1 00:00:02,836 --> 00:00:04,170 (ヒロシ)“7月20日” 2 00:00:04,295 --> 00:00:07,924 “今日から スペースアサガオの 観察日記を始める” 3 00:00:08,049 --> 00:00:12,137 “僕は アサガオが早く咲くように いっぱい水をあげました” 4 00:00:12,262 --> 00:00:16,057 “まだかな? いつになったら アサガオと会えるかな?” 5 00:00:16,933 --> 00:00:18,393 “7月25日” 6 00:00:19,019 --> 00:00:22,230 “朝起きたら アサガオが芽を出していました” 7 00:00:22,355 --> 00:00:24,566 “はじめまして アサガオさん” 8 00:00:24,691 --> 00:00:27,944 “僕は うれしくて いっぱい水をあげました” 9 00:00:28,069 --> 00:00:30,572 “そしたら お母さんに もう アサガオは―” 10 00:00:30,697 --> 00:00:33,199 “おなかいっぱいだよって 怒られました” 11 00:00:33,867 --> 00:00:35,410 “8月11日” 12 00:00:35,577 --> 00:00:38,371 “台風が江戸(えど)を直撃しました” 13 00:00:39,039 --> 00:00:41,124 “僕は アサガオが 飛ばされないように―” 14 00:00:41,249 --> 00:00:45,044 “ずっと一緒にいました そしたら お母さんに―” 15 00:00:45,170 --> 00:00:48,006 “風邪をひくって すごく怒られました” 16 00:00:48,131 --> 00:00:53,052 “でも 僕は心配だから無視したら お母さんとケンカになりました” 17 00:00:53,845 --> 00:00:55,472 “8月12日” 18 00:00:55,597 --> 00:01:00,852 “雨は まだ やみません 僕は熱が出て ずっと寝てました” 19 00:01:00,977 --> 00:01:03,438 “何度も アサガオを 見に行こうとしたけど―” 20 00:01:03,563 --> 00:01:05,982 “お母さんが 行かせてくれませんでした” 21 00:01:06,608 --> 00:01:09,486 “お母さんは アサガオが どうなってもいいんだ” 22 00:01:09,611 --> 00:01:12,530 “僕は もう お母さんと口を利かない” 23 00:01:13,281 --> 00:01:14,532 “8月13日” 24 00:01:15,283 --> 00:01:18,661 “朝起きたら アサガオがなくなっていました” 25 00:01:18,787 --> 00:01:22,332 “僕が行ってあげれば アサガオは死ななかったのに” 26 00:01:22,832 --> 00:01:25,502 “ごめんなさい ごめんなさい” 27 00:01:26,169 --> 00:01:27,545 “僕が泣いていると―” 28 00:01:27,670 --> 00:01:31,007 “お母さんが 鉢に咲いた アサガオを持ってきました” 29 00:01:31,132 --> 00:01:32,967 “お母さんは 台風の中―” 30 00:01:33,092 --> 00:01:36,012 “アサガオを 鉢に移してくれていました” 31 00:01:36,137 --> 00:01:39,891 “僕の代わりに 友達を守ってくれました” 32 00:01:40,809 --> 00:01:45,939 “ごめんなさい ごめんなさい 結局 僕は泣きました” 33 00:01:46,064 --> 00:01:50,110 “でも この涙は 悲しいのじゃなく うれしい涙でした” 34 00:01:50,860 --> 00:01:52,403 “8月30日” 35 00:01:52,529 --> 00:01:55,532 “お母さんと一緒に アサガオに水をあげました” 36 00:01:56,282 --> 00:02:00,537 (ヒロシ)“アサガオは今日も たくましく育っています” 終わり 37 00:02:00,662 --> 00:02:01,871 (拍手) 38 00:02:02,038 --> 00:02:03,998 (先生)はい ヒロシ君 ありがとう 39 00:02:04,124 --> 00:02:06,251 アサガオ 枯れなくて良かったね (生徒)良かったな 40 00:02:06,376 --> 00:02:08,378 (先生) お母さんとも仲直りできたし 41 00:02:09,003 --> 00:02:12,006 (先生)え~ ヒロシ君の気持ちが よ~く伝わってくる― 42 00:02:12,132 --> 00:02:14,759 大変 よくできた研究文でした 43 00:02:14,884 --> 00:02:17,137 えっと じゃ 次は… 44 00:02:17,554 --> 00:02:19,889 大五郎(だいごろう)君 (大五郎)はい 45 00:02:20,014 --> 00:02:24,227 大五郎君は 夏休み 一体 何を研究したのかな? 