1 00:01:32,200 --> 00:01:35,100 ゴールデンバウム王朝が 倒れた結果 2 00:01:35,100 --> 00:01:38,640 国家機密の名の下に 秘匿されていた多くの資料が 3 00:01:38,640 --> 00:01:42,140 白日の下に さらされようとしていた 4 00:01:54,160 --> 00:01:57,990 帝国暦46年 開祖 ルドルフの死によって 5 00:01:57,990 --> 00:02:01,230 揺らぐかに見えた 銀河帝国の支配体制は 6 00:02:01,230 --> 00:02:05,940 ルドルフの孫で 第2代皇帝となったジギスムント1世と 7 00:02:05,940 --> 00:02:10,340 彼の父親で摂政となった ノイエ・シュタウフェン公ヨアヒムによって 8 00:02:10,340 --> 00:02:14,240 受け継がれ 共和主義者の 大弾圧が行われた 9 00:02:16,150 --> 00:02:20,650 一方 良民に対しては 比較的 公正な市政を施し 10 00:02:20,650 --> 00:02:23,050 いわば アメとムチを使い分けて 11 00:02:23,050 --> 00:02:26,860 帝国の支配体制の礎を 固めたといえる 12 00:02:26,860 --> 00:02:29,260 第3代のリヒャルト1世は 13 00:02:29,260 --> 00:02:32,760 政治より 美女と狩猟と音楽を愛したが 14 00:02:32,760 --> 00:02:36,470 それでも最高権力者としての 枠を踏み越えることなく 15 00:02:36,470 --> 00:02:40,270 気の強い皇妃と 60人ほどの愛妾たちの間で 16 00:02:40,270 --> 00:02:42,970 ごく無難な一生を送った 17 00:02:45,680 --> 00:02:49,910 第4代のオトフリート1世は 父より真面目だったが 18 00:02:49,910 --> 00:02:52,720 堅硬で 禁欲的で 散文的で 19 00:02:52,720 --> 00:02:55,620 当時と未来の人々を 退屈させる点において 20 00:02:55,620 --> 00:02:59,890 比類ない人物だった 無表情に かつ精密に 21 00:02:59,890 --> 00:03:01,820 連日のスケジュールを 消化することが 22 00:03:01,820 --> 00:03:04,560 彼の目標であるかに見えた 23 00:03:04,560 --> 00:03:07,460 音楽 美術 文芸の いずれにも興味がなく 24 00:03:07,460 --> 00:03:12,300 自発的に読んだ本は 始祖 ルドルフ大帝の回想録と 25 00:03:12,300 --> 00:03:15,970 家庭医学書だけであるといわれる 26 00:03:15,970 --> 00:03:19,280 「灰色の人」と呼ばれる彼は 陰気な保守主義者で 27 00:03:19,280 --> 00:03:21,280 あらゆる変化や改革を忌み嫌い 28 00:03:21,280 --> 00:03:25,450 崇拝するルドルフ大帝の前例に しがみついていた 29 00:03:25,450 --> 00:03:28,080 ある日 昼食を終えた オトフリート1世は 30 00:03:28,080 --> 00:03:32,590 スケジュールに従って 15分間の 散歩のために庭園に出ようとした 31 00:03:32,590 --> 00:03:37,130 そこへ急報が入って 軍の基地で 大規模な爆発事故が生じ 32 00:03:37,130 --> 00:03:40,430 1万人以上の将兵が 死亡したと知らせてきた 33 00:03:40,430 --> 00:03:43,330 それを聞いたオトフリート1世は 無感動に 34 00:03:43,330 --> 00:03:47,770 「そんな事故の報告を聞くことは 今日の予定にはない」と発言した 35 00:03:47,770 --> 00:03:50,110 かくのごとく 彼にとっては スケジュールが 36 00:03:50,110 --> 00:03:52,040 神聖不可侵のものだったが 37 00:03:52,040 --> 00:03:55,710 自分自身でスケジュールを組み立てる ような独創力には乏しかったので 38 00:03:55,710 --> 00:03:59,880 自然 その任に当たる 皇帝政務秘書官 エックハルト子爵の 39 00:03:59,880 --> 00:04:02,490 責任と権限は増大していった 40 00:04:02,490 --> 00:04:05,220 エックハルトが やがて枢密顧問官と 41 00:04:05,220 --> 00:04:07,260 皇宮事務総長を 兼ねるようになると 42 00:04:07,260 --> 00:04:10,360 誰の目にも 皇帝オトフリート1世は 43 00:04:10,360 --> 00:04:12,960 エックハルトの傀儡にしか すぎなくなっていることが 44 00:04:12,960 --> 00:04:14,960 明らかになった 45 00:04:16,900 --> 00:04:20,540 オトフリート1世の死後 その子 カスパーが帝位に就いた 46 00:04:20,540 --> 00:04:24,040 