1 00:00:03,920 --> 00:00:06,005 (館脇(たてわき)正太郎(しょうたろう)) あれ? 先生― 2 00:00:06,131 --> 00:00:09,384 これ佐々木(ささき)先生の家族に 引き渡すんじゃなかったんですか? 3 00:00:09,509 --> 00:00:13,346 (磯崎(いそざき)齋(いつき)) それがさ こっちで 処分してほしいって言うんだ 4 00:00:13,471 --> 00:00:14,347 えっ? 5 00:00:14,472 --> 00:00:16,725 ここまで来るのは 難しいって言うから 6 00:00:16,850 --> 00:00:19,769 まとめて 宅配便で送ろうと思ってね 7 00:00:27,569 --> 00:00:31,197 あの… 僕が届けに行ってもいいですか? 8 00:00:31,322 --> 00:00:32,782 館脇が? 9 00:00:32,907 --> 00:00:37,120 一応 遺品だし 直接 手渡した方がいいと思うんです 10 00:00:39,289 --> 00:00:44,127 (正太郎) 本当のことを言うと 僕は 女性の骨を ここに置いていた― 11 00:00:44,252 --> 00:00:46,838 佐々木先生という人が知りたかった 12 00:00:47,547 --> 00:00:52,886 それが分かれば もう少し あの人のことが分かるような… 13 00:00:56,264 --> 00:00:59,059 そんな気がするんだ… 14 00:01:05,147 --> 00:01:06,900 (九条(くじょう)櫻子(さくらこ)) 何の用だ? 15 00:01:07,275 --> 00:01:10,111 ケーキです 磯崎先生と約束した 16 00:01:10,236 --> 00:01:11,071 あっ… 17 00:01:12,238 --> 00:01:13,198 うん? 18 00:01:14,824 --> 00:01:18,745 あの… それと ちょっとお願いがあるんです 19 00:01:19,829 --> 00:01:21,122 お願い? 20 00:01:24,417 --> 00:01:26,169 (正太郎) ありがとうございます 21 00:01:29,047 --> 00:01:32,175 一人で運ぶのは 大変だったので 22 00:01:40,725 --> 00:01:45,063 櫻子さん もしかして 僕のこと避けてますか? 23 00:01:46,022 --> 00:01:47,857 僕 何かしました? 24 00:01:47,982 --> 00:01:50,068 それとも 僕と一緒にいると 25 00:01:50,193 --> 00:01:51,820 何か まずいことでも? 26 00:01:52,153 --> 00:01:54,447 別に そういう わけではない 27 00:01:54,906 --> 00:01:58,034 ただ 少し疲れてるだけだ 28 00:01:59,869 --> 00:02:03,289 そういえば 猫の骨が見つからないんですよ 29 00:02:03,414 --> 00:02:05,875 櫻子さん 知りませんか? 30 00:02:06,000 --> 00:02:07,460 猫とは? 31 00:02:07,585 --> 00:02:09,294 学校にあった標本です 32 00:02:09,419 --> 00:02:11,673 猫の骨など知るものか 33 00:02:12,090 --> 00:02:16,970 (正太郎) いいえ 確かに櫻子さんは 猫の骨って 僕に言いました 34 00:02:21,099 --> 00:02:24,060 それは 私の勘違いだろう 35 00:02:24,853 --> 00:02:26,312 勘違い…? 36 00:02:27,480 --> 00:02:30,900 私だって 間違いくらいあるさ 37 00:02:36,781 --> 00:02:40,326 (春間(はるま)小雪(さゆき)) 佐々木敦郎(あつろう)の姉 春間小雪です 38 00:02:40,451 --> 00:02:44,956 生まれつき足が不自由なもので このまま失礼します 39 00:02:45,081 --> 00:02:48,209 いえ こちらこそ 押しかけてしまって 40 00:02:48,334 --> 00:02:53,089 あの… それで これが 学校で見つかったものです 41 00:02:53,214 --> 00:02:58,094 わざわざ届けてくださるなんて 本当にありがとうございます 42 00:02:58,219 --> 00:02:59,387 ああ… いえ 43 00:02:59,512 --> 00:03:00,847 (櫻子) おお! 44 00:03:03,099 --> 00:03:05,435 (櫻子)珍しい足だ! (春間)はい? 45 00:03:05,560 --> 00:03:07,312 (櫻子) この つま先だよ 46 00:03:07,437 --> 00:03:11,691 人さし指が一番長く 次いで親指と中指 47 00:03:11,816 --> 00:03:14,360 そして 薬指と小指の長さが同じだ 48 00:03:14,527 --> 00:03:18,364 これはケルト型と呼ばれていて 非常に珍しい 49 00:03:18,489 --> 00:03:19,240 (口笛) 50 00:03:19,407 --> 00:03:21,492 さ… 櫻子さん! 51 00:03:21,618 --> 00:03:28,249 ウフフ… 懐かしいですわ 弟も同じことを言っていました 52 00:03:28,583 --> 00:03:32,295 父も弟も同じ足をしていましたので 53 00:03:32,420 --> 00:03:33,922 私の叔父貴(おじき)も― 54 00:03:34,047 --> 00:03:37,550 夏場はサンダルの足を見るのが 楽しみだと言っているよ 55 00:03:37,759 --> 00:03:40,011 弟もそうでしたわ 56 00:03:40,261 --> 00:03:42,222 私も楽しみなんだ 57 00:03:42,513 --> 00:03:44,724 (正太郎) どういう会話なんだ… 58 00:03:44,849 --> 00:03:47,810 でも ちょっと 場が和んだみたいだし 59 00:03:55,526 --> 00:04:00,406 まあ 「寄生木(やどりぎ)」! そうですか 弟の所に 60 00:04:00,531 --> 00:04:03,201 もともとは 私のだったんですが 61 00:04:03,326 --> 00:04:06,829 なっちゃんも お気に入りで よく2人で読みましたわ 62 00:04:06,955 --> 00:04:10,333 (正太郎)なっちゃんって あの… (櫻子)骨の女か? 63 00:04:12,543 --> 00:04:15,004 (春間) ええ… そうです 64 00:04:16,255 --> 00:04:18,091 曾根(そね)夏子(なつこ)です 65 00:04:18,216 --> 00:04:23,221 私の世話係で かつては親友でもありました 66 00:04:23,763 --> 00:04:25,640 そうだったんですか… 67 00:04:26,391 --> 00:04:29,143 (正太郎) “かつては”か… 68 00:04:37,568 --> 00:04:40,280 あの… 他には? 69 00:04:40,405 --> 00:04:42,865 あっ 今 出しますね 70 00:04:47,870 --> 00:04:49,789 これで終わりです 71 00:04:51,541 --> 00:04:53,209 そうですか… 72 00:04:53,543 --> 00:04:56,796 学校関係や 衣類などもありましたけど 73 00:04:56,921 --> 00:04:58,715 必要でしたか? 74 00:04:58,840 --> 00:05:02,302 あとは 古い写真とか 75 00:05:02,635 --> 00:05:07,473 いえ もう一つ 骨が見つかると思ったんです 76 00:05:07,640 --> 00:05:10,226 骨? 動物の標本ですか? 77 00:05:10,351 --> 00:05:13,104 いえ… 人間の… 78 00:05:13,354 --> 00:05:15,440 赤ん坊の骨です 79 00:05:15,565 --> 00:05:18,901 赤ん坊… さすがにそれは… 80 00:05:19,027 --> 00:05:22,238 (櫻子)誰の骨だ? (正太郎)櫻子さん! 81 00:05:22,530 --> 00:05:27,035 なっちゃん… 夏子の産んだ子供の骨です 82 00:05:29,787 --> 00:05:36,377 (春間) 私の家は 大きな商家でしたが ある日 父が私の世話係として 83 00:05:36,502 --> 00:05:39,255 夏子を連れてきたんです 84 00:05:41,674 --> 00:05:46,763 遊郭勤めだった母親が亡くなり 父親も知れない夏子を 85 