1 00:00:05,338 --> 00:00:06,923 (慎爾(しんじ))“僕の母は” 2 00:00:07,048 --> 00:00:10,927 “淡島(あわじま)歌劇団で トップと呼ばれた人です” 3 00:00:11,052 --> 00:00:16,766 ♪~ 4 00:00:12,512 --> 00:00:13,972 (慎爾)参観日なんかに 5 00:00:14,097 --> 00:00:16,766 作文を 読み上げる場面があると 6 00:00:16,891 --> 00:00:19,060 わざわざ そんなことを書いてね 7 00:01:36,763 --> 00:01:40,934 ~♪ 8 00:01:42,560 --> 00:01:46,689 (慎爾)参観日なんかに 作文を読み上げる場面があると 9 00:01:47,107 --> 00:01:49,526 わざわざ そんなことを書いてね 10 00:01:49,651 --> 00:01:51,945 後ろに並ぶお母様方から 11 00:01:52,403 --> 00:01:57,367 “ほう…”なんて ため息交じりの声が聞こえるんだよ 12 00:01:57,492 --> 00:02:01,371 母のファンだったと 公言する人もいたから 13 00:02:05,542 --> 00:02:10,296 僕は母と違って 役者の才能はなかったです 14 00:02:10,505 --> 00:02:14,008 子どものころから 歌や踊りを教わっていたけど 15 00:02:14,133 --> 00:02:15,802 不得意でね 16 00:02:16,219 --> 00:02:19,472 (慎爾)好きで続いたのは 日本舞踊だけかな 17 00:02:21,516 --> 00:02:22,433 (詩子(うたこ))ねえ あんた 18 00:02:23,476 --> 00:02:25,061 (詩子)脚本(ホン)書いてみなさいな 19 00:02:25,979 --> 00:02:27,438 (慎爾)ホン? 20 00:02:27,647 --> 00:02:31,818 (慎爾) 正月だったかなあ 19歳ぐらいで 21 00:02:31,943 --> 00:02:33,903 こたつで ミカン 食べながら 22 00:02:34,028 --> 00:02:37,615 だら~っとテレビか何か 見てたときだから 23 00:02:37,740 --> 00:02:39,701 ポカ~ンとしちゃって 24 00:02:40,451 --> 00:02:43,163 母は そういう人なんだよね 25 00:02:43,288 --> 00:02:47,709 突拍子もないというか 急に結論から話すタイプ 26 00:02:48,001 --> 00:02:51,087 (詩子)お父さ~ん 駅前まで車 出して~ 27 00:02:51,212 --> 00:02:52,964 (詩子の夫)え~ 28 00:02:53,089 --> 00:02:55,425 (慎爾)何だ? 急に 29 00:02:56,885 --> 00:02:57,844 ハァ… 30 00:02:57,969 --> 00:03:00,889 空想や作文は昔から好きだった 31 00:03:01,890 --> 00:03:05,894 だけど それは 母に見せたことは ほぼ なかった 32 00:03:07,020 --> 00:03:09,147 母は とても多忙だったし 33 00:03:09,272 --> 00:03:12,066 僕は祖父母に育てられたも同然で 34 00:03:12,192 --> 00:03:14,694 それが自然なことだから 35 00:03:17,405 --> 00:03:21,284 うちの中に母がいる ってことのほうがレアだもん 36 00:03:21,910 --> 00:03:26,497 子どもの時分は それなりに さみしかったと思うんだけど 37 00:03:26,623 --> 00:03:29,459 でも 母は 僕の母である前に 38 00:03:29,584 --> 00:03:33,004 女優夏木(なつき)詩子だったからねえ 39 00:03:34,505 --> 00:03:38,718 (慎爾)僕は作文に たくさんのウソを書いた 40 00:03:41,221 --> 00:03:45,391 夏木詩子が うちの中で見せる おちゃめな姿 41 00:03:45,516 --> 00:03:51,564 良妻賢母の型に はまらない だけど 時折 見せる家庭的な一面 42 00:03:52,774 --> 00:03:54,192 ハッ 43 00:03:54,317 --> 00:03:56,569 完璧すぎても 嫌みになるし 44 00:03:56,694 --> 00:03:59,656 がさつすぎても 好感度が下がるでしょう 45 00:03:59,781 --> 00:04:03,076 このあんばいが難しいんだけど 腕が鳴るのよ 46 00:04:03,201 --> 00:04:04,577 (若菜(わかな))アハハ… 47 00:04:05,161 --> 00:04:09,624 (慎爾)その後も 僕の創作活動は止まらなかった 48 00:04:10,416 --> 00:04:13,002 物語の主役は すべて母で 49 00:04:13,127 --> 00:04:14,837 (一同の笑い声) 50 00:04:14,963 --> 00:04:17,590 (慎爾)だけど もちろん クラスメイトには秘密 51 00:04:17,715 --> 00:04:18,758 (慎爾)フフッ 52 00:04:19,467 --> 00:04:23,638 (慎爾)学芸会の台本は すべて僕に任されたので 53 00:04:23,763 --> 00:04:26,349 僕の筆は どんどん乗った 54 00:04:27,266 --> 00:04:31,938 作文コンクールに出された 「我が家の食卓」という作品は 55 00:04:32,063 --> 00:04:36,693 美談になりすぎない美談に ほんの少しのユーモアをまぶして 56 00:04:36,818 --> 00:04:39,487 最優秀賞を取ってしまった 57 00:04:41,614 --> 00:04:43,783 全国紙に写真が載り 58 00:04:43,908 --> 00:04:50,790 夏木詩子の息子と分かると 週刊誌では 母と一緒に紹介された 59 00:04:51,666 --> 00:04:55,753 僕の作り話に 母は巻き込まれたわけだからね 60 00:04:56,963 --> 00:05:00,508 帰ったら どれだけ叱られるかと ヒヤヒヤしたけど 61 00:05:01,592 --> 00:05:03,886 母は怒らなかった 62 00:05:04,012 --> 00:05:07,598 といって 褒めてくれるわけでもなかった 63 00:05:08,516 --> 00:05:09,726 大学に入ると 64 00:05:09,851 --> 00:05:14,147 戯曲もどきのものを書いて 同人誌に まとめたりした 65 00:05:14,647 --> 00:05:19,152 それでも 自分が脚本家になるとは 考えてなかったな 66 00:05:19,986 --> 00:05:24,907 僕は ずっと 母の幻影を 追いかけてたようなものだしね 67 00:05:25,033 --> 00:05:26,993 それを形にすることで 68 00:05:27,118 --> 00:05:30,079 ある意味 満足してしまっていたから 69 00:05:31,205 --> 00:05:34,167 だから 何てことない ひと言なんだけど… 70 00:05:34,292 --> 00:05:37,420 (詩子)ねえ あんた 脚本(ホン)書いてみなさいな 71 00:05:37,837 --> 00:05:38,671 フッ… 72 00:05:39,297 --> 00:05:41,549 母が背中を押してくれたんだよね 73 00:05:41,674 --> 00:05:43,426 (若菜)すてきです 74 00:05:45,136 --> 00:05:46,846 (慎爾)僕は 75 00:05:46,971 --> 00:05:51,100 本当は母のようになりたかった 76 00:05:53,019 --> 00:05:58,066 僕が描く母の姿は すべて 僕自身のことだった 77 00:05:58,691 --> 00:06:03,571 華麗な詩子も 妖艶な詩子も おちゃめな詩子も 78 00:06:03,696 --> 00:06:06,074 なりたい僕の姿だった 79 00:06:07,575 --> 00:06:09,285 (慎爾)ただいま 80 00:06:10,495 --> 00:06:12,205 (慎爾の娘)あっ パパ おかえり 81 00:06:12,330 --> 00:06:13,915 何だ 出かけるの? 82 00:06:14,040 --> 00:06:15,416 (詩子)デートだよ 83 00:06:15,541 --> 00:06:18,961 (慎爾の娘)おばあちゃん! よけいなこと 言わなくてい~い! 84 00:06:19,087 --> 00:06:20,755 いってきます 85 00:06:22,882 --> 00:06:25,218 (詩子) あんた 今日 取材だったって? 