1 00:01:26,871 --> 00:01:32,877 ~♪ 2 00:01:36,422 --> 00:01:39,466 (ナレーション) 私の世界にあるものは― 3 00:01:39,884 --> 00:01:44,096 匂いと音と 味と手触り 4 00:01:44,930 --> 00:01:46,891 それで全部 5 00:01:47,683 --> 00:01:50,019 それで十分 6 00:01:56,859 --> 00:01:58,402 (周(あまね))なんだろう 7 00:01:58,944 --> 00:02:01,947 眼(め)の中に… 何かある 8 00:02:07,703 --> 00:02:13,709 (鳥のさえずり) 9 00:02:33,229 --> 00:02:34,480 (ギンコ)やれやれ 10 00:02:34,605 --> 00:02:36,440 やっと街道に出たか… 11 00:02:37,775 --> 00:02:38,651 (琵琶(びわ)の音色) 12 00:02:38,651 --> 00:02:40,986 (琵琶(びわ)の音色) 13 00:02:38,651 --> 00:02:40,986 (人々のざわめき) 14 00:02:40,986 --> 00:02:41,111 (琵琶(びわ)の音色) 15 00:02:41,111 --> 00:02:42,029 (琵琶(びわ)の音色) 16 00:02:41,111 --> 00:02:42,029 (ギンコ)ん…? 17 00:02:42,029 --> 00:02:43,781 (琵琶(びわ)の音色) 18 00:02:48,535 --> 00:02:49,954 (周)♪ 見れば 19 00:02:50,079 --> 00:02:55,292 ♪ 天井一面に 20 00:02:55,417 --> 00:02:57,002 ♪ 垂れ下がる 21 00:02:57,127 --> 00:03:02,841 ♪ 黒き髪のごときもの 22 00:03:03,467 --> 00:03:06,136 ♪ それが夜な夜な 23 00:03:06,262 --> 00:03:09,974 ♪ 伸びてきて 24 00:03:10,099 --> 00:03:13,060 ♪ 鼻に入りて 25 00:03:13,185 --> 00:03:15,145 ♪ 眠れぬという 26 00:03:15,145 --> 00:03:16,313 ♪ 眠れぬという 27 00:03:15,145 --> 00:03:16,313 (人々の笑い声) 28 00:03:16,730 --> 00:03:17,940 (ギンコ)へえ… 29 00:03:18,065 --> 00:03:20,317 こりゃあ 蟲(むし)の話だ 30 00:03:25,572 --> 00:03:27,032 今の話… 31 00:03:27,157 --> 00:03:28,659 どこで聞いた? 32 00:03:31,370 --> 00:03:32,830 私の父だよ 33 00:03:34,039 --> 00:03:36,625 他にも話を聞きたいかい? 34 00:03:36,750 --> 00:03:37,585 蟲師(むしし)さん 35 00:03:38,627 --> 00:03:40,588 なんで 俺を蟲師だと? 36 00:03:41,297 --> 00:03:43,841 さあ なんとなく 37 00:03:45,593 --> 00:03:47,845 ふう… (周)まあ そんな顔せず― 38 00:03:48,929 --> 00:03:49,930 聞いておいきよ 39 00:03:50,431 --> 00:03:53,434 ほら もう遅いし そこらに宿とってさ 40 00:03:53,809 --> 00:03:55,769 あ? (周)旦那っ! 41 00:03:57,354 --> 00:04:00,357 (宿の旦那)あいよっ (周)お一人様 ご案内だよ 42 00:04:00,482 --> 00:04:01,692 (宿の男)へい ただいまっ 43 00:04:01,817 --> 00:04:04,612 (ギンコ)おいっ 俺は ここで宿をとる気はな… 44 00:04:04,737 --> 00:04:06,280 (宿の男) さあ 荷物お持ちしましょ 45 00:04:06,530 --> 00:04:08,741 (ギンコ)…いって言ってんだよっ 46 00:04:08,866 --> 00:04:09,867 おい 放せ 47 00:04:09,992 --> 00:04:11,410 荷物 返せ 48 00:04:14,455 --> 00:04:15,789 (琵琶の音) 49 00:04:16,373 --> 00:04:18,125 (ギンコ)ん… 50 00:04:20,669 --> 00:04:22,171 さて…― 51 00:04:22,296 --> 00:04:25,007 お次は どんな話にしようかね 52 00:04:25,716 --> 00:04:28,135 (ギンコ) あんたの親父(おやじ)さん… 蟲師か? 53 00:04:28,260 --> 00:04:30,512 どれも真実味のある話だな 54 00:04:31,221 --> 00:04:33,557 (周)ああ そうだった 55 00:04:33,932 --> 00:04:35,851 (ギンコ)もう退いたのか? 