1 00:01:45,290 --> 00:01:52,020 とある村はずれに 一軒の古い家があった。 2 00:01:52,020 --> 00:01:55,620 家には お爺さんと お婆さんが→ 3 00:01:55,620 --> 00:01:59,220 たいそう立派な馬を飼って 暮らしていた。 4 00:01:59,220 --> 00:02:04,320 貧しかったが この馬だけは 自慢の馬でした。 5 00:02:07,800 --> 00:02:10,390 ある夜のこと→ 6 00:02:10,390 --> 00:02:14,190 馬盗人が この馬を盗もうと 家に忍び込んだ。 7 00:02:17,030 --> 00:02:20,200 また こちらでは狼が お爺さんと お婆さんを→ 8 00:02:20,200 --> 00:02:24,500 食ってしまおうと 馬の飼い葉の中に隠れていた。 9 00:02:26,720 --> 00:02:31,020 《爺さんと婆さん 早く寝てしまわぬかな》 10 00:02:33,310 --> 00:02:36,360 (あくび) 11 00:02:36,360 --> 00:02:38,460 お爺さん お爺さん。 12 00:02:38,460 --> 00:02:42,020 この世で いちばん恐ろしいものは 何じゃろう? 13 00:02:42,020 --> 00:02:44,170 そりゃあ 盗人じゃろう。 14 00:02:44,170 --> 00:02:47,540 何もかも 持って行ってしまうのじゃから。 15 00:02:47,540 --> 00:02:49,470 《そうだろう そうだろう。 16 00:02:49,470 --> 00:02:52,130 いちばん恐ろしいのは この俺様だ》 17 00:02:52,130 --> 00:02:57,350 いやいや お爺さん。 盗人より恐ろしいのは狼だで。 18 00:02:57,350 --> 00:03:00,300 なんせ命までとられてしまうで。 19 00:03:00,300 --> 00:03:05,020 《そうだろう この世でいちばん 恐ろしいのは この俺様だ》 20 00:03:05,020 --> 00:03:09,680 いやいや 盗人より狼より 恐ろしいものがある。 21 00:03:09,680 --> 00:03:12,010 (2人)んっ? 22 00:03:12,010 --> 00:03:17,150 盗人より狼より 恐ろしいものって何ですね? 23 00:03:17,150 --> 00:03:20,510 それは→ 24 00:03:20,510 --> 00:03:23,130 ふるやのもりじゃ。 25 00:03:23,130 --> 00:03:25,790 カァー カァー 26 00:03:25,790 --> 00:03:29,700 本当に ふるやのもりほど 恐ろしいものはない! 27 00:03:29,700 --> 00:03:32,350 うん! 28 00:03:32,350 --> 00:03:36,370 盗人より狼より恐ろしい ふるやのもりって→ 29 00:03:36,370 --> 00:03:38,470 いったい どんなヤツだろう? 30 00:03:41,130 --> 00:03:45,230 今夜あたり ふるやのもりが きそうじゃな。 31 00:03:45,230 --> 00:03:47,530 (おびえる声) 32 00:03:52,220 --> 00:03:54,970 (2人)ギャー! 33 00:03:54,970 --> 00:04:01,180 ふるやのもりじゃ! ホントに ふるやのもりがきよった! 34 00:04:01,180 --> 00:04:03,130 《2人:こりゃいかん! 35 00:04:03,130 --> 00:04:07,350 盗人より狼より恐ろしい ふるやのもりがきたんだ!》 36 00:04:07,350 --> 00:04:09,840 わぁ~! 37 00:04:09,840 --> 00:04:12,620 わぁ!? わぁ!? わぁ~! 38 00:04:12,620 --> 00:04:15,180 ふるやのもりに捕まった! 39 00:04:15,180 --> 00:04:19,400 狼を馬だと勘違いした盗人は…。 40 00:04:19,400 --> 00:04:21,500 この馬 離すものか! 41 00:04:27,670 --> 00:04:30,890 その頃 家の中では お爺さんとお婆さんが→ 42 00:04:30,890 --> 00:04:35,190 桶やらタライやらを持って 雨漏りで大忙し。 