1 00:00:02,837 --> 00:00:04,422 (チカパシ)やっと見つけた 2 00:00:04,505 --> 00:00:07,258 小樽(おたる)から ずっと アシㇼパを捜してきた 3 00:00:08,259 --> 00:00:09,260 (アシㇼパ)私を? 4 00:00:09,343 --> 00:00:10,845 (杉元佐一(すぎもと さいち)たち)ん? 5 00:00:11,470 --> 00:00:14,807 あっちの森で 狩りをしてる アイヌに会って 聞いたんだ 6 00:00:17,184 --> 00:00:19,895 ねえ アイヌの女の子 見かけなかった? 7 00:00:19,979 --> 00:00:21,480 (キラウㇱ)ん? 8 00:00:21,564 --> 00:00:25,401 (インカㇻマッ)顔に傷のある 和人の男と一緒のはずです 9 00:00:26,569 --> 00:00:29,196 ああ さっき見かけた子かな 10 00:00:29,655 --> 00:00:30,656 (谷垣源次郎(たにがき げんじろう))あ… 11 00:00:30,740 --> 00:00:34,535 そんなに遠くから来たのかって びっくりしてたよ 12 00:00:34,618 --> 00:00:37,288 みんな 一緒に コタンに遊びに来いって 13 00:00:37,371 --> 00:00:40,124 ヒグマが取れたらしいよ 行こう アシㇼパ 14 00:00:40,207 --> 00:00:43,377 行こう 杉元 ヒグマの鍋が食べられるぞ 15 00:00:43,461 --> 00:00:45,588 (白石由竹(しらいし よしたけ))それより 俺は街に出て 16 00:00:45,671 --> 00:00:48,090 インカㇻマッちゃんに おごってもらいたいな 17 00:00:48,841 --> 00:00:52,470 ダメだよ インカㇻマッは 俺の家族なんだから 18 00:00:53,429 --> 00:00:54,555 家族? 19 00:00:54,638 --> 00:00:56,182 うん インカㇻマッは― 20 00:00:56,265 --> 00:00:58,726 オッパイ触っても 怒らない お姉ちゃんで 21 00:00:58,809 --> 00:01:01,103 谷垣ニㇱパは ヒモなんだ 22 00:01:01,187 --> 00:01:03,022 ですね 23 00:01:05,232 --> 00:01:07,276 (谷垣)なぜ ここに… 24 00:01:09,570 --> 00:01:10,696 ヒモ 25 00:01:10,780 --> 00:01:12,907 (谷垣)あ… あいや… 26 00:01:12,990 --> 00:01:18,996 ♪~ 27 00:02:37,116 --> 00:02:42,955 ~♪ 28 00:02:43,038 --> 00:02:48,085 (女性たちの歌声) 29 00:02:50,546 --> 00:02:54,133 (子供たちの笑い声) 30 00:02:54,216 --> 00:02:55,217 (キラウㇱ)ん? 31 00:02:57,052 --> 00:03:00,431 ああ 会えたか よく来たな 32 00:03:00,514 --> 00:03:03,434 (男性)もうじき カムイホプニレが始まる 33 00:03:03,517 --> 00:03:04,685 (キラウㇱ)楽しんでくれ 34 00:03:04,768 --> 00:03:05,936 (杉元)ん? 35 00:03:06,020 --> 00:03:10,024 カムイホプニレは 神の出発という意味の儀式で 36 00:03:10,107 --> 00:03:12,776 狩りによって 取ったヒグマを 送るものだ 37 00:03:13,527 --> 00:03:17,990 檻(おり)で育てた飼い熊を送る イオマンテとは また別の儀式だ 38 00:03:18,073 --> 00:03:20,701 (男性)オホホホホ~イ 39 00:03:20,784 --> 00:03:23,162 オホホホホ~イ 40 00:03:23,245 --> 00:03:26,123 (男性)オホホホホ~イ 41 00:03:26,206 --> 00:03:29,209 オホホホホ~イ 42 00:03:29,293 --> 00:03:31,295 (アシㇼパ)オココㇰセという叫びだ (男性)オホホホホ~イ 43 00:03:31,378 --> 00:03:35,090 火の神様に 