1 00:00:01,668 --> 00:00:05,105 僕は生活さえできれば十分満足です。 2 00:00:05,105 --> 00:00:08,008 他に何も望みません。 3 00:00:08,008 --> 00:00:10,677 (親方)ちょっと待て。 4 00:00:10,677 --> 00:00:14,181 じゃあなんで アストロラーベを捨てねぇんだ? 5 00:00:18,018 --> 00:00:21,588 いつか 売ろうと思って…。 6 00:00:21,588 --> 00:00:26,827 さっき お前の数値に合わせて パンを焼くと言ったが➡ 7 00:00:26,827 --> 00:00:29,696 実は嘘だ。 え? 8 00:00:29,696 --> 00:00:36,503 本当は お前が出した数より 少しだけ品質の高い物を作ってる。 9 00:00:36,503 --> 00:00:42,042 細やかな配合 ふるいの掛け方で 味は変わる。 10 00:00:42,042 --> 00:00:46,747 当局にバレねぇように 値段より良い物を出そうとしてる。 11 00:00:48,515 --> 00:00:51,518 なんで そんな危険を冒してるかわかるか? 12 00:00:53,754 --> 00:00:56,323 パンを焼くのが好きだからだ。 13 00:00:56,323 --> 00:00:59,559 もちろん 食ってもらうのも。 14 00:00:59,559 --> 00:01:03,897 だがな お前はそうじゃないだろ。 15 00:01:03,897 --> 00:01:07,601 生活さえできれば十分満足? 16 00:01:07,601 --> 00:01:10,370 そりゃ最低の嘘だぜ。 17 00:01:10,370 --> 00:01:13,974 俺にじゃなく 自分に吐いてる嘘だからだ。 18 00:01:15,809 --> 00:01:19,913 昔 お前の父親に聞いた。 っ! 19 00:01:19,913 --> 00:01:22,482 どっかのいつかの賢人の➡ 20 00:01:22,482 --> 00:01:27,721 ソクラテスだかアリストなんちゃらだかが 言ってたらしいな。 21 00:01:27,721 --> 00:01:31,425 すべてのモンには“アレテー”があるって。 22 00:01:31,425 --> 00:01:37,164 「自分の得意なこと 自分にしかできないこと」だっけ? 23 00:01:37,164 --> 00:01:40,067 鳥のアレテーは飛ぶこと➡ 24 00:01:40,067 --> 00:01:43,503 椅子のアレテーは座られること。 25 00:01:43,503 --> 00:01:49,109 その賢人たち曰く 人間のアレテーは 考えることだってな。 26 00:01:50,844 --> 00:01:56,283 それに則りゃ 俺のアレテーはパンを焼くことだ。 27 00:01:56,283 --> 00:01:58,485 じゃあ お前のは? 28 00:02:00,220 --> 00:02:03,890 アリストなんちゃらは こうも考えたらしいな。 29 00:02:03,890 --> 00:02:09,196 人は自分の特性を活かしてる時が 一番幸福だと。 30 00:02:10,664 --> 00:02:15,302 趣味ってのは 神様が与えてくださった使命だ。 31 00:02:15,302 --> 00:02:18,271 自分が自分でいられる場所だ。 32 00:02:18,271 --> 00:02:22,943 だから隠すな。 若いうちくらい 浸れ。 ⚟(ドアが開く音) 33 00:02:22,943 --> 00:02:26,279 誰も文句はねぇよ。 でも…。 34 00:02:26,279 --> 00:02:30,150 いや 今のはちょっと違うな。 35 00:02:30,150 --> 00:02:32,819 けっこう文句あるかもしれねぇが➡ 36 00:02:32,819 --> 00:02:36,490 関係ない。 進め。 37 00:02:36,490 --> 00:02:39,292 ま 後は任せる。 38 00:02:42,295 --> 00:02:44,631 ⚟(ドアが閉まる音) 39 00:02:44,631 --> 00:03:07,320 ♬~ 40 00:03:07,320 --> 00:03:09,456 っ…。 