太)《思ったよりウケない。 欲しがりすぎたか?》 198 00:13:05,752 --> 00:13:08,738 《どうする? やばい! やばい! このままじゃ…》 199 00:13:08,738 --> 00:13:10,790 この…。 200 00:13:10,790 --> 00:13:12,759 ひっくち…! 201 00:13:12,759 --> 00:13:15,762 《はっ…!》 202 00:13:15,762 --> 00:13:17,764 《この声…》 203 00:13:17,764 --> 00:13:20,767 《はっ…!》 204 00:13:21,768 --> 00:13:25,772 (志ん太)えっ? 俺のまねしてる? 朱音が? 205 00:13:25,772 --> 00:13:30,810 そう。 素人目だけど これが意外とうまくてさ。 206 00:13:30,810 --> 00:13:34,747 徹よりセンスあるかもよ~? そりゃ やばいな…。 207 00:13:34,747 --> 00:13:37,767 (真幸)そう思うなら さっさと真打になんなさいよ。 208 00:13:37,767 --> 00:13:39,786 簡単に言うなよ! 209 00:13:39,786 --> 00:13:42,739 (真幸)言うよ! 朱音のためだもん。 (志ん太)朱音の…? 210 00:13:42,739 --> 00:13:44,757 (真幸)あきれた…。 211 00:13:44,757 --> 00:13:49,746 朱音はパパっ子だよ。 パパの自慢 したいに決まってるじゃん。 212 00:13:50,713 --> 00:13:55,802 私の前で弱音吐くのはいいけどさ→ 213 00:13:55,802 --> 00:13:59,806 せめて 朱音の前では かっこいいお父さんでいてよね。 214 00:14:05,728 --> 00:14:09,766 (志ん太)随分 冷え切っているようで。 でも 寒いのも悪くない。 215 00:14:09,766 --> 00:14:11,734 (志ぐま)《なんだ?》 216 00:14:11,734 --> 00:14:14,754 (志ん太)寒い中飲む燗酒の うまさたるや。 217 00:14:14,754 --> 00:14:18,758 ついつい もう一杯 もう一杯と手が伸びる。 218 00:14:18,758 --> 00:14:22,762 いつしか 夢心地で がぶがぶ飲んで しくじるなんてのは…。 219 00:14:22,762 --> 00:14:24,714 (志ぐま)《雰囲気が変わった》 220 00:14:24,714 --> 00:14:27,717 よくある話でございます。 221 00:14:28,735 --> 00:14:31,771 (志ん太) 「ちょいと おまえさん! おまえさん!」。 222 00:14:31,771 --> 00:14:33,740 「起きとくれよ! おまえさん!」。 223 00:14:33,740 --> 00:14:38,761 「なんだよ? ええ? 邪険な起こし方すんなえ。 なんだい?」。 224 00:14:38,761 --> 00:14:40,847 「なんだい? じゃないやね この人は…」。 225 00:14:40,847 --> 00:14:43,766 (阿良川全生)《枕を終えて 噺に入ったか…》 226 00:14:43,766 --> 00:14:49,756 ♬~ 227 00:14:49,756 --> 00:14:55,762 (全生)〈腕はいいが 酒に溺れ 借金生活を送る 魚屋の勝五郎が→ 228 00:14:55,762 --> 00:14:58,714 芝の浜で財布を拾ったことをきっかけに→ 229 00:14:58,714 --> 00:15:01,734 商人としての矜持を取り戻す→ 230 00:15:01,734 --> 00:15:04,737 心温まる人情噺〉 231 00:15:06,722 --> 00:15:10,743 「後を頼むぜ」 「はい。 気をつけてね。 行っといで」。 232 00:15:10,743 --> 00:15:12,745 さあ 亭主を見送るってえと→ 233 00:15:12,745 --> 00:15:16,732 しばらくぶりで商売へ出てくれた 商いへ出かけてくれたってんで→ 234 00:15:16,732 --> 00:15:19,786 おかみさんのほうは ほっと ひと息つきまして→ 235 00:15:19,786 --> 00:15:21,754 まぶたのほうが 重た~くなってまいりまして→ 236 00:15:21,754 --> 00:15:24,757 とろとろ とろとろっとしてきたところへ…。 237 00:15:24,757 --> 00:15:27,810 (扇子でたたく音) 「おい おっ母! 俺だよ!」。 238 00:15:27,810 --> 00:15:29,796 (扇子でたたく音) 「開けちくれ! おっ母!」。 239 00:15:29,796 --> 00:15:33,766 「はいはいはい…。 あっ ちょいと待っとくれ。 今ね…」。 240 00:15:33,766 --> 00:15:37,770 「はっ…! どうしたんだい? おまえさん」。 241 00:15:37,770 --> 00:15:40,773 「いいから! いいから おめえ あと閉めろよ! あと閉めろってんだよ!」。 