1 00:00:00,000 --> 00:00:00,000 ♪~ 2 00:01:26,920 --> 00:01:32,920 ~♪ 3 00:01:36,470 --> 00:01:39,510 (ナレーション) 私の世界にあるものは― 4 00:01:39,930 --> 00:01:44,140 匂いと音と 味と手触り 5 00:01:44,980 --> 00:01:46,940 それで全部 6 00:01:47,730 --> 00:01:50,060 それで十分 7 00:01:56,900 --> 00:01:58,450 (周(あまね))なんだろう 8 00:01:58,990 --> 00:02:01,990 眼(め)の中に… 何かある 9 00:02:07,750 --> 00:02:13,750 (鳥のさえずり) 10 00:02:33,270 --> 00:02:34,530 (ギンコ)やれやれ 11 00:02:34,650 --> 00:02:36,490 やっと街道に出たか… 12 00:02:37,820 --> 00:02:38,700 (琵琶(びわ)の音色) 13 00:02:38,700 --> 00:02:41,030 (人々のざわめき) (琵琶(びわ)の音色) 14 00:02:41,030 --> 00:02:41,160 (琵琶(びわ)の音色) 15 00:02:41,160 --> 00:02:42,070 (ギンコ)ん…? (琵琶(びわ)の音色) 16 00:02:42,070 --> 00:02:43,830 (琵琶(びわ)の音色) 17 00:02:48,580 --> 00:02:50,000 (周)♪ 見れば 18 00:02:50,120 --> 00:02:55,340 ♪ 天井一面に 19 00:02:55,460 --> 00:02:57,050 ♪ 垂れ下がる 20 00:02:57,170 --> 00:03:02,890 ♪ 黒き髪のごときもの 21 00:03:03,510 --> 00:03:06,180 ♪ それが夜な夜な 22 00:03:06,310 --> 00:03:10,020 ♪ 伸びてきて 23 00:03:10,140 --> 00:03:13,110 ♪ 鼻に入りて 24 00:03:13,230 --> 00:03:15,190 ♪ 眠れぬという 25 00:03:15,190 --> 00:03:16,360 (人々の笑い声) ♪ 眠れぬという 26 00:03:16,780 --> 00:03:17,990 (ギンコ)へえ… 27 00:03:18,110 --> 00:03:20,360 こりゃあ 蟲(むし)の話だ 28 00:03:25,620 --> 00:03:27,080 今の話… 29 00:03:27,200 --> 00:03:28,700 どこで聞いた? 30 00:03:31,420 --> 00:03:32,880 私の父だよ 31 00:03:34,080 --> 00:03:36,670 他にも話を聞きたいかい? 32 00:03:36,800 --> 00:03:37,630 蟲師(むしし)さん 33 00:03:38,670 --> 00:03:40,630 なんで 俺を蟲師だと? 34 00:03:41,340 --> 00:03:43,890 さあ なんとなく 35 00:03:45,640 --> 00:03:47,890 ふう… (周)まあ そんな顔せず― 36 00:03:48,970 --> 00:03:49,980 聞いておいきよ 37 00:03:50,480 --> 00:03:53,480 ほら もう遅いし そこらに宿とってさ 38 00:03:53,850 --> 00:03:55,810 あ? (周)旦那っ! 39 00:03:57,400 --> 00:04:00,400 (宿の旦那)あいよっ (周)お一人様 ご案内だよ 40 00:04:00,530 --> 00:04:01,740 (宿の男)へい ただいまっ 41 00:04:01,860 --> 00:04:04,660 (ギンコ)おいっ 俺は ここで宿をとる気はな… 42 00:04:04,780 --> 00:04:06,330 (宿の男) さあ 荷物お持ちしましょ 43 00:04:06,580 --> 00:04:08,790 (ギンコ)…いって言ってんだよっ 44 00:04:08,910 --> 00:04:09,910 おい 放せ 45 00:04:10,040 --> 00:04:11,460 荷物 返せ 46 00:04:14,500 --> 00:04:15,830 (琵琶の音) 47 00:04:16,420 --> 00:04:18,170 (ギンコ)ん… 48 00:04:20,710 --> 00:04:22,220 さて…― 49 00:04:22,340 --> 00:04:25,050 お次は どんな話にしようかね 50 00:04:25,760 --> 00:04:28,180 (ギンコ) あんたの親父(おやじ)さん… 蟲師か? 51 00:04:28,310 --> 00:04:30,560 どれも真実味のある話だな 52 00:04:31,270 --> 00:04:33,600 (周)ああ そうだった 53 00:04:33,980 --> 00:04:35,900 (ギンコ)もう退いたのか? 