熊が取れたことを 知らせる意味もある 44 00:03:35,174 --> 00:03:36,884 カムイと呼ばれるのは― 45 00:03:36,967 --> 00:03:42,139 人間ができないこと 役立つものや 災厄をもたらすものだ 46 00:03:42,890 --> 00:03:45,809 火は 私たちの生活に欠かせない 47 00:03:45,893 --> 00:03:48,979 刃物は 手で切れないものを きれいに切ってくれるから― 48 00:03:49,063 --> 00:03:50,689 カムイが宿ってる 49 00:03:50,773 --> 00:03:53,359 木も山に座ってるカムイ 50 00:03:53,442 --> 00:03:58,614 天候や疫病などは 人間の力が 及ばないから カムイだ 51 00:03:58,697 --> 00:04:03,535 でも 決して 人間よりも ものすごく偉い存在ではなくて 52 00:04:03,619 --> 00:04:06,080 私たちと対等と考えてる 53 00:04:06,622 --> 00:04:09,667 狩猟というのは 人間が取るんじゃなくて 54 00:04:09,750 --> 00:04:13,337 カムイのほうから 弓矢に 当たりにくると考えられてきた 55 00:04:14,088 --> 00:04:18,008 人間に招待されて 肉や毛皮を与える代わりに― 56 00:04:18,092 --> 00:04:22,596 カムイは 人間しか作れない 酒やタバコなどが欲しい 57 00:04:22,680 --> 00:04:28,310 私たちは カムイを丁重に送り返し 人間の世界は いい所だと― 58 00:04:28,394 --> 00:04:30,980 ほかのカムイにも 伝えてもらわなきゃならない 59 00:04:31,730 --> 00:04:36,110 ひどい扱いをすれば そのカムイは 下りてこなくなる 60 00:04:36,860 --> 00:04:39,279 このあと ヒグマの頭は 家の外の― 61 00:04:39,363 --> 00:04:42,199 イナウが たくさんある祭壇に 移動する 62 00:04:42,282 --> 00:04:47,204 木の削りかけであるイナウも 人間から カムイへの贈り物だ 63 00:04:47,830 --> 00:04:50,958 カムイは イナウを たくさん持っていると― 64 00:04:51,041 --> 00:04:52,960 神の国で地位が高まる 65 00:04:53,043 --> 00:04:56,672 もらったイナウは 金や銀のイナウに変化して 66 00:04:56,755 --> 00:04:59,216 財宝になると言われている 67 00:04:59,299 --> 00:05:02,761 あっちの世界でも 金には価値があって 68 00:05:02,845 --> 00:05:06,140 たくさん持ってりゃ 幸せになれるってわけか 69 00:05:11,520 --> 00:05:15,899 (男性たちのにぎわう声) 70 00:05:24,366 --> 00:05:26,493 (チカパシの寝息) 71 00:05:28,245 --> 00:05:29,246 (インカㇻマッ)ん? 72 00:05:30,414 --> 00:05:31,457 フッ 73 00:05:32,124 --> 00:05:35,252 (アシㇼパ)何を考えているんだ? チロンヌプ 74 00:05:35,335 --> 00:05:36,670 (谷垣)アシㇼパ 75 00:05:38,005 --> 00:05:42,634 お前に大事な話がある 俺は フチのことを伝えに追ってきた 76 00:05:45,179 --> 00:05:50,267 (男性たちのいびき) 77 00:05:58,984 --> 00:06:00,652 (アシㇼパ)フチ 78 00:06:02,946 --> 00:06:06,366 (尾形百之助(おがた ひゃくのすけ))そんなことを伝えに わざわざ 小樽から来たのか? 79 00:06:06,450 --> 00:06:08,786 谷垣一等卒 80 00:06:08,869 --> 00:06:10,329 尾形上等兵 81 00:06:10,871 --> 00:06:14,958 本当は 鶴見(つるみ)中尉の命令で 俺を監視しに来たのだろう? 