1 00:00:02,293 --> 00:00:06,005 (館脇(たてわき)正太郎(しょうたろう)) 僕は 時間の死んだ街で生まれた 2 00:00:07,132 --> 00:00:09,843 良くも悪くもマイペースで強情で 3 00:00:09,968 --> 00:00:12,262 変化を嫌う この街では 4 00:00:12,387 --> 00:00:14,597 よどんだ時の流れすら 5 00:00:14,723 --> 00:00:18,351 平穏だとか安寧と呼ばれる 6 00:00:19,227 --> 00:00:24,858 それは まるで 大腿骨(だいたいこつ)のように強靱(きょうじん)な真一文字さで 7 00:00:25,442 --> 00:00:30,238 この街と人々の心を せき止めている 8 00:00:40,373 --> 00:00:42,542 (今居(いまい)陽人(はると)) いい季節だよな 9 00:00:43,626 --> 00:00:46,004 (正太郎) うん おはよう 今居 10 00:00:46,671 --> 00:00:47,881 ん…? 11 00:00:51,050 --> 00:00:52,218 (今居) 何だ? 12 00:00:52,886 --> 00:00:56,765 (生徒A)あれ 死んでるよな… (生徒B)かわいそうだけど… 13 00:00:57,515 --> 00:00:59,726 ん…? あっ! 14 00:01:02,520 --> 00:01:05,022 ああ… 行こう 館脇 15 00:01:05,190 --> 00:01:07,400 (正太郎) すいません! ちょっと通して 16 00:01:09,360 --> 00:01:10,779 おい… 17 00:01:11,446 --> 00:01:14,866 (正太郎) 誰か 学校で新聞紙とビニール袋 18 00:01:14,991 --> 00:01:17,911 あと 段ボール もらってきてくれませんか? 19 00:01:19,120 --> 00:01:21,122 (鴻上(こうがみ)百合子(ゆりこ)) あっ! じゃあ 私が 20 00:01:21,331 --> 00:01:22,332 (今居) えっ? 21 00:01:23,958 --> 00:01:25,376 あっ あっ… 22 00:01:29,214 --> 00:01:32,842 (正太郎) リアルな死は 人をひるませる 23 00:01:33,551 --> 00:01:35,094 当然だ 24 00:01:35,845 --> 00:01:40,391 少し前だったら 僕も みんなと同じ反応をしてただろう 25 00:01:43,102 --> 00:01:45,897 でも 僕は… 26 00:01:47,106 --> 00:01:49,275 あの人と出会った 27 00:01:52,779 --> 00:01:54,322 だから… 28 00:01:57,867 --> 00:01:59,244 (かしわ手の音) 29 00:01:59,369 --> 00:02:01,830 どうか化けて出ませんように 30 00:02:01,955 --> 00:02:05,583 (磯崎(いそざき)齋(いつき)) 本来は保健所に持って行った方が いいんだろうけど… 31 00:02:06,042 --> 00:02:09,044 すいません 磯崎先生 無理 言っちゃって 32 00:02:09,169 --> 00:02:10,713 まあ 生物教師として― 33 00:02:10,839 --> 00:02:16,052 日々 生徒たちに 命の大切さを教える身としてはね… 34 00:02:16,553 --> 00:02:19,222 君も手伝ってくれて ありがとう 35 00:02:19,597 --> 00:02:22,016 ああ… えっと… 36 00:02:22,225 --> 00:02:25,520 鴻上さんだ 隣のクラスの 37 00:02:26,229 --> 00:02:28,648 (正太郎)知り合い? (今居)あっ うっ… 38 00:02:28,773 --> 00:02:31,025 今居君とは 同じテニス部で 39 00:02:31,484 --> 00:02:35,071 鴻上百合子です よろしく! 40 00:02:36,698 --> 00:02:38,658 館脇正太郎です 41 00:02:38,825 --> 00:02:42,620 そういえば こういうのどっかで 聞いたことあるな 42 00:02:42,787 --> 00:02:45,957 “桜の木の下には…” 43 00:02:46,082 --> 00:02:50,086 “死体が埋まっている” 梶井(かじい)基次郎(もとじろう)の小説だよ 44 00:02:51,796 --> 00:02:55,008 (正太郎) 桜の木の下には… 45 00:03:00,930 --> 00:03:05,310 