1 00:01:34,000 --> 00:01:37,600 宇宙暦800年 新帝国暦2年 11月 2 00:01:37,600 --> 00:01:39,530 オスカー・フォン・ ロイエンタールと 3 00:01:39,530 --> 00:01:41,940 ウォルフガング・ ミッターマイヤーの戦いは 4 00:01:41,940 --> 00:01:45,540 実際に砲火を交える前に 幕を開けた 5 00:01:45,540 --> 00:01:48,380 ロイエンタールが 最初に立案した作戦は 6 00:01:48,380 --> 00:01:51,280 まずミッターマイヤー軍の 進攻に対して 7 00:01:51,280 --> 00:01:53,920 ノイエ・ラント各地に配した 兵力をもって 8 00:01:53,920 --> 00:01:55,850 幾重にも防御線を作り 9 00:01:55,850 --> 00:02:00,660 最大限の損害を与えつつ その前進速度を鈍らせる 10 00:02:00,660 --> 00:02:04,430 次いでミッターマイヤー軍を深く 惑星ハイネセンまで引きずり込み 11 00:02:04,430 --> 00:02:06,530 その後方を遮断する 12 00:02:08,430 --> 00:02:10,800 さらに敵の後退に際しては 13 00:02:10,800 --> 00:02:13,570 各所に配置した兵力を再結集し 14 00:02:13,570 --> 00:02:18,440 ハイネセンよりの主力との間に 挟撃を図るというものであった 15 00:02:18,440 --> 00:02:21,410 ただし この作戦が 成功するためには 16 00:02:21,410 --> 00:02:24,010 2つの条件が必要であった 17 00:02:24,010 --> 00:02:27,820 1つはイゼルローン方面からの 敵の侵入がなく 18 00:02:27,820 --> 00:02:30,490 二正面作戦を強いられないこと 19 00:02:30,490 --> 00:02:33,690 いま1つは ノイエ・ラント各所に配した兵力を 20 00:02:33,690 --> 00:02:37,290 運用する指揮官に 人材を得ることである 21 00:02:37,290 --> 00:02:39,230 第1の条件を満たすために 22 00:02:39,230 --> 00:02:41,530 ロイエンタールは イゼルローン要塞に 23 00:02:41,530 --> 00:02:44,100 ムライを使者として送った 24 00:02:44,100 --> 00:02:48,040 また第2の条件には ベルゲングリューンを充てた 25 00:02:48,040 --> 00:02:51,210 ベルゲングリューンは 黙々と準備にあたったが 26 00:02:51,210 --> 00:02:53,310 結局 準備だけに終わる 27 00:02:55,480 --> 00:02:58,980 ミッターマイヤーが 疾風ウォルフの異名に恥じず 28 00:02:58,980 --> 00:03:01,920 他の用兵家では 不可能な速度で進攻し 29 00:03:01,920 --> 00:03:05,620 ロイエンタールに この作戦を 構築させる時間的余裕を 30 00:03:05,620 --> 00:03:07,720 与えなかったためである 31 00:03:13,160 --> 00:03:15,600 ミッターマイヤー軍は すでにノイエ・ラントの 32 00:03:15,600 --> 00:03:17,930 半ばにまで 達しているとのことです 33 00:03:17,930 --> 00:03:20,900 移動も展開も なんという速さだ 34 00:03:20,900 --> 00:03:23,400 だが惜しいことに陣容が薄い 35 00:03:23,400 --> 00:03:25,940 無理もない 36 00:03:25,940 --> 00:03:27,880 ミッターマイヤーの快速に 37 00:03:27,880 --> 00:03:32,080 凡人が付いてこられるものでは ないからな 38 00:03:32,080 --> 00:03:35,650 ミッターマイヤーの 神速の用兵の真価を知ること 39 00:03:35,650 --> 00:03:38,990 ロイエンタール以上の者はいない 40 00:03:38,990 --> 00:03:42,920 彼はミッターマイヤーの 進撃速度を予測してはいたが 41 00:03:42,920 --> 00:03:46,730 その最悪を極められてしまった 42 00:03:46,730 --> 00:03:50,500 だが それでもなお 各地に分散させようとした兵力を 43 00:03:50,500 --> 00:03:53,870 間一髪で引き返させ 再編した手腕は 44 00:03:53,870 --> 00:03:57,370 ロイエンタールならではの ものであったろう 45 00:03:57,370 --> 00:04:00,880 こうして11月24日 ロイエンタールは 46 00:04:00,880 --> 00:04:04,210 当面の戦場となった ランテマリオ星域において 47 00:04:04,210 --> 00:04:09,050 ミッターマイヤーのそれを凌駕する兵力を 展開させることに成功した 48 00:04:09,050 --> 00:04:11,350 ファイエル! ファイエル! 