1 00:00:34,735 --> 00:00:36,737 (ふすまの開く音) (座布団を置く音) 2 00:00:36,737 --> 00:00:45,746 ♬~ 3 00:00:45,746 --> 00:00:49,750 (桜咲朱音) 〈そこから おっ父の噺を見るのが…〉 4 00:00:49,750 --> 00:00:54,755 ♬~ 5 00:00:54,755 --> 00:00:57,758 〈私は大好きだった〉 6 00:01:16,777 --> 00:01:19,780 (阿良川志ん太) 「そしたら 大家が うち来てさ→ 7 00:01:19,780 --> 00:01:22,783 ちょいと 道具箱 預かる なんてこと言うからさ→ 8 00:01:22,783 --> 00:01:24,785 ああ じゃあ 道具箱ってことは→ 9 00:01:24,785 --> 00:01:27,788 大家さん 大工なんか やんのかなあ と思ってね→ 10 00:01:27,788 --> 00:01:29,790 じゃあ どうぞ! って貸したんだよ」。 11 00:01:29,790 --> 00:01:31,792 「あの年で大工なんて務ま…」。 12 00:01:31,792 --> 00:01:34,728 (せき) (志ん太)「あれ もうろくだね」。 13 00:01:34,728 --> 00:01:36,730 「おまえが もうろくだよ!」。 (観客の笑い声) 14 00:01:36,730 --> 00:01:39,733 (志ん太)「おまえ… おまえ それ なんじゃねえか!?」。 15 00:01:40,734 --> 00:01:43,737 (吉乃紗季)かたい! かたいよ 志んちゃん! 16 00:01:43,737 --> 00:01:45,739 かたいですか…。 17 00:01:45,739 --> 00:01:48,742 (紗季)そうだよ。 気負いすぎ。 18 00:01:48,742 --> 00:01:51,745 (志ん太)ああ… ですかね。 (ため息) 19 00:01:51,745 --> 00:01:55,749 (紗季)例の試験もあるし 娘ちゃんも大きいしで→ 20 00:01:55,749 --> 00:01:58,752 グ~ッてなるのは分かるけど…。 21 00:02:04,758 --> 00:02:07,761 もっと こう スーッときて ワッ! ってね。 22 00:02:07,761 --> 00:02:10,764 頑張るんだよ。 (志ん太)ありがとうございます。 23 00:02:13,767 --> 00:02:16,770 (樫尾公久) 随分 買ってるんですね。 24 00:02:16,770 --> 00:02:20,774 正直 パッとしないというか ピンとこなかったんですけど…。 25 00:02:20,774 --> 00:02:23,777 まあ 今日の出来も いまいちだったしね。 26 00:02:23,777 --> 00:02:25,779 (樫尾)なら なんで? 27 00:02:25,779 --> 00:02:27,781 (ため息) 28 00:02:27,781 --> 00:02:31,785 (紗季)私は あの子の会心の一席を見たことがある。 29 00:02:33,720 --> 00:02:37,724 (紗季の声)こんなとこで くすぶっていい男 じゃないんだよ あの子はさ。 30 00:02:37,724 --> 00:02:39,726 (ため息) 31 00:02:39,726 --> 00:02:44,731 (携帯電話の振動音) (志ん太のため息) 32 00:02:44,731 --> 00:02:47,734 (携帯電話の振動音) (志ん太)朱音の…? 33 00:02:47,734 --> 00:02:49,736 (児童)じゃあ 後でね! 34 00:02:49,736 --> 00:02:51,738 (児童)じゃあね~! (児童)バイバ~イ! 35 00:02:51,738 --> 00:02:53,740 ⚟(尾崎ママ)はあ!? 36 00:02:53,740 --> 00:02:57,744 ちょっと! そんな言い方ないんじゃない!? あなた どうして そんな…。 37 00:02:57,744 --> 00:02:59,746 だから それは さっき…。 (尾崎ママ)はあ!? 38 00:02:59,746 --> 00:03:01,748 (尾崎ママ)だからも何もないから! (泣き声) 39 00:03:01,748 --> 00:03:04,751 ああ うちの子は こんなに泣いて…! (柳谷先生)尾崎さん 大きな声は…。 40 00:03:04,751 --> 00:03:06,753 (尾崎ママ)申し訳ないとか思わないの!? (ため息) 41 00:03:06,753 --> 00:03:08,755 (尾崎ママ)まったく…。 これだから 今の子は…。 