1 00:00:12,679 --> 00:00:16,057 (ハエの羽音) 2 00:00:17,392 --> 00:00:18,643 (子供)おっかあ… 3 00:00:19,644 --> 00:00:20,979 おっかあ… 4 00:00:22,147 --> 00:00:23,523 おっかあ… 5 00:00:24,024 --> 00:00:25,191 寒いよ 6 00:00:26,067 --> 00:00:28,528 背中かいてよ… 7 00:00:28,611 --> 00:00:29,654 かいて… 8 00:00:30,780 --> 00:00:33,324 かい… て… 9 00:00:58,600 --> 00:01:01,561 (ナレーション) 寛永(かんえい)19年の大飢饉(ききん)である 10 00:01:18,036 --> 00:01:20,663 (家光(いえみつ))あの煙はなんなのじゃ? 伝右衛門(でんえもん) 11 00:01:21,164 --> 00:01:21,998 (澤村(さわむら))恐らく 12 00:01:22,082 --> 00:01:25,376 死人(しびと)をまとめて焼いている 煙でありましょうな 13 00:01:34,469 --> 00:01:36,304 (女)ハア ハア…  14 00:01:36,387 --> 00:01:37,388 (家光)ん? 15 00:01:37,472 --> 00:01:39,307 (女)ハッ ハッ… 16 00:01:39,974 --> 00:01:42,811 土壁の中の藁(わら)を煮て食うために 17 00:01:42,894 --> 00:01:44,646 土壁を剥がしているのです 18 00:01:49,984 --> 00:01:51,152 (さと)待って! 19 00:01:51,736 --> 00:01:52,904 待って およね! 20 00:01:54,030 --> 00:01:57,158 どこに行ったって 食べ物はないって聞いてる! 21 00:01:57,742 --> 00:02:00,411 頼むから 神原(かんばら)の家を見捨てないで 22 00:02:01,204 --> 00:02:02,705 (およね)江戸に行きます 23 00:02:02,789 --> 00:02:05,166 江戸なら 何か仕事が見つかるかも… 24 00:02:05,250 --> 00:02:06,167 およね! 25 00:02:07,001 --> 00:02:07,627 じゃあ 26 00:02:08,128 --> 00:02:10,296 さと様が ここにいる あたしたち みんなに 27 00:02:10,380 --> 00:02:12,549 食べ物を分けてくれるって 言うんですか? 28 00:02:19,639 --> 00:02:22,392 できないくせに きれいごとを言わないどくれ! 29 00:02:26,980 --> 00:02:28,106 (さと)うっ… 30 00:02:34,904 --> 00:02:35,572 (家光)あ… 31 00:02:42,912 --> 00:02:46,958 さあ もう参りましょう 上(うえ)さ… 千恵(ちえ)様 32 00:02:48,877 --> 00:02:53,339 (家光)去年この辺りに来たときは 百姓たちは よくしてくれた 33 00:02:53,423 --> 00:02:56,342 恐れながら それがしの 存じ上げるかぎり 34 00:02:56,426 --> 00:02:59,846 ここまでひどい飢饉は 近年でもまれと存じまする 35 00:03:00,513 --> 00:03:01,222 ふむ 36 00:03:03,683 --> 00:03:05,351 (荷運び女)どいた どいた! 37 00:03:10,440 --> 00:03:12,859 (にぎやかな声) 38 00:03:19,949 --> 00:03:22,869 (家光)農村から流れてきた 物乞いも多いが 39 00:03:22,952 --> 00:03:26,372 江戸の町は 思ったより活気がある 40 00:03:26,956 --> 00:03:29,375 (野菜売り) 大根! 大根 要らんかね 41 00:03:30,168 --> 00:03:32,378 (鉄をたたく音) 42 00:03:38,134 --> 00:03:41,221 前見たときよりも また女が多うなった 43 00:03:42,597 --> 00:03:46,226 わしが幼いころの江戸とは すっかり様変わりしたの 44 00:03:46,893 --> 00:03:48,603 いくら少ないと言っても 45 00:03:48,686 --> 00:03:51,397 なぜ若い男が 誰も働いておらんのじゃ 46 00:03:51,981 --> 00:03:56,653 どの家も赤面疱瘡(あかづらほうそう)を恐れて 男を家の外に出さぬのです 47 00:03:57,445 --> 00:04:00,907 (家光)それから 女たちに 髪を結うておるものが多い 48 00:04:01,824 --> 00:04:05,078 (澤村)それは そのほうが 動きやすいからかと 49 00:04:06,621 --> 00:04:07,538 伝右衛門 50 00:04:07,622 --> 00:04:10,250 あの髪に挿している櫛(くし)が わしも欲しい 51 00:04:14,712 --> 00:04:16,422 (女将)いかがでしょう? 