1 00:00:34,668 --> 00:00:38,338 (新之助)いや~ うちも活気が出てきましたね 2 00:00:38,338 --> 00:00:41,675 (寅次郎)ええ 一気に人も増えましたから 3 00:00:41,675 --> 00:00:44,344 御頭 何か心配事でも? 4 00:00:44,344 --> 00:00:47,681 (源吾)皆 めきめきと 腕を上げているのは確かだ 5 00:00:47,681 --> 00:00:49,783 問題は… (彦弥)よっと 6 00:00:52,519 --> 00:00:54,521 《くっ…》 7 00:00:54,521 --> 00:00:57,524 《バカ言うな 勝手に逝ったら》 8 00:00:57,524 --> 00:01:02,029 《三途の川でも 一跳びして連れ戻してやる》 9 00:01:02,029 --> 00:01:04,364 <俺の腕が落ちてるってことだ> 10 00:01:04,364 --> 00:01:06,366 (新之助)御頭? 11 00:01:06,366 --> 00:01:08,368 問題っていうのは? 12 00:01:08,368 --> 00:01:12,039 いや 秋から冬にかけては 火事も増えるだろう 13 00:01:12,039 --> 00:01:16,209 ええ それまでに 体制を整えねばなりませんね 14 00:01:16,209 --> 00:01:20,013 (風の音) やはり 風読みが必要か 15 00:01:22,049 --> 00:02:12,366 ♬~ 16 00:03:04,184 --> 00:03:06,520 (蕎麦をすする音) 17 00:03:06,520 --> 00:03:10,690 いや~ うまい! さすが蕎麦屋番付の関脇だ 18 00:03:10,690 --> 00:03:15,529 (口笛) 看板娘も気立てがよさそうないい娘さんだしな 19 00:03:15,529 --> 00:03:18,865 すいませ~ん おかわり 早っ! 20 00:03:18,865 --> 00:03:24,371 お前らなあ 風読みの話をするついでに 飯に来たって名目を忘れるなよ 21 00:03:24,371 --> 00:03:26,873 分かってますよ しかし 御頭 22 00:03:26,873 --> 00:03:31,044 風読みを探すったって そんな簡単に見つかるもんですかねえ? 23 00:03:31,044 --> 00:03:34,147 普通に探すとなると 大変だろうな 24 00:03:34,147 --> 00:03:36,483 確か 当てがあるとか? 25 00:03:36,483 --> 00:03:41,655 ああ 昔 俺が飯田町定火消だった頃の風読みだ 26 00:03:41,655 --> 00:03:46,493 名前が少々物騒でな 俺は おやっさんと呼んでいたんだが… 27 00:03:46,493 --> 00:03:49,329 物騒な名前っていうと? 28 00:03:49,329 --> 00:03:52,332 加持孫一 (彦弥・寅次郎・新之助)カジ!? 29 00:03:52,332 --> 00:03:55,836 火消にとっちゃあ縁起が悪すぎる 確かに 30 00:03:55,836 --> 00:04:00,674 だがな 俺の知る限り おやっさんは完全無欠の風読みだ 31 00:04:00,674 --> 00:04:03,176 これまで 風を読み間違えたことがねえ 32 00:04:03,176 --> 00:04:07,180 そんなすげえ人なら 今でも定火消にいるんじゃねえんですか? 33 00:04:07,180 --> 00:04:11,284 いや おやっさんは 俺よりも先に火消をやめたんだ 34 00:04:12,352 --> 00:04:14,354 《火消をやめる!?》 35 00:04:15,689 --> 00:04:20,193 《(孫一)私も ここで 御頭と火消をしていたかったのですが》 36 00:04:20,193 --> 00:04:23,497 《少しばかり 野暮用ができてしまいました》 37 00:04:24,698 --> 00:04:27,534 おやっさんの言う 野暮用ってのが何なのか 38 00:04:27,534 --> 00:04:30,704 結局 最後まで話しちゃくれなかったが 39 00:04:30,704 --> 00:04:35,142 あれから七年だ いい加減 片がついてる頃だろう 40 00:04:35,142 --> 00:04:38,979 その孫一さんが 今どこにいるかは ご存じで? 41 00:04:38,979 --> 00:04:43,150 いや 左門に頼んで 消息をたどってもらっているんだが 42 00:04:43,150 --> 00:04:46,987 お嬢さん ここの蕎麦は随分とうまいが 43 00:04:46,987 --> 00:04:49,489 何か秘密でもあるのかい? 