1 00:04:29,044 --> 00:04:32,581 カイザー・ラインハルトから オーベルシュタイン元帥に対しては 2 00:04:32,581 --> 00:04:36,485 逮捕した政治犯たちを虐待しない ように指示が出されていた 3 00:04:36,485 --> 00:04:39,989 だが それに先だって 一つの破局が生じた 4 00:04:39,989 --> 00:04:42,789 4月16日の深夜のことである 5 00:04:45,494 --> 00:04:48,230 ハイネセンポリス郊外の ラグプール刑務所には 6 00:04:48,230 --> 00:04:51,133 5000人あまりの政治犯が 収容されていたが 7 00:04:51,133 --> 00:04:54,136 ここで暴動が発生したのである 8 00:04:54,136 --> 00:04:56,336 一人も逃がすな 急げ 9 00:05:03,712 --> 00:05:07,583 暴動の拡大に伴い ハイネセンポリスに駐留する帝国軍が 10 00:05:07,583 --> 00:05:12,421 鎮圧に出動したが ここで一つの混乱が生じた 11 00:05:12,421 --> 00:05:17,059 我ら シュワルツ・ランツェンレイターも 暴動鎮圧に出動する 12 00:05:17,059 --> 00:05:19,259 急げ! はっ 13 00:05:33,108 --> 00:05:36,011 何?シュワルツ・ ランツェンレイターが? 14 00:05:36,011 --> 00:05:38,947 はっ 出動した模様です 15 00:05:38,947 --> 00:05:40,949 暴動の混乱に乗じて 16 00:05:40,949 --> 00:05:45,387 ビッテンフェルト提督の身柄の 奪還を図るものではないかと 17 00:05:45,387 --> 00:05:47,990 軽々には判断できん 18 00:05:47,990 --> 00:05:52,761 だが その危険がある以上 勝手に行動させるわけにはいかん 19 00:05:52,761 --> 00:05:56,231 道路を封鎖して 押し戻せ はっ! 20 00:05:56,231 --> 00:06:00,469 この時点でビッテンフェルトは いまだ軟禁を解かれておらず 21 00:06:00,469 --> 00:06:03,105 軍務尚書直属の憲兵隊としては 22 00:06:03,105 --> 00:06:07,705 シュワルツ・ランツェンレイターの 動きに警戒をせねばならなかった 23 00:06:23,859 --> 00:06:25,794 これは何のマネか? 24 00:06:25,794 --> 00:06:30,632 これより先は憲兵隊の管轄である お引き取り願いたい 25 00:06:30,632 --> 00:06:33,602 目と鼻の先にて 暴動が起きておるのだ 26 00:06:33,602 --> 00:06:35,604 黙って見ておれるか! 27 00:06:35,604 --> 00:06:38,941 治安の維持は憲兵隊の役割である 28 00:06:38,941 --> 00:06:41,009 門外漢の出る幕はない 29 00:06:41,009 --> 00:06:44,379 フン 門外漢とは片腹痛し 30 00:06:44,379 --> 00:06:46,748 暴徒は武装しておると いうではないか 31 00:06:46,748 --> 00:06:51,253 我らは宇宙艦隊とはいえ 陸戦隊は歴戦の勇士ぞろい 32 00:06:51,253 --> 00:06:54,623 実戦ではデスクワークばかりの 憲兵隊などより 33 00:06:54,623 --> 00:06:58,827 はるかに ものの役に立つわ 黙って そこを通せ 34 00:06:58,827 --> 00:07:01,730 何と言われようと 通すわけにはいかぬ 35 00:07:01,730 --> 00:07:05,067 道理の分からぬ奴だ 通さぬというなら 36 00:07:05,067 --> 00:07:07,736 無理にでも押し通るが それでもよいか! 37 00:07:07,736 --> 00:07:10,639 是非もなし 38 00:07:10,639 --> 00:07:13,542 おのれ 39 00:07:13,542 --> 00:07:15,542 ん? 40 00:07:22,251 --> 00:07:25,254 一触即発の危機は 軍務省官房長 41 00:07:25,254 --> 00:07:29,154 フェルナー少将の的確な判断と 指示によって回避された 42 00:07:54,716 --> 00:07:56,652 とにかく囚人を逃がすな 43 00:07:56,652 --> 00:07:59,555 シュワルツ・ランツェンレイターや 他の部隊の手前 44 00:07:59,555 --> 00:08:02,591 我らの持ち場から 逃亡者を出すわけにはゆかん 45 00:08:02,591 --> 00:08:06,395 しかしながら暴徒の数が多過ぎ 我らだけでは… 46 00:08:06,395 --> 00:08:11,595 やむを得ん 抵抗する者 逃亡を図る者は射殺せよ 47 00:08:17,606 --> 00:08:21,376 射殺とは短慮だ 政治犯を虐待しては 48 00:08:21,376 --> 00:08:24,279 イゼルローンとの交渉材料に ならんではないか 49 00:08:24,279 --> 00:08:30,385 しかし混成部隊ゆえに 指揮 命令の統制が取れません 50 00:08:30,385 --> 00:08:32,354 いったん全部隊を撤退させ 51 00:08:32,354 --> 00:08:35,924 周辺を固めて逃亡を許さず 降伏させるように… 52 00:08:35,924 --> 00:08:38,427 あっ… 53 00:08:38,427 --> 00:08:40,727 うっ ああ… 54 00:08:42,898 --> 00:08:44,900 待て 味方だ 55 00:08:44,900 --> 00:08:48,136 閣下 閣下! 56 00:08:48,136 --> 00:08:50,839 フェルナーの負傷によって 鎮圧作戦の指揮を 57 00:08:50,839 --> 00:08:54,476 統括する者がいなくなり 混乱に拍車がかかった 58 00:08:54,476 --> 00:08:57,746 各部隊は味方からの非難を 回避するために 59 00:08:57,746 --> 00:09:01,846 より強圧的に鎮圧に当たり 多くの犠牲者を出した 60 00:09:03,986 --> 00:09:09,925 政治犯の側は死者1084名 重軽傷者3109名 61 00:09:09,925 --> 00:09:15,230 無傷の残留者317名 他は逃亡または行方不明 62 00:09:15,230 --> 00:09:21,136 帝国軍の側は死者158名 重軽傷者907名 63 00:09:21,136 --> 00:09:24,473 フェルナーは医療部隊も 待機させていたのだが 64 00:09:24,473 --> 00:09:27,142 彼自身の負傷によって 命令が届かず 65 00:09:27,142 --> 00:09:30,045 刑務所を前に 3時間も動けずにいた 66 00:09:30,045 --> 00:09:34,945 そのため大量出血による死者を 数百人は救い損ねたのである 67 00:09:39,354 --> 00:09:41,657 翌17日の夜が明けても 68 00:09:41,657 --> 00:09:47,229 事態は収拾されるどころか 拡大の様相を見せた 69 00:09:47,229 --> 00:09:49,998 ラグプール刑務所の暴動に 呼応するように 70 00:09:49,998 --> 00:09:52,834 市街地の各所で放火や爆発が生じ 71 00:09:52,834 --> 00:09:56,934 住宅地でも火の手が上がって 一時 騒然となった 72 00:10:03,145 --> 00:10:07,983 市民を家に帰せ パニックを拡大させるな 73 00:10:07,983 --> 00:10:09,983 ん? 74 00:10:12,688 --> 00:10:15,724 あっ 75 00:10:15,724 --> 00:10:17,859 狙撃です 閣下 76 00:10:17,859 --> 00:10:20,629 危険ですから 装甲車にお戻りください 77 00:10:20,629 --> 00:10:25,467 構わん それより 何者が狙撃したのか 直ちに調べよ 78 00:10:25,467 --> 00:10:29,237 緊急事態だ 軍務尚書閣下は どこにおられる? 79 00:10:29,237 --> 00:10:33,408 軍務尚書閣下は ただ今 誰ともお会いになりません 80 00:10:33,408 --> 00:10:37,045 ラグプールだけではない 各所でテロが発生し 81 00:10:37,045 --> 00:10:41,650 本格的な反帝国暴動に 発展するおそれもあるのだ 82 00:10:41,650 --> 00:10:46,488 ラグプールではフェルナー少将が 事態の収拾に当たっております 83 00:10:46,488 --> 00:10:50,859 市内の混乱に関しては ミュラー閣下に これをお渡しして 84 00:10:50,859 --> 00:10:54,496 各所を抑えていただくように とのことであります 85 00:10:54,496 --> 00:10:56,465 では勝手にやらせてもらう 86 00:10:56,465 --> 00:11:01,965 事態が収拾してから改めて伺うと 軍務尚書には伝えていただきたい 87 00:11:11,546 --> 00:11:15,484 こうして予想以上に 混乱と犠牲を拡大させながらも 88 00:11:15,484 --> 00:11:20,555 9時40分 刑務所は 帝国軍によって完全に制圧された 89 00:11:20,555 --> 00:11:25,327 死者の中には旧同盟軍 第一艦隊司令パエッタ中将 90 00:11:25,327 --> 00:11:29,197 国立自治大学 オリベイラ学長らの 名が含まれていたが 91 00:11:29,197 --> 00:11:31,566 シトレ元帥 ムライ中将らは 92 00:11:31,566 --> 00:11:34,566 負傷しながらも 生命は無事であった 93 00:11:37,272 --> 00:11:40,242 このように犠牲者のリストを 見るまでもなく 94 00:11:40,242 --> 00:11:44,379 元々 収監されていた政治犯の 平均年齢は高く 95 00:11:44,379 --> 00:11:48,550 暴動が自然発生する可能性は 少ないように思われる 96 00:11:48,550 --> 00:11:52,854 また刑務所内に持ち込まれた 武器の存在を考え合わせても 97 00:11:52,854 --> 00:11:56,658 何者かが策謀した結果では ないかと考えられた 98 00:11:56,658 --> 00:12:01,496 「何者か」 帝国軍の高級士官たちの 脳裏に浮かんだのは 99 00:12:01,496 --> 00:12:04,596 例外なく地球教の名であった 100 00:12:08,837 --> 00:12:13,208 事件が地球教の陰謀とすれば その目的とするところは 101 00:12:13,208 --> 00:12:17,512 帝国軍とイゼルローンとの修好を 妨害することにある 102 00:12:17,512 --> 00:12:20,916 とおっしゃいますと? 考えてもみろ 103 00:12:20,916 --> 00:12:24,152 この事件が不正確に イゼルローンに伝わったとすれば 104 00:12:24,152 --> 00:12:29,791 帝国軍が政治犯を大量虐殺したと 誤解されないとも限らない 105 00:12:29,791 --> 00:12:33,795 せっかくカイザーが名誉ある 対話を行おうとされている時に 106 00:12:33,795 --> 00:12:38,133 すべてが無駄になってしまう それでは? 107 00:12:38,133 --> 00:12:40,969 生存者の中に イゼルローンの関係者がいれば 108 00:12:40,969 --> 00:12:45,307 事態を正確に伝えるのに 役立ってもらえるかもしれん 109 00:12:45,307 --> 00:12:47,576 負傷者のリストを当たってくれ 110 00:12:47,576 --> 00:12:49,544 はっ! 111 00:12:49,544 --> 00:12:52,414 こうしてミュラーは 負傷者リストの中に 112 00:12:52,414 --> 00:12:54,783 ムライの名を 見いだすことになるが 113 00:12:54,783 --> 00:12:57,285 ムライはまだ 意識が回復しておらず 114 00:12:57,285 --> 00:13:01,623 彼をイゼルローンとの修好に 役立たせることはできなかった 115 00:13:01,623 --> 00:13:03,859 やがて混乱が収拾され 116 00:13:03,859 --> 00:13:08,463 軍務尚書の直属部隊が 病院の管理と監視に乗り出すと 117 00:13:08,463 --> 00:13:12,763 ミュラーの越権行為は 挫折を余儀なくされるのである 118 00:13:14,870 --> 00:13:16,805 同じ4月17日 119 00:13:16,805 --> 00:13:20,175 フレデリカ・グリーンヒル・ヤンと ユリアン・ミンツを代表とする 120 00:13:20,175 --> 00:13:22,677 イゼルローン共和政府の 幹部たちは 121 00:13:22,677 --> 00:13:27,983 既に回廊を出て 帝国軍の 哨戒宙域へ進入しつつあった 122 00:13:27,983 --> 00:13:31,620 周辺宙域に帝国軍の反応なし 123 00:13:31,620 --> 00:13:33,555 どういうことだ これは 124 00:13:33,555 --> 00:13:36,858 全く無防備じゃないか 125 00:13:36,858 --> 00:13:40,829 こんなことなら 艦隊主力を 伴ってくるんだった 126 00:13:40,829 --> 00:13:42,964 単純すぎるな 127 00:13:42,964 --> 00:13:47,903 ここは悪辣なワナの存在を 警戒するべきだろう 128 00:13:47,903 --> 00:13:50,272 いや しかし… 129 00:13:50,272 --> 00:13:54,442 現に索敵可能な範囲内に 敵の姿がない以上 130 00:13:54,442 --> 00:13:56,945 これはチャンスと言うべきだろう 131 00:13:56,945 --> 00:13:58,880 どう思う?