1 00:01:32,300 --> 00:01:36,670 宇宙歴800年 新帝国歴2年5月6日 2 00:01:36,670 --> 00:01:39,570 帝国軍の後退に合わせて ヤン艦隊も 3 00:01:39,570 --> 00:01:42,810 再びイゼルローン要塞に帰投した 4 00:01:42,810 --> 00:01:46,680 連戦に次ぐ連戦に 将兵の疲労と消耗は激しく 5 00:01:46,680 --> 00:01:49,050 ヤン艦隊の維持する優勢が 6 00:01:49,050 --> 00:01:53,720 薄氷の上のものであることは 誰の目にも明らかだった 7 00:01:53,720 --> 00:01:57,620 しかし その士気は 依然 衰えてはいない 8 00:01:59,520 --> 00:02:02,490 ああ 寝た寝た 9 00:02:02,490 --> 00:02:05,430 20時間は まとめて寝たかな 10 00:02:05,430 --> 00:02:09,500 信じられんことに 独りで寝たらしいじゃないか 11 00:02:09,500 --> 00:02:14,340 たまにはベッドが広いことを 確認するのも いいものですな 12 00:02:14,340 --> 00:02:18,040 棺桶にはダブルサイズは ないからな ん? 13 00:02:18,040 --> 00:02:22,240 今のフレーズはいいな 書き留めておこう 14 00:02:25,480 --> 00:02:28,390 一生分の勤勉さを あなたはここで 15 00:02:28,390 --> 00:02:31,320 使い果たしてしまいそうですな ヤン提督 16 00:02:31,320 --> 00:02:37,030 一生分はエル・ファシルの時に 使い果たしたんだけどな 17 00:02:37,030 --> 00:02:41,460 はあ それにしても 帝国軍の物量に 18 00:02:41,460 --> 00:02:44,800 勤勉さだけで対抗するには 限界がある 19 00:02:44,800 --> 00:02:47,700 そこをつかれて帝国軍に あの戦法に出られたら 20 00:02:47,700 --> 00:02:49,740 勝ち目はない 21 00:02:49,740 --> 00:02:52,310 そこで その前に こちらが攻勢に出て 22 00:02:52,310 --> 00:02:55,910 圧倒するしかない 何か質問は? 23 00:03:01,990 --> 00:03:05,890 直ちに出撃の用意を はっ! 24 00:03:17,400 --> 00:03:23,110 私も最近ようやく 艦隊運用に 自信が持てるようになりました 25 00:03:23,110 --> 00:03:26,610 この戦いが終わったら アッテンボロー中将にならって 26 00:03:26,610 --> 00:03:31,410 偉そうに本の一冊も 書いてみますかな 27 00:03:31,410 --> 00:03:33,410 では 28 00:03:41,420 --> 00:03:47,520 5月7日23時 ヤン艦隊は 再び全面的な攻勢に出た 29 00:03:59,910 --> 00:04:04,450 敵の一隊がカイザーの前に 壁を 作る形で立ちふさがっています 30 00:04:04,450 --> 00:04:08,380 ああ それは「鉄壁ミュラー」の 艦隊に違いない 31 00:04:08,380 --> 00:04:12,020 異名にふさわしく 主君を守ろうとしているのだ 32 00:04:12,020 --> 00:04:14,360 彼を部下に 持ったという一事だけで 33 00:04:14,360 --> 00:04:18,360 カイザー・ラインハルトの名は 後世に伝えられるだろうな 34 00:04:18,360 --> 00:04:22,170 ミュラーにせよ 死んだファーレンハイトやシュタインメッツにせよ 35 00:04:22,170 --> 00:04:25,970 別に専制政治に 命を懸けているわけではない 36 00:04:25,970 --> 00:04:30,440 ラインハルト・フォン・ローエングラムという 一個人に対する忠誠心のために 37 00:04:30,440 --> 00:04:34,910 命を捨てても 戦おうとしているわけか 38 00:04:34,910 --> 00:04:37,710 つまりは 人は人に従うのであって 39 00:04:37,710 --> 00:04:42,520 制度や理念に従うのではない ということかな 40 00:04:42,520 --> 00:04:47,360 だとしたらユリアンは結局は 私のために戦っているのだろうか 41 00:04:47,360 --> 00:04:51,900 それではいけない 戦う理由が 個人への忠誠心ではなく 42 00:04:51,900 --> 00:04:58,000 民主主義の思想と制度に対する 忠誠心であってほしいのだ 43 00:04:58,000 --> 00:04:59,940 いかん いかん 44 00:04:59,940 --> 00:05:03,540 元々 私はユリアンには 軍人になってほしくなかったんだ 45 00:05:03,540 --> 00:05:07,240 戦う理由を云々するのも 妙なものだ 46 00:05:10,010 --> 00:05:14,480 5月8日に入っても 両軍の混戦は続いている 47 00:05:14,480 --> 00:05:18,860 ミュラーの戦列参加は ヤンを一時的に後退させたものの 48 00:05:18,860 --> 00:05:22,060 戦局に劇的な変化は もたらさなかった 49 00:05:22,060 --> 00:05:26,060 これはバーミリオンの時と違い ヤンにとってミュラーの参戦は 50 00:05:26,060 --> 00:05:29,160 あらかじめ 織り込み済みであったことによる 51 00:05:32,300 --> 00:05:37,210 数的に著しく劣勢である ヤン艦隊は 回廊の地形を活用し 52 00:05:37,210 --> 00:05:40,640 機雷原や火力の集中によって 敵を分断し 53 00:05:40,640 --> 00:05:43,550 時間差をつけて 各個撃破していった 54 00:05:43,550 --> 00:05:48,020 ミュラーも いったん配置した兵力を 自在に移動させることができず 55 00:05:48,020 --> 00:05:53,260 延々と続く局地的戦闘に 耐えねばならなかった 56 00:05:53,260 --> 00:05:56,160 前後 左右 上下 いずれの方角を見ても 57 00:05:56,160 --> 00:05:59,130 味方の艦影で埋まっている にもかかわらず 58 00:05:59,130 --> 00:06:02,800 我が軍が劣勢であるのは どういうわけだ! 59 00:06:02,800 --> 00:06:07,300 それは小さいが 執拗な戦闘と移動の連続であった 60 00:06:07,300 --> 00:06:11,170 その激戦のさなか ミッターマイヤー元帥 戦死の報が 61 00:06:11,170 --> 00:06:13,870 大本営にもたらされる 62 00:06:16,010 --> 00:06:18,110 なっ… 63 00:06:23,750 --> 00:06:27,120 ベイオウルフより入電 「小官は悪運強く」 64 00:06:27,120 --> 00:06:29,060 「なお現世に足をとどめたり」 65 00:06:29,060 --> 00:06:32,960 「敵の砲火はヴァルハラの門扉を 打ち破るあたわず」 66 00:06:32,960 --> 00:06:35,960 ミッターマイヤー元帥 ご自身からの通信文です 67 00:06:40,500 --> 00:06:43,240 カイザー・ラインハルトが最終的な 68 00:06:43,240 --> 00:06:46,610 しかも すさまじい戦法を 実行に移すべく決意したのは 69 00:06:46,610 --> 00:06:48,650 この時である 70 00:06:48,650 --> 00:06:53,050 5月9日 戦いの中で開かれた 御前会議において 71 00:06:53,050 --> 00:06:55,290 そのカイザーの意思が示された 72 00:06:55,290 --> 00:06:58,760 まず戦死したシュタインメッツの 元帥昇進と 73 00:06:58,760 --> 00:07:00,690 ヒルダが中将待遇で 74 00:07:00,690 --> 00:07:04,590 大本営幕僚総監に 就任することが告げられた 75 00:07:06,500 --> 00:07:08,770 余はこれまで戦うにあたって 76 00:07:08,770 --> 00:07:12,640 受け身となって よき結果を 報われたことは一度もなかった 77 00:07:12,640 --> 00:07:16,810 それを忘れた時 軍神は余の怠惰を罰したもうた 78 00:07:16,810 --> 00:07:19,710 今回 いまだ勝利を得られぬ ゆえんである 79 