1 00:01:49,080 --> 00:01:51,590 扇ちゃん そろそろ教えてくれないか? 2 00:01:51,590 --> 00:01:55,770 どうして僕は今 きみとこうして二人 トレッキングをしているんだ? 3 00:01:55,810 --> 00:01:57,720 やだなあ阿良々木先輩 4 00:01:57,720 --> 00:02:00,480 それについては もう説明したじゃないですか 5 00:02:05,100 --> 00:02:08,140 山っていうのは 神様のいる場所ですからねえ 6 00:02:08,140 --> 00:02:11,610 不肖私にとってはメインフィールドみたいなものですよ 7 00:02:11,610 --> 00:02:13,780 山というのは まあそれだけでも 8 00:02:13,780 --> 00:02:15,830 怪異みたいなものですから 9 00:02:15,830 --> 00:02:18,610 私の専門なんですよ 要するには 10 00:02:18,610 --> 00:02:22,120 頂上に神社を据えたくなるのもわかりますよね 11 00:02:22,120 --> 00:02:26,870 もっとも 北白蛇神社とこの山は まるっきりの無関係なのですが 12 00:02:26,870 --> 00:02:29,830 無関係のものを無理矢理引っつけたりするから 13 00:02:29,830 --> 00:02:32,630 齟齬が生じるとでも言うんですかね 14 00:02:32,630 --> 00:02:33,630 齟齬? 15 00:02:33,630 --> 00:02:35,630 ああ 聞き流してください 16 00:02:35,630 --> 00:02:37,380 初期設定にミスがあったところで 17 00:02:37,380 --> 00:02:41,260 そんなものは本来 いくらでもやり直しのきくことなんですから 18 00:02:41,260 --> 00:02:46,140 誰かが昔 この山に神社を建てたことは ミスだって言ってるのか? 19 00:02:47,070 --> 00:02:48,360 私は 20 00:02:49,690 --> 00:02:52,400 そのミスを修理に来たんですよ 21 00:02:54,910 --> 00:02:56,030 これですか? 22 00:02:56,030 --> 00:02:57,580 ああ これだよ 23 00:02:57,620 --> 00:03:00,530 僕が忍野に言われて ここに貼りに来たのは 24 00:03:00,530 --> 00:03:02,660 まあ 危うくはありますけれど 25 00:03:02,660 --> 00:03:06,540 その件に関してはバランスは一応 取れてはいるんですかね 26 00:03:06,540 --> 00:03:09,540 境内の空気も すっきりしたものですし 27 00:03:09,540 --> 00:03:11,290 すっきりね 28 00:03:11,290 --> 00:03:12,090 ええ 29 00:03:12,420 --> 00:03:17,170 一時とは言え ”よくないもの”が集結した吹き溜まりとは思いにくいくらいですよ 30 00:03:18,430 --> 00:03:21,430 当たり前だ 夏休みの最終日に 31 00:03:21,430 --> 00:03:24,770 僕と忍がここを ”すっきり”させてしまったのだから 32 00:03:25,180 --> 00:03:29,570 ただ 私が今日 ここに来たのは これとはあくまでも別件 33 00:03:30,490 --> 00:03:31,890 な... 何やってんだ扇ちゃん? 34 00:03:41,000 --> 00:03:43,280 蛇神が代表的ですけれど 35 00:03:43,280 --> 00:03:50,620 神様とまでは言わなくとも 蛇という生き物を神聖視する風潮というのが どんな風に生まれたかご存知ですか? 36 00:03:50,620 --> 00:03:52,870 蛇を神聖視... 37 00:03:52,870 --> 00:03:58,130 いわゆる牛や馬のように 人の生活に役立つ動物というわけでもないし 38 00:03:58,130 --> 00:04:03,630 さほど身近なわけでもなく 爬虫類ということなら 候補は他にもいそうなのに 39 00:04:03,890 --> 00:04:05,640 どうしてだと思います? 