00:05:46,888 --> 00:05:52,977 私の父が引き取ったというのは あとから知りました 86 00:05:53,186 --> 00:05:57,023 私も弟も 夏子と すぐに打ち解け 87 00:05:57,148 --> 00:05:59,734 こんな楽しい日々は ないというぐらい 88 00:05:59,859 --> 00:06:03,404 幸せな日々が続いていました 89 00:06:03,905 --> 00:06:06,908 私が17ぐらいのころです 90 00:06:07,325 --> 00:06:10,203 夏子が未婚のまま みごもってしまい 91 00:06:10,328 --> 00:06:14,540 私が静養していた離れで 子供を産み落としたんです 92 00:06:14,665 --> 00:06:19,587 でも 早産で その子は すぐに亡くなりました 93 00:06:21,214 --> 00:06:24,008 その… 父親は もしかして… 94 00:06:24,133 --> 00:06:27,386 弟は 夏子を愛していたようでしたが 95 00:06:27,512 --> 00:06:30,848 でも 夏子は 自分をわきまえていました 96 00:06:30,973 --> 00:06:33,101 そういう時代でした 97 00:06:33,684 --> 00:06:36,104 決して 弟ではありません 98 00:06:37,605 --> 00:06:42,276 泣きながら 夏子は その不憫(ふびん)な子供を捨てにいきました 99 00:06:42,401 --> 00:06:48,282 長い夜が過ぎ 青ざめた夏子が 帰ってきて 私に言いました 100 00:06:48,407 --> 00:06:52,453 子供を埋めたのを 弟に知られてしまったと 101 00:06:53,204 --> 00:06:56,582 教師になると言って 家を勘当された弟に 102 00:06:56,707 --> 00:06:59,794 夏子が嫁ぐこともありませんでした 103 00:07:00,795 --> 00:07:04,841 2人に溝ができたことは 確かでしょう 104 00:07:05,675 --> 00:07:11,305 私が嫁ぐと同時に 夏子もすぐに家を出てしまいました 105 00:07:12,098 --> 00:07:15,268 数年後に 彼女が一人で亡くなったと知り 106 00:07:15,393 --> 00:07:18,187 私たちで遺骨を引き取ったんですが 107 00:07:18,312 --> 00:07:23,192 弟は ずっと 夏子を 忘れられなかったんでしょうね 108 00:07:24,152 --> 00:07:27,905 あのときの不幸な赤ん坊を 今でも思い出すんです 109 00:07:28,030 --> 00:07:31,826 かなうのなら 夏子とともに赤ん坊の骨も 110 00:07:31,951 --> 00:07:35,079 私たちのお墓に入れてやりたいと… 111 00:07:35,663 --> 00:07:39,208 そうですか… 弟の所には… 112 00:07:39,333 --> 00:07:42,462 だが 別の場所に 置かれている可能性はある 113 00:07:42,587 --> 00:07:43,379 えっ? 114 00:07:47,884 --> 00:07:49,510 寄生木だ 115 00:07:51,846 --> 00:07:55,183 (櫻子) 春光台には寄生木の石碑がある 116 00:07:56,350 --> 00:07:59,437 (正太郎) “蘆花(ろか) 寄生木 ゆかりの地” 117 00:08:00,104 --> 00:08:05,943 (櫻子) この辺りで何かを埋めるなら この白樺(しらかば)の根元が 一番 適当だろう 118 00:08:12,074 --> 00:08:13,451 (シャベルに何かが当たる音) (正太郎)あっ… 119 00:08:13,576 --> 00:08:14,660 どうした? 120 00:08:16,120 --> 00:08:18,414 (正太郎) 骨… じゃない 121 00:08:21,834 --> 00:08:24,337 (正太郎) オルゴールみたいですね 122 00:08:30,384 --> 00:08:33,179 まさか… 本当にあるなんて 123 00:08:38,267 --> 00:08:41,187 地中に埋めたものを 一度掘り出して 124 00:08:41,312 --> 00:08:43,147 これに納めたらしい 125 00:08:43,397 --> 00:08:45,399 (櫻子)ん? (正太郎)どうしました? 