1 00:01:47,040 --> 00:01:52,100 昔むかし ある浜に 若い漁師が住んでいた。 2 00:01:52,100 --> 00:01:54,720 ある日 漁に出ると 3 00:01:54,720 --> 00:01:57,450 今まで凪いでいた海に 風が吹きはじめ 4 00:01:57,450 --> 00:02:00,050 たちまち波も高くなった。 5 00:02:05,410 --> 00:02:08,360 そろそろ 浜へ戻ろうかと思っていると 6 00:02:08,360 --> 00:02:11,420 エサに食いついてきた魚があった。 7 00:02:11,420 --> 00:02:14,870 空が暗くなり 波が高くなる中で 8 00:02:14,870 --> 00:02:18,110 一生懸命 釣り竿を操りながら 9 00:02:18,110 --> 00:02:20,910 とうとう魚を釣り上げた。 10 00:02:22,880 --> 00:02:25,130 舟の底で跳ねるのは 11 00:02:25,130 --> 00:02:28,430 これまで見たこともない 鮮やかな彩りの魚だった。 12 00:02:30,400 --> 00:02:33,400 きれいな色じゃのう お前は。 13 00:02:36,840 --> 00:02:40,840 魚を持ち帰って 瓶の中に放してやった。 14 00:02:43,700 --> 00:02:45,720 いってくるぞ。 15 00:02:45,720 --> 00:02:49,320 声をかけて 漁に出かけていった。 16 00:02:52,190 --> 00:02:54,290 戻ってきたときも…。 17 00:02:56,380 --> 00:02:58,360 帰ってきたぞ。 18 00:02:58,360 --> 00:03:01,720 そのとき どこからか うまそうなニオイが漂ってきた。 19 00:03:01,720 --> 00:03:05,370 座敷のほうを見ると 誰もいないはずの部屋の中に 20 00:03:05,370 --> 00:03:09,370 皿が並び 料理が盛りつけられていた。 21 00:03:09,370 --> 00:03:11,380 誰だ? 22 00:03:11,380 --> 00:03:13,380 部屋には 誰もいない。 23 00:03:13,380 --> 00:03:16,400 若者は 恐る恐る料理を口にして…。 24 00:03:16,400 --> 00:03:18,430 うまい…。 25 00:03:18,430 --> 00:03:22,740 今まで味わったことのないほどの うまさだった。 26 00:03:22,740 --> 00:03:28,710 若者は 次の日も 魚に声をかけて 漁に向かった。 27 00:03:28,710 --> 00:03:33,820 戻ったときも 同じように声をかけた。 28 00:03:33,820 --> 00:03:38,620 すると また部屋中に いいニオイが満ちていた。 29 00:03:41,370 --> 00:03:46,040 若者は 料理を平らげたが 不思議でたまらなかった。 30 00:03:46,040 --> 00:03:49,030 若者は 隣の婆さんに 31 00:03:49,030 --> 00:03:52,080 留守の間に 変わったことは なかったか聞いてみた。 32 00:03:52,080 --> 00:03:55,420 実はな 婆さん。 昨日 漁から帰ってくると 33 00:03:55,420 --> 00:03:58,790 見たこともねえような ご馳走が並んでたんだ。 34 00:03:58,790 --> 00:04:03,380 今日も 漁から戻ると 同じようにご馳走があった。 35 00:04:03,380 --> 00:04:06,080 あれ アンタは知らなかったかい。 36 00:04:06,080 --> 00:04:09,470 アンタが出かけていくと しばらくして 家の中から 37 00:04:09,470 --> 00:04:13,100 ドンマ ドンマと 臼をつく音が聞こえてきてのう。 38 00:04:13,100 --> 00:04:16,110 誰かいるのかと思って 声をかけたら 39 00:04:16,110 --> 00:04:20,050 そりゃあ きれいな 娘さんが出てきて 40 00:04:20,050 --> 00:04:23,030 わしは驚いたよ。 41 00:04:23,030 --> 00:04:27,050 若者は きれいな娘と言われても 心当たりがなかった。 42 00:04:27,050 --> 00:04:32,040 オラ どうすべ? 