49 00:04:17,190 --> 00:04:19,730 戦場となったランテマリオ星域は 50 00:04:19,730 --> 00:04:23,660 かつて同盟軍の名将 アレクサンドル・ビュコック元帥が 51 00:04:23,660 --> 00:04:26,330 カイザー・ラインハルトの 侵攻を食い止めるべく 52 00:04:26,330 --> 00:04:28,970 要撃戦を繰り広げた場所である 53 00:04:28,970 --> 00:04:30,910 「奇しくも」というべきではない 54 00:04:30,910 --> 00:04:34,680 万人が認める戦略上の要路で あったからである 55 00:04:34,680 --> 00:04:38,310 この時 ロイエンタールは 自分に匹敵する偉大な用兵家と 56 00:04:38,310 --> 00:04:41,180 戦場で相まみえることに 高揚している 57 00:04:41,180 --> 00:04:45,650 ミッターマイヤーに対する友愛と畏敬は 一分子も損なわれていないが 58 00:04:45,650 --> 00:04:50,420 にもかかわらず 甘美な興奮は確かに存在する 59 00:04:50,420 --> 00:04:52,690 用兵家という種類の人間が 60 00:04:52,690 --> 00:04:56,890 いかに救われがたい存在であるか よい証左であろう 61 00:05:02,370 --> 00:05:06,610 ミッターマイヤーのような人物に おいてさえ それは存在する 62 00:05:06,610 --> 00:05:09,180 ロイエンタールほどの名将と 対決しうるのは 63 00:05:09,180 --> 00:05:13,810 武人として本懐ではないかと 内なる声がささやくのだ 64 00:05:13,810 --> 00:05:17,550 ただ 彼には親友と 殺し合うという苦渋とは別に 65 00:05:17,550 --> 00:05:20,020 異なる悩みが存在している 66 00:05:20,020 --> 00:05:21,990 ロイエンタールの 旗下にいる兵士は 67 00:05:21,990 --> 00:05:25,230 全てカイザー・ラインハルトの 臣民である 68 00:05:25,230 --> 00:05:27,760 殺さずに済むなら そうしたい 69 00:05:27,760 --> 00:05:31,930 味方であるべき兄弟や戦友が 殺し合うことになるのだ 70 00:05:31,930 --> 00:05:33,870 ゆえにミッターマイヤーは 71 00:05:33,870 --> 00:05:38,140 あえて犠牲の多くなる持久戦を 避け 短期決戦を仕掛けた 72 00:05:38,140 --> 00:05:40,680 「第2次ランテマリオ会戦」 あるいは 73 00:05:40,680 --> 00:05:43,340 「双璧の争覇戦」と呼ばれる この戦いに 74 00:05:43,340 --> 00:05:45,410 最初から参加した兵力は 75 00:05:45,410 --> 00:05:48,180 ロイエンタール軍 520万に対して 76 00:05:48,180 --> 00:05:53,450 ミッターマイヤー軍は259万と 圧倒的に不利であった 77 00:05:53,450 --> 00:05:57,660 にもかかわらず ミッターマイヤーが あえて戦端を開いたのは 78 00:05:57,660 --> 00:06:00,630 ロイエンタールに 各個撃破の可能性を見せて 79 00:06:00,630 --> 00:06:03,530 持久策を捨てさせるためである 80 00:06:03,530 --> 00:06:07,340 ゆえにロイエンタールは攻め ミッターマイヤーは守る 81 00:06:07,340 --> 00:06:10,610 それが両者の基本的な 姿勢だったはずであるが 82 00:06:10,610 --> 00:06:15,440 ミッターマイヤーは 直接指揮下の 機動戦力を最大限に活用して 83 00:06:15,440 --> 00:06:18,210 ロイエンタール軍の浸透を 阻み続け 84 00:06:18,210 --> 00:06:22,220 容易に勝敗は決しそうもなかった 85 00:06:22,220 --> 00:06:26,750 膠着するかに見えた戦線は 翌25日 8時30分 86 00:06:26,750 --> 00:06:31,650 シュワルツ・ランツェンレイターが 戦場に到着し 最初の転機を迎える 87 00:06:34,300 --> 00:06:38,800 突撃だ ミッターマイヤーに 朝食をとる時間を作ってやろう 88 00:06:51,250 --> 00:06:54,520 チッ シュワルツ・ ランツェンレイターが来たか 89 00:06:54,520 --> 00:06:56,450 閣下 90 00:06:56,450 --> 00:07:00,350 味方の時は それほどの脅威とも 思わなかったが 91 00:07:00,350 --> 00:07:04,190 こうして敵にしてみると その圧倒感は否定できんな 92 00:07:04,190 --> 00:07:06,130 いかがいたします? 