41 00:03:09,456 --> 00:03:12,793 (震える息) 42 00:03:12,793 --> 00:03:19,199 ♬~ 43 00:03:22,469 --> 00:03:27,274 ♬「何度でも 何度でも叫ぶ」 44 00:03:27,274 --> 00:03:35,415 ♬「この暗い夜の怪獣になっても」 45 00:03:35,415 --> 00:03:41,121 ♬「ここに残しておきたいんだよ」 46 00:03:41,121 --> 00:03:43,123 ♬「この秘密を」 47 00:03:45,959 --> 00:03:49,830 ♬「だんだん食べる」 48 00:03:49,830 --> 00:03:56,603 ♬「赤と青の星々 未来から過去を」 49 00:03:56,603 --> 00:04:00,440 ♬「順々に食べる」 50 00:04:00,440 --> 00:04:08,315 ♬「何十回も噛み潰し 溶けたなら飲もう」 51 00:04:08,315 --> 00:04:13,019 ♬「丘の上で星を見ると」 52 00:04:13,019 --> 00:04:19,159 ♬「感じるこの寂しさも」 53 00:04:19,159 --> 00:04:21,795 ♬「朝焼けで」 54 00:04:21,795 --> 00:04:28,568 ♬「手が染まる頃にはもう忘れてるんだ」 55 00:04:28,568 --> 00:04:35,876 ♬「この世界は好都合に未完成」 56 00:04:35,876 --> 00:04:38,779 ♬「だから知りたいんだ」 57 00:04:38,779 --> 00:04:46,419 ♬「でも怪獣みたいに遠く遠く叫んでも」 58 00:04:46,419 --> 00:04:50,223 ♬「また消えてしまうんだ」 59 00:04:52,225 --> 00:04:54,795 (親方)おーい アルベルト。 60 00:04:54,795 --> 00:04:57,998 ここの教会に パン届けに行ってくれ。 61 00:04:57,998 --> 00:05:00,867 いつもの所と違うんですか? 62 00:05:00,867 --> 00:05:05,772 あぁ。 この前そこの新しい司祭様と 知り合ってな。 63 00:05:05,772 --> 00:05:09,042 今度届けるって約束したんだ。 64 00:05:09,042 --> 00:05:11,645 そう遠くないし 頼んだぞ。 65 00:05:11,645 --> 00:05:13,647 わかりました。 66 00:05:21,655 --> 00:05:23,657 ここか…。 67 00:05:28,061 --> 00:05:30,697 すいませーん。 68 00:05:30,697 --> 00:05:32,699 (ドアが閉まる音) 69 00:05:35,669 --> 00:05:37,671 誰もいない…。 70 00:05:39,472 --> 00:05:41,808 ん… あ…。 71 00:05:41,808 --> 00:06:05,031 ♬~ 72 00:06:05,031 --> 00:06:07,934 あぁ… ん…。 73 00:06:07,934 --> 00:06:16,443 ♬~ 74 00:06:16,443 --> 00:06:20,247 ようこそ 告解室へ。 っ…。 75 00:06:20,247 --> 00:06:26,486 ⚟私はここの司祭。 踏み入れた貴方の勇気を歓迎します。 76 00:06:26,486 --> 00:06:29,389 え… 告解室? 77 00:06:29,389 --> 00:06:35,328 ⚟はい。 その名のとおり 悩める者の罪の告白を聞き入れ➡ 78 00:06:35,328 --> 00:06:40,033 神に取り次ぎ 赦しと和解を与えます。 79 00:06:40,033 --> 00:06:44,471 い いわゆる「赦しの秘跡」ですか…。 80 00:06:44,471 --> 00:06:48,775 でも こんな個室でやるの 見たことないですが…。 81 00:06:48,775 --> 00:06:51,745 ⚟えぇ 新しいと思います。➡ 82 00:06:51,745 --> 00:06:55,482 でも今後 こういうのが流行ると思います。 83 00:06:55,482 --> 00:06:58,285 <なんか軽いな…> 84 00:06:58,285 --> 00:07:02,055 では 罪を告白してください。 85 00:07:02,055 --> 00:07:05,759 あっ い いや 僕はここにパンを届けに来ただけで。 86 00:07:05,759 --> 00:07:07,694 ⚟遠慮せずに。➡ 87 00:07:07,694 --> 00:07:11,564 もしや 私が信用できませんか? 88 00:07:11,564 --> 00:07:13,967 えぇ まァ…。 89 00:07:13,967 --> 00:07:18,438 顔も見てないし 妙にグイグイくるし…。 