82 00:06:15,042 --> 00:06:18,670 違う 俺は もう 軍に関わる気はない 83 00:06:18,754 --> 00:06:22,800 世話になった ばあちゃんのもとに 孫娘を無事 帰す 84 00:06:22,883 --> 00:06:24,384 それが 俺の役目だ 85 00:06:24,468 --> 00:06:26,637 どうだかな 86 00:06:26,720 --> 00:06:31,683 貴様は 鶴見中尉を信奉し 山で 3人の戦友を殺した男だ 87 00:06:31,767 --> 00:06:34,311 ん? 山で? 88 00:06:34,895 --> 00:06:37,648 谷垣と行動していた 3人のことか? 89 00:06:37,731 --> 00:06:39,900 あいつらを殺したのは ヒグマだ 90 00:06:39,983 --> 00:06:43,654 俺が その場にいたんだから 間違いない 91 00:06:44,279 --> 00:06:45,614 ヒグマ… 92 00:06:47,032 --> 00:06:51,578 フン ばあちゃんが 二度と 孫と会えなくなる夢を見たって 93 00:06:52,121 --> 00:06:56,166 たかが 夢だろ 手紙でも送っておけよ 94 00:06:56,250 --> 00:06:57,584 (アシㇼパ)夢というのは― 95 00:06:57,668 --> 00:07:03,423 カムイが 私たちに何か伝えたくて 見せるものと 強く信じられてきた 96 00:07:03,507 --> 00:07:07,970 私は 信じなくても フチは 古い考え方のアイヌだから 97 00:07:08,720 --> 00:07:12,975 それに フチは昔 ある夢を見た 98 00:07:14,434 --> 00:07:18,438 自分の娘の周りに 熊が たくさん集まって 99 00:07:18,522 --> 00:07:20,482 送っている夢だった 100 00:07:21,692 --> 00:07:23,026 そのあと すぐに― 101 00:07:23,110 --> 00:07:27,156 私の母は病気で亡くなったと フチが話していた 102 00:07:27,239 --> 00:07:31,285 だから なおさら 夢占いを信じてるんだ 103 00:07:31,368 --> 00:07:34,288 (杉元)アシㇼパさん 一度 帰ろうか 104 00:07:34,955 --> 00:07:36,540 一度 顔を見せりゃ― 105 00:07:36,623 --> 00:07:41,044 孫娘とは 二度と会えないって フチが見た予言は無効だろ? 106 00:07:41,128 --> 00:07:42,546 元気になるさ 107 00:07:45,257 --> 00:07:47,176 我慢しなくっていいんだよ 108 00:07:50,762 --> 00:07:53,223 子供扱いするな 杉元 109 00:07:53,307 --> 00:07:57,019 私には どうしても 知りたいことがある 110 00:07:57,102 --> 00:08:01,899 知るべきことを知って 自分の未来のために 前に進むんだ 111 00:08:03,233 --> 00:08:04,276 フッ 112 00:08:07,779 --> 00:08:09,698 (白石とチカパシのいびき) 113 00:08:21,293 --> 00:08:23,629 (キラウㇱ)おい 谷垣ニㇱパ 114 00:08:23,712 --> 00:08:28,425 その村田(むらた)銃 気になってたんだが 二瓶鉄造(にへい てつぞう)の物じゃないか? 115 00:08:28,508 --> 00:08:31,303 あ… 二瓶を知ってるのか? 116 00:08:31,386 --> 00:08:35,015 10年以上前 ヒグマを一緒に狩った 117 00:08:35,098 --> 00:08:39,228 腕が よすぎて ヒグマが この土地から いなくなるかと思ったほどだ 118 00:08:41,355 --> 00:08:45,734 二瓶は 山で死んだ この村田銃は俺が引き取った 119 00:08:45,817 --> 00:08:47,527 そうだったか 120 00:08:47,611 --> 00:08:51,740 しかし あんたには そんな古い銃 扱いにくいだろ 121 00:08:51,823 --> 00:08:55,953 (谷垣)二瓶鉄造が 俺を 兵士から マタギに戻してくれた 122 00:08:56,787 --> 00:09:01,959 獲物を撃つ時の心の持ち方を 忘れないために 持つことにした 123 00:09:02,042 --> 