1 00:00:33,900 --> 00:00:35,902 (ヒロシ)7月20日。 2 00:00:35,902 --> 00:00:38,872 今日からスペースあさがおの 観察日記を始める。 3 00:00:38,872 --> 00:00:43,577 僕は あさがおが早く咲くように いっぱい水をあげました。 4 00:00:43,577 --> 00:00:47,714 まだかな? いつになったら あさがおと会えるかな? 5 00:00:47,714 --> 00:00:53,653 7月25日 朝 起きたら あさがおが芽を出していました。 6 00:00:53,653 --> 00:00:55,539 はじめまして あさがおさん。 7 00:00:55,539 --> 00:00:59,259 僕は嬉しくて いっぱい水をあげました。 8 00:00:59,259 --> 00:01:01,244 そしたら お母さんに→ 9 00:01:01,244 --> 00:01:04,748 もう あさがおはお腹いっぱいだよ って 怒られました。 10 00:01:04,748 --> 00:01:09,770 8月11日 台風が江戸を直撃しました。 11 00:01:09,770 --> 00:01:12,289 僕は あさがおが飛ばされないように→ 12 00:01:12,289 --> 00:01:14,207 ずっと 一緒にいました。 13 00:01:14,207 --> 00:01:19,246 そしたら お母さんにカゼをひくって すごく怒られました。 14 00:01:19,246 --> 00:01:21,248 でも 僕は心配だから→ 15 00:01:21,248 --> 00:01:24,751 無視したら お母さんとケンカになりました。 16 00:01:24,751 --> 00:01:28,588 8月12日 雨は まだやみません。 17 00:01:28,588 --> 00:01:31,958 僕は 熱が出て ずっと寝てました。 18 00:01:31,958 --> 00:01:34,911 何度も あさがおを 見に行こうとしたけど→ 19 00:01:34,911 --> 00:01:37,581 お母さんは 行かせてくれませんでした。 20 00:01:37,581 --> 00:01:40,567 お母さんは あさがおが どうなってもいいんだ。 21 00:01:40,567 --> 00:01:43,870 僕は もう お母さんと口をきかない。 22 00:01:43,870 --> 00:01:49,910 8月13日 朝 起きたら あさがおが なくなっていました。 23 00:01:49,910 --> 00:01:53,597 僕が行ってあげれば あさがおは死ななかったのに…。 24 00:01:53,597 --> 00:01:56,967 ごめんなさい ごめんなさい。 25 00:01:56,967 --> 00:01:59,569 僕が泣いていると お母さんが→ 26 00:01:59,569 --> 00:02:02,239 鉢に咲いた あさがおを 持ってきました。 27 00:02:02,239 --> 00:02:07,244 お母さんは台風の中 あさがおを 鉢に移してくれていました。 28 00:02:07,244 --> 00:02:11,598 僕の代わりに 友達を守ってくれました。 29 00:02:11,598 --> 00:02:14,985 ごめんなさい ごめんなさい。 30 00:02:14,985 --> 00:02:17,220 結局 僕は泣きました。 31 00:02:17,220 --> 00:02:21,591 でも この涙は悲しいのじゃなく 嬉しい涙でした。 32 00:02:21,591 --> 00:02:26,863 8月30日 お母さんと一緒に あさがおに水をあげました。 33 00:02:26,863 --> 00:02:30,584 あさがおは 今日も たくましく育っています。 34 00:02:30,584 --> 00:02:33,236 終わり。 35 00:02:33,236 --> 00:02:37,641 (先生)はい ヒロシ君 ありがとう。 あさがお 枯れなくてよかったね。 36 00:02:37,641 --> 00:02:39,926 お母さんとも仲直りできたし。 37 00:02:39,926 --> 00:02:42,546 え~っと じゃあ 次は…。 38 00:02:42,546 --> 00:02:45,081 大五郎君。 (大五郎)はい。 39 00:02:45,081 --> 00:02:49,553 大五郎君は夏休み いったい何を研究したのかな? 40 00:02:49,553 --> 00:02:55,892 え~っと… ぼ 僕も 観察日記をつけてきました。 41 00:02:55,892 --> 00:03:01,281 (先生)そうですか。 いったい何を観察したのかな? 42 00:03:01,281 --> 00:03:03,200 楽しみだね みんな。 43 00:03:03,200 --> 00:03:06,920 それじゃ 大五郎君 いってみようか。 