1 00:01:34,900 --> 00:01:39,140 宇宙歴800年 新帝国歴2年9月7日 2 00:01:39,140 --> 00:01:42,380 幕僚総監たるヒルデガルド・ フォン・マリーンドルフが 3 00:01:42,380 --> 00:01:44,310 ようやく再出仕した 4 00:01:44,310 --> 00:01:49,190 一身上のことで 大変ご迷惑をおかけいたしました 5 00:01:49,190 --> 00:01:52,720 今後 このようなことのないように いたしますので 6 00:01:52,720 --> 00:01:54,820 ご容赦くださいまし 7 00:01:59,560 --> 00:02:02,130 ヒルダは ラインハルトの求婚に対する 8 00:02:02,130 --> 00:02:05,470 回答を示さなかった これは彼女自身 9 00:02:05,470 --> 00:02:09,340 いまだ明確な決意をするに 至っていなかったからであるが 10 00:02:09,340 --> 00:02:13,340 ラインハルトとしては 一層 途方に暮れることとなった 11 00:02:17,080 --> 00:02:20,980 政務に忙殺されている間は まだしも それが途切れた時 12 00:02:20,980 --> 00:02:24,890 元々 無趣味なだけに 気持ちの紛らわせようもなく 13 00:02:24,890 --> 00:02:28,420 エミールやリュッケを相手に 3次元チェスをしたり 14 00:02:28,420 --> 00:02:33,260 彼らを伴って乗馬をしたりして 時間を潰すことが多くなった 15 00:02:33,260 --> 00:02:36,000 暇を持て余されるのは ともかくとして 16 00:02:36,000 --> 00:02:39,340 それよりも陛下の たびたびのご発熱が気になる 17 00:02:39,340 --> 00:02:43,210 何やら ご大病の前兆で なければよいのだが 18 00:02:43,210 --> 00:02:47,910 ヴェスターラントの件が よほど 御身に衝撃的であったのだろうか 19 00:02:51,910 --> 00:02:55,320 ラインハルトは やがて それらにも飽きたのか 20 00:02:55,320 --> 00:02:59,220 政務が終わったあとに 外出することが多くなった 21 00:02:59,220 --> 00:03:01,920 それまで さして関心を 示すこともなかった 22 00:03:01,920 --> 00:03:06,760 演劇 音楽 絵画などを 鑑賞するようになったのである 23 00:03:06,760 --> 00:03:08,830 それにしてもビッテンフェルトに 24 00:03:08,830 --> 00:03:11,600 古典バレエ鑑賞の お供をさせるとは 25 00:03:11,600 --> 00:03:13,700 陛下も存外 お人が悪い 26 00:03:23,310 --> 00:03:26,120 ん?何! 27 00:03:26,120 --> 00:03:30,020 どうした? そ… それが 28 00:03:30,020 --> 00:03:33,520 陛下から 「今度 詩の朗読会に出席せよ」と 29 00:03:35,790 --> 00:03:38,390 うーん… 30 00:03:44,030 --> 00:03:47,770 なんたることだ 本来なら こんなことは 31 00:03:47,770 --> 00:03:50,670 メックリンガーが一手に 引き受けるべきところだろう 32 00:03:50,670 --> 00:03:52,610 これは お呼びがかかる前に 33 00:03:52,610 --> 00:03:56,280 メックリンガーと 任務が交代できないものかな 34 00:03:56,280 --> 00:03:59,820 そのメックリンガーが かつて言ったことがある 35 00:03:59,820 --> 00:04:01,750 「そもそもカイザーはご自身が」 36 00:04:01,750 --> 00:04:04,590 「優れた芸術品で いらっしゃるのだから」 37 00:04:04,590 --> 00:04:08,920 「わざとらしい芸術に興味を 抱かれる必要はないのだ」とな 38 00:04:08,920 --> 00:04:12,500 俺も同感だ 統治者は芸術に対しては 39 00:04:12,500 --> 00:04:17,070 金銭だけを出していればよい 目も口も出す必要はない 40 00:04:17,070 --> 00:04:19,000 統治者の好みに媚びることで 41 00:04:19,000 --> 00:04:23,640 大家面をするエセ芸術家どもを 生み出すだけではないか 42 00:04:23,640 --> 00:04:26,640 それだけの見識が 元帥には おありなのだから 43 00:04:26,640 --> 00:04:30,410 私などの代わりに カイザーに同行なさってください 44 00:04:30,410 --> 00:04:35,120 明晩 私は聞いても分かるはずの ない前衛音楽とやらを 45 00:04:35,120 --> 00:04:37,920 陛下のお供で 拝聴しなければならないのですよ 46 00:04:37,920 --> 00:04:40,320 あっ いや 俺はその… 47 00:04:40,320 --> 00:04:43,560 例の2つの新要塞の件もあるし 48 00:04:43,560 --> 00:04:46,330 宇宙艦隊の軍務が忙しくてな 49 00:04:46,330 --> 00:04:50,630 あっ そうだ バイエルライン は? 50 00:04:50,630 --> 00:04:54,800 今度 陛下にお願いして 卿がお供をしろ 51 00:04:54,800 --> 00:04:57,040 小官が でありますか? 