42 00:03:08,755 --> 00:03:10,757 全然 話 聞かないじゃん! 43 00:03:12,759 --> 00:03:16,763 分かった。 じゃあ やってみせるから見て。 44 00:03:16,763 --> 00:03:18,765 やってみせる? (ジャンボ)えっ? 45 00:03:19,766 --> 00:03:23,770 ええー… 事の始まりは 5時間目の国語の時間。 46 00:03:23,770 --> 00:03:28,775 「そんけいする人」をテーマに書いた作文を 一人一人 発表してた。 47 00:03:28,775 --> 00:03:32,713 「そんけいする人 五年三組 桜咲あかね」。 48 00:03:32,713 --> 00:03:35,715 「わたしのそんけいする人は おっ父です」。 49 00:03:35,715 --> 00:03:38,719 「おっ父は落語家で 話が とっても面白くて…」。 50 00:03:38,719 --> 00:03:42,722 「ダハハ…! そんけい? ハハッ…! やっば!」。 51 00:03:42,722 --> 00:03:45,726 「ママ 言ってたぜ おまえのパパはヒモだって」。 52 00:03:45,726 --> 00:03:47,727 「それを そんけい?」。 53 00:03:47,727 --> 00:03:51,732 「ヒモ? 何? それ」 「ヒヒッ! そんなことも知らねえのか?」。 54 00:03:51,732 --> 00:03:54,734 やばっ! 「仕事してない 駄目なパパだって言ってんだ」。 55 00:03:54,734 --> 00:03:57,738 「はあ!?」。 (柳谷)すごい! 56 00:03:57,738 --> 00:04:00,740 あの… ホントに このとおり そのままでして…。 57 00:04:00,740 --> 00:04:04,744 でも だからって 泣かせるまで言わなくても…! 58 00:04:04,744 --> 00:04:08,749 さっきから被害者ぶってるけどさ けんか売ったの そっちだろ? 59 00:04:08,749 --> 00:04:11,751 なめたこと言ってんじゃねえぞ この…! 60 00:04:11,751 --> 00:04:13,754 やーめーろ。 61 00:04:13,754 --> 00:04:15,756 えっ おっ父! なんで!? 62 00:04:15,756 --> 00:04:20,760 (志ん太)柳谷先生 すみません。 毎度毎度 朱音がご迷惑を…。 63 00:04:20,760 --> 00:04:24,764 そちらさんも すみません。 うちの子が…。 64 00:04:24,764 --> 00:04:26,767 おっ父! こいつらは…! 65 00:04:26,767 --> 00:04:29,769 「こいつら」!? うっ…! 66 00:04:29,769 --> 00:04:33,707 (志ん太)どんな理由であれ 乱暴な言葉を使うのは よくない。 67 00:04:33,707 --> 00:04:35,709 朱音なら分かるよな? 68 00:04:35,709 --> 00:04:38,712 (尾崎ママ) お父さんが話の分かる方で助かります。 69 00:04:38,712 --> 00:04:42,716 ホントに その子は…。 (志ん太)柳谷先生から話は聞いてます。 70 00:04:42,716 --> 00:04:46,720 親子そろって 私のことをおっしゃっていたそうで…。 71 00:04:46,720 --> 00:04:50,724 お互い 子に恥じない親でありたいものですね。 72 00:04:53,727 --> 00:04:55,729 じゃあ これで…。 73 00:04:55,729 --> 00:04:57,731 帰るぞ 朱音。 74 00:05:01,735 --> 00:05:03,737 荷物 取ってこい。 うん! 75 00:05:06,740 --> 00:05:08,742 (ため息) 76 00:05:18,752 --> 00:05:22,756 ♬~(防災無線の音楽) 77 00:05:22,756 --> 00:05:25,759 (志ん太)うん! うまい うまい。 78 00:05:25,759 --> 00:05:28,762 朱音も食べろ。 溶けるぞ。 79 00:05:30,764 --> 00:05:32,766 …ごめんなさい。 80 00:05:33,700 --> 00:05:37,704 (朱音の声)おっ父はすごいってことを 言いたくて 言い返したのに→ 81 00:05:37,704 --> 00:05:42,709 逆に おっ父が 嫌な気持ちになったんじゃないかって…。 82 00:05:47,714 --> 00:05:53,720 (志ん太)馬鹿野郎。 俺に気を使うなんて10年早いんだよ。 