1 00:01:43,320 --> 00:01:46,370 昔むかし あるところに→ 2 00:01:46,370 --> 00:01:50,660 母親と二人暮らしの若者がいた。 3 00:01:50,660 --> 00:01:54,380 ある日のこと 魚をとりに行った帰り→ 4 00:01:54,380 --> 00:02:00,380 松の木の枝に美しい衣が かけてあるのを見つけた。 5 00:02:00,380 --> 00:02:05,500 透き通るように美しく 風のように軽い布でできていた。 6 00:02:05,500 --> 00:02:07,540 なんと美しい衣だろう。 7 00:02:07,540 --> 00:02:11,310 まるで この世のものとは思えぬ。 8 00:02:11,310 --> 00:02:16,200 (はしゃぎ声) 9 00:02:16,200 --> 00:02:22,690 小さな泉で ひとり ふたり 7人の娘が水浴びをしていた。 10 00:02:22,690 --> 00:02:26,260 そのうちの1人の 輝くばかりの美しさと→ 11 00:02:26,260 --> 00:02:32,560 弾けるばかりの笑顔に 若者は すっかり心を奪われてしまった。 12 00:02:35,220 --> 00:02:38,540 (はしゃぎ声) 13 00:02:38,540 --> 00:02:40,910 娘たちは それぞれ→ 14 00:02:40,910 --> 00:02:43,430 松の枝にかけた 衣を身につけると→ 15 00:02:43,430 --> 00:02:48,360 ふわりひらりと 空に舞い上がっていった。 16 00:02:48,360 --> 00:02:51,530 天女… はっ! 17 00:02:51,530 --> 00:02:55,530 そのとき若者の心に魔がさした。 18 00:03:06,360 --> 00:03:09,880 ない! 私の衣が。 19 00:03:09,880 --> 00:03:14,820 早くいらっしゃいよ。 先に行ってしまいますよ。 20 00:03:14,820 --> 00:03:18,690 じゃあ お先に。 21 00:03:18,690 --> 00:03:22,160 あの衣がなければ 天に帰ることができない。 22 00:03:22,160 --> 00:03:25,020 あぁ どうしよう…。 23 00:03:25,020 --> 00:03:27,890 どうかしましたか? あっ! 24 00:03:27,890 --> 00:03:32,510 はい。 ここにかけておいた衣が ないのでございます。 25 00:03:32,510 --> 00:03:35,040 それは お困りだ。 26 00:03:35,040 --> 00:03:38,350 誰か よからぬヤツが 盗んだのかもしれねえ。 27 00:03:38,350 --> 00:03:41,230 えっ! そんな格好じゃいけねえ。 28 00:03:41,230 --> 00:03:43,370 これを着な。 29 00:03:43,370 --> 00:03:45,670 ありがとう存じます。 30 00:03:45,670 --> 00:03:49,020 お前さん 行くところはあるのかい? 31 00:03:49,020 --> 00:03:52,640 私は 天界に暮らす天女なのです。 32 00:03:52,640 --> 00:03:56,870 あの羽衣がなければ 天界に帰ることはできません。 33 00:03:56,870 --> 00:04:00,270 羽衣というのか。 はい。 34 00:04:00,270 --> 00:04:03,660 しかし それは困ったな。 35 00:04:03,660 --> 00:04:06,690 そうだ! オイラが その羽衣を探してやろう。 36 00:04:06,690 --> 00:04:09,860 えっ? なに オイラが駆けずり回って→ 37 00:04:09,860 --> 00:04:12,660 探してやるから それまで…。 38 00:04:15,020 --> 00:04:18,500 オイラの家にいなよ。 えっ!? 39 00:04:18,500 --> 00:04:21,210 なに おっかさんとオイラの 二人暮らしだ。 40 00:04:21,210 --> 00:04:25,210 心配はいらねえ。 羽衣は きっとオイラが見つけてやるよ。 41 00:04:25,210 --> 00:04:30,820 そう言って若者は 天女を家に連れ帰ってしまった。 42 00:04:30,820 --> 00:04:34,790 なんとまぁ お前には もったいないような→ 43 00:04:34,790 --> 00:04:38,340 きれいな女子を 連れて帰ったものじゃ。 