52 00:04:57,040 --> 00:05:01,510 これからは軍人とはいえ 視野を広く持たねばならん 53 00:05:01,510 --> 00:05:03,750 メックリンガーには 及ぶべくもないが 54 00:05:03,750 --> 00:05:07,050 現にグリルパルツァーのように 軍務以外の分野でも 55 00:05:07,050 --> 00:05:09,950 業績を上げている者も 同僚におるのだ 56 00:05:09,950 --> 00:05:14,460 少しは見習うといい は… はあ 57 00:05:14,460 --> 00:05:16,790 はあ いっそ戦争なり 58 00:05:16,790 --> 00:05:19,090 内乱なりのほうが はるかにマシです 59 00:05:19,090 --> 00:05:21,530 これは無論 予言などではなかった 60 00:05:21,530 --> 00:05:24,100 だがミュラーは自身の この発言を 61 00:05:24,100 --> 00:05:26,800 憮然として 顧みることになるのである 62 00:05:42,480 --> 00:05:45,960 カイザーにノイエ・ラントに 御幸していただかねば 63 00:05:45,960 --> 00:05:51,230 ロイエンタール元帥に反逆を 起こさせることは なかなか難しい 64 00:05:51,230 --> 00:05:54,730 その点については 次官閣下もご存じのはず 65 00:05:54,730 --> 00:05:57,400 彼の知性がくもるほどの 巨大なエサ 66 00:05:57,400 --> 00:06:00,300 つまり好機を与えねばなりません 67 00:06:00,300 --> 00:06:02,340 それはそうかもしれん 68 00:06:02,340 --> 00:06:05,140 だが そこまで ロイエンタールめに有利な条件を 69 00:06:05,140 --> 00:06:08,440 整えてやってよいのか?万が一 70 00:06:08,440 --> 00:06:12,950 万が一にも奴めが弑逆に 成功してしまったらどうするのだ 71 00:06:12,950 --> 00:06:17,650 ご心配なく カイザーの暗殺を 謀るのは あくまでも演技 72 00:06:17,650 --> 00:06:21,160 見せかけのことです 最初から失敗するよう 73 00:06:21,160 --> 00:06:25,960 そして一命を取り留めたカイザーが ロイエンタール討伐を決意するよう 74 00:06:25,960 --> 00:06:28,860 全て緻密に計算してあります 75 00:06:28,860 --> 00:06:30,870 確かだろうな? 76 00:06:30,870 --> 00:06:33,240 誓約書でも書きましょうか? 77 00:06:33,240 --> 00:06:37,110 ん?フン まあいい だが忘れるなよ 78 00:06:37,110 --> 00:06:40,140 貴様の命の安全は 俺の この手の中に 79 00:06:40,140 --> 00:06:42,540 握られているのだということをな 80 00:06:42,540 --> 00:06:45,450 もちろんでございます 次官閣下 81 00:06:45,450 --> 00:06:49,320 カイザーから忠実な部下を 次々奪って孤立させ 82 00:06:49,320 --> 00:06:54,790 その粛清の実行者として 閣下が帝国の実権を握られる 83 00:06:54,790 --> 00:06:57,330 そのお手伝いをさせて いただくことで 84 00:06:57,330 --> 00:07:00,100 私めも復権させていただく 85 00:07:00,100 --> 00:07:03,000 それだけが今の望みでございます 86 00:07:03,000 --> 00:07:06,300 その殊勝な心がけを忘れるなよ 87 00:07:08,700 --> 00:07:10,640 ロイエンタールが反乱を起こせば 88 00:07:10,640 --> 00:07:15,440 他の将帥に対しても疑惑を 持たずにはいられないだろう 89 00:07:15,440 --> 00:07:17,410 次はミッターマイヤーを陥れ 90 00:07:17,410 --> 00:07:20,820 オーベルシュタインと 相打ちの形で始末すれば 91 00:07:20,820 --> 00:07:24,350 残りは軍服を着た デク人形にすぎん 92 00:07:24,350 --> 00:07:27,620 マリーンドルフ親子は いかにお考えで? 