40 00:04:05,640 --> 00:04:07,060 どうしてって... 41 00:04:07,060 --> 00:04:08,140 確か 42 00:04:08,140 --> 00:04:09,270 そうだ 43 00:04:09,270 --> 00:04:14,020 蛇っていうのは 不死身性とか 復活性とかの象徴だからじゃあなかったっけ? 44 00:04:15,270 --> 00:04:17,270 おっと いきなり正解を出しますか 45 00:04:17,270 --> 00:04:20,030 蛇は脱皮して成長しますからね 46 00:04:20,030 --> 00:04:22,990 蛇という生き物の隠密(おんみつ)性を考えると 47 00:04:22,990 --> 00:04:28,040 脱皮後の皮のほうが 蛇本体よりも目につきやすいかもしれないくらいです 48 00:04:28,040 --> 00:04:31,790 まあ 生物学が今ほど発展していない時代に 49 00:04:31,790 --> 00:04:34,670 そういう脱皮の様子が観察されていれば 50 00:04:35,040 --> 00:04:37,540 蛇を神聖視したくはなりますよね 51 00:04:37,800 --> 00:04:41,600 まあ 今の問題は この神社の後始末ですよね 52 00:04:42,090 --> 00:04:45,510 千年以上生きた蛇を千年以上前に祀った 53 00:04:45,510 --> 00:04:48,220 この北白蛇神社の後始末 54 00:04:48,230 --> 00:04:52,060 叔父さんの後始末と言ってもいいかもしれませんけれども 55 00:04:52,060 --> 00:04:53,280 どういう意味だよ 56 00:04:53,480 --> 00:04:57,810 吹き溜まりとなっている状態を解消するってのは もう済んでいるんだろ? 57 00:04:57,810 --> 00:04:59,820 わかりやすく言いますとですね 58 00:04:59,820 --> 00:05:05,700 叔父さんは キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード という台風がこの町に来襲したこと 59 00:05:05,700 --> 00:05:07,820 の後始末には成功しました 60 00:05:07,820 --> 00:05:13,130 だけどどうでしょう? そこが私は 叔父さんの甘いところだと思うんですけれど 61 00:05:13,130 --> 00:05:19,340 次にまたハートアンダーブレード級の怪異が訪れたときの 対策を打ってはいないと思うんですよね? 62 00:05:19,340 --> 00:05:21,960 さしあたっての安全が保たれた以上 63 00:05:21,960 --> 00:05:26,760 次にするべきは 吹き溜まり自体に対策を打つということだと私は思います 64 00:05:27,590 --> 00:05:32,350 吹き溜まりがなければ そこに”よくないもの”の溜まりようがありませんからね 65 00:05:32,350 --> 00:05:37,600 この神社がこの山にあることが バランスの悪い初期設定ミスだって言ってたけれど 66 00:05:37,600 --> 00:05:43,110 それこそ 今 女子高生である扇ちゃんがどうにかできるような話じゃあないだろう? 67 00:05:43,110 --> 00:05:47,790 この神社を今から 今更 どこかに移すってわけにもいかないだろうし 68 00:05:48,110 --> 00:05:49,870 ええ そうですね 69 00:05:49,870 --> 00:05:52,960 歴史の話をしますとね 阿良々木先輩 70 00:05:52,960 --> 00:05:59,630 実は元々この神社 北白蛇神社というのは まったく別の場所にあるものだったんですよ 71 00:05:59,630 --> 00:06:00,890 まったく別? 