1 00:01:40,367 --> 00:01:47,541 ♬(初華)『グリーンリーブス』 2 00:01:47,541 --> 00:02:08,328 ♬~ 3 00:02:08,328 --> 00:02:13,834 (初華)これからお話ししますのは 秘密を抱えた彼女➡ 4 00:02:13,834 --> 00:02:16,637 三角初音のお話。 5 00:02:22,509 --> 00:02:27,114 父は豊川定治。 祥ちゃんの祖父。 6 00:02:29,349 --> 00:02:33,020 長年連れ添った妻の死に 絶望した父と➡ 7 00:02:33,020 --> 00:02:35,522 同じく その妻を慕っていた➡ 8 00:02:35,522 --> 00:02:39,359 豊川の別荘の 管理人だった母との間に➡ 9 00:02:39,359 --> 00:02:42,029 私は生まれた。 10 00:02:42,029 --> 00:02:46,199 私のことを知った父は 母と私を東京に呼び寄せ➡ 11 00:02:46,199 --> 00:02:48,869 一緒に暮らそうとしたらしい。 12 00:02:48,869 --> 00:02:52,539 だが 婿養子だった父が➡ 13 00:02:52,539 --> 00:02:56,043 豊川の血が流れない私を 籍に入れることは➡ 14 00:02:56,043 --> 00:02:59,046 すなわち失脚を意味する。 15 00:02:59,046 --> 00:03:03,650 それを知った母は 父に迷惑をかけまいと➡ 16 00:03:03,650 --> 00:03:08,822 この島で 一人で 私を育てることを決意した。 17 00:03:08,822 --> 00:03:12,826 島の漁師だった養父は➡ 18 00:03:12,826 --> 00:03:16,329 そんな母を 私ごと受け入れてくれた。 19 00:03:16,329 --> 00:03:22,502 幸せな家庭には やがて新しい命が宿る。 20 00:03:22,502 --> 00:03:25,839 《私は幸せじゃなかった》 21 00:03:25,839 --> 00:03:30,177 そう 私に妹ができたのだ。 22 00:03:30,177 --> 00:03:33,180 妹の名前は初華。 23 00:03:33,180 --> 00:03:35,682 私とよく似た顔をしていたが➡ 24 00:03:35,682 --> 00:03:40,520 明るく積極的で 私とは正反対。 25 00:03:40,520 --> 00:03:43,356 (初華)「大きくなったら アイドルになるの! 26 00:03:43,356 --> 00:03:46,359 絶対に東京に出るから!」。 27 00:03:46,359 --> 00:03:49,863 そう口癖のように話す初華に 私は…。 28 00:03:51,865 --> 00:03:55,869 (初音)「初華はかわいいから きっとなれるよ」。 29 00:03:55,869 --> 00:03:58,538 応援の言葉をかけながら➡ 30 00:03:58,538 --> 00:04:03,810 妹に対するコンプレックスで いっぱいだった。 31 00:04:03,810 --> 00:04:07,647 養父は こんな私を かわいがってくれたが➡ 32 00:04:07,647 --> 00:04:10,150 その優しさが なおさら➡ 33 00:04:10,150 --> 00:04:14,488 家族の中での 私の異物感を際立たせた。 34 00:04:14,488 --> 00:04:18,158 《私だけが家族じゃない》 35 00:04:18,158 --> 00:04:20,660 息が詰まる。 36 00:04:20,660 --> 00:04:24,831 窒息しそうになるたび外に出た。 ハァ ハァ…。 37 00:04:24,831 --> 00:04:28,168 夜の山で 星空を眺めているときだけ➡ 38 00:04:28,168 --> 00:04:30,170 息ができる気がした。 39 00:04:30,170 --> 00:04:32,339 大きく息を吸う。 40 00:04:32,339 --> 00:04:37,344 何度も 何度も 大きく 大きく…。 41 00:04:37,344 --> 00:04:41,515 ふぅ~。 42 00:04:41,515 --> 00:04:44,684 大きな ため息のようだった。 