52 00:04:16,506 --> 00:04:20,510 はやりの島田(しまだ)に結って その櫛をちょいと挿しましたら 53 00:04:20,593 --> 00:04:22,512 それはもう お似合いになりますよ 54 00:04:23,513 --> 00:04:25,807 伝右衛門 金子(きんす)の用意を 55 00:04:25,890 --> 00:04:26,516 はっ 56 00:04:29,018 --> 00:04:30,311 これもくれ 57 00:04:30,395 --> 00:04:32,563 これも… これも 58 00:04:32,647 --> 00:04:33,314 これもじゃ 59 00:04:33,398 --> 00:04:34,107 (女将)あ… 60 00:04:34,190 --> 00:04:37,443 まあ これは これは 失礼いたしました 61 00:04:38,319 --> 00:04:40,321 ぜひ 奥の部屋へ 62 00:04:40,405 --> 00:04:42,991 もっとよい品が ございますから… 63 00:04:44,325 --> 00:04:46,703 さあ こちらでお待ちを 64 00:04:47,662 --> 00:04:48,454 フフッ 65 00:04:49,789 --> 00:04:51,874 (襖(ふすま)が開く音) (息子)失礼いたします 66 00:04:52,375 --> 00:04:53,459 (襖が閉まる音) 67 00:04:54,043 --> 00:04:57,213 (息子)いらっしゃいませ お品物をお持ちいたしました 68 00:04:58,047 --> 00:05:01,217 当家のせがれ 又兵衛(またべえ)でございます 69 00:05:03,970 --> 00:05:06,055 いかがでございましたか? 70 00:05:06,556 --> 00:05:09,976 お気に召したものは ございましたでしょうか? 71 00:05:10,059 --> 00:05:13,187 うむ なかなかにどれも 見事な細工であった 72 00:05:13,688 --> 00:05:14,480 また来る 73 00:05:15,523 --> 00:05:17,483 せがれにも よろしゅうな 74 00:05:18,234 --> 00:05:19,068 あっ… 75 00:05:19,569 --> 00:05:21,904 ええ ええ! それはもう! 76 00:05:21,988 --> 00:05:25,033 またのお越しをぜひ お待ち申し上げております 77 00:05:27,076 --> 00:05:30,079 (小声で) お姫(ひい)様でしたら 一刻(いっとき)8両で 78 00:05:30,163 --> 00:05:33,249 せがれが 心より お待ち申し上げております 79 00:05:35,376 --> 00:05:36,669 なるほど 80 00:05:38,087 --> 00:05:40,798 先刻 もしわしが 人払いをしておったら 81 00:05:40,882 --> 00:05:44,427 わしは あの店のせがれと ねんごろになれたのかもな 82 00:05:44,510 --> 00:05:45,636 千恵様… 83 00:05:45,720 --> 00:05:47,597 しかし 8両とは… 84 00:05:48,097 --> 00:05:51,851 男子を育てた家は どこもあんな高い値で 85 00:05:51,934 --> 00:05:54,270 せがれに遊女のまねを させているのか? 86 00:05:54,854 --> 00:05:57,899 あれでは 貧しい者たちは 手が出ないではないか 87 00:06:04,614 --> 00:06:05,990 あ… 88 00:06:06,532 --> 00:06:08,368 吉原(よしわら)にござります 89 00:06:09,786 --> 00:06:13,664 かつての ご公儀の認めた 遊郭としての華やかさは 90 00:06:13,748 --> 00:06:17,627 男子の人口の激減とともに 見る影もございませぬ 91 00:06:17,710 --> 00:06:21,798 今は女相手に体を売る若衆(わかしゅ)が ごくわずかばかり 92 00:06:23,091 --> 00:06:23,883 (老人)あら~ 93 00:06:23,966 --> 00:06:24,801 ハッ! 94 00:06:24,884 --> 00:06:28,805 (老人)おきれいなお姫様 あっしを買ってくださるんで? 95 00:06:29,389 --> 00:06:31,808 (男)どうでえ ちょいと見てくれは悪いが 96 00:06:31,891 --> 00:06:34,811 ひと晩たった1分(いちぶ)だよ 1分ぽっきり 97 00:06:34,894 --> 00:06:35,812 あっ あ… 98 00:06:36,896 --> 00:06:38,356 伝右衛門! 99 00:06:38,439 --> 00:06:40,817 瘡毒(そうどく)持ちのようですな 100 00:06:40,900 --> 00:06:44,821 (遣手(やりて))ほら! うちの子は ちゃあんと若い子ですよ 101 00:06:44,904 --> 00:06:46,697 それでも たったの2分(にぶ) 102 00:06:47,824 --> 00:06:50,326 (男)ヘヘ… ヘヘッ… 103 00:06:50,410 --> 00:06:52,328 あっ… ああ… 104 00:06:52,412 --> 00:06:53,996 帰るぞ! 105 00:06:54,080 --> 00:06:54,705 はは! 106 00:06:58,084 --> 00:07:01,379 わしが客なら いくら安うても 絶対に嫌じゃ! 