1 00:00:07,925 --> 00:00:11,095 (鳥のさえずり) 2 00:00:20,855 --> 00:00:23,190 (尾形百之助(おがた ひゃくのすけ))近くには いないようだな 3 00:00:23,899 --> 00:00:25,985 (杉元佐一(すぎもと さいち))第七師団の連中も 4 00:00:26,068 --> 00:00:28,696 さすがに あの天候では進めなかったか 5 00:00:28,779 --> 00:00:32,032 (白石由竹(しらいし よしたけ))このまま 諦めて帰るとは思わないけどな 6 00:00:32,116 --> 00:00:33,659 やつらは 俺たちが― 7 00:00:33,743 --> 00:00:36,954 網走(あばしり)方面へ下山すると 読んでるはずだ 8 00:00:37,037 --> 00:00:39,582 意表をついて ここは 十勝(とかち)面へ下山して 9 00:00:39,665 --> 00:00:41,041 追っ手をまこう 10 00:00:41,125 --> 00:00:42,585 (アシㇼパ)そうしよう 11 00:00:42,668 --> 00:00:44,628 キロランケニㇱパたちには― 12 00:00:44,712 --> 00:00:47,673 はぐれた時は 網走で会おうと言ってある 13 00:00:51,010 --> 00:00:53,179 (谷垣源次郎(たにがき げんじろう)) フチの様子を聞くために― 14 00:00:53,262 --> 00:00:56,390 夕張(ゆうばり)を出る時 小樽(おたる)へ電報を送っておいた 15 00:00:57,224 --> 00:01:00,352 この郵便局留めで 返事が届いているはずだ 16 00:01:00,436 --> 00:01:01,729 (チカパシ)誰から? 17 00:01:02,688 --> 00:01:04,023 アシㇼパの叔父だ 18 00:01:04,815 --> 00:01:07,902 あの人は昔 和人と仕事をしていたから― 19 00:01:07,985 --> 00:01:09,862 少し読み書きができる 20 00:01:11,155 --> 00:01:12,948 (チカパシ)何て 書いてある? 21 00:01:13,032 --> 00:01:16,577 “フチ ライクルシユク ツクル” 22 00:01:17,119 --> 00:01:19,288 ライクルシユクって何だ? 23 00:01:19,830 --> 00:01:22,625 (インカㇻマッ)ライクㇽシユㇰは 死装束です 24 00:01:22,708 --> 00:01:23,918 あ… 25 00:01:25,169 --> 00:01:28,339 (インカㇻマッ)死期が近づくのを意識した アイヌの老人は― 26 00:01:28,422 --> 00:01:32,927 家族に隠れて 自分の死装束を用意するのです 27 00:01:34,720 --> 00:01:36,806 どうして あんなことを言ったんだ 28 00:01:37,932 --> 00:01:41,393 私は 占いで出たことを 伝えたまでです 29 00:01:41,477 --> 00:01:44,688 アシㇼパさんの周りに 裏切り者がいます 30 00:01:46,899 --> 00:01:49,068 (チカパシ)フチ 死んでほしくない 31 00:01:49,860 --> 00:01:52,738 フチは 俺にも ごはん食わせてくれた 32 00:01:52,822 --> 00:01:54,990 アイヌは子供が大事だって 33 00:01:55,699 --> 00:01:59,161 子供がいないと あっちの世界に行けないから 34 00:01:59,745 --> 00:02:01,872 アイヌは自分が死ぬ時― 35 00:02:01,956 --> 00:02:04,625 残された者に 送る儀式をされないと― 36 00:02:04,708 --> 00:02:07,294 死後の世界へ行けないのです 37 00:02:09,713 --> 00:02:13,217 だから 自分の子じゃなくても 必死で育てます 38 00:02:16,762 --> 00:02:19,598 (谷垣)チカパシ 心配するな 39 00:02:20,808 --> 00:02:23,435 必ず 無事に アシㇼパを連れて 帰って 40 00:02:23,519 --> 