56 00:04:36,435 --> 00:04:37,770 (周)死んじまったよ 57 00:04:38,979 --> 00:04:41,774 私の眼が 役に立たないばっかりに 58 00:04:43,317 --> 00:04:45,444 全く見えていないのか? 59 00:04:45,569 --> 00:04:47,488 いいや よく見えるよ 60 00:04:47,988 --> 00:04:50,199 ん… どういうこった 61 00:04:52,076 --> 00:04:53,619 “眼福(がんぷく)”を― 62 00:04:53,744 --> 00:04:55,454 眼にしちまったからね 63 00:04:55,996 --> 00:04:57,665 あっ… 眼福を見たのか? 64 00:04:57,790 --> 00:04:58,874 そりゃ すごい 65 00:04:58,999 --> 00:05:00,959 幻の蟲だ どこで見た? 66 00:05:02,836 --> 00:05:04,296 それじゃあ…― 67 00:05:04,421 --> 00:05:06,965 次は私の話をしようかね 68 00:05:08,300 --> 00:05:10,010 その代わり…― 69 00:05:11,553 --> 00:05:14,098 1つ頼みを聞いてほしい 70 00:05:15,391 --> 00:05:17,101 この両眼を― 71 00:05:17,810 --> 00:05:20,562 山に埋めてきてはくれないか…? 72 00:05:27,486 --> 00:05:29,029 (周の父)周っ! 73 00:05:30,072 --> 00:05:31,198 周 74 00:05:31,323 --> 00:05:32,199 (周)父ちゃん 75 00:05:32,908 --> 00:05:33,909 おかえり! 76 00:05:34,034 --> 00:05:35,911 お仕事どうだった? 77 00:05:36,453 --> 00:05:38,372 (周)蟲師だった父は― 78 00:05:38,497 --> 00:05:43,210 私を残して しばらく 家を空けることも多かった 79 00:05:43,460 --> 00:05:47,214 私は 父の旅先の話を聞くのが― 80 00:05:47,339 --> 00:05:48,799 何より好きだった 81 00:05:50,342 --> 00:05:53,303 (周の父)今回はな すごいものが手に入ったんだ 82 00:05:54,179 --> 00:05:55,556 眼福という― 83 00:05:55,681 --> 00:05:58,475 見れば眼がよくなるという蟲がいる 84 00:05:59,017 --> 00:06:02,312 これまで 幻の蟲と されてきたモノなんだが― 85 00:06:02,980 --> 00:06:06,900 それを見たという男の眼玉(めだま)が 1つ手に入ってな 86 00:06:07,568 --> 00:06:08,610 眼玉…? 87 00:06:09,778 --> 00:06:12,364 (周の父) なに 死後に取り出したもんだ 88 00:06:13,615 --> 00:06:16,910 その男は眼福を見てから 死ぬまでの数年― 89 00:06:17,035 --> 00:06:19,455 みるみる眼がよくなったって話だ 90 00:06:20,164 --> 00:06:21,331 そして… 91 00:06:21,457 --> 00:06:24,209 その眼玉は死後も腐らず残っている 92 00:06:25,919 --> 00:06:28,881 眼福を見つける 手がかりになるかもしれん 93 00:06:29,465 --> 00:06:30,299 周 94 00:06:31,091 --> 00:06:32,593 お前の眼は― 95 00:06:32,718 --> 00:06:35,554 俺が 一生かけても 見えるようにしてやる 96 00:06:36,680 --> 00:06:39,308 必ずだ 待ってろよ 97 00:06:45,522 --> 00:06:46,523 ん? 98 00:06:47,900 --> 00:06:48,734 あ!? 99 00:06:48,859 --> 00:06:50,110 (物音) 100 00:06:50,402 --> 00:06:51,236 (周)父ちゃん? 101 00:06:53,322 --> 00:06:54,448 どうかし… (周の父)開けるな! 102 00:06:57,451 --> 00:06:59,328 何… 今の… 103 00:06:59,453 --> 00:07:01,830 (周の父)蟲だ 眼玉の中にいやがった 104 00:07:02,206 --> 00:07:04,374 あれが眼福なのかもしれん 105 00:07:05,626 --> 00:07:06,752 (周)父は― 106 00:07:06,877 --> 00:07:09,588 山中を探し回ったが― 107 00:07:09,713 --> 00:07:11,590 それは見つからず… 108 00:07:12,674 --> 00:07:16,094 そして ひと月も経ったころだった 109 00:07:19,431 --> 00:07:20,390 あ… 110 00:07:22,184 --> 00:07:23,352 あ… 111 00:07:25,729 --> 00:07:27,314 なんだろう 112 00:07:28,190 --> 00:07:30,734 眼の中に何かある 113 00:07:32,152 --> 00:07:34,530 もしかして これが― 114 00:07:35,447 --> 00:07:37,658 “見える”ということ? 