1 00:00:21,896 --> 00:00:24,232 近くには いないようだな 2 00:00:24,899 --> 00:00:26,943 第七師団の連中も 3 00:00:27,027 --> 00:00:29,696 さすがに あの天候では進めなかったか 4 00:00:29,779 --> 00:00:33,033 このまま 諦めて帰るとは思わないけどな 5 00:00:33,116 --> 00:00:34,659 やつらは 俺たちが 6 00:00:34,743 --> 00:00:37,996 網走方面へ下山すると 読んでるはずだ 7 00:00:38,079 --> 00:00:40,582 意表をついて ここは 十勝方面へ下山して 8 00:00:40,665 --> 00:00:42,041 追っ手をまこう 9 00:00:42,125 --> 00:00:43,585 そうしよう 10 00:00:43,668 --> 00:00:45,628 キロランケ ニㇱパたちには 11 00:00:45,712 --> 00:00:48,673 はぐれた時は 網走で会おうと言ってある 12 00:00:52,010 --> 00:00:54,179 フチの様子を聞くために 13 00:00:54,262 --> 00:00:57,390 夕張を出る時 小樽へ電報を送っておいた 14 00:00:58,224 --> 00:01:01,352 この郵便局留めで 返事が届いているはずだ 15 00:01:01,436 --> 00:01:02,729 誰から? 16 00:01:03,730 --> 00:01:05,022 アシㇼパの叔父だ 17 00:01:05,857 --> 00:01:08,943 あの人は昔 和人と仕事をしていたから 18 00:01:09,027 --> 00:01:10,862 少し読み書きができる 19 00:01:12,197 --> 00:01:13,948 何て書いてある? 20 00:01:14,032 --> 00:01:17,619 “フチ ライクルシユク ツクル” 21 00:01:18,161 --> 00:01:20,330 ライクルシユクって何だ? 22 00:01:20,872 --> 00:01:23,625 “ライクㇽシユㇰ”は死装束です 23 00:01:23,708 --> 00:01:24,959 あっ… 24 00:01:26,211 --> 00:01:29,339 死期が近づくのを意識した アイヌの老人は 25 00:01:29,964 --> 00:01:33,968 家族に隠れて 自分の死装束を用意するのです 26 00:01:35,720 --> 00:01:37,806 どうして あんなことを言ったんだ? 27 00:01:38,932 --> 00:01:42,435 私は 占いで出たことを 伝えたまでです 28 00:01:42,519 --> 00:01:45,688 アシㇼパさんの周りに 裏切り者がいます 29 00:01:47,941 --> 00:01:50,068 フチ 死んでほしくない 30 00:01:50,860 --> 00:01:53,780 フチは 俺にも ごはん食わせてくれた 31 00:01:53,863 --> 00:01:55,990 アイヌは子供が大事だって 32 00:01:56,699 --> 00:02:00,161 子供がいないと あっちの世界に行けないから 33 00:02:00,787 --> 00:02:02,956 アイヌは自分が死ぬ時 34 00:02:03,039 --> 00:02:05,708 残された者に 送る儀式をされないと 35 00:02:05,792 --> 00:02:08,377 死後の世界へ行けないのです 36 00:02:10,755 --> 00:02:14,217 だから 自分の子じゃなくても 必死で育てます 37 00:02:17,762 --> 00:02:20,598 チカパシ 心配するな 38 00:02:21,850 --> 00:02:24,477 必ず 無事に アシㇼパを連れて帰って 39 00:02:24,561 --> 00:02:26,604 フチを元気にさせる 40 00:02:26,688 --> 00:02:28,356 それが俺の役目なんだ 41 00:02:28,439 --> 00:02:30,024 ああ… 42 00:02:30,108 --> 00:02:32,193 俺も フチに食べさせてもらった 43 00:02:32,819 --> 00:02:34,237 俺もフチの子供だ 44 00:02:34,320 --> 00:02:38,032 いやいや 谷垣ニㇱパはヒモだよ 45 00:02:38,116 --> 00:02:39,284 ヒモですね 46 00:02:51,838 --> 00:02:54,299 探していた俺の役目… 47 00:04:22,929 --> 00:04:27,934 ~♪ 48 00:04:34,357 --> 00:04:36,109 鶴見中尉殿は 49 00:04:36,192 --> 00:04:38,736 “カネ餅”というのを ご存じですか? 