93 00:07:06,130 --> 00:07:08,430 シュワルツ・ランツェンレイターと いっても 94 00:07:08,430 --> 00:07:12,870 旧ファーレンハイト艦隊と 併合されてから まだ日も浅い 95 00:07:12,870 --> 00:07:16,140 両者の連動が 速やかであろうはずもない 96 00:07:16,140 --> 00:07:18,440 その隙を突いて切り崩せ 97 00:07:18,440 --> 00:07:20,470 帝国軍同士の戦いであり 98 00:07:20,470 --> 00:07:22,640 同型の艦が混在して 99 00:07:22,640 --> 00:07:25,980 敵味方の判別に 混乱をきたすほどであった 100 00:07:25,980 --> 00:07:30,580 第2次ランテマリオ会戦の 特徴の1つが この混乱にあった 101 00:07:33,590 --> 00:07:35,620 醜態を見せるな! 102 00:07:35,620 --> 00:07:37,790 帝国軍同士で戦うのは 103 00:07:37,790 --> 00:07:41,030 リップシュタット戦役で 経験済みではないか! 104 00:07:41,030 --> 00:07:43,930 今更 何をうろたえる 105 00:07:43,930 --> 00:07:47,300 シュワルツ・ランツェンレイターは ほかと見まごうことのない 106 00:07:47,300 --> 00:07:49,670 漆黒の姿を誇示している 107 00:07:49,670 --> 00:07:52,210 これは併合された 旧ファーレンハイト艦隊も 108 00:07:52,210 --> 00:07:54,280 同色に塗装されているため 109 00:07:54,280 --> 00:07:58,980 あたかも吸収合併された印象を ぬぐえない 110 00:07:58,980 --> 00:08:01,750 過ぎたこととはいえ 回廊の戦いにおける 111 00:08:01,750 --> 00:08:04,520 ファーレンハイトの戦死の 原因の1つに 112 00:08:04,520 --> 00:08:08,990 ビッテンフェルトの猪突があると信じて いまだに釈然としない者も多く 113 00:08:08,990 --> 00:08:11,890 その艦隊行動には統一性を欠いた 114 00:08:13,830 --> 00:08:17,400 またシュワルツ・ランツェンレイターが 参戦したといっても 115 00:08:17,400 --> 00:08:21,640 依然ミッターマイヤー軍が 数の上で 劣勢にあるのは間違いがなく 116 00:08:21,640 --> 00:08:25,040 全面攻勢に出るには 兵力が不足していた 117 00:08:25,040 --> 00:08:27,980 戦力が均衡するのは同日 19時 118 00:08:27,980 --> 00:08:31,480 ワーレン艦隊が 到着してからである 119 00:08:31,480 --> 00:08:34,880 来たか 120 00:08:34,880 --> 00:08:38,690 これまで数の上での劣勢を 機動力によって補い 121 00:08:38,690 --> 00:08:41,590 互角の戦いをしてきた ミッターマイヤーとしては 122 00:08:41,590 --> 00:08:47,230 戦力的に対等になったことで 優勢を確信しても よかった 123 00:08:47,230 --> 00:08:50,230 だがミッターマイヤーは ロイエンタール軍の一部が 124 00:08:50,230 --> 00:08:53,600 奇妙な動きをしていることに 気付いた 125 00:08:53,600 --> 00:08:58,440 あの部隊は? ロイエンタール元帥の直属部隊でしょう 126 00:08:58,440 --> 00:09:02,680 そんなことは分かっている 奇兵かな 127 00:09:02,680 --> 00:09:05,180 そうか しまった! 閣下 128 00:09:05,180 --> 00:09:09,480 先鋒のバイエルラインを 下がらせろ このままでは… 129 00:09:15,690 --> 00:09:20,160 青二才に用兵のなんたるかを 教えてやるとしよう 130 00:09:20,160 --> 00:09:22,260 ファイエル! 131 00:09:27,900 --> 00:09:30,910 ロイエンタール軍は バイエルラインの艦隊を 132 00:09:30,910 --> 00:09:33,210 火箭の中心点に引きずり込み 133 00:09:33,210 --> 00:09:37,850 至近距離から ビームとミサイルを浴びせかけた 134 00:09:37,850 --> 00:09:39,780 反撃しつつ後退! 