1 00:00:06,506 --> 00:00:07,507 (御狐神(みけつかみ))ダージリンです 2 00:00:07,590 --> 00:00:09,634 (男)いや 私はその… 3 00:00:09,718 --> 00:00:11,886 (女) そんなに おびえなくても いいじゃない 4 00:00:12,470 --> 00:00:15,223 まさに 狐(きつね)につままれたような顔ね 5 00:00:15,640 --> 00:00:17,559 ウフフフ… 6 00:00:18,893 --> 00:00:21,354 化かされるのは 初めてかしら? 7 00:00:21,438 --> 00:00:23,857 (御狐神) 奥様 そんなに笑われては 8 00:00:24,983 --> 00:00:26,401 気の毒です 9 00:00:27,527 --> 00:00:28,987 (流水音) 10 00:00:34,909 --> 00:00:38,705 (御狐神N) 妖怪の先祖返りの家は どこも栄えていた 11 00:00:39,789 --> 00:00:44,627 先祖返りを始祖の再来とし 大事に敬い育てることで 12 00:00:44,878 --> 00:00:48,882 さらなる繁栄を呼ぶというのが 多くの解釈だが 13 00:00:49,549 --> 00:00:52,635 それとは違う 裏解釈もあった 14 00:00:57,599 --> 00:01:02,604 邪悪な妖怪で知られる 九尾の妖狐(ようこ)の血を引く御狐神家では 15 00:01:02,979 --> 00:01:06,357 その強大な力を持つ先祖返りを 管理することで 16 00:01:06,858 --> 00:01:08,943 家が力を持つとされていた 17 00:01:10,862 --> 00:01:14,115 祀(まつ)るように軟禁されていたのだ 18 00:01:14,866 --> 00:01:16,076 (ドアが開く音) 19 00:01:18,536 --> 00:01:22,123 (御狐神N) 厳重な送り迎え付きで 学校には行かせてもらえたが 20 00:01:22,540 --> 00:01:26,044 それ以外は この部屋の中が全てだった 21 00:01:33,510 --> 00:01:38,014 その異常な環境に 誰もが見て見ぬふりをした 22 00:01:41,684 --> 00:01:45,313 親は いるのだろうが まともに会ったことはない 23 00:01:46,231 --> 00:01:48,191 そんなことが ありうる家だった 24 00:01:49,692 --> 00:01:52,862 先祖返りの家は どこも宗教じみたところがあり 25 00:01:53,321 --> 00:01:57,117 その歪みと相対するには 自分が幼すぎた 26 00:01:59,077 --> 00:02:02,622 持っているものは 学校で学べる程度の知識と 27 00:02:03,414 --> 00:02:07,377 生まれ持ったこざかしさと 自分自身だけ 28 00:02:10,588 --> 00:02:11,464 (メイド)あ… 29 00:02:13,675 --> 00:02:15,635 (御狐神N) 最初はメイドだった 30 00:02:18,513 --> 00:02:22,684 孤独でかわいそうな 人肌恋しい少年を演じれば 31 00:02:23,268 --> 00:02:25,562 大抵の女性は警戒をといた 32 00:02:26,312 --> 00:02:30,650 あとは彼女たちの心の隙間に 入り込んでいくだけ 33 00:02:31,401 --> 00:02:33,444 そこから枝を伸ばすように 34 00:02:33,528 --> 00:02:36,531 より力を持つ女性へと にじり寄っていった 35 00:02:38,950 --> 00:02:41,911 (女)双熾(そうし) そろそろ出るわ 36 00:02:42,829 --> 00:02:44,956 (御狐神N) そしてやっと たどりついた 37 00:02:46,624 --> 00:02:49,627 一族で最も力を持つ女性 38 00:02:51,880 --> 00:02:54,674 彼女に気に入られるのは簡単だった 39 00:02:55,341 --> 00:02:59,512 子供もなく 時とともに 夫にも相手にされなくなった 40 00:02:59,596 --> 00:03:00,638 寂しい人 41 00:03:01,389 --> 00:03:02,807 (女)こら やめなさい 42 00:03:02,891 --> 00:03:05,268 (御狐神N) 女として扱えばいいだけ 43 00:03:06,185 --> 00:03:08,938 時間やお金 そして 自分 44 00:03:09,522 --> 00:03:11,649 いろいろなものを 持て余していたから 45 00:03:12,942 --> 00:03:15,862 彼女のペットとしての 自由を手に入れた 46 00:03:16,195 --> 00:03:17,405 それ以外にも 47 00:03:17,655 --> 00:03:22,285 彼女といることで 経験や贅沢(ぜいたく) 教養を手に入れた 48 00:03:22,827 --> 00:03:25,622 