1 00:04:38,149 --> 00:04:41,887 およそ遠しとされしもの 2 00:04:41,887 --> 00:04:44,122 下等で奇怪 3 00:04:44,122 --> 00:04:49,928 見慣れた動植物とは まるで違うと おぼしきモノ達 4 00:04:49,928 --> 00:04:56,401 それら異形の一群を ヒトは古くから畏れを含み 5 00:04:56,401 --> 00:05:01,101 いつしか総じて「蟲」と呼んだ 6 00:05:25,063 --> 00:05:29,363 うん?何だ この においは 7 00:05:31,603 --> 00:05:34,303 濃い 果実酒のような 8 00:05:36,908 --> 00:05:40,612 光酒?こんな所に? 9 00:05:40,612 --> 00:05:43,181 いや 違うな 10 00:05:43,181 --> 00:05:45,281 すえたような においになった 11 00:05:51,890 --> 00:05:55,690 においの源に 何かいる 12 00:05:58,496 --> 00:06:01,199 こっちを… 13 00:06:01,199 --> 00:06:03,199 見ている! 14 00:06:05,537 --> 00:06:08,440 体がすくむ 15 00:06:08,440 --> 00:06:12,077 動けない 16 00:06:12,077 --> 00:06:15,880 よーし そのままだ 17 00:06:15,880 --> 00:06:18,450 人? 18 00:06:18,450 --> 00:06:21,953 何だ 人か 19 00:06:21,953 --> 00:06:24,553 まあいい 見逃してやる 20 00:06:33,264 --> 00:06:35,700 楽になった 21 00:06:35,700 --> 00:06:38,269 何だ 今のは 22 00:06:38,269 --> 00:06:40,972 猟師?いや 23 00:06:40,972 --> 00:06:43,274 まるきり手ぶらだった 24 00:06:43,274 --> 00:06:45,310 それに 25 00:06:45,310 --> 00:06:48,146 甘い においが消えてる 26 00:06:48,146 --> 00:06:51,246 あれは 一体… 27 00:07:04,195 --> 00:07:08,366 ああ… 何か昨日は疲れたな 28 00:07:08,366 --> 00:07:10,969 うん? 29 00:07:10,969 --> 00:07:13,269 ちと 精のつくもん 食うか 30 00:07:21,646 --> 00:07:25,016 干し肉は ねえかな 31 00:07:25,016 --> 00:07:29,687 いやあ ここんとこ 獲物がさっぱりでな 32 00:07:29,687 --> 00:07:33,558 そうかい うん? 33 00:07:33,558 --> 00:07:35,527 向こうに あんな 34 00:07:35,527 --> 00:07:38,897 あー やめときな 35 00:07:38,897 --> 00:07:42,397 あいつんとこの肉は 臭くてかなわんぞ 36 00:07:48,073 --> 00:07:52,010 確かに 少し腐ったような… 37 00:07:52,010 --> 00:07:55,914 新しいのはねえのか? うちになら 38 00:07:55,914 --> 00:07:59,484 そっちを分けちゃもらえんか 39 00:07:59,484 --> 00:08:01,486 いいよ 40 00:08:01,486 --> 00:08:03,486 ついてきて 41 00:08:14,933 --> 00:08:17,202 辰兄 42 00:08:17,202 --> 00:08:20,972 ん… 家ん中からも腐臭が 43 00:08:20,972 --> 00:08:24,642 今朝 狩ってきた獲物 分けてくれって 44 00:08:24,642 --> 00:08:28,947 うん?構わねえが 45 00:08:28,947 --> 00:08:31,647 一体誰だ 珍しいな 46 00:08:34,352 --> 00:08:36,354 腐臭に混ざって 47 00:08:36,354 --> 00:08:38,990 甘い におい 48 00:08:38,990 --> 00:08:43,390 昨日 山で嗅いだ あの においだ 49 00:08:47,499 --> 00:08:50,902 やあ 旅の人かい 50 00:08:50,902 --> 00:08:54,502 上がりなよ どれでも好きなの持ってくといい 51 00:08:56,374 --> 00:08:59,844 昨日の晩 山で狩りを? 52 00:08:59,844 --> 00:09:03,348 ああ 今朝 さばいたばかりだぜ 53 00:09:03,348 --> 00:09:08,119 じゃあ その肉は ずっと日にでも さらしてたのか? 54 00:09:08,119 --> 00:09:11,990 あんたも うちの獲物が臭えってのか 55 00:09:11,990 --> 00:09:15,560 どこがだよ 全然 におわねえじゃねえか 56 00:09:15,560 --> 00:09:18,496 なあ卯介 まあいいさ 57 00:09:18,496 --> 00:09:20,899 じゃあ今から狩ってきてやる 58 00:09:20,899 --> 00:09:23,434 そんなら文句はねえだろう 59 00:09:23,434 --> 00:09:26,804 なに 半時もあれば済む 60 00:09:26,804 --> 00:09:29,404 そこで少し 待っててくれよ 61 00:09:46,991 --> 00:09:49,027 こっちだ 62 00:09:49,027 --> 00:09:51,027 来い 63 00:09:56,234 --> 00:09:58,234 そうだ 64 00:10:00,705 --> 00:10:02,705 そのままだ 65 00:10:11,449 --> 00:10:14,219 よせ! 66 00:10:14,219 --> 00:10:17,522 あんた… もういい 67 00:10:17,522 --> 00:10:23,228 お前さんの狩った獲物は どんなに新しくとも まずいはずだ 68 00:10:23,228 --> 00:10:25,263 どういうことだ 69 00:10:25,263 --> 00:10:28,099 意のままに獲物を狩る手 70 00:10:28,099 --> 00:10:31,936 血筋に同じ手を持つ者がないか? 71 00:10:31,936 --> 00:10:35,807 ああ 親父もそうだったが 72 00:10:35,807 --> 00:10:40,979 手のひらに 目玉のような あざがあるだろう 73 00:10:40,979 --> 00:10:44,179 そいつは腐酒というものに 侵されてる印だ 74 00:10:49,687 --> 00:10:54,025 腐酒というのは 生命の もとたるもの 75 00:10:54,025 --> 00:10:57,528 光酒の腐れてしまったものだ 76 00:10:57,528 --> 00:11:00,098 本来 なるはずの蟲と なれず 77 00:11:00,098 --> 00:11:05,570 赤い泥状となり 地下水から地上に湧き出る 78 00:11:05,570 --> 00:11:09,207 果実酒のような においがするが 毒性があり 79 00:11:09,207 --> 00:11:11,142 高い濃度で口にすれば 80 00:11:11,142 --> 00:11:13,511 死に至る 81 00:11:13,511 --> 00:11:15,446 だが ごくまれに 82 00:11:15,446 --> 00:11:19,117 毒に耐える体質の者がある 83 00:11:19,117 --> 00:11:21,686 腐酒単体には意思もなく 84 00:11:21,686 --> 00:11:25,957 ただ更なる腐敗を 