44 00:04:49,489 --> 00:04:52,159 (新之助・寅次郎・源吾)はあ… ヘッ 45 00:04:52,159 --> 00:04:54,661 (お鈴) 秘密ってほどでもないんですけど 46 00:04:54,661 --> 00:04:57,831 うちは 信濃の蕎麦の実を使ってるんです 47 00:04:57,831 --> 00:04:59,833 店の裏に土蔵があって 48 00:04:59,833 --> 00:05:03,503 そこに保管しておくと 状態がよく保てるんです 49 00:05:03,503 --> 00:05:07,674 へえ~ それって この辺の蕎麦屋じゃ珍しい… うん? 50 00:05:07,674 --> 00:05:10,343 いらっしゃいませ 51 00:05:10,343 --> 00:05:12,846 けっ… ハハハハハ… 52 00:05:12,846 --> 00:05:15,515 お一人様ですか? ああ 53 00:05:15,515 --> 00:05:17,517 お客さん すみません 54 00:05:17,517 --> 00:05:22,522 ただ今 席が埋まっておりまして ほんの少しお待ちいただけますか? 55 00:05:24,357 --> 00:05:28,361 あそこの奥が空いているのでは? あ… あの… 56 00:05:28,361 --> 00:05:31,698 申し訳ございません お客様 お鈴… 57 00:05:31,698 --> 00:05:37,470 あの席はまもなく鍵屋さん達… いえ 常連さん達が来るんです 58 00:05:37,470 --> 00:05:40,173 (蕎麦をすする音) 59 00:05:41,141 --> 00:05:43,643 何だと!? (錫杖を打ちつける) 60 00:05:44,644 --> 00:05:47,447 けっ! あっ… フン! あっ… 61 00:05:48,481 --> 00:05:51,818 坊さん 俺達も すぐに食い終わるから 62 00:05:51,818 --> 00:05:54,020 少しだけ待ってやりなよ 63 00:05:57,991 --> 00:05:59,993 うん? 64 00:06:01,328 --> 00:06:03,330 貴様は… 65 00:06:03,330 --> 00:06:06,833 気持ちよく食ってやらねえと 蕎麦も泣くぜ 66 00:06:06,833 --> 00:06:10,337 フフッ 蕎麦など食ってる場合か 67 00:06:17,010 --> 00:06:20,513 はあ… ありがとうございました 68 00:06:20,513 --> 00:06:25,352 いや しかし お鈴と言ったか 大した度胸だな 69 00:06:25,352 --> 00:06:31,024 女将さんは 私を娘代わりに育ててくれた 恩人なんです 当然です 70 00:06:31,024 --> 00:06:34,127 そうか そいつは感心なことだ 71 00:06:34,127 --> 00:06:36,296 ご迷惑おかけしました 72 00:06:36,296 --> 00:06:42,302 鍵屋さんは お得意様なんですけど 少々お行儀がよくないせいで 評判が悪く… 73 00:06:42,302 --> 00:06:45,205 そりゃ色々と大変だな 74 00:06:47,974 --> 00:06:51,144 (お鈴)ありがとうございました (戸が閉まる) 75 00:06:51,144 --> 00:06:54,814 しっかし 最近は 江戸も変な輩が増えましたねえ 76 00:06:54,814 --> 00:06:59,819 お前も十分変だろ あの空気の中で普通に蕎麦すすりやがって 77 00:06:59,819 --> 00:07:04,157 まあ それだけ 蕎麦がおいしかったってことで 78 00:07:04,157 --> 00:07:06,826 御頭は これからどうするんです? 79 00:07:06,826 --> 00:07:12,332 左門に おやっさんの消息について 何か分かったことはないか聞きに行く 80 00:07:12,332 --> 00:07:15,735 お前達は戻っていてくれ 分かりました 81 00:07:26,012 --> 00:07:30,016 《おやっさん》 《御頭 どうしました?》 82 00:07:30,016 --> 00:07:33,453 《今日も風読みがピタリと当たって ケガ人なしだったんだ》 83 00:07:33,453 --> 00:07:37,757 《たまには一杯いいだろ? 