46 00:02:24,394 --> 00:02:26,479 (大五郎)え~っと… (はなをすする音) 47 00:02:26,604 --> 00:02:30,400 ぼ… 僕も 観察日記をつけてきました 48 00:02:30,567 --> 00:02:34,237 (先生)そうですか 一体 何を観察したのかな? 49 00:02:36,322 --> 00:02:40,994 楽しみだね みんな それじゃ 大五郎君 いってみようか 50 00:02:41,703 --> 00:02:45,248 “3年1組 北大路(きたおおじ)大五郎” 51 00:02:45,373 --> 00:02:49,836 “7月20日 今日から 待ちに待った夏休みです” 52 00:02:49,961 --> 00:02:52,255 “あしたから何をして遊ぼうか” 53 00:02:52,422 --> 00:02:55,967 “そんなことを寝る前から考えて ワクワクしてたら―” 54 00:02:56,509 --> 00:02:58,720 “ラジオ体操に遅れました” 55 00:02:59,053 --> 00:03:03,099 こら 大五郎君 1日目から ラジオ体操 サボったの? 56 00:03:03,641 --> 00:03:05,727 ダメじゃないか (笑い声) 57 00:03:06,269 --> 00:03:10,857 (大五郎)“公園に行ったら もう誰もいませんでした でも…” 58 00:03:10,982 --> 00:03:13,234 (長谷川(はせがわ))さ… 酒… 59 00:03:14,110 --> 00:03:16,279 た… 頼む 60 00:03:17,238 --> 00:03:20,241 (長谷川)さ… 酒をくれ 61 00:03:21,659 --> 00:03:25,163 (大五郎)“そこで 僕は マダオと出会いました” 62 00:03:26,915 --> 00:03:30,418 あの… “マダオ”って なに? 63 00:03:30,919 --> 00:03:34,505 ♪~ 64 00:04:55,003 --> 00:05:00,049 {\an8}~♪ 65 00:05:19,402 --> 00:05:22,989 (大五郎)“今日から マダオの 観察日記をつけることにしました” 66 00:05:23,114 --> 00:05:26,409 (先生)大五郎君 ちょっと待って “マダオ”って なに? ねえ 67 00:05:26,534 --> 00:05:28,745 (大五郎) “マダオは 公園の主です” 68 00:05:28,870 --> 00:05:31,331 “ヒゲの生えた グラサンの生き物で―” 69 00:05:31,456 --> 00:05:35,418 “基本 1日中 働かずに 公園で じっとしています” 70 00:05:35,585 --> 00:05:38,046 大五郎君 それ ただのおっさんだよね? 71 00:05:38,171 --> 00:05:40,423 公園に住んでる ただの無職のおっさんだよね? 72 00:05:40,590 --> 00:05:43,092 (大五郎)“昨日 お酒を家(うち)から持ってきたら―” 73 00:05:43,217 --> 00:05:45,595 “懐いて しゃべってくるようになりました” 74 00:05:45,720 --> 00:05:48,931 (先生)いや ダメだって そんな物 あげたら 知らないおじさんに 75 00:05:49,098 --> 00:05:51,434 坊主 酒は? 76 00:05:51,934 --> 00:05:54,562 (大五郎)“お酒がないと 生きられないというので―” 77 00:05:54,687 --> 00:05:58,024 “僕は いっぱい マダオに お酒をあげました” 78 00:05:58,691 --> 00:06:02,653 “まだかな? いつになったら マダオは咲くんだろう?” 79 00:06:02,820 --> 00:06:04,655 咲かないよ! そんな物(もん)あげてるかぎり 80 00:06:04,781 --> 00:06:06,407 永遠に咲かないよ そのおっさん 81 00:06:09,035 --> 00:06:10,745 {\an8}(大五郎)〝マダオは まだ芽が出ない〞 82 00:06:10,870 --> 00:06:11,996 (先生)芽が出ないって… 83 00:06:12,121 --> 00:06:14,624 大の大人に それは ないんじゃないかな 大五郎君 84 00:06:14,791 --> 00:06:18,544 (大五郎)“いくら お酒を あげても 動きも働きもしません” 85 00:06:18,669 --> 00:06:21,506 “なんで 何もしないのって聞いたら…” 86 00:06:22,048 --> 00:06:25,843 一度 枯れた花は 二度と咲かねえんだよ 87 00:06:25,968 --> 00:06:28,387 (大五郎)“悲しそうな目で そう言ってました” 88 00:06:28,554 --> 00:06:31,516 なに? これ 何の研究? 子供に なんてこと言ってんの! 