1 00:01:42,500 --> 00:01:47,140 あるところに どうにも運のない男がいた。 2 00:01:47,140 --> 00:01:51,340 真面目によく働き 正直な男なのだが 3 00:01:51,340 --> 00:01:56,230 どういうわけか運がない。 4 00:01:56,230 --> 00:01:58,880 ハァー。 5 00:01:58,880 --> 00:02:04,180 いつまでたっても 貧しい暮らしをしていた。 6 00:02:09,130 --> 00:02:12,780 そこで男は 観音様に 願をかけることにした。 7 00:02:12,780 --> 00:02:17,780 どうか 少しでも 運が向きますように。 8 00:02:17,780 --> 00:02:20,240 お願いいたします。 9 00:02:20,240 --> 00:02:26,530 朝からずっと観音様の お堂にこもり お祈りを捧げた。 10 00:02:26,530 --> 00:02:28,830 そして暗くなった。 11 00:02:33,820 --> 00:02:35,820 ん? 12 00:02:38,170 --> 00:02:40,810 あっ か 観音様! 13 00:02:40,810 --> 00:02:45,550 よく聞け ここを出て 初めにつかんだものを持って 14 00:02:45,550 --> 00:02:47,850 西に行くのじゃ。 15 00:02:49,800 --> 00:02:51,850 ありがとうございます。 16 00:02:51,850 --> 00:02:57,790 男は丁寧に礼をして お堂を出た。 17 00:02:57,790 --> 00:02:59,780 《不思議なことがあるもんだ。 18 00:02:59,780 --> 00:03:03,180 しかし観音様の おっしゃることだからな》 19 00:03:03,180 --> 00:03:05,980 うわ~っ! 20 00:03:10,120 --> 00:03:12,460 イテテテテッ。 21 00:03:12,460 --> 00:03:16,140 その拍子につかんだのが 1本のわらしべだった。 22 00:03:16,140 --> 00:03:19,480 わらしべとは 稲穂の芯のことだ。 23 00:03:19,480 --> 00:03:22,550 《やれ 初めにつかんだのが こんなものとは。 24 00:03:22,550 --> 00:03:24,800 やはり俺には運がないのか》 25 00:03:24,800 --> 00:03:26,800 ハァー。 26 00:03:26,800 --> 00:03:31,470 男は 観音様の言葉どおり 西に向かって歩き始めた。 27 00:03:31,470 --> 00:03:35,480 しばらく歩いていると…。 28 00:03:35,480 --> 00:03:39,080 1匹のアブが飛んできた。 29 00:03:45,540 --> 00:03:50,530 男はアブをつかまえると わらしべの先に結びつけた。 30 00:03:50,530 --> 00:03:54,830 そして また西に向かって 歩いて行くと…。 31 00:03:59,140 --> 00:04:05,020 赤ん坊は男の持つわらしべの アブを見ると ぴたりと泣きやんだ。 32 00:04:05,020 --> 00:04:07,480 アハハハッ。 33 00:04:07,480 --> 00:04:10,460 ん? 34 00:04:10,460 --> 00:04:14,830 なんだ こんなものがおもしろいか。 35 00:04:14,830 --> 00:04:17,170 じゃあ お前にやろう。 36 00:04:17,170 --> 00:04:21,510 男はアブを結んだわらしべを 赤ん坊の手に握らせた。 37 00:04:21,510 --> 00:04:25,130 母親は ミカンを3個差し出した。 38 00:04:25,130 --> 00:04:27,780 本当に助かりました。 39 00:04:27,780 --> 00:04:31,200 お礼といって 何もありませんが これを。 40 00:04:31,200 --> 00:04:35,120 では ありがたくいただこう。 41 00:04:35,120 --> 00:04:39,180 男はまた西に向かって歩き出した。 42 00:04:39,180 --> 00:04:41,460 すると今度は…。 43 00:04:41,460 --> 00:04:46,130 道端で若い娘が しゃがんで苦しんでいた。 44 00:04:46,130 --> 00:04:49,490 どうかしたのかい。 45 00:04:49,490 --> 00:04:53,120 はい 急に胸が苦しく喉が渇いて。 46 00:04:53,120 --> 00:04:57,840 そうか そりゃいけねえ。 ん? 47 00:04:57,840 --> 00:05:00,200 これでも食べるか。 