1 00:03:03,259 --> 00:03:06,262 あ… 2 00:03:06,262 --> 00:03:08,597 どうした 3 00:03:08,597 --> 00:03:11,897 うん 何だろ これ 4 00:03:15,070 --> 00:03:17,072 ねえ あんた 5 00:03:17,072 --> 00:03:19,872 これ 歯かしら 6 00:04:39,254 --> 00:04:44,093 父 母の血肉に根を張りし苗よ 7 00:04:44,093 --> 00:04:47,963 青い青い葉を伸ばせ 8 00:04:47,963 --> 00:04:51,063 重い重い実をつけよ 9 00:05:01,110 --> 00:05:03,846 あのー 10 00:05:03,846 --> 00:05:06,749 何か食うもん売ってもらえねえか 11 00:05:06,749 --> 00:05:09,651 この田 見ろ ひどい冷夏で 12 00:05:09,651 --> 00:05:12,221 蓄えするので手一杯だ 13 00:05:12,221 --> 00:05:14,189 あきらめな 14 00:05:14,189 --> 00:05:18,060 ひと山 向こうの村に行きなよ ん? 15 00:05:18,060 --> 00:05:20,929 あそこだきゃ 今年は豊作だって 16 00:05:20,929 --> 00:05:23,932 おい 妙なこと勧めんなよ 17 00:05:23,932 --> 00:05:27,703 やめときなよ あそこの米は普通じゃねえ 18 00:05:27,703 --> 00:05:30,406 天災の度に豊作になる 19 00:05:30,406 --> 00:05:32,806 先祖の呪いなんだとよ 20 00:05:36,345 --> 00:05:40,783 別れ作だ 別れ作だ 21 00:05:40,783 --> 00:05:44,653 また誰かが ご先祖様に取られるぞ 22 00:05:44,653 --> 00:05:47,356 今年は誰が 23 00:05:47,356 --> 00:05:51,693 ご先祖様は弱い者から取りなさる 24 00:05:51,693 --> 00:05:55,093 いやー 見事な田だな 25 00:05:58,200 --> 00:06:00,135 誰?何か用? 26 00:06:00,135 --> 00:06:03,535 いや よけりゃ 食うもん 売ってくれんかと思って 27 00:06:07,409 --> 00:06:09,344 よそもんにやるものは ねえよ 28 00:06:09,344 --> 00:06:11,914 毎年 十分な米は取れねえんだ 29 00:06:11,914 --> 00:06:15,517 蓄えられる時に 蓄えとかなきゃならねえ 30 00:06:15,517 --> 00:06:20,889 へーえ それじゃあ 今年の豊作は奇跡ってわけか 31 00:06:20,889 --> 00:06:25,561 そうだよ 俺らが しっかり ご先祖様をお祭りしてきたから 32 00:06:25,561 --> 00:06:28,961 土になった ご先祖様が 守ってくださってるんだ 33 00:06:32,067 --> 00:06:35,567 その代わり 1人 連れてく… か 34 00:06:37,573 --> 00:06:40,773 ご先祖の所業にしちゃあ あんまりだよな 35 00:06:43,312 --> 00:06:47,549 仕方が… ないんだ 36 00:06:47,549 --> 00:06:50,452 ちっとも仕方なさそうじゃ ねえがな 37 00:06:50,452 --> 00:06:53,052 ちいと話 聞かせてくれんか 38 00:06:57,226 --> 00:07:01,763 この村の田畑が ひどい天災の度に 豊作になるのは 39 00:07:01,763 --> 00:07:05,634 もう ずいぶん昔からの ことだって聞いてる 40 00:07:05,634 --> 00:07:08,837 そして そんな年には必ず 41 00:07:08,837 --> 00:07:13,175 秋に誰かの口の中に みず歯が生えてくる 42 00:07:13,175 --> 00:07:15,878 その歯は秋の終わりには 抜け落ちて 43 00:07:15,878 --> 00:07:18,547 その人は 44 00:07:18,547 --> 00:07:20,847 死ぬんだって 45 00:07:23,919 --> 00:07:28,824 その命は豊作をもたらした ご先祖様への供え物だって 46 00:07:28,824 --> 00:07:32,294 伝えられてきたんだ 47 00:07:32,294 --> 00:07:34,830 でも みんな感謝してきた 48 00:07:34,830 --> 00:07:37,633 この奇跡がなかったら この やせた土地で 49 00:07:37,633 --> 00:07:42,471 俺たちは今まで生き延びては こられなかっただろうから 50 00:07:42,471 --> 00:07:46,375 命を落とす者に 共通する点はあるのか? 51 00:07:46,375 --> 00:07:49,875 弱い者から… と言われている 52 00:07:52,080 --> 00:07:54,016 遺体は土葬に? 53 00:07:54,016 --> 00:07:57,486 うん 抜けた歯は? 54 00:07:57,486 --> 00:08:02,124 歯は祭主様が お堂に お祭りするんだ 55 00:08:02,124 --> 00:08:05,027 祭主? この村である祭りの一切を 56 00:08:05,027 --> 00:08:07,462 取り仕切る人だよ 57 00:08:07,462 --> 00:08:12,334 俺は いずれ後を継ぐんで 色々 教わってるんだ 58 00:08:12,334 --> 00:08:15,204 抜けて少し経つと 歯は祭主様にしか 59 00:08:15,204 --> 00:08:17,172 見えなくなるんだって 60 00:08:17,172 --> 00:08:20,642 だから祭主様が お祭りするんだ 61 00:08:20,642 --> 00:08:23,445 お前は何で後継ぎに? 62 00:08:23,445 --> 00:08:25,914 俺も祭主様と同じで 63 00:08:25,914 --> 00:08:29,814 時々 人に見えないものを見るから 64 00:08:31,720 --> 00:08:34,220 その祭主ってのに会いたいんだが 65 00:08:36,358 --> 00:08:39,261 祭主様 66 00:08:39,261 --> 00:08:41,261 裏の畑かな 67 00:08:47,970 --> 00:08:51,240 農学書に日誌 68 00:08:51,240 --> 00:08:54,142 客人とは珍しいな 69 00:08:54,142 --> 00:08:56,242 一体どちらさんで? 