でも ここで終わるつもりはない 49 00:03:26,205 --> 00:03:28,917 もっと本当の自由を 50 00:03:30,585 --> 00:03:33,254 1年後 それは かなった 51 00:03:34,380 --> 00:03:37,133 奥様に同行したパーティーで 出会ったのだ 52 00:03:37,842 --> 00:03:42,722 ずっと探していた 御狐神家以上の力を持つ家柄 53 00:03:43,765 --> 00:03:47,894 正義感が強く 優しく 面倒見のよい 54 00:03:48,895 --> 00:03:52,023 暇で出しゃばりな女性に 55 00:03:53,149 --> 00:03:54,609 (菖蒲(あやめ))事情は よく分かったわ 56 00:03:55,318 --> 00:03:58,571 御狐神の家で そんなことが行われていたなんて 57 00:03:59,405 --> 00:04:03,952 ややこしい話になりそうだけど もう心配しなくていいわよ 58 00:04:04,994 --> 00:04:06,162 大変だったわね 59 00:04:06,454 --> 00:04:07,288 (御狐神)はい 60 00:04:07,914 --> 00:04:10,208 (御狐神N) 十分に 哀れんでくれたようだ 61 00:04:10,625 --> 00:04:14,003 やっと… やっと解放されるんですね 62 00:04:16,214 --> 00:04:19,968 一族ぐるみで軟禁てことは 行く当てもないわね 63 00:04:20,718 --> 00:04:21,886 うちに来なさい 64 00:04:25,723 --> 00:04:26,683 (御狐神)菖蒲さん 65 00:04:28,810 --> 00:04:30,144 ありがとうございます 66 00:04:34,148 --> 00:04:35,191 (菖蒲)こら! 67 00:04:35,775 --> 00:04:38,569 図体(ずうたい)デカいからって マセガキが 68 00:04:38,945 --> 00:04:40,905 あんたの相手は うちの息子よ 69 00:04:41,364 --> 00:04:42,573 男性ですか 70 00:04:42,865 --> 00:04:44,534 初めてですが 頑張ります 71 00:04:44,617 --> 00:04:46,536 (菖蒲)そうじゃなくてね 72 00:04:47,036 --> 00:04:50,039 そういうのは立場上 許せないのよ 73 00:04:50,665 --> 00:04:54,210 うちの息子が あんたと同じ先祖返りなの 74 00:04:54,585 --> 00:04:56,754 (御狐神N) 彼女の名は青鬼院(しょうきいん)菖蒲 75 00:04:57,839 --> 00:05:00,216 そして僕は彼女の息子に会った 76 00:05:01,592 --> 00:05:05,346 彼女の息子 青鬼院蜻蛉(かげろう)に 77 00:05:06,180 --> 00:05:08,391 (蜻蛉) 今日から貴様は私の玩具だ! 78 00:05:08,474 --> 00:05:10,435 手始めに靴を舐めてもらおうか! 79 00:05:11,102 --> 00:05:12,020 (御狐神)はい 80 00:05:13,604 --> 00:05:14,480 (蜻蛉)待て 81 00:05:14,981 --> 00:05:17,150 貴様 プライドはないのか 82 00:05:17,734 --> 00:05:21,696 自尊心とは自分あってのものです 蜻蛉様 83 00:05:22,530 --> 00:05:25,616 おっしゃるとおり 僕は今日から あなたのもの 84 00:05:26,200 --> 00:05:28,828 あなたなくして 尊べる自分などありません 85 00:05:29,370 --> 00:05:32,540 驚いた なんてつまらない男だ 86 00:05:33,166 --> 00:05:35,293 御狐神双熾と申します 87 00:05:36,419 --> 00:05:40,298 (御狐神N) “自分で責任の取れる歳になるまで この家にいるように” 88 00:05:40,381 --> 00:05:41,716 と言われたので 89 00:05:41,799 --> 00:05:42,759 それまで 90 00:05:42,842 --> 00:05:45,678 蜻蛉の話し相手兼世話役を 買って出た 91 00:05:46,429 --> 00:05:50,099 いつか1人で生きていくために お金が欲しかったのだ 92 00:05:50,683 --> 00:05:53,519 青鬼院家だけあって 十分すぎる額だった 93 00:05:53,603 --> 00:05:54,604 (渡狸(わたぬき))うわ〜! 94 00:05:54,854 --> 00:05:57,648 (蜻蛉) フハハハハハッ 悦(よ)いぞ 悦いぞ〜! 95 00:05:57,732 --> 00:05:59,484 (夏目(なつめ))行くよ ラスカル〜! 