1 00:01:37,720 --> 00:01:41,560 宇宙暦800年 新帝国暦2年11月 2 00:01:41,560 --> 00:01:43,490 オスカー・フォン・ ロイエンタールと 3 00:01:43,490 --> 00:01:46,400 ウォルフガング・ ミッターマイヤーの戦いに先立ち 4 00:01:46,400 --> 00:01:50,170 帝国軍 メックリンガー艦隊は 回廊を通過する許可を 5 00:01:50,170 --> 00:01:54,040 イゼルローン共和政府より 取りつけることに成功した 6 00:01:54,040 --> 00:01:56,940 こちらの要請に応じて 通してくれるというのだ 7 00:01:56,940 --> 00:02:00,240 通してもらうがいい ありがたいことに 8 00:02:00,240 --> 00:02:04,080 ヤン・ウェンリーは 物の分かった 後継者を残してくれたようだな 9 00:02:04,080 --> 00:02:06,780 先方には別の思案があるだろうが 10 00:02:06,780 --> 00:02:09,690 それは将来のこととしておいて よかろう 11 00:02:09,690 --> 00:02:11,690 承知いたしました 12 00:02:14,660 --> 00:02:17,030 しかし大丈夫でしょうか 13 00:02:17,030 --> 00:02:20,700 もしイゼルローン要塞から トールハンマーが発射されたら 14 00:02:20,700 --> 00:02:25,370 我が艦隊は全滅しますぞ ご用心あって しかるべきです 15 00:02:25,370 --> 00:02:29,240 用心すれば トールハンマーが 無力化できるのかね 16 00:02:29,240 --> 00:02:31,710 だとしたら いくらでも用心するが 17 00:02:31,710 --> 00:02:34,610 もはや我々には そのような権利はないのだと 18 00:02:34,610 --> 00:02:37,420 私は思っている しかし… 19 00:02:37,420 --> 00:02:40,850 それに我々も不安だが 先方も不安なはずだ 20 00:02:40,850 --> 00:02:45,020 我々を攻撃して全滅させれば それは すなわち 21 00:02:45,020 --> 00:02:51,400 帝国軍の全面攻勢を呼び込む ことを意味するのだからな 22 00:02:51,400 --> 00:02:55,700 そうはいっても 自信を持てる状況ではないな 23 00:02:55,700 --> 00:03:00,540 ヤン・ウェンリーが健在ならば ほぼ完全な 信頼を相手に抱いていいだろうが 24 00:03:00,540 --> 00:03:03,970 その後継者の力量は 未知数に過ぎる 25 00:03:03,970 --> 00:03:07,480 今は その若い後継者が 衝動に駆られて 26 00:03:07,480 --> 00:03:11,850 理性より野心を優先させることの ないように祈るだけだ 27 00:03:11,850 --> 00:03:16,090 帝国軍接近 トールハンマーの 射程内に入ります 28 00:03:16,090 --> 00:03:18,020 必要以上に近すぎないか? 29 00:03:18,020 --> 00:03:20,720 あえて主砲の射程内に入ったのは 30 00:03:20,720 --> 00:03:24,160 我々への信頼を 証明する意図からでしょう 31 00:03:24,160 --> 00:03:27,730 万が一 帝国軍が 背信行為を犯したら 32 00:03:27,730 --> 00:03:30,970 その時は 改めて反撃すればいいでしょう 33 00:03:30,970 --> 00:03:35,440 イゼルローン要塞の外壁は 艦砲射撃程度では傷つきません 34 00:03:35,440 --> 00:03:40,210 傷がつくのは帝国軍の名誉です 35 00:03:40,210 --> 00:03:43,150 いっそ帝国軍が 撃ってこないものかな 36 00:03:43,150 --> 00:03:47,950 そうすればトールハンマーで 優しく頭をなでてやるのにな 37 00:03:47,950 --> 00:03:52,290 ぜいたくは言わない ちょっとだけ花火見物がしたい 38 00:03:52,290 --> 00:03:56,130 派手になったら それでもいいけどな 39 00:03:56,130 --> 00:03:58,960 通過中の帝国軍から入電です 40 00:03:58,960 --> 00:04:01,370 ん? 41 00:04:01,370 --> 00:04:05,240 銀河帝国軍上級大将 エルネスト・メックリンガーより 42 00:04:05,240 --> 00:04:09,910 イゼルローン共和政府 及び 軍の代表者へ 43 00:04:09,910 --> 00:04:14,880 卿らの行為を謝し 今後の 関係正常化を期待させていただく 44 00:04:14,880 --> 00:04:20,480 また卿らの偉大な指導者であった ヤン・ウェンリー元帥の聖なる墓所に対し 45 00:04:20,480 --> 00:04:23,750 全軍 謹んで敬礼を施すものとする 46 00:04:23,750 --> 00:04:26,950 願わくば 快く受容されんことを 47 00:04:34,400 --> 00:04:39,870 要するに敵も味方も センチメンタリストの集まりだってことだな 48 00:04:39,870 --> 00:04:43,070 「イゼルローンは聖なる墓」か 49 00:04:45,980 --> 00:04:48,010 で 司令官閣下は 50 00:04:48,010 --> 00:04:51,480 センチメンタリスト同士 話が通ずるところがある 51 00:04:51,480 --> 00:04:56,050 そこに将来への展望を 見出したいと思っているわけか 52 00:04:56,050 --> 00:04:57,990 そんなところです 53 00:04:57,990 --> 00:05:01,390 でも 平坦な道だと 思っているわけではありません 54 00:05:03,690 --> 00:05:07,870 ヤン提督はおっしゃられた 「宇宙は一つの劇場だ」と 55 00:05:07,870 --> 00:05:12,670 悲劇も喜劇も いずれ終幕を迎えるものだと 56 00:05:12,670 --> 00:05:17,440 この時ユリアンは 歴史の流れる 方向と速度を皮膚感で把握し 57 00:05:17,440 --> 00:05:21,110 その帰結点を 見通しているようであった 58 00:05:21,110 --> 00:05:24,320 12月7日 急追する ミッターマイヤー軍が 59 00:05:24,320 --> 00:05:27,690 ロイエンタール軍の 後尾をとらえた 60 00:05:27,690 --> 00:05:32,590 敵軍 急速接近 全艦 回頭して逆撃態勢を取れ 61 00:05:41,600 --> 00:05:45,600 味方が… グリルパルツァー艦隊が 発砲してきます 62 00:05:58,550 --> 00:06:01,190 戦艦ドンダーツ撃沈 シュラー提督 戦死 63 00:06:01,190 --> 00:06:03,450 バルトハウザー艦隊 司令部から応答なし 64 00:06:03,450 --> 00:06:05,490 ハーネル機動部隊 通信途絶 65 00:06:05,490 --> 00:06:07,630 あの小才子めが 66 00:06:07,630 --> 00:06:11,030 どうやら最初から この機会を狙っていたとみえるな 67 00:06:23,040 --> 00:06:26,740 反撃だ 小賢しい背信行為を許すな 68 00:06:29,510 --> 00:06:33,850 卑怯者め 手をつかねて 貴様に功を むさぼらせるものか 69 00:06:33,850 --> 00:06:36,150 道連れにしてやるぞ ヴァルハラで 70 00:06:36,150 --> 00:06:39,520 戦死したクナップシュタイン閣下に わびさせてやる 71 00:06:39,520 --> 00:06:42,090 最も熱狂的に反撃した部隊が 72 00:06:42,090 --> 00:06:45,560 クナップシュタインの部下たちで あったことは皮肉と言うしかない 73 00:06:45,560 --> 00:06:49,200 彼らは戦死した上官を悼む 気持ちを 怒りに変えて 74 00:06:49,200 --> 00:06:52,100 グリルパルツァーに たたきつけたのである 75 00:06:52,100 --> 00:06:56,810 一方のグリルパルツァー艦隊も 上下一心というわけではなかった 76 00:06:56,810 --> 00:06:59,380 突然 味方を裏切るように命令され 77 00:06:59,380 --> 00:07:02,110 事態を把握できずに 