婆さん。 そうじゃのう。 43 00:04:32,040 --> 00:04:35,090 いつものように 漁に行くふりをして 44 00:04:35,090 --> 00:04:38,030 その娘さんが 来てる頃を見計らって 45 00:04:38,030 --> 00:04:42,080 そ~っと入っていって びっくりさせてみんさい。 46 00:04:42,080 --> 00:04:45,200 次の日 若者は 婆さんに言われたとおり 47 00:04:45,200 --> 00:04:47,760 いったんは家を出て 48 00:04:47,760 --> 00:04:51,380 漁に出かけたふりをして 戻ってきた。 49 00:04:51,380 --> 00:04:55,780 そして そっと物陰に隠れて 家の中の様子をうかがっていた。 50 00:04:55,780 --> 00:05:00,420 すると 水の中で 何か跳ねる音が聞こえたので 51 00:05:00,420 --> 00:05:05,040 息をこらして 戸口から 台所のほうを覗いてみた。 52 00:05:05,040 --> 00:05:08,460 と 突然 瓶の中から 53 00:05:08,460 --> 00:05:11,760 あの美しい魚が跳び上がった。 54 00:05:13,720 --> 00:05:16,030 うわっ!! 55 00:05:16,030 --> 00:05:19,390 そして 魚と同じ 鮮やかな柄の着物を着た 56 00:05:19,390 --> 00:05:22,060 きれいな娘になった。 57 00:05:22,060 --> 00:05:25,080 娘は慣れた手つきで 袖をまくり上げると 58 00:05:25,080 --> 00:05:30,720 ドンマ ドンマと臼をついて 食事の支度を始めた。 59 00:05:30,720 --> 00:05:33,440 そこで何をしとるんじゃ! 60 00:05:33,440 --> 00:05:38,040 若者が 戸を開けて中に入ると 振り返った娘は驚いた。 61 00:05:45,710 --> 00:05:48,770 驚かせて すまん。 こっちも驚いたんじゃ。 62 00:05:48,770 --> 00:05:51,370 頼むから もう一度 出てきてくれ。 63 00:05:56,020 --> 00:05:59,760 娘は 海で時化に遭い 仲間のもとへ帰れずに 64 00:05:59,760 --> 00:06:03,720 漂っているとき 釣り上げられたのだった。 65 00:06:03,720 --> 00:06:06,700 どうか オラのところへ 嫁にきてくれ。 66 00:06:06,700 --> 00:06:11,070 この娘に一目惚れした若者は 必死になって頼み込んだ。 67 00:06:11,070 --> 00:06:16,040 娘は 若者の熱心な思いに ほだされて 夫婦になった。 68 00:06:16,040 --> 00:06:21,750 2人は 仲むつまじく暮らし やがて 男の子が生まれた。 69 00:06:21,750 --> 00:06:24,720 だが どこの村にも 口うるさい村人がいるもので 70 00:06:24,720 --> 00:06:27,140 若者は あちこちで 71 00:06:27,140 --> 00:06:30,440 「魚の旦那どのじゃ」と はやしたてられた。 72 00:06:32,710 --> 00:06:36,150 お前のおかげで 肩身の狭い思いをする。 73 00:06:36,150 --> 00:06:39,750 「魚の旦那」と笑われるのは もう たくさんじゃ!! 74 00:06:39,750 --> 00:06:44,040 望まれて 嫁に来た娘には どうすることもできない。 75 00:06:44,040 --> 00:06:48,090 若者を慰めようとしたが 不機嫌になるばかりで…。 76 00:06:48,090 --> 00:06:51,030 お前みたいな者は とっとと出ていけ! 77 00:06:51,030 --> 00:06:54,130 本当に 出ていってほしい と言うのですか? 78 00:06:54,130 --> 00:06:56,130 グズグズ言わんで 出ていけ! 79 00:06:58,120 --> 00:07:04,060 嫁が出ていくと 家の中に 幼い男の子の泣き声が響いた。 80 00:07:04,060 --> 00:07:07,580 (泣き声) 81 00:07:07,580 --> 00:07:09,530 そのとき 若者は 自分が 82 00:07:09,530 --> 00:07:13,770 ひどいことをしてしまったと 気づいて 嫁のあとを追いかけた。 