1 00:03:03,799 --> 00:03:08,537 イゼルローンよりの帰途 ようやく フェザーンとの通信が可能となると 2 00:03:08,537 --> 00:03:13,142 ミッターマイヤーは早速 現地の内国安全保障局を呼び出し 3 00:03:13,142 --> 00:03:16,345 かねて気にかかっていた件を 問いただした 4 00:03:16,345 --> 00:03:19,315 例のエルフリーデ・フォン・ コールラウシュなる婦人は 5 00:03:19,315 --> 00:03:23,152 その後 どうしておるか? はっ それが… 6 00:03:23,152 --> 00:03:27,690 先月末 生まれた乳児と共に 行方をくらましてしまいました 7 00:03:27,690 --> 00:03:30,960 今日まで全く姿を現しません 何! 8 00:03:30,960 --> 00:03:34,330 何しろ警察力が 十分とは言えませんし 9 00:03:34,330 --> 00:03:37,300 過日の工部尚書爆殺事件より このかた 10 00:03:37,300 --> 00:03:40,603 そちらに主力を 注いでおりますもので 11 00:03:40,603 --> 00:03:45,141 揚げ句に その爆殺事件の犯人すら 捕縛しておらんではないか 12 00:03:45,141 --> 00:03:49,979 内国安全保障局とやらの 捜査能力とは その程度のものか 13 00:03:49,979 --> 00:03:53,979 ケスラーの憲兵隊なら とうに事件を解決していたろうに 14 00:03:59,655 --> 00:04:02,191 親友であるロイエンタールを 陥れた 15 00:04:02,191 --> 00:04:04,560 エルフリーデへの憎しみはあるが 16 00:04:04,560 --> 00:04:08,564 赤ん坊を抱えて さすらっている かと思うと哀れでもあった 17 00:04:08,564 --> 00:04:11,967 まして乳児に 何の責任があるというのだろう 18 00:04:11,967 --> 00:04:14,870 赤ん坊か… 19 00:04:14,870 --> 00:04:17,773 ミッターマイヤーは 結婚後8年経っても 20 00:04:17,773 --> 00:04:21,410 子供の生まれない 自分たち夫婦のことと思い合わせ 21 00:04:21,410 --> 00:04:25,110 天の摂理の不条理を 思わずにはいられなかった 22 00:04:49,071 --> 00:04:53,342 宇宙歴800年 新帝国歴2年7月1日 23 00:04:53,342 --> 00:04:57,342 カイザー・ラインハルトは 惑星フェザーンに帰着した 24 00:05:06,222 --> 00:05:09,558 到着早々のラインハルトらを 驚かせたのは 25 00:05:09,558 --> 00:05:13,562 内国安全保障局によって シルヴァーベルヒを爆殺した 26 00:05:13,562 --> 00:05:18,267 テロの実行犯が 逮捕されたことである 27 00:05:18,267 --> 00:05:23,506 この功績によって ラングは 内国安全保障局長を兼任のまま 28 00:05:23,506 --> 00:05:27,176 内務省次官に進んだ 29 00:05:27,176 --> 00:05:31,576 更に10万帝国マルクの報奨金を 下賜されたが 30 00:05:35,317 --> 00:05:39,417 これを全額 フェザーンの福祉局に 寄付してしまった 31 00:05:43,192 --> 00:05:45,361 彼を知る者のほとんどが 32 00:05:45,361 --> 00:05:48,564 見え透いた偽善として その厚意を忌んだが 33 00:05:48,564 --> 00:05:51,901 彼が下級官吏の頃から 給料の一部を 34 00:05:51,901 --> 00:05:56,071 育英事業や福祉施設に 匿名で送金し続けていたことは 35 00:05:56,071 --> 00:05:58,471 その死後に明らかになる 36 00:06:05,614 --> 00:06:09,251 続く7月7日 戦死したファーレンハイト 37 00:06:09,251 --> 00:06:11,320 シュタインメッツの両元帥と 38 00:06:11,320 --> 00:06:15,057 テロに倒れた工部尚書 シルヴァーベルヒの国葬が 39 00:06:15,057 --> 00:06:17,960 皇帝臨御の下 執り行われた 40 00:06:17,960 --> 00:06:20,830 責任者である オーベルシュタインによる運営は 41 00:06:20,830 --> 00:06:25,134 非の打ちどころなく 式は滞りなく終了した 42 00:06:25,134 --> 00:06:27,069 オーベルシュタインの奴は ああやって 43 00:06:27,069 --> 00:06:29,138 葬儀さえ 取り仕切っていればいいのだ 44 00:06:29,138 --> 00:06:32,441 よく似合うし 誰の迷惑にもならんからな 45 00:06:32,441 --> 00:06:36,812 今年のうちは やはり無理だな 喪に服すべきだろうし 46 00:06:36,812 --> 00:06:41,283 何がでありますか? ん?うん… 47 00:06:41,283 --> 00:06:44,753 実はな 俺は結婚することにしたんだ 48 00:06:44,753 --> 00:06:49,291 は?それはおめでとうございます 49 00:06:49,291 --> 00:06:52,761 艦隊一同に成り代わりまして お祝い申し上げます 50 00:06:52,761 --> 00:06:57,433 ああ ところで 誰と結婚するか分かるか? 51 00:06:57,433 --> 00:07:00,769 閣下が入院なさっていた時に 付き添っていた 52 00:07:00,769 --> 00:07:03,239 黒い髪の看護婦では ありませんか? 53 00:07:03,239 --> 00:07:05,839 そうだ どうして分かった? 54 00:07:22,525 --> 00:07:27,329 ファーレンハイトと シュタインメッツに そして 55 00:07:27,329 --> 00:07:29,329 ヤン・ウェンリーに 56 00:07:36,438 --> 00:07:41,043 ヤン未亡人は美しい人でしたよ 57 00:07:41,043 --> 00:07:43,913 俺たちは テロなど意に介さなかったが 58 00:07:43,913 --> 00:07:46,649 シルヴァーベルヒばかりか かのヤン・ウェンリーまで 59 00:07:46,649 --> 00:07:49,585 テロに倒れたとなると 軽視はできん 60 00:07:49,585 --> 00:07:52,888 共和主義者の残党 旧帝国の生き残り 61 00:07:52,888 --> 00:07:56,292 フェザーンの旧権力 地球教の残党 62 00:07:56,292 --> 00:08:00,129 テロに走りそうな連中の リストには事欠かんからな 63 00:08:00,129 --> 00:08:03,032 地球教は壊滅させたと 思っていたが 64 00:08:03,032 --> 00:08:06,535 その残党が今回のような 事件を引き起こすとは 65 00:08:06,535 --> 00:08:12,174 今後の地球教残党の処理は 俺の責任において必ず 66 00:08:12,174 --> 00:08:16,946 その意味では内国安全保障局 などに任せておいていいのか 67 00:08:16,946 --> 00:08:20,783 確かに先日のテロ事件の犯人は 捕らえたかもしれんが 68 00:08:20,783 --> 00:08:24,483 例のルビンスキーの行方一つ つかんではおらんのだろう 69 00:08:39,535 --> 00:08:42,235 失礼いたします 次官閣下 70 00:08:44,773 --> 00:08:47,109 気色悪いあいさつは抜きにしよう 71 00:08:47,109 --> 00:08:50,346 今日 ローエングラム王朝の 忠実な臣僚である 72 00:08:50,346 --> 00:08:52,815 このハイドリッヒ・ラングに 一体 何の用があって 73 00:08:52,815 --> 00:08:55,417 わざわざ呼び出したのだ 74 00:08:55,417 --> 00:08:58,387 今日すぐに というわけでは ございませんが 75 00:08:58,387 --> 00:09:01,256 いずれ次官閣下の影響力によって 76 00:09:01,256 --> 00:09:06,462 新王朝と私めの関係修復を お願いいたしたいのでございます 77 00:09:06,462 --> 00:09:11,066 貴様の立場を忘れるなよ 俺がカイザーに一言 申し上げれば 78 00:09:11,066 --> 00:09:15,537 貴様の両肩は今後 重い頭部の 負担に耐える必要がなくなるのだ 79 00:09:15,537 --> 00:09:20,175 対等に要求など できる立場だと思うのか 80 00:09:20,175 --> 00:09:22,945 これは むごい おっしゃりようですな 局長… 81 00:09:22,945 --> 00:09:25,314 ではない 次官閣下 82 00:09:25,314 --> 00:09:29,151 私は何ら罪なくして フェザーンの統治権を奪われた身 83 00:09:29,151 --> 00:09:31,086 いわば被害者です 84 00:09:31,086 --> 00:09:35,491 ゆえにカイザーを お恨み申し上げてるというわけか 85 00:09:35,491 --> 00:09:38,427 いや とんでもない カイザー・ラインハルトは 86 00:09:38,427 --> 00:09:41,697 古今に比類ない英雄で あらせられます 87 00:09:41,697 --> 00:09:44,366 お望みならば フェザーンの統治権など 88 00:09:44,366 --> 00:09:46,368 いつでも献上しましたものを 89 00:09:46,368 --> 00:09:48,570 カイザーは覇気の赴くまま 90 00:09:48,570 --> 00:09:52,775 私ごとき路傍の小石は 無視して直進なさいました 91 00:09:52,775 --> 00:09:55,344 それが残念と 申し上げているだけで 92 00:09:55,344 --> 00:09:57,579 フン 当然だ 93 00:09:57,579 --> 00:10:01,150 カイザーは貴様などの厚意を 必要となさる方ではない 94 00:10:01,150 --> 00:10:05,020 全宇宙が陛下の御手のうちに あるのだからな 95 00:10:05,020 --> 00:10:08,724 次官閣下のご指摘には 汗顔の至りです 96 00:10:08,724 --> 00:10:12,594 しかし私の真情は閣下にも いささかお分かりでしょう 97 00:10:12,594 --> 00:10:14,930 私が閣下に告発した者どもは 98 00:10:14,930 --> 00:10:19,635 真実 工部尚書閣下の爆殺犯人で あったではありませんか 99 00:10:19,635 --> 00:10:22,571 いや あの者どもには とうに目をつけておった 100 00:10:22,571 --> 00:10:27,409 だが物証がなかったのだ 旧王朝の暗黒時代と異なり 101 00:10:27,409 --> 00:10:30,679 カイザー・ラインハルトの 御世においては 物証なくして 102 00:10:30,679 --> 00:10:33,579 人を罪に落とすわけには いかんのでな 103 00:10:38,887 --> 00:10:41,087 ん? 104 00:10:45,260 --> 00:10:49,798 ほう?次官閣下には この女をご存じでしたか 105 00:10:49,798 --> 00:10:51,800 この女は私が見るところ 106 00:10:51,800 --> 00:10:55,604 悲しむべきことに 精神に異常をきたしておりますな 107 00:10:55,604 --> 00:10:58,006 あたら美女が惜しいことです 108 00:10:58,006 --> 00:10:59,942 なぜ そうと分かる? 109 00:10:59,942 --> 00:11:05,647 一つには自分がリヒテンラーデ公の 一族であると思い込んでいること 110 00:11:05,647 --> 00:11:10,285 リヒテンラーデ公の一族がフェザーンに いるべき道理がありませんからな 111 00:11:10,285 --> 00:11:13,122 それだけか? いま一つ 112 00:11:13,122 --> 00:11:16,692 この女には生後まもなくの 赤ん坊がおります 113 00:11:16,692 --> 00:11:20,329 その赤ん坊が なんと現王朝の重臣 114 00:11:20,329 --> 00:11:25,134 名将の中の名将たる ロイエンタール元帥の種であるとか 115 00:11:25,134 --> 00:11:30,405 よし 分かった 面倒な探り合いは これ以上無用だ 116 00:11:30,405 --> 00:11:34,710 あのロイエンタールめに 大逆の罪を 犯させることができるのだな? 117 00:11:34,710 --> 00:11:39,248 確かに奴を破滅させることが できるというのだな? 118 00:11:39,248 --> 00:11:42,918 ご明察のとおり 閣下がお望みでしたら 119 00:11:42,918 --> 00:11:45,888 全力を尽くして ご希望に添いましょう 120 00:11:45,888 --> 00:11:49,158 それができたら貴様を カイザーに取りなす件については 121 00:11:49,158 --> 00:11:54,596 確約してもよい だが いいか? あくまで成功の後にだぞ 122 00:11:54,596 --> 00:11:59,334 フェザーン人の空手形を 頭から信じるほど俺は甘くはない 123 00:11:59,334 --> 00:12:01,270 ごもっともですな 124 00:12:01,270 --> 00:12:05,140 さすがに軍務尚書の片腕と 称されるラング閣下 125 00:12:05,140 --> 00:12:09,578 私も小細工をもって 信頼を求めようとは思いません 126 00:12:09,578 --> 00:12:14,378 まず いま一つの提案を お聞きいただきましょうか 127 00:12:18,320 --> 00:12:23,020 まもなくフェザーン全体を 驚愕させる事件が発生した 128 00:12:32,801 --> 00:12:35,304 フェザーン代理総督 ニコラス・ボルテックが 129 00:12:35,304 --> 00:12:37,573 逮捕 拘禁されたのである 130 00:12:37,573 --> 00:12:40,442 内国安全保障局の発表によれば 131 00:12:40,442 --> 00:12:45,147 工部尚書シルヴァーベルヒ爆殺の 共犯ということであった 132 00:12:45,147 --> 00:12:49,418 工部尚書に事実上の フェザーン行政官の地位を奪われ 133 00:12:49,418 --> 00:12:52,321 それを恨んでのことであり 事件の時 134 00:12:52,321 --> 00:12:56,158 ボルテック自身も負傷したが それこそ捜査の矛先を 135 00:12:56,158 --> 00:12:59,858 他者にそらそうとする 奸計であるとされた 136 00:13:12,608 --> 00:13:16,078 やがてボルテックは 獄中で服毒自殺を遂げ 137 00:13:16,078 --> 00:13:20,078 事件は落着したと 公式には発表された 138 00:13:24,486 --> 00:13:27,222 あの時 負傷したのが 怪しいと言うのなら 139 00:13:27,222 --> 00:13:31,760 オーベルシュタイン元帥や俺も 容疑者ということになるな 140 00:13:31,760 --> 00:13:34,062 ん?考えてみれば 141 00:13:34,062 --> 00:13:36,965 俺が犯人ではないと 証明するものもない 142 00:13:36,965 --> 00:13:41,136 ラングが その気になれば俺を 犯人に仕立てることもできるのか 143 00:13:41,136 --> 00:13:44,039 閣下? この一件は不審だ 144 00:13:44,039 --> 00:13:46,675 ラングが最初から ボルテックを陥れるべく 145 00:13:46,675 --> 00:13:50,245 証拠をねつ造したのではないか? まさか 146 00:13:50,245 --> 00:13:52,481 奴ならば そのくらいはやりかねん 147 00:13:52,481 --> 00:13:54,816 いや 奴がその気になれば 148 00:13:54,816 --> 00:13:58,320 この俺をも無実の罪に 落とすことも可能ではないか 149 00:13:58,320 --> 00:14:02,624 現にロイエンタール元帥の 一件もある 150 00:14:02,624 --> 00:14:04,626 このままでは我が帝国は 151 00:14:04,626 --> 00:14:08,363 一酷吏の跋扈する 恐怖政治となってしまう 152 00:14:08,363 --> 00:14:11,934 大げさかもしれぬが 毒草は芽のうちに摘むべきだろう 153 00:14:11,934 --> 00:14:14,236 しかし具体的に どうなさいますか 154 00:14:14,236 --> 00:14:19,741 この一件に不安を感じたルッツは 結局 信頼できる僚友である 155 00:14:19,741 --> 00:14:23,345 憲兵総監 ウルリッヒ・ケスラー上級大将に 156 00:14:23,345 --> 00:14:26,615 ラングの危険性を訴えて 対処を求めるべく 157 00:14:26,615 --> 00:14:29,415 オーディンに通信文を送った 158 00:14:34,423 --> 00:14:40,028 信用しているの? あのラングとかいう男を 159 00:14:40,028 --> 00:14:42,965 お前らしくもない質問だな ドミニク 160 00:14:42,965 --> 00:14:45,434 あいつは小物だ その証拠に 161 00:14:45,434 --> 00:14:49,004 実物より大きく映る鏡を 見せてやれば喜ぶ 162 00:14:49,004 --> 00:14:52,708 俺は奴が欲しがる鏡を 示してやっただけさ 163 00:14:52,708 --> 00:14:55,944 そういうあなたはどうなの? その小物に頼んで 164 00:14:55,944 --> 00:14:58,347 ボルテックを殺させたじゃないの 165 00:14:58,347 --> 00:15:01,383 かつての部下が 代理総督様とやらに納まって 166 00:15:01,383 --> 00:15:05,821 カイザーの忠臣面をしているのは そりゃ不愉快でしょうけど 167 00:15:05,821 --> 00:15:08,857 ああいうやり方で 無実の人間を殺しておいて 168 00:15:08,857 --> 00:15:11,426 気分よくお酒が飲めるわけ? 169 00:15:11,426 --> 00:15:13,762 お前 本当に気づかないのか? 170 00:15:13,762 --> 00:15:17,132 それとも気づかぬ風を 装っているのか 171 00:15:17,132 --> 00:15:19,067 何のこと? 172 00:15:19,067 --> 00:15:21,837 まあいい 教えてやろう 173 00:15:21,837 --> 00:15:24,639 別にボルテックでも 誰でもよかったのだ 174 00:15:24,639 --> 00:15:28,910 俺の目的はラングに 無実の人間を殺させることだった 175 00:15:28,910 --> 00:15:32,848 奴は自分で自分の首を絞める ロープを手に取ったのさ 176 00:15:32,848 --> 00:15:36,084 ラングがあなたの軛から 脱しようとしたら 177 00:15:36,084 --> 00:15:39,588 ボルテック謀殺の一件を カイザーなり軍務尚書なりに 178 00:15:39,588 --> 00:15:41,988 知らせるというわけ? 