1 00:00:03,795 --> 00:00:06,297 (直次(なおつぐ))ここです どうぞ 2 00:00:21,312 --> 00:00:23,231 -(直次の母)直次 -(直次)母上 3 00:00:24,190 --> 00:00:25,734 (直次の母)お客人ですか? 4 00:00:25,817 --> 00:00:28,737 (直次)あっ えーっと… 5 00:00:31,364 --> 00:00:35,118 (甚夜(じんや))失礼 突然の来訪 ご容赦ください 6 00:00:35,201 --> 00:00:36,828 甚夜と申します 7 00:00:36,911 --> 00:00:38,288 (直次の母)あっ… 8 00:00:40,415 --> 00:00:42,292 これは ご丁寧に 9 00:00:43,001 --> 00:00:46,463 直次 甚夜様は どのようなお方で? 10 00:00:46,546 --> 00:00:48,048 (直次)えっと… 11 00:00:48,131 --> 00:00:49,799 (甚夜)葛野(かどの)より参りました 12 00:00:49,883 --> 00:00:52,677 (直次の母) 葛野というと… 刀鍛冶の? 13 00:00:52,761 --> 00:00:56,347 (直次)母上 甚夜殿は 最近 知り合った同好の士で 14 00:00:56,431 --> 00:00:59,017 今日は ひと晩 飲み明かそうと 呼びました 15 00:00:59,100 --> 00:01:00,685 (直次の母)そうでしたか 16 00:01:00,769 --> 00:01:03,313 (直次)では 甚夜殿 参りましょう 17 00:01:03,396 --> 00:01:04,606 (甚夜)失礼する 18 00:01:10,737 --> 00:01:12,238 甚夜様 19 00:01:15,909 --> 00:01:18,036 ありがとうございます 20 00:01:18,119 --> 00:01:21,873 (甚夜)私は何か 礼を言われることをしたでしょうか 21 00:01:21,956 --> 00:01:26,169 近頃 思い悩み 暗かった息子の顔が 22 00:01:26,252 --> 00:01:28,463 今日は明るい様子 23 00:01:28,546 --> 00:01:32,175 母として これに勝る喜びはありません 24 00:01:35,011 --> 00:01:40,350 ♪~ 25 00:02:58,178 --> 00:03:03,182 ~♪ 26 00:03:05,727 --> 00:03:06,895 (引き出しを開ける音) 27 00:03:08,771 --> 00:03:10,315 いい母親だな 28 00:03:10,398 --> 00:03:13,318 いえ お恥ずかしいかぎりです 29 00:03:17,947 --> 00:03:19,699 こちらです 30 00:03:21,284 --> 00:03:23,536 スイセン… だな 31 00:03:23,620 --> 00:03:26,748 その花は 何か特殊なものなのですか? 32 00:03:26,831 --> 00:03:30,084 いいや ただ 思っていたよりも小さい 33 00:03:30,168 --> 00:03:31,002 (直次)ん? 34 00:03:31,753 --> 00:03:33,046 三浦(みうら)殿 35 00:03:33,129 --> 00:03:36,216 この花を見つけたのは 春頃で間違いないな? 36 00:03:36,299 --> 00:03:37,884 あっ はい 37 00:03:37,967 --> 00:03:41,554 (甚夜)定長(さだなが)殿が消える前に 会いに行くと言った娘… 38 00:03:41,638 --> 00:03:45,391 私は その娘こそが 鬼ではないかと思っている 39 00:03:45,475 --> 00:03:46,601 えっ? 40 00:03:46,684 --> 00:03:51,272 定長殿は 現世(うつしよ)とは隔離された どこかに連れ去られた 41 00:03:51,356 --> 00:03:53,191 そして このスイセンは… 42 00:03:53,274 --> 00:03:56,778 その鬼の住みかに咲いていた… ということですか? 43 00:03:58,154 --> 00:04:00,615 定長殿の部屋を見せてほしい 44 00:04:02,575 --> 00:04:05,203 はい では ご案内します 45 00:04:09,707 --> 00:04:12,210 え… どうされましたか? 