カスパーは父よりも祖父リヒャルトに似て 音楽を愛したが 47 00:04:24,040 --> 00:04:28,810 その音楽以上に愛したのが 合唱隊のカストラートであった 48 00:04:28,810 --> 00:04:31,610 カストラートとは ボーイソプラノを保存するために 49 00:04:31,610 --> 00:04:33,550 去勢された少年歌手のことで 50 00:04:33,550 --> 00:04:38,190 すなわち 皇帝カスパーは 同性愛嗜好者だったのである 51 00:04:38,190 --> 00:04:41,090 同性愛嗜好者を 社会に害毒を流すとして 52 00:04:41,090 --> 00:04:46,300 大量殺戮したルドルフ大帝の子孫に 同性愛嗜好者が誕生したわけで 53 00:04:46,300 --> 00:04:49,200 歴史の皮肉以外の 何ものでもなかった 54 00:04:49,200 --> 00:04:52,740 依然として国政の実権を 握っていたエックハルトは 55 00:04:52,740 --> 00:04:56,010 自分の娘をカスパーに嫁がせ 皇帝の外戚となって 56 00:04:56,010 --> 00:04:58,710 その権勢を確固たるものにせんと もくろんだが 57 00:04:58,710 --> 00:05:02,040 この件に関してのみは カスパーは断固として拒否し 58 00:05:02,040 --> 00:05:06,480 寵愛するカストラートのフロリアン少年と 別れようとはしなかった 59 00:05:06,480 --> 00:05:10,420 業を煮やしたエックハルトは ついにフロリアン少年の殺害を謀り 60 00:05:10,420 --> 00:05:13,020 兵士を連れて皇宮に乗り込んだ 61 00:05:15,190 --> 00:05:17,760 そして野イバラの間に 踏み込んだ瞬間 62 00:05:17,760 --> 00:05:21,960 リスナー男爵が指揮する 一隊によって 射殺されたのである 63 00:05:30,310 --> 00:05:33,580 以前からエックハルトの専横を 憎んでいたリスナーは 64 00:05:33,580 --> 00:05:38,050 皇帝の意を受けて 奸臣誅殺の挙に出たのだったが 65 00:05:38,050 --> 00:05:41,320 事件の混乱が収まってみると 当の皇帝は 66 00:05:41,320 --> 00:05:45,960 玉座に退位宣言書を残し いくらかの宝石を携えて 67 00:05:45,960 --> 00:05:49,390 フロリアン少年を連れて 姿を消してしまっていた 68 00:05:49,390 --> 00:05:51,630 即位後 ちょうど1年であったが 69 00:05:51,630 --> 00:05:55,970 以来 完全に 行方不明になってしまった 70 00:05:55,970 --> 00:05:57,900 140日の空位の後 71 00:05:57,900 --> 00:06:02,810 先々帝オトフリート1世の弟である ユリウス太公が帝位に就いた 72 00:06:02,810 --> 00:06:05,170 重臣たちはユリウス本人より 73 00:06:05,170 --> 00:06:09,580 その息子であるフランツ・オットーの 実力と人望に期待したのであった 74 00:06:09,580 --> 00:06:13,350 実際 即位した時に ユリウスは既に76歳であり 75 00:06:13,350 --> 00:06:17,020 早晩 フランツ・オットーが帝位に 就くであろうと思われたのである 76 00:06:17,020 --> 00:06:21,220 ところが ユリウスは思いの外 頑健で 玉座に居座り続け 77 00:06:21,220 --> 00:06:23,190 彼が95歳に達した時 78 00:06:23,190 --> 00:06:26,830 歴史上 最年長の皇太子 フランツ・オットー太公が 79 00:06:26,830 --> 00:06:30,570 74歳で先に 病没してしまったのである 80 00:06:30,570 --> 00:06:32,500 太公の子息は早世していたため 81 00:06:32,500 --> 00:06:35,770 その孫 つまり皇帝ユリウスの ひ孫にあたるカールが 82 00:06:35,770 --> 00:06:39,310 24歳にして 皇太曽孫となったのである 83 00:06:39,310 --> 00:06:43,980 カールは数年を待てば 青年のうちに 帝冠を頂けるはずであった 84 00:06:43,980 --> 00:06:45,920 ところが 彼にしてみれば 85 00:06:45,920 --> 00:06:48,820 自分が物心つく前から 老人であったユリウスが 86 00:06:48,820 --> 00:06:51,650 不気味な存在に 思えたのかもしれない 87 00:06:51,650 --> 00:06:56,930 この老人は永遠に老人で 永遠に 玉座に座り続けるのではないか 88 00:06:56,930 --> 00:06:59,660 そんな強迫観念に とらわれたのか 89 00:06:59,660 --> 00:07:02,570 ついに皇帝を弑逆することを 決意する 90 00:07:02,570 --> 