1 00:00:02,169 --> 00:00:06,173 (新之助)いや~ うちも活気が出てきましたね 2 00:00:06,173 --> 00:00:09,510 (寅次郎)ええ 一気に人も増えましたから 3 00:00:09,510 --> 00:00:12,179 御頭 何か心配事でも? 4 00:00:12,179 --> 00:00:15,516 (源吾)皆 めきめきと 腕を上げているのは確かだ 5 00:00:15,516 --> 00:00:17,643 問題は… (彦弥)よっと 6 00:00:20,354 --> 00:00:22,356 《くっ…》 7 00:00:22,356 --> 00:00:25,359 《バカ言うな 勝手に逝ったら》 8 00:00:25,359 --> 00:00:29,822 《三途の川でも 一跳びして連れ戻してやる》 9 00:00:29,822 --> 00:00:32,199 <俺の腕が落ちてるってことだ> 10 00:00:32,199 --> 00:00:34,201 (新之助)御頭? 11 00:00:34,201 --> 00:00:36,203 問題っていうのは? 12 00:00:36,203 --> 00:00:39,832 いや 秋から冬にかけては 火事も増えるだろう 13 00:00:39,832 --> 00:00:44,044 ええ それまでに 体制を整えねばなりませんね 14 00:00:44,044 --> 00:00:47,840 (風の音) やはり 風読みが必要か 15 00:00:49,842 --> 00:01:40,267 ♪♪~ 16 00:02:22,142 --> 00:02:24,478 (蕎麦をすする音) 17 00:02:24,478 --> 00:02:28,649 いや~ うまい! さすが蕎麦屋番付の関脇だ 18 00:02:28,649 --> 00:02:33,487 (口笛) 看板娘も気立てがよさそうないい娘さんだしな 19 00:02:33,487 --> 00:02:36,782 すいませ~ん おかわり 早っ! 20 00:02:36,782 --> 00:02:42,329 お前らなあ 風読みの話をするついでに 飯に来たって名目を忘れるなよ 21 00:02:42,329 --> 00:02:44,790 分かってますよ しかし 御頭 22 00:02:44,790 --> 00:02:48,961 風読みを探すったって そんな簡単に見つかるもんですかねえ? 23 00:02:48,961 --> 00:02:52,172 普通に探すとなると 大変だろうな 24 00:02:52,172 --> 00:02:54,508 確か 当てがあるとか? 25 00:02:54,508 --> 00:02:59,680 ああ 昔 俺が飯田町定火消だった頃の風読みだ 26 00:02:59,680 --> 00:03:04,518 名前が少々物騒でな 俺は おやっさんと呼んでいたんだが… 27 00:03:04,518 --> 00:03:07,354 物騒な名前っていうと? 28 00:03:07,354 --> 00:03:10,357 加持孫一 (彦弥・寅次郎・新之助)カジ!? 29 00:03:10,357 --> 00:03:13,819 火消にとっちゃあ縁起が悪すぎる 確かに 30 00:03:13,819 --> 00:03:18,699 だがな 俺の知る限り おやっさんは完全無欠の風読みだ 31 00:03:18,699 --> 00:03:21,201 これまで 風を読み間違えたことがねえ 32 00:03:21,201 --> 00:03:25,205 そんなすげえ人なら 今でも定火消にいるんじゃねえんですか? 33 00:03:25,205 --> 00:03:29,376 いや おやっさんは 俺よりも先に火消をやめたんだ 34 00:03:30,377 --> 00:03:32,379 《火消をやめる!?》 35 00:03:33,714 --> 00:03:38,218 《(孫一)私も ここで 御頭と火消をしていたかったのですが》 36 00:03:38,218 --> 00:03:41,555 《少しばかり 野暮用ができてしまいました》 37 00:03:42,723 --> 00:03:45,559 おやっさんの言う 野暮用ってのが何なのか 38 00:03:45,559 --> 00:03:48,729 結局 最後まで話しちゃくれなかったが 39 00:03:48,729 --> 00:03:53,233 あれから七年だ いい加減 片がついてる頃だろう 40 00:03:53,233 --> 00:03:57,029 その孫一さんが 今どこにいるかは ご存じで? 41 00:03:57,029 --> 00:04:01,241 いや 左門に頼んで 消息をたどってもらっているんだが 42 00:04:01,241 --> 00:04:05,037 お嬢さん ここの蕎麦は随分とうまいが 43 00:04:05,037 --> 00:04:07,581 何か秘密でもあるのかい? 