90 00:07:18,438 --> 00:07:22,075 正直 全然信用はできないですが…。 91 00:07:22,075 --> 00:07:25,979 ⚟悲しい驚きです。 でも確かに➡ 92 00:07:25,979 --> 00:07:30,784 初めての利用者で 私もちょっと 緊張しまくってたかもしれません。 93 00:07:30,784 --> 00:07:33,687 <緊張しまくってたのか…> 94 00:07:33,687 --> 00:07:36,623 ⚟でも せっかくの機会です。➡ 95 00:07:36,623 --> 00:07:39,626 何か一つくらい 悩みがあったりしませんか? 96 00:07:41,394 --> 00:07:43,997 …まァ 一つぐらい。 97 00:07:43,997 --> 00:07:46,366 ⚟なんです? 98 00:07:46,366 --> 00:07:49,669 大学へ行け と言われたことですかね。 99 00:07:51,237 --> 00:07:54,708 ⚟行きたくないのですか? えぇ。 100 00:07:54,708 --> 00:07:56,743 ⚟何故? 101 00:07:56,743 --> 00:07:59,212 聖書にも書いてあるでしょ。 102 00:07:59,212 --> 00:08:03,783 端的に言って 知りたいって欲望はクソだ。 103 00:08:03,783 --> 00:08:07,120 ⚟…そう言うには何か訳が? 104 00:08:07,120 --> 00:08:09,622 …忘れたいことです。 105 00:08:09,622 --> 00:08:12,525 じゃ パン置いて帰ります。 106 00:08:12,525 --> 00:08:17,764 ⚟では まだ 忘れられてないということですね。➡ 107 00:08:17,764 --> 00:08:21,334 どうでしょう。 一人で言いにくいのなら➡ 108 00:08:21,334 --> 00:08:26,473 後で私も 誰にも打ち明けてない悩みを 告白します。➡ 109 00:08:26,473 --> 00:08:29,876 だから 貴方も話してみては?➡ 110 00:08:29,876 --> 00:08:34,280 時として 語ることが何よりの慰めになる。 111 00:08:37,917 --> 00:08:40,920 …まァ じゃあ。 112 00:08:44,991 --> 00:08:47,494 暇だし いいか。 113 00:08:54,100 --> 00:08:56,770 ⚟ではまず ご出身は? 114 00:08:56,770 --> 00:09:00,940 遠くの村です。 ⚟ほう。 どちらで? 115 00:09:00,940 --> 00:09:04,177 ブルゼヴォ…という所です。 116 00:09:04,177 --> 00:09:06,112 ⚟なるほど。 117 00:09:06,112 --> 00:09:11,051 僕はそこで 自由農民の息子として生まれました。 118 00:09:11,051 --> 00:09:16,189 母は… 僕が幼い頃 死んだ。 119 00:09:16,189 --> 00:09:20,093 以来 父の男手一つで育ちました。 120 00:09:20,093 --> 00:09:23,496 ⚟その幼少期に… 何かが? 121 00:09:25,865 --> 00:09:30,136 父は 学ぶのを重んじる人でした。 122 00:09:30,136 --> 00:09:33,106 父から何度も言われたことがある。 123 00:09:33,106 --> 00:09:36,476 今でも諳んじられる。 124 00:09:36,476 --> 00:09:42,048 「息子よ 私たちは苦しい生活を強いられてる。➡ 125 00:09:42,048 --> 00:09:47,754 しかし この世には もっと苦しんでる人が大勢いる。➡ 126 00:09:47,754 --> 00:09:52,058 我々農民に勉強など不必要だと 言われるだろう。➡ 127 00:09:52,058 --> 00:09:54,794 しかしそれは違う。➡ 128 00:09:54,794 --> 00:09:58,298 一人一人が賢くなり 協力すれば➡ 129 00:09:58,298 --> 00:10:04,704 きっといつか 誰も苦しまず みんなが豊かに暮らせる日が来る。➡ 130 00:10:04,704 --> 00:10:08,975 そのために学ぶのだ」――と。 131 00:10:08,975 --> 00:10:15,715 そんな態度を珍しがった村の偉い方に 父は運良く気に入られてた。 