83 00:07:13,770 --> 00:07:16,370 嫁は海辺へ向かった。 84 00:07:16,370 --> 00:07:20,780 そして 打ち寄せる波の中に 入っていった。 85 00:07:20,780 --> 00:07:22,860 お~い! 86 00:07:22,860 --> 00:07:26,860 それでは 帰ります。 87 00:07:30,720 --> 00:07:35,090 オラが悪かった。 帰ってこ~い! 88 00:07:35,090 --> 00:07:37,730 嫁は戻ってこなかった。 89 00:07:37,730 --> 00:07:43,230 若者は しばらく 海を見ていたが やがて あきらめて 家へ戻った。 90 00:07:43,230 --> 00:07:45,270 中へ入ろうとすると 91 00:07:45,270 --> 00:07:51,710 家や家財道具は 突然 何万匹もの 虫の群れとなって飛び去り 92 00:07:51,710 --> 00:07:54,410 あとには 何も残らなかった。 93 00:07:54,410 --> 00:07:56,410 そのとき 子供が泣き出し 94 00:07:56,410 --> 00:08:01,410 若者は すっかり情けなくなり 悲しくなった。 95 00:08:03,430 --> 00:08:07,040 帰ってこ~い! 帰ってこ~い! 96 00:08:07,040 --> 00:08:10,760 若者は 来る日も来る日も 海辺に立ち 97 00:08:10,760 --> 00:08:14,710 嫁を呼び続けたが 二度と戻ってこなかった。 98 00:08:14,710 --> 00:08:21,040 やがて 若者の姿は見えなくなり 代わりに1羽の海鳥がやってきた。 99 00:08:21,040 --> 00:08:23,370 こ~い! こ~い! 100 00:08:23,370 --> 00:08:25,390 いつしか 村人は 101 00:08:25,390 --> 00:08:28,760 若者は鳥になったのだと 信じるようになった。 102 00:08:28,760 --> 00:08:30,710 鳥は 今でも…。 103 00:08:30,710 --> 00:08:32,800 こ~い! こ~い! 104 00:08:32,800 --> 00:08:36,100 と 鳴き続けている ということです。 105 00:08:48,540 --> 00:08:54,080 昔むかし あるところに 貧しい夫婦がおりました。 106 00:08:54,080 --> 00:08:58,550 この夫婦 どうしたものか 子供がなかった。 107 00:08:58,550 --> 00:09:03,670 そこで 水神様に願をかけようと 2人でお参りに出かけた。 108 00:09:03,670 --> 00:09:06,560 もし 水神様。 かえるでも たにしでも よいから 109 00:09:06,560 --> 00:09:12,030 わしらに子供を授けてたもれ。 あなとうとう あなとうとう。 110 00:09:12,030 --> 00:09:14,560 痛い! イタタタタ…。 111 00:09:14,560 --> 00:09:18,220 女房は 這うように家に帰り 112 00:09:18,220 --> 00:09:21,520 布団の上で うんうん うなっていた。 113 00:09:23,570 --> 00:09:27,530 すると しまいに ポロリと子供が生まれた。 114 00:09:27,530 --> 00:09:32,930 だが それは 田んぼにいる 小さな巻き貝のたにしだった。 115 00:09:32,930 --> 00:09:36,300 これは水神様の申し子に違いない。 116 00:09:36,300 --> 00:09:39,890 たにしの子を 水が入ったお椀に入れ 117 00:09:39,890 --> 00:09:42,960 神棚に上げて 大切に育てた。 118 00:09:42,960 --> 00:09:46,380 それから 20年の月日が流れた。 119 00:09:46,380 --> 00:09:49,410 たにしの子は ちっとも大きくならんし 120 00:09:49,410 --> 00:09:51,870 ひと言も口を聞いたこともない。 121 00:09:51,870 --> 00:09:57,960 それでも ご飯だけは 一人前に食べました。 