46 00:04:12,293 --> 00:04:15,129 いや すまないが 先に行ってくれないか 47 00:04:15,213 --> 00:04:18,549 は? それでは 場所が分からないでしょう 48 00:04:18,633 --> 00:04:20,009 かまわん 49 00:04:21,010 --> 00:04:22,428 分かりました 50 00:04:30,436 --> 00:04:35,024 私の姿があると 何も起こらないかもしれんからな 51 00:04:41,114 --> 00:04:43,491 (においを嗅ぐ音) (直次)この香り… 52 00:04:43,574 --> 00:04:45,618 スイセン? 53 00:04:46,119 --> 00:04:47,203 うっ… あれ? 54 00:04:52,375 --> 00:04:54,085 うっ… ハァ… 55 00:04:54,168 --> 00:04:59,465 (童女) ♪ ひとつ ひがんをながむれば 56 00:05:04,345 --> 00:05:05,179 (童女)あっ… 57 00:05:05,263 --> 00:05:09,183 お父様! お母様! 58 00:05:09,267 --> 00:05:11,269 (両親の悲鳴) 59 00:05:14,439 --> 00:05:16,524 (童女の父のうめき声) 60 00:05:37,086 --> 00:05:40,715 (童女)うっ うう… 61 00:05:55,063 --> 00:05:56,355 (町人)あっ… 62 00:05:56,439 --> 00:05:58,149 おい あの娘… 63 00:05:58,232 --> 00:05:59,400 (町人)まさか… 64 00:05:59,484 --> 00:06:01,110 (町人)間違いない 65 00:06:04,989 --> 00:06:07,992 (町人たちのおびえる声) 66 00:06:13,831 --> 00:06:15,249 (童女)あっ… 67 00:06:20,505 --> 00:06:22,673 ああ… そうか 68 00:06:23,800 --> 00:06:27,512 父を亡くした 母を亡くした 69 00:06:28,179 --> 00:06:29,806 家をなくした 70 00:06:30,765 --> 00:06:34,685 思い出ごと根こそぎ奪われた 71 00:06:35,353 --> 00:06:39,023 それだけじゃない 私は… 72 00:06:41,484 --> 00:06:46,114 私さえ なくしてしまったんだ 73 00:06:46,197 --> 00:06:50,910 もう あの庭に戻ることはできない 74 00:06:50,993 --> 00:06:54,038 帰る道は なくしてしまった 75 00:07:33,786 --> 00:07:35,288 (童女)帰りたい… 76 00:07:35,371 --> 00:07:38,499 帰りたい 帰りたい… 77 00:07:38,583 --> 00:07:39,834 帰りたい 78 00:07:39,917 --> 00:07:42,044 帰りたい… 79 00:07:45,631 --> 00:07:49,510 あの頃に… 帰りたい! 80 00:07:54,849 --> 00:07:56,392 ハッ! 81 00:08:00,354 --> 00:08:03,649 (童女の母)あらあら あんなに はしゃいで 82 00:08:03,733 --> 00:08:06,319 (童女の父) ああ ちゃんと見ている 83 00:08:06,402 --> 00:08:10,740 (童女)お母様… お父様も… 84 00:08:11,574 --> 00:08:13,034 あっ… 85 00:08:17,288 --> 00:08:22,251 いつかは遠くなり 昔を懐かしむ 86 00:08:27,006 --> 00:08:30,301 (直次)んっ んん… 87 00:08:36,807 --> 00:08:38,935 な… 何が… 88 00:08:39,018 --> 00:08:40,895 -(甚夜)三浦殿 -(直次)うわあ! 89 00:08:40,978 --> 00:08:42,480 甚夜殿 90 00:08:42,563 --> 00:08:46,817 お前の兄の部屋とは別の場所に 迷い込んでしまったらしい 91 00:08:46,901 --> 00:08:49,987 (直次)は… はい 一体 ここは… 92 00:08:50,071 --> 00:08:54,867 火事の景色 鬼となり放浪する童女 93 00:08:54,951 --> 00:08:58,496 ありえないはずの かつて住んでいた屋敷 94 00:08:58,579 --> 00:08:59,580 見たか? 95 00:08:59,664 --> 00:09:01,415 み… 見ました 96 00:09:01,499 --> 00:09:04,835 あれは 単なる白昼夢ではない… か 97 00:09:06,546 --> 00:09:08,548 (まりをつく音) 98 00:09:08,631 --> 00:09:13,552 (童女) ♪ ふたつ ふるさと はやとおく 99 00:09:17,265 --> 00:09:18,516 兄上 100 00:09:24,522 --> 00:09:25,690 うっ! くっ… 101 00:09:28,109 --> 00:09:31,112 (定長) さて 今日の昼飯は何にするかな 102 00:09:31,195 --> 00:09:34,615 我ながら 腕が上がってきたと思うんだが 103 00:09:34,699 --> 00:09:38,202 (童女)もう いいかげん あなたは帰ったほうがいい 104 00:09:38,286 --> 00:09:40,663 よし ここは一番得意のそばを… 105 00:09:40,746 --> 00:09:42,039 ちゃんと聞いて! 106 00:09:42,748 --> 00:09:47,336 あなたにも家族はいる 帰る場所だってあるでしょ 107 00:09:47,420 --> 00:09:50,798 それを くだらない同情なんかで ふいにしてはダメ 108 00:09:50,881 --> 00:09:52,466 (定長)しかしだな… 109 00:09:52,550 --> 00:09:54,594 (童女)ここは幸福の庭 110 00:09:54,677 --> 00:09:58,723 ここにいれば お父様ともお母様とも会える 111 00:09:58,806 --> 00:10:00,308 だから… 112 00:10:00,391 --> 00:10:03,269 あなたは いなくてもいい 113 00:10:04,186 --> 00:10:06,731 お前は勘違いしている 114 00:10:07,356 --> 00:10:10,526 いいか 家があって 人がいるんじゃない 115 00:10:10,610 --> 00:10:13,237 人がいて 家があるんだ 116 00:10:13,321 --> 00:10:17,033 だから 人が笑えないのなら そこは家じゃない 117 00:10:17,116 --> 00:10:18,159 何を… 118 00:10:18,242 --> 00:10:21,996 (定長)100年以上もの間 ずっと1人で ここにいたんだろ? 119 00:10:22,079 --> 00:10:25,041 本当は お前だって 分かっているはずだ 120 00:10:25,124 --> 00:10:27,043 それは… 121 00:10:27,126 --> 00:10:30,963 お前がここを離れてくれるなら 俺も出ていこう 122 00:10:31,047 --> 00:10:32,798 そんなの無理 123 00:10:32,882 --> 00:10:36,886 私には もう この庭しか帰る場所がない 124 00:10:36,969 --> 00:10:39,263 なら 一緒に暮らすか 125 00:10:39,347 --> 00:10:43,559 うん そうだ なあ 俺の娘にならないか? 126 00:10:43,643 --> 00:10:46,937 俺も武士をやめて 外で のんびり暮らすんだ 127 00:10:47,021 --> 00:10:48,105 ハハハハ… 128 00:10:48,189 --> 00:10:50,608 私は ここから逃げられない 129 00:10:50,691 --> 00:10:53,861 それに あなたをお父様とも思えない 130 00:10:53,944 --> 00:10:56,322 (定長)ああ… フラれたか 131 00:10:56,405 --> 00:10:57,657 まあ いいや 132 00:10:57,740 --> 00:11:00,743 お前さんの心変わりを ゆっくり待つさ 133 00:11:04,330 --> 00:11:07,083 言っとくけど 俺は本気だからな 134 00:11:07,166 --> 00:11:10,336 もし お前が 俺を父と思える日が来たなら 135 00:11:10,419 --> 00:11:14,215 その時は 一緒にここを出るって 約束してくれ 136 00:11:15,007 --> 00:11:16,801 そんな日は来ない 137 00:11:16,884 --> 00:11:18,761 (笑い声) 138 00:11:18,844 --> 00:11:20,513 (定長)なら しゃあねえ 139 00:11:20,596 --> 00:11:23,349 俺がずっと