44 00:03:06,920 --> 00:03:10,540 3年1組 北大路大五郎。 45 00:03:10,540 --> 00:03:15,045 7月20日 今日から 待ちに待った夏休みです。 46 00:03:15,045 --> 00:03:17,564 明日から何をして遊ぼうか? 47 00:03:17,564 --> 00:03:21,618 そんなことを寝る前から考えて わくわくしてたら→ 48 00:03:21,618 --> 00:03:24,171 ラジオ体操に遅れました。 49 00:03:24,171 --> 00:03:28,575 コラ 大五郎君! 1日目から ラジオ体操 サボったの? 50 00:03:28,575 --> 00:03:31,228 ダメじゃないか! 51 00:03:31,228 --> 00:03:36,116 (大五郎)公園に行ったら もう誰もいませんでした。 でも…。 52 00:03:36,116 --> 00:03:38,869 ((長谷川:さ 酒…。 53 00:03:38,869 --> 00:03:42,222 た… 頼む! 54 00:03:42,222 --> 00:03:45,792 さ… 酒をくれ!)) 55 00:03:45,792 --> 00:03:51,281 (大五郎)そこで僕は マダオと出会いました。 56 00:03:51,281 --> 00:03:54,881 あの… マダオって何? 57 00:06:39,249 --> 00:06:42,919 (大五郎)今日からマダオの 観察日記をつけることにしました。 58 00:06:42,919 --> 00:06:46,306 (先生)大五郎君 ちょっと待って。 マダオって何? ねぇ! 59 00:06:46,306 --> 00:06:48,241 (大五郎)マダオは 公園のぬしです。 60 00:06:48,241 --> 00:06:50,877 ヒゲの生えた グラサンの生き物で→ 61 00:06:50,877 --> 00:06:55,298 基本 一日中 働かずに公園でじっとしています。 62 00:06:55,298 --> 00:06:57,584 大五郎君 それ ただのオッサンだよね? 63 00:06:57,584 --> 00:07:00,453 公園に住んでる ただの無職のオッサンだよね? 64 00:07:00,453 --> 00:07:02,739 (大五郎) 昨日 お酒を家から持ってきたら→ 65 00:07:02,739 --> 00:07:05,608 なついて 喋ってくるようになりました。 66 00:07:05,608 --> 00:07:08,895 (先生)いやダメだって そんなもの あげたら… 知らないおじさんに。 67 00:07:08,895 --> 00:07:11,414 ((坊主 酒は?)) 68 00:07:11,414 --> 00:07:14,200 (大五郎)お酒がないと 生きられないと言うので→ 69 00:07:14,200 --> 00:07:17,737 僕は いっぱい マダオにお酒をあげました。 70 00:07:17,737 --> 00:07:19,739 まだかな…。 71 00:07:19,739 --> 00:07:22,225 いつになったら マダオは咲くんだろう。 72 00:07:22,225 --> 00:07:24,227 咲かないよ! そんなもん あげてるかぎり→ 73 00:07:24,227 --> 00:07:26,227 永遠に咲かないよ そのオッサン! 74 00:07:28,915 --> 00:07:30,934 (大五郎)マダオは まだ芽が出ない。 75 00:07:30,934 --> 00:07:32,886 (先生) 芽が出ないって… 大の大人に→ 76 00:07:32,886 --> 00:07:34,954 それは ないんじゃないかな 大五郎君。 77 00:07:34,954 --> 00:07:38,241 (大五郎)いくら お酒をあげても 動きも働きもしません。 78 00:07:38,241 --> 00:07:41,227 なんで何もしないの? って聞いたら…。 79 00:07:41,227 --> 00:07:45,698 ((一度枯れた花は 二度と咲かねえんだよ)) 80 00:07:45,698 --> 00:07:48,318 (大五郎)悲しそうな目で そう言ってました。 81 00:07:48,318 --> 00:07:51,118 何これ なんの研究? 子供に なんてこと言ってんの! 82 00:07:53,940 --> 00:07:55,925 (大五郎)マダオは まだ芽が出ない。 83 00:07:55,925 --> 00:08:01,397 いくら お酒をあげても 目から 全部流してしまいます。 84 00:08:01,397 --> 00:08:05,769 どうして せっかくあげたのに 流しちゃうの? って聞いたら…。 85 00:08:05,769 --> 00:08:10,223 ((ごめんね もう流さないから。 ごめんね)) 86 00:08:10,223 --> 00:08:14,260 (大五郎)そう言って また 目からお酒を流していました。 