1 00:01:43,004 --> 00:01:46,374 昔むかし 山奥の村に 仲のいい→ 2 00:01:46,374 --> 00:01:49,510 爺さんと婆さんが 暮らしていました。 3 00:01:49,510 --> 00:01:52,814 ある日 婆さんが 裏の川へ洗濯へ行くと→ 4 00:01:52,814 --> 00:01:57,735 川上から ぷかぷかと 白い箱が流れてきた。 5 00:01:57,735 --> 00:02:01,205 婆さんは その白い箱を拾い上げた。 6 00:02:01,205 --> 00:02:04,805 すると 白い箱が ガタガタと動いた。 7 00:02:06,828 --> 00:02:10,014 おそるおそる 箱のフタを取ると→ 8 00:02:10,014 --> 00:02:13,968 なんとまぁ 中から 白い子犬が出てきた。 9 00:02:13,968 --> 00:02:18,005 よしよし 早速 爺さんに見せてやろう。 10 00:02:18,005 --> 00:02:23,794 婆さんは 嬉しそうに 川で 子犬を拾った話をした。 11 00:02:23,794 --> 00:02:26,013 婆さんや 婆さん→ 12 00:02:26,013 --> 00:02:28,616 かわいい子犬じゃないけ。 ワン! 13 00:02:28,616 --> 00:02:31,485 爺さんと婆さんは 大事に育て→ 14 00:02:31,485 --> 00:02:34,672 子犬は だんだん大きくなっていった。 15 00:02:34,672 --> 00:02:38,292 爺さんと婆さんは その犬を 白と名づけた。 16 00:02:38,292 --> 00:02:41,812 ある日 爺さんが 野良仕事をしていると→ 17 00:02:41,812 --> 00:02:43,798 白が ものを言った。 18 00:02:43,798 --> 00:02:46,851 (白)爺さん 爺さん おれに鞍をつけなさい。 19 00:02:46,851 --> 00:02:50,004 かわいい お前に 鞍など つけられるかい。 20 00:02:50,004 --> 00:02:52,974 かまわんから つけなさい。 21 00:02:52,974 --> 00:02:55,009 鞍を つけてやると…。 22 00:02:55,009 --> 00:02:58,479 爺さん 爺さん おれに カマスをつけなさい。 23 00:02:58,479 --> 00:03:01,165 そして 鍬をつけなさい。 24 00:03:01,165 --> 00:03:04,669 白は 鞍とカマスと 鍬を背負って歩きはじめ→ 25 00:03:04,669 --> 00:03:06,637 振り返ると…。 26 00:03:06,637 --> 00:03:08,689 おれのあとから ついてきなさい。 27 00:03:08,689 --> 00:03:10,858 と 山へ入っていった。 28 00:03:10,858 --> 00:03:13,995 爺さんが しばらく あとをついていくと→ 29 00:03:13,995 --> 00:03:16,013 白は立ち止まり…。 30 00:03:16,013 --> 00:03:18,399 爺さん ここ掘れ ワンワン! 31 00:03:18,399 --> 00:03:21,335 爺さんは 言われるままに掘り始めた。 32 00:03:21,335 --> 00:03:24,221 さて 掘ってみると…。 33 00:03:24,221 --> 00:03:28,159 大判小判が わき出すように出てきた。 34 00:03:28,159 --> 00:03:32,580 そ~れ 大判小判を カマスに詰めて おれにつけなさい。 35 00:03:32,580 --> 00:03:36,634 かわいい お前につけられるかい。 おらが かついでいく。 36 00:03:36,634 --> 00:03:39,203 かまわんから おれにつけなさい。 37 00:03:39,203 --> 00:03:42,623 爺さんが しかたなくそうすると…。 38 00:03:42,623 --> 00:03:45,676 爺さん爺さん おれの上に乗んなさい。 39 00:03:45,676 --> 00:03:48,362 かわいいお前に 乗れるかい。 40 00:03:48,362 --> 00:03:50,298 かまわんから 乗りなさい。 41 00:03:50,298 --> 00:03:54,135 白は 爺さんと カマスいっぱいの 大判小判を背に乗せて→ 42 00:03:54,135 --> 00:03:56,337 山を下っていった。 43 00:03:56,337 --> 00:04:00,291 帰った爺さんが 大判小判を 土間に広げていると→ 44 00:04:00,291 --> 00:04:03,311 隣の婆さんが 火を借りにきた。 45 00:04:03,311 --> 00:04:05,513 何じゃ それは! 46 00:04:05,513 --> 00:04:08,950 その大判小判は いったい どこから持ってきたんじゃ! 47 00:04:08,950 --> 00:04:12,303 爺さんは 白が 大判小判を掘り当てた話を→ 48 00:04:12,303 --> 00:04:14,338 聞かせてやった。 