179 00:16:08,316 --> 00:16:12,187 どう 元気? 180 00:16:12,187 --> 00:16:14,790 オスカー・フォン・ ロイエンタール元帥は 181 00:16:14,790 --> 00:16:17,993 遠からず反逆に追い込まれるわよ 182 00:16:17,993 --> 00:16:20,062 ルビンスキーにしても ラングにしても 183 00:16:20,062 --> 00:16:24,099 戦場で大軍を率いて 敵を撃破することはできないけど 184 00:16:24,099 --> 00:16:28,503 そういうことのできる男を 背中から刺すことはできるわ 185 00:16:28,503 --> 00:16:31,473 それこそ望むところよ 186 00:16:31,473 --> 00:16:37,112 だけど その子の父親には 違いないでしょ 187 00:16:37,112 --> 00:16:41,116 何て名前なの?その子 188 00:16:41,116 --> 00:16:43,418 世の中 さまざまだわね 189 00:16:43,418 --> 00:16:46,121 子供が欲しいのに 生まれない夫婦もいれば 190 00:16:46,121 --> 00:16:50,625 産んだ子に殺されかける親もいる たまには自分の母親に 191 00:16:50,625 --> 00:16:54,925 父親が殺される子もいる というわけだわ 192 00:16:57,766 --> 00:17:00,735 まあ要求があるんだったら いつでもおっしゃい 193 00:17:00,735 --> 00:17:04,406 あんたが その子に父親を 憎ませたいと思ったところで 194 00:17:04,406 --> 00:17:09,044 それまでに死んでしまったら 元も子もないのだからね 195 00:17:09,044 --> 00:17:11,044 待って 196 00:17:12,914 --> 00:17:19,488 ミルクと肌着をこの子に お願い 197 00:17:19,488 --> 00:17:24,288 いいわ それと看護婦も つけたほうがよさそうね 198 00:17:43,411 --> 00:17:46,348 どうしたの?また あの発作? 199 00:17:46,348 --> 00:17:49,148 そこの薬 取ってくれ 200 00:18:02,130 --> 00:18:06,968 発作の起きる間隔が だんだん短くなるわね 201 00:18:06,968 --> 00:18:08,937 医者に診せたら? 202 00:18:08,937 --> 00:18:11,306 医者は役に立たん そう 203 00:18:11,306 --> 00:18:14,643 まあ あんたの体だから 私は構わないけど 204 00:18:14,643 --> 00:18:17,913 もっとも医者が不要だ という点には賛成するわ 205 00:18:17,913 --> 00:18:22,184 むしろ これは呪術師の 営業範囲でしょうからね 206 00:18:22,184 --> 00:18:24,419 どういう意味だ? おや 207 00:18:24,419 --> 00:18:26,755 とうに承知してると思ったけど 208 00:18:26,755 --> 00:18:30,325 半分は地球教の総大主教とやらの 呪いで 209 00:18:30,325 --> 00:18:33,094 もう半分は ルパート・ケッセルリンク 210 00:18:33,094 --> 00:18:37,699 あんたの息子の祟りよ 医者の手に負えるわけもないわね 211 00:18:37,699 --> 00:18:40,035 ああ… 212 00:18:40,035 --> 00:18:41,970 祟りのほうはともかく 213 00:18:41,970 --> 00:18:44,439 呪いのほうは 当たっているかもしれんな 214 00:18:44,439 --> 00:18:48,076 あの総大主教なら その程度のことはやれそうだ 215 00:18:48,076 --> 00:18:50,512 何を らちもないこと言ってるの 216 00:18:50,512 --> 00:18:53,114 本当に総大主教に呪力があるなら 217 00:18:53,114 --> 00:18:56,351 カイザー・ラインハルトを 呪い殺せばいいじゃない 218 00:18:56,351 --> 00:19:00,622 彼は若くて青春の香気に あふれて… あ… 219 00:19:00,622 --> 00:19:05,093 どうした?そうか そういえば カイザー・ラインハルトも 220 00:19:05,093 --> 00:19:08,597 昨今 しばしば発熱して 病臥するという噂だが 221 00:19:08,597 --> 00:19:10,597 バカバカしい 222 00:19:20,842 --> 00:19:25,413 7月29日 勅令が発布され 新銀河帝国の首都は 223 00:19:25,413 --> 00:19:29,284 正式にフェザーンに 移ることになった 224 00:19:29,284 --> 00:19:32,053 これに伴い オーディンに残留していた 225 00:19:32,053 --> 00:19:34,456 国務尚書以下の全閣僚も 226 00:19:34,456 --> 00:19:38,093 所轄の省庁ごと 年内にフェザーンに移動する 227 00:19:38,093 --> 00:19:41,429 また 憲兵総監と 帝都防衛司令官を兼ねる 228 00:19:41,429 --> 00:19:45,300 ケスラー上級大将も 司令部をフェザーンに移し 229 00:19:45,300 --> 00:19:48,203 オーディンに残るのは 後方総司令官 230 00:19:48,203 --> 00:19:52,574 メックリンガー上級大将のみと 定められた 231 00:19:52,574 --> 00:19:58,280 各官庁の移転に伴い 上は閣僚から 下は一介の下級官吏に至るまで 232 00:19:58,280 --> 00:20:04,386 家族を含めて100万人以上の人間が 数千光年を移動することになる 233 00:20:04,386 --> 00:20:07,222 移転への不安はあったが 喜びもあった 234 00:20:07,222 --> 00:20:11,422 多くの者が およそ1年ぶりに 家族と再会できるのである 235 00:20:16,698 --> 00:20:19,601 大本営幕僚総監たるヒルダも 236 00:20:19,601 --> 00:20:24,439 父親であるマリーンドルフ伯とは 10ヵ月あまりも会っていない 237 00:20:24,439 --> 00:20:26,439 陛下 238 00:20:28,310 --> 00:20:30,779 グリューネワルト大公妃殿下を 239 00:20:30,779 --> 00:20:33,281 新しい首都に お招きになりますか? 240 00:20:33,281 --> 00:20:35,350 フロイライン・マリーンドルフ 241 00:20:35,350 --> 00:20:38,453 それは軍務とは 関係のないことだな 242 00:20:38,453 --> 00:20:41,890 あなたは宮中の区々たる雑事より 宇宙の覇業について 243 00:20:41,890 --> 00:20:45,290 その見事な才智を 傾けていればよい 244 00:20:49,631 --> 00:20:53,501 キルヒアイスの墓が オーディンにある 245 00:20:53,501 --> 00:20:57,372 余が余の都合で政庁と 大本営を移したからといって 246 00:20:57,372 --> 00:21:01,672 故人の眠る場所をほしいままに 動かすわけにはいくまい 247 00:21:08,750 --> 00:21:13,455 遷都に向けて多忙の日が続く中で ラインハルトの元に1通の 248 00:21:13,455 --> 00:21:17,025 意外でもあり 不快でもある 請願が寄せられた 249 00:21:17,025 --> 00:21:20,762 ヨブ・トリューニヒトが 仕官を望んできたのである 250 00:21:20,762 --> 00:21:24,099 トリューニヒトは それほど官職が欲しいか 251 00:21:24,099 --> 00:21:26,468 では望みどおり くれてやる 252 00:21:26,468 --> 00:21:29,871 ロイエンタールも 旧同盟領の事情に詳しい行政官が 253 00:21:29,871 --> 00:21:32,540 補佐に欲しかろう 陛下 まさか 254 00:21:32,540 --> 00:21:38,346 ノイエ・ラント総督府高等参事官 あの男に似合いの官職ではないか 255 00:21:38,346 --> 00:21:43,184 旧同盟の市民が奴に石を 集中させれば ロイエンタールも助かる 256 00:21:43,184 --> 00:21:46,087 何も そのような人事を あえて なさらずとも 257 00:21:46,087 --> 00:21:48,790 辺境の惑星で 開拓事務にでも従事させれば 258 00:21:48,790 --> 00:21:51,190 よろしゅうございましょう 259 00:21:53,561 --> 00:21:56,464 トリューニヒトが この一見 とんでもない人事を 260 00:21:56,464 --> 00:22:00,402 受諾したのは翌日のことである 261 00:22:00,402 --> 00:22:03,004 承知しただと? 262 00:22:03,004 --> 00:22:05,840 ラインハルトは トリューニヒトの羞恥心の 263 00:22:05,840 --> 00:22:08,143 質と量を誤解していた 264 00:22:08,143 --> 00:22:11,479 提示された地位を トリューニヒトが受けるはずがないし 265 00:22:11,479 --> 00:22:14,249 拒否すれば それを理由に 永久に公職に 266 00:22:14,249 --> 00:22:16,184 就かせぬつもりであったのだ 267 00:22:16,184 --> 00:22:20,054 どの面下げて奴は 自分が売った 祖国に戻るというのだ 268 00:22:20,054 --> 00:22:23,458 陛下が ご決定あそばしたことです 269 00:22:23,458 --> 00:22:25,458 チッ 270 00:22:30,899 --> 00:22:34,502 この人事は 軍部にも波紋を投げかけた 271 00:22:34,502 --> 00:22:37,405 何?トリューニヒトが ノイエ・ラント総督府の 272 00:22:37,405 --> 00:22:39,441 属僚になるだと? 273 00:22:39,441 --> 00:22:42,944 ロイエンタールも とんだ部下を 押しつけられたものだ 274 00:22:42,944 --> 00:22:44,879 ん?妙だな 275 00:22:44,879 --> 00:22:47,315 いかにトリューニヒトが 厚顔であるにしても 276 00:22:47,315 --> 00:22:51,686 このような任を受けたからには 何か裏の事情があるのではないか 277 00:22:51,686 --> 00:22:55,890 とおっしゃいますと? トリューニヒトは何者かの意志を受けて 278 00:22:55,890 --> 00:22:59,627 ロイエンタールを陥れるために 策動するのではないか 279 00:22:59,627 --> 00:23:04,466 何者かとは… まさか軍務尚書の? 280 00:23:04,466 --> 00:23:07,368 何かというと オーベルシュタインの策謀ではないかと 281 00:23:07,368 --> 00:23:12,173 疑ってかかるのは偏見だ …と分かってはいるのだがな 282 00:23:12,173 --> 00:23:16,010 しかしカイザーの人事に 異を唱えるわけにもいきますまい 283 00:23:16,010 --> 00:23:18,313 かえって事を荒立ててしまいます 284 00:23:18,313 --> 00:23:21,583 うむ とりあえず小官が私信の形で 285 00:23:21,583 --> 00:23:24,452 ベルゲングリューンの注意を 喚起しておきましょう 286 00:23:24,452 --> 00:23:27,552 うん そうしてくれ はっ 287 00:23:40,268 --> 00:23:44,138 ところで閣下 かのヨブ・トリューニヒトが 288 00:23:44,138 --> 00:23:46,574 総督府高等参事官として 289 00:23:46,574 --> 00:23:50,044 捨てた祖国に 極彩色の錦を飾るそうですが 290 00:23:50,044 --> 00:23:51,980 意外か? まさか陛下が 291 00:23:51,980 --> 00:23:54,516 あのような人事をなさるとは 292 00:23:54,516 --> 00:23:56,451 受けるほうも相当のものですが 293 00:23:56,451 --> 00:23:59,287 あるいは あの男を背後で操る 294 00:23:59,287 --> 00:24:01,356 人形遣いが いるのかもしれませんな 295 00:24:01,356 --> 00:24:05,059 フェザーンは近く正式に 銀河帝国の首都となる 296 00:24:05,059 --> 00:24:09,797 名実ともに宇宙の中心になるのだ はあ それで? 297 00:24:09,797 --> 00:24:12,400 市井の庶民といえども 転居の時には 298 00:24:12,400 --> 00:24:14,769 あらかじめ掃除をするものだろう 299 00:24:14,769 --> 00:24:18,306 フェザーンに限らず 帝国全土を陛下の御為 300 00:24:18,306 --> 00:24:21,709 清潔にする必要があると 卿は思わんか? 301 00:24:21,709 --> 00:24:24,612 なるほど 地下に潜った黒狐や 302 00:24:24,612 --> 00:24:27,482 その他の妖怪どもを いぶし出すのですな 303 00:24:27,482 --> 00:24:30,082 そのために トリューニヒトを使うと? 304 00:24:43,031 --> 00:24:46,568 軍務尚書の策と それを実行する姿勢には 305 00:24:46,568 --> 00:24:49,103 いつもながら感心させられる 306 00:24:49,103 --> 00:24:53,942 だが軍務尚書の発想は常に 有害物を排除することによって 307 00:24:53,942 --> 00:24:57,445 帝国の安泰を計るという型に 沿っている 308 00:24:57,445 --> 00:25:02,445 遠からず粛清の風が帝国内を 吹き荒れることに なりはすまいか 309 00:25:04,519 --> 00:25:06,921 虫が食った柱だからといって 310 00:25:06,921 --> 00:25:11,326 切り倒せば家そのものが 倒壊してしまうこともあるだろう 311 00:25:11,326 --> 00:25:16,798 ことごとく危険人物なるものを 粛清し終えた後に何が残るか 312 00:25:16,798 --> 00:25:22,298 軍務尚書自身が倒れた柱の下に 敷かれるかもしれんな 313 00:25:25,139 --> 00:25:28,939 あるいは それも承知の上か 314 00:25:42,490 --> 00:25:44,926 余はいずれオーディンに帰る 315 00:25:44,926 --> 00:25:48,796 だが その時機は まだ余の掌中にはない 316 00:25:48,796 --> 00:25:51,699 帰る日までに 済ませておかねばならぬことが 317 00:25:51,699 --> 00:25:54,099 数多くあるはずだから 318 00:25:59,440 --> 00:26:03,040 姉様 暗いよ 暗いよ 319 00:26:09,484 --> 00:26:13,054 ラインハルト ラインハルト もう大丈夫よ 320 00:26:13,054 --> 00:26:15,089 1人にしておいて ごめんね 321 00:26:15,089 --> 00:26:17,692 姉様 暗いよ 322 00:26:17,692 --> 00:26:20,695 暗くても あなたの金髪は はっきり見えるわ 323 00:26:20,695 --> 00:26:24,165 とてもきれいに輝いてるわよ 324 00:26:24,165 --> 00:26:27,435 あなたの黄金色の髪が 闇を照らすわ 325 00:26:27,435 --> 00:26:30,972 あなた自身が光の源になるのよ 326 00:26:30,972 --> 00:26:34,676 ラインハルト そうしたら何も怖くないわ 327 00:26:34,676 --> 00:26:38,513 どんな暗闇でも あなたを 傷つけることはできなくなる 328 00:26:38,513 --> 00:26:42,350 光におなりなさい ラインハルト 329 00:26:42,350 --> 00:26:46,521 思えばラインハルトは 都合のいい時に姉を呼び続け 330 00:26:46,521 --> 00:26:49,121 姉はそれに応え続けた 331 00:26:54,595 --> 00:26:57,999 姉が来てくれなくなった時 姉は初めてラインハルトに 332 00:26:57,999 --> 00:27:01,869 助けを求めたのではなかったか 333 00:27:01,869 --> 00:27:05,239 そして それに応える力が ラインハルトには 334 00:27:05,239 --> 00:27:08,339 なかったのではなかったか 335 00:27:18,386 --> 00:27:21,889 自分が姉に対して 無限の負債があることを 336 00:27:21,889 --> 00:27:24,589 ラインハルトは知っていた 337 00:29:38,025 --> 00:29:41,696 私 フレデリカ・グリーンヒル・ ヤンは ここに宣言します 338 00:29:41,696 --> 00:29:44,098 イゼルローン共和政府の樹立を 339 00:29:44,098 --> 00:29:47,001 自由と平等と人民主権への希求 340 00:29:47,001 --> 00:29:51,572 それを実現するための戦いが なお続くのだということを 341 00:29:51,572 --> 00:29:54,942 次回「銀河英雄伝説」第86話 342 00:29:54,942 --> 00:29:57,178 「ニュー・ガバメント・ イン・オーガスタ」 343 00:29:57,178 --> 00:30:01,148 イゼルローン共和政府 万歳! 344 00:30:01,148 --> 00:30:04,648 くたばれ カイザー・ラインハルト! 345 00:34:11,866 --> 00:34:16,270 宇宙歴800年 新帝国歴2年7月末 346 00:34:16,270 --> 00:34:18,973 カイザー・ラインハルトの フェザーン遷都令は 347 00:34:18,973 --> 00:34:22,673 イゼルローン要塞にも 伝わっていた 348 00:34:26,547 --> 00:34:29,350 将来はともかく 今のところ 349 00:34:29,350 --> 00:34:32,786 カイザー・ラインハルトは 個人的な感情の範囲内で 350 00:34:32,786 --> 00:34:36,290 イゼルローン問題を処理することが できるように見えます 351 00:34:36,290 --> 00:34:38,292 政戦両略以前のレベルで 352 00:34:38,292 --> 00:34:42,029 ヤン提督がいなくなった途端に やる気をなくした 353 00:34:42,029 --> 00:34:43,998 そう見えるでしょう? 