96 00:06:00,359 --> 00:06:02,236 (御狐神N) 20歳(はたち)までの辛抱だ 97 00:06:02,320 --> 00:06:04,113 それで本当の自由が 98 00:06:04,864 --> 00:06:06,532 それまで そつなくこなそう 99 00:06:07,366 --> 00:06:08,868 やれるはずだ 100 00:06:08,951 --> 00:06:11,871 装い 偽り 媚(こ)び 101 00:06:12,246 --> 00:06:14,123 この身ひとつで やってきたのだから 102 00:06:16,626 --> 00:06:18,878 (蜻蛉) これに いい感じに返事を書いておけ 103 00:06:19,378 --> 00:06:20,588 これは… 104 00:06:20,671 --> 00:06:24,300 ご婚約者の 白鬼院凜々蝶(しらきいんりりちよ)様からのお手紙では 105 00:06:24,967 --> 00:06:25,802 よいのですか? 106 00:06:26,135 --> 00:06:29,097 よい 面倒だ 相手をしてやれ 107 00:06:29,680 --> 00:06:30,932 承りました 108 00:06:31,891 --> 00:06:33,601 (御狐神N) 蜻蛉様の婚約者は 109 00:06:33,935 --> 00:06:35,478 白鬼院という 110 00:06:35,561 --> 00:06:38,648 青鬼院とは 別の鬼の血を引く 一族の女性 111 00:06:39,357 --> 00:06:41,192 まだ会ったことはないけれど 112 00:06:41,692 --> 00:06:45,029 その内容や きれいな言葉遣い 文字から 113 00:06:45,446 --> 00:06:48,282 丁寧で繊細な女性という 印象を持った 114 00:06:49,992 --> 00:06:54,747 (御狐神) 蜻蛉様そのものを装いつつ いい感じの返事というのは無理だ 115 00:06:54,956 --> 00:06:58,626 “私の性奴隷になれ”とか 書きそうだ 116 00:06:59,752 --> 00:07:04,257 (御狐神) 蜻蛉としてウソにはならない程度に 美化して書かなくてはいけない 117 00:07:05,216 --> 00:07:06,926 彼女に好かれそうな 118 00:07:07,009 --> 00:07:10,680 蜻蛉という名の 架空の人物を頭の中に作ろう 119 00:07:11,681 --> 00:07:13,599 包容力のある男がいい 120 00:07:14,058 --> 00:07:17,019 彼女と同じく丁寧で品行方正で 121 00:07:18,688 --> 00:07:21,941 今までどおり相手に好まれるように 合わせればいいだけ 122 00:07:22,316 --> 00:07:23,359 簡単だ 123 00:07:23,734 --> 00:07:24,902 ずっと やってきたことだ 124 00:07:26,946 --> 00:07:30,074 (御狐神N) そうして手紙のやり取りは始まった 125 00:07:31,868 --> 00:07:32,702 だが 126 00:07:33,744 --> 00:07:35,413 思ったようには いかなかった 127 00:07:36,330 --> 00:07:38,332 返事は難航することになる 128 00:07:40,209 --> 00:07:42,128 (御狐神) 淡々とした内容の本だ 129 00:07:43,463 --> 00:07:45,548 どこで“した”と書くべきか… 130 00:07:46,132 --> 00:07:49,760 (御狐神N) 自分には およそ 感動というものがなかった 131 00:07:51,137 --> 00:07:52,430 笑うときも泣くときも 132 00:07:52,513 --> 00:07:55,516 すべて相手の反応を見つつ 行ってきたから 133 00:07:56,392 --> 00:07:57,810 自分にあるのは 134 00:07:57,894 --> 00:08:01,522 誰もが持つ三大欲求と自由への野心 135 00:08:02,023 --> 00:08:03,191 それぐらいだった 136 00:08:04,650 --> 00:08:06,319 人柄は装えても 137 00:08:06,569 --> 00:08:09,238 感じてもいない感想を述べるのには 138 00:08:09,322 --> 00:08:10,615 時間を要した 139 00:08:11,657 --> 00:08:15,870 (御狐神) 蜻蛉として彼女に好かれること それが仕事だ 140 00:08:16,579 --> 00:08:19,207 いかにも感銘を受けたというふうに 書かなくては 141 00:08:20,333 --> 00:08:23,461 蜻蛉は包容力のある 落ち着いた男性 142 00:08:24,045 --> 00:08:27,173 なら 共感を覚えるとすれば あの登場人物だ 143 00:08:27,924 --> 00:08:29,175 だとすれば 144 00:08:29,258 --> 00:08:31,844 あのシーンに感動して あのシーンでは… 145 00:08:32,470 --> 00:08:34,013 (蜻蛉)なんてつまらない男だ 