93 00:07:27,620 --> 00:07:30,260 あのような小娘に何ができよう 94 00:07:30,260 --> 00:07:33,860 父親のほうは誠実なだけの 無能者ではないか 95 00:07:33,860 --> 00:07:35,800 問題にもならん 96 00:07:35,800 --> 00:07:39,000 ご明察でございますな 97 00:07:39,000 --> 00:07:42,500 ラングの このような考えは 実はルビンスキーによって 98 00:07:42,500 --> 00:07:45,410 巧みに誘導され 増幅されたものであった 99 00:07:45,410 --> 00:07:48,440 ラングはルビンスキーを 便利な道具とみなしていたが 100 00:07:48,440 --> 00:07:51,650 ルビンスキーも ラングを同様にみなしていた 101 00:07:51,650 --> 00:07:54,180 両者の間に違いがあるとすれば 102 00:07:54,180 --> 00:07:57,580 それを相手に気づかせているか どうかの点であろう 103 00:08:00,060 --> 00:08:02,660 ご明察のとおり ラング次官は 104 00:08:02,660 --> 00:08:07,160 指名手配中のアドリアン・ルビンスキーと 接触している模様です 105 00:08:09,770 --> 00:08:13,640 相手が国事犯だけに おとり捜査とは言えないでしょう 106 00:08:13,640 --> 00:08:17,640 このまま放置しておいて よろしいのですか? 107 00:08:23,710 --> 00:08:30,090 帰ったの? 皇帝陛下の忠実な臣僚は 108 00:08:30,090 --> 00:08:33,520 奴にはカイザーに対する 忠誠心などない 109 00:08:33,520 --> 00:08:35,920 若いカイザーを自分の傀儡にして 110 00:08:35,920 --> 00:08:39,800 銀河の実権を握ろうと企む 利己主義者だ 111 00:08:39,800 --> 00:08:43,900 それで利己主義者同士 手を携えているわけ? 112 00:08:46,000 --> 00:08:48,800 利害が一致している間はな 113 00:08:48,800 --> 00:08:50,740 今は あなたも彼も 114 00:08:50,740 --> 00:08:53,680 火事が起こるのを 期待してるというわけね 115 00:08:53,680 --> 00:08:57,250 でも 彼は適当な規模で鎮火して 116 00:08:57,250 --> 00:09:01,050 それが自分の手柄になることを 望んでいる 117 00:09:01,050 --> 00:09:03,020 一方のあなたとしては 118 00:09:03,020 --> 00:09:07,760 帝国の屋台骨まで火が回ることを 期待しているのでしょう? 119 00:09:07,760 --> 00:09:13,660 だから その辺の違いが見えた時が 古い道具を始末する潮時だろうな 120 00:09:13,660 --> 00:09:17,430 だが それまで 奴には我らが 役に立つ道具だと 121 00:09:17,430 --> 00:09:19,930 思わせておく必要がある 122 00:09:22,970 --> 00:09:25,740 奇怪なうわさが 新帝都フェザーンに流れ始めたのは 123 00:09:25,740 --> 00:09:27,680 8月末のことであったが 124 00:09:27,680 --> 00:09:32,010 9月に入って 本格的に流布するようになった 125 00:09:32,010 --> 00:09:34,650 ノイエ・ラント総督 ロイエンタール元帥が 126 00:09:34,650 --> 00:09:37,150 カイザーに反意を抱いている 127 00:09:37,150 --> 00:09:39,820 ああ ロイエンタール元帥は 軍事力で 128 00:09:39,820 --> 00:09:42,720 カイザーに敵し得ないことを 熟知している 129 00:09:42,720 --> 00:09:46,230 ゆえに彼は ノイエ・ラント視察のためと称して 130 00:09:46,230 --> 00:09:49,000 カイザーに 惑星ハイネセンへの御幸をこい 131 00:09:49,000 --> 00:09:52,300 その途上において 暗殺しようとしている 132 00:09:52,300 --> 00:09:55,570 カイザーを暗殺したあと ロイエンタール元帥は 133 00:09:55,570 --> 00:09:58,470 行方不明の エルウィン・ヨーゼフ2世を擁して 134 00:09:58,470 --> 00:10:01,480 ゴールデンバウム王朝の 復辟を宣言し 135 00:10:01,480 --> 00:10:06,250 自らは摂政として 政治と軍事の 大権を独占するだろう 136 00:10:06,250 --> 00:10:11,450 