00:02:27,356 フチを元気にさせる それが俺の役目なんだ 41 00:02:27,439 --> 00:02:28,983 ああ… 42 00:02:29,066 --> 00:02:31,193 (谷垣)俺も フチに食べさせてもらった 43 00:02:31,735 --> 00:02:33,237 俺も フチの子供だ 44 00:02:33,320 --> 00:02:36,991 いやいや 谷垣ニㇱパは ヒモだよ 45 00:02:37,074 --> 00:02:38,242 ヒモですね 46 00:02:38,325 --> 00:02:40,953 (チカパシたちの笑い声) 47 00:02:50,838 --> 00:02:53,299 (谷垣)探していた俺の役目… 48 00:02:57,094 --> 00:03:03,100 ♪~ 49 00:04:21,178 --> 00:04:26,934 ~♪ 50 00:04:33,315 --> 00:04:35,067 (谷垣)鶴見(つるみ)中尉殿は― 51 00:04:35,150 --> 00:04:37,736 カネ餅というのを ご存じですか? 52 00:04:38,696 --> 00:04:41,865 自分ら 阿仁(あに)マタギの 非常用携行食で 53 00:04:41,949 --> 00:04:46,078 丸いのと 楕円(だえん)のを作り 2個1組にして山に入ります 54 00:04:46,787 --> 00:04:48,539 丸いのは太陽で 55 00:04:48,622 --> 00:04:51,166 楕円のは 月を 意味するらしいです 56 00:04:51,250 --> 00:04:52,835 (鶴見篤四郎(とくしろう)) カネ餅か 57 00:04:52,918 --> 00:04:57,965 それは知らなかったな 味は? 普通のお餅か? 58 00:04:58,924 --> 00:05:02,594 (谷垣)米粉に水を加えて 味噌(みそ)か塩を混ぜ― 59 00:05:02,678 --> 00:05:04,680 よく こねて 葉っぱに包んで 60 00:05:04,763 --> 00:05:07,433 いろりの灰で 蒸し焼きにするものです 61 00:05:07,975 --> 00:05:12,229 ちなみに 戸沢(とざわ)マタギじゃ カネ餅に 味噌は厳禁だそうで 62 00:05:12,312 --> 00:05:15,691 (鶴見)村落によって 多少の違いがあるわけか 63 00:05:17,651 --> 00:05:19,945 親父(おやじ)が真面目で うるさいから― 64 00:05:20,029 --> 00:05:22,740 誰にも言わず 秘密にしてたんですが 65 00:05:22,823 --> 00:05:25,909 実は 自分が食べるカネ餅には― 66 00:05:25,993 --> 00:05:28,912 ちょっとだけ 手間を加えてました 67 00:05:28,996 --> 00:05:32,958 でも ある日 マタギの仲間に バレたことがありまして 68 00:05:33,042 --> 00:05:35,753 ハハハハハッ どうやって? 69 00:05:35,836 --> 00:05:37,296 (谷垣)私たち マタギが― 70 00:05:37,379 --> 00:05:41,008 アオシシと呼んでるカモシカを 追っていた時でした 71 00:05:42,259 --> 00:05:45,512 マタギは数名で それぞれ 役割を決め― 72 00:05:45,596 --> 00:05:47,973 共同で巻き狩りをします 73 00:05:49,308 --> 00:05:50,392 ムカイマッテと 呼ばれる― 74 00:05:50,476 --> 00:05:53,437 全体の指示をする 見張り役 75 00:05:53,520 --> 00:05:56,148 マツマイと呼ばれる 鉄砲撃ちが2名 76 00:05:56,231 --> 00:05:59,109 まだ銃が持てない 勢子(せこ)が2名 77 00:06:00,069 --> 00:06:04,573 勢子は 獲物を鉄砲撃ちの前へと 大声で追い立てる役です 78 00:06:05,449 --> 00:06:07,785 ホレヤ ホレヤ 79 00:06:08,327 --> 00:06:13,207 マタギが イタズと呼ぶ熊は 山の上に逃げ登る習性があるので 80 00:06:13,290 --> 00:06:15,959 