354 00:34:43,998 --> 00:34:46,700 確かにそうだ なるほど 355 00:34:46,700 --> 00:34:48,769 ヤン・ウェンリーなき イゼルローン要塞など 356 00:34:48,769 --> 00:34:51,539 単なる辺境の 小石でしかないというわけか 357 00:34:51,539 --> 00:34:54,208 でも実はそうではないのです 358 00:34:54,208 --> 00:34:58,145 元々 少なくとも 自由惑星同盟が消滅して以後 359 00:34:58,145 --> 00:35:01,582 イゼルローン要塞には戦略的価値は なくなっていたのです 360 00:35:01,582 --> 00:35:05,819 これでフェザーンに遷都されれば ますます はっきりしますが 361 00:35:05,819 --> 00:35:08,422 今後 フェザーン回廊が 新しい統一帝国を 362 00:35:08,422 --> 00:35:11,692 集権的に結合させる 動脈になるでしょう 363 00:35:11,692 --> 00:35:15,863 辺境宙域の開発も フェザーン回廊の方角から進められて 364 00:35:15,863 --> 00:35:18,199 人類社会の拡大それ自体が 365 00:35:18,199 --> 00:35:21,135 フェザーンを中心に 進んでいくことになるでしょうね 366 00:35:21,135 --> 00:35:24,071 イゼルローン抜きで 歴史も社会も動いていく 367 00:35:24,071 --> 00:35:28,576 そういう状態を作り上げるのが カイザーの本来の構想だと思います 368 00:35:28,576 --> 00:35:32,379 カイザーが そう考えるのは まあ当然かもしれん 369 00:35:32,379 --> 00:35:36,750 俺にとって驚きなのは お前さんが それを読み取ったことのほうだ 370 00:35:36,750 --> 00:35:39,253 戦略的なセンスは お見事だよ 371 00:35:39,253 --> 00:35:42,623 元々 カイザーの イゼルローン親征それ自体が 372 00:35:42,623 --> 00:35:44,658 感情の産物だったんですから 373 00:35:44,658 --> 00:35:47,094 カイザーが イゼルローン回廊に固執したのも 374 00:35:47,094 --> 00:35:49,396 そこに要塞が あったからではなくて 375 00:35:49,396 --> 00:35:53,334 ヤン提督がいらしたからです まあ そういうことだろうな 376 00:35:53,334 --> 00:35:56,704 ヤンの死と同時に カイザーは冷徹な戦略家の本分に 377 00:35:56,704 --> 00:35:58,639 立ち返ったというわけだ 378 00:35:58,639 --> 00:36:01,675 それで今後の展開は どうなると見るかね? 379 00:36:01,675 --> 00:36:05,079 これは予測ではなくて 期待なんですが… 380 00:36:05,079 --> 00:36:07,548 おや 言い方までヤンに似てきたな 381 00:36:07,548 --> 00:36:11,385 ハハ ヤン提督がいつも おっしゃっていたことは 382 00:36:11,385 --> 00:36:17,024 イゼルローン回廊の両端に 異なる 政治的 軍事的勢力が存在してこそ 383 00:36:17,024 --> 00:36:20,894 イゼルローン要塞には戦略的価値が 生じるということでした 384 00:36:20,894 --> 00:36:24,565 うん それは俺も聞いたことがある 385 00:36:24,565 --> 00:36:27,167 今 イゼルローンが 安泰でいられるのは 386 00:36:27,167 --> 00:36:31,038 皮肉なことに その戦略的価値を 失ってしまったからです 387 00:36:31,038 --> 00:36:35,442 価値が回復される時 つまり帝国に分裂が生じる時 388 00:36:35,442 --> 00:36:39,179 イゼルローンにとっての 転機が訪れるでしょう 389 00:36:39,179 --> 00:36:43,050 どのみち急速に事態が変わるとは 思っていません 390 00:36:43,050 --> 00:36:46,954 アーレ・ハイネセンの 長征一万光年は50年がかりでした 391 00:36:46,954 --> 00:36:49,923 それぐらいの歳月は 覚悟しておきましょうよ 392 00:36:49,923 --> 00:36:54,161 50年後には 俺は90歳近くになってしまうな 393 00:36:54,161 --> 00:36:56,561 生きていればだが 394 00:36:58,532 --> 00:37:00,467 しかし お前さんもヤン夫人も 395 00:37:00,467 --> 00:37:04,338 損な役割を よく引き受けてくれたよ 396 00:37:04,338 --> 00:37:07,975 ヤン夫人は 自分の政治的地位を 権威づけるために 397 00:37:07,975 --> 00:37:11,779 夫の名声を利用したと 言われるだろう 398 00:37:11,779 --> 00:37:14,581 お前さんは失敗すれば むろん罵声の嵐だが 399 00:37:14,581 --> 00:37:17,418 成功したらしたで ヤンの余慶を被っただの 400 00:37:17,418 --> 00:37:21,088 ヤンの構想を横取りしただの 言われることだろう 401 00:37:21,088 --> 00:37:25,688 何と言われても構いませんよ 成功さえすればね 402 00:37:29,129 --> 00:37:33,967 こうして7月中に離脱者は イゼルローン要塞から全て退去した 403 00:37:33,967 --> 00:37:37,471 残留人員 94万4087名 404 00:37:37,471 --> 00:37:40,407 うち男性 61万2906名 405 00:37:40,407 --> 00:37:43,777 女性 33万1181名 406 00:37:43,777 --> 00:37:48,082 女性の大半は男性の家族であって 単身者は少ない 407 00:37:48,082 --> 00:37:50,818 人口構成の男女比が 不均衡であるのは 408 00:37:50,818 --> 00:37:54,788 避けがたい事情であるにしても いずれ問題になるだろうな 409 00:37:54,788 --> 00:37:59,393 そりゃ問題になるさ 男の半分近くは あぶれるわけだし 410 00:37:59,393 --> 00:38:01,395 俺としても甲斐性のない奴に 411 00:38:01,395 --> 00:38:04,164 協力してやろうとは つゆ思わんからね 412 00:38:04,164 --> 00:38:06,233 甲斐性なしとは誰のことだ 413 00:38:06,233 --> 00:38:09,837 さて 誰のことでしょう 414 00:38:09,837 --> 00:38:14,341 それにしても一挙に新国家建設と いうわけにはいきそうにないな 415 00:38:14,341 --> 00:38:17,845 結局のところ軍団としての組織は 残さざるを得ない 416 00:38:17,845 --> 00:38:23,016 司令官 新たな思案の 必要なところだぞ 417 00:38:23,016 --> 00:38:25,652 その頃 ノイエ・ラント総督として 418 00:38:25,652 --> 00:38:30,491 旧同盟首都星ハイネセンに着任した オスカー・フォン・ロイエンタール元帥は 419 00:38:30,491 --> 00:38:34,228 接収したホテル「ユーフォニア」に 総督府を開設し 420 00:38:34,228 --> 00:38:37,131 政務と軍務を処理し始めていた 421 00:38:37,131 --> 00:38:40,901 ノイエ・ラント総督は 階位は各省尚書と同格であり 422 00:38:40,901 --> 00:38:43,871 旗下の軍隊は 艦艇3万5800隻 423 00:38:43,871 --> 00:38:47,441 将兵522万6400名に達する 424 00:38:47,441 --> 00:38:51,011 この軍隊の総称は ノイエ・ラント治安軍というのだが 425 00:38:51,011 --> 00:38:53,580 非公式ながら 総司令官の個人名から 426 00:38:53,580 --> 00:38:55,516 ロイエンタール軍とも呼ばれる 427 00:38:55,516 --> 00:38:58,519 ロイエンタールは自己の職権を 軍事と政治に分け 428 00:38:58,519 --> 00:39:01,088 それぞれに 補佐役を置くことにした 429 00:39:01,088 --> 00:39:03,824 軍事面においては ベルゲングリューン大将が 430 00:39:03,824 --> 00:39:08,262 軍事査閲監の座に就いて 総督の代理を務めることとされた 431 00:39:08,262 --> 00:39:11,965 グリルパルツァーとクナップシュタインは この人事が不満であった 432 00:39:11,965 --> 00:39:16,870 彼らも大将であるのに 階級も同じ ベルゲングリューンの下につかねばならない 433 00:39:16,870 --> 00:39:21,708 また彼らは一時的にとはいえ ラインハルトの直属であったこともあり 434 00:39:21,708 --> 00:39:25,946 ベルゲングリューンに対して 多少の 優越意識もあったためである 435 00:39:25,946 --> 00:39:28,882 更にシュタインメッツの旗下で ガンダルヴァ駐留艦隊の 436 00:39:28,882 --> 00:39:31,452 総書記を務めたリッチェル中将が 437 00:39:31,452 --> 00:39:36,223 旧同盟の国内事情に関する知識を 買われ 査閲副総監となったが 438 00:39:36,223 --> 00:39:40,527 この地位は格下であり 大将たちの不満とは無縁であった 439 00:39:40,527 --> 00:39:44,531 また政治面においては カイザー・ラインハルトの推挙によって 440 00:39:44,531 --> 00:39:49,870 本国の内務省次官と民政省次官を 短期間に歴任したテクノクラート 441 00:39:49,870 --> 00:39:54,208 ユリウス・エルスハイマーを 補佐役とし 民事長官の座に就けた 442 00:39:54,208 --> 00:39:59,046 偶然ながら エルスハイマーは ルッツ上級大将の妹の夫である 443 00:39:59,046 --> 00:40:01,482 そして そのエルスハイマーの下で 444 00:40:01,482 --> 00:40:04,818 旧同盟の国内事情についての 助言をするとして 445 00:40:04,818 --> 00:40:07,120 高等参事官ヨブ・トリューニヒトが 446 00:40:07,120 --> 00:40:09,857 遣わされてくることに なったのである 447 00:40:09,857 --> 00:40:12,759 カイザーも 奇妙な人事をなさいますな 448 00:40:12,759 --> 00:40:15,262 ヤン・ウェンリーが 不慮の死をとげたのち 449 00:40:15,262 --> 00:40:19,132 元の同盟元首を 帝国の属僚として帰国させる 450 00:40:19,132 --> 00:40:23,704 民主共和政に対して 皮肉を お示しになったわけでしょうか 451 00:40:23,704 --> 00:40:27,574 分からぬか? カイザーは今や この厚顔な男に 452 00:40:27,574 --> 00:40:32,513 恥をかかせてやるだけが 楽しみなのであろう 453 00:40:32,513 --> 00:40:37,618 まあいいさ トリューニヒトの 能力と知識だけを活用すればよい 454 00:40:37,618 --> 00:40:40,454 奴の人格はこの際 埒外に置こう 455 00:40:40,454 --> 00:40:45,626 「使って信じず」とロイエンタールは 言ったと公式記録は伝える 456 00:40:45,626 --> 00:40:47,561 ロイエンタールは トリューニヒトに 457 00:40:47,561 --> 00:40:50,130 不審あるいは 不穏な言行が見られた時 458 00:40:50,130 --> 00:40:52,466 一挙に処断するつもりであった 459 00:40:52,466 --> 00:40:55,369 更には処断する口実を 作るためにも あえて 460 00:40:55,369 --> 00:40:59,072 この不愉快な人事を受け入れる という一面もあったであろう 461 00:40:59,072 --> 00:41:03,844 それ以上に問題となったのは イゼルローン要塞を離脱した将兵たちが 462 00:41:03,844 --> 00:41:06,813 ハイネセンへの帰着を 求めてきたことである 463 00:41:06,813 --> 00:41:09,483 いかがいたします? 離脱したとはいえ 464 00:41:09,483 --> 00:41:13,153 イゼルローン要塞を 不当に占拠してカイザーに反抗した輩 465 00:41:13,153 --> 00:41:17,658 無条件で免罪して よろしいものでしょうか 466 00:41:17,658 --> 00:41:19,593 卿の気持ちは分かるが 467 00:41:19,593 --> 00:41:22,496 事はそう単純に 決せられるものでもない 468 00:41:22,496 --> 00:41:25,232 100万人以上の男女を 拘禁することなど 469 00:41:25,232 --> 00:41:27,834 現実問題として不可能だ 470 00:41:27,834 --> 00:41:31,705 加えて旧同盟の民心を 考慮する必要がある 471 00:41:31,705 --> 00:41:35,275 彼らの不安を拡大させるのは 愚というものだ 472 00:41:35,275 --> 00:41:37,811 結局 ロイエンタールは 離脱者のうちの 473 00:41:37,811 --> 00:41:41,481 民間人と非戦闘員には 完全な自由を与え 474 00:41:41,481 --> 00:41:45,152 下士官と兵士は 氏名を登録の上で帰宅を許した 475 00:41:45,152 --> 00:41:49,389 ただし軍の士官と 政府の公職に あった者は指紋を登録し 476 00:41:49,389 --> 00:41:51,959 1ヵ月に1度 総督府に出頭して 477 00:41:51,959 --> 00:41:55,629 登録カードを 更新せねばならないこととされた 478 00:41:55,629 --> 00:41:59,499 それらの処置をとったロイエンタールが 改めて考え込んだのは 479 00:41:59,499 --> 00:42:04,137 高級士官リストの中に ムライ中将の名を発見したからである 480 00:42:04,137 --> 00:42:07,608 ヤン・ウェンリーの参謀長として 名声を得ながら 481 00:42:07,608 --> 00:42:11,411 自ら進んで脱落者を統率して 離脱したということです 482 00:42:11,411 --> 00:42:15,749 離脱者が多数に及んだのも 彼の 行動を見てのことだといいます 483 00:42:15,749 --> 00:42:19,052 ヤン亡き後のイゼルローンを 見限ったということでしょうか 484 00:42:19,052 --> 00:42:21,955 人心が永劫のものだなどとは 思いませんが 485 00:42:21,955 --> 00:42:26,727 ああも変節されると 他人事でも心地よくありませんな 486 00:42:26,727 --> 00:42:29,963 そう思うか? だがリップシュタット戦役が 487 00:42:29,963 --> 00:42:33,333 終結した時のことを 思い出してみろ 488 00:42:33,333 --> 00:42:37,270 カイザーが みすみす御前に 刺客を招じ入れられたのは なぜだ 489 00:42:37,270 --> 00:42:39,706 留意すべき故事とは思わぬか 490 00:42:39,706 --> 00:42:44,177 はっ… ではムライなる人物を 検束なさいますか? 491 00:42:44,177 --> 00:42:49,116 いや そこまでやる必要はない 一応 監視だけはつけておけ 492 00:42:49,116 --> 00:42:51,116 はっ! 493 00:42:54,454 --> 00:42:56,390 いずれにしても ロイエンタールは 494 00:42:56,390 --> 00:43:00,293 イゼルローンからの離脱者に 厳罰を加える気はなかった 495 00:43:00,293 --> 00:43:03,530 故人となったヤン・ウェンリーを 称揚することで 496 00:43:03,530 --> 00:43:06,867 彼を捨てた者たちに対する 旧同盟市民の批判が 497 00:43:06,867 --> 00:43:10,737 高まるであろうことを 計算していたのである 498 00:43:10,737 --> 00:43:14,608 新総督も食えねえ男だぜ 499 00:43:14,608 --> 00:43:17,811 何がです? 「総督府後援」 500 00:43:17,811 --> 00:43:20,514 「ヤン・ウェンリー元帥 追悼式」だと? 501 00:43:20,514 --> 00:43:24,384 二重三重の政治的効果を 狙ってやがる 502 00:43:24,384 --> 00:43:28,255 ハイネセンに流入してきた イゼルローンからの離脱者の中に 503 00:43:28,255 --> 00:43:32,125 善良な民間人と称する 3人組がいた 504 00:43:32,125 --> 00:43:35,028 元フェザーンの 誇り高き独立商人であり 505 00:43:35,028 --> 00:43:39,332 ヤン・ウェンリーの友人であった ボリス・コーネフたちである 506 00:43:39,332 --> 00:43:41,802 自由な商人の国だった フェザーンも 507 00:43:41,802 --> 00:43:44,071 帝政の本拠地に 成り下がるっていうし 508 00:43:44,071 --> 00:43:46,006 長生きはするもんじゃねえな 509 00:43:46,006 --> 00:43:48,942 ですがフェザーンに 政治と軍事の中枢を置いて 510 00:43:48,942 --> 00:43:51,712 経済や交通に連動させるとは 511 00:43:51,712 --> 00:43:55,382 カイザー・ラインハルトも 単なる武人ではありませんな 512 00:43:55,382 --> 00:43:57,784 だから かわいくないんだよ 513 00:43:57,784 --> 00:44:00,587 あれだけ顔がいいんだから それで満足してよ 514 00:44:00,587 --> 00:44:04,191 才能だの器量だのは 他人に分けてやればいいんだ 515 00:44:04,191 --> 00:44:07,491 お! あ… 何ですか?船長 516 00:44:12,766 --> 00:44:15,669 どうしたんです? 去年 ユリアンたちと一緒に 517 00:44:15,669 --> 00:44:18,605 地球っていう ろくでもない惑星に行っただろ? 