43 00:04:44,684 --> 00:04:46,686 (セミの鳴き声) 44 00:04:46,686 --> 00:04:48,688 夏が来た。 (セミの鳴き声) 45 00:04:48,688 --> 00:04:52,359 夏休み 私と初華は➡ 46 00:04:52,359 --> 00:04:55,195 養父に 母が作ったお弁当を届けに➡ 47 00:04:55,195 --> 00:04:58,031 漁港に行くのが日課だった。 48 00:04:58,031 --> 00:05:01,668 帰り道。 (船の汽笛) 49 00:05:01,668 --> 00:05:04,671 (初華)「ずる~い。 お姉ちゃんばっか」。 50 00:05:04,671 --> 00:05:08,008 (初音)「初華の好きなお菓子も あるよ」。 51 00:05:08,008 --> 00:05:12,679 初華は 一人で食べるには 少し多めのお菓子をつかんで➡ 52 00:05:12,679 --> 00:05:16,016 急勾配の坂道を 元気よく駆け上がる。 53 00:05:16,016 --> 00:05:18,018 (初華)「ハッ ハッ ハッ…。 54 00:05:18,018 --> 00:05:21,354 お姉ちゃん 早く~」。 55 00:05:21,354 --> 00:05:24,858 私をせかす声に顔を上げる。 56 00:05:24,858 --> 00:05:30,363 山のてっぺんに 豊川家の別荘が見えた。 57 00:05:30,363 --> 00:05:32,866 私は知っていた。 58 00:05:32,866 --> 00:05:36,369 夏には私と同じ年のめいが来る。 59 00:05:36,369 --> 00:05:39,706 教えてくれたのは母だった。 60 00:05:39,706 --> 00:05:44,044 絶対に会ってはいけない その子の名は…。 61 00:05:44,044 --> 00:05:46,213 豊川祥子。 62 00:05:46,213 --> 00:05:52,552 同じ豊川の子なのに 祝福され 幸せに暮らしている。 63 00:05:52,552 --> 00:05:55,889 なのに私は…。 64 00:05:55,889 --> 00:06:00,660 独りぼっち…。 65 00:06:00,660 --> 00:06:03,997 立ち止まってしまった私を 不思議に思ったのか➡ 66 00:06:03,997 --> 00:06:08,501 初華は私の視線の先を見て にこっと笑った。 67 00:06:08,501 --> 00:06:10,837 (初華)「おととい あそこの子と遊んだよ! 68 00:06:10,837 --> 00:06:13,173 祥ちゃん かわいかった」。 69 00:06:13,173 --> 00:06:15,508 (初音)「えっ!?」。 (初華)「祥ちゃんはね➡ 70 00:06:15,508 --> 00:06:18,011 な~んでも知ってて なんでもできて➡ 71 00:06:18,011 --> 00:06:20,680 東京のことを いっぱい話してくれて➡ 72 00:06:20,680 --> 00:06:23,183 東京でアイドルになりたい って言ったら➡ 73 00:06:23,183 --> 00:06:25,852 応援するって約束してくれたんだ。 74 00:06:25,852 --> 00:06:29,189 初音も一緒に行こうよ」。 75 00:06:29,189 --> 00:06:32,359 私は母に 決して会ってはいけないと➡ 76 00:06:32,359 --> 00:06:34,361 言い含められている。 77 00:06:34,361 --> 00:06:37,197 互いが不幸になると…。 78 00:06:37,197 --> 00:06:40,367 (初音)「行かないよ。 初華も もう行っちゃだめだよ」。 79 00:06:40,367 --> 00:06:43,203 (初華)「えっ? なんで? 変なの。 80 00:06:43,203 --> 00:06:46,072 もう遊ぶ約束しちゃったもん」。 81 00:06:49,209 --> 00:06:52,212 私に言われても聞かないだろう。 82 00:06:52,212 --> 00:06:57,217 その手につかんだお菓子は きっと祥ちゃんの分なのだ…。 83 00:06:57,217 --> 00:06:59,219 ズルい…。 