1 00:01:43,240 --> 00:01:46,780 昔むかし 村はずれのある浜に→ 2 00:01:46,780 --> 00:01:51,060 浦島太郎という 若い漁師がいた。 3 00:01:51,060 --> 00:01:53,800 人の家も まばらなこの浜で→ 4 00:01:53,800 --> 00:01:56,670 太郎は 腕のいい漁師であった。 5 00:01:56,670 --> 00:02:00,240 でも本当は 漁をするより 海の魚のようになれたら→ 6 00:02:00,240 --> 00:02:03,110 どんなに楽しいだろう と思っていた。 7 00:02:03,110 --> 00:02:07,000 ある日 太郎が 漁から戻ってくると→ 8 00:02:07,000 --> 00:02:10,450 何やら 浜が騒がしい。 9 00:02:10,450 --> 00:02:12,470 (太郎)何の騒ぎじゃ? 10 00:02:12,470 --> 00:02:16,420 亀 ほれ上がれ。 ほれ ほれ。 11 00:02:16,420 --> 00:02:18,460 お~! 12 00:02:18,460 --> 00:02:21,090 (子供たちの笑い声) 13 00:02:21,090 --> 00:02:24,030 そいつは 海へ帰ろうとしてるんじゃから→ 14 00:02:24,030 --> 00:02:25,960 帰してやれや。 いいや。 15 00:02:25,960 --> 00:02:29,080 こんな おもしろいもん めったに手に入るもんじゃねえ。 16 00:02:29,080 --> 00:02:31,490 太郎さんは 魚獲る漁師じゃろうが→ 17 00:02:31,490 --> 00:02:34,240 おらたちが捕まえた亀を 海へ帰せと言うだか。 18 00:02:34,240 --> 00:02:36,310 おっ…。 19 00:02:36,310 --> 00:02:39,240 おらが魚を獲るのは 食うためじゃ。 20 00:02:39,240 --> 00:02:41,600 オモチャにするためじゃねえ。 21 00:02:41,600 --> 00:02:43,900 だから 帰してやれ。 22 00:02:46,520 --> 00:02:50,120 太郎は子亀を 海に放してやった。 23 00:02:52,640 --> 00:02:55,790 ある朝 太郎が漁に出ると→ 24 00:02:55,790 --> 00:02:59,570 舟の周りを泳ぐ 大きな黒い影があった。 25 00:02:59,570 --> 00:03:01,570 こりゃあ でっかいフカじゃ。 26 00:03:01,570 --> 00:03:06,070 太郎は舟にあった ヤスをかまえた。 27 00:03:06,070 --> 00:03:08,790 あ~っ! 28 00:03:08,790 --> 00:03:13,750 だが 波の間から頭を出したのは 大きな海亀だった。 29 00:03:13,750 --> 00:03:15,750 太郎さん 太郎さん。 30 00:03:15,750 --> 00:03:17,780 ひゃあ~ 亀が! 31 00:03:17,780 --> 00:03:21,420 私は こないだ 助けていただいた亀の→ 32 00:03:21,420 --> 00:03:23,440 母親でございます。 33 00:03:23,440 --> 00:03:25,570 よく見ると 母亀のそばに→ 34 00:03:25,570 --> 00:03:28,590 助けた子亀が プカプカと浮かんでいた。 35 00:03:28,590 --> 00:03:31,460 竜宮城の乙姫様が お礼にぜひ→ 36 00:03:31,460 --> 00:03:33,800 太郎さんをお連れするように と申され→ 37 00:03:33,800 --> 00:03:35,870 お迎えにあがりました。 38 00:03:35,870 --> 00:03:39,320 太郎はいったい 何のことやら わからない。 39 00:03:39,320 --> 00:03:43,320 私の背中に お乗りください。 40 00:03:49,360 --> 00:03:52,750 そうして太郎は 母亀と子亀とともに→ 41 00:03:52,750 --> 00:03:55,770 海の底深く 潜っていった。 42 00:03:55,770 --> 00:03:57,790 海の底は まるで→ 43 00:03:57,790 --> 00:03:59,910 闇夜のように真っ暗だったが→ 44 00:03:59,910 --> 00:04:04,460 時々 星のような光が瞬いていた。 