43 00:04:37,850 --> 00:04:40,790 ほんに ふるやのもりは恐ろしい。 44 00:04:40,790 --> 00:04:43,520 はぁ~ まったくじゃ。 45 00:04:43,520 --> 00:04:47,930 ふるやのもり というのは 古い家の雨漏りのことだった。 46 00:04:47,930 --> 00:04:53,380 そんなこととは知らず 背中に盗人を乗せた狼は→ 47 00:04:53,380 --> 00:04:56,680 真っ暗な雨の中を 必死に走っている。 48 00:05:02,140 --> 00:05:05,560 《森に戻ろうか いや そんなことをしたら→ 49 00:05:05,560 --> 00:05:07,860 仲間まで ふるやのもりに 食われてしまう!》 50 00:05:11,470 --> 00:05:15,370 《よい馬じゃ! 離してなるものか!》 51 00:05:15,370 --> 00:05:18,470 《ふるやのもりに 食われてなるものか!》 52 00:05:21,980 --> 00:05:24,880 わぁ~! 53 00:05:24,880 --> 00:05:26,880 わっ! 54 00:05:29,350 --> 00:05:33,350 わっ! あぁ~!! 55 00:05:37,010 --> 00:05:41,010 狼は 遠ざかる ふるやのもりの 声を聞くやいなや→ 56 00:05:41,010 --> 00:05:48,190 仲間たちの待つ森へと 一目散に逃げ帰った。 57 00:05:48,190 --> 00:05:52,810 さて あくる日のこと 狼は昨日のできごとを→ 58 00:05:52,810 --> 00:05:57,510 森の仲間たちに話して聞かせた。 59 00:05:57,510 --> 00:06:00,650 いや もう恐ろしいこと。 60 00:06:00,650 --> 00:06:04,350 ふるやのもりというヤツは 本当に恐ろしいヤツだ~! 61 00:06:04,350 --> 00:06:07,990 けど ふるやのもりなんて 聞いたことないのう。 62 00:06:07,990 --> 00:06:11,010 猿どんなら 物知りだから知っておろう。 63 00:06:11,010 --> 00:06:14,430 オイラも聞いたことないぞ。 ふるやのもりなど。 64 00:06:14,430 --> 00:06:17,400 ともかく恐ろしいヤツなんだ。 65 00:06:17,400 --> 00:06:21,400 よし どんだけ恐ろしいか 見に行ってみよう。 66 00:06:28,630 --> 00:06:33,380 俺が ふるやのもりを 振り払ったのはこのあたりだ。 67 00:06:33,380 --> 00:06:35,380 何もおらんぞ。 68 00:06:38,320 --> 00:06:42,020 おや こんなところに 井戸があるぞ。 69 00:06:42,020 --> 00:06:44,960 落ちていくような声がしたから ここかもしれん。 70 00:06:44,960 --> 00:06:49,010 のぞいて見たが 井戸の中は暗くて何も見えない。 71 00:06:49,010 --> 00:06:51,030 よし。 72 00:06:51,030 --> 00:06:54,970 猿どんは 長い尻尾を 井戸の中に垂らしてみた。 73 00:06:54,970 --> 00:07:00,010 暗い井戸の中では盗人が 途方に暮れていた。 74 00:07:00,010 --> 00:07:04,660 《こんな深い井戸に落ちて もう助からないかもしれん》 75 00:07:04,660 --> 00:07:08,300 そう思ったときに上から スルスルと降りてきたのは 76 00:07:08,300 --> 00:07:11,290 猿どんの長い尻尾だった。 77 00:07:11,290 --> 00:07:14,020 コイツにつかまれば。 78 00:07:14,020 --> 00:07:16,960 はっ! 何かが オイラの尻尾つかんだぞ。 79 00:07:16,960 --> 00:07:20,700 ふるやのもりだ つかまったら食われるぞ! 80 00:07:20,700 --> 00:07:22,660 あ~ 引っ張っておる。 81 00:07:22,660 --> 00:07:24,630 俺につかまれ。 