122 00:09:57,960 --> 00:09:59,880 ケプッ! 123 00:09:59,880 --> 00:10:02,860 ある日のこと 年取った おっとうは 124 00:10:02,860 --> 00:10:06,920 長者に納める年貢米を 馬につけていた。 すると…。 125 00:10:06,920 --> 00:10:11,200 おっとう おっとう! オラが米を持っていくよ。 126 00:10:11,200 --> 00:10:14,220 そこで 神棚に行ってみると…。 127 00:10:14,220 --> 00:10:16,910 今まで 長い間 えらい恩を受けた。 128 00:10:16,910 --> 00:10:20,550 オラも そろそろ 世の中に出るときが来たようだ。 129 00:10:20,550 --> 00:10:22,900 今日は オラが おっとうの代わりに 130 00:10:22,900 --> 00:10:26,050 長者様のところまで 米を持っていこう。 131 00:10:26,050 --> 00:10:29,040 はいどう はいどう! 132 00:10:29,040 --> 00:10:32,090 旦那様! 旦那様! 133 00:10:32,090 --> 00:10:34,630 たにしの子が 年貢米を持ってきやした! 134 00:10:34,630 --> 00:10:36,600 たにし? 135 00:10:36,600 --> 00:10:38,550 たにしは長者の前で 136 00:10:38,550 --> 00:10:44,650 大男に指図して 米俵を運ばせ 馬に飼い葉もやった。 137 00:10:44,650 --> 00:10:50,250 これを見た旦那様は 家に呼んで 昼飯を ご馳走することにした。 138 00:10:58,720 --> 00:11:00,720 おぉ~! 139 00:11:00,720 --> 00:11:05,140 たくさん ご馳走になりました。 どうか お茶をくだされ。 140 00:11:05,140 --> 00:11:07,540 《水神様の申し子だと 聞いていたが 141 00:11:07,540 --> 00:11:10,600 ひょっとして 家の宝になるかもしれん》 142 00:11:10,600 --> 00:11:12,950 よっと! 143 00:11:12,950 --> 00:11:16,220 わしのところに 娘が2人 おるが 144 00:11:16,220 --> 00:11:20,190 そのうち 1人を お前の嫁に やってもよいが どうじゃ? 145 00:11:20,190 --> 00:11:22,190 本当でございますか? 146 00:11:22,190 --> 00:11:25,260 もしも 旦那様の娘ごを 嫁にもらえましたら 147 00:11:25,260 --> 00:11:27,530 おっとうも おっかあも 喜びましょう。 148 00:11:27,530 --> 00:11:32,200 その夜 長者の旦那様は 2人の娘を呼んで…。 149 00:11:32,200 --> 00:11:36,270 お前たちのうちで たにしの子の 嫁にいってくれる者はないか? 150 00:11:36,270 --> 00:11:40,570 誰が たにしのとこになんぞ 嫁にいくものか! イヤよ!! 151 00:11:43,060 --> 00:11:48,080 父様が約束なさったこと。 私が たにしの子の嫁になりましょう。 152 00:11:48,080 --> 00:11:50,040 おぉ~! 153 00:11:50,040 --> 00:11:54,120 長者の妹娘が たにしの嫁になると決まった。 154 00:11:54,120 --> 00:11:59,540 嫁入り道具は 7頭の馬にも つけきれんほど あった。 155 00:11:59,540 --> 00:12:03,550 タンスと長持が 7棹ずつもある。 156 00:12:03,550 --> 00:12:07,240 たにしの子の貧乏家には 入りきらぬので→ 157 00:12:07,240 --> 00:12:10,390 旦那様は 別に蔵を建ててやった。 158 00:12:10,390 --> 00:12:13,220 おっとうも おっかあも きれいな嫁ごをもろうて→ 159 00:12:13,220 --> 00:12:15,260 たいそう喜んだ。 160 00:12:15,260 --> 00:12:18,030 嫁も おっとうと おっかあに よく仕えた。 161 00:12:18,030 --> 00:12:22,470 のら仕事へも厭わずに出て よく働くので→ 162 00:12:22,470 --> 00:12:25,370 暮らし向きも前より楽になった。 