00:07:19,710 --> 00:07:22,410 ヤン・ウェンリーは 狭隘な回廊の地形を利し 80 00:07:22,410 --> 00:07:26,420 我が軍に縦列編成を強いて 数の不利を補っている 81 00:07:26,420 --> 00:07:29,250 余はそれに対し 巧緻をもって報いんとしたが 82 00:07:29,250 --> 00:07:34,160 これは誤りであった 正面から 力をもって彼の抵抗を撃砕し 83 00:07:34,160 --> 00:07:37,230 彼を再び起つ あたわざらしむることこそ 84 00:07:37,230 --> 00:07:41,560 余と余の軍隊の 赴くべき道であろう 85 00:07:41,560 --> 00:07:45,470 ヤン・ウェンリーは宇宙の全てを 欲しているのではないと思います 86 00:07:45,470 --> 00:07:48,810 あえて申し上げますが 譲歩が必要であるとすれば 87 00:07:48,810 --> 00:07:54,080 それをなさる権利と責任は 陛下の方におありです 88 00:07:54,080 --> 00:07:58,310 フロイライン・マリーンドルフ あなたの言うことを聞いていると 89 00:07:58,310 --> 00:08:01,620 ヤン・ウェンリーを追い詰めて 窮鼠たらしめている責任は 90 00:08:01,620 --> 00:08:04,520 余にあると主張しているように 聞こえるが 91 00:08:04,520 --> 00:08:09,830 あ… はい そう申し上げております 92 00:08:09,830 --> 00:08:14,030 宇宙の支配者に対して そうも歯に衣を着せぬ者は 93 00:08:14,030 --> 00:08:17,600 この世では あなただけだな フロイライン 94 00:08:17,600 --> 00:08:20,970 あなたの勇気と率直さは 称賛に値するが 95 00:08:20,970 --> 00:08:25,170 余がいつも それを喜ぶと 思ってもらっては困る 96 00:08:30,350 --> 00:08:33,620 こうして回廊決戦の第2幕が 上がったのは 97 00:08:33,620 --> 00:08:35,990 5月10日のことである 98 00:08:35,990 --> 00:08:39,560 それは艦隊行動としては 単純なものであった 99 00:08:39,560 --> 00:08:42,960 縦列陣で突進し 集中砲火を浴びせ 100 00:08:42,960 --> 00:08:46,460 敵前回頭をしつつ なおも砲撃し 後退する 101 00:08:46,460 --> 00:08:50,070 第1陣が後退する時 第2陣が前進し 102 00:08:50,070 --> 00:08:52,970 同じことを 延々と繰り返すのである 103 00:08:52,970 --> 00:08:57,210 これは絶対的な数の差に ものを言わせた物量作戦であった 104 00:08:57,210 --> 00:09:01,380 ヤンが恐れていたのは まさに この作戦をとられることであった 105 00:09:01,380 --> 00:09:05,620 このままでは回復力に劣る我らに 勝ち目はありません 106 00:09:05,620 --> 00:09:08,920 ここは一時 イゼルローン要塞まで後退し 107 00:09:08,920 --> 00:09:13,760 トールハンマーをもって 敵の 波状攻撃に対抗すべきでしょう 108 00:09:13,760 --> 00:09:16,560 賛成 賛成! そうしたいところだが 109 00:09:16,560 --> 00:09:20,960 敵はミュラーだ イゼルローンの 攻め方は よく心得ている 110 00:09:20,960 --> 00:09:23,400 我々が後退すれば そこにつけ込んで 111 00:09:23,400 --> 00:09:25,330 急速前進してくるだろう 112 00:09:25,330 --> 00:09:28,870 並行追撃によって 混戦状態を作り出し 113 00:09:28,870 --> 00:09:32,240 トールハンマーを 使えなくする作戦か 114 00:09:32,240 --> 00:09:35,650 敵の攻撃 また来ます 応戦せよ 115 00:09:35,650 --> 00:09:39,650 第7宙域でデッシュ准将の部隊が 敵に半包囲されています 116 00:09:39,650 --> 00:09:43,290 司令部の高速艦を割いて 救援させろ 117 00:09:43,290 --> 00:09:46,220 まったく 作戦を考える暇も ありゃしない 118 00:09:46,220 --> 00:09:49,320 それも敵の狙いの一つだろうな 119 00:10:00,270 --> 00:10:03,540 エミール はい フロイライン 120 00:10:03,540 --> 00:10:06,410 陛下はお食事を お取りになったかしら? 