司令官 132 00:13:58,880 --> 00:14:02,717 結論を出すには 情報が少な過ぎます 133 00:14:02,717 --> 00:14:07,522 とりあえず前進速度を落として 様子を見ましょう 134 00:14:07,522 --> 00:14:10,025 情報の収集に努めた一行は 135 00:14:10,025 --> 00:14:13,228 ようやくラグプール刑務所の 暴動によって 136 00:14:13,228 --> 00:14:16,131 収容されていた政治犯の多数が 死傷し 137 00:14:16,131 --> 00:14:20,831 ハイネセンは戒厳令も同様の 情勢にあることを察知した 138 00:14:23,505 --> 00:14:26,408 いったん イゼルローン要塞へ戻ろう 139 00:14:26,408 --> 00:14:28,777 このままハイネセンに 行ったのでは 140 00:14:28,777 --> 00:14:33,214 混乱に乗じて 謀殺してくださいと 言わんばかりだ 141 00:14:33,214 --> 00:14:37,214 自ら求めて 虎口に 飛び込むことはない 142 00:14:47,329 --> 00:14:49,864 命令は直ちに実行に移されたが 143 00:14:49,864 --> 00:14:52,767 巡航艦の1隻が 動力部に異常をきたし 144 00:14:52,767 --> 00:14:57,967 修理のために手間取るうちに カレンダーが翌18日へと変わった 145 00:15:02,377 --> 00:15:07,315 ザグレウスの修理 完了しました 船外作業班も間もなく撤収します 146 00:15:07,315 --> 00:15:12,015 よし 直ちにイゼルローン要塞に 向けて発進 147 00:15:16,257 --> 00:15:22,130 敵影発見 俯角24度 8時の方向 数 およそ100 148 00:15:22,130 --> 00:15:24,566 なんだ やっぱりいるんでやんの 149 00:15:24,566 --> 00:15:26,868 敵艦より入電 150 00:15:26,868 --> 00:15:29,804 「停船せよ しからざれば攻撃す」 151 00:15:29,804 --> 00:15:32,073 懐かしいフレーズだぜ 152 00:15:32,073 --> 00:15:35,877 心配するな この艦は 強運のユリシーズだ 153 00:15:35,877 --> 00:15:38,613 だからこそ旗艦にしたんだからな 154 00:15:38,613 --> 00:15:40,548 しかし これまでの戦歴で 155 00:15:40,548 --> 00:15:43,952 手持ちの強運を 使い果たしてるんじゃないか? 156 00:15:43,952 --> 00:15:49,257 おや?いつから運命に一定の量が あるという説になったんです? 157 00:15:49,257 --> 00:15:52,093 なに お前さんの言い分を 聞いてると 158 00:15:52,093 --> 00:15:56,431 「運命にだって言いたいことは あるだろう」と思えてきてな 159 00:15:56,431 --> 00:16:01,336 そらそら たちの悪い運命が 軍艦に変装して近づいてきますぞ 160 00:16:01,336 --> 00:16:04,472 それがどうした! 161 00:16:04,472 --> 00:16:07,976 こう見えても 20代で将官に昇進した 162 00:16:07,976 --> 00:16:10,945 旧同盟軍でも稀有な人物である 163 00:16:10,945 --> 00:16:15,450 同盟が自壊してしまったので 自称革命家になってしまったが 164 00:16:15,450 --> 00:16:18,353 同盟が存続していれば 30代のうちに 165 00:16:18,353 --> 00:16:20,722 元帥たり得ていたかもしれない 166 00:16:20,722 --> 00:16:24,159 そうであればヤン・ウェンリーとは やや色彩の異なる 167 00:16:24,159 --> 00:16:27,829 あるいは より剛柔の均整のとれた 元帥の名が 168 00:16:27,829 --> 00:16:32,229 同盟軍元帥列伝に 記載されることになったであろう 169 00:16:51,052 --> 00:16:53,388 お前さんがユリアン・ミンツか? 170 00:16:53,388 --> 00:16:57,188 ダスティ・アッテンボローだ よろしくな 171 00:17:05,433 --> 00:17:09,304 僕はこの人たちの 思い出話など したくはない 172 00:17:09,304 --> 00:17:15,110 この人たちと思い出話をしたい そのためにも… 173 00:17:15,110 --> 00:17:17,045 4月17日 174 00:17:17,045 --> 00:17:21,649 ミッターマイヤー アイゼナッハ メックリンガーらを従えて 175 00:17:21,649 --> 00:17:25,086 惑星ハイネセンへの途上にある カイザー・ラインハルトも 176 00:17:25,086 --> 00:17:28,723 ハイネセンポリスでの 一連の事件を聞いた 177 00:17:28,723 --> 00:17:31,526 軍務尚書は何をしていた! 178 00:17:31,526 --> 00:17:34,395 共和主義者どもを 塀の中に閉じ込めて 179 00:17:34,395 --> 00:17:36,831 それでよしとでも思ったか 180 00:17:36,831 --> 00:17:40,135 彼らを人質に取ることの是非を おいても 181 00:17:40,135 --> 00:17:44,835 彼らを殺傷したのでは 人質たるの 役をなさないであろうが 182 00:17:46,841 --> 00:17:48,941 御意… 183 00:18:01,322 --> 00:18:05,493 今回の遠征には 特に6名の軍医が同行している 184 00:18:05,493 --> 00:18:09,898 ラインハルト自身は 自分が病人と 見られることを嫌ったが 185 00:18:09,898 --> 00:18:12,801 皇妃と大公妃の 望んだことであると言われれば 186 00:18:12,801 --> 00:18:14,801 拒否しようもなかった 187 00:18:17,305 --> 00:18:20,508 「カイザーの衰弱が 目に見えるものであったら」 188 00:18:20,508 --> 00:18:23,711 「私たちは むろん それに気づいたであろう」 189 00:18:23,711 --> 00:18:26,714 「だがカイザーの美と精彩は 少なくとも表面上は」 190 00:18:26,714 --> 00:18:29,818 「いささかの衰えも見せなかった」 191 00:18:29,818 --> 00:18:33,755 「これまでもしばしば発熱 病臥が 繰り返されていたので」 192 00:18:33,755 --> 00:18:36,591 「旧王朝の当時に比して 私たちも」 193 00:18:36,591 --> 00:18:41,262 「カイザーの病臥にいつの間にか 慣らされていたようであった」 194 00:18:41,262 --> 00:18:44,165 「たとえ発熱しても カイザーの明晰さが」 195 00:18:44,165 --> 00:18:48,336 「損なわれたようには 見えなかったということもある」 196 00:18:48,336 --> 00:18:52,106 のちにそう記したのは メックリンガー上級大将であるが 197 00:18:52,106 --> 00:18:56,806 この時点では彼も事態の 深刻さには気づいていなかった 198 00:18:59,848 --> 00:19:02,450 敵艦 更に接近 199 00:19:02,450 --> 00:19:05,353 まだまだ もっと引きつけろ 200 00:19:05,353 --> 00:19:07,622 楽しんでませんか? 201 00:19:07,622 --> 00:19:10,625 12隻 対 100隻では役不足だが 202 00:19:10,625 --> 00:19:12,760 どうせなら 敵が取り逃がしたことを 203 00:19:12,760 --> 00:19:16,631 悔しがる状況を 作ってやろうと思ってな 204 00:19:16,631 --> 00:19:19,400 いい性格をしておいでだ 205 00:19:19,400 --> 00:19:22,103 このままでは半包囲されます よし! 206 00:19:22,103 --> 00:19:25,003 全艦 全速で回廊に逃げ込め 207 00:19:32,113 --> 00:19:35,516 敵艦 急速に回廊に撤退します 208 00:19:35,516 --> 00:19:39,387 逃がすな 追え! 209 00:19:39,387 --> 00:19:42,190 逃がさんぞ ぜ… 前方! 210 00:19:42,190 --> 00:19:45,493 回廊内に反応多数 大艦隊です 211 00:19:45,493 --> 00:19:47,493 何! 212 00:19:53,234 --> 00:19:56,604 数 およそ1万2000 213 00:19:56,604 --> 00:20:00,041 バ… バカな イゼルローン軍のほぼ全軍が 214 00:20:00,041 --> 00:20:03,845 出口付近に潜んでいたのか いかがいたします?司令官 215 00:20:03,845 --> 00:20:07,348 決まっている 撤退だ! 勝負になるか 216 00:20:07,348 --> 00:20:10,852 帝国軍 撤退していきます 217 00:20:10,852 --> 00:20:15,123 ひと安心だな これからどうする 司令官 218 00:20:15,123 --> 00:20:17,959 ひとまず ハイネセン行きは中止です 219 00:20:17,959 --> 00:20:22,597 しばらく この辺りで 様子を見ましょう 220 00:20:22,597 --> 00:20:27,135 安全を考えて フレデリカをいったん 要塞に帰したユリアンらは 221 00:20:27,135 --> 00:20:33,975 改めて臨戦態勢のまま 前方の 旧同盟領を見据えることとなった 222 00:20:33,975 --> 00:20:37,912 一方 惑星ハイネセンでは カイザーの到着に先立ち 223 00:20:37,912 --> 00:20:43,318 オーベルシュタインが 一つの行事を行おうとしていた 224 00:20:43,318 --> 00:20:45,553 カイザーが臨御あそばす前に 225 00:20:45,553 --> 00:20:48,890 ハイネセンのホコリを 払っておこうか 226 00:20:48,890 --> 00:20:52,760 4月29日になって そのオーベルシュタインが称した 227 00:20:52,760 --> 00:20:56,497 ハイネセンのチリ払いの内容が 公表された 228 00:20:56,497 --> 00:21:00,301 帝国軍は本日 前のフェザーン自治領主にして 229 00:21:00,301 --> 00:21:04,038 逃亡中の国事犯 アドリアン・ルビンスキーを 230 00:21:04,038 --> 00:21:08,609 潜伏先のハイネセンポリス市内にて 逮捕 拘禁せり 231 00:21:08,609 --> 00:21:11,446 かの者は 帝都フェザーンに送還され 232 00:21:11,446 --> 00:21:14,949 裁判ののち 刑に服することになろう 233 00:21:14,949 --> 00:21:18,953 いかにしてルビンスキーの 潜伏場所を察知し得たのか 234 00:21:18,953 --> 00:21:23,324 発表はともかくとして 我らには 知らせてもよいのではないか 235 00:21:23,324 --> 00:21:25,593 小官は存じません 236 00:21:25,593 --> 00:21:28,796 フン 237 00:21:28,796 --> 00:21:32,667 それは気の遠くなるような 作業の成果だったのです 238 00:21:32,667 --> 00:21:34,902 ラグナロック作戦 当時から 239 00:21:34,902 --> 00:21:38,172 ルビンスキーの居所は 探索しておりましたが 240 00:21:38,172 --> 00:21:42,377 今年に入ってから 全宇宙の医療機関のカルテから 241 00:21:42,377 --> 00:21:45,113 実在しない患者の名を割り出し 242 00:21:45,113 --> 00:21:47,682 それをしらみつぶしに 当たった結果 243 00:21:47,682 --> 00:21:50,918 その存在を突き止めたのです 244 00:21:50,918 --> 00:21:54,789 ルビンスキーは 悪性の脳腫瘍を患っているそうで 245 00:21:54,789 --> 00:21:57,625 長くて あと1年の命とか 246 00:21:57,625 --> 00:22:01,562 気が焦って 証拠を残したのでしょうか 247 00:22:01,562 --> 00:22:04,399 5月2日 カイザー・ラインハルトは 248 00:22:04,399 --> 00:22:08,002 惑星ハイネセンに降り立つ 249 00:22:08,002 --> 00:22:12,006 直前に宇宙を驚倒させた ルビンスキーの逮捕に関して 250 00:22:12,006 --> 00:22:16,711 ラインハルトは無関心であった 251 00:22:16,711 --> 00:22:21,049 再び仮の大本営に指定された 国立美術館では 252 00:22:21,049 --> 00:22:23,584 軍務尚書 オーベルシュタイン元帥と 253 00:22:23,584 --> 00:22:28,884 ビッテンフェルト上級大将が カイザーの到着を待っていた 254 00:22:49,811 --> 00:22:52,613 カイザーに謁見がかなった ビッテンフェルトは 255 00:22:52,613 --> 00:22:55,016 自分の罪を謝した 256 00:22:55,016 --> 00:22:57,618 軍務尚書との間に 隙を生じ 257 00:22:57,618 --> 00:23:01,289 帝国軍内部に不和があると 外部に見られた点について 258 00:23:01,289 --> 00:23:04,192 自分の罪をわびたのであった 259 00:23:04,192 --> 00:23:06,260 だが それだけでは済まず 260 00:23:06,260 --> 00:23:09,764 ビッテンフェルトは オーベルシュタインの非を鳴らした 261 00:23:09,764 --> 00:23:12,967 帝国軍の諸将が ヤン・ウェンリーに敗れたことを 262 00:23:12,967 --> 00:23:16,704 嘲弄した非礼を弾劾したのである 263 00:23:16,704 --> 00:23:19,640 ビッテンフェルトが 怒ることはない 264 00:23:19,640 --> 00:23:22,143 余自身もヤン・ウェンリーに対して 265 00:23:22,143 --> 00:23:26,848 戦術上の勝利を収めることが ついに かなわなかったのだからな 266 00:23:26,848 --> 00:23:30,118 余はそれを残念には思うが 恥じてはおらぬ 267 00:23:30,118 --> 00:23:32,053 ビッテンフェルトは 恥じておるのか? 