83 00:05:56,723 --> 00:05:59,726 (志ん太の声)落語家には 3つの階級があってな。 84 00:05:59,726 --> 00:06:03,730 下から 前座 二ツ目 真打って 分かれてるんだ。 85 00:06:03,730 --> 00:06:05,732 (朱音の声)おっ父は二ツ目でしょ? 86 00:06:05,732 --> 00:06:07,734 (志ん太の声)よく覚えてたな。 87 00:06:11,738 --> 00:06:15,742 (志ん太の声) 今度 真打になるための試験があってな。 88 00:06:15,742 --> 00:06:19,746 それに合格すれば 真打になれる。 89 00:06:19,746 --> 00:06:21,748 真打になれば ギャラが上がっ…。 90 00:06:21,748 --> 00:06:24,751 あっ… お金が たくさんもらえる。 91 00:06:27,754 --> 00:06:30,757 そうなりゃ 誰にも文句なんて言わせねえ。 92 00:06:32,692 --> 00:06:34,694 だから 変な気を使うな。 93 00:06:34,694 --> 00:06:37,697 どーんと構えてりゃいいんだよ。 94 00:06:37,697 --> 00:06:41,701 じゃあ 父ちゃん 稽古するから 朱音も宿題やれよ! 95 00:06:41,701 --> 00:06:44,704 はーい! うん! 96 00:06:44,704 --> 00:06:46,706 (ふすまの閉まる音) 97 00:06:51,711 --> 00:06:53,713 だよなあ…。 98 00:06:58,718 --> 00:07:02,722 真打になる。 ならないと…。 99 00:07:02,722 --> 00:07:04,724 じゃないと…。 100 00:07:04,724 --> 00:07:06,726 ⚞(座布団を置く音) ⚞ひっくち。 101 00:07:13,733 --> 00:07:16,736 さて まずは 今日のネタをさらうか。 102 00:07:17,737 --> 00:07:21,741 「おう 与太! 与太郎! 与太~!」。 103 00:07:24,744 --> 00:07:26,746 (桜咲真幸)あっ もう…! 104 00:07:26,746 --> 00:07:29,749 これ 昼のカレーうどんの…。 105 00:07:29,749 --> 00:07:34,688 にしても 尾崎ママ めっちゃキレてんじゃん。 キモッ! 106 00:07:34,688 --> 00:07:39,693 (真幸)…ったく 朱音と徹の馬鹿。 また やらかして…。 107 00:07:41,695 --> 00:07:43,697 ただいま! ん? 108 00:07:43,697 --> 00:07:46,700 ああ~ やっちまった カレーかぶり。 109 00:07:46,700 --> 00:07:50,704 もう… どんだけ カレー 好きなのよ みんな。 110 00:07:50,704 --> 00:07:52,706 「しょうがねえな ホントに」。 111 00:07:52,706 --> 00:07:56,710 「ええー 与太 えっ おまえ… おまえ そ… そっちから行ったの? おまえ」。 112 00:07:56,710 --> 00:08:00,714 「おまえ そんな… おまえ 表から入ろうとするんじゃないよ。 ええ?」。 113 00:08:00,714 --> 00:08:03,717 「裏から入んだよ 裏から。 ねえ。 待ってろ おめえは。 うん」。 114 00:08:03,717 --> 00:08:05,719 (せき払い) 115 00:08:05,719 --> 00:08:07,721 《見える》 116 00:08:09,723 --> 00:08:12,726 《部屋の中には おっ父一人しかいない》 117 00:08:12,726 --> 00:08:17,731 《なのに… だけど 部屋の中には3人いる》 118 00:08:17,731 --> 00:08:19,733 《体の向きが変わる度に→ 119 00:08:19,733 --> 00:08:22,736 顔や しゃべり方 声が コロコロ変わる》 120 00:08:22,736 --> 00:08:25,739 《意地悪な人 怒りっぽい人 のんきな人→ 121 00:08:25,739 --> 00:08:27,741 いろんな人が顔を出す》 122 00:08:27,741 --> 00:08:30,744 《すごい…! 魔法みたいだ!》 123 00:08:30,744 --> 00:08:32,679 ヒヒッ…! 124 00:08:32,679 --> 00:08:34,681 (志ん太)「チェッ!」。 125 00:08:34,681 --> 00:08:37,684 (2人)「ペッ! いらねえ ちくしょう!!」。 