00:07:05,800 帝国暦144年4月6日 91 00:07:05,800 --> 00:07:08,570 96歳の皇帝ユリウス1世は 92 00:07:08,570 --> 00:07:12,170 5人の寵姫とともに 夕食をとっていた 93 00:07:25,990 --> 00:07:28,920 老いた皇帝の急死は 重臣たちを驚かせたが 94 00:07:28,920 --> 00:07:31,190 同時に安堵感をもたらした 95 00:07:31,190 --> 00:07:35,100 正直なところ ほとんど例外なく 皆がウンザリしていたのである 96 00:07:35,100 --> 00:07:37,630 盛大だが 心のこもらぬ葬儀は 97 00:07:37,630 --> 00:07:40,100 カール太公に指揮されて 執り行われ 98 00:07:40,100 --> 00:07:43,540 喪が明ければ 彼が 帝位に就くものと誰もが思った 99 00:07:43,540 --> 00:07:45,470 しかし 5月1日の戴冠式で 100 00:07:45,470 --> 00:07:48,040 帝冠を頂いたのは カール太公ではなく 101 00:07:48,040 --> 00:07:52,320 故フランツ・オットー太公の次男の子 カールのいとこにあたる 102 00:07:52,320 --> 00:07:56,720 ジギスムント・フォン・ブローネ侯爵だったことが 人々を驚かせた 103 00:07:59,520 --> 00:08:01,920 無論 この間の事情は公表されず 104 00:08:01,920 --> 00:08:04,460 300年以上も 国家秘密とされてきたが 105 00:08:04,460 --> 00:08:06,400 事実は こうであった 106 00:08:06,400 --> 00:08:09,900 ユリウス1世が頓死した時に 同席していた5人の寵姫は 107 00:08:09,900 --> 00:08:14,170 危急に際して狼狽するばかりで 適切な看護を怠ったとして 108 00:08:14,170 --> 00:08:17,010 カール太公によって 殉死を強いられた 109 00:08:17,010 --> 00:08:18,940 その中の1人が死の寸前 110 00:08:18,940 --> 00:08:21,840 腕輪の内側に口紅で 真相を書き記し 111 00:08:21,840 --> 00:08:25,850 形見と称して 近衛師団の 士官である兄に届けさせていた 112 00:08:25,850 --> 00:08:30,050 そこには カール太公が ワイングラスに毒物を塗って献上し 113 00:08:30,050 --> 00:08:33,290 自分はカールに買収されて 共犯となったこと 114 00:08:33,290 --> 00:08:35,260 その事情を知る自分を 殉死と称して 115 00:08:35,260 --> 00:08:38,660 抹殺しようとしていることなどが 記されていた 116 00:08:38,660 --> 00:08:42,470 妹の救出ができなかった その近衛士官は復讐を決意し 117 00:08:42,470 --> 00:08:46,070 カールに次ぐ帝位継承権を持つ ジギスムントの元へ 118 00:08:46,070 --> 00:08:48,100 証拠の品を持ち込んだのだった 119 00:08:48,100 --> 00:08:52,170 ジギスムントはカールを 追い落とす大義名分を得て狂喜し 120 00:08:52,170 --> 00:08:54,510 宮廷内工作の結果 カールに 121 00:08:54,510 --> 00:08:58,310 帝位継承権を返上させることに 成功したのだった 122 00:09:00,320 --> 00:09:03,220 無論 皇帝が皇太曽孫に 毒殺されたなどと 123 00:09:03,220 --> 00:09:07,620 公表するわけにはいかず 秘密裏に 政変が進行したのであった 124 00:09:07,620 --> 00:09:10,230 カールは宮廷の1室に 監禁された後 125 00:09:10,230 --> 00:09:13,030 郊外の精神病院に移され 厚い壁の中で 126 00:09:13,030 --> 00:09:15,360 一応の礼節をもって遇された 127 00:09:15,360 --> 00:09:18,870 長寿を保ち 曾祖父をしのぐ 97歳まで生きたが 128 00:09:18,870 --> 00:09:21,770 彼が死去した時 世はジギスムント2世から 129 00:09:21,770 --> 00:09:25,640 オトフリート2世を経て オットー・ハインツ1世の時代であり 130 00:09:25,640 --> 00:09:29,510 70年以上も前に帝位に就き損ねた 老人の名を記憶する者は 131 00:09:29,510 --> 00:09:34,320 宮廷内には もはや 存在しなかったという 132 00:09:34,320 --> 00:09:37,690 カールの死んだ帝国暦217年から 133 00:09:37,690 --> 00:09:42,190 自由惑星同盟との間に ダゴン星域の会戦が行われ 134 00:09:42,190 --> 00:09:48,000 帝国軍が歴史的大敗を喫する 帝国暦331年までの間に 