44 00:04:07,581 --> 00:04:10,250 (新之助・寅次郎・源吾)はあ… ヘッ 45 00:04:10,250 --> 00:04:12,753 (お鈴) 秘密ってほどでもないんですけど 46 00:04:12,753 --> 00:04:15,881 うちは 信濃の蕎麦の実を使ってるんです 47 00:04:15,881 --> 00:04:17,883 店の裏に土蔵があって 48 00:04:17,883 --> 00:04:21,595 そこに保管しておくと 状態がよく保てるんです 49 00:04:21,595 --> 00:04:25,766 へえ~ それって この辺の蕎麦屋じゃ珍しい… うん? 50 00:04:25,766 --> 00:04:28,435 いらっしゃいませ 51 00:04:28,435 --> 00:04:30,896 けっ… ハハハハハ… 52 00:04:30,896 --> 00:04:33,607 お一人様ですか? ああ 53 00:04:33,607 --> 00:04:35,609 お客さん すみません 54 00:04:35,609 --> 00:04:40,614 ただ今 席が埋まっておりまして ほんの少しお待ちいただけますか? 55 00:04:42,449 --> 00:04:46,453 あそこの奥が空いているのでは? あ… あの… 56 00:04:46,453 --> 00:04:49,790 申し訳ございません お客様 お鈴… 57 00:04:49,790 --> 00:04:55,629 あの席はまもなく鍵屋さん達… いえ 常連さん達が来るんです 58 00:04:55,629 --> 00:04:58,298 (蕎麦をすする音) 59 00:04:59,299 --> 00:05:01,802 何だと!? (錫杖を打ちつける) 60 00:05:02,803 --> 00:05:05,639 けっ! あっ… フン! あっ… 61 00:05:06,640 --> 00:05:09,935 坊さん 俺達も すぐに食い終わるから 62 00:05:09,935 --> 00:05:12,104 少しだけ待ってやりなよ 63 00:05:16,108 --> 00:05:18,110 うん? 64 00:05:19,486 --> 00:05:21,488 貴様は… 65 00:05:21,488 --> 00:05:24,950 気持ちよく食ってやらねえと 蕎麦も泣くぜ 66 00:05:24,950 --> 00:05:28,495 フフッ 蕎麦など食ってる場合か 67 00:05:35,127 --> 00:05:38,672 はあ… ありがとうございました 68 00:05:38,672 --> 00:05:43,510 いや しかし お鈴と言ったか 大した度胸だな 69 00:05:43,510 --> 00:05:49,141 女将さんは 私を娘代わりに育ててくれた 恩人なんです 当然です 70 00:05:49,141 --> 00:05:52,352 そうか そいつは感心なことだ 71 00:05:52,352 --> 00:05:54,521 ご迷惑おかけしました 72 00:05:54,521 --> 00:06:00,527 鍵屋さんは お得意様なんですけど 少々お行儀がよくないせいで 評判が悪く… 73 00:06:00,527 --> 00:06:03,363 そりゃ色々と大変だな 74 00:06:06,158 --> 00:06:09,369 (お鈴)ありがとうございました (戸が閉まる) 75 00:06:09,369 --> 00:06:12,998 しっかし 最近は 江戸も変な輩が増えましたねえ 76 00:06:12,998 --> 00:06:18,003 お前も十分変だろ あの空気の中で普通に蕎麦すすりやがって 77 00:06:18,003 --> 00:06:22,382 まあ それだけ 蕎麦がおいしかったってことで 78 00:06:22,382 --> 00:06:25,010 御頭は これからどうするんです? 79 00:06:25,010 --> 00:06:30,557 左門に おやっさんの消息について 何か分かったことはないか聞きに行く 80 00:06:30,557 --> 00:06:33,894 お前達は戻っていてくれ 分かりました 81 00:06:44,196 --> 00:06:48,200 《おやっさん》 《御頭 どうしました?》 82 00:06:48,200 --> 00:06:51,745 《今日も風読みがピタリと当たって ケガ人なしだったんだ》 83 00:06:51,745 --> 00:06:56,041 《たまには一杯いいだろ? 