126 00:08:37,684 --> 00:08:39,686 《どうやったら できるんだろう…!》 127 00:08:39,686 --> 00:08:42,689 「ば… ばあさん! ばあさん! へっ! ばあさん!」。 128 00:08:42,689 --> 00:08:45,692 (真幸)お~い お母さん 帰ったよ~。 129 00:08:45,692 --> 00:08:47,694 ひっくち! 130 00:08:48,695 --> 00:08:52,699 はあ…。 ホント 落語馬鹿ばっか。 131 00:08:56,703 --> 00:09:01,708 (真幸)まあ しゃあないか。 来週だしね。 132 00:09:05,712 --> 00:09:08,715 (手を合わせる音) (志ん太・真幸・朱音)いただきます! 133 00:09:09,716 --> 00:09:11,718 あむっ! 134 00:09:11,718 --> 00:09:13,720 うん 美味しい! 135 00:09:13,720 --> 00:09:16,723 うん うまい! うまくいったなあ! 136 00:09:21,728 --> 00:09:23,730 おやすみなさい! 137 00:09:26,733 --> 00:09:29,736 (真幸)ちょっと! 起きなよ 徹! 138 00:09:29,736 --> 00:09:31,738 (志ん太)う~ん…。 139 00:09:31,738 --> 00:09:35,675 ほら! ちょっと! まだ稽古するんじゃないの? 寝るの? 140 00:09:35,675 --> 00:09:38,678 う~ん… やる…。 141 00:09:38,678 --> 00:09:42,682 じゃあ おやりよ! もう遅いよ。 私は先に寝るから。 142 00:09:42,682 --> 00:09:44,684 う~ん…。 143 00:09:44,684 --> 00:09:48,688 (真幸)そういや 徹 読んだの? 朱音の作文。 144 00:09:48,688 --> 00:09:51,691 (志ん太)えっ? いや…。 145 00:09:51,691 --> 00:09:56,696 ♬~ 146 00:09:56,696 --> 00:10:01,701 (寝息) 147 00:10:01,701 --> 00:10:17,717 ♬~ 148 00:10:17,717 --> 00:10:21,721 (寝息) 149 00:10:28,728 --> 00:10:30,730 (係員)受付 こちらでございます! 150 00:10:35,735 --> 00:10:38,738 あっ おっ父だ! うちのより大きい! 151 00:10:38,738 --> 00:10:41,741 えっ そうか? 同じに見えるけど…。 152 00:10:41,741 --> 00:10:43,743 (阿良川志ぐま)おっ 元気がいいねえ。 ん? 153 00:10:44,744 --> 00:10:46,746 (真幸)志ぐま師匠! 154 00:10:46,746 --> 00:10:48,748 久しぶりだねえ 真幸ちゃん。 155 00:10:48,748 --> 00:10:52,752 ご無沙汰してます。 いつも 主人がお世話になってます。 156 00:10:52,752 --> 00:10:54,754 いやいや 俺なんて全然…。 157 00:10:54,754 --> 00:10:57,757 しかし 月日が流れるのは早いねえ。 158 00:10:57,757 --> 00:10:59,759 ねえ 師匠! おっ父は? 159 00:10:59,759 --> 00:11:02,762 (真幸)馬鹿! ん? ああ…。 160 00:11:02,762 --> 00:11:07,767 まあ あれだ。 今は そっとしといてやんな。 161 00:11:09,769 --> 00:11:13,773 《阿良川流真打昇進試験》 162 00:11:13,773 --> 00:11:16,776 《出演者の噺を 客と師匠が審査》 163 00:11:16,776 --> 00:11:18,778 《審査結果を集計し→ 164 00:11:18,778 --> 00:11:22,782 技量を認められた者だけが 真打に昇進できる》 165 00:11:22,782 --> 00:11:24,784 《今年の審査員長は→ 166 00:11:24,784 --> 00:11:29,789 うちの師匠の兄弟子で 当代一の呼び声高い…》 167 00:11:37,730 --> 00:11:40,733 (志ん太)《だ… だから どうした!?》 168 00:11:40,733 --> 00:11:43,736 《この日のために どれだけ かけてきたと思ってる!》 