月見酒ってやつさ》 84 00:07:39,793 --> 00:07:42,962 《俺は ずっと不思議なんだが》 85 00:07:42,962 --> 00:07:44,964 《何でしょう?》 86 00:07:46,132 --> 00:07:49,969 《おやっさんは火消なんて身分で くすぶってるような人間じゃないだろう?》 87 00:07:49,969 --> 00:07:52,973 《それは 買いかぶりというものですよ》 88 00:07:52,973 --> 00:07:55,308 《何で 火消になろうと思ったんだ?》 89 00:07:55,308 --> 00:07:59,646 《うん… 屋内で風を感じられますか?》 90 00:07:59,646 --> 00:08:02,983 《月を眺めることができますかな?》 91 00:08:02,983 --> 00:08:08,655 《人は外に出でてこそ 星のように輝くのです》 92 00:08:08,655 --> 00:08:11,658 《あ… すまん おやっさん どういう意味…》 93 00:08:11,658 --> 00:08:14,494 《ハハハハハハ…》 94 00:08:14,494 --> 00:08:16,696 (左門)源吾 95 00:08:17,831 --> 00:08:22,002 (左門)ちょうどよかった お前を訪ねに向かっていたところだ 96 00:08:22,002 --> 00:08:24,671 おやっさんの件 何か分かったのか? 97 00:08:24,671 --> 00:08:27,173 ああ 何とか伝手を頼って 98 00:08:27,173 --> 00:08:30,010 孫一殿を知っているお方に たどり着いたぞ 99 00:08:30,010 --> 00:08:32,612 本当か! 何という御方だ? 100 00:08:32,612 --> 00:08:36,950 山路連貝軒 幕府の天文方だ 101 00:08:36,950 --> 00:08:39,652 幕府 天文方? 102 00:08:40,620 --> 00:08:45,125 突然の面会にも快く応じていただき ありがとうございます 103 00:08:45,125 --> 00:08:48,795 (山路)何 相手が あの 火喰鳥殿とあっては 104 00:08:48,795 --> 00:08:52,799 断る理由もないというもの なぜ それを? 105 00:08:52,799 --> 00:08:58,805 渋川孫一は貴殿のことを話すとき それはもう楽しげでしてな 106 00:08:58,805 --> 00:09:01,474 しぶかわ… 加持孫一では? 107 00:09:01,474 --> 00:09:04,144 そうか どこから話せばよいか 108 00:09:04,144 --> 00:09:07,147 少し長くなるが かまいません 109 00:09:07,147 --> 00:09:12,986 孫一はな 幕府初代天文方に任じられた渋川家の一族 110 00:09:12,986 --> 00:09:17,991 それも三代目天文方 渋川敬尹の息子なのだ 111 00:09:17,991 --> 00:09:22,829 ただ 出生に秘密があってな 出生の秘密… 112 00:09:22,829 --> 00:09:27,667 敬尹は天文の勉学のため 長崎の出島に足を運んだ 113 00:09:27,667 --> 00:09:30,336 そこで 孫一の母と出会ったのだ 114 00:09:30,336 --> 00:09:33,940 つまり 孫一の母は南蛮人ということだ 115 00:09:33,940 --> 00:09:38,445 南蛮人… 確かに彫りの深い顔だとは思っていましたが 116 00:09:38,445 --> 00:09:42,282 (山路)孫一は 幼い頃より天文を学んだが➡ 117 00:09:42,282 --> 00:09:45,952 妾の子ゆえに 家を継げないということもあって 118 00:09:45,952 --> 00:09:48,955 三十で 家を出ることにしたそうだ 119 00:09:48,955 --> 00:09:51,458 私と出会うまでは何を? 120 00:09:51,458 --> 00:09:56,463 名を加持に改めると ますます その知識に磨きをかけた 121 00:09:56,463 --> 00:09:59,632 南蛮の天文学を隅まで調べ上げ 122 00:09:59,632 --> 00:10:03,803 わしを遥かに超える知識を 身につけるほどにな 123 00:10:03,803 --> 00:10:06,639 そんな人が 何で火消に? 