ここにいてやるさ 140 00:11:23,432 --> 00:11:24,642 (直次)あっ! 141 00:11:26,352 --> 00:11:27,895 えっ… 142 00:11:27,978 --> 00:11:29,772 兄上は どこに… 143 00:11:31,440 --> 00:11:34,735 ここには もう誰もいない 144 00:11:36,779 --> 00:11:39,865 (童女)ここには何も残っていない 145 00:11:44,662 --> 00:11:47,540 (直次)兄を返してください 146 00:11:47,623 --> 00:11:49,542 お願いします 147 00:11:53,838 --> 00:11:54,672 (甚夜)無駄だ 148 00:11:54,755 --> 00:11:56,924 なっ… なぜ 無駄なのですか! 149 00:11:57,007 --> 00:11:59,677 あなたも見たでしょう! 兄は確かにいた 150 00:11:59,760 --> 00:12:01,929 以前は確かにいたのだろう 151 00:12:02,012 --> 00:12:04,014 それは どういう意味ですか? 152 00:12:04,098 --> 00:12:06,600 花には咲く季節がある 153 00:12:06,684 --> 00:12:07,852 何を… 154 00:12:07,935 --> 00:12:10,354 (甚夜) 三浦殿が見せてくれたような 155 00:12:10,438 --> 00:12:14,275 小さなスイセンは早咲きで 冬に咲く 156 00:12:14,358 --> 00:12:17,361 定長殿は 春先にいなくなった 157 00:12:17,445 --> 00:12:19,613 そして 今は秋 158 00:12:19,697 --> 00:12:24,827 ならば 定長殿は どこで あのスイセンの花を手に入れた 159 00:12:24,910 --> 00:12:27,288 それは… 160 00:12:27,371 --> 00:12:30,750 (甚夜) 現世とは隔離された鬼の住みか 161 00:12:30,833 --> 00:12:34,336 そこに ずっと スイセンが咲いていると思っていた 162 00:12:34,420 --> 00:12:36,255 だが 違った 163 00:12:36,338 --> 00:12:39,258 ジンチョウゲは春を告げる花 164 00:12:39,341 --> 00:12:42,470 秋に 春の花が咲いているのだ 165 00:12:42,553 --> 00:12:44,597 恐らく ここでは… 166 00:12:44,680 --> 00:12:47,975 現実よりも はるかに速く時が流れる 167 00:12:48,058 --> 00:12:50,853 時が… 速く? 168 00:12:50,936 --> 00:12:53,939 私の力は“夢殿(ゆめどの)” 169 00:12:54,023 --> 00:12:57,067 かつて過ごした幸福の庭を造り 170 00:12:57,151 --> 00:13:00,571 その箱庭に思い出を映し出す力 171 00:13:01,113 --> 00:13:02,114 でも… 172 00:13:02,198 --> 00:13:04,825 (童女の母)あらあら あんなに はしゃいで 173 00:13:04,909 --> 00:13:06,744 (童女の父) ああ ちゃんと見ている 174 00:13:06,827 --> 00:13:10,372 (童女の母)あの子 まりつきが上手になったでしょ 175 00:13:11,415 --> 00:13:13,834 (童女)ただ それだけの力 176 00:13:13,918 --> 00:13:17,171 この箱庭に 閉じ込めることなんてできない 177 00:13:17,254 --> 00:13:21,801 この力にできるのは 昔を懐かしむだけ 178 00:13:22,510 --> 00:13:25,971 ならば 兄上は既に… 179 00:13:26,055 --> 00:13:28,807 ここには もう誰もいない 180 00:13:28,891 --> 00:13:31,936 (直次)そんな… 181 00:13:33,145 --> 00:13:34,772 (童女)さよなら 182 00:13:34,855 --> 00:13:37,191 そして ごめんなさい 183 00:13:37,274 --> 00:13:40,820 私が あなたのお兄様を 奪ってしまった 184 00:13:40,903 --> 00:13:43,656 でも ありがとう 185 00:13:43,739 --> 