169 00:11:43,736 --> 00:11:47,740 《いつもと同じ 自分の芸を信じるだけ》 170 00:11:47,740 --> 00:11:52,745 《でも もし しくじったら…》 171 00:11:53,746 --> 00:11:55,748 (志ん太)《いや…!》 (顔をたたく音) 172 00:11:55,748 --> 00:11:59,752 馬鹿か 俺は! 気持ちで負けて どうする!? 173 00:11:59,752 --> 00:12:04,757 《やるしかないんだ。 俺には それしか道がないんだ!》 174 00:12:07,760 --> 00:12:10,763 (司会)ええー では 始めてまいりましょう。 175 00:12:10,763 --> 00:12:15,768 ただ今より 阿良川流真打昇進試験を開演いたします! 176 00:12:15,768 --> 00:12:19,772 最初の出場者は この方です。 177 00:12:19,772 --> 00:12:24,777 ♬~(おはやし) 178 00:12:24,777 --> 00:12:39,792 ♬~(おはやし) (志ん太の荒い息遣い) 179 00:12:40,727 --> 00:12:42,729 (志ん太)ええー…。 180 00:12:42,729 --> 00:12:47,734 まずは 1番手でございまして 私 阿良川志ん太と申します。 181 00:12:48,735 --> 00:12:51,738 (志ん太)《おっ…! 寄席と全然違う》 182 00:12:51,738 --> 00:12:53,740 《空気が重たく冷たい》 183 00:12:53,740 --> 00:12:55,742 (志ん太)ええー…。 (せき払い) 184 00:12:55,742 --> 00:13:00,747 《何より お客さんの 値踏みするような目…》 185 00:13:00,747 --> 00:13:06,753 (志ん太)いやあ 本日は 五月晴れの中 こんな悪趣味な試験にお越しいただき→ 186 00:13:06,753 --> 00:13:08,755 ありがとうございます。 187 00:13:08,755 --> 00:13:11,758 (志ん太) 《いまいちか? そんなことない?》 188 00:13:11,758 --> 00:13:14,761 ホントにですね 皆さんの一票で 私の人生が変わる。 189 00:13:14,761 --> 00:13:16,763 《馬鹿か? 何 考えてる!?》 190 00:13:16,763 --> 00:13:19,766 なんだか 政治家みてえだなあ なんて思いましてね。 だったら…。 191 00:13:19,766 --> 00:13:21,768 《今は 枕に集中しろ!》 192 00:13:21,768 --> 00:13:23,770 《はっ…!》 193 00:13:25,772 --> 00:13:27,774 (つばを飲み込む音) 194 00:13:27,774 --> 00:13:30,777 (志ん太)い… いやあ 私は落語家なもんでね…。 195 00:13:30,777 --> 00:13:32,712 (志ぐま)《まずい テンポが速すぎる》 196 00:13:32,712 --> 00:13:34,714 そんなとこも政治家みてえだなあと…。 197 00:13:34,714 --> 00:13:37,717 (志ん太)《思ったよりウケない。 欲しがりすぎたか?》 198 00:13:37,717 --> 00:13:40,720 《どうする? やばい! やばい! このままじゃ…》 199 00:13:40,720 --> 00:13:42,722 この…。 200 00:13:42,722 --> 00:13:44,724 ひっくち…! 201 00:13:44,724 --> 00:13:47,727 《はっ…!》 202 00:13:47,727 --> 00:13:49,729 《この声…》 203 00:13:49,729 --> 00:13:52,732 《はっ…!》 204 00:13:53,733 --> 00:13:57,737 (志ん太)えっ? 俺のまねしてる? 朱音が? 205 00:13:57,737 --> 00:14:02,742 そう。 素人目だけど これが意外とうまくてさ。 206 00:14:02,742 --> 00:14:06,746 徹よりセンスあるかもよ~? そりゃ やばいな…。 207 00:14:06,746 --> 00:14:09,749 (真幸)そう思うなら さっさと真打になんなさいよ。 208 00:14:09,749 --> 00:14:11,751 簡単に言うなよ! 209 00:14:11,751 --> 00:14:14,754 (真幸)言うよ! 朱音のためだもん。 (志ん太)朱音の…? 210 00:14:14,754 --> 00:14:16,756 (真幸)あきれた…。 211 00:14:16,756 --> 00:14:21,761 朱音はパパっ子だよ。 