135 00:09:39,780 --> 00:09:42,380 ダメです 退路を断たれました 136 00:09:47,120 --> 00:09:50,860 バイエルラインが反撃と後退と 交互に行う都度 137 00:09:50,860 --> 00:09:55,260 ロイエンタール軍は先手を打ち したたかに損害を与えていった 138 00:09:55,260 --> 00:09:58,800 戦艦ザンデルリンク 戦艦ヘルメスベルガー 撃沈 139 00:09:58,800 --> 00:10:01,300 グーデ提督 ヨッフム提督 戦死 140 00:10:01,300 --> 00:10:04,510 こらえろ ミッターマイヤー閣下の来援があるまで 141 00:10:04,510 --> 00:10:06,510 なんとしても持ちこたえろ 142 00:10:13,350 --> 00:10:16,980 戦艦シェーンヘル 撃沈 ホッター提督 戦死 143 00:10:16,980 --> 00:10:21,260 戦艦ブロムシュテット 撃沈 副司令官レマー中将 戦死 144 00:10:21,260 --> 00:10:24,060 レマーが… 敵艦 接近 145 00:10:24,060 --> 00:10:26,160 これまでか 146 00:10:34,200 --> 00:10:37,000 味方です 疾風ウォルフだ! 147 00:10:41,780 --> 00:10:47,110 ミッターマイヤーが 出てきたとあっては やむを得んな 148 00:10:47,110 --> 00:10:51,210 結局バイエルラインは ミッターマイヤーに救い出された 149 00:10:54,860 --> 00:10:57,530 してやられました 申し訳ありません 150 00:10:57,530 --> 00:11:00,190 現に してやられつつ あるところだ 151 00:11:00,190 --> 00:11:02,430 完了形で言うのは早すぎる 152 00:11:02,430 --> 00:11:06,000 このあとに逆接の接続詞を 続けたいものだな 153 00:11:06,000 --> 00:11:08,970 はい 154 00:11:08,970 --> 00:11:12,710 ロイエンタールは完璧だとしても 部下どもは そうではない 155 00:11:12,710 --> 00:11:14,980 そのあたりに活路が開けるだろう 156 00:11:14,980 --> 00:11:17,950 グリルパルツァー クナップシュタイン 157 00:11:17,950 --> 00:11:21,220 それぞれの部隊の所在を確認しろ 158 00:11:21,220 --> 00:11:23,480 むろんミッターマイヤーは 両名が 159 00:11:23,480 --> 00:11:27,350 背信行為を働こうとしている ことなど知りようがなかった 160 00:11:27,350 --> 00:11:29,590 単に股肱の臣ではない彼らが 161 00:11:29,590 --> 00:11:32,890 ロイエンタールと生死を 共にするとも考えにくく 162 00:11:32,890 --> 00:11:36,760 敵陣の中にあって 弱点となりうると考えたのである 163 00:11:36,760 --> 00:11:39,300 ホルツバウアーを 164 00:11:39,300 --> 00:11:43,200 クナップシュタインの部隊に 攻撃を集中せよ 165 00:11:45,840 --> 00:11:48,110 構想としては尋常であったが 166 00:11:48,110 --> 00:11:53,010 たたきつけた戦力の量と速度は 尋常ではなかった 167 00:11:53,010 --> 00:11:55,020 ホルツバウアー中将は 168 00:11:55,020 --> 00:11:58,750 コルネリアス・ルッツの下で 長く補佐役を務めた 169 00:11:58,750 --> 00:12:00,690 今回の出征にあたって 170 00:12:00,690 --> 00:12:04,290 自らミッターマイヤーの司令部に 籍を移して参戦している 171 00:12:06,390 --> 00:12:10,200 ひるむな 戦列を維持して ここは こらえるんだ 172 00:12:10,200 --> 00:12:13,170 ダメです 戦力と速度に 圧倒的な差があって 173 00:12:13,170 --> 00:12:17,040 戦線を支えきれません 174 00:12:17,040 --> 00:12:19,840 ミッターマイヤーの猛攻を 支えきれず 175 00:12:19,840 --> 00:12:23,710 クナップシュタイン艦隊は 戦列を乱して後退した 176 00:12:23,710 --> 00:12:28,480 各部隊ごとに100隻単位の 小集団に分かれて密集隊形をとり 177 00:12:28,480 --> 00:12:31,320 連携しつつ 敵の分断を図れ 178 00:12:31,320 --> 00:12:33,320 間に合いません 179 00:12:38,060 --> 00:12:41,700 いつだ グリルパルツァーのやつ いつ裏切るのだ 180 00:12:41,700 --> 00:12:45,230 直撃 来ます! 181 00:12:45,230 --> 00:12:48,100 機関部 被弾 バカな… 182 00:12:48,100 --> 00:12:50,100 第2波 来ます! 183 00:12:52,870 --> 00:12:56,070 こんな… こんなバカな話があるか! 