勢子は 頂上に向かって 追い上げますが― 81 00:06:16,043 --> 00:06:19,338 アオシシは逆で 山頂から 追い落とします 82 00:06:19,421 --> 00:06:24,718 勢子だった自分と 1つ年上の青山賢吉(あおやま けんきち)という男が― 83 00:06:24,802 --> 00:06:28,597 頂上へ着いたところで 天候が急変しました 84 00:06:31,558 --> 00:06:35,354 岩場の洞窟に避難しましたが 吹雪は続き― 85 00:06:35,437 --> 00:06:38,065 数日間 動けなくなり 86 00:06:38,148 --> 00:06:42,194 持参した いり豆や米も すぐ 底を突きました 87 00:06:42,986 --> 00:06:46,448 カネ餅は そんな時に食べる最後の食料です 88 00:06:47,241 --> 00:06:51,078 どんなに寒くても凍らず 保存の利くもので 89 00:06:51,161 --> 00:06:54,289 ちょっと かじるだけでも 腹の足しになりますから 90 00:06:58,460 --> 00:06:59,711 け… 91 00:06:59,795 --> 00:07:00,879 (青山賢吉)ん… 92 00:07:00,963 --> 00:07:02,172 (谷垣)フッ 93 00:07:02,256 --> 00:07:03,674 何だべ? 94 00:07:04,383 --> 00:07:08,053 これが 本当の最後の食いもんに なるかもしれねえと思ってな 95 00:07:08,137 --> 00:07:10,305 ハッ 冗談でねえ 96 00:07:10,389 --> 00:07:13,475 源次郎の肉 食ってでも 生き延びるべさ 97 00:07:17,146 --> 00:07:18,272 ん? 98 00:07:18,355 --> 00:07:21,608 おい このカネ餅 何か混ぜたか? 99 00:07:21,692 --> 00:07:22,693 (谷垣)あ… 100 00:07:23,277 --> 00:07:28,323 何だべ? この味 待で しゃべるなよ 当ててやる 101 00:07:28,407 --> 00:07:30,909 うーん これは… 102 00:07:32,995 --> 00:07:37,374 分かった クルミだ クルミ混ぜたべ? 源次郎 103 00:07:37,457 --> 00:07:42,087 んだ でも 賢吉 おどには黙ってでけれ 104 00:07:42,171 --> 00:07:45,299 (2人の笑い声) 105 00:07:46,800 --> 00:07:48,677 なあ 源次郎 106 00:07:48,760 --> 00:07:50,053 あ? 107 00:07:51,346 --> 00:07:53,265 必ず 生きて帰るべ 108 00:07:55,392 --> 00:07:56,643 うん 109 00:08:09,281 --> 00:08:14,161 賢吉は そのあと 私の妹のフミと結婚して 110 00:08:14,244 --> 00:08:16,663 私たちは義理の兄弟になりました 111 00:08:16,747 --> 00:08:18,123 (鶴見)おお 112 00:08:19,208 --> 00:08:20,626 (谷垣)フミと賢吉は― 113 00:08:20,709 --> 00:08:24,588 集落より離れた山の 少し高い所で 114 00:08:24,671 --> 00:08:26,673 静かに暮らしていました 115 00:08:30,677 --> 00:08:34,932 あの日も 私は家で カネ餅を焼いていました 116 00:08:35,682 --> 00:08:40,187 外から戻ってきた兄貴が 今まで見たこともない顔で… 117 00:08:40,270 --> 00:08:41,480 (走る足音) (谷垣)あ? 118 00:08:41,563 --> 00:08:43,232 (戸が開く音) (谷垣の兄)フミが… 119 00:08:43,315 --> 00:08:45,692 (谷垣)兄貴が 放心しているのを見て 120 00:08:45,776 --> 00:08:48,570 つららで 背中を 刺されたような感覚になりました 121 00:08:48,654 --> 00:08:50,864 (荒い息) 