48 00:05:00,200 --> 00:05:03,500 男は持っていたミカンを 娘に差し出した。 49 00:05:10,510 --> 00:05:15,310 娘は ミカンを3個食べると どうにか落ち着いた様子。 50 00:05:15,310 --> 00:05:19,170 おかげで具合もよくなりました。 51 00:05:19,170 --> 00:05:24,820 娘は 風呂敷包みから きれいな布を一反取り出した。 52 00:05:24,820 --> 00:05:27,820 親の代理で問屋から 預かったものですが 53 00:05:27,820 --> 00:05:29,860 これをお礼に。 54 00:05:29,860 --> 00:05:32,110 いけねえよ そんな大事なものを。 55 00:05:32,110 --> 00:05:34,960 それでは 私の気がすみませぬ。 56 00:05:34,960 --> 00:05:37,170 親もわかってくれましょう。 57 00:05:37,170 --> 00:05:39,120 どうぞ お受け取りください。 58 00:05:39,120 --> 00:05:45,140 男は 反物を受け取ると また西に向かって歩き出した。 59 00:05:45,140 --> 00:05:47,190 すると…。 60 00:05:47,190 --> 00:05:49,210 ん? 61 00:05:49,210 --> 00:05:53,670 馬が倒れていて 困った顔の親父がつき添っていた。 62 00:05:53,670 --> 00:05:57,590 どうした? 馬が倒れちまって 63 00:05:57,590 --> 00:05:59,540 どうにもなんねえんだ。 64 00:05:59,540 --> 00:06:01,540 そりゃ困ったな。 65 00:06:04,130 --> 00:06:08,180 町へ行って馬と反物と とっかえっこするはずだったに 66 00:06:08,180 --> 00:06:10,130 どうにも困った。 67 00:06:10,130 --> 00:06:16,460 そうか だったらこの反物と 馬ととっかえっこしてやろうか。 68 00:06:16,460 --> 00:06:19,180 あ~ そりゃ助かるよ。 69 00:06:19,180 --> 00:06:22,800 んま~ こんなきれいな反物を。 70 00:06:22,800 --> 00:06:26,820 親父はきれいな布を ありがたそうに受け取ると 71 00:06:26,820 --> 00:06:30,800 馬を男に預け 東のほうへ去っていった。 72 00:06:30,800 --> 00:06:35,460 どうした馬っ子 元気出せや。 73 00:06:35,460 --> 00:06:40,830 男は 馬に水をやったり 体をさすってやったりした。 74 00:06:40,830 --> 00:06:45,430 しばらくすると どうやら馬に元気が戻ってきた。 75 00:06:48,140 --> 00:06:51,570 男は 馬をひいて また西へと向かい 76 00:06:51,570 --> 00:06:53,460 やがて町に入った。 77 00:06:53,460 --> 00:06:56,500 馬を連れたお方。 78 00:06:56,500 --> 00:06:58,870 みごとな馬ですな。 79 00:06:58,870 --> 00:07:00,800 いや…。 80 00:07:00,800 --> 00:07:03,840 ちょっと見せてくれないか? ああ いいとも。 81 00:07:03,840 --> 00:07:07,640 声をかけてきたのは 村の長者様だった。 82 00:07:12,130 --> 00:07:14,460 う~ん よい馬だ。 83 00:07:14,460 --> 00:07:18,020 ゆっくり話をしたい。 茶でも いかがかな? 84 00:07:18,020 --> 00:07:23,010 そう言って 長者様は 男を家に招き入れた。 85 00:07:23,010 --> 00:07:25,990 座敷につくと その家の娘が 86 00:07:25,990 --> 00:07:29,090 男と長者様のために お茶を持ってきた。 87 00:07:31,180 --> 00:07:33,120 あっ あのときの…。 88 00:07:33,120 --> 00:07:36,800 あれ! 先ほどは ありがとうございました。 89 00:07:36,800 --> 00:07:40,790 なんと お前様が ミカンをくれたという男か。 90 00:07:40,790 --> 00:07:44,790 話は 娘から聞いた。 わしからも礼を言おう。 91 00:07:44,790 --> 00:07:50,500 長者様は 男の人柄と この不思議な縁に 92 00:07:50,500 --> 00:07:53,470 すっかり心を打たれてしまった。 93 00:07:53,470 --> 00:07:56,790 どうだろう 家の婿にならぬか? 