82 00:07:24,630 --> 00:07:27,000 猿どんは狼につかまって 踏ん張った。 83 00:07:27,000 --> 00:07:30,370 井戸の底では 盗人も必死。 84 00:07:30,370 --> 00:07:33,680 猿どんの尻尾につかまり 這い上がろうとしている。 85 00:07:33,680 --> 00:07:37,680 あ~ 引きずりこまれる! 86 00:07:37,680 --> 00:07:41,380 猿どんも ふるやのもりに つかまってなるものかと 87 00:07:41,380 --> 00:07:43,380 顔を真っ赤にした。 88 00:07:46,390 --> 00:07:51,990 上からも下からも猿どんの 尻尾を引っ張っているうちに…。 89 00:07:54,010 --> 00:07:56,330 とうとう ちょん切れてしまった。 90 00:07:56,330 --> 00:07:58,630 (2人)逃げろ! 91 00:08:06,360 --> 00:08:08,390 いや 恐ろしかった。 92 00:08:08,390 --> 00:08:12,000 まったく ふるやのもりほど 恐ろしいものはない。 93 00:08:12,000 --> 00:08:15,680 あれ 尻尾が ちょん切れてしもうた。 94 00:08:15,680 --> 00:08:20,780 それに 猿どん 顔が真っ赤っかだ。 95 00:08:25,810 --> 00:08:32,410 そういうわけで 猿の顔は赤く 尻尾は短いのだそうです。 96 00:08:42,850 --> 00:08:47,810 ある村に とても仲のいい 長者の子と 97 00:08:47,810 --> 00:08:50,180 貧しい家の子がいました。 98 00:08:50,180 --> 00:08:56,880 ある日 山向こうの庄屋さんに 届け物のおつかいを頼まれて 99 00:08:56,880 --> 00:08:59,180 2人は連れだって出かけました。 100 00:09:01,850 --> 00:09:04,510 そして 無事に おつかいをすませると 101 00:09:04,510 --> 00:09:08,160 帰りは近道をしようと 山越えをすることにしました。 102 00:09:08,160 --> 00:09:12,760 ところが 2人は 山のなかで 道に迷ってしまいました。 103 00:09:23,840 --> 00:09:28,900 このままでは 野宿を するしかないかと思い始めた頃…。 104 00:09:28,900 --> 00:09:30,820 (2人)あ! 105 00:09:30,820 --> 00:09:34,520 あそこに家がある。 うん 行ってみよう。 106 00:09:34,520 --> 00:09:38,920 こんばんは こんばんは。 107 00:09:38,920 --> 00:09:42,840 道に迷って困っています。 108 00:09:42,840 --> 00:09:45,510 どうか一晩 泊めていただけませんか。 109 00:09:45,510 --> 00:09:48,520 おお それはお困りじゃろう。 110 00:09:48,520 --> 00:09:50,790 さぁ お入りなされ。 111 00:09:50,790 --> 00:09:55,070 こうして2人は 親切なお婆さんの家に 112 00:09:55,070 --> 00:09:58,070 泊めてもらうことになりました。 113 00:10:07,470 --> 00:10:11,160 そっと 隣の部屋を のぞいてみると 114 00:10:11,160 --> 00:10:16,180 お婆さんが 囲炉裏の灰を 灰かきで ならしていました。 115 00:10:16,180 --> 00:10:20,520 それから その灰の上に種をまきました。 116 00:10:20,520 --> 00:10:25,470 すると 種は みるみる育って 稲穂になったではありませんか。 117 00:10:25,470 --> 00:10:27,510 あっ…。 118 00:10:27,510 --> 00:10:30,140 お婆さんは その稲を刈り取り 119 00:10:30,140 --> 00:10:32,890 石臼でひいて 粉にしました。 120 00:10:32,890 --> 00:10:36,890 それから その粉をこねて 団子を作りはじめました。 