45 00:04:04,460 --> 00:04:07,800 太郎は 海の底に向かっているのか→ 46 00:04:07,800 --> 00:04:11,790 夜空に舞い上がっているのか わからなくなりそうだった。 47 00:04:11,790 --> 00:04:16,890 やがて 闇の奥のほうに 明かりが見えてきた。 48 00:04:26,250 --> 00:04:29,490 そこには 今まで見たことのないほど→ 49 00:04:29,490 --> 00:04:32,290 美しい宮殿があった。 50 00:04:34,310 --> 00:04:38,310 太郎さん ここが竜宮城です。 お入りください。 51 00:04:41,950 --> 00:04:44,820 門の中には 見慣れない着物を着た→ 52 00:04:44,820 --> 00:04:48,920 それは美しい 乙姫様が立っていた。 53 00:04:48,920 --> 00:04:52,780 (乙姫)浦島太郎様 よく おいでくださいました。 54 00:04:52,780 --> 00:04:55,630 亀の子を助けていただいた お礼をしたくて→ 55 00:04:55,630 --> 00:04:58,330 お招きしたのです。 どうぞ。 56 00:04:58,330 --> 00:05:01,830 竜宮城で ごゆっくりなさってください。 57 00:05:06,340 --> 00:05:09,630 竜宮城には たいそう広くて→ 58 00:05:09,630 --> 00:05:13,620 立派な部屋が いくつもあった。 59 00:05:13,620 --> 00:05:16,740 どの部屋からも 海の底とは思えない→ 60 00:05:16,740 --> 00:05:20,160 不思議な景色が見えた。 61 00:05:20,160 --> 00:05:25,410 大きな山の周りに わき上がる雲。 62 00:05:25,410 --> 00:05:29,970 どこまでも生い茂る 緑の森。 63 00:05:29,970 --> 00:05:33,950 凍った河…。 64 00:05:33,950 --> 00:05:38,090 乙姫様に案内されて 毎日 部屋を巡ったが→ 65 00:05:38,090 --> 00:05:41,940 部屋も景色も 尽きることはなく…。 66 00:05:41,940 --> 00:05:45,580 毎日毎日 山のようなご馳走に囲まれ→ 67 00:05:45,580 --> 00:05:48,650 魚や娘たちが 舞い踊るのを見ながら→ 68 00:05:48,650 --> 00:05:52,750 太郎は すっかり時の経つのを 忘れていた。 69 00:05:56,440 --> 00:05:59,530 竜宮城に来てから どれだけ経ったのか。 70 00:05:59,530 --> 00:06:03,230 もう思い出せなくなった ある日のこと。 71 00:06:06,030 --> 00:06:11,230 太郎様 何か心配なことが おありでしょうか? 72 00:06:13,280 --> 00:06:17,260 乙姫様 長い間あなたと楽しく 過ごしてきたけんど→ 73 00:06:17,260 --> 00:06:21,370 おらは村のおとうや おっかあが 気にかかってなんねえだ。 74 00:06:21,370 --> 00:06:23,440 村に帰りてえ。 75 00:06:23,440 --> 00:06:29,460 太郎が思いを打ち明けると 乙姫様は悲しそうに ほほえんだ。 76 00:06:29,460 --> 00:06:32,410 私は太郎様には いつまでも いつまでも→ 77 00:06:32,410 --> 00:06:34,760 ここで過ごして いただきたいのですが→ 78 00:06:34,760 --> 00:06:36,830 仕方がありません。 79 00:06:36,830 --> 00:06:40,640 太郎は乙姫様の部屋に招かれた。 80 00:06:40,640 --> 00:06:42,740 これを お持ちください。 81 00:06:42,740 --> 00:06:47,010 この玉手箱は太郎様が 竜宮城へいらした印です。 82 00:06:47,010 --> 00:06:51,050 けれども地上で これを開けてはなりません。 83 00:06:51,050 --> 00:06:56,070 そうして 乙姫様は涙を浮かべて 太郎を見送った。 84 00:06:56,070 --> 00:07:00,670 太郎は再び亀の背に乗って 竜宮城を後にした。 85 00:07:02,610 --> 00:07:04,710 なつかしい浜に戻ると→ 86 00:07:04,710 --> 00:07:08,280 玉手箱を抱えて 我が家に向かって走って行った。 87 00:07:08,280 --> 00:07:12,350 だが 目の前には 見慣れぬ家が建ち並んでいた。 