北海道旭川市 ここが僕の住む街だ 46 00:03:05,435 --> 00:03:10,481 最近は動物園が人気で 訪れる人も少なくない 47 00:03:11,566 --> 00:03:16,863 だけど 街を流れる時間は 至極ゆったり 48 00:03:16,988 --> 00:03:21,200 というか はっきり言って停滞している 49 00:03:21,951 --> 00:03:25,455 それでも 僕は この街が好きだ 50 00:03:26,331 --> 00:03:28,750 この街には 過去の記憶が― 51 00:03:29,542 --> 00:03:33,379 ひっそりと優しく息づいている 52 00:03:34,881 --> 00:03:37,008 そして… 53 00:03:38,426 --> 00:03:44,766 ここには 過去に生きたものたちを 慈しむ人がいる 54 00:03:49,687 --> 00:03:52,315 そう ここには… 55 00:03:55,526 --> 00:03:57,654 ここ 九条(くじょう)家の… 56 00:03:59,739 --> 00:04:01,282 桜の木の… 57 00:04:04,619 --> 00:04:05,662 下には… 58 00:04:14,212 --> 00:04:15,296 (枝を踏む音) 59 00:04:18,800 --> 00:04:21,844 (九条(くじょう)櫻子(さくらこ)) やあ 少年 よく来たな 60 00:04:24,681 --> 00:04:29,269 (正太郎) 骨愛(め)ずる姫君がいる 61 00:04:38,611 --> 00:04:42,991 (櫻子) 何だ その子猫は埋葬してしまったのか 62 00:04:43,116 --> 00:04:45,034 つまらないことをしたな 63 00:04:45,493 --> 00:04:47,245 普通 そうするじゃないですか 64 00:04:47,537 --> 00:04:51,040 では 私は普通ではないわけだ 65 00:04:51,165 --> 00:04:52,083 それは… 66 00:04:53,751 --> 00:04:55,253 はあ… 67 00:04:55,962 --> 00:04:59,340 (正太郎) この人が 九条櫻子さんだ 68 00:04:59,590 --> 00:05:02,593 道内でも有数の旧家のお嬢様で 69 00:05:02,719 --> 00:05:07,098 あの広いお屋敷に ばあやさんと 2人っきりで住んでいる 70 00:05:07,724 --> 00:05:11,019 容姿端麗 頭脳明晰(めいせき) 71 00:05:11,144 --> 00:05:14,397 一見 非のうちどころがないように 見えるけど… 72 00:05:15,440 --> 00:05:17,984 (カーステレオ) ♪ 髑髏(しゃれこうべ)を容(かたち)作る 73 00:05:18,109 --> 00:05:21,571 (正太郎) 櫻子さんは 基本 人間が好きじゃない 74 00:05:21,696 --> 00:05:25,533 というか人間関係というもの自体に 興味がない 75 00:05:26,075 --> 00:05:28,369 そんな彼女が好きなものは… 76 00:05:29,078 --> 00:05:30,580 骨だ 77 00:05:31,205 --> 00:05:34,125 それは 幼いころからだという 78 00:05:34,292 --> 00:05:38,671 櫻子さんは ありとあらゆる 生き物の骨に恋焦がれ 79 00:05:38,796 --> 00:05:42,050 ついには それを仕事にしてしまった 80 00:05:42,925 --> 00:05:46,054 櫻子さんの職業は 標本士 81 00:05:46,596 --> 00:05:51,476 動物の死体から骨を取り出し 骨格標本を作る職人だ 82 00:05:52,185 --> 00:05:56,230 要するに 櫻子さんの興味を引くものは 83 00:05:56,355 --> 00:06:00,651 すでに命を失った 死体だけなのだ 84 00:06:01,736 --> 00:06:03,613 (正太郎) 耳が悪くなりますよ 85 00:06:03,988 --> 00:06:06,824 ディアベル殿下の歌声は例外だ 86 00:06:09,577 --> 00:06:14,791 (正太郎) ところで 僕らの関係はというと 微妙なところだ 87 00:06:14,916 --> 00:06:21,130 もちろん 恋人関係でもないし 友達… というのも ちょっと違う 88 00:06:21,422 --> 00:06:24,592 ちなみに 櫻子さんには 在原(ありわら)さんという 89 00:06:24,717 --> 00:06:27,970 道警に勤める 超エリートの許嫁(いいなずけ)がいる 90 00:06:28,096 --> 00:06:31,933 そんなわけで 僕と櫻子さんは… 91 00:06:34,018 --> 00:06:36,813 (正太郎)あっ! (櫻子)どうした? 