121 00:10:43,290 --> 00:10:46,010 イヒヒヒヒ…。 122 00:10:46,010 --> 00:10:50,500 《もしや… いつか村の爺ちゃんの 言っていた馬食いババア…》 123 00:10:50,500 --> 00:10:53,800 山道に迷った旅人を泊めては 124 00:10:53,800 --> 00:10:57,720 怪しげな団子を食わして 馬に変えてしまうんじゃ。 125 00:10:57,720 --> 00:11:00,620 なんでも その馬を食って 126 00:11:00,620 --> 00:11:03,680 200年も生きてるそうじゃ。 127 00:11:03,680 --> 00:11:07,150 あの山の近くの村では 馬食いババアといって 128 00:11:07,150 --> 00:11:10,830 みんな恐れているそうじゃよ 129 00:11:10,830 --> 00:11:15,500 《間違いない。 この家の婆さんは馬食いババアだ…。 130 00:11:15,500 --> 00:11:17,870 大変だ…。 131 00:11:17,870 --> 00:11:20,870 夜が明けたら すぐに逃げよう…》 132 00:11:25,180 --> 00:11:30,840 さあ おいしいお団子じゃ。 たくさん食べなされ。 133 00:11:30,840 --> 00:11:32,840 しまった! 134 00:11:32,840 --> 00:11:34,790 いただきます。 135 00:11:34,790 --> 00:11:37,180 ダメだ! 食っちゃいかん!! 136 00:11:37,180 --> 00:11:39,560 ええい さっさと食わんか! 137 00:11:39,560 --> 00:11:41,600 ああっ…。 138 00:11:41,600 --> 00:11:44,880 お前も… 食うんじゃ! 139 00:11:44,880 --> 00:11:46,880 (馬のいななき) 140 00:11:48,900 --> 00:11:50,900 (馬のいななき) 141 00:11:52,910 --> 00:11:57,510 貧しい家の子供は 家を飛び出して 無我夢中で走りました。 142 00:12:00,300 --> 00:12:08,960 ハア… ハア… ハア…。 143 00:12:08,960 --> 00:12:11,510 どうかしたかな? 144 00:12:11,510 --> 00:12:14,180 お坊さん 助けてください! 145 00:12:14,180 --> 00:12:17,150 いったい どうしたというのじゃ? 146 00:12:17,150 --> 00:12:19,800 子供は 訳を話しました。 147 00:12:19,800 --> 00:12:22,500 う~ん… よいか。 148 00:12:22,500 --> 00:12:27,460 この道を ずっと行くと 大きなナス畑が見えてくる。 149 00:12:27,460 --> 00:12:31,850 夜明け方 昇る朝日に向かって 7つの実をつける 150 00:12:31,850 --> 00:12:34,480 ありがたいナスがある。 151 00:12:34,480 --> 00:12:38,780 それを友達に食べさせれば 元の姿に戻るじゃろう。 152 00:12:40,890 --> 00:12:43,390 あっ ナス畑だ! 153 00:12:46,180 --> 00:12:49,180 夜明けまでに まだ間があるが 154 00:12:49,180 --> 00:12:52,180 食われてしまわんだろうか? 155 00:12:59,840 --> 00:13:02,840 夜も白々と明けはじめた頃 156 00:13:02,840 --> 00:13:06,510 子供は目を覚まして 早速 探しはじめました。 157 00:13:06,510 --> 00:13:11,170 でも 探しても探しても あるのは普通のナスばかり。 158 00:13:11,170 --> 00:13:14,170 とうとう その日は 見つかりませんでした。 159 00:13:18,190 --> 00:13:21,800 次の日も 7つの実をつけるという ありがたいナスは 160 00:13:21,800 --> 00:13:25,180 見つかりませんでした。 