115 00:07:39,493 --> 00:07:40,577 あっ いたっ 116 00:07:43,288 --> 00:07:44,998 はっ… 眼に― 117 00:07:45,123 --> 00:07:47,084 何か 入ってきた 118 00:07:52,965 --> 00:07:54,132 えっ… 119 00:08:07,062 --> 00:08:07,896 (周)父ちゃん 120 00:08:09,940 --> 00:08:12,150 父ちゃん… だよね? 121 00:08:12,818 --> 00:08:13,777 ん? 122 00:08:14,862 --> 00:08:16,154 周…? 123 00:08:17,614 --> 00:08:19,867 あ… 周! 124 00:08:22,244 --> 00:08:24,663 (周) “物が見える”ということを― 125 00:08:24,788 --> 00:08:27,332 私は初めて理解した 126 00:08:28,584 --> 00:08:29,668 それは…― 127 00:08:29,793 --> 00:08:33,171 それまで うまく想像できないことだった 128 00:08:34,590 --> 00:08:36,258 そしてそれは― 129 00:08:36,383 --> 00:08:40,929 想像をはるかに超えた すばらしいことだった 130 00:08:42,264 --> 00:08:43,390 (周の父)群青色 131 00:08:44,057 --> 00:08:45,475 藤色 132 00:08:45,976 --> 00:08:47,477 桃色 133 00:08:48,103 --> 00:08:49,396 橙色(だいだいいろ) 134 00:08:50,689 --> 00:08:51,690 あれが雁(かり) 135 00:08:51,815 --> 00:08:54,943 うわあ すごくきれいに並んでる 136 00:08:55,569 --> 00:08:57,404 さきちゃんに フサちゃん 137 00:08:57,946 --> 00:08:59,489 (さき)なんで眼がよくなったの? 138 00:09:00,032 --> 00:09:02,159 光る花みたいのを見たの 139 00:09:03,577 --> 00:09:05,162 (周)私の眼は― 140 00:09:05,287 --> 00:09:09,291 友人の誰よりも遠くまで 見渡すことができた 141 00:09:10,834 --> 00:09:13,921 (周) 草むらの中 ヨウちゃん 見っけ 142 00:09:17,758 --> 00:09:19,301 (周)そして… 143 00:09:22,971 --> 00:09:24,306 (周)見ーつけたっ 144 00:09:24,806 --> 00:09:27,434 (フサ)周ちゃん 見つけるの 早すぎてつまんない 145 00:09:27,559 --> 00:09:29,561 (さき)鬼やっちゃだめー 146 00:09:30,187 --> 00:09:31,313 (周)時と共に― 147 00:09:32,022 --> 00:09:35,484 見えるはずのない所まで 見え始めた 148 00:09:42,908 --> 00:09:45,160 壁の向こうの丘 149 00:09:47,788 --> 00:09:50,332 丘の向こうの山脈 150 00:09:51,792 --> 00:09:54,461 そのはるか向こうの海までも― 151 00:09:55,295 --> 00:09:59,299 部屋にいながら 臨めるようになっていった 152 00:10:01,009 --> 00:10:02,678 見知らぬ景色や― 153 00:10:02,928 --> 00:10:04,888 人々の暮らしに― 154 00:10:05,013 --> 00:10:06,682 私は夢中になった 155 00:10:08,725 --> 00:10:11,853 だが やがて眼が回り― 156 00:10:12,104 --> 00:10:14,523 歩くのが困難になった 157 00:10:15,941 --> 00:10:18,568 安寧な闇が訪れるのは― 158 00:10:18,694 --> 00:10:21,029 まぶたを閉じた時だけ 159 00:10:22,197 --> 00:10:26,284 私は眼を閉じていることが 多くなった 160 