1 00:03:57,550 --> 00:04:01,921 宇宙歴800年 新帝国歴2年5月6日 2 00:04:01,921 --> 00:04:04,824 帝国軍の後退に合わせて ヤン艦隊も 3 00:04:04,824 --> 00:04:08,061 再びイゼルローン要塞に帰投した 4 00:04:08,061 --> 00:04:11,931 連戦に次ぐ連戦に 将兵の疲労と消耗は激しく 5 00:04:11,931 --> 00:04:14,300 ヤン艦隊の維持する優勢が 6 00:04:14,300 --> 00:04:18,972 薄氷の上のものであることは 誰の目にも明らかだった 7 00:04:18,972 --> 00:04:22,872 しかし その士気は 依然 衰えてはいない 8 00:04:24,777 --> 00:04:27,747 ああ 寝た寝た 9 00:04:27,747 --> 00:04:30,683 20時間は まとめて寝たかな 10 00:04:30,683 --> 00:04:34,754 信じられんことに 独りで寝たらしいじゃないか 11 00:04:34,754 --> 00:04:39,592 たまにはベッドが広いことを 確認するのも いいものですな 12 00:04:39,592 --> 00:04:43,296 棺桶にはダブルサイズは ないからな ん? 13 00:04:43,296 --> 00:04:47,496 今のフレーズはいいな 書き留めておこう 14 00:04:50,737 --> 00:04:53,640 一生分の勤勉さを あなたはここで 15 00:04:53,640 --> 00:04:56,576 使い果たしてしまいそうですな ヤン提督 16 00:04:56,576 --> 00:05:02,282 一生分はエル・ファシルの時に 使い果たしたんだけどな 17 00:05:02,282 --> 00:05:06,719 はあ それにしても 帝国軍の物量に 18 00:05:06,719 --> 00:05:10,056 勤勉さだけで対抗するには 限界がある 19 00:05:10,056 --> 00:05:12,959 そこをつかれて帝国軍に あの戦法に出られたら 20 00:05:12,959 --> 00:05:14,994 勝ち目はない 21 00:05:14,994 --> 00:05:17,563 そこで その前に こちらが攻勢に出て 22 00:05:17,563 --> 00:05:21,163 圧倒するしかない 何か質問は? 23 00:05:27,240 --> 00:05:31,140 直ちに出撃の用意を はっ! 24 00:05:42,655 --> 00:05:48,361 私も最近ようやく 艦隊運用に 自信が持てるようになりました 25 00:05:48,361 --> 00:05:51,864 この戦いが終わったら アッテンボロー中将にならって 26 00:05:51,864 --> 00:05:56,669 偉そうに本の一冊も 書いてみますかな 27 00:05:56,669 --> 00:05:58,669 では 28 00:06:06,679 --> 00:06:12,779 5月7日23時 ヤン艦隊は 再び全面的な攻勢に出た 29 00:06:25,164 --> 00:06:29,702 敵の一隊がカイザーの前に 壁を 作る形で立ちふさがっています 30 00:06:29,702 --> 00:06:33,639 ああ それは「鉄壁ミュラー」の 艦隊に違いない 31 00:06:33,639 --> 00:06:37,276 異名にふさわしく 主君を守ろうとしているのだ 32 00:06:37,276 --> 00:06:39,612 彼を部下に 持ったという一事だけで 33 00:06:39,612 --> 00:06:43,616 カイザー・ラインハルトの名は 後世に伝えられるだろうな 34 00:06:43,616 --> 00:06:47,420 ミュラーにせよ 死んだファーレンハイトやシュタインメッツにせよ 35 00:06:47,420 --> 00:06:51,224 別に専制政治に 命を懸けているわけではない 36 00:06:51,224 --> 00:06:55,695 ラインハルト・フォン・ローエングラムという 一個人に対する忠誠心のために 37 00:06:55,695 --> 00:07:00,166 命を捨てても 戦おうとしているわけか 38 00:07:00,166 --> 00:07:02,969 つまりは 人は人に従うのであって 39 00:07:02,969 --> 00:07:07,774 制度や理念に従うのではない ということかな 40 00:07:07,774 --> 00:07:12,612 だとしたらユリアンは結局は 私のために戦っているのだろうか 41 00:07:12,612 --> 00:07:17,150 それではいけない 戦う理由が 個人への忠誠心ではなく 42 00:07:17,150 --> 00:07:23,256 民主主義の思想と制度に対する 忠誠心であってほしいのだ 43 00:07:23,256 --> 00:07:25,191 いかん いかん 44 00:07:25,191 --> 00:07:28,795 元々 私はユリアンには 軍人になってほしくなかったんだ 45 00:07:28,795 --> 00:07:32,495 戦う理由を云々するのも 妙なものだ 46 00:07:35,268 --> 00:07:39,739 5月8日に入っても 両軍の混戦は続いている 47 00:07:39,739 --> 00:07:44,110 ミュラーの戦列参加は ヤンを一時的に後退させたものの 48 00:07:44,110 --> 00:07:47,313 戦局に劇的な変化は もたらさなかった 49 00:07:47,313 --> 00:07:51,317 これはバーミリオンの時と違い ヤンにとってミュラーの参戦は 50 00:07:51,317 --> 00:07:54,417 あらかじめ 織り込み済みであったことによる 51 00:07:57,557 --> 00:08:02,462 数的に著しく劣勢である ヤン艦隊は 回廊の地形を活用し 52 00:08:02,462 --> 00:08:05,898 機雷原や火力の集中によって 敵を分断し 53 00:08:05,898 --> 00:08:08,801 時間差をつけて 各個撃破していった 54 00:08:08,801 --> 00:08:13,272 ミュラーも いったん配置した兵力を 自在に移動させることができず 55 00:08:13,272 --> 00:08:18,511 延々と続く局地的戦闘に 耐えねばならなかった 56 00:08:18,511 --> 00:08:21,414 前後 左右 上下 いずれの方角を見ても 57 00:08:21,414 --> 00:08:24,383 味方の艦影で埋まっている にもかかわらず 58 00:08:24,383 --> 00:08:28,054 我が軍が劣勢であるのは どういうわけだ! 59 00:08:28,054 --> 00:08:32,558 それは小さいが 執拗な戦闘と移動の連続であった 60 00:08:32,558 --> 00:08:36,429 その激戦のさなか ミッターマイヤー元帥 戦死の報が 61 00:08:36,429 --> 00:08:39,129 大本営にもたらされる 62 00:08:41,267 --> 00:08:43,367 なっ… 63 00:08:49,008 --> 00:08:52,378 ベイオウルフより入電 「小官は悪運強く」 64 00:08:52,378 --> 00:08:54,313 「なお現世に足をとどめたり」 65 00:08:54,313 --> 00:08:58,217 「敵の砲火はヴァルハラの門扉を 打ち破るあたわず」 66 00:08:58,217 --> 00:09:01,217 ミッターマイヤー元帥 ご自身からの通信文です 67 00:09:05,758 --> 00:09:08,494 カイザー・ラインハルトが最終的な 68 00:09:08,494 --> 00:09:11,864 しかも すさまじい戦法を 実行に移すべく決意したのは 69 00:09:11,864 --> 00:09:13,900 この時である 70 00:09:13,900 --> 00:09:18,304 5月9日 戦いの中で開かれた 御前会議において 71 00:09:18,304 --> 00:09:20,540 そのカイザーの意思が示された 72 00:09:20,540 --> 00:09:24,010 まず戦死したシュタインメッツの 元帥昇進と 73 00:09:24,010 --> 00:09:25,945 ヒルダが中将待遇で 74 00:09:25,945 --> 00:09:29,845 大本営幕僚総監に 就任することが告げられた 75 00:09:31,751 --> 00:09:34,020 余はこれまで戦うにあたって 76 00:09:34,020 --> 00:09:37,890 受け身となって よき結果を 報われたことは一度もなかった 77 00:09:37,890 --> 00:09:42,061 それを忘れた時 軍神は余の怠惰を罰したもうた 78 00:09:42,061 --> 00:09:44,964 今回 いまだ勝利を得られぬ ゆえんである 79 00:09:44,964 --> 00:09:47,667 ヤン・ウェンリーは 狭隘な回廊の地形を利し 80 00:09:47,667 --> 00:09:51,671 我が軍に縦列編成を強いて 数の不利を補っている 81 00:09:51,671 --> 00:09:54,507 余はそれに対し 巧緻をもって報いんとしたが 82 00:09:54,507 --> 00:09:59,412 これは誤りであった 正面から 力をもって彼の抵抗を撃砕し 83 00:09:59,412 --> 00:10:02,481 彼を再び起つ あたわざらしむることこそ 84 00:10:02,481 --> 00:10:06,819 余と余の軍隊の 赴くべき道であろう 85 00:10:06,819 --> 00:10:10,723 ヤン・ウェンリーは宇宙の全てを 欲しているのではないと思います 86 00:10:10,723 --> 00:10:14,060 あえて申し上げますが 譲歩が必要であるとすれば 87 00:10:14,060 --> 00:10:19,332 それをなさる権利と責任は 陛下の方におありです 88 00:10:19,332 --> 00:10:23,569 フロイライン・マリーンドルフ あなたの言うことを聞いていると 89 00:10:23,569 --> 00:10:26,872 ヤン・ウェンリーを追い詰めて 窮鼠たらしめている責任は 90 00:10:26,872 --> 00:10:29,775 余にあると主張しているように 聞こえるが 91 00:10:29,775 --> 00:10:35,081 あ… はい そう申し上げております 92 00:10:35,081 --> 00:10:39,285 宇宙の支配者に対して そうも歯に衣を着せぬ者は 93 00:10:39,285 --> 00:10:42,855 この世では あなただけだな フロイライン 94 00:10:42,855 --> 00:10:46,225 あなたの勇気と率直さは 称賛に値するが 95 00:10:46,225 --> 00:10:50,425 余がいつも それを喜ぶと 思ってもらっては困る 96 00:10:55,601 --> 00:10:58,871 こうして回廊決戦の第2幕が 上がったのは 97 00:10:58,871 --> 00:11:01,240 5月10日のことである 98 00:11:01,240 --> 00:11:04,810 それは艦隊行動としては 単純なものであった 99 00:11:04,810 --> 00:11:08,214 縦列陣で突進し 集中砲火を浴びせ 100 00:11:08,214 --> 00:11:11,717 敵前回頭をしつつ なおも砲撃し 後退する 101 00:11:11,717 --> 00:11:15,321 第1陣が後退する時 第2陣が前進し 102 00:11:15,321 --> 00:11:18,224 同じことを 延々と繰り返すのである 103 00:11:18,224 --> 00:11:22,461 これは絶対的な数の差に ものを言わせた物量作戦であった 104 00:11:22,461 --> 00:11:26,632 ヤンが恐れていたのは まさに この作戦をとられることであった 105 00:11:26,632 --> 00:11:30,870 このままでは回復力に劣る我らに 勝ち目はありません 106 00:11:30,870 --> 00:11:34,173 ここは一時 イゼルローン要塞まで後退し 107 00:11:34,173 --> 00:11:39,011 トールハンマーをもって 敵の 波状攻撃に対抗すべきでしょう 108 00:11:39,011 --> 00:11:41,814 賛成 賛成! そうしたいところだが 109 00:11:41,814 --> 00:11:46,218 敵はミュラーだ イゼルローンの 攻め方は よく心得ている 110 00:11:46,218 --> 00:11:48,654 我々が後退すれば そこにつけ込んで 111 00:11:48,654 --> 00:11:50,589 急速前進してくるだろう 112 00:11:50,589 --> 00:11:54,126 並行追撃によって 混戦状態を作り出し 113 00:11:54,126 --> 00:11:57,496 トールハンマーを 使えなくする作戦か 114 00:11:57,496 --> 00:12:00,900 敵の攻撃 また来ます 応戦せよ 115 00:12:00,900 --> 00:12:04,904 第7宙域でデッシュ准将の部隊が 敵に半包囲されています 116 00:12:04,904 --> 00:12:08,541 司令部の高速艦を割いて 救援させろ 117 00:12:08,541 --> 00:12:11,477 まったく 作戦を考える暇も ありゃしない 118 00:12:11,477 --> 00:12:14,577 それも敵の狙いの一つだろうな 119 00:12:25,524 --> 00:12:28,794 エミール はい フロイライン 120 00:12:28,794 --> 00:12:31,664 陛下はお食事を お取りになったかしら? 121 00:12:31,664 --> 00:12:34,567 いえ 軽く手を おつけになられただけです 122 00:12:34,567 --> 00:12:38,537 そう… 何か他に 気づいたことはない? 123 00:12:38,537 --> 00:12:40,906 陛下のご体調についてですか? 124 00:12:40,906 --> 00:12:45,111 ええ ひょっとして少し熱が おありになるのではないかしら 125 00:12:45,111 --> 00:12:48,748 はい 私もそれを 心配申し上げているのですが 126 00:12:48,748 --> 00:12:51,517 でも それは単に戦いに臨まれて 127 00:12:51,517 --> 00:12:55,254 精神が高揚されていらっしゃる だけかもしれませんし 128 00:12:55,254 --> 00:12:57,923 陛下は何もおっしゃいませんから 129 00:12:57,923 --> 00:13:00,559 そう… とにかく 130 00:13:00,559 --> 00:13:03,659 あなたも特に気をつけていてね はい 131 00:13:09,268 --> 00:13:13,572 ミュラーの波状攻撃は 実に30時間にもおよんだが 132 00:13:13,572 --> 00:13:17,209 ついには彼自身も疲労し 損害も増大してきたところで 133 00:13:17,209 --> 00:13:19,845 ようやく後退した 134 00:13:19,845 --> 00:13:23,716 だが すかさず帝国軍の第2陣 アイゼナッハ艦隊が 135 00:13:23,716 --> 00:13:26,816 突出し 猛攻を加えてきた 136 00:13:28,888 --> 00:13:31,791 チッ 元気な奴らが出てきやがった 137 00:13:31,791 --> 00:13:34,693 敵だけがタッグマッチってのは 不公平だよな 138 00:13:34,693 --> 00:13:37,093 ここはいったん引け 139 00:13:46,772 --> 00:13:49,372 敵が側面に回り込みます 140 00:13:57,116 --> 00:13:59,518 このままでは敵の中に孤立します 141 00:13:59,518 --> 00:14:02,121 司令官は どうなさるおつもりですか 142 00:14:02,121 --> 00:14:06,091 心配するな 窮地に陥ったのは奴らの方さ 143 00:14:06,091 --> 00:14:09,391 退路を塞いで 袋だたきにしてやれ えっ? 144 00:14:19,538 --> 00:14:21,738 よし いけ! 145 00:14:31,984 --> 00:14:36,388 はっ 旗艦を後退させつつ 右翼部隊で敵を迎撃 146 00:14:36,388 --> 00:14:38,788 隊列を整えて隙を作るな 147 00:14:44,029 --> 00:14:47,066 閣下 当艦は危険を脱しましたが 148 00:14:47,066 --> 00:14:49,969 依然 我が艦隊は 敵の挟撃を受けており 149 00:14:49,969 --> 00:14:52,872 このままでは 損害が増すばかりです 150 00:14:52,872 --> 00:14:56,672 ここは一時 後退なさった方が よろしいかと存じますが 151 00:15:03,048 --> 00:15:08,687 アイゼナッハは後退に際して ことさら艦列に隙を作ってみせた 152 00:15:08,687 --> 00:15:11,423 むろんヤンは その誘いには乗らなかった 153 00:15:11,423 --> 00:15:16,762 一つには次の攻撃が来るまでに 武器 弾薬 食料 エネルギー 154 00:15:16,762 --> 00:15:22,201 医薬品の補給と負傷者の後送 更には戦線各所の兵力補充を 155 00:15:22,201 --> 00:15:25,001 やっておかねば ならなかったからである 156 00:15:36,849 --> 00:15:39,618 そろそろ限界だぞ ん… 157 00:15:39,618 --> 00:15:42,321 敵の第三波接近 158 00:15:42,321 --> 00:15:46,959 それはビューロー バイエルライン ジンツァー ドロイゼンといった 159 00:15:46,959 --> 00:15:50,429 ミッターマイヤー旗下の 提督たちの艦隊であった 160 00:15:50,429 --> 00:15:54,333 ミッターマイヤー自身は 旗艦ベイオウルフの損傷もあって 161 00:15:54,333 --> 00:15:57,703 カイザー・ラインハルトから 前線へ出ることを許されず 162 00:15:57,703 --> 00:16:00,239 代わって 部下たちに任せたのである 163 00:16:00,239 --> 00:16:02,174 ミッターマイヤー戦死の誤報に 164 00:16:02,174 --> 00:16:05,477 心胆を寒からしめられたことへの 怒りも手伝って 165 00:16:05,477 --> 00:16:08,380 その攻撃は激しかった 166 00:16:08,380 --> 00:16:13,085 だがヤン艦隊は この第三波の 攻撃も撃退してのけた 167 00:16:13,085 --> 00:16:17,523 それどころか5月14日23時には 防御から一転 168 00:16:17,523 --> 00:16:21,393 逆突出して 帝国軍を突き崩しにかかった 169 00:16:21,393 --> 00:16:25,264 このため第4次攻撃に出るべく 集結中だった 170 00:16:25,264 --> 00:16:29,134 シュワルツ・ランツェンレイターと 旧ファーレンハイト艦隊の連合部隊は 171 00:16:29,134 --> 00:16:33,672 機先を制され 一時は混乱した 172 00:16:33,672 --> 00:16:36,408 数が多ければ いいというものではない 173 00:16:36,408 --> 00:16:40,679 元のファーレンハイト艦隊の指揮は ホフマイスターに任せる 174 00:16:40,679 --> 00:16:44,216 我らは シュワルツ・ランツェンレイターのみで行動する 175 00:16:44,216 --> 00:16:46,685 混乱を収拾した ビッテンフェルトは 176 00:16:46,685 --> 00:16:49,888 自らの旗艦ケーニヒス・ ティーゲルを中心とした 177 00:16:49,888 --> 00:16:52,257 少数の部隊をもって突撃し 178 00:16:52,257 --> 00:16:56,095 ヤン艦隊の中枢部を 一気に突き崩そうとした 179 00:16:56,095 --> 00:16:58,998 敵は確実に こちらに迫ってきます 180 00:16:58,998 --> 00:17:02,401 さすがに ただの猪武者ではないな 181 00:17:02,401 --> 00:17:07,106 弾幕を張って攻撃を防ぎつつ 敵の攻勢を左翼方向にそらす 182 00:17:07,106 --> 00:17:10,976 その間に戦線を縮小し 左翼部隊への突進を中止して 183 00:17:10,976 --> 00:17:14,847 敵の側面を突かせる なるほど 184 00:17:14,847 --> 00:17:16,915 意外な計算違いだ 185 00:17:16,915 --> 00:17:20,052 ビッテンフェルトは緒戦の敗北に 萎縮するどころか 186 00:17:20,052 --> 00:17:22,752 かえって 士気が上がっているようだ 187 00:17:27,793 --> 00:17:31,263 メルカッツが率いる ヤン艦隊の左翼に側面を襲われた 188 00:17:31,263 --> 00:17:35,534 シュワルツ・ランツェンレイターは 完全に挟撃された形となる 189 00:17:35,534 --> 00:17:40,439 だがこの場合 攻撃する側より される側の方が はるかに強かった 190 00:17:40,439 --> 00:17:43,842 数を減らしているとはいえ 宇宙最強と言われる 191 00:17:43,842 --> 00:17:47,079 シュワルツ・ランツェンレイターの 最精鋭である 192 00:17:47,079 --> 00:17:52,284 しかも狭い回廊の中 数の少なさが指揮の統一を強化し 193 00:17:52,284 --> 00:17:55,688 その破壊力を遺憾なく発揮させた 194 00:17:55,688 --> 00:17:59,024 ひたすら撃ちまくれ エネルギーが尽きるまで撃って 195 00:17:59,024 --> 00:18:01,424 何としても奴らを抑えろ 196 00:18:03,862 --> 00:18:07,166 敵のもう一つの部隊との 連携が悪いようだ 197 00:18:07,166 --> 00:18:11,366 アッテンボローに向こうを攻撃させ 敵の指揮系統を圧迫させる 198 00:18:16,642 --> 00:18:20,479 閣下 味方が後退します このままでは戦列が伸びすぎ 199 00:18:20,479 --> 00:18:23,979 いかな我々でも 敵中に孤立を余儀なくされます 200 00:18:28,220 --> 00:18:30,689 閣下! 