163 00:12:25,370 --> 00:12:29,910 そのうちに春の薬師様の お祭の日になった。 164 00:12:29,910 --> 00:12:34,380 おっとうと おっかあは嫁に お祭見物をさせようと思った。 165 00:12:34,380 --> 00:12:36,920 そこで嫁は化粧をし→ 166 00:12:36,920 --> 00:12:42,250 長持から よい着物を出して 久しぶりにきれいななりをした。 167 00:12:42,250 --> 00:12:45,620 一緒にお祭見物に行きましょう。 168 00:12:45,620 --> 00:12:49,120 そうか そんじゃ わしも連れて行ってくれ。 169 00:12:53,920 --> 00:12:57,550 やがて薬師様の 一の鳥居まで来ると…。 170 00:12:57,550 --> 00:13:00,970 わしは わけあって ここから先には入れない。 171 00:13:00,970 --> 00:13:03,580 どこか田んぼのあぜにでも わしを置いて→ 172 00:13:03,580 --> 00:13:06,180 そなた1人で お参りしておいで。 173 00:13:08,250 --> 00:13:10,700 そんじゃ鳥などに用心してな。 174 00:13:10,700 --> 00:13:14,470 ちょっと行ってお参りしたら 戻ってきますけに。 175 00:13:14,470 --> 00:13:18,770 そう言って1人で薬師様に お参りに行った。 176 00:13:21,390 --> 00:13:27,200 お参りを済ませて戻ってみると たにしの婿殿の姿が見えない。 177 00:13:27,200 --> 00:13:32,140 嫁は驚いて あちこちと探したが どうしても見つからない。 178 00:13:32,140 --> 00:13:35,410 鳥に ついばまれたか 田に落ちたか→ 179 00:13:35,410 --> 00:13:39,510 婿殿のことが心配で心配で たまらんようになってきた。 180 00:13:41,910 --> 00:13:45,030 つぶや つぶ わが妻や。 181 00:13:45,030 --> 00:13:50,290 今年の春になったれば カラスというバカ鳥に→ 182 00:13:50,290 --> 00:13:53,390 ちょっくらもっくら刺されたか。 183 00:13:56,190 --> 00:13:58,780 日が暮れて あたりが暗くなっても→ 184 00:13:58,780 --> 00:14:01,530 とうとう婿殿は見つからなかった。 185 00:14:01,530 --> 00:14:04,890 私のせいで婿殿が…。 186 00:14:04,890 --> 00:14:08,570 そう思うと 情けなくて申し訳なくて→ 187 00:14:08,570 --> 00:14:14,730 いっそのこと 田の深い泥の中に 沈んでしまおうと思った。 188 00:14:14,730 --> 00:14:18,130 これ娘 何をする! 189 00:14:18,130 --> 00:14:21,370 たにしの婿殿が見つからぬので→ 190 00:14:21,370 --> 00:14:24,540 どうしようかと 思うているのです…。 191 00:14:24,540 --> 00:14:30,980 そなたが探す たにしの婿は わしじゃ。 192 00:14:30,980 --> 00:14:33,880 えっ!? 193 00:14:33,880 --> 00:14:38,920 わしは 水神様の申し子で これまで たにしの姿でいたが→ 194 00:14:38,920 --> 00:14:42,040 今日そなたが薬師様に お参りをしてくれたので→ 195 00:14:42,040 --> 00:14:45,960 このような人間の姿に なることができたのじゃ。 196 00:14:45,960 --> 00:14:47,900 それじゃ 婿殿? 197 00:14:47,900 --> 00:14:50,870 そうじゃ。 あぁ~! 198 00:14:50,870 --> 00:14:53,570 たにしの子が 立派な若者になったので→ 199 00:14:53,570 --> 00:14:56,570 おっとうも おっかあも大喜び。 200 00:14:56,570 --> 00:15:00,370 長者の旦那様も大喜び。 201 00:15:02,760 --> 00:15:08,370 町のいちばんよいところに 立派な家を建ててやりました。 