94 00:07:56,790 --> 00:07:59,840 えっ この俺が? 95 00:07:59,840 --> 00:08:02,180 お前は どうだ? 96 00:08:02,180 --> 00:08:04,850 あっ… はい…。 97 00:08:04,850 --> 00:08:09,820 と こんなわけで 男は とうとう長者様の婿になった。 98 00:08:09,820 --> 00:08:12,370 観音様の言葉どおり 99 00:08:12,370 --> 00:08:14,990 初めにつかんだ わらしべのお陰で 100 00:08:14,990 --> 00:08:17,960 男は 長者の婿になった。 101 00:08:17,960 --> 00:08:22,170 男は わらしべ1本 粗末にすることなく 102 00:08:22,170 --> 00:08:25,970 長者様の家を ますます大きくしたという。 103 00:08:25,970 --> 00:08:29,440 そこで 村の人々は この男のことを 104 00:08:29,440 --> 00:08:32,540 わらしべ長者と呼ぶようになった。 105 00:08:47,510 --> 00:08:51,490 昔むかし そのまた昔。 106 00:08:51,490 --> 00:08:56,140 田や畑を耕すことを 覚えた人間が 107 00:08:56,140 --> 00:09:00,160 ようやく 家を建てるようになった頃 108 00:09:00,160 --> 00:09:04,970 天の上から 七福神の大黒様と恵比寿様が 109 00:09:04,970 --> 00:09:08,140 人間の暮らしぶりを眺めていた。 110 00:09:08,140 --> 00:09:12,170 (大黒)とうとう人間も 家を建てるようになりましたな。 111 00:09:12,170 --> 00:09:14,780 (恵比寿)さようですな。 112 00:09:14,780 --> 00:09:18,510 しかし まだ生活も おぼつかないようで 113 00:09:18,510 --> 00:09:21,380 玄関で飯を食う者もおれば 114 00:09:21,380 --> 00:09:24,120 台所で寝ておる者もいる。 115 00:09:24,120 --> 00:09:27,170 どうも わしらが 使い方を教えて 116 00:09:27,170 --> 00:09:30,570 ついでに守ってやらねば ならぬようですな。 117 00:09:30,570 --> 00:09:34,710 しかし 2人では 手が回りませんな。 118 00:09:34,710 --> 00:09:38,780 どうでしょう? 七福神で手分けするというのは。 119 00:09:38,780 --> 00:09:43,120 うむ それは よい考えですな。 120 00:09:43,120 --> 00:09:46,140 早速 七福神みんなで集まって 121 00:09:46,140 --> 00:09:49,130 相談することになった。 122 00:09:49,130 --> 00:09:53,180 七福神の中で たった一人の女の神様 123 00:09:53,180 --> 00:09:56,780 弁天様のところにも 使いがやってきた。 124 00:09:56,780 --> 00:10:00,970 (弁天)人間の建てる家の守り神を 決めるための寄り合い? 125 00:10:00,970 --> 00:10:04,510 七福神の皆様が お集まりになります。 126 00:10:04,510 --> 00:10:08,650 あ~ら 皆さんに 会えるなんて 久しぶりね。 127 00:10:08,650 --> 00:10:11,680 オシャレして出かけなきゃ。 128 00:10:11,680 --> 00:10:15,070 もともと美人な上に オシャレが大好きな弁天様は 129 00:10:15,070 --> 00:10:17,640 大いに張り切った。 130 00:10:17,640 --> 00:10:20,690 そして 寄り合いの日。 131 00:10:20,690 --> 00:10:23,740 大黒様の家には 七福神が集まってきた。 132 00:10:23,740 --> 00:10:26,160 真っ先に やってきたのが 133 00:10:26,160 --> 00:10:30,300 大黒様とともに 世話役を仰せつかった恵比寿様。 134 00:10:30,300 --> 00:10:34,790 のっしのっしと やってきたのが 毘沙門天様。 135 00:10:34,790 --> 00:10:39,310 にこやかな笑顔で やってきたのは 福禄寿様。 136 00:10:39,310 --> 00:10:43,480 布袋様は みんなに お土産を持ってきてくれた。 137 00:10:43,480 --> 00:10:47,480 そして 寿老人様も ゆっくり やってくる。 