72 00:06:00,890 --> 00:06:03,590 ええ その頃は名前も違いました 73 00:06:03,590 --> 00:06:06,880 それをゆえあって この山に移したんです 74 00:06:06,880 --> 00:06:08,380 引っつけたんです 75 00:06:08,380 --> 00:06:12,640 この山の頂上 今私が立っているこの場所にね 76 00:06:14,140 --> 00:06:17,390 阿良々木先輩に ひとつ考えて欲しかったのはですね 77 00:06:17,390 --> 00:06:22,150 よそにあった神社を 所在地が違った旧北白蛇神社を 78 00:06:22,150 --> 00:06:25,740 当時の人々は つまりこの神社の関係者達は 79 00:06:25,740 --> 00:06:29,070 どうやってこの山の頂上に移設させたのか 80 00:06:29,070 --> 00:06:30,500 ということです 81 00:06:30,910 --> 00:06:32,280 どうやってって 82 00:06:32,280 --> 00:06:37,040 まあ それがいつ頃の話にしたって 相当に昔の話なんだろう? 83 00:06:37,040 --> 00:06:41,540 だったら 建物自体を一旦ばらばらにして 運んできたんだろうよ 84 00:06:41,540 --> 00:06:47,420 けれど 阿良々木先輩 ばらばらにしたからと言って 運びやすくなるとは限りませんよっ 85 00:06:48,420 --> 00:06:49,550 だって 86 00:06:49,550 --> 00:06:53,800 私達が登ってきたような道なんて 昔はなかったんですから 87 00:06:58,270 --> 00:07:00,020 そういう場合は... 88 00:07:00,020 --> 00:07:04,660 建材を運ぶための道を切り開くっていうのが 常套(じょうとう)手段なんじゃないのか? 89 00:07:04,660 --> 00:07:08,690 格調高い霊山ですから そんな大規模な工事は行えません 90 00:07:08,690 --> 00:07:15,530 もちろん頂上に神社を移すということになれば 最低限の工事は行わねばなりませんけれど 91 00:07:15,530 --> 00:07:19,210 何か この世のものならぬ技術を使ったってことか? 92 00:07:19,210 --> 00:07:22,540 超常的スーパーパワーと言うか 霊的な... 93 00:07:22,540 --> 00:07:24,920 それこそ霊験あらたかな 94 00:07:24,920 --> 00:07:27,050 いえ そういうことはしていません 95 00:07:27,050 --> 00:07:29,170 ただの人間の知恵ですよ 96 00:07:29,170 --> 00:07:35,180 私に言わせれば それは迷惑極まりない”お引越し”なんですけれどね 97 00:07:35,180 --> 00:07:39,310 そのせいで 私はここに来たとも この町に来たとも言える 98 00:07:40,440 --> 00:07:43,230 まったく 何が北の白蛇ですか 99 00:07:45,730 --> 00:07:48,280 後日談というか 今回のオチ 100 00:07:48,610 --> 00:07:51,110 そんなの簡単だよ 暦お兄ちゃん 101 00:07:51,110 --> 00:07:52,490 ぬるゲーだよ 102 00:07:52,490 --> 00:07:53,750 ぬるゲー...? 103 00:07:53,750 --> 00:07:58,790 舗装道路を作るような大規模な工事はしなかったってことらしいけれど 104 00:07:58,790 --> 00:08:04,510 でも 暦お兄ちゃんの話を聞く限り 最低限の工事は行ったんだよね? 105 00:08:04,510 --> 00:08:06,220 ん? ああ 106 00:08:07,380 --> 00:08:11,260 だから 工事する人が しゅんこーさせた人が 107 00:08:11,260 --> 00:08:16,010 山の頂上で 土地を切り開いて 神社を建てるスペースを作るよね? 108 00:08:16,010 --> 00:08:19,720 うん まあ 土地を切り開いてスペースを作る... 109 00:08:19,720 --> 00:08:22,770 それが最低限の工事ってことになるよな? 110 00:08:22,770 --> 00:08:28,240 で そのときに切り倒した木材を使って 神社を建てるの 111 00:08:29,190 --> 00:08:32,900 それなら 山の上まで木材を運ばなくていいでしょ? 112 00:08:32,900 --> 00:08:36,910 つまり そのための道を開拓する必要はない 113 00:08:36,910 --> 00:08:39,200 けど 千石 移設なんだぜ? 