49 00:04:14,338 --> 00:04:18,726 そんな ええ犬なら おれのところへも一日 貸せ! 50 00:04:18,726 --> 00:04:21,662 と言うので 白を貸してやった。 51 00:04:21,662 --> 00:04:25,166 爺さん爺さん おれに カマスをつけなさい。 52 00:04:25,166 --> 00:04:30,504 お前につけようと カマスも鍬も 鞍だって借りてきてある。 53 00:04:30,504 --> 00:04:35,126 白は 隣の爺さんを背に乗せて 山へ入っていった。 54 00:04:35,126 --> 00:04:37,828 しばらく行くと 白は立ち止まって→ 55 00:04:37,828 --> 00:04:39,814 地面をクンクン嗅いだ。 56 00:04:39,814 --> 00:04:41,832 ここを掘りなさい。 57 00:04:41,832 --> 00:04:46,787 よし 大判じゃ 小判じゃ! 大判じゃ 小判じゃ! 58 00:04:46,787 --> 00:04:49,173 大判じゃ 小判じゃ!! 59 00:04:49,173 --> 00:04:52,343 ひゃ~! 何じゃ こりゃ! 60 00:04:52,343 --> 00:04:55,963 爺さんが掘った穴からは たくさんのムカデ 毒虫 カエル。 61 00:04:55,963 --> 00:04:58,516 果ては 大蛇まで 嫌なものばかり。 62 00:04:58,516 --> 00:05:03,454 今に爺さんが カマスいっぱいの 大判小判を取ってくるんじゃな! 63 00:05:03,454 --> 00:05:07,174 と 爺さんの帰りを 待ちわびていた。 64 00:05:07,174 --> 00:05:11,495 不機嫌な顔をした爺さんは 何も持たずに帰ってきた。 65 00:05:11,495 --> 00:05:14,665 爺さん爺さん 犬は どうしなさった? 66 00:05:14,665 --> 00:05:18,536 ああ ろくでもねえもの 掘らせたんで こらしめてやった! 67 00:05:18,536 --> 00:05:22,840 白を貸した婆さんは 心配して訪ねてきた。 68 00:05:22,840 --> 00:05:25,192 隣の爺さんは 怒りのおさまらぬ顔で→ 69 00:05:25,192 --> 00:05:28,512 山で起こったことを 話して聞かせた。 70 00:05:28,512 --> 00:05:31,499 そんで 白を土に埋めたのか? 71 00:05:31,499 --> 00:05:35,002 なんという かわいそうなことをしなさった。 72 00:05:35,002 --> 00:05:37,671 次の日 話を聞いた爺さんは→ 73 00:05:37,671 --> 00:05:41,959 白が埋められたという木を 探しにいった。 74 00:05:41,959 --> 00:05:45,496 爺さんが 木の前で 手をあわせて拝むと→ 75 00:05:45,496 --> 00:05:49,784 木は みるみる大きくなった。 76 00:05:49,784 --> 00:05:52,970 爺さんは これを 白の形見だと思って→ 77 00:05:52,970 --> 00:05:56,457 太くなった幹を切って 臼をこしらえた。 78 00:05:56,457 --> 00:05:59,627 この臼で餅をつくと 驚いたことに→ 79 00:05:59,627 --> 00:06:01,996 大判小判が溢れ出た。 80 00:06:01,996 --> 00:06:06,067 そこへ また隣の婆さんが 火を借りにきて→ 81 00:06:06,067 --> 00:06:07,985 大判小判を見てしまった! 82 00:06:07,985 --> 00:06:10,821 そんなに たくさんのカネを どこから持ってきた!? 83 00:06:10,821 --> 00:06:13,457 話を聞いた婆さんは…。 84 00:06:13,457 --> 00:06:15,826 「1日 その臼を貸してくれや」。 85 00:06:15,826 --> 00:06:17,828 と言って 持っていった。 86 00:06:17,828 --> 00:06:20,815 今度こそ 大判小判を出してくれ。 87 00:06:20,815 --> 00:06:25,619 と 大判小判と念仏でも つぶやくように臼をついた。 88 00:06:25,619 --> 00:06:28,789 ところが… 借りてきた臼からは→ 89 00:06:28,789 --> 00:06:31,008 爺さんめがけて馬のクソ。 90 00:06:31,008 --> 00:06:33,661 婆さんめがけて牛のクソ! 91 00:06:33,661 --> 00:06:35,663 この臼め! 92 00:06:35,663 --> 00:06:38,115 と言いながら まさかりで叩き割って→ 93 00:06:38,115 --> 00:06:40,835 かまどの中に くべてしまった。 94 00:06:40,835 --> 00:06:44,839 臼を取りに来た爺さんに 隣の爺さんは→ 95 00:06:44,839 --> 00:06:48,626 臼が クソをひり出したので 燃やしてしまった話をした。 