87 00:08:14,260 --> 00:08:16,196 日が暮れるまで ずっと。 88 00:08:16,196 --> 00:08:19,249 大五郎君? ちょっと重たいね。 89 00:08:19,249 --> 00:08:21,849 ねぇ 何これ? もうやめない? 90 00:08:25,305 --> 00:08:28,541 (大五郎)マダオは まだ芽が出ない。 (先生)大五郎君わかった! 91 00:08:28,541 --> 00:08:31,578 ホントは 自由研究さぼって やってないんでしょ? 92 00:08:31,578 --> 00:08:34,481 (大五郎)マダオは 何か ケガをしているようなので→ 93 00:08:34,481 --> 00:08:37,534 どうしたのって聞くと…。 94 00:08:37,534 --> 00:08:40,737 ブランコを作ろうとして失敗した→ 95 00:08:40,737 --> 00:08:42,922 と言っていました。 (先生)大五郎君! 96 00:08:42,922 --> 00:08:46,826 (大五郎)僕は どうして とっくに公園にブランコがあるのに→ 97 00:08:46,826 --> 00:08:50,063 縄で ブランコなんか作るんだろうと 不思議でした。 98 00:08:50,063 --> 00:08:52,582 いつになったら マダオは咲くんだろう? 99 00:08:52,582 --> 00:08:55,001 (先生)大五郎君 これ まずいことになってるから! 100 00:08:55,001 --> 00:08:57,001 大丈夫なの? これ。 101 00:08:58,922 --> 00:09:00,907 (大五郎)マダオは まだ芽が出ない。 102 00:09:00,907 --> 00:09:05,245 ラジオ体操に向かう途中 マダオが線路で寝てました。 103 00:09:05,245 --> 00:09:07,597 何をやってるのかと聞くと→ 104 00:09:07,597 --> 00:09:10,650 寝苦しくて ここまで 転がってきてしまった→ 105 00:09:10,650 --> 00:09:12,585 と言っていました。 (先生)ちょ… もうやめ! 106 00:09:12,585 --> 00:09:15,238 (大五郎)いつになったら マダオは咲くんだろう? 107 00:09:15,238 --> 00:09:17,924 発表 終わり! よくできてましたね。 108 00:09:17,924 --> 00:09:20,910 途中までですが もう結構です。 (子供たち)え~! 109 00:09:20,910 --> 00:09:23,329 なんで? 先生! もっと聞きたい! 110 00:09:23,329 --> 00:09:25,265 マダオは咲いたの? どうなったの? 111 00:09:25,265 --> 00:09:27,417 いや 咲いたとか そういうあれじゃ。 112 00:09:27,417 --> 00:09:32,071 続き! 続きが聞きたい! 最後まで読めよ 大五郎! 113 00:09:32,071 --> 00:09:37,210 (子供たち)マダオ! マダオ! マダオ! 114 00:09:37,210 --> 00:09:41,247 《い… いったい何が 子供たちの心を…》 115 00:09:41,247 --> 00:09:43,266 わ… わかりました! 116 00:09:43,266 --> 00:09:45,752 じゃあ ちょっと長いようだから→ 117 00:09:45,752 --> 00:09:48,738 多少かいつまんでやりましょうか。 118 00:09:48,738 --> 00:09:51,808 大五郎君 8月… 8月から。 119 00:09:51,808 --> 00:09:54,110 要点だけ押さえて読もうか。 120 00:09:54,110 --> 00:09:56,910 あんま変なところは かいつまんで。 121 00:09:59,549 --> 00:10:01,584 (大五郎)家族が1人増えた。 122 00:10:01,584 --> 00:10:03,603 かいつまみすぎだろ! 123 00:10:03,603 --> 00:10:05,655 なんでマダオが 家族の一員になってんの? 124 00:10:05,655 --> 00:10:07,590 たった数日のうちに いったい 何があったの? 125 00:10:07,590 --> 00:10:09,542 (大五郎) 寝床を用意してやったが→ 126 00:10:09,542 --> 00:10:12,262 相も変わらず マダオは芽が出なかった。 127 00:10:12,262 --> 00:10:15,932 じっと虚空を見つめるだけの その乾いた双眸からは→ 128 00:10:15,932 --> 00:10:18,401 何も 窺い知ることはできない。 