月見酒ってやつさ》 84 00:06:58,043 --> 00:07:01,213 《俺は ずっと不思議なんだが》 85 00:07:01,213 --> 00:07:03,215 《何でしょう?》 86 00:07:04,424 --> 00:07:08,220 《おやっさんは火消なんて身分で くすぶってるような人間じゃないだろう?》 87 00:07:08,220 --> 00:07:11,223 《それは 買いかぶりというものですよ》 88 00:07:11,223 --> 00:07:13,600 《何で 火消になろうと思ったんだ?》 89 00:07:13,600 --> 00:07:17,938 《うん… 屋内で風を感じられますか?》 90 00:07:17,938 --> 00:07:21,233 《月を眺めることができますかな?》 91 00:07:21,233 --> 00:07:26,947 《人は外に出でてこそ 星のように輝くのです》 92 00:07:26,947 --> 00:07:29,950 《あ… すまん おやっさん どういう意味…》 93 00:07:29,950 --> 00:07:32,786 《ハハハハハハ…》 94 00:07:32,786 --> 00:07:34,955 (左門)源吾 95 00:07:35,581 --> 00:07:39,751 (左門)ちょうどよかった お前を訪ねに向かっていたところだ 96 00:07:39,751 --> 00:07:42,462 おやっさんの件 何か分かったのか? 97 00:07:42,462 --> 00:07:44,965 ああ 何とか伝手を頼って 98 00:07:44,965 --> 00:07:47,759 孫一殿を知っているお方に たどり着いたぞ 99 00:07:47,759 --> 00:07:50,470 本当か! 何という御方だ? 100 00:07:50,470 --> 00:07:54,766 山路連貝軒 幕府の天文方だ 101 00:07:54,766 --> 00:07:57,477 幕府 天文方? 102 00:07:58,478 --> 00:08:02,983 突然の面会にも快く応じていただき ありがとうございます 103 00:08:02,983 --> 00:08:06,612 (山路)何 相手が あの 火喰鳥殿とあっては 104 00:08:06,612 --> 00:08:10,616 断る理由もないというもの なぜ それを? 105 00:08:10,616 --> 00:08:16,622 渋川孫一は貴殿のことを話すとき それはもう楽しげでしてな 106 00:08:16,622 --> 00:08:19,333 しぶかわ… 加持孫一では? 107 00:08:19,333 --> 00:08:22,002 そうか どこから話せばよいか 108 00:08:22,002 --> 00:08:25,005 少し長くなるが かまいません 109 00:08:25,005 --> 00:08:30,802 孫一はな 幕府初代天文方に任じられた渋川家の一族 110 00:08:30,802 --> 00:08:35,807 それも三代目天文方 渋川敬尹の息子なのだ 111 00:08:35,807 --> 00:08:40,646 ただ 出生に秘密があってな 出生の秘密… 112 00:08:40,646 --> 00:08:45,525 敬尹は天文の勉学のため 長崎の出島に足を運んだ 113 00:08:45,525 --> 00:08:48,195 そこで 孫一の母と出会ったのだ 114 00:08:48,195 --> 00:08:51,823 つまり 孫一の母は南蛮人ということだ 115 00:08:51,823 --> 00:08:56,370 南蛮人… 確かに彫りの深い顔だとは思っていましたが 116 00:08:56,370 --> 00:09:00,207 (山路)孫一は 幼い頃より天文を学んだが 117 00:09:00,207 --> 00:09:03,835 妾の子ゆえに 家を継げないということもあって 118 00:09:03,835 --> 00:09:06,838 三十で 家を出ることにしたそうだ 119 00:09:06,838 --> 00:09:09,383 私と出会うまでは何を? 120 00:09:09,383 --> 00:09:14,388 名を加持に改めると ますます その知識に磨きをかけた 121 00:09:14,388 --> 00:09:17,557 南蛮の天文学を隅まで調べ上げ 122 00:09:17,557 --> 00:09:21,687 わしを遥かに超える知識を 身につけるほどにな 123 00:09:21,687 --> 00:09:24,564 そんな人が 何で火消に? 