126 00:08:46,275 --> 00:08:49,570 (櫻子) これは成人女性の腰椎の欠片(かけら)だな 127 00:08:49,695 --> 00:08:50,988 (正太郎) 成人女性の? 128 00:08:51,197 --> 00:08:55,159 恐らく資料室で見つけた 夏子という女のものだろう 129 00:08:55,785 --> 00:09:00,998 あっ そうか ウフフフ… 130 00:09:01,123 --> 00:09:02,500 櫻子さん? 131 00:09:02,625 --> 00:09:05,628 (櫻子) 乳だ… なるほど 132 00:09:06,754 --> 00:09:08,422 マミラリ・プロセス 133 00:09:08,548 --> 00:09:10,424 この2つの突起のことを 134 00:09:10,550 --> 00:09:13,970 ラテン語で “小さな乳房”と呼ぶんだよ 135 00:09:14,679 --> 00:09:16,180 (正太郎) それって… 136 00:09:16,305 --> 00:09:20,601 恐らく 佐々木先生が入れたんだ 彼らしいじゃないか 137 00:09:20,810 --> 00:09:25,398 つまり 夏子さんが亡くなったあと 赤ちゃんの骨を掘り起こして 138 00:09:25,523 --> 00:09:28,651 オルゴールに詰めて また埋めたってことですか? 139 00:09:29,193 --> 00:09:32,113 恐らく そうだ ん…? 140 00:09:32,613 --> 00:09:35,408 (櫻子)何だ これは (正太郎)何か… 141 00:09:41,539 --> 00:09:42,790 いや… 142 00:09:44,584 --> 00:09:47,587 ひとまず あの ご婦人の所へ帰ろう 143 00:09:49,672 --> 00:09:53,759 (春間) これは 私から夏子へ贈った オルゴールです 144 00:09:54,093 --> 00:09:58,014 (櫻子) 恐らく遺骨と一緒に 佐々木先生が引き取ったものだろう 145 00:09:59,098 --> 00:10:00,516 一体 どこに… 146 00:10:00,641 --> 00:10:03,019 あなたが捜していたのは これだね 147 00:10:03,144 --> 00:10:06,981 えっ? あっ… じゃあ まさか… 148 00:10:08,941 --> 00:10:15,072 ああっ! これで… 一緒にお墓に入れてやれます 149 00:10:15,197 --> 00:10:21,078 (櫻子) それがいい いずれ本当の母親も 同じ墓に入ることになるのだからな 150 00:10:26,292 --> 00:10:29,837 あなたも 佐々木先生や夏子と 同じ墓に入るんだろう? 151 00:10:30,004 --> 00:10:32,590 櫻子さん それは どういう…? 152 00:10:32,798 --> 00:10:35,509 子供を産んだのは夏子ではない 153 00:10:35,801 --> 00:10:37,428 あなただね 154 00:10:37,762 --> 00:10:38,971 (正太郎) えっ… 155 00:10:39,972 --> 00:10:43,893 (櫻子) 夏子が 自ら子供を埋めに行ったと あなたは話した 156 00:10:44,018 --> 00:10:46,937 最初に埋めたのが どこであったかは知らないが 157 00:10:47,063 --> 00:10:50,232 何にせよ 出産直後に それを行うのは 158 00:10:50,358 --> 00:10:53,235 下手をすれば命に関わる 危険な行為だ 159 00:10:53,903 --> 00:10:58,866 そもそも 彼女が わざわざ あなたの部屋で出産した理由は? 160 00:10:59,200 --> 00:11:00,576 うっ… それは… 161 00:11:00,910 --> 00:11:05,748 それは つまり その場でなければ ならない理由があったんだろう 162 00:11:07,583 --> 00:11:10,419 そのオルゴールに入っている 赤ん坊の拇指(ぼし)は― 163 00:11:10,544 --> 00:11:13,130 第三趾(だいさんし)と同じ長さだった 164 00:11:13,839 --> 00:11:15,299 だいさんし? 