1 00:01:42,750 --> 00:01:49,540 むかし 諸国を回って説教をする 和尚さんがおりました。 2 00:01:49,540 --> 00:01:52,400 あるとき寂しい山の村に行くと→ 3 00:01:52,400 --> 00:01:54,470 そこかしこの家で→ 4 00:01:54,470 --> 00:01:56,470 餅つきをしています。 5 00:02:02,360 --> 00:02:07,360 すると一軒だけ餅つきを していない家がありました。 6 00:02:07,360 --> 00:02:13,080 大きな屋敷だったが中から シクシク泣く声が聞こえてきました。 7 00:02:13,080 --> 00:02:18,040 和尚さんは なにごとかと思って その家を訪れました。 8 00:02:18,040 --> 00:02:23,090 すると家の者が娘を囲んで 泣いていたのでした。 9 00:02:23,090 --> 00:02:28,420 和尚さんは なぜ泣くのかと尋ねました。 10 00:02:28,420 --> 00:02:31,870 これから七日のうちに 向こうの山の社に→ 11 00:02:31,870 --> 00:02:35,240 生けにえを差し出さなければ なりません。 12 00:02:35,240 --> 00:02:41,700 和尚さんは驚いて どんな神様なのだと思いました。 13 00:02:41,700 --> 00:02:45,400 どんな神様か 村の者も知りませんが→ 14 00:02:45,400 --> 00:02:49,400 その古いお社の神様に 毎年 若い娘を→ 15 00:02:49,400 --> 00:02:52,040 1人ずつ供えることに なっております。 16 00:02:52,040 --> 00:02:55,060 もしお供えを欠かすと 大嵐が来て→ 17 00:02:55,060 --> 00:02:58,560 田も畑も すっかり 荒らされてしまうので→ 18 00:02:58,560 --> 00:03:03,230 村では どんなことをしても 娘を供えなければなりません。 19 00:03:03,230 --> 00:03:05,920 今年は この家の番にあたり→ 20 00:03:05,920 --> 00:03:09,560 一人娘を差し出さなければ ならないのでした。 21 00:03:09,560 --> 00:03:12,560 世の中に そんな話があるものか。 22 00:03:12,560 --> 00:03:15,210 わしが代わって 人身御供になりましょう。 23 00:03:15,210 --> 00:03:17,410 えぇ!? 24 00:03:17,410 --> 00:03:21,450 和尚さんは 化け物の正体を見てやろうと→ 25 00:03:21,450 --> 00:03:25,250 早速 その社のある山へ 登っていきました。 26 00:03:31,480 --> 00:03:35,950 和尚さんは 大きな松の木の中に隠れて→ 27 00:03:35,950 --> 00:03:38,050 夜を待ちました。 28 00:03:40,220 --> 00:03:51,870 (話し声) 29 00:03:51,870 --> 00:03:54,900 しっぺい太郎は いねえのか? 30 00:03:54,900 --> 00:03:57,570 しっぺい太郎は 今夜も来ない。 31 00:03:57,570 --> 00:04:01,440 しっぺいとは 座禅のときに坊さんが使う→ 32 00:04:01,440 --> 00:04:03,460 戒めの棒のことです。 33 00:04:03,460 --> 00:04:06,110 大将は しっぺい太郎が 来ないとわかると→ 34 00:04:06,110 --> 00:04:09,410 手下を連れて社の中に入りました。 35 00:04:11,390 --> 00:04:14,070 和尚さんが ほこらの中にいると→ 36 00:04:14,070 --> 00:04:17,710 化け物たちの歌が 聴こえてきました。 37 00:04:17,710 --> 00:04:20,910 「あのこと このこと聞かせんな」 38 00:04:20,910 --> 00:04:24,360 「しっぺい太郎に聞かせんな」 39 00:04:24,360 --> 00:04:31,970 「近江の国の長浜の しっぺい太郎に聞かせんな」 40 00:04:31,970 --> 00:04:36,430 歌の文句から化け物たちは→ 41 00:04:36,430 --> 00:04:41,030 しっぺい太郎という者を 恐れているのだと思いました。 42 00:04:41,030 --> 00:04:45,940 急いで村へ帰り わけを話すと その足でしっぺい太郎を探しに→ 43 00:04:45,940 --> 00:04:49,360 近江の国の長浜へ 出かけていきました。 