00:09:05,921 勝負は 常に1発で決めろ か? 124 00:09:06,004 --> 00:09:07,172 (谷垣)フッ 125 00:09:08,465 --> 00:09:12,844 その銃床に小さな7本の傷が あるだろ 126 00:09:13,387 --> 00:09:16,306 二瓶が俺に話してくれた 127 00:09:17,641 --> 00:09:22,271 (二瓶鉄造)俺には子供が たくさんいるが 息子は1人だけでね 128 00:09:22,896 --> 00:09:26,733 これは その息子が 日清(にっしん)戦争で使っていた銃だ 129 00:09:26,817 --> 00:09:29,444 届けてくれた息子の戦友が― 130 00:09:29,528 --> 00:09:34,241 この銃床の傷は息子さんが 敵を撃つたびに 刻んでいたと 131 00:09:35,117 --> 00:09:37,911 7人目で 刻むのをやめたのか 132 00:09:37,995 --> 00:09:41,290 7人目で あいつのほうが 死んだのか 133 00:09:41,373 --> 00:09:44,918 どちらにしろ 息子は楽しんで 人を撃つようなやつじゃない 134 00:09:45,002 --> 00:09:48,463 殺した責任をしょい込むような 甘ったれは― 135 00:09:48,547 --> 00:09:50,132 兵士なんぞに ならないで 136 00:09:50,215 --> 00:09:53,760 俺と熊撃ちをしていれば よかったんだ 137 00:09:59,266 --> 00:10:00,600 (茂みが揺れる音) (2人)ん? 138 00:10:02,769 --> 00:10:04,396 あ… お前 リュウか 139 00:10:04,479 --> 00:10:06,106 (リュウの吠(ほ)える声) 140 00:10:08,066 --> 00:10:09,067 リュウ 141 00:10:09,985 --> 00:10:12,029 (チカパシ)ホントだ リュウだ 142 00:10:12,112 --> 00:10:15,657 なんで 二瓶の犬が こんな所に… 143 00:10:15,741 --> 00:10:17,242 連れてきていたのか? 144 00:10:17,326 --> 00:10:18,368 いや… 145 00:10:18,452 --> 00:10:22,831 ハッ もしかして リュウ お前 まさか― 146 00:10:23,582 --> 00:10:27,836 谷垣が持っていた二瓶の忘れ形見を ずっと追いかけて… 147 00:10:34,760 --> 00:10:36,511 (リュウの鳴き声) 148 00:10:36,595 --> 00:10:39,473 リュウ お前 なんて けなげな… 149 00:10:39,556 --> 00:10:42,934 (杉元)イダッ イテテテテテッ (リュウのうなり声) 150 00:10:43,018 --> 00:10:46,980 とうっ 痛(いて)えな クソ犬 あっち行けよ 151 00:10:47,064 --> 00:10:48,899 リュウは 忠犬だぜえ 152 00:10:48,982 --> 00:10:52,861 (白石)主人と敵対した相手は 忘れてねえ (リュウのうなり声) 153 00:11:02,829 --> 00:11:04,831 谷垣は これから どうするんだ? 154 00:11:06,625 --> 00:11:10,504 アシㇼパが目的を果たすまで 俺も ついていく 155 00:11:11,838 --> 00:11:13,006 そうか 156 00:11:13,090 --> 00:11:17,135 アシㇼパ 街に出たら 俺が フチに電報を打とう 157 00:11:18,553 --> 00:11:19,554 分かった 158 00:11:19,638 --> 00:11:21,556 アハハハッ 159 00:11:21,640 --> 00:11:25,560 じゃ 網走(あばしり)へ向けて 出発だな アシㇼパさん 160 00:11:27,270 --> 00:11:28,563 ああ 161 00:11:29,523 --> 00:11:32,859 (杉元)オホホホホ~イ 162 00:11:37,823 --> 00:11:42,411 (鯉登音之進(こいと おとのしん))ハア 鶴見中尉殿に叱られる 163 00:11:42,494 --> 00:11:47,207 白石由竹を逃がしたと聞いて さぞかし お怒りだっただろう 164 00:11:47,833 --> 00:11:49,292 どんな様子だった? 