135 00:09:48,000 --> 00:09:51,300 ゴールデンバウム王家は さらに8人の皇帝と 136 00:09:51,300 --> 00:09:57,510 それに伴う善悪美醜 さまざまな物語を生むことになる 137 00:09:57,510 --> 00:10:02,240 学芸省から提出された非公式の 途中報告書に目を通しながら 138 00:10:02,240 --> 00:10:06,150 ラインハルトは 時に冷笑し 時に考え込んだ 139 00:10:06,150 --> 00:10:09,920 彼はヤン・ウェンリーほど 歴史に関心を持たなかったが 140 00:10:09,920 --> 00:10:11,850 未来に思いを馳せる者は 141 00:10:11,850 --> 00:10:14,560 過去を知らずに 済ますことはできない 142 00:10:14,560 --> 00:10:18,930 とはいえ 全ての指標が 過去に存在するわけでもない 143 00:10:18,930 --> 00:10:22,530 誰かに ついていくということは 彼にはできなかった 144 00:10:22,530 --> 00:10:26,030 誰もが彼に ついてくるのだから 145 00:10:54,460 --> 00:10:57,260 あなた 政府からの通知です 146 00:10:59,300 --> 00:11:03,910 やっぱり年金も減らされるのか これだけが楽しみで 147 00:11:03,910 --> 00:11:07,380 やりたくもない仕事を やってきたのにな 148 00:11:07,380 --> 00:11:12,050 で 我が家の家計はどうだい? これで やっていけそうかい? 149 00:11:12,050 --> 00:11:15,050 何とか 家計への締め付けが 150 00:11:15,050 --> 00:11:18,150 この息苦しさの 原因じゃないですわ 151 00:11:23,660 --> 00:11:28,430 あーあ まったく いい加減にしてくれないかな 152 00:11:28,430 --> 00:11:31,830 私みたいに平和で 無害な人間に嫌がらせをして 153 00:11:31,830 --> 00:11:35,330 何が楽しいんだか 聞いてみたいもんだよ まったく 154 00:11:37,340 --> 00:11:39,710 ん?何だい? 155 00:11:39,710 --> 00:11:42,610 いいえ 何でもありません いずれにしても 156 00:11:42,610 --> 00:11:46,980 帝国軍に余計な猜疑を買うのは 得策ではありませんわ 157 00:11:46,980 --> 00:11:49,220 ですから… うん? 158 00:11:49,220 --> 00:11:54,990 大いに怠けていてくださいね うん 159 00:11:54,990 --> 00:11:58,430 ヤン元帥の日常は平穏そのもの 160 00:11:58,430 --> 00:12:01,160 帝国に対する反意を うかがわせるようなものは 161 00:12:01,160 --> 00:12:03,100 感じられません うーん 162 00:12:03,100 --> 00:12:06,800 美しい新妻と 働かずに食える身分か 163 00:12:06,800 --> 00:12:11,340 うらやましいことだ 理想の人生と言うべきだろうな 164 00:12:11,340 --> 00:12:14,210 はあ… どこを見ておる 165 00:12:14,210 --> 00:12:18,610 ヤン・ウェンリーの外見に だまされるな!あれは擬態だ 166 00:12:18,610 --> 00:12:21,520 我が軍に度重なる苦杯を 飲ませたほどの男が 167 00:12:21,520 --> 00:12:25,490 このまま老い朽ちるまで 無為な 年金生活に甘んじるはずがない 168 00:12:25,490 --> 00:12:29,560 必ず内心で 帝国による支配の転覆を企て 169 00:12:29,560 --> 00:12:32,460 長期的な計画を練っているに 違いないんだ 170 00:12:32,460 --> 00:12:36,330 それを糊塗するために 平凡な日常を装っているんだ 171 00:12:36,330 --> 00:12:39,230 今から もう一度行って 様子を探ってこい 172 00:12:39,230 --> 00:12:41,230 はっ 173 00:12:44,110 --> 00:12:47,010 そんなはずが あってはならん 174 00:12:53,680 --> 00:12:55,620 元帥閣下にとっては 175 00:12:55,620 --> 00:12:58,090 さぞ ご不自由 ご不快なこととは 存じますが 176 00:12:58,090 --> 00:13:00,020 これも上官からの命令でして 177 00:13:00,020 --> 00:13:03,390 小官としては 服従せざるを得ません 178 00:13:03,390 --> 00:13:05,960 どうか ご容赦いただきたく 存じます 179 00:13:05,960 --> 00:13:09,300 ああ いやいや 気にしないでください 大佐 180 00:13:09,300 --> 00:13:12,200 