138 00:10:50,490 --> 00:10:53,540 揃いましたかな? 皆さん。 139 00:10:53,540 --> 00:10:56,190 いや まだ弁天様が。 140 00:10:56,190 --> 00:10:59,490 じきに参りましょう。 141 00:11:02,800 --> 00:11:05,500 その頃 弁天様は 142 00:11:05,500 --> 00:11:08,470 何を着ていこうか 着物を並べて 143 00:11:08,470 --> 00:11:11,790 ああでもない こうでもないと 朝から大忙し。 144 00:11:11,790 --> 00:11:14,830 寄り合いの時間が 過ぎていることなど 145 00:11:14,830 --> 00:11:17,480 まったく気づいていなかった。 146 00:11:17,480 --> 00:11:23,000 その頃 七福神たちは 1杯目のお茶を飲み終えていた。 147 00:11:23,000 --> 00:11:27,790 弁天様 遅いですな。 さようですな。 148 00:11:27,790 --> 00:11:32,800 ようやく お気に入りのおめかしが できあがった弁天様は 149 00:11:32,800 --> 00:11:35,450 上機嫌で歩いていた。 150 00:11:35,450 --> 00:11:38,120 おや 弁天様 お出かけで? 151 00:11:38,120 --> 00:11:41,540 そうなの。 七福神の寄り合いなの。 152 00:11:41,540 --> 00:11:45,610 それは それは また結構なお召し物で。 153 00:11:45,610 --> 00:11:49,810 あら そう? 嬉しいわ! 154 00:11:49,810 --> 00:11:54,120 大黒様の家では みんな 2杯目のお茶も飲み干し 155 00:11:54,120 --> 00:11:57,140 だいぶ待ちくたびれてきた。 156 00:11:57,140 --> 00:12:00,820 (毘沙門天)うむ… 弁天様は まだですかな? 157 00:12:00,820 --> 00:12:04,310 おや 毘沙門天様 何かご用が? 158 00:12:04,310 --> 00:12:06,460 うむ… ちょっとな。 159 00:12:06,460 --> 00:12:10,880 そこでだ! わしを玄関の番に してはくれまいか? 160 00:12:10,880 --> 00:12:14,640 (大黒)ははぁ… 毘沙門だけに 出入り口をとな。 161 00:12:14,640 --> 00:12:17,160 (福禄寿)よろしいでは ございませんか。 162 00:12:17,160 --> 00:12:21,110 (寿老人)弁天様も そこは反対されぬでしょう。 163 00:12:21,110 --> 00:12:25,970 (布袋)ならば 宝に縁のあるわしが 納戸でいかがであろう? 164 00:12:25,970 --> 00:12:28,990 うん うん。 165 00:12:28,990 --> 00:12:34,440 家族みなが笑顔でいられるように わしは 茶の間でいかがかな? 166 00:12:34,440 --> 00:12:38,500 それはよいが 家で いちばん大切なところは? 167 00:12:38,500 --> 00:12:42,480 それはやはり 大黒様に お願いしようではないか。 168 00:12:42,480 --> 00:12:47,780 いつのまにか 弁天様抜きで 相談が始まってしまった。 169 00:12:49,860 --> 00:12:51,790 その頃 弁天様は 170 00:12:51,790 --> 00:12:55,300 また 知り合いの神様と 立ち話をしていた。 171 00:12:55,300 --> 00:13:00,000 あら だったら 私の紅 少し分けてさしあげるわ。 172 00:13:00,000 --> 00:13:01,950 まぁ 嬉しい。 173 00:13:01,950 --> 00:13:04,540 今度ゆっくり お茶でも飲みましょう。 174 00:13:04,540 --> 00:13:08,140 じゃ 皆様が待ってらっしゃるから またね~。 175 00:13:10,140 --> 00:13:15,520 こうして 弁天様は ようやく 大黒様の家にたどりついた。 176 00:13:15,520 --> 00:13:19,470 お待たせ。 さぁ 相談を始めましょう。 177 00:13:19,470 --> 00:13:21,470 (みんな)あ…。 178 00:13:21,470 --> 00:13:23,510 どうしたの? 179 00:13:23,510 --> 00:13:28,810 実はな アンタの来るのが遅いので もう 決めてしまったのじゃ。 180 00:13:28,810 --> 00:13:30,850 えっ! なんですって!? 181 00:13:30,850 --> 00:13:33,780 わしは玄関をやらせてもらおうか。 