96 00:06:48,626 --> 00:06:51,345 何ということをしてくれたんだ。 97 00:06:51,345 --> 00:06:54,799 あの臼は かわいい白の 形見じゃったのに…。 98 00:06:54,799 --> 00:06:56,784 と言って たいそう悲しんだ。 99 00:06:56,784 --> 00:06:58,836 そして かまどの中から→ 100 00:06:58,836 --> 00:07:02,456 臼の灰を ザルいっぱいに 持って帰っていった。 101 00:07:02,456 --> 00:07:04,475 爺さんと婆さんは→ 102 00:07:04,475 --> 00:07:07,011 ザルいっぱいの灰を 目の前に置いて→ 103 00:07:07,011 --> 00:07:08,996 白を懐かしんだ。 104 00:07:08,996 --> 00:07:14,168 箱の中で しっぽ振る姿 めんこかったなぁ。 105 00:07:14,168 --> 00:07:16,654 この灰 何としますかい。 106 00:07:16,654 --> 00:07:20,254 白が走り回った庭に まいてやるかい。 107 00:07:25,012 --> 00:07:29,466 爺さんが灰をまくと 庭の木の枯れ枝という枯れ枝に→ 108 00:07:29,466 --> 00:07:32,336 花の芽が生え出した。 更にまくと→ 109 00:07:32,336 --> 00:07:34,288 枝に つぼみがつき始め→ 110 00:07:34,288 --> 00:07:37,258 もう ひとまきすると花が咲いた。 111 00:07:37,258 --> 00:07:39,660 爺さんは 子供にかえったように→ 112 00:07:39,660 --> 00:07:42,129 おもしろがって 灰をまいた。 113 00:07:42,129 --> 00:07:46,167 と そこへ 立派な身なりの侍が通りかかった。 114 00:07:46,167 --> 00:07:48,836 爺よ そこで何をしている? 115 00:07:48,836 --> 00:07:52,456 枯れ木に 花を咲かせている ところでございます。 116 00:07:52,456 --> 00:07:56,393 では 爺よ あの桜にも 花を咲かせてみせよ。 117 00:07:56,393 --> 00:07:59,446 爺さんは 桜の木に登り→ 118 00:07:59,446 --> 00:08:03,167 灰をひと振り ふた振りまいた。 119 00:08:03,167 --> 00:08:05,619 珍しいものを見せてもらった。 120 00:08:05,619 --> 00:08:07,621 と言って 爺さんの家に→ 121 00:08:07,621 --> 00:08:10,674 たくさんの褒美のカネを 置いていった。 122 00:08:10,674 --> 00:08:14,695 その後 隣の爺さんも たっぷりつかんだ灰を→ 123 00:08:14,695 --> 00:08:16,730 侍の前で まいて見せた。 124 00:08:16,730 --> 00:08:19,350 だが 灰は風に舞い上げられて→ 125 00:08:19,350 --> 00:08:21,869 侍の目に入ってしまい→ 126 00:08:21,869 --> 00:08:24,004 きつい お咎めを受けた。 127 00:08:24,004 --> 00:08:26,340 仲のよい爺さんと婆さんは→ 128 00:08:26,340 --> 00:08:30,211 少し残った 臼の灰を埋めて 白の墓を作った。 129 00:08:30,211 --> 00:08:32,546 そして 白の供養をしながら→ 130 00:08:42,823 --> 00:08:46,477 昔むかし 旅の商人がいました。 131 00:08:46,477 --> 00:08:51,165 商人は 旅の途中で やはり 旅商いの男と出会い→ 132 00:08:51,165 --> 00:08:53,117 なんとなく ウマが合ったので→ 133 00:08:53,117 --> 00:08:55,786 連れだって 旅をすることになった。 134 00:08:55,786 --> 00:08:58,155 街道を歩きに歩いた2人は→ 135 00:08:58,155 --> 00:09:01,755 道端の木陰で ひと休みすることにした。 136 00:09:03,978 --> 00:09:06,347 今日も 商いはさっぱりじゃ。 137 00:09:06,347 --> 00:09:08,932 このまま不景気で 物が売れねえと→ 138 00:09:08,932 --> 00:09:11,301 2人とも 行き倒れじゃ。 139 00:09:11,301 --> 00:09:14,171 連れの年上の男は ため息をついた。 140 00:09:14,171 --> 00:09:17,224 なぁに カネは天下の回りものじゃ。 141 00:09:17,224 --> 00:09:19,143 そのうち 回ってくるわい。 142 00:09:19,143 --> 00:09:22,112 おらぁ いずれ ひと所に腰を落ち着けて…。 143 00:09:22,112 --> 00:09:26,150 若いほうの男が 将来の夢を語ろうとすると…。 