242 00:15:40,773 --> 00:15:45,778 (全生)《うーん…》 243 00:15:45,778 --> 00:15:49,749 《勝五郎が芝の浜に行く場面をカットした》 244 00:15:49,749 --> 00:15:52,768 《いや 全然いいんだけど…》 245 00:15:52,768 --> 00:15:54,737 《大筋さえ合えば→ 246 00:15:54,737 --> 00:15:58,758 登場人物の設定からオチまで 変えたっていい》 247 00:15:58,758 --> 00:16:00,760 《それも創意工夫の一つ》 248 00:16:00,760 --> 00:16:03,880 《とはいえ→ 249 00:16:03,880 --> 00:16:08,768 勝五郎が河岸に向かう途中 訪れた 芝の浜の情景を語りで見せる…→ 250 00:16:08,768 --> 00:16:11,771 それが『芝浜』の醍醐味》 251 00:16:12,788 --> 00:16:16,809 大体 『芝浜』唯一の 芝の浜の場面をカットって→ 252 00:16:16,809 --> 00:16:20,746 こんなの あんパンの あん抜きだ。 (阿良川一剣)《イライラしてんねえ…》 253 00:16:20,746 --> 00:16:23,783 《兄さんの嫌いそうなアプローチだもんな》 254 00:16:23,783 --> 00:16:25,785 《いや でも 気持ちは分かる》 255 00:16:25,785 --> 00:16:30,756 《見せ場を一つ捨てたことには違いない》 256 00:16:30,756 --> 00:16:34,760 《それでも あいつは 風景を語るよりも…》 257 00:16:34,760 --> 00:16:37,763 (志ん太)「起こしたけれども おまえさん うるさいなんてなこと言ってさ→ 258 00:16:37,763 --> 00:16:40,766 どこへも出かけちゃいないじゃないかさ! 芝の浜…?」。 259 00:16:40,766 --> 00:16:43,803 (一剣)《人を語る道を選んだ》 260 00:16:43,803 --> 00:16:47,773 (志ん太)「俺は 今朝 おめえに…」 「起こしたよ! で 芝 行ってないの」。 261 00:16:47,773 --> 00:16:49,775 《志ん太の強みは演技力》 262 00:16:49,775 --> 00:16:54,747 《だが あえて見せ場を捨て 自分の得意な人物描写を押し出すことで→ 263 00:16:54,747 --> 00:16:57,750 観客を話に引き込んだ》 264 00:16:57,750 --> 00:17:00,753 《この舞台で よくぞ!》 265 00:17:01,737 --> 00:17:05,758 《しかし この女房の造形は…》 266 00:17:05,758 --> 00:17:07,760 おっ母だ! えっ? 267 00:17:08,778 --> 00:17:12,765 おっ父… おっ母をやってる! 268 00:17:12,765 --> 00:17:15,768 《朱音 真幸 見てるか?》 269 00:17:17,720 --> 00:17:23,726 (志ん太の声)うちの師匠に弟子入りして 落語に打ち込み続けて13年。 270 00:17:23,726 --> 00:17:26,729 恐ろしいほど芽が出なくて…。 271 00:17:28,731 --> 00:17:30,733 (志ん太の声)ろくな稼ぎもねえ。 272 00:17:34,737 --> 00:17:38,741 (志ん太の声)それでも 真幸は 俺に落語をやめろと言わなかった。 273 00:17:39,742 --> 00:17:41,761 (志ん太)《朱音は…》 274 00:17:41,761 --> 00:17:45,731 (朱音の声) 「そんけいする人 五年三組 桜咲あかね」 275 00:17:45,731 --> 00:17:50,736 「わたしが この世で一番そんけいする人は おっ父です」 276 00:17:50,736 --> 00:17:54,740 「おっ父は落語家で 話が とっても面白くて→ 277 00:17:54,740 --> 00:17:57,743 毎日 わたしを笑わせてくれます」 278 00:17:57,743 --> 00:18:00,746 「おっ父の夢は 真打になることです」 279 00:18:00,746 --> 00:18:04,750 「わたしの夢も おっ父が真打になることです」 280 00:18:04,750 --> 00:18:07,753 「わたしは おっ父が大好きです」 281 00:18:07,753 --> 00:18:12,758 (志ん太)《こんな俺を 朱音は好きでいてくれた》 282 00:18:14,744 --> 00:18:17,763 (志ん太)《その思いに応えたい》 283 00:18:17,763 --> 00:18:20,733 《父として 落語家として→ 284 00:18:20,733 --> 00:18:28,758 俺が今まで培ってきた技も人生も 何もかも つぎ込んで→ 285 00:18:28,758 --> 00:18:33,763 俺は 今日 真打になる!》 286 00:18:36,782 --> 00:18:40,753 「よそう。 また夢になるといけねえ」。 