00:13:45,908 私は兵馬(ひょうま)に救われた 186 00:13:46,659 --> 00:13:49,495 目を覚ませば元の場所に帰れる 187 00:13:49,578 --> 00:13:51,622 だから 安心して 188 00:13:51,705 --> 00:13:54,708 娘 お前は これからどうする 189 00:13:54,792 --> 00:13:56,669 {\an8}(童女) 私は ずっと— 190 00:13:56,752 --> 00:13:59,964 {\an8}失ったものばかりを 眺めてきた 191 00:14:00,047 --> 00:14:03,551 {\an8}でも あの人は 自分の人生をかけて 192 00:14:03,634 --> 00:14:06,929 {\an8}私の大切な場所に なろうとしてくれた 193 00:14:07,888 --> 00:14:10,391 だから 私は… 194 00:14:14,270 --> 00:14:15,813 (甚夜)そうか 195 00:14:16,814 --> 00:14:20,943 お前は 定長殿との約束を 守るのだな 196 00:14:34,373 --> 00:14:36,000 (直次)ハッ! 197 00:14:36,959 --> 00:14:39,128 戻ってきたのですね 198 00:14:39,920 --> 00:14:41,088 兄は なぜ 199 00:14:41,171 --> 00:14:45,551 鬼の造った箱庭に とどまろうと思ったのでしょうか 200 00:14:52,600 --> 00:14:56,937 (甚夜)過ぎ去りし幸福の庭… か 201 00:15:02,401 --> 00:15:06,405 (直次)今朝 城に納められている 資料を調べてみました 202 00:15:06,989 --> 00:15:09,617 今から200年前の明暦の大火 203 00:15:10,326 --> 00:15:15,623 それが あの童女が全てを失った 未曽有の大火事のようです 204 00:15:16,332 --> 00:15:22,087 これは 私の想像ですが 大火以前には三浦家の敷地に… 205 00:15:22,171 --> 00:15:25,633 あの童女の住んでいた 屋敷があった 206 00:15:25,716 --> 00:15:27,509 (直次)やはり そう思いますか 207 00:15:27,593 --> 00:15:30,429 だからこそ 彼女の造りだした箱庭と 208 00:15:30,512 --> 00:15:34,058 私たちの屋敷が つながったのではないでしょうか 209 00:15:34,892 --> 00:15:36,727 時を越えた出会い 210 00:15:36,810 --> 00:15:39,938 …とでも言えば きれいにも聞こえますが 211 00:15:42,775 --> 00:15:44,735 (甚夜)すまなかった 三浦殿 212 00:15:45,527 --> 00:15:48,947 結局 私は 何の力にもなれなかった 213 00:15:49,031 --> 00:15:52,910 顔を上げてください 私は感謝しているのです 214 00:15:55,037 --> 00:15:57,081 兄は よくも悪くも 215 00:15:57,164 --> 00:16:00,042 自分の意志を 強く持っている人でした 216 00:16:00,125 --> 00:16:03,921 兄が家を捨てた理由は 私には分かりませんが… 217 00:16:04,004 --> 00:16:07,716 あの人は最後まで 自分の意志を曲げなかった 218 00:16:08,342 --> 00:16:10,135 それだけの話です 219 00:16:10,219 --> 00:16:12,846 …と そろそろ時間ですね 220 00:16:12,930 --> 00:16:15,641 すみませんが勤めへ戻ります 221 00:16:17,601 --> 00:16:19,687 (おふう)あの 三浦様 222 00:16:19,770 --> 00:16:22,731 あなたのお兄さんは 素晴らしい方です 223 00:16:22,815 --> 00:16:23,982 え? 224 00:16:24,066 --> 00:16:26,610 誰も覚えていないとしても 225 00:16:26,694 --> 00:16:30,572 自分の全てをかけて 1人の子を救ったのですから 226 00:16:30,656 --> 00:16:31,865 あっ… 227 00:16:38,247 --> 00:16:41,500 はい 兄は私の誇りです 228 00:16:48,757 --> 00:16:52,344 (おふう)甚夜君 