184 00:13:06,890 --> 00:13:10,760 クナップシュタイン提督が 戦死された模様 185 00:13:10,760 --> 00:13:15,160 そうか クナップシュタインには 気の毒なことをしたな 186 00:13:21,140 --> 00:13:23,570 クナップシュタイン艦隊を 撃破した敵が 187 00:13:23,570 --> 00:13:26,410 急速に迫ってきます 188 00:13:26,410 --> 00:13:28,340 あるいは この瞬間こそ 189 00:13:28,340 --> 00:13:32,210 彼が裏切る好機であった かもしれない 190 00:13:32,210 --> 00:13:34,920 だが彼は決断し損ねた 191 00:13:34,920 --> 00:13:38,790 ミッターマイヤーの苛烈な攻勢が その隙を与えなかったのだ 192 00:13:38,790 --> 00:13:42,490 抵抗をやめれば 裏切りに転ずる一瞬の間に 193 00:13:42,490 --> 00:13:46,360 ズタズタに寸断され 絶息させられるだけであろう 194 00:13:46,360 --> 00:13:48,300 こうしてミッターマイヤーが 195 00:13:48,300 --> 00:13:50,730 ロイエンタール軍の一部に くさびを打ち込み 196 00:13:50,730 --> 00:13:55,070 全軍の瓦解を誘おうとしていた時 一方のロイエンタールも 197 00:13:55,070 --> 00:13:57,000 ミッターマイヤー軍の陣形に 198 00:13:57,000 --> 00:13:59,710 不均衡を生じさせることに 成功している 199 00:13:59,710 --> 00:14:03,210 故意に火力分布に 疎と密の混在状態を作り 200 00:14:03,210 --> 00:14:07,180 ミッターマイヤーの本軍と シュワルツ・ランツェンレイターとの間に 201 00:14:07,180 --> 00:14:10,120 味方の火力による断層を 作り上げたのだ 202 00:14:10,120 --> 00:14:12,620 分断したシュワルツ・ ランツェンレイターに 203 00:14:12,620 --> 00:14:14,720 砲火を集中させろ! 204 00:14:18,730 --> 00:14:22,600 シュワルツ・ランツェンレイターは守勢に弱いと いう欠点をさらけ出し 205 00:14:22,600 --> 00:14:26,600 半恐慌状態から 壊滅へ急落するかに見えた 206 00:14:31,340 --> 00:14:35,510 引くな 引くなと言っておるだろうが 207 00:14:35,510 --> 00:14:37,510 引くやつは構わん 208 00:14:40,150 --> 00:14:42,720 引くやつは構わんから ケーニヒス・ティーゲルの 209 00:14:42,720 --> 00:14:44,720 主砲で吹き飛ばしてやれ 210 00:14:44,720 --> 00:14:49,120 卑怯者として生き延びるより はるかに武人の本懐だろうよ 211 00:14:52,690 --> 00:14:56,300 まさか そのような命令を 実行するわけにもいかなかったが 212 00:14:56,300 --> 00:14:59,700 オイゲンの機転で 全軍にその声が流されたため 213 00:14:59,700 --> 00:15:04,100 がく然とした各艦は とにかくも その場に踏みとどまった 214 00:15:06,910 --> 00:15:11,180 ビッテンフェルトなら どんな暴挙でも やりかねんということか 215 00:15:11,180 --> 00:15:15,450 悪名も時として 使い道があるとみえる 216 00:15:15,450 --> 00:15:18,820 シュワルツ・ランツェンレイターは 敗走寸前の状態から 217 00:15:18,820 --> 00:15:22,490 再建を果たした 218 00:15:22,490 --> 00:15:26,730 そうなると 旧ファーレンハイト艦隊との 反目に近い感情も 219 00:15:26,730 --> 00:15:28,660 プラスに連鎖反応を呼ぶ 220 00:15:28,660 --> 00:15:32,930 亡きファーレンハイト元帥の 勇名を辱めるな 221 00:15:32,930 --> 00:15:35,740 シュワルツ・ランツェンレイターの イノシシどもに 222 00:15:35,740 --> 00:15:39,170 でかい面を させておくことはないぞ 223 00:15:39,170 --> 00:15:43,040 ファーレンハイト旗下で 勇名を知られたホフマイスター中将が 224 00:15:43,040 --> 00:15:46,910 僚友たちの先頭を切って 攻勢に転じた 225 00:15:46,910 --> 00:15:49,620 戦術とは関係なく 生まれた士気ほど 226 00:15:49,620 --> 00:15:52,920 用兵家の計算を 