124 00:09:24,564 --> 00:09:26,858 あやつは常々言っておった 125 00:09:26,858 --> 00:09:30,862 人々の暮らしに寄り添わずして 何が天文学だと 126 00:09:30,862 --> 00:09:36,076 学びは世の中にあり 得たことは世の中に還元せねばならんと 127 00:09:36,076 --> 00:09:41,415 還元… それが 火消として人々の役に立つことだったのか 128 00:09:41,415 --> 00:09:44,418 だが おやっさんは火消をやめた 129 00:09:44,418 --> 00:09:48,880 わしが呼んだのだ 暦の編纂に力を貸してほしいと 130 00:09:48,880 --> 00:09:51,425 精度の悪い暦を使い続ければ 131 00:09:51,425 --> 00:09:56,096 民に無用な苦しみを与えるではないかと 詰め寄ってな 132 00:09:56,096 --> 00:09:58,098 そうだったのですか 133 00:09:58,098 --> 00:10:02,728 野暮用とは暦の編纂… では おやっさんは まだ暦を? 134 00:10:02,728 --> 00:10:06,898 (山路)孫一は死んだ 火消をやめて程なくしてな 135 00:10:06,898 --> 00:10:08,900 一体なぜ… 136 00:10:08,900 --> 00:10:10,902 火事だ 137 00:10:13,905 --> 00:10:16,616 (山路)京に向かう旅の途中 138 00:10:18,910 --> 00:10:23,290 (山路)もう少しで京という 守山宿に着いた日のこと 139 00:10:23,290 --> 00:10:27,627 我々の泊まった近隣の宿から出火したのだ 140 00:10:28,920 --> 00:10:33,467 (山路)宿場火消は 近江の夜は山風になると主張して 141 00:10:33,467 --> 00:10:36,136 西側を破壊しようとしていた 142 00:10:36,136 --> 00:10:39,639 孫一は 昨日までの雨で琵琶湖の水は冷え 143 00:10:39,639 --> 00:10:43,643 風向きは変わらないから 東側を壊せと説いたが 144 00:10:43,643 --> 00:10:46,313 聞き入れてもらえなかった 145 00:10:49,775 --> 00:10:54,321 (山路)果たして 孫一の言うとおり 湖からの風にあおられ 146 00:10:54,321 --> 00:10:56,948 瞬く間に宿場は火の海となり 147 00:10:56,948 --> 00:11:01,495 初動を誤った火消は退却を始めた 148 00:11:01,495 --> 00:11:06,666 孫一は 老人に女子供 逃げ遅れた病人を助け続けた 149 00:11:06,666 --> 00:11:10,962 そして まだ逃げ遅れた者達がいると聞いた孫一は… 150 00:11:11,963 --> 00:11:14,341 《行くな!》 151 00:11:14,341 --> 00:11:18,345 《わし達も逃げなければ 命が危ういのだぞ!》 152 00:11:18,345 --> 00:11:21,807 《すまぬ これでも火消の端くれなのだ》 153 00:11:21,807 --> 00:11:25,352 《行くな 孫一! 孫一!》 154 00:11:25,352 --> 00:11:29,815 (山路)それが わしが見た孫一の最後の姿だ 155 00:11:29,815 --> 00:11:33,193 おやっさんは もう いないのですね 156 00:11:34,820 --> 00:11:39,699 貴重なお話を聞かせていただき ありがとうございました 157 00:11:39,699 --> 00:11:42,536 ああ… 待たれよ 松永殿 158 00:11:42,536 --> 00:11:44,830 まだ諦めるのは早いかと 159 00:11:44,830 --> 00:11:47,833 孫一が唯一 天才と呼んだ男がいる 160 00:11:47,833 --> 00:11:52,003 もしかしたら おぬしの力になってくれるかもしれん 161 00:11:52,003 --> 00:11:54,005 その男はどこに? 