268 00:23:32,053 --> 00:23:34,956 はっ あ… いえ 269 00:23:34,956 --> 00:23:37,859 では目くじらを 立てることもあるまい 270 00:23:37,859 --> 00:23:41,596 この件はこれまでとする 両者ともよいな? 271 00:23:41,596 --> 00:23:43,596 はっ! 272 00:23:47,401 --> 00:23:49,904 陛下がお変わりになられた 273 00:23:49,904 --> 00:23:54,142 以前ならば お叱りを受けて当然のところだが 274 00:23:54,142 --> 00:23:58,579 これは帝国にとって 吉であるのか凶であるのか 275 00:23:58,579 --> 00:24:01,249 改めてイゼルローンの 共和主義者たちに 276 00:24:01,249 --> 00:24:05,153 ハイネセンに来るよう申し伝えよ カイザーの招請だ 277 00:24:05,153 --> 00:24:08,523 ミュラー 卿の名をもって それを執り行え 278 00:24:08,523 --> 00:24:12,393 御意のごとくいたしますが もし彼らが拒絶した場合には 279 00:24:12,393 --> 00:24:15,096 いかがいたしましょうか マイン・カイザー 280 00:24:15,096 --> 00:24:18,666 いかがする?その時は奴らこそが 281 00:24:18,666 --> 00:24:23,337 流血と混乱に対する 責任を負うことになろうよ 282 00:24:23,337 --> 00:24:26,240 オーベルシュタイン はっ 283 00:24:26,240 --> 00:24:30,044 余がイゼルローンの共和主義者たちと 会見するとなれば 284 00:24:30,044 --> 00:24:33,447 それを阻害しようと 毒虫どもが蠢動するであろう 285 00:24:33,447 --> 00:24:37,318 奴らを駆除するについて 卿の力量を期待しておくが 286 00:24:37,318 --> 00:24:39,318 それでよかろうな 287 00:24:47,495 --> 00:24:49,931 ではひとまず解散せよ 288 00:24:49,931 --> 00:24:52,700 本日の夕食は 卿らと共にしたい 289 00:24:52,700 --> 00:24:55,670 1830に再び参集せよ 290 00:24:55,670 --> 00:24:57,670 はっ! 291 00:25:05,279 --> 00:25:08,779 これで終幕かな? ん? 292 00:25:11,085 --> 00:25:15,256 マイン・カイザーがイゼルローンの 共和主義者どもと会見なさる 293 00:25:15,256 --> 00:25:17,925 それで何がしかの 妥協案が成立して 294 00:25:17,925 --> 00:25:22,763 宇宙には平和が到来する 結構なことだと思いたいが… 295 00:25:22,763 --> 00:25:25,666 卿はそうは考えぬのだな? 296 00:25:25,666 --> 00:25:31,172 俺が思うにだ 季節の変わり目には 必ず嵐があるものだ 297 00:25:31,172 --> 00:25:35,076 それも 変わったと思い込んだ後に 大きなやつがな 298 00:25:35,076 --> 00:25:37,945 そうは思われぬか 元帥は 299 00:25:37,945 --> 00:25:40,281 嵐がな… 300 00:25:40,281 --> 00:25:43,150 イゼルローンの兵力は 1万を超える程度だ 301 00:25:43,150 --> 00:25:46,654 全宇宙を巻き込む嵐を 起こせるとも思えぬが 302 00:25:46,654 --> 00:25:50,854 では地球教辺りが 嵐の主因となるのであろうか 303 00:25:53,160 --> 00:25:56,631 それは卿の予測ではなく 願望ではないか 304 00:25:56,631 --> 00:25:59,166 そうかもしれん もっとも 305 00:25:59,166 --> 00:26:01,902 卿一人の願望では ないかもしれんが 306 00:26:01,902 --> 00:26:05,206 5月上旬 ナイトハルト・ミュラーによる 307 00:26:05,206 --> 00:26:10,044 イゼルローン共和政府に対する 交渉が開始された 308 00:26:10,044 --> 00:26:14,215 更にカイザー・ラインハルトの名で 5月20日をもって 309 00:26:14,215 --> 00:26:17,184 ラグプール刑務所に 収容されていた全ての政治犯を 310 00:26:17,184 --> 00:26:19,854 釈放する旨が布告されると 311 00:26:19,854 --> 00:26:22,757 それまでの軍務尚書への 怒りと反感は 312 00:26:22,757 --> 00:26:28,162 カイザーへの好意的評価へと 自然な変化を遂げた 313 00:26:28,162 --> 00:26:31,465 あるいは軍務尚書は そこまで計算して 314 00:26:31,465 --> 00:26:34,302 全ての事を運んだのだろうか 315 00:26:34,302 --> 00:26:37,204 だとしてもカイザーは ここまで譲歩したのだ 316 00:26:37,204 --> 00:26:41,108 これ以上の譲歩は望めないだろう 317 00:26:41,108 --> 00:26:46,047 ここは改めてハイネセンに赴き カイザーとの対話に臨むべきだ 318 00:26:46,047 --> 00:26:50,184 たとえオーベルシュタイン元帥の巧みな 政略にハマったのだとしても 319 00:26:50,184 --> 00:26:52,953 他に選択肢はない 320 00:26:52,953 --> 00:26:57,792 ハイネセンへ行きましょう 虜囚としてではなく 使節として 321 00:26:57,792 --> 00:27:03,431 現在の状況では それが望み得る最高の立場です 322 00:27:03,431 --> 00:27:07,435 ユリアンの決断によって 歴史は再び平和への道を 323 00:27:07,435 --> 00:27:10,071 歩み始めるかと思われた 324 00:27:10,071 --> 00:27:13,607 だが流血と混乱は 依然 やむことはなく 325 00:27:13,607 --> 00:27:18,407 次の事件は惑星フェザーンで 発生することになる 326 00:27:21,082 --> 00:27:24,982 シュテッヒパルム・シュロス 炎上事件である 327 00:29:03,017 --> 00:29:05,986 誰もがイゼルローンの動向に 注目する中 328 00:29:05,986 --> 00:29:09,723 カイザー・ラインハルトと 帝国軍主力の留守を狙って 329 00:29:09,723 --> 00:29:11,959 変事はフェザーンで起こった 330 00:29:11,959 --> 00:29:16,130 地球教徒の残党が 身重の皇妃 ヒルダの殺害を企てて 331 00:29:16,130 --> 00:29:18,199 仮皇宮を襲ったのだ 332 00:29:18,199 --> 00:29:22,703 急ぎ駆けつけたケスラーの眼前で 333 00:29:22,703 --> 00:29:28,075 次回「銀河英雄伝説」 第106話「柊館炎上」 334 00:29:28,075 --> 00:29:30,375 銀河の歴史が また1ページ 335 00:33:39,693 --> 00:33:45,499 宇宙暦801年 新帝国暦3年5月14日 336 00:33:45,499 --> 00:33:49,470 この日は朝から妙に蒸し暑く 何か凶事なり変事なりが 337 00:33:49,470 --> 00:33:53,240 発生するかのような予感を 覚えた者もいたというが 338 00:33:53,240 --> 00:33:57,611 後日になれば 大部分の人が そう語るものである 339 00:33:57,611 --> 00:34:00,581 シュテッヒパルム・シュロスは 仮の皇宮である 340 00:34:00,581 --> 00:34:04,818 名の由来は 門の両側に植えられた柊の木で 341 00:34:04,818 --> 00:34:09,556 玄関の扉にも 柊の紋章が彫りつけられている 342 00:34:09,556 --> 00:34:12,593 この紋章をゴールデン・ルーヴェに 変えるという提案が 343 00:34:12,593 --> 00:34:14,728 宮内省からなされたが 344 00:34:14,728 --> 00:34:16,663 どうせ仮の住まいであるとして 345 00:34:16,663 --> 00:34:20,000 ラインハルトは 放置しておいたのであった 346 00:34:20,000 --> 00:34:23,200 まあ!フフフ… 347 00:34:26,206 --> 00:34:29,710 「これから家を改造しよう」などと 言ったら ラインハルトは 348 00:34:29,710 --> 00:34:33,280 「余計なことをしなくていい」と 答えるでしょう 349 00:34:33,280 --> 00:34:38,619 改造してから それを告げたら 「そうか」の一言で済みますよ 350 00:34:38,619 --> 00:34:42,089 ラインハルトは 1光年以下の単位の出来事には 351 00:34:42,089 --> 00:34:44,892 興味がないのですから 352 00:34:44,892 --> 00:34:48,762 この日 ラインハルトの留守を 預かるマリーンドルフ伯は 353 00:34:48,762 --> 00:34:53,233 新たに建設された人造湖と 貯水システムの視察に出かけ 354 00:34:53,233 --> 00:34:55,736 代わって グリューネワルト大公妃が 355 00:34:55,736 --> 00:34:59,640 臨月を迎えているヒルダの 見舞いに訪れていた 356 00:34:59,640 --> 00:35:03,777 また帝都防衛司令官たる ケスラー上級大将も 357 00:35:03,777 --> 00:35:09,349 惑星上各所の防衛施設を 視察するために 帝都を離れていた 358 00:35:09,349 --> 00:35:12,252 陰謀を実行する側が この日を選んだのは 359 00:35:12,252 --> 00:35:15,956 まさにこのような状況による 360 00:35:15,956 --> 00:35:21,495 11時15分 憲兵本部に 画像を消した匿名の通信があった 361 00:35:21,495 --> 00:35:26,333 キュンメル事件に際して 壊滅的な 打撃を被った地球教団の勢力が 362 00:35:26,333 --> 00:35:28,368 ほぼ2年の間に復活し 363 00:35:28,368 --> 00:35:32,139 カイザーと帝国軍主力が不在の この時期を狙って 364 00:35:32,139 --> 00:35:35,008 フェザーンの要所を 占拠しようとしている 365 00:35:35,008 --> 00:35:39,813 特に交通 通信 エネルギー供給のシステムが 危険にさらされるだろう 366 00:35:39,813 --> 00:35:41,748 …というのである 367 00:35:41,748 --> 00:35:45,652 真偽のほどは分からんが 地球教と聞いては看過できない 368 00:35:45,652 --> 00:35:48,155 ただちに警戒態勢をとる 369 00:35:48,155 --> 00:35:51,355 ケスラー閣下にも連絡を… 370 00:35:53,994 --> 00:35:57,297 ローフテン地区の油脂貯蔵庫で 爆発が起こりました 371 00:35:57,297 --> 00:35:59,597 テロの可能性が高いと 372 00:36:10,844 --> 00:36:16,644 この事件を手始めに 同時多発的に 各所で破壊活動が相次いだ 373 00:36:18,585 --> 00:36:22,322 特にその中で 市外との 通信システムが破壊されたため 374 00:36:22,322 --> 00:36:24,258 ケスラーとの連絡が取れないまま 375 00:36:24,258 --> 00:36:27,027 憲兵隊は個々の事件への 対応に追われ 376 00:36:27,027 --> 00:36:32,227 市内14ヵ所の事件発生現場に 分散されてしまったのである 377 00:36:34,534 --> 00:36:38,138 ケスラーは 誰もが認める 有能な指揮官である 378 00:36:38,138 --> 00:36:43,043 前王朝の時代に 民衆弾圧と 腐敗の温床であった憲兵隊を 379 00:36:43,043 --> 00:36:45,379 短期間のうちに組織改革し 380 00:36:45,379 --> 00:36:48,148 そのモラルと治安維持能力を 高めた手腕は 381 00:36:48,148 --> 00:36:50,717 高く評価されるところである 382 00:36:50,717 --> 00:36:53,654 だが あまりに強力な 指導者の存在は 383 00:36:53,654 --> 00:36:57,491 部下たちに依存心を植えつけ 一つひとつの事項を 384 00:36:57,491 --> 00:37:01,795 逐次的に処理するに留める傾向を 生じさせたのも否めない 385 00:37:01,795 --> 00:37:06,533 それでも15時には ようやくケスラーと連絡が取れた 386 00:37:06,533 --> 00:37:11,833 だまされるな それは陽動だ! この時期 敵が狙うとすれば… 387 00:37:24,484 --> 00:37:26,784 (打撃音) うっ… 388 00:37:46,306 --> 00:37:48,306 うっ! 389 00:37:54,381 --> 00:37:56,681 何事かしら 390 00:38:30,217 --> 00:38:33,086 お下がりなさい 391 00:38:33,086 --> 00:38:37,324 この方は 銀河帝国の皇妃陛下で いらっしゃいますよ 392 00:38:37,324 --> 00:38:41,324 紛れもなく この方は 陛下の姉君だわ 393 00:38:50,937 --> 00:38:52,937 ご無事ですか? 394 00:39:03,183 --> 00:39:05,783 うう… うっ 395 00:39:08,455 --> 00:39:10,455 ヒルダさん! 