誰しも給料に対しては 相応の忠誠心を 181 00:13:12,200 --> 00:13:15,870 示さなくては なりませんからね 私もそうでした 182 00:13:15,870 --> 00:13:18,640 あれは紙ではなく 実は鎖で できていて 183 00:13:18,640 --> 00:13:21,040 人を縛るのですよ 184 00:13:23,010 --> 00:13:25,010 では 失礼します 185 00:13:26,880 --> 00:13:30,390 まっ 現場の人間に 文句を言っても始まらない 186 00:13:30,390 --> 00:13:32,350 同盟軍でさえ 上官の命令は 187 00:13:32,350 --> 00:13:35,060 たとえ それが不当なものでも 絶対だった 188 00:13:35,060 --> 00:13:37,760 まして帝国軍ではね 189 00:13:37,760 --> 00:13:42,430 しかも レンネンカンプという人は 人一倍 規律を信奉しているらしい 190 00:13:42,430 --> 00:13:45,330 規律に反することは 善でも認めないし 191 00:13:45,330 --> 00:13:48,840 規律通りであれば 悪でも肯定するんだろう 192 00:13:48,840 --> 00:13:52,040 つまりレンネンカンプという人を お嫌いなんですね 193 00:13:52,040 --> 00:13:55,780 うん?いや 嫌いじゃないよ 気に食わないだけだ 194 00:13:55,780 --> 00:13:58,050 まあ とにかく 195 00:13:58,050 --> 00:14:01,020 限度を超えて 生活に干渉してくるようなら 196 00:14:01,020 --> 00:14:03,420 こちらとしても 非常の手段を講じて 197 00:14:03,420 --> 00:14:06,820 レンネンカンプの野郎を… 198 00:14:06,820 --> 00:14:08,760 う… ううん 199 00:14:08,760 --> 00:14:11,660 レンネンカンプ氏に ご退場いただくのは いいとして 200 00:14:11,660 --> 00:14:13,700 問題は後釜だな 201 00:14:13,700 --> 00:14:15,900 無責任で物欲が強く 202 00:14:15,900 --> 00:14:17,830 カイザーの目が 届かぬのをいいことに 203 00:14:17,830 --> 00:14:21,340 小悪事にふけるような 佞臣タイプの人物が 204 00:14:21,340 --> 00:14:24,040 こちらにとっては 一番 利用しやすい 205 00:14:24,040 --> 00:14:27,010 カイザー・ラインハルトが 君主として堕落すれば 206 00:14:27,010 --> 00:14:29,550 そんな人物を登用するでしょうね 207 00:14:29,550 --> 00:14:33,720 ああ 君は事態の本質を突いたな その通りだ 208 00:14:33,720 --> 00:14:35,980 我々は敵の堕落を歓迎し 209 00:14:35,980 --> 00:14:38,890 それどころか 促進すら しなくてはならないんだ 210 00:14:38,890 --> 00:14:40,890 情けない話じゃないか 211 00:14:40,890 --> 00:14:45,490 政治とか軍事とかが 悪魔の管轄に 属することだと よく分かるよ 212 00:14:45,490 --> 00:14:50,370 まったく 我ながら 何てことに関わっているんだか 213 00:14:50,370 --> 00:14:53,300 ところで あなた あの… 214 00:14:53,300 --> 00:14:55,940 結婚して ひと月経ちますけど 215 00:14:55,940 --> 00:15:00,740 私 自信がなくて 妻としての やり方に 216 00:15:00,740 --> 00:15:03,580 料理とか ご不満はありません? 217 00:15:03,580 --> 00:15:05,610 いや 不満なんてあるわけがない 218 00:15:05,610 --> 00:15:11,290 特に この前の… えっと 何とかいう料理 おいしかったな 219 00:15:11,290 --> 00:15:14,020 私 昔から料理が下手で 220 00:15:14,020 --> 00:15:16,360 そんなことはないさ 本当に 221 00:15:16,360 --> 00:15:18,890 あっ そうそう エル・ファシルの脱出の時 222 00:15:18,890 --> 00:15:21,860 君が作ってくれたサンドイッチは おいしかった 223 00:15:21,860 --> 00:15:24,500 私 サンドイッチだけは 得意なんです 224 00:15:24,500 --> 00:15:26,440 いえ それだけじゃないけど 225 00:15:26,440 --> 00:15:29,810 他にはクレープとか ハンバーガーとか 226 00:15:29,810 --> 00:15:31,770 挟むものばっかりだね 227 00:15:31,770 --> 00:15:36,550 あっ そうですね 私ったら簡単なものばかりで 228 00:15:36,550 --> 00:15:39,350 凝ったお料理とか まるで できなくって 229 00:15:39,350 --> 00:15:42,890 いや その どうせ時間は たっぷりあるんだから 230 00:15:42,890 --> 00:15:46,760 これからゆっくり 覚えればいいんだよ ね?