162 00:11:54,005 --> 00:11:57,008 今は荒川を越えた宮城村にいる 163 00:11:57,008 --> 00:11:59,386 名を加持星十郎 164 00:11:59,386 --> 00:12:03,014 孫一の息子にして 希代の天才だ 165 00:12:05,308 --> 00:12:07,769 (新之助) どうやら ここみたいですよ 166 00:12:09,396 --> 00:12:12,566 (戸を叩いて)御免 (戸を開けようとする音) 167 00:12:12,566 --> 00:12:16,027 しゃらくせえ 蹴破ってやろうか 168 00:12:16,027 --> 00:12:18,738 おっ こりゃどうも 169 00:12:18,738 --> 00:12:21,867 加持孫一殿のご子息でしょうか? 170 00:12:21,867 --> 00:12:24,244 (星十郎)松永源吾殿ですね 171 00:12:24,244 --> 00:12:26,746 (新之助・源吾・彦弥)あ… なぜ それを… 172 00:12:26,746 --> 00:12:29,416 見たところ 年の頃や身分もバラバラ 173 00:12:29,416 --> 00:12:32,586 それにあなた その右手… 174 00:12:32,586 --> 00:12:34,754 やけどの痕では? 175 00:12:34,754 --> 00:12:38,592 さらに 父の名前を出して ここを訪ねてくるとなれば 176 00:12:38,592 --> 00:12:41,052 まず 間違いなく火消… 177 00:12:41,052 --> 00:12:44,764 そうなると 答えは自然と絞られます 178 00:12:44,764 --> 00:12:47,893 さすがです ならば話は早い 179 00:12:47,893 --> 00:12:51,897 新庄藩は ぜひとも 加持殿をお迎えしたいと思っているのです 180 00:12:51,897 --> 00:12:56,067 立ってする話ではないようですね どうぞ 中へ 181 00:13:00,906 --> 00:13:02,908 なぜ 私を? 182 00:13:02,908 --> 00:13:06,077 天文方として 少ないかもしれませんが 183 00:13:06,077 --> 00:13:08,622 百三十石を用意しております 184 00:13:08,622 --> 00:13:11,625 普段は研究 観測をご自由になさって 185 00:13:11,625 --> 00:13:15,462 不測の事態の折のみ 現場に出ていただきたい 186 00:13:15,462 --> 00:13:18,632 不足の事態の現場というのは? 187 00:13:18,632 --> 00:13:21,092 火事場にござる 188 00:13:21,092 --> 00:13:23,803 お断りします あ… 189 00:13:23,803 --> 00:13:27,307 私は 父と同じ道を歩むつもりはありません 190 00:13:27,307 --> 00:13:31,811 父は賢き御方であったが 同時に愚かな御方でもあった 191 00:13:31,811 --> 00:13:33,813 どういう意味でしょう? 192 00:13:33,813 --> 00:13:37,317 学者には 学者の本分というものがございます 193 00:13:37,317 --> 00:13:40,487 火消遊びなど 所詮はよそ事 194 00:13:40,487 --> 00:13:45,325 揚げ句の果てに そのよそ事で犬死になさるとは 195 00:13:45,325 --> 00:13:47,327 おい てめえよ! 196 00:13:49,329 --> 00:13:55,126 なすべきことをなさずに亡くなられたことは 犬死にと申せましょう 197 00:13:55,126 --> 00:13:57,128 私は そうは思いません 198 00:13:57,128 --> 00:14:01,675 が 貴殿がそこまで言うなすべきこととは 何でしょうか? 199 00:14:01,675 --> 00:14:05,679 天の理 世の理を顕かにする 200 00:14:05,679 --> 00:14:09,516 学問の道は それ以上でも それ以下でもございません 201 00:14:09,516 --> 00:14:13,853 やい 赤髪! その大層な学問で天の何が分かる! 