146 00:08:34,679 --> 00:08:35,515 あ… 147 00:08:38,058 --> 00:08:39,309 (御狐神) こういうことか 148 00:08:40,727 --> 00:08:43,898 (御狐神N) そうか 僕には こだわりがないのか 149 00:08:44,899 --> 00:08:47,902 小さなことに 気持ちを割く余裕もなく生きてきた 150 00:08:48,528 --> 00:08:49,862 感動なんてない 151 00:08:53,824 --> 00:08:58,788 だけど 手紙を書くたびに それを考えざるをえなかった 152 00:09:00,289 --> 00:09:02,208 手紙のやり取りは続いた 153 00:09:09,423 --> 00:09:13,427 彼女との話題のため いろんなものを見聞きした 154 00:09:14,679 --> 00:09:16,347 彼女は外に出るより 155 00:09:16,430 --> 00:09:19,016 家で趣味に没頭するタイプ だったので 156 00:09:19,475 --> 00:09:22,061 純文学やクラシック音楽の話題 157 00:09:22,478 --> 00:09:26,148 そして 妙に偏ったマニアックな話題まで 158 00:09:26,857 --> 00:09:28,526 いろいろな話をした 159 00:09:33,489 --> 00:09:36,242 (御狐神) “とうとう 夏が終わってしまいましたね” 160 00:09:36,742 --> 00:09:39,495 “夏は体調を崩すので 不得手ですが” 161 00:09:39,912 --> 00:09:42,498 “何かの節目のように 感じてしまって” 162 00:09:43,165 --> 00:09:44,834 “終わるころになると” 163 00:09:45,084 --> 00:09:47,837 “何も変われなかったと 振り返るのです” 164 00:09:50,673 --> 00:09:53,009 (御狐神N) 彼女は感傷的な人だった 165 00:09:53,926 --> 00:09:57,597 長くやり取りをしていると そういう印象を持った 166 00:09:57,972 --> 00:10:00,766 繊細 敏感 潔癖 167 00:10:01,350 --> 00:10:05,104 ときに偏ったところがあったが それも その片鱗(へんりん)に思う 168 00:10:07,940 --> 00:10:11,902 普通なら流すようなところも 目をそらせないタチだろう 169 00:10:12,570 --> 00:10:17,116 自分には彼女と同じ感度で ものを見ることはできなかったので 170 00:10:17,199 --> 00:10:18,659 想像しなければいけなかった 171 00:10:18,743 --> 00:10:20,494 蜻蛉なら こんなとき… 172 00:10:21,245 --> 00:10:22,580 彼女はそれに対して… 173 00:10:23,247 --> 00:10:26,417 (凜々蝶) 最近 コーヒーが飲めるようになりました 174 00:10:26,751 --> 00:10:28,878 お屋敷に九官鳥がいます 175 00:10:28,961 --> 00:10:32,381 口下手な私と いつも話をしてくれます 176 00:10:40,389 --> 00:10:44,560 (凜々蝶) また春が来ました クラス替えは緊張します 177 00:10:44,810 --> 00:10:48,689 勉強は好きです 知らないことを知るのは楽しい 178 00:10:48,773 --> 00:10:49,815 ところで あの本は… 179 00:10:49,899 --> 00:10:51,734 この曲が とても好きです 180 00:10:53,861 --> 00:10:58,407 (御狐神N) すっかり蜻蛉という虚像として 想像することが板についてきた 181 00:10:59,116 --> 00:11:00,743 自然なことになっていた 182 00:11:03,204 --> 00:11:04,038 あ…! 183 00:11:06,123 --> 00:11:08,042 (御狐神N) 想像するということが 184 00:11:08,501 --> 00:11:11,379 これほど錯覚を起こすことだとは 思わなかった 185 00:11:12,171 --> 00:11:14,090 これは自分の感情ではない 186 00:11:15,007 --> 00:11:16,926 今までどんなに装っても 187 00:11:17,259 --> 00:11:19,470 役に引っ張られたことはないのに 188 00:11:19,970 --> 00:11:20,805 なぜ? 189 00:11:24,892 --> 00:11:28,229 自分は彼女に感化されていたのだ 190 00:11:28,938 --> 00:11:32,566 (電車の走行音) 191 00:11:33,401 --> 00:11:37,071 (御狐神N) ただの張りぼてが その気になって 感動に酔った 192 00:11:37,822 --> 00:11:41,158 それは 