本当にありがとうございました 229 00:16:52,428 --> 00:16:55,389 (喜兵衛(きへえ)の店主) 俺からも礼を言わせてくだせえ 230 00:16:56,682 --> 00:16:58,559 浮かない顔ですね 231 00:16:58,642 --> 00:17:02,062 こたびの一件には まだ疑問が残っている 232 00:17:02,146 --> 00:17:03,188 疑問? 233 00:17:03,272 --> 00:17:07,860 鬼女は三浦殿の兄君のことを “兵馬”と呼んでいた 234 00:17:07,943 --> 00:17:12,322 しかし 私が聞いた兄の名は 三浦定長だ 235 00:17:12,406 --> 00:17:13,907 名前が違う 236 00:17:13,991 --> 00:17:15,743 あの… 旦那 237 00:17:15,826 --> 00:17:20,038 それは 本名… いみななんだと思いますけど 238 00:17:20,122 --> 00:17:24,877 武士のいみなは基本的に 主(あるじ)だけが知るものだろう 239 00:17:24,960 --> 00:17:26,837 ハハハッ 240 00:17:26,920 --> 00:17:31,550 家族なら いみなを知っていても おかしくないですよ 241 00:17:31,633 --> 00:17:34,219 その娘が“兵馬”って呼んだのは 242 00:17:34,303 --> 00:17:38,432 単に その兄貴が 家族と認めたってだけの話でしょう 243 00:17:38,515 --> 00:17:41,351 ところで 以前 言っていたな 244 00:17:41,435 --> 00:17:46,231 三浦殿の母親は 刀に目がない息子をよく叱ったと 245 00:17:46,315 --> 00:17:48,358 えっ? ええ まあ 246 00:17:48,442 --> 00:17:52,529 どのように叱っていたか もう一度 教えてほしいのだが 247 00:17:52,613 --> 00:17:54,823 そりゃあ… あっ 248 00:17:54,907 --> 00:17:57,951 母親にも “いいかげんになさい 在衛(ありもり)” 249 00:17:58,035 --> 00:17:59,661 …なんて叱られて 250 00:17:59,745 --> 00:18:01,246 いやあ それは… 251 00:18:01,330 --> 00:18:05,334 直次様のおっかさんが 言っていたのを聞いただけでして 252 00:18:05,417 --> 00:18:09,379 私も会ったが きっちりしていて いい母親だ 253 00:18:09,463 --> 00:18:12,132 浪人相手にも礼儀を持って接し 254 00:18:12,216 --> 00:18:14,968 他人の前では うかつな発言はせず 255 00:18:15,052 --> 00:18:17,930 息子を常に“直次”と呼んでいた 256 00:18:18,013 --> 00:18:19,139 あっ… 257 00:18:19,223 --> 00:18:23,811 さて あなたは どこで “在衛”という名を… 258 00:18:23,894 --> 00:18:27,898 主か家族しか知らないはずの いみなを知ったのだろうな 259 00:18:27,981 --> 00:18:30,609 (店主)えーと そりゃあ… 260 00:18:30,692 --> 00:18:31,985 あの鬼女は 261 00:18:32,069 --> 00:18:35,072 “定長殿は ここにはいない” と言った 262 00:18:35,155 --> 00:18:38,534 鬼は 嘘(うそ)はつかないが 真実は隠すもの 263 00:18:38,617 --> 00:18:41,745 故に私は こう考えている 264 00:18:42,538 --> 00:18:45,749 鬼女の箱庭に迷い込んだ 定長殿は 265 00:18:45,833 --> 00:18:48,919 20年以上を屋敷で過ごし 266 00:18:49,002 --> 00:18:51,880 しかし 途中で出ることにした 267 00:18:52,464 --> 00:18:53,966 すると どうだ 268 00:18:54,049 --> 00:18:57,219 自分は20以上 よわいを重ねたというのに 269 00:18:57,302 --> 00:18:59,596 現実では ひと月も経っていない 270 00:19:00,347 --> 00:19:05,269 一人 年老いてしまった定長殿は 三浦家に帰るわけにはいかず 271 00:19:05,352 --> 00:19:09,523 市井へと下り 古い建物を買いたたき 272 00:19:09,606 --> 00:19:12,985 江戸の町で そば屋を開いた 273 00:19:13,068 --> 00:19:16,196 間違っているところがあったら 訂正してくれ 274 00:19:16,280 --> 00:19:20,117 鬼女の箱庭は 時間が速く流れるんでしょう? 