70 00:08:59,681 --> 00:09:01,981 蟲師のギンコと申します 71 00:09:04,386 --> 00:09:08,890 ナラズの実というのを 探しておるんですが 72 00:09:08,890 --> 00:09:11,260 さてね 73 00:09:11,260 --> 00:09:15,030 サネ お前 まだ畑仕事の途中だろ 74 00:09:15,030 --> 00:09:17,299 終わってから また来な 75 00:09:17,299 --> 00:09:20,002 今年は豊作だ しっかり準備しねえと 76 00:09:20,002 --> 00:09:23,005 追っつかねえぞ うん 77 00:09:23,005 --> 00:09:28,310 何だ まだ おっかさんのこと 心配か? 78 00:09:28,310 --> 00:09:32,781 大丈夫 大丈夫だよ 心配すんな 79 00:09:32,781 --> 00:09:35,381 どら これ食わせてやりな 80 00:09:37,452 --> 00:09:41,323 うん 81 00:09:41,323 --> 00:09:45,223 蟲師って やからは先代の頃にも ここへ来たと聞いている 82 00:09:48,063 --> 00:09:53,435 だが 無駄足だ ここには そんな実はありはせん 83 00:09:53,435 --> 00:09:57,306 では この実りは 先祖の力によるものだと? 84 00:09:57,306 --> 00:09:59,808 ご先祖の力か 85 00:09:59,808 --> 00:10:01,843 無論 それもある 86 00:10:01,843 --> 00:10:03,979 皆の信仰があるからこそ 87 00:10:03,979 --> 00:10:07,816 この土地を見限ることなく 労働できる 88 00:10:07,816 --> 00:10:11,019 だが それだけじゃない 89 00:10:11,019 --> 00:10:15,190 長年 土を肥やす すべを 皆で研究し続けてきた 90 00:10:15,190 --> 00:10:19,761 その結果が時に こういう実りを生むのだ 91 00:10:19,761 --> 00:10:22,431 毎年の収穫も増えている 92 00:10:22,431 --> 00:10:25,231 では みず歯については? 93 00:10:27,803 --> 00:10:31,006 成人後 歯が生えるなど まれにあること 94 00:10:31,006 --> 00:10:32,941 実りとは無関係だ 95 00:10:32,941 --> 00:10:34,876 さっ もう帰ってくれ 96 00:10:34,876 --> 00:10:38,747 もう1つだけ聞いていいか 97 00:10:38,747 --> 00:10:41,616 何だ ナラズの実のことは 98 00:10:41,616 --> 00:10:44,386 ご存じのようで 99 00:10:44,386 --> 00:10:47,322 ああ 先代から聞いた 100 00:10:47,322 --> 00:10:52,194 ある1人の蟲師が 光脈だかを封じ込めたもの 101 00:10:52,194 --> 00:10:55,030 だったか そう 102 00:10:55,030 --> 00:10:58,600 あんたも光脈は 感覚的に わかるだろう 103 00:10:58,600 --> 00:11:00,900 蟲の見えるタチのようだから 104 00:11:03,004 --> 00:11:05,407 蟲ってのは そういう 微弱なものになるほど 105 00:11:05,407 --> 00:11:07,342 光を帯びてくる 106 00:11:07,342 --> 00:11:10,779 蟲の根源たる光酒というものに 近いからだ 107 00:11:10,779 --> 00:11:14,416 光脈とは光酒の流れる筋 108 00:11:14,416 --> 00:11:17,285 それらは いわば生命そのもの 109 00:11:17,285 --> 00:11:19,621 操作できれば不死や蘇生 110 00:11:19,621 --> 00:11:23,158 いかようにも使い道はある 111 00:11:23,158 --> 00:11:27,028 無論 それは蟲師最大の 禁じ手ではある 112 00:11:27,028 --> 00:11:30,999 が 例外も幾度となく存在してきた 113 00:11:30,999 --> 00:11:34,302 この実も その1つ 114 00:11:34,302 --> 00:11:38,106 土に埋めれば周囲に 1年限りの豊穣をもたらし 115 00:11:38,106 --> 00:11:43,378 代償として恵みを受けた 生命体の1つを奪ってゆく 116 00:11:43,378 --> 00:11:46,281 それが我々に伝わっている記録 117 00:11:46,281 --> 00:11:49,217 それで あんたとしちゃ その実を見つけ出して 118 00:11:49,217 --> 00:11:52,654 どうするつもりなんだ 抹消するのか? 119 00:11:52,654 --> 00:11:55,357 活用するのか? 120 00:11:55,357 --> 00:11:57,793 俺が聞きたいのも そこでね 121 00:11:57,793 --> 00:12:00,195 あんたなら どうする 122 00:12:00,195 --> 00:12:03,131 1つの命で多くの命を救える実が 123 00:12:03,131 --> 00:12:06,501 手のうちに あったなら 124 00:12:06,501 --> 00:12:09,237 使うだろうな 125 00:12:09,237 --> 00:12:12,474 そんな実が すでに 実在してしまってるのなら 126 00:12:12,474 --> 00:12:15,410 犠牲を見過ごすことのほうが罪だ 127 00:12:15,410 --> 00:12:20,315 だが 確実に1人 死ぬことを 承知で実を埋めたなら 128 00:12:20,315 --> 00:12:23,952 それは人を あやめることと同等だ 129 00:12:23,952 --> 00:12:26,988 たとえ それで助かる命が いくつ あろうと 130 00:12:26,988 --> 00:12:29,888 死ぬ者は意と関係なく にえにされる 131 00:12:32,194 --> 00:12:36,465 その程度の罪ならば 誰もが手を染めるだろう 132 00:12:36,465 --> 00:12:39,935 1人 失っても 2人 守れるのならば 133 00:12:39,935 --> 00:12:42,838 確かに1年きりという 短い目で見りゃあ 134 00:12:42,838 --> 00:12:44,840 使わん手はないだろう 135 00:12:44,840 --> 00:12:48,477 だが 1度 使えば 何度も使うことになる 136 00:12:48,477 --> 00:12:50,412 そして あの実は生きている 137 00:12:50,412 --> 00:12:53,648 使うごとに影響力は増していく 138 00:12:53,648 --> 00:12:56,848 やがては すべての均衡を 崩すものともなりかねん 139 00:12:58,887 --> 00:13:01,656 じゃあ お前は使わんと言うのか 140 00:13:01,656 --> 00:13:05,260 使わずに… いられるのか? 