分かっておる! 201 00:18:30,689 --> 00:18:33,289 全艦 後退 202 00:18:39,832 --> 00:18:45,504 おのれ ヤン・ウェンリーめ またしても取り逃がしたか 203 00:18:45,504 --> 00:18:48,040 ヤンを討ち果たせなかった ビッテンフェルトは 204 00:18:48,040 --> 00:18:51,910 無念のほぞをかんだが 彼自身 気づかぬうちに 205 00:18:51,910 --> 00:18:55,781 ヤン艦隊に補いようのない 損害を与えていた 206 00:18:55,781 --> 00:18:58,383 シヴァが戻らない? 207 00:18:58,383 --> 00:19:00,352 撃沈を確認したのか? 208 00:19:00,352 --> 00:19:03,355 17時45分 通信は途絶しましたが 209 00:19:03,355 --> 00:19:08,060 戦艦アエリアが同時刻 シヴァの撃沈を確認したもよう 210 00:19:08,060 --> 00:19:11,930 フィッシャー提督は? 「脱出者はいない」とのことです 211 00:19:11,930 --> 00:19:13,866 なんということだ 212 00:19:13,866 --> 00:19:16,266 あの混戦の中で… 213 00:19:27,980 --> 00:19:29,948 まいったな 214 00:19:29,948 --> 00:19:33,852 うちの生きた航路図が 死んだ航路図になっちまった 215 00:19:33,852 --> 00:19:37,752 これから うっかり森へ ハイキングにも行けんぞ 216 00:19:41,293 --> 00:19:43,662 エドウィン・フィッシャー中将の 戦死は 217 00:19:43,662 --> 00:19:46,532 ヤン艦隊に深刻な打撃を与えた 218 00:19:46,532 --> 00:19:50,402 ヤンの不敗神話は その機略にヤン艦隊の運動が 219 00:19:50,402 --> 00:19:53,939 常に隙なく連動してきたことに 支えられている 220 00:19:53,939 --> 00:19:56,842 艦隊運用に関する フィッシャーの名人芸と 221 00:19:56,842 --> 00:20:00,712 その名人を発掘し 全権を委ねたヤンの度量とが 222 00:20:00,712 --> 00:20:03,148 完璧な コンビネーションを発揮して 223 00:20:03,148 --> 00:20:06,652 今日までの勝利を 維持し得てきたのである 224 00:20:06,652 --> 00:20:11,256 いうなればヤンは その片脚を失ったも同然であった 225 00:20:11,256 --> 00:20:13,759 「もはや長時間にわたって 帝国軍の猛攻を」 226 00:20:13,759 --> 00:20:19,398 「支えることはできないだろう」 ヤン自身が そう考えていた 227 00:20:19,398 --> 00:20:24,236 実際この時 帝国軍が 再度の全面攻勢を試みていれば 228 00:20:24,236 --> 00:20:29,942 ヤンはイゼルローン要塞に撤収せざるを 得なかったに違いない 229 00:20:29,942 --> 00:20:35,514 だが帝国軍は動かなかった むろん帝国軍も全能ではなく 230 00:20:35,514 --> 00:20:39,017 自分たちがヤン艦隊に 致命的な損害を与えたことを 231 00:20:39,017 --> 00:20:41,320 知りようも なかったからでもあるが 232 00:20:41,320 --> 00:20:47,559 それにもまして重大な事態が 帝国軍の内部で発生していた 233 00:20:47,559 --> 00:20:51,964 カイザー・ラインハルトの 発病である 234 00:20:51,964 --> 00:20:54,533 医師は何と見ているのです? 235 00:20:54,533 --> 00:20:58,337 明確な原因が分からず ただ過労だろうと 236 00:20:58,337 --> 00:21:01,437 陛下は休むということを ご存じないからな 237 00:21:04,977 --> 00:21:08,413 戦いは あの金髪の覇者が 生き続けるための 238 00:21:08,413 --> 00:21:11,283 不可欠の栄養素のようなものだ 239 00:21:11,283 --> 00:21:15,587 たびたびの発熱は その魂の無限なまでの欲求に 240 00:21:15,587 --> 00:21:18,687 肉体が 耐えかねているのではないか 241 00:21:20,726 --> 00:21:22,694 いずれにせよ ここはひとまず全軍を 242 00:21:22,694 --> 00:21:25,330 回廊の外に引き揚げるべきだろう 243 00:21:25,330 --> 00:21:29,268 むろん「皇帝陛下 不予」の事実は 一切 伏せたままでな 244 00:21:29,268 --> 00:21:32,037 そうだな それがよかろう 245 00:21:32,037 --> 00:21:35,741 しかし またしても ヤン・ウェンリーに勝てなかったか 246 00:21:35,741 --> 00:21:40,941 我らは宇宙を征服し得るも 一個人を征服するあたわざる 247 00:21:47,219 --> 00:21:51,089 5月17日 帝国軍は撤退を開始する 248 00:21:51,089 --> 00:21:55,761 200万の将兵と 2万4400隻の艦艇を失って 249 00:21:55,761 --> 00:22:00,999 ついにイゼルローン回廊からの 離脱を余儀なくされたのだった 250 00:22:00,999 --> 00:22:02,935 追撃なさいますか? 251 00:22:02,935 --> 00:22:05,971 いや つけいる隙がない 252 00:22:05,971 --> 00:22:10,175 特にしんがりの部隊は 例の「鉄壁ミュラー」の艦隊だ 253 00:22:10,175 --> 00:22:13,275 下手に手を出したら逆撃を食らう 254 00:22:15,714 --> 00:22:23,155 それに もう戦うだけの余力がない ここは我々も要塞に引き返そう 255 00:22:23,155 --> 00:22:27,526 ヤンは新たに機雷を敷設し直し 警戒態勢のまま 256 00:22:27,526 --> 00:22:30,926 イゼルローン要塞への 撤退を開始した 257 00:22:42,607 --> 00:22:44,643 フレデリカ 大丈夫かい? 258 00:22:44,643 --> 00:22:48,543 え?ええ 少しめまいがしただけ 259 00:22:50,716 --> 00:22:52,784 熱があるじゃないか 風邪かい? 260 00:22:52,784 --> 00:22:55,554 ごめんなさい でも大丈夫 261 00:22:55,554 --> 00:22:59,891 疲れがたまったんだろう ここは もういいから少し休みなさい 262 00:22:59,891 --> 00:23:02,928 でも… いや 休みたまえ 263 00:23:02,928 --> 00:23:04,928 命令だ 少佐 264 00:23:07,065 --> 00:23:09,468 はい そうさせていただきます 265 00:23:09,468 --> 00:23:12,804 副官の任務は ミンツ中尉に代行させる 266 00:23:12,804 --> 00:23:14,804 承知しました 267 00:23:17,642 --> 00:23:20,842 お願いね ユリアン 任せてください 268 00:23:23,181 --> 00:23:25,617 て… 帝国軍より入電 269 00:23:25,617 --> 00:23:28,653 カイザー・ラインハルトからの 通信文です 270 00:23:28,653 --> 00:23:31,453 彼は… 彼は… あ… 271 00:23:34,459 --> 00:23:37,529 カイザー・ラインハルトからの 通信文です 272 00:23:37,529 --> 00:23:41,229 彼は停戦と会談を求めています 273 00:23:48,707 --> 00:23:52,544 カイザー・ラインハルトからの 停戦と会見の申し込みに対して 274 00:23:52,544 --> 00:23:55,514 ヤン・ウェンリーは 即答をしなかった 275 00:23:55,514 --> 00:23:58,350 ことさら 思案を巡らした結果ではなく 276 00:23:58,350 --> 00:24:04,022 連日連戦の疲労から 心身の休養を 優先させたためである 277 00:24:04,022 --> 00:24:07,726 帝国軍への回答は どうなさいますか? 278 00:24:07,726 --> 00:24:12,164 脳細胞がミルクがゆになってて 考え事どころじゃない 279 00:24:12,164 --> 00:24:14,966 とにかく少し休ませてくれ 280 00:24:14,966 --> 00:24:18,566 ベッドが欲しい 女つきでなくていい 281 00:24:20,572 --> 00:24:24,572 起こした奴は反革命罪で銃殺 282 00:24:37,022 --> 00:24:39,458 ひどい ていたらくですな 283 00:24:39,458 --> 00:24:43,728 今 敵軍に攻撃されたら どうするつもりだ 284 00:24:43,728 --> 00:24:50,335 いや 私も今は無限の未来よりも 一夜の睡眠が欲しい心境だ 285 00:24:50,335 --> 00:24:54,206 はあ 286 00:24:54,206 --> 00:24:57,906 まあ 寝るのも死ぬのも 似たようなものか 287 00:25:11,089 --> 00:25:14,960 やれやれ こいつら全員を目覚めさせるには 288 00:25:14,960 --> 00:25:19,397 キスしてくれる王子様や王女様が 100万人ぐらい必要だな 289 00:25:19,397 --> 00:25:24,269 助力が必要ならキャゼルヌ中将 婦人兵に限って小生1人で 290 00:25:24,269 --> 00:25:29,269 全員を眠りの園から 呼び戻してさしあげるが? 291 00:26:06,811 --> 00:26:11,783 この時 帝国軍の攻撃があれば イゼルローン要塞とて 292 00:26:11,783 --> 00:26:15,420 難攻不落を誇っては いられなくなっただろう 293 00:26:15,420 --> 00:26:18,323 だが帝国軍も疲労の極にあり 294 00:26:18,323 --> 00:26:21,860 ここで攻勢に出ることは できなかった 295 00:26:21,860 --> 00:26:26,398 停戦を望まぬ者も カイザーの 意思に逆らうわけにはいかず 296 00:26:26,398 --> 00:26:29,701 戦意の高ぶりを抑えるほかに なかった 297 00:26:29,701 --> 00:26:32,070 カイザーが ヤンと交渉なさったところで 298 00:26:32,070 --> 00:26:36,775 どうせ決裂するに決まっている そうなったら即座に再戦だ 299 00:26:36,775 --> 00:26:39,444 いずれにせよ カイザー・ラインハルトによって 300 00:26:39,444 --> 00:26:41,446 停戦の意思は示された 301 00:26:41,446 --> 00:26:44,783 これによって 和平への道が開かれるのか 302 00:26:44,783 --> 00:26:47,352 このまま戦乱の時代が続くのか 303 00:26:47,352 --> 00:26:51,189 歴史は今 再び大きな岐路を 迎えていた 304 00:26:51,189 --> 00:26:54,092 宇宙歴800年 新帝国歴2年 305 00:26:54,092 --> 00:26:56,892 5月18日のことである 306 00:28:59,017 --> 00:29:03,355 その時 1つの星が 307 00:29:03,355 --> 00:29:08,193 銀河の中で瞬いて消えた 308 00:29:08,193 --> 00:29:14,366 その時 1つの時代が 終わりを告げた 309 00:29:14,366 --> 00:29:18,970 次回「銀河英雄伝説」第82話 310 00:29:18,970 --> 00:29:22,374 「魔術師 還らず」 311 00:29:22,374 --> 00:29:25,974 銀河の歴史が また1ページ 312 00:32:49,347 --> 00:32:53,818 宇宙暦800年 新帝国暦2年5月20日 313 00:32:53,818 --> 00:32:57,555 ようやく睡魔を満足させた ヤン艦隊の幕僚たちは 314 00:32:57,555 --> 00:33:00,058 カイザー・ラインハルトからの 申し入れについて 315 00:33:00,058 --> 00:33:02,958 討議できる状態になった 316 00:33:06,531 --> 00:33:10,134 最初にカイザー・ラインハルトを 回廊に引きずり込む 317 00:33:10,134 --> 00:33:13,538 次に会談のテーブルに 引きずり出す 318 00:33:13,538 --> 00:33:15,974 これが最初からの 狙いだったわけだから 319 00:33:15,974 --> 00:33:18,876 会談の申し入れを拒む理由はない 320 00:33:18,876 --> 00:33:22,180 しかし帝国軍が 我々に勝ち得ないからといって 321 00:33:22,180 --> 00:33:24,916 即 和平を求めるとも思えない 322 00:33:24,916 --> 00:33:28,419 ここは やはり罠である可能性も 考えるべきだろう 323 00:33:28,419 --> 00:33:30,955 講和をエサに ヤン提督をおびき出して 324 00:33:30,955 --> 00:33:33,257 謀殺するつもりではないか? 325 00:33:33,257 --> 00:33:36,060 いや その可能性は薄いと思う 326 00:33:36,060 --> 00:33:37,996 ん? 327 00:33:37,996 --> 00:33:40,231 理由はカイザーの人となりだ 328 00:33:40,231 --> 00:33:42,166 あのプライドの高い金髪の坊やが 329 00:33:42,166 --> 00:33:44,736 お得意の戦争で 勝てないからといって 330 00:33:44,736 --> 00:33:49,236 謀殺という手段に訴えるとは 想像しにくいな 331 00:33:52,343 --> 00:33:55,179 カイザーがそうでも その幕僚たちの中には 332 00:33:55,179 --> 00:33:58,383 いささか異なる価値観を 持った連中もいるでしょうよ 333 00:33:58,383 --> 00:34:01,719 多量の流血を見て しかも勝ち得なかった 334 00:34:01,719 --> 00:34:05,223 カイザーの戦争の天才としての 面目は失墜したはずで 335 00:34:05,223 --> 00:34:08,593 忠誠心過多 判断力過少の奴らが 336 00:34:08,593 --> 00:34:14,032 何か試みるということも あり得ると思いますがね 337 00:34:14,032 --> 00:34:17,568 いずれにしても 提督は会見に出向かれるだろう 338 00:34:17,568 --> 00:34:20,505 その時 僕も同行できるだろうか 339 00:34:20,505 --> 00:34:23,508 それにしても 戦いを好むカイザーが 340 00:34:23,508 --> 00:34:27,311 なぜ急に会見を 申し込む気になったのだろう 341 00:34:27,311 --> 00:34:31,215 ラインハルトが突然 ヤンとの会見を申し込んだことは 342 00:34:31,215 --> 00:34:34,919 帝国軍の中でも 驚きをもって迎えられた 343 00:34:34,919 --> 00:34:37,955 再三にわたり 今回の親征に反対していた 344 00:34:37,955 --> 00:34:40,658 ヒルデガルド・フォン・ マリーンドルフにしても 345 00:34:40,658 --> 00:34:45,263 そうした事態を期待してはいたが 予測してはいなかったのである 346 00:34:45,263 --> 00:34:48,166 あれほど正面から 軍事力を衝突させて 347 00:34:48,166 --> 00:34:51,502 ヤンを膝下に ねじ伏せることに 固執されたのに 348 00:34:51,502 --> 00:34:53,471 まさか発熱されたことによって 349 00:34:53,471 --> 00:34:57,141 弱気になられたわけでも あるまいし 350 00:34:57,141 --> 00:34:59,841 キルヒアイスが いさめに来たのだ 351 00:35:01,879 --> 00:35:04,782 キルヒアイスが言ったのだ 352 00:35:04,782 --> 00:35:07,685 「もう これ以上 ヤン・ウェンリーと争うのは」 353 00:35:07,685 --> 00:35:10,521 「およしください」と フッ 354 00:35:10,521 --> 00:35:13,521 あいつは死んでまで俺に意見する 355 00:35:16,327 --> 00:35:20,198 分かったよ キルヒアイス お前はいつもそうだ 356 00:35:20,198 --> 00:35:23,034 俺より たった2ヵ月 早く生まれただけなのに 357 00:35:23,034 --> 00:35:26,404 年上ぶって いつも俺のケンカを止める 358 00:35:26,404 --> 00:35:29,240 今の俺は お前より年上なんだぞ 359 00:35:29,240 --> 00:35:31,876 お前は年を取らないからな 360 00:35:31,876 --> 00:35:36,748 だけど分かった ヤン・ウェンリーと話し合ってみよう 361 00:35:36,748 --> 00:35:39,951 あくまで話し合ってみるだけだ 362 00:35:39,951 --> 00:35:43,251 