518 00:44:18,605 --> 00:44:22,042 俺は あの顔を陰気な地下神殿で 見た覚えがある 519 00:44:22,042 --> 00:44:25,011 主教とか大主教とかいってたな 520 00:44:25,011 --> 00:44:27,011 え? 521 00:44:29,316 --> 00:44:31,251 地球教徒ですか 522 00:44:31,251 --> 00:44:33,720 それも かなりの幹部のはずだ 523 00:44:33,720 --> 00:44:36,957 だとしたら ヤン・ウェンリーを暗殺させたのは 524 00:44:36,957 --> 00:44:39,359 あの連中かもしれない 525 00:44:39,359 --> 00:44:41,394 十分以上に あり得ることだ 526 00:44:41,394 --> 00:44:45,165 暗殺現場にいたのは 単なる 生きた凶器どもだけだからな 527 00:44:45,165 --> 00:44:51,571 それを操った奴らは どこかで 祝杯をあげているに違いないし 528 00:44:51,571 --> 00:44:54,474 イゼルローンに連行された 地球教徒どもも 529 00:44:54,474 --> 00:44:57,377 結局 何もしゃべらないまま 自殺して 530 00:44:57,377 --> 00:44:59,713 背後関係は 分からずじまいでしたからな 531 00:44:59,713 --> 00:45:02,048 しゃべらなかったんじゃなくて 実行犯には 532 00:45:02,048 --> 00:45:04,885 何も知らされて いなかったんだろうさ 533 00:45:04,885 --> 00:45:09,322 バグダッシュ大佐が 自白剤まで使った結果ですからね 534 00:45:09,322 --> 00:45:13,193 ああ だからさっさと 処刑しちまえばよかったんだ 535 00:45:13,193 --> 00:45:16,496 それを いざとなるとユリアンの奴 決断を欠きやがって 536 00:45:16,496 --> 00:45:20,333 まあ 戦場以外で 人を殺すのは なかなかね 537 00:45:20,333 --> 00:45:24,971 ヘッ ユリアンもな 才能は十分にあると思うんだが 538 00:45:24,971 --> 00:45:27,774 万事に もう少し 横着にならなくちゃいかん 539 00:45:27,774 --> 00:45:30,777 理想と良識だけで カイザーに勝てるはずがない 540 00:45:30,777 --> 00:45:33,213 船長の持論が出ましたな 541 00:45:33,213 --> 00:45:35,582 ですが若いのに よくやっていますよ 542 00:45:35,582 --> 00:45:40,120 ヤン提督の遺業を継承しようと けなげなものじゃありませんか 543 00:45:40,120 --> 00:45:43,023 いつまでもヤンを マニュアルにしていてどうする 544 00:45:43,023 --> 00:45:45,292 ヤンは死んじまったんだぞ 545 00:45:45,292 --> 00:45:49,162 ヤンの奴も奴だ カイザーと 決戦して倒れるならともかく 546 00:45:49,162 --> 00:45:51,565 あんな期待外れの死に方が あるもんか 547 00:45:51,565 --> 00:45:55,435 彼に罪はない 罪は地球教徒にあります 548 00:45:55,435 --> 00:46:00,235 分かってるさ だからこうして 尾行しているんじゃねえか 549 00:46:03,276 --> 00:46:05,745 あの屋敷は確か… 550 00:46:05,745 --> 00:46:07,781 前の最高評議会議長 551 00:46:07,781 --> 00:46:10,584 まもなく総督府高等参事官として 帰ってくる 552 00:46:10,584 --> 00:46:13,684 あのヨブ・トリューニヒトの 旧宅です 553 00:46:19,292 --> 00:46:23,263 こいつはハイネセンでも なかなか面白い劇を 554 00:46:23,263 --> 00:46:26,563 見物できそうじゃねえか しばらく居座ってみるか 555 00:46:32,305 --> 00:46:36,610 提督 僕はなんと大それたことを しているのでしょう 556 00:46:36,610 --> 00:46:40,614 どれほど分をわきまえないことか 僕が一番分かっています 557 00:46:40,614 --> 00:46:44,251 僕には提督のようなことは できません 558 00:46:44,251 --> 00:46:47,287 僕にできることは 「提督ならどうするだろう」と 559 00:46:47,287 --> 00:46:51,725 自分の記憶力と理解力に 問いかけることだけです 560 00:46:51,725 --> 00:46:56,229 それにしても なんと早く提督は 逝ってしまわれたのでしょう 561 00:46:56,229 --> 00:47:00,033 いい人間 立派な人間が 無意味に殺されていく 562 00:47:00,033 --> 00:47:03,036 それが戦争であり テロリズムであるんだ 563 00:47:03,036 --> 00:47:06,806 戦争やテロの罪悪は 結局そこに尽きるんだよ 564 00:47:06,806 --> 00:47:10,143 分かっています いえ 分かっているつもりでした 565 00:47:10,143 --> 00:47:13,046 でも 提督が反動主義者のテロで 566 00:47:13,046 --> 00:47:15,949 無意味に殺されたなど 耐えられません 567 00:47:15,949 --> 00:47:19,319 提督の死を意味あるものに したいと考えるのは 568 00:47:19,319 --> 00:47:21,955 テロの効用を認めることに なるのでしょうか 569 00:47:21,955 --> 00:47:23,924 生き残った者が死者の尊厳を 570 00:47:23,924 --> 00:47:28,094 政治的に利用することに なるのでしょうか 571 00:47:28,094 --> 00:47:31,498 だけど僕たちには 提督が必要なのです 572 00:47:31,498 --> 00:47:33,466 僕たちが 提督が遺された 573 00:47:33,466 --> 00:47:36,269 民主共和政のささやかな芽を 守っていくためには 574 00:47:36,269 --> 00:47:39,873 死者にすら協力して いただかなくてはならないのです 575 00:47:39,873 --> 00:47:45,245 やれやれ 結局 個人的な名望に 頼らざるを得ない民主共和政治か 576 00:47:45,245 --> 00:47:47,180 皮肉なものです 577 00:47:47,180 --> 00:47:49,816 提督が求めて ついに得られなかった 578 00:47:49,816 --> 00:47:52,185 民主主義の人格化としての個人を 579 00:47:52,185 --> 00:47:55,088 僕らは見つけることが できたのですから 580 00:47:55,088 --> 00:47:57,724 それが死んだ私というわけかい? 581 00:47:57,724 --> 00:48:01,528 提督がお嫌いだった生前の虚像を 拡大することだけが 582 00:48:01,528 --> 00:48:05,398 提督の理念を現実のものと することを可能にするのです 583 00:48:05,398 --> 00:48:08,301 カイザー・ラインハルトによる 宇宙の専制的統一が 584 00:48:08,301 --> 00:48:12,272 ほとんど完遂されたこの時期 民主共和政の理念は 585 00:48:12,272 --> 00:48:15,809 民主主義擁護の英雄たる ヤン・ウェンリーの理念として 586 00:48:15,809 --> 00:48:21,281 初めて専制政治の激流の中で 存在できるのです 587 00:48:21,281 --> 00:48:24,751 何しろ提督は 不敗のまま逝かれたのです 588 00:48:24,751 --> 00:48:28,588 カイザー・ラインハルトでさえ 提督を負かすことはできなかった 589 00:48:28,588 --> 00:48:30,588 永遠に… 590 00:48:32,926 --> 00:48:35,895 でも 僕も思います 591 00:48:35,895 --> 00:48:41,095 生きていてほしかった たとえ連戦連敗でもいいから 592 00:48:43,403 --> 00:48:45,403 提督… 593 00:48:57,650 --> 00:48:59,650 どうぞ 594 00:49:05,158 --> 00:49:08,128 お疲れのようですね 少しね 595 00:49:08,128 --> 00:49:12,665 でも よく分かったわ 自分の 構想を持って事業を進めるのと 596 00:49:12,665 --> 00:49:17,765 与えられた権限の範囲の中で 事務を処理するのとは全然違う 597 00:49:19,906 --> 00:49:23,143 ハア これからは 自分で自分の行動原理を 598 00:49:23,143 --> 00:49:26,980 創り出していかなくては ならないのね 599 00:49:26,980 --> 00:49:30,984 私もだし ユリアン あなたもね 600 00:49:30,984 --> 00:49:33,984 ええ 本当にそうですね 601 00:49:43,430 --> 00:49:45,732 え? 602 00:49:45,732 --> 00:49:48,132 これ お飲みなさいよ 603 00:49:50,136 --> 00:49:52,336 あ… ありがとう 604 00:49:56,943 --> 00:50:00,643 クロイツェル家伝来の 疲労回復薬よ 605 00:50:05,285 --> 00:50:07,887 料理じゃないんだから 薬なんだから 606 00:50:07,887 --> 00:50:10,587 まずくたって当然なのよ 607 00:50:13,259 --> 00:50:18,159 原料と製法は秘密 飲んだ人の精神安定のためにね 608 00:50:25,405 --> 00:50:28,408 利口な人たちが みんな出ていってしまって 609 00:50:28,408 --> 00:50:32,779 イゼルローンも なんだか だだっ広くなってしまったわ 610 00:50:32,779 --> 00:50:35,014 君は出ていかなかったんだね 611 00:50:35,014 --> 00:50:38,451 おあいにくさま 私 引っ越しは好きじゃないの 612 00:50:38,451 --> 00:50:44,151 それにヤン夫人を尊敬しているわ あの人を助けてあげたいと思うわ 613 00:50:46,159 --> 00:50:49,529 だって当たり前でしょ フレデリカさんの姿を見て 614 00:50:49,529 --> 00:50:54,467 助けてあげようと思わないなんて 女の風上にも置けやしない 615 00:50:54,467 --> 00:50:57,003 男だってそうだよ 616 00:50:57,003 --> 00:51:00,874 フレデリカさんは1年 私の母は たった3日 617 00:51:00,874 --> 00:51:04,444 相手の男と暮らしたのはね 618 00:51:04,444 --> 00:51:08,081 私 フレデリカさんに 失礼な質問をしたことがあるの 619 00:51:08,081 --> 00:51:12,085 「ヤン提督の どこが お気に召したんですか」って 620 00:51:12,085 --> 00:51:16,456 その時のフレデリカさんの 誇らしげな顔ったら なかったわね 621 00:51:16,456 --> 00:51:18,825 こうおっしゃったの 「あなたも」 622 00:51:18,825 --> 00:51:24,764 「与えられた責任を果たそうとする 男の人を目前に見てみたら」って 623 00:51:24,764 --> 00:51:27,534 果たさずに済むなら そうしたいよ 624 00:51:27,534 --> 00:51:31,471 でも誰かに代わって もらうわけにもいかないしね 625 00:51:31,471 --> 00:51:34,707 あんたは自分が未熟だと 思っているらしいし 626 00:51:34,707 --> 00:51:37,076 また実際 そのとおりなんだろうけど 627 00:51:37,076 --> 00:51:39,012 未熟を恥じることはないわ 628 00:51:39,012 --> 00:51:42,882 私なんか未熟を売り物にして 結構 快適にやってるわよ 629 00:51:42,882 --> 00:51:46,786 さすがに シェーンコップ中将の娘さんだ 630 00:51:46,786 --> 00:51:49,289 フレデリカさんは本当に偉いわ 631 00:51:49,289 --> 00:51:52,292 でも それだから男が つけ上がるのかもしれない 632 00:51:52,292 --> 00:51:54,427 ヤン提督のことじゃないけど 633 00:51:54,427 --> 00:51:58,364 女の寛容さにつけ込む 無責任な男なんて最低よ! 634 00:51:58,364 --> 00:52:00,364 あ… 635 00:52:02,902 --> 00:52:05,805 やれやれ 親子の仲が修復するより 636 00:52:05,805 --> 00:52:09,576 あちらが中途半端に 修好状態になったらしいな 637 00:52:09,576 --> 00:52:13,279 一体どうなってるんだ? あの子の気まぐれか 638 00:52:13,279 --> 00:52:16,649 チッチッチッ 野暮な御仁には 分からんでしょうが 639 00:52:16,649 --> 00:52:19,552 女心とは そういうもんです 偉そうに! 640 00:52:19,552 --> 00:52:22,789 まあしかし なんですな 自分では何もせずに 641 00:52:22,789 --> 00:52:25,225 きれいな女の子が 寄ってくることに関しては 642 00:52:25,225 --> 00:52:28,695 ユリアンの運命は ヤン提督譲りに違いない 643 00:52:28,695 --> 00:52:31,164 誰かさんとは大違いだ 644 00:52:31,164 --> 00:52:33,666 言っておくがな たった1人だぞ 645 00:52:33,666 --> 00:52:36,636 誰かのように 手当たり次第 というのとは違うんだ 646 00:52:36,636 --> 00:52:39,606 ひがんではいけませんな アッテンボロー提督 647 00:52:39,606 --> 00:52:41,774 女に関しては1の下は0 648 00:52:41,774 --> 00:52:44,577 コンマいくつなんてのは ないんですから 649 00:52:44,577 --> 00:52:48,281 誰がひがんでる お前さんとは 価値観の異なる人間も 650 00:52:48,281 --> 00:52:50,216 世の中にはいるんだ 651 00:52:50,216 --> 00:52:54,087 伊達と酔狂が 革命にしか向かわないお方がね 652 00:52:54,087 --> 00:52:56,356 ニーッ 653 00:52:56,356 --> 00:52:58,356 ん? 654 00:53:01,628 --> 00:53:05,465 まあ なんだな 若い連中が 仲良くやっていこうとする 655 00:53:05,465 --> 00:53:09,669 精神的成長を 示してくれることはいいことさ 656 00:53:09,669 --> 00:53:13,439 まったく 青春が革命だけじゃ わびしいですからね 657 00:53:13,439 --> 00:53:15,375 結構なことです 658 00:53:15,375 --> 00:53:17,375 お前な! 659 00:53:23,816 --> 00:53:28,254 私たち自身の公式名称ですが 「共和国」と称してしまうと 660 00:53:28,254 --> 00:53:32,592 帝国政府との関係に 修復と妥協の道がなくなります 661 00:53:32,592 --> 00:53:35,128 それに国家 政府 軍の 三者の関係も 662 00:53:35,128 --> 00:53:37,163 複雑になりすぎるでしょう 663 00:53:37,163 --> 00:53:41,234 小さな組織にふさわしい 適当な名前がありませんかしら 664 00:53:41,234 --> 00:53:43,234 うーん 665 00:53:46,072 --> 00:53:50,009 「イゼルローン・コミューン」 韻を踏んでいて なかなかいいでしょ? 666 00:53:50,009 --> 00:53:52,645 却下 どうしてです? 667 00:53:52,645 --> 00:53:56,516 貧しい趣味だけで 事を判断しないでほしいですな 668 00:53:56,516 --> 00:53:59,419 革命史上 コミューンと 名付けられた革命組織は 669 00:53:59,419 --> 00:54:02,021 全て中途で失敗している 670 00:54:02,021 --> 00:54:08,161 俺は このイゼルローンを民主共和政治の 墓地になんぞ したくはないからな 671 00:54:08,161 --> 00:54:11,064 名称だけ奇をてらっても 意味がありませんよ 672 00:54:11,064 --> 00:54:13,800 ヤン提督は そういうことがお嫌いでした 673 00:54:13,800 --> 00:54:15,735 永久的なものではないし 674 00:54:15,735 --> 00:54:19,339 「イゼルローン共和政府」で よくはありませんか? 675 00:54:19,339 --> 00:54:22,375 結局 ごく無難な この名称が採用された 676 00:54:22,375 --> 00:54:25,845 この名が歴史上に魅惑の輝きを 放つものとなるかどうかは 677 00:54:25,845 --> 00:54:28,881 全て今後にかかっている ただ その当時から 678 00:54:28,881 --> 00:54:32,185 エル・ファシル独立政府との 区別を容易にするため 679 00:54:32,185 --> 00:54:35,922 「ニュー・ガバメント・イン・オーガスタ」の異称で 呼ばれることが多かった 680 00:54:35,922 --> 00:54:39,826 組織としての部局が置かれたが 多くの人事は未定のままである 681 00:54:39,826 --> 00:54:42,762 それでもユリアンは それほど悲観的ではなかった 682 00:54:42,762 --> 00:54:46,332 およそ300年前 自由惑星同盟建国の父 683 00:54:46,332 --> 00:54:51,170 アーレ・ハイネセンが1万光年にも 及ぶ長征に伴った人々の中に 684 00:54:51,170 --> 00:54:53,806 著名な政治家などは 一人もいなかった 685 00:54:53,806 --> 00:54:58,311 反専制の思想ゆえに 虐待と抑圧を 受けてきた無名の人々が 686 00:54:58,311 --> 00:55:02,982 半世紀にわたる苦難の旅に耐え 建国の偉業を成し遂げたのである 687 00:55:02,982 --> 00:55:06,953 誰でも最初から高名な偉人で あり得るわけではないのだから 688 00:55:06,953 --> 00:55:10,223 アーレ・ハイネセンと ヤン・ウェンリーの肖像を並べて 689 00:55:10,223 --> 00:55:13,559 総会議場と中央委員会と 主席執務室 690 00:55:13,559 --> 00:55:16,863 それに革命軍司令部の 4ヵ所にだけ飾りましょう 691 00:55:16,863 --> 00:55:21,634 他の公的な場所には禁じます 英雄崇拝になってはいけないから 692 00:55:21,634 --> 00:55:24,937 国父と並べられて ヤン提督は さぞ照れるでしょうね 693 00:55:24,937 --> 00:55:26,873 「柄じゃない」と言って 694 00:55:26,873 --> 00:55:31,077 あの人はヴァルハラなり 来世なりで のんびり寝ていたいでしょうけど 695 00:55:31,077 --> 00:55:34,380 せめて あの人が遺した作品が どういう結末を遂げるか 696 00:55:34,380 --> 00:55:37,617 それぐらいは 見ていてもらわなくてはね 697 00:55:37,617 --> 00:55:40,219 うん 698 00:55:40,219 --> 00:55:46,419 こうして宇宙歴800年 新帝国歴2年の8月8日が来る 699 00:55:49,328 --> 00:55:53,728 ヤン・ウェンリーの死から 63日後である 700 00:56:01,908 --> 00:56:04,243 あなた 701 00:56:04,243 --> 00:56:07,043 見ていてくださいますね? 702 00:56:13,486 --> 00:56:16,389 私 フレデリカ・ グリーンヒル・ヤンは 703 00:56:16,389 --> 00:56:20,660 ここに民主共和政治を 支持する人々の総意に基づいて 704 00:56:20,660 --> 00:56:22,595 宣言します 705 00:56:22,595 --> 00:56:25,832 イゼルローン共和政府の樹立を 706 00:56:25,832 --> 00:56:30,169 アーレ・ハイネセンに始まる 自由と平等と人民主権への希求 707 00:56:30,169 --> 00:56:34,707 それを実現させるための戦いが なお続くのだということを 708 00:56:34,707 --> 00:56:37,410 この不利な 不遇な状況にあって 709 00:56:37,410 --> 00:56:40,813 民主共和政治の小さな芽を 育んでくださる皆さんに 710 00:56:40,813 --> 00:56:44,784 感謝します ありがとうございます 711 00:56:44,784 --> 00:56:49,922 そして全てが終わった時には 「ありがとうございました」と 712 00:56:49,922 --> 00:56:54,522 そう申し上げることが できればいいと思います 713 00:56:57,663 --> 00:57:00,066 イゼルローン共和政府 万歳! 714 00:57:00,066 --> 00:57:02,435 くたばれ カイザー・ラインハルト! 715 00:57:02,435 --> 00:57:06,405 イゼルローン共和政府 万歳! 716 00:57:06,405 --> 00:57:10,009 くたばれ カイザー・ラインハルト! 