1 00:00:33,834 --> 00:00:36,133 “世界”っていう言葉がある 2 00:00:39,501 --> 00:00:41,033 私は 中学のころまで 3 00:00:41,133 --> 00:00:45,667 世界っていうのは携帯の電波が届く 場所なんだって漠然と思っていた… 4 00:00:47,667 --> 00:00:53,267 でも どうしてだろう…? 私の携帯は誰にも届かない… 5 00:00:55,934 --> 00:00:59,901 もしもし ねぇ 誰かいないの? 6 00:01:00,100 --> 00:01:06,601 私どこまでいけばいいの? 私さみしいんだよ…   7 00:01:08,601 --> 00:01:09,968 ノボルくん…? 8 00:01:12,067 --> 00:01:13,534 家に帰るね 9 00:01:28,267 --> 00:01:30,901 ねぇ… 私はどこにいるの? 10 00:01:36,400 --> 00:01:39,000 あぁ… そうか… 11 00:01:44,901 --> 00:01:48,868 私は もう あの世界にはいないんだ 12 00:01:53,901 --> 00:01:55,501 ノボルくん! 待って! 13 00:01:56,267 --> 00:01:57,534 長峰… 14 00:01:58,367 --> 00:02:00,968 長峰はどうだった? 期末試験 15 00:02:01,200 --> 00:02:03,767 長峰はバッチリだったよ 期末試験 16 00:02:03,801 --> 00:02:05,334 じゃあ 一緒の高校 17 00:02:05,400 --> 00:02:08,067 行けるかな? あ… 18 00:02:08,701 --> 00:02:09,767 きっと… 19 00:02:12,467 --> 00:02:13,868 ノボルくん 見て! 20 00:02:15,868 --> 00:02:17,133 宇宙船がいる 21 00:02:17,234 --> 00:02:21,100 ああ コスモナウトリシテア号だね 国連軍の 22 00:02:21,734 --> 00:02:24,834 この街からも出たのかなぁ? 選抜メンバーが 23 00:02:25,000 --> 00:02:26,667 うん… 24 00:02:30,200 --> 00:02:33,100 あの船 太陽系の外まで行くんだって 25 00:02:33,634 --> 00:02:34,334 うん 26 00:02:35,067 --> 00:02:37,734 火星を襲った宇宙人を 追うっていう話だよな 27 00:02:38,067 --> 00:02:39,100 うん 28 00:02:39,267 --> 00:02:42,467 タルシス人ってさ どこから来たんだろうね? 29 00:02:42,801 --> 00:02:43,934 うん… 30 00:02:44,901 --> 00:02:47,400 長峰? 興味ないの? 31 00:02:47,501 --> 00:02:48,234 ん… 32 00:02:52,601 --> 00:02:53,968 ちょっと… 33 00:02:54,968 --> 00:02:57,234 まぁ コンビニ寄ってこうよ 34 00:02:58,367 --> 00:02:59,000 うん… 35 00:03:06,968 --> 00:03:07,901 どこで食べる? 36 00:03:08,000 --> 00:03:09,501 バス停に行こうか 37 00:03:29,634 --> 00:03:32,167 長峰 高校でも剣道やるの? 38 00:03:32,200 --> 00:03:35,200 うーん どうしようかな? ノボルくんは? 39 00:03:35,234 --> 00:03:38,667 うん 俺はやるよ 長峰も続けなよ 強いんだから 40 00:03:38,767 --> 00:03:42,601 そんなこと言って 本当は 私と同じ部活に入りたいんでしょ? 41 00:03:43,234 --> 00:03:45,100 お前 何 言ってんだよ 42 00:03:48,334 --> 00:03:50,334 帰ろうか そろそろ 43 00:03:50,434 --> 00:03:53,067 うん 雨上がったね 44 00:04:00,000 --> 00:04:01,067 はあー 45 00:04:02,300 --> 00:04:05,334 ねえ 見て 空! 46 00:04:06,968 --> 00:04:08,000 トレーサーだ 47 00:04:12,534 --> 00:04:14,000 きれいだね… 48 00:04:14,400 --> 00:04:14,834 うん 49 00:04:18,300 --> 00:04:20,334 ねぇ ノボルくん 50 00:04:21,033 --> 00:04:23,834 私ね あれに乗るんだ 51 00:04:52,334 --> 00:04:52,767 うっ 52 00:04:54,968 --> 00:04:55,601 見つけた! 53 00:05:04,000 --> 00:05:04,667 当たって! 54 00:05:17,667 --> 00:05:21,300 ノボルくん 火星では ずーっと演習でした 55 00:05:21,501 --> 00:05:26,234 私 これでも選抜メンバーだからね 結構 成績よかったのよ 56 00:05:26,467 --> 00:05:29,567 オリンポス山も見たし マリネリス渓谷も見たし 57 00:05:29,667 --> 00:05:31,634 火星観光もバッチリ! 