396 00:39:22,636 --> 00:39:24,938 ダメです! 火災の発生で内部の様子は 397 00:39:24,938 --> 00:39:27,974 一層 分かりにくく なってしまいました 398 00:39:27,974 --> 00:39:30,877 せめて 屋内監視システムがあれば… 399 00:39:30,877 --> 00:39:33,013 詮ないことを言うな 400 00:39:33,013 --> 00:39:35,913 通してください 通して! 401 00:39:37,884 --> 00:39:39,884 あっ! 402 00:39:44,157 --> 00:39:46,159 危ないではないか 下がっていなさい 403 00:39:46,159 --> 00:39:49,963 でも ヒルダ様… 違った 皇妃様と大公妃様が 404 00:39:49,963 --> 00:39:53,867 まだ2階にいらっしゃるのです 放してください 405 00:39:53,867 --> 00:39:56,169 近侍の者か? そうです 406 00:39:56,169 --> 00:39:59,840 ああ 私がチョコレートアイスクリームなんか 買いに行かなければ 407 00:39:59,840 --> 00:40:02,709 こんなことには ならなかったのに 408 00:40:02,709 --> 00:40:05,612 そういうものでもあるまいが 409 00:40:05,612 --> 00:40:09,483 お願いします 大佐さん どうか皇妃様と大公妃様を 410 00:40:09,483 --> 00:40:14,321 ご無事で救い出してください お願いですから 411 00:40:14,321 --> 00:40:17,721 お二人が どの部屋におられるか 分かるか? 412 00:40:20,494 --> 00:40:23,394 こっちです おっ おい! 413 00:40:30,871 --> 00:40:33,640 あそこです! 窓の下に寝椅子があって 414 00:40:33,640 --> 00:40:36,409 皇妃様は そこにおいでですわ きっと 415 00:40:36,409 --> 00:40:38,609 ハシゴを はっ! 416 00:40:40,580 --> 00:40:44,851 ホクスポクス・フィジブス ホクスポクス・フィジブス 417 00:40:44,851 --> 00:40:49,322 ホクスポ… 祖父から教わった呪文なんです 418 00:40:49,322 --> 00:40:52,926 「凶事よ 消え失せよ」って 意味だそうです 419 00:40:52,926 --> 00:40:55,262 効果があるのかね 420 00:40:55,262 --> 00:40:57,631 繰り返す回数が多いほど 421 00:40:57,631 --> 00:41:00,231 では 続けていてくれ 422 00:41:05,138 --> 00:41:09,138 ホクスポクス・フィジブス ホクスポクス・フィジブス 423 00:41:16,816 --> 00:41:20,016 ホクスポクス… 以下省略 424 00:41:54,054 --> 00:41:56,354 皇妃様!ご無事ですか… 425 00:42:00,427 --> 00:42:02,927 フッ そこか! 426 00:42:06,266 --> 00:42:08,266 えい! 427 00:42:24,951 --> 00:42:28,822 お二方とも ご無事でようございました 428 00:42:28,822 --> 00:42:31,725 ケスラー上級大将で いらっしゃいましたね 429 00:42:31,725 --> 00:42:34,327 すぐに侍医と女官たちを 呼んでください 430 00:42:34,327 --> 00:42:37,097 皇妃陛下はご出産なさいます 431 00:42:37,097 --> 00:42:40,033 な…?はっ はい! 432 00:42:40,033 --> 00:42:44,838 侍医は?侍女はおらんか! 誰か担架を! 433 00:42:44,838 --> 00:42:48,041 あっ 皇妃様!ヒルダ様! 434 00:42:48,041 --> 00:42:50,877 ああ ご無事でしたかあ! 435 00:42:50,877 --> 00:42:54,577 ああ よかった… 436 00:42:59,486 --> 00:43:03,086 急げ!だが慎重にな 437 00:43:05,058 --> 00:43:07,158 失礼 438 00:43:49,135 --> 00:43:51,738 5月14日 19時40分 439 00:43:51,738 --> 00:43:54,641 シュテッヒパルム・シュロスは 焼け落ちた 440 00:43:54,641 --> 00:43:59,145 この館における ローエングラム王朝の皇帝夫妻の生活は 441 00:43:59,145 --> 00:44:02,845 4ヵ月に満たずして終息した 442 00:44:06,986 --> 00:44:10,757 市内14ヵ所の破壊活動を 全て鎮圧してから 443 00:44:10,757 --> 00:44:15,157 ケスラーは ヒルダらが 収容された病院を訪れた 444 00:44:34,481 --> 00:44:38,351 おっ おお ケスラー殿 445 00:44:38,351 --> 00:44:41,654 このたびは 何と お礼を申し上げてよいか 446 00:44:41,654 --> 00:44:43,890 恐れ多いお言葉です 447 00:44:43,890 --> 00:44:48,728 皇妃陛下を危険にさらし奉り 責任を痛感しております 448 00:44:48,728 --> 00:44:51,331 仮皇宮も全焼してしまいましたし 449 00:44:51,331 --> 00:44:54,100 おわびを 申し上げるべきところです 450 00:44:54,100 --> 00:44:56,536 いやいや ヒルダが… いや 451 00:44:56,536 --> 00:45:00,006 皇妃陛下がご無事ならば それが何より 452 00:45:00,006 --> 00:45:02,709 重ねてお礼申し上げますぞ 453 00:45:02,709 --> 00:45:04,709 はっ はあ… 454 00:45:19,259 --> 00:45:22,061 これはありがとう フロイライン… 455 00:45:22,061 --> 00:45:25,932 私 マリーカ・フォン・ フォイエルバッハと言います 456 00:45:25,932 --> 00:45:28,835 何だか偉そうな名前でしょう? 457 00:45:28,835 --> 00:45:31,271 大佐さんのお名前は? 458 00:45:31,271 --> 00:45:34,174 ケスラー ウルリッヒ・ケスラー 459 00:45:34,174 --> 00:45:36,174 え? 460 00:45:38,912 --> 00:45:41,781 あっ ああ! 461 00:45:41,781 --> 00:45:45,385 あの… じゃあ 憲兵総監閣下ですか? 462 00:45:45,385 --> 00:45:47,921 大佐さんじゃなかったんですね 463 00:45:47,921 --> 00:45:50,557 大佐だったこともある 464 00:45:50,557 --> 00:45:54,527 ごめんなさい 私 軍服とかよく分からなくて 465 00:45:54,527 --> 00:45:57,697 お年からいって 中佐ぐらいかと思ったんですけど 466 00:45:57,697 --> 00:46:00,300 高い地位でお呼びしたほうが いいと思って 467 00:46:00,300 --> 00:46:02,235 かえって失礼しました 468 00:46:02,235 --> 00:46:05,104 私って記憶力が悪いんですね 469 00:46:05,104 --> 00:46:09,943 憲兵総監閣下なら 皇妃様の所へ いらしたこともおありだし 470 00:46:09,943 --> 00:46:12,846 お顔を存じ上げてなくちゃ ならないのに… 471 00:46:12,846 --> 00:46:16,783 もういいよ 俺も君の顔を知らなかったからな 472 00:46:16,783 --> 00:46:20,320 フロイライン・フォイエルバッハ 473 00:46:20,320 --> 00:46:22,789 ありがとうございます 閣下 あの… 474 00:46:22,789 --> 00:46:27,293 私のことは マリーカと呼んでください 475 00:46:27,293 --> 00:46:30,293 (赤ん坊の産声) ん? 476 00:46:32,198 --> 00:46:35,435 ああ… 477 00:46:35,435 --> 00:46:39,839 男の御子です 身体的に 何らの欠陥も見受けられません 478 00:46:39,839 --> 00:46:42,709 皇妃陛下も ご健康でいらっしゃいます 479 00:46:42,709 --> 00:46:44,909 帝国 万歳! 480 00:46:48,948 --> 00:46:50,984 皇子殿下 万歳! 481 00:46:50,984 --> 00:46:53,453 皇妃陛下 万歳! 482 00:46:53,453 --> 00:46:58,053 皇子殿下 万歳! 皇妃陛下 万歳! 483 00:47:00,026 --> 00:47:02,326 アハハ… おお… 484 00:47:08,735 --> 00:47:14,908 宇宙暦801年 新帝国暦3年 5月14日 22時50分 485 00:47:14,908 --> 00:47:20,208 ローエングラム王朝の第二代皇帝と なるべき男児が誕生した 486 00:47:26,286 --> 00:47:29,386 皇妃陛下がお気づきになりました 487 00:47:32,859 --> 00:47:35,461 アンネローゼ様 488 00:47:35,461 --> 00:47:38,197 元気な男の赤ちゃんですよ カイザーリン 489 00:47:38,197 --> 00:47:43,736 ご両親のどちらに似ても 美しくて 賢い御子におなりでしょう 490 00:47:43,736 --> 00:47:47,574 ラインハルト・フォン・ローエングラムを父として 生を受けたことが 491 00:47:47,574 --> 00:47:50,276 この乳児にとって 幸福であるか否か 492 00:47:50,276 --> 00:47:54,276 いまだ予測することは 誰にとっても不可能であった 493 00:48:07,226 --> 00:48:09,162 どうなっておる? 494 00:48:09,162 --> 00:48:12,398 シュテッヒパルム・シュロスで 逮捕したテロリストが6名 495 00:48:12,398 --> 00:48:16,135 他の陽動作戦の現場で 検挙された者が20名 496 00:48:16,135 --> 00:48:20,006 現場で射殺された者は 156名に及びます 497 00:48:20,006 --> 00:48:22,008 地球教の指導者の所在は? 498 00:48:22,008 --> 00:48:26,179 現在 追及中ですが 例によって黙秘を通しております 499 00:48:26,179 --> 00:48:30,016 構わん 自白剤を使え 死んでもやむを得ぬ 500 00:48:30,016 --> 00:48:31,951 はっ! 501 00:48:31,951 --> 00:48:34,854 ケスラーは 治安維持の責任者であって 502 00:48:34,854 --> 00:48:39,459 犯罪者の人権擁護運動に従う 人道主義者ではなかった 503 00:48:39,459 --> 00:48:42,662 ゆえに必要とあれば 拷問もあえて辞さない 504 00:48:42,662 --> 00:48:46,566 だが相手が狂信者である時 肉体的拷問は 505 00:48:46,566 --> 00:48:50,703 殉教者としての自己陶酔に 転換される場合も多い 506 00:48:50,703 --> 00:48:53,306 これまで地球教徒を 逮捕した経験から 507 00:48:53,306 --> 00:48:55,708 ケスラーは そのことを学んでいた 508 00:48:55,708 --> 00:48:58,177 とすれば 自白剤を使用するしか 509 00:48:58,177 --> 00:49:01,177 手段は 残されていなかったのである 510 00:49:07,286 --> 00:49:10,957 尋問の過程で死亡した地球教徒は 8名に及び 511 00:49:10,957 --> 00:49:15,757 憲兵隊の苛烈さが 後日に語り継がれることとなった 512 00:49:19,699 --> 00:49:24,370 結果 フェザーンにおける地球教の 活動拠点をつかんだ憲兵隊は 513 00:49:24,370 --> 00:49:31,170 5月17日 エフライム街40番地にある 地球教のアジトを包囲した 514 00:49:34,047 --> 00:49:38,851 22時 エフライム街の戦闘が 開始された 515 00:49:38,851 --> 00:49:41,721 最初から 勝敗の決まった戦いであったが 516 00:49:41,721 --> 00:49:47,421 地球教徒が投降を拒否したため 戦闘は凄惨で深刻なものとなった 517 00:50:05,912 --> 00:50:09,782 建物内にいた 224名の地球教徒のうち 518 00:50:09,782 --> 00:50:13,586 意識不明の重傷者3名を除いて 全員が死亡したが 519 00:50:13,586 --> 00:50:17,557 うち29名は服毒自殺であった 520 00:50:17,557 --> 00:50:22,295 戦闘が終了したのは 翌18日1時30分 521 00:50:22,295 --> 00:50:26,065 憲兵隊も27名の死者を出す 激闘であったが 522 00:50:26,065 --> 00:50:29,902 これによって フェザーンにおける 地球教徒は一掃された 523 00:50:29,902 --> 00:50:35,074 またこの日未明 前内務省次官 兼 内国安全保障局長 524 00:50:35,074 --> 00:50:38,474 ハイドリッヒ・ラングの 死刑が執行された 525 00:50:47,253 --> 00:50:51,791 ラングは泣きわめいて 助命を請うたりしなかった 526 00:50:51,791 --> 00:50:56,062 独房から出された時点で 失神してしまい 処刑の瞬間まで 527 00:50:56,062 --> 00:51:00,062 その意識は 回復することは なかったからである 528 00:51:15,548 --> 00:51:18,417 エフライム街から 駆けつけたケスラーは 529 00:51:18,417 --> 00:51:21,521 ラングの棺が運び出されるのを 見送ったが 530 00:51:21,521 --> 