141 00:13:05,260 --> 00:13:08,897 わからんねー 里で生きた覚えがないし 142 00:13:08,897 --> 00:13:12,767 そうなる前に土地を捨てる 143 00:13:12,767 --> 00:13:15,136 ここには… この土には 144 00:13:15,136 --> 00:13:17,506 先祖の血肉が眠ってんだよ 145 00:13:17,506 --> 00:13:20,909 この土地を開き ようやく ここまでにしてきた 146 00:13:20,909 --> 00:13:23,545 それが俺らにとって 唯一の誇りなんだよ 147 00:13:23,545 --> 00:13:25,947 その土に異形のものを埋めるのは 148 00:13:25,947 --> 00:13:28,447 土を汚すことにはならんのか? 149 00:13:35,457 --> 00:13:39,327 何を言ってる もしもの話だ 150 00:13:39,327 --> 00:13:41,263 そんなことは わかってる 151 00:13:41,263 --> 00:13:46,635 そんな実が もしも本当に あったなら 152 00:13:46,635 --> 00:13:49,935 もっと慎重に考える 153 00:13:54,342 --> 00:13:56,745 そう 154 00:13:56,745 --> 00:14:01,583 そんな実は1人の人の手に余る 155 00:14:01,583 --> 00:14:05,954 実り過ぎた稲穂が 重い こうべを垂れるよに 156 00:14:05,954 --> 00:14:11,293 必ず手から こぼれ落ち 土へと横たわるのだ 157 00:14:11,293 --> 00:14:15,993 そののちの 人の苦しみを 知るべくもなく 158 00:14:23,905 --> 00:14:26,141 話は終わったの? 159 00:14:26,141 --> 00:14:28,843 まっ 大体な 160 00:14:28,843 --> 00:14:32,714 それで あなたは皆を 助けてくれるの? 161 00:14:32,714 --> 00:14:36,718 ああ だが それには 村全体の承諾がいる 162 00:14:36,718 --> 00:14:40,455 別れ作の仕掛けを すべて話した上でな 163 00:14:40,455 --> 00:14:42,891 どっかに皆を集めてくれるか? 164 00:14:42,891 --> 00:14:45,360 う… うん でも 165 00:14:45,360 --> 00:14:47,295 一体どういう 166 00:14:47,295 --> 00:14:49,395 田を焼くというのか 167 00:14:52,734 --> 00:14:55,203 誰かに みず歯の生える前に 168 00:14:55,203 --> 00:14:58,073 実を消してしまうほかないと 169 00:14:58,073 --> 00:15:01,476 ああ そうだ ようやく認めなすったか 170 00:15:01,476 --> 00:15:03,411 お前の思い違いだ 171 00:15:03,411 --> 00:15:06,047 そんなことをしても誰も助からん 172 00:15:06,047 --> 00:15:08,016 皆を餓死させるつもりか 173 00:15:08,016 --> 00:15:11,186 1年ここを離れれば済むことだ 174 00:15:11,186 --> 00:15:14,823 いったん散り散りになりゃあ 他の土地で それぞれ何とかして 175 00:15:14,823 --> 00:15:18,026 1年 生き延びることは できるだろう 176 00:15:18,026 --> 00:15:21,763 春には燃やした灰が 土を肥やしてくれてるはずだ 177 00:15:21,763 --> 00:15:26,534 ここを離れて 一体 何人が 戻るというのか 178 00:15:26,534 --> 00:15:30,238 皆 知らぬから 耐えていられるのだ 179 00:15:30,238 --> 00:15:33,508 本当の豊穣というものを 180 00:15:33,508 --> 00:15:35,910 いいのだ これで 181 00:15:35,910 --> 00:15:39,914 皆に妙なことを吹き込むなど 182 00:15:39,914 --> 00:15:41,914 許さんぞ 183 00:15:44,619 --> 00:15:46,619 祭主様! 184 00:15:51,393 --> 00:15:55,130 おっさん 何か病持ちか? 185 00:15:55,130 --> 00:15:59,601 よくは わからないけど この頃 体調が悪いみたいで 186 00:15:59,601 --> 00:16:03,104 時々 薬 飲んでた 薬? 187 00:16:03,104 --> 00:16:05,404 確か この中に 188 00:16:19,554 --> 00:16:23,925 一体 どういうつもりで こんな毒 飲んでたんだか知らんが 189 00:16:23,925 --> 00:16:28,697 このまま死んじまうのは 無責任なんじゃないか? 190 00:16:28,697 --> 00:16:30,999 蟲師さんよ 191 00:16:30,999 --> 00:16:32,967 田を焼こうなんざ 192 00:16:32,967 --> 00:16:37,772 あんた あの実を利用する気で 来たんじゃあ なさそうだな 193 00:16:37,772 --> 00:16:42,744 頼む 俺は あの実の 最後の犠牲者は 194 00:16:42,744 --> 00:16:44,844 俺にすると決めてたんだ 195 00:16:50,485 --> 00:16:54,789 あの実を どこかから 持ち帰ったのは 196 00:16:54,789 --> 00:16:58,727 先々代の祭主だったという 197 00:16:58,727 --> 00:17:03,298 それ以後 天災の度 幾度となく実は用いられたが 198 00:17:03,298 --> 00:17:08,803 混乱を防ぐため その実は代々 祭主のみ知るところとされてきた 199 00:17:08,803 --> 00:17:13,742 俺の代となり実の使用を 問われる天災が訪れたのは 200 00:17:13,742 --> 00:17:17,345 今から20年前のことだ 201 00:17:17,345 --> 00:17:20,845 