決裂しないとは約束できないぞ 363 00:35:45,256 --> 00:35:48,292 結局 誰にもできなかったことを 364 00:35:48,292 --> 00:35:52,163 死者の霊だけが可能にしたのね 365 00:35:52,163 --> 00:35:54,363 でも それでは… 366 00:35:56,534 --> 00:35:58,536 それでもビッテンフェルトなどは 367 00:35:58,536 --> 00:36:01,706 決裂と決まるまでは 手を出さんだろうが 368 00:36:01,706 --> 00:36:04,542 ファーレンハイトとシュタインメッツの 部下たちの中には 369 00:36:04,542 --> 00:36:07,945 上官の敵を討ちたがっている者が 多くてな 370 00:36:07,945 --> 00:36:10,581 抑えるのに苦労をする 371 00:36:10,581 --> 00:36:13,217 何も敵を倒すばかりが策でもない 372 00:36:13,217 --> 00:36:16,687 イゼルローン回廊に 封じ込めてしまえばいいのだ 373 00:36:16,687 --> 00:36:20,591 連中がヤン・ウェンリー一人の才能と 人望によって統一されている以上 374 00:36:20,591 --> 00:36:22,593 そのまま気長に待って 375 00:36:22,593 --> 00:36:27,365 ヤンが老いて死ぬのを待つという 方法すら取り得るではないか 376 00:36:27,365 --> 00:36:30,301 だが その意味では帝国も同じか 377 00:36:30,301 --> 00:36:33,504 カイザーがお倒れになれば 指導者を失う 378 00:36:33,504 --> 00:36:36,774 ヤン・ウェンリーの基本戦略も そこにあるわけだが 379 00:36:36,774 --> 00:36:40,174 その前に まさか ご病気になられるとはな 380 00:36:42,180 --> 00:36:44,949 医者どもは 単なる過労だと言い立てるが… 381 00:36:44,949 --> 00:36:49,449 カイザーは 病で倒れるような方ではない 382 00:36:51,455 --> 00:36:55,459 カイザー・ラインハルトの武人と しての矜持は信用し得るとしても 383 00:36:55,459 --> 00:36:58,696 新帝国軍全てが ミッターマイヤー元帥のように 384 00:36:58,696 --> 00:37:01,032 信義の人というわけではあるまい 385 00:37:01,032 --> 00:37:05,403 謀殺というより 戦死した将兵の 復讐を図る者の暴発が 386 00:37:05,403 --> 00:37:08,005 抑えきれないということも 考え得る 387 00:37:08,005 --> 00:37:10,074 でしたら まず僭越ですが 388 00:37:10,074 --> 00:37:13,945 僕が提督の代理として カイザー・ラインハルトの元へ赴きます 389 00:37:13,945 --> 00:37:18,082 そして細部まで 条件やら提案やらを聞いてきて 390 00:37:18,082 --> 00:37:21,786 改めて提督が会談の場へ いらっしゃれば よろしいでしょう 391 00:37:21,786 --> 00:37:24,455 いや それはダメだねユリアン 392 00:37:24,455 --> 00:37:27,491 対等の立場で会談を求めてきた カイザーに対して 393 00:37:27,491 --> 00:37:29,727 礼を失することになる 394 00:37:29,727 --> 00:37:32,296 もし それでカイザーが感情を害し 395 00:37:32,296 --> 00:37:34,966 会談の要望を 捨てることにでもなれば 396 00:37:34,966 --> 00:37:38,569 和平の機会は永遠に 失われてしまうかもしれない 397 00:37:38,569 --> 00:37:42,373 そして今 帝国軍と 再び正面から戦えば 398 00:37:42,373 --> 00:37:44,642 まず勝算はない 399 00:37:44,642 --> 00:37:48,846 そうだな 将兵の疲労も 回復してはいないし 400 00:37:48,846 --> 00:37:50,815 第一 イゼルローンの生産規模では 401 00:37:50,815 --> 00:37:53,684 補給物資を調えるのに 時間がかかる 402 00:37:53,684 --> 00:37:57,555 更に決定的なのは 戦死者の 補充がきかないってことだ 403 00:37:57,555 --> 00:38:02,360 まして我々は フィッシャー中将を失った 404 00:38:02,360 --> 00:38:04,996 作戦を立てるだけでは勝てない 405 00:38:04,996 --> 00:38:09,533 それを完全に実行する能力が 艦隊になくては どうしようもない 406 00:38:09,533 --> 00:38:15,172 ここで会談の申し入れを 拒否したら自殺行為だよ 407 00:38:15,172 --> 00:38:18,843 まあ いいだろう カイザーから 会談を申し込ませたことは 408 00:38:18,843 --> 00:38:21,746 我々の実質的な勝利を意味する 409 00:38:21,746 --> 00:38:24,548 それに勇気づけられて フェザーンや旧同盟領で 410 00:38:24,548 --> 00:38:27,351 反帝国のゲリラ活動でも 起きてくれれば 411 00:38:27,351 --> 00:38:29,887 我々の立場は更に有利になる 412 00:38:29,887 --> 00:38:32,687 過剰な期待は禁物だがな 413 00:38:35,092 --> 00:38:40,431 さて そこで ヤンと同行する随員だが 414 00:38:40,431 --> 00:38:44,135 副官でもあるヤン夫人は 当然 同行するべきところだが 415 00:38:44,135 --> 00:38:46,070 あいにく風邪を引き込んでいて 416 00:38:46,070 --> 00:38:49,407 今日の会議にも 出られないくらいだからな 417 00:38:49,407 --> 00:38:53,110 かくいう俺も戦力の補充に 専念せねばならんから 418 00:38:53,110 --> 00:38:55,179 今回は遠慮しておく 419 00:38:55,179 --> 00:38:59,216 万が一に備えて やはり 優秀な護衛が必要でしょうな 420 00:38:59,216 --> 00:39:01,185 貴官はダメだ こんな時に 421 00:39:01,185 --> 00:39:04,689 要塞防御指揮官が 留守にしてどうする 422 00:39:04,689 --> 00:39:08,626 あの… 小官は? 423 00:39:08,626 --> 00:39:13,864 お前さんはヤンがいない間の 艦隊を預かる責任があるだろう 424 00:39:13,864 --> 00:39:18,402 うんうん それなら 責任のない小官が 425 00:39:18,402 --> 00:39:23,140 間違っても空戦の機会はないと 思うから 中佐の出番はないよ 426 00:39:23,140 --> 00:39:26,010 ヒヒヒ… 427 00:39:26,010 --> 00:39:28,412 ここは やはり常識豊かな者が… 428 00:39:28,412 --> 00:39:31,682 残って お目付け役を していただくということで 429 00:39:31,682 --> 00:39:35,082 司令部からは 小官が同行しましょう 430 00:39:38,422 --> 00:39:42,226 結局 高級士官の随員は 3名だけであった 431 00:39:42,226 --> 00:39:44,662 副参謀長のパトリチェフ少将 432 00:39:44,662 --> 00:39:47,365 ローゼンリッターの ブルームハルト中佐 433 00:39:47,365 --> 00:39:50,768 かつてビュコック元帥の 副官であったスール少佐である 434 00:39:50,768 --> 00:39:52,703 ブルームハルトは護衛役 435 00:39:52,703 --> 00:39:56,540 スールはビュコックじいさんの 代理として選ばれたのさ 436 00:39:56,540 --> 00:39:58,542 パトリチェフは? 437 00:39:58,542 --> 00:40:01,846 あれは引き立て役 それ以外に 何があるっていうんだよ 438 00:40:01,846 --> 00:40:05,082 引き立て役なら お前さんでも よかったじゃないか 439 00:40:05,082 --> 00:40:07,985 ケッ どうせ俺は トラブルメーカーですからね 440 00:40:07,985 --> 00:40:11,922 それにしても意外だったのは ユリアンを連れていかないことだな 441 00:40:11,922 --> 00:40:14,558 ユリアンを連れていったら どっちが随員だか 442 00:40:14,558 --> 00:40:18,658 分からなくなるからだろう ハハハ… 443 00:40:21,332 --> 00:40:24,769 ユリアン 留守を頼むよ 444 00:40:24,769 --> 00:40:28,305 「お任せください」と 申し上げたいところですけど 445 00:40:28,305 --> 00:40:30,808 僕はお供できないのが残念です 446 00:40:30,808 --> 00:40:35,679 僕ではお役に立てませんか? パトリチェフ少将より 447 00:40:35,679 --> 00:40:38,082 フフッ バカだな 448 00:40:38,082 --> 00:40:40,985 私は ずっと お前を頼りにしてきたよ 449 00:40:40,985 --> 00:40:44,388 6年前 お前が体より 大きなトランクを引きずって 450 00:40:44,388 --> 00:40:48,793 私の家に来た時から ずっと頼りにしてきたさ 451 00:40:48,793 --> 00:40:51,193 ありがとうございます でも… 452 00:40:53,164 --> 00:40:56,967 私が行けないのだったら 代わりにお前に行ってもらうよ 453 00:40:56,967 --> 00:41:00,337 私がいるから私は行く それだけのことさ 454 00:41:00,337 --> 00:41:03,941 はい とにかく吉報をお待ちします お気をつけて 455 00:41:03,941 --> 00:41:06,577 うん ところでユリアン はい? 456 00:41:06,577 --> 00:41:08,846 正直なところ キャゼルヌの娘と 457 00:41:08,846 --> 00:41:11,749 シェーンコップの娘と どっちが好みなんだ? 458 00:41:11,749 --> 00:41:16,454 お前の決断次第で 私も覚悟を 決めなくちゃならんからな 459 00:41:16,454 --> 00:41:18,923 提督! ヒュー! 460 00:41:18,923 --> 00:41:22,293 ハハハ… 461 00:41:22,293 --> 00:41:27,131 この時期 遠くフェザーンにある 軍務尚書オーベルシュタイン元帥から 462 00:41:27,131 --> 00:41:31,001 1つの提案がラインハルトの元に 具申されてきた 463 00:41:31,001 --> 00:41:33,370 それは和平提案を装って 464 00:41:33,370 --> 00:41:35,973 ヤン・ウェンリーを イゼルローンからおびき出すという 465 00:41:35,973 --> 00:41:37,908 ありがちな謀略であったが 466 00:41:37,908 --> 00:41:39,910 更に辛辣だったのは 467 00:41:39,910 --> 00:41:42,513 ただヤンを呼びつけても 来ないであろうから 468 00:41:42,513 --> 00:41:48,152 重臣を誰か1人 使者の名目で 人質に出すという点であった 469 00:41:48,152 --> 00:41:51,188 油断したヤンが帝国軍の元に やってきたところを殺して 470 00:41:51,188 --> 00:41:53,324 後の憂いを断つ 471 00:41:53,324 --> 00:41:56,227 当然 人質となった者は ヤンの部下たちによって 472 00:41:56,227 --> 00:41:58,162 殺害されるであろうから 473 00:41:58,162 --> 00:42:02,633 その報復を名目として 指導者なきヤン一党を制圧すれば 474 00:42:02,633 --> 00:42:06,504 全宇宙はローエングラム王朝の もとに統一される 475 00:42:06,504 --> 00:42:08,939 だが犠牲となることを承知で 476 00:42:08,939 --> 00:42:12,810 人質になりにいく重臣が いるだろうか 477 00:42:12,810 --> 00:42:18,516 使者として他に候補者なき場合は 臣が その任に当たりましょう 478 00:42:18,516 --> 00:42:21,485 だが なぜか 賞賛する気にはなれんな 479 00:42:21,485 --> 00:42:23,787 あのオーベルシュタインと 無理心中などという 480 00:42:23,787 --> 00:42:25,723 死に方をさせられたのでは 481 00:42:25,723 --> 00:42:29,193 ヤン・ウェンリーも 浮かばれんだろうよ 482 00:42:29,193 --> 00:42:33,597 第一 奴が人質になったところで ヤンが信用するものか 483 00:42:33,597 --> 00:42:37,201 いや いっそ奴のやりたいように させてやればよいのさ 484 00:42:37,201 --> 00:42:41,539 ただしオーベルシュタインが ヤンの一党に殺害されたあと 485 00:42:41,539 --> 00:42:45,075 俺たちが その復讐を してやる義務もないはずだ 486 00:42:45,075 --> 00:42:47,578 そのとおりだ ヤン・ウェンリーよりも 487 00:42:47,578 --> 00:42:50,881 むしろ あのオーベルシュタインが いなければ 宇宙は平和 488 00:42:50,881 --> 00:42:52,816 ローエングラム王朝も安泰 489 00:42:52,816 --> 00:42:56,820 万事めでたしめでたしと いうものさ 490 00:42:56,820 --> 00:43:00,090 いずれにせよ このような不名誉な提案を 491 00:43:00,090 --> 00:43:02,993 陛下がお取り上げにならなくて よかったというものだな 492 00:43:02,993 --> 00:43:05,396 うむ 493 00:43:05,396 --> 00:43:08,232 5月25日 ヤン・ウェンリーは 494 00:43:08,232 --> 00:43:11,468 カイザー・ラインハルトとの 2度目の会談に応じるため 495 00:43:11,468 --> 00:43:13,804 イゼルローン要塞を離れる 496 00:43:13,804 --> 00:43:16,240 ユリシーズじゃないんですか? 497 00:43:16,240 --> 00:43:18,175 戦艦で行くのも剣呑だし 498 00:43:18,175 --> 00:43:20,778 レダⅡは2年前に 査問会に呼びつけられた時に 499 00:43:20,778 --> 00:43:22,713 乗っていった船だ 500 00:43:22,713 --> 00:43:26,383 まあ とにかくあの時は 無事に帰ってこられたのだから 501 00:43:26,383 --> 00:43:28,583 縁起としては悪くないだろ 502 00:43:30,588 --> 00:43:32,656 なんですか あの団体さんは 503 00:43:32,656 --> 00:43:35,226 革命政府の代表団だ 504 00:43:35,226 --> 00:43:37,995 政府としては 交渉の主導権を握りたいらしい 505 00:43:37,995 --> 00:43:41,031 あきれた 何を勘違いしてるんだか 506 00:43:41,031 --> 00:43:43,701 今回の会談は カイザー・ラインハルトが 507 00:43:43,701 --> 00:43:46,503 ヤン提督に個人的に 申し込んだようなもので 508 00:43:46,503 --> 00:43:50,507 革命政府なんか カイザーの眼中にないでしょうに 509 00:43:50,507 --> 00:43:55,145 だがな 事が政治的な話になれば ヤンには交渉権限はない 510 00:43:55,145 --> 00:43:57,548 これは原則的な事実だ 511 00:43:57,548 --> 00:44:00,417 それに政府に断りなく 会談に応じてしまったことを 512 00:44:00,417 --> 00:44:04,255 ヤンが気に病んでいてな なるべく 政府の顔を立てたいんだろ 513 00:44:04,255 --> 00:44:07,491 こちらの随員を最小限にしたのも そのためさ 514 00:44:07,491 --> 00:44:09,891 やれやれ いつもながら… 515 00:44:16,600 --> 00:44:20,471 フレデリカ ちょっと 宇宙一の美男子に会ってくるよ 516 00:44:20,471 --> 00:44:23,974 2週間ぐらいで帰ってくる 気をつけて行ってらしてね 517 00:44:23,974 --> 00:44:25,909 あ ちょっと… 髪が乱れてるわ 518 00:44:25,909 --> 00:44:28,479 ああ… いいよ そんなこと 519 00:44:28,479 --> 00:44:33,779 ダメです 宇宙で2番目の 美男子にお会いになるんだから 520 00:44:38,856 --> 00:44:40,856 それじゃ 521 00:44:48,632 --> 00:44:50,768 バイバイ 522 00:44:50,768 --> 00:44:53,103 ねえ ママ 523 00:44:53,103 --> 00:44:56,503 ママとパパも あんなことしたことある? 524 00:44:59,009 --> 00:45:01,145 むろん ありますとも 525 00:45:01,145 --> 00:45:04,048 今はしないのね? いい?シャルロット 526 00:45:04,048 --> 00:45:05,983 あなたは1年生の時に 教わったことを 527 00:45:05,983 --> 00:45:08,519 4年生になっても習おうとは 思わないでしょ? 528 00:45:08,519 --> 00:45:10,619 それと同じよ 529 00:45:16,293 --> 00:45:19,596 こうしてユリアンはヤンと別れた 530 00:45:19,596 --> 00:45:23,267 後日 どれほどユリアンは 苦悩したことだろう 531 00:45:23,267 --> 00:45:26,170 ラインハルトという太陽を 直視したために 532 00:45:26,170 --> 00:45:29,270 他の星の存在に 気づかなかったのである 533 00:45:32,343 --> 00:45:36,613 ヤンの委託を受けてフェザーン方面を 駆け回っていたボリス・コーネフが 534 00:45:36,613 --> 00:45:40,117 イゼルローンとの交信可能宙域まで たどり着いたのは 535 00:45:40,117 --> 00:45:42,986 ヤンが要塞を出立した 3日後のことである 536 00:45:42,986 --> 00:45:45,689 ヤンはまだ生きてるか? 537 00:45:45,689 --> 00:45:49,560 お前さんの冗談が水準に 達していたことは一度もないが 538 00:45:49,560 --> 00:45:52,796 今度のときたら 海溝の底に沈んでいるな 539 00:45:52,796 --> 00:45:54,732 あいにくと死に神は バカンス中らしくて 540 00:45:54,732 --> 00:45:57,167 元帥は のうのうと生きているよ 541 00:45:57,167 --> 00:45:59,636 冗談を言っている場合じゃない! 