狂わせるものはない 227 00:15:59,060 --> 00:16:01,560 協調や連携とは無関係ながら 228 00:16:01,560 --> 00:16:04,430 シュワルツ・ランツェンレイターは 恐怖を乗り越え 229 00:16:04,430 --> 00:16:07,370 というより 恐怖を無視する熱狂をもって 230 00:16:07,370 --> 00:16:12,910 殺到する死と破壊に立ち向かい これを粉砕してしまったのである 231 00:16:12,910 --> 00:16:16,240 ロイエンタールは この冷静な用兵家らしくもなく 232 00:16:16,240 --> 00:16:18,180 唖然として戦況を見やり 233 00:16:18,180 --> 00:16:22,850 結局 正面に立ちふさがる愚を避け 後退を命じた 234 00:16:22,850 --> 00:16:25,190 敵軍 後退します チッ 235 00:16:25,190 --> 00:16:28,760 隙も見せんとは 相変わらず かわいげのない 236 00:16:28,760 --> 00:16:30,860 こちらも陣形を再編しろ 237 00:16:39,370 --> 00:16:42,740 翌30日 戦線は膠着状態にある 238 00:16:42,740 --> 00:16:46,010 双方の総指揮官が 互角の力量を有し 239 00:16:46,010 --> 00:16:50,210 互いの戦術展開を的確に洞察して 迅速に対応するため 240 00:16:50,210 --> 00:16:53,450 いわゆる千日手の様相を 示しつつあった 241 00:16:53,450 --> 00:16:56,880 消耗戦になれば ロイエンタールに とって不利である 242 00:16:56,880 --> 00:16:59,220 まずいな 243 00:16:59,220 --> 00:17:01,320 申し訳ありません 244 00:17:03,220 --> 00:17:06,960 いや 戦況がだ 245 00:17:06,960 --> 00:17:08,900 互いに消耗し尽くせば 246 00:17:08,900 --> 00:17:12,870 ロイエンタール軍は宇宙の 深淵に消滅するだけであるが 247 00:17:12,870 --> 00:17:17,670 ミッターマイヤー軍は あとに 無傷のラインハルトの本隊が控えている 248 00:17:17,670 --> 00:17:20,410 ヤン・ウェンリーが いかに苦心したか 249 00:17:20,410 --> 00:17:22,410 ようやく分かったような気がする 250 00:17:22,410 --> 00:17:24,750 その真の偉大さもな 251 00:17:24,750 --> 00:17:28,020 無限に近い回復力を持つ敵と 戦うことが 252 00:17:28,020 --> 00:17:30,520 いかに精神力を必要とするか 253 00:17:30,520 --> 00:17:35,360 改めて大軍が有利なゆえんを 痛感するロイエンタールである 254 00:17:35,360 --> 00:17:39,730 特に今回 味方の士気に 過剰の期待を抱いていない彼は 255 00:17:39,730 --> 00:17:43,730 短期に状況打開の道を探っていた 256 00:17:43,730 --> 00:17:48,540 むろんミッターマイヤーも 消耗戦を望むものではない 257 00:17:48,540 --> 00:17:50,840 だがロイエンタールを相手に 258 00:17:50,840 --> 00:17:54,570 短慮や焦燥が禁物であることを 誰よりも知っていた 259 00:17:54,570 --> 00:17:57,340 自らに忍耐を課し 弱気な指揮官であれば 260 00:17:57,340 --> 00:18:00,880 失神しそうな 心身の消耗に耐えていた 261 00:18:00,880 --> 00:18:02,820 12月1日 16時 262 00:18:02,820 --> 00:18:05,720 常に戦火の中にいた シュワルツ・ランツェンレイターが 263 00:18:05,720 --> 00:18:09,590 さすがに一時後退し 陣形の再編を図ったため 264 00:18:09,590 --> 00:18:11,990 ロイエンタール軍の戦力が 前線において 265 00:18:11,990 --> 00:18:14,730 一時的に敵を凌駕する 機会が生じた 266 00:18:14,730 --> 00:18:16,660 ベルゲングリューンに連絡 267 00:18:16,660 --> 00:18:21,570 前線の兵力を集約して 火力を集中し 敵の前進を阻め 268 00:18:21,570 --> 00:18:25,870 その間に直営艦隊をもって 敵の左側面を突け 269 00:18:30,180 --> 00:18:32,680 敵は前方と左側面から 270 00:18:32,680 --> 00:18:35,680 我らを半包囲体制下に 置こうとしている 271 00:18:35,680 --> 00:18:37,780 急進して これを許すな! 