144 00:09:26,150 --> 00:09:29,653 ふわぁ~ おら 眠とうなった。 145 00:09:29,653 --> 00:09:32,706 そうかい。 眠たかったら 寝たがいいし。 146 00:09:32,706 --> 00:09:36,810 と言ったと思うと はや いびきをかき始めた。 147 00:09:36,810 --> 00:09:40,397 あれ なんと また早く寝たもんだ。 148 00:09:40,397 --> 00:09:44,651 年上の男の寝顔をのぞき込んで ギョッとなった。 149 00:09:44,651 --> 00:09:49,039 鼻の穴を 1匹のアブが出入りしていたのだ。 150 00:09:49,039 --> 00:09:52,126 アブは 年上の男の鼻から出ると→ 151 00:09:52,126 --> 00:09:54,428 海のほうへ 飛んでいった。 152 00:09:54,428 --> 00:09:57,281 変わったこともあるもんじゃ。 153 00:09:57,281 --> 00:09:59,983 若いほうの男が そう思っていると→ 154 00:09:59,983 --> 00:10:02,636 また さっきのアブが戻ってきて→ 155 00:10:02,636 --> 00:10:05,136 男の鼻の中に入ってしまった。 156 00:10:07,141 --> 00:10:11,945 ふわ~ わしは今 変な夢見たよ。 と言った。 157 00:10:11,945 --> 00:10:13,981 ほう? どんな夢を見たんじゃ? 158 00:10:13,981 --> 00:10:18,469 と聞くと年上の男は 不思議そうに語り始めた。 159 00:10:18,469 --> 00:10:21,638 まんずな ここで眠っとったら→ 160 00:10:21,638 --> 00:10:24,541 そのうち どんどん 体が浮かんでいってな→ 161 00:10:24,541 --> 00:10:26,560 気がつくと街道を外れて→ 162 00:10:26,560 --> 00:10:29,763 田んぼや畑を見下ろしながら 飛んでおった。 163 00:10:29,763 --> 00:10:33,984 そんで 浜に出てのう 海の向こうに島が見えてな→ 164 00:10:33,984 --> 00:10:37,871 わしは 飛び続けて その島に着いたんじゃ。 165 00:10:37,871 --> 00:10:40,491 島の岩山をいくつも越え→ 166 00:10:40,491 --> 00:10:44,111 深い森を過ぎると 大きな長者の屋敷が見えたんで→ 167 00:10:44,111 --> 00:10:46,146 下りていったんじゃ。 168 00:10:46,146 --> 00:10:49,149 広い庭に 白い椿の花が咲いておって→ 169 00:10:49,149 --> 00:10:51,935 わしゃ その方に 吸い寄せられていった。 170 00:10:51,935 --> 00:10:56,140 そしたら いつの間にか 地面の中に入っておった。 171 00:10:56,140 --> 00:10:58,108 そこには 大きな瓶があって→ 172 00:10:58,108 --> 00:11:01,562 割れ目から まぶしい光がもれていた。 173 00:11:01,562 --> 00:11:04,648 中には 黄金が ぎっしり詰まっていた。 174 00:11:04,648 --> 00:11:08,168 わしゃ喜んだが 息が苦しくなってきた。 175 00:11:08,168 --> 00:11:10,821 黄金は惜しいが 息ができんのが辛うて→ 176 00:11:10,821 --> 00:11:13,640 もうたくさんだと思ったんじゃ。 177 00:11:13,640 --> 00:11:17,528 すると 何かに 引き戻されるように地面を出て→ 178 00:11:17,528 --> 00:11:22,149 これまで見てきた景色のなかを どんどん戻り始めた。 179 00:11:22,149 --> 00:11:24,485 そして 目が覚めたんじゃ。 180 00:11:24,485 --> 00:11:28,155 《この男が あのアブの体を借りて→ 181 00:11:28,155 --> 00:11:32,643 本当に長者の家で 黄金の瓶を見たに違えねえ》 182 00:11:32,643 --> 00:11:36,613 売ってくれ! どうか おらにその夢 売ってくれ! 183 00:11:36,613 --> 00:11:41,268 若いほうの男は 年上の男に すがるように頼みこんだ。 184 00:11:41,268 --> 00:11:43,470 夢など買って 何とするつもりじゃ。 185 00:11:43,470 --> 00:11:46,490 何でもいいから その夢売ってくれ! 186 00:11:46,490 --> 00:11:48,775 と 一歩も退かない。 187 00:11:48,775 --> 00:11:51,962 夢を売れといって いくらで買う気じゃ。 188 00:11:51,962 --> 00:11:54,448 若いほうの男は 考えたすえ。 189 00:11:54,448 --> 00:11:57,134 100でどうじゃ? と言った。 