58 00:05:35,000 --> 00:05:37,467 もちろん タルシス遺跡にも行ったよ 59 00:05:38,033 --> 00:05:41,000 教科書の写真では 何度も見た景色なんだけど 60 00:05:41,033 --> 00:05:43,767 実物を見てもなんだか信じられない思い 61 00:05:44,968 --> 00:05:49,400 本当に太陽系は人間だけのものじゃ なかったんだぁって 62 00:05:50,167 --> 00:05:55,000 2039年の調査隊は ここでタルシス人に全滅させられて 63 00:05:55,033 --> 00:05:59,434 今度は 私たちが彼らから得た テクノロジーで彼らを追うんだ 64 00:06:07,067 --> 00:06:09,400 リシテア号の生活にも慣れたよ 65 00:06:09,567 --> 00:06:13,501 火星で惑星圏演習をやった後 木星まできて 66 00:06:13,534 --> 00:06:16,334 今はエウロパの中継基地でひと休み 67 00:06:17,400 --> 00:06:20,000 木星の雲は 眺めていて飽きないよ 68 00:06:20,467 --> 00:06:23,267 イオと木星の間の フラックスチューブもすごいの! 69 00:06:23,367 --> 00:06:25,734 太陽系で いちばん大きなカミナリ! 70 00:06:30,701 --> 00:06:31,801 届くかなぁ… 71 00:06:59,234 --> 00:07:00,601 長峰からだ 72 00:07:04,400 --> 00:07:08,834 長峰美加子は 中学の頃に わりと仲のよかったクラスメイトだ 73 00:07:09,400 --> 00:07:12,868 同じ高校に行けるって まぁ 期待もしていたんだけど 74 00:07:13,901 --> 00:07:16,334 長峰は今 木星にいるそうだ 75 00:07:18,200 --> 00:07:22,767 中学3年の夏 国連宇宙軍の 選抜メンバーに選ばれた長峰は 76 00:07:23,067 --> 00:07:28,267 その冬 1000人以上からなる大船団で タルシアン調査の旅に出発した 77 00:07:29,067 --> 00:07:30,400 そういえば 長峰は 78 00:07:30,434 --> 00:07:33,501 わりと成績もよかったし 運動もできたような気がするけど 79 00:07:33,534 --> 00:07:35,200 それにしても国連軍だよ 80 00:07:35,801 --> 00:07:38,868 なんだか バカみたいな話だ 81 00:07:39,434 --> 00:07:40,868 いよいよ木星を出発 82 00:07:41,667 --> 00:07:44,601 リシテア号はこの後 冥王星のずっと先まで行くよ 83 00:07:45,200 --> 00:07:46,934 詳しい行き先はナイショみたい 84 00:07:48,167 --> 00:07:51,534 メールが届くまで だんだん時間がかかるようになるけど 85 00:07:51,567 --> 00:07:53,667 いちばん 端っこの オールトの雲からだって 86 00:07:53,701 --> 00:07:54,834 半年くらいのもんだからね 87 00:07:55,467 --> 00:07:59,334 “20世紀のエアメイル” みたいな ものだよ うん だいじょうぶ 88 00:08:00,801 --> 00:08:02,868 何が 大丈夫なんだ… 89 00:08:08,434 --> 00:08:11,067 こんなふうに 僕の高校の一学期は 90 00:08:11,100 --> 00:08:13,434 ミカコとのメールの やりとりのうちに過ぎた 91 00:08:14,267 --> 00:08:17,067 “ただいま メールは お預かりしていません” 92 00:08:17,667 --> 00:08:19,868 ミカコが地球から離れるにつれ 93 00:08:20,234 --> 00:08:23,100 メールのやりとりにかかる時間は 開いていく 94 00:08:26,567 --> 00:08:28,634 “ただいまメールはお預かりして…” 95 00:08:31,734 --> 00:08:36,200 ただ ミカコからのメールを 待つだけの自分になってしまう… 96 00:08:44,234 --> 00:08:48,767 ノボルくん 私は今 太陽系最果ての冥王星にいます 97 00:08:49,367 --> 00:08:51,334 地球を出発してから もう半年 98 00:08:51,467 --> 00:08:55,801 リシテア艦隊は木星から ずっと調査を続けてきたんだけど 99 00:08:55,968 --> 00:08:59,801 結局 タルシアンの痕跡は まだ どこにも見つかっていないの 100 00:09:00,601 --> 00:09:03,667 ノボルくん でも私はホントはね… 101 00:09:04,067 --> 00:09:08,601 このまま何も見つからないで 早く 地球に帰れるのがイチバンいいなって 102 00:09:09,634 --> 00:09:10,334 なに!? 103 00:09:23,033 --> 00:09:24,501 敵? 