攻撃をためらうまま 78 00:07:02,110 --> 00:07:05,010 反撃に遭って 爆沈する艦も続出した 79 00:07:09,690 --> 00:07:13,220 どういうことだ 同士討ちでしょうか 80 00:07:13,220 --> 00:07:16,460 通信を傍受しました 「裏切り者」という言葉が 81 00:07:16,460 --> 00:07:19,060 飛び交っていますが 82 00:07:19,060 --> 00:07:21,060 そういうことか 83 00:07:40,350 --> 00:07:42,290 砲撃 来ます 1時の方向 84 00:07:42,290 --> 00:07:44,390 回避せよ 左舷方向 85 00:07:54,700 --> 00:07:56,900 左舷から砲撃 何! 86 00:08:11,980 --> 00:08:13,920 しっかりしろ 助けてくれ 87 00:08:13,920 --> 00:08:16,820 危ないぞ 火だ 88 00:08:31,400 --> 00:08:34,140 閣下! 89 00:08:34,140 --> 00:08:38,740 騒ぐな 負傷したのは俺だ 卿ではない 90 00:08:38,740 --> 00:08:42,480 副艦の任務に 「上官に代わって 悲鳴を上げる」というものは 91 00:08:42,480 --> 00:08:44,480 なかったはずだぞ 92 00:08:50,890 --> 00:08:53,920 軍医 司令官が負傷された 急げ 93 00:08:53,920 --> 00:08:58,060 ベルゲングリューン副指令に 緊急連絡 94 00:08:58,060 --> 00:09:03,160 瞳や肌の色が どうであろうと 血の色は万人が同じか 95 00:09:21,720 --> 00:09:23,720 閣下 96 00:09:31,960 --> 00:09:33,900 閣下 グリルパルツァーに… 97 00:09:33,900 --> 00:09:36,200 あの裏切り者に 思い知らせてやりましょう 98 00:09:36,200 --> 00:09:39,100 卑怯者が落ちる地獄の業火に たたき込んでやります 99 00:09:39,100 --> 00:09:41,740 放っておけ ですが… 100 00:09:41,740 --> 00:09:46,010 ここで生き残った方が 奴には かえって不運だ 101 00:09:46,010 --> 00:09:50,850 カイザーも ミッターマイヤーも あのような輩を許しておくものか 102 00:09:50,850 --> 00:09:52,780 で どうだ? 103 00:09:52,780 --> 00:09:56,650 心臓と肺を結ぶ血管の一部が 傷ついております 104 00:09:56,650 --> 00:10:00,520 とりあえず凍らせて止血し 傷口を接着しますが 105 00:10:00,520 --> 00:10:04,730 早急に本格的な手術が 必要でしょう 106 00:10:04,730 --> 00:10:06,730 手術は好きじゃないな 107 00:10:06,730 --> 00:10:09,670 好き嫌いの問題では ありますまい 閣下 108 00:10:09,670 --> 00:10:11,870 お命に関わります 109 00:10:11,870 --> 00:10:14,770 いや 好き嫌い以上の問題だ 110 00:10:14,770 --> 00:10:19,180 俺にはパジャマを着て 病院のベッドで死ぬのは似合わない 111 00:10:19,180 --> 00:10:21,180 そうは思わんか 112 00:11:02,320 --> 00:11:05,690 「人には ふさわしき生と」 113 00:11:05,690 --> 00:11:08,160 「死を」か 114 00:11:08,160 --> 00:11:11,360 閣下? いや ご苦労 115 00:11:11,360 --> 00:11:13,860 他の負傷者の手当てを頼む 116 00:11:29,680 --> 00:11:34,120 閣下 おケガに障ります ご無理をなさらないでください 117 00:11:34,120 --> 00:11:36,350 心配するな それより 118 00:11:36,350 --> 00:11:39,690 軍服とシャツの着替えを 持ってきてくれ 119 00:11:39,690 --> 00:11:41,930 自分の血のにおいというやつは 120 