202 00:14:13,853 --> 00:14:15,855 はあ… 203 00:14:15,855 --> 00:14:17,857 例えば 月までの距離 204 00:14:17,857 --> 00:14:21,528 あ? フッ あ… 205 00:14:21,528 --> 00:14:25,699 ご存じなかろうが ジェローム・ラランドという男 206 00:14:25,699 --> 00:14:28,868 既に 月までの距離を求め終えております 207 00:14:28,868 --> 00:14:33,164 この国の学問とは雲泥の差がある あ… 208 00:14:33,164 --> 00:14:36,876 今 あなたは うつむきながら首を触った 209 00:14:36,876 --> 00:14:39,546 つまり 不安になっているということ 210 00:14:39,546 --> 00:14:42,382 何だと!? 適当なことを… 211 00:14:42,382 --> 00:14:47,887 ピシフォロフィー 蘭語を直訳すれば心理学とでも申しましょうか 212 00:14:47,887 --> 00:14:52,892 南蛮では人の心の成り立ちから 推移までも研究しているんです 213 00:14:52,892 --> 00:14:56,396 ご存じないとは思いますが ハハッ 214 00:14:56,396 --> 00:15:01,401 それが何だってんだ! 火消が人の命を救うより偉いってのか!? 215 00:15:01,401 --> 00:15:04,571 人の命を救う ですか 216 00:15:04,571 --> 00:15:07,574 松永殿 何でしょうか 217 00:15:07,574 --> 00:15:11,745 (星十郎)あなたは火消を つい最近まで やめていたそうですね 218 00:15:11,745 --> 00:15:14,581 一体どういうつもりで また始めたのです? 219 00:15:14,581 --> 00:15:17,751 どうせ また理由があれば やめてしまうのでは? 220 00:15:17,751 --> 00:15:21,046 なっ! この… 221 00:15:21,046 --> 00:15:23,923 そう思われるのも仕方ない しかし 222 00:15:23,923 --> 00:15:28,053 私は今度こそ 命を懸けて この仕事を続ける覚悟です 223 00:15:28,053 --> 00:15:32,223 父は確かに 火消として いくらかの命を救ったのでしょう 224 00:15:32,223 --> 00:15:34,768 しかし 学者として生きていれば 225 00:15:34,768 --> 00:15:39,230 火消一人が一生かかっても 救えない数の人間が救われたはず 226 00:15:39,939 --> 00:15:43,443 私は 父の生き方に納得ができません 227 00:15:43,443 --> 00:15:49,449 目先の感情で全てを忘れてしまうような 生き方など したくはないのです 228 00:15:49,449 --> 00:15:52,285 しかし… (星十郎)父は我が一名に 229 00:15:52,285 --> 00:15:54,746 星の一文字をつけられた 230 00:15:54,746 --> 00:15:57,749 天文の道を継いでほしいはず 231 00:15:57,749 --> 00:16:01,294 私は 父上のやり残したことを成し遂げます 232 00:16:03,129 --> 00:16:08,301 これ以上 お話しすることはありません どうか お引き取りを 233 00:16:08,301 --> 00:16:13,973 そうか かなり癖の強い人物のようだな 234 00:16:13,973 --> 00:16:17,143 私は 星十郎さんの気持ちも分かります 235 00:16:17,143 --> 00:16:23,316 私だって父が火消の職を全うしたから 死んでも仕方ない とは思えない 236 00:16:23,316 --> 00:16:26,486 そうだろうな あ… 237 00:16:26,486 --> 00:16:30,615 だがな あれは うちに絶対に必要な男だ 238 00:16:30,615 --> 00:16:34,327 俺は 御頭が風読みをしてくれりゃ十分だぜ 239 00:16:34,327 --> 00:16:36,496 俺じゃ力不足だ 240 00:16:36,496 --> 00:16:41,167 俺が昔 火消としてやっていけたのは おやっさんの力が大きい 241 00:16:41,167 --> 00:16:43,336 それに 俺が風読みをすれば… 242 00:16:43,336 --> 00:16:47,006 (深雪)もし また 星十郎様とお話しする機会を作れたら 243 00:16:47,006 --> 00:16:50,343 その ぴしふぉろふぃーを 使ってみたら いかがですか? 244 00:16:50,343 --> 00:16:52,345 と いいますと? 