1 00:00:09,042 --> 00:00:12,045 また 薬種屋が殺されたよ。 2 00:00:12,045 --> 00:00:15,048 聞いたよ。 柳家の若主人だろう? 3 00:00:15,048 --> 00:00:17,050 下手人は 植木職人らしいね。 4 00:00:17,050 --> 00:00:22,055 その前の事件の下手人は ごま塩頭の年寄りだった。 5 00:00:22,055 --> 00:00:24,057 水戸様のそばで起きた事件から➡ 6 00:00:24,057 --> 00:00:27,060 立て続けに 薬種屋殺しが続いているね。 7 00:00:27,060 --> 00:00:30,063 ねぇ いくら何でも おかしいと思わないかい? 8 00:00:30,063 --> 00:00:34,067 見てごらんよ この挿絵の大仰なこと。 9 00:00:34,067 --> 00:00:36,069 私を襲った ぼてふりが こんなやつだったら➡ 10 00:00:36,069 --> 00:00:38,071 今ごろ 生きちゃいないよ。 11 00:00:38,071 --> 00:00:40,073 すごいねぇ この下手人。 12 00:00:40,073 --> 00:00:44,077 まるで 妖か伴天連の 妖術使いのようだね。 13 00:00:44,077 --> 00:00:46,079 術? 14 00:00:46,079 --> 00:00:50,083 分からないけど えらく奇妙だなと思うだけさね。 15 00:00:50,083 --> 00:00:54,087 奇妙… か。 16 00:00:54,087 --> 00:01:04,064 ♬~ 17 00:02:36,023 --> 00:02:39,026 ずっと考えていたんだけどね 今度の殺しの真相は➡ 18 00:02:39,026 --> 00:02:42,029 こういうことだったんじゃ ないかと思うんだ。 19 00:02:42,029 --> 00:02:45,032 もしかしたら この事件は 私たちじゃなけりゃ➡ 20 00:02:45,032 --> 00:02:47,701 どうにもできないこと かもしれないよ。 21 00:02:47,701 --> 00:02:49,703 えっ? (佐助)何を言いだすんです? 22 00:02:49,703 --> 00:02:53,040 まあ 見なさいよ。 これは 瓦版だから➡ 23 00:02:53,040 --> 00:02:55,709 こんな尋常じゃないふうに 描いてあるけど➡ 24 00:02:55,709 --> 00:02:59,046 もしかしたら それが 事の真相なんじゃないのかね。 25 00:02:59,046 --> 00:03:03,050 つまり 人ならぬものが 関わっているということですか? 26 00:03:03,050 --> 00:03:08,055 そうとしか考えられないよ。 あまりにおかしなことが多すぎる。 27 00:03:08,055 --> 00:03:12,059 私とお前が襲われた日のことを よく思い出しておくれ。 28 00:03:12,059 --> 00:03:14,061 (仁吉) 確かに あのときの ぼてふりは➡ 29 00:03:14,061 --> 00:03:18,065 どうにも様子が変でしたよ。 でも あれは人です。➡ 30 00:03:18,065 --> 00:03:21,735 私たち妖には 人ならぬものは分かります。 31 00:03:21,735 --> 00:03:24,071 私だって ずっと そう思っていたさ。 32 00:03:24,071 --> 00:03:29,076 初めて人殺しを見た あの夜だって 行き合ったのは 確かに人だった。 33 00:03:29,076 --> 00:03:33,013 だけど もしかしたらと 思うことがある。 34 00:03:33,013 --> 00:03:35,015 (佐助)何です? 下手人たちは➡ 35 00:03:35,015 --> 00:03:40,020 1人の妖に 次々と つかれているんじゃないかな。 36 00:03:40,020 --> 00:03:43,023 取りついた人が 捕まって役に立たなくなると➡ 37 00:03:43,023 --> 00:03:45,025 別のものに乗り移る。 38 00:03:45,025 --> 00:03:49,029 そして 取りついている間は 気配を発しない。 