190 00:11:57,134 --> 00:12:02,306 年上の男は 若いほうの男が 本気だと知って またあきれたが→ 191 00:12:02,306 --> 00:12:05,809 一方で商売っ気も出てきて。 192 00:12:05,809 --> 00:12:10,814 この夢は 並みの夢より上等な夢じゃで→ 193 00:12:10,814 --> 00:12:13,150 500と言いてえところだが→ 194 00:12:13,150 --> 00:12:17,304 他ならぬあんたのことじゃから 大まけにまけて 300じゃな。 195 00:12:17,304 --> 00:12:19,690 買った! という具合に→ 196 00:12:19,690 --> 00:12:24,278 年上の男の夢は 若いほうの男のものになった。 197 00:12:24,278 --> 00:12:28,148 若いほうの男は 年上の男と別れると→ 198 00:12:28,148 --> 00:12:33,153 年上の男の夢に出てきた 島を求めて海を渡った。 199 00:12:33,153 --> 00:12:38,425 そして 島の中を探しまわり 長者の屋敷を探し当てた。 200 00:12:38,425 --> 00:12:42,362 男は ボロをまとって 長者の屋敷の門を叩いた。 201 00:12:42,362 --> 00:12:45,782 おらは 仕事がなくて 流れてきた者だが→ 202 00:12:45,782 --> 00:12:50,204 何でもするから 使ってもらえねえべか? 203 00:12:50,204 --> 00:12:54,124 ちょうど庭掃きが ほしいと思っていたところだ。 204 00:12:54,124 --> 00:12:56,424 しっかり働いてくれよ。 205 00:12:58,495 --> 00:13:01,515 男は 庭掃きの仕事に 精を出しながら→ 206 00:13:01,515 --> 00:13:04,115 椿の花の咲く春を待った。 207 00:13:07,471 --> 00:13:12,276 厳しい寒さの冬も過ぎ 待ちに待った春がきた。 208 00:13:12,276 --> 00:13:16,313 庭いっぱいに花が咲き乱れ 椿の花も咲いたが→ 209 00:13:16,313 --> 00:13:22,469 どうしたことか赤い花ばかりで 白い花は 1つも咲かなかった。 210 00:13:22,469 --> 00:13:25,355 男は それでも 気を落とすことなく→ 211 00:13:25,355 --> 00:13:28,125 次の春を待って庭掃きに励み→ 212 00:13:28,125 --> 00:13:31,995 花を植え替えたり 新たに植えたりもして→ 213 00:13:31,995 --> 00:13:36,817 長く放っておかれた庭を 丁寧に手入れした。 214 00:13:36,817 --> 00:13:39,486 そして 二度目の冬がやってきた。 215 00:13:39,486 --> 00:13:41,438 植え替えた椿のなかには→ 216 00:13:41,438 --> 00:13:44,374 冬のうちに 花を咲かせる木もあった。 217 00:13:44,374 --> 00:13:47,861 男は 赤い花でも 椿が咲いたのが嬉しくて→ 218 00:13:47,861 --> 00:13:51,361 ある朝 積もった雪を そっと払ってやった。 219 00:13:53,300 --> 00:13:55,319 すると 驚いたことに→ 220 00:13:55,319 --> 00:13:58,388 雪をかぶっていた椿は 真っ白い花だった。 221 00:13:58,388 --> 00:14:01,388 この木の下に黄金の瓶が…。 222 00:14:05,495 --> 00:14:08,765 その夜遅く 男は こっそり起きだし→ 223 00:14:08,765 --> 00:14:12,486 かじかむ手で白い椿の 根っこのそばを掘ってみた。 224 00:14:12,486 --> 00:14:16,440 けれども瓶は 出てこなかった。 225 00:14:16,440 --> 00:14:19,609 男は夢を信じて 更に深く掘ってみたが→ 226 00:14:19,609 --> 00:14:22,095 何も出てこない。 227 00:14:22,095 --> 00:14:26,149 こんなことしてたら 凍えて死んでしまう。 228 00:14:26,149 --> 00:14:30,470 と あきらめかけたとき 指先にコツンと当たるものがあった。 229 00:14:30,470 --> 00:14:32,606 これだ! これに違えねえ。 230 00:14:32,606 --> 00:14:37,060 男は掘り当てた瓶のフタを おそるおそる取ってみると→ 231 00:14:37,060 --> 00:14:42,099 目もくらむような黄金が ぎっしり詰まっていた。 232 00:14:42,099 --> 00:14:44,117 旦那さま! 233 00:14:44,117 --> 00:14:48,255 男は目を覚ました旦那さまに 街道で夢を買ったことから→ 234 00:14:48,255 --> 00:14:50,557 これまでをすべて話した。 235 00:14:50,557 --> 00:14:53,410 不思議なこともあるものだ。 