245 00:16:52,345 --> 00:16:54,347 先ほどの話を聞いた限り 246 00:16:54,347 --> 00:16:59,185 星十郎様は 孫一さんのことで かなり苦しんでおられるご様子 247 00:16:59,185 --> 00:17:02,522 そう… ですか ええ 248 00:17:02,522 --> 00:17:08,027 でなければ 初対面の皆様の前で 御父上のことを責めたりしないでしょう 249 00:17:08,027 --> 00:17:10,530 旦那様に強く当たられたのも 250 00:17:10,530 --> 00:17:14,200 お気持ちをどこにぶつけていいか 分からなかったからでは? 251 00:17:14,200 --> 00:17:19,205 なるほど それならば 諦めるのは まだ早いかもしれませんね 252 00:17:19,205 --> 00:17:22,375 だが 時間はかかるだろうな 253 00:17:22,375 --> 00:17:24,544 うん… 254 00:17:31,551 --> 00:17:33,678 (星十郎)お待たせしました 255 00:17:35,847 --> 00:17:38,683 いえいえ 来てくれてよかった 256 00:17:38,683 --> 00:17:41,686 慣れぬ手紙を書いた甲斐がありました 257 00:17:41,686 --> 00:17:46,566 驚きました 手紙を手にしたときは松永殿からだとばかり… 258 00:17:46,566 --> 00:17:50,570 これは私の独断です 御頭にも告げていません 259 00:17:50,570 --> 00:17:53,239 さっ どうぞ 座ってください 260 00:17:57,869 --> 00:18:00,413 外に出るときは いつもそれを? 261 00:18:00,413 --> 00:18:04,083 ご無礼を 何分 この髪色ですので 262 00:18:04,083 --> 00:18:06,586 (新之助) 案外 気の小さいことをおっしゃるんですね 263 00:18:06,586 --> 00:18:09,088 この間とは大違いだ 264 00:18:09,088 --> 00:18:13,426 恥とは思いませんが 生きにくいことは確かです 265 00:18:13,426 --> 00:18:16,429 まあ 蕎麦でも食べながら 話をしませんか? 266 00:18:16,429 --> 00:18:18,890 ここのは うまいんです 267 00:18:18,890 --> 00:18:21,726 あっ ありがとう お鈴さん 268 00:18:25,271 --> 00:18:27,273 キレイな髪 269 00:18:27,273 --> 00:18:32,445 でしょ? 私もそう思うんですが この人は恥ずかしいそうで 270 00:18:32,445 --> 00:18:36,115 ええっ? どうか お侍さん 自信を持って 271 00:18:36,115 --> 00:18:38,910 そんなキレイな髪 羨ましいもの 272 00:18:39,911 --> 00:18:42,747 ですって よかったですね 273 00:18:45,458 --> 00:18:47,752 さっ 食べましょう 274 00:18:48,753 --> 00:18:52,131 (風鈴の音と蕎麦をすする音) 275 00:18:52,131 --> 00:18:54,133 (星十郎)いい蕎麦です 276 00:18:58,471 --> 00:19:01,766 実は 私も父を亡くしてるんです 277 00:19:03,309 --> 00:19:05,770 立派な火消だったと聞きました 278 00:19:05,770 --> 00:19:09,482 ただ これは 御頭にも言ってないんですが 279 00:19:09,482 --> 00:19:12,151 父は犬を助けて死んだらしいのです 280 00:19:12,151 --> 00:19:14,320 犬を? ええ 281 00:19:14,320 --> 00:19:17,156 助けたら死ぬと分かっていたのに 282 00:19:17,156 --> 00:19:20,660 これが 本当の犬死にってやつですよ 283 00:19:20,660 --> 00:19:23,955 正直言って 父のようになるのは まっぴらごめんです 284 00:19:23,955 --> 00:19:25,957 でも… でも? 285 00:19:25,957 --> 00:19:28,334 私は父のことが知りたい 286 00:19:28,334 --> 00:19:30,795 知らないまま 先へ進めないんです 287 00:19:30,795 --> 00:19:32,964 あなたは どうなんです? 