うん 231 00:15:46,760 --> 00:15:50,060 そうですね そうさ 232 00:16:01,240 --> 00:16:04,710 ふん 毎日毎日 ご苦労なことだ 233 00:16:04,710 --> 00:16:07,710 でも おかげで泥棒に 入られる心配はありませんわ 234 00:16:07,710 --> 00:16:09,980 公費で家の見張りを してくれるんですもの 235 00:16:09,980 --> 00:16:11,910 ありがたいことじゃ ありませんか 236 00:16:11,910 --> 00:16:15,720 そうだわ お茶でも 出してあげましょうか 237 00:16:15,720 --> 00:16:19,190 え?勝手にしろ 238 00:16:19,190 --> 00:16:22,290 シャルロット はーい 239 00:16:24,330 --> 00:16:26,600 表にいる兵隊さんの中で 240 00:16:26,600 --> 00:16:29,800 一番 威張ってる人を 呼んできてちょうだい 241 00:16:29,800 --> 00:16:31,800 はい 242 00:16:38,510 --> 00:16:42,380 何かご用でしょうか 俺じゃない 女房のほうだ 243 00:16:42,380 --> 00:16:45,310 は?あ… はあ 何か? 244 00:16:45,310 --> 00:16:50,850 いえね いつも ご苦労さまなので コーヒーでもいかが と思いまして 245 00:16:50,850 --> 00:16:55,620 ああ せっかくですが 今は勤務中ですので 246 00:16:55,620 --> 00:16:57,890 まあ ダメですの? 247 00:16:57,890 --> 00:17:02,490 残念ですが 勤務中に饗応を 受けるわけには まいりませんので 248 00:17:05,470 --> 00:17:09,070 他に ご用がなければ 失礼させていただきます 249 00:17:14,310 --> 00:17:18,980 またね はあ 250 00:17:18,980 --> 00:17:22,220 これは使えるかな… 251 00:17:22,220 --> 00:17:24,490 あなた これ お願いしますね 252 00:17:24,490 --> 00:17:27,990 お願いって 飲むのか 俺が? 全部? 253 00:17:27,990 --> 00:17:31,230 だって もったいないでしょ 254 00:17:31,230 --> 00:17:35,130 はあ… 眠れなくなりそうだな 255 00:17:37,030 --> 00:17:41,870 監視を緩めるな あの男は必ず何かしでかす 256 00:17:41,870 --> 00:17:44,670 帝国と皇帝陛下にとって 害となるものは 257 00:17:44,670 --> 00:17:48,870 それが現実のものとなる前に 排除せねばならん 258 00:17:50,910 --> 00:17:53,550 返事はどうしたか はっ 259 00:17:53,550 --> 00:17:57,890 ご命令通り 今後も厳しく ヤン元帥を監視いたします 260 00:17:57,890 --> 00:18:00,360 大佐 試みに問うが 261 00:18:00,360 --> 00:18:03,260 我々に必要なのは 従属されることか 262 00:18:03,260 --> 00:18:06,600 それとも歓迎されることか 263 00:18:06,600 --> 00:18:09,460 無論 従属されることであります 264 00:18:09,460 --> 00:18:13,840 その通りだ 我々は勝利者であり 支配者なのだ 265 00:18:13,840 --> 00:18:16,740 新しい秩序を建設する責任がある 266 00:18:16,740 --> 00:18:19,110 一時は敗者に 疎まれることがあっても 267 00:18:19,110 --> 00:18:21,680 より大きな責任を果たすためには 268 00:18:21,680 --> 00:18:26,380 不退転の決意と信念を持って 当たらねばならんのだ 269 00:18:48,370 --> 00:18:52,240 こんにちは ヤンおじちゃま フレデリカおねえちゃま 270 00:18:52,240 --> 00:18:55,140 あ… こんにちわ いらっしゃい 271 00:18:55,140 --> 00:18:58,150 これ お母さんから 何かしら? 272 00:18:58,150 --> 00:19:01,450 ラズベリーのパイです すぐに召し上がってくださいって 273 00:19:01,450 --> 00:19:04,450 そう ありがとう さあ 奥へいらっしゃい 274 00:19:04,450 --> 00:19:06,450 はい 275 00:19:09,120 --> 00:19:11,660 どうなさったの あなた? 276 00:19:11,660 --> 00:19:15,530 どうして君は「おねえちゃま」で 僕は「おじちゃま」なんだ? 277 00:19:15,530 --> 00:19:19,530 あなたは 私が「おばちゃま」と 呼ばれたら うれしいんですか? 