00:10:30,497 --> 00:10:33,625 だが そうして時が経つと― 161 00:10:33,917 --> 00:10:36,795 また 別のものが 見えるようになっていった 162 00:10:41,216 --> 00:10:43,343 (周)あっ 危な… 163 00:10:44,011 --> 00:10:45,012 (男)ん? 164 00:10:45,137 --> 00:10:47,931 ん…? なんでもない 165 00:10:49,099 --> 00:10:50,934 (周)ふー ふー 166 00:10:51,059 --> 00:10:51,768 (男)うわあああ 167 00:10:51,768 --> 00:10:51,935 (男)うわあああ 168 00:10:51,768 --> 00:10:51,935 (落ちる音) 169 00:10:51,935 --> 00:10:52,060 (落ちる音) 170 00:10:52,060 --> 00:10:52,978 (落ちる音) 171 00:10:52,060 --> 00:10:52,978 (周)あっ… 172 00:10:53,353 --> 00:10:55,522 (男)うあっ (周)大丈夫? おじさん 173 00:10:55,647 --> 00:10:58,275 (男)あいたたた 急に風が… 174 00:11:00,485 --> 00:11:02,487 (周)さっきのは…? 175 00:11:03,905 --> 00:11:05,699 (周)眼を閉じていると― 176 00:11:05,824 --> 00:11:09,745 近くにいる者の未来や過去が 見えるようになり― 177 00:11:10,162 --> 00:11:11,163 やがて― 178 00:11:11,288 --> 00:11:13,415 自分の未来も見てくれと― 179 00:11:13,540 --> 00:11:15,792 人が集まるようになった 180 00:11:17,085 --> 00:11:21,006 私の見る未来は すべて的中した 181 00:11:21,548 --> 00:11:24,217 千里眼と うわさは広まり― 182 00:11:24,342 --> 00:11:27,804 近辺の村からも 人がうちを訪れた 183 00:11:29,723 --> 00:11:33,143 来年の夏 川に落ちて― 184 00:11:33,268 --> 00:11:35,020 亡くなります 185 00:11:35,520 --> 00:11:39,483 どうか 川には 近づかないでください 186 00:11:40,984 --> 00:11:44,488 (周)けれど たとえ忠告しても― 187 00:11:44,613 --> 00:11:47,741 見えたものは 決して変えることはできず― 188 00:11:48,366 --> 00:11:50,160 私への依頼は― 189 00:11:50,285 --> 00:11:52,412 やがて… 盗人や不貞を― 190 00:11:52,537 --> 00:11:55,248 言い当てるような ものばかりになっていった 191 00:11:56,541 --> 00:11:59,211 私の眼は重宝されたが― 192 00:11:59,377 --> 00:12:03,757 友人と呼べる者は いつしか いなくなっていた 193 00:12:07,344 --> 00:12:08,970 (周)仕方ないよ 194 00:12:09,137 --> 00:12:13,266 千里眼なんて 薄気味悪いに決まってる… 195 00:12:14,017 --> 00:12:15,560 見えたって― 196 00:12:15,727 --> 00:12:18,396 なんにも変えられやしないんだし… 197 00:12:20,941 --> 00:12:24,528 (周)私は… 人を見ることをやめた 198 00:12:25,821 --> 00:12:29,115 けれど やがて… 199 00:12:30,992 --> 00:12:32,202 (周)あっ… 200 00:12:32,577 --> 00:12:33,870 何…? 201 00:12:34,496 --> 00:12:37,624 まぶたが透けて 外が見える 202 00:12:38,250 --> 00:12:40,627 周 出かけてくるぞ 203 00:12:43,630 --> 00:12:44,840 周…? 