44 00:04:49,360 --> 00:04:53,110 このへんに しっぺい太郎と いう人はおらんかと→ 45 00:04:53,110 --> 00:04:58,210 村の人に尋ねましたが そんな人は知らないというばかり。 46 00:05:01,390 --> 00:05:06,490 すると そこへ子牛くらいの 大きなブチ犬がやってきました。 47 00:05:10,580 --> 00:05:13,210 これ しっぺい太郎や。 48 00:05:13,210 --> 00:05:15,250 これじゃ! 49 00:05:15,250 --> 00:05:19,750 飼い主にわけを話し 犬を貸してもらうことにしました。 50 00:05:19,750 --> 00:05:23,210 村人は 生けにえを差し出す日がきても→ 51 00:05:23,210 --> 00:05:26,780 和尚さんが戻らないので 腹を立てていました。 52 00:05:26,780 --> 00:05:30,860 家では 娘を入れる長持ちを用意して→ 53 00:05:30,860 --> 00:05:35,540 白い着物を着せ 涙にくれていました。 54 00:05:35,540 --> 00:05:39,760 家の外では かわいそうだと泣く者。 55 00:05:39,760 --> 00:05:44,130 生けにえを出さねえと嵐がくると 怒り出す者が集まって→ 56 00:05:44,130 --> 00:05:46,400 騒ぎになっていました。 57 00:05:46,400 --> 00:05:50,830 和尚様が戻るまで もう少し待ってくだせえ。 58 00:05:50,830 --> 00:05:54,130 しかし 一向に帰ってくる 気配はありません。 59 00:05:59,760 --> 00:06:02,360 娘はとうとう長持ちに入れられ→ 60 00:06:02,360 --> 00:06:05,080 村人が担ぎ出そうとしていました。 61 00:06:05,080 --> 00:06:08,090 そこに息を切らした和尚さんが→ 62 00:06:08,090 --> 00:06:10,700 しっぺい太郎を 連れて戻ってきました。 63 00:06:10,700 --> 00:06:16,110 そして 娘を長持ちから出し→ 64 00:06:16,110 --> 00:06:18,710 しっぺい太郎と一緒に 自分も入りました。 65 00:06:18,710 --> 00:06:23,310 わしをこの娘の代わりに 神様に差し出してくれ。 66 00:06:26,070 --> 00:06:28,070 村人たちは 和尚さんと→ 67 00:06:28,070 --> 00:06:30,460 しっぺい太郎が入った 長持ちを担いで→ 68 00:06:30,460 --> 00:06:33,080 山の社へ運んでいきました。 69 00:06:33,080 --> 00:06:39,120 村人は 後ろも振り返らず一目散に 逃げ帰ってしまいました。 70 00:06:39,120 --> 00:06:42,070 夜中になって 闇の中から→ 71 00:06:42,070 --> 00:06:47,490 にじみ出すように化け物の影が ひとつまたひとつ現れた。 72 00:06:47,490 --> 00:06:50,380 「あのことこのこと聞かせんな」 73 00:06:50,380 --> 00:06:54,410 「しっぺい太郎に聞かせんな」 74 00:06:54,410 --> 00:06:58,030 「近江の国の長浜の」 75 00:06:58,030 --> 00:07:01,760 「しっぺい太郎に聞かせんな」 76 00:07:01,760 --> 00:07:05,760 「すってんすってん すってんてん」 77 00:07:05,760 --> 00:07:11,060 化け物の影が長持ちの蓋に 手をかけて剥がそうとしたとき…。 78 00:07:18,490 --> 00:07:21,490 はぁ~! 79 00:07:28,400 --> 00:07:33,840 次の朝 村人たちは 村外れに集まりました。 80 00:07:33,840 --> 00:07:38,390 今頃 あのお坊様も 神様に食われてしまったべな。 81 00:07:38,390 --> 00:07:40,430 お社に行ってみるべ。 82 00:07:40,430 --> 00:07:46,420 村人たちは 娘の家の主を先頭に 山に登って行きました。 83 00:07:46,420 --> 00:07:50,370 驚いたことに お堂のまわりのそこかしこに→ 84 00:07:50,370 --> 00:07:53,070 たくさんの猿が倒れていました。 85 00:07:53,070 --> 00:07:55,710 そして お堂の中にも→ 86 00:07:55,710 --> 00:07:59,460 針金のような太い毛をしたヒヒが 倒れていたのです。 87 00:07:59,460 --> 00:08:02,460 あれを見い。 