165 00:11:50,544 --> 00:11:51,878 月島(つきしま)軍曹 166 00:11:51,962 --> 00:11:56,842 鶴見中尉殿は 私のことを 何か言ってなかったか? 167 00:11:56,925 --> 00:11:58,593 (月島基(はじめ))あ… (鯉登)言わなくていい 168 00:11:58,677 --> 00:12:00,178 分かってる 月島 169 00:12:00,262 --> 00:12:03,265 きっと 私は 網走にでも行かされて 170 00:12:03,348 --> 00:12:07,978 犬童四郎助(いぬどう しろすけ)の監視でも やらされるのだ ああ… 171 00:12:08,061 --> 00:12:10,313 鯉登少尉 お気を確かに 172 00:12:10,397 --> 00:12:13,692 ほらほら 頼まれた写真を持ってきましたよ 173 00:12:10,397 --> 00:12:13,692 (鯉登の叫び声) 174 00:12:13,775 --> 00:12:14,776 (鯉登)ハツ 175 00:12:14,860 --> 00:12:18,530 おお よい よい よいではないか 月島 176 00:12:18,613 --> 00:12:24,119 鶴見中尉殿のお顔に 傷がないから 奉天(ほうてん)会戦の前くらいか 177 00:12:25,036 --> 00:12:26,037 ハア 178 00:12:26,705 --> 00:12:28,915 私は 月島軍曹が羨ましい 179 00:12:28,999 --> 00:12:30,000 ん? 180 00:12:30,709 --> 00:12:33,462 あと ほんの少し 早く生まれていれば― 181 00:12:33,545 --> 00:12:36,965 私も おともすることができたのに 182 00:12:37,799 --> 00:12:39,009 (貼り付ける音) 183 00:12:39,092 --> 00:12:41,887 (鯉登)いいぞ ピッタリだ 184 00:12:41,970 --> 00:12:44,681 月島 米を潰して のりを作ってくれ 185 00:12:45,182 --> 00:12:46,391 嫌です 186 00:12:47,434 --> 00:12:49,394 (鶴見篤四郎(とくしろう))来てたのか 鯉登少尉 187 00:12:49,478 --> 00:12:51,855 キエエエ! 188 00:12:52,772 --> 00:12:54,191 (鶴見)やあ 189 00:12:54,941 --> 00:12:56,693 すんもはん おいが とぼれんかったで 190 00:12:56,776 --> 00:12:58,111 白石をひっにがしてしまいもした 191 00:12:58,195 --> 00:13:00,197 じゃっどん入れ墨だけは 事前に写しちょいもした 192 00:13:00,280 --> 00:13:01,990 じゃっちゅってん 許さるいわけじゃあいもはんどん 193 00:13:02,616 --> 00:13:03,909 (鶴見)落ち着け 194 00:13:03,992 --> 00:13:08,455 早口の薩摩弁(さつまべん)だと まったく 聞き取れんぞ 深呼吸しろ 195 00:13:08,538 --> 00:13:11,458 (深呼吸する音) 196 00:13:11,541 --> 00:13:14,920 ひっにがしてしまいもしたどん 白石ん入れ墨は写しちょいもした 197 00:13:15,003 --> 00:13:16,087 (鶴見)分からん 198 00:13:16,171 --> 00:13:17,589 (鯉登)月島 199 00:13:17,672 --> 00:13:21,718 白石に逃げられはしましたが 入れ墨は写しておきましたと言え 200 00:13:21,801 --> 00:13:22,969 アハッ 201 00:13:23,053 --> 00:13:25,347 白石の入れ墨は 写してあるそうです 202 00:13:25,430 --> 00:13:26,890 (鶴見)どうして 私にだけ― 203 00:13:26,973 --> 00:13:30,143 早口の薩摩弁になるのだ? 