44 00:04:38,340 --> 00:04:40,910 おっかさんは 着替えを用意してやり→ 45 00:04:40,910 --> 00:04:43,190 お茶をいれてもてなした。 46 00:04:43,190 --> 00:04:46,830 その隙に若者は 羽衣を入れたびくを→ 47 00:04:46,830 --> 00:04:52,520 道具小屋の奥に そっと隠してしまった。 48 00:04:52,520 --> 00:04:56,910 こうして天女は 若者の家で暮らすことになった。 49 00:04:56,910 --> 00:05:03,200 若者は 羽衣を探しているが 一向に見つからぬと嘘をついた。 50 00:05:03,200 --> 00:05:05,370 そうとは知らぬ おっかさんは→ 51 00:05:05,370 --> 00:05:09,840 天女を気遣い なにくれとなく世話を焼いた。 52 00:05:09,840 --> 00:05:15,840 天女のほうでも畑の仕事やら 家の仕事やらをよく手伝った。 53 00:05:19,530 --> 00:05:22,400 やがて ころあいをみて→ 54 00:05:22,400 --> 00:05:25,700 若者は おっかさんに頼みごとをした。 55 00:05:30,380 --> 00:05:34,430 息子もあちこち羽衣とやらを 探しているようだが 56 00:05:34,430 --> 00:05:38,700 盗まれたものが そうそう出てくるとも思えぬ。 57 00:05:38,700 --> 00:05:42,670 どうだろう お前 息子の嫁になってはくれぬか? 58 00:05:42,670 --> 00:05:45,690 えっ? ここらで心に けりをつけて 59 00:05:45,690 --> 00:05:48,360 腰を落ち着けてはどうだ。 60 00:05:48,360 --> 00:05:52,650 ここまでお世話になって 嫌とは言えません。 61 00:05:52,650 --> 00:05:59,090 こうして 天女は若者の女房となった。 62 00:05:59,090 --> 00:06:02,490 若者は それはそれは 天女を大切にした。 63 00:06:02,490 --> 00:06:05,540 魚をとる仕事にも身を入れ 64 00:06:05,540 --> 00:06:08,430 稼ぎも少しずつ 増えていくようになった。 65 00:06:08,430 --> 00:06:13,170 おっかさんもまた 天女になにくれとなく気を遣い 66 00:06:13,170 --> 00:06:16,070 寂しい思いをさせぬようにした。 67 00:06:16,070 --> 00:06:19,340 天女も身を粉にしてよく働いた。 68 00:06:19,340 --> 00:06:23,030 3人は互いを慈しみ思いやり 69 00:06:23,030 --> 00:06:27,400 やがて天女の顔に 笑顔が浮かぶようになった。 70 00:06:27,400 --> 00:06:30,650 そして3年の月日が経った。 71 00:06:30,650 --> 00:06:34,690 すっかり天女を頼りにするように なっていた おっかさんは 72 00:06:34,690 --> 00:06:39,340 いつも自分でする 道具小屋の掃除を天女に頼んだ。 73 00:06:39,340 --> 00:06:42,860 天女も頼られていることが 嬉しくて 74 00:06:42,860 --> 00:06:46,370 いそいそと掃除を始めた。 75 00:06:46,370 --> 00:06:50,990 やがて 見慣れぬ びくがあるのに目をとめた。 76 00:06:50,990 --> 00:06:53,360 あっ! 77 00:06:53,360 --> 00:06:55,690 羽衣…。 78 00:06:55,690 --> 00:06:58,280 なぜ こんなところに。 79 00:06:58,280 --> 00:07:02,550 まさか あの人が…。 80 00:07:02,550 --> 00:07:06,990 おっかさま。 ハッ お前! 81 00:07:06,990 --> 00:07:11,690 おっかさんは 羽衣を着た 天女の姿に目を丸くして驚いた。 82 00:07:11,690 --> 00:07:16,660 羽衣を見つけたからには 天界に帰らなくてはなりません。 83 00:07:16,660 --> 00:07:22,370 夫ともなった方に挨拶もせずに 行くのは心苦しいけれど 84 00:07:22,370 --> 00:07:24,360 お許しください。 