165 00:11:15,424 --> 00:11:21,013 つまり あの赤ん坊の足のつま先は あなたと同じケルト型なんだよ 166 00:11:23,140 --> 00:11:26,227 ケルト型のつま先は本当に珍しい 167 00:11:26,560 --> 00:11:29,897 仮に あの赤ん坊を 夏子が産んだとするなら― 168 00:11:30,189 --> 00:11:33,776 確率論的に赤ん坊の父親は… 169 00:11:33,901 --> 00:11:38,197 (正太郎) 佐々木先生か… でなければ 2人のお父さんってこと? 170 00:11:38,322 --> 00:11:39,698 (春間) 違います! 171 00:11:40,616 --> 00:11:43,369 この子は母親に似たんです 172 00:11:44,203 --> 00:11:47,164 産んだのは この私ですから… 173 00:11:49,625 --> 00:11:50,793 はあ… 174 00:11:51,544 --> 00:11:54,588 私は父の知り合いで 175 00:11:54,713 --> 00:12:00,386 時折 家を訪れていた人に 恋をしてしまいましたの 176 00:12:02,179 --> 00:12:05,641 (春間) 夏子は すてきな恋文を代筆してくれたり 177 00:12:05,766 --> 00:12:08,769 いろいろと手引きをしてくれました 178 00:12:09,103 --> 00:12:12,106 でも その人に 家庭があることを知り 179 00:12:12,231 --> 00:12:14,608 私たちは別れました 180 00:12:15,109 --> 00:12:17,820 でも そのとき 私のおなかには… 181 00:12:20,197 --> 00:12:24,535 折悪く 父が縁談の話を進めており 182 00:12:25,369 --> 00:12:28,164 どうするか 思いあぐねているうちに… 183 00:12:31,083 --> 00:12:34,003 そのあとは 先ほどのお話どおりです 184 00:12:34,128 --> 00:12:37,131 夏子は 私を守ってくれたんです 185 00:12:37,256 --> 00:12:40,551 弟との恋路を捨ててでも… 186 00:12:41,260 --> 00:12:46,891 みんなに先立たれ 気が付けば 私一人になっていました 187 00:12:47,725 --> 00:12:53,606 フッ… これも自業自得 というものなのかもしれませんわ 188 00:12:57,067 --> 00:13:01,113 (正太郎) 骨を手元に置いておくほどなら なぜ 佐々木先生は 189 00:13:01,238 --> 00:13:04,617 最初から 夏子さんとの思いを 遂げなかったんだろう 190 00:13:04,992 --> 00:13:07,912 (櫻子)君の悪い癖だ (正太郎)はい? 191 00:13:08,245 --> 00:13:11,874 真実は 必ずしも 一つであるとは限らない 192 00:13:11,999 --> 00:13:13,250 どういうことですか? 193 00:13:13,375 --> 00:13:17,796 佐々木先生は 赤ん坊が 夏子の子だと思い込んでいた 194 00:13:18,839 --> 00:13:20,174 お姉さんの子なら― 195 00:13:20,299 --> 00:13:23,219 骨の一部を入れてあげる理由が ありませんからね 196 00:13:23,344 --> 00:13:27,681 そのため 自分の家系に多い つま先の特徴を見て 197 00:13:27,848 --> 00:13:31,810 夏子の父は 自分の父親だと 思ってしまったのではないか 198 00:13:31,936 --> 00:13:35,439 えっ… でも夏子さんに お父さんはいないって… 199 00:13:35,564 --> 00:13:39,860 (春間) 父親も知れない夏子を 私の父が引き取った… 200 00:13:39,985 --> 00:13:41,779 ああ… そうか… 201 00:13:42,446 --> 00:13:47,535 それならば 夏子が 佐々木家に来た経緯も納得がいく 202 00:13:47,910 --> 00:13:52,289 確かに お父さんが連れてきたって 言ってましたね 203 00:13:52,581 --> 00:13:57,503 あの骨の状態からして 先生は 