鯉登少尉 204 00:13:30,227 --> 00:13:35,774 白石という男に 利用価値があると 判断したから 殺すなと命じたのだ 205 00:13:35,857 --> 00:13:41,530 それをみすみす 敵の手に渡すとは 失望したぞ 鯉登少尉 206 00:13:41,613 --> 00:13:43,323 ぐ… ああ 207 00:13:44,449 --> 00:13:45,450 ハッ 208 00:13:55,293 --> 00:13:58,255 ほほう 似合ってるじゃないか 209 00:13:58,338 --> 00:14:01,466 犬童に化けていた囚人の皮だな? 210 00:14:01,550 --> 00:14:04,636 確かに これは思わぬ収穫だったな 211 00:14:04,719 --> 00:14:07,556 情報を総合するに この刺青人皮(いれずみにんぴ)は― 212 00:14:07,639 --> 00:14:11,184 詐欺師の鈴川聖弘(すずかわ きよひろ)と見ていいだろう 213 00:14:11,268 --> 00:14:13,395 (鶴見)よくやったぞ 鯉登少尉 (鯉登)んん 214 00:14:14,187 --> 00:14:15,313 (鶴見)ただ… 215 00:14:16,147 --> 00:14:17,816 剪(せん)が甘いな 216 00:14:17,899 --> 00:14:19,276 があ… 217 00:14:19,359 --> 00:14:21,111 すんもはん すんもはん 218 00:14:21,194 --> 00:14:23,780 そういうところだぞ 鯉登少尉 219 00:14:23,863 --> 00:14:25,198 (鯉登)すんもはん すんもはん 220 00:14:25,282 --> 00:14:27,909 (鯉登)すんもはん… (鶴見)お前は 旭川(あさひかわ)での任務を外れろ 221 00:14:27,993 --> 00:14:29,869 う… ああ 222 00:14:31,288 --> 00:14:33,373 (鶴見)これからは… (鯉登)ハッ 223 00:14:34,541 --> 00:14:37,752 私の囚人狩りに参加するのだ 224 00:14:37,836 --> 00:14:39,379 ハア… 225 00:14:41,298 --> 00:14:42,382 あ… 226 00:14:43,925 --> 00:14:45,135 (ささやき声) 227 00:14:45,844 --> 00:14:48,138 精進いたしますと言ってます 228 00:14:49,556 --> 00:14:51,391 面倒くさい 229 00:14:51,474 --> 00:14:56,104 旭川で 白石と杉元と共に 飛行船に乗っていたのは― 230 00:14:56,187 --> 00:14:59,399 間違いなく 尾形百之助だったんだな? 231 00:14:59,482 --> 00:15:01,276 (鯉登のささやき声) (月島)はい 232 00:15:01,359 --> 00:15:03,695 (ささやき声) (月島)尾形の父である― 233 00:15:03,778 --> 00:15:05,488 元第七師団長― 234 00:15:05,572 --> 00:15:09,534 花沢幸次郎(はなざわ こうじろう)中将の自刃に 泥を塗る行為でありますと 235 00:15:09,618 --> 00:15:10,785 (鯉登のささやき声) 236 00:15:10,869 --> 00:15:16,583 私の父ですら 花沢中将の自刃を 第七師団の責任とした中央へ― 237 00:15:16,666 --> 00:15:18,877 強い不信感を 持っているのに― 238 00:15:18,960 --> 00:15:21,129 尾形は 一体 どういうつもりなのかと 239 00:15:21,212 --> 00:15:23,423 鯉登少尉の父君は― 240 00:15:23,506 --> 00:15:29,262 花沢中将と同じ 薩摩の生まれで ご親友同士であったそうだな 241 00:15:30,180 --> 00:15:33,725 自刃は 二〇三(にひゃくさん)高地の 甚大な被害を― 242 00:15:33,808 --> 00:15:38,813 中央が すべて 花沢中将に なすりつけたのが原因だ 243 00:15:38,897 --> 00:15:44,110 尾形百之助も当然 父君の名誉と 第七師団のために― 244 00:15:44,194 --> 00:15:48,323 戦ってくれると 私は信じていたのだが… 245 00:15:52,661 --> 00:15:54,329 (尾形)当時― 246 00:15:54,412 --> 