85 00:07:24,360 --> 00:07:28,340 せめて せめて 息子が帰るまで…。 86 00:07:28,340 --> 00:07:32,930 あの方が隠していたと わかったからには 87 00:07:32,930 --> 00:07:35,020 もう お会いすることは できません。 88 00:07:35,020 --> 00:07:38,340 お世話になりました。 89 00:07:38,340 --> 00:07:43,360 天女の体は 空へと舞い上がっていった。 90 00:07:43,360 --> 00:07:47,650 その頃 若者は 家へ帰ろうと道を急いでいた。 91 00:07:47,650 --> 00:07:51,030 その日は魚とりもうまくいき 92 00:07:51,030 --> 00:07:55,190 それを売った銭で 天女のために櫛を買っていたのだ。 93 00:07:55,190 --> 00:07:57,990 あれは…。 94 00:08:00,020 --> 00:08:01,990 待て 待ってくれ! 95 00:08:01,990 --> 00:08:04,060 待ってくれ! 96 00:08:04,060 --> 00:08:07,060 天女は空に吸い込まれるように 消えてしまった。 97 00:08:11,320 --> 00:08:14,520 残された若者は 櫛を握りしめたまま 98 00:08:14,520 --> 00:08:17,380 いつまでも 空を見つめていたという。 99 00:08:17,380 --> 00:08:22,330 天界に帰っても 天女は若者のことを思い出すと 100 00:08:22,330 --> 00:08:24,370 涙が落ちた。 101 00:08:24,370 --> 00:08:30,690 北斗七星の柄杓の柄の 付け根にある輝きの弱い星が 102 00:08:30,690 --> 00:08:35,290 今も泣いている 天女の星であるという。 103 00:08:48,130 --> 00:08:51,500 昔むかしのお話です。 104 00:08:51,500 --> 00:08:54,820 あるところに 夫に先立たれ 105 00:08:54,820 --> 00:08:59,120 幼い赤ん坊を1人で育てている 母親がいました。 106 00:09:07,170 --> 00:09:11,120 バーッ。 アハハハッ。 107 00:09:11,120 --> 00:09:15,210 母親は毎日 よその畑の手伝いなどをして 108 00:09:15,210 --> 00:09:17,510 細々と暮らしていました。 109 00:09:21,230 --> 00:09:23,870 ある日 母親は いつものように赤ん坊を 110 00:09:23,870 --> 00:09:27,170 木陰に寝かせて 仕事をしていました。 111 00:09:38,130 --> 00:09:40,130 はぁ。 112 00:09:58,800 --> 00:10:02,500 今 大きなワシが 何かをつかんで飛んでいったぞ。 113 00:10:02,500 --> 00:10:04,470 えっ…。 114 00:10:04,470 --> 00:10:09,070 それを聞いた母親は 驚いて 赤ん坊のところに駆けつけました。 115 00:10:11,130 --> 00:10:14,520 赤ん坊の姿は どこにもありません。 116 00:10:14,520 --> 00:10:18,800 私の子が… 私の子が…。 117 00:10:18,800 --> 00:10:21,490 ワシに さらわれた…。 118 00:10:21,490 --> 00:10:25,090 私の子供を さらっていった…。 119 00:10:28,310 --> 00:10:32,220 母親は 赤ん坊が 山に連れていかれたか 120 00:10:32,220 --> 00:10:35,700 川に落とされたかと あちこち探しましたが 121 00:10:35,700 --> 00:10:38,700 どこにも見つかりませんでした。 122 00:10:52,840 --> 00:10:56,870 母親は 野を越え 山を越え 123 00:10:56,870 --> 00:10:59,870 子供を探し続けました。 124 00:11:13,140 --> 00:11:18,550 1年が過ぎ 次の年も そのまた次の年も 125 00:11:18,550 --> 00:11:21,550 子供は見つかりませんでした。 126 00:11:28,810 --> 00:11:32,710 赤ん坊が さらわれて 13年が経ちました。 