129 00:10:18,401 --> 00:10:20,904 地に堕ちた堕天使 ルシファーの意を→ 130 00:10:20,904 --> 00:10:23,539 神でさえ 介することが できなかったように。 131 00:10:23,539 --> 00:10:26,743 (先生)しかも なんか文章 急に達者になってますけど? 132 00:10:26,743 --> 00:10:28,761 (大五郎)もう うんざりだ。 133 00:10:28,761 --> 00:10:31,247 俺は地面に向かって ツバを吐き捨て マルボロに火をつけた。 134 00:10:31,247 --> 00:10:33,933 何があった? この夏 いったい何があった!? 135 00:10:33,933 --> 00:10:36,869 大人の階段どころじゃないだろ! 大人のエスカレーターだろ! 136 00:10:36,869 --> 00:10:40,907 (大五郎)人は環境に応じ 絶えず変化せねば生きられない。 137 00:10:40,907 --> 00:10:44,494 (先生)なんで コンドル!? てか お前は変化しすぎだろう! 138 00:10:44,494 --> 00:10:46,994 お前のほうを観察したかったわ! 139 00:10:50,883 --> 00:10:52,936 (大五郎)俺は おふくろから くすねてきたウイスキーを→ 140 00:10:52,936 --> 00:10:54,871 無造作に ヤツに投げつけた。 141 00:10:54,871 --> 00:10:56,906 マダオ 環境は変えてやった。 142 00:10:56,906 --> 00:10:58,908 あとは お前の番だというのに→ 143 00:10:58,908 --> 00:11:01,894 なぜ お前はそこで ずっと淀んだままでいる? 144 00:11:01,894 --> 00:11:04,247 いったい何が不満だというのだ? 145 00:11:04,247 --> 00:11:07,400 (先生)明らかだよね? 何が不満なのか丸見えだよね! 146 00:11:07,400 --> 00:11:10,086 家族増えたって そういう意味で? 147 00:11:10,086 --> 00:11:13,539 (大五郎)マダオは いったい いつになったら咲くのか? 148 00:11:13,539 --> 00:11:18,911 天を仰ぐ俺を嘲笑うかのように 上空には コンドルが旋回していた。 149 00:11:18,911 --> 00:11:20,911 (先生)だから 江戸に なんでコンドル? 150 00:11:23,916 --> 00:11:25,902 (大五郎)マダオを飼いはじめてから 10日経ったが→ 151 00:11:25,902 --> 00:11:28,905 相変わらず ヤツの芽は出ない。 152 00:11:28,905 --> 00:11:32,191 いつものように 俺は おふくろからくすねたバーボンを→ 153 00:11:32,191 --> 00:11:34,243 無造作に ヤツに投げつける。 154 00:11:34,243 --> 00:11:36,362 そこは もう 無造作じゃないとダメなの? 155 00:11:36,362 --> 00:11:38,381 かたくなに無造作なの? 156 00:11:38,381 --> 00:11:43,302 (大五郎)最近 おふくろが マダオを気味悪がっている。 157 00:11:43,302 --> 00:11:46,556 どうやら 俺が飼いはじめたのが 犬ではなく→ 158 00:11:46,556 --> 00:11:49,542 マダオだということに 勘づきはじめているようだ。 159 00:11:49,542 --> 00:11:52,862 最初から丸わかりだろ! 最初から気味悪いよ! 160 00:11:52,862 --> 00:11:56,265 (大五郎)女手ひとつで 俺を育ててくれた おふくろ。 161 00:11:56,265 --> 00:11:59,235 おふくろが 男を 信用しないようになったのは→ 162 00:11:59,235 --> 00:12:01,237 いつからだったのだろうか。 163 00:12:01,237 --> 00:12:03,306 (先生)おふくろのことは もういいよ! 164 00:12:03,306 --> 00:12:05,306 いいから 早く締めて! 165 00:12:09,412 --> 00:12:11,431 (先生) おい! いいっつってんだろ!! 166 00:12:11,431 --> 00:12:13,383 なんで 日記で過去編!? 167 00:12:13,383 --> 00:12:15,918 <大五郎:あの日も うだるように 暑い日だったのを覚えている。 168 00:12:15,918 --> 00:12:21,991 おふくろの旦那… つまり 俺の親父も マダオだった。 