717 00:57:10,009 --> 00:57:13,009 おお! 718 00:57:54,487 --> 00:57:58,791 宇宙歴800年 新帝国歴2年 8月8日 719 00:57:58,791 --> 00:58:01,794 イゼルローン共和政府が誕生する 720 00:58:01,794 --> 00:58:06,999 帝国との人口比は 400億対94万であり 721 00:58:06,999 --> 00:58:10,870 全人類の42万5000分の1だけが 722 00:58:10,870 --> 00:58:14,370 なお民主共和政治の旗を 掲げている 723 00:58:55,181 --> 00:58:58,084 ローエングラム朝銀河帝国は 724 00:58:58,084 --> 00:59:02,622 なお全宇宙の 完全な統一を成し得ない 725 00:59:02,622 --> 00:59:04,857 ヤン・ウェンリーの急逝が 726 00:59:04,857 --> 00:59:09,195 その促進と遅延と いずれに貢献するか 727 00:59:09,195 --> 00:59:13,895 予測し得る者は 生者のうちに存在しなかった 728 00:59:16,402 --> 00:59:20,339 宇宙歴800年 新帝国歴2年 同盟領を併呑し 729 00:59:20,339 --> 00:59:23,175 宿敵ヤン・ウェンリーを失った 皇帝ラインハルトは 730 00:59:23,175 --> 00:59:26,379 未来の目標を 喪失したかのように見えた 731 00:59:26,379 --> 00:59:30,916 主君との懐旧の中 漠然とした 不安にさいなまれるミッターマイヤー 732 00:59:30,916 --> 00:59:33,285 それはノイエ・ラント総督となった 733 00:59:33,285 --> 00:59:36,889 親友ロイエンタールの動向に よるものなのか 734 00:59:36,889 --> 00:59:41,727 次回「銀河英雄伝説」 第87話「嵐の予感」 735 00:59:41,727 --> 00:59:44,627 銀河の歴史が また1ページ 736 01:02:22,621 --> 01:02:26,792 新銀河帝国皇帝ラインハルト・ フォン・ローエングラムは 737 01:02:26,792 --> 01:02:30,663 フェザーン自治領に続いて 自由惑星同盟を併呑し 738 01:02:30,663 --> 01:02:33,399 ほぼ全宇宙を手中に収めた 739 01:02:33,399 --> 01:02:37,269 唯一 イゼルローン要塞に 立てこもって抵抗を続ける 740 01:02:37,269 --> 01:02:39,738 ヤン・ウェンリー一党を覆滅すべく 741 01:02:39,738 --> 01:02:43,609 イゼルローン回廊に軍を進める カイザー・ラインハルト 742 01:02:43,609 --> 01:02:46,345 激戦の末に カイザー・ラインハルトは 743 01:02:46,345 --> 01:02:49,682 ヤン・ウェンリーとの 講和のテーブルにつこうとする 744 01:02:49,682 --> 01:02:53,352 だが2人の会見は 地球教徒の残党による 745 01:02:53,352 --> 01:02:57,022 ヤン暗殺という 事態の前に頓挫する 746 01:02:57,022 --> 01:03:00,059 最大の好敵手を失った カイザー・ラインハルトは 747 01:03:00,059 --> 01:03:04,763 失意のうちに軍を引き 新帝都フェザーンへと凱旋した 748 01:03:04,763 --> 01:03:07,666 カイザー・ラインハルトが 戦意を失った今 749 01:03:07,666 --> 01:03:10,002 当面の軍事衝突は起こり得ず 750 01:03:10,002 --> 01:03:13,606 宇宙に安寧の時代が 訪れたかに見えた 751 01:03:13,606 --> 01:03:17,576 しかし加速を続ける歴史は 停滞を許さず 752 01:03:17,576 --> 01:03:21,276 再び銀河に動乱の気配が 忍び寄っていた 753 01:04:55,040 --> 01:04:59,440 宇宙歴800年 新帝国歴2年8月 754 01:05:02,281 --> 01:05:05,784 新帝都フェザーンに帰着した カイザー・ラインハルトは 755 01:05:05,784 --> 01:05:09,188 宿敵であったヤン・ウェンリーの 死による喪失感から 756 01:05:09,188 --> 01:05:11,223 逃れようとしているがごとく 757 01:05:11,223 --> 01:05:15,327 再び政務に精励し始めていた 758 01:05:15,327 --> 01:05:19,131 新宮殿ルーヴェンブルン 建設計画の再開は 759 01:05:19,131 --> 01:05:22,034 今は見合わせたほうが よいのではないか? 760 01:05:22,034 --> 01:05:26,238 度重なる出兵が国庫に 負担をかけていることでもあるし 761 01:05:26,238 --> 01:05:30,209 皇帝の権威と権力を 巨大な建造物によって象徴させる 762 01:05:30,209 --> 01:05:33,979 前王朝の悪癖を 踏襲しようとも思わぬ 763 01:05:33,979 --> 01:05:37,750 元々 余がそれほど強く 望んだものでもないし 764 01:05:37,750 --> 01:05:40,652 余は別にホテル暮らしでも 不都合はない 765 01:05:40,652 --> 01:05:42,921 お言葉ではございますが 766 01:05:42,921 --> 01:05:46,658 皇帝陛下があまりに ご質素な生活をなさっては 767 01:05:46,658 --> 01:05:50,662 臣下の者たちが 余裕ある生活を送れませぬ 768 01:05:50,662 --> 01:05:54,733 願わくば そのあたりを ご考慮いただけますよう 769 01:05:54,733 --> 01:05:57,633 なるほど そういうものか 770 01:06:00,439 --> 01:06:04,139 分かった 少し考えよう ははあ 771 01:06:06,345 --> 01:06:09,048 政治と戦争以外のことに 772 01:06:09,048 --> 01:06:11,617 奇妙に疎いところがある ラインハルトは 773 01:06:11,617 --> 01:06:16,455 その意味では 普通の24歳の青年であった 774 01:06:16,455 --> 01:06:20,793 ローエングラム伯爵家の 家名を継いでより4年7ヵ月 775 01:06:20,793 --> 01:06:25,631 至尊の冠を頭上に戴いてより 1年あまりが経過しているが 776 01:06:25,631 --> 01:06:29,401 その間 征戦と経略の日々に 埋めつくされ 777 01:06:29,401 --> 01:06:34,601 人並みの生活感覚などは著しく 欠落していると言わざるを得ない 778 01:06:44,616 --> 01:06:46,952 やはりフェザーン回廊の両端に 779 01:06:46,952 --> 01:06:50,589 イゼルローン要塞クラスの 軍事拠点を建設するのが 780 01:06:50,589 --> 01:06:55,189 帝都防衛の観点からも 最も望ましい形と考えます 781 01:07:13,879 --> 01:07:18,679 このような嵐の夜は決まって あの日のことを思い出す 782 01:07:21,854 --> 01:07:25,354 早いものだ あれから5年か 783 01:07:30,129 --> 01:07:33,031 それは宇宙歴795年 784 01:07:33,031 --> 01:07:37,669 旧帝国歴486年 5月のことであった 785 01:07:37,669 --> 01:07:42,107 その時 ミッターマイヤーは 軍刑務所に不当に収監されており 786 01:07:42,107 --> 01:07:44,710 生命の危機にさらされていた 787 01:07:44,710 --> 01:07:49,548 民間女性を暴行と略奪の揚げ句に 殺害した貴族階級の部下を 788 01:07:49,548 --> 01:07:52,484 その場で処刑したことが 問題とされたからである 789 01:07:52,484 --> 01:07:55,354 その行為自体は 正当なものであったが 790 01:07:55,354 --> 01:07:59,224 処刑された部下が 当時の帝国最大の権門であった 791 01:07:59,224 --> 01:08:01,927 ブラウンシュヴァイク公の 一族であったことが 792 01:08:01,927 --> 01:08:03,996 ミッターマイヤーの不幸であった 793 01:08:03,996 --> 01:08:06,565 そのミッターマイヤーを 救出するために 794 01:08:06,565 --> 01:08:10,569 親友であるロイエンタールが 当時 実力をつけつつあった 795 01:08:10,569 --> 01:08:15,974 ラインハルト・フォン・ミューゼル大将に 援助を求めたのである 796 01:08:15,974 --> 01:08:17,910 卿は現在の 797 01:08:17,910 --> 01:08:22,514 ゴールデンバウム王朝について どう思う? 798 01:08:22,514 --> 01:08:25,083 それはラインハルトにとって 799 01:08:25,083 --> 01:08:27,019 キルヒアイス以外の 第三者に対して 800 01:08:27,019 --> 01:08:30,989 初めて明かされた 野望の一端であった 801 01:08:30,989 --> 01:08:34,893 それに対するロイエンタールの答えに 満足したラインハルトは 802 01:08:34,893 --> 01:08:38,393 ミッターマイヤーの救出を 約したのである 803 01:08:55,047 --> 01:08:57,416 毒殺でも恐れているのかね? 804 01:08:57,416 --> 01:09:00,085 俺はそんな柔弱な男じゃない 805 01:09:00,085 --> 01:09:03,722 では なぜ食事を残すのだ 806 01:09:03,722 --> 01:09:06,322 太ると女房に嫌われる 807 01:09:08,393 --> 01:09:13,699 フッ ロイエンタールが任せろと 請け合ってくれたからには 808 01:09:13,699 --> 01:09:17,169 最大限の努力をしてくれることは 疑いはない 809 01:09:17,169 --> 01:09:19,269 だが… 810 01:09:26,812 --> 01:09:30,282 はじめまして ミッターマイヤー少将閣下 811 01:09:30,282 --> 01:09:34,152 私は内務省 社会秩序維持局の 職員でして 812 01:09:34,152 --> 01:09:36,154 普段は共和主義者どもや 813 01:09:36,154 --> 01:09:40,254 不敬罪を犯した者どもの 取り調べに当たっております 814 01:09:42,427 --> 01:09:46,798 取り調べと申しましても 麻酔なしで歯を抜いたり 815 01:09:46,798 --> 01:09:50,636 死なない程度に手足の肉を そぎ取ったりと 816 01:09:50,636 --> 01:09:55,236 そういう方面の技術をもって 奉職しておるわけです 817 01:09:57,409 --> 01:10:00,178 もっとも私自身は この技術は 818 01:10:00,178 --> 01:10:03,148 一つの芸術であると 自負しております 819 01:10:03,148 --> 01:10:07,252 その辺を理解してくださる方も 大勢いらっしゃいまして 820 01:10:07,252 --> 01:10:10,155 時には こうして 職場以外で技量の披瀝を 821 01:10:10,155 --> 01:10:12,724 求められることが多いのですよ 822 01:10:12,724 --> 01:10:19,298 まあ 趣味と実益と申しましょうか ハハハ… 823 01:10:19,298 --> 01:10:23,769 趣味の部分としては 身分の 高い方ほど素材として望ましい 824 01:10:23,769 --> 01:10:29,007 普段 偉そうにしている人が 私の前で泣き叫んで助けを請う 825 01:10:29,007 --> 01:10:32,778 その姿を見るのが 何よりも楽しみで 826 01:10:32,778 --> 01:10:35,647 その点 平民出身でありながら 827 01:10:35,647 --> 01:10:39,518 27歳で帝国軍少将の 地位にあるような方は 828 01:10:39,518 --> 01:10:42,087 最高の素材と言えましょう 829 01:10:42,087 --> 01:10:45,287 ほら はいつくばって 許しを請え! 830 01:10:49,761 --> 01:10:53,598 ほう 悲鳴を上げられないのは さすがですな 831 01:10:53,598 --> 01:10:57,469 貴族の若さまや 坊ちゃま方とは ものが違う 832 01:10:57,469 --> 01:11:01,173 だが それだけ楽しみも 多いというものです 833 01:11:01,173 --> 01:11:05,410 門地もなしに 20代で提督と呼ばれるような方が 834 01:11:05,410 --> 01:11:10,349 いつ自尊心をかなぐり捨てて 助けてくれと わめき立てるか 835 01:11:10,349 --> 01:11:14,186 その一変する瞬間が それは甘美なものなのですよ 836 01:11:14,186 --> 01:11:16,888 理解していただけますかな? 837 01:11:16,888 --> 01:11:18,890 よく しゃべる奴だな 838 01:11:18,890 --> 01:11:21,190 減らず口を! 839 01:11:32,137 --> 01:11:35,237 卑しい平民にふさわしい 戦いぶりだな 840 01:11:40,445 --> 01:11:42,814 これは若さま方 841 01:11:42,814 --> 01:11:47,085 このような卑しい場所に わざわざ お運びにならずとも 842 01:11:47,085 --> 01:11:51,423 フッ なかなか 優遇されているではないか 843 01:11:51,423 --> 01:11:54,359 ミッターマイヤー少将 844 01:11:54,359 --> 01:11:57,829 豚のくせに 人間の言葉をしゃべるなよ 845 01:11:57,829 --> 01:12:02,000 人間のほうが赤面するからな 846 01:12:02,000 --> 01:12:04,000 この! 847 01:12:20,385 --> 01:12:22,888 どうだ 思い知ったか 848 01:12:22,888 --> 01:12:27,492 礼儀知らずの平民が いいざまだな 849 01:12:27,492 --> 01:12:29,795 誰が思い知るか 850 01:12:29,795 --> 01:12:32,531 貴様に本物の誇りがあるなら 851 01:12:32,531 --> 01:12:36,401 俺の手錠を外して 五分の条件で やり合ってみろ 852 01:12:36,401 --> 01:12:39,838 それとも怖いか 怖いのだろう 853 01:12:39,838 --> 01:12:43,708 臆病者め 先祖の勇名が泣くぞ 854 01:12:43,708 --> 01:12:46,978 よし 平民め 望みを叶えてやる 855 01:12:46,978 --> 01:12:49,815 誰か 奴の手錠を外してやれ 856 01:12:49,815 --> 01:12:52,083 いや… しかし… 857 01:12:52,083 --> 01:12:54,183 貸せ 858 01:13:01,860 --> 01:13:06,264 さあ これでもう文句は言わせんぞ 859 01:13:06,264 --> 01:13:10,464 確かにな 文句は言わんよ 卿は立派だ 860 01:13:28,286 --> 01:13:31,086 撃ち殺せ! そいつを殺してしまえ! 861 01:13:44,769 --> 01:13:47,269 き… 貴様 ミューゼル 862 01:14:00,285 --> 01:14:05,490 思えば あの嵐の夜に ロイエンタールが訪ねてこなければ 863 01:14:05,490 --> 01:14:10,128 我ら4人の紐帯は生まれなかった 卿らとの出会いが 864 01:14:10,128 --> 01:14:13,999 余に大地の軛からの離脱を 決意させたのだ 865 01:14:13,999 --> 01:14:16,701 ブラウンシュヴァイク公らの 差し金と 866 01:14:16,701 --> 01:14:19,271 当時の軍幹部どもの厄介払いで 867 01:14:19,271 --> 01:14:22,741 我々は まとめて最前線に送られた 868 01:14:22,741 --> 01:14:25,110 だが それは結果的に 869 01:14:25,110 --> 01:14:29,447 我らに武勲を立てる場を 与えてくれるものだった 870 01:14:29,447 --> 01:14:32,183 惑星レグニッツァ上空の遭遇戦 871 01:14:32,183 --> 01:14:34,886 そして第4次ティアマト会戦と 872 01:14:34,886 --> 01:14:37,589 かくかくたる武勲を挙げた 我らの実力を 873 01:14:37,589 --> 01:14:40,392 軍の上層部も 認めざるを得なくなり 874 01:14:40,392 --> 01:14:45,392 余はローエングラム伯爵家の 門地と 上級大将の位を手に入れた 875 01:14:48,433 --> 01:14:53,271 それは現在に至る階梯をのぼる 大きな一歩だった 876 01:14:53,271 --> 01:14:57,876 余とキルヒアイスの力だけでは 今日の新帝国はなかったであろう 877 01:14:57,876 --> 01:14:59,811 身に余るお言葉です 878 01:14:59,811 --> 01:15:03,111 我が友の分も合わせて お礼申し上げます 879 01:15:07,352 --> 01:15:10,689 嵐は 880 01:15:10,689 --> 01:15:13,689 いつまで続くのであろうな 881 01:15:22,734 --> 01:15:25,270 新帝国の首都たるフェザーンから 882 01:15:25,270 --> 01:15:29,641 5000光年を隔てた旧同名首都星 ハイネセンにおいては 883 01:15:29,641 --> 01:15:32,377 カイザー・ラインハルトの 全権代理人である 884 01:15:32,377 --> 01:15:35,580 ノイエ・ラント総督 オスカー・ フォン・ロイエンタールによる 885 01:15:35,580 --> 01:15:38,049 施政が始まっている 886 01:15:38,049 --> 01:15:40,652 ロイエンタールが 単なる武人ではなく 887 01:15:40,652 --> 01:15:43,622 有能で強力な 行政官でもあることは 888 01:15:43,622 --> 01:15:46,992 当時 誰も疑う者はいなかった 889 01:15:46,992 --> 01:15:51,429 まず彼は522万6400名に達する 890 01:15:51,429 --> 01:15:55,700 ノイエラント治安軍の 指揮権を握っており それを背景に 891 01:15:55,700 --> 01:15:59,571 いくらでも武断的な行政を 断行し得たにもかかわらず 892 01:15:59,571 --> 01:16:03,475 柔軟で弾力性に富んだ 施政を行っていた 893 01:16:03,475 --> 01:16:06,745 ああ… 894 01:16:06,745 --> 01:16:12,017 民主共和政とやらの迂遠さは しばしば民衆をいらだたせる 895 01:16:12,017 --> 01:16:15,453 迅速さという一点で 奴らを満足させれば 896 01:16:15,453 --> 01:16:18,653 民主共和政とやらに こだわることはあるまい 897 01:16:21,059 --> 01:16:24,929 ロイエンタールの政治感覚が 非凡であった一例は 898 01:16:24,929 --> 01:16:28,600 それまで自由惑星同盟の 統治下にあって放置されてきた 899 01:16:28,600 --> 