127 00:11:32,710 --> 00:11:36,160 子供を探す旅を 続けていた母親が 128 00:11:36,160 --> 00:11:40,540 ある日 茶店に 立ち寄ったときのことです。 129 00:11:40,540 --> 00:11:42,820 お茶を どうぞ。 130 00:11:42,820 --> 00:11:45,160 あの…。 何か? 131 00:11:45,160 --> 00:11:49,130 この辺りで 何か 変わった話などありませんか? 132 00:11:49,130 --> 00:11:51,500 そうですね…。 133 00:11:51,500 --> 00:11:55,530 この先に お寺がありますが そこの小僧さんは 134 00:11:55,530 --> 00:11:58,820 毎朝 杉の木に お参りをしてからでなければ 135 00:11:58,820 --> 00:12:02,170 朝ご飯を食べない ということですよ。 136 00:12:02,170 --> 00:12:06,160 小僧さんは どうして そんなことをするのですか? 137 00:12:06,160 --> 00:12:11,170 なんでも その小僧さんは 杉の木から生まれたそうです。 138 00:12:11,170 --> 00:12:13,120 杉の木…。 139 00:12:13,120 --> 00:12:17,190 おばあさん その話を もっと詳しく聞かせてください。 140 00:12:17,190 --> 00:12:19,710 随分 前のことです。 141 00:12:19,710 --> 00:12:22,830 そのお寺の和尚さんが ある日 庭のほうで 142 00:12:22,830 --> 00:12:26,330 赤ん坊の泣き声を 聞いたんだそうです。 143 00:12:26,330 --> 00:12:30,170 庭に出てみると 確かに 杉の木の上から 144 00:12:30,170 --> 00:12:33,150 赤ん坊の泣き声が聞こえます。 145 00:12:33,150 --> 00:12:35,140 (赤ん坊の泣き声) 146 00:12:35,140 --> 00:12:38,490 すぐに 寺男を 杉の木に登らせると 147 00:12:38,490 --> 00:12:41,000 なんと木の穴の中に 148 00:12:41,000 --> 00:12:44,950 小さな赤ん坊がいたんだそうです。 149 00:12:44,950 --> 00:12:49,840 和尚さんは その赤ん坊を 寺で育てることにしました。 150 00:12:49,840 --> 00:12:52,820 そして 杉の木から 生まれたのだからと 151 00:12:52,820 --> 00:12:57,320 毎朝 杉の木に お参りをさせているのだそうです。 152 00:12:59,350 --> 00:13:03,130 その赤ん坊は 今 いくつくらいなんですか? 153 00:13:03,130 --> 00:13:06,170 13~14くらいじゃないでしょうか。 154 00:13:06,170 --> 00:13:09,170 誰かが 杉の木の上にのせたのか 155 00:13:09,170 --> 00:13:14,150 それとも 鳥が置いていったのか よく わからないのです。 156 00:13:14,150 --> 00:13:18,220 母親は その話を聞いて すぐに お寺に行きました。 157 00:13:18,220 --> 00:13:21,150 けれども 長い旅の間に すっかり 158 00:13:21,150 --> 00:13:24,710 みすぼらしくなった姿では 中に入りづらく 159 00:13:24,710 --> 00:13:28,210 母親は 生垣の脇で 朝を待ちました。 160 00:13:34,450 --> 00:13:36,480 ハッ…。 (足音) 161 00:13:36,480 --> 00:13:40,660 朝になると 13~14の小僧さんが 庭に出てきて 162 00:13:40,660 --> 00:13:45,130 話に聞いたとおり 杉の木に お参りをしました。 163 00:13:45,130 --> 00:13:47,160 あれは…。 164 00:13:47,160 --> 00:13:50,630 あれは 私の子に違いない。 165 00:13:50,630 --> 00:13:55,490 母親は 思わず 中に入っていきました。 166 00:13:55,490 --> 00:14:00,170 あの小僧さんに会わせてください。 どうか お願いいたします。 167 00:14:00,170 --> 00:14:03,900 うむ ここで待ちなさい。 