132 00:10:15,715 --> 00:10:20,120 普通じゃ触れられないような本も 読ませてもらってて➡ 133 00:10:20,120 --> 00:10:24,924 もらえる文献は 分野問わず持って帰ってきてた。 134 00:10:24,924 --> 00:10:29,295 あの時の父は それがすべての元凶になるなんて➡ 135 00:10:29,295 --> 00:10:32,699 想像もしてなかったでしょう。 136 00:10:32,699 --> 00:10:38,271 …まァ その影響で 僕も早くから文字を学んでた。 137 00:10:38,271 --> 00:10:41,641 それからアストロラーベまで家にあって➡ 138 00:10:41,641 --> 00:10:45,311 毎晩 観測記録まがいのことをしてた。 139 00:10:45,311 --> 00:10:48,715 ⚟天体観測が 好きだったのですか。 140 00:10:51,985 --> 00:10:54,687 えぇ。 昔は。 141 00:10:57,824 --> 00:11:02,762 あのころは 取り憑かれたように夜空を見てた。 142 00:11:02,762 --> 00:11:07,233 飽きずにバカみたいに毎晩眺めてた。 143 00:11:07,233 --> 00:11:09,802 理由は説明できないけど➡ 144 00:11:09,802 --> 00:11:13,473 何か… 心が動く気がした。 145 00:11:13,473 --> 00:11:17,043 っ… あ…! 146 00:11:17,043 --> 00:11:20,813 父さん! 驚くべき発見をしました!! 147 00:11:20,813 --> 00:11:22,749 なんだ。 148 00:11:22,749 --> 00:11:28,054 北に… 真上に ずっと動かない星があるんです! 149 00:11:28,054 --> 00:11:31,925 そうか。 それは 北極星という星だ。 150 00:11:31,925 --> 00:11:34,827 北極星…! 151 00:11:34,827 --> 00:11:37,230 では息子よ。 152 00:11:37,230 --> 00:11:40,199 その発見は なんの役に立つ? 153 00:11:40,199 --> 00:11:42,802 え…。 154 00:11:42,802 --> 00:11:46,506 例えば あの星は動かない。 155 00:11:46,506 --> 00:11:51,844 だから方角を知る時 非常に役立つ空の地図になる。 156 00:11:51,844 --> 00:11:57,517 このように 発見は何かの役に立って 初めて意味がある。 157 00:11:57,517 --> 00:12:00,019 そうでなければムダだ。 158 00:12:00,019 --> 00:12:02,689 常にそれを心がけるといい。 159 00:12:02,689 --> 00:12:04,657 あ…。 160 00:12:04,657 --> 00:12:06,960 しかし➡ 161 00:12:06,960 --> 00:12:10,897 よく見つけたぞ 息子よ。 よくやった。 162 00:12:10,897 --> 00:12:12,899 あ…! 163 00:12:14,701 --> 00:12:17,036 お前は学ぶのは好きか? 164 00:12:17,036 --> 00:12:20,440 はい 父さん。 何が知りたい? 165 00:12:24,110 --> 00:12:26,713 何って… 全部です。 166 00:12:29,082 --> 00:12:31,851 夜空を見る度に驚くんです。 167 00:12:31,851 --> 00:12:34,487 なんで空に星がついてるのか➡ 168 00:12:34,487 --> 00:12:36,923 なんで夜だけ現れるのか➡ 169 00:12:36,923 --> 00:12:39,492 幾つあるのか どこにあるのか。 170 00:12:39,492 --> 00:12:42,128 いつからあるのか いつまであるのか➡ 171 00:12:42,128 --> 00:12:46,799 そもそも星ってなんなのか! 山ほど知りたいです! 172 00:12:46,799 --> 00:12:49,335 では 何故知りたい? 173 00:12:49,335 --> 00:12:51,337 え…。 174 00:12:54,107 --> 00:12:57,744 それは わかりません…。 175 00:12:57,744 --> 00:13:00,647 でも 心で感じるんです。 