やはり使うべきだ このままでは… 202 00:17:23,017 --> 00:17:25,253 出掛けてくる 203 00:17:25,253 --> 00:17:27,253 そう 気をつけて 204 00:17:39,567 --> 00:17:41,503 これでいい 205 00:17:41,503 --> 00:17:44,939 俺は村全体のことばかり考え… 206 00:17:44,939 --> 00:17:48,843 これで いいんだ 207 00:17:48,843 --> 00:17:53,648 妻が変調を隠しているのに 気づかずにいた 208 00:17:53,648 --> 00:17:58,019 秋に みず歯を生やしたのは 209 00:17:58,019 --> 00:18:00,019 妻だった 210 00:18:03,358 --> 00:18:05,693 ねえ お願いよ 211 00:18:05,693 --> 00:18:08,663 お米 食べて 212 00:18:08,663 --> 00:18:10,763 あんたまで死んでしまう 213 00:18:13,268 --> 00:18:16,368 あっ 何してんだ 214 00:18:19,407 --> 00:18:22,610 つらくとも食べて 215 00:18:22,610 --> 00:18:25,847 私の命を あんたが 食べてくれるなら 216 00:18:25,847 --> 00:18:29,784 何だか死ぬのも怖くない 217 00:18:29,784 --> 00:18:33,087 そんな米ですら 218 00:18:33,087 --> 00:18:35,887 体は貪欲に吸収していった 219 00:18:37,926 --> 00:18:40,862 やがて妻から抜け落ちた実を 220 00:18:40,862 --> 00:18:43,798 俺は捨てに行くつもりだった 221 00:18:43,798 --> 00:18:49,003 だが いずれ また来るであろう 天災のことを思った 222 00:18:49,003 --> 00:18:51,906 そして あと1度だけは 223 00:18:51,906 --> 00:18:55,806 誰の犠牲も見ずに 実を使えることに気づいた 224 00:18:58,680 --> 00:19:01,880 そして今年 時は来た 225 00:19:19,868 --> 00:19:24,372 俺から抜け落ちた実は サネに処分してもらうつもりだ 226 00:19:24,372 --> 00:19:29,310 あの実は あんたらの言う 光脈筋に埋めれば取り込まれ 227 00:19:29,310 --> 00:19:31,613 姿をなくすという 228 00:19:31,613 --> 00:19:37,085 ただ あれが どういう実かは 言わずにおくつもりだ 229 00:19:37,085 --> 00:19:39,020 いいのか?それで 230 00:19:39,020 --> 00:19:42,223 あんたは誰より ここで生きて 231 00:19:42,223 --> 00:19:45,193 この土地の行く末を 見たいはずだろ 232 00:19:45,193 --> 00:19:50,265 見えるさ このまま あきらめなければ 233 00:19:50,265 --> 00:19:53,835 この土地は少しずつ 豊かになってゆく 234 00:19:53,835 --> 00:19:58,673 いつか必ず何不自由なく 暮らせる日が来るはずだ 235 00:19:58,673 --> 00:20:02,243 それが何代先のことになるかは わからんが 236 00:20:02,243 --> 00:20:04,943 どのみち この目では 見れんのだしな 237 00:20:08,616 --> 00:20:12,553 わかった あんたの 望むとおりにすればいい 238 00:20:12,553 --> 00:20:15,853 ただ もう1つ答えてほしい 問いがある 239 00:20:45,920 --> 00:20:47,920 祭主様ー! 240 00:20:49,857 --> 00:20:52,327 母さん もう きっと大丈夫だ 241 00:20:52,327 --> 00:20:55,096 米食って 少しずつ 元気になってる 242 00:20:55,096 --> 00:20:57,332 そうか よかったな 243 00:20:57,332 --> 00:21:00,835 だから言ったろうが うん 244 00:21:00,835 --> 00:21:05,239 なあ サネ お前に話があるんだ 245 00:21:05,239 --> 00:21:08,539 大事な話だ よく聞いてくれ 246 00:21:12,580 --> 00:21:15,780 おい サネ 何か祝詞 去年と違うぞ 247 00:21:18,186 --> 00:21:22,056 なあ まだ誰にも みず歯は生えとらんのか 248 00:21:22,056 --> 00:21:24,625 ああ まだ聞かん 249 00:21:24,625 --> 00:21:27,195 ひょっとすると今年の豊作は 250 00:21:27,195 --> 00:21:30,732 別れ作じゃなかったのかも しれんぞ 251 00:21:30,732 --> 00:21:35,432 それじゃあ 正真正銘 わしらの努力で実った稲なのか? 252 00:21:48,716 --> 00:21:51,619 よっ 253 00:21:51,619 --> 00:21:55,356 祭りは事なく進んでるよ 254 00:21:55,356 --> 00:21:57,356 みんな楽しそうだ 255 00:22:21,049 --> 00:22:23,584 大丈夫 256 00:22:23,584 --> 00:22:25,984 言われたとおりにするよ 257 00:22:30,358 --> 00:22:32,358 祭主様 258 00:22:39,100 --> 00:22:41,135 何で こんなの 259 00:22:41,135 --> 00:22:43,435 こんなのやだよー! 260 00:22:48,743 --> 00:22:52,543 これから俺がすることは 一切 他言しないでくれよ 261 00:22:54,582 --> 00:22:59,353 もう1つ答えてほしい 問いがある 262 00:22:59,353 --> 00:23:01,789 光脈は生命そのものだと言ったが 263 00:23:01,789 --> 00:23:05,359 そのまま生物に流し込んでも 蘇生まではできない 264 00:23:05,359 --> 00:23:08,262 だが それを可能にしたのが 例の実 265 00:23:08,262 --> 00:23:12,033 ということになる 266 00:23:12,033 --> 00:23:14,368 これは賭けだが あの実を食えば 267 00:23:14,368 --> 00:23:18,039 動物も蘇生することが できるはずだ 268 00:23:18,039 --> 00:23:21,909 ただ植物との相違ゆえ おそらく光脈は 269 00:23:21,909 --> 00:23:24,812 あんたの中に宿り続けるだろう 270 00:23:24,812 --> 00:23:30,618 そうなると それは不死の 生物を超えたものとなる 271 00:23:30,618 --> 00:23:35,289 あんたは それを 受け入れられるか? 