50 00:04:39,737 --> 00:04:42,907 自分ら 阿仁マタギの 非常用携行食で 51 00:04:42,991 --> 00:04:47,078 丸いのと だ円のを作り 2個1組にして山に入ります 52 00:04:47,787 --> 00:04:49,539 丸いのは太陽で 53 00:04:49,622 --> 00:04:52,208 だ円のは 月を 意味するらしいです 54 00:04:52,292 --> 00:04:56,337 カネ餅か それは知らなかったな 55 00:04:56,421 --> 00:04:58,965 味は? 普通の餅か? 56 00:04:59,924 --> 00:05:03,678 米粉に水を加えて みそか塩を混ぜ 57 00:05:03,761 --> 00:05:05,763 よく こねて 葉っぱに包んで 58 00:05:05,847 --> 00:05:08,516 いろりの灰で 蒸し焼きにするものです 59 00:05:09,058 --> 00:05:13,271 ちなみに戸沢マタギじゃ カネ餅に みそは厳禁だそうで 60 00:05:13,354 --> 00:05:16,691 村落によって 多少の違いがあるわけか 61 00:05:18,693 --> 00:05:21,029 おやじが 真面目で うるさいから 62 00:05:21,112 --> 00:05:23,823 誰にも言わず 秘密にしてたんですが 63 00:05:23,906 --> 00:05:29,954 実は 自分が食べるカネ餅には ちょっとだけ手間を加えてました 64 00:05:30,038 --> 00:05:34,000 でも ある日 マタギの仲間に ばれたことがありまして 65 00:05:34,083 --> 00:05:36,794 ハハハハハッ どうやって? 66 00:05:36,878 --> 00:05:38,296 私たち マタギが 67 00:05:38,379 --> 00:05:42,050 “アオシシ”と呼んでるカモシカを 追っていた時でした 68 00:05:43,301 --> 00:05:46,554 マタギは数名で それぞれ役割を決め 69 00:05:46,637 --> 00:05:48,973 共同で巻き狩りをします 70 00:05:50,349 --> 00:05:51,392 〝ムカイマッテ 〞と 呼ばれる― 71 00:05:51,476 --> 00:05:54,020 全体の指示をする 見張り役 72 00:05:54,562 --> 00:05:57,148 “マツマイ”と呼ばれる 鉄砲撃ちが2名 73 00:05:57,231 --> 00:06:00,193 まだ銃が持てない“勢子”が2名 74 00:06:01,069 --> 00:06:05,573 勢子は 獲物を鉄砲撃ちの前へと 大声で追い立てる役です 75 00:06:06,532 --> 00:06:08,868 ホレヤ! ホレヤ! 76 00:06:09,410 --> 00:06:11,579 マタギが“イタズ”と呼ぶ熊は 77 00:06:11,662 --> 00:06:14,290 山の上に 逃げ登る習性があるので 78 00:06:14,373 --> 00:06:17,043 勢子は 頂上に向かって 追い上げますが 79 00:06:17,126 --> 00:06:20,338 アオシシは逆で 山頂から追い落とします 80 00:06:20,421 --> 00:06:25,760 勢子だった自分と 1つ年上の青山賢吉という男が 81 00:06:25,843 --> 00:06:29,597 頂上へ着いたところで 天候が急変しました 82 00:06:32,642 --> 00:06:36,354 岩場の洞窟に避難しましたが 吹雪は続き 83 00:06:36,437 --> 00:06:39,107 数日間 動けなくなり 84 00:06:39,190 --> 00:06:43,194 持参した いり豆や米も すぐ 底を突きました 85 00:06:44,028 --> 00:06:47,448 カネ餅は そんな時に食べる最後の食料です 86 00:06:48,282 --> 00:06:52,120 どんなに寒くても凍らず 保存の利くもので 87 00:06:52,203 --> 00:06:55,331 ちょっと かじるだけでも 腹の足しになりますから 88 00:06:59,502 --> 00:07:00,795 け 89 00:07:00,878 --> 00:07:01,963 ん… 90 00:07:02,046 --> 00:07:03,256 フッ… 91 00:07:03,339 --> 00:07:04,757 何だべ? 92 00:07:05,466 --> 00:07:09,137 これが 本当の最後の食いもんに なるかもしれねえと思ってな 93 00:07:09,220 --> 00:07:11,389 ハッ 冗談でねえ 94 00:07:11,472 --> 00:07:14,559 源次郎の肉 食ってでも 生き延びるべさ 95 00:07:18,229 --> 00:07:19,355 ん? 96 00:07:19,439 --> 00:07:22,775 おい このカネ餅 何か混ぜたか? 