54 00:04:36,480 --> 00:04:37,820 (周)死んじまったよ 55 00:04:39,020 --> 00:04:41,820 私の眼が 役に立たないばっかりに 56 00:04:43,360 --> 00:04:45,490 全く見えていないのか? 57 00:04:45,610 --> 00:04:47,530 いいや よく見えるよ 58 00:04:48,030 --> 00:04:50,240 ん… どういうこった 59 00:04:52,120 --> 00:04:53,660 “眼福(がんぷく)”を― 60 00:04:53,790 --> 00:04:55,500 眼にしちまったからね 61 00:04:56,040 --> 00:04:57,710 あっ… 眼福を見たのか? 62 00:04:57,840 --> 00:04:58,920 そりゃ すごい 63 00:04:59,040 --> 00:05:01,000 幻の蟲だ どこで見た? 64 00:05:02,880 --> 00:05:04,340 それじゃあ…― 65 00:05:04,470 --> 00:05:07,010 次は私の話をしようかね 66 00:05:08,350 --> 00:05:10,060 その代わり…― 67 00:05:11,600 --> 00:05:14,140 1つ頼みを聞いてほしい 68 00:05:15,440 --> 00:05:17,150 この両眼を― 69 00:05:17,860 --> 00:05:20,610 山に埋めてきてはくれないか…? 70 00:05:27,530 --> 00:05:29,070 (周の父)周っ! 71 00:05:30,120 --> 00:05:31,240 周 72 00:05:31,370 --> 00:05:32,240 (周)父ちゃん 73 00:05:32,950 --> 00:05:33,950 おかえり! 74 00:05:34,080 --> 00:05:35,960 お仕事どうだった? 75 00:05:36,500 --> 00:05:38,420 (周)蟲師だった父は― 76 00:05:38,540 --> 00:05:43,260 私を残して しばらく 家を空けることも多かった 77 00:05:43,510 --> 00:05:47,260 私は 父の旅先の話を聞くのが― 78 00:05:47,380 --> 00:05:48,840 何より好きだった 79 00:05:50,390 --> 00:05:53,350 (周の父)今回はな すごいものが手に入ったんだ 80 00:05:54,220 --> 00:05:55,600 眼福という― 81 00:05:55,730 --> 00:05:58,520 見れば眼がよくなるという蟲がいる 82 00:05:59,060 --> 00:06:02,360 これまで 幻の蟲と されてきたモノなんだが― 83 00:06:03,030 --> 00:06:06,950 それを見たという男の眼玉(めだま)が 1つ手に入ってな 84 00:06:07,610 --> 00:06:08,660 眼玉…? 85 00:06:09,820 --> 00:06:12,410 (周の父) なに 死後に取り出したもんだ 86 00:06:13,660 --> 00:06:16,960 その男は眼福を見てから 死ぬまでの数年― 87 00:06:17,080 --> 00:06:19,500 みるみる眼がよくなったって話だ 88 00:06:20,210 --> 00:06:21,380 そして… 89 00:06:21,500 --> 00:06:24,250 その眼玉は死後も腐らず残っている 90 00:06:25,960 --> 00:06:28,930 眼福を見つける 手がかりになるかもしれん 91 00:06:29,510 --> 00:06:30,340 周 92 00:06:31,140 --> 00:06:32,640 お前の眼は― 93 00:06:32,760 --> 00:06:35,600 俺が 一生かけても 見えるようにしてやる 94 00:06:36,730 --> 00:06:39,350 必ずだ 待ってろよ 95 00:06:45,570 --> 00:06:46,570 ん? 96 00:06:47,950 --> 00:06:48,780 あ!? 97 00:06:48,900 --> 00:06:50,160 (物音) 98 00:06:50,450 --> 00:06:51,280 (周)父ちゃん? 99 00:06:53,370 --> 00:06:54,490 どうかし… (周の父)開けるな! 100 00:06:57,500 --> 00:06:59,370 何… 今の… 101 00:06:59,500 --> 00:07:01,880 (周の父)蟲だ 眼玉の中にいやがった 102 00:07:02,250 --> 00:07:04,420 あれが眼福なのかもしれん 103 00:07:05,670 --> 00:07:06,800 (周)父は― 104 00:07:06,920 --> 00:07:09,630 山中を探し回ったが― 105 00:07:09,760 --> 00:07:11,640 それは見つからず… 106 00:07:12,720 --> 00:07:16,140 そして ひと月も経ったころだった 107 00:07:19,480 --> 00:07:20,440 あ… 108 00:07:22,230 --> 00:07:23,400 あ… 109 00:07:25,770 --> 00:07:27,360 なんだろう 110 00:07:28,240 --> 00:07:30,780 眼の中に何かある 111 00:07:32,200 --> 00:07:34,580 もしかして これが― 112 00:07:35,490 --> 00:07:37,700 “見える”ということ? 