202 00:15:08,370 --> 00:15:12,540 そこで若い夫婦が 商いを始めると→ 203 00:15:12,540 --> 00:15:16,960 たにしの子の店じゃ! 水神様の申し子の店じゃ! と→ 204 00:15:16,960 --> 00:15:22,550 たちまち評判になり 店は たいそう繁盛した。 205 00:15:22,550 --> 00:15:27,290 たにしの子は たにしの長者どんと 呼ばれるようになり→ 206 00:15:27,290 --> 00:15:31,590 美しい嫁と いつまでも 仲よく暮らしたという。 207 00:15:42,090 --> 00:15:46,560 昔むかしあるところに ほら吹きで 知られた男がおりました。 208 00:15:46,560 --> 00:15:48,560 男の話を聞かされた者は→ 209 00:15:48,560 --> 00:15:51,600 その話の大きさに どぎもを抜かれたが→ 210 00:15:51,600 --> 00:15:54,370 たいがいの人は あとで怒り出しました。 211 00:15:54,370 --> 00:15:56,400 嘘つき! 212 00:15:56,400 --> 00:15:59,890 男が町で1人の侍に 会ったときのこと。 213 00:15:59,890 --> 00:16:03,210 その侍に 以前ほら話を 聞かせたことに気づかず→ 214 00:16:03,210 --> 00:16:06,920 もう一度 同じ話を 聞かせてしまった。 215 00:16:06,920 --> 00:16:10,040 拙者の顔を忘れたか! 216 00:16:10,040 --> 00:16:13,260 お… お待ちください! オラは医者に 斬られるのを→ 217 00:16:13,260 --> 00:16:15,210 禁じられているんです。 218 00:16:15,210 --> 00:16:18,130 そして自分の哀れな 身の上話をし始めた。 219 00:16:18,130 --> 00:16:22,580 オラは子供の頃 山で捕まえたトカゲが シッポを残して逃げるのを見て→ 220 00:16:22,580 --> 00:16:25,080 遊んでおりました。 221 00:16:27,720 --> 00:16:31,260 ところが ある日 のら仕事で使ってたナタで→ 222 00:16:31,260 --> 00:16:33,890 指先を切ってしまいました。 223 00:16:33,890 --> 00:16:38,430 まるでトカゲに祟られたような 嫌な気分になりました。 224 00:16:38,430 --> 00:16:42,380 なんと切れた指先から だんだんオラが生えてきて→ 225 00:16:42,380 --> 00:16:45,700 しまいに もう一人のオラに なってしまいました。 226 00:16:45,700 --> 00:16:49,620 それから手足の指を 切らないように用心しましたが→ 227 00:16:49,620 --> 00:16:53,550 子供から大人になると 歯が抜け落ちました。 228 00:16:53,550 --> 00:17:00,090 すると抜けた歯の一本一本から オラが生えてきたんでございます。 229 00:17:00,090 --> 00:17:04,370 そこらじゅうに散ったオラの分身は みんな ほら吹きだから→ 230 00:17:04,370 --> 00:17:08,030 なかには お侍を怒らせて ひどい目に遭った者も。 231 00:17:08,030 --> 00:17:11,750 今や国の住人の半分は オラが占めてしまい→ 232 00:17:11,750 --> 00:17:15,700 斬られること まかりならぬということに。 233 00:17:15,700 --> 00:17:20,090 侍は男の話を聞くと いったん抜いた刀を鞘に収めた。 234 00:17:20,090 --> 00:17:25,730 男は なんとか 命拾いして大慌てで町を出た。 235 00:17:25,730 --> 00:17:30,370 そして 野山を駆け 国境を越えて逃げ出した。 236 00:17:30,370 --> 00:17:34,420 国境を越えると 間もなく嵐になり→ 237 00:17:34,420 --> 00:17:37,720 男は山の荒れ寺に泊まりました。 238 00:17:42,140 --> 00:17:46,140 翌朝 嵐が通り過ぎ男は先を急いだ。 