121 00:10:06,410 --> 00:10:09,310 いえ 軽く手を おつけになられただけです 122 00:10:09,310 --> 00:10:13,280 そう… 何か他に 気づいたことはない? 123 00:10:13,280 --> 00:10:15,650 陛下のご体調についてですか? 124 00:10:15,650 --> 00:10:19,860 ええ ひょっとして少し熱が おありになるのではないかしら 125 00:10:19,860 --> 00:10:23,490 はい 私もそれを 心配申し上げているのですが 126 00:10:23,490 --> 00:10:26,260 でも それは単に戦いに臨まれて 127 00:10:26,260 --> 00:10:30,000 精神が高揚されていらっしゃる だけかもしれませんし 128 00:10:30,000 --> 00:10:32,670 陛下は何もおっしゃいませんから 129 00:10:32,670 --> 00:10:35,300 そう… とにかく 130 00:10:35,300 --> 00:10:38,400 あなたも特に気をつけていてね はい 131 00:10:44,010 --> 00:10:48,320 ミュラーの波状攻撃は 実に30時間にもおよんだが 132 00:10:48,320 --> 00:10:51,950 ついには彼自身も疲労し 損害も増大してきたところで 133 00:10:51,950 --> 00:10:54,590 ようやく後退した 134 00:10:54,590 --> 00:10:58,460 だが すかさず帝国軍の第2陣 アイゼナッハ艦隊が 135 00:10:58,460 --> 00:11:01,560 突出し 猛攻を加えてきた 136 00:11:03,630 --> 00:11:06,540 チッ 元気な奴らが出てきやがった 137 00:11:06,540 --> 00:11:09,440 敵だけがタッグマッチってのは 不公平だよな 138 00:11:09,440 --> 00:11:11,840 ここはいったん引け 139 00:11:21,520 --> 00:11:24,120 敵が側面に回り込みます 140 00:11:31,860 --> 00:11:34,260 このままでは敵の中に孤立します 141 00:11:34,260 --> 00:11:36,870 司令官は どうなさるおつもりですか 142 00:11:36,870 --> 00:11:40,840 心配するな 窮地に陥ったのは奴らの方さ 143 00:11:40,840 --> 00:11:44,140 退路を塞いで 袋だたきにしてやれ えっ? 144 00:11:54,280 --> 00:11:56,480 よし いけ! 145 00:12:06,730 --> 00:12:11,130 はっ 旗艦を後退させつつ 右翼部隊で敵を迎撃 146 00:12:11,130 --> 00:12:13,530 隊列を整えて隙を作るな 147 00:12:18,770 --> 00:12:21,810 閣下 当艦は危険を脱しましたが 148 00:12:21,810 --> 00:12:24,710 依然 我が艦隊は 敵の挟撃を受けており 149 00:12:24,710 --> 00:12:27,620 このままでは 損害が増すばかりです 150 00:12:27,620 --> 00:12:31,420 ここは一時 後退なさった方が よろしいかと存じますが 151 00:12:37,790 --> 00:12:43,430 アイゼナッハは後退に際して ことさら艦列に隙を作ってみせた 152 00:12:43,430 --> 00:12:46,170 むろんヤンは その誘いには乗らなかった 153 00:12:46,170 --> 00:12:51,510 一つには次の攻撃が来るまでに 武器 弾薬 食料 エネルギー 154 00:12:51,510 --> 00:12:56,950 医薬品の補給と負傷者の後送 更には戦線各所の兵力補充を 155 00:12:56,950 --> 00:12:59,750 やっておかねば ならなかったからである 156 00:13:11,590 --> 00:13:14,360 そろそろ限界だぞ ん… 157 00:13:14,360 --> 00:13:17,070 敵の第三波接近 158 00:13:17,070 --> 00:13:21,700 それはビューロー バイエルライン ジンツァー ドロイゼンといった 159 00:13:21,700 --> 00:13:25,170 ミッターマイヤー旗下の 提督たちの艦隊であった 160 00:13:25,170 --> 00:13:29,080 ミッターマイヤー自身は 旗艦ベイオウルフの損傷もあって 161 00:13:29,080 --> 00:13:32,450 カイザー・ラインハルトから 前線へ出ることを許されず 162 00:13:32,450 --> 00:13:34,980 代わって 部下たちに任せたのである 163 00:13:34,980 --> 00:13:36,920 ミッターマイヤー戦死の誤報に 164 00:13:36,920 --> 00:13:40,220 心胆を寒からしめられたことへの 怒りも手伝って 165 00:13:40,220 --> 00:13:43,130 その攻撃は激しかった 166 00:13:43,130 --> 00:13:47,830 だがヤン艦隊は この第三波の 攻撃も撃退してのけた 167 00:13:47,830 --> 00:13:52,270 それどころか5月14日23時には 防御から一転 168 00:13:52,270 --> 00:13:56,140 逆突出して 帝国軍を突き崩しにかかった 169 00:13:56,140 --> 00:14:00,010 このため第4次攻撃に出るべく 集結中だった 170 00:14:00,010 --> 00:14:03,880 シュワルツ・ランツェンレイターと 旧ファーレンハイト艦隊の連合部隊は 171 00:14:03,880 --> 00:14:08,420 機先を制され 一時は混乱した 172 00:14:08,420 --> 00:14:11,150 数が多ければ いいというものではない 173 00:14:11,150 --> 00:14:15,420 元のファーレンハイト艦隊の指揮は ホフマイスターに任せる 174 00:14:15,420 --> 00:14:18,960 我らは シュワルツ・ランツェンレイターのみで行動する 175 00:14:18,960 --> 00:14:21,430 混乱を収拾した ビッテンフェルトは 176 00:14:21,430 --> 00:14:24,630 自らの旗艦ケーニヒス・ ティーゲルを中心とした 177 00:14:24,630 --> 00:14:27,000 少数の部隊をもって突撃し 178 00:14:27,000 --> 00:14:30,840 ヤン艦隊の中枢部を 一気に突き崩そうとした 179 00:14:30,840 --> 00:14:33,740 敵は確実に こちらに迫ってきます 180 00:14:33,740 --> 00:14:37,150 さすがに ただの猪武者ではないな 181 00:14:37,150 --> 00:14:41,850 弾幕を張って攻撃を防ぎつつ 敵の攻勢を左翼方向にそらす 182 00:14:41,850 --> 00:14:45,720 その間に戦線を縮小し 左翼部隊への突進を中止して 183 00:14:45,720 --> 00:14:49,590 敵の側面を突かせる なるほど 184 00:14:49,590 --> 00:14:51,660 意外な計算違いだ 185 00:14:51,660 --> 00:14:54,800 ビッテンフェルトは緒戦の敗北に 萎縮するどころか 186 00:14:54,800 --> 00:14:57,500 かえって 士気が上がっているようだ 187 00:15:02,540 --> 00:15:06,010 メルカッツが率いる ヤン艦隊の左翼に側面を襲われた 188 00:15:06,010 --> 00:15:10,280 シュワルツ・ランツェンレイターは 完全に挟撃された形となる 189 00:15:10,280 --> 00:15:15,180 だがこの場合 攻撃する側より される側の方が はるかに強かった 190 00:15:15,180 --> 00:15:18,590 数を減らしているとはいえ 宇宙最強と言われる 191 00:15:18,590 --> 00:15:21,820 シュワルツ・ランツェンレイターの 最精鋭である 192 00:15:21,820 --> 00:15:27,030 しかも狭い回廊の中 数の少なさが指揮の統一を強化し 193 00:15:27,030 --> 00:15:30,430 その破壊力を遺憾なく発揮させた 