そして遠からず 自らが至尊の冠を 頭上に戴くつもりらしい 137 00:10:11,450 --> 00:10:14,860 そのことを知ったカイザーは ロイエンタール元帥から 138 00:10:14,860 --> 00:10:19,700 暗殺されることを恐れて 帝都を動くことができずにいる 139 00:10:19,700 --> 00:10:23,170 ロイエンタール元帥が 惑星ハイネセンへの招待状を 140 00:10:23,170 --> 00:10:25,530 カイザーに差し上げるそうだが 141 00:10:25,530 --> 00:10:28,440 カイザーが それを受けることはあり得ない 142 00:10:28,440 --> 00:10:30,670 逆にカイザーは ロイエンタール元帥を 143 00:10:30,670 --> 00:10:33,240 フェザーンに呼んで 詰問するらしい 144 00:10:33,240 --> 00:10:36,040 一方 ロイエンタールも フェザーンに残した 145 00:10:36,040 --> 00:10:40,820 彼自身のアンテナから 奇怪なうわさを耳にしていた 146 00:10:40,820 --> 00:10:43,120 「皇帝陛下は フェザーンにおかれても」 147 00:10:43,120 --> 00:10:46,120 「しばしば原因不明のご発熱あり」 148 00:10:46,120 --> 00:10:49,020 「更に陛下のご病臥をよいことに」 149 00:10:49,020 --> 00:10:51,190 「軍務尚書 オーベルシュタイン元帥と」 150 00:10:51,190 --> 00:10:54,900 「内務省次官ラングの専横 日に日にまさり」 151 00:10:54,900 --> 00:10:57,800 「あたかも軍務尚書は 宰相のごとく」 152 00:10:57,800 --> 00:11:00,540 「ラング次官は内務尚書のごとき ありさまにて」 153 00:11:00,540 --> 00:11:03,870 「心あるものは眉をひそめ 口を閉ざす」 154 00:11:03,870 --> 00:11:08,380 「ことにラング次官は私怨から しきりにロイエンタール元帥を誹謗し」 155 00:11:08,380 --> 00:11:10,310 「フェザーンに召還して のちの粛清を」 156 00:11:10,310 --> 00:11:13,050 「カイザーに進言してやまず」 157 00:11:13,050 --> 00:11:15,920 「更にロイエンタール元帥は カイザーを」 158 00:11:15,920 --> 00:11:17,990 「ノイエ・ラントに招請して 暗殺する陰謀を」 159 00:11:17,990 --> 00:11:20,860 「めぐらしていると主張するあり」 160 00:11:20,860 --> 00:11:22,860 何をバカな! 161 00:11:25,630 --> 00:11:28,030 ラングごとき小人の妄言に 162 00:11:28,030 --> 00:11:30,400 たぶらかされるような 陛下ではない 163 00:11:30,400 --> 00:11:35,100 現に この春にも奴は俺を 貧弱な罠に落とし込もうとして 164 00:11:35,100 --> 00:11:37,340 みじめに失敗したではないか 165 00:11:37,340 --> 00:11:41,340 確かにラングごときの妄言に 動かされる陛下ではありますまい 166 00:11:41,340 --> 00:11:46,050 ですが小官が気になりますのは もっと別の人物の動向です 167 00:11:46,050 --> 00:11:50,890 ラングなど腹話術の人形に すぎないのではありますまいか 168 00:11:50,890 --> 00:11:52,960 マイン・カイザーが オーベルシュタインや 169 00:11:52,960 --> 00:11:56,160 ラングごときのデクに 成り下がるとすれば 170 00:11:56,160 --> 00:11:58,990 竜頭蛇尾もいいところだな 171 00:11:58,990 --> 00:12:01,830 いっそ オーベルシュタインらに なり替わって 172 00:12:01,830 --> 00:12:04,570 この俺がカイザーを 擁したらどうか 173 00:12:04,570 --> 00:12:08,540 ノイエ・ラントを訪れたカイザーを ハイネセンに留めて帰さず 174 00:12:08,540 --> 00:12:13,280 大本営と宮廷を ハイネセンに移すことを宣言する 175 00:12:13,280 --> 00:12:15,810 オーベルシュタインらは 行幸に従わないのだから 176 00:12:15,810 --> 00:12:17,750 どうすることもできまい 177 00:12:17,750 --> 00:12:21,720 全宇宙を事実上 この手に収める好機ではないか 178 00:12:21,720 --> 00:12:25,850 無論 カイザーが唯々として 従うはずがない 179 00:12:25,850 --> 00:12:28,190 この手を脱して 正当な地位と権力を 180 