113 00:07:39,540 --> 00:07:40,620 あっ いたっ 114 00:07:43,330 --> 00:07:45,040 はっ… 眼に― 115 00:07:45,170 --> 00:07:47,130 何か 入ってきた 116 00:07:53,010 --> 00:07:54,180 えっ… 117 00:08:07,110 --> 00:08:07,940 (周)父ちゃん 118 00:08:09,990 --> 00:08:12,200 父ちゃん… だよね? 119 00:08:12,860 --> 00:08:13,820 ん? 120 00:08:14,910 --> 00:08:16,200 周…? 121 00:08:17,660 --> 00:08:19,910 あ… 周! 122 00:08:22,290 --> 00:08:24,710 (周) “物が見える”ということを― 123 00:08:24,830 --> 00:08:27,380 私は初めて理解した 124 00:08:28,630 --> 00:08:29,710 それは…― 125 00:08:29,840 --> 00:08:33,220 それまで うまく想像できないことだった 126 00:08:34,640 --> 00:08:36,300 そしてそれは― 127 00:08:36,430 --> 00:08:40,970 想像をはるかに超えた すばらしいことだった 128 00:08:42,310 --> 00:08:43,440 (周の父)群青色 129 00:08:44,100 --> 00:08:45,520 藤色 130 00:08:46,020 --> 00:08:47,520 桃色 131 00:08:48,150 --> 00:08:49,440 橙色(だいだいいろ) 132 00:08:50,730 --> 00:08:51,740 あれが雁(かり) 133 00:08:51,860 --> 00:08:54,990 うわあ すごくきれいに並んでる 134 00:08:55,610 --> 00:08:57,450 さきちゃんに フサちゃん 135 00:08:57,990 --> 00:08:59,530 (さき)なんで眼がよくなったの? 136 00:09:00,080 --> 00:09:02,200 光る花みたいのを見たの 137 00:09:03,620 --> 00:09:05,210 (周)私の眼は― 138 00:09:05,330 --> 00:09:09,340 友人の誰よりも遠くまで 見渡すことができた 139 00:09:10,880 --> 00:09:13,970 (周) 草むらの中 ヨウちゃん 見っけ 140 00:09:17,800 --> 00:09:19,350 (周)そして… 141 00:09:23,020 --> 00:09:24,350 (周)見ーつけたっ 142 00:09:24,850 --> 00:09:27,480 (フサ)周ちゃん 見つけるの 早すぎてつまんない 143 00:09:27,600 --> 00:09:29,610 (さき)鬼やっちゃだめー 144 00:09:30,230 --> 00:09:31,360 (周)時と共に― 145 00:09:32,070 --> 00:09:35,530 見えるはずのない所まで 見え始めた 146 00:09:42,950 --> 00:09:45,210 壁の向こうの丘 147 00:09:47,830 --> 00:09:50,380 丘の向こうの山脈 148 00:09:51,840 --> 00:09:54,510 そのはるか向こうの海までも― 149 00:09:55,340 --> 00:09:59,340 部屋にいながら 臨めるようになっていった 150 00:10:01,050 --> 00:10:02,720 見知らぬ景色や― 151 00:10:02,970 --> 00:10:04,930 人々の暮らしに― 152 00:10:05,060 --> 00:10:06,730 私は夢中になった 153 00:10:08,770 --> 00:10:11,900 だが やがて眼が回り― 154 00:10:12,150 --> 00:10:14,570 歩くのが困難になった 155 00:10:15,990 --> 00:10:18,610 安寧な闇が訪れるのは― 156 00:10:18,740 --> 00:10:21,070 まぶたを閉じた時だけ 157 00:10:22,240 --> 00:10:26,330 私は眼を閉じていることが 多くなった 158 00:10:30,540 --> 00:10:33,670 だが そうして時が経つと― 159 00:10:33,960 --> 00:10:36,840 また 別のものが 見えるようになっていった 160 00:10:41,260 --> 00:10:43,390 (周)あっ 危な… 161 00:10:44,060 --> 00:10:45,060 (男)ん? 162 00:10:45,180 --> 00:10:47,980 ん…? なんでもない 163 00:10:49,140 --> 00:10:50,980 (周)ふー ふー 164 00:10:51,100 --> 00:10:51,810 (男)うわあああ 165 00:10:51,810 --> 00:10:51,980 (落ちる音) (男)うわあああ 166 00:10:51,980 --> 00:10:52,110 (落ちる音) 167 00:10:52,110 --> 00:10:53,020 (周)あっ… (落ちる音) 168 00:10:53,400 --> 00:10:55,570 (男)うあっ (周)大丈夫? おじさん 169 00:10:55,690 --> 00:10:58,320 (男)あいたたた 急に風が… 170 00:11:00,530 --> 00:11:02,530 (周)さっきのは…? 171 00:11:03,950 --> 00:11:05,740 (周)眼を閉じていると― 172 00:11:05,870 --> 00:11:09,790 近くにいる者の未来や過去が 見えるようになり― 173 00:11:10,210 --> 00:11:11,210 やがて― 174 00:11:11,330 --> 00:11:13,460 自分の未来も見てくれと― 175 00:11:13,590 --> 00:11:15,840 人が集まるようになった 176 00:11:17,130 --> 00:11:21,050 私の見る未来は すべて的中した 177 00:11:21,590 --> 00:11:24,260 千里眼と うわさは広まり― 178 00:11:24,390 --> 00:11:27,850 近辺の村からも 人がうちを訪れた 179 00:11:29,770 --> 00:11:33,190 来年の夏 川に落ちて― 180 00:11:33,310 --> 00:11:35,070 亡くなります 181 00:11:35,570 --> 00:11:39,530 どうか 川には 近づかないでください 182 00:11:41,030 --> 00:11:44,530 (周)けれど たとえ忠告しても― 183 00:11:44,660 --> 00:11:47,790 見えたものは 決して変えることはできず― 184 00:11:48,410 --> 00:11:50,210 私への依頼は― 185 00:11:50,330 --> 00:11:52,460 やがて… 盗人や不貞を― 186 00:11:52,580 --> 00:11:55,290 言い当てるような ものばかりになっていった 187 00:11:56,590 --> 00:11:59,260 私の眼は重宝されたが― 188 00:11:59,420 --> 00:12:03,800 友人と呼べる者は いつしか いなくなっていた 189 00:12:07,390 --> 00:12:09,020 (周)仕方ないよ 190 00:12:09,180 --> 00:12:13,310 千里眼なんて 薄気味悪いに決まってる… 191 00:12:14,060 --> 00:12:15,610 見えたって― 192 00:12:15,770 --> 00:12:18,440 なんにも変えられやしないんだし… 193 00:12:20,990 --> 00:12:24,570 (周)私は… 人を見ることをやめた 194 00:12:25,870 --> 00:12:29,160 けれど やがて… 195 00:12:31,040 --> 00:12:32,250 (周)あっ… 196 00:12:32,620 --> 00:12:33,920 何…? 197 00:12:34,540 --> 00:12:37,670 まぶたが透けて 外が見える 198 00:12:38,300 --> 00:12:40,670 周 出かけてくるぞ 199 00:12:43,680 --> 00:12:44,890 周…? 200 00:12:45,430 --> 00:12:46,720 どうした? 201 00:12:46,930 --> 00:12:49,100 父ちゃんの未来と― 202 00:12:49,350 --> 00:12:52,850 外の景色が いっぺんに見えて― 203 00:12:52,980 --> 00:12:54,560 眼がくらむ 204 00:12:54,980 --> 00:12:56,980 それは妙だな 205 00:12:57,110 --> 00:12:58,480 (周)大丈夫… 206 00:12:58,730 --> 00:13:00,570 すぐ慣れるよ 207 00:13:01,530 --> 00:13:03,030 3日で戻る 208 00:13:03,240 --> 00:13:05,320 無理はするなよ (周)うん 209 