本当に? 104 00:09:24,901 --> 00:09:25,868 私も出るの? 105 00:09:45,501 --> 00:09:47,334 ふーっ 106 00:09:49,067 --> 00:09:49,868 えっ? 107 00:09:56,601 --> 00:09:57,200 あーっ! 108 00:10:01,601 --> 00:10:02,601 落とさなきゃ! 109 00:10:19,200 --> 00:10:19,501 なに…? 110 00:10:22,567 --> 00:10:23,467 うっ… 111 00:10:31,367 --> 00:10:31,701 きゃっ 112 00:10:41,434 --> 00:10:46,601 はーっは はーっは はーっは … 113 00:10:46,734 --> 00:10:47,467 ハッ 114 00:10:57,067 --> 00:10:58,534 ノボルくんと1年もズレちゃう! 115 00:10:59,167 --> 00:11:01,167 今 メール… あっ! 116 00:11:11,734 --> 00:11:12,567 クッ! 117 00:11:16,767 --> 00:11:17,968 コイツを落とさないと 118 00:11:20,000 --> 00:11:21,033 間に合わないよ! 119 00:11:28,901 --> 00:11:29,968 戻らなくちゃ 120 00:12:46,868 --> 00:12:50,801 このメールがノボルくんに届くまで1年 121 00:12:53,567 --> 00:12:55,968 シリウスからは片道8年だよ 122 00:12:57,267 --> 00:13:02,100 ノボルくん 私のこと… 忘れちゃうかな… 123 00:13:16,834 --> 00:13:19,734 季節がひとまわりして また夏が来た 124 00:13:20,767 --> 00:13:24,367 ミカコからのメールを待つのを やめたのは去年の冬だ 125 00:13:25,534 --> 00:13:29,000 結局 もう1年もミカコから メールは届いていない 126 00:13:36,133 --> 00:13:37,067 はぁっ 127 00:13:44,767 --> 00:13:45,367 あっ! 128 00:13:56,501 --> 00:13:57,534 ミカコからだ 129 00:13:58,767 --> 00:13:59,968 1年ぶりのメールだ 130 00:14:08,334 --> 00:14:09,634 “リシテア号は これから…” 131 00:14:09,667 --> 00:14:12,767 リシテア号はこれからね 長距離ワープに入るの 132 00:14:13,300 --> 00:14:16,467 目的地は8.6光年先のシリウス 133 00:14:17,000 --> 00:14:20,801 このメールが着く頃には 私は もうシリウスにいるよ 134 00:14:21,367 --> 00:14:23,033 お互いのメールが届くまで 135 00:14:23,067 --> 00:14:25,667 これからは8年7ヶ月 かかることになっちゃう 136 00:14:26,467 --> 00:14:27,300 ごめんね… 137 00:14:33,267 --> 00:14:35,434 ねぇ 私たちは… 138 00:14:35,467 --> 00:14:39,100 宇宙と地上にひきさかれる 恋人みたいだね 139 00:14:47,300 --> 00:14:52,300 僕たちは中学の頃から ずっとたぶん お互いだけを見てた 140 00:14:53,000 --> 00:14:59,601 でも 光の速さで8年かかる距離なんて “永遠”っていうのと何も変わらない 141 00:15:01,000 --> 00:15:03,534 僕とミカコの時間はどんどんズレていく 142 00:15:04,033 --> 00:15:05,868 だから僕は目標を立てた 143 00:15:06,634 --> 00:15:10,167 もっともっと心を硬く 冷たく 強くすること 144 00:15:10,200 --> 00:15:14,501 絶対に開かないと分かっている扉を いつまでも叩いたりしないこと 145 00:15:14,701 --> 00:15:18,033 俺は ひとりでも大人になること 146 00:15:44,634 --> 00:15:49,267 シリウスが惑星系を持っていることは 前世紀から分かっていたことだけど 147 00:15:51,367 --> 00:15:54,100 他の星系の惑星を肉眼で見たのは 私たちが人類初だ 148 00:15:55,200 --> 00:15:57,501 シリウス星系第4惑星 アガルタ 149 00:16:27,133 --> 00:16:31,968 アガルタは空も雲も海も 地球に よく似ている 150 00:16:32,000 --> 00:16:35,300 でも やっぱり 全然ちがうって思う 151 00:16:39,133 --> 00:16:42,501 時間も距離も どんどん ノボルくんから離れていく… 152 00:17:37,133 --> 00:17:38,400 わあ…! 