88 00:07:12,350 --> 00:07:15,950 そればかりか 自分の家が見つからない。 89 00:07:15,950 --> 00:07:21,010 村人に尋ねても太郎の家のことを 知ってる者はいなかった。 90 00:07:21,010 --> 00:07:25,450 ただ1人 年寄りがその名前に 聞き覚えがあると言った。 91 00:07:25,450 --> 00:07:30,070 大昔の話じゃが ある日 漁に出たきり戻らなんだ→ 92 00:07:30,070 --> 00:07:33,420 太郎という漁師がおったんじゃ。 93 00:07:33,420 --> 00:07:36,390 2~3日して 太郎の舟は見つかったが→ 94 00:07:36,390 --> 00:07:39,110 太郎の姿は どこにもなかった。 95 00:07:39,110 --> 00:07:41,300 おとうも おかあも そりゃ悲しんで→ 96 00:07:41,300 --> 00:07:43,450 死ぬまで待ち続けたが。 97 00:07:43,450 --> 00:07:48,620 太郎は ついに 戻らんかったという話じゃ。 98 00:07:48,620 --> 00:07:51,690 太郎は爺さんの話が 信じられなかった。 99 00:07:51,690 --> 00:07:56,290 おとう おかあ 何としたことだ おらは いってえ…。 100 00:07:58,400 --> 00:08:03,350 太郎は浜へ戻って途方に暮れた。 101 00:08:03,350 --> 00:08:08,160 そのとき 地上で これを開けてはなりませんと→ 102 00:08:08,160 --> 00:08:10,680 乙姫様から言われたことを忘れ→ 103 00:08:10,680 --> 00:08:15,080 そっと玉手箱のひもを解いた。 104 00:08:18,470 --> 00:08:20,690 太郎は みるみる若者から→ 105 00:08:20,690 --> 00:08:24,640 白髪頭の爺さんへと 姿を変えていった。 106 00:08:24,640 --> 00:08:30,250 浦島太郎は あてもなく歩き始めた。 107 00:08:30,250 --> 00:08:33,330 そして 楽しかったことも 悲しかったことも→ 108 00:08:33,330 --> 00:08:36,330 すべて忘れていた。 109 00:08:41,680 --> 00:08:43,800 昔むかし あるところに→ 110 00:08:43,800 --> 00:08:46,720 お爺さんと お婆さんがおりました。 111 00:08:46,720 --> 00:08:50,260 ある日 お爺さんは 山の畑に草取りに行くので→ 112 00:08:50,260 --> 00:08:54,590 弁当を こしらえてくれるように お婆さんに お願いしました。 113 00:08:54,590 --> 00:08:58,300 婆さん 弁当はできたかいの? 114 00:08:58,300 --> 00:09:02,770 ほれ ここに お前様の好物のそば焼き餅だで。 115 00:09:02,770 --> 00:09:05,750 ほうほう それはいい。 116 00:09:05,750 --> 00:09:10,430 では 行ってくるで。 気ぃつけてな。 117 00:09:10,430 --> 00:09:13,480 お爺さんは お婆さんのこしらえてくれた→ 118 00:09:13,480 --> 00:09:16,620 そば焼き餅を持って てってこてってこ→ 119 00:09:16,620 --> 00:09:19,500 山の畑へと登って行った。 120 00:09:19,500 --> 00:09:23,220 山の畑に着くと 弁当のそば焼き餅を→ 121 00:09:23,220 --> 00:09:28,020 小さな木のくぼみに置き 草取りに精を出した。 122 00:09:31,780 --> 00:09:36,250 やれ くたびれてきたわい。 きっきっき! 123 00:09:36,250 --> 00:09:39,690 猿どもが 木から木へと渡りながら→ 124 00:09:39,690 --> 00:09:43,790 弁当の前に集まるのが見えた。 125 00:09:43,790 --> 00:09:46,180 何をするつもりじゃろう。 126 00:09:46,180 --> 00:09:48,780 お爺さんは 黙って見ていることにした。 127 00:09:48,780 --> 00:09:50,820 きい~! 128 00:09:50,820 --> 00:09:53,490 するとどうじゃ 猿どもは木の枝に置いた→ 129 00:09:53,490 --> 00:09:57,660 お爺さんの弁当の そば焼き餅を むしゃらむしゃら食べ始めた。 