97 00:07:22,859 --> 00:07:23,693 あっ… 98 00:07:24,360 --> 00:07:26,362 何だべ? この味 99 00:07:26,446 --> 00:07:29,407 待で しゃべるなよ 当ててやる 100 00:07:29,490 --> 00:07:31,909 うーん… これは… 101 00:07:33,995 --> 00:07:38,374 分かった クルミだ! クルミ混ぜたべ? 源次郎 102 00:07:38,458 --> 00:07:43,087 んだ でも 賢吉 おどには黙ってでけれ 103 00:07:47,884 --> 00:07:49,719 なあ 源次郎 104 00:07:49,802 --> 00:07:51,053 あっ? 105 00:07:52,388 --> 00:07:54,265 必ず生きて帰るべ 106 00:07:56,434 --> 00:07:57,685 うん 107 00:08:10,281 --> 00:08:15,244 賢吉は そのあと 私の妹のフミと結婚して 108 00:08:15,328 --> 00:08:17,747 私たちは義理の兄弟になりました 109 00:08:17,830 --> 00:08:19,123 おお 110 00:08:20,291 --> 00:08:21,626 フミと賢吉は 111 00:08:21,709 --> 00:08:25,671 集落より離れた山の 少し高い所で 112 00:08:25,755 --> 00:08:27,757 静かに暮らしていました 113 00:08:31,719 --> 00:08:35,932 あの日も 私は家で カネ餅を焼いていました 114 00:08:36,765 --> 00:08:41,270 外から戻ってきた兄貴が 今まで見たこともない顔で… 115 00:08:41,354 --> 00:08:42,563 あっ? 116 00:08:42,647 --> 00:08:44,232 フミが! 117 00:08:44,315 --> 00:08:46,734 兄貴が放心しているのを見て 118 00:08:46,817 --> 00:08:49,570 つららで背中を刺されたような 感覚になりました 119 00:08:52,740 --> 00:08:54,075 私が行った時には 120 00:08:54,700 --> 00:08:58,037 フミと賢吉の住んでいた小屋は すでに… 121 00:09:08,548 --> 00:09:09,966 あっ… 122 00:09:10,049 --> 00:09:14,804 中には 真っ黒に焼けた フミの遺体がありました 123 00:09:14,887 --> 00:09:16,389 なして… 124 00:09:17,723 --> 00:09:19,725 何があった? 125 00:09:19,809 --> 00:09:22,520 何があった!? フミ! 126 00:09:23,479 --> 00:09:24,313 はっ… 127 00:09:25,606 --> 00:09:28,818 心臓に刺し傷がありました 128 00:09:31,988 --> 00:09:33,030 あっ… 129 00:09:34,031 --> 00:09:37,702 そばには 賢吉の“マスケ”が 130 00:09:38,202 --> 00:09:42,832 私らがマスケと呼ぶ小刀は マタギの魂です 131 00:09:43,457 --> 00:09:47,461 賢吉の姿は どこにもありませんでした 132 00:09:50,089 --> 00:09:51,591 賢吉は どこだ!? 133 00:09:51,674 --> 00:09:53,843 せがれは 一度も来てね! 134 00:09:53,926 --> 00:09:54,969 勘弁してけろ! 135 00:09:55,052 --> 00:09:57,388 かくまってねえべな!? 136 00:10:00,725 --> 00:10:05,229 血眼になって捜し歩きましたが 見つかりませんでした 137 00:10:05,771 --> 00:10:07,940 しかし ある日 138 00:10:08,024 --> 00:10:11,694 賢吉が 北海道の 第七師団へ入隊したという 139 00:10:11,777 --> 00:10:13,738 うわさが入ってきたのです 140 00:10:15,239 --> 00:10:16,866 もう やめれ 源次郎 141 00:10:17,491 --> 00:10:19,827 復讐のために阿仁を捨てんな 142 00:10:19,910 --> 00:10:23,080 おめえの人生まで棒に振るな 143 00:10:25,875 --> 00:10:27,251 くっ… 144 00:10:28,377 --> 00:10:30,463 妹を殺さいて 泣き寝入りがでぎるが! 