107 00:07:01,462 --> 00:07:03,423 体の悪い者か 年寄りか 108 00:07:03,506 --> 00:07:06,592 あとは流民になった百姓の 成れの果てといったところであろう 109 00:07:07,385 --> 00:07:08,678 なぜ あのような! 110 00:07:09,178 --> 00:07:11,264 女たちがここに来るのは 111 00:07:11,347 --> 00:07:13,850 一夜(ひとよ)の快楽のためではありませぬ 112 00:07:17,687 --> 00:07:20,898 そうまでしても 己(おの)が子を欲しいおなごが 113 00:07:20,982 --> 00:07:23,359 この世にはいるということで ござりましょう 114 00:07:25,069 --> 00:07:28,239 (ナレーション)それは今 母となった家光には 115 00:07:28,322 --> 00:07:30,700 痛いほど分かる気持ちであった 116 00:07:33,035 --> 00:07:34,120 (春日局(かすがのつぼね))上様! 117 00:07:34,203 --> 00:07:36,831 幾度(いくたび)も申し上げておりますのに! 118 00:07:36,914 --> 00:07:40,626 このように 度々 江戸城を 抜け出されて お忍びなどと… 119 00:07:40,710 --> 00:07:43,629 もし何かあったら どうなさいまする? 120 00:07:44,213 --> 00:07:46,215 そなたの言うとおり 大奥では 121 00:07:46,299 --> 00:07:48,885 一の側以外の所には行っておらぬぞ 122 00:07:49,635 --> 00:07:51,888 正勝(まさかつ)! 正勝はいるか! 123 00:07:53,389 --> 00:07:55,558 (稲葉(いなば))はっ 上様 ここに 124 00:07:55,641 --> 00:07:57,310 六人衆を呼べ 125 00:07:57,393 --> 00:08:00,188 このままでは 各地で一揆が起きるやもしれぬ 126 00:08:00,271 --> 00:08:01,105 上様! 127 00:08:01,898 --> 00:08:02,899 春日 128 00:08:03,483 --> 00:08:07,820 江戸の町を忍んで見るには 今や女のほうが都合がよいのだ 129 00:08:07,904 --> 00:08:10,656 男だけで町を歩くと かえって目立つ 130 00:08:10,740 --> 00:08:11,491 しかし… 131 00:08:11,574 --> 00:08:12,783 安心せい 132 00:08:12,867 --> 00:08:16,287 幾度も致したゆえ わしの忍び歩きは上手じゃ 133 00:08:16,370 --> 00:08:19,665 万に一つも わしの正体が 誰ぞに知れることはない 134 00:08:19,749 --> 00:08:21,584 心配いたすな な? 135 00:08:23,419 --> 00:08:24,378 あ… 136 00:08:25,046 --> 00:08:25,796 むう… 137 00:08:30,510 --> 00:08:34,013 この度の飢饉 仮小屋を市中に建てて 138 00:08:34,096 --> 00:08:37,683 そこで7日間 飢えた民に 粥を施してはどうであろう 139 00:08:37,767 --> 00:08:39,644 (六人衆)あ… 140 00:08:41,521 --> 00:08:42,396 (松平(まつだいら))甘い… 141 00:08:42,480 --> 00:08:43,439 (忠秋(ただあき))うむ… 142 00:08:43,523 --> 00:08:46,442 (老中(ろうじゅう)) お優しいことでござりますな 143 00:08:46,526 --> 00:08:48,986 ですが 恐れながら上様 144 00:08:49,070 --> 00:08:52,156 たった7日間 粥を振る舞ったところで 145 00:08:52,240 --> 00:08:56,077 百姓らを救ってやることが できるかは その… 146 00:08:56,160 --> 00:08:57,828 なかなか… 147 00:08:57,912 --> 00:08:58,955 (家光)はあ? 148 00:08:59,539 --> 00:09:02,416 そんなことはできぬに 決まっておるではないか 149 00:09:02,500 --> 00:09:05,962 これは 各地で高まる一揆の 機運をくじくためであって 150 00:09:06,045 --> 00:09:08,464 百姓どもを救うための策ではないわ 151 00:09:08,548 --> 00:09:09,840 (六人衆)おお… 152 00:09:12,051 --> 00:09:12,593 で? 153 00:09:13,594 --> 00:09:15,972 できるのか? できぬのか? 