122 00:08:51,698 --> 00:08:53,075 私が行った時には― 123 00:08:53,659 --> 00:08:56,995 フミと賢吉の住んでいた小屋は 既に… 124 00:08:58,330 --> 00:09:01,833 (荒い息) 125 00:09:07,422 --> 00:09:08,840 あ… 126 00:09:08,924 --> 00:09:13,720 中には 真っ黒に焼けた フミの遺体がありました 127 00:09:13,804 --> 00:09:15,305 なして… 128 00:09:16,723 --> 00:09:21,436 何があった? 何があった? フミ 129 00:09:22,312 --> 00:09:23,313 ハッ 130 00:09:24,523 --> 00:09:27,734 心臓に刺し傷がありました 131 00:09:30,904 --> 00:09:32,030 あ… 132 00:09:32,948 --> 00:09:37,035 そばには 賢吉のマスケが 133 00:09:37,119 --> 00:09:41,832 私らが マスケと呼ぶ小刀は マタギの魂です 134 00:09:41,915 --> 00:09:46,420 賢吉の姿は どこにもありませんでした 135 00:09:49,047 --> 00:09:50,590 賢吉は どこだ? 136 00:09:50,674 --> 00:09:54,511 (賢吉の父)せがれは 一度も来てね 勘弁してけろ 137 00:09:54,594 --> 00:09:56,388 かくまってねえべな? 138 00:09:56,471 --> 00:09:58,890 (賢吉の母の泣き声) 139 00:09:59,641 --> 00:10:04,187 (谷垣)血眼になって 捜し歩きましたが 見つかりませんでした 140 00:10:04,771 --> 00:10:06,898 しかし ある日― 141 00:10:06,982 --> 00:10:10,652 賢吉が 北海道の 第七師団へ入隊したという― 142 00:10:10,736 --> 00:10:12,696 ウワサが入ってきたのです 143 00:10:14,197 --> 00:10:15,866 (谷垣の父)もう やめれ 源次郎 144 00:10:16,450 --> 00:10:18,827 復讐(ふくしゅう)のために 阿仁を捨てんな 145 00:10:18,910 --> 00:10:22,039 おめえの人生まで 棒に振るな 146 00:10:24,875 --> 00:10:26,251 (谷垣)く… 147 00:10:27,336 --> 00:10:29,463 妹を殺さいて 泣き寝入りがでぎるが 148 00:10:30,422 --> 00:10:34,134 マタギなんぞ クソ食らえだ 二度と戻らね 149 00:10:35,594 --> 00:10:39,973 屯田兵村は 北海道中に 37もありましたので 150 00:10:40,057 --> 00:10:45,145 軍事訓練と 農務作業の合間に 賢吉の行方を探りましたが― 151 00:10:45,854 --> 00:10:48,023 なかなか 見つかりませんでした 152 00:10:50,400 --> 00:10:55,072 出征間近に 兄から 母の死を知らされました 153 00:10:56,490 --> 00:10:58,450 フミの無残な死と 154 00:10:58,533 --> 00:11:01,828 自分が故郷を捨てて 戦争へ行くこと 155 00:11:01,912 --> 00:11:04,915 毎日 泣いて過ごして 心労がたたり― 156 00:11:04,998 --> 00:11:08,001 体が弱って あっけなく死んだそうです 157 00:11:10,712 --> 00:11:15,967 すべての責任は 賢吉にあると 憎悪を膨らませました 158 00:11:16,051 --> 00:11:21,139 屯田兵の集まる旅順(りょじゅん)へ行けば 賢吉を見つけられる 159 00:11:21,223 --> 00:11:23,683 見つけたら 戦闘のどさくさで 160 00:11:25,227 --> 00:11:27,354 背中を撃ってやろうと 161 00:11:33,276 --> 00:11:37,697 (兵士たちの 雄たけび) 162 00:11:42,994 --> 00:11:45,914 (谷垣)う… ハア… 163 00:11:46,581 --> 00:11:47,582 あ… 164 00:11:48,542 --> 00:11:52,587 土のうの隅に座り込む ボロボロの男がいました 165 00:11:53,755 --> 00:11:55,799 自分の血か 返り血か 166 00:11:55,882 --> 00:11:59,386 顔も分からぬほど 真っ黒でしたが 167 00:11:59,469 --> 00:12:01,430 白だすき 168 00:12:02,556 --> 00:12:06,435 この男 昨夜の決死隊の生き残りだ 169 00:12:07,102 --> 00:12:08,603 よく生きて… 170 00:12:10,772 --> 00:12:12,816 何か 食いもん 持ってねえか? 171 00:12:12,899 --> 00:12:16,194 お… あ… ああ 172 00:12:16,820 --> 00:12:17,821 け… 173 00:12:17,904 --> 00:12:19,197 うん? 174 00:12:20,031 --> 00:12:22,909 ありがとよ いただきます 175 00:12:26,580 --> 00:12:28,081 コシが強いな 176 00:12:28,165 --> 00:12:31,960 これは 餅? 味噌の味がするな 177 00:12:32,043 --> 00:12:33,712 秋田の郷土料理か何かか? 178 00:12:33,795 --> 00:12:34,796 (谷垣)あ… 179 00:12:35,547 --> 00:12:36,923 どうして 秋田だと 180 00:12:37,007 --> 00:12:38,800 やっぱり そうか 181 00:12:38,884 --> 00:12:43,513 だって あんた けって言ったよな 食えっていう方言だろ? 182 00:12:44,306 --> 00:12:46,641 俺と同じ 第一師団の小隊に― 183 00:12:46,725 --> 00:12:47,851 秋田の阿仁って所で― 184 00:12:47,934 --> 00:12:50,228 (杉元)生まれた一等卒がいてね (谷垣)ハッ 185 00:12:50,729 --> 00:12:52,731 そいつから教えてもらった 186 00:12:52,814 --> 00:12:57,152 東京に来る前は 地元で 猟師をやってたって聞いたな 187 00:12:57,527 --> 00:12:58,987 (谷垣)賢吉だ 188 00:13:00,447 --> 00:13:03,200 ついに 妹の敵(かたき)を見つけた 189 00:13:05,076 --> 00:13:09,831 賢吉は 北海道ではなく 東京へ逃げていたんです 190 00:13:10,457 --> 00:13:13,543 二〇三(にひゃくさん)高地で戦ったのは― 191 00:13:13,627 --> 00:13:18,423 北海道第七師団 四国第十一師団 192 00:13:18,507 --> 00:13:23,512 金沢(かなざわ)第九師団 そして 東京第一師団 193 00:13:23,595 --> 00:13:24,804 (谷垣)はい 194 00:13:25,430 --> 00:13:30,018 神様が私に 妹の恨みを晴らす 手助けをしてくださった 195 00:13:30,101 --> 00:13:31,645 そう感じました 196 00:13:32,395 --> 00:13:35,440 すぐにでも 確認しに行きたかったのですが 197 00:13:35,524 --> 00:13:39,361 賢吉の顔を見たら 自分は 我を忘れてしまう 198 00:13:40,153 --> 00:13:44,324 戦闘のどさくさで この復讐の旅に 決着をつけようという― 199 00:13:44,407 --> 00:13:46,618 冷静さは残っていました 200 00:13:47,452 --> 00:13:48,995 でも あの場所は― 201 00:13:49,829 --> 00:13:51,998 とてもじゃないですが 202 00:13:52,624 --> 00:13:57,212 賢吉を捜す余裕なんて あるはずがありませんでした 203 00:13:58,046 --> 00:13:59,631 (銃声) 204 00:14:01,216 --> 