272 00:23:35,289 --> 00:23:39,660 それは あんたらの最大の 禁じ手だったんじゃないのか? 273 00:23:39,660 --> 00:23:43,598 そんなことをして許されるのか? 274 00:23:43,598 --> 00:23:46,434 あんたが黙ってりゃあ バレやしねえよ 275 00:23:46,434 --> 00:23:48,703 成功するかはわからんし 276 00:23:48,703 --> 00:23:52,373 したところで あんたにとって 幸福なのかもわからん 277 00:23:52,373 --> 00:23:55,343 だが賭けてみるなら 278 00:23:55,343 --> 00:23:58,513 あんたの傷 暴きたてて 実の存在を確かめるような 279 00:23:58,513 --> 00:24:00,448 まねした詫びだ 280 00:24:00,448 --> 00:24:03,117 これくらい手を汚してもいい 281 00:24:03,117 --> 00:24:06,821 しっかり考えてくれ 282 00:24:06,821 --> 00:24:09,757 考えたところで 283 00:24:09,757 --> 00:24:12,757 答えなど決まっている 284 00:24:18,232 --> 00:24:22,236 俺はな やはり見届けたい 285 00:24:22,236 --> 00:24:25,336 この土地が この先 どうなってゆくのかを 286 00:24:39,820 --> 00:24:42,857 俺がしてきたことが 287 00:24:42,857 --> 00:24:45,257 正しかったのかどうかを 288 00:24:53,734 --> 00:24:56,204 その里において 289 00:24:56,204 --> 00:25:01,876 その土地の豊作は のちのちまで 語り草になったという 290 00:25:01,876 --> 00:25:04,812 共に 291 00:25:04,812 --> 00:25:07,412 奇妙な伝説も生まれた 292 00:25:10,318 --> 00:25:14,322 長く続いた別れ作の 途絶えた その年 293 00:25:14,322 --> 00:25:18,822 できた米は死んだ男を よみがえらせた 294 00:25:21,295 --> 00:25:26,567 その男は不老不死となり 諸国を歩き 295 00:25:26,567 --> 00:25:29,804 時折 戻っては その地を潤す 296 00:25:29,804 --> 00:25:33,904 新たな農法を 伝えてゆくのだという 297 00:31:21,322 --> 00:31:23,757 大丈夫だって 先生 今 298 00:31:23,757 --> 00:31:26,961 うちのばあちゃん 診に来てっから 299 00:31:26,961 --> 00:31:32,166 ほらな 珍しいもん いっぱいあるだろ 300 00:31:32,166 --> 00:31:35,035 へー すげえ 301 00:31:35,035 --> 00:31:38,606 うわー 何だ これ 302 00:31:38,606 --> 00:31:40,606 あ… 303 00:31:49,583 --> 00:31:52,683 うわー きれいな すずり 304 00:32:09,269 --> 00:32:13,140 先生! 305 00:32:13,140 --> 00:32:16,110 先生!来てください 先生 306 00:32:16,110 --> 00:32:18,445 先生! 307 00:32:18,445 --> 00:32:21,749 うちの子がっ 308 00:32:21,749 --> 00:32:24,718 ん? 309 00:32:24,718 --> 00:32:29,523 夜になって急に 「寒い 寒い」と言い出して 310 00:32:29,523 --> 00:32:35,129 一緒に遊んでた隣の子らも 同じ様子なんです 311 00:32:35,129 --> 00:32:38,329 何だ これは 体温が ひどく低い 312 00:32:40,367 --> 00:32:42,903 お母ちゃん 寒い 313 00:32:42,903 --> 00:32:46,106 お布団 もう1枚 待ってな 314 00:32:46,106 --> 00:32:48,106 吐く息まで冷たい 315 00:32:50,744 --> 00:32:52,744 先生 316 00:32:57,217 --> 00:33:01,021 氷? 先生 ごめんなさい 317 00:33:01,021 --> 00:33:04,521 今日 先生の所の蔵に 318 00:33:06,527 --> 00:33:09,296 蔵のものに触ったのか? 319 00:33:09,296 --> 00:33:13,167 ごめんなさい すずりが 320 00:33:13,167 --> 00:33:15,167 すずり… 321 00:33:24,778 --> 00:33:26,780 おーい 来たぞ 322 00:33:26,780 --> 00:33:28,880 おう こっちだ ギンコ 323 00:33:31,051 --> 00:33:34,755 よく来たな 324 00:33:34,755 --> 00:33:36,690 うかつだった 325 00:33:36,690 --> 00:33:40,590 蔵の中は里の者には 見せないようにしてたんだがな 326 00:33:42,596 --> 00:33:45,432 患者は? 衰弱してきてる 327 00:33:45,432 --> 00:33:50,304 湯を飲ませて体を温めさせてるが 328 00:33:50,304 --> 00:33:54,775 これだ 知り合いの収集家から 買ったものだ 329 00:33:54,775 --> 00:34:01,215 姿も美しいが 何かの蟲の化石で できた すずりだというんでな 330 00:34:01,215 --> 00:34:04,118 蟲の化石? 331 00:34:04,118 --> 00:34:06,487 そんなもの ありえるかね 332 00:34:06,487 --> 00:34:10,157 大概 やつらは むくろは残さんものだ 333 00:34:10,157 --> 00:34:14,561 こういう 情報のあいまいなもの 買うんじゃねえよ 334 00:34:14,561 --> 00:34:16,930 やっかいだな 335 00:34:16,930 --> 00:34:20,768 自分の めでてるものが 異形のものだってこと 336 00:34:20,768 --> 00:34:23,303 忘れたか 337 00:34:23,303 --> 00:34:26,003 すまんな つい 338 00:34:32,412 --> 00:34:36,283 こいつは 化石じゃあないな 339 00:34:36,283 --> 00:34:38,952 まだ生きた蟲に見える 340 00:34:38,952 --> 00:34:43,357 で その患者らは 何をしてたってんだ 341 00:34:43,357 --> 00:34:46,860 すずりを どうしたんだ 342 00:34:46,860 --> 00:34:49,760 墨を すってみようって 343 00:34:51,698 --> 00:34:54,268 ん?