154 00:09:16,055 --> 00:09:18,724 は… ははっ 直ちに 155 00:09:22,311 --> 00:09:25,523 それから 本百姓が 抱えている小作たちが 156 00:09:25,606 --> 00:09:28,734 この度の飢饉で逃げ出して 流民と化しておる 157 00:09:29,318 --> 00:09:29,986 (正盛(まさもり))む… 158 00:09:30,653 --> 00:09:33,823 このようなときこそ 百姓どもには精出して 159 00:09:33,906 --> 00:09:36,701 米を作ってもらわねば なりませぬのに 160 00:09:36,784 --> 00:09:41,497 (老中)土豪(どごう)面した本百姓とやらが 何十人と小作を抱えておるから 161 00:09:41,581 --> 00:09:45,001 飢饉の度に小作らが逃げ出して 流民となるのだ 162 00:09:45,585 --> 00:09:48,879 小規模の貧しい百姓が その貧しさに耐えかねて 163 00:09:48,963 --> 00:09:51,716 己の田を売れば流民となり 164 00:09:51,799 --> 00:09:53,843 その田を買い占めた者は 165 00:09:53,926 --> 00:09:56,596 大規模な本百姓に なってゆきましょう 166 00:09:57,138 --> 00:09:58,514 そのためにも… 167 00:10:00,099 --> 00:10:03,561 (家光)百姓らの田畑の売買を 禁じるしかあるまい 168 00:10:03,644 --> 00:10:08,024 百姓を 小さな己の田を 家族で守る小農ばかりにして 169 00:10:08,107 --> 00:10:12,653 ヤツらを一生 その土地に 縛りつけ 働かせるのだ 170 00:10:12,737 --> 00:10:14,030 (六人衆)うむ 171 00:10:14,113 --> 00:10:14,989 フッ 172 00:10:20,119 --> 00:10:23,664 (玉栄(ぎょくえい))この度 お側(そば)に 上がることと相成りました⸺ 173 00:10:23,748 --> 00:10:25,041 玉栄でござりまする 174 00:10:29,378 --> 00:10:31,964 (家光)少々 話でもするかの 175 00:10:32,048 --> 00:10:32,715 (玉栄)はっ 176 00:10:33,633 --> 00:10:34,300 (家光)ふん 177 00:10:34,967 --> 00:10:36,385 前髪を落とすと 178 00:10:36,469 --> 00:10:40,306 それだけで なんとのう大人の男に 見えるから不思議なものじゃ 179 00:10:40,389 --> 00:10:44,310 恐れながら 私は上様と 同い年でおざりますが 180 00:10:44,393 --> 00:10:47,063 なんじゃ お玉 (たま)その口の利きようは! 181 00:10:47,146 --> 00:10:48,689 わしが気に入らなければ 182 00:10:48,773 --> 00:10:51,567 そなたの主人にも 恥をかかせることになるのだぞ! 183 00:10:51,651 --> 00:10:55,071 私が上様のお気に召しても 召さなくても 184 00:10:55,154 --> 00:10:58,199 いずれにせよ 有功(ありこと)様を 裏切り苦しめることには 185 00:10:58,282 --> 00:11:00,076 変わりは おざりませんのやよって! 186 00:11:00,159 --> 00:11:00,701 あ… 187 00:11:02,912 --> 00:11:05,414 ならば 何ゆえここへ来た? 188 00:11:05,498 --> 00:11:09,251 有功の頼みとはいえ 断ることもできたであろう 189 00:11:09,335 --> 00:11:11,962 (玉栄)そら 有功様の 思い人である あなた様と 190 00:11:12,046 --> 00:11:13,506 閨(ねや)を共にするなど 191 00:11:13,589 --> 00:11:16,175 心苦しいこととは 思いましたけど… 192 00:11:16,967 --> 00:11:18,344 けれど それでも! 193 00:11:19,011 --> 00:11:22,765 私に上様のことを 頼まなければならんかった有功様は 194 00:11:22,848 --> 00:11:25,351 もっとお苦しみで あらしゃったはずです! 195 00:11:25,434 --> 00:11:28,104 有功様を苦しめるのは嫌やけど 196 00:11:28,187 --> 00:11:31,607 有功様が あのお夏(なつ)という男に 負けてしまうのは 197 00:11:31,691 --> 00:11:33,401 私は もっと嫌や! 198 00:11:33,484 --> 00:11:34,110 あ… 199 00:11:34,193 --> 00:11:35,361 だから 上様! 200 00:11:35,444 --> 00:11:39,323 私のことは 有功様ほど お気に召してはあきまへんけど 201 00:11:39,407 --> 00:11:42,243 お夏よりは お気に召して いただかんとなりません! 