00:11:41,930 --> 00:11:44,930 5分も かいでいると 飽きるものらしい 121 00:11:52,440 --> 00:11:55,770 どうだ 状況は 122 00:11:55,770 --> 00:11:59,140 裏切ったグリルパルツァー艦隊は 少数です 123 00:11:59,140 --> 00:12:02,980 既に その大半が逃げ散り 一時の混乱からは脱しましたが 124 00:12:02,980 --> 00:12:06,850 その間に敵軍が 迫ってきております 125 00:12:06,850 --> 00:12:09,720 このままでは… 126 00:12:09,720 --> 00:12:13,490 そうか ここは小官が食い止めます 127 00:12:13,490 --> 00:12:15,530 閣下はハイネセンに お戻りになって 128 00:12:15,530 --> 00:12:19,300 捲土重来をお図りください 129 00:12:19,300 --> 00:12:22,200 「捲土重来」か 130 00:12:22,200 --> 00:12:24,630 敵軍 接近 131 00:12:24,630 --> 00:12:27,170 閣下… 132 00:12:27,170 --> 00:12:29,540 分かった 卿に任せる 133 00:12:29,540 --> 00:12:31,810 だが無理はするな 134 00:12:31,810 --> 00:12:35,710 こうして壊乱寸前の状態にあった ロイエンタール軍は 135 00:12:35,710 --> 00:12:37,950 ロイエンタールの沈着な指揮と 136 00:12:37,950 --> 00:12:40,520 ディッタースドルフらの 必死の防戦によって 137 00:12:40,520 --> 00:12:45,390 その一部に戦線を 離脱させることに成功した 138 00:12:45,390 --> 00:12:50,190 ロイエンタールは定期的に 鎮痛剤と増血剤を注射するだけで 139 00:12:50,190 --> 00:12:54,360 表情ひとつ変えずに 依然として 全軍の指揮を執り続けた 140 00:12:54,360 --> 00:12:57,030 恐らく 想像を絶する苦痛に耐えながら 141 00:12:57,030 --> 00:12:59,870 その指示と判断は的確を極めた 142 00:12:59,870 --> 00:13:03,410 だが その顔から 次第に血の気が引いていくのは 143 00:13:03,410 --> 00:13:07,610 誰の目にも明らかだった 軍医! 144 00:13:07,610 --> 00:13:11,480 一時 脳貧血による 失神状態に陥ったが 145 00:13:11,480 --> 00:13:14,820 部下たちが病室に運ぼうとすると 意識を取り戻し 146 00:13:14,820 --> 00:13:17,720 しかりつけて指揮席に戻させた 147 00:13:17,720 --> 00:13:21,930 その姿は死をつかさどる者に 挑戦するかに見え 148 00:13:21,930 --> 00:13:26,260 部下たちは畏敬の念を強くしたが 同時に覚悟もした 149 00:13:26,260 --> 00:13:30,570 このような剛毅さが 肉体を犠牲に して成り立つものである以上 150 00:13:30,570 --> 00:13:35,540 司令官の余命は 長かろうはずがないと 151 00:13:35,540 --> 00:13:38,280 司令官が戦場を離脱した後 152 00:13:38,280 --> 00:13:42,780 残ったロイエンタール軍の艦艇は 多くが停戦 降伏した 153 00:13:42,780 --> 00:13:45,520 ディッタースドルフも 負傷して降伏したが 154 00:13:45,520 --> 00:13:49,490 元々 同じゴールデン・ルーヴェを 仰いで戦った戦友たちである 155 00:13:49,490 --> 00:13:52,190 必要以上に 殺し合うことはしなかったし 156 00:13:52,190 --> 00:13:55,590 互いに憎しみはなかった 157 00:13:55,590 --> 00:13:59,860 そんな中 憎悪と軽蔑を 一身に集める投降者もいた 158 00:13:59,860 --> 00:14:03,600 グリルパルツァーである 彼は投降を申し入れる相手に 159 00:14:03,600 --> 