89 00:06:34,185 --> 00:06:36,312 {\an8}(大五郎)〝マダオは まだ芽が出ない〞 90 00:06:36,437 --> 00:06:40,441 “いくら お酒をあげても 目から全部 流してしまいます” 91 00:06:40,566 --> 00:06:41,567 (泣き声) 92 00:06:41,734 --> 00:06:45,905 “どうして せっかくあげたのに 流しちゃうのって聞いたら…” 93 00:06:46,030 --> 00:06:50,743 (長谷川)ごめんね… もう流さないから ごめんね… 94 00:06:50,868 --> 00:06:54,664 “そう言って また 目から お酒を流していました” 95 00:06:54,789 --> 00:06:58,042 “日が暮れるまで ずっと” (先生)大五郎君 96 00:06:58,209 --> 00:07:02,296 ちょっと重たいね ねえ なに? これ もうやめない? 97 00:07:05,550 --> 00:07:08,845 “マダオは まだ芽が出ない” (先生)大五郎君 分かった 98 00:07:08,970 --> 00:07:11,681 ホントは 自由研究 サボって やってないんでしょう? 99 00:07:11,806 --> 00:07:14,559 (大五郎)“マダオは 何か ケガをしているようなので―” 100 00:07:14,684 --> 00:07:16,811 “どうしたのって聞くと…” 101 00:07:18,438 --> 00:07:21,899 “ブランコを作ろうとして 失敗したと言っていました” 102 00:07:22,024 --> 00:07:22,942 (先生)大五郎君! 103 00:07:23,067 --> 00:07:26,696 “僕は どうして とっくに 公園にブランコがあるのに―” 104 00:07:26,821 --> 00:07:30,241 “縄でブランコなんか 作るんだろうと不思議でした” 105 00:07:30,366 --> 00:07:32,743 “いつになったら マダオは咲くんだろう?” 106 00:07:32,869 --> 00:07:35,163 (先生)大五郎君 これ マズイことになってるから 107 00:07:35,288 --> 00:07:36,289 大丈夫なの? これ 108 00:07:39,000 --> 00:07:41,252 {\an8}(大五郎)〝マダオは まだ芽が出ない〞 109 00:07:41,377 --> 00:07:45,673 “ラジオ体操に向かう途中 マダオが線路で寝てました” 110 00:07:45,798 --> 00:07:47,842 “何をやってるのかと聞くと―” 111 00:07:47,967 --> 00:07:50,887 “寝苦しくて ここまで 転がってきてしまったと―” 112 00:07:51,012 --> 00:07:52,680 “言っていました” (先生)ちょ… もうやめ! 113 00:07:52,805 --> 00:07:55,349 “いつになったら マダオは”… (先生)もういいです 大五郎君 114 00:07:55,516 --> 00:07:59,854 発表 終わり よくできてましたね 途中までですが もう結構です 115 00:07:59,979 --> 00:08:01,063 (生徒たち)え~っ! (先生)えっ? 116 00:08:01,230 --> 00:08:03,566 (生徒)なんで? 先生 (生徒)もっと聞きたい 117 00:08:03,691 --> 00:08:04,984 (生徒)マダオは咲いたの? 118 00:08:05,151 --> 00:08:07,528 いや 咲いたとか そういうアレじゃ… 119 00:08:07,695 --> 00:08:12,158 続き! 続きが聞きたい 最後まで読めよ 大五郎 120 00:08:12,325 --> 00:08:17,246 (生徒たち)マダオ! マダオ! マダオ! マダオ! マダオ! 121 00:08:17,872 --> 00:08:21,250 い… 一体 何が子供たちの心を… 122 00:08:21,417 --> 00:08:22,960 わ… 分かりました 123 00:08:23,628 --> 00:08:25,880 じゃ… じゃ ちょっと長いようだから― 124 00:08:26,005 --> 00:08:28,591 多少 かいつまんで やりましょうか 125 00:08:29,175 --> 00:08:31,844 大五郎君 8月… 8月から 126 00:08:32,011 --> 00:08:37,099 要点だけ押さえて読もうか あんま変な所は かいつまんで 127 00:08:40,311 --> 00:08:43,231 (大五郎)“家族が1人増えた” (先生)かいつまみすぎだろう! 128 00:08:43,397 --> 00:08:45,399 なんで マダオが家族の一員になってんの? 129 00:08:45,525 --> 00:08:47,610 たった数日のうちに 一体 何があったの? 