39 00:03:49,029 --> 00:03:53,033 そう考えると 辻褄が合うことが多いんだよ。 40 00:03:53,033 --> 00:03:56,036 それで 私自身 納得のいっていないことを➡ 41 00:03:56,036 --> 00:03:58,038 整理してみたんだ。 42 00:03:58,038 --> 00:04:04,044 一。 聖堂そばの事件 大工の首は なぜ落とされたのか。 43 00:04:04,044 --> 00:04:08,048 二。 なぜ ぼてふりは ささいなことで大工を殺したのか。 44 00:04:08,048 --> 00:04:11,051 三。 盗んだ大工道具を➡ 45 00:04:11,051 --> 00:04:14,054 ばらばらに分けて 売り払ったのは なぜか。 46 00:04:14,054 --> 00:04:18,058 四。 以前 棟梁は 何か盗まれていたというが➡ 47 00:04:18,058 --> 00:04:21,061 今回の件と関係はあるのか。 48 00:04:21,061 --> 00:04:26,066 五。 下手人たちの欲しがっている 薬とは どんなものか。 49 00:04:26,066 --> 00:04:29,069 六。 別々の下手人が 同じことを言って➡ 50 00:04:29,069 --> 00:04:32,005 薬種屋ばかりを襲うのは なぜか。 51 00:04:32,005 --> 00:04:34,007 七。 下手人たちが➡ 52 00:04:34,007 --> 00:04:38,011 簡単に薬種屋を殺してしまうのは どうしてか。 53 00:04:38,011 --> 00:04:42,015 驚いた。 そんなことを考えていたんですか。 54 00:04:42,015 --> 00:04:45,018 これが 私が納得できないと 思っていることだよ。 55 00:04:45,018 --> 00:04:50,023 例えば 六。 別々の下手人が 同じことを言っているのは➡ 56 00:04:50,023 --> 00:04:52,359 同じ妖に 取りつかれていたとしたら➡ 57 00:04:52,359 --> 00:04:56,029 筋が通るだろう? それに 一と 二と 七。 58 00:04:56,029 --> 00:04:59,032 人を殺して首を落とすなんていう 極端なことをするのも➡ 59 00:04:59,032 --> 00:05:02,702 妖の行いだとしたら 少しは納得がいく。 60 00:05:02,702 --> 00:05:06,039 えっ? 大概の妖は 凶暴じゃありませんよ。 61 00:05:06,039 --> 00:05:10,043 誰も 妖全部が凶暴だなんて 言ってやしないよ。 62 00:05:10,043 --> 00:05:14,047 ただ 事の善悪の基準が 人と妖とは違う。 63 00:05:14,047 --> 00:05:17,050 感じ方だって ずれているものだしね。 64 00:05:17,050 --> 00:05:20,053 さて 三と四は 大工道具のことだ。 65 00:05:20,053 --> 00:05:24,057 これは 以前 妖たちに 聞いてもらっていたね。 66 00:05:24,057 --> 00:05:27,060 下手人が捕まって それっきりになったのだけど。 67 00:05:27,060 --> 00:05:31,331 仁吉 もう一回妖たちに頼んで 調べ直してもらえるかな? 68 00:05:31,331 --> 00:05:34,000 (仁吉)伝えておきましょう。 69 00:05:34,000 --> 00:05:38,672 残りは 五だ。 これが 一番の難物だという気がする。 70 00:05:38,672 --> 00:05:42,008 妖が欲しがっていた薬とは何か。 71 00:05:42,008 --> 00:05:46,680 人を殺してまでも欲しいと思う 薬は何だろう。 72 00:05:46,680 --> 00:05:49,683 (仁吉)こればかりは あたしらには分かりませんよ。➡ 73 00:05:49,683 --> 00:05:52,018 だいたい 下手人が 欲しがっているという薬が➡ 74 00:05:52,018 --> 00:05:55,021 あるものかどうかも定かではない。 75 00:05:55,021 --> 00:05:57,023 うちの店に来たとき➡ 76 00:05:57,023 --> 00:06:00,026 命をあがなう薬 とか言ってなかったっけ。 