130 00:09:57,660 --> 00:10:00,990 《おやおや 腹が減っているのだな。 131 00:10:00,990 --> 00:10:03,310 それなら ご馳走してやるとするか》 132 00:10:03,310 --> 00:10:05,900 お爺さんは 心のなかでそう思いながら→ 133 00:10:05,900 --> 00:10:07,900 やはり じっとしていた。 134 00:10:14,160 --> 00:10:16,660 きっき。 きっき。 あ? 135 00:10:19,360 --> 00:10:22,350 やがて そば焼き餅を 食べ終わった猿どもが→ 136 00:10:22,350 --> 00:10:24,370 お爺さんのほうへとやってくる。 137 00:10:24,370 --> 00:10:27,690 お爺さん いよいよ 目を閉じて座っていた。 138 00:10:27,690 --> 00:10:31,060 (猿太)こげなところに お地蔵さんがおるぞ。 139 00:10:31,060 --> 00:10:33,510 《わしゃ 地蔵か…》 140 00:10:33,510 --> 00:10:35,860 (猿吉)こげなところに 置いてはもったいない。 141 00:10:35,860 --> 00:10:37,930 川向こうの お堂にお運びもうそう。 142 00:10:37,930 --> 00:10:41,680 それがいい それがいい。 143 00:10:41,680 --> 00:10:47,660 猿ども手車を組んで その上にお爺さんをのせる。 144 00:10:47,660 --> 00:10:51,690 「猿ぺが 地蔵ぺを運ぶっぺ」 145 00:10:51,690 --> 00:10:54,730 「そ~れ そ~れ そ~れ」 146 00:10:54,730 --> 00:10:57,680 そうして えっちらおっちら 川を渡り始めた。 147 00:10:57,680 --> 00:10:59,700 あ そ~れ。 148 00:10:59,700 --> 00:11:02,810 「さ~るのケッツは ぬらせども」 ア ホイ。 149 00:11:02,810 --> 00:11:06,860 「地蔵のケッツはぬ~らすな」 150 00:11:06,860 --> 00:11:10,300 「さ~るのケッツは ぬらせども」 ホイ。 151 00:11:10,300 --> 00:11:13,200 「地蔵のケッツは ぬ~らすな」 152 00:11:13,200 --> 00:11:16,350 サルたちは おかしな節をつけた 歌をうたいながら→ 153 00:11:16,350 --> 00:11:18,300 お爺さんを運んでいった。 154 00:11:18,300 --> 00:11:22,340 お爺さんは 猿どもの歌が おかしくてたまらなかったけど→ 155 00:11:22,340 --> 00:11:24,330 じっと目をつむり黙っていた。 156 00:11:24,330 --> 00:11:30,530 やがて 猿どもは山のお堂に お爺さんを運ぶと上座に据えた。 157 00:11:30,530 --> 00:11:32,470 やがて どこから持ってきたんだか→ 158 00:11:32,470 --> 00:11:36,310 たくさんのお賽銭を お爺さんの膝元に投げた。 159 00:11:36,310 --> 00:11:39,020 (猿たち) ありがたや ありがたや。 160 00:11:39,020 --> 00:11:43,950 お地蔵様にあげ申す。 お地蔵様にあげ申す。 161 00:11:43,950 --> 00:11:47,550 そうして猿どもは 1匹残らず どこかへ行ってしまった。 162 00:11:52,690 --> 00:11:56,180 おんや これは! 163 00:11:56,180 --> 00:11:59,260 こりゃ本物じゃ。 こんだけ銭があれば…。 164 00:11:59,260 --> 00:12:03,850 そうじゃ! 婆さんに 新しい着物でも買うてやろう。 165 00:12:03,850 --> 00:12:06,370 ありがたや ありがたや。 166 00:12:06,370 --> 00:12:09,690 そう思ったお爺さんは 町へ向かうことにした。 167 00:12:09,690 --> 00:12:14,680 お婆さんのために 新しい着物とご馳走を買った。 168 00:12:14,680 --> 00:12:17,360 婆さん 帰ったぞ。 169 00:12:17,360 --> 00:12:21,350 お爺さんは 買ってきた着物や ご馳走をお婆さんに見せた。 