86 00:06:25,343 --> 00:06:28,304 (慎爾)うん 母さんのこと たくさんしゃべった 87 00:06:28,429 --> 00:06:31,474 (詩子)どうせ いつもの あること ないこと 88 00:06:31,599 --> 00:06:34,852 いやいや わりと真面目に打ち明け話 89 00:06:36,938 --> 00:06:41,776 (慎爾)僕の父は 僕が50のときに亡くなった 90 00:06:42,944 --> 00:06:46,823 それまで 父と2人で暮らしていた母が 91 00:06:46,948 --> 00:06:48,950 僕らと暮らしたいと言った 92 00:06:51,536 --> 00:06:54,831 母が父のことを とても愛していたことも 93 00:06:54,956 --> 00:06:58,751 そんな母が心細くなったことも 94 00:06:59,961 --> 00:07:05,675 僕は母のことなど 何ひとつ知らなかったことを知った 95 00:07:06,134 --> 00:07:08,845 (慎爾の妻) お義母(かあ)さん お昼 何にします? 96 00:07:08,970 --> 00:07:12,181 (詩子) あ~ 昨日は何を食べたかしら 97 00:07:12,557 --> 00:07:14,725 やだ 冗談ばっかり 98 00:07:14,851 --> 00:07:15,810 (2人の笑い声) 99 00:07:15,935 --> 00:07:19,188 (慎爾) 妻や娘たちと談笑するさまや 100 00:07:19,313 --> 00:07:25,653 庭木や花に水をやる老婦人の姿は なかなか おちゃめで愛らしい 101 00:07:27,488 --> 00:07:29,699 それでも ふと考える 102 00:07:30,658 --> 00:07:37,456 ここにいるのは かつて僕が描いた 空想上の母を演じる⸺ 103 00:07:37,582 --> 00:07:40,626 夏木詩子なのではないかと 104 00:07:42,795 --> 00:07:48,176 僕は永遠に 夏木詩子を追いかけてしまう 105 00:07:49,302 --> 00:07:52,638 (受験生たちのざわめき) 106 00:07:52,763 --> 00:07:56,767 (受験生)なかった… (泣き声) 107 00:07:56,893 --> 00:07:59,020 (沙織(さおり))あっ… た 108 00:08:00,021 --> 00:08:01,606 (由加里(ゆかり))ウソみたい 109 00:08:02,523 --> 00:08:04,108 夢みたい 110 00:08:06,110 --> 00:08:08,404 自分の番号が… 111 00:08:09,030 --> 00:08:11,115 ゆかりちゃん あったよ! 112 00:08:11,532 --> 00:08:12,366 あっ… 113 00:08:13,784 --> 00:08:15,495 (由加里)ないなんて 114 00:08:19,207 --> 00:08:20,249 ゆかりちゃん… 115 00:08:21,751 --> 00:08:22,752 (由加里)なかった 116 00:08:24,253 --> 00:08:27,298 私の… 番号 117 00:08:29,759 --> 00:08:34,055 なかっ… た… 118 00:08:35,014 --> 00:08:36,515 (由加里)どうしよう 119 00:08:37,308 --> 00:08:39,977 立ち直り方が分からない 120 00:08:41,896 --> 00:08:43,523 私たち 2人とも 121 00:08:43,648 --> 00:08:46,817 受験スクールで 優等生と呼ばれていて… 122 00:08:46,943 --> 00:08:49,362 (かなえ) この世界に絶対はないけど 123 00:08:49,487 --> 00:08:51,364 2人は大丈夫だと思ってる 124 00:08:52,156 --> 00:08:55,576 (かなえ)…なんて そんな プレッシャー与えたら ダメだね 125 00:08:55,701 --> 00:08:58,579 でも きっと 城(しろ)先生も そう おっしゃるよ 126 00:08:58,704 --> 00:08:59,747 (2人)はい! 127 00:08:59,872 --> 00:09:00,873 頑張ります! 128 00:09:01,749 --> 00:09:04,585 (由加里)私も正直 そう思ってた 129 00:09:04,961 --> 00:09:07,922 だって 私は城芙美子(ふみこ)の娘 130 00:09:08,714 --> 00:09:11,384 城 芙美子レッスンスクールの 優等生 131 00:09:13,511 --> 00:09:16,222 そんな考えでいたせいだろうか 132 00:09:17,265 --> 00:09:21,143 母のことは 家の中でも“先生”と呼んだ 133 00:09:21,269 --> 00:09:25,690 指導にあたった先生方も 公私混同することはなかった 134 00:09:26,649 --> 00:09:27,817 …はず 135 00:09:30,403 --> 00:09:33,406 でも もう そういうことじゃない 136 00:09:33,531 --> 00:09:35,449 