数年で掘り起こしていたのだろう 204 00:13:58,504 --> 00:14:01,090 そして そのときに 自分と夏子が 205 00:14:01,215 --> 00:14:04,426 異母兄弟であると 思い込んでしまったんだ 206 00:14:05,594 --> 00:14:08,722 そっか… だからだったんですね 207 00:14:10,975 --> 00:14:15,437 (正太郎) だからといって好きだった人の骨を 手元に置いておいたり― 208 00:14:15,563 --> 00:14:18,107 掘り起こす行為は 普通じゃないと思う 209 00:14:18,649 --> 00:14:24,363 でも 櫻子さんには分かるんだ そんな佐々木先生の気持ちが… 210 00:14:24,488 --> 00:14:25,406 あっ… 211 00:14:27,199 --> 00:14:29,201 あっ… 櫻子さん! 212 00:14:31,745 --> 00:14:34,748 大丈夫です バスで帰れますから 213 00:14:35,666 --> 00:14:37,835 ちょっと 調べもの 思い出しちゃって 214 00:14:38,002 --> 00:14:39,128 ふーん… 215 00:14:48,012 --> 00:14:50,806 (磯崎) 旭川が舞台の話らしいね 216 00:14:50,931 --> 00:14:55,352 確か北鎮記念館にパネルがあったな 217 00:14:58,606 --> 00:15:00,900 (正太郎) 何度もお邪魔して すいません 218 00:15:03,193 --> 00:15:06,572 私と夏子です 懐かしい 219 00:15:06,697 --> 00:15:09,575 あの 裏を見ていただけますか? 220 00:15:12,494 --> 00:15:16,540 北鎮記念館で その短歌の意味を調べてきました 221 00:15:16,665 --> 00:15:20,753 「寄生木」のモデルになった 主人公が亡くなったことを知った 222 00:15:20,878 --> 00:15:25,925 徳富(とくとみ)蘆花が 春光台で 詠(うた)ったといわれたものですわね 223 00:15:26,258 --> 00:15:28,177 ご存じだったんですね 224 00:15:28,469 --> 00:15:34,767 これは 蘆花が人の別れに対する 断腸の思いを詠ったものなんです 225 00:15:34,892 --> 00:15:36,810 そうみたいですね 226 00:15:36,936 --> 00:15:40,606 僕 勝手に その短歌を よくないものだと誤解して 227 00:15:40,731 --> 00:15:43,984 渡しそびれちゃって… すいませんでした 228 00:15:44,109 --> 00:15:47,196 そうでしたの フフフ… 229 00:15:48,864 --> 00:15:54,036 本を読むのが大好きだった なっちゃんらしいわ… 230 00:15:56,038 --> 00:15:57,289 ん? 231 00:15:58,540 --> 00:15:59,500 はっ! 232 00:16:00,084 --> 00:16:05,214 自分が長くないことを知って あの子は この写真に― 233 00:16:05,339 --> 00:16:08,842 別れの思いを 記したのかもしれませんね 234 00:16:12,554 --> 00:16:17,434 ごめんね… 本当にごめんね… なっちゃん! 235 00:16:26,235 --> 00:16:31,365 (正太郎) “真実は 必ずしも 一つであるとはかぎらない”か… 236 00:16:34,827 --> 00:16:36,662 一つじゃない… 237 00:16:37,371 --> 00:16:39,039 radius(レイディアス)… 238 00:16:39,623 --> 00:16:41,166 そうか! 239 00:16:43,085 --> 00:16:49,049 あなたは いつだって 物事には骨が 理由があると言ってましたよね 240 00:16:53,595 --> 00:16:55,597 (櫻子) “理由”とは? 241 00:16:55,889 --> 00:16:59,184 あなたが学校の骨を盗んだ理由です 242 00:16:59,476 --> 00:17:02,187 フッ… 話だけは聞いてやろう 243 00:17:02,938 --> 00:17:06,525 よく考えれば 珍しくもない猫の骨を 