168 00:14:03,900 --> 00:14:06,200 (障子が開く音) 169 00:14:10,500 --> 00:14:15,100 あなたは… 私の子供です。 170 00:14:18,530 --> 00:14:20,660 どういうことですかな? 171 00:14:20,660 --> 00:14:25,970 この小僧さんは 13年前に ワシにさらわれた 私の子供です。 172 00:14:25,970 --> 00:14:29,170 ずっと探して ここまで来たのです。 173 00:14:29,170 --> 00:14:34,290 和尚さんは 杉の木のことを思い出しました。 174 00:14:34,290 --> 00:14:36,840 この子の着ていた 着物の襟の裏に 175 00:14:36,840 --> 00:14:40,530 お地蔵様のお守りが 縫いつけてあったはずです。 176 00:14:40,530 --> 00:14:44,830 わかりました。 その着物は 大切にしまってあります。 177 00:14:48,840 --> 00:14:52,230 これかな? 178 00:14:52,230 --> 00:14:54,830 これです…。 間違いありません。 179 00:14:57,320 --> 00:15:00,870 このとおり お地蔵様のお守りもあります。 180 00:15:00,870 --> 00:15:04,040 うん。 あなたの子供に 間違いありません。 181 00:15:04,040 --> 00:15:06,640 さぁ さぁ…。 182 00:15:08,660 --> 00:15:10,650 お… お母さん! 183 00:15:10,650 --> 00:15:13,200 あぁ…。 184 00:15:13,200 --> 00:15:18,700 (泣き声) 185 00:15:23,460 --> 00:15:27,030 それからは 母親は 小僧さんと一緒に 186 00:15:27,030 --> 00:15:31,130 お寺で 幸せに暮らしたということです。 187 00:15:44,370 --> 00:15:49,670 昔むかし 諸国行脚の雲水がいた。 188 00:15:49,670 --> 00:15:53,140 あちこちのお寺に 和尚さんを訪ねて 189 00:15:53,140 --> 00:15:55,440 問答というのをやる。 190 00:15:59,500 --> 00:16:04,440 雲水さんが お寺に入っていった。 問答というのを聞いてみよう。 191 00:16:04,440 --> 00:16:09,510 (雲水)雨降りに 犬ありて いかが? 192 00:16:09,510 --> 00:16:12,550 そもさん! 縁の下にあり。 193 00:16:12,550 --> 00:16:15,200 あ…。 194 00:16:15,200 --> 00:16:17,850 恐れ入りましてございます。 195 00:16:17,850 --> 00:16:20,350 なんだか わけがわからない。 196 00:16:23,860 --> 00:16:26,340 雲水さんが寺から出てきた。 197 00:16:26,340 --> 00:16:29,430 雲水さん 解説していただけませんか? 198 00:16:29,430 --> 00:16:31,350 うむ。 せっそうが 和尚に 199 00:16:31,350 --> 00:16:34,500 雨の中に犬がいる。 どう思うか? と問うた。 200 00:16:34,500 --> 00:16:37,920 すると 和尚は 縁の下にあり とのお答え。 201 00:16:37,920 --> 00:16:42,010 なるほど。 犬は 雨が降れば 縁の下に逃げ込む。 202 00:16:42,010 --> 00:16:44,060 それは 犬の知恵でもあり 203 00:16:44,060 --> 00:16:47,680 御仏の慈悲であるという みごとなお答えでござった。 204 00:16:47,680 --> 00:16:53,320 縁の下に知恵及ばぬとは まだまだ 修行が足りぬ。 ごめん。 205 00:16:53,320 --> 00:16:55,870 あらら 行っちゃいました。 206 00:16:55,870 --> 00:16:58,510 ま ともかく この問答というものは 207 00:16:58,510 --> 00:17:02,880 上手にできるようになるのが 偉いお坊さんになる道。 208 00:17:02,880 --> 00:17:08,650 そこで 問答の相手を求めて 旅を続けていたというわけ。 209 00:17:08,650 --> 00:17:13,410 やがて やってきたのが 小さな村の古びたお寺。 