145 00:10:31,422 --> 00:10:33,466 マタギなんぞ くそ食らえだ 146 00:10:33,549 --> 00:10:35,134 二度と戻らね 147 00:10:36,636 --> 00:10:40,973 屯田兵村は 北海道中に37もありましたので 148 00:10:41,057 --> 00:10:46,145 軍事訓練と農務作業の合間に 賢吉の行方を探りましたが 149 00:10:46,854 --> 00:10:49,023 なかなか見つかりませんでした 150 00:10:51,400 --> 00:10:56,072 出征間近に 兄から 母の死を知らされました 151 00:10:57,490 --> 00:10:59,450 フミの無残な死と 152 00:10:59,533 --> 00:11:02,870 自分が故郷を捨てて 戦争へ行くこと 153 00:11:02,953 --> 00:11:05,956 毎日 泣いて過ごして 心労がたたり 154 00:11:06,040 --> 00:11:09,043 体が弱って あっけなく死んだそうです 155 00:11:11,754 --> 00:11:16,967 全ての責任は賢吉にあると 憎悪を膨らませました 156 00:11:17,593 --> 00:11:22,181 屯田兵の集まる旅順へ行けば 賢吉を見つけられる 157 00:11:22,264 --> 00:11:24,683 見つけたら 戦闘のどさくさで 158 00:11:26,268 --> 00:11:28,396 背中を撃ってやろうと 159 00:11:40,991 --> 00:11:42,201 うっ… 160 00:11:42,827 --> 00:11:43,911 ハァ… 161 00:11:44,537 --> 00:11:45,371 あ… 162 00:11:46,539 --> 00:11:50,584 土のうの隅に座り込む ボロボロの男がいました 163 00:11:51,752 --> 00:11:53,796 自分の血か 返り血か 164 00:11:53,879 --> 00:11:57,383 顔も分からぬほど真っ黒でしたが 165 00:11:57,466 --> 00:11:59,427 白だすき 166 00:12:00,553 --> 00:12:04,432 この男 昨夜の決死隊の生き残りだ 167 00:12:05,141 --> 00:12:06,642 よく生きて… 168 00:12:08,811 --> 00:12:10,813 何か食いもん 持ってねえか? 169 00:12:10,896 --> 00:12:11,939 おっ… 170 00:12:12,481 --> 00:12:14,191 あっ… ああ 171 00:12:14,900 --> 00:12:15,818 け 172 00:12:15,901 --> 00:12:17,194 うん? 173 00:12:18,070 --> 00:12:19,405 ありがとよ 174 00:12:19,947 --> 00:12:20,906 いただきます 175 00:12:24,577 --> 00:12:26,078 コシが強いな 176 00:12:26,162 --> 00:12:29,999 これは… 餅? みその味がするな 177 00:12:30,082 --> 00:12:31,834 秋田の郷土料理か何かか? 178 00:12:31,917 --> 00:12:32,793 あっ… 179 00:12:33,544 --> 00:12:34,920 どうして秋田だと? 180 00:12:35,004 --> 00:12:36,797 やっぱり そうか 181 00:12:36,881 --> 00:12:39,758 だって あんた “け”って言ったよな 182 00:12:39,842 --> 00:12:41,510 “食え”っていう方言だろ? 