待つだけのものだが 85 00:11:25,957 --> 00:11:30,261 動物の体内に入り 血に紛れると命を得 86 00:11:30,261 --> 00:11:34,699 宿主もまた特殊な力を得る 87 00:11:34,699 --> 00:11:37,502 甘い においを手のひらから出し 88 00:11:37,502 --> 00:11:39,437 獲物を引き付け 酔わせ 89 00:11:39,437 --> 00:11:42,340 たやすく狩りをする 90 00:11:42,340 --> 00:11:45,276 そして それは血を介して 91 00:11:45,276 --> 00:11:49,213 子々孫々まで伝わってゆく 92 00:11:49,213 --> 00:11:52,984 へえ そういうもんだったのか 93 00:11:52,984 --> 00:11:57,288 ただ 力を得る者は ごくわずかだ 94 00:11:57,288 --> 00:11:59,223 力を得なかった者は 95 00:11:59,223 --> 00:12:01,993 毒のため長くは生きられない 96 00:12:01,993 --> 00:12:04,862 ばあちゃんは血を吐いて死んだ 97 00:12:04,862 --> 00:12:07,265 弟も同じ病だ 98 00:12:07,265 --> 00:12:10,568 それも その腐酒ってやつの せいなのか 99 00:12:10,568 --> 00:12:13,137 治してやる方法はないのか 100 00:12:13,137 --> 00:12:15,773 このままじゃ卯介も… 101 00:12:15,773 --> 00:12:19,210 安心しろ 治療法ならある 102 00:12:19,210 --> 00:12:22,914 光酒を一定量飲めば 腐酒は消滅する 103 00:12:22,914 --> 00:12:26,684 今は手持ちが足りねえが 調達してこよう 104 00:12:26,684 --> 00:12:28,619 そうか! 105 00:12:28,619 --> 00:12:31,122 よかったな卯介 これでもう 106 00:12:31,122 --> 00:12:35,860 苦しい思いをしねえですむぞ うん 107 00:12:35,860 --> 00:12:39,731 治療が必要なのは 弟だけじゃねえぞ 108 00:12:39,731 --> 00:12:43,601 俺?俺は何ともねえよ 109 00:12:43,601 --> 00:12:45,536 お前さんの父親 110 00:12:45,536 --> 00:12:49,507 最期はどうなった? 111 00:12:49,507 --> 00:12:51,809 知ってるなら話は早い 112 00:12:51,809 --> 00:12:54,645 早めに手を打ったほうがいい 113 00:12:54,645 --> 00:12:59,016 そんな特別な力など なくとも そんだけ立派な体がありゃ 114 00:12:59,016 --> 00:13:01,516 兄弟で食ってくだけの狩りは できるだろう 115 00:13:04,222 --> 00:13:06,157 そうだな 116 00:13:06,157 --> 00:13:08,426 それじゃ 2人分な 117 00:13:08,426 --> 00:13:11,262 ひと月程度で持ってこれると思う 118 00:13:11,262 --> 00:13:13,698 よろしく頼むよ 119 00:13:13,698 --> 00:13:18,603 それまで また間違って 人を狩ろうとするなよ 120 00:13:18,603 --> 00:13:23,107 もしかして ゆうべ会ったの あんただったか 121 00:13:23,107 --> 00:13:25,977 そりゃ悪かったな 122 00:13:25,977 --> 00:13:28,579 いつも日が落ちてから 狩りをするのか? 123 00:13:28,579 --> 00:13:33,418 ああ 獣は夜 歩き回るやつが多い 124 00:13:33,418 --> 00:13:37,321 昼間 多いのは 夜目の利かねえ鳥くらいだ 125 00:13:37,321 --> 00:13:40,158 小鳥など狩っても つまらない 126 00:13:40,158 --> 00:13:42,527 なら ちょうちんくらい持ってくれ 127 00:13:42,527 --> 00:13:45,363 紛らわしいし 不用心だろ 128 00:13:45,363 --> 00:13:48,266 火があっちゃ獣が寄りつかねえよ 129 00:13:48,266 --> 00:13:52,036 この山なら 目をつぶってても歩けるし 130 00:13:52,036 --> 00:13:54,872 俺を襲う獣もいねえ 131 00:13:54,872 --> 00:13:56,972 月の光で十分なんだよ 132 00:13:58,776 --> 00:14:03,581 お前は 山の王にでも なったつもりか 133 00:14:03,581 --> 00:14:07,251 お前も山の一部にすぎんだろ 134 00:14:07,251 --> 00:14:09,520 何で命を落とすかなど 135 00:14:09,520 --> 00:14:12,023 誰にも知れんよ 136 00:14:12,023 --> 00:14:17,123 たとえ それが山で最も恐れられる 獣だとしてもな 137 00:14:19,764 --> 00:14:22,164 ああ 肝に銘じとくよ 138 00:14:27,071 --> 00:14:29,674 辰兄 うん? 139 00:14:29,674 --> 00:14:33,544 ちゃんと薬 飲んでくれるよね 140 00:14:33,544 --> 00:14:37,782 俺 元の辰兄に戻ってほしい 141 00:14:37,782 --> 00:14:40,251 何 言ってんだ 142 00:14:40,251 --> 00:14:43,451 俺は別に何も 変わらんだろ 143 00:15:28,599 --> 00:15:31,168 ギンコさん 薬は? 144 00:15:31,168 --> 00:15:33,571 ああ 手に入れた 145 00:15:33,571 --> 00:15:37,208 兄貴は? 狩りだよ 146 00:15:37,208 --> 00:15:41,212 相変わらずだな こんな宵の口に 147 00:15:41,212 --> 00:15:43,381 ギンコさん うん? 148 00:15:43,381 --> 00:15:47,081 一緒に来て 早く辰兄に薬 あげて 149 00:16:01,866 --> 00:16:06,938 これは… みな辰がやったのか? 150 00:16:06,938 --> 00:16:12,743 父ちゃんが いなくなってから 辰兄は父ちゃんに似てきたんだ 151 00:16:12,743 --> 00:16:17,843 父ちゃんも よくこんな 余分な狩りをしてた 152 00:16:26,724 --> 00:16:31,028 そら 持って帰って さばいとけ 153 00:16:31,028 --> 00:16:34,065 父ちゃん まだ うちにいっぱいあるよ 154 00:16:34,065 --> 00:16:36,534 なら売ってこい 155 00:16:36,534 --> 00:16:39,437 みんな 臭くていらないって 156 00:16:39,437 --> 00:16:42,673 なら そこらに捨てておけ 157 00:16:42,673 --> 00:16:47,545 辰兄 父ちゃん なんで こんなことするのかな 158 00:16:47,545 --> 00:16:53,250 父ちゃんは 生きてるものを 狩ること自体が好きなんだ 159 00:16:53,250 --> 00:16:55,186 父ちゃんに逆らうな 160 00:16:55,186 --> 00:16:58,623 俺らも いつ狩られっか 分かんねえぞ 161 00:16:58,623 --> 00:17:02,460 危ねえと思ったら 母ちゃんみてえに逃げるんだ 162 