77 00:06:00,026 --> 00:06:03,029 あのときは 店に木乃伊がありましたからね。 78 00:06:03,029 --> 00:06:07,033 でも 木乃伊は 欲しかった薬ではなかった…。 79 00:06:07,033 --> 00:06:09,035 そういえば あの日➡ 80 00:06:09,035 --> 00:06:12,038 ぼてふりは 香りがするって 言ってなかったかい? 81 00:06:12,038 --> 00:06:16,042 店には あまたの生薬があって においも混じっています。➡ 82 00:06:16,042 --> 00:06:19,713 あの中で ただ一つの香りを 嗅ぎ分けたとは思えません。 83 00:06:19,713 --> 00:06:22,048 そうだけど…。 若だんな。 84 00:06:22,048 --> 00:06:25,051 お考えは ありがたく拝聴していますよ。➡ 85 00:06:25,051 --> 00:06:28,054 でも そろそろ 五つを過ぎています。➡ 86 00:06:28,054 --> 00:06:30,991 風呂が まだでしょう。 おや いけない。 87 00:06:30,991 --> 00:06:32,959 (仁吉) あたしは もう済ましたので。 88 00:06:34,995 --> 00:06:36,997 (障子の開く音) 89 00:06:36,997 --> 00:06:38,999 (障子の閉じる音) (仁吉)ハァ…。 90 00:06:38,999 --> 00:06:43,003 (屏風のぞき)いつまで 若だんなに隠しておけるかね。 91 00:06:43,003 --> 00:06:45,005 (仁吉)何を言いだす気だい? 92 00:06:45,005 --> 00:06:49,009 あのことに関しては あたしは何も言う気はないよ。 93 00:06:49,009 --> 00:06:51,011 頼まれたって ごめんさね。➡ 94 00:06:51,011 --> 00:06:53,013 だけどさ➡ 95 00:06:53,013 --> 00:06:57,017 若だんなの言うとおり 妖が一枚かんでいるとしたら➡ 96 00:06:57,017 --> 00:07:00,020 何も言わなくて大丈夫なのかい? 97 00:07:00,020 --> 00:07:02,022 たぶん 狙いは 若だんなじゃないのかい? 98 00:07:02,022 --> 00:07:05,025 お前が どうこう 言うことじゃないよ。 99 00:07:05,025 --> 00:07:07,027 あたしはね➡ 100 00:07:07,027 --> 00:07:10,030 これでも 若だんなのことは 気に入ってるんだよ。➡ 101 00:07:10,030 --> 00:07:14,034 あの子が離れに来てから 菓子は たんと食べられるし➡ 102 00:07:14,034 --> 00:07:18,038 一緒に碁で遊ぶのも いいもんだ。 103 00:07:18,038 --> 00:07:22,709 心配しているのは お前さんたちだけじゃないんだよ。 104 00:07:22,709 --> 00:07:24,711 (仁吉)大丈夫。➡ 105 00:07:24,711 --> 00:07:29,049 あたしたちは 若だんなを守ると約束申し上げた。 106 00:07:29,049 --> 00:07:31,318 必ず そうする。 107 00:07:31,318 --> 00:07:35,989 できるなら 若だんなに いらぬことは言いたくないんだよ。 108 00:07:35,989 --> 00:07:38,658 優しい子だからね。 109 00:07:38,658 --> 00:07:40,994 己のことで悩むことになったら➡ 110 00:07:40,994 --> 00:07:43,997 たまらない。 111 00:07:43,997 --> 00:07:45,966 (屏風のぞき)うん…。 112 00:07:55,008 --> 00:07:58,011 (仁吉)なぜ 大工道具を 分けて売ったのか➡ 113 00:07:58,011 --> 00:08:00,013 理由は聞いたかい? 114 00:08:00,013 --> 00:08:04,017 いいえ。 私が訪ねた店では 誰も知りませんでした。 115 00:08:04,017 --> 00:08:08,021 店主だって 訳ありの品だなんて 思いもしないでしょうからね。 