244 00:17:06,650 --> 00:17:09,111 あなたが盗むこと自体が 不自然なんです 245 00:17:09,444 --> 00:17:13,323 理科室に貼られた 骨格のポスターを見て気付きました 246 00:17:13,824 --> 00:17:19,121 ulna(アルナ)… つまり尺骨は 二の腕から手首までの間に 247 00:17:19,246 --> 00:17:24,626 二股に別れた骨の一方で もう一方は橈骨(とうこつ) radius(レイディアス)です 248 00:17:24,960 --> 00:17:30,340 なぜ 上腕骨でもなく 大腿骨でもなく 尺骨なのか 249 00:17:30,758 --> 00:17:33,594 それは “アルナ”と対をなす 250 00:17:33,719 --> 00:17:36,889 “レイディアス”の名前を持つ猫も いたんじゃないんですか? 251 00:17:37,848 --> 00:17:41,602 あなたが欲しがる猫の骨といえば これしかない 252 00:17:41,894 --> 00:17:44,063 学校にあった猫の標本 253 00:17:44,188 --> 00:17:48,734 つまり あなたが盗んだ骨こそが レイディアスの骨なんです 254 00:17:48,859 --> 00:17:50,903 そして もう一つ… 255 00:17:52,154 --> 00:17:53,697 続けたまえ 256 00:17:54,073 --> 00:17:58,869 櫻子さん あなたは うちの高校の 卒業生だったんですね 257 00:17:58,994 --> 00:18:01,038 なぜ そう思うんだ? 258 00:18:01,163 --> 00:18:04,792 それなら骨がつながるからです 259 00:18:07,044 --> 00:18:10,464 文化祭のとき 迷わず理科室にいたこと 260 00:18:10,589 --> 00:18:14,927 (櫻子) 違うな これは 佐々木先生が 作ったものではないと思う 261 00:18:15,511 --> 00:18:18,722 (正太郎) 佐々木先生の名前を あなたはすでに知っていた 262 00:18:18,847 --> 00:18:23,185 更に言うなら 明聖(めいせい)高校は10年前は女子校でした 263 00:18:23,519 --> 00:18:27,106 女子校なら お嬢様の櫻子さんが通っていても 264 00:18:27,231 --> 00:18:29,024 不思議じゃないですしね 265 00:18:29,525 --> 00:18:32,569 (櫻子) ウフフ… 266 00:18:33,737 --> 00:18:35,948 少年にしては上出来だ 267 00:18:36,073 --> 00:18:39,827 君は洞察力は足りないが 観察力はある 268 00:18:40,119 --> 00:18:44,164 ちょっとした違和感だったので すっかり忘れてましたが 269 00:18:44,498 --> 00:18:47,793 私より よほど探偵向きかもしれないぞ 270 00:18:47,918 --> 00:18:50,420 (正太郎)えっ? (櫻子)フフッ… 271 00:18:51,255 --> 00:18:54,967 私の技術は 佐々木先生から学んだものなんだ 272 00:18:57,636 --> 00:19:00,305 本当に いい先生だったよ 273 00:19:04,643 --> 00:19:08,188 君の言うとおり これがレイディアスだ 274 00:19:08,355 --> 00:19:10,649 しかし 見たいとは思っていたが 275 00:19:10,816 --> 00:19:13,652 手元に置いておこうとは 考えてなかった 276 00:19:13,777 --> 00:19:15,696 (正太郎) じゃあ どうして… 277 00:19:15,821 --> 00:19:19,741 修繕が必要だった この骨は特別なものだから 278 00:19:19,867 --> 00:19:22,119 持ち帰って やりたかっただけだ 279 00:19:22,661 --> 00:19:25,289 (正太郎) なら 言ってくれればよかったのに 280 00:19:25,873 --> 00:19:27,624 (櫻子)君だよ (正太郎)えっ? 281 00:19:27,833 --> 00:19:31,920 君が猫の生きていたころなどという 話をしたからだ 282 00:19:32,546 --> 00:19:34,631 だから 返したくなくなった 283 00:19:34,756 --> 00:19:35,716 あっ… 284 00:19:36,049 --> 00:19:39,219 アルナとレイディアスは いつも互いに寄り添って 285 00:19:39,344 --> 00:19:41,388 本当に仲が良かった 286 00:19:42,139 --> 00:19:45,475 昔のように 一緒に置いてやりたかったんだ 287 00:19:45,684 --> 00:19:49,313 そもそも これは私の骨ともいえる標本だ! 