182 00:13:33,780 --> 00:13:35,790 わしは台所だ。 183 00:13:35,790 --> 00:13:38,120 わしは茶の間をな。 184 00:13:38,120 --> 00:13:42,310 納戸がわし。 私は庭だ。 185 00:13:42,310 --> 00:13:45,150 そして わしが座敷。 186 00:13:45,150 --> 00:13:47,200 え… え~っ!? 187 00:13:47,200 --> 00:13:49,470 じゃ 私は!? 188 00:13:49,470 --> 00:13:52,490 残った厠を頼む。 189 00:13:52,490 --> 00:13:54,470 厠!? 190 00:13:54,470 --> 00:13:56,510 うむ お便所だ。 191 00:13:56,510 --> 00:13:58,790 うぅ…。 192 00:13:58,790 --> 00:14:02,480 なんで 私が厠の守り神なのよ! 193 00:14:02,480 --> 00:14:05,500 しかし もう決まってしまったのでな。 194 00:14:05,500 --> 00:14:08,470 どなたか 変わってくださらないの!? 195 00:14:08,470 --> 00:14:11,820 ちょっと 用があるので ごめん。 196 00:14:11,820 --> 00:14:16,960 わしも早速 人間どもに 納戸の使い方を教えねば。 197 00:14:16,960 --> 00:14:20,850 左様。 わしは 台所を守るのでしたな。 198 00:14:20,850 --> 00:14:25,120 早速 仕事を始めぬと。 199 00:14:25,120 --> 00:14:30,540 弁天様を見ぬように み~んな 出ていってしまうと…。 200 00:14:30,540 --> 00:14:35,850 弁天様の前にポツンと残ったのが 大黒様。 201 00:14:35,850 --> 00:14:38,450 頼む。 202 00:14:41,130 --> 00:14:43,470 わかりました。 203 00:14:43,470 --> 00:14:46,820 引き受けましょう 厠の守り神。 204 00:14:46,820 --> 00:14:49,620 おぉ 引き受けてくれるか! 205 00:14:54,780 --> 00:14:57,970 人間たち よ~くお聞き! 206 00:14:57,970 --> 00:15:01,890 今日から 私が厠の守り神です。 207 00:15:01,890 --> 00:15:05,490 厠は いつもきれいに お掃除するのですよ。 208 00:15:05,490 --> 00:15:09,560 汚れていたりしたら 私が許しません。 209 00:15:09,560 --> 00:15:13,830 そのかわり いつも 厠を きれいにしてくれる女の子には 210 00:15:13,830 --> 00:15:17,490 かわいい子供が 産めるようにしてさしあげます。 211 00:15:17,490 --> 00:15:20,990 私が約束しますわよ。 212 00:15:25,510 --> 00:15:27,810 こうして 弁天様は 213 00:15:27,810 --> 00:15:32,410 厠の守り神となった ということです。 214 00:15:43,170 --> 00:15:45,910 むか~し むかし あるところに 215 00:15:45,910 --> 00:15:50,510 仁王という 日本一 力持ちの大男がいました。 216 00:15:53,160 --> 00:15:56,820 あるとき 仁王は 海の向こうの唐という国に 217 00:15:56,820 --> 00:16:00,850 どっこいという とてつもない 力持ちがいるという噂を 218 00:16:00,850 --> 00:16:02,840 耳にしました。 219 00:16:02,840 --> 00:16:05,210 (仁王)よ~し その どっこいとやらと 220 00:16:05,210 --> 00:16:08,660 このわしと どっちが力持ちか 勝負してやろう。 221 00:16:08,660 --> 00:16:11,830 そう考えた仁王は 船に乗って 222 00:16:11,830 --> 00:16:15,790 海の向こうの唐という国に 出かけたのです。 223 00:16:15,790 --> 00:16:20,490 何日もかけて ようやく 唐にたどりついた仁王は 224 00:16:20,490 --> 00:16:25,480 どっこいの家を探しあてましたが どっこいはおらず 225 00:16:25,480 --> 00:16:28,000 おばあさんが一人いるだけでした。 226 00:16:28,000 --> 00:16:32,050 ん? こりゃまた 大きな男だな。 