272 00:19:02,810 --> 00:19:05,410 エネルギー流に引火して危険です 273 00:19:05,410 --> 00:19:07,350 だが ここで退くわけにはいかん 274 00:19:07,350 --> 00:19:09,350 直撃 来ます! 275 00:19:14,490 --> 00:19:17,890 第2格納庫に直撃弾 276 00:19:17,890 --> 00:19:19,990 また来ます 至近 277 00:19:32,110 --> 00:19:34,210 閣下! 278 00:19:36,110 --> 00:19:38,680 一度失ったものを もう一度 失っても 279 00:19:38,680 --> 00:19:40,680 別に不自由はせんよ 280 00:19:45,990 --> 00:19:49,320 さて これで悪運を切り離したぞ 281 00:19:49,320 --> 00:19:52,620 恐れるものは怯懦のみだ はっ 282 00:19:57,000 --> 00:19:59,430 こうして3時間にわたる死闘の末 283 00:19:59,430 --> 00:20:02,940 ロイエンタールは 攻勢の続行を断念した 284 00:20:02,940 --> 00:20:07,270 ミッターマイヤーが防御線の 各所に小さな突破口を開き 285 00:20:07,270 --> 00:20:09,210 それらの点を線につないで 286 00:20:09,210 --> 00:20:13,210 一挙に前進を 果たそうとしたからである 287 00:20:13,210 --> 00:20:16,710 これが成功すれば 戦局は決していただろう 288 00:20:18,920 --> 00:20:21,420 まして その危険地帯にいたのが 289 00:20:21,420 --> 00:20:24,220 グリルパルツァーとあっては なおさらである 290 00:20:24,220 --> 00:20:28,630 さすがに ウォルフ・デア・シュトルムだ 291 00:20:28,630 --> 00:20:30,560 これが好機かもしれん 292 00:20:30,560 --> 00:20:33,770 このままミッターマイヤー軍の 攻撃を引き込んで 293 00:20:33,770 --> 00:20:37,240 全軍の崩壊を誘うという手もある 294 00:20:37,240 --> 00:20:40,770 だが またしても グリルパルツァーは決断をためらった 295 00:20:40,770 --> 00:20:44,980 ミッターマイヤーの攻勢による圧力が 想像を超えるものであったため 296 00:20:44,980 --> 00:20:49,350 いわば堤防に穴を開けた者が 自らも溺死してしまう 297 00:20:49,350 --> 00:20:52,250 その恐怖に さらされたからである 298 00:20:52,250 --> 00:20:55,060 グリルパルツァーは ひたすら自分を守るために 299 00:20:55,060 --> 00:20:58,860 必死でミッターマイヤーの 攻勢を支えねばならなくなった 300 00:21:00,760 --> 00:21:03,660 閣下 このままでは… 通信だ 301 00:21:03,660 --> 00:21:07,070 ミッターマイヤー元帥のもとへ通信回線を ええっ? 302 00:21:07,070 --> 00:21:09,440 閣下 味方です 303 00:21:09,440 --> 00:21:11,840 ロイエンタール元帥の直営艦隊が 304 00:21:13,770 --> 00:21:17,310 ロイエンタールは 精密な火力の集中によって 305 00:21:17,310 --> 00:21:20,710 ミッターマイヤー軍が開いた 突破口の1つをつぶし 306 00:21:20,710 --> 00:21:24,450 さらに1つに逆攻勢をかけ そこから横へ突出して 307 00:21:24,450 --> 00:21:29,450 長い縦列となったミッターマイヤー軍の 一隊に 側面攻撃をかけた 308 00:21:31,960 --> 00:21:35,960 短時間だが 双方の牙が 折れ砕けるほどの激闘が交えられ 309 00:21:35,960 --> 00:21:40,670 ミッターマイヤーは60万キロに わたる後退を余儀なくされた 310 00:21:40,670 --> 00:21:44,440 ユリアン・ミンツの決断が形となって 戦場に もたらされたのは 311 00:21:44,440 --> 00:21:46,870 12月3日のことである 312 00:21:46,870 --> 00:21:49,180 イゼルローン回廊方面より 313 00:21:49,180 --> 00:21:52,780 惑星ハイネセンへ向けて 大部隊が進攻しております 314 00:21:52,780 --> 00:21:55,550 帝国軍か それは? はあ 315 00:21:55,550 --> 00:21:59,050 指揮官はメックリンガー上級大将 とのことです 316 00:21:59,050 --> 00:22:04,320 イゼルローンの共和主義者どもが 回廊の通過に許可を与えたのです 317 00:22:04,320 --> 00:22:06,560 