私は落ちたんだ 137 00:09:35,575 --> 00:09:39,996 淡島受験という ふるいから こぼれ落ちたんだ 138 00:09:41,455 --> 00:09:43,249 (由加里)ごめんね さーちゃん 139 00:09:43,541 --> 00:09:44,875 (沙織)何が? 140 00:09:45,001 --> 00:09:47,378 (由加里) 気まずいよね この帰り道 141 00:09:47,503 --> 00:09:49,505 (沙織)そんなこと… 142 00:09:49,630 --> 00:09:51,132 あるけど 143 00:09:51,632 --> 00:09:53,926 (由加里) さーちゃんは合格してよかった 144 00:09:54,051 --> 00:09:54,885 (沙織)あ… 145 00:09:55,761 --> 00:09:58,222 それは ほんとにそう思ってるよ 146 00:09:58,514 --> 00:09:59,932 (沙織)ゆかりちゃん… 147 00:10:00,308 --> 00:10:02,643 (由加里)そう思ってるか~? 148 00:10:02,768 --> 00:10:04,437 本当に~? 149 00:10:05,146 --> 00:10:09,609 我ながら疑わしいけど 今は そう言うしかない 150 00:10:10,067 --> 00:10:13,321 だって そう言うしかないじゃん 151 00:10:14,447 --> 00:10:15,656 ごめんなさい! 152 00:10:15,865 --> 00:10:19,577 私が よけいなことを言って ぬか喜びさせるような… 153 00:10:19,702 --> 00:10:21,287 講師にあるまじき発言でした 154 00:10:21,412 --> 00:10:23,539 (由加里)先生 そんな… 155 00:10:23,664 --> 00:10:26,292 傷口に塩 塗り込まないで… 156 00:10:26,417 --> 00:10:29,211 (芙美子)落ちたのは かなえちゃんのせいじゃないでしょ 157 00:10:29,337 --> 00:10:31,422 この人の実力不足 (由加里)うう… 158 00:10:32,798 --> 00:10:35,176 どうする? 由加里 紹介状 書こうか? 159 00:10:35,634 --> 00:10:36,677 (由加里)あ… 160 00:10:38,387 --> 00:10:41,307 (由加里)いわゆる コネ枠がないわけではない 161 00:10:42,224 --> 00:10:44,060 パイプはある 162 00:10:44,185 --> 00:10:47,271 それだって 絶対ではないだろうが 163 00:10:48,356 --> 00:10:51,067 城 芙美子の娘に生まれて 164 00:10:51,192 --> 00:10:54,654 どうせ あいつも そのコースに乗るのだろう 165 00:10:54,945 --> 00:10:57,698 そんなふうに やっかまれる私 166 00:10:57,823 --> 00:11:02,578 しかし 努力と実力で それらを跳ね返す私 167 00:11:03,329 --> 00:11:05,206 でも 違ったんだ 168 00:11:05,331 --> 00:11:09,126 さーちゃんにはある華が 私にはない 169 00:11:09,251 --> 00:11:12,505 そんなことは私も知っていた 170 00:11:14,215 --> 00:11:16,342 お父さんに似ちゃったから! 171 00:11:16,467 --> 00:11:18,552 (由加里の父) 何だ? 由加里 呼んだか? 172 00:11:17,426 --> 00:11:18,552 (由加里)あっ 違っ… 173 00:11:18,677 --> 00:11:19,720 何でもない 174 00:11:20,596 --> 00:11:22,306 (由加里)…なんてね 175 00:11:23,891 --> 00:11:27,561 淡島のこと 聞いたよ 残念だったな 176 00:11:28,437 --> 00:11:29,563 (由加里)うん 177 00:11:30,022 --> 00:11:31,941 (由加里)お父さん ごめん 178 00:11:33,025 --> 00:11:35,486 お父さんのせいじゃない 179 00:11:35,736 --> 00:11:37,363 お母さんも言ってた 180 00:11:37,488 --> 00:11:39,990 私の実力不足 181 00:11:40,908 --> 00:11:45,121 優等生だけど 特別優秀じゃなかった 182 00:11:45,913 --> 00:11:49,208 (かなえ)ゆかりちゃんが 生まれたころから見てるからね 