170 00:12:21,350 --> 00:12:23,650 あれま どうしたね!? 171 00:12:23,650 --> 00:12:27,670 お爺さんがわけを話すと お婆さんの顔がほころんだ。 172 00:12:27,670 --> 00:12:31,310 それはまあ よいことがあったもんだで。 173 00:12:31,310 --> 00:12:33,700 そう言って喜んだと。 174 00:12:33,700 --> 00:12:35,880 2人して新しい着物を着て→ 175 00:12:35,880 --> 00:12:40,380 買ってきたご馳走を食べていると 隣の家のお婆さんがやってきた。 176 00:12:42,890 --> 00:12:46,190 あり!? お前 新しい着物だな!! 177 00:12:46,190 --> 00:12:50,330 それに そげなご馳走をいただいて 何かあったな! 178 00:12:50,330 --> 00:12:53,730 お爺さんとお婆さんが わけを話すと。 179 00:12:53,730 --> 00:12:58,320 そんだら おらが爺さんにも 同じことやってもらおうか。 180 00:12:58,320 --> 00:13:01,410 そう言って家に帰っていった。 181 00:13:01,410 --> 00:13:04,310 さて あくる日。 182 00:13:04,310 --> 00:13:07,810 わかったな うまくやれや。 わかった。 183 00:13:07,810 --> 00:13:11,250 まかしとき! (2人)シシシ…。 184 00:13:11,250 --> 00:13:14,640 隣の爺さんは 山の畑に向かった。 185 00:13:14,640 --> 00:13:19,570 山の畑に着くと そば焼き餅を木のくぼみに置き→ 186 00:13:19,570 --> 00:13:23,210 草取りもせず 畑の前にじっと座った。 187 00:13:23,210 --> 00:13:25,710 猿どもがやってくる。 188 00:13:31,720 --> 00:13:33,820 きっ。 189 00:13:36,990 --> 00:13:39,230 そば焼き餅を食べ終えると→ 190 00:13:39,230 --> 00:13:41,730 猿ども 爺さんのほうにやってきた。 191 00:13:43,670 --> 00:13:46,690 また お地蔵さんがおるで。 192 00:13:46,690 --> 00:13:50,360 こげなところでは もったいない。 お堂に運びもうそう。 193 00:13:50,360 --> 00:13:53,640 「さ~るのケッツは ぬらせども」 ア ホイ。 194 00:13:53,640 --> 00:13:56,850 「地蔵のケッツは ぬ~らすな」 195 00:13:56,850 --> 00:13:58,850 あ そ~れ そ~れ。 196 00:13:58,850 --> 00:14:02,320 爺さんは おかしいのを グッと こらえていたんだけれども。 197 00:14:02,320 --> 00:14:06,020 「とんとこぴ~んの ぞ~ろ ぞろ~」 198 00:14:06,020 --> 00:14:08,390 「あってれけのれ~」 199 00:14:08,390 --> 00:14:10,360 歌が いよいよ おかしくなるので とうとう…。 200 00:14:10,360 --> 00:14:13,350 プッ! 笑い出してしまった。 201 00:14:13,350 --> 00:14:18,350 アハハハ! 202 00:14:22,500 --> 00:14:26,010 お地蔵様だと思っていた猿どもは び~っくり! 203 00:14:26,010 --> 00:14:28,360 川の中に落ちた 爺さんを→ 204 00:14:28,360 --> 00:14:32,010 ひっかいたり 足蹴にしながら 逃げていった。 205 00:14:32,010 --> 00:14:34,980 爺さんは やっと 岸に這い上がった。 206 00:14:34,980 --> 00:14:37,020 けれども ずっぽりと 濡れねずみで→ 207 00:14:37,020 --> 00:14:39,320 そのうえ 猿どもに ひっかかれ→ 208 00:14:39,320 --> 00:14:41,690 足蹴にされて ボロボロだった。 209 00:14:41,690 --> 00:14:45,980 思わず おいおい 泣き出してしまった。 210 00:14:45,980 --> 00:14:49,000 さて 隣の婆様は 今に 爺さんが→ 211 00:14:49,000 --> 00:14:52,820 きれいな着物やらを 買ってくるだろうと待っていた。 