00:17:02,460 --> 00:17:06,330 怖かねえよ 俺にだって力はあんだ 163 00:17:06,330 --> 00:17:09,967 お前は俺が守ってやっから 164 00:17:09,967 --> 00:17:13,237 うん 165 00:17:13,237 --> 00:17:17,837 父ちゃんの異変が始まったのは そんな ある日だった 166 00:17:19,977 --> 00:17:21,912 辰兄 うん? 167 00:17:21,912 --> 00:17:25,616 父ちゃん 変だよ 168 00:17:25,616 --> 00:17:27,551 体の向こうが 169 00:17:27,551 --> 00:17:29,551 透けて見える 170 00:17:39,530 --> 00:17:44,301 父ちゃん 影がない 171 00:17:44,301 --> 00:17:46,771 そして あの日 172 00:17:46,771 --> 00:17:51,442 父ちゃん 朝飯だよ 173 00:17:51,442 --> 00:17:54,945 父ちゃん? 174 00:17:54,945 --> 00:17:59,045 父ちゃんは 消えてなくなってしまってた 175 00:18:06,090 --> 00:18:08,993 自分より強い先代がいなくなると 176 00:18:08,993 --> 00:18:13,898 かせが外れたように その子孫の力が増すという 177 00:18:13,898 --> 00:18:16,300 腐酒の侵食が進み 178 00:18:16,300 --> 00:18:20,471 やがて 体を完全に乗っ取られる 179 00:18:20,471 --> 00:18:25,309 つまり 完全に蟲の側に行っちまうんだ 180 00:18:25,309 --> 00:18:28,045 父親は死んだわけじゃない 181 00:18:28,045 --> 00:18:31,749 実体をなくし 心もなくして 182 00:18:31,749 --> 00:18:35,619 今も山を さまよっているはずだ 183 00:18:35,619 --> 00:18:38,819 辰兄も このままじゃ… 184 00:18:41,792 --> 00:18:44,692 甘い におい 185 00:18:48,566 --> 00:18:53,137 やあ 戻ったのかい ギンコさん 186 00:18:53,137 --> 00:18:56,107 ああ 光酒は手に入れた 187 00:18:56,107 --> 00:18:58,542 早く飲め 188 00:18:58,542 --> 00:19:02,780 卯介に飲ませといてくれよ 189 00:19:02,780 --> 00:19:08,085 俺は また気が向いた時にするよ 190 00:19:08,085 --> 00:19:10,688 山に君臨する気分ってのは 191 00:19:10,688 --> 00:19:13,357 ずいぶんと いいもんらしいな 192 00:19:13,357 --> 00:19:15,659 だが目を覚ませ 193 00:19:15,659 --> 00:19:19,659 お前は 意思すら持たねえ蟲に 踊らされてるだけだ 194 00:19:21,465 --> 00:19:24,235 うるせえな 195 00:19:24,235 --> 00:19:29,173 あんた 自分の立場 分かってんのか? 196 00:19:29,173 --> 00:19:32,943 卯介の薬だけ 置いてってやってくれよ 197 00:19:32,943 --> 00:19:37,715 俺はなあ もう二度とごめんなんだよ 198 00:19:37,715 --> 00:19:40,484 親父がいた頃みてえに 199 00:19:40,484 --> 00:19:44,355 狩られるかもしれねえ側に 戻るなんてな 200 00:19:44,355 --> 00:19:47,825 辰兄 やめてよ! 201 00:19:47,825 --> 00:19:50,728 大丈夫だよ 202 00:19:50,728 --> 00:19:53,063 怖いことなんてないよ 203 00:19:53,063 --> 00:19:56,834 俺 襲われない方法 知ってっから 204 00:19:56,834 --> 00:19:58,934 だから… 205 00:20:01,038 --> 00:20:03,138 辰兄! 206 00:20:06,477 --> 00:20:09,513 辰! 207 00:20:09,513 --> 00:20:11,613 どこへ行った 208 00:20:20,658 --> 00:20:23,994 戻らねえと 209 00:20:23,994 --> 00:20:26,764 元の俺に 210 00:20:26,764 --> 00:20:28,864 戻ってやらねえと 211 00:20:38,309 --> 00:20:40,309 卯介? 212 00:20:42,613 --> 00:20:46,050 (銃声) 213 00:20:46,050 --> 00:20:49,320 まさか… 214 00:20:49,320 --> 00:20:52,056 何を撃った 215 00:20:52,056 --> 00:20:55,256 熊だと思うが崖から落ちちまった 216 00:21:03,133 --> 00:21:05,233 腐酒だ 217 00:21:09,240 --> 00:21:12,142 くそ 218 00:21:12,142 --> 00:21:16,013 腕が… 動かねえ 219 00:21:16,013 --> 00:21:19,213 このままじゃ獣にやられちまう 220 00:21:22,152 --> 00:21:25,052 ここで朝まで待つか 221 00:21:55,119 --> 00:21:57,388 夜がこんなに 222 00:21:57,388 --> 00:21:59,388 長いとは 223 00:22:03,794 --> 00:22:06,430 闇がこんなに 224 00:22:06,430 --> 00:22:08,530 恐ろしいとは 225 00:22:26,717 --> 00:22:29,417 辰! 辰兄 226 00:22:31,455 --> 00:22:33,555 ここだ 卯介! 227 00:22:36,260 --> 00:22:38,360 辰に… え? 228 00:22:46,503 --> 00:22:49,406 まずい 待て 出てくるな! 229 00:22:49,406 --> 00:22:51,406 え? 230 00:23:16,467 --> 00:23:19,937 鳥どもは なんで 231 00:23:19,937 --> 00:23:22,339 俺の腕を 232 00:23:22,339 --> 00:23:26,210 動物… 中でも特に鳥類は 233 00:23:26,210 --> 00:23:29,680 目玉文様に恐れを抱く 234 00:23:29,680 --> 00:23:32,583 果実の においに引き寄せられても 235 00:23:32,583 --> 00:23:38,322 これまで手のひらの文様のために 襲えずにいたのだろう 236 00:23:38,322 --> 00:23:40,391 目玉が血で隠れた時 237 00:23:40,391 --> 00:23:44,291 その腕は鳥にとって 甘美な餌となったんだ 238 00:23:46,964 --> 00:23:50,667 鳥の餌か 239 00:23:50,667 --> 00:23:52,967 辰兄 だいぶ熱 下がったね 240 00:23:55,105 --> 00:23:58,776 お前 ずいぶん顔色 よくなったな 241 00:23:58,776 --> 00:24:01,378 だろ?