00:51:25,291 ラング夫人の 喪服に包まれた 頼りなげな後ろ姿を 531 00:51:25,291 --> 00:51:28,961 しばらくは忘れることが できそうになかった 532 00:51:28,961 --> 00:51:31,964 前王朝と異なり ローエングラム王朝においては 533 00:51:31,964 --> 00:51:36,169 国事犯といえども その罪が家族に及ぶことはないが 534 00:51:36,169 --> 00:51:40,640 遺族にとっては 夫を 父を失った事実に変わりはなく 535 00:51:40,640 --> 00:51:42,575 死刑囚の家族として 536 00:51:42,575 --> 00:51:46,375 汚名に満たされた人生の 始まりでもあるのだった 537 00:51:48,381 --> 00:51:52,185 同日 夕刻 不愉快な任務を一段落させて 538 00:51:52,185 --> 00:51:56,055 4日ぶりに官舎に帰って 睡眠をむさぼっていたケスラーは 539 00:51:56,055 --> 00:52:00,955 カイザーリン・ヒルダに呼び出され 急遽 病院に駆けつけた 540 00:52:05,231 --> 00:52:10,803 皇子が助かったのは 大公妃殿下と ケスラー上級大将のおかげです 541 00:52:10,803 --> 00:52:13,339 改めて お礼を申し上げます 542 00:52:13,339 --> 00:52:17,210 恐れ多いことでございます 小官の不手際により 543 00:52:17,210 --> 00:52:21,581 皇妃陛下と大公妃殿下には 多大のご迷惑をおかけしました 544 00:52:21,581 --> 00:52:25,885 ご叱責を賜るべきところ 恐縮の限りでございます 545 00:52:25,885 --> 00:52:29,188 それともう一つ ケスラー「大佐」 546 00:52:29,188 --> 00:52:33,092 はっ… は? 547 00:52:33,092 --> 00:52:37,530 マリーカ・フォン・フォイエルバッハは 私の大切な友人です 548 00:52:37,530 --> 00:52:40,233 彼女から個人的に 優しい大佐さんに 549 00:52:40,233 --> 00:52:42,468 伝言を頼まれています 550 00:52:42,468 --> 00:52:44,837 明日 夕食のご予定は? 551 00:52:44,837 --> 00:52:48,140 ん… 552 00:52:48,140 --> 00:52:53,746 2年後 マリーカは ケスラー元帥夫人となるのである 553 00:52:53,746 --> 00:52:56,649 一連の事件と 皇子の誕生の報は 554 00:52:56,649 --> 00:53:01,449 惑星ハイネセンのカイザー・ラインハルトの元にも もたらされた 555 00:53:08,661 --> 00:53:11,931 まだ お決まりに ならないのですか 556 00:53:11,931 --> 00:53:14,000 ラインハルトを悩ませていたのは 557 00:53:14,000 --> 00:53:18,704 皇子の名前を考えなくては ならなくなった その一点であった 558 00:53:18,704 --> 00:53:22,341 ラインハルトにとっては 夫になった実感も育たないうちに 559 00:53:22,341 --> 00:53:24,877 父親になってしまったのである 560 00:53:24,877 --> 00:53:28,247 うずたかく積まれた紙くずの山は その とまどいを 561 00:53:28,247 --> 00:53:33,486 何よりも如実に 物語るものかもしれなかった 562 00:53:33,486 --> 00:53:35,821 家族… か 563 00:53:35,821 --> 00:53:39,692 家族という言葉は ラインハルトを困惑させる 564 00:53:39,692 --> 00:53:41,627 母親は早くに失われ 565 00:53:41,627 --> 00:53:45,364 ラインハルトにとって 希薄な印象しか残さなかった 566 00:53:45,364 --> 00:53:48,234 父親も 母親の死とともに 死んでいた 567 00:53:48,234 --> 00:53:51,570 肉体的には生きていたが 精神的には退化し 568 00:53:51,570 --> 00:53:53,973 子に対する責任を果たそうとせず 569 00:53:53,973 --> 00:53:57,877 それどころか 娘を権門に売って わずかの金銭を得た 570 00:53:57,877 --> 00:54:02,577 父親とは ラインハルトにとって 憎悪の対象でしかなかった 571 00:54:05,117 --> 00:54:07,386 ラインハルトにとって家族とは 572 00:54:07,386 --> 00:54:10,756 春の光のような愛を 注いでくれた姉だけであり 573 00:54:10,756 --> 00:54:12,692 それに加わることができたのは 574 00:54:12,692 --> 00:54:16,792 隣に住んでいた 赤毛の少年だけであった 575 00:54:32,878 --> 00:54:36,778 俗な名前だ ジークフリードなんて… 576 00:54:41,253 --> 00:54:48,427 アレクサンデル・ジークフリード・ フォン・ローエングラム 577 00:54:48,427 --> 00:54:51,330 「アレクサンデル・ジークフリード・ フォン・ローエングラム」 578 00:54:51,330 --> 00:54:55,201 それがローエングラム王朝 第二代皇帝の名前である 579 00:54:55,201 --> 00:55:00,201 これによって乳児はプリンツ・アレクと 呼ばれることになった 580 00:55:05,344 --> 00:55:08,347 ケスラーは フェザーンにおける 地球教の地下組織を 581 00:55:08,347 --> 00:55:11,050 ほぼ壊滅させたらしい 582 00:55:11,050 --> 00:55:15,021 そうか どうやら今年は 草刈りの年らしいな 583 00:55:15,021 --> 00:55:18,657 神出鬼没のルビンスキーめも ついに法の網にかかったし 584 00:55:18,657 --> 00:55:23,162 プリンツ・アレクは よい環境で お育ちになられるでしょう 585 00:55:23,162 --> 00:55:27,933 だがルビンスキーを法網に かけたのは あの軍務尚書だが 586 00:55:27,933 --> 00:55:31,533 卿はそれについて どう思っているのだ ビッテンフェルト? 587 00:55:33,572 --> 00:55:38,572 悪魔が妖怪に捕まったら 人間としては共倒れを望むだけだ 588 00:55:41,213 --> 00:55:43,616 大体 ルビンスキーも 存外 だらしがない 589 00:55:43,616 --> 00:55:45,684 いかに 不治の脳腫瘍だからといって 590 00:55:45,684 --> 00:55:49,488 このまま処刑台に直行では 竜頭蛇尾もいいところではないか 591 00:55:49,488 --> 00:55:51,957 提督らしい… 勝手な言い草だが 592 00:55:51,957 --> 00:55:55,661 もっともでもあるな 593 00:55:55,661 --> 00:55:57,661 ん? 594 00:56:01,934 --> 00:56:07,273 ん?卿ら どうやら 休息の時間は終わったらしいぞ 595 00:56:07,273 --> 00:56:11,877 今の報告によると イゼルローン軍の ほぼ全部隊が回廊を出て 596 00:56:11,877 --> 00:56:14,780 ハイネセン方面に 向かいつつあるということだ 597 00:56:14,780 --> 00:56:16,780 何! 598 00:56:19,085 --> 00:56:22,621 チェック・メイト え! 599 00:56:22,621 --> 00:56:27,460 は… 初めて聞いた あいつ 口がきけたのか 600 00:56:27,460 --> 00:56:30,196 ウォルフガング・ ミッターマイヤー以外の者は 601 00:56:30,196 --> 00:56:33,632 初めて耳にする アイゼナッハの声であった 602 00:56:33,632 --> 00:56:39,432 新帝国暦3年5月18日 16時のことである 603 00:58:13,299 --> 00:58:16,869 イゼルローンへの亡命を求める 1隻の民間船が 604 00:58:16,869 --> 00:58:21,373 帝国軍とイゼルローン革命軍との 全面衝突を招いた 605 00:58:21,373 --> 00:58:23,409 偶発がもたらした必然 606 00:58:23,409 --> 00:58:28,147 圧倒的大軍で攻め寄せる帝国軍を 相手に善戦するユリアンは 607 00:58:28,147 --> 00:58:32,985 やがて敵の動きが 奇妙に鈍いことに気づき… 608 00:58:32,985 --> 00:58:38,624 次回「銀河英雄伝説」 第107話「深紅の星路」 609 00:58:38,624 --> 00:58:41,224 銀河の歴史が また1ページ 610 01:01:29,661 --> 01:01:33,532 宇宙暦801年 新帝国暦3年5月末 611 01:01:33,532 --> 01:01:37,469 銀河帝国軍と イゼルローン革命軍の全面衝突は 612 01:01:37,469 --> 01:01:40,406 些細な偶発事から もたらされたように見える 613 01:01:40,406 --> 01:01:44,076 だが それは戦略レベルでの必然が もたらしたものであることを 614 01:01:44,076 --> 01:01:46,311 当事者たちは理解していた 615 01:01:46,311 --> 01:01:50,149 応答願います イゼルローン要塞 応答願います 616 01:01:50,149 --> 01:01:53,051 こちら民間宇宙船 ニュー・センチュリー号 617 01:01:53,051 --> 01:01:57,456 亡命を求めて航行中に 動力部に故障を生じて漂流中 618 01:01:57,456 --> 01:02:01,326 イゼルローン要塞への 保護と救援を要請します 619 01:02:01,326 --> 01:02:03,996 イゼルローン要塞 応答願います 620 01:02:03,996 --> 01:02:06,765 こちら民間宇宙船 ニュー・センチュリー号 621 01:02:06,765 --> 01:02:11,503 およそ900名の 自由と解放を 求める男女が搭乗しています 622 01:02:11,503 --> 01:02:13,772 イゼルローン要塞への 保護と救援を… 623 01:02:13,772 --> 01:02:17,176 レーダーに反応! 救援か? 624 01:02:17,176 --> 01:02:19,111 反応は後方からです 625 01:02:19,111 --> 01:02:21,211 追っ手か 626 01:02:25,951 --> 01:02:31,056 救援を求める通信が かえって 帝国軍を呼び込んでしまった 627 01:02:31,056 --> 01:02:36,862 せっかく ここまで帝国軍の 哨戒網をくぐってきたというのに 628 01:02:36,862 --> 01:02:40,332 レーダーに新たな反応! イゼルローン回廊からです 629 01:02:40,332 --> 01:02:42,332 救援だ! 630 01:02:51,777 --> 01:02:54,713 まったく いい迷惑だよ こんな時期に 631 01:02:54,713 --> 01:02:59,485 だからといって見殺しにはできん 道義的にも政治的にも 632 01:02:59,485 --> 01:03:03,922 帝国軍のワナという可能性は ないでしょうか? 633 01:03:03,922 --> 01:03:07,793 カイザー・ラインハルトの人となりからして それはないだろう 634 01:03:07,793 --> 01:03:10,796 前にも言ったが 俺たちのような小物を相手に 635 01:03:10,796 --> 01:03:14,199 小細工をするカイザーではないさ 636 01:03:14,199 --> 01:03:17,503 かろうじて帝国軍に先んじたぞ 637 01:03:17,503 --> 01:03:20,839 間一髪ではあるがな 638 01:03:20,839 --> 01:03:23,742 目標の船は イゼルローン軍の 管制下に入りました 639 01:03:23,742 --> 01:03:26,078 敵の総数は? およそ2000 640 01:03:26,078 --> 01:03:30,082 それでは我が方が不利だ 至急に増援を求めろ 641 01:03:30,082 --> 01:03:32,885 ドロイゼン艦隊が 既にこちらに向かっております 642 01:03:32,885 --> 01:03:35,187 よし ならば奴らを二度と 643 01:03:35,187 --> 01:03:37,990 イゼルローン回廊の穴倉には 逃げ込ませんぞ 644 01:03:37,990 --> 01:03:40,190 攻撃開始! 645 01:03:42,427 --> 01:03:44,396 応戦しろ ニュー・センチュリー号の 646 01:03:44,396 --> 01:03:47,733 修理が終わるまで 敵を近づけるな 647 01:03:47,733 --> 01:03:50,536 開かれた戦端は 偶発的なものであったが 648 01:03:50,536 --> 01:03:53,438 帝国軍が近距離の味方を 呼び集めたため 649 01:03:53,438 --> 01:03:55,374 戦線が一挙に拡大した 650 01:03:55,374 --> 01:03:58,343 帝国軍がドロイゼン艦隊の 来援を得たため 651 01:03:58,343 --> 01:04:02,481 イゼルローン軍も大規模な動員を 行わざるを得なくなったのである 652 01:04:02,481 --> 01:04:06,718 こうして数千隻単位の交戦が 2時間にわたって繰り広げられた 653 01:04:06,718 --> 01:04:10,022 よし いったん後退し 敵との間に距離を置くぞ 654 01:04:10,022 --> 01:04:13,425 しかし 現在のところ 我が方が優勢です 655 01:04:13,425 --> 01:04:16,962 このまま一気に… むろん奴らを逃がしはしない 656 01:04:16,962 --> 01:04:20,332 反転してイゼルローン回廊へ 逃げ込む気配を示したら 657 01:04:20,332 --> 01:04:24,002 すかさず攻勢をかける 分からぬか? 