212 00:14:52,820 --> 00:14:56,860 そうじゃ。 もう こげな汚い着物は いらぬじゃろ。 213 00:14:56,860 --> 00:14:59,360 ばあさまは 着物を脱ぐと→ 214 00:14:59,360 --> 00:15:02,360 家中の着物と一緒に 焼いてしまった。 215 00:15:02,360 --> 00:15:05,860 それで 裸のまんまで 爺さんの帰りを待っていた。 216 00:15:05,860 --> 00:15:11,340 お~い! お~い! 217 00:15:11,340 --> 00:15:13,340 あれあれ!? 218 00:15:13,340 --> 00:15:15,360 おらが 爺さんは 猿から 銭 もろうて→ 219 00:15:15,360 --> 00:15:17,310 着物だの なんだの買うて→ 220 00:15:17,310 --> 00:15:21,650 あんな歌 うたいながら 帰ってくるよ~。 ウシシシシ! 221 00:15:21,650 --> 00:15:23,680 ヘックション! 222 00:15:23,680 --> 00:15:26,330 それから しばらくの間 隣の ばあさんは→ 223 00:15:26,330 --> 00:15:30,790 裸で暮らさねば ならなかったんだと。 224 00:15:30,790 --> 00:15:32,790 (くしゃみ) 225 00:15:42,370 --> 00:15:45,760 昔むかし 長者の旦那が→ 226 00:15:45,760 --> 00:15:48,350 旅先で おもしろい男に会った。 227 00:15:48,350 --> 00:15:50,720 ある時 にわか雨に降られ→ 228 00:15:50,720 --> 00:15:55,700 男は 近くの荒れ寺で 雨宿りをしようと誘った。 229 00:15:55,700 --> 00:16:00,380 嫌がる旦那を連れて 荒れ寺の中へ駆け込んだ。 230 00:16:00,380 --> 00:16:03,810 寺の中は 長い間 使われた様子もなく→ 231 00:16:03,810 --> 00:16:07,020 壊れた屋根から ひどい雨漏りがしていた。 232 00:16:07,020 --> 00:16:09,050 奥には 仏像が あったが→ 233 00:16:09,050 --> 00:16:12,020 色も はげて ホコリを かぶっていた。 234 00:16:12,020 --> 00:16:15,070 夜になっても 雨漏りは 止まらぬばかりか→ 235 00:16:15,070 --> 00:16:18,730 小さな滝のようになって 板の間に 流れ落ちた。 236 00:16:18,730 --> 00:16:23,350 男は 大急ぎで 床の細い板を 1枚 はがし→ 237 00:16:23,350 --> 00:16:27,790 そこから 雨漏りが 床下に抜けるようにした。 238 00:16:27,790 --> 00:16:30,710 この雨は 朝まで やまねえぞ。 239 00:16:30,710 --> 00:16:36,400 2人は この荒れ寺で 一夜を明かすことになった。 240 00:16:36,400 --> 00:16:39,780 うちには 蔵が 12ほど ある。 241 00:16:39,780 --> 00:16:42,680 こない あばら家に 泊まる身分では ないのだが→ 242 00:16:42,680 --> 00:16:45,220 お前のところは どうなんや? 243 00:16:45,220 --> 00:16:48,710 男は 少し困ったような顔をして…。 244 00:16:48,710 --> 00:16:50,780 うちか? うちは 何も→ 245 00:16:50,780 --> 00:16:54,380 人に 宝だといって 自慢するようなものは ないな…。 246 00:16:57,330 --> 00:16:59,400 いや 待てよ。 247 00:16:59,400 --> 00:17:02,670 男は 思いついたように 体を起こした。 248 00:17:02,670 --> 00:17:04,670 うちにも 宝は あった。 249 00:17:04,670 --> 00:17:07,390 小さい宝が 24ほど。 250 00:17:07,390 --> 00:17:11,010 なに!? 24の宝じゃと!? 251 00:17:11,010 --> 00:17:13,330 あぁ 間違いない。 252 00:17:13,330 --> 00:17:15,720 男は キッパリ言った。 253 00:17:15,720 --> 00:17:17,670 わしの話に 負けまいと→ 254 00:17:17,670 --> 00:17:20,890 出任せを言っているのでは あるまいな? 