00:14:04,886 (銃声) 205 00:14:04,970 --> 00:14:07,347 (谷垣)ロシアの兵士が 手投げ弾を投げても 206 00:14:07,973 --> 00:14:09,849 こちらは即座に投げ返します 207 00:14:09,933 --> 00:14:10,934 (杉元)うおお 208 00:14:12,477 --> 00:14:13,562 (爆発音) 209 00:14:13,645 --> 00:14:15,855 (谷垣)じわじわと 追い詰められたロシア兵は― 210 00:14:16,731 --> 00:14:19,317 体に手投げ弾を いくつか くくりつけ― 211 00:14:19,401 --> 00:14:22,070 我々の塹壕(ざんごう)に飛び込んできました 212 00:14:22,153 --> 00:14:24,739 あれには まいったな 213 00:14:24,823 --> 00:14:29,286 ロシア兵1人で こちらは10人近く やられた 214 00:14:30,078 --> 00:14:31,621 (谷垣)そして また1人 215 00:14:31,705 --> 00:14:33,081 やつを止めろ 216 00:14:34,249 --> 00:14:37,419 三十年式の銃弾を 2~3発 受けても 217 00:14:37,502 --> 00:14:38,795 そいつは止まらなかった 218 00:14:38,878 --> 00:14:40,922 く… 219 00:14:41,006 --> 00:14:46,678 その時 すぐそばの塹壕から 1人の男が飛び出してきました 220 00:14:52,183 --> 00:14:53,518 賢吉 221 00:14:53,602 --> 00:14:56,021 (賢吉)うう う… う… (ロシア兵)が… 222 00:14:56,104 --> 00:14:57,480 うおおお 223 00:15:03,361 --> 00:15:07,490 (谷垣)賢吉は かろうじて 生きていました 224 00:15:10,660 --> 00:15:15,332 ついに 待ち望んでいた瞬間が訪れた 225 00:15:15,415 --> 00:15:17,334 そう思いました 226 00:15:17,417 --> 00:15:19,044 おい 賢吉 227 00:15:19,628 --> 00:15:24,007 やっと見つけたぞ お前の心臓をえぐってやる 228 00:15:24,090 --> 00:15:27,010 お前が フミにやったように 229 00:15:28,345 --> 00:15:30,722 (尾形)谷垣 そいつは もうダメだ 230 00:15:30,805 --> 00:15:34,517 聞こえてねえぞ たぶん 鼓膜もやられてる 231 00:15:34,601 --> 00:15:37,979 (谷垣の荒い息) 232 00:15:38,063 --> 00:15:40,065 う… う… あ… 233 00:15:40,148 --> 00:15:43,777 (谷垣の荒い息) 234 00:15:43,860 --> 00:15:45,528 (賢吉)フミ… (谷垣)あ… 235 00:15:46,071 --> 00:15:48,198 う… 236 00:15:56,373 --> 00:16:01,169 あの時 ちょうど 戦闘は こう着状態となり― 237 00:16:01,252 --> 00:16:04,297 不思議なほど 辺りが 静かになりました 238 00:16:06,132 --> 00:16:07,509 なして… 239 00:16:08,927 --> 00:16:11,346 なして フミを殺した? 賢吉 240 00:16:11,429 --> 00:16:15,517 だ… 誰ですか? あなたは… 241 00:16:15,600 --> 00:16:16,851 (谷垣)ハッ 242 00:16:18,520 --> 00:16:24,109 (賢吉)どなたか存じませんが 伝えてほしいことがあります 243 00:16:24,192 --> 00:16:26,444 秋田の阿仁に住む― 244 00:16:26,528 --> 00:16:29,406 谷垣という家の人間に… 245 00:16:29,489 --> 00:16:30,907 あ… 246 00:16:31,658 --> 00:16:36,496 自分は 谷垣家の娘さんを 