彼女のマネごとにすぎなかったが 193 00:11:42,535 --> 00:11:44,829 神経が広がっていくようだった 194 00:11:53,671 --> 00:11:55,131 (セミの鳴き声) 195 00:11:55,214 --> 00:11:57,425 (蜻蛉)許嫁(いいなずけ)殿が夏休みの間 196 00:11:57,508 --> 00:11:59,009 我が家に滞在することになった 197 00:11:59,760 --> 00:12:01,887 もちろん 手紙のことは内密だぞ 198 00:12:01,971 --> 00:12:02,847 (御狐神)はい 199 00:12:02,930 --> 00:12:04,306 心得ております 200 00:12:04,890 --> 00:12:07,726 (御狐神N) どんな人だろうという興味があった 201 00:12:07,977 --> 00:12:10,146 (車のエンジン音) 202 00:12:12,314 --> 00:12:14,400 (凜々蝶) お出迎え わざわざどうも 203 00:12:14,483 --> 00:12:18,028 しばらくお世話になりますとでも 言っておくべきかな 204 00:12:18,904 --> 00:12:21,699 (女中) 凜々蝶様は 長旅で疲れておりまして… 205 00:12:21,782 --> 00:12:23,576 (メイド)そっ そうですわね 206 00:12:23,659 --> 00:12:24,702 では お部屋にご案内… 207 00:12:24,785 --> 00:12:26,579 (凜々蝶)夕刊を頂けるかな? 208 00:12:26,662 --> 00:12:28,956 今日の為替と株の動きが 知りたいんだが 209 00:12:29,248 --> 00:12:30,249 (メイド)はっ はい… 210 00:12:30,332 --> 00:12:32,418 (蜻蛉)あれが我が婚約者殿だ 211 00:12:32,626 --> 00:12:33,627 驚いたか 212 00:12:34,336 --> 00:12:35,254 いいえ 213 00:12:36,213 --> 00:12:37,256 (御狐神N) 驚いた 214 00:12:37,965 --> 00:12:40,509 手紙の彼女と同一人物とは思えない 215 00:12:41,802 --> 00:12:42,636 こちらと同じく 216 00:12:42,720 --> 00:12:44,763 代理が書いていたのでは ないだろうか 217 00:12:45,723 --> 00:12:49,059 確かに こんな子供の書く内容ではない 218 00:12:50,102 --> 00:12:52,104 愛想笑いひとつできなくても 219 00:12:52,438 --> 00:12:56,734 十分 愛され 守られ 成り立つというわけか 220 00:12:57,651 --> 00:12:59,487 自分とは あまりに違う 221 00:13:00,029 --> 00:13:02,531 だけど 何より驚いたのは 222 00:13:03,032 --> 00:13:06,410 自分が落胆していることだった 223 00:13:09,663 --> 00:13:12,082 (蜻蛉) 許嫁殿がストレスで吐いたらしい 224 00:13:12,791 --> 00:13:14,752 慣れない場所で気を張ったのだろう 225 00:13:15,169 --> 00:13:17,213 もともと 丈夫なほうではないからな 226 00:13:17,421 --> 00:13:18,297 (御狐神)気を? 227 00:13:18,589 --> 00:13:21,592 (蜻蛉) そうは見えんだろうが あれでも 一応な 228 00:13:22,927 --> 00:13:25,596 手紙の主が あれで幻滅したろうが 229 00:13:25,679 --> 00:13:27,264 まあ 嫌ってやるな 230 00:13:27,473 --> 00:13:28,474 え? 231 00:13:28,641 --> 00:13:30,684 ご本人が 書かれていらっしゃるのですか? 232 00:13:30,893 --> 00:13:32,102 (蜻蛉)もちろんだ 233 00:13:32,311 --> 00:13:34,813 代理を立てるなんて発想も ないだろう 234 00:13:34,980 --> 00:13:36,524 要領が悪いからな 235 00:13:37,608 --> 00:13:40,152 許嫁殿は学校では いじめられ 236 00:13:40,236 --> 00:13:42,112 家でも うまくいってないらしい 237 00:13:42,571 --> 00:13:45,199 飼われているようなものだ という意味では… 238 00:13:45,282 --> 00:13:47,618 フッ 貴様と同じか 239 00:13:53,791 --> 00:13:55,334 (御狐神) だったら なおさら 240 00:13:55,417 --> 00:13:57,461 よりうまく身をこなさなければ 241 00:13:58,170 --> 00:14:01,006 器用に立ち回り 生きなければ 242 00:14:12,601 --> 00:14:13,769 同じじゃない 243 00:14:14,603 --> 00:14:17,565 (御狐神N) 彼女は自分のような 無情な人間ではない 244 00:14:18,566 --> 00:14:22,069 幼くとも 日々いろんなものを 敏感に感じているのに 245 00:14:22,611 --> 00:14:24,530 誰が それを知っているのだろう 246 00:14:25,155 --> 00:14:27,533 誰が それに気付いているのだろう 247 00:14:29,368 --> 00:14:33,497 うなだれた小さな体が 自分とあまりに違って 248 00:14:33,998 --> 00:14:36,709 その違いを痛々しく思った 249 00:14:48,929 --> 00:14:51,223 (蜻蛉) まだ手紙のやり取りを しているのか? 250 00:14:51,557 --> 00:14:52,474 (御狐神)はい 251 00:14:52,558 --> 00:14:56,770 (蜻蛉) もう私も家を出たのだ 適当なところでカタをつけろ 252 00:14:56,896 --> 00:14:58,647 貴様もそろそろ出ていくのだろう? 253 00:15:00,190 --> 00:15:02,318 蜻蛉様にその気はないのですか? 254 00:15:02,568 --> 00:15:05,321 何だ 貴様がその気になったのか? 255 00:15:05,571 --> 00:15:06,780 ご冗談を 256 00:15:07,573 --> 00:15:09,742 大事な主人のご婚約者ですよ 257 00:15:09,950 --> 00:15:12,244 (蜻蛉)悦いぞ 悦いぞ 略奪愛! 258 00:15:12,328 --> 00:15:13,579 断然 面白い! 259 00:15:13,662 --> 00:15:14,788 (御狐神)さようですか 260 00:15:15,748 --> 00:15:16,749 (御狐神N) 違う 261 00:15:17,166 --> 00:15:19,251 ただ彼女を見守りたいのだ 262 00:15:20,127 --> 00:15:22,129 こんなことを思う日が来るなんて 263 00:15:23,339 --> 00:15:24,882 あの夏休みから 264 00:15:25,090 --> 00:15:28,344 彼女は より自身の内面を 打ち明けてくれるようになった 265 00:15:28,969 --> 00:15:32,056 彼女のもろさ 不器用さすら 尊いと思う 266 00:15:33,015 --> 00:15:35,684 彼女が自分に心を 開いてくれているのが 267 00:15:35,768 --> 00:15:36,810 うれしかった 268 00:15:37,686 --> 00:15:41,273 そう喜んだ瞬間 いつも我に返った 269 00:15:42,524 --> 00:15:44,026 自分にではない 270 00:15:44,693 --> 00:15:48,948 自分が想像した 蜻蛉という理想の偶像にだ 271 00:15:49,740 --> 00:15:52,368 僕には決してなれない 272 00:15:58,540 --> 00:15:59,541 (ランプをつける音) 273 00:16:05,339 --> 00:16:06,173 (御狐神N) 初めて 274 00:16:07,049 --> 00:16:08,842 自分のことを書いてみた 275 00:16:11,804 --> 00:16:14,640 彼女の目を汚さないよう ぼかして書いた 276 00:16:15,516 --> 00:16:18,143 いけないことだということは よく分かっていた 277 00:16:18,519 --> 00:16:22,773 そんな何もかもが どうでもいい衝動だった 278 00:16:24,274 --> 00:16:25,275 ああ 279 00:16:25,651 --> 00:16:28,946 あの本の主人公は こんな気持ちだったのか 280 00:16:30,656 --> 00:16:34,785 世界には自分と彼女しかなかった 281 00:16:45,587 --> 00:16:49,758 (凜々蝶) 今まで蜻蛉さんを どこか遠くに感じていました 282 00:16:50,342 --> 00:16:53,929 初めて 少し近づけたような気がします 283 00:16:55,264 --> 00:16:59,351 初めて本当のあなたが 見えたような気がする 284 00:17:01,395 --> 00:17:03,981 (御狐神N) “初めて”と言ってくれた 285 00:17:04,982 --> 00:17:06,900 初めて書いた本当の自分に 286 00:17:08,652 --> 00:17:09,528 はい 287 00:17:11,488 --> 00:17:12,614 (御狐神N) そうです 288 00:17:13,156 --> 00:17:15,534 こんなに乏しいものが僕の正体です 289 00:17:16,242 --> 00:17:18,037 気付いてくれたんですね 290 00:17:19,038 --> 00:17:20,039 ありがとう 291 00:17:21,165 --> 00:17:22,708 あなたに出会って僕も 292 00:17:23,916 --> 00:17:25,752 いろいろなことに気付きました 293 00:17:26,086 --> 00:17:27,296 (凜々蝶) 今日は妹に会いました 294 00:17:28,464 --> 00:17:29,631 “お姉ちゃん”と呼ばれて うれしかった… 295 00:17:29,715 --> 00:17:32,092 アンドレ・ギャニオンを 知っていますか? 