278 00:19:28,880 --> 00:19:32,210 あら… 279 00:19:32,210 --> 00:19:34,920 あなた ちょっと 280 00:19:34,920 --> 00:19:36,920 どうした? 281 00:19:40,820 --> 00:19:45,330 よくもまあ こんなセコイ 連絡方法を考えるもんだ 282 00:19:45,330 --> 00:19:49,200 電話は盗聴されてるでしょうし 手紙も検閲されているとなると 283 00:19:49,200 --> 00:19:52,630 確かにこんな方法しか ないのかもしれませんけど 284 00:19:52,630 --> 00:19:55,340 そんなに何回も 使える手じゃないし 285 00:19:55,340 --> 00:19:59,210 細かい話は直接でないとね ええ 286 00:19:59,210 --> 00:20:03,480 何か訪問する口実を 見つけられればいいんだが 287 00:20:03,480 --> 00:20:06,350 それでね 考えたことが あるんですけど 288 00:20:06,350 --> 00:20:08,350 うん? 289 00:20:12,690 --> 00:20:15,420 おい ヤン夫人がお見えだぞ 290 00:20:15,420 --> 00:20:19,730 あら お一人で? いや 亭主を連れている 291 00:20:19,730 --> 00:20:22,430 しかし 何だな 夫婦ってものは 292 00:20:22,430 --> 00:20:25,970 指令官と副官という具合には いかないらしいな 293 00:20:25,970 --> 00:20:27,900 お互い大変だろう 294 00:20:27,900 --> 00:20:31,770 いいじゃありませんか 大体 あのご夫婦にはね 295 00:20:31,770 --> 00:20:35,240 小市民的家庭なんて舞台は 狭すぎるんですよ 296 00:20:35,240 --> 00:20:38,550 まあ 遠からず いるべき場所へ 飛び立っていくでしょう 297 00:20:38,550 --> 00:20:42,520 おいおい 俺は女予言者と 結婚したつもりはないぞ 298 00:20:42,520 --> 00:20:46,290 あら 私は予言してるんじゃ ありませんよ 299 00:20:46,290 --> 00:20:50,290 私は知ってるんですよ やれやれ 300 00:20:53,560 --> 00:20:56,430 どのような目的での ご訪問ですか 301 00:20:56,430 --> 00:20:59,330 こちらの奥様から お料理を習いに 302 00:20:59,330 --> 00:21:01,940 料理? そうです 303 00:21:01,940 --> 00:21:04,170 何時頃 ご帰宅の予定ですか 304 00:21:04,170 --> 00:21:08,140 そうだな 9時頃かな 305 00:21:08,140 --> 00:21:10,280 よう 306 00:21:10,280 --> 00:21:13,010 はい お母さんにあげて ババロアだよ 307 00:21:13,010 --> 00:21:15,010 わあ! 308 00:21:16,890 --> 00:21:20,760 おい 招かれざる客よ 309 00:21:20,760 --> 00:21:23,660 何です? マダム キャゼルヌのご亭主 310 00:21:23,660 --> 00:21:26,430 たまには コニャックの1本も 提げてこい 311 00:21:26,430 --> 00:21:29,830 なんだ 女房の好物ばかり 持ってきおって 312 00:21:29,830 --> 00:21:32,730 だって どうせ こびを売るなら 実力者に売ったほうが 313 00:21:32,730 --> 00:21:34,670 効率的ですからね 314 00:21:34,670 --> 00:21:37,570 料理を作ってくださるのは 奥さんでしょ? 315 00:21:37,570 --> 00:21:39,510 視野の狭いやつだ 316 00:21:39,510 --> 00:21:42,410 料理の材料費を 稼いでるのは 俺だぞ 317 00:21:42,410 --> 00:21:45,350 表面はどう見えても 真の権力を握っているのは… 318 00:21:45,350 --> 00:21:47,550 やっぱり 奥さんでしょ 319 00:21:51,490 --> 00:21:53,420 それじゃあ 並べてくださいね 320 00:21:53,420 --> 00:21:57,390 そう あっ もう少し手前にね… 子供扱いだな 321 00:21:57,390 --> 00:22:00,900 私 もっともっと 料理を覚えようと思うんです 322 00:22:00,900 --> 00:22:06,840 まず 肉料理を一通り覚えて 次に魚料理 それから卵料理 