00:12:28,190 --> 00:12:32,060 奪回しようとするだろう それはそれで面白い 181 00:12:32,060 --> 00:12:36,600 どうせ争うなら ラングはおろか オーベルシュタインでさえ役者不足 182 00:12:36,600 --> 00:12:39,300 この俺の敵として ふさわしい男ではない 183 00:12:39,300 --> 00:12:42,200 敵として ふさわしいのは… 184 00:12:42,200 --> 00:12:45,610 閣下 いずれにせよ 185 00:12:45,610 --> 00:12:49,480 陛下のノイエ・ラントへの 行幸を願う招請状は出す 186 00:12:49,480 --> 00:12:52,850 しかし 閣下 あえて この時期に… 187 00:12:52,850 --> 00:12:56,550 言うまでもなく 俺はラングや オーベルシュタインの風下に 188 00:12:56,550 --> 00:13:00,220 立つつもりはない うわさの真偽を確かめるためにも 189 00:13:00,220 --> 00:13:04,560 招請状を出して カイザーの反応を見る 190 00:13:04,560 --> 00:13:08,400 なるほど もしカイザーが フェザーンを動かぬとあれば 191 00:13:08,400 --> 00:13:11,870 カイザーはうわさを信じ 閣下を 疑っているということになり 192 00:13:11,870 --> 00:13:14,700 行幸に応じられれば 閣下への信頼が 193 00:13:14,700 --> 00:13:16,670 証明されることになりますな 194 00:13:16,670 --> 00:13:18,870 残念ながら そうではない 195 00:13:18,870 --> 00:13:22,740 俺を油断させておいて 捕らえるつもりかもしれぬ 196 00:13:22,740 --> 00:13:25,080 カイザーには似合わぬ詭計だが 197 00:13:25,080 --> 00:13:30,050 オーベルシュタインや ラングあたりなら弄しかねん 198 00:13:30,050 --> 00:13:33,120 疑いだせば キリがないということだ 199 00:13:33,120 --> 00:13:36,160 主君と臣下が 互いに疑心暗鬼にとらわれ 200 00:13:36,160 --> 00:13:40,000 腹を探り合うようでは 太平など望みようがない 201 00:13:40,000 --> 00:13:42,800 この春と同様 直接お会いして 202 00:13:42,800 --> 00:13:46,100 我が意を知っていただくのが 肝要であろう 203 00:13:53,410 --> 00:13:56,380 9月9日 ロイエンタール元帥から 204 00:13:56,380 --> 00:14:01,380 カイザーのハイネセンへの 御幸をこう 公式文書が届いた 205 00:14:03,420 --> 00:14:08,920 どうしたのだ 侍従長 妙に落ち着かぬ様子ではないか 206 00:14:08,920 --> 00:14:13,420 恐れながら 陛下 市井に流れる うわさをご存じでしょうか 207 00:14:15,500 --> 00:14:18,530 翌9月10日 急遽 招集された 208 00:14:18,530 --> 00:14:21,700 帝国軍最高幹部会議において ラインハルトは 209 00:14:21,700 --> 00:14:24,610 ロイエンタールからの 招請状の件を告げ 210 00:14:24,610 --> 00:14:29,510 それを受けて 惑星ハイネセンへ 赴くつもりであることを宣言した 211 00:14:31,380 --> 00:14:35,980 近日来 奇妙なうわさが 宮廷内外に流れておることを 212 00:14:35,980 --> 00:14:39,960 陛下もご存じで いらっしゃいましょう 213 00:14:39,960 --> 00:14:42,560 事の真偽が明らかになるまで 214 00:14:42,560 --> 00:14:45,290 玉体をフェザーンに お留めあってはいかがですか 215 00:14:45,290 --> 00:14:49,900 バカなことを ロイエンタールが 余を暗殺などするはずがない 216 00:14:49,900 --> 00:14:53,140 余も彼を疑ったりせぬ 恐れもせぬ 217 00:14:53,140 --> 00:14:55,540 卿はくだらぬ世迷言に たぶらかされて 218 00:14:55,540 --> 00:14:59,270 余と重臣との間を裂くつもりか 219 00:14:59,270 --> 00:15:02,010 大体ロイエンタールが 反逆するのであれば 220 00:15:02,010 --> 00:15:05,810 正面から堂々と兵を挙げて 決戦を挑むだろう 221 00:15:05,810 --> 00:15:08,720 誰かのように 陰険姑息な策謀をめぐらして 222 00:15:08,720 --> 00:15:11,720 陛下の背中を刺したりはせぬ 223 00:15:11,720 --> 00:15:15,460 では