239 00:17:51,700 --> 00:17:53,710 一軒の民家を見つけた男は→ 240 00:17:53,710 --> 00:17:56,360 とっておきの ほら話を聞かせてやろうと…。 241 00:17:56,360 --> 00:17:58,360 ごめん! 242 00:17:58,360 --> 00:18:02,080 だが 中には年端もいかない娘が 一人いただけだった。 243 00:18:02,080 --> 00:18:05,450 国境の向こうから来た者だが→ 244 00:18:05,450 --> 00:18:09,040 誰か家の者はいねえか? 245 00:18:09,040 --> 00:18:13,410 男が尋ねると娘は 家族の話を始めた。 246 00:18:13,410 --> 00:18:16,760 へい オラには 歳の離れた兄さんがおりますが→ 247 00:18:16,760 --> 00:18:20,100 小さい頃から 寝小便を垂れる癖がありました。 248 00:18:20,100 --> 00:18:22,050 大して 水を飲むわけでもねえのに→ 249 00:18:22,050 --> 00:18:26,050 毎晩布団を濡らしてしまうほどの おねしょをしてしまいます。 250 00:18:26,050 --> 00:18:28,090 水を飲まねえのにそうだから→ 251 00:18:28,090 --> 00:18:30,390 うっかり水でも 飲みすぎた日の夜は→ 252 00:18:30,390 --> 00:18:32,990 布団からザーザーおねしょが流れます。 253 00:18:37,080 --> 00:18:40,050 方々の医者へ連れて行き 診てもらいましたが→ 254 00:18:40,050 --> 00:18:44,070 おねしょは一向に止まりません。 255 00:18:44,070 --> 00:18:46,060 ある年の夏 日照り続きで→ 256 00:18:46,060 --> 00:18:48,080 そこらじゅうの田んぼが→ 257 00:18:48,080 --> 00:18:50,180 干上がるという ことがございました。 258 00:18:50,180 --> 00:18:53,720 そこでおとうは 兄さんを呼びつけると→ 259 00:18:53,720 --> 00:18:57,440 一斗樽に満たした 川の水を10杯飲ませ→ 260 00:18:57,440 --> 00:19:00,440 これで干上がった田んぼを 満たして来いと言いました。 261 00:19:02,390 --> 00:19:06,080 兄さんは 夜干上がった 田んぼのあぜ道に横になると→ 262 00:19:06,080 --> 00:19:11,380 朝まで見渡す限りの田んぼを 小便で満たしたのです。 263 00:19:11,380 --> 00:19:14,820 そして 村々をまわるうち→ 264 00:19:14,820 --> 00:19:18,820 たくさん小便を垂れる技を 編み出したのでございます。 265 00:19:22,040 --> 00:19:24,050 そんなわけで 今日もどこかの田んぼを→ 266 00:19:24,050 --> 00:19:28,080 小便でいっぱいにするために 出かけているのでございます。 267 00:19:28,080 --> 00:19:33,370 そうか オラが見た田んぼの水は アンタの兄さんの小便だったのか。 268 00:19:33,370 --> 00:19:36,090 したら おど様とおが様は? 269 00:19:36,090 --> 00:19:39,690 はい。 オラのおどは 生まれつきの力持ちでした。 270 00:19:39,690 --> 00:19:42,380 だども その力も大きくなるにつれて→ 271 00:19:42,380 --> 00:19:45,080 だんだん 抑えが利かなくなってきました。 272 00:19:45,080 --> 00:19:49,390 ハ ハッ… ハクション! 273 00:19:49,390 --> 00:19:51,390 くしゃみをすれば 壁が吹き飛び。 274 00:19:53,430 --> 00:19:55,690 屁をすれば 床が抜けるというのは序の口で。 275 00:19:55,690 --> 00:20:02,180 山で斧を一振りすると山一面の 杉の木がなぎ倒されて→ 276 00:20:02,180 --> 00:20:04,370 たちまち はげ山になってしまうし。 