204 00:12:45,382 --> 00:12:46,675 どうした? 205 00:12:46,883 --> 00:12:49,052 父ちゃんの未来と― 206 00:12:49,302 --> 00:12:52,806 外の景色が いっぺんに見えて― 207 00:12:52,931 --> 00:12:54,516 眼がくらむ 208 00:12:54,933 --> 00:12:56,935 それは妙だな 209 00:12:57,060 --> 00:12:58,436 (周)大丈夫… 210 00:12:58,687 --> 00:13:00,522 すぐ慣れるよ 211 00:13:01,481 --> 00:13:02,983 3日で戻る 212 00:13:03,191 --> 00:13:05,277 無理はするなよ (周)うん 213 00:13:07,612 --> 00:13:08,572 (周)だが…― 214 00:13:08,697 --> 00:13:11,616 父は それきり戻ってこなかった 215 00:13:13,869 --> 00:13:17,539 私は 来る日も来る日も 山へ登り― 216 00:13:17,664 --> 00:13:20,333 千里眼で父を捜した 217 00:13:22,127 --> 00:13:24,921 そして… ついにある日― 218 00:13:26,214 --> 00:13:30,135 谷の底に 父の姿を見た 219 00:13:32,596 --> 00:13:36,391 私は 父を弔うために旅に出た 220 00:13:37,100 --> 00:13:39,811 わずかな路銀(ろぎん)にでもなればと― 221 00:13:39,936 --> 00:13:43,857 琵琶で父に聞いた話を 弾き語って歩いた 222 00:13:45,317 --> 00:13:46,526 そして― 223 00:13:46,651 --> 00:13:49,863 ようやく父の骸(むくろ)に たどり着くと― 224 00:13:50,113 --> 00:13:54,409 もう父の戻らない里に 帰る気にはならなかった 225 00:13:55,994 --> 00:13:58,288 私は そのまま街道を― 226 00:13:58,413 --> 00:14:01,499 琵琶を弾いて 歩き暮らすようになった 227 00:14:06,546 --> 00:14:09,174 そうして暮らすうちにも― 228 00:14:09,299 --> 00:14:11,927 まぶたは どんどん透けていった 229 00:14:12,552 --> 00:14:15,805 視界を遮るものは何もなく― 230 00:14:16,014 --> 00:14:19,684 明るいうちは 立っているのも ままならない 231 00:14:20,685 --> 00:14:24,898 でも 私にも 見えないものが まだあった 232 00:14:25,565 --> 00:14:27,275 自分の…― 233 00:14:27,651 --> 00:14:28,902 未来だよ 234 00:14:31,613 --> 00:14:35,450 それが とうとう 見えるようになっちまった 235 00:14:36,743 --> 00:14:38,662 あんたが ここを通ることも― 236 00:14:39,496 --> 00:14:40,330 こんな頼み事― 237 00:14:40,455 --> 00:14:42,916 しなきゃ ならなくなることも― 238 00:14:43,250 --> 00:14:46,670 全部 見えてたことなんだよ 239 00:14:47,629 --> 00:14:49,047 それで…― 240 00:14:49,339 --> 00:14:51,174 その千里眼をくり抜いて― 241 00:14:52,050 --> 00:14:54,427 山へ捨ててきてくれってわけか 242 00:14:55,387 --> 00:14:58,223 それを人に頼むくらいなら― 243 00:14:58,348 --> 00:15:00,433 とうに自分でやってるさ 244 00:15:01,559 --> 00:15:02,852 この眼は― 245 00:15:02,978 --> 00:15:06,564 一度は私に 喜びをくれたものだから― 246 00:15:06,815 --> 00:15:10,277 いまいましくとも なんとか一緒にやってきた 247 00:15:11,194 --> 00:15:12,279 けど…― 248 00:15:12,404 --> 00:15:16,032 もうじき この眼は 私のものじゃなくなるんだ 249 00:15:16,992 --> 00:15:20,036 私が見た眼福と同じように― 250 00:15:20,161 --> 00:15:23,581 眼玉から抜け出て土に潜り― 251 00:15:23,707 --> 00:15:26,543 新しい眼玉がくるのを待つ… 252 00:15:27,252 --> 00:15:28,211 だから― 253 00:15:28,336 --> 00:15:31,464 また 私みたいなのが 出ないように― 254 00:15:32,007 --> 00:15:35,343 眼玉を山の深くに埋めてほしいんだ 255 00:15:36,052 --> 00:15:38,972 それが 全部 見えてる… ってのか 256 00:15:42,017 --> 00:15:43,393 解(げ)せんな 257 00:15:43,560 --> 00:15:46,980 眼を治してくれ と言うなら ともかく― 258 00:15:47,355 --> 00:15:49,649 治療法がないとも言い切れんぞ 259 00:15:50,275 --> 00:15:51,776 見えたものは― 260 00:15:51,901 --> 00:15:54,154 変えられないと 言っただろう? 