236 00:14:53,410 --> 00:14:56,480 旦那さまは夢の話に たいそう驚いた。 237 00:14:56,480 --> 00:14:58,765 しかし もっと驚いたのは→ 238 00:14:58,765 --> 00:15:03,020 男が正直に 瓶のことを話したことじゃった。 239 00:15:03,020 --> 00:15:07,657 瓶の黄金は旦那さまが 取り上げても当然だったが→ 240 00:15:07,657 --> 00:15:11,912 旦那さまは 男に 黄金の半分を分けてやった。 241 00:15:11,912 --> 00:15:15,065 男はそれを元手に商売を始め→ 242 00:15:15,065 --> 00:15:18,135 やがて 元手の何倍も稼ぎ→ 243 00:15:18,135 --> 00:15:22,835 自分も指折りの長者になった ということでした。 244 00:15:24,858 --> 00:15:28,458 その屋号を夢やといった。 245 00:15:42,425 --> 00:15:48,031 昔むかし 村はずれの一軒家に 1人のお婆さんがいました。 246 00:15:48,031 --> 00:15:51,851 お婆さんは何年か前に お爺さんを亡くしてから→ 247 00:15:51,851 --> 00:15:54,721 ずっと1人で暮らしていました。 248 00:15:54,721 --> 00:15:57,757 今に おらも行くから 待っててけろ。 249 00:15:57,757 --> 00:16:00,860 お婆さんは お爺さんを亡くしてから→ 250 00:16:00,860 --> 00:16:05,582 毎日まいにち お線香をあげては 手を合わせていた。 251 00:16:05,582 --> 00:16:10,220 あぁ おらにも お経というものが読めたらな。 252 00:16:10,220 --> 00:16:14,357 それは月もかすむ 春の宵のことでした。 253 00:16:14,357 --> 00:16:16,526 ごめん。 254 00:16:16,526 --> 00:16:19,979 家の戸口に 1人の願人坊主がやってきた。 255 00:16:19,979 --> 00:16:22,932 願人坊主というのは願をかけて→ 256 00:16:22,932 --> 00:16:26,553 諸国を旅しているというては 銭や食い物をねだる→ 257 00:16:26,553 --> 00:16:30,874 まぁ 物乞いのようなものだ。 258 00:16:30,874 --> 00:16:33,710 そんなことは知らぬ お婆さん。 259 00:16:33,710 --> 00:16:37,013 こりゃ お坊様 何のご用で? 260 00:16:37,013 --> 00:16:41,401 うむ 拙僧 修行の身にて 諸国を旅しておるが→ 261 00:16:41,401 --> 00:16:44,220 道に迷うて夜が更けてしもうた。 262 00:16:44,220 --> 00:16:48,108 今宵 一夜 泊めてはもらえぬだろうか。 263 00:16:48,108 --> 00:16:50,276 それはそれは難儀なことで。 264 00:16:50,276 --> 00:16:54,076 あばら屋ではございますが どうぞ お泊まりください。 265 00:16:57,050 --> 00:16:59,702 このようなものしか ございませんが→ 266 00:16:59,702 --> 00:17:03,456 どうぞ お召し上がりを。 かたじけない。 267 00:17:03,456 --> 00:17:07,360 こりゃついている いい家に泊まったものだと→ 268 00:17:07,360 --> 00:17:12,932 お坊さんは大喜び ガツガツと 飯を食らい酒まで馳走になって→ 269 00:17:12,932 --> 00:17:18,688 いい気持 あとは温かい布団で 寝るだけと思ったのだが…。 270 00:17:18,688 --> 00:17:22,275 ところでお坊さま。 何じゃな? 271 00:17:22,275 --> 00:17:25,195 おらは お経というものを知りませぬ。 272 00:17:25,195 --> 00:17:29,782 どうか ありがたいお経を 教えてもらえねえもんじゃろうか。 273 00:17:29,782 --> 00:17:32,385 お経とな。 はい。 274 00:17:32,385 --> 00:17:34,454 う~ん。 275 00:17:34,454 --> 00:17:38,725 このお坊さん 実はお経など 一つも知らなかった。 276 00:17:38,725 --> 00:17:40,677 あの世に行った爺さまのために→ 277 00:17:40,677 --> 00:17:44,697 ぜひとも お経を あげてやりたいのでございます。 278 00:17:44,697 --> 00:17:49,269 むむ… さようか。 お願いしますだ。 279 00:17:49,269 --> 00:17:51,387 世話になった婆さまが→ 280 00:17:51,387 --> 00:17:54,374 そのように申されるならばな。 どうか。 