大声を上げて 92 00:06:36,938 --> 00:06:41,484 甘エビです! そうだ 増毛(ましけ)といったら甘エビだ! 93 00:06:41,609 --> 00:06:43,903 (櫻子)そうか (正太郎)はあ… 94 00:06:46,155 --> 00:06:49,075 (正太郎) せっかく海に来たのに… 95 00:06:50,618 --> 00:06:53,913 どうして 死んだ動物の骨拾いなんだよー! 96 00:06:54,163 --> 00:06:59,377 青い海 青い空 心地よい潮風 97 00:07:00,002 --> 00:07:02,672 君は一体 何が不満なんだ 98 00:07:03,923 --> 00:07:05,341 何がって… 99 00:07:06,759 --> 00:07:08,761 何でもです 100 00:07:08,886 --> 00:07:12,181 それに その“少年”っていうの やめてくれませんか? 101 00:07:12,348 --> 00:07:13,349 なぜだ? 102 00:07:13,474 --> 00:07:16,894 僕には“館脇正太郎”って 名前があるんです! 103 00:07:17,270 --> 00:07:20,314 何か 子供扱いされてるみたいで… 104 00:07:21,774 --> 00:07:26,654 なら 大物でも引き当てて 私を感心させることだ 105 00:07:27,029 --> 00:07:31,200 運が良ければ鯨の骨なんてものにも お目にかかれるぞ 106 00:07:31,325 --> 00:07:35,496 (正太郎)鯨… (櫻子)ああ 夢があるだろう? 107 00:07:35,913 --> 00:07:40,877 そうだ 大物を見つけたらご褒美に 甘エビをごちそうしよう 108 00:07:41,002 --> 00:07:43,296 (正太郎)本当ですか! (櫻子)ああ 109 00:07:43,838 --> 00:07:45,381 甘エビ… 110 00:07:46,674 --> 00:07:48,843 甘エビ 甘エビー♪ 111 00:07:48,968 --> 00:07:51,387 今日は楽しい 甘エビ祭りー♪ 112 00:07:52,138 --> 00:07:53,139 (シャベルに何かが当たる音) 113 00:07:53,264 --> 00:07:54,182 甘エビ! 114 00:07:54,307 --> 00:07:57,643 はい 櫻子さん ヘヘッ… 115 00:07:57,768 --> 00:08:02,148 キツネの大腿骨だな… いらないよ もう うちにある 116 00:08:02,273 --> 00:08:03,107 えっ? 117 00:08:06,110 --> 00:08:07,361 (正太郎) ベー! 118 00:08:07,487 --> 00:08:12,158 (櫻子) 少年 これは ただの木だ! 私のことを からかっているのかね 119 00:08:12,492 --> 00:08:16,370 この調子じゃ 甘エビは はるかかなただな! 120 00:08:16,496 --> 00:08:17,163 あっ! 121 00:08:18,748 --> 00:08:21,167 (正太郎) よーし 今度こそ… 122 00:08:21,459 --> 00:08:24,462 甘エビ祭り お願いします! 123 00:08:27,298 --> 00:08:31,052 (正太郎)えっ! (櫻子)ほう これは大物だな 124 00:08:31,177 --> 00:08:32,636 (正太郎) えっ でも これって… 125 00:08:32,761 --> 00:08:36,224 (櫻子) ああ 実に ありふれた生き物の骨だよ 126 00:08:39,059 --> 00:08:41,395 やあ こんにちは 127 00:08:41,645 --> 00:08:44,482 (正太郎) さっ… 櫻子さん それ! 128 00:08:44,607 --> 00:08:46,692 人間の頭蓋骨(とうがいこつ)だが? 129 00:08:46,984 --> 00:08:51,948 見たまえ 実に美しい 保存状態も すこぶる良好だ 130 00:08:52,073 --> 00:08:55,326 (正太郎) いや だから そういうことじゃなくて… 131 00:08:55,618 --> 00:08:56,994 すばらしい! 132 00:08:57,119 --> 00:08:59,830 蝶形骨(ちょうけいこつ)まで ほぼ無傷で残っているぞ! 