84 00:06:59,219 --> 00:07:03,957 初華は祥ちゃんと何をして 遊んだか 何を話したかを➡ 85 00:07:03,957 --> 00:07:08,962 まるで記憶を共有するかのように ことこまやかに話してくれた。 86 00:07:08,962 --> 00:07:12,299 祥ちゃんに誘われ 虫取りに行ったこと。 87 00:07:12,299 --> 00:07:15,135 大きなカブトムシを捕ってあげたこと。 88 00:07:15,135 --> 00:07:19,139 でっかいクモが出てきて 2人でギャーと叫んだこと。 89 00:07:19,139 --> 00:07:25,478 夏の夜の間 私は初華から たくさんの祥ちゃんの話を聞いた。 90 00:07:25,478 --> 00:07:29,316 どんな子だろう どんな子だろう どんな子だろう。 91 00:07:29,316 --> 00:07:32,819 祥ちゃんの隣にいるのは…。 (初華と祥子の笑い声) 92 00:07:32,819 --> 00:07:35,989 初華ではなく私だと想像し…。 (初華と祥子の笑い声) 93 00:07:35,989 --> 00:07:37,991 夢みて…。 (初華と祥子の笑い声) 94 00:07:37,991 --> 00:07:42,495 初華だけズルい。 私も遊びたい。 (初華と祥子の笑い声) 95 00:07:42,495 --> 00:07:46,099 ズルい。 ズルいズルい! ズルい! 96 00:07:48,835 --> 00:07:52,005 夏休みも終わりに近づいた頃➡ 97 00:07:52,005 --> 00:07:54,341 初華が熱を出した。 98 00:07:54,341 --> 00:07:57,677 (初華)「祥ちゃんと 遊ぶ約束してたのに」。 99 00:07:57,677 --> 00:07:59,679 私だって遊びたい…。 100 00:07:59,679 --> 00:08:03,483 (初華)「明日 東京に帰っちゃう から会いたかったのに」。 101 00:08:03,483 --> 00:08:06,152 私だって会いたい! 102 00:08:06,152 --> 00:08:09,622 ハァ ハァ ハァ…。 103 00:08:11,825 --> 00:08:15,662 気付けば 別荘の前に立っていた。 104 00:08:15,662 --> 00:08:19,165 あの別荘には決して行っちゃだめ。 105 00:08:19,165 --> 00:08:23,503 静かな母の声を思い出す。 でも…。 106 00:08:23,503 --> 00:08:25,839 (瑞穂)「清告さん 来られてよかったわね」。 107 00:08:25,839 --> 00:08:28,174 (清告)「どうだった? 祥子」。 (祥子)「楽しかったですわ」。 108 00:08:28,174 --> 00:08:30,677 楽しそうな笑い声…。 109 00:08:30,677 --> 00:08:34,014 私は こんなふうに笑ったことがない。 110 00:08:34,014 --> 00:08:36,349 (祥子)「ごきげんよう」。 ハッ! 111 00:08:36,349 --> 00:08:40,520 目が合ってしまった。 思わず逃げようとしたけど。 112 00:08:40,520 --> 00:08:43,590 (祥子)「初華 今日は 何をして遊ぶんですの?」。 113 00:08:45,692 --> 00:08:49,362 私は初華じゃない。 114 00:08:49,362 --> 00:08:54,200 (祥子)「初華?」。 (初音)「私は…。 115 00:08:54,200 --> 00:08:56,536 虫を捕りに行こう。 116 00:08:56,536 --> 00:08:59,372 大きなチョウチョがいる場所 知ってるんだ」。 117 00:08:59,372 --> 00:09:02,442 私は初華の笑顔をまねた。 118 00:09:02,442 --> 00:09:06,780 そうして 一日中 祥ちゃんと遊んだ。 119 00:09:06,780 --> 00:09:09,783 初華のように 大きな声ではしゃいで➡ 120 00:09:09,783 --> 00:09:14,287 初華のように笑って 信じられないほど楽しかった。 121 00:09:14,287 --> 00:09:17,457 あっという間に夕方になった。 