277 00:20:04,370 --> 00:20:07,060 沖へ漁に出て 舟を漕げば→ 278 00:20:07,060 --> 00:20:09,090 櫂の一漕ぎで勢いづいた舟が→ 279 00:20:09,090 --> 00:20:12,060 異国の浜に 流れ着いてしまうほどでした。 280 00:20:12,060 --> 00:20:17,100 そういうわけで おとうは ふだんは 家にいるのですが→ 281 00:20:17,100 --> 00:20:20,700 あいにく ゆんべの嵐で 国境のお山が傾いたと聞いて→ 282 00:20:20,700 --> 00:20:24,370 割り箸1本持って 出張って行きました。 283 00:20:24,370 --> 00:20:28,440 傾いたお山に 割り箸持って 何しに行ったんじゃ? 284 00:20:28,440 --> 00:20:32,040 山を突っ張りに 行ったのでごぜえます。 285 00:20:39,040 --> 00:20:42,020 そんで おっかあですが 子だくさんの家に生まれた→ 286 00:20:42,020 --> 00:20:45,080 おっかあは 上に兄姉が23人。 287 00:20:45,080 --> 00:20:47,430 下に弟妹が 23人。 288 00:20:47,430 --> 00:20:50,780 都合47人兄弟の真ん中で→ 289 00:20:50,780 --> 00:20:54,040 小さいときから 裁縫が上手だったもんじゃから→ 290 00:20:54,040 --> 00:21:00,020 朝から晩まで兄弟の 破れた着物を繕っておりました。 291 00:21:00,020 --> 00:21:03,710 そのうち素早く縫うのはもちろん。 頑丈な針と糸さえあれば→ 292 00:21:03,710 --> 00:21:06,410 どんなものでも 縫えるようになりました。 293 00:21:06,410 --> 00:21:09,380 あるとき鉄砲水が出て→ 294 00:21:09,380 --> 00:21:11,740 大川の橋が壊れたときには→ 295 00:21:11,740 --> 00:21:15,040 針と糸で橋を 修繕したこともありました。 296 00:21:20,040 --> 00:21:24,030 ゆんべは 稲妻も暴れて 空の端っこが破れたようなので→ 297 00:21:24,030 --> 00:21:28,370 おっかあは朝から縫い針と 糸持って縫いに行っております。 298 00:21:28,370 --> 00:21:32,770 ほら吹き男は娘の話を聞いて→ 299 00:21:32,770 --> 00:21:35,410 なかなかやるもんだと感心した。 300 00:21:35,410 --> 00:21:39,400 んだんだ。 ゆんべの嵐はひどかった。 301 00:21:39,400 --> 00:21:41,470 あの大嵐で オラのところの吊り鐘が→ 302 00:21:41,470 --> 00:21:43,370 吹っ飛ばされてしまったんじゃ。 303 00:21:43,370 --> 00:21:47,060 オラは その鐘つかまえようとして 一緒に飛ばされて→ 304 00:21:47,060 --> 00:21:50,480 国境を越えた途中で 振り落とされた。 305 00:21:50,480 --> 00:21:54,050 娘は驚きもせず聞いている。 306 00:21:54,050 --> 00:21:57,400 その鐘 こっちへ飛んでこんかったか? 307 00:21:57,400 --> 00:22:00,420 ああ そういえば ゆんべは→ 308 00:22:00,420 --> 00:22:04,040 オラの家の裏のクモの巣に 何か引っかかって→ 309 00:22:04,040 --> 00:22:08,760 ガラーン ガラーンて夜中鳴って うるさくて寝られなかった。 310 00:22:08,760 --> 00:22:13,150 したら あれが お前様のところの吊り鐘だが。 311 00:22:13,150 --> 00:22:15,700 男は呆れて返す言葉もなかった。 312 00:22:15,700 --> 00:22:20,070 もうじき 兄さんもおとうも おっかあも帰ってくる頃じゃ。 313 00:22:20,070 --> 00:22:23,040 うわ~っ! 314 00:22:23,040 --> 00:22:25,510 娘がこれほど ほらを吹くのだから→ 315 00:22:25,510 --> 00:22:28,400 兄や親は どんだけほらを吹くのやら。 316 00:22:28,400 --> 00:22:34,000 尻をまくって 早々に 逃げ帰っていったということです。