133 00:08:59,956 --> 00:09:01,999 蝶形骨…? 134 00:09:02,124 --> 00:09:07,004 少年 人間は頭の中に 1匹… 135 00:09:09,215 --> 00:09:11,050 蝶(ちょう)を飼っているんだ 136 00:09:11,217 --> 00:09:13,261 えっ… はっ! 137 00:09:13,511 --> 00:09:18,224 ほーら ここ この奥にいる 138 00:09:23,521 --> 00:09:27,942 蝶形骨は その名のとおり 蝶の形をした骨だ 139 00:09:28,109 --> 00:09:31,445 非常にもろく すぐに壊れてしまう 140 00:09:31,862 --> 00:09:33,948 だが 美しい 141 00:09:34,490 --> 00:09:37,118 (正太郎) あ… あ… 142 00:09:42,039 --> 00:09:45,626 (櫻子) フフッ… すばらしいコレクションになるぞ 143 00:09:46,085 --> 00:09:50,464 えっ! 櫻子さん まさか その骨 持って帰るつもりじゃ… 144 00:09:50,590 --> 00:09:52,842 今日一番の収穫だな! 145 00:09:52,967 --> 00:09:58,097 駄目ですよ! だって それは誰かの骨で 146 00:09:58,347 --> 00:10:01,434 海の事故で亡くなった人のものかも しれないんですよ! 147 00:10:01,559 --> 00:10:07,106 (櫻子) いや その可能性は薄い ここを見たまえ 骨折している 148 00:10:07,231 --> 00:10:11,485 形状から推測するに こん棒状の物で殴られたのだろう 149 00:10:11,861 --> 00:10:14,697 じゃあ 殺されたってことですか? 150 00:10:14,822 --> 00:10:17,908 (櫻子) かもしれない これだけ強く殴打されれば 151 00:10:18,034 --> 00:10:20,911 死につながる脳挫傷を 引き起こしても おかしくない 152 00:10:22,872 --> 00:10:28,085 (櫻子) 被害者は女性 これは頭頂骨の 緩やかな傾斜を見れば分かる 153 00:10:28,210 --> 00:10:33,924 縫合線の癒合からして 年齢は20代後半といったところか 154 00:10:34,050 --> 00:10:35,801 知っているか? 少年 155 00:10:35,926 --> 00:10:40,014 頭蓋骨っていうのはね 非常に雄弁な骨の一つなんだ 156 00:10:40,139 --> 00:10:43,476 尋ねれば さまざまなことを語りかけてくれる 157 00:10:43,768 --> 00:10:46,270 このように U字型で 口蓋の浅い歯列は 158 00:10:46,395 --> 00:10:48,564 アジア人に よく見られる特徴だ 159 00:10:48,689 --> 00:10:52,193 白人はV字で 口蓋の深さが もっと深いからね 160 00:10:52,318 --> 00:10:58,866 それに… ああ なるほど… ほう これは これは… 161 00:10:59,033 --> 00:11:02,203 (正太郎)あっ 警察ですか? (櫻子)んっ? 162 00:11:02,328 --> 00:11:05,748 (正太郎) ええ チョコレート色の車が 止まってますから 163 00:11:06,123 --> 00:11:08,125 (櫻子)少年… (正太郎)はい? 164 00:11:09,168 --> 00:11:11,504 (櫻子) 警察に通報したのか? 165 00:11:12,046 --> 00:11:13,672 そうですけど 166 00:11:15,966 --> 00:11:18,052 (櫻子) 君というやつは… 167 00:11:18,177 --> 00:11:21,680 ばあやさんや在原さんに 迷惑かけてもいいんですか? 168 00:11:23,766 --> 00:11:27,686 (正太郎) そういえば 一つ 言い忘れていたことがある 169 00:11:28,020 --> 00:11:29,980 櫻子さんと一緒にいると… 170 00:11:30,106 --> 00:11:34,235 うっ! 駄目だ! これは私のものだぞ! 171 00:11:34,360 --> 00:11:36,237 警察なんかに渡してたまるか! 172 00:11:36,362 --> 00:11:38,280 あっ! んっ… 173 00:11:39,198 --> 00:11:43,619 (正太郎) なぜか 死体を 見つけてしまうんだ 174 00:11:46,372 --> 00:11:49,875 (櫻子) だから 何度 言ったら分かる! これは 私のものだ! 