176 00:13:00,647 --> 00:13:03,049 知りたい って。 177 00:13:03,049 --> 00:13:05,685 自分の欲望ということかな? 178 00:13:05,685 --> 00:13:07,654 えっ? 179 00:13:07,654 --> 00:13:09,889 息子よ。 180 00:13:09,889 --> 00:13:14,694 この先 何かを学ぶ時 知りたいと感じた時➡ 181 00:13:14,694 --> 00:13:17,297 これだけは覚えていてくれ。 182 00:13:19,532 --> 00:13:22,468 疑うのだ。 183 00:13:22,468 --> 00:13:25,772 自分の知識も世界の常識も➡ 184 00:13:25,772 --> 00:13:28,608 動機も方法も。 185 00:13:28,608 --> 00:13:31,811 探究心は歯止めがきかなくなる。 186 00:13:31,811 --> 00:13:34,714 世界を決定的に変えてしまう➡ 187 00:13:34,714 --> 00:13:40,386 取り返しのつかない怪物を 作り出してしまうかもしれない。 188 00:13:40,386 --> 00:13:47,160 だから ゆっくり疑って 人の役に立たない道なら止まるべきだ。 189 00:13:47,160 --> 00:13:49,495 っ…。 190 00:13:49,495 --> 00:13:52,699 それでも学びたいと願うなら➡ 191 00:13:52,699 --> 00:13:55,601 お前に特別に家庭教師をつけよう。 192 00:13:55,601 --> 00:13:58,838 あっ! ホ ホントですか⁉ 193 00:13:58,838 --> 00:14:04,010 あぁ。 これは誰にでも 与えられるものじゃない。 194 00:14:04,010 --> 00:14:07,246 しっかり神に感謝しなさい。 195 00:14:07,246 --> 00:14:09,248 は…! 196 00:14:11,784 --> 00:14:15,288 そうして僕は出会ったんです。 197 00:14:15,288 --> 00:14:17,990 先生に。 198 00:14:17,990 --> 00:14:20,026 (父)アルベルト。 199 00:14:20,026 --> 00:14:24,831 こちらが以前話した お前の家庭教師をしてくださる――。 200 00:14:27,667 --> 00:14:30,169 ラファウ先生だ。 201 00:14:42,181 --> 00:14:44,917 うーん。 惜しいね。 202 00:14:44,917 --> 00:14:47,286 ちょっと難しかったかな。 203 00:14:47,286 --> 00:14:49,222 んっ…。 204 00:14:49,222 --> 00:14:54,026 よし じゃあ 一旦休憩しようか。 はっ はい。 205 00:14:56,963 --> 00:15:00,666 そういえば 部屋にアストロラーベがあったけど➡ 206 00:15:00,666 --> 00:15:02,602 星を見るのかい? 207 00:15:02,602 --> 00:15:07,240 あ はい。 一応 毎日記録をつけてます。 208 00:15:07,240 --> 00:15:11,744 それはいい。 先生も星を見るの好きですか? 209 00:15:11,744 --> 00:15:14,380 …いや 好きとかじゃない。 210 00:15:14,380 --> 00:15:16,382 え。 211 00:15:19,252 --> 00:15:21,654 愛してる。 212 00:15:23,856 --> 00:15:29,462 僕は生まれが少々特殊でね 親がいなかったんだ。 213 00:15:29,462 --> 00:15:35,201 幸運にも 学者さんに拾ってもらえて 裕福な生活を送れたけど➡ 214 00:15:35,201 --> 00:15:38,871 寂しくなかったと言えば嘘になる。 215 00:15:38,871 --> 00:15:43,743 そんな自分を 夜空は救ってくれたんだ。 216 00:15:43,743 --> 00:15:49,382 というのもね ある時眺めてたら ふと気付いたんだ。 217 00:15:49,382 --> 00:15:54,387 僕たちの 住んでる世界の“外”が存在することに。 218 00:15:56,622 --> 00:15:58,958 僕たちは一人じゃない。 219 00:15:58,958 --> 00:16:02,228 その感覚にワクワクした。 