00:14:06,370 ミッターマイヤーではなく ワーレンを選んだが 160 00:14:06,370 --> 00:14:09,870 それさえ 姑息さを 印象づける結果となった 161 00:14:13,940 --> 00:14:16,980 俺たちは命懸けで ウォルフ・デア・シュトルムや 162 00:14:16,980 --> 00:14:19,820 シュワルツ・ランツェンレイターと 戦いました 163 00:14:19,820 --> 00:14:23,320 ロイエンタール元帥に対する 義理は果たしたと思います 164 00:14:23,320 --> 00:14:27,190 退院したら またカイザーの下で 軍務を務めたいのですが 165 00:14:27,190 --> 00:14:32,360 俺たちみたいな下っ端でも 裁判にかけられるでしょうか 166 00:14:32,360 --> 00:14:35,770 そうか 「義理を果たした」と言ったか 167 00:14:35,770 --> 00:14:39,940 ロイエンタール軍の瓦解を ミッターマイヤーが確信したのは 168 00:14:39,940 --> 00:14:43,810 実に この時であった 兵士の発言が 169 00:14:43,810 --> 00:14:47,480 この無意味な内戦に従軍した 兵士たちの心情を 170 00:14:47,480 --> 00:14:51,350 過不足なく表現していると 悟ったからである 171 00:14:51,350 --> 00:14:55,150 終わったな 172 00:14:55,150 --> 00:14:57,950 ミッターマイヤー軍の進撃は 結果的に 173 00:14:57,950 --> 00:15:02,160 投降したロイエンタール軍の艦艇によって 遮られることになった 174 00:15:02,160 --> 00:15:04,430 ビューロー大将が権限を委ねられ 175 00:15:04,430 --> 00:15:08,030 それらの整理に 当たることになった 176 00:15:08,030 --> 00:15:12,270 ロイエンタールはバーラト星系で 再起を図るかもしれない 177 00:15:12,270 --> 00:15:15,070 すぐに追撃準備を整えよ 178 00:15:15,070 --> 00:15:17,070 はっ! 179 00:15:21,180 --> 00:15:24,380 恐らくロイエンタールは 死ぬだろう 180 00:15:24,380 --> 00:15:26,880 それは今に決まったことではなく 181 00:15:26,880 --> 00:15:31,790 この戦いに臨む前から 敗北と死は同一のものとみなし 182 00:15:31,790 --> 00:15:36,560 敗残の身を生き長らえることなど 考えていなかったに違いない 183 00:15:36,560 --> 00:15:38,560 それは ミッターマイヤーのみならず 184 00:15:38,560 --> 00:15:41,770 他の提督たちにも 共通する思いだった 185 00:15:41,770 --> 00:15:44,400 どのみち 俺たちの人生録は 186 00:15:44,400 --> 00:15:48,670 どのページをめくっても 血文字で書かれているのさ 187 00:15:48,670 --> 00:15:54,480 今更 人道主義の厚化粧を施しても 血の色は消せんよ 188 00:15:54,480 --> 00:15:59,180 しかしまあ できれば 経験せずに済ませたいこともある 189 00:15:59,180 --> 00:16:02,050 僚友と殺し合うなんてことはな 190 00:16:02,050 --> 00:16:05,760 もしカイザーが俺を討伐するよう 卿に命令なさったら 191 00:16:05,760 --> 00:16:08,260 卿は それに従うか? ああ 192 00:16:14,560 --> 00:16:18,840 こういう問題には もっと 悩んでから答えてほしいものだ 193 00:16:18,840 --> 00:16:23,670 問題が悪い 出題者に反省を求めたい 194 00:16:23,670 --> 00:16:27,310 仮定の問題ではない このような事件の後 195 00:16:27,310 --> 00:16:30,310 カイザー・ラインハルト陛下の 部下に対する信頼感が 196 00:16:30,310 --> 00:16:33,310 損なわれないで いられるだろうか 197 00:16:54,340 --> 00:16:56,340 閣下!