287 00:18:40,753 --> 00:18:48,828 (拍手と歓声) 288 00:18:48,828 --> 00:18:50,746 《すげえ!》 289 00:18:50,746 --> 00:18:54,750 《おっ父 かっこいい…!》 290 00:18:55,768 --> 00:18:57,770 (雷鳴) 291 00:18:57,770 --> 00:19:00,773 (司会)大変長らくお待たせいたしました! 292 00:19:00,773 --> 00:19:03,759 集計結果が出そろったようです。 293 00:19:03,759 --> 00:19:06,779 大丈夫だよね? 大丈夫… 大丈夫じゃん! うるさい! 294 00:19:06,779 --> 00:19:09,749 ええー 結果発表は 阿良川…→ 295 00:19:09,749 --> 00:19:12,752 あっ い… 一生師匠 お願いします。 296 00:19:13,753 --> 00:19:17,757 (マイクをたたく音) (一生)おっ 入ってるな。 297 00:19:17,757 --> 00:19:20,793 ええー 皆様 この度は→ 298 00:19:20,793 --> 00:19:23,779 阿良川流真打昇進試験に お立ち会いいただき→ 299 00:19:23,779 --> 00:19:26,766 誠にありがとうございました。 300 00:19:26,766 --> 00:19:31,754 私もね 久しぶりに若手のネタを見たんですけどね→ 301 00:19:31,754 --> 00:19:34,774 いやあ 驚きました。 302 00:19:34,774 --> 00:19:40,780 まあ だらだら しゃべっても仕方ないんでね 結果を申し上げますと→ 303 00:19:40,780 --> 00:19:43,749 ええー 今日の出場者→ 304 00:19:43,749 --> 00:19:45,901 全員 破門です。 305 00:19:45,901 --> 00:19:48,754 〓(雷鳴) 306 00:19:48,754 --> 00:19:51,757 (司会)い… いやあ 師匠 冗談が…。 307 00:19:51,757 --> 00:19:55,795 (一生)一門の面汚しどもが みっともねえ芸をお見せしちまって→ 308 00:19:55,795 --> 00:19:58,764 すいやせんでした。 309 00:19:58,764 --> 00:20:00,850 (志ぐま)ああっ…! 310 00:20:00,850 --> 00:20:04,737 (観客のざわめき) 〓(雷鳴) 311 00:20:04,737 --> 00:20:07,740 じゃあ まあ そういうことで。 以上。 312 00:20:07,740 --> 00:20:10,726 ああっ! ちょっ… 師匠!? 313 00:20:10,726 --> 00:20:16,749 ねえ どうしたの? 「はもん」って何? ねえ おっ母! おっ母ってば! 314 00:20:16,749 --> 00:20:20,820 ねえ おっ母! (真幸)《徹…》 315 00:20:20,820 --> 00:20:22,822 〓(雷鳴) 316 00:20:25,758 --> 00:20:28,761 (志ぐま)ちょっと どういうことですか!? 破門って。 317 00:20:28,761 --> 00:20:31,730 大体 志ん太は 俺の弟子だ! 318 00:20:31,730 --> 00:20:37,736 〈後に この日の受験者全員が 正式に破門となる〉 319 00:20:37,736 --> 00:20:39,738 人の弟子を勝手に…! 320 00:20:39,738 --> 00:20:42,742 (一生)出来の悪い弟子を持ったな。 (志ぐま)がっ…! 321 00:20:43,726 --> 00:20:46,729 〈破門の理由については 明かされていない〉 322 00:20:47,746 --> 00:20:51,734 あんなもん 『芝浜』とは言わねえよ。 323 00:20:51,734 --> 00:20:55,755 (雷鳴) 324 00:20:55,755 --> 00:20:59,758 (門下生)えっ これ 本当なんですか!? (門下生)志ん太…。 325 00:20:59,758 --> 00:21:02,762 兄さん! どういうことですか!? 326 00:21:02,762 --> 00:21:06,765 (門下生)ギャグですよね? ねえ? ギャグですよね? 兄さん! 327 00:21:10,753 --> 00:21:15,758 〈あの日 落語家 阿良川志ん太は死んだ〉 328 00:21:29,755 --> 00:21:35,744 〈あの日 落語家 阿良川志ん太は死んだ〉 329 00:21:37,730 --> 00:21:39,715 〈でも…〉 330 00:21:42,768 --> 00:21:44,770 〈終わりじゃない!〉 331 00:21:44,770 --> 00:21:55,748 ♬~ 332 00:21:55,748 --> 00:22:01,787 〈むしろ あの時から始まったんだ〉 333 00:22:01,787 --> 00:22:07,793 ♬~ 334 00:22:07,793 --> 00:22:09,795 〈私の物語が〉 335 00:22:10,796 --> 00:22:17,102 ♬~