もうずっと血を吐かない 242 00:24:01,378 --> 00:24:04,581 きっと光酒ってのが効いたんだ 243 00:24:04,581 --> 00:24:06,583 俺も狩り覚えるからさ 244 00:24:06,583 --> 00:24:10,083 辰兄も早く元気になって 一緒にしよ 245 00:24:17,995 --> 00:24:20,597 ああ 246 00:24:20,597 --> 00:24:22,697 そうだな 247 00:24:34,178 --> 00:24:36,778 何だよ 脅かすない 248 00:24:39,850 --> 00:24:41,819 闇の中では 249 00:24:41,819 --> 00:24:44,219 誰しも何かの かげに脅える 250 00:24:46,623 --> 00:24:49,093 闇に遊び 251 00:24:49,093 --> 00:24:51,993 踊り戯れるは異形ばかり 252 00:24:54,331 --> 00:24:58,831 もしも 真に夜の異形の王がいたなら 253 00:25:01,238 --> 00:25:04,438 やはり あんなふうなのだろう 254 00:26:42,706 --> 00:26:44,806 「鏡が淵」 255 00:31:49,779 --> 00:31:51,879 よし… と 256 00:32:23,113 --> 00:32:25,048 (物音) ん? 257 00:32:25,048 --> 00:32:27,848 真澄?あんた どこ行ってたのよ 258 00:32:29,886 --> 00:32:31,986 真澄 259 00:32:36,092 --> 00:32:38,392 やだ 何これ 260 00:33:04,888 --> 00:33:06,988 水の音? 261 00:33:25,542 --> 00:33:29,379 娘の様子… かい? 262 00:33:29,379 --> 00:33:33,750 確かに この頃 体調を崩しちまってるが 263 00:33:33,750 --> 00:33:37,253 なに 原因は分かってるんだよ 264 00:33:37,253 --> 00:33:40,857 医者にも蟲師にも 治せねえ病さ 265 00:33:40,857 --> 00:33:45,328 好いた男が 会いに来なくなったってんでね 266 00:33:45,328 --> 00:33:47,697 気が塞いじまって 267 00:33:47,697 --> 00:33:52,068 体の具合まで 悪くなっちまったんですよ 268 00:33:52,068 --> 00:33:55,105 毎度のことじゃあるんですが 269 00:33:55,105 --> 00:33:59,876 今回のは ずいぶん長引いててねえ… 270 00:33:59,876 --> 00:34:04,948 しかし それは 気の病だけとは限りませんよ 271 00:34:04,948 --> 00:34:08,518 といいますと? 272 00:34:08,518 --> 00:34:11,518 ひとつ 水盤を 用意しちゃもらえませんか? 273 00:34:16,259 --> 00:34:18,359 これに姿を映してみてくれ 274 00:34:29,806 --> 00:34:33,443 影を写し取られたんですな 275 00:34:33,443 --> 00:34:35,412 え? 276 00:34:35,412 --> 00:34:39,512 波のない池にすむ 水鏡という蟲がいましてね 277 00:34:42,052 --> 00:34:45,488 元は水銀のような姿をした ものですが 278 00:34:45,488 --> 00:34:48,391 池の水面に動物の姿が映り込むと 279 00:34:48,391 --> 00:34:50,691 その姿を真似て陸に上がります 280 00:34:52,862 --> 00:34:56,199 そして本体の後を付いて回る 281 00:34:56,199 --> 00:35:00,399 すると… 本体のほうは 少しずつ体力が衰えてゆく 282 00:35:02,972 --> 00:35:07,444 本体が衰えるほど 水鏡は実体を持ち始め 283 00:35:07,444 --> 00:35:10,747 本体は実体を失ってゆく 284 00:35:10,747 --> 00:35:15,585 そして やがては 水鏡が本体に成り代わる 285 00:35:15,585 --> 00:35:19,823 水鏡は水の中の鉱物質を必要とし 286 00:35:19,823 --> 00:35:24,023 実体を持つと より濃度の高い水を 求めて歩き回る 287 00:35:26,129 --> 00:35:31,067 水鏡は もともとの姿では 自ら動くことはできない 288 00:35:31,067 --> 00:35:35,405 だから自由に動ける体を 欲しがるんです 289 00:35:35,405 --> 00:35:38,908 そりゃ困る 何とかならんのか 290 00:35:38,908 --> 00:35:40,844 本体と入れ替わる瞬間 291 00:35:40,844 --> 00:35:44,614 誰の目にも水鏡の姿が見える 292 00:35:44,614 --> 00:35:47,283 そこを本体に鏡に映されると 293 00:35:47,283 --> 00:35:51,154 姿は崩れ 本体も元に戻ります 294 00:35:51,154 --> 00:35:54,624 何だ 簡単なことじゃねえか 295 00:35:54,624 --> 00:35:57,594 おい 真澄 お前 手鏡 持ってたろ 296 00:35:57,594 --> 00:35:59,594 どこやった 297 00:36:02,365 --> 00:36:05,602 何だ 曇っちまってるじゃねえか 298 00:36:05,602 --> 00:36:07,637 研いでやるから 貸してみ… 299 00:36:07,637 --> 00:36:12,408 やめてよ 大事な… 鏡なの 300 00:36:12,408 --> 00:36:14,408 自分でやるから 301 00:36:49,179 --> 00:36:52,949 ごめん ちょっと出てくる え? 302 00:36:52,949 --> 00:36:56,149 こら どこ行くのよ 真澄! 303 00:37:26,382 --> 00:37:29,586 また ずいぶん曇ったなあ 304 00:37:29,586 --> 00:37:32,586 あんたに研いでほしいから 自分じゃ研がないんだよ 305 00:37:39,562 --> 00:37:43,433 あのさあ 真澄 うん? 306 00:37:43,433 --> 00:37:45,835 このところ ここいら一帯 すっかり 307 00:37:45,835 --> 00:37:47,935 鏡研ぎのくちも減っちまってな 308 00:37:50,240 --> 00:37:53,743 仕事場 変えてみようと思うんだよ 309 00:37:53,743 --> 00:37:56,579 え そんな… 310 00:37:56,579 --> 00:37:59,349 じゃあ 次はいつ会えるの 311 00:37:59,349 --> 00:38:02,685 さあなあ いつ戻るか… 312 00:38:02,685 --> 00:38:04,621 嫌よ そんなの 313 00:38:04,621 --> 00:38:07,523 俺だって嫌だけど 314 00:38:07,523 --> 00:38:11,027 でも食ってかなきゃならねえだろ 315 00:38:11,027 --> 00:38:13,930 分かってくれよ 316 00:38:13,930 --> 00:38:16,399 じゃあ… じゃあ私 317 00:38:16,399 --> 00:38:19,736 あんたの里で待ってる あんたの嫁になる 318 00:38:19,736 --> 00:38:22,572 所帯持つ気は まだねえよ 319 00:38:22,572 --> 00:38:26,743 なら その気になるまで待つよ だからさ… 320 00:38:26,743 --> 00:38:30,647 お前みてえな はねっかえりの嫁は ごめんだなあ 321 00:38:30,647 --> 00:38:34,047 嫁にするなら もっと おとなしい娘がいいね 322 00:38:38,655 --> 00:38:40,990 そういうわけだから 323 00:38:40,990 --> 00:38:43,290 次の約束はできねえからさ 324 00:38:46,195 --> 00:38:48,131 今度 鏡が曇ったら 325 00:38:48,131 --> 00:38:50,431 悪いが自分で研いでくれよ 326 00:40:20,456 --> 00:40:23,359 ああ… 327 00:40:23,359 --> 00:40:25,359 何やってんだろ 328 00:40:32,635 --> 00:40:34,635 (水音) 329 00:40:44,180 --> 00:40:46,680 そこに いるの? 330 00:40:56,592 --> 00:40:59,992 あんた 私に成りたいの? 