261 00:15:54,738 --> 00:15:56,906 この眼が見てるのは― 262 00:15:57,157 --> 00:15:59,826 手の届かないほど遠くにある― 263 00:15:59,951 --> 00:16:02,704 “決められたこと”なんだよ… 264 00:16:15,592 --> 00:16:16,885 (ギンコ)なあ あんた 265 00:16:17,886 --> 00:16:20,388 俺には やっぱり あんたの言うこと― 266 00:16:20,513 --> 00:16:21,890 鵜呑(うの)みにゃできんよ 267 00:16:22,599 --> 00:16:24,642 できることは させてもらう 268 00:16:25,602 --> 00:16:29,147 知人に文(ふみ)を出しても いい返事はないよ 269 00:16:31,191 --> 00:16:32,150 そうかい 270 00:16:33,735 --> 00:16:35,862 なぜ そんなに助けたがる 271 00:16:36,529 --> 00:16:39,407 その左眼を なくしたせいか? 272 00:16:39,699 --> 00:16:41,576 (ギンコ)千里眼なら見えるだろ 273 00:16:42,243 --> 00:16:43,703 あんたのは― 274 00:16:43,828 --> 00:16:45,789 子供のころが真っ暗で見えない 275 00:16:48,333 --> 00:16:50,752 (ギンコ)俺の一番古い記憶は― 276 00:16:50,877 --> 00:16:52,170 十(とお)のころ 277 00:16:52,420 --> 00:16:54,923 どこだか知れねえ真っ暗な所を― 278 00:16:55,048 --> 00:16:57,050 1人で歩いてるってもんだ 279 00:16:59,427 --> 00:17:00,970 何も見えない 280 00:17:01,930 --> 00:17:04,224 手探りで歩き続けていると― 281 00:17:04,349 --> 00:17:05,725 そのうち月が出た 282 00:17:06,935 --> 00:17:10,438 真っ白い偽物じみた その月が沈んでも― 283 00:17:10,647 --> 00:17:12,899 また昇ってくるのは月… 284 00:17:14,025 --> 00:17:16,444 そんな所を長いこと歩いて― 285 00:17:17,362 --> 00:17:20,698 ある時 ようやく日の昇る所に出た 286 00:17:22,992 --> 00:17:25,620 その日の光のありがたさは― 287 00:17:25,745 --> 00:17:27,539 今でも よく覚えている 288 00:17:28,581 --> 00:17:31,418 あんたは永久に光を失うのが― 289 00:17:31,543 --> 00:17:33,128 恐ろしくはないのか 290 00:17:35,797 --> 00:17:37,132 (周)恐ろしいよ… 291 00:17:37,966 --> 00:17:41,636 でも 光しかない世界も恐ろしい 292 00:17:42,554 --> 00:17:45,140 何もかも 見えちゃいるのに― 293 00:17:45,265 --> 00:17:47,392 何も動かせないことと― 294 00:17:48,017 --> 00:17:51,354 闇の中でも自由に生きられること… 295 00:17:52,188 --> 00:17:54,899 どっちが恵まれてると思う…? 296 00:17:55,567 --> 00:17:57,235 私は…― 297 00:17:57,360 --> 00:18:02,157 闇の中で光を思い出しながら 生きてくのも― 298 00:18:02,282 --> 00:18:04,159 悪くはないと思うんだ 299 00:18:10,707 --> 00:18:11,958 (周)ああっ… 300 00:18:12,167 --> 00:18:13,126 ううっ… 301 00:18:13,793 --> 00:18:15,920 ああっ… ああっ… 302 00:18:19,466 --> 00:18:20,967 あっ… ああっ… (ギンコ)はっ… 303 00:18:22,635 --> 00:18:23,761 どうした? 304 00:18:24,971 --> 00:18:26,389 大丈夫 305 00:18:26,556 --> 00:18:28,975 また… 見えただけ 306 00:18:29,684 --> 00:18:31,644 今 どこまで見えてるんだ…? 