542 00:45:59,636 --> 00:46:02,072 精神病院を脱走した アンドリュー・フォークが 543 00:46:02,072 --> 00:46:04,842 ヤンの暗殺を企てて こっちに向かったんだ 544 00:46:04,842 --> 00:46:06,842 何! 545 00:46:08,712 --> 00:46:11,081 アンドリュー・フォークの低能め 546 00:46:11,081 --> 00:46:15,719 4年前にアムリッツァで 2000万人殺したくせに まだ不足か 547 00:46:15,719 --> 00:46:20,591 殺したければ自分を殺せ それが文明と環境のためだ 548 00:46:20,591 --> 00:46:24,294 奴にとっては生涯かけた 大事業なのだろうさ 549 00:46:24,294 --> 00:46:27,197 ヤン・ウェンリーを 凌駕するというのはな 550 00:46:27,197 --> 00:46:31,101 実績で及ばなければ 当の競争相手を殺すという境地に 551 00:46:31,101 --> 00:46:33,103 ようやく達したわけだ 552 00:46:33,103 --> 00:46:35,906 これはフォーク一人の 策謀でしょうか 553 00:46:35,906 --> 00:46:39,543 何者かが 彼を自由にしたのだとすれば… 554 00:46:39,543 --> 00:46:43,847 すぐにヤン提督を追いかけて 連れ戻そう 万事それからだ 555 00:46:43,847 --> 00:46:47,317 多数で追うと 帝国軍に要らぬ 疑念を持たせることもあるから 556 00:46:47,317 --> 00:46:49,820 少数でいい 557 00:46:49,820 --> 00:46:52,189 こうして混乱を収拾し得ぬまま 558 00:46:52,189 --> 00:46:55,926 6隻の戦艦がヤンを追って イゼルローンを発進した 559 00:46:55,926 --> 00:46:58,929 事は内密にな 特に… 560 00:46:58,929 --> 00:47:02,433 病床のヤン夫人には 知られないように注意しろ 561 00:47:02,433 --> 00:47:04,701 はっ! 562 00:47:04,701 --> 00:47:06,701 頼むぞ 563 00:47:13,043 --> 00:47:14,978 提督 564 00:47:14,978 --> 00:47:18,615 5月31日 23時50分 565 00:47:18,615 --> 00:47:21,018 ロムスキーらとの 食事を済ませたヤンは 566 00:47:21,018 --> 00:47:24,521 就寝までのひと時を 三次元チェスで過ごしていた 567 00:47:24,521 --> 00:47:28,292 チェックメイト ああ またやられた 568 00:47:28,292 --> 00:47:32,029 我ながら こんなに弱いとは 思わなんだ 569 00:47:32,029 --> 00:47:34,932 ユリアン どうしているか 570 00:47:34,932 --> 00:47:38,602 イゼルローン要塞との連絡は 途絶したままか? 571 00:47:38,602 --> 00:47:41,972 はっ 電磁嵐の影響だけでも ないようで 572 00:47:41,972 --> 00:47:45,843 帝国軍が戦闘中にジャマーでも まいたのでしょうか 573 00:47:45,843 --> 00:47:48,178 うーん 574 00:47:48,178 --> 00:47:52,182 さて気分がよくなったところで 今夜はもう休むとするか 575 00:47:52,182 --> 00:47:54,618 勝ち逃げですか!あ あの… 576 00:47:54,618 --> 00:47:57,354 明晩にでも リターンマッチをお願いしますよ 577 00:47:57,354 --> 00:48:00,954 いいとも また もんでやるよ じゃ 578 00:48:02,893 --> 00:48:07,664 あの噂は本当だったか 何がです? 579 00:48:07,664 --> 00:48:09,733 今回の随員の人選 580 00:48:09,733 --> 00:48:13,370 実はヤン提督が三次元チェスで 勝てそうな相手だけを 581 00:48:13,370 --> 00:48:16,670 選んだという あっ?あ… 582 00:48:31,755 --> 00:48:34,224 艦長 帝国軍より入電です 583 00:48:34,224 --> 00:48:36,324 ん? 584 00:48:42,299 --> 00:48:45,269 閣下 お休みのところ 申し訳ありません 585 00:48:45,269 --> 00:48:49,706 帝国軍より入電で 元同盟軍准将アンドリュー・フォークが 586 00:48:49,706 --> 00:48:52,142 収容先の精神病院を脱走 587 00:48:52,142 --> 00:48:55,646 閣下の暗殺を謀って 武装商船を強奪し 588 00:48:55,646 --> 00:49:00,017 この宙域に向かっているとの ことです 589 00:49:00,017 --> 00:49:04,617 閣下? すぐ行く 詳しい話はそちらで 590 00:49:13,130 --> 00:49:15,699 警戒態勢を発令しました 591 00:49:15,699 --> 00:49:18,535 帝国軍からは その後 当方の護衛のために 592 00:49:18,535 --> 00:49:21,471 駆逐艦2隻を派遣したとの 連絡がありましたが 593 00:49:21,471 --> 00:49:25,309 なにぶん通信状態が 芳しくありませんので… 594 00:49:25,309 --> 00:49:29,513 ああ 導眠剤を飲んだせいで 眠くてね 595 00:49:29,513 --> 00:49:32,316 レーダーに反応! 警告のあった武装商船のようです 596 00:49:32,316 --> 00:49:34,316 戦闘用意 597 00:49:38,989 --> 00:49:40,924 撃て! 598 00:49:40,924 --> 00:49:43,293 応戦しろ 主砲 発射用意 599 00:49:43,293 --> 00:49:46,096 武装商船の後方に2隻の帝国艦 600 00:49:46,096 --> 00:49:48,096 何? 601 00:49:51,501 --> 00:49:54,701 おお! 帝国艦が発砲 602 00:49:58,976 --> 00:50:00,976 なぜだ! 603 00:50:05,616 --> 00:50:07,584 帝国艦より入電! 604 00:50:07,584 --> 00:50:09,586 どうします? 605 00:50:09,586 --> 00:50:12,089 よし つなげ 606 00:50:12,089 --> 00:50:15,292 テロリストは処理しました ご安心いただきたい 607 00:50:15,292 --> 00:50:19,129 ついては 我々が閣下を カイザーの元へご案内するにつき 608 00:50:19,129 --> 00:50:21,999 ぜひ直接のご挨拶を させていただきたいのですが 609 00:50:21,999 --> 00:50:24,901 我々の代表はロムスキー議長だ 610 00:50:24,901 --> 00:50:27,537 議長のご判断に従う 611 00:50:27,537 --> 00:50:31,942 ロムスキーの判断は 紳士としての 節度にかなうものだった 612 00:50:31,942 --> 00:50:36,780 すなわち相手の申し出を受け 接舷を許可したのである 613 00:50:36,780 --> 00:50:40,050 アンドリュー・フォークがね 614 00:50:40,050 --> 00:50:42,786 陰気で尊大で嫌な野郎でしたな 615 00:50:42,786 --> 00:50:44,721 秀才だったのですが 616 00:50:44,721 --> 00:50:48,392 現実のほうが彼に 歩み寄ってくれなかったのですな 617 00:50:48,392 --> 00:50:50,927 方程式や公式で 解決できる問題なら 618 00:50:50,927 --> 00:50:53,630 手際よく片づけたに 違いありませんが 619 00:50:53,630 --> 00:50:56,533 マニュアルのない世界では 生きられなかったらしい 620 00:50:56,533 --> 00:51:00,233 わざわざ接舷する必要が ありますかね 621 00:51:04,975 --> 00:51:07,878 ヤン提督は? 待機させております 622 00:51:07,878 --> 00:51:11,181 今回のことでも 独断専行が目につきますので 623 00:51:11,181 --> 00:51:15,619 ここは外交 渉外の優先権は 我々 政府にあることを 624 00:51:15,619 --> 00:51:18,088 はっきりさせておくべきだと 思いまして 625 00:51:18,088 --> 00:51:20,088 うーむ 626 00:51:25,762 --> 00:51:28,765 いないぞ 気づかれたか? 627 00:51:28,765 --> 00:51:31,568 ヤン・ウェンリーはどこにいる 628 00:51:31,568 --> 00:51:34,971 あなた方が何を求めているのかは 知らないが 629 00:51:34,971 --> 00:51:37,974 銃を突きつけるとは非礼でしょう 630 00:51:37,974 --> 00:51:40,174 まず銃をしまいなさい 631 00:51:51,254 --> 00:51:56,154 慌てるな!奴らの後を追えば ヤン・ウェンリーの元へたどり着ける 632 00:52:01,898 --> 00:52:04,498 おう… うわわ… 633 00:52:09,272 --> 00:52:11,972 伏せててください!提督 634 00:52:20,584 --> 00:52:23,284 逃げてください 提督! 提督! 635 00:52:33,163 --> 00:52:35,163 うわあああ! 636 00:52:43,874 --> 00:52:45,874 うっ!うう… 637 00:52:48,011 --> 00:52:50,011 逃げてください! 638 00:53:23,513 --> 00:53:26,813 よせよ 痛いじゃないかね 639 00:53:41,932 --> 00:53:44,632 ヤンはこの奥だ 重い 動かん 640 00:53:56,880 --> 00:53:59,080 未確認艦 急速接近 641 00:54:04,721 --> 00:54:07,421 レダⅡに強行接舷 始動! 642 00:54:33,250 --> 00:54:36,486 ヤン提督はどこにいる 643 00:54:36,486 --> 00:54:38,421 言え! 644 00:54:38,421 --> 00:54:41,691 もはや この世のどこにもおらぬ 645 00:54:41,691 --> 00:54:43,691 こいつ! 646 00:54:48,064 --> 00:54:52,035 ユリアン!提督を救いに行け 俺もこいつらを掃討してから行く 647 00:54:52,035 --> 00:54:55,372 了解 648 00:54:55,372 --> 00:54:58,375 大丈夫 ユリシーズは強運の船だ 649 00:54:58,375 --> 00:55:00,911 実際 レダⅡを 発見できたじゃないか 650 00:55:00,911 --> 00:55:04,911 希望は通じる 努力は絶対 報われる 651 00:55:14,057 --> 00:55:17,827 どこが安全かな… 652 00:55:17,827 --> 00:55:22,227 それにしても フレデリカやユリアンを 同行させなくてよかった 653 00:55:25,001 --> 00:55:27,001 ヤン提督! 654 00:55:34,177 --> 00:55:39,077 ヤン提督!ユリアンです どこにいらっしゃいますか 655 00:55:46,656 --> 00:55:48,656 ん? 656 00:55:50,527 --> 00:55:52,527 ヤン・ウェンリー提督… 657 00:55:56,866 --> 00:55:59,566 動脈叢を撃ち抜かれたな 658 00:56:04,607 --> 00:56:07,407 殺した!殺した! 659 00:56:18,655 --> 00:56:21,458 随分と血が出るものだな 660 00:56:21,458 --> 00:56:24,828 もっとも 私が今まで 流させてきた量に比べれば 661 00:56:24,828 --> 00:56:27,028 ささやかなものだが… 662 00:56:40,210 --> 00:56:44,210 こんな所で… 我ながら情けない 663 00:56:46,850 --> 00:56:49,586 奇妙だな 664 00:56:49,586 --> 00:56:52,322 血がこれだけ流れ出せば 665 00:56:52,322 --> 00:56:55,422 体重は軽くなっているはずなのに 666 00:56:58,428 --> 00:57:02,665 なんで こんなに体が重いんだ… 667 00:57:02,665 --> 00:57:06,065 あれ?うっ… 668 00:57:09,372 --> 00:57:12,275 ああ… 669 00:57:12,275 --> 00:57:14,675 ああ うっ… 670 00:57:18,748 --> 00:57:21,648 どうも格好がよくないな 671 00:57:26,956 --> 00:57:32,656 やれやれ 「ミラクル・ヤン」が 「血まみれヤン」になってしまった 672 00:57:34,697 --> 00:57:38,935 ごめん フレデリカ 673 00:57:38,935 --> 00:57:41,771 ごめん ユリアン 674 00:57:41,771 --> 00:57:44,671 ごめん みんな… 675 00:57:50,180 --> 00:57:53,783 ヤン提督! 676 00:57:53,783 --> 00:58:00,557 宇宙歴800年 6月1日 2時55分 677 00:58:00,557 --> 00:58:06,557 ヤン・ウェンリーの時は 33歳で停止した 678 00:58:10,900 --> 00:58:13,470 ヤン・ウェンリーは死んだ 679 00:58:13,470 --> 00:58:17,941 だが 歴史は変わらずに 時を刻んでいる 680 00:58:17,941 --> 00:58:23,113 残された者たちにとって 戦いは いまだ続いていく 681 00:58:23,113 --> 00:58:28,818 ヤンが歴史に残した足跡を 意味あるものにするためにも 682 00:58:28,818 --> 00:58:34,624 次回「銀河英雄伝説」 第83話「祭りの後」 683 00:58:34,624 --> 00:58:38,224 銀河の歴史が また1ページ 684 01:00:53,029 --> 01:00:55,829 ヤン提督! どこにいらっしゃいますか 685 01:01:09,712 --> 01:01:11,812 はっ 686 01:01:21,658 --> 01:01:23,658 ヤン提督… 687 01:01:27,363 --> 01:01:29,363 提督 688 01:01:50,420 --> 01:01:52,855 許してください 許してください 689 01:01:52,855 --> 01:01:59,028 僕は役立たずだ 一番肝心な時に 提督のお役に立てなかった 690 01:01:59,028 --> 01:02:01,828 僕が提督を守ってさしあげます 691 01:02:03,866 --> 01:02:06,803 僕は役立たずの 能なしのウソつきだ 692 01:02:06,803 --> 01:02:11,607 提督を守るどころか みとることすらできなかった 693 01:02:11,607 --> 01:02:13,607 はっ 694 01:02:34,330 --> 01:02:36,530 中尉!ミンツ中尉 695 01:02:39,102 --> 01:02:41,504 落ち着いてください 中尉 696 01:02:41,504 --> 01:02:43,806 放せ 放せ! 697 01:02:43,806 --> 01:02:46,843 放せ!こいつら皆殺しにしてやる 698 01:02:46,843 --> 01:02:50,380 こいつら 殺されるだけのことをしたんだ! 699 01:02:50,380 --> 01:02:53,649 もう誰も生きていませんよ 700 01:02:53,649 --> 01:02:57,520 それよりヤン提督の遺体を どうするんですか 701 01:02:57,520 --> 01:03:01,520 かわいそうに このまま床に 座らせておくんですか 702 01:03:20,543 --> 01:03:24,147 提督 イゼルローンへ 帰りましょう 703 01:03:24,147 --> 01:03:28,451 あそこが僕たちの 僕たちみんなのうちですから 704 01:03:28,451 --> 01:03:30,751 うちへ帰りましょう 705 01:03:57,513 --> 01:04:01,213 こういう時は 早く泣いたほうが勝ちだな 706 01:04:22,638 --> 01:04:26,038 無事ですか?ヤン提督は 707 01:04:28,444 --> 01:04:32,148 あの人は要領が悪いですからね 708 01:04:32,148 --> 01:04:36,018 ちゃんと逃げていて くれればいいんですが 709 01:04:36,018 --> 01:04:38,921 ユリアンが助けに行った 大丈夫だ 710 01:04:38,921 --> 01:04:41,491 すぐに ここへやってくるさ 711 01:04:41,491 --> 01:04:43,793 よかった 712 01:04:43,793 --> 01:04:46,362 あの人が生きていないと 713 01:04:46,362 --> 01:04:49,862 これから先 面白くないですからね 714 01:05:06,148 --> 01:05:08,084 ユリアン 無事だったか 715 01:05:08,084 --> 01:05:11,084 調べてみたんだが こいつらは帝国軍ではなく… 716 01:05:13,856 --> 01:05:20,263 おい よせよ ここは 演劇学校の練習場じゃない 717 01:05:20,263 --> 01:05:23,463 悲劇の舞台げいこなんぞは やりたくないぜ 718 01:05:38,714 --> 01:05:41,951 地球教! 719 01:05:41,951 --> 01:05:44,854 で… ですが地球教徒が なぜヤン提督を 720 01:05:44,854 --> 01:05:46,789 暗殺しなくてはならないんですか 721 01:05:46,789 --> 01:05:51,327 僕が地球へ潜入して彼らの 本拠地を探ったからでしょうか? 722 01:05:51,327 --> 01:05:54,897 だとしたら… 詮索は後だ 723 01:05:54,897 --> 01:05:57,800 犯人の正体が分かれば 今は それで十分だ 724 01:05:57,800 --> 01:06:00,036 いずれ奴らの踏んだ地面まで まとめて 725 01:06:00,036 --> 01:06:02,872 火葬場の炎の中に たたき込んでやる 726 01:06:02,872 --> 01:06:06,542 生きてる奴を2~3人 ユリシーズへ放り込め 727 01:06:06,542 --> 01:06:08,978 後で ゆっくり 口述試験にかけてやる 728 01:06:08,978 --> 01:06:12,949 どうせイゼルローンに着くまでは 道中の暇を持て余すだろうからな 729 01:06:12,949 --> 01:06:15,217 引き揚げますか? 