嫁にもらいました 247 00:16:37,706 --> 00:16:42,544 自分には もったいないほど 美しい嫁でした 248 00:16:43,461 --> 00:16:47,841 山奥で 2人きり 静かに暮らしていました 249 00:16:48,508 --> 00:16:50,009 ある日 嫁が― 250 00:16:50,969 --> 00:16:52,595 疱瘡(ほうそう)にかかりました 251 00:16:52,679 --> 00:16:54,097 ハッ 252 00:16:55,515 --> 00:17:00,603 (フミ)おどにも おっかあにも 黙っていでけれ 253 00:17:00,687 --> 00:17:01,771 フミ… 254 00:17:02,355 --> 00:17:06,985 しゃべれば 心配して 必ず ここさ来る 255 00:17:07,068 --> 00:17:09,237 移しでもしたら… 256 00:17:09,320 --> 00:17:10,989 フミ… 257 00:17:11,531 --> 00:17:14,868 (フミ)あんたも ここさいれは ダメ 258 00:17:14,951 --> 00:17:19,831 な… 何 しゃべってらんだ 死ぬ時は 一緒だべ 259 00:17:21,791 --> 00:17:25,044 山で 家族が疱瘡にかかれば― 260 00:17:25,128 --> 00:17:28,923 感染を恐れ 小屋に置き去りにしますが― 261 00:17:29,007 --> 00:17:31,843 自分には できなかった 262 00:17:32,844 --> 00:17:36,222 置き去りにされた小屋に 獣が入り込み― 263 00:17:36,306 --> 00:17:41,728 病人が抵抗もできずに 食われた話を 聞いたことがあります 264 00:17:42,937 --> 00:17:47,358 フミを 独り寂しく 死なせるわけにはいかない 265 00:17:47,442 --> 00:17:50,195 でも フミは許しませんでした 266 00:17:51,654 --> 00:17:55,617 谷垣家の人間から 疱瘡が出たと分かれば― 267 00:17:55,700 --> 00:17:59,120 村の人間は 誰も近づかなくなるし 268 00:17:59,204 --> 00:18:05,126 ほかのマタギは みんな 父や兄たちと巻き狩りをしなくなる 269 00:18:05,835 --> 00:18:08,213 皆が ここへ来る前に― 270 00:18:08,296 --> 00:18:12,759 自分を殺して 村を離れてほしいと 271 00:18:12,842 --> 00:18:15,220 (谷垣)う… うう… 272 00:18:16,179 --> 00:18:19,974 (賢吉)疱瘡で変わり果てた顔を 布で隠し 273 00:18:20,058 --> 00:18:22,519 私に言うのです 274 00:18:22,602 --> 00:18:25,688 もし 感染してなければ― 275 00:18:26,231 --> 00:18:27,899 (フミ)その命を― 276 00:18:29,150 --> 00:18:31,444 どうやって使うか― 277 00:18:31,528 --> 00:18:35,490 自分の役目を 探しなさい 278 00:18:35,573 --> 00:18:38,952 ああ フミ 279 00:18:41,204 --> 00:18:45,458 そして ついに 私は フミを… 280 00:18:47,043 --> 00:18:50,129 できるだけ 長く苦しまずに済むよう― 281 00:18:50,213 --> 00:18:52,423 2人で考えた末― 282 00:18:52,507 --> 00:18:57,470 私は猟師ですので やり慣れた方法を使いました 283 00:19:03,101 --> 00:19:07,438 フミに言われていたとおり 小屋に火をつけ 284 00:19:07,522 --> 00:19:11,568 フミの死を ご家族に伝えないまま― 285 00:19:11,651 --> 00:19:14,195 私は 村を立ち去り 286 00:19:14,863 --> 00:19:19,492 今日まで フミを殺した罪悪感を抱えて 287 00:19:19,576 --> 