124 00:10:06,639 --> 00:10:08,975 あやつは常々言っておった 125 00:10:08,975 --> 00:10:12,979 人々の暮らしに寄り添わずして 何が天文学だと 126 00:10:12,979 --> 00:10:18,151 学びは世の中にあり 得たことは世の中に還元せねばならんと 127 00:10:18,151 --> 00:10:23,490 還元… それが 火消として人々の役に立つことだったのか 128 00:10:23,490 --> 00:10:26,493 だが おやっさんは火消をやめた 129 00:10:26,493 --> 00:10:30,997 わしが呼んだのだ 暦の編纂に力を貸してほしいと 130 00:10:30,997 --> 00:10:33,500 精度の悪い暦を使い続ければ 131 00:10:33,500 --> 00:10:38,171 民に無用な苦しみを与えるではないかと 詰め寄ってな 132 00:10:38,171 --> 00:10:40,173 そうだったのですか 133 00:10:40,173 --> 00:10:44,844 野暮用とは暦の編纂… では おやっさんは まだ暦を? 134 00:10:44,844 --> 00:10:49,015 (山路)孫一は死んだ 火消をやめて程なくしてな 135 00:10:49,015 --> 00:10:51,017 一体なぜ… 136 00:10:51,017 --> 00:10:53,019 火事だ 137 00:10:56,022 --> 00:10:58,725 (山路)京に向かう旅の途中 138 00:11:01,027 --> 00:11:05,365 (山路)もう少しで京という 守山宿に着いた日のこと➡ 139 00:11:05,365 --> 00:11:09,769 我々の泊まった近隣の宿から出火したのだ 140 00:11:11,037 --> 00:11:15,542 (山路)宿場火消は 近江の夜は山風になると主張して➡ 141 00:11:15,542 --> 00:11:18,211 西側を破壊しようとしていた➡ 142 00:11:18,211 --> 00:11:21,714 孫一は 昨日までの雨で琵琶湖の水は冷え➡ 143 00:11:21,714 --> 00:11:25,718 風向きは変わらないから 東側を壊せと説いたが➡ 144 00:11:25,718 --> 00:11:28,321 聞き入れてもらえなかった 145 00:11:31,891 --> 00:11:36,329 (山路)果たして 孫一の言うとおり 湖からの風にあおられ➡ 146 00:11:36,329 --> 00:11:38,998 瞬く間に宿場は火の海となり➡ 147 00:11:38,998 --> 00:11:43,503 初動を誤った火消は退却を始めた➡ 148 00:11:43,503 --> 00:11:48,675 孫一は 老人に女子供 逃げ遅れた病人を助け続けた➡ 149 00:11:48,675 --> 00:11:52,979 そして まだ逃げ遅れた者達がいると聞いた孫一は… 150 00:11:54,013 --> 00:11:56,349 《行くな!》 151 00:11:56,349 --> 00:12:00,353 《わし達も逃げなければ 命が危ういのだぞ!》 152 00:12:00,353 --> 00:12:03,856 《すまぬ これでも火消の端くれなのだ》 153 00:12:03,856 --> 00:12:07,360 《行くな 孫一! 孫一!》 154 00:12:07,360 --> 00:12:11,864 (山路)それが わしが見た孫一の最後の姿だ 155 00:12:11,864 --> 00:12:15,268 おやっさんは もう いないのですね 156 00:12:16,869 --> 00:12:21,708 貴重なお話を聞かせていただき ありがとうございました 157 00:12:21,708 --> 00:12:24,544 ああ… 待たれよ 松永殿 158 00:12:24,544 --> 00:12:26,879 まだ諦めるのは早いかと 159 00:12:26,879 --> 00:12:29,882 孫一が唯一 天才と呼んだ男がいる 160 00:12:29,882 --> 00:12:33,987 もしかしたら おぬしの力になってくれるかもしれん 161 00:12:33,987 --> 00:12:35,989 その男はどこに? 