730 01:06:15,217 --> 01:06:19,755 3時30分 シェーンコップは 全員退去の指令を出した 731 01:06:19,755 --> 01:06:22,358 重傷ながら一命を取り留めた スールら 732 01:06:22,358 --> 01:06:25,127 生存者は全てユリシーズに移乗し 733 01:06:25,127 --> 01:06:27,496 ヤン パトリチェフ ブルームハルトの遺体も 734 01:06:27,496 --> 01:06:30,099 収容された この時 735 01:06:30,099 --> 01:06:33,903 ロムスキーら 政府文官の遺体を 収容し損ねたことが 736 01:06:33,903 --> 01:06:37,403 後日 一部の批判を 被る結果になった 737 01:06:54,090 --> 01:06:56,993 捕虜にした地球教徒どもを お渡しください 738 01:06:56,993 --> 01:07:00,262 どうせ奴らが裏の事情を しゃべるはずがない 739 01:07:00,262 --> 01:07:02,832 奴ら自身の希望どおり 派手な方法で 740 01:07:02,832 --> 01:07:04,767 殉教させてやればよいでしょう 741 01:07:04,767 --> 01:07:07,003 そうだ 俺たちにやらせてください 742 01:07:07,003 --> 01:07:08,938 ヤン提督の敵だ 743 01:07:08,938 --> 01:07:10,973 副連隊長の仇を討たせてください 744 01:07:10,973 --> 01:07:13,609 1センチごとに切り刻んで 下水に流してやる 745 01:07:13,609 --> 01:07:16,045 いや 生きたまま 核融合炉にたたき込め 746 01:07:16,045 --> 01:07:20,249 慌てるな イゼルローンにも 核融合炉はある 747 01:07:20,249 --> 01:07:22,549 大きいやつがな あ… 748 01:07:28,024 --> 01:07:33,663 俺は こんな気分を味わうために 帝国から亡命してきたんじゃない 749 01:07:33,663 --> 01:07:37,063 まさか2度も国を捨てた 報いじゃ あるまいな 750 01:07:39,068 --> 01:07:41,971 だとしたら どうせのこと 国を捨てるよりは 751 01:07:41,971 --> 01:07:45,571 滅ぼしておいたほうが 後顧の憂いがなかったかもしれん 752 01:07:47,643 --> 01:07:51,147 だが過去はともかく 問題はこれからだ 753 01:07:51,147 --> 01:07:54,016 これから? そうだ 754 01:07:54,016 --> 01:07:56,852 ヤン・ウェンリーは死んだ 耳をふさぐな 755 01:07:56,852 --> 01:08:00,289 ヤン提督は死んだ 死んでしまった 756 01:08:00,289 --> 01:08:03,893 それもカイザー・ラインハルト以外の 手にかかってな 757 01:08:03,893 --> 01:08:06,128 最後まで意表をついてくれたよ 758 01:08:06,128 --> 01:08:08,228 感心なぞ してやらんがね! 759 01:08:10,633 --> 01:08:13,302 だが こうして俺たちは生きている 760 01:08:13,302 --> 01:08:17,106 生き残ったからには これからの ことを考えるべきだろう 761 01:08:17,106 --> 01:08:20,609 これから どうやって カイザーと戦うか 762 01:08:20,609 --> 01:08:22,545 「これから」ですか 763 01:08:22,545 --> 01:08:25,347 そんなこと 考えることもできません 764 01:08:25,347 --> 01:08:28,350 ヤン提督がいなくなったのに 765 01:08:28,350 --> 01:08:32,088 考えるのは 全てヤン提督がやってくれた 766 01:08:32,088 --> 01:08:34,690 戦う意味も 戦う方法も 767 01:08:34,690 --> 01:08:37,526 戦った後のことも全て 768 01:08:37,526 --> 01:08:40,329 それじゃあ いっそ降伏するか? 769 01:08:40,329 --> 01:08:43,733 カイザーの前にヒザをついて 服従を誓約するか? 770 01:08:43,733 --> 01:08:46,602 それもよかろう 私兵集団としては 771 01:08:46,602 --> 01:08:51,974 首領を失った瞬間に解体するのが 自然の成り行きってもんだ 772 01:08:51,974 --> 01:08:54,777 それが嫌なら 俺たちは弱小勢力なりに 773 01:08:54,777 --> 01:08:59,381 団結せねばならないし 団結するからには代表者が必要だ 774 01:08:59,381 --> 01:09:02,918 誰かヤン提督の後継者を 立てねばならんだろう 775 01:09:02,918 --> 01:09:05,354 それは そうですが 776 01:09:05,354 --> 01:09:07,389 でも それは不可能でしょう 777 01:09:07,389 --> 01:09:11,827 誰にヤン提督の代わりが できるでしょうか? 778 01:09:11,827 --> 01:09:15,498 それは置くとして もう一つの問題だが 779 01:09:15,498 --> 01:09:17,433 まだ何かあるんですか? 780 01:09:17,433 --> 01:09:20,302 こちらのほうが重要かもしれんぞ 781 01:09:20,302 --> 01:09:24,840 ヤン夫人には誰が話す? はっ 782 01:09:24,840 --> 01:09:26,776 はあ… 783 01:09:26,776 --> 01:09:29,411 キャゼルヌ夫人に お願いしましょうか? 784 01:09:29,411 --> 01:09:31,881 あの人なら… ああ 785 01:09:31,881 --> 01:09:35,851 俺も そう思わないではなかった それがいいかもしれん 786 01:09:35,851 --> 01:09:38,587 こういう時は男は だらしがなくていけない 787 01:09:38,587 --> 01:09:43,392 シェーンコップ中将ほどの人が… 788 01:09:43,392 --> 01:09:46,962 そして この知らせが イゼルローンに届いた時 789 01:09:46,962 --> 01:09:49,932 イゼルローンの 全ての人々がこうなる 790 01:09:49,932 --> 01:09:55,671 それでも戦い続けなくては いけないのか?僕らは 791 01:09:55,671 --> 01:10:00,543 僕らは何を支えにすればいいんだ 792 01:10:00,543 --> 01:10:04,246 こうして6月3日11時30分 793 01:10:04,246 --> 01:10:07,546 葬列は イゼルローン要塞に入港した 794 01:10:16,759 --> 01:10:21,597 なあ ユリアン 元々ヤンの奴は順当にいけば 795 01:10:21,597 --> 01:10:25,467 お前さんより15年早く 死ぬ予定になっていたんだ 796 01:10:25,467 --> 01:10:28,337 だから お前さんが 奴を送ってやるのはいいさ 797 01:10:28,337 --> 01:10:33,309 だがな 奴は俺より 6歳若かったんだぜ 798 01:10:33,309 --> 01:10:35,845 俺があいつを 送らなきゃならないなんて 799 01:10:35,845 --> 01:10:37,945 順序が逆じゃねえか 800 01:10:41,517 --> 01:10:44,887 ポプラン中佐は? 部屋にこもってる 801 01:10:44,887 --> 01:10:47,790 酒瓶の束を抱えてな 802 01:10:47,790 --> 01:10:51,090 死んだヤン・ウェンリーなんかに 用はないとさ 803 01:10:54,563 --> 01:10:58,434 フレデリカさんは? 彼女は知らない 804 01:10:58,434 --> 01:11:02,371 まだ話してない お前さんが伝えてくれるだろう? 805 01:11:02,371 --> 01:11:04,540 僕だって嫌です 806 01:11:04,540 --> 01:11:08,940 キャゼルヌ中将の奥さんにお願い しようかと話していたんですが 807 01:11:11,013 --> 01:11:14,884 ユリアン これは あなたの責任であり義務ですよ 808 01:11:14,884 --> 01:11:17,753 あなたはヤンご夫妻の 家族だったんですからね 809 01:11:17,753 --> 01:11:20,222 あなた以外の誰が話すというの? 810 01:11:20,222 --> 01:11:24,422 もし話さなかったら 話した時以上に後悔するわよ 811 01:11:38,207 --> 01:11:40,207 どうぞ 812 01:11:44,146 --> 01:11:47,546 いつ帰ったの ユリアン 早かったのね 813 01:11:51,787 --> 01:11:53,987 あの人が死んだのね 814 01:11:58,427 --> 01:12:00,829 どうして そうお考えです? 815 01:12:00,829 --> 01:12:04,366 だって あなたがそんなにも 言いづらそうにすることは 816 01:12:04,366 --> 01:12:07,002 他には考えられないわ 817 01:12:07,002 --> 01:12:10,873 そう やっぱり あの人が死んだの 818 01:12:10,873 --> 01:12:14,243 はい ヤン提督は亡くなりました 819 01:12:14,243 --> 01:12:19,081 カイザーとの会見を妨げようとする 地球教の残党のために 820 01:12:19,081 --> 01:12:21,383 僕がお救いにあがったのですが 821 01:12:21,383 --> 01:12:24,954 間に合いませんでした 申し訳ありません 822 01:12:24,954 --> 01:12:27,923 ご遺体を収容するのが 精いっぱいだったんです 823 01:12:27,923 --> 01:12:32,294 ユリアン あなたが ウソつきならよかった 824 01:12:32,294 --> 01:12:35,294 そしたら あなたの報告を 信じなくて済むのにね 825 01:12:37,433 --> 01:12:40,336 ぼんやりと不安を 感じてはいたのよ 826 01:12:40,336 --> 01:12:43,672 キャゼルヌ中将が顔を見せないし 827 01:12:43,672 --> 01:12:46,472 夫人もどこか いつもと違ってたし 828 01:12:52,047 --> 01:12:56,218 あの人はね こんな死に方を する人じゃないの 829 01:12:56,218 --> 01:13:00,089 年老いて 昔の武勲を 知る人も少なくなって 830 01:13:00,089 --> 01:13:04,059 毎日 日なたに置いた揺り椅子に 揺られて 静かに本を読んでいる 831 01:13:04,059 --> 01:13:06,195 そんな日常の中で 832 01:13:06,195 --> 01:13:10,065 ある日 孫が呼びに来ても 返事がない 833 01:13:10,065 --> 01:13:13,435 日だまりの中で 静かに眠るように 834 01:13:13,435 --> 01:13:15,838 いつの間にか… 835 01:13:15,838 --> 01:13:18,607 それが… そんな死に方こそが 836 01:13:18,607 --> 01:13:22,911 あの人にはふさわしいと 信じていたのに 837 01:13:22,911 --> 01:13:25,814 いつも最前線にいても どんな危険にあっても 838 01:13:25,814 --> 01:13:31,620 必ず死の淵から引き返してくる 人だと思ってたのに 839 01:13:31,620 --> 01:13:34,623 でも かえって あの人らしいかもしれないわ 840 01:13:34,623 --> 01:13:37,926 今頃 あの人 ビュコック提督にお目にかかって 841 01:13:37,926 --> 01:13:40,662 頭の下げっぱなしでしょうね 842 01:13:40,662 --> 01:13:42,931 後を託されたのに 半年も経たないうちに 843 01:13:42,931 --> 01:13:47,131 のこのこ後についていって 仲間に入りたがるんだもの 844 01:13:50,672 --> 01:13:54,143 お願い ユリアン しばらく一人にしておいて 845 01:13:54,143 --> 01:13:57,643 もう少し落ち着いたら あの人に会いに行くから 846 01:14:07,689 --> 01:14:10,659 かくしてイゼルローンに 日はかげった 847 01:14:10,659 --> 01:14:14,463 だが残された者は 悲哀に沈んでばかりもいられない 848 01:14:14,463 --> 01:14:17,933 帰途 シェーンコップが ユリアンに指摘したとおりである 849 01:14:17,933 --> 01:14:21,637 人間は主義だの思想だのの ためには戦わないんだよ 850 01:14:21,637 --> 01:14:24,540 主義や思想を体現した人のために 戦うんだ 851 01:14:24,540 --> 01:14:29,044 革命のために戦うのではなくて 革命家のために戦うんだ 852 01:14:29,044 --> 01:14:33,582 俺たちは どのみち死せるヤン提督を 奉じて戦うことになるが 853 01:14:33,582 --> 01:14:38,087 その場合でも この世に 提督の代理を務める人間が必要だ 854 01:14:38,087 --> 01:14:41,523 とにかく我々は 指導者を必要としている 855 01:14:41,523 --> 01:14:44,059 政治的な指導者も必要でしょう 856 01:14:44,059 --> 01:14:46,795 ドクター・ロムスキーが 亡くなったのですから 857 01:14:46,795 --> 01:14:49,698 政治的な指導者は 既に決まっている 858 01:14:49,698 --> 01:14:51,633 誰です?それは 859 01:14:51,633 --> 01:14:54,136 フレデリカ・グリーンヒル・ ヤン夫人さ 860 01:14:54,136 --> 01:14:58,674 なっ… 無論ヤン夫人には まだ話してない 861 01:14:58,674 --> 01:15:01,443 近日中に要請することに なるだろう 862 01:15:01,443 --> 01:15:04,179 彼女が そう 少し落ち着いてからな 863 01:15:04,179 --> 01:15:07,683 そんな… ヤン提督の政治的な後継者は 864 01:15:07,683 --> 01:15:12,454 将来はいざ知らず 現在のところ彼女しかいないんだ 865 01:15:12,454 --> 01:15:14,523 亡くなったロムスキー氏には 悪いが 866 01:15:14,523 --> 01:15:18,794 知名度といい 共和主義勢力の シンパシーを期待できる点といい 867 01:15:18,794 --> 01:15:21,230 ヤン夫人がはるかに勝る 868 01:15:21,230 --> 01:15:23,265 政治上の見識や手腕だって 869 01:15:23,265 --> 01:15:25,501 過去の偉人に及ばないにしても 870 01:15:25,501 --> 01:15:29,171 さしあたって ロムスキー氏より 下でなければいいんだからな 871 01:15:29,171 --> 01:15:33,475 そう思わないか? でも… 872 01:15:33,475 --> 01:15:36,078 アッテンボローも 時には正しいことを言う 873 01:15:36,078 --> 01:15:38,814 政治的判断の点でもな 874 01:15:38,814 --> 01:15:43,652 実際 俺たちが民主共和制の正当な 後継者と認められるためには 875 01:15:43,652 --> 01:15:47,489 ヤン夫人を政治的な代表者に 押し立てる以外ないだろう 876 01:15:47,489 --> 01:15:50,492 無論 当人が拒否すれば それまでだが 877 01:15:50,492 --> 01:15:53,095 拒否すると思いますよ 878 01:15:53,095 --> 01:15:56,465 あの人は これまでずっと 補佐役に徹してきたんです 879 01:15:56,465 --> 01:15:59,468 自分が頂点に立つなんて まして 880 01:15:59,468 --> 01:16:03,272 ヤン提督のご遺体の上に 自分の権力を据えるなんて 881 01:16:03,272 --> 01:16:07,442 ユリアン いいか 政治における 形式や法制というものは 882 01:16:07,442 --> 01:16:11,313 2代目から拘束力を持つのだぜ あ… 883 01:16:11,313 --> 01:16:15,184 ヤンが生前 民主共和勢力の 政治的代表の地位にあり 884 01:16:15,184 --> 01:16:17,786 その死後に夫人が その地位を相続するとしたら 885 01:16:17,786 --> 01:16:19,721 それは一種の世襲になり 886 01:16:19,721 --> 01:16:22,991 地位を私物化することに なるだろう だが 887 01:16:22,991 --> 01:16:26,528 ヤンは生前 その地位に就くことを 拒否し続けた 888 01:16:26,528 --> 01:16:30,966 結果として その態度がヤン夫人に 政治的正当性を与えることになる 889 01:16:30,966 --> 01:16:33,435 お言葉ですが それは理屈です 890 01:16:33,435 --> 01:16:35,671 まして他人の都合だけで そんな重荷を 891 01:16:35,671 --> 01:16:38,707 フレデリカさんに押しつけて いいものではないでしょう 892 01:16:38,707 --> 01:16:40,807 僕は反対です 893 01:16:47,282 --> 01:16:52,721 やれやれ あれではユリアン自身も 簡単に引き受けそうもないな 894 01:16:52,721 --> 01:16:55,290 ヤンに代わる軍事指導者の地位を 895 01:16:55,290 --> 01:16:58,193 んー ユリアン自身もだが 896 01:16:58,193 --> 01:17:01,063 周りに反対のなかろうはずもない 897 01:17:01,063 --> 01:17:04,099 これからが思いやられるな 898 01:17:04,099 --> 01:17:06,702 だがヤン・ウェンリーの 被保護者であり 899 01:17:06,702 --> 01:17:10,572 用兵学上の弟子であったという 事実はこの際 無視できない 900 01:17:10,572 --> 01:17:13,909 実力以上の効果が あるのではないかな? 901 01:17:13,909 --> 01:17:15,844 カリスマというやつか 902 01:17:15,844 --> 01:17:19,681 既成の用語など どうでもいい 重要なのは この際 903 01:17:19,681 --> 01:17:21,617 ヤン・ウェンリーという 太陽の残照を 904 01:17:21,617 --> 01:17:24,319 誰が最もよく 反射するかという点だ 905 01:17:24,319 --> 01:17:28,757 だが俺たちと同じように 他の将兵たちが考えるかどうかだ 906 01:17:28,757 --> 01:17:33,328 ユリアンが指令を出しても 面従腹背で応じるかもしれん 907 01:17:33,328 --> 01:17:37,499 我々の意識改革こそが 必要でしょうな 908 01:17:37,499 --> 01:17:41,103 それにしても脱落者が出ることは 避けられないな 909 01:17:41,103 --> 01:17:43,038 ヤン・ウェンリーが 指導者であるからこそ 910 01:17:43,038 --> 01:17:45,941 ついてきた連中が大半なのだから 911 01:17:45,941 --> 01:17:48,176 思うに真っ先に脱落するのは 912 01:17:48,176 --> 01:17:51,580 エル・ファシル独立政府の お歴々ではないのかな 913 01:17:51,580 --> 01:17:54,516 ヤン・ウェンリーの軍事的才幹と 名望に頼って 914 01:17:54,516 --> 01:17:57,919 大事を成そうという 便乗派ぞろいだったからな 915 01:17:57,919 --> 01:18:01,690 いいさ 脱落したい奴には 脱落させよう 916 01:18:01,690 --> 01:18:04,559 数が力と言いきれるような 状態ではないからな 917 01:18:04,559 --> 01:18:08,363 少数でも とにかく コアを確立しておかんことにはな 918 01:18:08,363 --> 01:18:10,999 去るものは追わずか 919 01:18:10,999 --> 01:18:14,002 やむを得んだろうな うん 920 01:18:14,002 --> 01:18:17,539 翌日 キャゼルヌは フレデリカの病室を訪れ 921 01:18:17,539 --> 01:18:20,539 政治的代表の地位に 就くことを要請した 922 01:18:23,345 --> 01:18:26,114 他に方法がないなら 923 01:18:26,114 --> 01:18:29,685 私は政治上の代表を 務めさせていただきます 924 01:18:29,685 --> 01:18:32,587 至らぬ身ですけど は… 925 01:18:32,587 --> 01:18:36,425 でも それには多くの人の 支持と協力が必要です 926 01:18:36,425 --> 01:18:39,428 私が代表の地位に就いたら 命令はともかく 927 01:18:39,428 --> 01:18:42,230 皆さんに指示を出さねば なりませんし 928 01:18:42,230 --> 01:18:45,233 それを順守していただかねば なりません 929 01:18:45,233 --> 01:18:49,071 その点 皆さんに お願いしておきたいと思います 930 01:18:49,071 --> 01:18:51,540 続いてキャゼルヌと シェーンコップに 931 01:18:51,540 --> 01:18:54,443 呼び出されたユリアンが ヤン・ウェンリーに代わって 932 01:18:54,443 --> 01:18:58,313 革命軍の司令官になるよう 申し渡された 933 01:18:58,313 --> 01:19:00,349 あ… 934 01:19:00,349 --> 01:19:02,517 艦隊の指揮官が必要なら 935 01:19:02,517 --> 01:19:05,220 アッテンボロー中将が いらっしゃるじゃありませんか 936 01:19:05,220 --> 01:19:07,489 あの人は27歳で閣下でしたよ 937 01:19:07,489 --> 01:19:09,524 ヤン提督より早かったんですよ 938 01:19:09,524 --> 01:19:13,128 実績も人望も 十分じゃありませんか 939 01:19:13,128 --> 01:19:16,031 あれはダメだ なぜです? 940 01:19:16,031 --> 01:19:18,934 本人が「自分は黒幕でいたい」と 言っている 941 01:19:18,934 --> 01:19:21,970 そんな! 