658 01:04:24,002 --> 01:04:26,905 このまま双方が 戦力の逐次投入を続ければ 659 01:04:26,905 --> 01:04:31,877 総兵力で はるかに勝る我が軍が いずれ有利になるのは自明の理だ 660 01:04:31,877 --> 01:04:34,646 ならば ここで 戦術的勝利にこだわるより 661 01:04:34,646 --> 01:04:37,549 この機にイゼルローン軍を 全てカイザーの御前に 662 01:04:37,549 --> 01:04:40,752 引きずり出したほうが 得策というものだろう 663 01:04:40,752 --> 01:04:42,754 敵 イエローゾーンまで後退 664 01:04:42,754 --> 01:04:45,257 ニュー・センチュリー号の修理 完了しました 665 01:04:45,257 --> 01:04:47,960 よし 護衛艦をつけて後送しろ 666 01:04:47,960 --> 01:04:51,363 司令官 まずいぞ 奴ら また増援が来たらしい 667 01:04:51,363 --> 01:04:54,032 敵 イエローゾーンで 再布陣しています 668 01:04:54,032 --> 01:04:56,735 いつでも攻勢に出られる構えだな 669 01:04:56,735 --> 01:05:00,205 こちらも要塞から増援を いいのか? 670 01:05:00,205 --> 01:05:02,874 やむを得ません カイザー・ラインハルトは 671 01:05:02,874 --> 01:05:05,644 いずれにせよ交渉の前に 一戦を望むでしょう 672 01:05:05,644 --> 01:05:08,013 理想のために血を流し得るか否か 673 01:05:08,013 --> 01:05:12,113 それがカイザーが相手を計る 計器の一つであるようですから 674 01:05:16,722 --> 01:05:20,025 僕はカイザー・ラインハルトからの 交渉の呼びかけを 675 01:05:20,025 --> 01:05:22,694 こちらから拒絶する気は ありません 676 01:05:22,694 --> 01:05:25,964 しかし一方的な臣従を 申し出るつもりもありません 677 01:05:25,964 --> 01:05:28,834 カイザーも それを望まないと思います 678 01:05:28,834 --> 01:05:32,537 つまり交渉の前に 一戦するのが望みだと? 679 01:05:32,537 --> 01:05:34,906 ヤン提督が おっしゃっておられました 680 01:05:34,906 --> 01:05:37,876 「カイザー・ラインハルトは 自分の理想と野心」 681 01:05:37,876 --> 01:05:41,680 「更には愛憎のために 自らを 焼いて悔いることのない人だ」 682 01:05:41,680 --> 01:05:45,550 「それだけに敵に対してさえ それを要求する」と 683 01:05:45,550 --> 01:05:48,453 「民主共和制が それほど貴重なものであるなら」 684 01:05:48,453 --> 01:05:52,457 「命懸けで守ってみせろ」 そう要求しているのです 685 01:05:52,457 --> 01:05:56,561 我々は その姿勢を見せてこそ 対等な交渉相手として 686 01:05:56,561 --> 01:05:58,930 カイザーの前に 立てるのではないでしょうか 687 01:05:58,930 --> 01:06:01,833 なるほどな だとしたら後世の歴史家は 688 01:06:01,833 --> 01:06:04,536 カイザー・ラインハルトを 血に飢えた野心家として 689 01:06:04,536 --> 01:06:07,105 断罪するかな? いえ 690 01:06:07,105 --> 01:06:10,075 多分「流された血の量に 釣り合うだけの業績をあげた」 691 01:06:10,075 --> 01:06:12,744 「偉人であった」と書くでしょうよ 692 01:06:12,744 --> 01:06:16,114 後世の歴史家って人種は 流される血の量を 693 01:06:16,114 --> 01:06:19,017 効率という価値基準で 計測しますからね 694 01:06:19,017 --> 01:06:23,488 たとえ宇宙が統一されるまでに 更に1億人が死んだとしても 695 01:06:23,488 --> 01:06:25,457 彼らはこう言うでしょうよ 696 01:06:25,457 --> 01:06:29,628 「たった1億人しか死なずに 宇宙の統一は完成された」 697 01:06:29,628 --> 01:06:32,898 「大いなる偉業だ」とね 698 01:06:32,898 --> 01:06:36,601 (せき払い) お前さんらしくない言い方だな 699 01:06:36,601 --> 01:06:41,206 冷笑家に変身して 後世に 毒舌録でも残すつもりかね 700 01:06:41,206 --> 01:06:43,975 すみません ちょっと興奮しまして 701 01:06:43,975 --> 01:06:47,012 いや 謝るようなことじゃない 702 01:06:47,012 --> 01:06:50,749 いずれにしても戦うとなれば 俺としても望むところだ 703 01:06:50,749 --> 01:06:53,018 もっとも戦闘の結果として 704 01:06:53,018 --> 01:06:55,253 カイザー・ラインハルトの 首を取ってしまえば 705 01:06:55,253 --> 01:06:58,657 交渉の必要も なくなるだろうが フッ 706 01:06:58,657 --> 01:07:00,892 こうしてイゼルローン革命軍は 707 01:07:00,892 --> 01:07:04,262 回廊の出入り口付近の宙域に 主力を結集して 708 01:07:04,262 --> 01:07:07,299 予期し得ぬ事態に 対応しようと備えていた 709 01:07:07,299 --> 01:07:10,969 「イゼルローン軍 動く」の報は 即日 惑星ハイネセンにある 710 01:07:10,969 --> 01:07:13,839 カイザー・ラインハルトの元に もたらされた 711 01:07:13,839 --> 01:07:16,475 彼らが兵をもって 挑んでくるのであれば 712 01:07:16,475 --> 01:07:18,910 こちらに それを回避すべき理由はない 713 01:07:18,910 --> 01:07:21,813 元々 そのためにこそ 親征してきたのだ 714 01:07:21,813 --> 01:07:25,317 余は即日にでも卿らを率いて ハイネセンを出立し 715 01:07:25,317 --> 01:07:27,285 彼らを討つであろう 716 01:07:27,285 --> 01:07:30,622 はあ… どうした ミュラー 717 01:07:30,622 --> 01:07:33,892 何か言いたいことがあるようだが 718 01:07:33,892 --> 01:07:36,128 お許しを得て申し上げます 719 01:07:36,128 --> 01:07:38,897 敵を軽んじるわけでは ありませんが 720 01:07:38,897 --> 01:07:43,201 今回のこと 帝国の存亡に 関わるとも思えません 721 01:07:43,201 --> 01:07:46,738 カイザー御自らが出陣あそばすには 及ばぬかと存じます 722 01:07:46,738 --> 01:07:49,040 戦いは小官らにお任せあって 723 01:07:49,040 --> 01:07:52,744 陛下はどうぞ この惑星にお留まりください 724 01:07:52,744 --> 01:07:57,182 余が軍を率いて親征してきたのは 何のゆえんあってのことだ 725 01:07:57,182 --> 01:08:01,419 共和主義者どもの非礼な挑戦に 無原則な笑顔で応えるためか 726 01:08:01,419 --> 01:08:04,322 そうではあるまい ミュラーの好意は分かるが 727 01:08:04,322 --> 01:08:06,322 この際は無用である 728 01:08:08,794 --> 01:08:11,696 あえて申し上げます 陛下 729 01:08:11,696 --> 01:08:14,966 フェザーンには 皇妃陛下と大公殿下がおわし 730 01:08:14,966 --> 01:08:17,869 陛下のご帰還を お待ちしておいでです 731 01:08:17,869 --> 01:08:21,406 どうか我らの戦いを 後方より督戦なさいますよう 732 01:08:21,406 --> 01:08:23,842 ほう 卿にも妻子がいて 733 01:08:23,842 --> 01:08:26,578 卿の生還を 祈っていると思っていたが 734 01:08:26,578 --> 01:08:30,478 卿の方は 身を危険にさらしても よいというわけか 735 01:08:33,819 --> 01:08:36,354 オーベルシュタインは 当地の治安回復のため 736 01:08:36,354 --> 01:08:38,554 ハイネセンに残留せよ 737 01:08:40,859 --> 01:08:44,763 ワーレンも先の戦いで 旗下の艦隊が半減したままであり 738 01:08:44,763 --> 01:08:47,763 今回はハイネセンの警備に当たれ 739 01:08:51,837 --> 01:08:55,307 かのヤン・ウェンリーは 740 01:08:55,307 --> 01:08:58,510 勝算がなければ戦わぬ男であった 741 01:08:58,510 --> 01:09:02,914 ゆえに余の尊敬に値したのだが 742 01:09:02,914 --> 01:09:05,817 彼の後継者はどうかな 743 01:09:05,817 --> 01:09:08,220 ミッターマイヤー はっ 744 01:09:08,220 --> 01:09:10,455 余より1日早く進発し 745 01:09:10,455 --> 01:09:14,059 共和主義者どもと 雌雄を決すべき戦場を設定せよ 746 01:09:14,059 --> 01:09:18,063 全軍の前衛も卿に委ねる はっ! 747 01:09:18,063 --> 01:09:20,198 左翼はアイゼナッハ 748 01:09:20,198 --> 01:09:23,668 右翼はビッテンフェルト 後衛はミュラー 749 01:09:23,668 --> 01:09:28,173 メックリンガーは 幕僚総監として余と共にあれ 750 01:09:28,173 --> 01:09:30,809 では プロージット 751 01:09:30,809 --> 01:09:33,109 プロージット! 752 01:09:50,662 --> 01:09:54,132 5月29日 帝国軍は 惑星ハイネセンから 753 01:09:54,132 --> 01:09:59,671 12日の行程にある シヴァ星域に布陣していた 754 01:09:59,671 --> 01:10:02,474 この時 ラインハルトは 微熱を自覚していたが 755 01:10:02,474 --> 01:10:06,144 重臣にも近侍にも その事実を明かしていない 756 01:10:06,144 --> 01:10:08,079 彼らに知られれば出戦を 757 01:10:08,079 --> 01:10:10,482 止められたであろうことは 明らかであり 758 01:10:10,482 --> 01:10:15,020 それはラインハルトには 耐えられないことであった 759 01:10:15,020 --> 01:10:18,290 「戦わずして後悔するより 戦って後悔する」 760 01:10:18,290 --> 01:10:22,727 そういう警句が ラインハルトの 発言として後世に残されているが 761 01:10:22,727 --> 01:10:25,697 信頼できる歴史資料には 見いだし得ない 762 01:10:25,697 --> 01:10:28,667 ただ いかにも軍神としての ラインハルトの一面を 763 01:10:28,667 --> 01:10:32,404 端的に示す言葉なので 広く深く人々の印象に 764 01:10:32,404 --> 01:10:35,206 刻み込まれたもののようである 765 01:10:35,206 --> 01:10:40,512 敵影見ゆ! 距離106.4光秒 3192万キロ 766 01:10:40,512 --> 01:10:45,450 レッドゾーン突入は 最短で1880秒後と推定 767 01:10:45,450 --> 01:10:48,987 未熟だが戦理にかなっている 768 01:10:48,987 --> 01:10:51,856 全軍に告げておくことがある マイクを持て 769 01:10:51,856 --> 01:10:53,856 はっ 770 01:10:56,161 --> 01:10:59,497 戦うにあたり 卿らに改めて言っておこう 771 01:10:59,497 --> 01:11:02,233 ゴールデンバウム王朝の過去は いざ知らず 772 01:11:02,233 --> 01:11:05,704 ローエングラム王朝ある限り 銀河帝国の軍隊は 773 01:11:05,704 --> 01:11:09,574 皇帝が必ず陣頭に立つ 余の息子もだ 774 01:11:09,574 --> 01:11:13,044 ローエングラム王朝の皇帝は 兵士たちの背中に隠れて 775 01:11:13,044 --> 01:11:16,881 安全な宮廷から 戦争を指揮することはせぬ 776 01:11:16,881 --> 01:11:20,652 卿らに誓約しよう 卑怯者はローエングラム王朝において 777 01:11:20,652 --> 01:11:24,956 至尊の座を占めることは 決してないと 778 01:11:24,956 --> 01:11:27,559 ジーク・カイザー・ラインハルト! 779 01:11:27,559 --> 01:11:30,462 ジーク・プリンツ・アレク! 780 01:11:30,462 --> 01:11:33,298 ジーク・カイザー・ラインハルト! 781 01:11:33,298 --> 01:11:35,998 ジーク・プリンツ・アレク! 782 01:11:39,170 --> 01:11:43,341 誇り高きかな マイン・カイザーは 常に味方に背を向け 783 01:11:43,341 --> 01:11:45,741 敵に胸をさらしたもう 784 01:11:47,746 --> 01:11:50,046 ファイエル! ファイヤー! 