175 00:11:50,000 --> 00:11:53,879 (山路(やまじ)輝彦(てるひこ)) しかし 今の説明では 事件性が認められると… 176 00:11:54,004 --> 00:11:56,924 ああ だが 犯人は見つからないぞ 177 00:11:57,716 --> 00:12:00,136 どうしてです? 日本の警察は… 178 00:12:00,261 --> 00:12:03,556 優秀か? だとしても絶対に無理だ 179 00:12:04,765 --> 00:12:05,891 なぜですか? 180 00:12:07,226 --> 00:12:08,894 それは彼女が… 181 00:12:10,187 --> 00:12:13,232 およそ100年前に生きた 人物だからだよ 182 00:12:13,357 --> 00:12:15,067 100年前…? 183 00:12:15,192 --> 00:12:17,486 (正太郎) そんなに古い骨なんですか? 184 00:12:17,611 --> 00:12:21,657 (櫻子) ああ 詳しくは炭素による 年代測定をする必要があるが 185 00:12:21,782 --> 00:12:24,952 通常の観察でも ある程度の推定は可能だ 186 00:12:25,327 --> 00:12:30,791 意外だろうが およそ100年くらいで 人間の骨格というのは変化していく 187 00:12:30,916 --> 00:12:33,669 生活様式や環境の変化のためだね 188 00:12:34,170 --> 00:12:39,216 彼女の大臼歯には 大きな う歯… 虫歯がある 189 00:12:39,341 --> 00:12:42,803 相当 痛んだはずだが ろくな治療はされていない 190 00:12:42,928 --> 00:12:45,055 現代なら考えられないことだろう? 191 00:12:45,222 --> 00:12:48,642 しかも 年齢のわりに 歯の摩耗も激しい 192 00:12:48,767 --> 00:12:53,355 以上のことなどから この遺骨は 100年ほど前のものと推定できる 193 00:12:53,481 --> 00:12:55,441 そんなことまで分かるんですか? 194 00:12:55,566 --> 00:13:00,529 言っただろう 骨は尋ねれば 雄弁に語ってくれると 195 00:13:00,654 --> 00:13:06,285 あっ… しかし 遺骨である以上 きちんとした手続きが必要です 196 00:13:06,410 --> 00:13:07,536 面倒だなあ 197 00:13:08,287 --> 00:13:12,666 そもそも これは遺失物 落とし主は ここにいるが 198 00:13:12,791 --> 00:13:16,003 櫻子さん! そういう冗談はよくないですよ! 199 00:13:16,128 --> 00:13:18,839 (櫻子) 冗談ではない! 事実だ! 200 00:13:18,964 --> 00:13:21,842 とにかく 署でお話を伺います 201 00:13:25,054 --> 00:13:30,267 しかし こんな田舎で 一日に 3つもホトケさんが見つかるとはね 202 00:13:30,392 --> 00:13:31,810 3つだと? 203 00:13:31,936 --> 00:13:36,774 ええ すぐ先の海岸で 男女の心中遺体が上がったんですよ 204 00:13:36,899 --> 00:13:39,652 (櫻子)ほう… (正太郎)櫻子さん! 205 00:13:39,777 --> 00:13:41,695 で なぜ心中と分かった? 206 00:13:41,820 --> 00:13:45,407 それは お互いの手を 結び合った状態で見つかれば 207 00:13:45,533 --> 00:13:47,535 一目瞭然ですよ 208 00:13:47,993 --> 00:13:49,662 あっ あそこです 209 00:13:50,079 --> 00:13:51,914 今 ちょうど現場検証を… 210 00:13:52,039 --> 00:13:56,252 (櫻子)君! 車を止めたまえ! (山路)ええー! 211 00:13:58,671 --> 00:14:01,674 (オヤジ刑事) こいつは 心中で間違いねえな 212 00:14:01,799 --> 00:14:03,342 (櫻子) さて それはどうかな? 