122 00:09:17,457 --> 00:09:20,794 (波の音) 123 00:09:20,794 --> 00:09:23,963 (初音)「明日 帰っちゃうんだよね?」。 124 00:09:23,963 --> 00:09:27,801 (祥子)「えぇ。 もっと遊びたかったけれど」。 125 00:09:27,801 --> 00:09:32,639 (初音)「じゃあ… 夜も遊ぶ?」。 126 00:09:32,639 --> 00:09:36,476 (祥子)「えっ? でも夜は怖いですわ」。 127 00:09:36,476 --> 00:09:38,478 (初音)「迎えに行くよ。 128 00:09:38,478 --> 00:09:41,781 窓を叩いたら それが合図だから」。 129 00:09:47,821 --> 00:09:52,325 ンッ。 コツン カツン。 130 00:09:52,325 --> 00:09:55,829 祥ちゃんに教えてもらった 部屋の窓をめがけて➡ 131 00:09:55,829 --> 00:09:57,831 小石を投げた。 132 00:10:01,668 --> 00:10:09,342 ンッ。 コツン カツン。 開いた窓から 祥ちゃんが見えた。 133 00:10:09,342 --> 00:10:13,046 私たちは手に手を取り合って 走りだした。 134 00:10:16,182 --> 00:10:19,018 (初音)「怖くない?」。 (祥子)「初華が一緒ですもの。 135 00:10:19,018 --> 00:10:22,689 冒険の始まりのようで ワクワクしますわね」。 136 00:10:22,689 --> 00:10:28,027 私たちは誰もいない世界を 2人だけで走り続けた。 137 00:10:28,027 --> 00:10:30,130 (祥子)「光ですわ!」。 138 00:10:32,198 --> 00:10:36,703 紺青の夜空に広がる 満天の星に声を上げる。 139 00:10:36,703 --> 00:10:41,541 (祥子)「星って こんなにたくさん あるんですのね」。 140 00:10:41,541 --> 00:10:49,048 こと座 はくちょう座 わし座 夏の大三角。 141 00:10:49,048 --> 00:10:55,889 オリオン座 さそり座 いて座 シソウヤライのナナツボシ。 142 00:10:55,889 --> 00:10:59,726 指先で星々を追う。 143 00:10:59,726 --> 00:11:02,862 2人で夜空を旅する気分だった。 144 00:11:02,862 --> 00:11:07,867 楽しい…! 心から思った。 145 00:11:07,867 --> 00:11:12,705 知っている星を全部言って 横を見ると…。 146 00:11:12,705 --> 00:11:16,543 祥ちゃんが私を見つめていた。 147 00:11:16,543 --> 00:11:19,212 (祥子)「初華は 不思議な人ですわね。 148 00:11:19,212 --> 00:11:22,048 いつもは お日様みたいに明るいのに➡ 149 00:11:22,048 --> 00:11:29,055 今日は月のように優しくて」。 (初音)「月…?」。 150 00:11:29,055 --> 00:11:32,058 光が差した。 151 00:11:32,058 --> 00:11:36,062 薄暗かった私の世界に光が満ちた。 152 00:11:36,062 --> 00:11:38,565 生まれ変わったような気がした。 153 00:11:38,565 --> 00:11:42,068 ずっとずっと照らされたかった! 154 00:11:42,068 --> 00:11:44,237 うれしかった! 155 00:11:44,237 --> 00:11:47,907 生まれてずっと 私はかわいそうな子だった! 156 00:11:47,907 --> 00:11:51,578 かわいそうなだけだった私を 人間にしてくれた! 157 00:11:51,578 --> 00:11:54,414 大好き! 優しい祥ちゃん! 158 00:11:54,414 --> 00:11:57,584 私だけの祥ちゃん! 祥ちゃん! 祥ちゃん! 159 00:11:57,584 --> 00:12:01,688 ずっと一緒に…。 (祥子)「初華はアイドルになれますわ」。 160 00:12:01,688 --> 00:12:05,858 (初音)「えっ…」。 