183 00:11:49,333 --> 00:11:52,378 無意識に贔屓目(ひいきめ)で評価してたのかも 184 00:11:52,670 --> 00:11:56,132 先生 そんな… 言いにくいことを はっきりと 185 00:11:56,882 --> 00:11:59,009 ごめん でも本音 186 00:11:59,135 --> 00:12:01,137 こんな甘さは残酷でしかないし 187 00:12:01,554 --> 00:12:04,306 城先生なら おっしゃらないことよ 188 00:12:04,515 --> 00:12:06,142 反省しています 189 00:12:07,601 --> 00:12:10,938 (由加里)そうかな そうかも 190 00:12:11,272 --> 00:12:12,523 母の存在は 191 00:12:12,648 --> 00:12:16,986 鼻先にぶら下がった 見えない ニンジンだったかもしれない 192 00:12:17,862 --> 00:12:20,823 同じような境遇の子は ほかにもいて 193 00:12:20,948 --> 00:12:25,661 その特別な環境から逃れるために うちへ やって来た子もいる 194 00:12:28,247 --> 00:12:31,417 それが さーちゃん 森久保(もりくぼ)沙織ちゃん 195 00:12:32,168 --> 00:12:33,669 ゆかりちゃんは偉いよ 196 00:12:34,587 --> 00:12:37,173 (由加里)さーちゃんに よく言われた言葉だった 197 00:12:37,756 --> 00:12:41,010 (沙織)私は 周りに いろいろ言われるのがイヤで 198 00:12:41,135 --> 00:12:42,928 ここに入ったから 199 00:12:44,513 --> 00:12:48,434 (由加里)私は ただ ぬるま湯につかっていただけ 200 00:12:52,313 --> 00:12:54,940 きっと どこかで どうにかなる 201 00:12:55,065 --> 00:12:57,818 そう思ってただけだよ さーちゃん 202 00:13:00,529 --> 00:13:04,533 どうにかなると思って どうにもならないっていう⸺ 203 00:13:04,658 --> 00:13:09,121 今頃 ようやく 現実を知った 大バカ者だよ 204 00:13:10,915 --> 00:13:12,792 (かなえ) ゆかりちゃん どうする? 205 00:13:13,793 --> 00:13:16,045 まだ 頑張る気持ちはある? 206 00:13:16,962 --> 00:13:19,507 (由加里)これも残酷な言葉 207 00:13:20,883 --> 00:13:24,053 (由加里) 来年 また頑張らせてください 208 00:13:24,970 --> 00:13:28,390 (由加里)かんだ唇から 血が噴き出しそう 209 00:13:30,267 --> 00:13:32,186 私は たぶん後悔する 210 00:13:34,313 --> 00:13:37,024 それでも そう言うしかなかった 211 00:13:41,445 --> 00:13:47,326 (荒い息) 212 00:13:49,203 --> 00:13:51,997 (由加里) 諦めるまで あがくしかない 213 00:13:55,167 --> 00:14:01,048 “城 芙美子の娘”としてではなく “瀧本(たきもと)由加里”として 214 00:14:09,098 --> 00:14:12,434 (桂子(かつらこ))彼女は美しい人だった 215 00:14:14,812 --> 00:14:17,398 誰よりも目を引いて 216 00:14:18,065 --> 00:14:22,444 こういう人が スターになるのだと確信した 217 00:14:31,495 --> 00:14:36,083 (拍手) 218 00:14:36,208 --> 00:14:38,627 (桂子)私は祖母に憧れていた 219 00:14:40,796 --> 00:14:43,048 美しい祖母に 220 00:14:47,720 --> 00:14:50,848 (桂子)私も おばあちゃまみたいになれる? 