169 00:12:21,991 --> 00:12:24,544 親父は 腕のいい大工だったが→ 170 00:12:24,544 --> 00:12:26,913 現場の事故で 腕が使えなくなってから→ 171 00:12:26,913 --> 00:12:32,568 働きもせずに 昼間から酒を飲み 博打を打つようになった。 172 00:12:32,568 --> 00:12:36,222 おふくろは いつでも 馬車馬のように働いては→ 173 00:12:36,222 --> 00:12:39,258 稼ぎが少ないと 親父に殴られていた。 174 00:12:39,258 --> 00:12:42,695 俺は そんな親父の姿を見るのがイヤで→ 175 00:12:42,695 --> 00:12:46,416 いつも日が暮れるまで 家に帰らなかった。 176 00:12:46,416 --> 00:12:51,320 働き疲れたおふくろを待ち 家路につく。 177 00:12:51,320 --> 00:12:55,425 それが 俺の日課だった。 178 00:12:55,425 --> 00:13:00,079 そんなマダオでも 俺たちが 見限ることをしなかったのは→ 179 00:13:00,079 --> 00:13:02,548 かつての遠い記憶…。 180 00:13:02,548 --> 00:13:06,369 優しかった父の 優しかった夫の姿が→ 181 00:13:06,369 --> 00:13:10,239 いつか戻ってきてくれると 信じてのことだった。 182 00:13:10,239 --> 00:13:12,275 だが その日…> 183 00:13:12,275 --> 00:13:14,210 ただいま…。 184 00:13:14,210 --> 00:13:16,579 <俺たちの淡い希望は→ 185 00:13:16,579 --> 00:13:21,579 セミの声とともに 夏の空に消えた> 186 00:13:26,539 --> 00:13:30,576 <俺の頬に 雨が当たって流れた。 187 00:13:30,576 --> 00:13:33,579 いつの間にか 俺は あるマダオの話を→ 188 00:13:33,579 --> 00:13:38,584 目の前のマダオに 長々と話し込んでいたらしい> 189 00:13:38,584 --> 00:13:41,254 すまねえ… 今の話は忘れてくれ。 190 00:13:41,254 --> 00:13:43,756 (長谷川)なぜ 俺を…。 191 00:13:43,756 --> 00:13:47,777 マダオの姿なんて もう 見たくもねえんじゃねえのか? 192 00:13:47,777 --> 00:13:50,463 お前も 母ちゃんも。 193 00:13:50,463 --> 00:13:54,963 母ちゃん… 苦しませるだけ なんじゃねえのか? 194 00:13:57,203 --> 00:14:00,039 後悔してるのかもしれねえ。 195 00:14:00,039 --> 00:14:04,293 親父が どん底に落ちちまったとき 支えてやれば→ 196 00:14:04,293 --> 00:14:09,393 おふくろは こんなことに ならなかったんじゃねえかって。 197 00:14:11,434 --> 00:14:13,719 < その先の言葉は出なかった。 198 00:14:13,719 --> 00:14:15,888 俺は いつの間にか→ 199 00:14:15,888 --> 00:14:20,409 親父とマダオの姿を 重ねていたのかもしれない。 200 00:14:20,409 --> 00:14:25,214 おふくろを苦しめてまで 俺は 何をしようとしているのか。 201 00:14:25,214 --> 00:14:27,550 あのときの忘れ物…。 202 00:14:27,550 --> 00:14:30,953 今から取り戻せるとでも 思っているのだろうか。 203 00:14:30,953 --> 00:14:36,453 その日 マダオは バーボンに口をつけなかった> 204 00:14:39,512 --> 00:14:41,781 < どうやら 江戸に 台風が直撃しているらしい。 205 00:14:41,781 --> 00:14:44,650 俺の足は 自然と犬小屋へ向かった。 206 00:14:44,650 --> 00:14:49,422 しかし そこに マダオの姿はなかった> 207 00:14:49,422 --> 00:14:53,593 ((長谷川:マダオの姿なんて もう 見たくもねえんじゃねえのか? 208 00:14:53,593 --> 00:14:56,193 お前も 母ちゃんも)) 209 00:16:00,243 --> 00:16:02,428 アンタ 何やってんの!! 210 00:16:02,428 --> 00:16:04,547 この雨の中 どこへ行くっていうの!? 211 00:16:04,547 --> 00:16:08,234 離せよ! ただでさえ 酒びたりで弱りきってたんだ! 212 00:16:08,234 --> 00:16:11,534 こんな雨の中じゃ 死んじまうよ マダオ!! 213 00:16:13,539 --> 00:16:17,576 やっぱり… マダオだったんだね あれ…。 