210 00:17:13,410 --> 00:17:17,710 屋根の瓦は落ちて 板壁も あちこち破れている。 211 00:17:19,710 --> 00:17:24,010 《荒れるがままに任せるとは きっと 偉い僧がいるに違いない》 212 00:17:27,410 --> 00:17:29,410 (雲水)ごめん! 213 00:17:32,330 --> 00:17:36,530 出てきたのは ふだん着のまま 昼寝をしていた 和尚さん。 214 00:17:36,530 --> 00:17:38,530 なんぞ ご用か? 215 00:17:38,530 --> 00:17:42,320 せっそう 諸国行脚の雲水にして 修行中の身なれば 216 00:17:42,320 --> 00:17:46,540 ぜひとも 和尚と問答をいたしたく 参上つかまつった。 217 00:17:46,540 --> 00:17:48,660 和尚はご在宅か? 218 00:17:48,660 --> 00:17:50,700 あ… 和尚ね。 219 00:17:50,700 --> 00:17:52,810 和尚さん 困っちゃった。 220 00:17:52,810 --> 00:17:56,740 実は この和尚さん 主のいない荒寺に 221 00:17:56,740 --> 00:18:00,190 勝手に住み着いただけの いいかげんなお坊さん。 222 00:18:00,190 --> 00:18:03,680 和尚は留守にしております。 223 00:18:03,680 --> 00:18:08,360 さようか。 では 出直してまいる。 明朝では いかがか? 224 00:18:08,360 --> 00:18:10,730 みょ みょ… 明朝? 225 00:18:10,730 --> 00:18:13,330 朝の勤行は なされるであろう? 226 00:18:13,330 --> 00:18:15,370 まぁ… ね。 227 00:18:15,370 --> 00:18:19,490 では 勤行を終えた頃 まいる。 え~!? 228 00:18:19,490 --> 00:18:21,490 では 明朝。 229 00:18:23,580 --> 00:18:27,680 ぜひとも 問答なしたし と よく お伝えくだされ。 230 00:18:29,650 --> 00:18:32,690 こりゃ 弱ったな…。 231 00:18:32,690 --> 00:18:36,710 嘘をついた和尚さん 頭を抱えちゃった。 232 00:18:36,710 --> 00:18:39,690 どうしたものかと考えていると 233 00:18:39,690 --> 00:18:44,680 そこへ やってきたのが 碁打ち仲間のこんにゃく屋さん。 234 00:18:44,680 --> 00:18:47,650 どうした? 和尚さん。 困った顔して…。 235 00:18:47,650 --> 00:18:49,720 それがさ…。 236 00:18:49,720 --> 00:18:52,990 ことのいきさつを話して聞かせた。 237 00:18:52,990 --> 00:18:57,030 おもしろそうだな。 おもしろくなんかないよ。 238 00:18:57,030 --> 00:18:59,530 問答なんか できないんだからさ。 239 00:18:59,530 --> 00:19:01,480 できないと どうなる? 240 00:19:01,480 --> 00:19:05,520 唐傘1本で この寺から追い出されるんだよ。 241 00:19:05,520 --> 00:19:08,340 えっ!? そういう決まりなんだから。 242 00:19:08,340 --> 00:19:12,330 負けると 私が 修行に出なくちゃいけないんだよ。 243 00:19:12,330 --> 00:19:15,360 そりゃ 大変だ。 大変なんだよ! 244 00:19:15,360 --> 00:19:18,330 和尚さん いいことを思いついた。 245 00:19:18,330 --> 00:19:22,690 お前 この間 二番 続けて 碁に勝ったろ? 246 00:19:22,690 --> 00:19:26,660 勝ったよ。 あれは 俺が手を抜いたからだ。 247 00:19:26,660 --> 00:19:30,700 お前に わざと勝たせたんだよ。 えっ!? 248 00:19:30,700 --> 00:19:34,570 お礼に 明日 私の代わりを やってくれないかな? 249 00:19:34,570 --> 00:19:39,070 俺が? 勝たせてやったんじゃないか。 250 00:19:41,020 --> 00:19:44,330 和尚さん 無理やり こんにゃく屋さんを 251 00:19:44,330 --> 00:19:47,380 代役にしちゃった。 