161 00:12:05,858 --> 00:12:09,696 それは初華の夢だ。 162 00:12:09,696 --> 00:12:13,199 でも 祥ちゃんの➡ 163 00:12:13,199 --> 00:12:17,704 天の川のようにキラキラと輝く目で 見つめられたら➡ 164 00:12:17,704 --> 00:12:20,873 何も言えなくなった。 165 00:12:24,377 --> 00:12:28,381 これが秘密の始まり。 ウソつきの始まり。 166 00:12:28,381 --> 00:12:33,886 誰も知らない 知られてはいけない。 167 00:12:33,886 --> 00:12:37,557 自分で自分の首を絞めた。 168 00:12:37,557 --> 00:12:42,328 秘密を抱えた… 彼女の話。 169 00:12:44,864 --> 00:12:53,573 (雨音) 170 00:12:53,573 --> 00:12:59,579 養父が死んだ。 海から戻ってこなかった。 171 00:12:59,579 --> 00:13:03,149 私は泣き続ける初華を慰めた。 172 00:13:03,149 --> 00:13:06,486 自分はお姉ちゃんだから 泣いちゃだめだ。 173 00:13:06,486 --> 00:13:09,155 お母さんや初華を支えなきゃ。 174 00:13:09,155 --> 00:13:12,492 必死で 泣くのを我慢していたのに…。 175 00:13:12,492 --> 00:13:16,162 (初華)「初音は パパが違うから 悲しくないんだ!」。 176 00:13:16,162 --> 00:13:18,164 (雷鳴) 177 00:13:18,164 --> 00:13:20,333 (初音)「私だって パパのこと好きだった!」。 178 00:13:20,333 --> 00:13:22,502 (初華)「息が詰まるんじゃ なかったの? 179 00:13:22,502 --> 00:13:25,672 大事にしてもらっておいて 文句ばっか」。 180 00:13:25,672 --> 00:13:29,008 (初音)「自分の子どものように 育ててくれて感謝してた!」。 181 00:13:29,008 --> 00:13:32,612 (初華)「そうやって悲しんでる 自分が好きなんでしょ?」。 182 00:13:34,681 --> 00:13:38,017 (初音)「祥ちゃんに… 会いたい」。 183 00:13:38,017 --> 00:13:40,520 (初華)「かわいそうな私を 見てほしいから? 184 00:13:40,520 --> 00:13:43,690 悲劇ぶって同情集めるの 得意だよね?」。 185 00:13:43,690 --> 00:13:46,693 (初音)「違う…」。 (初華)「祥ちゃんが好き? 186 00:13:46,693 --> 00:13:50,530 本当に? 全部ウソ! ウソばっか! 187 00:13:50,530 --> 00:13:53,366 かわいそうな私 悲劇のヒロイン。 188 00:13:53,366 --> 00:13:55,535 でも幸せな子がいないと 演じられない」。 189 00:13:55,535 --> 00:13:57,537 「違う 違う 違う…」。 「祥ちゃんは悲劇の舞台装置! 190 00:13:57,537 --> 00:14:02,008 大好き!」。 「違う 違う 違う 違う 違う…。 191 00:14:02,008 --> 00:14:06,346 祥ちゃんに… 会いたい…。 192 00:14:06,346 --> 00:14:10,850 祥ちゃん 祥ちゃん 祥ちゃん 祥ちゃん 祥ちゃん 祥ちゃん➡ 193 00:14:10,850 --> 00:14:13,019 祥ちゃん…!」。 194 00:14:17,190 --> 00:14:22,028 「東京に行けば 祥ちゃんに会えるのかな」。 195 00:14:22,028 --> 00:14:24,030 (汽笛) 196 00:14:24,030 --> 00:14:28,034 その夜 私は少しばかりの荷物と➡ 197 00:14:28,034 --> 00:14:32,038 ためていたお小遣いを持って 家を出た。 198 00:14:32,038 --> 00:14:38,878 最終便のフェリーの甲板は やけに広くて寂しかった。 