162 00:12:35,989 --> 00:12:38,992 今は荒川を越えた宮城村にいる 163 00:12:38,992 --> 00:12:41,327 名を加持星十郎➡ 164 00:12:41,327 --> 00:12:45,031 孫一の息子にして 希代の天才だ 165 00:12:47,333 --> 00:12:50,336 (新之助) どうやら ここみたいですよ 166 00:12:51,337 --> 00:12:54,507 (戸を叩いて)御免 (戸を開けようとする音) 167 00:12:54,507 --> 00:12:58,011 しゃらくせえ 蹴破ってやろうか 168 00:12:58,011 --> 00:13:00,680 おっ こりゃどうも 169 00:13:00,680 --> 00:13:03,850 加持孫一殿のご子息でしょうか? 170 00:13:03,850 --> 00:13:06,185 (星十郎)松永源吾殿ですね 171 00:13:06,185 --> 00:13:08,688 (新之助・源吾・彦弥)あ… なぜ それを… 172 00:13:08,688 --> 00:13:11,357 見たところ 年の頃や身分もバラバラ 173 00:13:11,357 --> 00:13:14,527 それにあなた その右手…➡ 174 00:13:14,527 --> 00:13:16,696 やけどの痕では? 175 00:13:16,696 --> 00:13:20,533 さらに 父の名前を出して ここを訪ねてくるとなれば 176 00:13:20,533 --> 00:13:23,036 まず 間違いなく火消…➡ 177 00:13:23,036 --> 00:13:26,706 そうなると 答えは自然と絞られます 178 00:13:26,706 --> 00:13:29,876 さすがです ならば話は早い 179 00:13:29,876 --> 00:13:33,813 新庄藩は ぜひとも 加持殿をお迎えしたいと思っているのです 180 00:13:33,813 --> 00:13:38,017 立ってする話ではないようですね どうぞ 中へ 181 00:13:42,822 --> 00:13:44,824 なぜ 私を? 182 00:13:44,824 --> 00:13:47,994 天文方として 少ないかもしれませんが 183 00:13:47,994 --> 00:13:50,496 百三十石を用意しております 184 00:13:50,496 --> 00:13:53,499 普段は研究 観測をご自由になさって 185 00:13:53,499 --> 00:13:57,337 不測の事態の折のみ 現場に出ていただきたい 186 00:13:57,337 --> 00:14:00,506 不足の事態の現場というのは? 187 00:14:00,506 --> 00:14:03,009 火事場にござる 188 00:14:03,009 --> 00:14:05,678 お断りします あ… 189 00:14:05,678 --> 00:14:09,182 私は 父と同じ道を歩むつもりはありません 190 00:14:09,182 --> 00:14:13,686 父は賢き御方であったが 同時に愚かな御方でもあった 191 00:14:13,686 --> 00:14:15,688 どういう意味でしょう? 192 00:14:15,688 --> 00:14:19,192 学者には 学者の本分というものがございます 193 00:14:19,192 --> 00:14:22,361 火消遊びなど 所詮はよそ事 194 00:14:22,361 --> 00:14:27,200 揚げ句の果てに そのよそ事で犬死になさるとは 195 00:14:27,200 --> 00:14:29,202 おい てめえよ! 196 00:14:31,204 --> 00:14:36,976 なすべきことをなさずに亡くなられたことは 犬死にと申せましょう 197 00:14:36,976 --> 00:14:38,978 私は そうは思いません 198 00:14:38,978 --> 00:14:43,483 が 貴殿がそこまで言うなすべきこととは 何でしょうか? 199 00:14:43,483 --> 00:14:47,487 天の理 世の理を顕かにする 200 00:14:47,487 --> 00:14:51,324 学問の道は それ以上でも それ以下でもございません 201 00:14:51,324 --> 00:14:55,661 やい 赤髪! その大層な学問で天の何が分かる! 