んっ…。 220 00:16:02,228 --> 00:16:06,432 (ラファウ) そして それらはすべて同じ空にある。 221 00:16:06,432 --> 00:16:10,269 つまりみんなきっと 一つの大きな何か➡ 222 00:16:10,269 --> 00:16:13,673 真理と呼べる何かによって繋がってる。 223 00:16:15,475 --> 00:16:18,778 それを知るために生きようと思ったね。 224 00:16:18,778 --> 00:16:20,780 あ…。 225 00:16:22,448 --> 00:16:25,351 でも… 僕は…。 ん…? 226 00:16:25,351 --> 00:16:29,222 僕は そんな大きな目標はなくて…。 227 00:16:29,222 --> 00:16:35,061 というか 僕のつけてる記録は なんの目的もなくて。 228 00:16:35,061 --> 00:16:39,966 人を助けるわけじゃないし 信仰の役にも立たない。 229 00:16:39,966 --> 00:16:43,402 だから… 無意味なんです。 230 00:16:43,402 --> 00:16:47,707 無意味… では なんで毎日記録を? 231 00:16:47,707 --> 00:16:51,577 いや… それがわからなくて。 232 00:16:51,577 --> 00:16:54,780 ただ 知りたくて…。 233 00:16:54,780 --> 00:16:59,919 でも そんな自分勝手な気持ちじゃ ダメというか…。 234 00:16:59,919 --> 00:17:03,456 アルベルト君。 あの射手座を見てごらん。 235 00:17:03,456 --> 00:17:05,491 ん… あ…。 236 00:17:05,491 --> 00:17:08,427 射手座? なんですか それ。 237 00:17:08,427 --> 00:17:12,098 星座を知らないで記録を取ってたのか…。 238 00:17:12,098 --> 00:17:15,067 子供ながらの胆力だな。 239 00:17:15,067 --> 00:17:17,870 じゃ 指を追ってくれ。 240 00:17:20,439 --> 00:17:23,276 あそこが頭で…。 241 00:17:23,276 --> 00:17:25,344 あそこが弓…。 242 00:17:25,344 --> 00:17:28,047 ここが胴で…。 243 00:17:28,047 --> 00:17:31,751 最後はここに 足の線を引くと――。 244 00:17:39,725 --> 00:17:44,864 どうだい? 弓を持つケンタウロスに 見えなくもないだろ? 245 00:17:44,864 --> 00:17:46,799 …いや? 246 00:17:46,799 --> 00:17:49,268 ハハハッ 見えないか。 247 00:17:49,268 --> 00:17:51,237 確かにムリヤリだよね。 248 00:17:51,237 --> 00:17:54,106 す すいません。 249 00:17:54,106 --> 00:17:58,511 でも 形は覚えやすくなったろ? 250 00:17:58,511 --> 00:18:01,514 無秩序な情報に線を引く。 251 00:18:01,514 --> 00:18:06,118 すると 今まで見えてなかったものが 見えてくる。 252 00:18:11,090 --> 00:18:17,330 こんなことが起こせるなんて 僕らの理性はどうなってるんだろうね。 253 00:18:17,330 --> 00:18:22,234 遠い昔 ギリシャで 星座と神話が結びついた。 254 00:18:22,234 --> 00:18:25,938 それぞれの星座に様々な逸話があるけど➡ 255 00:18:25,938 --> 00:18:31,210 射手座はケンタウロス族の賢者 ケイローンとされてる。 256 00:18:31,210 --> 00:18:34,113 賢者とは探求者だ。 257 00:18:34,113 --> 00:18:36,382 どんな苦難にも折れず➡ 258 00:18:36,382 --> 00:18:40,686 普遍的な真理に 情熱的に迫ろうとする。 259 00:18:40,686 --> 00:18:44,623 君も その気持ちがわからないかい? 260 00:18:44,623 --> 00:18:48,427 夜空を見ると感じるだろ。 261 00:18:48,427 --> 00:18:50,830 タウマゼインを。 262 00:18:52,698 --> 00:18:54,967 タウマゼイン? 