199 00:14:38,878 --> 00:14:42,381 冷たい夜風が耳の横でうなる中➡ 200 00:14:42,381 --> 00:14:45,218 どんどん小さくなっていく 島の影が➡ 201 00:14:45,218 --> 00:14:48,388 お葬式で 小さく背中を丸めて泣いていた➡ 202 00:14:48,388 --> 00:14:52,658 母の姿とかぶって 少し泣いた。 203 00:14:56,896 --> 00:15:00,633 東京に出てすぐ スカウトされた。 204 00:15:00,633 --> 00:15:04,303 (まな)「全国のど自慢大会5連覇の 純田まなです! 205 00:15:04,303 --> 00:15:06,639 まなと一緒にアイドルになろう!」。 206 00:15:06,639 --> 00:15:10,643 アイドルになったら 祥ちゃんに 見つけてもらえるかもしれない。 207 00:15:10,643 --> 00:15:12,645 (まな)「あなたの名前は?」。 208 00:15:12,645 --> 00:15:15,481 私じゃ… 初音じゃだめだ。 209 00:15:15,481 --> 00:15:19,986 私は祥ちゃんが知っている人間に ならなきゃ。 210 00:15:19,986 --> 00:15:24,323 (初音)「初華。 三角初華です」。 211 00:15:24,323 --> 00:15:29,829 最低。 お母さんと家族 名前まで捨てた。 212 00:15:29,829 --> 00:15:35,835 未成年の私が東京で暮らすには 親の許可が必要になる。 213 00:15:35,835 --> 00:15:41,674 豊川定治。 私は本当の父の名前を告げた。 214 00:15:41,674 --> 00:15:46,012 そうすれば また少し 祥ちゃんに 近づけるかもしれない。 215 00:15:46,012 --> 00:15:50,016 事務所の人は小さく驚いた。 216 00:15:50,016 --> 00:15:55,021 ただ どうしてそれ以上 聞かれなかったのか。 217 00:15:55,021 --> 00:15:57,857 どうして島に戻らずに済んだのか。 218 00:15:57,857 --> 00:16:01,828 このときの私は 何もわかっていなかった。 219 00:16:01,828 --> 00:16:06,666 初華になった私は sumimiとしてデビューが決まった。 220 00:16:06,666 --> 00:16:08,835 ♬(sumimiの曲) 221 00:16:08,835 --> 00:16:13,840 都心に新しく建った 大きな商業ビルのお披露目イベント。 222 00:16:13,840 --> 00:16:17,343 デビュー前の新人が立てるのが 不思議なくらいの➡ 223 00:16:17,343 --> 00:16:19,512 きらびやかなステージ。 224 00:16:19,512 --> 00:16:23,349 歌いながら見た世界は キラキラした大人ばかりで➡ 225 00:16:23,349 --> 00:16:26,185 私には縁がないように見えた。 226 00:16:26,185 --> 00:16:28,855 (sumimi) 「ありがとうございました」。 227 00:16:28,855 --> 00:16:33,693 でも 一人だけ 知っている声があった。 228 00:16:33,693 --> 00:16:38,865 豊川清告。 祥ちゃんのお父さん。 229 00:16:38,865 --> 00:16:42,368 ひっきりなしに話しかけてくる 人たちの輪から外れて➡ 230 00:16:42,368 --> 00:16:45,872 息をついているのを見かけて チャンスだと思った。 231 00:16:45,872 --> 00:16:48,541 祥ちゃんに会えるかもしれない。 232 00:16:48,541 --> 00:16:52,545 「あの 祥ちゃんのお父さんですか?」。 233 00:16:52,545 --> 00:16:55,882 島で仲よくしてもらっていた初華。 234 00:16:55,882 --> 00:16:59,051 それだけで わかってくれた。 235 00:16:59,051 --> 00:17:01,821 アイドルを目指す初華ちゃん。 236 00:17:01,821 --> 00:17:04,490 お父さんが覚えるくらい 祥ちゃんは➡ 237 00:17:04,490 --> 00:17:07,994 毎日 初華のことを 話していたらしい。 