214 00:16:17,576 --> 00:16:20,596 っげえよ! マダオなんかじゃねえよ!! 215 00:16:20,596 --> 00:16:23,566 アイツは… アイツは…。 216 00:16:23,566 --> 00:16:26,585 俺の友達だ! 217 00:16:26,585 --> 00:16:28,955 大五郎! 218 00:16:28,955 --> 00:16:34,555 《もう イヤなんだ… アイツだけは 救ってやりたいんだ》 219 00:16:38,998 --> 00:16:42,201 <結局 マダオは見つかりませんでした。 220 00:16:42,201 --> 00:16:46,622 なんだか頭が痛くて 前みたいに うまく書けません。 221 00:16:46,622 --> 00:16:49,642 僕は カゼをひいてしまったようです。 222 00:16:49,642 --> 00:16:54,547 なんでだかわからないけど お酒も飲んでないのに→ 223 00:16:54,547 --> 00:16:56,916 目から お酒が出ました。 224 00:16:56,916 --> 00:16:59,218 マダオみたいに…。 225 00:16:59,218 --> 00:17:03,739 マダオも どこかで 目から お酒を出しているのかな? 226 00:17:03,739 --> 00:17:07,960 そう思ったら お酒が 止まらなくなって困りました。 227 00:17:07,960 --> 00:17:09,960 そしたら…> 228 00:17:12,565 --> 00:17:14,950 マ… マダオ。 229 00:17:14,950 --> 00:17:17,486 まったく… 今度は 逃げないように→ 230 00:17:17,486 --> 00:17:19,422 ちゃんと見とくのよ。 231 00:17:19,422 --> 00:17:21,374 それから… ゴホッ ゴホッ! 232 00:17:21,374 --> 00:17:26,395 マダオ飼うなら 外は恥ずかしいから 家の中で飼いなさい。 ゴホッ! 233 00:17:26,395 --> 00:17:29,615 エサも お酒じゃなくて ちゃんとしたものあげるのよ。 234 00:17:29,615 --> 00:17:31,615 ゴホッ ゴホッ! 235 00:17:35,054 --> 00:17:39,408 < お母さんは マダオを飼うことを 許してくれました。 236 00:17:39,408 --> 00:17:42,595 いや もしかしたら お母さんは→ 237 00:17:42,595 --> 00:17:45,695 僕と同じ気持だったのかも しれません> 238 00:17:49,919 --> 00:17:53,089 マダオ またお酒飲んだの? 239 00:17:53,089 --> 00:17:57,689 いいや… もう飲まねえさ。 240 00:18:01,697 --> 00:18:05,117 < あれから マダオは変わりました。 241 00:18:05,117 --> 00:18:09,071 酒をきれいさっぱり断ち お母さんのいない間→ 242 00:18:09,071 --> 00:18:11,073 あらゆる家事をこなします。 243 00:18:11,073 --> 00:18:14,727 そして そのかたわら 求人雑誌を読みあさり→ 244 00:18:14,727 --> 00:18:18,748 お母さんは 最初は マダオって呼んでたけど→ 245 00:18:18,748 --> 00:18:22,368 最近は 長谷川さんと 呼ぶようになりました。 246 00:18:22,368 --> 00:18:25,121 マダオはマダオなのに なんでだろう。 247 00:18:25,121 --> 00:18:27,621 僕には よくわかりません> 248 00:18:30,743 --> 00:18:33,129 <夕方 マダオが おつかいに行っているときに→ 249 00:18:33,129 --> 00:18:35,131 お母さんが…> 250 00:18:35,131 --> 00:18:39,085 大五郎 お父さん欲しくない? 251 00:18:39,085 --> 00:18:41,070 < と聞いてきました。 252 00:18:41,070 --> 00:18:44,039 聞いてる意味が よくわからなかったので→ 253 00:18:44,039 --> 00:18:49,111 僕が聞き返したら 顔が真っ赤になっていました> 254 00:18:49,111 --> 00:18:52,131 いや… なんでもない。 255 00:18:52,131 --> 00:18:56,419 < よくわからなかったので 夜 マダオに聞いたら…> 256 00:18:56,419 --> 00:18:58,871 知らねえよ。 