どうかしたのか 344 00:34:54,268 --> 00:34:57,871 何だ それ ただの すずりじゃないか 345 00:34:57,871 --> 00:35:00,874 いや きっと特別な すずりなんだよ 346 00:35:00,874 --> 00:35:04,874 なあ そこに水あるぜ 試しに すってみようか 347 00:35:07,548 --> 00:35:10,984 やめなよ 先生 怒るよ 348 00:35:10,984 --> 00:35:14,421 ちょっとだけだって 349 00:35:14,421 --> 00:35:16,356 あ… え? 350 00:35:16,356 --> 00:35:19,960 何か冷たいの出てこなかった? 351 00:35:19,960 --> 00:35:23,260 うん 吸いこんじゃった 352 00:35:27,534 --> 00:35:32,039 すられることで再生して 体内に入り 内から冷やす 353 00:35:32,039 --> 00:35:36,443 これだけの条件で 蟲の特定は難しいな 354 00:35:36,443 --> 00:35:39,213 そうか 355 00:35:39,213 --> 00:35:41,582 前の持ち主は何か知らねえのか? 356 00:35:41,582 --> 00:35:44,218 いや 知人も それ以上は知らんらしい 357 00:35:44,218 --> 00:35:48,188 その以前の持ち主は 皆 すずりを使用して 358 00:35:48,188 --> 00:35:50,991 死んじまってるそうだ 359 00:35:50,991 --> 00:35:55,896 残るは すずりの作り手か 360 00:35:55,896 --> 00:36:00,567 銘がある 調べれば居所も わかるはず 361 00:36:00,567 --> 00:36:05,472 行ってみよう こいつは借りてくぞ 362 00:36:05,472 --> 00:36:07,472 頼む ああ 363 00:36:25,158 --> 00:36:28,061 ずいぶん来たな 364 00:36:28,061 --> 00:36:30,161 この辺でいいはずだ 365 00:36:33,500 --> 00:36:36,103 ああ あそこだけど 366 00:36:36,103 --> 00:36:39,973 もう すずりは作ってないよ 367 00:36:39,973 --> 00:36:42,809 なぜです さてね 368 00:36:42,809 --> 00:36:44,878 パッタリ やめちまったのさ 369 00:36:44,878 --> 00:36:48,278 身寄りはないが 腕は確かだったってのに 370 00:37:06,333 --> 00:37:08,333 何だい?あんた 371 00:37:10,904 --> 00:37:13,104 これを作ったのは あんたか 372 00:37:16,343 --> 00:37:19,813 確かに私の銘だけど 373 00:37:19,813 --> 00:37:23,283 それが 何か? 374 00:37:23,283 --> 00:37:26,783 今 このすずりのために 苦しんでる者がいる 375 00:37:29,723 --> 00:37:32,123 あんたの知ってることを 教えてほしい 376 00:37:38,799 --> 00:37:42,336 よく 来てくれた 377 00:37:42,336 --> 00:37:46,273 捜してたんだ このすずりを 378 00:37:46,273 --> 00:37:48,273 ずっと 379 00:37:50,677 --> 00:37:57,017 私が知る限り そのすずりを使った者は3人 380 00:37:57,017 --> 00:38:01,855 皆 ひと月以内には 亡くなったと聞く 381 00:38:01,855 --> 00:38:03,790 あれは 382 00:38:03,790 --> 00:38:08,290 すずりの名工だった父が倒れて しばらくの頃だった 383 00:38:10,564 --> 00:38:14,434 私には婚約者がいた 384 00:38:14,434 --> 00:38:17,337 かれは ひと山 越えた町に住む 385 00:38:17,337 --> 00:38:21,208 父のすずりの依頼主だったが 386 00:38:21,208 --> 00:38:23,610 彼も彼の両親も 387 00:38:23,610 --> 00:38:28,448 私が父のあとを継ぐことに 反対していた 388 00:38:28,448 --> 00:38:31,818 たがね どうしてもか 389 00:38:31,818 --> 00:38:33,754 あんたなら わかるでしょう 390 00:38:33,754 --> 00:38:36,656 ここの石は父さんと 私にしか掘れない 391 00:38:36,656 --> 00:38:38,625 絶やしたくないの 392 00:38:38,625 --> 00:38:41,128 お前1人じゃ やっていけんよ 393 00:38:41,128 --> 00:38:44,164 実際 工房への注文は減る一方だろ 394 00:38:44,164 --> 00:38:49,403 今に父さんと同じくらいのものを 作ってみせる 395 00:38:49,403 --> 00:38:51,403 だから 396 00:38:54,207 --> 00:38:57,477 また来るよ 397 00:38:57,477 --> 00:39:00,781 あの人に 398 00:39:00,781 --> 00:39:05,018 認めてもらえるものを作れば きっと 399 00:39:05,018 --> 00:39:09,289 私は それから さらに すずり作りに打ち込んだ 400 00:39:09,289 --> 00:39:13,389 だが なかなか納得のいくものは 作れなかった 401 00:39:16,830 --> 00:39:21,268 そして ある日 私は その石を掘り当てた 402 00:39:21,268 --> 00:39:24,868 不思議と引きつけられ 夢中で その石を彫った 403 00:39:26,873 --> 00:39:31,273 出来上がった すずりは かつてない傑作となった 404 00:39:33,747 --> 00:39:36,016 いい姿だ 405 00:39:36,016 --> 00:39:38,516 どら 試しずりしてみなさい 406 00:39:53,834 --> 00:39:56,303 ん? 407 00:39:56,303 --> 00:39:58,338 何?