114 00:08:39,200 --> 00:08:40,700 新築じゃなくって... 115 00:08:40,700 --> 00:08:42,080 ”お引越し”だ 116 00:08:42,080 --> 00:08:47,840 新しい木を使って 新しい神社を作ったら それはもう別の神社なんじゃないのか? 117 00:08:47,840 --> 00:08:48,500 死体... 118 00:08:48,500 --> 00:08:53,260 じゃなくて ご神体とか そういうのは持ってくるんじゃないのかな 119 00:08:53,260 --> 00:08:58,850 だけど折角引っ越すんだったら 建物も新しくしたいって思うんじゃないの? 120 00:08:58,850 --> 00:09:04,350 建物をごっそり入れ替えて 交換して 名前だけ持っていったってことか 121 00:09:04,990 --> 00:09:06,600 信仰が変わらなければ 122 00:09:06,600 --> 00:09:08,860 入れ替わろうと変わらない 123 00:09:08,860 --> 00:09:11,570 否 重要なのはバランスか 124 00:09:11,570 --> 00:09:16,740 あの山の上に神を祀ったことが 何かのバランスを崩している 125 00:09:17,370 --> 00:09:21,750 ...そう言えば そのクイズで思いついたけれど 暦お兄ちゃん 126 00:09:21,750 --> 00:09:23,950 いや クイズではないけれどな... 127 00:09:23,950 --> 00:09:28,630 あの神社 ぼろぼろだけどこれから建て直したりしないのかな? 128 00:09:28,630 --> 00:09:30,140 建て直したり... 129 00:09:30,750 --> 00:09:35,260 そうなったとき 扇ちゃんが言うところのバランスはどうなるのだろう? 130 00:09:35,600 --> 00:09:37,510 既に参拝客もおらず 131 00:09:37,510 --> 00:09:40,140 様のいない神社を作り直して 132 00:09:40,140 --> 00:09:45,280 刷新(さっしん)して どんな信仰が生まれると言うのだろうか 133 00:09:45,610 --> 00:09:46,730 違う 134 00:09:46,730 --> 00:09:48,020 生まれるのではない 135 00:09:48,020 --> 00:09:49,770 続くのだ 136 00:09:49,770 --> 00:09:51,690 どんなに理屈をつけようと 137 00:09:51,690 --> 00:09:53,280 理論立てようと 138 00:09:53,280 --> 00:09:55,070 信仰も怪異も 139 00:09:55,070 --> 00:09:56,450 継続する 140 00:09:57,110 --> 00:09:59,110 建て直されたらいいよね 141 00:09:59,110 --> 00:10:05,250 神社が建て直されれば あそこはきっと ”よくないもの”の吹き溜まりじゃあなくなるもんね 142 00:10:05,250 --> 00:10:07,510 その頃にはクチナワ 143 00:10:09,180 --> 00:10:13,670 じゃなくって 蛇神様も きっとあの神社に帰ってるだろうし 144 00:10:13,670 --> 00:10:15,760 ね 暦お兄ちゃん 145 00:10:15,760 --> 00:10:17,630 ああ... うん 146 00:10:17,630 --> 00:10:19,470 本当 そうなればいいよな 147 00:10:21,890 --> 00:10:24,390 いずれにしても いつからか 148 00:10:24,390 --> 00:10:27,770 僕達の町のバランスは崩壊する一方だった 149 00:10:27,770 --> 00:10:30,150 何か嫌な予感がする 150 00:10:30,150 --> 00:10:33,610 否 予感ではない 実感だ 151 00:10:34,370 --> 00:10:40,030 臥煙伊豆湖(いずこ)から預けられている 例のお札を使う日も 使わなくてはならない日も 152 00:10:40,030 --> 00:10:42,740 そう遠くないのかもしれなかった