238 00:17:07,994 --> 00:17:11,831 ズキンと胸が痛くなったけど。 239 00:17:11,831 --> 00:17:15,501 「おめでとう。 夢をかなえたんだね」。 240 00:17:15,501 --> 00:17:18,671 自分のことのように喜んでくれた。 241 00:17:18,671 --> 00:17:23,843 うれしかった。 この人なら 話してもいいのかもしれない。 242 00:17:23,843 --> 00:17:28,014 私は 自分の父親のことを打ち明けた。 243 00:17:28,014 --> 00:17:31,183 デビューも力添えがあったのだと 思っている。 244 00:17:31,183 --> 00:17:33,352 その感謝を伝えてほしいと。 245 00:17:33,352 --> 00:17:36,689 それが間違いだった…。 246 00:17:36,689 --> 00:17:40,026 「それで私 祥ちゃんに会いたくて」。 247 00:17:40,026 --> 00:17:42,361 別荘に行ってはいけない。 248 00:17:42,361 --> 00:17:46,532 どうして母は私にだけ そう言ったのか。 249 00:17:46,532 --> 00:17:49,869 すべてが間違いだったのだ。 250 00:17:49,869 --> 00:17:53,039 悲劇が始まった。 251 00:17:53,039 --> 00:17:56,876 (清告)「親として 恥ずかしくないんですか!? 252 00:17:56,876 --> 00:17:59,211 あの子は 感謝してると言ったんですよ! 253 00:17:59,211 --> 00:18:01,113 認知も援助もせず➡ 254 00:18:01,113 --> 00:18:03,783 親としての責任を放棄した あなたに対して! 255 00:18:03,783 --> 00:18:07,453 今からでも遅くない。 彼女を豊川家に迎え入れるよう➡ 256 00:18:07,453 --> 00:18:09,956 今度の親族会議で 進言するべきです」。 257 00:18:09,956 --> 00:18:12,291 (定治)「誠実ぶるのも ほどほどにしろ。 258 00:18:12,291 --> 00:18:15,294 豊川の人間に知れたら 我々どころか➡ 259 00:18:15,294 --> 00:18:18,798 祥子にも累が及ぶぞ」。 「うっ…」。 260 00:18:18,798 --> 00:18:22,301 「初音にも 二度と豊川に近づかぬよう➡ 261 00:18:22,301 --> 00:18:25,137 よく言い聞かせておく」。 「ですが!」。 262 00:18:25,137 --> 00:18:28,307 「お前は豊川の家の恐ろしさを 知らぬのだ」。 263 00:18:28,307 --> 00:18:30,309 「あっ うっ…」。 264 00:18:30,309 --> 00:18:33,646 (定治)「今のは 聞かなかったことにしてやる。 265 00:18:33,646 --> 00:18:38,150 祥子が大事なら口を閉じていろ」。 266 00:18:40,486 --> 00:18:46,993 祥ちゃんのお父さんは 私のせいですべてを失った…。 267 00:18:46,993 --> 00:18:49,996 違う! 祥ちゃんから奪ったんだ! 268 00:18:49,996 --> 00:18:52,832 私が祥ちゃんから お父さんを! 269 00:18:52,832 --> 00:18:55,501 生まれ育った大きな家を! 270 00:18:55,501 --> 00:18:57,837 人生を奪ってしまった! 271 00:18:57,837 --> 00:19:00,973 こんなことになるなんて 思ってなかった! 272 00:19:00,973 --> 00:19:06,145 うっ うっ… ただ 会いたくて…。 273 00:19:06,145 --> 00:19:09,315 会いたかった…。 274 00:19:09,315 --> 00:19:13,652 昨日まで住んでいた家の 玄関よりも狭い家。 275 00:19:13,652 --> 00:19:19,992 家計を助けるために 働いて 働いて 働いて 働いて…。 276 00:19:19,992 --> 00:19:26,832 家族も友達も笑顔も 全部 奪ってしまった。 