213 00:14:03,467 --> 00:14:08,764 ああ? あんた 誰だ? おい! 214 00:14:08,889 --> 00:14:11,100 君 ちょっと 遺体を見せてくれ 215 00:14:11,225 --> 00:14:13,978 (鑑識員) あっ… ああ… はい 216 00:14:14,603 --> 00:14:15,646 (口笛) 217 00:14:15,771 --> 00:14:19,984 (正太郎) ちょ… ちょっと… 櫻子さん! 218 00:14:35,583 --> 00:14:38,252 さあ 謎を解こうじゃないか 219 00:14:42,006 --> 00:14:43,382 思考の邪魔だ! 220 00:14:53,976 --> 00:14:55,352 なるほどな… 221 00:14:55,477 --> 00:14:58,647 (オヤジ刑事) いいかげんにしろ! 好き勝手しやがって! 222 00:14:59,189 --> 00:15:01,483 田舎の不勉強な刑事に― 223 00:15:01,609 --> 00:15:05,404 この遺体は司法解剖が必要だと 教えてあげようかと思ってね 224 00:15:05,529 --> 00:15:06,614 (オヤジ刑事) ああ? 225 00:15:06,822 --> 00:15:09,700 これは 心中を偽装した殺人事件だ 226 00:15:09,825 --> 00:15:11,160 (オヤジ刑事)ええ? (正太郎)うっ… 227 00:15:12,411 --> 00:15:15,039 (オヤジ刑事) 山路! このねえちゃんは何なんだ! 228 00:15:15,164 --> 00:15:17,166 何だと言われましても… 229 00:15:17,291 --> 00:15:22,004 チッ! あんた なぜこいつが 殺人事件だと分かる? 230 00:15:22,338 --> 00:15:24,757 そう言い切る根拠があるのか? 231 00:15:25,049 --> 00:15:28,552 大体 素人のくせに なぜ そう 平然としていられる! 232 00:15:28,886 --> 00:15:30,512 お前が犯人か! 233 00:15:30,638 --> 00:15:34,600 あの… この人の… 櫻子さんの叔父さんが 234 00:15:34,725 --> 00:15:36,727 法医学教室の先生なんです 235 00:15:37,394 --> 00:15:40,606 今は ご病気で引退されているんですが 236 00:15:40,731 --> 00:15:43,067 それまでは 警察の依頼で 237 00:15:43,192 --> 00:15:46,070 道内で起こった事件の多くに 協力されていたとか 238 00:15:46,195 --> 00:15:49,949 あっ! まさか その先生って 設楽(したら)先生では? 239 00:15:50,449 --> 00:15:52,451 あっ はい… そうですけど 240 00:15:52,743 --> 00:15:57,414 設楽先生には見習いのころ 研修で お世話になりました 241 00:15:57,915 --> 00:16:02,211 そうですか 先生の姪御(めいご)さん… それで… 242 00:16:02,419 --> 00:16:05,756 叔父貴(おじき)が 悪評を流していないといいのだが… 243 00:16:06,131 --> 00:16:09,760 おやっさん 彼女の意見は 聞く価値があると思います 244 00:16:09,927 --> 00:16:12,304 ひとまず 俺に預けてくれませんか? 245 00:16:12,429 --> 00:16:15,683 フンッ 素人に何が分かるもんか 246 00:16:16,517 --> 00:16:21,522 (櫻子) やれやれ ほんとに警察という組織は面倒だ… 247 00:16:21,647 --> 00:16:23,983 ゴホッ ゴホッ… 少年! 248 00:16:24,108 --> 00:16:27,569 もう! どうして いつも 櫻子さんは こうなんですか! 249 00:16:27,695 --> 00:16:28,612 (櫻子) 何だと! 250 00:16:28,737 --> 00:16:32,032 (正太郎) せっかく夕飯は 甘エビ祭りだと思ってたのに! 251 00:16:32,157 --> 00:16:35,119 (櫻子) 君の頭には 食べ物のことしかないのか! 252 00:16:37,121 --> 00:16:38,831 (山路) はい これで結構です 253 00:16:39,164 --> 00:16:42,418 (櫻子)じゃあ 私は これで… (山路)待ってください! 254 00:16:42,918 --> 00:16:47,006 (櫻子)まだ 何か? (山路)教えてくれませんか? 