288 00:19:32,964 --> 00:19:34,966 私は… 289 00:19:34,966 --> 00:19:38,970 父がどうやって死んだのか よく知っています 290 00:19:38,970 --> 00:19:44,183 現地にも行って 父が助けた人々の話も聞きました 291 00:19:44,183 --> 00:19:46,352 ならば… ですが 292 00:19:46,352 --> 00:19:51,524 私が誇りに思うのは学者の父で 火消の父ではないのです 293 00:19:51,524 --> 00:19:54,193 こんなことを話すのは不本意ですが 294 00:19:54,193 --> 00:19:56,696 私は容姿だけで差別され 295 00:19:56,696 --> 00:19:59,532 時に石を投げつけられたこともある 296 00:19:59,532 --> 00:20:01,826 同じ人間なのに 297 00:20:01,826 --> 00:20:05,538 でも 父は そんな人々を守って死んだ 298 00:20:05,538 --> 00:20:09,208 なぜ そこまでして 彼らを守る必要があったのか 299 00:20:09,208 --> 00:20:12,211 やはり 私には理解できなかった 300 00:20:13,212 --> 00:20:16,841 先に自分の手を明かし 共感を得る 301 00:20:16,841 --> 00:20:20,720 あなたには ピシフォロフィーの才能がおありのようだ 302 00:20:20,720 --> 00:20:24,557 だが 私には通用しない あ… 303 00:20:24,557 --> 00:20:26,559 バレちゃいました? 304 00:20:26,559 --> 00:20:28,728 (星十郎)ここまでですね 305 00:20:31,022 --> 00:20:33,232 待ってください 306 00:20:33,232 --> 00:20:37,862 前にあなたは 御頭がまた理由さえあれば 火消をやめると 307 00:20:37,862 --> 00:20:40,573 そう言いましたね? ええ 308 00:20:40,573 --> 00:20:43,242 御頭に限って それだけはありません 309 00:20:43,242 --> 00:20:45,745 なぜ そう言い切れるのです 310 00:20:45,745 --> 00:20:48,748 確かに あの人は 一度は江戸を離れ 311 00:20:48,748 --> 00:20:52,418 火消というものからも逃げた それは間違いない 312 00:20:52,418 --> 00:20:54,420 しかし 戻ってきた 313 00:20:54,420 --> 00:20:58,883 そして 戻ってきてからの御頭のことは 私が一番知ってます 314 00:20:58,883 --> 00:21:01,594 確かに頑固で すぐ怒るし 315 00:21:01,594 --> 00:21:04,764 何かと 一人で抱え込む悪い癖があります 316 00:21:04,764 --> 00:21:09,060 でも 分かるんです 決して人を裏切るような人ではないと 317 00:21:09,060 --> 00:21:11,062 私は そう信じています 318 00:21:11,062 --> 00:21:13,439 あなたと私は違う 319 00:21:13,439 --> 00:21:16,067 もちろんです だから私は 320 00:21:16,067 --> 00:21:19,445 あなたにもう一度 御頭と会って 話を聞いてほしい 321 00:21:19,445 --> 00:21:22,448 今日は それだけをお願いに来ました 322 00:21:23,616 --> 00:21:25,618 私は先に出ます 323 00:21:25,618 --> 00:21:29,455 お代は払ってありますから 残りをゆっくり楽しんでください 324 00:21:36,087 --> 00:21:39,090 (戸の開閉音) 325 00:21:40,633 --> 00:21:45,638 《(孫一)人は外に出でてこそ 星のように輝くのです》 326 00:21:47,807 --> 00:21:49,809 (風の音) 327 00:21:49,809 --> 00:21:52,812 (戸が揺れる) 328 00:21:58,651 --> 00:22:01,821 (爆発音) 329 00:22:10,955 --> 00:22:59,003 ♪♪~