263 00:18:54,967 --> 00:18:58,804 あぁ。 それは古代の哲学者曰く➡ 264 00:18:58,804 --> 00:19:03,209 知的探求の原始にある驚異。 265 00:19:03,209 --> 00:19:05,745 簡単に言い換えると➡ 266 00:19:05,745 --> 00:19:09,949 この世の美しさに痺れる肉体のこと。 267 00:19:09,949 --> 00:19:15,321 そして その 美しさに近づきたいと願う精神のこと。 268 00:19:15,321 --> 00:19:17,957 つまり――。 269 00:19:17,957 --> 00:19:20,860 「ん?」と 感じること。 270 00:19:23,662 --> 00:19:29,435 神がこの世界を創り 人はそれを知りたいと願った。 271 00:19:29,435 --> 00:19:33,039 これ以上に尊い欲望を僕は知らない。 272 00:19:34,674 --> 00:19:40,279 この成功のためだったら どんなことも厭わない。 273 00:19:40,279 --> 00:19:43,482 たとえそれが命だったとしても。 274 00:19:45,117 --> 00:19:47,119 (喉を鳴らして飲む音) 275 00:19:48,988 --> 00:19:51,090 平気で投げる。 276 00:19:54,493 --> 00:19:58,264 君は 悩んでると言ったね。 277 00:19:58,264 --> 00:20:02,768 自分のやってることが なんの役に立つかわからない。 278 00:20:02,768 --> 00:20:07,239 そして自分が ただ漠然と 知りたいと思ってることが➡ 279 00:20:07,239 --> 00:20:11,610 無意味だとも ダメだとも言った。 280 00:20:11,610 --> 00:20:16,449 それに対して 僕は今から 極めて不適切な発言をするけど――。 281 00:20:16,449 --> 00:20:18,384 っ…。 282 00:20:18,384 --> 00:20:24,824 知の探求が人や社会の役に立たなければ いけないなんて発想は クソだ。 283 00:20:24,824 --> 00:20:26,759 っ!! 284 00:20:26,759 --> 00:20:31,297 知りたいからやる。 それだけだよ。 285 00:20:31,297 --> 00:20:36,502 そしてね アルベルト君。 これだけは覚えていてくれ。 286 00:20:36,502 --> 00:20:40,506 真理の探求において 最も重要なことだ。 287 00:20:42,241 --> 00:20:44,543 信じろ。 288 00:20:46,545 --> 00:20:51,517 自分の直感を。 この世の美しさを。 289 00:20:51,517 --> 00:20:57,189 僕は何があろうと 君の好奇心を否定しない。 290 00:20:57,189 --> 00:20:59,191 は…。 291 00:21:01,026 --> 00:21:04,997 話しすぎたね。 さ 次の勉強に移ろう。 292 00:21:04,997 --> 00:21:07,366 次は代数だったかな。 293 00:21:07,366 --> 00:21:09,301 あの…。 ん…。 294 00:21:09,301 --> 00:21:13,272 せ 星座って他にもあるんですか? 295 00:21:13,272 --> 00:21:17,076 一体いくつ… どんな種類か…。 296 00:21:17,076 --> 00:21:20,379 もしよかったら今度 教えてもらえませんか? 297 00:21:22,515 --> 00:21:25,184 あぁ もちろん。 298 00:21:25,184 --> 00:21:27,786 あ…! 299 00:21:27,786 --> 00:21:30,289 (ラファウ)驚いた…! 300 00:21:30,289 --> 00:21:34,260 いや 随分上達してきたね。 目覚ましいよ。 301 00:21:34,260 --> 00:21:37,163 求積法まで お手のものじゃないか。 302 00:21:37,163 --> 00:21:40,533 …どうも。 303 00:21:40,533 --> 00:21:43,269 何かきっかけが? 304 00:21:43,269 --> 00:21:47,173 いや… なんというか…。 