331 00:41:02,899 --> 00:41:05,599 こんな私に成りたいの? 332 00:41:12,375 --> 00:41:16,375 お前さんにも 水鏡の足音が聞こえ始めたか 333 00:41:20,516 --> 00:41:22,616 手鏡は研いだか? 334 00:41:25,655 --> 00:41:28,224 そいつに 成り代わられたくなかったら 335 00:41:28,224 --> 00:41:31,494 早いとこ研いどけよ 336 00:41:31,494 --> 00:41:36,299 別に 代わってやったっていいよ 何? 337 00:41:36,299 --> 00:41:39,268 私はもう 私でいたって仕方ない 338 00:41:39,268 --> 00:41:42,939 欲しいなら あげたっていい 339 00:41:42,939 --> 00:41:45,842 あのな 投げやりにしてっと 340 00:41:45,842 --> 00:41:48,778 後悔することも できなくなるぞ 341 00:41:48,778 --> 00:41:51,180 水鏡と入れ替わるってことは 342 00:41:51,180 --> 00:41:54,450 自我も実体も失うってことだ 343 00:41:54,450 --> 00:41:58,287 お前は自分の意思で この世に影響を及ぼすことが 344 00:41:58,287 --> 00:42:00,587 何ひとつできない ものになるんだ 345 00:42:04,160 --> 00:42:08,598 いても いなくても同じものに? 346 00:42:08,598 --> 00:42:10,698 ああ そうだ 347 00:42:18,975 --> 00:42:23,513 なら 今の私と同じだ 348 00:42:23,513 --> 00:42:25,481 あの人にとって 349 00:42:25,481 --> 00:42:28,981 私は それくらい 軽いものだったんだ 350 00:42:31,187 --> 00:42:33,723 私が何を言ったって 351 00:42:33,723 --> 00:42:36,592 何をしたって 352 00:42:36,592 --> 00:42:38,592 何の影響も受けやしない 353 00:42:40,897 --> 00:42:42,932 実体が 354 00:42:42,932 --> 00:42:45,232 あってもなくても同じこと 355 00:42:50,139 --> 00:42:53,239 そこは さびしいだろう? 356 00:43:00,316 --> 00:43:05,555 だがな そこよりずっと さびしい所がある 357 00:43:05,555 --> 00:43:09,655 蟲と同じ 実体を持たない ものたちの すむ世だ 358 00:43:11,494 --> 00:43:16,494 そこは この世には必要とされない ものたちの蠢く 暗い所だ 359 00:43:18,668 --> 00:43:21,971 蟲どもに 心なんぞは ありはしないが 360 00:43:21,971 --> 00:43:26,375 多くのものが光を求めて 這い出そうとする 361 00:43:26,375 --> 00:43:29,075 そんな さびしい所だ 362 00:43:33,983 --> 00:43:38,783 相手は実体に姿を映されただけで 消える はかないものだ 363 00:43:40,756 --> 00:43:43,659 血の通う実体を持つということは 364 00:43:43,659 --> 00:43:46,659 それだけで 強い力を持つってことだ 365 00:43:48,931 --> 00:43:53,131 だが いったん入れ替わると それも逆転する 366 00:43:56,572 --> 00:43:59,475 また暖かい場所へ戻りたければ 367 00:43:59,475 --> 00:44:01,575 自分の身は自分で守るんだ 368 00:45:12,048 --> 00:45:14,016 脈が弱い 369 00:45:14,016 --> 00:45:16,516 鏡は研いだか うん… 370 00:45:19,689 --> 00:45:22,992 よし 肌身離さず持ってろ 371 00:45:22,992 --> 00:45:26,862 じき 水鏡が姿を現す 372 00:45:26,862 --> 00:45:29,632 その瞬間を鏡に映すんだ 373 00:45:29,632 --> 00:45:31,732 見逃すな 374 00:45:37,106 --> 00:45:40,976 どうした? あ… お手洗い 375 00:45:40,976 --> 00:45:43,376 1人で大丈夫? うん 376 00:45:56,425 --> 00:45:58,425 戻ってきた? 377 00:46:23,018 --> 00:46:25,018 いない… 378 00:47:04,126 --> 00:47:09,426 (水音) 379 00:47:46,469 --> 00:47:50,039 ない! 380 00:47:50,039 --> 00:47:52,139 あんな所に! 381 00:47:54,977 --> 00:47:57,977 体が… 動かない! 382 00:48:06,856 --> 00:48:08,956 このまま… 383 00:48:11,794 --> 00:48:13,794 入れ替わられちゃうの? 384 00:48:17,533 --> 00:48:19,633 あんなふうに 385 00:48:22,338 --> 00:48:26,738 人の周りを付いて回るだけの ものになるの? 386 00:48:29,812 --> 00:48:32,515 嫌だ 387 00:48:32,515 --> 00:48:35,951 そんなの さびしすぎる 388 00:48:35,951 --> 00:48:38,687 何よ 389 00:48:38,687 --> 00:48:40,687 真似してんじゃないわよ! 390 00:49:14,857 --> 00:49:17,693 本当に もう何ともないのよ 391 00:49:17,693 --> 00:49:19,929 何言ってんだ このバカ娘 392 00:49:19,929 --> 00:49:22,631 今日一日くらい おとなしくしてなさい 393 00:49:22,631 --> 00:49:24,631 はーい… 394 00:49:26,969 --> 00:49:29,505 なんで消えたの? 395 00:49:29,505 --> 00:49:32,605 いや 俺もずっと考えてんだがな… 396 00:49:37,379 --> 00:49:41,250 そうか 目だ! 397 00:49:41,250 --> 00:49:45,354 お前の目に 水鏡の姿が映ったんだろう 398 00:49:45,354 --> 00:49:47,756 何だ 目を開けてさえいりゃ 399 00:49:47,756 --> 00:49:49,756 鏡なんか必要ねえのか 400 00:49:51,927 --> 00:49:55,431 やはり 実体を持って生きてるってのは 401 00:49:55,431 --> 00:49:57,731 それだけで十分 力を持ってんだな 402 00:50:00,402 --> 00:50:04,640 どうかしたか 今まで気が付かなかったけど 403 00:50:04,640 --> 00:50:08,510 あんた よく見ると男前だね 404 00:50:08,510 --> 00:50:12,281 は? 