軍医! 198 00:17:03,350 --> 00:17:06,350 ハハハ… 199 00:17:17,330 --> 00:17:19,330 閣下 200 00:17:22,500 --> 00:17:27,640 閣下 トリスタンは損傷が激しく 航行にも支障が出ております 201 00:17:27,640 --> 00:17:29,570 病院船とは申しませんが 202 00:17:29,570 --> 00:17:34,940 無傷の艦に 指揮座をお移しに なられるべきかと考えますが 203 00:17:34,940 --> 00:17:38,350 ミュラーが旗艦を捨てて 賞賛されたのは 204 00:17:38,350 --> 00:17:41,250 激戦の渦中で指揮を続けたからだ 205 00:17:41,250 --> 00:17:45,820 敗れて逃げるのに 旗艦まで捨てたとあっては 206 00:17:45,820 --> 00:17:50,660 オスカー・フォン・ロイエンタールの名は 臆病者の代名詞になるだろうよ 207 00:17:50,660 --> 00:17:54,060 ロイエンタール元帥は 死の瞬間まで 208 00:17:54,060 --> 00:17:57,600 ロイエンタール元帥以外の 何者でもなかった 209 00:17:57,600 --> 00:18:01,000 後に周囲の者が 口をそろえて証言する 210 00:18:01,000 --> 00:18:03,670 冷徹な理性と強靭な自制心は 211 00:18:03,670 --> 00:18:06,610 その最期まで 失われることはなかった 212 00:18:06,610 --> 00:18:09,610 12月11日 イゼルローン回廊を通過した 213 00:18:09,610 --> 00:18:13,120 メックリンガー艦隊は 惑星ウルヴァシーにおいて 214 00:18:13,120 --> 00:18:16,650 ミッターマイヤーの本隊と 合流を果たした 215 00:18:16,650 --> 00:18:20,190 ミッターマイヤーと協議して メックリンガーは この地に残り 216 00:18:20,190 --> 00:18:24,560 秩序の再建と治安の維持に 当たることになった 217 00:18:24,560 --> 00:18:27,030 その際 メックリンガーは ミッターマイヤーに 218 00:18:27,030 --> 00:18:32,670 過日のカイザー襲撃事件について 早急に再調査したい旨を伝えた 219 00:18:32,670 --> 00:18:37,510 思うにウルヴァシーで皇帝陛下に 危害を加えようとした首謀者は 220 00:18:37,510 --> 00:18:40,080 ロイエンタール元帥ではあるまい 221 00:18:40,080 --> 00:18:42,550 なぜ そう思うのだ 第一に 222 00:18:42,550 --> 00:18:45,150 彼の人となりに そぐわん 223 00:18:45,150 --> 00:18:48,890 第二に 彼の能力にふさわしくない 224 00:18:48,890 --> 00:18:50,890 うむ 225 00:18:52,790 --> 00:18:56,230 確かにロイエンタールが カイザーを凌駕することを望んで 226 00:18:56,230 --> 00:18:58,160 反旗を翻したとすれば 227 00:18:58,160 --> 00:19:03,000 正面から軍を進めて 堂々と カイザーと雌雄を決するであろう 228 00:19:03,000 --> 00:19:05,000 ロイエンタールの性格だけでなく 229 00:19:05,000 --> 00:19:07,840 そうでなければ 政治的に意味をなさない 230 00:19:07,840 --> 00:19:12,240 仮に手段を問わずに 権力の 奪取だけを目的にしたとすれば 231 00:19:12,240 --> 00:19:16,050 何もウルヴァシーなどでなく ハイネセンに到着してから 232 00:19:16,050 --> 00:19:18,720 捕えるなり 殺害するなりすればいい 233 00:19:18,720 --> 00:19:22,120 しかも ひとたびブリュンヒルトが ウルヴァシーを離陸すると 234 00:19:22,120 --> 00:19:24,620 手をつかねて 脱出するに任せている 235 00:19:27,420 --> 00:19:31,290 