161 00:13:25,180 --> 00:13:28,170 3日たち 4日たち 162 00:13:28,170 --> 00:13:31,270 そして 7日目の夜明けのこと。 163 00:13:34,860 --> 00:13:36,860 あった! 164 00:13:40,850 --> 00:13:43,920 ありがたいナスを見つけた子供は 165 00:13:43,920 --> 00:13:46,920 山に向かって必死に走りました。 166 00:13:53,210 --> 00:13:56,810 ハア… ハア… ハア… ああ 無事だった…。 167 00:14:05,510 --> 00:14:08,680 よかった。 さぁ このナスを食べるんだ。 168 00:14:08,680 --> 00:14:11,330 これを食べると 元の姿に戻れるんだ。 169 00:14:11,330 --> 00:14:15,830 馬になった長者の子は 差し出されたナスを食べました。 170 00:14:23,490 --> 00:14:25,790 (いななき) 171 00:14:28,460 --> 00:14:30,870 あっ 戻った! 172 00:14:30,870 --> 00:14:33,370 さぁ 早く逃げよう! 173 00:14:40,530 --> 00:14:43,800 さて そろそろ 食うとするか。 174 00:14:43,800 --> 00:14:46,350 ヒッヒッヒ…。 175 00:14:46,350 --> 00:14:50,270 あ~っ! 逃げられた! 176 00:14:50,270 --> 00:14:54,270 腹がへって 死にそうじゃ~! 177 00:14:56,860 --> 00:15:01,830 こうして 2人はようやく 村に帰ることができました。 178 00:15:01,830 --> 00:15:07,840 そして 遅い帰りを心配していた 長者は 2人から話を聞き…。 179 00:15:07,840 --> 00:15:12,820 そうだったのか。 お前は 息子の命の恩人じゃ。 180 00:15:12,820 --> 00:15:17,800 貧しい家の子は お礼に 広い畑をもらいました。 181 00:15:17,800 --> 00:15:23,500 おかげで 貧しい親子の暮らしは とても楽になりました。 182 00:15:23,500 --> 00:15:27,170 お~い! 183 00:15:27,170 --> 00:15:32,770 そして2人は いつまでも 助け合う友となったそうです。 184 00:15:41,160 --> 00:15:43,830 昔むかし あるところに 185 00:15:43,830 --> 00:15:47,130 名人と呼ばれる絵描きが おりました。 186 00:15:47,130 --> 00:15:54,340 若い頃 高名な絵師に絵を学び その後は旅に出て 187 00:15:54,340 --> 00:15:59,250 絵を売り歩きながら 修業を続けました。 188 00:15:59,250 --> 00:16:02,970 たまたま この町で描いた絵が 長者に気に入られ 189 00:16:02,970 --> 00:16:05,880 ここに住み着くことになりました。 190 00:16:05,880 --> 00:16:12,310 注文を受けて 扇や掛け軸 屏風などに絵を描きました。 191 00:16:12,310 --> 00:16:14,840 その絵は評判を呼んで 192 00:16:14,840 --> 00:16:18,300 やがて 寺や神社からも 注文を受けて 193 00:16:18,300 --> 00:16:22,850 襖や天井に 絵を描くようになりました。 194 00:16:22,850 --> 00:16:26,960 ある日 町外れの寺から帰るとき 195 00:16:26,960 --> 00:16:31,190 のら仕事から戻る男に 出会いました。 196 00:16:31,190 --> 00:16:35,980 この男 生まれてこのかた 絵描きに会ったことがありません。 197 00:16:35,980 --> 00:16:40,780 そこで 絵描きという仕事が どんなものか聞き始めました。 198 00:16:44,340 --> 00:16:46,480 そして 男に 199 00:16:46,480 --> 00:16:50,200 別の日に仕事場に 訪ねてくるように言いました。 200 00:16:50,200 --> 00:16:52,830 約束の日。 