88 00:08:08,460 --> 00:08:11,040 村人は 和尚さんと しっぺい太郎が→ 89 00:08:11,040 --> 00:08:14,410 山道を ようようと去っていくのを 見つけました。 90 00:08:14,410 --> 00:08:19,030 娘の父親は 和尚さんのほうを向いて→ 91 00:08:19,030 --> 00:08:22,370 黙って手を合わせました。 92 00:08:22,370 --> 00:08:27,460 それから 村には人身御供という ものはなくなって→ 93 00:08:27,460 --> 00:08:30,410 どの家もみんな安心して 暮らすことが→ 94 00:08:30,410 --> 00:08:33,410 できたということです。 95 00:08:43,910 --> 00:08:48,850 昔むかしあるところに 若い男がおりました。 96 00:08:48,850 --> 00:08:56,530 この男 甘やかされて育ったせいか どうしようもない怠け者。 97 00:08:56,530 --> 00:09:02,920 もう手に負えんと とうとう勘当されてしまった。 98 00:09:02,920 --> 00:09:06,320 勘当というのは 親と子の縁を切って→ 99 00:09:06,320 --> 00:09:08,920 家からも 追い出されるということだ。 100 00:09:12,910 --> 00:09:14,950 それで しかたがないので→ 101 00:09:14,950 --> 00:09:17,010 どこかへ奉公でもしようと 歩いていると。 102 00:09:17,010 --> 00:09:24,010 ある家の畑で大勢がエイサエイサと ゴボウ抜きをしている。 103 00:09:27,880 --> 00:09:30,080 そこで…。 104 00:09:30,080 --> 00:09:33,250 どうぞ わしを 雇ってくださいませ。 105 00:09:33,250 --> 00:09:35,600 頼むと すぐに置いてくれた。 106 00:09:35,600 --> 00:09:41,570 ある日のこと 1本の大きなゴボウが なかなか抜けずに困っていた。 107 00:09:41,570 --> 00:09:48,860 ん~ え~い! 108 00:09:48,860 --> 00:09:52,570 男は ビューッと飛ばされてしまった。 109 00:09:52,570 --> 00:09:55,250 うわ~っ! 110 00:09:55,250 --> 00:09:57,860 落ちたところが 桶屋町。 111 00:09:57,860 --> 00:10:01,580 桶ばかりが並んでいる。 そこで 1軒の桶屋に行って…。 112 00:10:01,580 --> 00:10:04,230 どうぞ 置いてくださいませ。 113 00:10:04,230 --> 00:10:06,600 頼むと すぐに置いてくれた。 114 00:10:06,600 --> 00:10:10,650 そこで 桶のたがを はめる仕事をすることになった。 115 00:10:10,650 --> 00:10:13,870 たがというのは 桶が バランバランにならんように 116 00:10:13,870 --> 00:10:16,910 周りを きっちり締めるもので 117 00:10:16,910 --> 00:10:20,240 この家では赤銅を使っていた。 118 00:10:20,240 --> 00:10:23,860 また ある日のこと 男が いつものように 119 00:10:23,860 --> 00:10:26,920 大きな桶のたがを トントンと締めていると 120 00:10:26,920 --> 00:10:31,200 どうした弾みか たがが ポンと弾けてしもうた。 121 00:10:31,200 --> 00:10:34,580 男は また ピューッと飛ばされてしもうた。 122 00:10:34,580 --> 00:10:36,740 わ~っ! 123 00:10:36,740 --> 00:10:42,230 わっ… わっ… わっ…。 124 00:10:42,230 --> 00:10:45,270 今度 落ちたのは傘屋町だった。 125 00:10:45,270 --> 00:10:49,070 傘屋が並んでいる町なんで 1軒の傘屋に行って…。 126 00:10:49,070 --> 00:10:51,560 どうか 置いてくださいませ。 127 00:10:51,560 --> 00:10:53,960 頼むと すぐ置いてくれた。 128 00:10:53,960 --> 00:10:56,560 そこで張りたての傘を 129 00:10:56,560 --> 00:10:59,900 日に干す役をすることになった。 130 00:10:59,900 --> 00:11:04,890 だもんで 毎日 毎日 張りたての傘を日に干していた。 131 00:11:04,890 --> 00:11:07,570 またまた ある日のこと。 