せめて一個艦隊ぐらいは お連れください 224 00:15:15,460 --> 00:15:18,060 皇帝が重臣のもとへ赴くのに 225 00:15:18,060 --> 00:15:22,500 過大な兵力を伴えば 疑いや恐れを抱くであろう 226 00:15:22,500 --> 00:15:25,830 第一 皇帝が自分の領土を 旅するにあたって 227 00:15:25,830 --> 00:15:28,740 なぜ大艦隊を従えねばならんのか 228 00:15:28,740 --> 00:15:31,040 これ以上 無用なことを言うな 229 00:15:35,510 --> 00:15:38,250 ミュラー上級大将 230 00:15:38,250 --> 00:15:40,180 はい 陛下 231 00:15:40,180 --> 00:15:43,080 卿に余の主席随員たるを命ずる 232 00:15:43,080 --> 00:15:45,780 出立の準備をせよ 御意 233 00:15:50,930 --> 00:15:52,930 陛下 234 00:15:55,600 --> 00:15:58,800 どうか 小官を 随員にお加えください 235 00:15:58,800 --> 00:16:03,540 私事ながら小官の妹の夫が 民事長官として 236 00:16:03,540 --> 00:16:06,240 ノイエ・ラント総督府に 赴任しております 237 00:16:06,240 --> 00:16:08,640 しばらく妹に 会っておりませんので 238 00:16:08,640 --> 00:16:11,550 顔も見たいと存じますれば 239 00:16:11,550 --> 00:16:15,050 うむ よかろう ありがたき幸せ 240 00:16:17,350 --> 00:16:22,220 次に新要塞建設の件だが 241 00:16:22,220 --> 00:16:25,490 続いて 新帝都フェザーンの 防衛のため 242 00:16:25,490 --> 00:16:30,330 回廊の両端に新要塞が 建設されることが最終決定された 243 00:16:30,330 --> 00:16:34,700 ノイエ・ラント側出入り口に 建設される物にシャーテンブルク 244 00:16:34,700 --> 00:16:38,110 旧帝国本土側出入り口に 建設される要塞に 245 00:16:38,110 --> 00:16:42,440 ドライ・グロスアドミラルスブルクの名称が 与えられることも決まっている 246 00:16:42,440 --> 00:16:45,350 シャーテンブルクとは 「影の城」の意味であり 247 00:16:45,350 --> 00:16:48,250 一方のドライ・ グロスアドミラルスブルクとは 248 00:16:48,250 --> 00:16:51,150 「三元帥の城」を意味する これは 249 00:16:51,150 --> 00:16:53,820 ローエングラム王朝の 6名の元帥のうち 250 00:16:53,820 --> 00:16:57,390 既に死去した キルヒアイス ファーレンハイト 251 00:16:57,390 --> 00:17:00,590 シュタインメッツの3名を 記念した名である 252 00:17:06,070 --> 00:17:09,800 三元帥の城 ドライ・ グロスアドミラルスブルクか 253 00:17:09,800 --> 00:17:12,740 舌をかみそうな名前だが もう1人 死者が出れば 254 00:17:12,740 --> 00:17:16,210 四元帥の城 フィル・ グロスアドミラルスブルク要塞と 255 00:17:16,210 --> 00:17:20,080 改名されるのかな 256 00:17:20,080 --> 00:17:22,980 随員の件 うまい攻略法だったな 257 00:17:22,980 --> 00:17:26,860 なに 「正面から攻めて 落とせない要塞は搦め手から」 258 00:17:26,860 --> 00:17:29,760 用兵の基本だ それに俺自身 259 00:17:29,760 --> 00:17:33,960 遷都以来 事実上無役で 暇を持て余しているからな 260 00:17:33,960 --> 00:17:37,900 それは俺も同様だ こういう時こそお供をしたいのに 261 00:17:37,900 --> 00:17:41,770 なぜ陛下は 俺をお連れなさらぬのか 残念だ 262 00:17:41,770 --> 00:17:44,940 「ロイエンタール元帥と 取っ組み合いになる」 263 00:17:44,940 --> 00:17:48,440 とでもいうのなら 陛下は 卿をお連れになるだろうよ 264 00:17:48,440 --> 00:17:52,210 だが今回は平和な旅でなければ 困るからな 265 00:17:52,210 --> 00:17:54,980 オペラハウスでも 取っ組み合いはなかった 266 00:17:54,980 --> 00:17:58,850 しかし意外だったのは フロイライン・マリーンドルフの残留だな 267 00:17:58,850 --> 00:18:01,760 体調がすぐれないというのだから 仕方あるまい 268 