275 00:19:20,200 --> 00:19:24,079 なら 定長様は とっくに 死んでいるんじゃないですかい? 276 00:19:24,163 --> 00:19:25,247 (甚夜)それはない 277 00:19:25,330 --> 00:19:27,708 何で そんなことが分かるんです? 278 00:19:27,791 --> 00:19:30,169 あの娘が笑ったからだ 279 00:19:30,252 --> 00:19:31,879 あっ… 280 00:19:31,962 --> 00:19:35,007 (甚夜) 定長殿が死んだとは思えない 281 00:19:35,090 --> 00:19:38,427 あの娘が笑えるのは 父がいてこそだ 282 00:19:38,969 --> 00:19:42,097 そうだろう 三浦定長殿 283 00:19:42,181 --> 00:19:43,724 (店主)んっ… 284 00:19:43,807 --> 00:19:47,686 ずるいですよ いつから気付いてました? 285 00:19:47,769 --> 00:19:49,563 全てが終わった時だ 286 00:19:49,646 --> 00:19:52,566 最初から違和感は いくつもあったがな 287 00:19:52,649 --> 00:19:55,777 いみなもそうだし これもだ 288 00:19:55,861 --> 00:19:59,740 そば屋の店主に刀装具など おかしいとは思った 289 00:19:59,823 --> 00:20:04,494 これは 店主にではなく 定長殿に贈ったものなのだろう? 290 00:20:04,578 --> 00:20:06,371 そういうことです 291 00:20:06,455 --> 00:20:09,791 在衛は 俺が がしがしと頭をかく姿が 292 00:20:09,875 --> 00:20:12,878 どうにも よろしくないと 思ってたらしくて 293 00:20:12,961 --> 00:20:14,963 こいつをくれたんですよ 294 00:20:15,047 --> 00:20:19,343 名乗らないのか? 無事を知れば喜ぶだろう 295 00:20:21,303 --> 00:20:23,430 家と あの娘 296 00:20:23,513 --> 00:20:26,683 俺は より守りたいものだけを残した 297 00:20:26,767 --> 00:20:29,978 その時点で 俺には三浦の姓を… 298 00:20:30,062 --> 00:20:33,148 あいつの兄を名乗る資格なんて ないんです 299 00:20:33,231 --> 00:20:34,358 だが… 300 00:20:34,441 --> 00:20:36,818 あいつだって子供じゃないんだ 301 00:20:36,902 --> 00:20:40,447 俺がいなくたって 立派にやっていけますよ 302 00:20:40,530 --> 00:20:43,742 ああ その笄(こうがい)は 旦那に差し上げます 303 00:20:43,825 --> 00:20:47,204 俺には もう必要ないですから ハハハッ 304 00:20:47,871 --> 00:20:50,374 フゥ… 頑固だな 305 00:20:50,457 --> 00:20:52,417 すみませんね 306 00:20:52,501 --> 00:20:56,088 しっかし 理由が分からない… か 307 00:20:56,171 --> 00:20:58,298 ちなみに 旦那は分かりますか? 308 00:20:58,382 --> 00:21:01,969 俺が 何であの娘の父親に なろうとしたのか 309 00:21:04,721 --> 00:21:07,307 理由など なかったんじゃないか? 