221 00:14:50,973 --> 00:14:53,601 (ルリ子(こ))なれるわよ きっと 222 00:14:56,770 --> 00:14:59,148 (夏子(なつこ)) あんたは少し お直しが必要だね 223 00:15:01,692 --> 00:15:05,654 せめて ルリ子にでも似てくれれば 224 00:15:05,779 --> 00:15:09,450 よりによって あのキツネ目の男に似るとはね 225 00:15:09,575 --> 00:15:13,495 素材が悪いとは言わないけど 華がないわ 226 00:15:15,497 --> 00:15:18,626 (桂子)私は祖母に憧れて… 227 00:15:24,006 --> 00:15:25,507 (予科生)ねえ あの人 すてき 228 00:15:25,716 --> 00:15:28,844 (予科生)ほんとだ きれい 229 00:15:35,309 --> 00:15:37,895 (予科生)岡部(おかべ)さんだって 名前 聞いてきちゃった 230 00:15:38,520 --> 00:15:40,105 (予科生)やるわね あんた 231 00:15:40,230 --> 00:15:41,148 おっと いけない 232 00:15:41,482 --> 00:15:42,733 やるわね あなた 233 00:15:42,858 --> 00:15:44,652 (予科生)フフッ そうでしょ 234 00:15:44,777 --> 00:15:46,528 もっと褒めてもよくってよ フフッ 235 00:15:46,654 --> 00:15:48,572 (予科生)まあ すごいですわ~ 236 00:15:48,697 --> 00:15:50,157 (予科生)フフフッ (予科生)さすがですわ~ 237 00:15:50,282 --> 00:15:55,412 (桂子)美しい その人は 岡部絵美(えみ)さんといった 238 00:15:56,956 --> 00:15:58,999 (桂子)伊吹(いぶき)桂子といいます 239 00:15:59,124 --> 00:16:03,545 寮では隣の部屋になるので 何かあったら相談してね 240 00:16:05,047 --> 00:16:06,423 (絵美)ありがとう 241 00:16:07,216 --> 00:16:12,388 (桂子)私は ただ 彼女と仲良くなりたかった 242 00:16:13,430 --> 00:16:19,937 祖母の面影を持つ美しい彼女に 認められたかった 243 00:16:21,689 --> 00:16:26,527 祖母が彼女を見たら どんなにか うらやむだろう 244 00:16:27,027 --> 00:16:29,697 それでも 彼女は彼女で 245 00:16:29,863 --> 00:16:31,990 祖母とは違う 246 00:16:32,866 --> 00:16:37,204 しかし 祖母を思い起こさせる 247 00:16:37,830 --> 00:16:43,210 だからこそ 彼女に肯定してほしかった 248 00:16:44,086 --> 00:16:47,047 (桂子)ダメだわ ちっとも うまくならない 249 00:16:47,172 --> 00:16:48,924 (絵美)そんなこと ないわよ 250 00:16:49,049 --> 00:16:52,845 こないだの「眠りの森の美女」の 魔女役 よかったわ 251 00:16:52,970 --> 00:16:55,097 私が悪役顔だからよ 252 00:16:55,222 --> 00:16:58,017 (絵美)フフッ 何それ おかしい 253 00:16:59,226 --> 00:17:01,520 (桂子)魔女は十分 美しい人よ 254 00:17:03,397 --> 00:17:05,441 伊吹さんも美しいわ 255 00:17:08,569 --> 00:17:10,070 (桂子)いつか… 256 00:17:11,113 --> 00:17:15,159 いつか 同じ舞台に立ちましょうね 257 00:17:20,748 --> 00:17:26,086 頭角を現したのは 地味な地味なクラスメイト 258 00:17:27,212 --> 00:17:33,051 私のような親のコネもない 平凡の塊のような子 259 00:17:36,597 --> 00:17:39,558 だけど 美しい声を持っていたわ 260 00:17:41,935 --> 00:17:44,480 彼女が お芝居を始めると 261 00:17:44,813 --> 00:17:48,442 その場が シンと静まり返るの 262 00:17:50,986 --> 00:17:55,574 だから みんな 本当は分かっていた 263 00:17:56,283 --> 00:17:59,703 それは ただの嫉妬だってことを 264 00:18:00,871 --> 00:18:02,080 (生徒)今度の合同授業 265 00:18:02,206 --> 00:18:04,083 やっぱり 岡部さんがメインみたいよ 266 00:18:04,208 --> 00:18:05,793 (生徒たち)きゃ~! フフフッ 267 00:18:06,752 --> 00:18:09,713 (生徒)でもさあ 相手役は小野田(おのだ)さんだって 268 00:18:09,838 --> 00:18:10,672 (生徒)やだ~ 269 00:18:11,173 --> 00:18:13,467 (生徒)ちょっと やめなさいよ 270 00:18:13,592 --> 00:18:15,928 (生徒)言っちゃなんだけど 不釣り合いじゃない? 