00:18:01,760 --> 00:18:04,630 今日の会議にも 欠席していたぐらいだからな 269 00:18:04,630 --> 00:18:08,030 俺はいつでも体調万全だぞ 分かった 分かった 270 00:18:08,030 --> 00:18:10,230 風邪ひとつ引かんのだろ 271 00:18:13,540 --> 00:18:16,970 卿が何を心配しているか 分かるつもりだ 272 00:18:16,970 --> 00:18:18,940 この6月にヤン・ウェンリーが 273 00:18:18,940 --> 00:18:22,610 カイザーとの会見に向かう途上で 暗殺された 274 00:18:22,610 --> 00:18:26,480 その悲劇が繰り返されるのでは ないかというのだろう 275 00:18:26,480 --> 00:18:29,780 ご明察のとおりです 一度の成功は 276 00:18:29,780 --> 00:18:33,320 必ず模倣を生むからな できればカイザーには 277 00:18:33,320 --> 00:18:36,190 フェザーンに お留まりいただきたいのですが 278 00:18:36,190 --> 00:18:39,590 こういう状況となってしまって 今更 中止となれば 279 00:18:39,590 --> 00:18:44,070 かえって悪い方向へ 人々の想像が向かいましょうし 280 00:18:44,070 --> 00:18:47,570 まったくだ だが それにしても巧妙な 281 00:18:47,570 --> 00:18:51,140 あのような うわさが流れては カイザーのご気性からして 282 00:18:51,140 --> 00:18:54,010 フェザーンに引きこもって おられるはずがない 283 00:18:54,010 --> 00:18:56,440 それを見越した上で 仕掛けたとすれば 284 00:18:56,440 --> 00:19:00,140 予想以上に悪辣な罠が めぐらされているやもしれん 285 00:19:05,150 --> 00:19:08,420 これが罠だとすれば やはり前回と同様 286 00:19:08,420 --> 00:19:10,860 ハイドリッヒ・ラングの 仕業でしょうか? 287 00:19:10,860 --> 00:19:14,200 恐らく何らかの形で 関わっているに違いない 288 00:19:14,200 --> 00:19:17,930 だが ラングには 陰謀をめぐらす力はあっても 289 00:19:17,930 --> 00:19:20,270 組織力 実行力が伴わない 290 00:19:20,270 --> 00:19:23,510 むしろ その背後に何者かが… 291 00:19:23,510 --> 00:19:26,810 閣下は軍務尚書のことを 疑っておいでですか? 292 00:19:26,810 --> 00:19:30,650 いや 今回はオーベルシュタインの たくらみではあるまい 293 00:19:30,650 --> 00:19:33,950 奴ならば陛下に随行し 自分をおとりにして 294 00:19:33,950 --> 00:19:36,520 ロイエンタールの激発を 誘うだろう 295 00:19:36,520 --> 00:19:39,820 そのほうが確実だからな 296 00:19:39,820 --> 00:19:42,090 だが 奴ならば状況を利用して 297 00:19:42,090 --> 00:19:44,490 どんな意外な策を 打ってくるかもしれん 298 00:19:44,490 --> 00:19:48,000 油断はできぬが 299 00:19:48,000 --> 00:19:51,200 しかし 陰謀家どもが それほど大きな戦力を 300 00:19:51,200 --> 00:19:53,570 所有しているはずもない 301 00:19:53,570 --> 00:19:56,770 50隻ないし100隻の艦艇を おつけすれば 302 00:19:56,770 --> 00:19:59,370 抑止力としては十分だろうし 303 00:19:59,370 --> 00:20:02,910 ロイエンタールに対しても そう刺激的ではないだろう 304 00:20:02,910 --> 00:20:06,780 確かに 問題は陛下の御心ですな 305 00:20:06,780 --> 00:20:08,720 俺からお願い申し上げる 306 00:20:08,720 --> 00:20:13,390 まあ その程度の数であれば 陛下もご容赦くださるだろう 307 00:20:13,390 --> 00:20:15,920 その上で 俺は宇宙艦隊を 308 00:20:15,920 --> 00:20:19,130 シャーテンブルク要塞の空域に 集結させて 309 00:20:19,130 --> 00:20:21,460 万が一に備えるとしよう 310 00:20:21,460 --> 00:20:23,500 それは心強いです 311 00:20:23,500 --> 00:20:29,000 いずれにせよ ミュラー上級大将 陛下の御身を卿に委ねる 312 00:20:29,000 --> 00:20:32,870 ルッツと協力して 陛下を無事 ハイネセンにお連れしてくれ 313 00:20:32,870 --> 00:20:35,680 微力を尽くします ですが結局 314 00:20:35,680 --> 00:20:37,980 何も起こらないのでは ありませんか? 