130 00:08:47,735 --> 00:08:49,237 (大五郎) “寝床を用意してやったが―” 131 00:08:49,362 --> 00:08:51,864 “相も変わらず マダオは芽が出なかった” 132 00:08:52,490 --> 00:08:56,077 “じっと虚空を見つめるだけの その乾いた双眸(そうぼう)からは―” 133 00:08:56,202 --> 00:08:58,746 “何も うかがい知ることはできない” 134 00:08:58,871 --> 00:09:01,040 “地に落ちた 堕天使 ルシファーの意を―” 135 00:09:01,165 --> 00:09:03,709 “神でさえ 解することができなかったように” 136 00:09:03,834 --> 00:09:06,837 (先生)しかも なんか 文章 急に達者になってますけど 137 00:09:07,004 --> 00:09:08,506 (大五郎)“もう うんざりだ” 138 00:09:08,631 --> 00:09:10,883 “俺は 地面に向かってツバを吐き捨て”… 139 00:09:11,008 --> 00:09:13,761 何があった? この夏 一体 何があった? 140 00:09:13,886 --> 00:09:16,931 大人の階段どころじゃないだろう 大人のエスカレーターだろう! 141 00:09:17,807 --> 00:09:21,060 (大五郎)“人は 環境に応じ 絶えず変化せねば生きられない” 142 00:09:21,185 --> 00:09:24,564 (先生)なんでコンドル? …てか お前は変化しすぎだろう! 143 00:09:24,689 --> 00:09:27,233 お前のほうを観察したかったわ! 144 00:09:29,860 --> 00:09:30,778 {\an8}〝俺は おふくろから―〞 145 00:09:30,903 --> 00:09:34,448 “くすねてきたウイスキーを 無造作に ヤツに投げつけた” 146 00:09:34,574 --> 00:09:39,161 “マダオ 環境は変えてやった あとはお前の番だというのに―” 147 00:09:39,287 --> 00:09:42,498 “なぜ お前は そこで ずっと よどんだままでいる?” 148 00:09:42,623 --> 00:09:44,208 “一体 何が不満だというのだ?” 149 00:09:44,333 --> 00:09:47,712 (先生)明らかだよね! 何が不満なのか丸見えだよね! 150 00:09:47,837 --> 00:09:50,131 家族 増えたって そういう意味で? 151 00:09:51,340 --> 00:09:54,135 (大五郎)“マダオは 一体 いつになったら咲くのか” 152 00:09:54,260 --> 00:09:56,721 “天を仰ぐ俺を あざ笑うかのように―” 153 00:09:56,846 --> 00:09:59,140 “上空には コンドルが旋回していた” 154 00:09:59,307 --> 00:10:01,058 (先生) だから江戸に なんでコンドル! 155 00:10:03,519 --> 00:10:04,812 {\an8}〝マダオを 飼い始めてから―〞 156 00:10:04,937 --> 00:10:08,357 “10日たったが 相変わらず ヤツの芽は出ない” 157 00:10:08,983 --> 00:10:10,318 “いつものように―” 158 00:10:10,443 --> 00:10:12,445 “俺は おふくろから くすねたバーボンを―” 159 00:10:12,612 --> 00:10:14,155 “無造作に ヤツに投げつける” 160 00:10:14,280 --> 00:10:16,407 そこは もう 無造作じゃないとダメなの? 161 00:10:16,532 --> 00:10:18,034 かたくなに無造作なの? 162 00:10:19,452 --> 00:10:22,455 “最近 おふくろが マダオを気味悪がっている” 163 00:10:23,998 --> 00:10:26,876 “どうやら 俺が飼い始めたのは 犬ではなく―” 164 00:10:27,001 --> 00:10:29,503 “マダオだということに 感づき始めているようだ” 165 00:10:29,670 --> 00:10:32,882 最初から 丸分かりだろう! 最初から 気味悪いよ! 166 00:10:33,382 --> 00:10:36,552 “女手ひとつで 俺を育ててくれた おふくろ” 167 00:10:36,677 --> 00:10:39,764 “おふくろが 男を 信用しないようになったのは―” 168 00:10:39,889 --> 00:10:41,098 “いつからだったのだろうか…” 169 00:10:41,223 --> 00:10:44,894 おふくろのことは もういいよ! いいから早く締めて 170 00:10:48,356 --> 00:10:50,149 {\an8}(先生)おい! いいっつってんだろう! 171 00:10:50,274 --> 00:10:52,068 なんで 日記で過去編? 