227 00:16:32,050 --> 00:16:35,660 アンタはいったい 何者だい? 家に なんの用だ? 228 00:16:35,660 --> 00:16:40,190 わしは 日本一力持ちの仁王という者だ。 229 00:16:40,190 --> 00:16:42,750 この家のどっこいと このわしと 230 00:16:42,750 --> 00:16:45,150 どっちが力持ちか 勝負しにきたんだが 231 00:16:45,150 --> 00:16:47,150 どっこいは どこにおる? 232 00:16:47,150 --> 00:16:49,700 息子のどっこいは もうすぐ戻るからさ 233 00:16:49,700 --> 00:16:52,700 家にあがって 待ってろや。 234 00:16:57,240 --> 00:17:00,540 仁王は わらじを脱いで 家にあがりました。 235 00:17:03,670 --> 00:17:06,020 台所にいるおばあさんが 236 00:17:06,020 --> 00:17:10,110 それはそれは大きな釜に 何俵という米を入れ 237 00:17:10,110 --> 00:17:15,000 薪を何百と燃やして ご飯を炊き始めたのでした。 238 00:17:15,000 --> 00:17:17,380 ん? な… なぁ ばあさん。 239 00:17:17,380 --> 00:17:21,490 そんなにいっぱい飯を炊いて いったい 誰が食べるんだ? 240 00:17:21,490 --> 00:17:23,490 もしや… と思いながら 241 00:17:23,490 --> 00:17:26,560 おそるおそる 仁王が聞くと おばあさんは…。 242 00:17:26,560 --> 00:17:28,840 そりゃあ どっこいに 決まっとるじゃろ。 243 00:17:28,840 --> 00:17:30,880 なんたって どっこいは 244 00:17:30,880 --> 00:17:33,830 この唐の国いちばんの 力持ちだからな。 245 00:17:33,830 --> 00:17:37,170 それを聞いて 仁王がびっくりしていると…。 246 00:17:37,170 --> 00:17:47,880 (地響き) 247 00:17:47,880 --> 00:17:50,210 ほら どっこいが帰ってきた。 248 00:17:50,210 --> 00:17:54,570 息子の足音は 一里向こうからでも 聞こえてくるんだよ。 249 00:17:54,570 --> 00:17:56,570 え…。 250 00:17:58,820 --> 00:18:03,260 どっこいというのは とんでもない大飯食らいの大男だ。 251 00:18:03,260 --> 00:18:06,650 そんな男と力比べをしたら 勝てるどころか 252 00:18:06,650 --> 00:18:10,520 どんな目に遭うか わかったものじゃない。 253 00:18:10,520 --> 00:18:13,590 だんだん恐ろしくなってきました。 そこで…。 254 00:18:13,590 --> 00:18:16,490 イタタタタタ! 255 00:18:16,490 --> 00:18:18,540 なぁ なぁ! なぁ ばあさん。 256 00:18:18,540 --> 00:18:21,510 なんだか 急に 腹の具合が悪くなってきた。 257 00:18:21,510 --> 00:18:24,500 便所を貸してくれないか? あぁ いいとも。 258 00:18:24,500 --> 00:18:29,220 便所は外に出て 裏庭にあるよ。 すまん! 259 00:18:29,220 --> 00:18:31,820 仁王は 裏口から逃げ出し…。 260 00:18:33,810 --> 00:18:35,860 舟に飛び乗ると。 261 00:18:35,860 --> 00:18:40,860 大慌てで 日本に向かいました。 262 00:18:45,870 --> 00:18:48,940 (どっこい)帰ったぞ。 263 00:18:48,940 --> 00:18:53,160 ん!? この大きなわらじは 誰のものだ? 264 00:18:53,160 --> 00:18:57,700 あぁ それは 日本から来た仁王のものだ。 265 00:18:57,700 --> 00:19:01,650 なんでも お前とどっちが力持ちか 勝負しにきたそうだ。 266 00:19:01,650 --> 00:19:05,820 仁王といえば 日本一の力持ちだと聞いている。 267 00:19:05,820 --> 00:19:10,160 そりゃ 楽しみだわい。 で… その仁王は どこにいる? 268 00:19:10,160 --> 00:19:13,830 はて… さっき 腹の具合が 悪くなってきたから 269 00:19:13,830 --> 00:19:17,250 便所を貸してくれ と いったっきり 帰ってこんな。 