俺たちも同様だ 942 01:19:21,970 --> 01:19:24,373 諦めて上に立て ユリアン 943 01:19:24,373 --> 01:19:27,642 及ばずながら 俺たちが 足を支えてやるから 944 01:19:27,642 --> 01:19:29,942 倒れる時は もろともさ 945 01:19:32,547 --> 01:19:34,747 考えさせてください 946 01:19:48,997 --> 01:19:51,566 引き受けたら? フレデリカさんまで 947 01:19:51,566 --> 01:19:54,469 そんなことをおっしゃるとは 思いませんでした 948 01:19:54,469 --> 01:19:56,505 考えてもみてください 949 01:19:56,505 --> 01:19:59,908 僕にヤン提督と同じことが できるはずがないでしょう 950 01:19:59,908 --> 01:20:01,843 当たり前よ な… 951 01:20:01,843 --> 01:20:03,845 当たり前よ ユリアン 952 01:20:03,845 --> 01:20:06,615 ヤン・ウェンリーみたいなマネは 誰にもできないわ 953 01:20:06,615 --> 01:20:09,918 ええ できません 才能の差が大きすぎます 954 01:20:09,918 --> 01:20:13,355 いいえ 個性の差よ ユリアン 955 01:20:13,355 --> 01:20:16,258 あなたは あなたにしか できないことをやればいい 956 01:20:16,258 --> 01:20:19,494 ヤン・ウェンリーの マネをすることはないわ 957 01:20:19,494 --> 01:20:22,731 歴史上にヤン・ウェンリーが ただ一人しかいないように 958 01:20:22,731 --> 01:20:25,031 ユリアン・ミンツも ただ一人なのだから 959 01:20:27,068 --> 01:20:29,604 私も分不相応 承知で 960 01:20:29,604 --> 01:20:32,607 政治的代表の地位を受けるつもり 961 01:20:32,607 --> 01:20:36,378 私はヤン・ウェンリーと 12年間 付き合ったわ 962 01:20:36,378 --> 01:20:39,281 最初の8年間は単にファンとして 963 01:20:39,281 --> 01:20:42,284 次の3年間は副官として 964 01:20:42,284 --> 01:20:45,520 次の1年間は妻として 965 01:20:45,520 --> 01:20:49,124 そして これから 未亡人としての何年か 966 01:20:49,124 --> 01:20:52,027 何十年かが始まる 967 01:20:52,027 --> 01:20:54,963 月日を自分で培わねば ならないとしたら 968 01:20:54,963 --> 01:20:57,165 私は あの人が築いた土台を 969 01:20:57,165 --> 01:21:00,665 ほこりだけに 埋もれさせたくないわ それに… 970 01:21:02,838 --> 01:21:06,741 それに残された者が ここで挫折してしまったら 971 01:21:06,741 --> 01:21:10,078 テロによって歴史は 動かないという あの人の主張を 972 01:21:10,078 --> 01:21:13,915 私たちの手で 覆してしまうことになるわ 973 01:21:13,915 --> 01:21:17,752 だから私は 私の義務を果たすつもり 974 01:21:17,752 --> 01:21:20,288 ヤン・ウェンリーをなまけ者だと 言う人がいたら 975 01:21:20,288 --> 01:21:22,657 私が証言してあげるわ 976 01:21:22,657 --> 01:21:26,528 「あの人はあの人にしか果たせない 義務をおろそかにしたことは」 977 01:21:26,528 --> 01:21:29,764 「一度だってない」っていうことを 978 01:21:29,764 --> 01:21:33,368 ご立派です フレデリカさん 僕も義務から逃げません 979 01:21:33,368 --> 01:21:37,172 どうせお飾りでしょうけど 軍事指導者とやらになります 980 01:21:37,172 --> 01:21:41,042 立派ですって? 私は立派なんかじゃないわ 981 01:21:41,042 --> 01:21:45,380 本当言うとね 私は 民主主義なんか滅びてもいいの 982 01:21:45,380 --> 01:21:49,251 全宇宙が 原子に還元したって構わない 983 01:21:49,251 --> 01:21:52,187 あの人が… あの人が私の傍らで 984 01:21:52,187 --> 01:21:55,487 半分眠りながら 本を読んでいてくれたら 985 01:22:01,396 --> 01:22:04,966 イゼルローン要塞の中は 公表されたヤン・ウェンリーの死に 986 01:22:04,966 --> 01:22:08,637 浮き足立っていた ヤンの軍事的指導者の地位を 987 01:22:08,637 --> 01:22:12,474 ユリアン・ミンツが継承する旨 キャゼルヌが発表した後 988 01:22:12,474 --> 01:22:15,277 動揺はむしろ 増大したように見えた 989 01:22:15,277 --> 01:22:18,213 ユリアン・ミンツが ヤン・ウェンリーの養子だからといって 990 01:22:18,213 --> 01:22:22,050 なぜ彼を軍事指導者として 仰がねばならないのですか? 991 01:22:22,050 --> 01:22:25,687 彼より階級も高く 武勲も多い 幹部たちが幾人もいるのに 992 01:22:25,687 --> 01:22:28,590 なぜユリアンのような… 「なぜユリアンのような」 993 01:22:28,590 --> 01:22:32,327 「亜麻色の髪の小僧に 兵権を委ねるか」って? 994 01:22:32,327 --> 01:22:34,930 俺たちにとって必要なのは 過去の日記ではなくて 995 01:22:34,930 --> 01:22:37,599 未来のカレンダーだからさ ですが 996 01:22:37,599 --> 01:22:39,601 彼は あまりに若くて未熟ですし 997 01:22:39,601 --> 01:22:44,339 第一 カイザー・ラインハルトと 同一視するわけにはいきません 998 01:22:44,339 --> 01:22:47,639 それがどうした ああ… 999 01:22:56,451 --> 01:23:01,289 6月5日 ユリアンは ムライ中将の突然の訪問を受けた 1000 01:23:01,289 --> 01:23:03,825 ユリアン 私はヤン艦隊における 1001 01:23:03,825 --> 01:23:06,695 最後の任務を これから果たすつもりだ 1002 01:23:06,695 --> 01:23:08,964 君の許可をもらいたいのだが 1003 01:23:08,964 --> 01:23:11,499 どうなさるのです?ムライ中将 1004 01:23:11,499 --> 01:23:14,703 不平分子や 動揺した連中を引き連れて 1005 01:23:14,703 --> 01:23:17,672 イゼルローンを出ていく 1006 01:23:17,672 --> 01:23:20,542 ご決心は変わりませんか? ムライ中将 1007 01:23:20,542 --> 01:23:22,811 あなたがいらっしゃってこそ ヤン艦隊は 1008 01:23:22,811 --> 01:23:26,348 軍隊として機能しますのに 1009 01:23:26,348 --> 01:23:30,218 いや むしろ私がいないほうが いいのだよ 1010 01:23:30,218 --> 01:23:33,688 もう私がいて 君の役に立つことは何もない 1011 01:23:33,688 --> 01:23:35,788 引退させてくれんものかね? 1012 01:23:37,659 --> 01:23:41,262 それにフィッシャーも パトリチェフもいなくなった 1013 01:23:41,262 --> 01:23:44,262 疲れもしたし 寂しくもなったよ 1014 01:23:46,468 --> 01:23:49,070 私はヤン提督の 旗下にいたおかげで 1015 01:23:49,070 --> 01:23:51,940 才能や実績以上の地位を得た 1016 01:23:51,940 --> 01:23:55,810 ありがたいと思っている 1017 01:23:55,810 --> 01:23:58,713 今 私が離脱を公表すれば 1018 01:23:58,713 --> 01:24:02,450 動揺している連中は 私のもとに集まってくる 1019 01:24:02,450 --> 01:24:05,353 「ムライのような幹部でさえ 離脱するのだから」 1020 01:24:05,353 --> 01:24:08,823 という形で 自己正当化ができるからな 1021 01:24:08,823 --> 01:24:12,923 私が何を狙っているか 分かってもらえるだろうか? 1022 01:24:19,067 --> 01:24:23,438 どうぞ中将のなさりたいように なさってください 1023 01:24:23,438 --> 01:24:29,244 お疲れさまでした 本当に 今まで ありがとうございました 1024 01:24:29,244 --> 01:24:31,244 うん 1025 01:24:46,661 --> 01:24:49,631 私がいないほうが 貴官らにとってはよかろう 1026 01:24:49,631 --> 01:24:53,435 羽を伸ばすことができて 否定はしませんよ 1027 01:24:53,435 --> 01:24:59,240 ですが酒を飲む楽しみの半分は 禁酒令を破ることにあるのでね 1028 01:24:59,240 --> 01:25:03,111 世間はきっと あなたのことを 悪く言いますよ 1029 01:25:03,111 --> 01:25:05,480 損な役回りをなさるものだ 1030 01:25:05,480 --> 01:25:08,183 なに 私は耐えるだけで済む 1031 01:25:08,183 --> 01:25:12,383 君らと同行する苦労に比べれば ささやかなものさ 1032 01:25:23,665 --> 01:25:26,034 エル・ファシル革命政府の 委員たちが 1033 01:25:26,034 --> 01:25:28,703 ユリアンを呼びつけたのは その日のうちである 1034 01:25:28,703 --> 01:25:32,340 ムライ中将が退去するそうだが それとは無関係に 1035 01:25:32,340 --> 01:25:35,810 我々も政府を解散することにした 1036 01:25:35,810 --> 01:25:38,713 決定を一応 知らせておこうと 思ってね 1037 01:25:38,713 --> 01:25:42,951 本来そんな義務もないんだが そうですか 1038 01:25:42,951 --> 01:25:44,953 悪く思わんでほしい 1039 01:25:44,953 --> 01:25:47,322 元々エル・ファシルの独立自体 1040 01:25:47,322 --> 01:25:50,725 ロムスキー医師の独走による 部分が大きかったのだ 1041 01:25:50,725 --> 01:25:54,262 我々は彼の作り上げた 雰囲気に引きずられて 1042 01:25:54,262 --> 01:25:57,866 勝算のない革命運動に 巻き込まれてしまった 1043 01:25:57,866 --> 01:26:00,468 ロムスキー先生は 独裁者でしたか? 1044 01:26:00,468 --> 01:26:04,939 彼に反対する自由が あなた方には なかったと言うのですか? 1045 01:26:04,939 --> 01:26:08,309 ああ… とにかく 1046 01:26:08,309 --> 01:26:11,980 ヤン提督もロムスキー氏も 不慮の死を遂げた 1047 01:26:11,980 --> 01:26:14,282 反帝国の革命運動は 1048 01:26:14,282 --> 01:26:18,219 軍事的にも政治的にも 指導者を失ったわけだ 1049 01:26:18,219 --> 01:26:22,090 これ以上の対決と抗争に 何の意味があるというのかね? 1050 01:26:22,090 --> 01:26:24,926 もはや政治体制に こだわるより 1051 01:26:24,926 --> 01:26:31,266 もっと大局に立って 全人類の 平和と統一に貢献すべき時期だ 1052 01:26:31,266 --> 01:26:33,935 憎悪や敵意は何も生み出さない 1053 01:26:33,935 --> 01:26:36,304 君らも死者の理想に固執して 1054 01:26:36,304 --> 01:26:39,207 殉教者を気取ったりせぬが よかろう 1055 01:26:39,207 --> 01:26:41,810 あなた方が出ていかれるのを 僕は止めはしません 1056 01:26:41,810 --> 01:26:45,780 ですから あなた方も気持ちよく 出発なさってください 1057 01:26:45,780 --> 01:26:49,551 何も今日までの あなた方自身を 否定なさる必要はないでしょう 1058 01:26:49,551 --> 01:26:53,021 「ごくろうさまでした」と 申し上げておきます 1059 01:26:53,021 --> 01:26:55,790 もう失礼させていただいて よろしいでしょうか 1060 01:26:55,790 --> 01:26:59,527 うむ 1061 01:26:59,527 --> 01:27:03,464 この時 ユリアンは ムライの真意を知り得た 1062 01:27:03,464 --> 01:27:06,067 外聞や妨害を恐れて 自分たちだけでは 1063 01:27:06,067 --> 01:27:10,905 離脱する勇気もない人々を ムライが集めて整理してくれる 1064 01:27:10,905 --> 01:27:15,743 脱落者の汚名を着ることを 承知の上で 1065 01:27:15,743 --> 01:27:19,414 宇宙歴800年 新帝国歴2年6月 1066 01:27:19,414 --> 01:27:22,614 時は休むことなく 流れ続けている 1067 01:29:29,077 --> 01:29:31,045 ヤン・ウェンリーの突然の死は 1068 01:29:31,045 --> 01:29:34,649 帝国軍にとっても 重大な衝撃であった 1069 01:29:34,649 --> 01:29:37,418 喪失感にさいなまれる カイザー・ラインハルトは 1070 01:29:37,418 --> 01:29:39,721 軍を返すことを決意し 1071 01:29:39,721 --> 01:29:44,525 長い戦いにも 終止符が打たれたかに見えたが… 1072 01:29:44,525 --> 01:29:50,665 次回「銀河英雄伝説」 第84話「失意の凱旋」 1073 01:29:50,665 --> 01:29:54,065 銀河の歴史が また1ページ 1074 01:32:15,977 --> 01:32:17,977 うっ… 1075 01:32:27,355 --> 01:32:32,093 へっ アルコールの毒が とうとう脳まで回ったらしいな 1076 01:32:32,093 --> 01:32:34,929 見たくもない幻が見えるぜ 1077 01:32:34,929 --> 01:32:38,366 不景気な面を並べやがって 1078 01:32:38,366 --> 01:32:41,169 ポプラン中佐 もうお酒はやめてください 1079 01:32:41,169 --> 01:32:43,169 お体にさわります 1080 01:32:45,072 --> 01:32:47,675 中佐 お願いですから 1081 01:32:47,675 --> 01:32:50,878 黙ってろ 青二才! 1082 01:32:50,878 --> 01:32:53,614 何だって俺が ヤン・ウェンリー以外の奴の 1083 01:32:53,614 --> 01:32:56,150 命令を聞かなくちゃならない? 1084 01:32:56,150 --> 01:32:58,486 俺には自分に 命令を与える相手を 1085 01:32:58,486 --> 01:33:01,255 自分で選ぶ権利があるはずだ 1086 01:33:01,255 --> 01:33:04,955 それが民主主義って ものじゃないか え? 1087 01:33:23,344 --> 01:33:26,814 ポプラン中佐 正式に通告しておこう 1088 01:33:26,814 --> 01:33:31,953 ヤン・ウェンリー元帥亡き後は ユリアンが俺たちの指揮官になる 1089 01:33:31,953 --> 01:33:34,589 え? だから はっきり言っておく 1090 01:33:34,589 --> 01:33:37,158 ポプラン中佐 以後ユリアンに対して 1091 01:33:37,158 --> 01:33:39,660 指揮権に疑義を抱き 司令部の権威を 1092 01:33:39,660 --> 01:33:42,096 傷つけるような言動は許さん 1093 01:33:42,096 --> 01:33:45,967 ユリアンが許しても俺が許さん 1094 01:33:45,967 --> 01:33:49,170 不服か?