01:16:32,370 いくつかの不公正を ドラスティックに是正したことである 900 01:16:32,370 --> 01:16:35,840 古い権力体制下における 腐敗を弾劾することは 901 01:16:35,840 --> 01:16:40,812 新体制にとっては自己の正義を 宣伝する絶好の材料であった 902 01:16:40,812 --> 01:16:44,349 反政府勢力やジャーナリズムに 指弾されながら 903 01:16:44,349 --> 01:16:48,019 法の摘発を受けずにきた 利権政治家や汚職官僚 904 01:16:48,019 --> 01:16:53,792 軍需産業経営者など600人余りが 総督府の手で一網打尽に逮捕され 905 01:16:53,792 --> 01:16:57,028 民衆は快哉の声を 上げたものである 906 01:16:57,028 --> 01:16:59,764 一方で報道管制などは行わず 907 01:16:59,764 --> 01:17:04,164 不敬罪を唯一の例外として 言論の自由も保障した 908 01:17:08,506 --> 01:17:12,944 そんな中 ノイエ・ラント総督府 高等参事官として 909 01:17:12,944 --> 01:17:15,580 ヨブ・トリューニヒトが 着任したのである 910 01:17:15,580 --> 01:17:17,816 かつてトリューニヒトが 元首を務めた 911 01:17:17,816 --> 01:17:20,251 自由惑星同盟は既になく 912 01:17:20,251 --> 01:17:23,922 その瓦解を軍事面で 最後まで支え続けた 913 01:17:23,922 --> 01:17:27,292 アレクサンドル・ビュコック ヤン・ウェンリーの両元帥も 914 01:17:27,292 --> 01:17:29,961 この世にない にもかかわらず 915 01:17:29,961 --> 01:17:32,630 トリューニヒトだけが 傷つくことなく生き残り 916 01:17:32,630 --> 01:17:35,400 再び故国の土を踏んだのである 917 01:17:35,400 --> 01:17:38,970 当然のことながら ジャーナリズムは攻撃の矛先を 918 01:17:38,970 --> 01:17:41,339 トリューニヒトに 向けることになる 919 01:17:41,339 --> 01:17:47,112 どのツラ下げて ここへやってきた 祖国を枯れ死させた宿り木が 920 01:17:47,112 --> 01:17:51,082 ロイエンタール元帥は 銀河帝国で随一の重臣 921 01:17:51,082 --> 01:17:54,285 そして最高の名将でいらっしゃる 922 01:17:54,285 --> 01:17:57,188 私ごときが貧しい知恵を お貸しする必要など 923 01:17:57,188 --> 01:18:00,792 ございませんでしょうが 閣下のお役に立てるのは 924 01:18:00,792 --> 01:18:03,528 光栄のいたりです 925 01:18:03,528 --> 01:18:05,830 この時 ロイエンタールは 926 01:18:05,830 --> 01:18:10,535 トリューニヒトの巧言令色の底にたゆたう 危険なものの影を察知した 927 01:18:10,535 --> 01:18:14,435 少なくとも ロイエンタール自身はそう思った 928 01:18:24,048 --> 01:18:26,117 トリューニヒトを監視しておけ 929 01:18:26,117 --> 01:18:30,822 俺が思うに 奴は何か よからぬことをたくらんでいる 930 01:18:30,822 --> 01:18:33,191 ご命令とあれば そういたしますが 931 01:18:33,191 --> 01:18:38,029 トリューニヒトなどに拘泥なさる必要は ないのではありますまいか 932 01:18:38,029 --> 01:18:43,001 それは俺も承知している だが視点を変えて考えてみろ 933 01:18:43,001 --> 01:18:46,137 ヤン・ウェンリーは倒れたが 奴は生きている 934 01:18:46,137 --> 01:18:51,075 恐らく奴は宿主を次々と 食い潰していく種類の宿り木だ 935 01:18:51,075 --> 01:18:54,913 生きている限りはな なるほど 936 01:18:54,913 --> 01:18:58,616 閣下 あるいは 無用の言かとは存じますが 937 01:18:58,616 --> 01:19:02,420 ご注意を 喚起しておきたいことがあります 938 01:19:02,420 --> 01:19:06,191 言ってみろ 卿が 俺の補佐役となって以来 939 01:19:06,191 --> 01:19:08,960 無用のことを 聞かされた覚えはないが 940 01:19:08,960 --> 01:19:10,895 はっ 941 01:19:10,895 --> 01:19:13,331 トリューニヒトごときと 閣下の御身とを 942 01:19:13,331 --> 01:19:16,234 どうか お引き換えになりませんよう 943 01:19:16,234 --> 01:19:21,172 閣下はローエングラム王朝の 重鎮として帝国を支える御身 944 01:19:21,172 --> 01:19:24,943 ご自重くださいますよう 切に望むところであります 945 01:19:24,943 --> 01:19:29,113 自重したからこそ トリューニヒトを監視させるのだ 946 01:19:29,113 --> 01:19:31,516 だが忠告は ありがたく受けておこう 947 01:19:31,516 --> 01:19:36,054 はっ そもそも 明敏であらせられるカイザーが 948 01:19:36,054 --> 01:19:38,423 トリューニヒトなどを 信任されたもう 949 01:19:38,423 --> 01:19:41,326 そのことこそが 小官には不思議でなりません 950 01:19:41,326 --> 01:19:43,795 小官ごとき凡人には 考えもつかない 951 01:19:43,795 --> 01:19:46,698 ご深慮が おありなのかもしれませんが 952 01:19:46,698 --> 01:19:49,601 そうではあるまい は? 953 01:19:49,601 --> 01:19:52,036 カイザーとて トリューニヒトのような男が 954 01:19:52,036 --> 01:19:55,006 存在するだけでも 許せないに違いない 955 01:19:55,006 --> 01:19:57,542 だが いかに専制国家とはいえ 956 01:19:57,542 --> 01:20:01,412 嫌いだからという理由だけで 殺すわけにもいかぬ 957 01:20:01,412 --> 01:20:05,283 せいぜい生き恥をさらさせ 旧同盟市民に対する 958 01:20:05,283 --> 01:20:08,086 帝国の盾として 使おうというのであろう 959 01:20:08,086 --> 01:20:11,489 だがトリューニヒトを 勝手に殺すわけにいかぬのは 960 01:20:11,489 --> 01:20:15,226 俺とて同じこと 陛下のお考えはともかく 961 01:20:15,226 --> 01:20:18,963 オーベルシュタインあたりは 俺にトリューニヒトを害させて 962 01:20:18,963 --> 01:20:23,735 その上で責任を問うてくる ぐらいのことは やるかもしれん 963 01:20:23,735 --> 01:20:26,971 閣下? 964 01:20:26,971 --> 01:20:32,243 いずれにせよトリューニヒトは カイザーより勅任をこうむった男 965 01:20:32,243 --> 01:20:35,747 罪ありとしても 俺が一存で 処断するわけにはいかぬ 966 01:20:35,747 --> 01:20:38,549 さしあたり監視を怠るな 967 01:20:38,549 --> 01:20:41,085 そう長い期間が必要とも思えぬが 968 01:20:41,085 --> 01:20:43,885 とりあえずのことだ はっ 969 01:21:09,981 --> 01:21:12,381 ん? あ! 970 01:21:26,097 --> 01:21:29,197 エヴァ! あ… 971 01:21:32,870 --> 01:21:35,970 ウォルフ あなた お元気でした? 972 01:21:38,109 --> 01:21:40,345 あまり元気ではないよ 973 01:21:40,345 --> 01:21:43,982 エヴァの料理を 長いこと食べられなかったからな 974 01:21:43,982 --> 01:21:46,417 味覚の水準が低下してしまったよ 975 01:21:46,417 --> 01:21:48,353 まあ その代わり 976 01:21:48,353 --> 01:21:52,223 お世辞の水準は 上昇なさったみたいね 977 01:21:52,223 --> 01:21:57,595 ミッターマイヤー夫妻にとって およそ1年ぶりの再会であった 978 01:21:57,595 --> 01:22:01,099 エヴァンゼリン・ ミッターマイヤーは夫に伴われて 979 01:22:01,099 --> 01:22:03,134 フェザーンに到着した その足で 980 01:22:03,134 --> 01:22:06,671 大本営に カイザー・ラインハルトを訪ねた 981 01:22:06,671 --> 01:22:10,071 フラウ・ミッターマイヤー よく来てくださった 982 01:22:12,310 --> 01:22:16,247 あなたのご主人は余にとって 信頼に値する戦友だ 983 01:22:16,247 --> 01:22:21,986 ご主人を旗下に持ち得たことは 余の幸福だと思っている 984 01:22:21,986 --> 01:22:24,622 恐れ入ります 陛下 985 01:22:24,622 --> 01:22:27,525 主人にとっては 陛下のもとにあることが 986 01:22:27,525 --> 01:22:30,925 人生で最大の幸福だと存じます 987 01:22:35,266 --> 01:22:39,971 その会見はラインハルトのほうから 望んだものであった 988 01:22:39,971 --> 01:22:43,841 その前夜 またしても ラインハルトの発熱があり 989 01:22:43,841 --> 01:22:47,412 心配したヒルダらの側近は 中止を勧めたが 990 01:22:47,412 --> 01:22:53,217 朝になって熱が下がったラインハルトが 希望を通したものであった 991 01:22:53,217 --> 01:22:58,356 最初は ややぎこちなく 始まった談話も急速に親和を深め 992 01:22:58,356 --> 01:23:03,828 ラインハルトはミッターマイヤー夫妻との 時間の共有を好ましいものに思い 993 01:23:03,828 --> 01:23:09,328 2人のなれ初めや結婚の事情に ついて聞いた話の数々を楽しんだ 994 01:23:11,335 --> 01:23:16,974 で その時ミッターマイヤー元帥は どんな花を持っていったのだ? 995 01:23:16,974 --> 01:23:19,744 あ… いや 996 01:23:19,744 --> 01:23:22,644 それが お恥ずかしい次第で ございまして… 997 01:23:32,723 --> 01:23:36,723 すぐそこだ 車を使うまでもあるまい 998 01:23:44,869 --> 01:23:49,707 そういえば 俺がエヴァと 結婚したのは24の時だったが 999 01:23:49,707 --> 01:23:53,044 陛下も今年 24歳におなりになった 1000 01:23:53,044 --> 01:23:57,415 その気がおありなら 陛下の周囲は花園も同様なのにな 1001 01:23:57,415 --> 01:23:59,350 もったいないことだ 1002 01:23:59,350 --> 01:24:02,620 マリーンドルフ伯爵の ご令嬢のこと? 1003 01:24:02,620 --> 01:24:05,389 彼女だけとも限らないがね 1004 01:24:05,389 --> 01:24:07,959 むろん 俺にその権限があったら 1005 01:24:07,959 --> 01:24:13,764 やはり彼女を皇妃になさるよう カイザーに申し上げるだろうが 1006 01:24:13,764 --> 01:24:16,100 俺は単なる軍人だ 1007 01:24:16,100 --> 01:24:20,600 政治やカイザーの私生活にまで 気を病んでいては際限がない 1008 01:24:22,707 --> 01:24:25,676 俺は ただ陛下のご命令を忠実に 1009 01:24:25,676 --> 01:24:30,448 完璧に遂行することだけを 考えていればいいのだ 1010 01:24:30,448 --> 01:24:33,351 さあ あそこがこれからの新居だ 1011 01:24:33,351 --> 01:24:38,890 小さな家だが大本営にも近いし 2人で住むには十分だろう 1012 01:24:38,890 --> 01:24:40,890 ええ 1013 01:24:43,861 --> 01:24:47,598 そうだ それだけを考えよう 1014 01:24:47,598 --> 01:24:51,398 それでいいのだよな? ロイエンタール 1015 01:24:56,807 --> 01:25:00,107 あなた 急ぎましょ 嵐が来るわ 1016 01:25:28,739 --> 01:25:32,076 あの時はミッターマイヤーがいて 1017 01:25:32,076 --> 01:25:34,111 ロイエンタールがいて 1018 01:25:34,111 --> 01:25:36,411 キルヒアイスがいた 1019 01:26:10,681 --> 01:26:13,484 この時のオスカー・フォン・ ロイエンタールは 1020 01:26:13,484 --> 01:26:17,221 いわば宇宙第2の実力者であった 1021 01:26:17,221 --> 01:26:20,191 帝国中央の兵権が オーベルシュタイン 1022 01:26:20,191 --> 01:26:24,495 ミッターマイヤー両元帥に 二分されていることを考えると 1023 01:26:24,495 --> 01:26:27,265 ノイエ・ラントに 限定されているとはいえ 1024 01:26:27,265 --> 01:26:30,134 ロイエンタールの軍事独裁権力は 1025 01:26:30,134 --> 01:26:35,334 帝国の重臣たちの中にあって 最強かつ最大のものであった 1026 01:26:40,778 --> 01:26:45,349 この強大な権限と実力とが いずれの方向を志向するか 1027 01:26:45,349 --> 01:26:47,285 この段階においては 1028 01:26:47,285 --> 01:26:51,185 ロイエンタール自身にすら 明瞭ではなかった 1029 01:28:28,886 --> 01:28:31,655 全人類のうち ほんの一握りが 1030 01:28:31,655 --> 01:28:35,259 立てこもる場所となってしまった イゼルローン要塞 1031 01:28:35,259 --> 01:28:38,796 そこはまさに 宇宙の辺境と言ってよかった 1032 01:28:38,796 --> 01:28:43,300 だがユリアンは むしろ 辺境に身を置くことの誇りを胸に 1033 01:28:43,300 --> 01:28:46,504 苦難の道を歩みだそうとしていた 1034 01:28:46,504 --> 01:28:52,610 次回「銀河英雄伝説」 第88話「辺境にて」 1035 01:28:52,610 --> 01:28:55,410 銀河の歴史が また1ページ 1036 01:33:04,595 --> 01:33:07,698 私 フレデリカ・ グリーンヒル・ヤンは 1037 01:33:07,698 --> 01:33:13,470 ここに民主共和政治を支持する 人々の総意に基づいて宣言します 1038 01:33:13,470 --> 01:33:16,273 イゼルローン共和政府の樹立を 1039 01:33:16,273 --> 01:33:20,577 アーレ・ハイネセンに始まる 自由と平等と人民主権への希求 1040 01:33:20,577 --> 01:33:25,416 それを実現させるための戦いが なお続くのだということを 1041 01:33:25,416 --> 01:33:27,818 この不利な 不遇な状況にあって 1042 01:33:27,818 --> 01:33:31,355 民主共和政治の小さな芽を 育んでくださる皆さんに 1043 01:33:31,355 --> 01:33:36,593 感謝します ありがとうございます 1044 01:33:36,593 --> 01:33:41,432 そして全てが終わった時には 「ありがとうございました」と 1045 01:33:41,432 --> 01:33:44,832 そう申し上げることができれば いいと思います 1046 01:33:48,639 --> 01:33:51,041 イゼルローン共和政府 万歳! 1047 01:33:51,041 --> 01:33:53,110 くたばれ カイザー・ラインハルト! 1048 01:33:53,110 --> 01:33:57,281 イゼルローン共和政府 万歳! 1049 01:33:57,281 --> 01:34:00,818 くたばれ カイザー・ラインハルト! 1050 01:34:00,818 --> 01:34:04,722 おお! 1051 01:34:04,722 --> 01:34:09,493 宇宙歴800年 新帝国歴2年8月8日 1052 01:34:09,493 --> 01:34:13,363 イゼルローン共和政府の 成立が宣言された 1053 01:34:13,363 --> 01:34:15,966 不敗のまま逝った ヤン・ウェンリーの妻 1054 01:34:15,966 --> 01:34:18,335 フレデリカが政府主席となり 1055 01:34:18,335 --> 01:34:23,173 6年にわたって被保護者であった ユリアンが軍司令官となった 1056 01:34:23,173 --> 01:34:25,776 それは衆議によって 定まったことであり 1057 01:34:25,776 --> 01:34:29,146 最善というより 唯一の選択であったが 1058 01:34:29,146 --> 01:34:31,215 当事者でない一部の人々は 1059 01:34:31,215 --> 01:34:35,686 孤児と未亡人による連合政権と 嘲笑する 1060 01:34:35,686 --> 01:34:39,356 当事者たちは 批判を承知の上であった 1061 01:34:39,356 --> 01:34:43,994 全宇宙をほぼ手中にした ローエングラム朝銀河帝国に対して 1062 01:34:43,994 --> 01:34:47,865 共和主義の旗を掲げるには 核が必要であり 1063 01:34:47,865 --> 01:34:50,868 唯一の核としては ヤン・ウェンリーの残像が 1064 01:34:50,868 --> 01:34:53,268 存在するだけであったのだから 1065 01:34:57,040 --> 01:34:59,440 あの ユリアン・ミンツ中尉ですね 1066 01:35:01,879 --> 01:35:04,515 僕 以前から 中尉殿のことを知って… 1067 01:35:04,515 --> 01:35:07,851 いえ 存じ上げていました お会いできて光栄です 1068 01:35:07,851 --> 01:35:10,187 僕より少し年上なだけなのに 1069 01:35:10,187 --> 01:35:13,090 ご立派だと思って あの… 尊敬しています 1070 01:35:13,090 --> 01:35:15,890 君はいくつ? 13歳です 1071 01:35:18,862 --> 01:35:21,331 ヤン大佐 ご存じですか? 