132 00:11:07,570 --> 00:11:10,260 干してあった大唐傘を 畳もうとすると 133 00:11:10,260 --> 00:11:12,860 にわかに つむじ風が起こって…。 134 00:11:15,570 --> 00:11:17,570 傘を持ったまんま 135 00:11:17,570 --> 00:11:22,870 男を ピューッと 空高く吹き上げてしまった。 136 00:11:22,870 --> 00:11:26,560 しっかり傘の柄に つかまっていると 137 00:11:26,560 --> 00:11:29,560 とうとう 天まで飛ばされてしまった。 138 00:11:34,900 --> 00:11:38,960 フワフワの雲の上を歩いていくと 向こうに明かりが見えた。 139 00:11:38,960 --> 00:11:40,960 あっ! 140 00:11:43,890 --> 00:11:46,890 やれ 嬉しや。 141 00:11:57,270 --> 00:12:00,270 行ってみると 1軒の家があった。 142 00:12:02,250 --> 00:12:05,350 中には 女が1人いて 糸を織っていた。 143 00:12:08,570 --> 00:12:11,940 置いてくださいませ。 144 00:12:11,940 --> 00:12:13,870 わ~っ!! 145 00:12:13,870 --> 00:12:17,060 ここは雷様の家じゃが 今 留守だもんでさ。 146 00:12:17,060 --> 00:12:20,260 帰ってきたら聞いてあげようかね。 147 00:12:20,260 --> 00:12:24,890 しばらくすると 雷様が戻ってきた。 148 00:12:24,890 --> 00:12:29,410 雷様の女房が訳を話すと…。 149 00:12:29,410 --> 00:12:32,390 そんなら 毎日 わしのあとから ついてきて 150 00:12:32,390 --> 00:12:34,390 雨 降らす役をやれ。 151 00:12:42,240 --> 00:12:44,910 そこで毎日。 雷様が出かけると 152 00:12:44,910 --> 00:12:48,880 そのあとを 鉢に水を入れて ついていった。 153 00:12:48,880 --> 00:12:51,340 ゴロゴロゴロ… 雨じゃ。 154 00:12:51,340 --> 00:12:55,530 というと 鉢の水を パッパとまいてやった。 155 00:12:55,530 --> 00:12:57,570 下界では…。 156 00:12:57,570 --> 00:12:59,570 いや 雨じゃ! 夕立じゃ! 157 00:12:59,570 --> 00:13:02,220 あちこちで大騒ぎになる。 158 00:13:02,220 --> 00:13:05,590 男は それを見るのが おもしろくて しかたなかった。 159 00:13:05,590 --> 00:13:07,860 また ある日のこと。 160 00:13:07,860 --> 00:13:09,910 雨じゃ。 161 00:13:09,910 --> 00:13:14,300 雷様の合図で 鉢の水を パッパ パッパ パッパ パッパ。 162 00:13:14,300 --> 00:13:17,200 下界では 雨じゃと大騒ぎ。 163 00:13:17,200 --> 00:13:19,860 もっと降らしたら どうなるじゃろと 164 00:13:19,860 --> 00:13:22,230 足を踏み出した途端に…。 165 00:13:22,230 --> 00:13:26,350 わ~っ!! 166 00:13:26,350 --> 00:13:28,870 《やれ… しもうた…》 167 00:13:28,870 --> 00:13:32,590 と思っていると 海に どぼんと落ちた。 168 00:13:32,590 --> 00:13:35,920 ブクブクブク… と沈んでいくと…。 169 00:13:35,920 --> 00:13:39,290 竜宮城があった。 そこで…。 170 00:13:39,290 --> 00:13:42,730 どうか 置いてくださいませ…。 171 00:13:42,730 --> 00:13:47,230 ちょうど庭掃きがおらんで 困ってるから置いてやろ。 172 00:13:49,240 --> 00:13:52,260 やれ 嬉しやと思っていると…。 173 00:13:52,260 --> 00:13:54,860 けれども ひとつ 言うとくことがある。 174 00:13:54,860 --> 00:13:56,880 はあ 何でしょう? 175 00:13:56,880 --> 00:14:00,900 庭を掃いておると 上のほうから うまそうなもんが→ 176 00:14:00,900 --> 00:14:04,200 たくさん下がってくるが 決して 食うてはいかん。 