281 00:17:54,374 --> 00:17:58,728 飯食って酒まで飲んで 今更 逃げ出すわけにもいかない。 282 00:17:58,728 --> 00:18:02,949 お願いいたしますだ。 むむ では…。 283 00:18:02,949 --> 00:18:06,035 どうにも引っ込みが つかなくなって お坊さん。 284 00:18:06,035 --> 00:18:09,205 仕方なく仏壇の前で手を合わせる。 285 00:18:09,205 --> 00:18:11,708 お坊さまの後を 真似しますので→ 286 00:18:11,708 --> 00:18:15,011 どうかお願いしますだ。 むむ。 287 00:18:15,011 --> 00:18:18,064 さぁ どうしよう… なんとか お経らしいことを…。 288 00:18:18,064 --> 00:18:20,049 う~。 289 00:18:20,049 --> 00:18:22,051 とりあえず うなってみるか。 290 00:18:22,051 --> 00:18:24,053 うう~ う~。 291 00:18:24,053 --> 00:18:26,039 すると そこに ちょろちょろっと→ 292 00:18:26,039 --> 00:18:28,541 1匹のネズミが 出てきた。 そこで…。 293 00:18:28,541 --> 00:18:31,594 おんちょろちょろ 出てこられそわか。 294 00:18:31,594 --> 00:18:35,515 と お経らしく唱えてみた。 後ろで お婆さんも…。 295 00:18:35,515 --> 00:18:38,401 おんちょろちょろ 出てこられそわか。 296 00:18:38,401 --> 00:18:40,403 けど あとが続かない。 297 00:18:40,403 --> 00:18:42,455 うう~ う~。 298 00:18:42,455 --> 00:18:45,558 うなっていると ネズミが 穴を覗いている。 299 00:18:45,558 --> 00:18:48,077 おんちょろちょろ 穴覗きそわか。 300 00:18:48,077 --> 00:18:50,697 と 唱えた。 後ろで お婆さんも…。 301 00:18:50,697 --> 00:18:53,516 おんちょろちょろ 穴覗きそわか。 302 00:18:53,516 --> 00:18:56,519 チュ~ チュ~ チュ~。 303 00:18:56,519 --> 00:19:00,556 おんちょろちょろ 何やら ささやき申し候。 304 00:19:00,556 --> 00:19:02,558 後ろで お婆さんも…。 305 00:19:02,558 --> 00:19:05,578 おんちょろちょろ 何やら ささやき申し候。 306 00:19:05,578 --> 00:19:08,731 今度は ネズミが ちょろちょろと逃げていく。 307 00:19:08,731 --> 00:19:12,018 おんちょろちょろ 出ていかれ候。 308 00:19:12,018 --> 00:19:14,020 後ろで お婆さんも…。 309 00:19:14,020 --> 00:19:16,039 おんちょろちょろ 出ていかれ候。 310 00:19:16,039 --> 00:19:19,559 こんなもんで いいだろう。 お坊さん ホッとして…。 311 00:19:19,559 --> 00:19:21,511 いかがであったかな? 312 00:19:21,511 --> 00:19:25,081 はぁ~ こりゃ なんというお経で ございますだ? 313 00:19:25,081 --> 00:19:27,100 これか? これはな その…。 314 00:19:27,100 --> 00:19:32,005 そう… ネズミ経と申す ありがた~い お経だ。 315 00:19:32,005 --> 00:19:36,059 これを 毎日 唱えれば 爺さんも きっと喜ぼう。 316 00:19:36,059 --> 00:19:38,511 ありがとう ごぜえますだ~。 317 00:19:38,511 --> 00:19:41,714 どうにか その場を取り繕った お坊さん。 318 00:19:41,714 --> 00:19:44,217 その晩は あったかい布団に ありつき→ 319 00:19:44,217 --> 00:19:48,688 翌朝 お婆さんに見送られて 去っていった。 320 00:19:48,688 --> 00:19:52,058 それからというもの お婆さんは 毎朝毎晩→ 321 00:19:52,058 --> 00:19:56,062 おんちょろちょろの お経を ありがたそうに唱えていた。 322 00:19:56,062 --> 00:20:00,667 季節は巡り また 同じような 春の宵のことでした。 323 00:20:00,667 --> 00:20:05,138 1人の盗っ人が 村はずれの一軒家に 目をつけた。 324 00:20:05,138 --> 00:20:10,026 盗っ人は そ~っと お婆さんの家に近づいていった。 325 00:20:10,026 --> 00:20:12,061 すると 中から…。 326 00:20:12,061 --> 00:20:15,064 おんちょろちょろ 出てこられそわか。 327 00:20:15,064 --> 00:20:17,000 と お婆さんの声が聞こえてきた。 