315 00:20:37,980 --> 00:20:39,980 そうだな 316 00:20:43,590 --> 00:20:45,990 フロイライン 余は今月の下旬から 317 00:20:45,990 --> 00:20:47,990 ノイエ・ラントへ行く 318 00:20:47,990 --> 00:20:49,990 伺っております 319 00:20:49,990 --> 00:20:53,700 今回は あなたには フェザーンに残ってもらう 320 00:20:53,700 --> 00:20:56,360 はい それで 321 00:20:56,360 --> 00:20:58,430 余がフェザーンに 戻ってくるまでに 322 00:20:58,430 --> 00:21:01,970 先日の件について 返答を定めておいてほしい 323 00:21:01,970 --> 00:21:04,370 あ… 324 00:21:04,370 --> 00:21:10,180 無論 先日の件というのは フロイラインに余が求婚した件だ 325 00:21:10,180 --> 00:21:12,410 わざわざ そう説明するところが 326 00:21:12,410 --> 00:21:15,320 ラインハルトの未熟さと 言えないこともない 327 00:21:15,320 --> 00:21:17,820 だが ラインハルトは 真剣であったし 328 00:21:17,820 --> 00:21:21,190 この場合はヒルダも 救われた思いであった 329 00:21:21,190 --> 00:21:25,060 そもそも彼は専制君主であって ヒルダの意思など無視して 330 00:21:25,060 --> 00:21:28,530 ほしいままに振る舞うことも できるはずであった 331 00:21:28,530 --> 00:21:33,300 この時 ヒルダの心のはかりは ある方向に傾斜を深めたといえる 332 00:21:33,300 --> 00:21:35,900 陛下 ん? 333 00:21:35,900 --> 00:21:39,200 どうぞ お気をつけて いってらっしゃいまし 334 00:21:43,650 --> 00:21:47,820 ヒルダ自身 集中力と精彩を 欠いている自覚があり 335 00:21:47,820 --> 00:21:51,820 ラインハルトに随行できないことは やむを得ないと思っていた 336 00:21:51,820 --> 00:21:54,360 また ロイエンタール謀反の うわさも 337 00:21:54,360 --> 00:21:57,830 昨年の流言の再来に すぎないと考えていた 338 00:21:57,830 --> 00:21:59,760 そう考えたこと自体が 339 00:21:59,760 --> 00:22:03,160 ヒルダの知力の失調を 物語っていたかもしれない 340 00:22:03,160 --> 00:22:06,470 他方では随行の ミュラーらへの信頼もあった 341 00:22:06,470 --> 00:22:10,410 更にヒルダ自身 やっておきたいこともあった 342 00:22:10,410 --> 00:22:13,880 この機会に グリューネワルト大公妃殿下に 343 00:22:13,880 --> 00:22:15,880 お会いしてみよう 344 00:22:19,610 --> 00:22:22,080 こうして9月22日 345 00:22:22,080 --> 00:22:25,020 カイザー・ラインハルトは ノイエ・ラント視察のため 346 00:22:25,020 --> 00:22:27,720 ハイネセン行幸に出発する 347 00:23:24,750 --> 00:23:30,050 ジーク・カイザー! ジーク・カイザー! 348 00:23:30,050 --> 00:23:33,050 ジーク・カイザー… 349 00:24:27,140 --> 00:24:30,110 ノイエ・ラント総督 ロイエンタール元帥は 350 00:24:30,110 --> 00:24:33,110 歓迎の準備を せねばならなかった 351 00:26:09,110 --> 00:26:11,180 ハイネセンへの行幸の途中 352 00:26:11,180 --> 00:26:14,920 惑星ウルヴァシーに立ち寄った カイザー・ラインハルトの一行は 353 00:26:14,920 --> 00:26:17,520 何者かに襲撃される 354 00:26:17,520 --> 00:26:19,920 駐留軍全てが反したとすれば 355 00:26:19,920 --> 00:26:23,460 それはやはりロイエンタールの 指示によるものなのか 356 00:26:23,460 --> 00:26:26,390 疑惑に心揺れるラインハルト 357 00:26:26,390 --> 00:26:32,170 次回「銀河英雄伝説」 第92話「ウルヴァシー事件」 358 00:26:32,170 --> 00:26:34,770 銀河の歴史が また1ページ