271 00:18:16,053 --> 00:18:17,179 (生徒)ねえ~ 272 00:18:17,471 --> 00:18:18,931 (住吉(すみよし)) 伊吹さんがいいんじゃない? 273 00:18:19,056 --> 00:18:20,349 それか保坂(ほさか)さん 274 00:18:20,474 --> 00:18:22,184 私じゃ無理よ 275 00:18:23,018 --> 00:18:25,104 それじゃあねえ… 276 00:18:25,229 --> 00:18:27,815 (絵美)小野田さんの演技を 見たこともないの? 277 00:18:29,900 --> 00:18:31,693 あなたたちの誰よりも上手なのに 278 00:18:40,536 --> 00:18:42,955 (夏子) 外見のお直しだけじゃないわ 279 00:18:44,748 --> 00:18:47,459 あんたは芝居にも華がない 280 00:18:47,584 --> 00:18:48,877 (ルリ子)お母さん 281 00:18:48,252 --> 00:18:52,881 (夏子)役者の真価は 見た目のよさだけじゃないからね 282 00:18:53,006 --> 00:18:55,425 そんなことは当然 283 00:18:55,843 --> 00:18:58,345 でも 華よ 284 00:19:01,140 --> 00:19:06,270 客席の視線を あんたにだけ向けさせる表現力 285 00:19:06,687 --> 00:19:09,022 あんたには それが足りない 286 00:19:12,442 --> 00:19:16,655 (桂子) そのあとの感情を思い出せない 287 00:19:19,950 --> 00:19:24,121 何もかも もう どうでもよくなり 288 00:19:24,246 --> 00:19:26,164 瓦解(がかい)してしまったのだ 289 00:19:27,499 --> 00:19:29,710 私のすべてが 290 00:19:39,386 --> 00:19:41,096 (絵美)おはよう 伊吹さん 291 00:19:45,809 --> 00:19:46,727 ん? 292 00:20:03,702 --> 00:20:06,997 (桂子) “みんなで彼女を無視しよう” 293 00:20:07,414 --> 00:20:10,250 誰かが言いだしたわけではない 294 00:20:11,460 --> 00:20:13,837 暗黙の了解だった 295 00:20:15,297 --> 00:20:18,759 岡部絵美は どんどん孤立していった 296 00:20:21,678 --> 00:20:25,891 淡島歌劇団にコネのある 生徒の一人は 297 00:20:26,016 --> 00:20:29,269 岡部絵美の配役を阻止した 298 00:20:31,146 --> 00:20:34,816 岡部絵美は空気となった 299 00:20:36,068 --> 00:20:38,612 やがて 空気ですらなく 300 00:20:38,946 --> 00:20:42,282 そこに岡部絵美の気配はなかった 301 00:20:43,742 --> 00:20:48,622 憧れと称賛は 憎しみの原動力となった 302 00:20:51,458 --> 00:20:54,962 リーダー格は伊吹桂子 303 00:20:55,295 --> 00:20:58,215 祖母は かつてのスター女優 304 00:20:58,507 --> 00:21:02,594 母も淡島出身のエリート一家 305 00:21:03,845 --> 00:21:07,599 伊吹の取り巻きに個々の人格はなく 306 00:21:08,016 --> 00:21:11,436 言われるがまま 岡部をなじった 307 00:21:12,562 --> 00:21:16,400 それは とても巧妙で卑劣な行為 308 00:21:20,028 --> 00:21:22,906 ゆがんだ感情が常識になると 309 00:21:24,449 --> 00:21:27,494 違和感を抱く者はいない 310 00:21:31,540 --> 00:21:32,457 ねえ 311 00:21:33,291 --> 00:21:36,420 熊田(くまだ)に ずいぶん 贔屓されてるみたいだけど 312 00:21:37,462 --> 00:21:40,632 あんなの相手に 処女でも ささげたの? 313 00:21:58,025 --> 00:21:59,526 (桂子)田畑(たばた)さん 314 00:22:00,944 --> 00:22:06,074 あなたは淡島に入って 後悔したことはある? 315 00:22:10,037 --> 00:22:15,042 ♪~ 316 00:23:34,538 --> 00:23:39,543 ~♪