髪の色とか変だけど血筋? 405 00:50:12,281 --> 00:50:15,985 奥さん いるの?郷里はどこ? 406 00:50:15,985 --> 00:50:18,320 本当にもう治ったみたいですな 407 00:50:18,320 --> 00:50:20,289 さようで… 408 00:50:20,289 --> 00:50:23,158 じゃ俺は この辺で えーっ 409 00:50:23,158 --> 00:50:25,694 もう少しゆっくりしていきなよ 410 00:50:25,694 --> 00:50:28,364 お礼もしたいしさあ… 真澄! 411 00:50:28,364 --> 00:50:30,564 お前 少しは懲りんか 412 00:50:54,323 --> 00:50:56,323 これか 413 00:51:10,205 --> 00:51:14,510 やはり元の場所に戻ってたか 414 00:51:14,510 --> 00:51:19,314 付いてこい もっと山深い池に案内してやる 415 00:51:19,314 --> 00:51:21,414 実体は くれてやらんがな 416 00:51:25,421 --> 00:51:27,521 そんな さびしそうにしてるなよ 417 00:53:17,966 --> 00:53:19,966 「花惑い」 418 00:57:51,873 --> 00:57:56,373 物言わず 風雪に耐え 419 00:57:58,513 --> 00:58:03,713 物言わず 咲きこぼれ 420 00:58:06,254 --> 00:58:09,591 物言わず 421 00:58:09,591 --> 00:58:12,391 おかしゆくものたちよ 422 00:58:55,103 --> 00:58:57,973 物心ついた頃 423 00:58:57,973 --> 00:59:00,873 彼女はすでに 庭の離れに住んでいた 424 00:59:03,378 --> 00:59:06,982 そして今も 425 00:59:06,982 --> 00:59:09,782 変わらぬ美しさで そこにいる 426 00:59:24,399 --> 00:59:26,399 おー 427 00:59:30,539 --> 00:59:33,275 そういや この奥だったな 428 00:59:33,275 --> 00:59:35,375 桜の名木があるってのは 429 00:59:37,445 --> 00:59:41,045 ついでに一目 拝んでいくか 430 00:59:48,790 --> 00:59:50,859 うん? 431 00:59:50,859 --> 00:59:54,062 やあ 432 00:59:54,062 --> 00:59:59,234 この辺に有名な桜があると 聞いたんだが 知らねえかな 433 00:59:59,234 --> 01:00:01,834 ああ それならきっと この先よ 434 01:00:06,141 --> 01:00:08,343 お前さんの地元かい 435 01:00:08,343 --> 01:00:11,046 いいえ 私は山向こうから 436 01:00:11,046 --> 01:00:13,014 母さんの薬をもらいに 437 01:00:13,014 --> 01:00:16,184 へえ そりゃ孝行なこったな 438 01:00:16,184 --> 01:00:18,520 この先に名医でもいんのかい 439 01:00:18,520 --> 01:00:20,956 ええ その桜の側に 440 01:00:20,956 --> 01:00:24,826 どんな痛みも取り除ける薬を くださる方がいるって 441 01:00:24,826 --> 01:00:28,726 ほう あ ほら見えてきた 442 01:00:37,706 --> 01:00:41,176 何だ 全く咲いてねえじゃねえか 443 01:00:41,176 --> 01:00:44,446 どうしたのかしら 残念だったね 444 01:00:44,446 --> 01:00:48,046 じゃ 私はこれで ああ 達者でな 445 01:00:53,088 --> 01:00:55,657 ごめんください 446 01:00:55,657 --> 01:00:57,592 はい 447 01:00:57,592 --> 01:01:03,231 あの… こちらで 薬を作っておられると聞いて 448 01:01:03,231 --> 01:01:06,134 母が病で 449 01:01:06,134 --> 01:01:09,070 それは お気の毒に 450 01:01:09,070 --> 01:01:11,473 あなたは どこか悪い所は? 451 01:01:11,473 --> 01:01:15,644 いえ 私は丈夫なのが取りえで 452 01:01:15,644 --> 01:01:17,679 それは何より 453 01:01:17,679 --> 01:01:21,249 どうぞ中へ これから薬を作りますので 454 01:01:21,249 --> 01:01:23,551 今日は泊まっていかれるといい 455 01:01:23,551 --> 01:01:25,651 ありがとうございます 456 01:01:38,066 --> 01:01:41,569 相当に古い木だな 457 01:01:41,569 --> 01:01:44,069 600~700年は生きているだろうか 458 01:01:46,941 --> 01:01:50,312 花の散った跡もない 459 01:01:50,312 --> 01:01:54,182 老いさらばえて 花をつけなくなったのか? 460 01:01:54,182 --> 01:01:56,182 うん? 461 01:01:58,520 --> 01:02:01,089 あれは… (せき) 462 01:02:01,089 --> 01:02:04,889 うん?人がいたのか (せき) 463 01:02:08,229 --> 01:02:12,067 匂い立つような… 464 01:02:12,067 --> 01:02:15,867 ぞくりとするような 美しい女だと思った 465 01:02:19,374 --> 01:02:22,143 だが どこか妙だな 466 01:02:22,143 --> 01:02:24,713 一体どこが… 467 01:02:24,713 --> 01:02:27,382 もし この桜 468 01:02:27,382 --> 01:02:29,782 今年は 花をつけなかったんですかね? 469 01:02:34,155 --> 01:02:36,155 目と耳が悪いのか? 470 01:02:39,027 --> 01:02:41,062 もしや 471 01:02:41,062 --> 01:02:43,598 見かけぬ方だが 472 01:02:43,598 --> 01:02:47,302 佐保に何か? 473 01:02:47,302 --> 01:02:51,306 いや 少し気になることがあってね 474 01:02:51,306 --> 01:02:55,877 ご主人で? いや 親族の者だが 475 01:02:55,877 --> 01:02:59,748 失礼ながら 彼女は目と耳が不自由で? 476 01:02:59,748 --> 01:03:02,984 ええ ほとんど 477 01:03:02,984 --> 01:03:06,684 もしや この木から出る泡を 口にしたせいでは? 478 01:03:08,556 --> 01:03:11,860 私は蟲師のギンコと申します 479 01:03:11,860 --> 01:03:16,160 この木には 泡状をした 木霊という蟲がすんでいる 480 01:03:18,400 --> 01:03:22,637 木霊の宿った木は 群を抜いて長く生き 481 01:03:22,637 --> 01:03:24,737 美しい花を咲かせるが 482 01:03:26,541 --> 01:03:28,977 動物の中に取り込まれると 483 01:03:28,977 --> 01:03:31,813 五識のいずれかを麻痺させる 484 01:03:31,813 --> 01:03:36,151 それは… 本人に聞ければ分かろうが 485 01:03:36,151 --> 01:03:38,720 その手だてがない 486 01:03:38,720 --> 01:03:40,655 さあ佐保 おいで 487 01:03:40,655 --> 01:03:42,755 日が落ちては体が冷える 488 01:03:46,861 --> 01:03:49,130 あなたは医者では? 