183 00:12:42,303 --> 00:12:44,638 俺と同じ第一師団の小隊に 184 00:12:44,722 --> 00:12:45,931 秋田の阿仁って所で生まれた 一等卒がいてね 185 00:12:45,931 --> 00:12:47,349 秋田の阿仁って所で生まれた 一等卒がいてね 186 00:12:45,931 --> 00:12:47,349 はっ… 187 00:12:47,349 --> 00:12:48,601 秋田の阿仁って所で生まれた 一等卒がいてね 188 00:12:48,684 --> 00:12:50,728 そいつから教えてもらった 189 00:12:50,811 --> 00:12:55,107 東京に来る前は 地元で猟師をやってたって聞いたな 190 00:12:55,608 --> 00:12:56,984 賢吉だ 191 00:12:58,444 --> 00:13:01,238 ついに 妹の敵を見つけた 192 00:13:03,115 --> 00:13:07,828 賢吉は 北海道ではなく 東京へ逃げていたんです 193 00:13:08,454 --> 00:13:11,582 二〇三高地で戦ったのは 194 00:13:11,665 --> 00:13:16,462 北海道第七師団 四国第十一師団 195 00:13:16,545 --> 00:13:21,550 金沢第九師団 そして 東京第一師団 196 00:13:21,634 --> 00:13:22,801 はい 197 00:13:23,427 --> 00:13:28,057 神様が私に 妹の恨みを晴らす 手助けをしてくださった 198 00:13:28,140 --> 00:13:29,642 そう感じました 199 00:13:30,392 --> 00:13:33,437 すぐにでも 確認しに行きたかったのですが 200 00:13:33,521 --> 00:13:37,358 賢吉の顔を見たら 自分は我を忘れてしまう 201 00:13:38,150 --> 00:13:42,363 戦闘のどさくさで この復讐の旅に 決着をつけようという 202 00:13:42,446 --> 00:13:44,615 冷静さは残っていました 203 00:13:45,491 --> 00:13:46,992 でも あの場所は 204 00:13:47,785 --> 00:13:49,995 とてもじゃないですが 205 00:13:50,663 --> 00:13:55,209 賢吉を捜す余裕なんて あるはずがありませんでした 206 00:14:02,967 --> 00:14:05,344 ロシアの兵士が 手投げ弾を投げても 207 00:14:06,011 --> 00:14:07,888 こちらは即座に投げ返します 208 00:14:07,972 --> 00:14:08,931 うおおっ! 209 00:14:11,725 --> 00:14:13,852 じわじわと 追い詰められたロシア兵は 210 00:14:14,728 --> 00:14:17,356 体に手投げ弾を いくつか くくりつけ 211 00:14:17,439 --> 00:14:20,067 我々の塹壕に飛び込んできました 212 00:14:20,150 --> 00:14:22,778 あれには まいったな 213 00:14:22,862 --> 00:14:27,283 ロシア兵1人で こちらは10人近く やられた 214 00:14:28,075 --> 00:14:29,618 そして また1人 215 00:14:29,702 --> 00:14:31,078 やつを止めろ! 216 00:14:32,454 --> 00:14:35,457 三十年式の銃弾を 2~3発 受けても 217 00:14:35,541 --> 00:14:36,792 そいつは止まらなかった 218 00:14:36,876 --> 00:14:38,919 くっ! 219 00:14:39,003 --> 00:14:42,172 そのとき すぐそばの塹壕から 220 00:14:42,256 --> 00:14:44,675 1人の男が飛び出してきました 221 00:14:50,222 --> 00:14:51,515 賢吉! 222 00:14:51,599 --> 00:14:53,058 ううっ うっ! 223 00:14:53,142 --> 00:14:54,018 うっ! がっ… 224 00:14:54,101 --> 00:14:55,477 うおおおーっ! 225 00:15:01,400 --> 00:15:05,529 賢吉は かろうじて生きていました 226 00:15:08,699 --> 00:15:13,370 ついに 待ち望んでいた瞬間が訪れた 227 00:15:13,454 --> 00:15:15,372 そう思いました 228 00:15:15,456 --> 00:15:17,041 おい 賢吉 229 00:15:17,666 --> 00:15:19,835 やっと見つけたぞ 230 00:15:19,919 --> 00:15:22,004 お前の心臓をえぐってやる! 231 00:15:22,087 --> 00:15:24,757 お前が フミにやったように! 232 00:15:26,383 --> 00:15:28,761 谷垣! そいつは もうダメだ 233 00:15:28,844 --> 00:15:32,514 聞こえてねえぞ たぶん 鼓膜もやられてる! 