202 00:11:42,743 --> 00:11:44,161 そうでないと 私は 203 00:11:44,245 --> 00:11:46,497 有功様に 顔向けができしまへんのや! 204 00:11:46,580 --> 00:11:48,416 あきれた男じゃ! 205 00:11:48,499 --> 00:11:50,710 わしに指図する気か 無礼者め! 206 00:11:50,793 --> 00:11:53,921 せやかて… 私は自分の仕える方は 207 00:11:54,004 --> 00:11:56,882 有功様 ただお一人と 決めておりますよって! 208 00:11:57,466 --> 00:11:57,967 あ… 209 00:11:58,968 --> 00:12:02,012 私にはお前だけだ 有功 210 00:12:02,888 --> 00:12:05,766 ほかの男の子を 何人 産もうとも 211 00:12:05,850 --> 00:12:09,645 わしの心にいるのは そなただけじゃ 有功 212 00:12:11,397 --> 00:12:13,524 フッ フフ… 213 00:12:13,607 --> 00:12:14,734 しかし 214 00:12:14,817 --> 00:12:18,279 わしに ここまでズケズケと ものを言うヤツは初めてじゃ 215 00:12:18,863 --> 00:12:22,283 確かに そなたのような男 嫌いではない 216 00:12:23,325 --> 00:12:24,910 わしとそなた 217 00:12:25,745 --> 00:12:28,289 お互い どこか 似ているところがある 218 00:12:37,631 --> 00:12:40,134 (千代(ちよ)の笑い声) 219 00:12:45,139 --> 00:12:49,894 有功 思うたより 面白い男であったぞ お玉は 220 00:12:49,977 --> 00:12:53,147 (有功)きっとそう 仰せになられると思うておりました 221 00:12:54,148 --> 00:12:55,149 不思議な子です 222 00:12:55,775 --> 00:12:59,111 生きる力も強いですが 運も強い 223 00:13:00,237 --> 00:13:03,115 思えば昔 見知らぬ修行僧が 224 00:13:03,199 --> 00:13:05,534 玉栄を見て こう申したことがありました 225 00:13:07,495 --> 00:13:09,246 (隆光(りゅうこう))おいっ! お~い! 226 00:13:09,330 --> 00:13:11,332 ちいと そこな稚児! 227 00:13:11,415 --> 00:13:12,249 (玉栄)ん? 228 00:13:14,835 --> 00:13:15,878 おお… 229 00:13:16,420 --> 00:13:20,049 なんや おっさん! 人のことジロジロ見くさって 230 00:13:20,132 --> 00:13:20,841 (有功)これ 231 00:13:21,842 --> 00:13:23,803 これは不思議 232 00:13:24,553 --> 00:13:29,099 この子には将来 天下人の 父になる相が表れておるぞ 233 00:13:29,767 --> 00:13:31,101 (玉栄)んん… 234 00:13:31,185 --> 00:13:33,103 なんや けったいな 235 00:13:33,187 --> 00:13:36,941 天下人ならともかく 父ってなんや 父って! 236 00:13:37,024 --> 00:13:38,359 (隆光)お~い 小僧! 237 00:13:38,442 --> 00:13:39,109 (2人)ん? 238 00:13:39,693 --> 00:13:41,487 わしの名は隆光じゃ 239 00:13:41,570 --> 00:13:45,241 もしこの後 わしに礼が 言いたくなったときのために 240 00:13:45,324 --> 00:13:47,117 教えておくからのう! 241 00:13:51,831 --> 00:13:52,915 有功 242 00:13:52,998 --> 00:13:57,253 その僧の言葉どおりになれば そなたは そのほうがよいのか? 243 00:14:04,844 --> 00:14:08,264 (ツクツクボウシの鳴き声) 244 00:14:08,848 --> 00:14:11,267 (千代の喜ぶ声) 245 00:14:11,350 --> 00:14:14,061 (矢島(やじま))あれはセミでございますよ 246 00:14:14,144 --> 00:14:18,023 夏の終わりを知らせる 鳴き声にございますねえ 247 00:14:21,402 --> 00:14:22,987 (ナレーション)8月1日 248 00:14:23,070 --> 00:14:27,283 江戸城では徳川家康(とくがわいえやす)の 関東入国を祝って 249 00:14:27,366 --> 00:14:30,286 諸大名が登城し 将軍に祝賀を述べる 250 00:14:31,412 --> 00:14:33,163 