194 00:15:30,430 --> 00:15:33,770 ひたすら撃ちまくれ エネルギーが尽きるまで撃って 195 00:15:33,770 --> 00:15:36,170 何としても奴らを抑えろ 196 00:15:38,610 --> 00:15:41,910 敵のもう一つの部隊との 連携が悪いようだ 197 00:15:41,910 --> 00:15:46,110 アッテンボローに向こうを攻撃させ 敵の指揮系統を圧迫させる 198 00:15:51,390 --> 00:15:55,220 閣下 味方が後退します このままでは戦列が伸びすぎ 199 00:15:55,220 --> 00:15:58,720 いかな我々でも 敵中に孤立を余儀なくされます 200 00:16:02,970 --> 00:16:05,430 閣下! 分かっておる! 201 00:16:05,430 --> 00:16:08,030 全艦 後退 202 00:16:14,580 --> 00:16:20,250 おのれ ヤン・ウェンリーめ またしても取り逃がしたか 203 00:16:20,250 --> 00:16:22,790 ヤンを討ち果たせなかった ビッテンフェルトは 204 00:16:22,790 --> 00:16:26,660 無念のほぞをかんだが 彼自身 気づかぬうちに 205 00:16:26,660 --> 00:16:30,530 ヤン艦隊に補いようのない 損害を与えていた 206 00:16:30,530 --> 00:16:33,130 シヴァが戻らない? 207 00:16:33,130 --> 00:16:35,100 撃沈を確認したのか? 208 00:16:35,100 --> 00:16:38,100 17時45分 通信は途絶しましたが 209 00:16:38,100 --> 00:16:42,810 戦艦アエリアが同時刻 シヴァの撃沈を確認したもよう 210 00:16:42,810 --> 00:16:46,680 フィッシャー提督は? 「脱出者はいない」とのことです 211 00:16:46,680 --> 00:16:48,610 なんということだ 212 00:16:48,610 --> 00:16:51,010 あの混戦の中で… 213 00:17:02,730 --> 00:17:04,690 まいったな 214 00:17:04,690 --> 00:17:08,600 うちの生きた航路図が 死んだ航路図になっちまった 215 00:17:08,600 --> 00:17:12,500 これから うっかり森へ ハイキングにも行けんぞ 216 00:17:16,040 --> 00:17:18,410 エドウィン・フィッシャー中将の 戦死は 217 00:17:18,410 --> 00:17:21,280 ヤン艦隊に深刻な打撃を与えた 218 00:17:21,280 --> 00:17:25,150 ヤンの不敗神話は その機略にヤン艦隊の運動が 219 00:17:25,150 --> 00:17:28,680 常に隙なく連動してきたことに 支えられている 220 00:17:28,680 --> 00:17:31,590 艦隊運用に関する フィッシャーの名人芸と 221 00:17:31,590 --> 00:17:35,460 その名人を発掘し 全権を委ねたヤンの度量とが 222 00:17:35,460 --> 00:17:37,890 完璧な コンビネーションを発揮して 223 00:17:37,890 --> 00:17:41,400 今日までの勝利を 維持し得てきたのである 224 00:17:41,400 --> 00:17:46,000 いうなればヤンは その片脚を失ったも同然であった 225 00:17:46,000 --> 00:17:48,500 「もはや長時間にわたって 帝国軍の猛攻を」 226 00:17:48,500 --> 00:17:54,140 「支えることはできないだろう」 ヤン自身が そう考えていた 227 00:17:54,140 --> 00:17:58,980 実際この時 帝国軍が 再度の全面攻勢を試みていれば 228 00:17:58,980 --> 00:18:04,690 ヤンはイゼルローン要塞に撤収せざるを 得なかったに違いない 229 00:18:04,690 --> 00:18:10,260 だが帝国軍は動かなかった むろん帝国軍も全能ではなく 230 00:18:10,260 --> 00:18:13,760 自分たちがヤン艦隊に 致命的な損害を与えたことを 231 00:18:13,760 --> 00:18:16,070 知りようも なかったからでもあるが 232 00:18:16,070 --> 00:18:22,300 それにもまして重大な事態が 帝国軍の内部で発生していた 233 00:18:22,300 --> 00:18:26,710 カイザー・ラインハルトの 発病である 234 00:18:26,710 --> 00:18:29,280 医師は何と見ているのです? 