その辺りの矛盾 不整合が 今回の反逆に関して 236 00:19:31,290 --> 00:19:36,090 最初の段階でミッターマイヤーが感じた 違和感の原因だったかもしれない 237 00:19:45,910 --> 00:19:49,410 ご自分がカイザーを 襲撃したのでないのなら 238 00:19:49,410 --> 00:19:52,250 なぜロイエンタール元帥は えん罪であることを 239 00:19:52,250 --> 00:19:55,450 大声で 主張なさらなかったのでしょう 240 00:19:55,450 --> 00:19:59,990 卿も知るとおり ロイエンタール元帥は誇り高い男だ 241 00:19:59,990 --> 00:20:04,790 自分が何者かの陰謀によって 犠牲の祭壇に捧げられたとは 242 00:20:04,790 --> 00:20:08,330 到底 口にできまい 243 00:20:08,330 --> 00:20:12,770 恐らく彼は 自らの意志 自らの野心によって 244 00:20:12,770 --> 00:20:17,340 カイザー・ラインハルトに 反旗を翻したと 245 00:20:17,340 --> 00:20:20,440 そう自分に 信じ込ませたのではないか 246 00:20:22,580 --> 00:20:26,880 2人の人間の野心を 同時代に共存させるには 247 00:20:26,880 --> 00:20:30,120 どうやら銀河系は狭すぎるらしい 248 00:20:30,120 --> 00:20:34,020 そう慨嘆しつつ メックリンガーが 納得し得ないのは 249 00:20:34,020 --> 00:20:36,630 惑星ウルヴァシーの 不祥事に関して 250 00:20:36,630 --> 00:20:40,560 ロイエンタールが犯人を懲罰しようと しなかったことである 251 00:20:40,560 --> 00:20:44,300 その点に関して調査した結果 グリルパルツァーが 252 00:20:44,300 --> 00:20:47,940 地球教徒の陰謀と思われる証拠を 故意に隠匿し 253 00:20:47,940 --> 00:20:51,310 犯人不明と報告した事実が 明らかとなった 254 00:20:51,310 --> 00:20:53,380 そうなると メックリンガーには 255 00:20:53,380 --> 00:20:57,180 グリルパルツァーの思惑が 明確な形となって つながった 256 00:21:08,390 --> 00:21:12,060 グリルパルツァー 卿は軍人としても学者としても 257 00:21:12,060 --> 00:21:14,000 将来を期待された人材だ 258 00:21:14,000 --> 00:21:17,370 他者を裏切り 策略をろうさずとも いずれ 259 00:21:17,370 --> 00:21:21,770 より高い地位と強い権限を 掌中に収め得たであろうに 260 00:21:21,770 --> 00:21:24,410 惜しむらくは自らの才略に溺れ 261 00:21:24,410 --> 00:21:26,680 晩節を汚したな 262 00:21:26,680 --> 00:21:30,680 な… なぜです?小官は ただ… 263 00:21:30,680 --> 00:21:33,250 卿は二重の罪を犯した 264 00:21:33,250 --> 00:21:35,550 まずカイザーのご情義に背き 265 00:21:35,550 --> 00:21:39,360 次にロイエンタール元帥の 信頼を裏切ったのだ 266 00:21:39,360 --> 00:21:42,960 卿が正確にロイエンタール元帥に 報告していれば 267 00:21:42,960 --> 00:21:46,230 この反乱は 未発に終わったかもしれぬのに 268 00:21:46,230 --> 00:21:48,700 卿は自分一人の小さな打算から 269 00:21:48,700 --> 00:21:52,440 上官に反逆の汚名を 着せてしまったのだぞ 270 00:21:52,440 --> 00:21:56,110 小官は ひとえにカイザーの 御ために よかれと思って 271 00:21:56,110 --> 00:21:58,040 事をなしたのです 272 00:21:58,040 --> 00:22:00,980 ロイエンタール元帥が 反逆したのは事実であり 273 00:22:00,980 --> 00:22:05,180 小官は