310 00:21:07,391 --> 00:21:09,226 ハハハハッ 311 00:21:09,309 --> 00:21:12,437 そのとおり 大した話じゃないですよ 312 00:21:13,188 --> 00:21:17,901 ただ 俺は あの娘が 寂しそうにしているのが嫌だった 313 00:21:17,985 --> 00:21:20,445 だから 一緒にいると決めた 314 00:21:20,529 --> 00:21:23,323 一度 決めたんなら 人には理解できなくても 315 00:21:23,407 --> 00:21:26,410 それを成すのが 男ってもんでしょう 316 00:21:26,493 --> 00:21:29,454 大体 てめえの決め事なんぞ 317 00:21:29,538 --> 00:21:32,582 人が聞いても 分かるもんじゃないでしょうに 318 00:21:32,666 --> 00:21:35,002 ああ そうだな 319 00:21:35,085 --> 00:21:39,381 己の理由なぞ 余人に 理解してもらうようなものでもない 320 00:21:39,464 --> 00:21:41,800 さすが 分かってらっしゃる 321 00:21:41,883 --> 00:21:45,887 だてに長生きはしてませんね 鬼の旦那 322 00:21:47,514 --> 00:21:50,726 俺は20年以上 鬼と過ごしたんですよ? 323 00:21:50,809 --> 00:21:54,855 何となく雰囲気で 分かりまさあな ヘヘッ 324 00:22:00,485 --> 00:22:01,611 (甚夜のせきばらい) 325 00:22:01,695 --> 00:22:05,073 そういえば あの娘は元気でやっているのか? 326 00:22:05,157 --> 00:22:08,660 へ? ここにいるじゃないですか 327 00:22:11,788 --> 00:22:13,081 {\an8}♪~ 328 00:22:13,081 --> 00:22:16,918 {\an8}♪~ 329 00:22:13,081 --> 00:22:16,918 どうりで都合よく 鬼女の屋敷に入れたわけだ 330 00:22:17,002 --> 00:22:20,881 ねっ 言ったでしょう? まだまだ子供だって 331 00:22:20,964 --> 00:22:24,176 {\an8}200年近く生きている お前からすれば 332 00:22:24,259 --> 00:22:26,720 {\an8}私は 確かに 子供だろうよ 333 00:22:26,803 --> 00:22:28,972 {\an8}で どうします? 334 00:22:29,056 --> 00:22:30,474 {\an8}甚夜君は 鬼退治が 335 00:22:30,557 --> 00:22:33,352 {\an8}仕事だと いうことですけど 336 00:22:38,648 --> 00:22:40,776 {\an8}とりあえず かけそばを 337 00:22:41,651 --> 00:22:42,736 {\an8}はい 338 00:22:42,819 --> 00:22:44,738 {\an8}お父さん かけ一丁! 339 00:22:44,821 --> 00:22:46,239 {\an8}あいよ! 340 00:22:49,159 --> 00:22:50,368 {\an8}フッ… 341 00:22:51,620 --> 00:22:53,038 {\an8}フフフッ 342 00:22:54,081 --> 00:22:55,832 {\an8}何を笑っている? 343 00:22:56,458 --> 00:23:00,003 {\an8}うれしいから笑ってるに 決まってるじゃないですか 344 00:23:00,087 --> 00:23:01,463 {\an8}ほら やっぱり 345 00:23:01,546 --> 00:23:04,049 {\an8}“それしかない” なんて嘘ですよ 346 00:23:04,132 --> 00:23:05,217 {\an8}(器を置く音) 347 00:23:05,300 --> 00:23:07,302 {\an8}(店主) あいよ かけ 一丁! 348 00:23:07,385 --> 00:23:09,012 {\an8}(おふう)はーい 349 00:23:12,766 --> 00:23:16,478 {\an8}(甚夜)歳月は 無情なまでに流れゆく 350 00:23:16,561 --> 00:23:19,898 {\an8}誰もが 大切なものさえ手放し 351 00:23:19,981 --> 00:23:21,525 {\an8}失ってしまう 352 00:23:22,109 --> 00:23:25,529 {\an8}失ったものは 失ったもの 353 00:23:26,238 --> 00:23:28,657 それが返ることは決してない 354 00:23:28,740 --> 00:23:30,117 だが… 355 00:23:30,200 --> 00:23:33,328 (おふう)お待たせしました かけそばです 356 00:23:33,412 --> 00:23:35,539 今回のは自信作ですよ 357 00:23:37,749 --> 00:23:40,877 {\an8}~♪