255 00:17:20,890 --> 00:17:25,340 いんや おらの所に 確かに 24の宝が ある。 256 00:17:25,340 --> 00:17:28,880 男は 旦那が ムキになるのが おかしかった。 257 00:17:28,880 --> 00:17:32,070 お前が そこまで言い張るんなら それで 結構や。 258 00:17:32,070 --> 00:17:36,020 そんなら お前のとこの宝と うちの宝もんを→ 259 00:17:36,020 --> 00:17:38,370 比べ合いしようじゃないか。 260 00:17:38,370 --> 00:17:41,340 宝を比べて なんとする。 261 00:17:41,340 --> 00:17:45,680 どっちの宝が いいもんか 白黒 決着を つけるんや! 262 00:17:45,680 --> 00:17:50,340 旦那は もう 自分の宝が勝つと 決めかかっているようです。 263 00:17:50,340 --> 00:17:52,670 それは 誰が決めるんじゃ? 264 00:17:52,670 --> 00:17:55,720 う~ん… そうじゃな~。 265 00:17:55,720 --> 00:17:57,780 今から ひと月先→ 266 00:17:57,780 --> 00:17:59,710 町の衆を集めて どっちの宝が ええもんか→ 267 00:17:59,710 --> 00:18:01,730 決めさせよう。 268 00:18:01,730 --> 00:18:04,120 そんなら お前も 文句あるまい? 269 00:18:04,120 --> 00:18:07,420 と言うと グーグー寝てしまった。 270 00:18:09,340 --> 00:18:12,840 次の朝 旦那と男は 峠の分かれ道で→ 271 00:18:12,840 --> 00:18:18,160 ひと月のちの宝くらべを約束して 自分の家へ 帰っていった。 272 00:18:18,160 --> 00:18:23,370 さて 12の蔵の並ぶ 町一番の屋敷に戻った旦那は→ 273 00:18:23,370 --> 00:18:27,040 次の朝早くから 蔵の中の吟味を始めた。 274 00:18:27,040 --> 00:18:30,230 番頭はんから でっちどんまで 総出で→ 275 00:18:30,230 --> 00:18:33,200 蔵の中に納めた宝を目録にし→ 276 00:18:33,200 --> 00:18:36,230 どれほど値打ちのあるものか 確かめた。 277 00:18:36,230 --> 00:18:41,240 なにしろ 旦那が 長年かけて集めさせた宝の数々。 278 00:18:41,240 --> 00:18:44,390 目録に書き写すのも ひと苦労。 279 00:18:44,390 --> 00:18:47,580 ひと月かけても 終わるかどうかわからなかった。 280 00:18:47,580 --> 00:18:52,180 《これだけあれば あの男に 負けることなどあるまい》 281 00:18:55,220 --> 00:18:59,220 《あの男 わしには 12の蔵があると言っても→ 282 00:18:59,220 --> 00:19:02,010 小さいのが 24と言って→ 283 00:19:02,010 --> 00:19:05,430 平気な顔で言いよった ということは→ 284 00:19:05,430 --> 00:19:11,200 わしの 12の蔵の宝を集めても 負けない宝だというのやろか? 285 00:19:11,200 --> 00:19:14,500 どんだけ 値打ちのある宝なんや》 286 00:19:16,890 --> 00:19:18,870 不安になった旦那は→ 287 00:19:18,870 --> 00:19:21,810 蔵に積まれてある宝を眺めると…。 288 00:19:21,810 --> 00:19:25,380 もっと値打ちのある宝と 入れ替えや! 289 00:19:25,380 --> 00:19:28,680 と 目録を 付け終わったばかりの宝を→ 290 00:19:28,680 --> 00:19:30,720 他の宝と入れ替えさせた。 291 00:19:30,720 --> 00:19:34,340 そして また気が変わると 別の宝と入れ替えて→ 292 00:19:34,340 --> 00:19:36,740 結局 もとの宝に戻ったり→ 293 00:19:36,740 --> 00:19:39,040 そんなあんばいだから 目録は→ 294 00:19:39,040 --> 00:19:41,900 いつまでたっても 付け終わることがなかった。 