00:19:21,578 過ごしてきました 288 00:19:22,245 --> 00:19:27,750 自分の負い目のせいで ご遺族を長く苦しませた 289 00:19:28,918 --> 00:19:32,213 少しでも 傷を癒やせたら 290 00:19:33,339 --> 00:19:36,634 どうか この話を… 291 00:19:36,718 --> 00:19:40,263 秋田の阿仁に住む谷垣様に… 292 00:19:41,139 --> 00:19:42,390 どうか… 293 00:19:51,274 --> 00:19:52,775 ハッ 294 00:19:55,361 --> 00:19:58,573 クルミの入ったカネ餅 295 00:20:00,450 --> 00:20:02,160 源次郎か? 296 00:20:06,205 --> 00:20:10,877 (谷垣)そう言うと 賢吉は 息を引き取りました 297 00:20:15,048 --> 00:20:16,090 賢吉は― 298 00:20:16,716 --> 00:20:20,803 自分の役目を見つけて 命を使いました 299 00:20:20,887 --> 00:20:25,850 私の生まれてきた役目は何だろうと 毎日 考えています 300 00:20:26,643 --> 00:20:28,811 今さら 阿仁には戻れない 301 00:20:29,562 --> 00:20:32,398 父や兄貴に合わせる顔がありません 302 00:20:33,900 --> 00:20:38,404 谷垣 私には お前が必要だ 303 00:20:38,488 --> 00:20:40,198 ハッ 304 00:20:42,116 --> 00:20:45,286 (鶴見)まずは 私のために― 305 00:20:45,370 --> 00:20:49,165 クルミ入りのカネ餅を 作ってくれないか? 306 00:20:53,836 --> 00:20:55,797 お安いご用です 307 00:21:09,978 --> 00:21:11,396 (チカパシ) ねえ あれ見て 308 00:21:11,479 --> 00:21:14,899 (谷垣)あ… (チカパシ)遠くのほうで 誰か踊ってる 309 00:21:14,983 --> 00:21:16,651 あれ アシㇼパじゃない? 310 00:21:16,734 --> 00:21:18,069 おお… 311 00:21:18,611 --> 00:21:20,571 ♪ フントオリー 312 00:21:20,655 --> 00:21:24,242 ♪ フンチーカッハア ホオオ 313 00:21:24,325 --> 00:21:26,160 ♪ ホーイホオ 314 00:21:26,244 --> 00:21:26,536 へえ それが釧路(くしろ)に伝わる舞か 315 00:21:26,536 --> 00:21:30,039 へえ それが釧路(くしろ)に伝わる舞か 316 00:21:26,536 --> 00:21:30,039 ♪ ホーイホオ 317 00:21:30,123 --> 00:21:33,459 (アシㇼパ)サロルンリㇺセ 鶴の舞だ 318 00:21:33,543 --> 00:21:34,877 ♪ フントオヒー 319 00:21:34,961 --> 00:21:38,798 ♪ フンチーカッハア ホオオ 320 00:21:38,881 --> 00:21:40,717 ♪ ホーイホオ 321 00:21:40,800 --> 00:21:41,884 (尾形)ん… 誰か来るぞ (杉元)ん? 322 00:21:41,884 --> 00:21:43,553 (尾形)ん… 誰か来るぞ (杉元)ん? 323 00:21:41,884 --> 00:21:43,553 ♪ ホーイホオ 324 00:21:44,470 --> 00:21:46,014 (鶴の鳴きマネ) 325 00:21:46,597 --> 00:21:47,598 ん? 326 00:21:50,018 --> 00:21:52,645 ほら やっぱり アシㇼパだよ 327 00:21:53,855 --> 00:21:58,026 (アシㇼパ)チカパシと チロンヌプ それに谷垣だ 328 00:21:59,152 --> 00:22:00,778 どうして… 329 00:22:04,991 --> 00:22:09,996 ♪~ 330 00:23:28,199 --> 00:23:34,205 ~♪