235 00:18:29,280 --> 00:18:33,080 明確な原因が分からず ただ過労だろうと 236 00:18:33,080 --> 00:18:36,180 陛下は休むということを ご存じないからな 237 00:18:39,720 --> 00:18:43,160 戦いは あの金髪の覇者が 生き続けるための 238 00:18:43,160 --> 00:18:46,030 不可欠の栄養素のようなものだ 239 00:18:46,030 --> 00:18:50,330 たびたびの発熱は その魂の無限なまでの欲求に 240 00:18:50,330 --> 00:18:53,430 肉体が 耐えかねているのではないか 241 00:18:55,470 --> 00:18:57,440 いずれにせよ ここはひとまず全軍を 242 00:18:57,440 --> 00:19:00,080 回廊の外に引き揚げるべきだろう 243 00:19:00,080 --> 00:19:04,010 むろん「皇帝陛下 不予」の事実は 一切 伏せたままでな 244 00:19:04,010 --> 00:19:06,780 そうだな それがよかろう 245 00:19:06,780 --> 00:19:10,490 しかし またしても ヤン・ウェンリーに勝てなかったか 246 00:19:10,490 --> 00:19:15,690 我らは宇宙を征服し得るも 一個人を征服するあたわざる 247 00:19:21,960 --> 00:19:25,830 5月17日 帝国軍は撤退を開始する 248 00:19:25,830 --> 00:19:30,510 200万の将兵と 2万4400隻の艦艇を失って 249 00:19:30,510 --> 00:19:35,740 ついにイゼルローン回廊からの 離脱を余儀なくされたのだった 250 00:19:35,740 --> 00:19:37,680 追撃なさいますか? 251 00:19:37,680 --> 00:19:40,720 いや つけいる隙がない 252 00:19:40,720 --> 00:19:44,920 特にしんがりの部隊は 例の「鉄壁ミュラー」の艦隊だ 253 00:19:44,920 --> 00:19:48,020 下手に手を出したら逆撃を食らう 254 00:19:50,460 --> 00:19:57,900 それに もう戦うだけの余力がない ここは我々も要塞に引き返そう 255 00:19:57,900 --> 00:20:02,270 ヤンは新たに機雷を敷設し直し 警戒態勢のまま 256 00:20:02,270 --> 00:20:05,670 イゼルローン要塞への 撤退を開始した 257 00:20:17,350 --> 00:20:19,390 フレデリカ 大丈夫かい? 258 00:20:19,390 --> 00:20:23,290 え?ええ 少しめまいがしただけ 259 00:20:25,460 --> 00:20:27,530 熱があるじゃないか 風邪かい? 260 00:20:27,530 --> 00:20:30,300 ごめんなさい でも大丈夫 261 00:20:30,300 --> 00:20:34,640 疲れがたまったんだろう ここは もういいから少し休みなさい 262 00:20:34,640 --> 00:20:37,670 でも… いや 休みたまえ 263 00:20:37,670 --> 00:20:39,670 命令だ 少佐 264 00:20:41,810 --> 00:20:44,210 はい そうさせていただきます 265 00:20:44,210 --> 00:20:47,550 副官の任務は ミンツ中尉に代行させる 266 00:20:47,550 --> 00:20:49,550 承知しました 267 00:20:52,390 --> 00:20:55,590 お願いね ユリアン 任せてください 268 00:20:57,930 --> 00:21:00,360 て… 帝国軍より入電 269 00:21:00,360 --> 00:21:03,400 カイザー・ラインハルトからの 通信文です 270 00:21:03,400 --> 00:21:06,200 彼は… 彼は… あ… 271 00:21:09,200 --> 00:21:12,270 カイザー・ラインハルトからの 通信文です 272 00:21:12,270 --> 00:21:15,970 彼は停戦と会談を求めています 273 00:21:23,450 --> 00:21:27,290 カイザー・ラインハルトからの 停戦と会見の申し込みに対して 274 00:21:27,290 --> 00:21:30,260 ヤン・ウェンリーは 即答をしなかった 275 00:21:30,260 --> 00:21:33,100 ことさら 思案を巡らした結果ではなく 276 00:21:33,100 --> 00:21:38,770 連日連戦の疲労から 心身の休養を 優先させたためである 277 00:21:38,770 --> 00:21:42,470 帝国軍への回答は どうなさいますか? 