252 00:19:47,380 --> 00:19:50,870 ごめん! お待ちしてました! 253 00:19:50,870 --> 00:19:57,890 普段着の和尚さんが 雲水さんを本堂に案内する。 254 00:19:57,890 --> 00:20:02,360 すると そこには 錦の袈裟をかけ 頭巾まで かぶって 255 00:20:02,360 --> 00:20:07,030 立派な和尚さんの格好をした こんにゃく屋さんが座っていた。 256 00:20:07,030 --> 00:20:08,980 むっ!? 257 00:20:08,980 --> 00:20:13,350 雲水さん 一礼すると 早速 問答をしかけた。 258 00:20:13,350 --> 00:20:15,990 雨降りに犬ありて いかが? 259 00:20:15,990 --> 00:20:21,410 けど こんにゃく屋さん 澄ました顔して 黙っている。 260 00:20:21,410 --> 00:20:25,870 問答は 黙っていれば 相手が しびれを切らすから 261 00:20:25,870 --> 00:20:29,300 ともかく 黙っていろ と 言われていた。 262 00:20:29,300 --> 00:20:33,320 そもさん! 263 00:20:33,320 --> 00:20:38,400 《ははぁ… 和尚は 無言の行を行っているんだな》 264 00:20:38,400 --> 00:20:40,730 勝手に勘違いしちゃった。 265 00:20:40,730 --> 00:20:44,730 そこで 無言の問答を しかけることにした。 266 00:20:56,850 --> 00:20:59,670 あぁっ! 267 00:20:59,670 --> 00:21:02,320 お… 恐れ入りまして ござりまする。 268 00:21:02,320 --> 00:21:06,540 雲水さん すたすたと 本堂を出ていってしまった。 269 00:21:06,540 --> 00:21:08,530 お帰りですか? 270 00:21:08,530 --> 00:21:10,980 いや まったく はるかなる境地のお方。 271 00:21:10,980 --> 00:21:14,180 せっそう 感服つかまつった。 272 00:21:14,180 --> 00:21:16,200 はぁ? 273 00:21:16,200 --> 00:21:19,840 せっそうが 御仏の心は と 問いますと 274 00:21:19,840 --> 00:21:22,360 大海のごとしとのお答え。 275 00:21:22,360 --> 00:21:26,830 更に 十方 すなわち この宇宙は と 問いますと 276 00:21:26,830 --> 00:21:29,530 五戒 すなわち 5つの戒めによって 277 00:21:29,530 --> 00:21:31,530 成り立つ とのお答え。 278 00:21:31,530 --> 00:21:36,000 最後に 三千世界は いかに と 問いますと 279 00:21:36,000 --> 00:21:39,390 我が目の下にあり とのお答え。 280 00:21:39,390 --> 00:21:42,990 せっそう まだまだ 修行が足りませぬ。 281 00:21:45,030 --> 00:21:47,030 どうなってんの? 282 00:21:47,030 --> 00:21:50,420 すっかり 感心して 帰っていったぞ。 283 00:21:50,420 --> 00:21:54,360 あの坊主 俺がこんにゃく屋だと 見破っていったぞ。 284 00:21:54,360 --> 00:21:56,370 えっ!? 285 00:21:56,370 --> 00:21:59,990 お前のとこの こんにゃくは こんなに小さい というから 286 00:21:59,990 --> 00:22:04,430 そんなことはない こんなに大きい と 答えてやったんだ。 287 00:22:04,430 --> 00:22:08,340 10個でいくらだ? というから 500だと答えたら 288 00:22:08,340 --> 00:22:13,070 300にまけろ というから アッカンベーしてやったんだ。 289 00:22:13,070 --> 00:22:17,670 はぁ~。 あんなケチな坊主は いねえや! 290 00:22:25,340 --> 00:22:31,410 それからも 雲水は 修行の旅を続けたということだ。 291 00:22:31,410 --> 00:22:34,410 恐れ入りましてござりまする!