この日を八朔(はっさく)という 251 00:14:34,874 --> 00:14:38,794 将軍への拝賀は 城中大広間にて行われる 252 00:14:39,378 --> 00:14:40,921 (大目付(おおめつけ))向方(あなた)へ! 253 00:14:41,005 --> 00:14:45,593 (ナレーション)まず 大目付が “将軍に拝謁あれ”の意を伝える 254 00:14:47,052 --> 00:14:50,598 次に老中 松平伊豆守信綱(いずのかみのぶつな)が 255 00:14:50,681 --> 00:14:53,726 本人に代わって 御礼の口上を述べる 256 00:14:53,809 --> 00:14:58,898 松平甲斐守輝綱(かいのかみてるつな) 朔日(さくじつ)の御礼申し上げまする 257 00:15:00,149 --> 00:15:02,359 (ナレーション) 将軍の答えは決まっている 258 00:15:03,110 --> 00:15:04,278 めでたい 259 00:15:04,361 --> 00:15:07,740 (ナレーション)無論 ここで 将軍として座しているのは 260 00:15:07,823 --> 00:15:10,075 影武者の稲葉正勝である 261 00:15:12,202 --> 00:15:16,248 信綱自身も この決まりきった 年中行事自体に 262 00:15:16,332 --> 00:15:18,417 さして緊張していたわけではない 263 00:15:18,918 --> 00:15:21,503 己の後継者たる この輝綱が 264 00:15:21,587 --> 00:15:25,341 実は女であるということが いつ露見するのではと 265 00:15:25,424 --> 00:15:27,885 そればかりが 気になっているのである 266 00:15:29,929 --> 00:15:33,349 (松平) しかし 見事に男に見えるわ 267 00:15:38,938 --> 00:15:41,357 (讃岐守(さぬきのかみ))久方ぶりじゃの 伊豆守 268 00:15:41,440 --> 00:15:43,901 これは 讃岐守様 269 00:15:43,984 --> 00:15:47,237 (讃岐守)ふん このような 折にしか登城できぬとは 270 00:15:47,321 --> 00:15:51,283 大老などというものは 敬して遠ざけられるばかりよの 271 00:15:51,367 --> 00:15:53,118 いえ そのような… 272 00:15:53,202 --> 00:15:56,622 (松平)遠ざけた張本人に向かい まったく… 273 00:15:56,705 --> 00:16:01,210 讃岐守様 これなるは 長子 輝綱にござります 274 00:16:01,835 --> 00:16:03,128 これ 挨拶を 275 00:16:04,129 --> 00:16:06,131 (輝綱)輝綱にござります 276 00:16:06,215 --> 00:16:07,925 うむ さようか 277 00:16:08,592 --> 00:16:10,594 これは わしのせがれじゃ 278 00:16:10,678 --> 00:16:11,637 忠朝(ただとも) 279 00:16:14,974 --> 00:16:15,808 (輝綱)ん… 280 00:16:18,560 --> 00:16:20,145 (輝綱)フッ フフ… 281 00:16:20,229 --> 00:16:22,398 なんじゃ 何がおかしい? 282 00:16:22,898 --> 00:16:27,611 先ほどの讃岐守様のご子息 あれは娘御でしたぞ 283 00:16:27,695 --> 00:16:28,654 なっ! 284 00:16:28,737 --> 00:16:31,949 それから 登城の際の大名らの供に 285 00:16:32,032 --> 00:16:34,159 男装の女の まあ多いこと 286 00:16:34,243 --> 00:16:35,285 んんっ! 287 00:16:37,287 --> 00:16:40,207 (老中)最初は御公儀にとって 邪魔な大名家を 288 00:16:40,290 --> 00:16:43,919 改易 転封(てんぽう)させるに好都合と 思っておりましたが… 289 00:16:44,753 --> 00:16:49,216 (老中)これだけ どの大名にも 男子の後継が育たぬとなると 290 00:16:49,717 --> 00:16:51,427 (老中)親藩の中にも 291 00:16:51,510 --> 00:16:54,930 お家断絶が危ぶまれる 大名家が出てきておる 292 00:16:55,514 --> 00:16:57,057 (一同)むう… 293 00:16:59,309 --> 00:17:00,519 皆様! 294 00:17:01,020 --> 00:17:03,897 皆様のお心も もはや決まっておりましょう 295 00:17:04,523 --> 00:17:07,192 ここは… ここは一時(いっとき) 296 00:17:07,276 --> 00:17:11,947 大名家の後継に女子が立つことを 認めぬわけには参りませぬ! 