今の 408 00:39:58,338 --> 00:40:01,441 どうした すずりから 409 00:40:01,441 --> 00:40:03,810 煙みたいなものが 410 00:40:03,810 --> 00:40:07,681 ほら まだ あそこ 411 00:40:07,681 --> 00:40:10,181 どこにだ? えっ? 412 00:40:19,659 --> 00:40:22,629 墨のおりも いいようだな 413 00:40:22,629 --> 00:40:26,429 これなら もう安心して あとを任せられる 414 00:40:34,841 --> 00:40:38,078 あの煙を吸って 数日 経ったけど 415 00:40:38,078 --> 00:40:40,413 害はないようだし 416 00:40:40,413 --> 00:40:43,316 私にしか見えてない 417 00:40:43,316 --> 00:40:47,116 このすずりを見て 考え直してもらえれば 418 00:40:52,159 --> 00:40:54,528 わかった 419 00:40:54,528 --> 00:40:59,499 これを預かっていいか 両親を説得してみよう 420 00:40:59,499 --> 00:41:02,135 本当? ああ 421 00:41:02,135 --> 00:41:06,039 わかってもらえたら すぐに文を出す 422 00:41:06,039 --> 00:41:09,876 だが ひと月後 届いた文は 423 00:41:09,876 --> 00:41:12,376 彼の死を告げるものだった 424 00:41:14,781 --> 00:41:17,584 私が すずりを渡した日から 425 00:41:17,584 --> 00:41:19,653 「寒い」と言い始め 426 00:41:19,653 --> 00:41:25,358 体温が下がり続ける奇病に おかされたという 427 00:41:25,358 --> 00:41:30,758 そして そのすずりは不吉だと 古物商に売り払われていた 428 00:41:33,567 --> 00:41:38,338 私は その古物商を訪ねたが すでに売れたあとで 429 00:41:38,338 --> 00:41:43,510 それきり行方は知れぬところと なってしまった 430 00:41:43,510 --> 00:41:49,983 だが 仲買人や古物商から 噂だけは入ってきた 431 00:41:49,983 --> 00:41:53,683 あのすずりで また死人が出たってよ 432 00:41:58,225 --> 00:42:01,661 その後 父も亡くなって 433 00:42:01,661 --> 00:42:05,332 私は すずりを作ることを断った 434 00:42:05,332 --> 00:42:10,332 力になりたいが 私の知っていることは これで全部 435 00:42:12,839 --> 00:42:15,442 いや おかげで見当がついたよ 436 00:42:15,442 --> 00:42:17,877 礼を言う 437 00:42:17,877 --> 00:42:20,480 どういうこと? 438 00:42:20,480 --> 00:42:24,317 悪いが急いでるんでね 待って 439 00:42:24,317 --> 00:42:27,220 そのすずり 買い取らせてくれない? 440 00:42:27,220 --> 00:42:31,725 それは私の手で消したいの 441 00:42:31,725 --> 00:42:34,494 これは俺んじゃねえしな 442 00:42:34,494 --> 00:42:37,094 何なら あんたも一緒に来るといい 443 00:42:52,879 --> 00:42:56,583 自分の めでてるものが 異形のものだってこと 444 00:42:56,583 --> 00:43:00,453 忘れたか 445 00:43:00,453 --> 00:43:02,553 わかってるつもりだったが 446 00:43:04,691 --> 00:43:07,327 さすがに こたえたようだな 447 00:43:07,327 --> 00:43:10,597 戻ったか 軽口たたけるくらいの材料は 448 00:43:10,597 --> 00:43:13,500 あったんだろ… な 449 00:43:13,500 --> 00:43:16,500 大丈夫 きっと助ける 450 00:43:21,875 --> 00:43:25,545 うん 墨と コンロと? 451 00:43:25,545 --> 00:43:29,115 鍋 あと しょいこはあるか? 452 00:43:29,115 --> 00:43:31,985 おう 453 00:43:31,985 --> 00:43:36,690 あのすずりの中にいるのは 雲喰み という蟲だ 454 00:43:36,690 --> 00:43:40,560 入道雲のような姿をしていて 名のとおり雲 455 00:43:40,560 --> 00:43:45,498 つまり空気中の水や氷を食い 雪や あられにして降らす 456 00:43:45,498 --> 00:43:47,934 その時 地上からは雲もないのに 457 00:43:47,934 --> 00:43:50,770 あられが降ってるように 見えるわけだ 458 00:43:50,770 --> 00:43:54,541 だが 自らは動けない 風まかせなもので 459 00:43:54,541 --> 00:43:57,377 雲がない時期が続くと 小さく しぼみ 460 00:43:57,377 --> 00:44:01,948 地表に下りてきて 自らを凍らせて仮死とする 461 00:44:01,948 --> 00:44:05,352 あれは そのまま 石になってしまったんだろう 462 00:44:05,352 --> 00:44:07,587 何万と時を掛けて 463 00:44:07,587 --> 00:44:10,957 そして すずりとなって 再び地表に現れ 464 00:44:10,957 --> 00:44:16,563 水を与えられることで 何度かに分けて再生してきた 465 00:44:16,563 --> 00:44:20,734 でー これから どうしようってんだ 466 00:44:20,734 --> 00:44:23,536 たがねさん すずりを届ける時 467 00:44:23,536 --> 00:44:25,872 山1つ越えてったと言ったね 468 00:44:25,872 --> 00:44:29,743 あの煙を吸って無事でいるのは そのせいだろう 469 00:44:29,743 --> 00:44:33,543 患者らを この辺で一番 高い山に連れていく 470 00:44:48,461 --> 00:44:50,930 まずい 湯を飲ませてくれ 471 00:44:50,930 --> 00:44:52,966 はい 472 00:44:52,966 --> 00:44:56,736 もう ぬるくなってきてるわ 先に行って湯を沸かしてます 473 00:44:56,736 --> 00:44:58,736 お願いします 474 00:45:06,146 --> 00:45:11,785 先生 まだ 上るんですか? 