1072 01:35:21,331 --> 01:35:24,935 きっとご存じないでしょうね 1073 01:35:24,935 --> 01:35:29,840 僕 本当は大佐のこと とても尊敬してるんですよ 1074 01:35:29,840 --> 01:35:32,540 やっぱり ほら ご存じなかった 1075 01:35:37,815 --> 01:35:41,785 僕は君が考えているような 偉い男ではないよ 1076 01:35:41,785 --> 01:35:45,489 ただ ヤン提督のおそばに いさせてもらって 1077 01:35:45,489 --> 01:35:49,026 それで ずっと勝利者の側に 身を置くことができたんだ 1078 01:35:49,026 --> 01:35:52,496 運がよかっただけだよ でも まだ18歳で 1079 01:35:52,496 --> 01:35:54,965 イゼルローン軍の司令官を なさってるじゃ ありませんか 1080 01:35:54,965 --> 01:35:58,635 運だけで務まるお仕事じゃ ないですよ 僕 中尉を… 1081 01:35:58,635 --> 01:36:02,806 いえ 司令官殿を尊敬しています 本当です 1082 01:36:02,806 --> 01:36:05,406 ありがとう 努力してみるよ 1083 01:36:10,848 --> 01:36:14,418 何年か前の僕がいる 1084 01:36:14,418 --> 01:36:17,955 こうやって思いというものは 受け継がれていくのだろうか 1085 01:36:17,955 --> 01:36:20,991 ヤン提督の思いを 僕が受け継いだように 1086 01:36:20,991 --> 01:36:24,561 全てではないにしても いや ほんのわずかだとしても 1087 01:36:24,561 --> 01:36:27,331 提督の思いを分かち合えたように 1088 01:36:27,331 --> 01:36:31,134 年長者から年少者へ 先人から後続者へ 1089 01:36:31,134 --> 01:36:34,671 思いのたいまつは リレーされていくのだろうか 1090 01:36:34,671 --> 01:36:37,875 だとしたら その火を貴重に思う者は 1091 01:36:37,875 --> 01:36:43,380 それを絶やすことなく次の走者に 手渡す責任があるに違いない 1092 01:36:43,380 --> 01:36:46,717 器量を試されているのは ユリアンだけではない 1093 01:36:46,717 --> 01:36:49,419 俺たち全員が歴史に問われている 1094 01:36:49,419 --> 01:36:51,355 「ヤン・ウェンリーを 失った俺たちが」 1095 01:36:51,355 --> 01:36:55,525 「なお希望と統一と計画性を 失わずにいられるかどうか」 1096 01:36:55,525 --> 01:37:01,265 ということをな その意味では よく60万人以上も残ったものだ 1097 01:37:01,265 --> 01:37:04,568 もの好きの種は尽きないものだ 1098 01:37:04,568 --> 01:37:06,536 そのうちの何十人かを ついさっき 1099 01:37:06,536 --> 01:37:09,006 たたき出したのは どなたでしたっけ? 1100 01:37:09,006 --> 01:37:12,442 フン あんな不覚悟な連中に いてもらう必要はない 1101 01:37:12,442 --> 01:37:15,846 奴らの言いぐさを聞いたか? 「ヤン提督さえ生きていれば」 1102 01:37:15,846 --> 01:37:18,882 「残留してもいいのだが」と きたもんだ 1103 01:37:18,882 --> 01:37:22,052 テレビの三文アニメなら 制作者の都合によって 1104 01:37:22,052 --> 01:37:25,789 死んだ主人公も生き返るだろう だが 俺たちが生きてるのは 1105 01:37:25,789 --> 01:37:30,294 それほど都合のいい世界じゃない 失われた命は決して帰ってこない 1106 01:37:30,294 --> 01:37:33,730 それだけに命というものが かけがえのない存在である世界に 1107 01:37:33,730 --> 01:37:36,166 生きているんだからな 1108 01:37:36,166 --> 01:37:38,168 名演説 名演説 1109 01:37:38,168 --> 01:37:40,504 アッテンボロー中将は世が世なら 1110 01:37:40,504 --> 01:37:43,407 あのヨブ・トリューニヒトの 後継者になれますな 1111 01:37:43,407 --> 01:37:46,109 軍服なんぞを 着せておくのは惜しい 1112 01:37:46,109 --> 01:37:49,446 ありがとうよ 俺が元首になったら お前さんに 1113 01:37:49,446 --> 01:37:52,182 トリューニヒト記念賞を くれてやるよ 1114 01:37:52,182 --> 01:37:56,053 おや ついに黒幕をやめて 表舞台に立つおつもりですか 1115 01:37:56,053 --> 01:37:58,989 だったら俺は ヤン未亡人派ですからね 1116 01:37:58,989 --> 01:38:03,794 誰が派閥抗争なんかするか あいにく俺は それほど暇じゃない 1117 01:38:03,794 --> 01:38:05,894 ケンカの準備で? ん? 1118 01:38:08,465 --> 01:38:12,469 「ヤン提督の生前は 祭りの準備に忙しかった」 1119 01:38:12,469 --> 01:38:16,540 「死後は残っていた宿題を 片づけるのに骨を折った」 1120 01:38:16,540 --> 01:38:20,210 あまり名文とは言えませんな 相変わらず 1121 01:38:20,210 --> 01:38:22,145 うるさいぞ 自称エース 1122 01:38:22,145 --> 01:38:25,349 お前さんこそ 子供たちを集めて 人気取りをしてるようだが 1123 01:38:25,349 --> 01:38:29,252 将来の票集めか? 深慮遠謀と言ってください 1124 01:38:29,252 --> 01:38:33,657 どうせ権力闘争をするなら もっと大きな勢力になって 1125 01:38:33,657 --> 01:38:36,994 権力に利権が伴うように なってからにしたいですからね 1126 01:38:36,994 --> 01:38:39,830 その時に 今の布石が 生きてくるんです 1127 01:38:39,830 --> 01:38:44,034 今 この辺境で覇を唱えたって 何の得もありゃしない 1128 01:38:44,034 --> 01:38:47,738 辺境か まあ 今の俺たちは帝国から見たら 1129 01:38:47,738 --> 01:38:50,640 辺境の流刑者みたいな もんだからな 1130 01:38:50,640 --> 01:38:53,440 権力闘争の起こりようもないか 1131 01:38:56,913 --> 01:38:59,516 僕たちは確かに辺境にいる 1132 01:38:59,516 --> 01:39:02,219 でも それは銀河帝国の辺境でも 1133 01:39:02,219 --> 01:39:05,055 まして自由惑星同盟の 辺境でもない 1134 01:39:05,055 --> 01:39:09,359 人類社会全体の辺境にだ そこは全宇宙で 1135 01:39:09,359 --> 01:39:12,262 カイザー・ラインハルトを忠誠の 対象としない人々の唯一の集合地 1136 01:39:12,262 --> 01:39:17,734 圧倒的多数に くみしない 異端者たちの聖地 1137 01:39:17,734 --> 01:39:21,471 そのような場所は 辺境にしか存在しえない 1138 01:39:21,471 --> 01:39:24,841 だから僕は辺境にいることを 誇りに思う 1139 01:39:24,841 --> 01:39:29,841 辺境とは時代を開く地平に 最も近い所なのだから 1140 01:39:32,115 --> 01:39:35,018 やあ クロイツェル伍長 1141 01:39:35,018 --> 01:39:38,855 こんにちは ミンツ中尉 1142 01:39:38,855 --> 01:39:41,625 ん? いや… 1143 01:39:41,625 --> 01:39:45,128 またヤン提督のベンチにいたの? 1144 01:39:45,128 --> 01:39:47,497 よく知ってるね 1145 01:39:47,497 --> 01:39:51,234 そりゃあ中尉は日課のように あそこで考え事をしているって 1146 01:39:51,234 --> 01:39:53,434 すっかり有名だから 1147 01:39:59,943 --> 01:40:01,978 ヤン提督って… え? 1148 01:40:01,978 --> 01:40:06,716 ヤン提督って本当に少しも 偉そうに見えない人だったわね 1149 01:40:06,716 --> 01:40:10,353 でも あの人が宇宙の半分を 支えていたんだわ 1150 01:40:10,353 --> 01:40:14,753 軍事的にも政治的にも そして思想的にもね 1151 01:40:20,664 --> 01:40:23,333 信じられないことだわ あんな人と 1152 01:40:23,333 --> 01:40:26,369 短い間でも 一緒にいることができたなんて 1153 01:40:26,369 --> 01:40:30,974 自分が歴史の証人なんだって 感じるのは不思議な気分だわね 1154 01:40:30,974 --> 01:40:34,511 君はヤン提督と 話をしたことがあるのかい? 1155 01:40:34,511 --> 01:40:37,714 ほんの何度かね 他愛のないことばかりだけど 1156 01:40:37,714 --> 01:40:40,584 不思議ね 直後には忘れていたことを 1157 01:40:40,584 --> 01:40:43,353 今は はっきり 思い出すことができるわ 1158 01:40:43,353 --> 01:40:46,857 実を言うとね ヤン提督が 生きていらした頃は 1159 01:40:46,857 --> 01:40:49,759 それほど偉大な人だとも 思ってなかったのよ 1160 01:40:49,759 --> 01:40:53,630 でも亡くなってから 少しだけ分かったような気がする 1161 01:40:53,630 --> 01:40:57,400 提督の息吹を私たちは 直接 感じているけど 1162 01:40:57,400 --> 01:41:00,637 その息吹はきっと 時が経つほど大きくなって 1163 01:41:00,637 --> 01:41:03,937 歴史を 吹き抜けていくんでしょうね 1164 01:41:05,909 --> 01:41:07,909 歴史… 1165 01:41:12,249 --> 01:41:15,152 思い出させてしまった? いや 1166 01:41:15,152 --> 01:41:18,455 それは ヤン提督の最期を 思い出すのはつらい 1167 01:41:18,455 --> 01:41:23,293 だけど忘れるのは もっと耐えがたいことだから 1168 01:41:23,293 --> 01:41:26,029 あ… 1169 01:41:26,029 --> 01:41:29,065 司令官閣下 何か? 1170 01:41:29,065 --> 01:41:32,702 つけあがるんじゃない ヤン提督のお命ひとつ守れなくて 1171 01:41:32,702 --> 01:41:35,472 何が司令官だ 1172 01:41:35,472 --> 01:41:38,475 大体 いくらヤン・ウェンリーの 養子だからといってだな… 1173 01:41:38,475 --> 01:41:41,344 ヤン提督の死は ユリアンの責任じゃない 1174 01:41:41,344 --> 01:41:43,813 ヤン提督を 守りきれなかったという点では 1175 01:41:43,813 --> 01:41:47,784 私も他のイゼルローンの全員も 同罪だわ 1176 01:41:47,784 --> 01:41:49,920 言ってやりなさいよ ユリアン 1177 01:41:49,920 --> 01:41:53,490 第一ヤン提督がユリアンを 非難するとも思えないわ 1178 01:41:53,490 --> 01:41:55,959 「ユリアンが駆けつけるまで 待てなくてごめん」って 1179 01:41:55,959 --> 01:41:57,894 かえって謝るに違いないわ 1180 01:41:57,894 --> 01:42:00,630 どうして黙って言わせておくのよ じれったいわね 1181 01:42:00,630 --> 01:42:04,301 何とか言って… ミンツ中尉 どうして黙っているの 1182 01:42:04,301 --> 01:42:06,236 あんたは不当に 非難されているのよ 1183 01:42:06,236 --> 01:42:08,238 私だったら 平手打ちの2ダースくらい 1184 01:42:08,238 --> 01:42:11,007 こいつにくれてやるわ こいつ? 1185 01:42:11,007 --> 01:42:14,711 あんたは あんたを信頼し 支持してくれてる人たちのために 1186 01:42:14,711 --> 01:42:17,681 自分自身の正当な権利を 守るべきではないの? 1187 01:42:17,681 --> 01:42:21,484 それは余計なことだとは思うわよ 分かっているわよ でもね… 1188 01:42:21,484 --> 01:42:24,721 それにしても ヤン提督もヤン提督だ 1189 01:42:24,721 --> 01:42:29,492 地球教徒に暗殺されるなんて こんな ぶざまな死に方があるか 1190 01:42:29,492 --> 01:42:32,062 カイザー・ラインハルトと 正面から戦って 1191 01:42:32,062 --> 01:42:33,997 壮烈な戦死を遂げていたなら 1192 01:42:33,997 --> 01:42:36,566 英雄としての生涯を 全うできたものを 1193 01:42:36,566 --> 01:42:40,337 とんだ恥さらしじゃないか もう一度 言ってみろ! 1194 01:42:40,337 --> 01:42:43,106 暗殺された人間は 戦死した人間より 1195 01:42:43,106 --> 01:42:46,009 格が下だとでもいうのか あ… いや 1196 01:42:46,009 --> 01:42:49,613 おい ユリアン いや 司令官殿 1197 01:42:49,613 --> 01:42:53,116 出来の悪い部下を 殴ってはいけませんな 1198 01:42:53,116 --> 01:42:55,685 ポプラン中佐 1199 01:42:55,685 --> 01:42:57,721 さて この際あんたのほうは 1200 01:42:57,721 --> 01:43:00,957 わずかな想像力を 働かせればいいのさ 1201 01:43:00,957 --> 01:43:03,226 あんたより年齢がずっと若くて 1202 01:43:03,226 --> 01:43:05,695 ずっと重い責任を 負わされた相手を 1203 01:43:05,695 --> 01:43:11,201 口汚く ののしるような人間が 周囲の目に美しく見えるかどうか 1204 01:43:11,201 --> 01:43:14,504 まあ 引き下がるんだな ユリアンが本気で怒ったら 1205 01:43:14,504 --> 01:43:17,073 お前さんは ミンチボールにされてしまう 1206 01:43:17,073 --> 01:43:20,873 お前さんの体を心配して 俺は出しゃばっているんだぜ 1207 01:43:25,448 --> 01:43:28,118 ハハハ さて お若いご両人 1208 01:43:28,118 --> 01:43:30,120 お暇なようだから その辺りで小生に 1209 01:43:30,120 --> 01:43:33,020 コーヒーでも 付き合ってもらおうか 1210 01:43:40,063 --> 01:43:43,400 フン 1211 01:43:43,400 --> 01:43:46,903 ユリアンが未熟を自覚しながら 司令官職に就いたのは 1212 01:43:46,903 --> 01:43:49,472 ヤン提督を 守りきれなかった責任を 1213 01:43:49,472 --> 01:43:52,676 あいつなりに 果たそうとしているのさ 1214 01:43:52,676 --> 01:43:56,279 ヤン提督の理念を受け継いで 実現させることでな 1215 01:43:56,279 --> 01:43:58,915 その程度のことを 理解できないような奴が 1216 01:43:58,915 --> 01:44:02,118 イゼルローンに残留する 必要も意義もない 1217 01:44:02,118 --> 01:44:04,421 出ていってもらうべきだろうな 1218 01:44:04,421 --> 01:44:06,489 俺も そうしてもらいたいと思うが 1219 01:44:06,489 --> 01:44:11,528 異分子を全て排除するというのも 民主政治の原理に反するだろうな 1220 01:44:11,528 --> 01:44:16,366 「民主政治とは権力者の自己規制を 法文化した体制である」か 1221 01:44:16,366 --> 01:44:19,736 権力者か あのユリアンがね 1222 01:44:19,736 --> 01:44:23,173 ヤン・ウェンリーはとても 英雄には見えない人間だったが 1223 01:44:23,173 --> 01:44:26,843 愛弟子も それにならうか 1224 01:44:26,843 --> 01:44:29,746 ユリアンには 先人に対する嫉妬心がない 1225 01:44:29,746 --> 01:44:32,682 こいつは後継者としては 得がたい資質だ 1226 01:44:32,682 --> 01:44:35,952 このまま伸びていって ほしいものだが 1227 01:44:35,952 --> 01:44:39,289 ヤン・ウェンリーの口調を借りれば こういうことになるかな 1228 01:44:39,289 --> 01:44:43,026 歴史はどう語るか 「ユリアン・ミンツは ヤン・ウェンリーの弟子だった」 1229 01:44:43,026 --> 01:44:45,929 あるいは「ヤン・ウェンリーは ユリアン・ミンツの師だった」 1230 01:44:45,929 --> 01:44:48,832 さて どちらになるものやら 1231 01:44:48,832 --> 01:44:51,134 はっきり分かっているのは これだけだ 1232 01:44:51,134 --> 01:44:55,405 俺たちは全員そろって 諦めが悪い人間だということさ 1233 01:44:55,405 --> 01:44:57,807 シェーンコップ中将のご意見は? 1234 01:44:57,807 --> 01:45:00,307 反論できないのが残念だな 1235 01:45:06,516 --> 01:45:09,419 何だ?帝国に憲法を作らせるって 1236 01:45:09,419 --> 01:45:13,790 そうです 急進的である必要は 必ずしもありません 1237 01:45:13,790 --> 01:45:16,693 立憲制度によって 銀河帝国そのものを 1238 01:45:16,693 --> 01:45:19,195 じわじわと乗っ取ってしまえば いいんです 1239 01:45:19,195 --> 01:45:23,833 なるほど 考えてみれば それも有力な選択肢の一つだな 1240 01:45:23,833 --> 01:45:26,603 憲法というものは たとえ それがどんなものでも 1241 01:45:26,603 --> 01:45:30,874 君主制から人民主権へ向かう ステップになり得るか 1242 01:45:30,874 --> 01:45:33,476 ヤン・ウェンリーの死が カイザー・ラインハルトの 1243 01:45:33,476 --> 01:45:35,412 手によるものではなかったことが 1244 01:45:35,412 --> 01:45:40,250 結果的にユリアンを 帝国に対する 不毛な憎悪から自由にした 1245 01:45:40,250 --> 01:45:43,153 そして それは その政略的な選択肢に 1246 01:45:43,153 --> 01:45:46,156 柔軟性を持たせることと なったのである 1247 01:45:46,156 --> 01:45:51,828 銀河帝国自体を専制国家から 立憲国家に変質させてしまう 1248 01:45:51,828 --> 01:45:54,364 もし それが可能であるとしたら 1249 01:45:54,364 --> 01:45:58,201 全人類社会が単一国家として 統一されている時が 1250 01:45:58,201 --> 01:46:00,203 一番 効率がいいかもしれません 1251 01:46:00,203 --> 01:46:05,074 その意味では今の状況はかえって 都合がいいかもしれませんよ 1252 01:46:05,074 --> 01:46:09,879 フン ヤン提督は帝国軍からは ペテン師呼ばわりされていたが 1253 01:46:09,879 --> 01:46:12,682 お前さん 立派な後継者になれるぜ 1254 01:46:12,682 --> 01:46:14,684 言うだけなら簡単ですよね 1255 01:46:14,684 --> 01:46:17,620 でもルドルフ・フォン・ ゴールデンバウムが 1256 01:46:17,620 --> 01:46:20,423 単一政体である 銀河連邦を乗っ取って 1257 01:46:20,423 --> 01:46:23,059 銀河帝国を成立させたように 1258 01:46:23,059 --> 01:46:26,763 その逆はできないものかと 思いまして 1259 01:46:26,763 --> 01:46:29,499 で ユリアン… じゃない ミンツ司令官 1260 01:46:29,499 --> 01:46:32,702 カイザー・ラインハルトが 大軍をもってイゼルローン回廊へ 1261 01:46:32,702 --> 01:46:37,140 侵攻してくる可能性は 今のところは やはり低いか? 