288 00:19:49,438 --> 00:19:52,107 私が持っていて 何が悪い! 289 00:19:54,359 --> 00:19:56,778 本当に くだらないことだ 290 00:19:56,904 --> 00:20:00,240 感情的で 愚かな人間と同じじゃないか… 291 00:20:00,574 --> 00:20:03,952 犬の方が よほど自制心があるというものだ 292 00:20:06,997 --> 00:20:08,916 あの日は雨だった 293 00:20:09,374 --> 00:20:14,004 アルナとレイディアスは 何者かに毒を盛られて死んだんだ 294 00:20:15,130 --> 00:20:18,342 2匹とも とても苦しんでね 295 00:20:20,093 --> 00:20:23,138 (櫻子) 佐々木先生は 何も聞きはしなかったが 296 00:20:23,513 --> 00:20:26,808 私の望んでいたことを 理解してくれた 297 00:20:29,311 --> 00:20:32,356 彼は本当に すぐれた標本士だった 298 00:20:32,731 --> 00:20:38,070 このことがきっかけで私は先生から 丁寧な指導を受けるようになった 299 00:20:38,195 --> 00:20:41,657 そして 私を たった一人のまな弟子だと 300 00:20:41,782 --> 00:20:43,492 そう言ってくれたんだ 301 00:20:43,825 --> 00:20:47,371 (正太郎) 思い出の… きっかけの標本なんですね 302 00:20:47,746 --> 00:20:50,415 (櫻子) 余計な話はしない人だったが 303 00:20:50,540 --> 00:20:54,169 一度だけ 彼の伴侶について 話をしたことがある 304 00:20:55,420 --> 00:20:58,382 添い遂げることは かなわない相手だったが 305 00:20:58,507 --> 00:21:02,386 彼女が死して やっと 自分たちは一つになれた 306 00:21:02,511 --> 00:21:06,473 そばにいてくれるんだと… 彼は私に そう話した 307 00:21:06,598 --> 00:21:09,393 じゃあ そのときは もうあそこに… 308 00:21:09,518 --> 00:21:14,398 (櫻子) 彼にとって 死は 安らぎであり 完成した形だった 309 00:21:15,816 --> 00:21:18,902 彼は間違いなく幸福だったと思う 310 00:21:20,237 --> 00:21:22,614 レイディアスは返さなくていいです 311 00:21:23,365 --> 00:21:24,533 何? 312 00:21:24,992 --> 00:21:29,538 磯崎先生に話しました 狐(きつね)の骨と交換でいいそうです 313 00:21:30,956 --> 00:21:32,541 少年…! 314 00:21:33,875 --> 00:21:38,463 そ… それじゃ いつまでも こんな箱に閉じ込めておかないで 315 00:21:38,588 --> 00:21:42,009 レイディアスを組み立てましょう! お手伝いします 316 00:21:43,135 --> 00:21:45,721 ばあや! 少年に紅茶を頼む! 317 00:21:45,846 --> 00:21:49,891 (正太郎) えーっと… で 何から始めれば? 318 00:21:53,645 --> 00:21:58,275 (櫻子) 深入りするつもりはありません 事実を知りたいだけです 319 00:22:00,277 --> 00:22:01,570 でないと… 320 00:22:03,947 --> 00:22:05,407 私は… 321 00:22:05,991 --> 00:22:10,996 ♪~ 322 00:23:29,991 --> 00:23:34,996 ~♪