234 00:15:36,060 --> 00:15:38,062 うっ… う… あ… 235 00:15:41,857 --> 00:15:43,525 フミ… あっ… 236 00:15:44,068 --> 00:15:45,986 うっ… 237 00:15:54,370 --> 00:15:59,166 あのとき ちょうど 戦闘は こう着状態となり 238 00:15:59,249 --> 00:16:02,294 不思議なほど 辺りが静かになりました 239 00:16:04,171 --> 00:16:05,547 なして! 240 00:16:06,966 --> 00:16:09,343 なして フミを殺した! 賢吉! 241 00:16:09,426 --> 00:16:13,514 だ… 誰ですか? あなたは… 242 00:16:13,597 --> 00:16:14,890 はっ… 243 00:16:16,517 --> 00:16:22,147 どなたか存じませんが… 伝えてほしいことがあります 244 00:16:22,231 --> 00:16:24,441 秋田の阿仁に住む 245 00:16:24,525 --> 00:16:27,403 谷垣という家の人間に 246 00:16:27,486 --> 00:16:28,904 あっ… 247 00:16:29,697 --> 00:16:34,493 自分は 谷垣家の娘さんを 嫁にもらいました 248 00:16:35,744 --> 00:16:40,541 自分には もったいないほど 美しい嫁でした 249 00:16:41,458 --> 00:16:45,838 山奥で 2人きり 静かに暮らしていました 250 00:16:46,547 --> 00:16:48,007 ある日 嫁が 251 00:16:48,966 --> 00:16:50,592 疱瘡にかかりました 252 00:16:50,676 --> 00:16:52,094 はっ… 253 00:16:53,512 --> 00:16:58,600 おどにも おっかあにも 黙っていでけれ 254 00:16:58,684 --> 00:16:59,768 フミ… 255 00:17:00,394 --> 00:17:05,065 しゃべれば 心配して 必ず ここさ来る 256 00:17:05,148 --> 00:17:07,233 うつしでもしたら… 257 00:17:07,317 --> 00:17:09,028 フミ… 258 00:17:09,569 --> 00:17:12,906 あんたも… ここさいれはダメ 259 00:17:12,990 --> 00:17:15,200 な… 何 しゃべってらんだ 260 00:17:15,826 --> 00:17:17,869 死ぬ時は 一緒だべ 261 00:17:19,872 --> 00:17:23,083 山で 家族が疱瘡にかかれば 262 00:17:23,166 --> 00:17:26,962 感染を恐れ 小屋に置き去りにしますが 263 00:17:27,046 --> 00:17:29,840 自分には できなかった 264 00:17:30,883 --> 00:17:34,261 置き去りにされた小屋に 獣が入り込み 265 00:17:34,344 --> 00:17:39,725 病人が抵抗もできずに食われた話を 聞いたことがあります 266 00:17:40,976 --> 00:17:45,355 フミを 独り寂しく 死なせるわけにはいかない 267 00:17:45,439 --> 00:17:48,192 でも フミは許しませんでした 268 00:17:49,735 --> 00:17:53,614 谷垣家の人間から 疱瘡が出たと分かれば 269 00:17:53,697 --> 00:17:57,117 村の人間は 誰も近づかなくなるし 270 00:17:57,201 --> 00:18:03,165 ほかのマタギは みんな 父や兄たちと巻き狩りをしなくなる 271 00:18:03,916 --> 00:18:06,251 皆が ここへ来る前に 272 00:18:06,335 --> 00:18:10,756 自分を殺して 村を離れてほしいと 273 00:18:10,839 --> 00:18:13,217 うっ… うう… 274 00:18:14,176 --> 00:18:20,516 疱瘡で変わり果てた顔を 布で隠し 私に言うのです 275 00:18:20,599 --> 00:18:23,727 〝もし 感染してなければ 〞 276 00:18:24,269 --> 00:18:25,896 その命を 277 00:18:24,269 --> 00:18:25,896 〝その命を… 〞 278 00:18:27,189 --> 00:18:33,487 どうやって使うか… 自分の役目を… 探しなさい 279 00:18:33,570 --> 00:18:36,990 ああ… フミ 280 00:18:39,243 --> 00:18:43,455 そして ついに 私はフミを… 281 00:18:45,165 --> 00:18:48,127 できるだけ 長く苦しまずに済むよう 282 00:18:48,210 --> 00:18:50,504 2人で考えた末 283 00:18:50,587 --> 00:18:55,467 私は猟師ですので やり慣れた方法を使いました 284 00:19:01,181 --> 00:19:05,519 フミに言われていたとおり 小屋に火をつけ 285 00:19:05,602 --> 00:19:09,648 フミの死を ご家族に伝えないまま 286 00:19:09,731 --> 00:19:12,234 私は村を立ち去り 287 00:19:12,943 --> 00:19:17,531 今日まで… フミを殺した罪悪感を抱えて 288 00:19:17,614 --> 00:19:19,575 過ごしてきました 289 00:19:20,284 --> 00:19:25,789 自分の負い目のせいで ご遺族を長く苦しませた 290 00:19:26,957 --> 00:19:30,252 少しでも傷を癒やせたら 291 00:19:31,378 --> 00:19:34,673 どうか… この話を 292 00:19:34,756 --> 00:19:38,302 秋田の阿仁に住む谷垣様に… 293 00:19:39,178 --> 00:19:40,429 どうか… 294 00:19:49,271 --> 00:19:50,814 はっ… 295 00:19:53,358 --> 00:19:56,612 クルミの入ったカネ餅… 296 00:19:58,530 --> 00:20:00,157 源次郎か? 297 00:20:04,286 --> 00:20:08,916 そう言うと 賢吉は息を引き取りました 298 00:20:13,045 --> 00:20:14,087 賢吉は 299 00:20:14,755 --> 00:20:18,383 自分の役目を見つけて 命を使いました 300 00:20:18,926 --> 00:20:23,847 私の生まれてきた役目は何だろうと 毎日 考えています 301 00:20:24,640 --> 00:20:26,808 今更 阿仁には戻れない 302 00:20:27,601 --> 00:20:30,354 父や兄貴に合わせる顔がありません 303 00:20:31,939 --> 00:20:33,482 谷垣 304 00:20:34,024 --> 00:20:36,401 私には お前が必要だ 305 00:20:36,485 --> 00:20:38,153 はっ… 306 00:20:40,113 --> 00:20:43,283 まずは 私のために 307 00:20:43,367 --> 00:20:47,120 クルミ入りのカネ餅を 作ってくれないか? 308 00:20:51,875 --> 00:20:53,794 お安いご用です 309 00:21:07,975 --> 00:21:09,393 ねえ あれ見て! 310 00:21:09,476 --> 00:21:10,310 あっ 311 00:21:10,394 --> 00:21:12,896 遠くのほうで誰か踊ってる 312 00:21:12,980 --> 00:21:14,648 あれ アシㇼパじゃない? 313 00:21:14,731 --> 00:21:16,066 おお… 314 00:21:16,608 --> 00:21:18,568 ♪ フントオリー 315 00:21:18,652 --> 00:21:22,239 ♪ フンチーカッハア ホオオ 316 00:21:22,322 --> 00:21:24,157 ♪ ホーイホオ 317 00:21:24,241 --> 00:21:28,036 へえ それが釧路に伝わる舞か 318 00:21:28,120 --> 00:21:31,456 サロルンリㇺセ “鶴の舞”だ 319 00:21:31,540 --> 00:21:32,874 ♪ フントオヒー 320 00:21:32,958 --> 00:21:36,795 ♪ フンチーカッハア ホオオ 321 00:21:36,878 --> 00:21:38,714 ♪ ホーイホオ 322 00:21:38,797 --> 00:21:40,632 んっ… 誰か来るぞ 323 00:21:40,716 --> 00:21:41,550 ん? 324 00:21:44,636 --> 00:21:45,512 ん? 325 00:21:48,015 --> 00:21:50,642 ほら やっぱり アシㇼパだよ! 326 00:21:51,852 --> 00:21:55,981 チカパシと チロンヌプ それに谷垣だ 327 00:21:57,274 --> 00:21:58,734 どうして… 328 00:23:27,864 --> 00:23:32,953 ~♪