201 00:16:52,830 --> 00:16:56,820 仕事場へ男が訪ねてきました。 202 00:16:56,820 --> 00:16:59,540 部屋に揃った さまざまな道具は 203 00:16:59,540 --> 00:17:02,840 男には どれも珍しいものばかりでした。 204 00:17:05,180 --> 00:17:08,560 これは なんじゃ? よくわからんのう。 205 00:17:08,560 --> 00:17:13,000 今 木こりの絵を描いてほしいと 注文がきておる。 206 00:17:13,000 --> 00:17:16,490 これからしばらく その絵にかかるから 見るがええ。 207 00:17:16,490 --> 00:17:21,790 絵ができるまで 男が 仕事場にいることを許しました。 208 00:17:24,180 --> 00:17:27,800 仕事は 紙を選ぶことから始まりました。 209 00:17:27,800 --> 00:17:31,220 幾枚も揃えた紙の中から 210 00:17:31,220 --> 00:17:34,220 めぼしいものを 板の間に広げました。 211 00:17:38,130 --> 00:17:42,850 紙 1枚選ぶのに どれほど時間が かかっとるんじゃ。 212 00:17:42,850 --> 00:17:48,300 これから描こうとしているのは たくましい木こりが 213 00:17:48,300 --> 00:17:51,970 大きな幹に 力いっぱい斧を振り下ろす絵じゃ。 214 00:17:51,970 --> 00:17:55,640 たくましい木こりと 太い木の幹を描くには 215 00:17:55,640 --> 00:17:59,140 それにふさわしい紙を 選ばなければならんのじゃ。 216 00:18:01,170 --> 00:18:04,800 次に ニカワとミョウバンを溶かした水を 217 00:18:04,800 --> 00:18:10,510 大きな刷毛で 紙の裏表全体に塗りました。 218 00:18:10,510 --> 00:18:15,800 次に 乳鉢を用意して 絵の具をすり始めました。 219 00:18:15,800 --> 00:18:18,180 ときどき ニカワを混ぜながら 220 00:18:18,180 --> 00:18:23,180 一つひとつ 丁寧に 色を作っていきました。 221 00:18:25,620 --> 00:18:29,860 ふわ~ぁ! 222 00:18:29,860 --> 00:18:34,450 そして いよいよ 絵を描き始めました。 223 00:18:34,450 --> 00:18:40,460 地塗りの色の上から 筆と墨で 木こりの線画が描かれました。 224 00:18:40,460 --> 00:18:45,840 続いて 少しずつ 絵の具が塗られ 大木も木こりも 225 00:18:45,840 --> 00:18:50,830 命を吹き込まれたように 生き生きと見えてきました。 226 00:18:50,830 --> 00:18:55,830 男も感心して 絵描きの仕事に見入っていました。 227 00:19:00,290 --> 00:19:02,310 これで おしまいだ。 228 00:19:02,310 --> 00:19:05,860 今日 お前が見たのが 絵描きの仕事じゃ。 229 00:19:05,860 --> 00:19:11,860 男は できたばかりの みごとな絵をのぞきこみました。 230 00:19:14,120 --> 00:19:18,180 《この男 私の絵が あまりにも みごとなので 231 00:19:18,180 --> 00:19:20,130 言葉も出ないらしい》 232 00:19:20,130 --> 00:19:25,520 う~ん…。 233 00:19:25,520 --> 00:19:28,900 なんじゃ!? 言いたいことが あったら 言ってみい! 234 00:19:28,900 --> 00:19:33,340 なんや… お前は 上手だ 名人だと言われとるが 235 00:19:33,340 --> 00:19:35,810 本当に名人なのかいや? 236 00:19:35,810 --> 00:19:39,850 うぅ~! 237 00:19:39,850 --> 00:19:43,340 お前は 誰に向かって そのようなことを! 