489 01:03:49,130 --> 01:03:52,967 何とか調べようはないのか 490 01:03:52,967 --> 01:03:56,671 うちは代々 しがない庭師ですので 491 01:03:56,671 --> 01:03:59,574 庭師? ええ 492 01:03:59,574 --> 01:04:04,712 ただ草木を美しく保つことしか できませんよ 493 01:04:04,712 --> 01:04:08,450 あの庭の桜も 本来は病気には強いが 494 01:04:08,450 --> 01:04:11,052 花は小さな種類です 495 01:04:11,052 --> 01:04:13,988 だが花の美しい種の枝を接げば 496 01:04:13,988 --> 01:04:17,358 強く美しい桜となる 497 01:04:17,358 --> 01:04:21,229 そうやって 草木の研究を重ねる内に 498 01:04:21,229 --> 01:04:24,032 時に草を煎じるようになったのを 499 01:04:24,032 --> 01:04:27,669 人様にお分けしているだけです 500 01:04:27,669 --> 01:04:31,940 この大桜から薬を作ったりは? 501 01:04:31,940 --> 01:04:36,778 この桜は代々 うちで守ってきた 特別な木です 502 01:04:36,778 --> 01:04:39,078 そのようなことには使いませんよ 503 01:05:10,044 --> 01:05:13,144 それを痛み止めと言って 患者に渡すのか 504 01:05:15,416 --> 01:05:18,516 それは感覚を鈍らせるものだと 言ったはずだ 505 01:05:21,523 --> 01:05:24,058 取り方と量さえ誤らなければ 506 01:05:24,058 --> 01:05:26,294 やがて元に戻る 507 01:05:26,294 --> 01:05:29,097 まさか あの女で試したのか? 508 01:05:29,097 --> 01:05:33,501 違う!そんなむごいこと するものか! 509 01:05:33,501 --> 01:05:37,305 うちは代々 草木の研究をしてきた 510 01:05:37,305 --> 01:05:42,577 桜から妙な泡が出ていたなら むろん調べる 511 01:05:42,577 --> 01:05:46,014 泡を見た先祖は3人ほどいた 512 01:05:46,014 --> 01:05:47,949 それぞれが調べを重ねて 513 01:05:47,949 --> 01:05:50,652 安全な処方を見つけたんだ 514 01:05:50,652 --> 01:05:53,855 だが それは植物の汁じゃない 515 01:05:53,855 --> 01:05:56,824 生きたものなんだ 516 01:05:56,824 --> 01:05:58,993 もしものことがあった時 517 01:05:58,993 --> 01:06:00,993 あんたに対処ができるのか 518 01:06:04,566 --> 01:06:08,369 それを置いていってもらおう 519 01:06:08,369 --> 01:06:12,674 だが これを 必要としている人もいる 520 01:06:12,674 --> 01:06:15,143 この苦しみから逃れられるなら 521 01:06:15,143 --> 01:06:18,743 何も見えずとも 聞こえずとも かまわないという人が 522 01:06:20,982 --> 01:06:23,482 あんたに それを奪う権利があるのか 523 01:06:25,753 --> 01:06:29,053 ならば あんたらの調べたものを 見せてもらおう 524 01:06:31,893 --> 01:06:36,164 どれほど信用していいものか あらためさせてもらう 525 01:06:36,164 --> 01:06:38,164 ああ いいとも 526 01:06:40,969 --> 01:06:45,373 あと あの女のことだが 527 01:06:45,373 --> 01:06:51,145 木霊が原因だとしたら 目や耳を元に戻せるかもしれん 528 01:06:51,145 --> 01:06:53,545 本当に心当たりはないのか? 529 01:07:00,288 --> 01:07:04,158 曾祖父から伝え聞いた話ならある 530 01:07:04,158 --> 01:07:07,662 曾祖父? 531 01:07:07,662 --> 01:07:09,762 曾祖父の若い頃 532 01:07:16,070 --> 01:07:18,470 80年ほど前のことだ 533 01:07:21,542 --> 01:07:25,542 (赤ん坊の泣き声) 534 01:07:28,316 --> 01:07:32,316 (赤ん坊の泣き声) 535 01:07:41,195 --> 01:07:44,599 一体 誰が置き去りにしたものか… 536 01:07:44,599 --> 01:07:46,634 うん? 537 01:07:46,634 --> 01:07:49,334 何だ?この薄紅色の泡は… 538 01:07:51,372 --> 01:07:54,375 木の汁? 539 01:07:54,375 --> 01:07:58,475 可哀想に 飢えて木の汁をすすっていたのか 540 01:08:00,782 --> 01:08:05,420 曾祖父の万作は その子を家に連れて帰った 541 01:08:05,420 --> 01:08:07,820 しかし妻にも乳は出ず 542 01:08:09,857 --> 01:08:12,760 重湯などをやっても飲まず 543 01:08:12,760 --> 01:08:15,860 ただ あの木の汁を与えると飲んだ 544 01:08:18,566 --> 01:08:21,469 万作夫婦も その子供らも 545 01:08:21,469 --> 01:08:25,469 本当の家族のように その子を慈しみ育てた 546 01:08:29,844 --> 01:08:32,344 だが その子の成長は遅く 547 01:08:34,682 --> 01:08:37,051 10年以上も赤子のまま 548 01:08:37,051 --> 01:08:39,651 桜の泡だけを飲んで育った 549 01:08:41,889 --> 01:08:46,094 30年が過ぎ 万作夫婦も亡くなった 550 01:08:46,094 --> 01:08:48,794 佐保は まだ幼子の姿だった 551 01:08:50,732 --> 01:08:52,667 おいで 佐保 552 01:08:52,667 --> 01:08:56,537 万作は? 553 01:08:56,537 --> 01:08:59,340 万作父ちゃんは もういないんだよ 554 01:08:59,340 --> 01:09:03,010 今日からは兄ちゃんと暮らそうな 555 01:09:03,010 --> 01:09:07,482 その頃には 佐保の目や耳 五識のほとんどが 556 01:09:07,482 --> 01:09:09,482 失われていたという 557 01:09:11,886 --> 01:09:16,724 そして周期的に病に伏した 558 01:09:16,724 --> 01:09:19,594 佐保が体を壊した年には 559 01:09:19,594 --> 01:09:21,894 大桜は花をつけなかった 560 01:09:24,098 --> 01:09:26,467 やがて代が替わっても 561 01:09:26,467 --> 01:09:29,767 