328 00:20:17,000 --> 00:20:19,719 自分のことかと びっくりした盗っ人が→ 329 00:20:19,719 --> 00:20:22,388 壁の透き間から 家の中を覗くと…。 330 00:20:22,388 --> 00:20:24,724 おんちょろちょろ 穴覗きそわか。 331 00:20:24,724 --> 00:20:26,776 と お婆さんが唱える。 332 00:20:26,776 --> 00:20:28,695 どうして おれのことが…!? 333 00:20:28,695 --> 00:20:30,697 思わず 声に出しちゃった。 すると…。 334 00:20:30,697 --> 00:20:34,717 おんちょろちょろ 何やら ささやき申し候。 335 00:20:34,717 --> 00:20:37,704 こりゃ かなわん。 この婆さん なんでも お見通しだ。 336 00:20:37,704 --> 00:20:40,340 そ~っと その場から 立ち去ろうとすると→ 337 00:20:40,340 --> 00:20:42,342 まるで 追いかけるように…。 338 00:20:42,342 --> 00:20:45,094 おんちょろちょろ 出ていかれ候。 339 00:20:45,094 --> 00:20:48,094 いかん! 盗む前に 捕まってしまう! 340 00:20:49,999 --> 00:20:53,386 やれやれ… 恐ろしい婆さんだ。 341 00:20:53,386 --> 00:20:55,388 しかし どうして…。 342 00:20:55,388 --> 00:20:57,790 お婆さんの家を 振り返ったとき→ 343 00:20:57,790 --> 00:21:00,043 盗っ人は ようやく思い出した。 344 00:21:00,043 --> 00:21:04,013 あ… あれは おれが デタラメを教えた経…! 345 00:21:04,013 --> 00:21:10,053 あの夜のことが まざまざと 思い出された…。 346 00:21:10,053 --> 00:21:13,689 そうか… あれから婆さん あの経を…。 347 00:21:13,689 --> 00:21:16,042 すまねえことを したな…。 348 00:21:16,042 --> 00:21:19,045 そっと お婆さんの家に 手を合わせると→ 349 00:21:19,045 --> 00:21:22,999 そのまま とぼとぼと どこかへ去っていった。 350 00:21:22,999 --> 00:21:27,086 それから 何年か月日の経った 桜の花の咲く頃のこと。 351 00:21:27,086 --> 00:21:29,105 ごめん。 352 00:21:29,105 --> 00:21:31,023 お婆さんの 家の戸口に→ 353 00:21:31,023 --> 00:21:33,409 立派な袈裟を着た お坊さんが 立った。 354 00:21:33,409 --> 00:21:36,012 これは これは 立派な お坊様。 355 00:21:36,012 --> 00:21:39,332 このような家に 何の ご用で ございましょうか? 356 00:21:39,332 --> 00:21:43,052 拙僧は かつて この家で世話になった者。 357 00:21:43,052 --> 00:21:45,721 だが 悔いの残ることが あるによって→ 358 00:21:45,721 --> 00:21:49,892 御仏の導きにより そなたに 経を伝えにきた。 359 00:21:49,892 --> 00:21:53,346 それは それは ありがたいことで ござりまする。 360 00:21:53,346 --> 00:21:55,381 立派な お坊さんは→ 361 00:21:55,381 --> 00:21:58,918 ありがたい 本物のお経を お婆さんに教えると…。 362 00:21:58,918 --> 00:22:00,920 さらばじゃ。 363 00:22:00,920 --> 00:22:04,557 風のように 去っていったという。 364 00:22:04,557 --> 00:22:08,094 実は この お坊さんは 盗っ人にまで 身をやつした→ 365 00:22:08,094 --> 00:22:10,113 かつての 願人坊主であった。 366 00:22:10,113 --> 00:22:12,515 あれから 悔い改め修行を積み→ 367 00:22:12,515 --> 00:22:16,235 今は 立派な お坊さんになった 姿であったという。 368 00:22:16,235 --> 00:22:20,339 けれども お婆さんは そのことに 気づかなかった。 369 00:22:20,339 --> 00:22:22,692 ただ ありがたい お経を 教えてもらったと→ 370 00:22:22,692 --> 00:22:26,813 毎朝毎晩 一心に 仏壇に向かって唱えていた。 371 00:22:26,813 --> 00:22:28,714 けれども その終わりには…。 372 00:22:28,714 --> 00:22:31,100 おんちょろちょろ おんちょろちょろ。 373 00:22:31,100 --> 00:22:35,100 やっぱり あの言葉で シメていたそうだ。