00:13:07,660 --> 00:13:08,620 (周)だが…― 210 00:13:08,740 --> 00:13:11,660 父は それきり戻ってこなかった 211 00:13:13,910 --> 00:13:17,580 私は 来る日も来る日も 山へ登り― 212 00:13:17,710 --> 00:13:20,380 千里眼で父を捜した 213 00:13:22,170 --> 00:13:24,970 そして… ついにある日― 214 00:13:26,260 --> 00:13:30,180 谷の底に 父の姿を見た 215 00:13:32,640 --> 00:13:36,440 私は 父を弔うために旅に出た 216 00:13:37,150 --> 00:13:39,860 わずかな路銀(ろぎん)にでもなればと― 217 00:13:39,980 --> 00:13:43,900 琵琶で父に聞いた話を 弾き語って歩いた 218 00:13:45,360 --> 00:13:46,570 そして― 219 00:13:46,700 --> 00:13:49,910 ようやく父の骸(むくろ)に たどり着くと― 220 00:13:50,160 --> 00:13:54,450 もう父の戻らない里に 帰る気にはならなかった 221 00:13:56,040 --> 00:13:58,330 私は そのまま街道を― 222 00:13:58,460 --> 00:14:01,540 琵琶を弾いて 歩き暮らすようになった 223 00:14:06,590 --> 00:14:09,220 そうして暮らすうちにも― 224 00:14:09,340 --> 00:14:11,970 まぶたは どんどん透けていった 225 00:14:12,600 --> 00:14:15,850 視界を遮るものは何もなく― 226 00:14:16,060 --> 00:14:19,730 明るいうちは 立っているのも ままならない 227 00:14:20,730 --> 00:14:24,940 でも 私にも 見えないものが まだあった 228 00:14:25,610 --> 00:14:27,320 自分の…― 229 00:14:27,700 --> 00:14:28,950 未来だよ 230 00:14:31,660 --> 00:14:35,500 それが とうとう 見えるようになっちまった 231 00:14:36,790 --> 00:14:38,710 あんたが ここを通ることも― 232 00:14:39,540 --> 00:14:40,380 こんな頼み事― 233 00:14:40,500 --> 00:14:42,960 しなきゃ ならなくなることも― 234 00:14:43,300 --> 00:14:46,720 全部 見えてたことなんだよ 235 00:14:47,670 --> 00:14:49,090 それで…― 236 00:14:49,380 --> 00:14:51,220 その千里眼をくり抜いて― 237 00:14:52,100 --> 00:14:54,470 山へ捨ててきてくれってわけか 238 00:14:55,430 --> 00:14:58,270 それを人に頼むくらいなら― 239 00:14:58,390 --> 00:15:00,480 とうに自分でやってるさ 240 00:15:01,600 --> 00:15:02,900 この眼は― 241 00:15:03,020 --> 00:15:06,610 一度は私に 喜びをくれたものだから― 242 00:15:06,860 --> 00:15:10,320 いまいましくとも なんとか一緒にやってきた 243 00:15:11,240 --> 00:15:12,320 けど…― 244 00:15:12,450 --> 00:15:16,080 もうじき この眼は 私のものじゃなくなるんだ 245 00:15:17,040 --> 00:15:20,080 私が見た眼福と同じように― 246 00:15:20,210 --> 00:15:23,630 眼玉から抜け出て土に潜り― 247 00:15:23,750 --> 00:15:26,590 新しい眼玉がくるのを待つ… 248 00:15:27,300 --> 00:15:28,260 だから― 249 00:15:28,380 --> 00:15:31,510 また 私みたいなのが 出ないように― 250 00:15:32,050 --> 00:15:35,390 眼玉を山の深くに埋めてほしいんだ 251 00:15:36,100 --> 00:15:39,020 それが 全部 見えてる… ってのか 252 00:15:42,060 --> 00:15:43,440 解(げ)せんな 253 00:15:43,610 --> 00:15:47,030 眼を治してくれ と言うなら ともかく― 254 00:15:47,400 --> 00:15:49,690 治療法がないとも言い切れんぞ 255 00:15:50,320 --> 00:15:51,820 見えたものは― 256 00:15:51,950 --> 00:15:54,200 変えられないと 言っただろう? 