305 00:21:47,173 --> 00:21:51,744 先生の話を聞いて 数の操り方を知れば➡ 306 00:21:51,744 --> 00:21:55,614 宇宙の神秘にまで迫れると知って…。 307 00:21:55,614 --> 00:22:00,286 そう考えたら俄然 やる気が出てきたというか…。 308 00:22:00,286 --> 00:22:02,855 素晴らしい。 309 00:22:02,855 --> 00:22:06,759 実はね 明日 ちょっとした集まりがあるんだ。 310 00:22:06,759 --> 00:22:09,728 同じ志を持った者が集う。 311 00:22:09,728 --> 00:22:11,730 ん…? 312 00:22:13,499 --> 00:22:18,037 会の信条は“真理の自由な探求”だ。 313 00:22:18,037 --> 00:22:23,776 そこでは 分野を問わず 様々な議論や意見交換が行われる。 314 00:22:23,776 --> 00:22:29,081 大声では言えないような 危険な思考実験も提案できる➡ 315 00:22:29,081 --> 00:22:31,784 とても刺激的な場だよ。 316 00:22:33,485 --> 00:22:38,624 どうかな。 君はとても若いけど 資質は十分に見える。 317 00:22:38,624 --> 00:22:40,726 会に参加してみないかい? 318 00:22:42,428 --> 00:22:45,264 え⁉ いいんですか? 319 00:22:45,264 --> 00:22:47,633 ぜ ぜひ行きたいです! 320 00:22:47,633 --> 00:22:50,536 そうか 嬉しいよ。 321 00:22:50,536 --> 00:22:54,406 わぁ…! じゃ お父様にも伝えておこう。 322 00:22:54,406 --> 00:22:56,642 楽しみにしててくれ。 323 00:22:56,642 --> 00:22:59,545 (アルベルト)はい! 324 00:22:59,545 --> 00:23:01,480 (人々の声) 325 00:23:01,480 --> 00:23:03,515 こ ここが…。 326 00:23:03,515 --> 00:23:05,784 (人々の声) 327 00:23:05,784 --> 00:23:08,587 (ラファウ)あぁ。 328 00:23:08,587 --> 00:23:12,458 ブラフマグプタが起こした 革新的な事件は なんと言っても…。 329 00:23:12,458 --> 00:23:15,794 「ヒサーブ・アル=ジャブル・ワル=ムカーバラ」の 翻訳を読んだのだけれど…。 330 00:23:15,794 --> 00:23:19,665 私が思うに エーテルの正体は 第五元素というよりも…。 331 00:23:19,665 --> 00:23:26,038 (人々の声) 332 00:23:26,038 --> 00:23:28,140 はぁ…! 333 00:23:29,975 --> 00:23:35,381 ♬「行方知らずの あの雲を見た」 334 00:23:35,381 --> 00:23:40,986 ♬「わたしの鱗はあなたに似ていた」 335 00:23:40,986 --> 00:23:46,525 ♬「舌は二つ、 まぶたは眠らず」 336 00:23:46,525 --> 00:23:53,065 ♬「ぼやけたよもぎの 香りがする」 337 00:23:53,065 --> 00:24:03,275 ♬~ 338 00:24:03,275 --> 00:24:08,881 ♬「行方知らずの あの雲の下」 339 00:24:08,881 --> 00:24:14,453 ♬「わたしの心は 火の粉に似ていた」 340 00:24:14,453 --> 00:24:20,225 ♬「靴はいらず、 耳は知らず」 341 00:24:20,225 --> 00:24:23,929 ♬「あなたの 寝息を聞く」 342 00:24:25,698 --> 00:24:31,570 ♬「ブルーベルのベッドを滑った 春みたいだ」 343 00:24:31,570 --> 00:24:36,875 ♬「シジュウカラはあんな風に歌うのか」 344 00:24:36,875 --> 00:24:43,515 ♬「海を知らず、花を愛でず、 空を仰ぐわたしは」 345 00:24:43,515 --> 00:24:47,820 ♬「また巫山の雲を見たいだけ」 346 00:24:47,820 --> 00:24:57,329 ♬~ 347 00:25:01,233 --> 00:25:03,168 やらせてもらいにゃす! 348 00:25:03,168 --> 00:25:04,269 江戸中期 歌麿や写楽らを世に送り出し➡