それなら イゼルローンを出ていけ 1095 01:33:49,170 --> 01:33:53,608 ユリアンの役に立たない奴に いてもらう必要はない 1096 01:33:53,608 --> 01:33:55,808 いや 不服はない 1097 01:34:11,859 --> 01:34:15,730 よろしく 司令官 本日 ただ今より心を入れ替えます 1098 01:34:15,730 --> 01:34:17,930 今後とも お見捨てなく 1099 01:34:30,578 --> 01:34:34,448 わしは今まで 何度か考えたことがあった 1100 01:34:34,448 --> 01:34:37,918 あの時 リップシュタット戦役で 1101 01:34:37,918 --> 01:34:41,155 ラインハルト・フォン・ ローエングラムに敗れた時 1102 01:34:41,155 --> 01:34:44,659 死んでいたほうが よかったのかもしれないと 1103 01:34:44,659 --> 01:34:47,128 だが 今はそう思わん 1104 01:34:47,128 --> 01:34:52,366 60歳近くまで わしは 失敗を恐れる生き方をしてきた 1105 01:34:52,366 --> 01:34:56,737 そうではない生き方もあることが ようやく分かってきたのでな 1106 01:34:56,737 --> 01:35:02,237 それを教えてくれた人たちに 恩なり借りなり返さねばなるまい 1107 01:35:04,178 --> 01:35:06,914 6月6日 イゼルローン要塞は 1108 01:35:06,914 --> 01:35:10,451 革命軍司令官代行 ユリアン・ミンツの名において 1109 01:35:10,451 --> 01:35:14,722 ヤン・ウェンリーの死を公表し 正式な葬儀を行った 1110 01:35:14,722 --> 01:35:18,025 同時にエル・ファシル革命政府は 解散を宣言し 1111 01:35:18,025 --> 01:35:20,025 短命の歴史を終えた 1112 01:35:22,830 --> 01:35:26,233 同日 19時10分 イゼルローン要塞から 1113 01:35:26,233 --> 01:35:28,936 全宇宙に向けて 発せられた通信波を 1114 01:35:28,936 --> 01:35:31,036 帝国軍がキャッチした 1115 01:35:34,342 --> 01:35:36,877 陛下 ご報告申し上げます 1116 01:35:36,877 --> 01:35:40,181 先ほど イゼルローン要塞より 全宇宙に向けて 1117 01:35:40,181 --> 01:35:43,784 訃報が発せられました 1118 01:35:43,784 --> 01:35:46,784 ヤン・ウェンリーが 亡くなったのです 1119 01:35:55,830 --> 01:35:59,367 フロイライン フロイライン! 1120 01:35:59,367 --> 01:36:04,138 あなたから凶報を聞いたことは 幾度もあるが今回のは極めつけだ 1121 01:36:04,138 --> 01:36:08,943 それほど余を失望させる権利が あなたにはあるのか! 1122 01:36:08,943 --> 01:36:12,747 誰もかれも 敵も味方も 皆 余を置いていってしまう 1123 01:36:12,747 --> 01:36:15,747 なぜ余のために生き続けないのか 1124 01:36:19,653 --> 01:36:24,825 余には… 余には敵が必要なのだ 1125 01:36:24,825 --> 01:36:27,728 余はあの男に 余以外の者に 倒される権利など 1126 01:36:27,728 --> 01:36:30,030 与えた覚えはない あの男は 1127 01:36:30,030 --> 01:36:33,534 バーミリオンでも イゼルローン回廊でも 余を勝たせなかった 1128 01:36:33,534 --> 01:36:35,970 余の貴重な将帥を幾人も倒した 1129 01:36:35,970 --> 01:36:39,870 その揚げ句に余以外の者の手に かかったというのか 1130 01:36:42,276 --> 01:36:45,880 フロイライン・マリーンドルフ はい 陛下 1131 01:36:45,880 --> 01:36:49,316 余の名代として 誰かをイゼルローンへ派遣したい 1132 01:36:49,316 --> 01:36:51,252 弔問の使者としてだ 1133 01:36:51,252 --> 01:36:53,754 誰がよいとフロイラインは思う? 1134 01:36:53,754 --> 01:36:56,991 私が参りましょうか? いや 1135 01:36:56,991 --> 01:37:01,896 フロイラインには常に 余の傍らに いてもらわねば困る 1136 01:37:01,896 --> 01:37:06,734 フロイラインは 余の幕僚総監なのだから 1137 01:37:06,734 --> 01:37:11,272 バカバカしい 私は今 何を期待したのだろう 1138 01:37:11,272 --> 01:37:15,142 陛下は そういう人なのだから 1139 01:37:15,142 --> 01:37:18,045 そうだ ミュラーに行かせよう 1140 01:37:18,045 --> 01:37:20,614 思えば 先年 バーミリオン会戦ののちに 1141 01:37:20,614 --> 01:37:24,014 ヤンと顔を合わせた間柄で あったことだしな 1142 01:37:27,221 --> 01:37:30,124 ヤン・ウェンリーの死は ラインハルトだけでなく 1143 01:37:30,124 --> 01:37:33,994 帝国軍の他の将帥にとっても 大きな衝撃であった 1144 01:37:33,994 --> 01:37:36,397 確かにヤン・ウェンリーは 死んだのか? 1145 01:37:36,397 --> 01:37:39,600 死を装って どこかで 生きているのではないか? 1146 01:37:39,600 --> 01:37:42,937 ヤンがこの時期に そのような策を 用いる理由があるまい 1147 01:37:42,937 --> 01:37:44,872 フッ あのペテン師のことだ 1148 01:37:44,872 --> 01:37:49,176 何を企んでいるか しれたものではない 1149 01:37:49,176 --> 01:37:53,447 ヤン・ウェンリーを倒す権利は 宇宙でただ一人 1150 01:37:53,447 --> 01:37:56,016 マイン・カイザーの 御手に帰するものだ 1151 01:37:56,016 --> 01:38:00,488 たとえ大神オーディンであろうとも それを侵すことはかなわぬ 1152 01:38:00,488 --> 01:38:02,823 そう思っていたがな 1153 01:38:02,823 --> 01:38:06,727 奴が あんなことで死ぬものか たちの悪い罠に違いない 1154 01:38:06,727 --> 01:38:11,065 奴は生きて どこかに隠れている 1155 01:38:11,065 --> 01:38:15,836 ところで このヤンの代理と称する ユリアン・ミンツなる者は何者か 1156 01:38:15,836 --> 01:38:19,236 ヤン艦隊の将帥では 聞いた覚えがないが 1157 01:38:27,381 --> 01:38:32,152 ヤンの法律上の被保護者で 階級は中尉 年齢は18歳 1158 01:38:32,152 --> 01:38:36,624 そうか そいつは気の毒だ この先 苦労が多いだろう 1159 01:38:36,624 --> 01:38:38,692 先人が偉大すぎるからな 1160 01:38:38,692 --> 01:38:41,896 誰が後継者になろうと ヤン・ウェンリーのような 1161 01:38:41,896 --> 01:38:44,498 あるいは それ以上のことが できるはずがない 1162 01:38:44,498 --> 01:38:46,567 部下がついていくともかぎらぬ 1163 01:38:46,567 --> 01:38:48,736 民主共和政の最後の砦も 1164 01:38:48,736 --> 01:38:54,108 敵に対しては難攻不落のまま ついに内側より ついえ去るか 1165 01:38:54,108 --> 01:38:57,378 となれば とにかくも戦いは終わる 1166 01:38:57,378 --> 01:39:01,215 兵士たちも ようやく故郷の 家族のもとへ帰れるというわけだ 1167 01:39:01,215 --> 01:39:03,150 不満の残る幕切れだが 1168 01:39:03,150 --> 01:39:07,755 ようやく平和がくるというのは 歓迎すべきことだろう 1169 01:39:07,755 --> 01:39:11,392 ヤン暗殺に使われた 帝国軍駆逐艦のうち 1170 01:39:11,392 --> 01:39:13,861 1隻はユリシーズに撃破され 1171 01:39:13,861 --> 01:39:17,064 1隻は逃亡中を 帝国軍 ビューロー大将旗下の 1172 01:39:17,064 --> 01:39:19,600 巡航艦隊に捕捉された 1173 01:39:19,600 --> 01:39:22,069 犯人たちの捕縛命令が出ていたが 1174 01:39:22,069 --> 01:39:26,640 「抵抗したために やむなく 撃沈した」と公式には記録された 1175 01:39:26,640 --> 01:39:29,877 このため ヤン暗殺の 直接の実行犯も 1176 01:39:29,877 --> 01:39:33,480 その姓名を知られることもなく 殉教を遂げた 1177 01:39:33,480 --> 01:39:37,084 ヤン暗殺犯たちが 帝国軍を装ったことについても 1178 01:39:37,084 --> 01:39:39,019 直ちに捜査の手が伸びたが 1179 01:39:39,019 --> 01:39:41,922 10名ほどの士官や 下士官の自殺によって 1180 01:39:41,922 --> 01:39:45,622 真相の究明は 極めて困難になってしまった 1181 01:39:47,728 --> 01:39:51,498 その事実は 先のワーレン暗殺未遂と合わせて 1182 01:39:51,498 --> 01:39:56,598 帝国軍内部を蚕食する地球教の 勢力の根強さを感じさせた 1183 01:40:02,109 --> 01:40:06,714 結局 地球教徒と分かっただけで 背後の事情は分からずじまいか 1184 01:40:06,714 --> 01:40:09,049 かの辣腕なる軍務尚書閣下が 1185 01:40:09,049 --> 01:40:12,052 遠くフェザーンから 目に見えぬ腕を伸ばして 1186 01:40:12,052 --> 01:40:15,289 ヤン・ウェンリーの心臓に ナイフを突き刺したのだとしても 1187 01:40:15,289 --> 01:40:17,691 俺は意外に思わぬ 1188 01:40:17,691 --> 01:40:20,928 だが宇宙に存在する 陰謀の全てを律することは 1189 01:40:20,928 --> 01:40:22,863 いかに あの男でも不可能だろう 1190 01:40:22,863 --> 01:40:27,534 可能にされてたまるか フン 1191 01:40:27,534 --> 01:40:29,470 ところで 1192 01:40:29,470 --> 01:40:33,774 問題はヤン亡きイゼルローンを 今後 どう処するかだ 1193 01:40:33,774 --> 01:40:35,709 卿には思うところがあるようだが 1194 01:40:35,709 --> 01:40:40,147 ヤンの死が そのまま平和の到来を 意味するものではなかろう 1195 01:40:40,147 --> 01:40:44,652 共和主義者たちは依然として イゼルローン要塞に立てこもっている 1196 01:40:44,652 --> 01:40:49,223 政戦両略から見れば 攻勢をかけるしか選択はあり得ん 1197 01:40:49,223 --> 01:40:51,659 まず降伏を勧告し 容れぬとあれば 1198 01:40:51,659 --> 01:40:54,395 帝国全軍の武力をもって これを討つ 1199 01:40:54,395 --> 01:40:57,631 卿の考えはどうだ? 同感だな 1200 01:40:57,631 --> 01:40:59,566 ヤン・ウェンリー死して 大神オーディンは 1201 01:40:59,566 --> 01:41:01,902 カイザーに宇宙を与えたもう 1202 01:41:01,902 --> 01:41:05,105 これを取らざるは かえって天意に背くものだ 1203 01:41:05,105 --> 01:41:08,008 だが… だが? 1204 01:41:08,008 --> 01:41:13,847 だがカイザーは喪中にある軍を 討つを潔しとされまい 1205 01:41:13,847 --> 01:41:18,485 「そんなものは単なる感傷に すぎぬ」と卿は言いたいのだろう 1206 01:41:18,485 --> 01:41:21,522 俺も つい先刻までは そう思っていたが 1207 01:41:21,522 --> 01:41:24,224 心境が変化したというわけか? 1208 01:41:24,224 --> 01:41:26,760 ものは考えようだ ロイエンタール 1209 01:41:26,760 --> 01:41:32,266 元々 卿も俺もイゼルローン回廊への 侵攻には反対だったではないか 1210 01:41:32,266 --> 01:41:34,668 我々の意見を カイザーが排されたのも 1211 01:41:34,668 --> 01:41:38,172 ヤン・ウェンリーという 偉大な敵手が存在したればこそだ 1212 01:41:38,172 --> 01:41:41,675 彼亡き今日 カイザーが 本来の戦略に立ち戻られるのは 1213 01:41:41,675 --> 01:41:43,644 むしろ当然のことだ 1214 01:41:43,644 --> 01:41:45,679 卿には分かっているはずだ 1215 01:41:45,679 --> 01:41:49,416 昨日 正しかった戦略が 今日も正しいとはかぎらん 1216 01:41:49,416 --> 01:41:52,386 ヤン・ウェンリーが生きている時に 正しかった戦略が 1217 01:41:52,386 --> 01:41:55,886 死後も最大の価値を 有し続けるとは言えぬ 1218 01:41:58,125 --> 01:42:02,730 だがカイザーと卿の意見が 一致するのであれば 1219 01:42:02,730 --> 01:42:05,165 俺の考えが 間違っているのかもしれん 1220 01:42:05,165 --> 01:42:07,201 これからは帝国軍の性格も変わる 1221 01:42:07,201 --> 01:42:10,971 外征のためではなく 治安維持を 目的にしたものになるだろう 1222 01:42:10,971 --> 01:42:13,040 このまま万事が収まればだが 1223 01:42:13,040 --> 01:42:17,311 それもよかろう 多くの兵士が生きて故郷に帰れる 1224 01:42:17,311 --> 01:42:20,280 ほぼ宇宙の統一も成ったし まず よしとせねばな 1225 01:42:20,280 --> 01:42:24,051 卿も愛する奥方のもとへ帰れるか ミッターマイヤー 1226 01:42:24,051 --> 01:42:26,451 ああ ありがたいことさ 1227 01:42:29,523 --> 01:42:31,792 ところで気になっていたのだが 1228 01:42:31,792 --> 01:42:37,064 卿の子を懐妊したという女性の 件は その後どうなっている? 1229 01:42:37,064 --> 01:42:40,067 5月2日に生まれた 男児だそうだ 1230 01:42:40,067 --> 01:42:44,171 そうか 確かに俺の子に違いない 1231 01:42:44,171 --> 01:42:47,608 親子二代 生まれるべきでは ないのに生まれてしまった 1232 01:42:47,608 --> 01:42:50,911 無事に育てば さぞ嫌われ者になるだろう 1233 01:42:50,911 --> 01:42:54,148 赤と黄色の瞳を 持っているかもしれんな 1234 01:42:54,148 --> 01:42:57,918 ロイエンタール あの女に対して 虚心でいられないのは分かるが 1235 01:42:57,918 --> 01:43:00,487 「生まれてきた子に罪はない」か 1236 01:43:00,487 --> 01:43:05,192 さあな 子を持たぬ俺には分からぬ 1237 01:43:05,192 --> 01:43:09,096 いないほうがいいさ 背かれる心配がないからな 1238 01:43:09,096 --> 01:43:12,466 だが もうよそう 見たこともない赤ん坊のために 1239 01:43:12,466 --> 01:43:14,802 俺たちが争う理由などないさ 1240 01:43:14,802 --> 01:43:17,738 ああ そのとおりだ さて俺は戻るとするか 1241 01:43:17,738 --> 01:43:22,242 戦うにせよ 戦わぬにせよ やるべきことは多いからな 1242 01:43:22,242 --> 01:43:25,779 戦いが終わるとなれば いよいよノイエ・ラント総督か 1243 01:43:25,779 --> 01:43:28,448 任地が遠く離れてしまうと こうして飲む機会も 1244 01:43:28,448 --> 01:43:33,020 少なくなってしまうな うん 1245 01:43:33,020 --> 01:43:36,323 やや ぎこちなく握手して 2人は別れた 1246 01:43:36,323 --> 01:43:39,059 無論 この時 彼らは知り得なかった 1247 01:43:39,059 --> 01:43:43,330 帝国軍の双璧にとって それが最後の握手であり 1248 01:43:43,330 --> 01:43:47,668 その日の酒は最後に酌み交わす 酒となったことを 1249 01:43:47,668 --> 01:43:51,268 新帝国歴2年 6月8日のことである 1250 01:44:00,881 --> 01:44:03,851 ミュラーが弔問の使者として 出発した直後 1251 01:44:03,851 --> 01:44:07,321 帝国軍の全軍に撤退が発令された 1252 01:44:07,321 --> 01:44:11,124 ミッターマイヤーの予測どおり 喪中にある軍を討つことのできる 1253 01:44:11,124 --> 01:44:13,360 ラインハルトでは なかったのである 1254 01:44:13,360 --> 01:44:17,297 だが かつての門閥貴族連合を 相手にしていた時であれば 1255 01:44:17,297 --> 01:44:20,133 このような態度は 取らなかったであろう 1256 01:44:20,133 --> 01:44:22,402 これは騎士道の精華であるのか 1257 01:44:22,402 --> 01:44:24,838 それともカイザーの覇気が 衰えたのか 1258 01:44:24,838 --> 01:44:27,074 ミッターマイヤーと ロイエンタールは 1259 01:44:27,074 --> 01:44:31,174 共通の疑問を胸に それぞれの任務に精励していた 1260 01:44:39,553 --> 01:44:43,457 6月12日 カイザー・ ラインハルトの名代として 1261 01:44:43,457 --> 01:44:46,860 帝国軍上級大将 ナイトハルト・ミュラーが 1262 01:44:46,860 --> 01:44:49,460 イゼルローン要塞を弔問した 1263 01:44:52,366 --> 01:44:55,269 迎え入れて大丈夫か? それこそ死間ではないか 1264 01:44:55,269 --> 01:44:57,938 カイザー・ラインハルトの 性格から考えても 1265 01:44:57,938 --> 01:45:01,141 そのような陰険な策略を 弄するとも思えません 1266 01:45:01,141 --> 01:45:04,511 第一 現在の彼我の戦力差を見ても 1267 01:45:04,511 --> 01:45:08,348 ミュラー上級大将ほどの重鎮を 犠牲にするとは思えません 1268 01:45:08,348 --> 01:45:11,885 カイザー・ラインハルトは ええかっこを するのが好きだからな 1269 01:45:11,885 --> 01:45:15,522 ヤン提督が生きている間でさえ そうだった 1270 01:45:15,522 --> 01:45:19,126 まして彼が亡き今 俺たちみたいな小物を相手に 1271 01:45:19,126 --> 01:45:22,029 こざかしい策略など 使う気にはなるまいよ 1272 01:45:22,029 --> 01:45:25,832 生前 あの人はミュラー提督を よく褒めていたわ 1273 01:45:25,832 --> 01:45:28,068 彼が来てくれたと聞けば 喜ぶでしょう 1274 01:45:28,068 --> 01:45:31,068 ぜひ会わせてあげたいわ 1275 01:46:35,402 --> 01:46:37,904 あなたにお目にかかれて うれしく思います 1276 01:46:37,904 --> 01:46:40,874 あなたのご主人は 我が軍にとって最強の 1277 01:46:40,874 --> 01:46:43,310 そして最良の敵でした 1278 01:46:43,310 --> 01:46:46,546 ありがとうございます ヤン・ウェンリーは生前 1279 01:46:46,546 --> 01:46:49,449 閣下のことを よく話しておりました 1280 01:46:49,449 --> 01:46:52,749 本日お越しいただいて きっと喜んでおります 1281 01:47:00,093 --> 01:47:03,530 ヘル・ミンツ 私は元々カイザーより 1282 01:47:03,530 --> 01:47:06,967 政治上の権限を委ねられている わけではありませんが 1283 01:47:06,967 --> 01:47:09,836 あなたたちがカイザーに対して 和平なり恭順なりを 1284 01:47:09,836 --> 01:47:12,472 申し込まれるのであれば その旨 私が 1285 01:47:12,472 --> 01:47:17,878 カイザーにお伝えしても よろしいのですが どうでしょうか 1286 01:47:17,878 --> 01:47:22,249 ミュラー提督 このような仮定を 申し上げることをお許しください 1287 01:47:22,249 --> 01:47:25,752 もし あなた方の敬愛なさる カイザーが亡くなったとしたら 1288 01:47:25,752 --> 01:47:28,722 あなた方は仰ぐ旗を お変えになりますか? 