475 00:45:11,785 --> 00:45:15,121 息が苦しくなって 476 00:45:15,121 --> 00:45:18,625 子供らも つらそうです 477 00:45:18,625 --> 00:45:20,625 ギンコ 478 00:45:25,765 --> 00:45:27,765 もうじきだ 479 00:45:37,811 --> 00:45:39,811 みんな 息をとめろ 480 00:46:22,121 --> 00:46:24,721 あっ お前 顔色が 481 00:46:26,960 --> 00:46:30,460 寒く… なくなった 482 00:46:34,033 --> 00:46:36,033 体温が戻ってきた 483 00:46:38,538 --> 00:46:40,974 抜けた… のか 484 00:46:40,974 --> 00:46:44,477 よかった よかった よかった 485 00:46:44,477 --> 00:46:47,677 一体 何で 486 00:46:50,283 --> 00:46:52,752 空気圧のせいだ 487 00:46:52,752 --> 00:46:56,422 あれは雲の浮かぶ空気の層で 生きてるものだ 488 00:46:56,422 --> 00:46:59,893 とすれば その層と 同じ重さのもののはず 489 00:46:59,893 --> 00:47:03,530 層の近くまで来れば 吸い寄せられる 490 00:47:03,530 --> 00:47:06,032 あんたは元々 高地の住人だ 491 00:47:06,032 --> 00:47:09,569 吸った煙は少しずつ 外へ漏れ出ただろうし 492 00:47:09,569 --> 00:47:11,905 すずりを届けに山を越えた時 493 00:47:11,905 --> 00:47:14,205 完全に抜けたんじゃねえかなあ 494 00:47:17,710 --> 00:47:21,281 ほんっとに よかった 495 00:47:21,281 --> 00:47:23,681 心配したんだから 496 00:47:28,054 --> 00:47:30,054 よかった 497 00:47:32,892 --> 00:47:34,892 よかった 498 00:47:47,307 --> 00:47:49,242 そもそも こういう危険なものを 499 00:47:49,242 --> 00:47:52,145 好奇の対象にしたことが 誤りなのよ 500 00:47:52,145 --> 00:47:55,048 私が責任を持って葬ります 501 00:47:55,048 --> 00:47:59,519 だから そいつは対処法も わかったことだし問題ないだろう 502 00:47:59,519 --> 00:48:03,489 そういう甘い考えで 他のもの すべて安全と言い切れるの? 503 00:48:03,489 --> 00:48:07,260 そこまで あんたにゃ 関係ないだろう 504 00:48:07,260 --> 00:48:10,063 おい ギンコ お前も言ってやってくれ 505 00:48:10,063 --> 00:48:13,066 すずりを壊すってことは まだ中に眠ってる蟲も 506 00:48:13,066 --> 00:48:15,201 殺すってことだろう 507 00:48:15,201 --> 00:48:18,104 んー まあ そうなるな 508 00:48:18,104 --> 00:48:21,774 なあ 蟲には罪は ねえんだ 509 00:48:21,774 --> 00:48:23,710 それに そのすずり 510 00:48:23,710 --> 00:48:26,679 壊しちまうには あまりに美しい 511 00:48:26,679 --> 00:48:31,851 あんたにとっても自分の 子のようなものなんじゃないか? 512 00:48:31,851 --> 00:48:35,188 けど… あんたが許せんのは 513 00:48:35,188 --> 00:48:38,588 蟲の眠るすずりを 世に出しちまった自分の罪だろ 514 00:48:40,994 --> 00:48:45,698 なら すずりから 蟲を解放してやったらどうだ 515 00:48:45,698 --> 00:48:50,370 えっ おい これは俺のすずりだぞ 516 00:48:50,370 --> 00:48:53,906 今回の件は 化野 お前の抜かりが でかい 517 00:48:53,906 --> 00:48:57,777 あっ… 今後の教訓として 目 つぶれ 518 00:48:57,777 --> 00:49:01,080 なに すずりとしちゃあ一級品だ 519 00:49:01,080 --> 00:49:03,080 しっかり使ってやるといい 520 00:50:03,876 --> 00:50:06,279 何だ? 521 00:50:06,279 --> 00:50:08,279 えっ? 522 00:50:11,084 --> 00:50:14,954 うわー あられだ すっげえ 523 00:50:14,954 --> 00:50:17,954 雲がねえのに どっから 524 00:50:31,404 --> 00:50:36,175 こりゃ 村中 屋根の修理代 大ごとだな 525 00:50:36,175 --> 00:50:38,778 私に請求していいよ 526 00:50:38,778 --> 00:50:41,681 一生 掛かっても返すから 527 00:50:41,681 --> 00:50:46,219 つっても あんた どうやって 528 00:50:46,219 --> 00:50:48,688 また すずりを作りゃあいい 529 00:50:48,688 --> 00:50:52,158 すぐに身を立てられる 530 00:50:52,158 --> 00:50:57,063 それは… じゃあ 1つ注文してもいいかね 531 00:50:57,063 --> 00:50:59,899 何なら蟲入りでも構わねえし 532 00:50:59,899 --> 00:51:02,499 未練たらたらだなー お前 533 00:51:16,215 --> 00:51:20,052 そうだね 534 00:51:20,052 --> 00:51:22,388 今少し 535 00:51:22,388 --> 00:51:24,588 時間は掛かると思うけど 536 00:51:27,226 --> 00:51:32,932 しかし いつやむんだ こりゃ 537 00:51:32,932 --> 00:51:35,432 久々の食事だろうしな