297 00:17:12,031 --> 00:17:13,032 ハッ! 298 00:17:13,532 --> 00:17:14,950 まっ 待ちや! 299 00:17:15,034 --> 00:17:17,453 何を申しておるのです 正盛! 300 00:17:17,536 --> 00:17:21,415 あくまでも 女大名は 次代までのつなぎでござります 301 00:17:21,498 --> 00:17:25,461 その間に男子の後継を探して 養子として迎えればよい! 302 00:17:26,045 --> 00:17:27,004 バカな! 303 00:17:28,047 --> 00:17:31,133 しかし今や 百姓や町人たちは 304 00:17:31,216 --> 00:17:33,761 皆 娘が父親から家業を受け継ぎ 305 00:17:33,844 --> 00:17:35,971 暮らしを立てておりまするそうな 306 00:17:36,055 --> 00:17:39,308 下々の商人や百姓たちなら ともかく 307 00:17:39,391 --> 00:17:42,269 戦場での働きこそ 本分とする武家で 308 00:17:42,352 --> 00:17:45,439 女子が家督を継ぐなど できるわけがありませぬ! 309 00:17:45,522 --> 00:17:48,859 女が余っておるなら いくらでも側女(そばめ)を抱えて 310 00:17:48,942 --> 00:17:51,737 お家を存続させれば よいではありませぬか! 311 00:17:52,571 --> 00:17:55,699 お婆(ばば)様 男子は今や5人生まれて 312 00:17:55,783 --> 00:17:57,618 やっと一人育てばよいほう 313 00:17:57,701 --> 00:18:00,079 側室をあまた持つ大大名でも 314 00:18:00,162 --> 00:18:03,248 男子の後継を持つのが 難しうなっておるのです 315 00:18:03,832 --> 00:18:07,669 今はもう お婆様の知っている 世の中とは違いまする 316 00:18:07,753 --> 00:18:10,506 戦国乱世は もはや昔のこと 317 00:18:11,090 --> 00:18:12,716 そもそも 戦をしようにも 318 00:18:12,800 --> 00:18:16,303 男が少のうて 兵を集めることもかないませぬ 319 00:18:16,386 --> 00:18:17,262 あっ… 320 00:18:17,346 --> 00:18:20,432 (松平)むしろ 諸国を治める大名家が 321 00:18:20,516 --> 00:18:23,185 これ以上 お取り潰しに なることのほうが 322 00:18:23,268 --> 00:18:26,230 体制を揺るがすことに なりかねませぬ 323 00:18:26,313 --> 00:18:31,527 あなた様も以前仰せあるとおり 今は非常のとき 324 00:18:31,610 --> 00:18:35,364 これも 徳川の治世を 守るためでござる 325 00:18:36,615 --> 00:18:40,285 (ナレーション)一夫多妻を進め 大名家の統合を進めれば 326 00:18:40,369 --> 00:18:44,665 必然的に 残った少数の 大名家が所有する領地は 327 00:18:44,748 --> 00:18:48,544 広大なものとなり 徳川家の脅威となってしまう 328 00:18:50,629 --> 00:18:56,009 そして“家”を存続させることが 武士であるか否かにかかわらず 329 00:18:56,093 --> 00:18:58,971 どの身分においても 最重要課題である⸺ 330 00:18:59,054 --> 00:19:03,809 この国特有の事情ゆえに 世帯数が極端に減少する 331 00:19:04,852 --> 00:19:09,481 つまり 多くの家が潰れることを 意味する一夫多妻化は 332 00:19:09,565 --> 00:19:11,358 進まなかったのである 333 00:19:22,035 --> 00:19:24,454 (村瀬(むらせ))こっ これは春日局様! 334 00:19:25,038 --> 00:19:25,956 ああっ! 335 00:19:26,039 --> 00:19:29,042 なっ なんじゃ正資(まさすけ)! 裃(かみしも)なぞ着て! 336 00:19:29,126 --> 00:19:31,044 しかも何やら 洒落(しゃれ)めかして 337 00:19:31,128 --> 00:19:32,462 (村瀬)あっ はあ… 338 00:19:49,229 --> 00:19:50,355 これは… 339 00:19:54,568 --> 00:19:55,944 後ろを向いてごらん 340 00:20:00,032 --> 00:20:00,741 うん 341 00:20:01,450 --> 00:20:05,329 青磁の色にウコンの刺しゅう 中の着物は濃紺 342 00:20:05,412 --> 00:20:08,624 若々しい色や そなたに よう似合うてる 343 00:20:08,707 --> 00:20:11,210 刺しゅうは もっと入れないと 344 00:20:11,293 --> 00:20:13,587 お夏に勝てないのでは おざりませんか? 