172 00:10:52,193 --> 00:10:55,655 “あの日も うだるように 暑い日だったのを覚えている” 173 00:10:56,614 --> 00:11:00,701 “おふくろの旦那 つまり 俺の親父(おやじ)も―” 174 00:11:00,826 --> 00:11:01,869 “マダオだった” 175 00:11:02,870 --> 00:11:04,830 “親父は 腕のいい大工だったが―” 176 00:11:04,955 --> 00:11:07,291 “現場の事故で 腕が使えなくなってから―” 177 00:11:07,416 --> 00:11:12,213 “働きもせずに 昼間から酒を飲み バクチを打つようになった” 178 00:11:13,255 --> 00:11:16,092 “おふくろは いつでも 馬車馬のように働いては―” 179 00:11:16,801 --> 00:11:19,220 “稼ぎが少ないと 親父に殴られていた” 180 00:11:20,221 --> 00:11:23,307 “俺は そんな親父の姿を 見るのがイヤで―” 181 00:11:23,432 --> 00:11:26,602 “いつも 日が暮れるまで 家に帰らなかった” 182 00:11:27,103 --> 00:11:30,773 “働き疲れた おふくろを待ち 家路に就く” 183 00:11:31,857 --> 00:11:34,985 “それが 俺の日課だった” 184 00:11:36,278 --> 00:11:40,324 “そんなマダオでも 俺たちが 見限ることをしなかったのは―” 185 00:11:40,449 --> 00:11:42,660 “かつての遠い記憶” 186 00:11:42,785 --> 00:11:46,664 “優しかった父の 優しかった夫の姿が―” 187 00:11:46,789 --> 00:11:49,917 “いつか戻ってきてくれると 信じてのことだった” 188 00:11:50,626 --> 00:11:53,379 “だが その日…” (五月)ただいま 189 00:11:53,546 --> 00:11:56,382 (セミの鳴き声) “俺たちの淡い希望は…” 190 00:11:57,425 --> 00:12:01,220 “セミの声と共に 夏の空に消えた” 191 00:12:07,184 --> 00:12:10,229 “俺の頬に 雨が当たって流れた” 192 00:12:10,729 --> 00:12:13,816 “いつの間にか 俺は あるマダオの話を―” 193 00:12:13,941 --> 00:12:17,194 “目の前のマダオに 長々と話し込んでいたらしい” 194 00:12:18,863 --> 00:12:21,407 すまねえ 今の話は忘れてくれ 195 00:12:21,532 --> 00:12:23,951 (長谷川)なぜ俺を? 196 00:12:24,118 --> 00:12:28,330 マダオの姿なんて もう見たくもねえんじゃねえのか? 197 00:12:28,456 --> 00:12:30,458 お前も 母ちゃんも 198 00:12:30,624 --> 00:12:34,503 母ちゃん 苦しませるだけなんじゃねえのか? 199 00:12:37,548 --> 00:12:39,842 (大五郎) 後悔してるのかもしれねえ 200 00:12:40,801 --> 00:12:44,763 親父が どん底に落ちちまったとき 支えてやれば― 201 00:12:44,889 --> 00:12:49,310 おふくろは こんなことに ならなかったんじゃねえかって 202 00:12:51,270 --> 00:12:56,484 “その先の言葉は出なかった 俺は いつの間にか―” 203 00:12:56,609 --> 00:13:00,029 “親父とマダオの姿を 重ねていたのかもしれない” 204 00:13:01,322 --> 00:13:05,201 “おふくろを苦しめてまで 俺は何をしようとしているのか” 205 00:13:05,951 --> 00:13:07,745 “あのときの忘れ物” 206 00:13:07,870 --> 00:13:10,831 “今から取り戻せるとでも 思っているのだろうか” 207 00:13:12,291 --> 00:13:16,420 “その日 マダオは バーボンに口をつけなかった” 208 00:13:20,925 --> 00:13:25,137 “窓をたたく けたたましい 雨の音で 俺は目を覚ました” 209 00:13:25,930 --> 00:13:28,933 “どうやら 江戸に台風が直撃しているらしい” 210 00:13:29,058 --> 00:13:31,644 “俺の足は 自然と犬小屋へ向かった” 211 00:13:32,686 --> 00:13:36,524 “しかし そこにマダオの姿はなかった” 212 00:13:37,024 --> 00:13:41,362 (長谷川)マダオの姿なんて もう見たくもねえんじゃねえのか? 213 00:13:41,529 --> 00:13:43,864 お前も 母ちゃんも 214 00:13:48,410 --> 00:13:52,206 (五月)あんた 何やってんの! この雨の中 どこ行くっていうの? 