00:15:58,917 父上は 近衛歩兵第一連隊長 陸軍中佐 247 00:15:59,000 --> 00:16:02,962 世間体を考えれば 浅草(あさくさ)の芸者と その子供は― 248 00:16:03,046 --> 00:16:05,590 疎ましく感じたでしょう 249 00:16:06,216 --> 00:16:09,219 本妻との間に男児が生まれると 250 00:16:09,302 --> 00:16:13,598 父上は ぱったり来なくなったと 祖母から聞きました 251 00:16:13,682 --> 00:16:19,604 祖母は母と まだ赤ん坊の俺を 茨城の実家に連れ戻した 252 00:16:20,230 --> 00:16:23,608 母は よく アンコウ鍋を 作ってくれました 253 00:16:23,692 --> 00:16:26,778 西のフグに 東のアンコウってね 254 00:16:26,861 --> 00:16:31,991 地元の庶民的な鍋です 俺も好きで食べてました 255 00:16:32,742 --> 00:16:36,746 でもね それが 毎日なんですよ 256 00:16:36,830 --> 00:16:41,209 冬の時期はね 母は毎日― 257 00:16:42,043 --> 00:16:44,671 アンコウ鍋を作ろうとするんです 258 00:16:45,422 --> 00:16:47,590 父上が おいしいと 言ってくれたから 259 00:16:47,674 --> 00:16:53,555 また食べに来てくれると信じて 毎日 毎日… 260 00:16:54,389 --> 00:16:56,850 頭が おかしくなってたんです 261 00:16:56,933 --> 00:17:00,270 (銃声) 262 00:17:01,688 --> 00:17:04,065 (尾形)俺は 祖父の古い銃を 持ち出して 263 00:17:04,149 --> 00:17:07,277 畑へ行って 鳥を撃った 264 00:17:10,989 --> 00:17:16,703 鳥があれば 母は アンコウ鍋を 作らないと思って 265 00:17:18,163 --> 00:17:19,998 でも いくら 鳥を撃っても 266 00:17:21,291 --> 00:17:24,461 アンコウ鍋を作り続けるんです 267 00:17:26,212 --> 00:17:28,256 だから 俺は― 268 00:17:29,257 --> 00:17:31,885 祖父母が 留守の時― 269 00:17:31,968 --> 00:17:36,931 殺鼠剤(さっそざい)をアンコウ鍋に入れて 母に食べさせた 270 00:17:40,226 --> 00:17:43,646 少しでも 母に対する愛情が 残っていれば― 271 00:17:43,730 --> 00:17:46,691 父上は 葬式に来てくれるだろう 272 00:17:47,650 --> 00:17:52,697 母は 最期に愛した人に 会えるだろうと 273 00:17:55,283 --> 00:17:56,326 でも… 274 00:17:59,204 --> 00:18:01,289 あなたは来なかった 275 00:18:01,831 --> 00:18:04,042 (花沢幸次郎) 自分たちを捨てた恨みとでも 276 00:18:04,125 --> 00:18:07,253 言うつもりじゃあるまいな 277 00:18:08,004 --> 00:18:11,841 貴様も 頭のおかしくなった母親が 哀れで 278 00:18:11,925 --> 00:18:14,344 疎ましかったのだろう 279 00:18:14,427 --> 00:18:16,805 私と同じじゃ 280 00:18:16,888 --> 00:18:20,558 (尾形)子供は 親を選べません 281 00:18:21,100 --> 00:18:26,523 愛という言葉は 神と同じくらい 存在が あやふやなものですが― 282 00:18:26,606 --> 00:18:28,608 仮に あなたに愛情があれば― 283 00:18:28,691 --> 00:18:32,445 母を見捨てることは なかったと思います 284 00:18:32,529 --> 00:18:37,075 愛情のない親が 交わってできる子供は― 285 00:18:37,158 --> 00:18:40,995 何かが欠けた人間に 育つのですかねえ 286 00:18:41,079 --> 00:18:44,457 どんなに ご立派な地位の父親でも 