1262 01:46:37,140 --> 01:46:39,742 そう思います 今のところは 1263 01:46:39,742 --> 01:46:42,212 カイザーはフェザーンを 中枢とする 1264 01:46:42,212 --> 01:46:46,082 全宇宙の体系再編に 当分は意を用いるでしょう 1265 01:46:46,082 --> 01:46:49,385 だがカイザーの人となりは 戦いを好む 1266 01:46:49,385 --> 01:46:52,355 いずれ平和に飽きて 宇宙統一の完成を口実に 1267 01:46:52,355 --> 01:46:55,091 戦端を開くということはないかな 1268 01:46:55,091 --> 01:46:59,295 それも まず考えられませんね ヤン提督がご健在なら 1269 01:46:59,295 --> 01:47:01,998 カイザーも 戦意を刺激されるでしょうが 1270 01:47:01,998 --> 01:47:06,269 相手が… 我々では役者不足か 1271 01:47:06,269 --> 01:47:11,107 まあ いいさ 今 帝国軍と戦って 万に一つも勝ち目はない 1272 01:47:11,107 --> 01:47:14,744 かといって華々しく玉砕するのも 趣味じゃないし 1273 01:47:14,744 --> 01:47:17,080 ここは時間を稼がせてもらおう 1274 01:47:17,080 --> 01:47:22,318 民主共和政の遺産を後世に伝える そのことに成功してこそ 1275 01:47:22,318 --> 01:47:26,890 伊達と酔狂も 完成するというものだからな 1276 01:47:26,890 --> 01:47:30,760 早期に帝国軍が侵攻してくる ことはあり得ないにしても 1277 01:47:30,760 --> 01:47:35,265 軍事力による対応の準備を 怠ることはできなかった 1278 01:47:35,265 --> 01:47:37,534 ユリアンは元より アッテンボローも 1279 01:47:37,534 --> 01:47:41,237 メルカッツもシェーンコップも キャゼルヌもポプランも 1280 01:47:41,237 --> 01:47:45,909 編制 補給 人事 施設管理 訓練などの作業に追われて 1281 01:47:45,909 --> 01:47:49,579 多忙を極めていた 1282 01:47:49,579 --> 01:47:52,815 特に若い世代が 著しく勤勉になったのは 1283 01:47:52,815 --> 01:47:55,818 使命感もさることながら 多忙によって 1284 01:47:55,818 --> 01:48:00,418 ヤンの死の記憶から遠ざかろうと した事実も否定できない 1285 01:48:02,592 --> 01:48:05,895 生き残ってしまったよ 1人だけ 1286 01:48:05,895 --> 01:48:07,995 また… 1287 01:48:10,099 --> 01:48:13,002 生き残っていただかないと 困るところでした 1288 01:48:13,002 --> 01:48:14,938 少佐が 生きていらっしゃるからこそ 1289 01:48:14,938 --> 01:48:19,208 僕たちはどうにか 自分を慰めることができるんです 1290 01:48:19,208 --> 01:48:21,208 ユリアン 1291 01:48:28,718 --> 01:48:32,221 ユリアンは公務の合間に 毎日 少しずつ 1292 01:48:32,221 --> 01:48:35,825 ヤン・ウェンリーの言行に関する 資料を整理している 1293 01:48:35,825 --> 01:48:39,696 残された多くのメモと ユリアン自身の記憶によって 1294 01:48:39,696 --> 01:48:42,065 ヤン・ウェンリーの 思考の軌跡をたどり 1295 01:48:42,065 --> 01:48:44,500 体系的に まとめようというのである 1296 01:48:44,500 --> 01:48:47,236 それは決して 孤独な作業ではなかった 1297 01:48:47,236 --> 01:48:49,305 それを行っている時 ユリアンは 1298 01:48:49,305 --> 01:48:52,642 死者と語り合うことが できるのだから 1299 01:48:52,642 --> 01:48:56,312 「言葉では伝わらないものが 確かにある しかしそれは」 1300 01:48:56,312 --> 01:48:59,816 「言葉を使い尽くした人だけが 言えることである」 1301 01:48:59,816 --> 01:49:04,287 「言葉は心という海に浮かんだ 氷山のようなものだ」 1302 01:49:04,287 --> 01:49:06,756 「海面から浮かんでいる部分は わずかだが」 1303 01:49:06,756 --> 01:49:10,627 「それによって海面下に存在する 大きなものを知覚したり」 1304 01:49:10,627 --> 01:49:13,830 「感じ取ったりすることができる」 1305 01:49:13,830 --> 01:49:16,699 「言葉は大事に使いなさい そうすれば」 1306 01:49:16,699 --> 01:49:18,968 「ただ沈黙しているより 多くのことを」 1307 01:49:18,968 --> 01:49:21,337 「より正確に伝えられる」 1308 01:49:21,337 --> 01:49:24,240 「正しい判断は 正しい情報と」 1309 01:49:24,240 --> 01:49:27,143 「正しい分析の上に 初めて成立する」 1310 01:49:27,143 --> 01:49:29,979 3年前のドーリア星域会戦の直前 1311 01:49:29,979 --> 01:49:32,882 ヒューベリオンで 1通の報告書を受け取ったヤンは 1312 01:49:32,882 --> 01:49:34,951 文字どおり 踊り上がって喜んだ 1313 01:49:34,951 --> 01:49:38,121 クーデター派の 第11艦隊の居場所を知って 1314 01:49:38,121 --> 01:49:40,056 ヤンは勝利を確信したのだ 1315 01:49:40,056 --> 01:49:43,393 しかし同じ同盟軍を 攻撃するという現実は 1316 01:49:43,393 --> 01:49:46,629 ヤンの気を重くさせた だがヤンの敗北は 1317 01:49:46,629 --> 01:49:49,132 クーデターの成功に つながってしまうからには 1318 01:49:49,132 --> 01:49:51,134 絶対に負けるわけには いかなかった 1319 01:49:51,134 --> 01:49:55,934 だからこそ正しい情報の重要性を 痛感するヤンであった 1320 01:49:58,941 --> 01:50:02,612 全てはヤン提督が やってくださっていた 1321 01:50:02,612 --> 01:50:05,314 考えることも悩むことも 1322 01:50:05,314 --> 01:50:09,185 僕は安心して 全てを任せていられたのに 1323 01:50:09,185 --> 01:50:12,789 ヤン提督が生きていらしたら… 1324 01:50:12,789 --> 01:50:17,360 ヤン提督を惜しみ ヤン提督を 殺した人間を憎悪するのは 1325 01:50:17,360 --> 01:50:19,429 僕の心が狭いからだろうか 1326 01:50:19,429 --> 01:50:22,965 ユリアンの問いに ヤンならば こう答えただろう 1327 01:50:22,965 --> 01:50:25,735 「何かを憎悪することが できない人間に」 1328 01:50:25,735 --> 01:50:29,205 「何かを愛することが できるはずがない」と 1329 01:50:29,205 --> 01:50:31,441 そのとおりです 提督 1330 01:50:31,441 --> 01:50:35,411 提督と提督をめぐる人々が 作り出す小宇宙とを 1331 01:50:35,411 --> 01:50:37,880 僕はどれほど 愛していたことでしょう 1332 01:50:37,880 --> 01:50:41,751 だから それを壊した者たちを 僕は憎みます 1333 01:50:41,751 --> 01:50:44,754 愛が全てを解決するなどとは 思いません 1334 01:50:44,754 --> 01:50:49,654 それを見誤らないようにして 帝国との共存の道を探します 1335 01:50:53,229 --> 01:50:55,229 提督 1336 01:51:00,636 --> 01:51:04,073 この事態は あなたには不本意でしょうね 1337 01:51:04,073 --> 01:51:06,976 あなたの妻が革命政権の 主席の座に着き 1338 01:51:06,976 --> 01:51:10,413 あなたの養子が 革命軍司令官を務め 1339 01:51:10,413 --> 01:51:13,316 あなた自身は 民主共和政治の守護神として 1340 01:51:13,316 --> 01:51:18,921 死後も私たちを精神的に救い その正当性を擁護する役目を担う 1341 01:51:18,921 --> 01:51:23,392 「死んでからも働かせるのかい」と あなたはおっしゃりたいでしょう 1342 01:51:23,392 --> 01:51:25,328 でも あなたがご健在なら 1343 01:51:25,328 --> 01:51:30,533 私たちが こんな責任を 課せられることもなかったのよ 1344 01:51:30,533 --> 01:51:33,269 あなたのせいなのよ ヤン・ウェンリー 1345 01:51:33,269 --> 01:51:35,338 全部 あなたのせい 1346 01:51:35,338 --> 01:51:38,074 私が軍人になったのも イゼルローンが 1347 01:51:38,074 --> 01:51:41,611 いつの間にか民主主義の 最後の拠点になってしまったのも 1348 01:51:41,611 --> 01:51:46,182 みんなが そこに残って 祭りの夢を追い続けているのも 1349 01:51:46,182 --> 01:51:51,354 ご自分の責任を自覚なさったら さっさと生き返ってらっしゃい 1350 01:51:51,354 --> 01:51:53,623 生き返ってらっしゃい 1351 01:51:53,623 --> 01:51:58,194 自然の法則に反したって 一度だけなら許してあげる 1352 01:51:58,194 --> 01:52:02,594 そうなったら今度は 私が死ぬまで 死なせてあげないから 1353 01:52:05,768 --> 01:52:07,703 あなたは たくさんの人を死なせてきて 1354 01:52:07,703 --> 01:52:10,339 その罪の深さを恐れていらした 1355 01:52:10,339 --> 01:52:14,210 一度 死んだくらいでは 償えないだろうと 1356 01:52:14,210 --> 01:52:17,747 でも私はあなたに 罪を償ってほしくなどなかった 1357 01:52:17,747 --> 01:52:21,317 死者の命を吸い取ってでも 生き続けてほしかった 1358 01:52:21,317 --> 01:52:24,717 年金泥棒として 長生きしてほしかった 1359 01:52:26,756 --> 01:52:29,725 私は確かに あなたを失いました 1360 01:52:29,725 --> 01:52:32,428 でも最初から あなたが いなかったことに比べたら 1361 01:52:32,428 --> 01:52:35,031 私はずっと幸せです 1362 01:52:35,031 --> 01:52:38,034 あなたは何百万人もの人を 殺したかもしれないけど 1363 01:52:38,034 --> 01:52:41,637 少なくとも私だけは 幸せにしてくださったのよ 1364 01:52:41,637 --> 01:52:45,942 ヤンの最期の言葉をフレデリカは 聞くことができなかった 1365 01:52:45,942 --> 01:52:49,512 だが その点に関する限り 彼女は悔やんではいない 1366 01:52:49,512 --> 01:52:51,447 彼女には分かっているのだ 1367 01:52:51,447 --> 01:52:55,218 それが「ごめん」か「ありがとう」か どちらかだということが 1368 01:52:55,218 --> 01:52:58,087 そして恐らく 前者であるだろうことが 1369 01:52:58,087 --> 01:53:00,623 誰に信じてもらう 必要もなかったが 1370 01:53:00,623 --> 01:53:03,623 彼女にだけは分かっていたのだ 1371 01:53:05,761 --> 01:53:08,998 イゼルローン監獄の諸君 変わりはないかね? 1372 01:53:08,998 --> 01:53:11,298 差し入れに来てやったぞ 1373 01:53:13,836 --> 01:53:17,136 帝国の人事に関する ニュース映像だが 1374 01:53:21,544 --> 01:53:23,846 ん? な! 1375 01:53:23,846 --> 01:53:25,848 ヨブ・トリューニヒト? 1376 01:53:25,848 --> 01:53:30,686 そう お前さんたちの かつての国家元首殿だ 1377 01:53:30,686 --> 01:53:33,522 このたびノイエ・ラント総督府 高等参事官として 1378 01:53:33,522 --> 01:53:36,225 めでたく故国の土を踏んだわけだ 1379 01:53:36,225 --> 01:53:39,595 悪夢だ 1380 01:53:39,595 --> 01:53:44,433 カイザーの人事にもあきれるが それより この男こそ驚異だな 1381 01:53:44,433 --> 01:53:46,769 内心はどうか知らぬが 表面だけにせよ 1382 01:53:46,769 --> 01:53:51,407 よく まあ笑っていられる トリューニヒトという野郎 1383 01:53:51,407 --> 01:53:57,213 俺たちが考えていたより はるかに化け物じみた男らしいな 1384 01:53:57,213 --> 01:54:01,384 こんなニュースを知って ヤン夫人は平静でいられますか? 1385 01:54:01,384 --> 01:54:04,620 ええ とても平静ではいられないわ 1386 01:54:04,620 --> 01:54:06,555 でも 考えなくては いけないでしょう 1387 01:54:06,555 --> 01:54:11,494 この人事に どういう意味が あるかということをね 1388 01:54:11,494 --> 01:54:15,965 問題は誰が望んだ人事かという 点じゃないかな 1389 01:54:15,965 --> 01:54:19,402 トリューニヒトは 単に厚顔な権力志向者だとしても 1390 01:54:19,402 --> 01:54:22,939 そういう花を咲かせた土壌に 問題がありそうだ 1391 01:54:22,939 --> 01:54:25,841 何者かの陰謀が裏にあると? 1392 01:54:25,841 --> 01:54:29,111 そこまでは言い切れないが ユリアン 1393 01:54:29,111 --> 01:54:32,548 地球教の本部で 総大主教を見かけた時に 1394 01:54:32,548 --> 01:54:35,551 一緒に若い大主教とかが いただろ?覚えてるか 1395 01:54:35,551 --> 01:54:37,687 え?ええ 1396 01:54:37,687 --> 01:54:41,223 先日 ハイネセンポリスで 奴を見かけたんだが 1397 01:54:41,223 --> 01:54:43,259 何? それが 1398 01:54:43,259 --> 01:54:45,394 連中がアジトにしていたのが 1399 01:54:45,394 --> 01:54:49,365 なんとトリューニヒトの 屋敷なのさ 1400 01:54:49,365 --> 01:54:52,668 そういえばクーデターの時に 地下に潜ったトリューニヒトを 1401 01:54:52,668 --> 01:54:55,571 かくまったのは地球教団だったな 1402 01:54:55,571 --> 01:54:57,840 トリューニヒトと地球教 1403 01:54:57,840 --> 01:55:00,409 思った以上に つながりは深いかもしれん 1404 01:55:00,409 --> 01:55:02,411 例の地球教のディスクには 1405 01:55:02,411 --> 01:55:06,215 トリューニヒトのことは 出ていなかったが 1406 01:55:06,215 --> 01:55:10,152 この時期 ユリアン・ミンツは 2つの責務を自らに課していた 1407 01:55:10,152 --> 01:55:12,688 1つはヤン・ウェンリーの 遺志を継いで 1408 01:55:12,688 --> 01:55:16,459 民主共和政治の種を 歴史の土壌に植え込むこと 1409 01:55:16,459 --> 01:55:19,495 そして もう1つは ヤン・ウェンリーの復讐である 1410 01:55:19,495 --> 01:55:22,098 そのユリアンにとって ボリス・コーネフが 1411 01:55:22,098 --> 01:55:25,968 もたらした情報は 看過できない重大なものであった 1412 01:55:25,968 --> 01:55:30,172 いずれにしても判断するには 情報が少なすぎます 1413 01:55:30,172 --> 01:55:34,043 コーネフ船長 引き続き 情報収集をお願いできますか 1414 01:55:34,043 --> 01:55:36,712 もちろんだ アンドリュー・フォークが 1415 01:55:36,712 --> 01:55:40,449 ヤンの暗殺をたくらんでいると いう情報をつかんでおきながら 1416 01:55:40,449 --> 01:55:43,085 みすみすヤンを死なせてしまった 1417 01:55:43,085 --> 01:55:46,322 ヤン暗殺の黒幕を あぶり出さないことには 1418 01:55:46,322 --> 01:55:50,726 俺自身の気持ちにも 決着がつかないからな 1419 01:55:50,726 --> 01:55:52,962 ボリス・コーネフらは 落ち着く間もなく 1420 01:55:52,962 --> 01:55:55,664 再び惑星ハイネセンへと向かった 1421 01:55:55,664 --> 01:56:00,603 だが彼らがハイネセンに 到着するより早く事件は起こった 1422 01:56:00,603 --> 01:56:05,003 9月1日のグエン・キム・ホア広場事件が それである 1423 01:57:43,806 --> 01:57:46,509 「ヴェスターラントを忘れたのか」 1424 01:57:46,509 --> 01:57:51,413 暗殺者の放った一言は ラインハルトに深い衝撃を与えた 1425 01:57:51,413 --> 01:57:54,550 自責の念にさいなまれる ラインハルトを救ったのは 1426 01:57:54,550 --> 01:57:57,820 ヒルダの献身だった 1427 01:57:57,820 --> 01:58:03,726 次回「銀河英雄伝説」 第89話「夏の終わりのバラ」 1428 01:58:03,726 --> 01:58:06,326 銀河の歴史が また1ページ