257 00:18:58,871 --> 00:19:01,171 <大人は よくわかりません> 258 00:19:04,076 --> 00:19:06,929 < いよいよ マダオの芽の出る日がきました> 259 00:19:06,929 --> 00:19:10,032 今まで ありがとうございました。 260 00:19:10,032 --> 00:19:12,585 おかげさまで どん底から ここまで→ 261 00:19:12,585 --> 00:19:14,603 はい上がることができました。 262 00:19:14,603 --> 00:19:18,574 本当に2人には なんと感謝を言っていいか…。 263 00:19:18,574 --> 00:19:22,995 あらあら 気が早いですよ。 面接は これからでしょ。 264 00:19:22,995 --> 00:19:26,081 ほら ネクタイ。 アハッ すみません。 265 00:19:26,081 --> 00:19:29,935 たった1人しか合格できない 難関なんでしょう。 266 00:19:29,935 --> 00:19:35,708 頑張ってくださいね。 吉報 待ってますから。 267 00:19:35,708 --> 00:19:37,743 うん。 268 00:19:37,743 --> 00:19:39,762 はい! 269 00:19:39,762 --> 00:19:44,200 <決戦に向かうマダオと それを見送る お母さんは→ 270 00:19:44,200 --> 00:19:47,586 まるで お父さんと お母さんみたいでした。 271 00:19:47,586 --> 00:19:50,072 マダオが お父さん。 272 00:19:50,072 --> 00:19:54,872 想像してみたけど なんだか こそばゆかったので やめました> 273 00:19:57,413 --> 00:20:00,049 緊張してらっしゃるみたいですね。 274 00:20:00,049 --> 00:20:02,585 えっ!? あぁ… ええ。 275 00:20:02,585 --> 00:20:06,071 なんせ マダオから真人間への 復活が かかってるんで…。 276 00:20:06,071 --> 00:20:10,876 ああ そうなんですか。 僕と同じですね。 277 00:20:10,876 --> 00:20:13,712 えっ!? あなたもマダオだったんですか? 278 00:20:13,712 --> 00:20:15,764 そうは見えませんが…。 279 00:20:15,764 --> 00:20:21,871 いえね ケガして職を失ってから すっかり グレてしまいまして。 280 00:20:21,871 --> 00:20:24,740 妻や息子にも見放されて…。 281 00:20:24,740 --> 00:20:30,379 お恥ずかしい話 全部失ってから 大事なものに気づかされまして。 282 00:20:30,379 --> 00:20:32,598 なんとか ここまで更生して→ 283 00:20:32,598 --> 00:20:36,986 妻に やり直そうと 伝えたんですけど→ 284 00:20:36,986 --> 00:20:39,555 考えさせてくれって 言われちゃいました。 285 00:20:39,555 --> 00:20:43,609 まあ でも いいんです。 今回 これに受かったら→ 286 00:20:43,609 --> 00:20:45,661 もう一度 アタックしてみるんで…。 287 00:20:45,661 --> 00:20:47,580 イスは ひとつしかないけど→ 288 00:20:47,580 --> 00:20:50,580 お互い 悔いのないよう がんばりましょうね。 289 00:20:54,136 --> 00:20:57,636 あの ひとつ聞いていいですか? はい。 290 00:20:59,642 --> 00:21:02,442 息子さんの名前 なんていうんですか? 291 00:21:06,565 --> 00:21:10,035 < あれっきり マダオは戻りませんでした> 292 00:21:10,035 --> 00:21:13,472 きっと 面接 落ちちゃったんだよ。 293 00:21:13,472 --> 00:21:16,258 それで 僕らに あわせる顔がなくて。 294 00:21:16,258 --> 00:21:21,664 バカだな マダオ。 そんなの 気を遣わなくてもいいのに。 295 00:21:21,664 --> 00:21:25,117 < お母さんは 何も言いませんでした。 296 00:21:25,117 --> 00:21:29,717 僕のせいで また お母さん傷つけちゃったかな> 297 00:21:35,628 --> 00:21:38,581 <マダオと食事しました。 298 00:21:38,581 --> 00:21:40,749 もう1人のマダオと。 299 00:21:40,749 --> 00:21:45,237 マダオは まるで 別人のように変わっていて→ 300 00:21:45,237 --> 00:21:48,591 僕とお母さんに 何度も謝ったあと→ 301 00:21:48,591 --> 00:21:52,211 嬉しそうに 仕事が決まったことを 報告しました。 