287 00:18:45,959 --> 00:18:49,128 父上と本妻との間に 生まれた息子さん 288 00:18:49,921 --> 00:18:53,174 花沢勇作(ゆうさく)少尉が 高潔な人物だったことも 289 00:18:53,258 --> 00:18:55,593 証明してる気がします 290 00:18:56,135 --> 00:19:00,014 入隊して 初めて会いましたが 面を食らいましたよ 291 00:19:00,890 --> 00:19:04,310 規律が緩みますからと 何度 注意しても 292 00:19:04,394 --> 00:19:07,105 部下の俺を 兄様(あにさま)と呼ぶのです 293 00:19:07,188 --> 00:19:11,025 一人っ子育ちで ずっと 兄弟が欲しかったと 294 00:19:11,109 --> 00:19:13,486 俺に まとわりつくのです 295 00:19:14,153 --> 00:19:15,905 あの屈託のない笑顔 296 00:19:16,990 --> 00:19:19,075 ああ… 297 00:19:19,158 --> 00:19:24,163 これが 両親から祝福されて 生まれた子供なのだ 298 00:19:24,247 --> 00:19:27,166 …と 心底 納得しました 299 00:19:27,250 --> 00:19:30,003 ところで 花沢勇作少尉が― 300 00:19:30,086 --> 00:19:31,296 二〇三高地で どうやって 亡くなったか… 301 00:19:31,296 --> 00:19:32,839 二〇三高地で どうやって 亡くなったか… 302 00:19:31,296 --> 00:19:32,839 (足音) 303 00:19:32,922 --> 00:19:33,923 (花沢)うう… 304 00:19:34,424 --> 00:19:38,887 (尾形)父上は 本当のことを ご存じないはずだ 305 00:19:43,349 --> 00:19:44,726 (銃声) 306 00:19:46,352 --> 00:19:49,480 (尾形)俺が 後頭部を撃ち抜きました 307 00:19:51,566 --> 00:19:54,152 少尉殿に対する 妬みからじゃありません 308 00:19:54,235 --> 00:19:58,698 父上を苦しませたいというのとも ちょっと違う 309 00:19:59,490 --> 00:20:03,036 ただ 1つ確かめてみたかった 310 00:20:03,620 --> 00:20:06,789 勇作さんの戦死を聞いた時― 311 00:20:06,873 --> 00:20:10,126 父上は 俺を思ったのか 312 00:20:10,919 --> 00:20:13,796 無視し続けた妾(めかけ)の息子が― 313 00:20:13,880 --> 00:20:17,133 急に いとおしくなったのではないかと 314 00:20:21,721 --> 00:20:26,476 祝福された道が 俺にもあったのか 315 00:20:34,233 --> 00:20:36,319 (花沢)貴様の言うとおり― 316 00:20:37,320 --> 00:20:41,824 何かが欠けた人間 出来損ないのせがれじゃ 317 00:20:43,910 --> 00:20:46,204 呪われろ 318 00:21:08,601 --> 00:21:11,479 (鶴見)中央は 第七師団に― 319 00:21:11,562 --> 00:21:14,649 自刃の責任をかぶせるだろう 320 00:21:14,732 --> 00:21:19,195 我々にとって 厳しい時になるが 耐え忍ぶのだ 321 00:21:19,278 --> 00:21:24,325 外敵を作った第七師団は より結束が強くなる 322 00:21:24,409 --> 00:21:30,373 第七師団は ただ1人 残された 花沢中将のご令息を担ぎ上げる 323 00:21:30,456 --> 00:21:34,293 失った軍神を 貴様の中に見るはずだ 324 00:21:34,377 --> 00:21:38,631 よくやったぞ 尾形百之助 325 00:21:41,300 --> 00:21:44,721 よくやった 326 00:21:46,764 --> 00:21:48,933 (尾形)たらしめが 327 00:22:04,991 --> 00:22:09,620 ♪~ 328 00:23:27,490 --> 00:23:33,496 ~♪