238 00:19:43,340 --> 00:19:47,820 この絵は 木こりが 大木の幹を斧で刻んでいるのに 239 00:19:47,820 --> 00:19:51,810 地面には 木のくず ひとつ 飛んでおらんではないか。 240 00:19:51,810 --> 00:19:55,350 ん? 241 00:19:55,350 --> 00:20:00,500 確かに 木こりの足もとには 何も描かれていません。 242 00:20:00,500 --> 00:20:03,510 そんなところを 見ておったのか と 243 00:20:03,510 --> 00:20:06,860 不意をつかれたような気分に なりました。 244 00:20:06,860 --> 00:20:11,810 《そんなものまで描くのが 絵描きの仕事ではない!》 245 00:20:11,810 --> 00:20:14,350 《確かに この男の言うとおり 246 00:20:14,350 --> 00:20:18,370 木こりの足もとに 木のくずが散らばっておれば 247 00:20:18,370 --> 00:20:22,340 もっと 生き生きとした絵に なったかもしれん》 248 00:20:22,340 --> 00:20:26,850 けれども 世間に名人といわれた自分が 249 00:20:26,850 --> 00:20:33,390 素人に教えられたと思うと メラメラと 怒りの気持が わいてきました。 250 00:20:33,390 --> 00:20:36,290 そうか… そんな偉そうなことを言うなら 251 00:20:36,290 --> 00:20:38,890 お前が ひとつ 描いてみい! 252 00:20:38,890 --> 00:20:41,690 おぉ! 描いてやるとも。 253 00:20:46,350 --> 00:20:52,640 さて 何を描いていいのやら 男は考え込んでしまいました。 254 00:20:52,640 --> 00:20:58,180 ほれ 見い! 素人が おいそれと描けるわけがあるまい。 255 00:20:58,180 --> 00:21:02,160 男の頭に ひらめくものが ありました。 256 00:21:02,160 --> 00:21:09,860 そして 思い立ったように 墨をすり始めました。 257 00:21:09,860 --> 00:21:15,810 小さなかめに いっぱいの墨が すりあがりました。 258 00:21:15,810 --> 00:21:19,310 お前の筆でいちばん太いのをくれ。 259 00:21:21,330 --> 00:21:25,350 男は その筆に たっぷりと墨を含ませると 260 00:21:25,350 --> 00:21:28,350 豪快に塗り始めました。 261 00:21:31,840 --> 00:21:37,230 男は 墨を飛ばしながら 紙を黒一色に塗り終えました。 262 00:21:37,230 --> 00:21:39,990 ほりゃ できた! 見い!! 263 00:21:39,990 --> 00:21:42,020 こりゃ なんじゃ!? 264 00:21:42,020 --> 00:21:46,490 これはな 闇夜に カラスが飛んでいくとこじゃわい。 265 00:21:46,490 --> 00:21:49,490 おっ? ほう…。 266 00:21:49,490 --> 00:21:52,580 四角い和紙に描かれた闇夜は 267 00:21:52,580 --> 00:21:56,500 のぞくほどに 吸い込まれていくようでした。 268 00:21:56,500 --> 00:22:03,480 (カラスの鳴き声) 269 00:22:03,480 --> 00:22:05,480 うわ~! 270 00:22:05,480 --> 00:22:10,470 (カラスの鳴き声) 271 00:22:10,470 --> 00:22:13,820 絵描きは打ちのめされました。 272 00:22:13,820 --> 00:22:15,870 おみごと! 273 00:22:15,870 --> 00:22:18,490 けれども 言われた男のほうは 274 00:22:18,490 --> 00:22:24,180 何が みごとなのか わからず ポカンとしておりました。 275 00:22:24,180 --> 00:22:29,230 それから 2人は なんでも 腹を割って話せる 276 00:22:29,230 --> 00:22:34,230 親しい間柄になった と いうことです。