785 01:11:55,086 --> 01:11:57,722 あえて奇策を弄する必要はない 786 01:11:57,722 --> 01:12:01,522 間断ない攻撃を連続させて 敵を消耗させよ 787 01:12:03,528 --> 01:12:07,428 よし 予定どおり そろそろ後退するぞ 788 01:12:09,734 --> 01:12:13,104 奴らの手に乗るなよ トールハンマーの射程内に 789 01:12:13,104 --> 01:12:16,975 我が軍を引きずり込まない限り 奴らに勝機はないのだ 790 01:12:16,975 --> 01:12:21,813 見え透いた誘いに かかってはならんぞ 791 01:12:21,813 --> 01:12:24,616 シュワルツ・ランツェンレイターの 足が止まりました 792 01:12:24,616 --> 01:12:27,616 後退をやめて 反撃を装え 793 01:12:32,157 --> 01:12:35,060 敵が乗ってきません 逆に後退しています 794 01:12:35,060 --> 01:12:38,263 チッ ビッテンフェルトの猪め 795 01:12:38,263 --> 01:12:41,232 いつの間にやら辞書に 「慎重」とか「用心」とかいう単語を 796 01:12:41,232 --> 01:12:45,637 書き加えたらしい 今更 秀才ぶってどうする気だ 797 01:12:45,637 --> 01:12:47,972 敵をクロスファイアポイントに 誘い込むのは 798 01:12:47,972 --> 01:12:50,572 諦めざるを得ないようだ 799 01:12:55,313 --> 01:12:57,248 前進! 800 01:12:57,248 --> 01:12:59,851 ラインハルトのように 明言したわけではないが 801 01:12:59,851 --> 01:13:02,520 ユリアンも陣頭に立って 危険を引き受けることを 802 01:13:02,520 --> 01:13:06,291 自らに課していた これも むろんヤンの影響であったが 803 01:13:06,291 --> 01:13:10,091 この時はやや猪突の趣が あったかもしれない 804 01:13:20,738 --> 01:13:24,742 ヤン・ウェンリーの後継者は なかなか巧妙だな 805 01:13:24,742 --> 01:13:28,379 こちらに全面攻勢の機会を つかませない 806 01:13:28,379 --> 01:13:32,784 それともメルカッツの統率に よるものか 807 01:13:32,784 --> 01:13:35,520 この時ラインハルトは 悪寒を感じていた 808 01:13:35,520 --> 01:13:39,257 自覚せざるを得ない体調の悪さが ラインハルトの不快を誘い 809 01:13:39,257 --> 01:13:42,060 集中力を欠いて いらだっていた 810 01:13:42,060 --> 01:13:44,129 陛下 811 01:13:44,129 --> 01:13:48,833 どうした 余の顔に 呪いの影でも映っているか 812 01:13:48,833 --> 01:13:51,736 ブラウンシュヴァイク公を始め 何億人の呪いが 813 01:13:51,736 --> 01:13:54,336 集中しているか 分からぬ身だからな 814 01:13:56,474 --> 01:13:59,511 失礼しました 陛下がどこか別の宇宙に 815 01:13:59,511 --> 01:14:03,281 思いを馳せておられるように 見えましたので 816 01:14:03,281 --> 01:14:06,484 はあ… そうか 817 01:14:06,484 --> 01:14:08,753 だが 別の宇宙に思いを馳せるのは 818 01:14:08,753 --> 01:14:12,624 まず余の宇宙を掌握してからに したほうがよさそうだな 819 01:14:12,624 --> 01:14:16,361 卿らの努力に期待する はっ! 820 01:14:16,361 --> 01:14:19,264 シヴァ星域の会戦に 参加した戦力は 821 01:14:19,264 --> 01:14:25,069 帝国軍が艦艇5万1700隻 将兵584万2400 822 01:14:25,069 --> 01:14:30,608 イゼルローン軍が艦艇9800隻 将兵56万7200 823 01:14:30,608 --> 01:14:33,811 数量的な優勢は 圧倒的に帝国軍にあり 824 01:14:33,811 --> 01:14:37,682 イゼルローン軍が少人数での 操艦を余儀なくされている 825 01:14:37,682 --> 01:14:40,485 それはイゼルローン軍にとって 弱点ではあるが 826 01:14:40,485 --> 01:14:44,689 同時に奇策を生み出す 母胎となる可能性があった 827 01:14:44,689 --> 01:14:48,459 この弱点をユリアンは 大胆過ぎる術策で補った 828 01:14:48,459 --> 01:14:53,097 全艦隊の1割に当たる数を 無人艦にして 左翼後方に配置し 829 01:14:53,097 --> 01:14:55,466 あたかも とっておきの 予備兵力であるかのように 830 01:14:55,466 --> 01:14:59,170 見せかけたのである もし帝国軍がそれを看破して 831 01:14:59,170 --> 01:15:01,673 その方角に攻勢を集中させれば 832 01:15:01,673 --> 01:15:05,677 イゼルローン軍の戦列は 一挙に 崩壊してしまうところである 833 01:15:05,677 --> 01:15:08,112 ラインハルトの体調が 万全であれば 834 01:15:08,112 --> 01:15:10,481 ユリアンのトリックを 看破したに違いない 835 01:15:10,481 --> 01:15:15,053 その意味ではユリアンは 運が よかったと言えるかもしれない 836 01:15:15,053 --> 01:15:17,689 だがユリアンも トリックに技巧を凝らした 837 01:15:17,689 --> 01:15:20,592 無人艦隊が しばしばイゼルローン方面や 838 01:15:20,592 --> 01:15:23,094 帝国軍 右側面へと陽動するため 839 01:15:23,094 --> 01:15:25,930 帝国軍は それに注意力を割かざるを得ず 840 01:15:25,930 --> 01:15:29,801 対応するための戦力を 用意して おかなくてはならなかった 841 01:15:29,801 --> 01:15:32,604 更にユリアンは もし機会を与えられれば 842 01:15:32,604 --> 01:15:36,040 これらの艦をおとりに使って カイザー・ラインハルトの旗艦 843 01:15:36,040 --> 01:15:39,010 ブリュンヒルトに直接攻撃を かけるつもりであった 844 01:15:39,010 --> 01:15:42,880 もっともカイザー・ラインハルトが その程度の詭計にかかると思えず 845 01:15:42,880 --> 01:15:46,317 恐らくそのような機会は 訪れないだろうとも思っている 846 01:15:46,317 --> 01:15:48,820 それでもなお イゼルローン軍の兵力は 847 01:15:48,820 --> 01:15:51,723 人数の点において 絶対的に不足していた 848 01:15:51,723 --> 01:15:56,394 たった52人で どうやって巡航艦を 動かせってんだ ええ? 849 01:15:56,394 --> 01:15:59,697 タコをクルーにでもしなきゃ とても手が足りないぜ 850 01:15:59,697 --> 01:16:01,633 不平を言うんじゃない 851 01:16:01,633 --> 01:16:06,237 俺は以前 300人分の料理を 80人で片づけたことがあるんだ 852 01:16:06,237 --> 01:16:08,940 ある提督の 再婚パーティーの時でな 853 01:16:08,940 --> 01:16:11,743 花嫁が花婿の息子と 駆け落ちしちまったんで 854 01:16:11,743 --> 01:16:15,613 パーティーはお流れ 料理の山が 残ってしまったってわけさ 855 01:16:15,613 --> 01:16:18,182 おい 聞いたかよ この艦にはタコじゃなくて 856 01:16:18,182 --> 01:16:21,886 豚が乗ってるらしいぜ 頭の中まで胃袋の奴がな 857 01:16:21,886 --> 01:16:24,856 (笑い声) 858 01:16:24,856 --> 01:16:28,092 善戦から苦戦へ 転落しかけているにも関わらず 859 01:16:28,092 --> 01:16:30,361 なおも冗談と毒舌が飛び交うのは 860 01:16:30,361 --> 01:16:35,900 ヤン艦隊と呼ばれていた頃からの 救われがたい彼らのさがである 861 01:16:35,900 --> 01:16:38,903 ひと暴れしてくるぜ 862 01:16:38,903 --> 01:16:43,541 その中で1人 ユリアンだけが 生真面目に事態を憂慮していた 863 01:16:43,541 --> 01:16:45,810 奇策が入り込む余地が ないとすれば 864 01:16:45,810 --> 01:16:48,313 イゼルローン軍にとって 唯一の勝機は 865 01:16:48,313 --> 01:16:51,849 トールハンマーの射程に 敵を引き込むことにしかない 866 01:16:51,849 --> 01:16:55,720 帝国軍も それを熟知しており その行動は慎重であった 867 01:16:55,720 --> 01:16:58,756 そのためユリアンは 自分が状況に流されて 868 01:16:58,756 --> 01:17:03,361 戦略的判断を誤ったのでは ないかと悩み始めていたのである 869 01:17:03,361 --> 01:17:07,131 だが帝国軍の動きは 慎重と言うには消極的すぎた 870 01:17:07,131 --> 01:17:09,467 ラインハルト自身が 体調の不全から 871 01:17:09,467 --> 01:17:11,969 特に用兵に 自重を強いたためである 872 01:17:11,969 --> 01:17:14,872 そのことに気づいたユリアンは 戸惑いを覚えていたが 873 01:17:14,872 --> 01:17:18,176 慎重な帝国軍の動きは 重厚さにも通じ 874 01:17:18,176 --> 01:17:20,645 奇策を仕掛けて 帝国軍をかき回す隙を 875 01:17:20,645 --> 01:17:22,880 見いだすには至っていなかった 876 01:17:22,880 --> 01:17:26,217 一方 必要を越えると思われる 大本営の慎重さに 877 01:17:26,217 --> 01:17:29,520 帝国軍の諸将も 戸惑いを覚えていた 878 01:17:29,520 --> 01:17:33,391 これだけ重厚な布陣を 少数の艦艇で完成させるとは 879 01:17:33,391 --> 01:17:38,363 恐らくメルカッツの手腕だろう まだまだ宿将も衰えを見せんな 880 01:17:38,363 --> 01:17:42,900 しかしそろそろ敵も 行動の 限界点に達すると思われます 881 01:17:42,900 --> 01:17:46,537 総攻撃の指示があって しかるべきと考えますが 882 01:17:46,537 --> 01:17:48,537 うむ… 883 01:17:51,142 --> 01:17:55,980 もう待てん 一気に敵の左翼をたたくぞ 884 01:17:55,980 --> 01:18:00,318 敵 殺到してきます 応戦しろ 885 01:18:00,318 --> 01:18:04,222 戦艦エリダヌス 撃沈 戦艦バテンカイトス 通信途絶! 886 01:18:04,222 --> 01:18:06,224 閣下 このままでは… 887 01:18:06,224 --> 01:18:09,994 チッ やむを得ん 全艦 いったん後退だ 888 01:18:09,994 --> 01:18:14,365 イゼルローン軍は 回廊方面へ 退却する気配を見せつつあり 889 01:18:14,365 --> 01:18:17,769 退路を断って これを一挙に包囲殲滅せんと欲す 890 01:18:17,769 --> 01:18:21,172 陛下のご裁可を請う 陛下はご仮眠中です 891 01:18:21,172 --> 01:18:24,108 お伝えいたしまして 改めてご連絡いたします 892 01:18:24,108 --> 01:18:26,108 よしなに 893 01:18:52,737 --> 01:18:55,606 陛下! 軍医を早く! 894 01:18:55,606 --> 01:18:58,306 担架だ 担架を持て 895 01:19:01,279 --> 01:19:03,247 軍医殿 は… はい 896 01:19:03,247 --> 01:19:06,717 もはや原因不明で済むと 思わないでいただこう 897 01:19:06,717 --> 01:19:11,088 カイザーのご病名を確かめ 最善の治療を施していただく 898 01:19:11,088 --> 01:19:15,259 よろしいな? はあ はい 899 01:19:15,259 --> 01:19:17,195 お分かりかな 軍医殿 900 01:19:17,195 --> 01:19:20,531 卿には地位に伴う責任が あるということだ 901 01:19:20,531 --> 01:19:24,836 何もなし得ぬというのなら 一介の町医者も同じこと 902 01:19:24,836 --> 01:19:27,138 期待に応えて いただけるだろうな? 903 01:19:27,138 --> 01:19:29,073 は… はい 904 01:19:29,073 --> 01:19:33,473 失礼 軍医殿 少し興奮してしまったようだ 905 01:19:35,680 --> 01:19:39,217 何!陛下がご昏倒あそばしたと? 906 01:19:39,217 --> 01:19:42,119 それはまことですか? ご容体は?