302 00:21:52,211 --> 00:21:57,633 面接会場で お酒を飲んで 大暴れした人がいたことを→ 303 00:21:57,633 --> 00:22:00,386 楽しそうにしゃべってました。 304 00:22:00,386 --> 00:22:03,486 お母さんも とっても楽しそうでした> 305 00:22:10,546 --> 00:22:13,065 よお そこのお二人さん。 306 00:22:13,065 --> 00:22:18,865 オイラにちぃと 酒をわけちゃくれねえかい? 307 00:22:22,207 --> 00:22:24,209 大五郎 行くわよ。 308 00:22:24,209 --> 00:22:26,879 大五郎? 309 00:22:26,879 --> 00:22:31,917 なんで… もう飲まないって約束したのに。 310 00:22:31,917 --> 00:22:38,507 なんで… 試験がんばるって約束したのに。 311 00:22:38,507 --> 00:22:44,507 なんで なんで なんで! 312 00:22:46,415 --> 00:22:48,901 酒がねえなら失せろ ガキ。 313 00:22:48,901 --> 00:22:51,501 もう テメエとはこれっきりだ。 314 00:22:55,240 --> 00:22:58,110 ウソつき。 大五郎 もうやめなさい。 315 00:22:58,110 --> 00:23:01,397 行くわよ。 これ以上 その人に関わるのはよしなさい。 316 00:23:01,397 --> 00:23:05,784 ウソつき! マダオ 僕は知ってるよ! 317 00:23:05,784 --> 00:23:08,087 大五郎! どんなにウソついたって→ 318 00:23:08,087 --> 00:23:10,255 どんなに 酔っ払ったふりしたって→ 319 00:23:10,255 --> 00:23:13,876 どんなにみんなが マダオを悪く言ったって 僕は…。 320 00:23:13,876 --> 00:23:16,729 マダオは マダオなんかじゃない! 321 00:23:16,729 --> 00:23:19,932 僕の忘れ物を取り戻してくれた! 322 00:23:19,932 --> 00:23:25,387 誰よりも優しい立派な侍だって…。 323 00:23:25,387 --> 00:23:29,792 僕 忘れないから 絶対 忘れないから! 324 00:23:29,792 --> 00:23:31,792 絶対! 325 00:23:37,082 --> 00:23:39,451 なんじゃ やかましいのう。 326 00:23:39,451 --> 00:23:43,439 あれ 長谷川さん アンタ戻ってきたのかい。 327 00:23:43,439 --> 00:23:45,539 おっ ちぃと もらうよ。 328 00:23:48,594 --> 00:23:51,580 何じゃこりゃ? み 水じゃねえか! 329 00:23:51,580 --> 00:23:55,117 酒も仕事もいらねえよ。 330 00:23:55,117 --> 00:24:00,917 俺は もう十分 いろんなもん もらったからよ。 331 00:24:05,244 --> 00:24:09,548 大五郎… 父ちゃん母ちゃんと 幸せにな。 332 00:24:09,548 --> 00:24:13,952 < そう 僕は知っていました。 333 00:24:13,952 --> 00:24:18,752 マダオは もう とっくに咲いているって> 334 00:24:26,548 --> 00:24:28,901 大五郎君 ごめん。 335 00:24:28,901 --> 00:24:31,703 もう観察日記っていうか→ 336 00:24:31,703 --> 00:24:35,424 ほとんど小説だったけどよかった。 337 00:24:35,424 --> 00:24:39,812 すごくよかった! みんな大五郎君に拍手! 338 00:24:39,812 --> 00:24:43,232 (拍手) 339 00:24:43,232 --> 00:24:46,919 ん? あれ まだ続いてんの? 340 00:24:46,919 --> 00:24:49,371 あっ エンドロールまであるんだ すごいね。 341 00:24:49,371 --> 00:24:52,307 映画みたいだね。 いや すばらしかった。 342 00:24:52,307 --> 00:24:54,910 みんなもう一度 大五郎君に拍手! 343 00:24:54,910 --> 00:24:58,230 (拍手) 344 00:24:58,230 --> 00:25:00,883 えっ…。 345 00:25:00,883 --> 00:25:02,883 お母さんが書いたんかいっ!