177 00:14:04,200 --> 00:14:06,420 わかったな? わかりやした。 178 00:14:06,420 --> 00:14:10,370 それで 竜宮城の庭を掃いていると→ 179 00:14:10,370 --> 00:14:14,230 なるほど 上のほうから うまそうなもんが下がってくる。 180 00:14:14,230 --> 00:14:18,650 どうかすると 口の端に ついつい… と当たったりする。 181 00:14:18,650 --> 00:14:21,590 初めのうちは 言われたとおり辛抱していたが→ 182 00:14:21,590 --> 00:14:23,890 だんだん 腹がへってくる。 183 00:14:26,240 --> 00:14:29,610 だもんで つい…。 184 00:14:29,610 --> 00:14:31,910 ひと口食ってしまった。 185 00:14:31,910 --> 00:14:38,100 すると キリキリキリ… と上へ上へと 引き上げられてしまった。 186 00:14:38,100 --> 00:14:40,900 《やれ しもうた!》 187 00:14:43,910 --> 00:14:46,260 舟の中に釣り上げられた。 188 00:14:46,260 --> 00:14:48,550 舟には大勢 漁師がいて…。 189 00:14:48,550 --> 00:14:50,580 人魚が釣れた! 190 00:14:50,580 --> 00:14:53,220 大騒ぎになった。 191 00:14:53,220 --> 00:14:56,120 ま… 待ってくださいませ。 192 00:14:56,120 --> 00:14:58,870 そう言って 男は ゴボウ抜きから→ 193 00:14:58,870 --> 00:15:02,410 竜宮の庭掃きになるまでの話を 語った。 194 00:15:02,410 --> 00:15:05,230 そりゃ えらいことじゃったのう。 195 00:15:05,230 --> 00:15:09,620 漁師はすっかり感心して 国まで送ってくれたそうな。 196 00:15:09,620 --> 00:15:12,740 それで こわごわ 家に帰って…。 197 00:15:12,740 --> 00:15:16,870 おらも いろいろあったから 怠け心は捨ててきた。 198 00:15:16,870 --> 00:15:22,230 そう言うと 家に戻れることになった。 199 00:15:22,230 --> 00:15:24,970 それからは甘えることもなく→ 200 00:15:24,970 --> 00:15:30,970 言うことをきいて よ~く働くようになったという。 201 00:15:43,560 --> 00:15:50,560 昔むかし あるところに それはそれは無精な男がいた。 202 00:15:50,560 --> 00:15:55,120 (いびき) 203 00:15:55,120 --> 00:15:58,240 何しろ 横のものを縦にもしない。 204 00:15:58,240 --> 00:16:01,560 ごろ~んと横になったら もう動かない。 205 00:16:01,560 --> 00:16:05,650 厠へ行くのも面倒という無精者。 206 00:16:05,650 --> 00:16:09,650 これには おかみさんも ほとほと困っていた。 207 00:16:14,600 --> 00:16:17,690 朝 起きても 着替えるのも面倒。 208 00:16:17,690 --> 00:16:20,560 お母 仕事に行ってくる。 209 00:16:20,560 --> 00:16:24,280 仕事に行くのに 寝巻きのまんまでどうすんだよ! 210 00:16:24,280 --> 00:16:26,930 さぁ 着替えて 着替えて。 211 00:16:26,930 --> 00:16:31,940 しようがないので おかみさんが 着替えさせてやる始末。 その上…。 212 00:16:31,940 --> 00:16:34,620 朝ごはん こさえてあるから 食べてきなよ! 213 00:16:34,620 --> 00:16:40,560 朝から箸なんぞ 面倒でいけねえ。 しようがないねぇ…。 214 00:16:40,560 --> 00:16:44,170 ほ~ら おむすびを 作ってあげたからさ。 215 00:16:44,170 --> 00:16:46,170 ほれ! あ~ん! 216 00:16:49,560 --> 00:16:51,810 はいよ。 217 00:16:51,810 --> 00:16:54,810 とまあ 万事がこんな調子。 218 00:16:59,120 --> 00:17:02,620 それでも 仕事にだけは ちゃんと出かけた。 219 00:17:04,890 --> 00:17:09,160 と言っても 道端に店を出す古道具屋で→ 220 00:17:09,160 --> 00:17:12,160 1日中 寝そべったまま。 