まさか… 907 01:19:42,119 --> 01:19:46,324 騒ぐな 別にカイザーが ご逝去あそばしたわけではない 908 01:19:46,324 --> 01:19:48,860 ここで節度を失えば 後日 カイザーより 909 01:19:48,860 --> 01:19:51,662 おしかりを こうむることになるぞ 910 01:19:51,662 --> 01:19:54,899 それよりも この知らせを 敵軍に知られてはまずい 911 01:19:54,899 --> 01:19:57,502 通信を一部 封鎖せよ この旨だけは 912 01:19:57,502 --> 01:20:00,271 大本営に知らせるように はっ 913 01:20:00,271 --> 01:20:05,042 おい ロイエンタール どうしたらいいと思う 914 01:20:05,042 --> 01:20:07,512 俺に重大な責任を押しつけて 915 01:20:07,512 --> 01:20:11,382 自分はヴァルハラで杯を片手に 見物だなどと 916 01:20:11,382 --> 01:20:14,218 虫がいいではないか 917 01:20:14,218 --> 01:20:18,422 ここで帝国軍は 深刻な自縄自縛に 陥ってしまっていた 918 01:20:18,422 --> 01:20:21,125 カイザーの発熱と昏倒を 秘密にしたため 919 01:20:21,125 --> 01:20:23,728 大本営と ミッターマイヤー艦隊の他は 920 01:20:23,728 --> 01:20:27,298 指揮系統の連絡が 取れなくなってしまったのである 921 01:20:27,298 --> 01:20:29,600 ことに問題は ビッテンフェルトである 922 01:20:29,600 --> 01:20:33,538 シュワルツ・ランツェンレイターは 帝国軍の中で最も突出していたが 923 01:20:33,538 --> 01:20:37,108 敵の後方に回り込む許可を 得られずに時を費やし 924 01:20:37,108 --> 01:20:41,445 メルカッツが築いた分厚い防御陣の前に 前進を阻まれていた 925 01:20:41,445 --> 01:20:45,750 その間にアッテンボローは 旗下の 艦隊を再編することができた 926 01:20:45,750 --> 01:20:49,620 せっかく敵の退路を断つ 好機を得ながら 927 01:20:49,620 --> 01:20:52,156 みすみす取り逃がすとは 928 01:20:52,156 --> 01:20:57,094 大本営は何をしている もう一度 連絡を取れ 929 01:20:57,094 --> 01:20:59,230 「覆水 盆に返らず」と言うから 930 01:20:59,230 --> 01:21:01,866 逃してしまった好機については 何も言わん 931 01:21:01,866 --> 01:21:04,702 だが再攻勢のための 予備兵力の投入まで 932 01:21:04,702 --> 01:21:06,704 ならんというのは納得いかん 933 01:21:06,704 --> 01:21:10,107 とにかく今は 無理な攻撃を避けて後退せよ 934 01:21:10,107 --> 01:21:13,044 分からず屋めが! カイザーをお出ししろ 935 01:21:13,044 --> 01:21:16,213 でなければシャトルに乗って ブリュンヒルトへ行く 936 01:21:16,213 --> 01:21:18,282 陛下に直訴申し上げるぞ 937 01:21:18,282 --> 01:21:22,687 ビッテンフェルト提督 私は皇帝陛下より勅任された 938 01:21:22,687 --> 01:21:25,189 大本営幕僚総監である 939 01:21:25,189 --> 01:21:28,526 戦場での統兵に関し 卿らに指示するのも 940 01:21:28,526 --> 01:21:30,962 陛下より委嘱された職権のうちだ 941 01:21:30,962 --> 01:21:34,832 異存がおありなら いずれ陛下の御前で理非を正そう 942 01:21:34,832 --> 01:21:40,071 だが 今はともかく後退命令に従え このエセ詩人野郎! 943 01:21:40,071 --> 01:21:42,573 いつからオーベルシュタインの 作った曲に合わせて 944 01:21:42,573 --> 01:21:45,142 ピアノを弾くように なりやがった! 945 01:21:45,142 --> 01:21:50,481 猪に聞かせるには ジャッカルが作った曲でたくさんだ 946 01:21:50,481 --> 01:21:54,381 閣下 ここは一気に攻勢に 出るべきではありませんか? 947 01:21:56,287 --> 01:21:59,624 はっ 全艦 直ちに後退 948 01:21:59,624 --> 01:22:04,028 アイゼナッハ艦隊は いったん後退し 陣形を再編した 949 01:22:04,028 --> 01:22:08,532 カイザーからどのような命令が出ても 即応できる態勢を取ったのである 950 01:22:08,532 --> 01:22:10,468 だが その命令を アイゼナッハは 951 01:22:10,468 --> 01:22:14,071 意外な長さで 待ち続けるはめになった 952 01:22:14,071 --> 01:22:17,408 ミュラー上級大将 我々がこの戦場に来たのは 953 01:22:17,408 --> 01:22:21,045 弁当を広げるためではありません ぜひとも戦闘に参加して 954 01:22:21,045 --> 01:22:24,515 共和主義者どもを砲火の下に なぎ倒してやりたく存じます 955 01:22:24,515 --> 01:22:29,153 カイザーのご命令なくして みだりに 艦隊を動かすことは許されぬ 956 01:22:29,153 --> 01:22:33,391 大本営からの指令を しばらく待つことだ 957 01:22:33,391 --> 01:22:37,261 それにしても ここに至って ご命令がないのは妙だ 958 01:22:37,261 --> 01:22:39,664 本来なら我が艦隊を動かして 959 01:22:39,664 --> 01:22:43,664 敵の側面なり 後背なりを 襲わせてしかるべきだが 960 01:22:48,906 --> 01:22:51,809 エネルギーと弾薬の補充だ 急げよ 961 01:22:51,809 --> 01:22:55,680 ユリアンか ちょっと耳に 入れておきたいことがあってな 962 01:22:55,680 --> 01:22:58,282 どうなさいました ポプラン中佐? 963 01:22:58,282 --> 01:23:02,153 さっき 奇妙な通信が 俺の スパルタニアンに入ってきてな 964 01:23:02,153 --> 01:23:05,389 報告して お前さんの判断を 仰ごうと思うんだが… 965 01:23:05,389 --> 01:23:10,227 僕の耳に収まる程度の 大きさですか 966 01:23:10,227 --> 01:23:13,197 皇帝不予? 「不予」というと病気ですか 967 01:23:13,197 --> 01:23:15,397 カイザー・ラインハルトが? 968 01:23:18,269 --> 01:23:21,572 あのカイザー・ラインハルトが 病に倒れるとは 969 01:23:21,572 --> 01:23:24,475 皇帝不予といっても 単なる風邪かもしれません 970 01:23:24,475 --> 01:23:27,378 先走りは禁物です しかし 971 01:23:27,378 --> 01:23:31,048 当面の帝国軍の動きの鈍さの 説明にはなります 972 01:23:31,048 --> 01:23:33,884 だとしたら この帝国軍の隙を突いて 973 01:23:33,884 --> 01:23:36,187 旗艦ブリュンヒルトに 兵を送り込んで 974 01:23:36,187 --> 01:23:38,856 一気に カイザー・ラインハルトを倒そう 975 01:23:38,856 --> 01:23:42,093 敵がトールハンマーの射程に 絶対に入ろうとしない以上 976 01:23:42,093 --> 01:23:44,829 勝機はそこにしかない 977 01:23:44,829 --> 01:23:47,565 2年前のイゼルローン攻防戦の時 978 01:23:47,565 --> 01:23:51,135 ロイエンタール元帥を 取り逃がしたのは残念の極みだが 979 01:23:51,135 --> 01:23:53,904 代わりにカイザー・ラインハルトの 首が取れるなら 980 01:23:53,904 --> 01:23:57,441 採算は大きな黒字になるだろうな 981 01:23:57,441 --> 01:24:00,878 確かにブリュンヒルトに 一度 肉迫してしまえば 982 01:24:00,878 --> 01:24:03,180 帝国軍は 容易に手を出せんだろうな 983 01:24:03,180 --> 01:24:05,750 戦術というより 賭けの要素が大きいがね 984 01:24:05,750 --> 01:24:09,653 だが こんな機会は 二度とないかもしれない 985 01:24:09,653 --> 01:24:13,891 メルカッツ提督のお考えは? 986 01:24:13,891 --> 01:24:19,163 今のままでも 負けない戦いを することはできるでしょうな 987 01:24:19,163 --> 01:24:22,066 皇帝不予の真偽にかかわらず 988 01:24:22,066 --> 01:24:25,870 帝国軍の動きが奇妙に 鈍いのは事実 989 01:24:25,870 --> 01:24:29,707 後退しても 追撃は かけてこないような印象です 990 01:24:29,707 --> 01:24:32,610 だが これで イゼルローンに戻っても 991 01:24:32,610 --> 01:24:34,645 更に戦力が減少して 992 01:24:34,645 --> 01:24:38,845 次の戦いでは 現状より もっと苦しくなるでしょうな 993 01:24:42,853 --> 01:24:46,724 決まった かの美しき ブリュンヒルトに乗り込んで 994 01:24:46,724 --> 01:24:50,594 カイザーの首を上げてやろう くたばれ カイザー! 995 01:24:50,594 --> 01:24:52,530 では 僕も行きます 996 01:24:52,530 --> 01:24:55,432 おいおい こいつは肉体労働だ 997 01:24:55,432 --> 01:24:58,435 労働者が超過勤務手当を 稼ぐ機会なのに 998 01:24:58,435 --> 01:25:01,605 全軍の総司令官が 邪魔をするもんじゃない 999 01:25:01,605 --> 01:25:06,210 ヤン提督を見習って 指揮席で ベレー帽をかぶって寝ていろよ 1000 01:25:06,210 --> 01:25:10,447 僕も同行するか 作戦自体を 許可しないかどちらかです 1001 01:25:10,447 --> 01:25:13,717 僕の目的はカイザー・ラインハルトと 談判することで 1002 01:25:13,717 --> 01:25:15,653 殺害することではありません 1003 01:25:15,653 --> 01:25:19,523 そこのところを 間違えないでください 1004 01:25:19,523 --> 01:25:21,458 オーケー ユリアン 1005 01:25:21,458 --> 01:25:25,129 先にカイザーと対面したほうが やりたいようにやるさ 1006 01:25:25,129 --> 01:25:29,033 礼儀正しく話しかけるか トマホークを振り下ろすか 1007 01:25:29,033 --> 01:25:32,837 それから 僕は必ず 生きて帰るつもりですが 1008 01:25:32,837 --> 01:25:37,374 帝国軍にも言い分はあるでしょう 僕に万一のことがあった場合には 1009 01:25:37,374 --> 01:25:41,245 アッテンボロー中将を 次の革命軍司令官に指名します 1010 01:25:41,245 --> 01:25:43,180 当然ながら 提督には 1011 01:25:43,180 --> 01:25:46,083 ユリシーズに残留して いただきますので よろしく 1012 01:25:46,083 --> 01:25:49,083 おい そんな 命令です 1013 01:25:53,657 --> 01:25:55,593 この上ない大舞台だ 1014 01:25:55,593 --> 01:25:58,829 後世に残る 死体の山を築いてやろうぜ 1015 01:25:58,829 --> 01:26:02,099 おう! いや 死体は1つでいい 1016 01:26:02,099 --> 01:26:05,402 ラインハルト・フォン・ ローエングラムの死体だけでな 1017 01:26:05,402 --> 01:26:09,273 この世で最も美しく 貴重な死体ではあるが 1018 01:26:09,273 --> 01:26:11,673 ん? ん? 1019 01:26:14,879 --> 01:26:18,279 (口笛を鳴らす音) 1020 01:26:20,217 --> 01:26:23,120 ユリアン 気をつけるのよ あんたって優等生のくせに 1021 01:26:23,120 --> 01:26:26,991 要領の悪いところがあるから みんなが放っておけないんだわ 1022 01:26:26,991 --> 01:26:29,894 でも 僕を止めないんだね 君は 1023 01:26:29,894 --> 01:26:34,064 止めないわよ 女に止められて 言うことを聞くような男 1024 01:26:34,064 --> 01:26:38,903 いざという時 自分の家族だって 守れるはずないじゃない 1025 01:26:38,903 --> 01:26:42,339 ワルター・フォン・シェーンコップから 離れないようにするのね 1026 01:26:42,339 --> 01:26:44,675 地面や床に足をつけている限り 1027 01:26:44,675 --> 01:26:49,179 あれほど頼りになる男は いないって 母が言ってたわ 1028 01:26:49,179 --> 01:26:52,082 美人に頼られては 嫌とは言えないね 1029 01:26:52,082 --> 01:26:55,586 さて カリン 俺にも一つ 頼みがあるんだがな 1030 01:26:55,586 --> 01:26:59,290 何でしょうか? 恋愛は大いにやるべきだが 1031 01:26:59,290 --> 01:27:03,494 子供を生むのは 二十歳を過ぎてからにしてくれ 1032 01:27:03,494 --> 01:27:06,694 俺は30代で じいさんになる気はないからな 1033 01:27:10,768 --> 01:27:15,172 宇宙暦801年 新帝国暦3年5月30日 1034 01:27:15,172 --> 01:27:18,676 イゼルローン軍は 乾坤一擲の戦いを挑むべく 1035 01:27:18,676 --> 01:27:20,676 再び動き出した 1036 01:27:25,316 --> 01:27:28,285 カイザー・ラインハルトの病状は 予想外に重く 1037 01:27:28,285 --> 01:27:31,121 原因も治療法も 分からないものだった 1038 01:27:31,121 --> 01:27:34,091 この事実を伏せた帝国軍は 前線で混乱し 1039 01:27:34,091 --> 01:27:36,093 その隙に乗じたイゼルローン軍に 1040 01:27:36,093 --> 01:27:39,830 総旗艦ブリュンヒルトへの侵入を 許す事態となった 1041 01:27:39,830 --> 01:27:42,299 ラインハルトの姿を 捜し求めるユリアンは 1042 01:27:42,299 --> 01:27:44,902 死闘の中を駆けるが… 1043 01:27:44,902 --> 01:27:50,607 次回「銀河英雄伝説」 第108話「美姫は血を欲す」 1044 01:27:50,607 --> 01:27:53,107 銀河の歴史が また1ページ