202 00:14:55,661 --> 00:14:57,663 はあ… 203 00:14:57,663 --> 00:14:59,665 例えば 月までの距離 204 00:14:59,665 --> 00:15:03,336 あ? フッ あ… 205 00:15:03,336 --> 00:15:07,507 ご存じなかろうが ジェローム・ラランドという男 206 00:15:07,507 --> 00:15:10,676 既に 月までの距離を求め終えております 207 00:15:10,676 --> 00:15:15,014 この国の学問とは雲泥の差がある あ… 208 00:15:15,014 --> 00:15:18,684 今 あなたは うつむきながら首を触った 209 00:15:18,684 --> 00:15:21,354 つまり 不安になっているということ 210 00:15:21,354 --> 00:15:24,190 何だと!? 適当なことを… 211 00:15:24,190 --> 00:15:29,695 ピシフォロフィー 蘭語を直訳すれば心理学とでも申しましょうか 212 00:15:29,695 --> 00:15:34,634 南蛮では人の心の成り立ちから 推移までも研究しているんです 213 00:15:34,634 --> 00:15:38,137 ご存じないとは思いますが ハハッ 214 00:15:38,137 --> 00:15:43,142 それが何だってんだ! 火消が人の命を救うより偉いってのか!? 215 00:15:43,142 --> 00:15:46,312 人の命を救う ですか 216 00:15:46,312 --> 00:15:49,315 松永殿 何でしょうか 217 00:15:49,315 --> 00:15:53,486 (星十郎)あなたは火消を つい最近まで やめていたそうですね➡ 218 00:15:53,486 --> 00:15:56,322 一体どういうつもりで また始めたのです? 219 00:15:56,322 --> 00:15:59,492 どうせ また理由があれば やめてしまうのでは? 220 00:15:59,492 --> 00:16:02,829 なっ! この… 221 00:16:02,829 --> 00:16:05,665 そう思われるのも仕方ない しかし 222 00:16:05,665 --> 00:16:09,836 私は今度こそ 命を懸けて この仕事を続ける覚悟です 223 00:16:09,836 --> 00:16:14,006 父は確かに 火消として いくらかの命を救ったのでしょう 224 00:16:14,006 --> 00:16:16,509 しかし 学者として生きていれば➡ 225 00:16:16,509 --> 00:16:21,013 火消一人が一生かかっても 救えない数の人間が救われたはず 226 00:16:22,181 --> 00:16:25,685 私は 父の生き方に納得ができません 227 00:16:25,685 --> 00:16:31,691 目先の感情で全てを忘れてしまうような 生き方など したくはないのです 228 00:16:31,691 --> 00:16:34,460 しかし… (星十郎)父は我が一名に➡ 229 00:16:34,460 --> 00:16:36,963 星の一文字をつけられた 230 00:16:36,963 --> 00:16:39,966 天文の道を継いでほしいはず 231 00:16:39,966 --> 00:16:43,469 私は 父上のやり残したことを成し遂げます 232 00:16:45,304 --> 00:16:50,476 これ以上 お話しすることはありません どうか お引き取りを 233 00:16:50,476 --> 00:16:56,148 そうか かなり癖の強い人物のようだな 234 00:16:56,148 --> 00:16:59,318 私は 星十郎さんの気持ちも分かります 235 00:16:59,318 --> 00:17:05,491 私だって父が火消の職を全うしたから 死んでも仕方ない とは思えない 236 00:17:05,491 --> 00:17:08,661 そうだろうな あ… 237 00:17:08,661 --> 00:17:12,832 だがな あれは うちに絶対に必要な男だ 238 00:17:12,832 --> 00:17:16,502 俺は 御頭が風読みをしてくれりゃ十分だぜ 239 00:17:16,502 --> 00:17:18,671 俺じゃ力不足だ 240 00:17:18,671 --> 00:17:23,342 俺が昔 火消としてやっていけたのは おやっさんの力が大きい 241 00:17:23,342 --> 00:17:25,511 それに 俺が風読みをすれば… 242 00:17:25,511 --> 00:17:29,181 (深雪)もし また 星十郎様とお話しする機会を作れたら 243 00:17:29,181 --> 00:17:32,518 その ぴしふぉろふぃーを 使ってみたら いかがですか? 244 00:17:32,518 --> 00:17:34,453 と いいますと? 