イゼルローンの小僧は どうやら 318 00:22:06,560 --> 00:22:09,930 まともな戦略眼を 持っているらしいな 319 00:22:09,930 --> 00:22:12,830 あるいは よほどいい参謀が ついているのか 320 00:22:12,830 --> 00:22:16,700 メルカッツ老人あたりの 知恵かもしれんな 321 00:22:16,700 --> 00:22:18,740 その想像は外れていた 322 00:22:18,740 --> 00:22:21,640 ユリアンが 自分で判断し 決定したのだ 323 00:22:21,640 --> 00:22:23,810 だが その決定の意味するところを 324 00:22:23,810 --> 00:22:27,250 ロイエンタールは 正確に把握していた 325 00:22:27,250 --> 00:22:31,720 帝国軍に貸しを作って 将来の 交渉における政治的材料とし 326 00:22:31,720 --> 00:22:35,360 同時に帝国領方面に 軍事的空白を作らせることで 327 00:22:35,360 --> 00:22:37,720 行動の自由を得る 328 00:22:37,720 --> 00:22:42,560 いずれにせよ こうなっては 当面の戦闘継続は無意味であった 329 00:22:42,560 --> 00:22:46,430 メックリンガーに ハイネセンを 奪われては虚空に孤立し 330 00:22:46,430 --> 00:22:50,270 近い将来に二正面作戦を 強いられる結果となろう 331 00:22:50,270 --> 00:22:53,970 ロイエンタールは 全軍に撤退を命じた 332 00:22:53,970 --> 00:22:57,380 だが それこそ至難の業と 言わなければなるまい 333 00:22:57,380 --> 00:23:00,280 この時 ミッターマイヤーは 左右両翼の 334 00:23:00,280 --> 00:23:03,650 ワーレンとビッテンフェルトを 完全に管制下に置き 335 00:23:03,650 --> 00:23:08,350 ロイエンタール軍の両翼を 交互にたたいて 出血を強いていた 336 00:23:10,390 --> 00:23:14,230 これに対してロイエンタールは 直属部隊の集中砲火と 337 00:23:14,230 --> 00:23:17,130 擬似突出によって 敵の前進を停止させ 338 00:23:17,130 --> 00:23:21,770 その間隙に乗じて 1隊 また1隊と戦場から離脱させ 339 00:23:21,770 --> 00:23:24,500 機を見て自らも急速後退を果たし 340 00:23:24,500 --> 00:23:28,900 犠牲らしい犠牲も出さずに 撤退を完成させてしまった 341 00:23:32,810 --> 00:23:35,720 さすがに当代の名将だ 342 00:23:35,720 --> 00:23:39,390 戦いつつ後退し しかも全く混乱がない 343 00:23:39,390 --> 00:23:43,790 戦術の教科書にも これほど 見事な例は載っていないだろう 344 00:23:47,090 --> 00:23:51,530 ミッターマイヤーにとっては 口にする必要もないことであった 345 00:23:51,530 --> 00:23:54,100 遠ざかる親友の影を見つめながら 346 00:23:54,100 --> 00:23:57,070 彼が言葉にしたのは 別のことである 347 00:23:57,070 --> 00:24:00,070 必ず 今年中に決着をつける 348 00:24:02,810 --> 00:24:05,180 全軍 最大戦速 349 00:24:05,180 --> 00:24:09,080 ロイエンタールがハイネセンに 帰着する前に捕捉する 350 00:24:11,720 --> 00:24:16,260 宇宙暦800年 新帝国暦2年 12月4日 351 00:24:16,260 --> 00:24:19,960 ミッターマイヤー元帥 率いる 反乱征討軍は 352 00:24:19,960 --> 00:24:23,960 ロイエンタール軍を追って 再び進軍を開始した 353 00:24:28,400 --> 00:24:32,000 流血の宴は まだ終わっていない 354 00:26:07,700 --> 00:26:11,570 互いに知略を尽くした 帝国軍の双璧の戦いは 355 00:26:11,570 --> 00:26:15,440 意外な形で その幕切れを迎えようとしていた 356 00:26:15,440 --> 00:26:20,050 捲土重来を期して 惑星ハイネセンに戻るロイエンタール 357 00:26:20,050 --> 00:26:23,620 だが彼自身 それがもはや かなわぬことを 358 00:26:23,620 --> 00:26:26,390 誰よりも よく知っていた 359 00:26:26,390 --> 00:26:30,220 次回 銀河英雄伝説 第97話 360 00:26:30,220 --> 00:26:32,560 「剣に斃れ」 361 00:26:32,560 --> 00:26:34,560 銀河の歴史が また1ページ