345 00:20:13,670 --> 00:20:15,380 (有功)それくらいがええのや 346 00:20:15,464 --> 00:20:17,466 それ以上は下品やよってな 347 00:20:17,549 --> 00:20:18,634 (春日局)有功殿! 348 00:20:18,717 --> 00:20:20,135 有功殿はおるか! 349 00:20:20,219 --> 00:20:23,138 ハア ハア ハア… 350 00:20:33,482 --> 00:20:35,150 菊見などと! 351 00:20:36,109 --> 00:20:37,277 いけませぬか? 352 00:20:37,778 --> 00:20:39,446 今日は9月9日 353 00:20:40,447 --> 00:20:42,407 重陽の節句でござりますゆえ 354 00:20:42,908 --> 00:20:45,160 ここは宮中とは違いまする 355 00:20:45,744 --> 00:20:48,789 大体 上様をお守りすべき 武士たちが 356 00:20:48,872 --> 00:20:52,709 皆 あのように袴(はかま)のひもは 裃と同じ色に染め上げ 357 00:20:52,793 --> 00:20:55,754 要らぬ腰板を見た目の ためだけに付けて 358 00:20:55,837 --> 00:20:57,673 まるで洒落家を競うようじゃ 359 00:20:57,756 --> 00:20:59,716 なんと嘆かわしいこと! 360 00:20:59,800 --> 00:21:02,427 市中では毎日 死者を焼く煙の臭いが 361 00:21:02,511 --> 00:21:04,513 立ちこめているというのに 362 00:21:04,596 --> 00:21:07,182 私もここ 大奥にお仕えする身 363 00:21:07,933 --> 00:21:10,811 お上からお扶持(ふち)を頂いて おりまするが 364 00:21:10,894 --> 00:21:14,273 今回の菊見のために 皆が新調した装束は 365 00:21:14,356 --> 00:21:17,234 全て私のお扶持で 賄いましてござります 366 00:21:17,734 --> 00:21:19,778 それなら文句はござりますまい? 367 00:21:19,861 --> 00:21:20,946 (春日局)ぐっ… 368 00:21:21,029 --> 00:21:25,325 (有功)それに今日の宴(うたげ)にしても 食事は普段(ふだん)どおり 369 00:21:25,409 --> 00:21:27,202 ただ 酒の入った坏に 370 00:21:27,286 --> 00:21:30,455 黄菊の花びらを 浮かべて風情を楽しむだけ 371 00:21:31,039 --> 00:21:34,042 行灯(あんどん)も 各々(おのおの)の部屋から 持ち寄ったもの 372 00:21:34,126 --> 00:21:37,963 ムダな金は一銭も使って いないと存じまするが いかが? 373 00:21:39,214 --> 00:21:42,426 もとより 剣術弓術の鍛錬も皆 374 00:21:42,509 --> 00:21:44,720 1日たりとも怠ってはおりませぬ 375 00:21:45,554 --> 00:21:49,057 この大奥に一生捕らわれ 日々を過ごす者たちが 376 00:21:49,141 --> 00:21:53,103 せめてもの慰みに 一夜 皆で菊を愛(め)でることの 377 00:21:53,186 --> 00:21:54,938 どこがいけませぬのか? 378 00:21:56,690 --> 00:21:58,358 (春日局)こ… こやつ! 379 00:21:59,484 --> 00:22:02,195 (ナレーション)しかし 有功の こうしたやり方は 380 00:22:02,279 --> 00:22:05,324 後に大奥を 華美に贅沢(ぜいたく)に 381 00:22:05,407 --> 00:22:09,244 幕府の金食い虫へと 変貌させていくのである 382 00:22:14,958 --> 00:22:16,877 誰も彼も… 383 00:22:17,502 --> 00:22:18,378 (村瀬)あ… 384 00:22:18,462 --> 00:22:23,633 もう この婆の言うことなど 息子の正勝さえ聞く耳を持たぬ! 385 00:22:23,717 --> 00:22:25,427 春日局様 386 00:22:25,510 --> 00:22:28,513 あまりお怒りになられると お体に障りまするゆえ 387 00:22:28,597 --> 00:22:30,640 ええい うるさい! 正資! 388 00:22:30,724 --> 00:22:31,975 うっ! 389 00:22:32,726 --> 00:22:33,393 お? 390 00:22:34,227 --> 00:22:35,437 うあっ あ… 391 00:22:35,520 --> 00:22:36,897 あっ… あっ…  392 00:22:37,397 --> 00:22:37,898 うう… 393 00:22:37,981 --> 00:22:39,149 (倒れる音) (村瀬)あっ! 394 00:22:39,232 --> 00:22:40,942 春日局様! 395 00:22:46,114 --> 00:22:48,116 ♪~ 396 00:24:18,748 --> 00:24:20,750 ~♪