パパの自慢 したいに決まってるじゃん。 212 00:14:22,762 --> 00:14:27,767 私の前で弱音吐くのはいいけどさ→ 213 00:14:27,767 --> 00:14:31,771 せめて 朱音の前では かっこいいお父さんでいてよね。 214 00:14:37,710 --> 00:14:41,714 (志ん太)随分 冷え切っているようで。 でも 寒いのも悪くない。 215 00:14:41,714 --> 00:14:43,716 (志ぐま)《なんだ?》 216 00:14:43,716 --> 00:14:46,719 (志ん太)寒い中飲む燗酒の うまさたるや。 217 00:14:46,719 --> 00:14:50,723 ついつい もう一杯 もう一杯と手が伸びる。 218 00:14:50,723 --> 00:14:54,727 いつしか 夢心地で がぶがぶ飲んで しくじるなんてのは…。 219 00:14:54,727 --> 00:14:56,729 (志ぐま)《雰囲気が変わった》 220 00:14:56,729 --> 00:14:59,732 よくある話でございます。 221 00:15:00,733 --> 00:15:03,736 (志ん太) 「ちょいと おまえさん! おまえさん!」。 222 00:15:03,736 --> 00:15:05,738 「起きとくれよ! おまえさん!」。 223 00:15:05,738 --> 00:15:10,743 「なんだよ? ええ? 邪険な起こし方すんなえ。 なんだい?」。 224 00:15:10,743 --> 00:15:12,745 「なんだい? じゃないやね この人は…」。 225 00:15:12,745 --> 00:15:15,748 (阿良川全生)《枕を終えて 噺に入ったか…》 226 00:15:15,748 --> 00:15:21,754 ♬~ 227 00:15:21,754 --> 00:15:27,760 (全生)〈腕はいいが 酒に溺れ 借金生活を送る 魚屋の勝五郎が→ 228 00:15:27,760 --> 00:15:30,763 芝の浜で財布を拾ったことをきっかけに→ 229 00:15:30,763 --> 00:15:33,699 商人としての矜持を取り戻す→ 230 00:15:33,699 --> 00:15:36,702 心温まる人情噺〉 231 00:15:38,704 --> 00:15:42,708 「後を頼むぜ」 「はい。 気をつけてね。 行っといで」。 232 00:15:42,708 --> 00:15:44,710 さあ 亭主を見送るってえと→ 233 00:15:44,710 --> 00:15:48,714 しばらくぶりで商売へ出てくれた 商いへ出かけてくれたってんで→ 234 00:15:48,714 --> 00:15:51,717 おかみさんのほうは ほっと ひと息つきまして→ 235 00:15:51,717 --> 00:15:53,719 まぶたのほうが 重た~くなってまいりまして→ 236 00:15:53,719 --> 00:15:56,722 とろとろ とろとろっとしてきたところへ…。 237 00:15:56,722 --> 00:15:59,725 (扇子でたたく音) 「おい おっ母! 俺だよ!」。 238 00:15:59,725 --> 00:16:01,727 (扇子でたたく音) 「開けちくれ! おっ母!」。 239 00:16:01,727 --> 00:16:05,731 「はいはいはい…。 あっ ちょいと待っとくれ。 今ね…」。 240 00:16:05,731 --> 00:16:09,735 「はっ…! どうしたんだい? おまえさん」。 241 00:16:09,735 --> 00:16:12,738 「いいから! いいから おめえ あと閉めろよ! あと閉めろってんだよ!」。 242 00:16:12,738 --> 00:16:17,743 (全生)《うーん…》 243 00:16:17,743 --> 00:16:21,747 《勝五郎が芝の浜に行く場面をカットした》 244 00:16:21,747 --> 00:16:24,750 《いや 全然いいんだけど…》 245 00:16:24,750 --> 00:16:26,752 《大筋さえ合えば→ 246 00:16:26,752 --> 00:16:30,756 登場人物の設定からオチまで 変えたっていい》 247 00:16:30,756 --> 00:16:32,692 《それも創意工夫の一つ》 248 00:16:32,692 --> 00:16:35,695 《とはいえ→ 249 00:16:35,695 --> 00:16:40,700 勝五郎が河岸に向かう途中 訪れた 芝の浜の情景を語りで見せる…→ 250 00:16:40,700 --> 00:16:43,703 それが『芝浜』の醍醐味》 251 00:16:44,704 --> 00:16:48,708 大体 『芝浜』唯一の 芝の浜の場面をカットって→ 252 00:16:48,708 --> 00:16:52,712 こんなの あんパンの あん抜きだ。 (阿良川一剣)《イライラしてんねえ…》 253 00:16:52,712 --> 00:16:55,715 《兄さんの嫌いそうなアプローチだもんな》 254 00:16:55,715 --> 00:16:57,717 《いや でも 気持ちは分かる》 255 00:16:57,717 --> 00:17:02,722 《見せ場を一つ捨てたことには違いない》 256 00:17:02,722 --> 00:17:06,726 《それでも あいつは 風景を語るよりも…》 257 00:17:06,726 --> 00:17:09,729 (志ん太)「起こしたけれども おまえさん うるさいなんてなこと言ってさ→ 258 00:17:09,729 --> 00:17:12,732 どこへも出かけちゃいないじゃないかさ! 芝の浜…?」。 259 00:17:12,732 --> 00:17:15,735 (一剣)《人を語る道を選んだ》 260 00:17:15,735 --> 00:17:19,739 (志ん太)「俺は 今朝 おめえに…」 「起こしたよ! で 芝 行ってないの」。 261 00:17:19,739 --> 00:17:21,741 《志ん太の強みは演技力》 262 00:17:21,741 --> 00:17:26,746 《だが あえて見せ場を捨て 自分の得意な人物描写を押し出すことで→ 263 00:17:26,746 --> 00:17:29,749 観客を話に引き込んだ》 264 00:17:29,749 --> 00:17:32,752 《この舞台で よくぞ!》 265 00:17:33,686 --> 00:17:37,690 《しかし この女房の造形は…》 266 00:17:37,690 --> 00:17:39,692 おっ母だ! えっ? 267 00:17:40,693 --> 00:17:44,697 おっ父… おっ母をやってる! 268 00:17:44,697 --> 00:17:47,700 《朱音 真幸 見てるか?》 269 00:17:49,702 --> 00:17:55,708 (志ん太の声)うちの師匠に弟子入りして 落語に打ち込み続けて13年。 270 00:17:55,708 --> 00:17:58,711 恐ろしいほど芽が出なくて…。 271 00:18:00,713 --> 00:18:02,715 (志ん太の声)ろくな稼ぎもねえ。 272 00:18:06,719 --> 00:18:10,723 (志ん太の声)それでも 真幸は 俺に落語をやめろと言わなかった。 273 00:18:11,724 --> 00:18:13,726 (志ん太)《朱音は…》 274 00:18:13,726 --> 00:18:17,730 (朱音の声) 「そんけいする人 五年三組 桜咲あかね」 275 00:18:17,730 --> 00:18:22,735 「わたしが この世で一番そんけいする人は おっ父です」 276 00:18:22,735 --> 00:18:26,739 「おっ父は落語家で 話が とっても面白くて→ 277 00:18:26,739 --> 00:18:29,742 毎日 わたしを笑わせてくれます」 278 00:18:29,742 --> 00:18:32,678 「おっ父の夢は 真打になることです」 279 00:18:32,678 --> 00:18:36,682 「わたしの夢も おっ父が真打になることです」 280 00:18:36,682 --> 00:18:39,685 「わたしは おっ父が大好きです」 281 00:18:39,685 --> 00:18:44,690 (志ん太)《こんな俺を 朱音は好きでいてくれた》 282 00:18:46,692 --> 00:18:49,695 (志ん太)《その思いに応えたい》 283 00:18:49,695 --> 00:18:52,698 《父として 落語家として→ 284 00:18:52,698 --> 00:19:00,706 俺が今まで培ってきた技も人生も 何もかも つぎ込んで→ 285 00:19:00,706 --> 00:19:05,711 俺は 今日 真打になる!》 286 00:19:08,714 --> 00:19:12,718 「よそう。 また夢になるといけねえ」。 287 00:19:12,718 --> 00:19:20,726 (拍手と歓声) 288 00:19:20,726 --> 00:19:22,728 《すげえ!》 289 00:19:22,728 --> 00:19:26,732 《おっ父 かっこいい…!》 290 00:19:27,733 --> 00:19:29,735 (雷鳴) 291 00:19:29,735 --> 00:19:32,671 (司会)大変長らくお待たせいたしました! 292 00:19:32,671 --> 00:19:35,675 集計結果が出そろったようです。 