215 00:13:52,373 --> 00:13:56,085 離せよ! ただでさえ 酒浸りで 弱りきってたんだ 216 00:13:56,210 --> 00:13:58,963 こんな雨の中じゃ 死んじまうよ マダオ! 217 00:13:59,129 --> 00:14:00,130 ハッ… 218 00:14:01,298 --> 00:14:05,427 やっぱり マダオだったんだね あれ 219 00:14:05,553 --> 00:14:08,013 違(ちげ)えよ! マダオなんかじゃねえよ 220 00:14:08,597 --> 00:14:11,225 あいつは… あいつは… 221 00:14:11,392 --> 00:14:13,561 俺の友達だ! 222 00:14:15,104 --> 00:14:16,981 大五郎! 223 00:14:17,106 --> 00:14:19,692 (大五郎)“もうイヤなんだ あいつだけは―” 224 00:14:20,442 --> 00:14:22,111 “救ってやりたいんだ” 225 00:14:26,615 --> 00:14:29,702 “結局 マダオは見つかりませんでした” 226 00:14:29,827 --> 00:14:34,248 “なんだか 頭が痛くて 前みたいに うまく書けません” 227 00:14:34,373 --> 00:14:37,543 “僕は 風邪をひいてしまったようです” 228 00:14:38,210 --> 00:14:40,337 “なんでだか分からないけど―” 229 00:14:40,462 --> 00:14:44,592 “お酒も飲んでないのに 目から お酒が出ました” 230 00:14:44,717 --> 00:14:46,385 “マダオみたいに” 231 00:14:47,177 --> 00:14:51,265 “マダオも どこかで 目から お酒を出しているのかな” 232 00:14:51,390 --> 00:14:55,895 “そう思ったら お酒が 止まらなくなって困りました” 233 00:14:56,020 --> 00:14:57,229 “そしたら…” 234 00:14:59,899 --> 00:15:03,193 マ… マダオ (五月)まったく 235 00:15:03,736 --> 00:15:06,405 今度は 逃げないように ちゃんと見とくのよ 236 00:15:06,530 --> 00:15:08,741 それから… (せきこみ) 237 00:15:08,908 --> 00:15:10,242 マダオ飼うなら― 238 00:15:10,367 --> 00:15:13,037 外は恥ずかしいから 家の中で飼いなさい 239 00:15:13,162 --> 00:15:14,038 (せきこみ) 240 00:15:14,163 --> 00:15:16,957 餌も お酒じゃなくて ちゃんとした物あげるのよ 241 00:15:17,082 --> 00:15:18,751 (せきこみ) 242 00:15:22,588 --> 00:15:26,967 “お母さんは マダオを飼うことを 許してくれました” 243 00:15:27,092 --> 00:15:28,636 “いや もしかしたら―” 244 00:15:29,094 --> 00:15:33,098 “お母さんは 僕と同じ 気持ちだったのかもしれません” 245 00:15:37,436 --> 00:15:40,606 (大五郎) マダオ また お酒飲んだの? 246 00:15:41,065 --> 00:15:42,107 いや 247 00:15:42,858 --> 00:15:45,402 もう飲まねえさ 248 00:15:49,448 --> 00:15:52,117 (大五郎) “あれからマダオは変わりました” 249 00:15:52,284 --> 00:15:54,578 “酒をきれいさっぱり断ち―” 250 00:15:54,703 --> 00:15:58,415 “お母さんのいない間 あらゆる家事をこなします” 251 00:15:58,582 --> 00:16:02,628 “そして そのかたわら Q人雑誌を読みあさり―” 252 00:16:02,795 --> 00:16:05,965 “お母さんは 最初は マダオって呼んでたけど―” 253 00:16:06,090 --> 00:16:09,593 “最近は 長谷川さんと 呼ぶようになりました” 254 00:16:09,927 --> 00:16:12,596 “マダオはマダオなのに なんでだろう?” 255 00:16:12,721 --> 00:16:15,057 “僕には よく分かりません” 256 00:16:17,977 --> 00:16:21,689 “夕方 マダオが お使いに 行っているときに お母さんが…” 257 00:16:22,231 --> 00:16:26,652 大五郎 お父さん… 欲しくない? 