やはり佐保を大切に守り慈しんだ 562 01:09:31,939 --> 01:09:35,810 柾よ 何 父さん 563 01:09:35,810 --> 01:09:37,845 佐保を 564 01:09:37,845 --> 01:09:40,014 頼んだぞ 565 01:09:40,014 --> 01:09:42,917 佐保を… 566 01:09:42,917 --> 01:09:46,017 ああ 分かってるよ 567 01:09:49,524 --> 01:09:53,824 桜の化身のごとく 佐保を愛した 568 01:10:10,411 --> 01:10:13,614 80年… 木霊は動物にも 569 01:10:13,614 --> 01:10:17,351 長寿と美しさを もたらすのか 570 01:10:17,351 --> 01:10:21,722 どうだ 佐保は治るのか 571 01:10:21,722 --> 01:10:25,326 木霊を抜く方法はある 572 01:10:25,326 --> 01:10:30,865 だが彼女から木霊を抜いて 余命があるか 573 01:10:30,865 --> 01:10:33,868 保証はない 574 01:10:33,868 --> 01:10:37,868 そうか それは残念だ 575 01:10:47,415 --> 01:10:51,252 ここの書物が全て あの泡に関するものだ 576 01:10:51,252 --> 01:10:53,352 ああ 577 01:10:57,124 --> 01:11:00,862 (せき) 578 01:11:00,862 --> 01:11:02,862 大丈夫か 佐保 579 01:11:08,603 --> 01:11:12,240 もう時間がない 580 01:11:12,240 --> 01:11:14,340 仕方がない… 581 01:11:20,882 --> 01:11:24,385 少し いいかな 582 01:11:24,385 --> 01:11:27,288 薬が できたんだが 583 01:11:27,288 --> 01:11:32,059 君にも少し飲んでもらいたい え 私がですか 584 01:11:32,059 --> 01:11:35,663 ごく稀に 体に合わない血筋がある 585 01:11:35,663 --> 01:11:38,163 娘のあなたに合えば大丈夫だろう 586 01:11:41,168 --> 01:11:43,268 分かりました 587 01:11:49,911 --> 01:11:53,447 と… ずいぶん古いな こりゃ 588 01:11:53,447 --> 01:11:56,417 何代前のもんだ? 589 01:11:56,417 --> 01:11:59,720 万作ってのは曾祖父だったな 590 01:11:59,720 --> 01:12:01,720 にしちゃ ずいぶん… 591 01:12:05,826 --> 01:12:09,764 記録者は4名 4代にわたって 592 01:12:09,764 --> 01:12:14,201 全員 蟲の見える体質だったって ことか? 593 01:12:14,201 --> 01:12:16,201 ひどく稀なことだな 594 01:12:35,122 --> 01:12:39,222 悪かったね さっきのは ただの眠り薬だ 595 01:12:42,530 --> 01:12:47,668 邪魔が入って 痛み止めを 入れてあげられなかったけど 596 01:12:47,668 --> 01:12:50,268 すぐに終わらせるから 597 01:12:59,113 --> 01:13:04,385 大丈夫 お前は まだまだ生きられる 598 01:13:04,385 --> 01:13:09,985 また 美しい花を咲かせられる 599 01:13:24,305 --> 01:13:27,274 やめろ! 600 01:13:27,274 --> 01:13:31,112 まさか 接ぎ木するように 首をすげかえて 601 01:13:31,112 --> 01:13:34,949 女を生き長らえさせてきたのか 602 01:13:34,949 --> 01:13:36,884 80年どころじゃねえ 603 01:13:36,884 --> 01:13:38,884 何百年も! 604 01:13:42,256 --> 01:13:47,695 そうだ 万作は8代前の先祖だ 605 01:13:47,695 --> 01:13:51,432 こうでもせねば 佐保の体は 606 01:13:51,432 --> 01:13:54,301 朽ちていく 607 01:13:54,301 --> 01:13:57,601 まだ こんなに美しいのに… 608 01:14:01,075 --> 01:14:03,844 まん… 609 01:14:03,844 --> 01:14:06,447 さく… 610 01:14:06,447 --> 01:14:08,447 佐保? 611 01:14:17,625 --> 01:14:19,725 嫌だ… 612 01:14:22,463 --> 01:14:25,433 嫌だ! 613 01:14:25,433 --> 01:14:30,604 佐保!お前は死にやしないよ 614 01:14:30,604 --> 01:14:34,475 すぐに新しい体を あげるから 615 01:14:34,475 --> 01:14:39,375 気は確かか!お前ら そうやって 何人の命を犠牲にしてきたんだ 616 01:14:41,348 --> 01:14:45,219 そうだな 617 01:14:45,219 --> 01:14:48,789 おかしいかもしれんな 618 01:14:48,789 --> 01:14:53,589 300年も草木のような女を 愛でてきた一族なんてのは 619 01:15:02,670 --> 01:15:04,770 くそ! 620 01:15:26,594 --> 01:15:28,896 何てことだ 621 01:15:28,896 --> 01:15:32,096 大桜に燃え移ってしまう! 622 01:15:36,470 --> 01:15:39,707 何だ あれは 623 01:15:39,707 --> 01:15:41,707 花? 624 01:16:07,334 --> 01:16:11,272 佐保… 花だ 625 01:16:11,272 --> 01:16:13,272 大桜が また咲い… 626 01:16:17,678 --> 01:16:20,481 佐保!だめだ 627 01:16:20,481 --> 01:16:23,681 行ってはだめだ… 行かないでくれ! 628 01:16:26,153 --> 01:16:28,153 佐保! 629 01:16:40,301 --> 01:16:43,204 年を経た古木には 630 01:16:43,204 --> 01:16:45,504 魂が宿り 631 01:16:47,675 --> 01:16:52,775 それゆえ人の心を 惹き付けるという 632 01:16:55,049 --> 01:16:56,984 その木が 633 01:16:56,984 --> 01:17:01,355 美しい花を冠したならば 634 01:17:01,355 --> 01:17:03,355 なおのこと… 635 01:17:17,338 --> 01:17:20,338 大桜は全焼をまぬがれたという 636 01:17:23,244 --> 01:17:27,014 だが あの庭師と女の姿を 637 01:17:27,014 --> 01:17:29,114 二度と見た者はないという 638 01:17:47,801 --> 01:17:51,038 おお こりゃあ見事だ 639 01:17:51,038 --> 01:17:53,641 旅の疲れが癒えるねえ 640 01:17:53,641 --> 01:17:55,576 ここらで少し休むか 641 01:17:55,576 --> 01:17:58,245 そりゃいい 一献やろう 642 01:17:58,245 --> 01:18:00,245 急ぐ旅でなし 643 01:18:07,921 --> 01:18:10,324 いや 絶景かな 644 01:18:10,324 --> 01:18:12,424 何よりだねえ