296 00:17:32,176 --> 00:17:34,094 “めぐり逢(あ)い”という曲が とても好きで… 297 00:17:34,178 --> 00:17:37,097 町で蜻蛉さんの乗っている という車を見かけました 298 00:17:38,182 --> 00:17:40,267 つい 中をのぞいてみました 299 00:17:40,350 --> 00:17:42,019 蜻蛉さんは優しい人ですね… 300 00:17:42,102 --> 00:17:45,481 蜻蛉さんはキンモクセイの香りを 知らないのですか? 301 00:17:45,856 --> 00:17:47,816 きっと 嗅いだら分かります 302 00:17:48,609 --> 00:17:51,945 どこかで すれ違ってるはずだから 303 00:17:58,869 --> 00:18:00,829 (菖蒲)そう 来週 出るのね 304 00:18:01,246 --> 00:18:03,999 (御狐神) 次の春までは1人で暮らしてみます 305 00:18:04,416 --> 00:18:05,667 次の春まで? 306 00:18:05,751 --> 00:18:06,585 (御狐神)はい 307 00:18:07,044 --> 00:18:09,463 春から メゾン・ド・章樫(あやかし)というマンションで 308 00:18:09,546 --> 00:18:11,507 シークレットサービスとして 働きます 309 00:18:12,091 --> 00:18:14,676 あら 蜻蛉が住んでるところじゃない 310 00:18:15,052 --> 00:18:17,888 はい 蜻蛉様のお世話がしたくて 311 00:18:19,264 --> 00:18:21,350 そういうところは健在ね 312 00:18:22,935 --> 00:18:24,812 (御狐神N) ただ 誰よりもおそばに 313 00:18:25,521 --> 00:18:27,856 望むことは それだけだった 314 00:18:29,233 --> 00:18:31,276 (御狐神)蜻蛉様の言うとおりです 315 00:18:31,693 --> 00:18:34,571 僕はあなたを だましていたことになります 316 00:18:38,325 --> 00:18:41,036 (蜻蛉) あの女のためか 保身のためか 317 00:18:41,870 --> 00:18:44,915 (御狐神) 凜々蝶様を傷つけたくないのも 本当だけれど 318 00:18:45,791 --> 00:18:47,626 あの手紙に書いた内容 319 00:18:48,001 --> 00:18:50,295 自分のことを 知ってほしくて書いたのに 320 00:18:50,379 --> 00:18:54,049 今は それを追及されるのが怖い 321 00:18:54,800 --> 00:18:57,719 どうした 双熾 言ってやらんのか 322 00:18:57,803 --> 00:18:58,637 (凜々蝶)何のことだ 323 00:18:59,179 --> 00:19:01,890 あの手紙のことだ 許嫁殿 324 00:19:03,183 --> 00:19:06,311 あの手紙は 私が書いていたものではない 325 00:19:06,937 --> 00:19:08,063 (御狐神) 凜々蝶様 326 00:19:08,438 --> 00:19:09,273 知っているが 327 00:19:11,567 --> 00:19:13,277 (凜々蝶)君があんな手紙を書くか 328 00:19:13,861 --> 00:19:15,571 僕の目が節穴だとでも? 329 00:19:16,321 --> 00:19:17,281 あれは君じゃない 330 00:19:21,577 --> 00:19:24,329 僕が待っていたあの人は 君じゃない 331 00:19:26,874 --> 00:19:28,834 (御狐神) 気付いて… くれた 332 00:19:31,170 --> 00:19:32,004 (蜻蛉)ハア… 333 00:19:32,880 --> 00:19:35,174 何だ つまらんな 334 00:19:35,382 --> 00:19:36,383 (到着音) 335 00:19:39,011 --> 00:19:39,887 (凜々蝶)え… 336 00:19:42,723 --> 00:19:43,557 (凜々蝶)な… 337 00:19:44,558 --> 00:19:45,392 (御狐神)凜々蝶様! 338 00:19:46,852 --> 00:19:48,020 (エレベーターが動く音) 339 00:19:48,353 --> 00:19:49,563 (凜々蝶)何のつもりだ! 