257 00:15:54,780 --> 00:15:56,950 この眼が見てるのは― 258 00:15:57,200 --> 00:15:59,870 手の届かないほど遠くにある― 259 00:16:00,000 --> 00:16:02,750 “決められたこと”なんだよ… 260 00:16:15,640 --> 00:16:16,930 (ギンコ)なあ あんた 261 00:16:17,930 --> 00:16:20,430 俺には やっぱり あんたの言うこと― 262 00:16:20,560 --> 00:16:21,940 鵜呑(うの)みにゃできんよ 263 00:16:22,640 --> 00:16:24,690 できることは させてもらう 264 00:16:25,650 --> 00:16:29,190 知人に文(ふみ)を出しても いい返事はないよ 265 00:16:31,240 --> 00:16:32,200 そうかい 266 00:16:33,780 --> 00:16:35,910 なぜ そんなに助けたがる 267 00:16:36,570 --> 00:16:39,450 その左眼を なくしたせいか? 268 00:16:39,740 --> 00:16:41,620 (ギンコ)千里眼なら見えるだろ 269 00:16:42,290 --> 00:16:43,750 あんたのは― 270 00:16:43,870 --> 00:16:45,830 子供のころが真っ暗で見えない 271 00:16:48,380 --> 00:16:50,800 (ギンコ)俺の一番古い記憶は― 272 00:16:50,920 --> 00:16:52,220 十(とお)のころ 273 00:16:52,470 --> 00:16:54,970 どこだか知れねえ真っ暗な所を― 274 00:16:55,090 --> 00:16:57,100 1人で歩いてるってもんだ 275 00:16:59,470 --> 00:17:01,020 何も見えない 276 00:17:01,980 --> 00:17:04,270 手探りで歩き続けていると― 277 00:17:04,390 --> 00:17:05,770 そのうち月が出た 278 00:17:06,980 --> 00:17:10,480 真っ白い偽物じみた その月が沈んでも― 279 00:17:10,690 --> 00:17:12,940 また昇ってくるのは月… 280 00:17:14,070 --> 00:17:16,490 そんな所を長いこと歩いて― 281 00:17:17,410 --> 00:17:20,740 ある時 ようやく日の昇る所に出た 282 00:17:23,040 --> 00:17:25,670 その日の光のありがたさは― 283 00:17:25,790 --> 00:17:27,580 今でも よく覚えている 284 00:17:28,630 --> 00:17:31,460 あんたは永久に光を失うのが― 285 00:17:31,590 --> 00:17:33,170 恐ろしくはないのか 286 00:17:35,840 --> 00:17:37,180 (周)恐ろしいよ… 287 00:17:38,010 --> 00:17:41,680 でも 光しかない世界も恐ろしい 288 00:17:42,600 --> 00:17:45,190 何もかも 見えちゃいるのに― 289 00:17:45,310 --> 00:17:47,440 何も動かせないことと― 290 00:17:48,060 --> 00:17:51,400 闇の中でも自由に生きられること… 291 00:17:52,230 --> 00:17:54,940 どっちが恵まれてると思う…? 292 00:17:55,610 --> 00:17:57,280 私は…― 293 00:17:57,410 --> 00:18:02,200 闇の中で光を思い出しながら 生きてくのも― 294 00:18:02,330 --> 00:18:04,200 悪くはないと思うんだ 295 00:18:10,750 --> 00:18:12,000 (周)ああっ… 296 00:18:12,210 --> 00:18:13,170 ううっ… 297 00:18:13,840 --> 00:18:15,970 ああっ… ああっ… 298 00:18:19,510 --> 00:18:21,010 あっ… ああっ… (ギンコ)はっ… 299 00:18:22,680 --> 00:18:23,810 どうした? 300 00:18:25,020 --> 00:18:26,430 大丈夫 301 00:18:26,600 --> 00:18:29,020 また… 見えただけ 302 00:18:29,730 --> 00:18:31,690 今 どこまで見えてるんだ…? 