258 00:16:26,777 --> 00:16:28,612 “…と聞いてきました” 259 00:16:28,737 --> 00:16:31,448 “聞いている意味が よく分からなかったので―” 260 00:16:31,573 --> 00:16:33,701 “僕が 聞き返したら―” 261 00:16:33,867 --> 00:16:36,161 “顔が 真っ赤になっていました” 262 00:16:36,286 --> 00:16:38,706 いや… 何でもない 263 00:16:39,248 --> 00:16:42,710 “よく分からなかったので 夜 マダオに聞いたら…” 264 00:16:44,211 --> 00:16:46,046 知らねえよ 265 00:16:46,171 --> 00:16:48,424 “大人は よく分かりません” 266 00:16:51,385 --> 00:16:54,513 “いよいよ マダオの芽の出る日が来ました” 267 00:16:55,264 --> 00:16:57,182 今まで ありがとうございました 268 00:16:57,725 --> 00:17:01,687 おかげさまで どん底から ここまで 這(は)い上がることができました 269 00:17:01,854 --> 00:17:05,983 本当に 2人には何と感謝を言っていいか… 270 00:17:06,108 --> 00:17:10,154 (五月)あらあら 気が早いですよ 面接は これからでしょう 271 00:17:10,320 --> 00:17:13,782 ほら ネクタイ (長谷川)あっ… すいません 272 00:17:13,907 --> 00:17:16,952 たった1人しか 合格できない難関なんでしょう? 273 00:17:18,287 --> 00:17:22,958 頑張ってくださいね 吉報 待ってますから 274 00:17:23,125 --> 00:17:24,460 うん 275 00:17:25,669 --> 00:17:26,712 はい! 276 00:17:27,254 --> 00:17:31,508 “決戦に向かうマダオと それを見送るお母さんは―” 277 00:17:31,633 --> 00:17:34,428 “まるで お父さんとお母さんみたいでした” 278 00:17:35,179 --> 00:17:37,306 “マダオが お父さん…” 279 00:17:37,431 --> 00:17:41,935 “想像してみたけど なんだか こそばゆかったので やめました” 280 00:17:45,189 --> 00:17:47,024 (男性) 緊張してらっしゃるみたいですね 281 00:17:47,191 --> 00:17:48,984 えっ? ああ… 282 00:17:49,109 --> 00:17:53,572 ええ 何せ マダオから 真人間への復活が懸かってるんで 283 00:17:53,697 --> 00:17:58,118 ああ そうなんですか 僕と同じですね 284 00:17:58,243 --> 00:18:01,413 えっ? あなたもマダオだったんですか? 285 00:18:01,538 --> 00:18:03,123 そうは見えませんが… 286 00:18:04,583 --> 00:18:09,588 いえね ケガして職を失ってから すっかりグレてしまいまして 287 00:18:10,047 --> 00:18:12,466 妻や息子にも見放されて… 288 00:18:12,925 --> 00:18:18,138 お恥ずかしい話 全部 失ってから 大事なものに気づかされまして 289 00:18:18,889 --> 00:18:24,895 なんとか ここまで更生して 妻に やり直そうと伝えたんですけど 290 00:18:25,020 --> 00:18:27,648 “考えさせてくれ”って 言われちゃいました 291 00:18:27,773 --> 00:18:30,025 まあ でも… いいんです 292 00:18:30,150 --> 00:18:34,029 今回 これに受かったら もう一度 アタックしてみるんで 293 00:18:34,154 --> 00:18:38,117 イスは ひとつしかないけど お互い 悔いのないよう頑張りましょうね 294 00:18:42,204 --> 00:18:45,833 あの… ひとつ聞いていいですか? (男性)はい 295 00:18:47,251 --> 00:18:50,337 息子さんの名前 何ていうんですか? 296 00:18:55,050 --> 00:18:57,636 (大五郎)“あれっきり マダオは戻りませんでした” 297 00:18:58,554 --> 00:19:01,431 (大五郎) きっと 面接 落ちちゃったんだよ 298 00:19:01,557 --> 00:19:04,351 それで 僕らに合わせる顔がなくて… 299 00:19:05,102 --> 00:19:09,523 バカだな マダオ そんなの気を遣わなくてもいいのに 300 00:19:10,357 --> 00:19:12,860 “お母さんは 何も言いませんでした” 301 00:19:13,610 --> 00:19:17,990 “僕のせいで また お母さん傷つけちゃったかな…” 302 00:19:23,662 --> 00:19:28,625 “マダオと食事しました もう1人のマダオと” 303 00:19:29,793 --> 00:19:33,547 “マダオは まるで 別人のように変わっていて―” 304 00:19:33,672 --> 00:19:36,383 “僕と お母さんに 何度も謝ったあと―” 305 