340 00:19:49,646 --> 00:19:51,648 (蜻蛉)おびえてる おびえてる〜 341 00:19:51,732 --> 00:19:54,985 もうヤツに用がなくなったので 2人きりになっただけだ 342 00:19:55,360 --> 00:19:56,737 (凜々蝶)僕は君に用はない! 343 00:19:56,820 --> 00:19:58,238 まあ そう言うな 344 00:19:58,530 --> 00:20:00,449 これを見よ 許嫁殿 345 00:20:00,741 --> 00:20:01,700 (凜々蝶)どこから出してる? 346 00:20:02,284 --> 00:20:03,243 (蜻蛉)これだ! 347 00:20:07,289 --> 00:20:08,123 どうだ! 348 00:20:08,207 --> 00:20:10,250 (凜々蝶)これは… 子供の字? 349 00:20:10,334 --> 00:20:11,627 (蜻蛉)汚いだろう! 350 00:20:11,710 --> 00:20:14,338 (凜々蝶) まあ きれいとは言いがたいな 351 00:20:14,421 --> 00:20:15,255 (蜻蛉)私の字だ 352 00:20:16,465 --> 00:20:18,675 まあ これが理由だ 許せ 353 00:20:19,468 --> 00:20:21,345 これでも後悔したのだ 354 00:20:21,428 --> 00:20:23,805 お前たちは勝手に仲良くなるしな 355 00:20:24,389 --> 00:20:28,227 私は私なりに ヤツに劣等感を抱いていたのだ 356 00:20:28,518 --> 00:20:31,271 ヤツの欲しいものを 私が持っていたようにな 357 00:20:32,356 --> 00:20:34,942 だから ヤツも道連れに 謝罪しようとしたが 358 00:20:35,025 --> 00:20:36,401 失敗のようだ 359 00:20:37,527 --> 00:20:40,072 我が許嫁殿は賢い反面 360 00:20:40,155 --> 00:20:42,824 突然の出来事には 対処しきれないらしい 361 00:20:44,451 --> 00:20:46,870 あの手紙を代筆していたのは双熾だ 362 00:20:48,580 --> 00:20:51,833 ではな また寂しくなったら邪魔しに来るぞ 363 00:20:56,380 --> 00:20:59,132 (エレベーターが動く音) 364 00:21:00,592 --> 00:21:04,054 (御狐神) 凜々蝶様のことは 以前より存じておりました 365 00:21:04,137 --> 00:21:05,347 (凜々蝶) 彼が… 366 00:21:05,847 --> 00:21:08,350 ずっと お会いしたいと 思っておりました 367 00:21:09,101 --> 00:21:10,185 (凜々蝶) そうか 368 00:21:10,936 --> 00:21:14,690 (御狐神) あなたがたに凜々蝶様の 何が分かっているのですか 369 00:21:15,315 --> 00:21:16,608 (凜々蝶) 彼だったのか 370 00:21:18,652 --> 00:21:21,154 よかったですね 凜々蝶様 371 00:21:22,030 --> 00:21:24,449 (凜々蝶) だから いつも知っていてくれた 372 00:21:24,700 --> 00:21:25,826 (到着音) 373 00:21:38,797 --> 00:21:39,798 (凜々蝶)あっ! 374 00:21:41,008 --> 00:21:44,011 (凜々蝶) だから いつも気付いてくれたのか 375 00:21:46,305 --> 00:21:47,681 君だったのか 376 00:21:51,059 --> 00:21:52,269 (御狐神)凜々蝶様 377 00:21:58,066 --> 00:22:00,277 いいえ いいえ 378 00:22:02,112 --> 00:22:05,324 気付いてくださったのは あなたです 379 00:22:07,492 --> 00:22:13,498 ♪〜 380 00:23:34,329 --> 00:23:40,335 〜♪ 381 00:23:43,004 --> 00:23:46,383 (凜々蝶) メゾン・ド・章樫 通称 妖館(あやかしかん) 382 00:23:46,883 --> 00:23:49,511 シークレットサービス付き 最高級マンション 383 00:23:50,387 --> 00:23:51,805 その実態は 384 00:23:51,888 --> 00:23:55,100 妖怪の先祖返りたちが住まう 秘密のマンション 385 00:23:55,976 --> 00:23:59,396 ここに来て ここの人たちと出会えて 386 00:24:00,021 --> 00:24:01,148 御狐神君 387 00:24:01,690 --> 00:24:04,359 君と出会えて 僕は… 388 00:24:05,819 --> 00:24:07,904 次回「妖狐(いぬ)×僕SS」 389 00:24:08,572 --> 00:24:10,073 「二人になった日」