255 00:16:47,214 --> 00:16:50,426 なぜ あの遺体が 心中ではないのか 256 00:16:51,218 --> 00:16:54,054 紐(ひも)の結び目がきれいだったからさ 257 00:16:54,221 --> 00:16:57,182 (山路)紐の結び目? (櫻子)ああ… 258 00:16:59,143 --> 00:17:02,730 (山路)あっ… あっ! (櫻子)ここを見たまえ 259 00:17:03,731 --> 00:17:06,483 (櫻子) 男は左手に腕時計をしていた 260 00:17:06,608 --> 00:17:10,319 ネクタイの結び目を見ても 右利きだったと考えられる 261 00:17:10,445 --> 00:17:13,824 なのに 彼は その利き手を女と結んでいた 262 00:17:13,949 --> 00:17:15,534 おかしいじゃないか 263 00:17:15,742 --> 00:17:18,746 では 女性が紐を結んだのでは? 264 00:17:18,871 --> 00:17:21,874 その可能性は否定できない が… 265 00:17:22,207 --> 00:17:26,420 もし同意のうえでの心中なら 互いが死んでも離れぬよう 266 00:17:26,545 --> 00:17:30,174 力の強い男が 紐を結ぶのは自然だろう 267 00:17:30,924 --> 00:17:35,596 しかも もやい結びの紐が 逆に向かって 引かれている 268 00:17:35,721 --> 00:17:38,307 えっ? でも もやい結びって… 269 00:17:38,807 --> 00:17:40,517 やってみたまえ 270 00:17:40,768 --> 00:17:45,272 ええっと… 左手だと難しいなあ 271 00:17:45,397 --> 00:17:47,608 あっ! そうか! 272 00:17:47,733 --> 00:17:51,278 自分を結ぼうとしたら 紐は上に向かって引かれるんだ! 273 00:17:52,279 --> 00:17:53,697 (山路) なるほど… 274 00:17:54,281 --> 00:18:00,037 (櫻子) もう一つ 安易な判断はできないが 通常 溺死と判断するには 275 00:18:00,454 --> 00:18:04,541 2つのポイントがある 1つは手の中だ 276 00:18:04,666 --> 00:18:08,796 溺死する人間は苦し紛れに 何かをつかんでいることが多い 277 00:18:09,171 --> 00:18:14,343 特に心中の場合 相手の髪を 引き抜いていることも少なくない 278 00:18:14,802 --> 00:18:17,387 相手の髪を… 279 00:18:18,222 --> 00:18:21,725 死の苦痛は愛なんてものを 凌駕(りょうが)するのだろうね 280 00:18:22,518 --> 00:18:26,396 いざとなれば 相手を沈めてでも助かろうとする 281 00:18:26,814 --> 00:18:29,441 それが本能というものさ 282 00:18:31,985 --> 00:18:34,488 2つ目は口元の状態だ 283 00:18:34,655 --> 00:18:39,618 水の浸入による刺激で 肺は内側から粘液を浸出させ… 284 00:18:39,868 --> 00:18:42,996 それが 肺の中の空気や水と混じり合って 285 00:18:43,122 --> 00:18:49,503 白く泡立ち 口や鼻から… あふれ出す 286 00:18:52,923 --> 00:18:57,136 だが 2人の口元に その痕跡は認められなかった 287 00:18:57,302 --> 00:19:01,932 したがって 第三者が 2人を事前に殺害したうえで 288 00:19:02,057 --> 00:19:05,602 心中事件に偽装した可能性が 浮かんでくる 289 00:19:06,395 --> 00:19:11,608 解剖すれば 肺の中の水の有無 その他のことも分かるだろう 290 00:19:11,775 --> 00:19:13,110 待ってください! 291 00:19:13,235 --> 00:19:16,446 あんな短い時間で どうして そこまで… 292 00:19:16,572 --> 00:19:18,824 簡単なことだ 293 00:19:19,199 --> 00:19:21,994 私は君たちと違って… 294 00:19:22,411 --> 00:19:26,165 目の前の死体が 他殺体であることを― 295 00:19:26,373 --> 00:19:28,542 望んでいるからだ 296 00:19:33,630 --> 00:19:36,466 櫻子さん 不謹慎ですよ 297 00:19:36,592 --> 00:19:39,136 人間は野生動物ではない 298 00:19:39,636 --> 00:19:44,266 残念ながら 人間の死体は その辺に転がってはいないんだ 299 00:19:45,100 --> 