00:19:36,508 --> 00:19:40,429 “うれしそうに 仕事が 決まったことを報告しました” 306 00:19:41,054 --> 00:19:45,601 “面接会場で お酒を飲んで 大暴れした人がいたことを―” 307 00:19:45,726 --> 00:19:48,061 “楽しそうに しゃべってました” 308 00:19:48,979 --> 00:19:51,982 “お母さんも とっても楽しそうでした” 309 00:19:58,697 --> 00:20:01,241 (長谷川)よう そこのお2人さん 310 00:20:03,076 --> 00:20:07,414 おいらに ちぃと酒を 分けちゃくれねえかい? ヒック… 311 00:20:10,375 --> 00:20:11,919 大五郎 行くわよ 312 00:20:13,086 --> 00:20:14,463 大五郎… 313 00:20:15,881 --> 00:20:20,135 (大五郎)なんで? もう飲まないって約束したのに 314 00:20:21,303 --> 00:20:22,387 なんで? 315 00:20:22,554 --> 00:20:26,391 試験 頑張るって約束したのに… 316 00:20:27,935 --> 00:20:32,272 なんで… なんで… なんで… 317 00:20:34,483 --> 00:20:36,652 酒がねえなら うせろ ガキ 318 00:20:37,319 --> 00:20:39,655 もう てめえとは これっきりだ 319 00:20:43,283 --> 00:20:46,036 (大五郎)ウソつき… (五月)大五郎 もうやめなさい 320 00:20:46,161 --> 00:20:49,456 行くわよ これ以上 その人に関わるのは よしなさい 321 00:20:49,623 --> 00:20:51,458 ウソつき! 322 00:20:51,625 --> 00:20:54,211 マダオ! 僕は知ってるよ (五月)大五郎! 323 00:20:54,336 --> 00:20:58,257 どんなにウソついたって どんなに酔っ払ったフリしたって 324 00:20:58,382 --> 00:21:02,344 どんなに みんなが マダオを悪く言ったって 僕は… 325 00:21:02,511 --> 00:21:08,100 マダオはマダオなんかじゃない 僕の忘れ物を 取り戻してくれた! 326 00:21:09,226 --> 00:21:13,897 誰よりも優しい立派な侍だって… 327 00:21:14,064 --> 00:21:18,902 僕 忘れないから! 絶対 忘れないから! 絶対… 328 00:21:25,075 --> 00:21:27,536 (じじい) 何じゃ? やかましいのぅ 329 00:21:27,661 --> 00:21:31,915 あれ? 長谷川さん あんた 戻ってきたのかい 330 00:21:32,040 --> 00:21:34,543 オッ? ちぃと もらうよ 331 00:21:36,420 --> 00:21:39,840 何じゃ こりゃ! み… 水じゃねえか 332 00:21:39,965 --> 00:21:43,552 酒も仕事も要らねえよ 333 00:21:44,219 --> 00:21:49,057 俺は もう 十分 いろんなもん もらったからよ 334 00:21:53,562 --> 00:21:57,691 大五郎 父ちゃん母ちゃんと幸せにな 335 00:21:58,567 --> 00:22:01,528 (大五郎) “そう 僕は知っていました” 336 00:22:03,071 --> 00:22:07,034 “マダオは もう とっくに咲いているって” 337 00:22:09,202 --> 00:22:14,541 (泣き声) 338 00:22:14,708 --> 00:22:17,336 大五郎君 ごめん… 339 00:22:17,461 --> 00:22:22,382 もう 観察日記っていうか ほとんど小説だったけど 340 00:22:22,507 --> 00:22:25,510 良かった すごく良かった! 341 00:22:25,635 --> 00:22:27,804 みんな 大五郎君に拍手! 342 00:22:27,971 --> 00:22:31,224 (拍手と歓声) 343 00:22:31,349 --> 00:22:34,853 (先生) えっ? あれ? まだ続いてんの? 344 00:22:34,978 --> 00:22:38,440 ああ エンドロールまであるんだ? すごいね 映画みたいだね 345 00:22:38,565 --> 00:22:42,861 いやぁ すばらしかった みんな もう一度 大五郎君に拍手! 346 00:22:42,986 --> 00:22:46,281 (拍手) 347 00:22:46,406 --> 00:22:47,449 (先生)えっ? 348 00:22:48,992 --> 00:22:51,536 お母さんが書いたんかい! 349 00:22:55,540 --> 00:23:00,545 {\an8}♪~ 350 00:24:20,041 --> 00:24:25,046 {\an8}~♪