303 00:18:33,150 --> 00:18:34,690 この眼玉の…― 304 00:18:34,820 --> 00:18:37,360 命が終わる瞬間まで… 305 00:18:42,580 --> 00:18:44,200 (ギンコ)彼女の眼は― 306 00:18:44,450 --> 00:18:47,410 ずっと 自分のまぶただけは 透過しなかった 307 00:18:48,330 --> 00:18:50,540 他者の未来しか見えなかった 308 00:18:50,670 --> 00:18:53,340 それが まぶたも透け― 309 00:18:53,460 --> 00:18:56,420 自分の未来も 見えるようになったというのは― 310 00:18:57,130 --> 00:18:58,880 眼玉にとって― 311 00:18:59,220 --> 00:19:01,680 彼女は他者と なりつつあるということか… 312 00:19:02,970 --> 00:19:06,100 見られることで 眼に宿る蟲 313 00:19:06,350 --> 00:19:07,770 それは 眼玉を― 314 00:19:07,890 --> 00:19:11,190 体が死しても生き続ける 別のモノへと組成させ― 315 00:19:12,270 --> 00:19:14,610 やがて完全に乗っ取ると― 316 00:19:14,820 --> 00:19:16,190 身から離れていく…? 317 00:19:17,150 --> 00:19:19,900 だとしたら 分離の時は もう近い 318 00:19:21,360 --> 00:19:23,660 文の返事も まだ来ないか… 319 00:19:37,510 --> 00:19:39,420 手の… 届かない― 320 00:19:40,170 --> 00:19:41,880 決められたこと… 321 00:19:50,230 --> 00:19:53,860 (周)あれ… 天井の向こうが見えない 322 00:19:55,110 --> 00:19:56,480 (周)あ… 323 00:19:56,770 --> 00:19:57,860 一体… 324 00:20:00,190 --> 00:20:02,360 (周)ちゃんと… 見える 325 00:20:05,240 --> 00:20:06,240 あれ… 326 00:20:06,870 --> 00:20:11,370 でも… 眼玉が勝手に動いてく… 327 00:20:11,580 --> 00:20:12,670 あ… 328 00:20:14,130 --> 00:20:15,380 あ… ああっ (ギンコ)はっ… 329 00:20:21,260 --> 00:20:22,180 (周)うっ… 330 00:20:22,510 --> 00:20:23,640 う… ぐ… 331 00:20:24,300 --> 00:20:26,100 待ってろ 今 痛み止めをやる… 332 00:20:27,760 --> 00:20:29,220 ああ… 333 00:20:31,730 --> 00:20:34,900 眼玉が なくとも…― 334 00:20:36,400 --> 00:20:38,570 涙は出るんだね… 335 00:20:53,830 --> 00:20:55,830 (穴を埋める音) 336 00:20:55,960 --> 00:20:56,790 (ギンコ)今― 337 00:20:58,170 --> 00:20:59,840 どこまで見えてるんだ…? 338 00:21:01,130 --> 00:21:02,970 (周)この眼玉の…― 339 00:21:03,090 --> 00:21:05,680 命が終わる瞬間まで… 340 00:21:06,390 --> 00:21:08,850 眼玉が 私から落ちたあと― 341 00:21:08,970 --> 00:21:11,520 埋められて土の中にいる 342 00:21:12,480 --> 00:21:15,520 しばらくして土から顔を出すと― 343 00:21:15,650 --> 00:21:18,150 獣が こちらへやってくる 344 00:21:18,940 --> 00:21:20,400 獣の眼玉に― 345 00:21:20,530 --> 00:21:23,190 美しい花が映っている 346 00:21:23,780 --> 00:21:27,660 それが ゆっくりと眼玉の中に 吸い込まれると― 347 00:21:27,990 --> 00:21:30,700 そこで すべてが…― 348 00:21:30,870 --> 00:21:33,870 真っ暗になる… 349 00:21:36,580 --> 00:21:37,710 (周)ねえ… 350 00:21:37,830 --> 00:21:40,170 文の返事が届いてるはずだよ 351 00:21:49,140 --> 00:21:50,970 (ギンコ)里に戻るのか? 352 00:21:52,890 --> 00:21:55,640 さあ… どうだろ 353 00:21:56,560 --> 00:22:00,480 今は このまま 身一つでやってみたい 354 00:22:00,690 --> 00:22:03,900 先が見えないことが うれしいんだ 355 00:22:04,650 --> 00:22:06,070 それじゃあ… 356 00:22:06,200 --> 00:22:08,110 どこかで見たら 声かけとくれよ 357 00:22:10,370 --> 00:22:13,750 もっと琵琶の腕… 上げとくからさ 358 00:22:14,750 --> 00:22:20,750 ♪~ 359 00:23:23,110 --> 00:23:29,110 ~♪