245 00:17:34,453 --> 00:17:36,455 先ほどの話を聞いた限り 246 00:17:36,455 --> 00:17:41,294 星十郎様は 孫一さんのことで かなり苦しんでおられるご様子 247 00:17:41,294 --> 00:17:44,630 そう… ですか ええ 248 00:17:44,630 --> 00:17:50,136 でなければ 初対面の皆様の前で 御父上のことを責めたりしないでしょう 249 00:17:50,136 --> 00:17:52,638 旦那様に強く当たられたのも 250 00:17:52,638 --> 00:17:56,309 お気持ちをどこにぶつけていいか 分からなかったからでは? 251 00:17:56,309 --> 00:18:01,314 なるほど それならば 諦めるのは まだ早いかもしれませんね 252 00:18:01,314 --> 00:18:04,483 だが 時間はかかるだろうな 253 00:18:04,483 --> 00:18:06,686 うん… 254 00:18:13,659 --> 00:18:15,761 (星十郎)お待たせしました 255 00:18:17,997 --> 00:18:20,833 いえいえ 来てくれてよかった 256 00:18:20,833 --> 00:18:23,836 慣れぬ手紙を書いた甲斐がありました 257 00:18:23,836 --> 00:18:28,674 驚きました 手紙を手にしたときは松永殿からだとばかり… 258 00:18:28,674 --> 00:18:32,611 これは私の独断です 御頭にも告げていません 259 00:18:32,611 --> 00:18:35,214 さっ どうぞ 座ってください 260 00:18:39,952 --> 00:18:42,455 外に出るときは いつもそれを? 261 00:18:42,455 --> 00:18:46,125 ご無礼を 何分 この髪色ですので 262 00:18:46,125 --> 00:18:48,628 (新之助) 案外 気の小さいことをおっしゃるんですね➡ 263 00:18:48,628 --> 00:18:51,130 この間とは大違いだ 264 00:18:51,130 --> 00:18:55,468 恥とは思いませんが 生きにくいことは確かです 265 00:18:55,468 --> 00:18:58,471 まあ 蕎麦でも食べながら 話をしませんか? 266 00:18:58,471 --> 00:19:00,973 ここのは うまいんです 267 00:19:00,973 --> 00:19:03,776 あっ ありがとう お鈴さん 268 00:19:07,313 --> 00:19:09,315 キレイな髪 269 00:19:09,315 --> 00:19:14,487 でしょ? 私もそう思うんですが この人は恥ずかしいそうで 270 00:19:14,487 --> 00:19:18,157 ええっ? どうか お侍さん 自信を持って 271 00:19:18,157 --> 00:19:20,960 そんなキレイな髪 羨ましいもの 272 00:19:21,994 --> 00:19:24,797 ですって よかったですね 273 00:19:27,500 --> 00:19:29,802 さっ 食べましょう 274 00:19:30,836 --> 00:19:34,106 (風鈴の音と蕎麦をすする音) 275 00:19:34,106 --> 00:19:36,108 (星十郎)いい蕎麦です 276 00:19:40,446 --> 00:19:43,749 実は 私も父を亡くしてるんです 277 00:19:45,284 --> 00:19:47,787 立派な火消だったと聞きました 278 00:19:47,787 --> 00:19:51,457 ただ これは 御頭にも言ってないんですが 279 00:19:51,457 --> 00:19:54,126 父は犬を助けて死んだらしいのです 280 00:19:54,126 --> 00:19:56,295 犬を? ええ 281 00:19:56,295 --> 00:19:59,131 助けたら死ぬと分かっていたのに➡ 282 00:19:59,131 --> 00:20:02,635 これが 本当の犬死にってやつですよ 283 00:20:02,635 --> 00:20:05,971 正直言って 父のようになるのは まっぴらごめんです 284 00:20:05,971 --> 00:20:07,973 でも… でも? 285 00:20:07,973 --> 00:20:10,309 私は父のことが知りたい 286 00:20:10,309 --> 00:20:12,812 知らないまま 先へ進めないんです 287 00:20:12,812 --> 00:20:14,980 あなたは どうなんです? 