277 00:19:26,832 --> 00:19:29,835 それなのに…。 278 00:19:29,835 --> 00:19:33,339 「えっ バンド? わかった いいよ」。 279 00:19:33,339 --> 00:19:35,341 だめなのに…。 280 00:19:35,341 --> 00:19:37,343 「祥ちゃんの頼みだもん。 281 00:19:37,343 --> 00:19:39,345 やっぱり私の家に来て。 282 00:19:39,345 --> 00:19:41,347 ずっといていいから。 283 00:19:41,347 --> 00:19:44,350 ずっと 一緒にいるから…」。 284 00:19:44,350 --> 00:19:46,352 だめなのに…。 285 00:19:46,352 --> 00:19:48,688 「運命共同体かぁ。 286 00:19:48,688 --> 00:19:51,857 ずっと ここにいていいから。 287 00:19:51,857 --> 00:19:53,859 Mujicaがなくなっても➡ 288 00:19:53,859 --> 00:19:58,030 一緒に いてくれる? 289 00:19:58,030 --> 00:20:01,534 Ave Mujicaやろう。 ずっと一緒にいよう」。 290 00:20:01,534 --> 00:20:04,870 だめなのに…。 291 00:20:04,870 --> 00:20:10,543 そんなことを言ってまで 祥ちゃんをだまし続ける自分が…。 292 00:20:10,543 --> 00:20:13,546 気持ち悪い…。 293 00:20:13,546 --> 00:20:15,815 (本の落ちる音) 294 00:20:22,021 --> 00:20:25,524 (定治)初音 帰りなさい。 295 00:20:25,524 --> 00:20:27,626 えっ? 296 00:20:34,366 --> 00:20:36,535 (定治)もう初音には会うな。 297 00:20:36,535 --> 00:20:40,372 学校も行く必要はない。 えっ! 298 00:20:40,372 --> 00:20:44,210 スイスだ。 手続きが終わるまで 家から出るな。 299 00:20:44,210 --> 00:20:47,546 あっ…。 300 00:20:47,546 --> 00:21:01,660 ♬~ 301 00:21:01,660 --> 00:21:03,829 (玄関ドアの閉まる音) 302 00:21:03,829 --> 00:21:15,341 (電話の発信音) 303 00:21:15,341 --> 00:21:18,844 初華 どうして出てくれないんですの。 304 00:21:21,680 --> 00:21:25,184 初華…。 305 00:21:25,184 --> 00:21:27,887 📱(バイブ音) 306 00:21:27,887 --> 00:21:29,889 ハッ! 初華ですの! 307 00:21:29,889 --> 00:21:32,725 📱(海鈴)豊川さん 三角さん 今日の練習すっぽかすなんて➡ 308 00:21:32,725 --> 00:21:34,727 どうしたんです!? えっ? 309 00:21:34,727 --> 00:21:36,729 (海鈴)Ave Mujicaの練習ですよ! 310 00:21:36,729 --> 00:21:39,231 連絡もなしに こういうの やめてほしいんですよ! 311 00:21:39,231 --> 00:21:41,233 トラウマなんですよ! 312 00:21:41,233 --> 00:21:43,235 📱いったい私の 何が悪かったんですか!? 313 00:21:43,235 --> 00:21:46,071 📱ここに来て まだ信用してくれないんですか!? 314 00:21:46,071 --> 00:21:48,407 📱三角さんに至っては 連絡も取れない。 315 00:21:48,407 --> 00:21:50,376 📱学校にも来ない! あっ! 316 00:21:50,376 --> 00:21:52,378 📱お宅に伺ったら ポストに➡ 317 00:21:52,378 --> 00:21:54,380 1週間前のタウン情報誌が 入ったままだった…。 318 00:21:54,380 --> 00:22:04,890 (波の音)