221 00:17:14,300 --> 00:17:17,720 道具屋さん そこのノミ 見せてくんな。 222 00:17:17,720 --> 00:17:20,020 自分で取れや。 223 00:17:23,340 --> 00:17:26,640 もらっていくぜ。 銭は そこへ置いていけ。 224 00:17:30,400 --> 00:17:32,600 釣りをくんな。 225 00:17:32,600 --> 00:17:35,620 そこに 前の客の 置いてった銭があるから→ 226 00:17:35,620 --> 00:17:38,620 そこから取ってけ。 ヘッ! あばよ! 227 00:17:40,610 --> 00:17:43,210 自分では な~んにもしない。 228 00:17:45,580 --> 00:17:47,560 ある日のこと。 229 00:17:47,560 --> 00:17:52,570 男は 古道具屋の親方の大事な用で 出かけることになった。 230 00:17:52,570 --> 00:17:55,620 そこで おかみさんは 弁当をこさえて 231 00:17:55,620 --> 00:17:57,590 背に負わせてやった。 232 00:17:57,590 --> 00:18:01,660 お昼には これ 食べんだよ。 わかった。 233 00:18:01,660 --> 00:18:05,570 親方の大事な用なんだから ちゃんと済ましておいでよ。 234 00:18:05,570 --> 00:18:08,270 面倒じゃな…。 235 00:18:08,270 --> 00:18:12,690 そんなこと 言ってないで しっかり 行っといで! 236 00:18:12,690 --> 00:18:14,610 あぁ…。 237 00:18:14,610 --> 00:18:21,100 おかみさんに背中を押されて 男は大儀そうに出かけていった。 238 00:18:21,100 --> 00:18:24,120 とっと とっとと歩いていく。 239 00:18:24,120 --> 00:18:29,960 はぁ… こうやって歩き出すと 止まるのも面倒じゃな。 240 00:18:29,960 --> 00:18:34,560 そう言って とっと とっとと歩いていく。 241 00:18:38,280 --> 00:18:41,900 そのうちに昼飯どきになった。 242 00:18:41,900 --> 00:18:43,940 (お腹が鳴る音) 243 00:18:43,940 --> 00:18:49,910 あぁ… 腹 減ってきたけんども 弁当は背中か。 244 00:18:49,910 --> 00:18:51,910 面倒じゃな。 245 00:18:51,910 --> 00:18:55,950 男は 背中の弁当を下ろすのも 面倒で しようがない。 246 00:18:55,950 --> 00:18:59,570 歩き出したものを止めるのも 面倒くさい。 247 00:18:59,570 --> 00:19:05,660 なので フラフラ フラフラしながら とっと とっとと歩き続けた。 248 00:19:05,660 --> 00:19:10,900 すると 笠をかぶった男が 大きな口を開けて 249 00:19:10,900 --> 00:19:14,350 フーラフーラと追い抜いていった。 250 00:19:14,350 --> 00:19:18,290 あぁ アイツも腹が減っとんのじゃな。 251 00:19:18,290 --> 00:19:20,890 おい! そこ行く旦那。 252 00:19:20,890 --> 00:19:23,940 腹 減っとんのなら 弁当 背負うておるで 253 00:19:23,940 --> 00:19:26,610 下ろしてくれたら 半分 やろうか? 254 00:19:26,610 --> 00:19:30,580 なに… わしは笠の緒が 緩んだだけじゃけど 255 00:19:30,580 --> 00:19:32,900 結ぶのが大儀なんじゃ。 256 00:19:32,900 --> 00:19:36,920 それで 口を大きく開けて 笠を押さえておるんじゃ。 257 00:19:36,920 --> 00:19:39,610 それなのに 人の弁当を下ろすような 258 00:19:39,610 --> 00:19:41,730 大儀なこと できるか! 259 00:19:41,730 --> 00:19:46,230 はは~ん… お前も 相当な無精もんじゃな。 260 00:19:46,230 --> 00:19:48,220 そういうお前もか? 261 00:19:48,220 --> 00:19:52,890 あぁ 歩き出したら 止まるのも おっくうなんじゃ。 262 00:19:52,890 --> 00:19:54,960 そりゃ わしもじゃ。 263 00:19:54,960 --> 00:19:58,230 誰か 弁当 下ろしてくれんかな。 