295 00:19:41,900 --> 00:19:45,850 そうこうしているうちに 約束の ひと月が経った。 296 00:19:45,850 --> 00:19:49,040 その日 屋敷の周りには→ 297 00:19:49,040 --> 00:19:53,710 宝くらべの噂を聞いた 大勢の町の衆が集まってきた。 298 00:19:53,710 --> 00:19:55,740 旦那も表に出てきて→ 299 00:19:55,740 --> 00:19:59,000 あの男が 宝を持ってくるのを待った。 300 00:19:59,000 --> 00:20:04,550 しかし 待てど暮らせど あの男は現れない。 301 00:20:04,550 --> 00:20:08,510 宝くらべは どうした? もったいぶらずに早く見せろ! 302 00:20:08,510 --> 00:20:11,230 早く出さねえか! もう くたびれちゃったよ! 303 00:20:11,230 --> 00:20:13,710 あれ? なんだ? 304 00:20:13,710 --> 00:20:19,500 旦那が見ると あの男が 背後に人を連ねてやってきた。 305 00:20:19,500 --> 00:20:22,920 それは 男に連なる 粗末な身なりの→ 306 00:20:22,920 --> 00:20:25,510 24人の子供の列だった。 307 00:20:25,510 --> 00:20:28,890 手には 何も持っていなかった。 308 00:20:28,890 --> 00:20:32,030 お前 宝は どうしたんじゃ? 309 00:20:32,030 --> 00:20:35,630 おらのところは 宝といっても これだけだ。 310 00:20:39,240 --> 00:20:41,220 こっちが ひと月もかけて→ 311 00:20:41,220 --> 00:20:43,610 夜通し 蔵の宝を 出し入れしている間→ 312 00:20:43,610 --> 00:20:46,090 そっちは 何をしておったんじゃ! 313 00:20:46,090 --> 00:20:48,090 何も。 314 00:20:50,020 --> 00:20:53,050 その頃 いちばん離れた蔵の中で→ 315 00:20:53,050 --> 00:20:57,710 番頭はんが倒した ロウソクの火が 絵巻物に燃え移った。 316 00:20:57,710 --> 00:21:02,230 その蔵から 火は どんどん燃え広がっていった。 317 00:21:02,230 --> 00:21:04,430 火事だ! 逃げろ! 318 00:21:04,430 --> 00:21:07,430 火事だ~!! 319 00:21:12,550 --> 00:21:15,560 誰か 宝物を運んでくれ~! 320 00:21:15,560 --> 00:21:17,510 礼は はずむ! 321 00:21:17,510 --> 00:21:21,730 誰か 誰か助けて! ああ 大変だ 大変だ! 322 00:21:21,730 --> 00:21:25,370 欲に目がくらんだ者たちが 蔵の中に飛び込んでは→ 323 00:21:25,370 --> 00:21:27,750 尻に火をつけて飛び出してきた。 324 00:21:27,750 --> 00:21:41,880 ~ 325 00:21:41,880 --> 00:21:46,320 旦那は 燃えさかる炎を 目の前にして→ 326 00:21:46,320 --> 00:21:48,920 宝に近づくこともできなかった。 327 00:21:50,880 --> 00:21:54,030 24人の子供を連れてきた男は→ 328 00:21:54,030 --> 00:22:00,890 風上へ回って 子供たちを 炎から守るように立っていた。 329 00:22:00,890 --> 00:22:06,680 男は 子供たちに言って 燃え残った宝物を→ 330 00:22:06,680 --> 00:22:09,580 旦那のところに持っていかせた。 331 00:22:09,580 --> 00:22:12,830 子供たちが 宝のかけらを持ち寄ると→ 332 00:22:12,830 --> 00:22:15,530 笑みを浮かべた。 333 00:22:15,530 --> 00:22:18,220 わしの負けじゃ! 334 00:22:18,220 --> 00:22:23,210 山ほど宝はあっても この世に 子に勝る宝はないのぅ。 335 00:22:23,210 --> 00:22:26,260 と 目の前の子供たちを 抱きしめた。 336 00:22:26,260 --> 00:22:34,360 ほんで 「子宝」という言葉は そのときから始まったんだと。