307 00:18:33,104 --> 00:18:34,647 この眼玉の…― 308 00:18:34,772 --> 00:18:37,317 命が終わる瞬間まで… 309 00:18:42,530 --> 00:18:44,157 (ギンコ)彼女の眼は― 310 00:18:44,407 --> 00:18:47,368 ずっと 自分のまぶただけは 透過しなかった 311 00:18:48,286 --> 00:18:50,497 他者の未来しか見えなかった 312 00:18:50,622 --> 00:18:53,291 それが まぶたも透け― 313 00:18:53,416 --> 00:18:56,377 自分の未来も 見えるようになったというのは― 314 00:18:57,086 --> 00:18:58,838 眼玉にとって― 315 00:18:59,172 --> 00:19:01,633 彼女は他者と なりつつあるということか… 316 00:19:02,926 --> 00:19:06,054 見られることで 眼に宿る蟲 317 00:19:06,304 --> 00:19:07,722 それは 眼玉を― 318 00:19:07,847 --> 00:19:11,142 体が死しても生き続ける 別のモノへと組成させ― 319 00:19:12,227 --> 00:19:14,562 やがて完全に乗っ取ると― 320 00:19:14,771 --> 00:19:16,147 身から離れていく…? 321 00:19:17,106 --> 00:19:19,859 だとしたら 分離の時は もう近い 322 00:19:21,319 --> 00:19:23,613 文の返事も まだ来ないか… 323 00:19:37,460 --> 00:19:39,379 手の… 届かない― 324 00:19:40,129 --> 00:19:41,839 決められたこと… 325 00:19:50,181 --> 00:19:53,810 (周)あれ… 天井の向こうが見えない 326 00:19:55,061 --> 00:19:56,437 (周)あ… 327 00:19:56,729 --> 00:19:57,814 一体… 328 00:20:00,149 --> 00:20:02,318 (周)ちゃんと… 見える 329 00:20:05,196 --> 00:20:06,197 あれ… 330 00:20:06,823 --> 00:20:11,327 でも… 眼玉が勝手に動いてく… 331 00:20:11,536 --> 00:20:12,620 あ… 332 00:20:14,080 --> 00:20:15,331 あ… ああっ (ギンコ)はっ… 333 00:20:21,212 --> 00:20:22,130 (周)うっ… 334 00:20:22,463 --> 00:20:23,590 う… ぐ… 335 00:20:24,257 --> 00:20:26,050 待ってろ 今 痛み止めをやる… 336 00:20:27,719 --> 00:20:29,178 ああ… 337 00:20:31,681 --> 00:20:34,851 眼玉が なくとも…― 338 00:20:36,352 --> 00:20:38,521 涙は出るんだね… 339 00:20:53,786 --> 00:20:55,788 (穴を埋める音) 340 00:20:55,913 --> 00:20:56,748 (ギンコ)今― 341 00:20:58,124 --> 00:20:59,792 どこまで見えてるんだ…? 342 00:21:01,085 --> 00:21:02,920 (周)この眼玉の…― 343 00:21:03,046 --> 00:21:05,632 命が終わる瞬間まで… 344 00:21:06,341 --> 00:21:08,801 眼玉が 私から落ちたあと― 345 00:21:08,926 --> 00:21:11,471 埋められて土の中にいる 346 00:21:12,430 --> 00:21:15,475 しばらくして土から顔を出すと― 347 00:21:15,600 --> 00:21:18,102 獣が こちらへやってくる 348 00:21:18,895 --> 00:21:20,355 獣の眼玉に― 349 00:21:20,480 --> 00:21:23,149 美しい花が映っている 350 00:21:23,733 --> 00:21:27,612 それが ゆっくりと眼玉の中に 吸い込まれると― 351 00:21:27,945 --> 00:21:30,657 そこで すべてが…― 352 00:21:30,823 --> 00:21:33,826 真っ暗になる… 353 00:21:36,537 --> 00:21:37,664 (周)ねえ… 354 00:21:37,789 --> 00:21:40,124 文の返事が届いてるはずだよ 355 00:21:49,092 --> 00:21:50,927 (ギンコ)里に戻るのか? 356 00:21:52,845 --> 00:21:55,598 さあ… どうだろ 357 00:21:56,516 --> 00:22:00,436 今は このまま 身一つでやってみたい 358 00:22:00,645 --> 00:22:03,856 先が見えないことが うれしいんだ 359 00:22:04,607 --> 00:22:06,025 それじゃあ… 360 00:22:06,150 --> 00:22:08,069 どこかで見たら 声かけとくれよ 361 00:22:10,321 --> 00:22:13,700 もっと琵琶の腕… 上げとくからさ 362 00:22:14,701 --> 00:22:20,706 ♪~ 363 00:23:23,060 --> 00:23:29,066 ~♪