153 00:17:40,667 --> 00:17:42,167 雨に あたりたいな… 154 00:17:45,033 --> 00:17:48,267 コンビニ行って一緒にアイス食べたい 155 00:17:50,200 --> 00:17:51,467 ノボルくん… 156 00:17:52,000 --> 00:17:59,701 えっ うっうっ… うっうっ… 157 00:18:19,834 --> 00:18:21,167 届いて… 158 00:18:23,234 --> 00:18:24,267 あ… 159 00:18:35,567 --> 00:18:38,033 あ… あたし…? 160 00:18:38,367 --> 00:18:41,801 ねぇ やっとここまできたね 161 00:18:45,133 --> 00:18:47,868 大人になるには痛みも必要だけど 162 00:18:48,200 --> 00:18:53,033 でも あなたたちなら ずっとずっと もっと先まで きっと行ける 163 00:18:53,133 --> 00:18:55,801 他の銀河へも他の宇宙へだって 164 00:18:56,434 --> 00:18:59,133 ねえ だから ついてきてね 165 00:18:59,434 --> 00:19:02,200 託したいのよ あなたたちに 166 00:19:02,334 --> 00:19:05,701 でも 私はただ ノボルくんに会いたいだけなのに 167 00:19:06,067 --> 00:19:08,701 “好き” って言いたいだけなのに 168 00:19:08,968 --> 00:19:14,868 うううっ うっ… 169 00:19:15,033 --> 00:19:17,267 だいじょうぶ きっと また会えるよ 170 00:19:46,434 --> 00:19:47,300 はっ 171 00:19:47,367 --> 00:19:49,000 分かんないよ! 172 00:20:17,133 --> 00:20:18,334 あの夏の日 173 00:20:18,734 --> 00:20:22,801 8年という月日が永遠に 思えたことを よく覚えている 174 00:20:23,667 --> 00:20:26,801 それから今まで決して迷いなく 生きてきたわけではないけど 175 00:20:27,100 --> 00:20:30,634 あの日に決めた目標だけは 今も変わっていない 176 00:20:31,334 --> 00:20:35,834 僕は僕の時間を生きて 来月からは念願の艦隊勤務だ 177 00:20:37,200 --> 00:20:37,901 あっ! 178 00:20:56,167 --> 00:20:57,467 ミカコ… 179 00:21:34,801 --> 00:21:39,601 はぁ はぁ はぁ はぁ… 180 00:21:39,667 --> 00:21:43,968 ミカコからのメールは2行だけで 後はノイズだけだった 181 00:21:44,767 --> 00:21:48,534 でも これだけでも 奇跡みたいなものだと思う 182 00:21:49,167 --> 00:21:51,300 ねぇ ミカコ 俺はね… 183 00:21:51,801 --> 00:21:56,567 私はね ノボルくん 懐かしいものが たくさんあるんだ 184 00:21:56,667 --> 00:21:59,601 ここには何にもないんだもん たとえばね… 185 00:21:59,734 --> 00:22:05,300 たとえば 夏の雲とか 冷たい雨とか 秋の風の匂いとか 186 00:22:05,334 --> 00:22:09,267 傘にあたる雨の音とか 春の土のやわらかさとか 187 00:22:09,567 --> 00:22:11,767 夜中のコンビニの安心する感じとか 188 00:22:12,100 --> 00:22:15,300 それからね 放課後のひんやりとした空気とか 189 00:22:15,400 --> 00:22:16,968 黒板消しの匂いとか 190 00:22:17,167 --> 00:22:19,033 夜中のトラックの遠い音とか 191 00:22:19,534 --> 00:22:21,334 夕立のアスファルトの匂いとか 192 00:22:24,000 --> 00:22:28,167 ノボルくん そういうものをね 私は ずっと… 193 00:22:28,267 --> 00:22:32,567 僕は ずっとミカコと一緒に 感じていたいって思っていたよ 194 00:22:59,567 --> 00:23:02,901 艦隊が沈んでいく リシテアを守らなきゃ! 195 00:23:09,567 --> 00:23:11,234 ねえ ノボルくん… 196 00:23:11,901 --> 00:23:13,501 私たちは とおくとおく 197 00:23:13,534 --> 00:23:15,767 すごく すごーく とおく離れているけど 198 00:23:16,400 --> 00:23:21,000 でも想いが時間や距離を 超えることだってあるかもしれない 199 00:23:21,634 --> 00:23:24,367 ノボルくんは そういうふうに思ったことはない? 200 00:23:24,801 --> 00:23:28,100 もし一瞬でもそういうことがあるなら 201 00:23:28,501 --> 00:23:33,667 僕は何を想うだろう? ミカコは何を想うだろう…? 202 00:24:01,033 --> 00:24:04,634 ねっ 私たちの想うことは きっとひとつ 203 00:24:14,033 --> 00:24:16,901 ねぇ ノボルくん… 204 00:24:18,100 --> 00:24:20,634 「私は ここにいるよ」