288 00:20:14,980 --> 00:20:16,982 私は… 289 00:20:16,982 --> 00:20:20,986 父がどうやって死んだのか よく知っています➡ 290 00:20:20,986 --> 00:20:26,158 現地にも行って 父が助けた人々の話も聞きました 291 00:20:26,158 --> 00:20:28,327 ならば… ですが 292 00:20:28,327 --> 00:20:33,499 私が誇りに思うのは学者の父で 火消の父ではないのです 293 00:20:33,499 --> 00:20:36,168 こんなことを話すのは不本意ですが 294 00:20:36,168 --> 00:20:38,671 私は容姿だけで差別され 295 00:20:38,671 --> 00:20:41,507 時に石を投げつけられたこともある 296 00:20:41,507 --> 00:20:43,843 同じ人間なのに➡ 297 00:20:43,843 --> 00:20:47,513 でも 父は そんな人々を守って死んだ➡ 298 00:20:47,513 --> 00:20:51,183 なぜ そこまでして 彼らを守る必要があったのか 299 00:20:51,183 --> 00:20:54,186 やはり 私には理解できなかった 300 00:20:55,187 --> 00:20:58,858 先に自分の手を明かし 共感を得る 301 00:20:58,858 --> 00:21:02,695 あなたには ピシフォロフィーの才能がおありのようだ 302 00:21:02,695 --> 00:21:06,532 だが 私には通用しない あ… 303 00:21:06,532 --> 00:21:08,534 バレちゃいました? 304 00:21:08,534 --> 00:21:10,736 (星十郎)ここまでですね 305 00:21:13,038 --> 00:21:15,207 待ってください 306 00:21:15,207 --> 00:21:19,879 前にあなたは 御頭がまた理由さえあれば 火消をやめると 307 00:21:19,879 --> 00:21:22,548 そう言いましたね? ええ 308 00:21:22,548 --> 00:21:25,217 御頭に限って それだけはありません 309 00:21:25,217 --> 00:21:27,720 なぜ そう言い切れるのです 310 00:21:27,720 --> 00:21:30,723 確かに あの人は 一度は江戸を離れ 311 00:21:30,723 --> 00:21:34,326 火消というものからも逃げた それは間違いない 312 00:21:34,326 --> 00:21:36,328 しかし 戻ってきた➡ 313 00:21:36,328 --> 00:21:40,833 そして 戻ってきてからの御頭のことは 私が一番知ってます 314 00:21:40,833 --> 00:21:43,502 確かに頑固で すぐ怒るし 315 00:21:43,502 --> 00:21:46,672 何かと 一人で抱え込む悪い癖があります 316 00:21:46,672 --> 00:21:51,010 でも 分かるんです 決して人を裏切るような人ではないと 317 00:21:51,010 --> 00:21:53,012 私は そう信じています 318 00:21:53,012 --> 00:21:55,347 あなたと私は違う 319 00:21:55,347 --> 00:21:58,017 もちろんです だから私は 320 00:21:58,017 --> 00:22:01,353 あなたにもう一度 御頭と会って 話を聞いてほしい 321 00:22:01,353 --> 00:22:04,356 今日は それだけをお願いに来ました 322 00:22:05,524 --> 00:22:07,526 私は先に出ます 323 00:22:07,526 --> 00:22:11,330 お代は払ってありますから 残りをゆっくり楽しんでください 324 00:22:18,037 --> 00:22:21,040 (戸の開閉音) 325 00:22:22,541 --> 00:22:27,546 《(孫一)人は外に出でてこそ 星のように輝くのです》 326 00:22:29,715 --> 00:22:31,717 (風の音) 327 00:22:31,717 --> 00:22:34,720 (戸が揺れる) 328 00:22:40,492 --> 00:22:43,696 (爆発音) 329 00:22:52,838 --> 00:23:40,853 ♬~