293 00:19:35,675 --> 00:19:38,678 大丈夫だよね? 大丈夫… 大丈夫じゃん! うるさい! 294 00:19:38,678 --> 00:19:41,680 ええー 結果発表は 阿良川…→ 295 00:19:41,680 --> 00:19:44,684 あっ い… 一生師匠 お願いします。 296 00:19:45,685 --> 00:19:49,688 (マイクをたたく音) (一生)おっ 入ってるな。 297 00:19:49,688 --> 00:19:52,691 ええー 皆様 この度は→ 298 00:19:52,691 --> 00:19:55,695 阿良川流真打昇進試験に お立ち会いいただき→ 299 00:19:55,695 --> 00:19:58,697 誠にありがとうございました。 300 00:19:58,697 --> 00:20:03,703 私もね 久しぶりに若手のネタを見たんですけどね→ 301 00:20:03,703 --> 00:20:06,706 いやあ 驚きました。 302 00:20:06,706 --> 00:20:12,711 まあ だらだら しゃべっても仕方ないんでね 結果を申し上げますと→ 303 00:20:12,711 --> 00:20:15,715 ええー 今日の出場者→ 304 00:20:15,715 --> 00:20:17,716 全員 破門です。 305 00:20:17,716 --> 00:20:20,719 ⚟(雷鳴) 306 00:20:20,719 --> 00:20:23,723 (司会)い… いやあ 師匠 冗談が…。 307 00:20:23,723 --> 00:20:27,726 (一生)一門の面汚しどもが みっともねえ芸をお見せしちまって→ 308 00:20:27,726 --> 00:20:30,729 すいやせんでした。 309 00:20:30,729 --> 00:20:32,732 (志ぐま)ああっ…! 310 00:20:32,732 --> 00:20:36,736 (観客のざわめき) ⚟(雷鳴) 311 00:20:36,736 --> 00:20:39,738 じゃあ まあ そういうことで。 以上。 312 00:20:39,738 --> 00:20:42,742 ああっ! ちょっ… 師匠!? 313 00:20:42,742 --> 00:20:48,747 ねえ どうしたの? 「はもん」って何? ねえ おっ母! おっ母ってば! 314 00:20:48,747 --> 00:20:52,752 ねえ おっ母! (真幸)《徹…》 315 00:20:52,752 --> 00:20:54,754 ⚟(雷鳴) 316 00:20:57,756 --> 00:21:00,759 (志ぐま)ちょっと どういうことですか!? 破門って。 317 00:21:00,759 --> 00:21:03,763 大体 志ん太は 俺の弟子だ! 318 00:21:03,763 --> 00:21:09,768 〈後に この日の受験者全員が 正式に破門となる〉 319 00:21:09,768 --> 00:21:11,771 人の弟子を勝手に…! 320 00:21:11,771 --> 00:21:14,774 (一生)出来の悪い弟子を持ったな。 (志ぐま)がっ…! 321 00:21:15,774 --> 00:21:18,777 〈破門の理由については 明かされていない〉 322 00:21:19,778 --> 00:21:23,783 あんなもん 『芝浜』とは言わねえよ。 323 00:21:23,783 --> 00:21:27,786 (雷鳴) 324 00:21:27,786 --> 00:21:31,791 (門下生)えっ これ 本当なんですか!? (門下生)志ん太…。 325 00:21:31,791 --> 00:21:34,727 兄さん! どういうことですか!? 326 00:21:34,727 --> 00:21:38,731 (門下生)ギャグですよね? ねえ? ギャグですよね? 兄さん! 327 00:21:42,735 --> 00:21:47,740 〈あの日 落語家 阿良川志ん太は死んだ〉 328 00:22:01,754 --> 00:22:07,760 〈あの日 落語家 阿良川志ん太は死んだ〉 329 00:22:09,762 --> 00:22:11,764 〈でも…〉 330 00:22:14,767 --> 00:22:16,769 〈終わりじゃない!〉 331 00:22:16,769 --> 00:22:27,780 ♬~ 332 00:22:27,780 --> 00:22:33,719 〈むしろ あの時から始まったんだ〉 333 00:22:33,719 --> 00:22:39,725 ♬~ 334 00:22:39,725 --> 00:22:41,727 〈私の物語が〉 335 00:22:42,728 --> 00:22:55,741 ♬~