1289 01:47:28,722 --> 01:47:31,191 なるほど ヘル・ミンツの おっしゃるとおりだ 1290 01:47:31,191 --> 01:47:35,591 よしないことを申し上げた こちらこそ許していただきたい 1291 01:47:49,643 --> 01:47:51,878 どれほど立派な人間であっても 1292 01:47:51,878 --> 01:47:57,551 属している陣営が異なれば 殺し合わねばならないんだからな 1293 01:47:57,551 --> 01:47:59,853 ヘル・ミンツ あれは何です? 1294 01:47:59,853 --> 01:48:03,253 あ… いや さしつかえなければ 教えていただきたい 1295 01:48:05,659 --> 01:48:10,330 イゼルローンの将来を見限って 離脱しようと望む人たちです 1296 01:48:10,330 --> 01:48:14,034 ミュラー提督 お願いできる 筋のことではありませんが 1297 01:48:14,034 --> 01:48:16,903 あの人たちがハイネセンまで帰る その帰路を 1298 01:48:16,903 --> 01:48:19,639 帝国軍に 保証していただければ幸いです 1299 01:48:19,639 --> 01:48:21,639 あ… はい 1300 01:48:25,245 --> 01:48:28,715 司令官 離脱する連中に 倉庫を開放して 1301 01:48:28,715 --> 01:48:31,251 物資の搬出を 許可したというのは本当か? 1302 01:48:31,251 --> 01:48:33,987 いずれ再生産できる種類の物です 1303 01:48:33,987 --> 01:48:36,523 どうせ必要量以上の物は 置いておけませんし 1304 01:48:36,523 --> 01:48:39,426 持っていって 自由に 使ってもらったほうがいいですよ 1305 01:48:39,426 --> 01:48:42,762 それに給料や退職金を 出せるわけでもないのですから 1306 01:48:42,762 --> 01:48:44,762 フッ お人好しめ 1307 01:48:47,234 --> 01:48:49,536 保証については お約束しましょう 1308 01:48:49,536 --> 01:48:53,907 まあ それにしても私がこのような ことに口を出す立場ではないが 1309 01:48:53,907 --> 01:48:57,477 あの離脱者たちの中から 我が軍に協力する者が出ては 1310 01:48:57,477 --> 01:49:00,247 後日 あなたたちが 困るのではありませんか? 1311 01:49:00,247 --> 01:49:03,984 ええ 困ります ですが甘受するしかないでしょう 1312 01:49:03,984 --> 01:49:06,453 強制されて そうなることもあるでしょうし 1313 01:49:06,453 --> 01:49:09,189 それを云々する権利は 僕らにはありません 1314 01:49:09,189 --> 01:49:11,189 うん… 1315 01:49:15,562 --> 01:49:19,332 さて それではそろそろ 1316 01:49:19,332 --> 01:49:22,235 次は戦場で お目にかかることになるでしょう 1317 01:49:22,235 --> 01:49:24,638 それまで ご壮健で 1318 01:49:24,638 --> 01:49:27,638 お互いに そうありたいものですな 1319 01:49:44,558 --> 01:49:47,160 病床にあっても カイザー・ラインハルトは 1320 01:49:47,160 --> 01:49:50,797 専制支配者としての活動を 停止させはしなかった 1321 01:49:50,797 --> 01:49:55,001 軍務はロイエンタール ミッターマイヤーの 両元帥に委ねていたが 1322 01:49:55,001 --> 01:49:58,738 政務上のことは自身で 処理しないわけにはいかなかった 1323 01:49:58,738 --> 01:50:01,641 これは軍務における 両元帥のような存在が 1324 01:50:01,641 --> 01:50:04,544 政務において 見出せなかったことによる 1325 01:50:04,544 --> 01:50:08,415 その意味でシルヴァーベルヒが テロに倒れたことを惜しむ気持ちが 1326 01:50:08,415 --> 01:50:11,851 ラインハルトの中で 日々に強くなっていた 1327 01:50:11,851 --> 01:50:13,820 ヒルダに それを求めてもよかった 1328 01:50:13,820 --> 01:50:17,290 ところがラインハルトは ヒルダを幕僚総監に任じて 1329 01:50:17,290 --> 01:50:19,659 軍事面における権限を強化し 1330 01:50:19,659 --> 01:50:23,063 一方で政治的な発言権を 失わせてしまった 1331 01:50:23,063 --> 01:50:27,901 専制国家においても文官と武官の 区別は守られるべきであった 1332 01:50:27,901 --> 01:50:31,671 ヒルダ自身 自分の地位と権限を わきまえていたから 1333 01:50:31,671 --> 01:50:35,008 国政に関する質問には なるべく応じないようにしていた 1334 01:50:35,008 --> 01:50:38,912 ああ そうか フロイラインを 帝国宰相にでもしないかぎり 1335 01:50:38,912 --> 01:50:41,548 余の相談には応じてくれぬのだな 1336 01:50:41,548 --> 01:50:43,648 陛下 1337 01:50:48,688 --> 01:50:50,624 この時期のラインハルトの施策は 1338 01:50:50,624 --> 01:50:53,293 「上からの革命」とも 言うべきものだった 1339 01:50:53,293 --> 01:50:58,131 特に民政尚書カール・ブラッケの 発案になる福祉政策の向上は 1340 01:50:58,131 --> 01:51:00,400 ローエングラム王朝の 特質とも言える 1341 01:51:00,400 --> 01:51:04,304 専制下の社会的公正の実現に 大きく寄与している 1342 01:51:04,304 --> 01:51:07,574 またラインハルト自身は 名言していないが 1343 01:51:07,574 --> 01:51:11,878 貴族制度を自然に消滅させ 皇帝と人民を直結させる 1344 01:51:11,878 --> 01:51:14,878 自由帝政を 志向していたのかもしれない 1345 01:51:17,684 --> 01:51:20,253 陛下 お召し上がりに ならないのですか? 1346 01:51:20,253 --> 01:51:22,689 食べたくないのだ でも陛下 1347 01:51:22,689 --> 01:51:25,258 召し上がらなくては 体力がつきません 1348 01:51:25,258 --> 01:51:29,629 早く回復なさるため ご無理でも どうぞお召しあがりください 1349 01:51:29,629 --> 01:51:33,366 エミール!お前は皇帝である余に 命令するのか 1350 01:51:33,366 --> 01:51:39,172 余を近侍の要求で 食べたくもない 料理を食べねばならんのか 1351 01:51:39,172 --> 01:51:41,174 あ… 悪かった エミール 1352 01:51:41,174 --> 01:51:44,778 余は時々 自分の短気さを 持て余すことがある 1353 01:51:44,778 --> 01:51:48,778 許してくれ 一口でも 食べることにするから 1354 01:51:53,119 --> 01:51:55,622 エミールが退出すると ラインハルトは 1355 01:51:55,622 --> 01:51:57,957 二口だけスープをすすった 1356 01:51:57,957 --> 01:52:00,860 副官シュトライト中将が 面会を求めなければ 1357 01:52:00,860 --> 01:52:05,031 無理にも もう一口ぐらいは 飲んだかもしれない 1358 01:52:05,031 --> 01:52:08,535 シュトライトの用件は シュタインメッツの遺産についてであった 1359 01:52:08,535 --> 01:52:11,404 彼は生前 遺言めいた手紙を残しており 1360 01:52:11,404 --> 01:52:15,041 全ての財産を 1人の女性に遺すと記してあった 1361 01:52:15,041 --> 01:52:16,976 故人の遺志を尊重するため 1362 01:52:16,976 --> 01:52:20,313 ラインハルトの許可を 求めたいというのである 1363 01:52:20,313 --> 01:52:25,652 それは構わぬが シュタインメッツは 独身であったはずではないか 1364 01:52:25,652 --> 01:52:28,688 法律上の結婚はしておいででは ありませんでしたが 1365 01:52:28,688 --> 01:52:31,324 グレーチェン・フォン・ エアフルトという婦人と 1366 01:52:31,324 --> 01:52:33,393 5年来の交際があったそうです 1367 01:52:33,393 --> 01:52:36,162 なぜ結婚しなかったのだ? はい 1368 01:52:36,162 --> 01:52:38,231 「陛下が皇妃をお迎えになるまで」 1369 01:52:38,231 --> 01:52:41,835 「臣下たる自分も家庭は持たぬ」と 語っておられたよし 1370 01:52:41,835 --> 01:52:43,870 何をバカな 1371 01:52:43,870 --> 01:52:46,573 ミッターマイヤーや アイゼナッハは余の忠臣だが 1372 01:52:46,573 --> 01:52:48,908 きちんと 家庭を営んでいるではないか 1373 01:52:48,908 --> 01:52:51,778 シュタインメッツも 結婚すればよかったのだ 1374 01:52:51,778 --> 01:52:53,713 お言葉ですが 陛下 1375 01:52:53,713 --> 01:52:56,282 陛下ご自身が お独りであられる以上 1376 01:52:56,282 --> 01:52:58,785 臣下がそれにならうのも 当然のこと 1377 01:52:58,785 --> 01:53:01,154 そうはお思いになりませんか? 1378 01:53:01,154 --> 01:53:03,923 つまり卿は余に皇妃を迎えろと 1379 01:53:03,923 --> 01:53:07,494 それを言いたいのか? もし余が死んだ時は… 1380 01:53:07,494 --> 01:53:10,397 陛下 血相を変えることもあるまい 1381 01:53:10,397 --> 01:53:12,332 余は かのルドルフではない 1382 01:53:12,332 --> 01:53:15,068 皇帝であろうが 不老不死ではいられない 1383 01:53:15,068 --> 01:53:18,304 その程度のことは わきまえている 1384 01:53:18,304 --> 01:53:22,876 もし余が死んで血族なき時は 臣下でも他の何者でもよい 1385 01:53:22,876 --> 01:53:25,779 実力のある者が 自らを帝位にでも王位にでも 1386 01:53:25,779 --> 01:53:29,649 つければよかろう 元々 余はそう思っていた 1387 01:53:29,649 --> 01:53:32,018 余が全宇宙を 征服したからといって 1388 01:53:32,018 --> 01:53:37,318 余の子孫が実力も名望もなく それを継承すべき理由はあるまい 1389 01:53:42,162 --> 01:53:46,065 ミュラーの帰還を待って 帝国軍は撤退を開始した 1390 01:53:46,065 --> 01:53:48,101 敵襲の危険はないとはいえ 1391 01:53:48,101 --> 01:53:53,139 雑然として軍を引くことは 彼らの矜持が許さなかった 1392 01:53:53,139 --> 01:53:57,010 同時に統帥本部総長の任を 解かれたロイエンタールが 1393 01:53:57,010 --> 01:54:00,313 ノイエ・ラント総督としての 新たな印綬を帯びて 1394 01:54:00,313 --> 01:54:04,751 惑星ハイネセンに赴任していった 1395 01:54:04,751 --> 01:54:06,986 マイン・カイザーよ あなたは 1396 01:54:06,986 --> 01:54:10,557 私に過分な地位と権力を 与えてくださるが 1397 01:54:10,557 --> 01:54:14,761 何を望んでおられるのか 私が単に忠実で 1398 01:54:14,761 --> 01:54:18,861 有益な覇道の歯車であれば それでいいのか 1399 01:54:24,437 --> 01:54:26,473 これで終わったのでしょうか? 閣下 1400 01:54:26,473 --> 01:54:29,275 さてな 何かこう 宇宙の半分が 1401 01:54:29,275 --> 01:54:31,945 空虚になってしまったような 気がします 1402 01:54:31,945 --> 01:54:34,948 ヤン・ウェンリーは我が軍にとって 憎むべき敵ではありましたが 1403 01:54:34,948 --> 01:54:37,750 偉大な用兵家であったことは 確かです 1404 01:54:37,750 --> 01:54:40,720 昼が昼らしくあるためには 夜を必要とするように 1405 01:54:40,720 --> 01:54:44,320 我が軍には あの男が 必要だったのではないでしょうか 1406 01:54:47,060 --> 01:54:49,596 フェザーンに帰ったら 葬儀が続くぞ 1407 01:54:49,596 --> 01:54:51,531 ファーレンハイト シュタインメッツ 1408 01:54:51,531 --> 01:54:53,533 それにシルヴァーベルヒ 1409 01:54:53,533 --> 01:54:56,269 なんて年でしょうね まったく 1410 01:54:56,269 --> 01:55:00,073 ローエングラム王朝にとっては 大変な厄年と言うべきです 1411 01:55:00,073 --> 01:55:03,910 まだ あと半年残っているぞ 脅かさないでください 元帥 1412 01:55:03,910 --> 01:55:06,479 私としては 今年の不幸は 前半で使い果たしたと 1413 01:55:06,479 --> 01:55:10,083 思いたいところなのですから 1414 01:55:10,083 --> 01:55:12,452 まったく 不幸とか不運とかに 定量があるなら 1415 01:55:12,452 --> 01:55:15,188 将来の計画というものが 立てやすいだろう 1416 01:55:15,188 --> 01:55:19,526 出征のたび エヴァに心配を かけることも なくなるかもしれん 1417 01:55:19,526 --> 01:55:23,396 バイエルライン 卿には 恋人の一人ぐらいはいないのか? 1418 01:55:23,396 --> 01:55:26,699 おりません おらんのか?一人も 1419 01:55:26,699 --> 01:55:31,099 あ… いえ 小官にとっては 軍が恋人でありますから 1420 01:55:33,239 --> 01:55:36,142 いえいえ 元帥閣下の奥さんのような 1421 01:55:36,142 --> 01:55:39,112 素敵な女性を ぜひ見つけたいと 思っておりますが 1422 01:55:39,112 --> 01:55:41,948 これが なかなか 1423 01:55:41,948 --> 01:55:43,950 バイエルライン はっ 1424 01:55:43,950 --> 01:55:48,054 俺は卿に用兵は教えたつもりだ だがな いいか? 1425 01:55:48,054 --> 01:55:51,691 恋人の探し方と冗談口の叩き方は 自分で勉強しろ 1426 01:55:51,691 --> 01:55:54,491 自習自得も たまにはよしだ 1427 01:55:57,463 --> 01:55:59,463 はあ… 1428 01:56:01,334 --> 01:56:04,804 ヤン・ウェンリーは 民主共和政の最大の擁護者であり 1429 01:56:04,804 --> 01:56:07,707 ただ一人の例外を除いて この5世紀で最高の 1430 01:56:07,707 --> 01:56:09,976 そして最大の軍人だった 1431 01:56:09,976 --> 01:56:13,846 彼が死んで 民主共和勢力は 瓦解するだろうか 1432 01:56:13,846 --> 01:56:15,882 俺も以前は そう思っていたが 1433 01:56:15,882 --> 01:56:18,318 今では必ずしも そうは思えない 1434 01:56:18,318 --> 01:56:21,020 本人の希望はどうであれ ヤン・ウェンリーは死して 1435 01:56:21,020 --> 01:56:24,958 民主共和政における不可侵の 存在になったように思えるのだ 1436 01:56:24,958 --> 01:56:28,161 彼の遺志を受け継いで 戦おうと志す者がいて 1437 01:56:28,161 --> 01:56:30,997 イゼルローンは その聖地となるだろう 1438 01:56:30,997 --> 01:56:32,932 統率する者の器局によっては 1439 01:56:32,932 --> 01:56:35,835 不毛な戦いが 今後も 続くことになるかもしれない 1440 01:56:35,835 --> 01:56:40,173 ただ イゼルローンだけでは我が軍に 敵対することはできないから 1441 01:56:40,173 --> 01:56:46,112 むしろ彼らを利用しようと する者の存在が問題になると思う 1442 01:56:46,112 --> 01:56:51,784 だが さしあたり無事に帰って 君の顔を見ることができる幸せを 1443 01:56:51,784 --> 01:56:54,784 カイザーと部下たちに感謝しよう 1444 01:56:58,591 --> 01:57:03,096 宇宙歴800年 新帝国歴2年6月 1445 01:57:03,096 --> 01:57:06,296 とにかくも 一つの戦いは終わった 1446 01:58:47,400 --> 01:58:49,435 カイザー・ラインハルトは フェザーンへの遷都を 1447 01:58:49,435 --> 01:58:52,538 正式に布告した ヤン・ウェンリー亡き今 1448 01:58:52,538 --> 01:58:55,441 人類社会の統一も 時間の問題と思われ 1449 01:58:55,441 --> 01:58:58,111 誰も平和の訪れを確信する中 1450 01:58:58,111 --> 01:59:00,980 それを望まぬ者たちもいた 1451 01:59:00,980 --> 01:59:04,250 銀河に波 いまだやまず 1452 01:59:04,250 --> 01:59:09,655 次回「銀河英雄伝説」 第85話「遷都令」 1453 01:59:09,655 --> 01:59:13,255 銀河の歴史が また1ページ