270 00:19:17,250 --> 00:19:21,170 どっこい! お前 ちょっと行って 様子をみてきたら どうだ? 271 00:19:21,170 --> 00:19:23,170 よ~し。 272 00:19:23,170 --> 00:19:28,180 仁王 どこだ? おい 仁王! 273 00:19:28,180 --> 00:19:30,200 いないぞ! 274 00:19:30,200 --> 00:19:32,200 もしや…。 275 00:19:34,270 --> 00:19:36,870 仁王め 逃げたな! 276 00:19:38,820 --> 00:19:42,180 どっこいが遠くの海を見ていると。 277 00:19:42,180 --> 00:19:44,180 ん? ん? 278 00:19:44,180 --> 00:19:49,250 仁王が漕いでいる舟が 3里も沖にいるのが見えました。 279 00:19:49,250 --> 00:19:52,250 逃げるとは 何ごとだ!? 280 00:19:55,290 --> 00:19:57,590 逃がすか! 281 00:20:02,210 --> 00:20:04,160 うわっ! 282 00:20:04,160 --> 00:20:08,220 いかりは 仁王の舟の艫に ずっかと刺さりました。 283 00:20:08,220 --> 00:20:10,490 あっ! 284 00:20:10,490 --> 00:20:12,490 そして どっこいは 285 00:20:12,490 --> 00:20:15,540 いかりにつながっている綱を 引っ張って 286 00:20:15,540 --> 00:20:21,330 仁王の舟を 引き戻そうとしたのでした。 287 00:20:21,330 --> 00:20:26,370 うわ~! 288 00:20:26,370 --> 00:20:30,660 やっぱり どっこいという男の 力には かなわんわい。 289 00:20:30,660 --> 00:20:33,180 なんとかしないと えらい目に遭うぞ! 290 00:20:33,180 --> 00:20:35,530 しかし どうすれば…。 291 00:20:35,530 --> 00:20:37,560 おぉ そうだ! 292 00:20:37,560 --> 00:20:42,170 仁王は 日本を発つときに 八幡様からもらった 293 00:20:42,170 --> 00:20:46,660 南蛮鉄をも切れるという やすりを 持っていたことを 294 00:20:46,660 --> 00:20:49,160 思い出したのです。 295 00:20:49,160 --> 00:20:53,200 仁王! 逃がしてなるものか。 296 00:20:53,200 --> 00:20:57,170 どっこい! 捕まってなるものか。 297 00:20:57,170 --> 00:20:59,150 仁王! 298 00:20:59,150 --> 00:21:01,200 どっこい! 299 00:21:01,200 --> 00:21:14,170 ~ 300 00:21:14,170 --> 00:21:18,200 うわ~! 301 00:21:18,200 --> 00:21:29,230 ~ 302 00:21:29,230 --> 00:21:33,820 《あのでっかい いかりを引きちぎるとは…》 303 00:21:33,820 --> 00:21:37,410 しばらくして 家に帰った どっこいは…。 304 00:21:37,410 --> 00:21:42,350 ほんに 日本の仁王ほど 力持ちの者はおらん。 305 00:21:42,350 --> 00:21:46,320 力比べなんぞ しなくて よかったわい。 306 00:21:46,320 --> 00:21:52,820 一方 日本に ようやく 逃げ帰ることができた仁王は 307 00:21:52,820 --> 00:21:57,530 やすりをくれた 八幡様のところに お参りにいきました。 308 00:21:57,530 --> 00:22:00,830 八幡様… いただいた やすりのおかげで 309 00:22:00,830 --> 00:22:02,830 助かることができました。 310 00:22:02,830 --> 00:22:06,870 お礼に 今度は わしに 八幡様を守らせてください。 311 00:22:06,870 --> 00:22:11,490 こうして 八幡様を祀る 門の左右には 312 00:22:11,490 --> 00:22:16,400 仁王を置くことになりました。 313 00:22:16,400 --> 00:22:20,670 それから 重いものを持ったり 背負ったりするとき 314 00:22:20,670 --> 00:22:24,990 日本では 「どっこいしょ」 と 言うようになりました。 315 00:22:24,990 --> 00:22:30,540 でも 唐の国で 「仁王」 と 言うようになったかどうかは 316 00:22:30,540 --> 00:22:34,140 さだかではありません。