これを敗北させるのに 貢献したではありませんか 274 00:22:05,180 --> 00:22:10,650 裏切りによって勝つことなど カイザーがお望みになると思うか 275 00:22:10,650 --> 00:22:15,990 いや そう思ったからこそ 卿はロイエンタール元帥を裏切ったのだな 276 00:22:15,990 --> 00:22:20,400 ネズミの知恵は 獅子の心を測ることはできぬ 277 00:22:20,400 --> 00:22:24,900 卿もついに 獅子の友と なり得ぬ男だったか 278 00:22:49,790 --> 00:22:53,060 メックリンガーは ロイエンタールの反乱が 279 00:22:53,060 --> 00:22:55,600 地球教残党の策謀に発し 280 00:22:55,600 --> 00:22:58,500 それに便乗した グリルパルツァーの野心によって 281 00:22:58,500 --> 00:23:02,210 取り返しのつかない結果を 生じたものだという真相を 282 00:23:02,210 --> 00:23:04,870 カイザー・ラインハルトや ミッターマイヤー元帥に 283 00:23:04,870 --> 00:23:09,710 語るべきか否か 判断に迷わざるを得なかった 284 00:23:09,710 --> 00:23:12,180 惑星ハイネセンに帰投した時 285 00:23:12,180 --> 00:23:14,680 ロイエンタール軍は数において 286 00:23:14,680 --> 00:23:20,060 艦艇4580隻 将兵65万8900名と 287 00:23:20,060 --> 00:23:23,760 進発した時の1割強にまで 減少している 288 00:23:23,760 --> 00:23:27,930 帰らぬ者の半数は戦死し 半数は降伏した 289 00:23:27,930 --> 00:23:33,570 惨敗ではあったが 帰投した部隊が 秩序を保ち 整然と行動したのは 290 00:23:33,570 --> 00:23:38,010 ロイエンタールの統率力の高さを 証明するものであったろう 291 00:23:38,010 --> 00:23:42,910 無論 それは落日の最後の余光と 言うべきものではあったが 292 00:23:49,690 --> 00:23:54,060 総督府の周囲には 4000名を超える将兵が集結し 293 00:23:54,060 --> 00:23:58,390 最後まで お供をすると 申しております 294 00:23:58,390 --> 00:24:02,270 そうか 世の中 案外バカが多いな 295 00:24:02,270 --> 00:24:05,770 そう言いつつ 冷静な理性の部分が 296 00:24:05,770 --> 00:24:08,070 自分の愚行に 忠実な部下たちを 297 00:24:08,070 --> 00:24:11,070 付き合わせることはできないと 告げていた 298 00:24:11,070 --> 00:24:15,780 宇宙暦800年 新帝国暦2年12月16日 299 00:24:15,780 --> 00:24:17,710 オスカー・フォン・ ロイエンタールは 300 00:24:17,710 --> 00:24:20,380 残された最後の仕事を やり遂げるため 301 00:24:20,380 --> 00:24:23,480 ノイエ・ラント総督府に帰ってきた 302 00:24:28,460 --> 00:24:33,760 彼にとっての一番 長い日は まだ始まったばかりであった 303 00:26:08,720 --> 00:26:12,500 治療を受けることを拒んだ ロイエンタールの命の炎は 304 00:26:12,500 --> 00:26:15,030 今 まさに燃え尽きようとしている 305 00:26:15,030 --> 00:26:19,640 だが ロイエンタールは最期まで ロイエンタールであり続けた 306 00:26:19,640 --> 00:26:22,470 それは 人は誰も死の瞬間まで 307 00:26:22,470 --> 00:26:25,740 1つの役割を 演じきらなければならないのだと 308 00:26:25,740 --> 00:26:28,180 主張するかのように 309 00:26:28,180 --> 00:26:33,980 次回「銀河英雄伝説」 第98話「終わりなき鎮魂曲」 310 00:26:33,980 --> 00:26:36,380 銀河の歴史が また1ページ