00:19:49,730 だから 死体を見つければ 私は それが不自然だと思う 300 00:19:50,022 --> 00:19:52,024 先入観の相違だよ 301 00:19:53,483 --> 00:19:56,445 さしあたっては 2人の人間関係を洗って 302 00:19:56,570 --> 00:19:59,781 もやい結びに慣れた人間を 捜すべきだろうね 303 00:19:59,907 --> 00:20:02,534 はい 参考にさせていただきます 304 00:20:03,327 --> 00:20:06,580 ところで 電話を1本かけたいのだが 305 00:20:06,705 --> 00:20:08,707 なら 僕の携帯で… 306 00:20:08,832 --> 00:20:11,251 (櫻子) ああ… いや 公衆電話でいいんだ 307 00:20:11,376 --> 00:20:14,254 (正太郎) ん…? 櫻子さん? 308 00:20:14,379 --> 00:20:18,008 (櫻子)えっ 何だ? (正太郎)櫻子さん… 309 00:20:18,133 --> 00:20:21,637 (櫻子) いや だって これは… あっ! 310 00:20:21,929 --> 00:20:25,265 (山路)あっ! いつの間に! (櫻子)これは私のものだ! 311 00:20:25,390 --> 00:20:28,727 見過ごされるところだった 殺人事件に協力したんだ! 312 00:20:28,852 --> 00:20:31,104 このくらいの報酬は! 313 00:20:31,355 --> 00:20:36,443 さーくーらーこーさーん! 314 00:20:37,277 --> 00:20:38,946 うっ… うう… 315 00:20:39,112 --> 00:20:40,030 (おなかが鳴る音) 316 00:20:40,155 --> 00:20:42,699 (正太郎) 結局 甘エビはお預けか 317 00:20:42,908 --> 00:20:46,203 誰かさんが 頭蓋骨を持ち逃げしようとするから 318 00:20:46,328 --> 00:20:49,665 君が余計なことをするからだろう 少年 319 00:20:49,790 --> 00:20:53,835 だから その“少年”っていうの やめてもらえませんか! 320 00:20:53,961 --> 00:20:57,130 僕には“館脇正太郎”って 名前があるんです 321 00:20:57,256 --> 00:20:59,466 せめて“正太郎”と… 322 00:20:59,675 --> 00:21:01,510 (カーステレオの音楽) (正太郎)うわっ! 323 00:21:01,635 --> 00:21:04,263 ったく 勝手なんだから… 324 00:21:07,099 --> 00:21:13,188 (正太郎) うわー! ザンギだ! ばあやさん特製のポテトサラダまで 325 00:21:13,313 --> 00:21:16,275 (ばあや) 坊ちゃんが おなかをすかせて帰るからと 326 00:21:16,400 --> 00:21:19,820 お嬢様に ご連絡いただいておりましたからね 327 00:21:19,945 --> 00:21:20,862 えっ? 328 00:21:21,363 --> 00:21:24,241 じゃあ 警察で 電話をかけたいと言っていたのは 329 00:21:24,366 --> 00:21:26,326 逃げるためだけじゃなくて… 330 00:21:26,451 --> 00:21:27,911 ああ… フンッ… 331 00:21:28,036 --> 00:21:31,623 甘エビを食べさせる約束を 反故(ほご)にしてしまったからな 332 00:21:32,082 --> 00:21:33,083 ん…? 333 00:21:34,001 --> 00:21:36,003 薔子(しょうこ)さんが来たのか? 334 00:21:36,128 --> 00:21:40,549 (ばあや) ええ お嬢様が お留守で 残念がっておりました 335 00:21:42,884 --> 00:21:47,139 (正太郎) ちなみに 薔子さんというのは 櫻子さんの叔母さんだ 336 00:21:47,431 --> 00:21:51,768 薔薇(ばら)園のオーナーで 時折 櫻子さんを訪ねては… 337 00:21:52,019 --> 00:21:55,022 (ばあや) ですが ちょうどようございました 338 00:21:55,522 --> 00:21:58,400 いつもの お裾分けとおっしゃって… 339 00:21:58,525 --> 00:22:02,070 うわー! 甘エビ祭りだ! 340 00:22:06,491 --> 00:22:11,496 ♪~ 341 00:23:29,908 --> 00:23:34,913 ~♪