278 00:21:42,470 --> 00:21:46,910 脳細胞がミルクがゆになってて 考え事どころじゃない 279 00:21:46,910 --> 00:21:49,710 とにかく少し休ませてくれ 280 00:21:49,710 --> 00:21:53,310 ベッドが欲しい 女つきでなくていい 281 00:21:55,320 --> 00:21:59,320 起こした奴は反革命罪で銃殺 282 00:22:11,770 --> 00:22:14,200 ひどい ていたらくですな 283 00:22:14,200 --> 00:22:18,470 今 敵軍に攻撃されたら どうするつもりだ 284 00:22:18,470 --> 00:22:25,080 いや 私も今は無限の未来よりも 一夜の睡眠が欲しい心境だ 285 00:22:25,080 --> 00:22:28,950 はあ 286 00:22:28,950 --> 00:22:32,650 まあ 寝るのも死ぬのも 似たようなものか 287 00:22:45,830 --> 00:22:49,710 やれやれ こいつら全員を目覚めさせるには 288 00:22:49,710 --> 00:22:54,140 キスしてくれる王子様や王女様が 100万人ぐらい必要だな 289 00:22:54,140 --> 00:22:59,010 助力が必要ならキャゼルヌ中将 婦人兵に限って小生1人で 290 00:22:59,010 --> 00:23:04,010 全員を眠りの園から 呼び戻してさしあげるが? 291 00:23:41,560 --> 00:23:46,530 この時 帝国軍の攻撃があれば イゼルローン要塞とて 292 00:23:46,530 --> 00:23:50,170 難攻不落を誇っては いられなくなっただろう 293 00:23:50,170 --> 00:23:53,070 だが帝国軍も疲労の極にあり 294 00:23:53,070 --> 00:23:56,610 ここで攻勢に出ることは できなかった 295 00:23:56,610 --> 00:24:01,140 停戦を望まぬ者も カイザーの 意思に逆らうわけにはいかず 296 00:24:01,140 --> 00:24:04,450 戦意の高ぶりを抑えるほかに なかった 297 00:24:04,450 --> 00:24:06,820 カイザーが ヤンと交渉なさったところで 298 00:24:06,820 --> 00:24:11,520 どうせ決裂するに決まっている そうなったら即座に再戦だ 299 00:24:11,520 --> 00:24:14,190 いずれにせよ カイザー・ラインハルトによって 300 00:24:14,190 --> 00:24:16,190 停戦の意思は示された 301 00:24:16,190 --> 00:24:19,530 これによって 和平への道が開かれるのか 302 00:24:19,530 --> 00:24:22,100 このまま戦乱の時代が続くのか 303 00:24:22,100 --> 00:24:25,930 歴史は今 再び大きな岐路を 迎えていた 304 00:24:25,930 --> 00:24:28,840 宇宙歴800年 新帝国歴2年 305 00:24:28,840 --> 00:24:31,640 5月18日のことである 306 00:26:33,760 --> 00:26:38,100 その時 1つの星が 307 00:26:38,100 --> 00:26:42,940 銀河の中で瞬いて消えた 308 00:26:42,940 --> 00:26:49,110 その時 1つの時代が 終わりを告げた 309 00:26:49,110 --> 00:26:53,720 次回「銀河英雄伝説」第82話 310 00:26:53,720 --> 00:26:57,120 「魔術師 還らず」 311 00:26:57,120 --> 00:27:00,720 銀河の歴史が また1ページ