323 00:22:06,840 --> 00:22:09,640 ご迷惑でしょうけど よろしくお願いしますわね 324 00:22:09,640 --> 00:22:12,340 立派な心掛けよ フレデリカさん 325 00:22:12,340 --> 00:22:16,240 でもね そう系統立てて 分野別に習得しようなんて 326 00:22:16,240 --> 00:22:18,980 肩ひじ張らないほうがいいわ 327 00:22:18,980 --> 00:22:22,950 それに料理より大切なのは 亭主をしつけることよ 328 00:22:22,950 --> 00:22:26,150 甘やかすと 付け上がりますからね (亭主たちの笑い声) 329 00:22:26,150 --> 00:22:28,150 あら… 330 00:22:35,560 --> 00:22:38,270 ホントに けなげだわ フレデリカさんは 331 00:22:38,270 --> 00:22:41,300 そりゃあ けなげだと俺も思うがね 332 00:22:41,300 --> 00:22:44,610 しかし ユリアンのやつ 早いとこ帰ってこないと 333 00:22:44,610 --> 00:22:46,640 我が家に帰り着いたところで 発見するのは 334 00:22:46,640 --> 00:22:50,510 若夫婦の栄養失調死体ってことに なりかねんぞ 335 00:22:50,510 --> 00:22:53,680 何ですか!縁起でもない 336 00:22:53,680 --> 00:22:58,490 冗談だよ 冗談も程々にしておきなさい 337 00:22:58,490 --> 00:23:01,020 あなたは あんまり ユーモアセンスがないんだから 338 00:23:01,020 --> 00:23:03,330 気が付かないうちに 笑って済ませられる線を 339 00:23:03,330 --> 00:23:05,790 越してしまうんですよ 340 00:23:05,790 --> 00:23:09,030 度が過ぎると 周りから嫌われますよ 341 00:23:09,030 --> 00:23:11,000 父さんはな 負けたんじゃないぞ 342 00:23:11,000 --> 00:23:13,470 ここで引き下がって 女房の顔を立てるのが 343 00:23:13,470 --> 00:23:16,300 家庭の平和を保つ秘訣なんだ 344 00:23:16,300 --> 00:23:18,640 お前たちにも いまに分かるさ 345 00:23:18,640 --> 00:23:22,440 ヤンにもな もっとも そんな暇もなく 346 00:23:22,440 --> 00:23:26,540 本来いるべき場所とやらに 帰らねばならんかもしれんが… 347 00:23:29,520 --> 00:23:32,190 実際 私なんかは単に 348 00:23:32,190 --> 00:23:36,060 完成されつつある新しい秩序を 破壊しようとしているだけの 349 00:23:36,060 --> 00:23:41,460 歴史上の犯罪者かもしれないとも 思うんだ 自分でもね 350 00:23:41,460 --> 00:23:45,370 ただ たとえカイザー・ラインハルトが どんなに善政を敷いても 351 00:23:45,370 --> 00:23:48,540 専制政治に全てを委ねるわけには いかないと思うから 352 00:23:48,540 --> 00:23:51,040 いろいろとプランも立てるんだが 353 00:23:51,040 --> 00:23:53,740 今は待つしかないんでしょ? 354 00:23:53,740 --> 00:23:56,040 よっと あっ 355 00:23:56,040 --> 00:23:58,840 タイミングがまだまだですな 少佐 356 00:24:00,750 --> 00:24:04,490 欲しいと思うのは 体がそれを求めているからなんだ 357 00:24:04,490 --> 00:24:07,390 だから 欲しいものを素直に 飲んだり 食べたりするのが 358 00:24:07,390 --> 00:24:10,790 体には一番いいんだよ うん… 359 00:24:13,900 --> 00:24:19,270 ヤン・ウェンリーは どうにか 平和な新婚生活を営み始めていた 360 00:24:19,270 --> 00:24:22,700 だが そのささやかな 平和を破る事件が 361 00:24:22,700 --> 00:24:25,700 まもなく起ころうとしていた 362 00:26:41,410 --> 00:26:43,450 メルカッツらによる戦艦強奪は 363 00:26:43,650 --> 00:26:46,980 思いも寄らぬかたちで 同盟政府を追い詰めた 364 00:26:46,980 --> 00:26:50,690 レンネンカンプの内政干渉に 抗しきれなくなったレベロ議長は 365 00:26:50,690 --> 00:26:54,460 やむなく決断し ついにヤンが逮捕された 366 00:26:54,460 --> 00:26:57,430 次回 銀河英雄伝説 第60話 367 00:26:57,430 --> 00:26:59,430 「魔術師捕らわる」 368 00:26:59,430 --> 00:27:02,930 銀河の歴史が また1ページ