264 00:19:58,230 --> 00:20:01,730 誰か 笠の緒 結ってくれんか。 265 00:20:01,730 --> 00:20:07,120 2人して フーラフラ とっと とっとと歩いていった。 266 00:20:07,120 --> 00:20:11,560 すると ダーラダラ ダーラダラ 足を引きずるように 267 00:20:11,560 --> 00:20:14,610 ゆっくり歩いている ひも売りに出会った。 268 00:20:14,610 --> 00:20:18,230 そこで 2人は ひも売りに頼むことにした。 269 00:20:18,230 --> 00:20:22,940 おぉ お前さん わしの背中の弁当 下ろしてくれんかのう? 270 00:20:22,940 --> 00:20:26,340 笠の緒 緩んだの 結んでくれんかのう? 271 00:20:26,340 --> 00:20:28,220 なんも。 272 00:20:28,220 --> 00:20:32,960 わしは 下駄の緒が切れたんで ゆっくり 歩いておるんじゃ。 273 00:20:32,960 --> 00:20:36,930 ひも売りなら 下駄の緒 すげる ひもなら あろうに。 274 00:20:36,930 --> 00:20:41,240 なんも。 ひもは あるが すげるのが大儀なんじゃ。 275 00:20:41,240 --> 00:20:44,240 はは~ん… お前も無精者か。 276 00:20:44,240 --> 00:20:47,260 そういうアンタらもか? 277 00:20:47,260 --> 00:20:51,260 あぁ そうじゃ。 誰か 弁当 下ろしてくれんかのう。 278 00:20:51,260 --> 00:20:54,920 笠の緒 結うてくれんかのう。 279 00:20:54,920 --> 00:21:00,920 3人して ダーラダラ フーラフラ 歩いていった。 280 00:21:03,010 --> 00:21:07,010 やがて 日も西に傾いた頃。 281 00:21:09,270 --> 00:21:12,270 あとから おかみさんが追いついてきた。 282 00:21:12,270 --> 00:21:15,910 お前さん まだ こんなとこ 歩いてたんだね。 283 00:21:15,910 --> 00:21:21,560 あぁ 同輩に会うたで 止まるのも 面倒だと 一緒に歩いておった。 284 00:21:21,560 --> 00:21:25,600 同輩って 揃いも揃って 無精者なのかい? 285 00:21:25,600 --> 00:21:28,570 (3人)あぁ。 ん? 286 00:21:28,570 --> 00:21:30,600 おかみさんは 男が 287 00:21:30,600 --> 00:21:33,910 出かけたときと同じ格好なのに 気がついた。 288 00:21:33,910 --> 00:21:38,910 はは~ん… お前さん 背中の弁当 下ろすのも 面倒なんだね。 289 00:21:38,910 --> 00:21:41,230 よう わかったな。 290 00:21:41,230 --> 00:21:45,640 それから 笠をかぶって 大きな口を開けた男を見た。 291 00:21:45,640 --> 00:21:49,610 そっちの人は笠の緒を結ぶのが 面倒なんだろう? 292 00:21:49,610 --> 00:21:52,280 あぁ よう わかったな。 293 00:21:52,280 --> 00:21:56,750 しまいに ダーラダラ歩いていた ひも売りを見た。 294 00:21:56,750 --> 00:21:58,770 ひも売りさんは ひもがあるのに 295 00:21:58,770 --> 00:22:01,740 下駄の緒をすげるのが 面倒なんだろ? 296 00:22:01,740 --> 00:22:04,620 あぁ よう わかったな。 297 00:22:04,620 --> 00:22:07,270 まったく! 揃いも揃って…。 298 00:22:07,270 --> 00:22:10,910 おかみさんは あきれて 3人を見た。 299 00:22:10,910 --> 00:22:13,260 そんなに無精ばっかりしてたら 300 00:22:13,260 --> 00:22:15,570 アンタら1人じゃ なんも できないだろ? 301 00:22:15,570 --> 00:22:18,620 アハハハ… 心配ねえだ。 302 00:22:18,620 --> 00:22:20,950 どういうことだい? 303 00:22:20,950 --> 00:22:24,270 だから わしは お前を嫁にもらったんじゃ。 304 00:22:24,270 --> 00:22:26,290 まぁ! 305 00:22:26,290 --> 00:22:29,280 なるほど。 306 00:22:29,280 --> 00:22:33,580 (カラスの鳴き声)