116 00:08:08,021 --> 00:08:12,025 もともと 一揃いを いっぺんに 売りに来る客の方が珍しいんだ。 117 00:08:12,025 --> 00:08:16,029 《結局 ばらばらに売った理由は 分からないままか》 118 00:08:16,029 --> 00:08:19,699 若だんな 売られた道具が揃ったのなら➡ 119 00:08:19,699 --> 00:08:23,036 棟梁が大工道具の中から 盗まれた品が何か➡ 120 00:08:23,036 --> 00:08:26,005 分かるんじゃありませんか? ああ そうだね。 121 00:08:28,041 --> 00:08:32,045 ええと… 鋸 手斧 錐 鑢。 122 00:08:32,045 --> 00:08:37,050 木槌 金槌 玄翁。 (蛇骨婆)釘袋 曲尺。 123 00:08:37,050 --> 00:08:43,056 あとは 砥石 鉋 鑿。 これで全部ですね。 124 00:08:43,056 --> 00:08:46,025 それじゃあ 消えた道具の名は…。 125 00:08:48,061 --> 00:08:52,065 駄目だよ。 私じゃあ 何が足りないのか分かりゃしない。 126 00:08:52,065 --> 00:08:54,067 誰ぞ詳しい者は いないかい? 127 00:08:54,067 --> 00:08:59,072 それならば 私が。 誰だい? 見慣れない顔だね。 128 00:08:59,072 --> 00:09:01,074 織部の茶器と申します。 129 00:09:01,074 --> 00:09:04,077 織部焼というのは 千利休の弟子である➡ 130 00:09:04,077 --> 00:09:09,082 古田織部さまの好みで作られた 美濃の古陶器でございまして➡ 131 00:09:09,082 --> 00:09:12,085 こう見えても 高直なものなんですよ。➡ 132 00:09:12,085 --> 00:09:16,089 だから 私なぞ大切にされて こうして付喪神になれたわけで。 133 00:09:16,089 --> 00:09:18,091 講釈はいいから すぱっと言いねぇ。 134 00:09:18,091 --> 00:09:20,093 だから 今 説明しているじゃないか。 135 00:09:20,093 --> 00:09:22,762 そんなわけで 品のいい私は➡ 136 00:09:22,762 --> 00:09:25,098 骨董屋に行くことも あったんですが➡ 137 00:09:25,098 --> 00:09:28,101 そこに 墨壺が 時々来ていました。 138 00:09:28,101 --> 00:09:30,103 墨壺? 139 00:09:30,103 --> 00:09:33,039 材木に線を引くための 大工道具です。 140 00:09:33,039 --> 00:09:35,041 (織部の茶器) 他の大工道具と違って➡ 141 00:09:35,041 --> 00:09:37,043 凝った細工をしたものが 多いそうで➡ 142 00:09:37,043 --> 00:09:40,046 棟梁ともなれば 細工のすてきな墨壺を➡ 143 00:09:40,046 --> 00:09:42,048 欲しがるそうです。 144 00:09:42,048 --> 00:09:45,051 墨壺… 確かに それはなかったね。 145 00:09:45,051 --> 00:09:50,056 となると 棟梁がなくしたのは 墨壺に間違いないみたいだ。 146 00:09:50,056 --> 00:09:55,061 でも このことは 今度の一件と関係あるだろうか。 147 00:09:55,061 --> 00:09:57,063 今のところ あるとは言えませんね。➡ 148 00:09:57,063 --> 00:10:01,034 関わりが見えてこない。 そうだね…。 149 00:10:03,069 --> 00:10:06,072 (鳴家たち)きゅわ~ きゅわきゅわ。 (野寺坊)たまらんなぁ。 150 00:10:06,072 --> 00:10:08,074 (ふらり火)いいねぇ 酒は。 151 00:10:08,074 --> 00:10:12,078 みんな頑張って働いてくれたから 私からのお礼だよ。 152 00:10:12,078 --> 00:10:14,080 たくさん回った かいがありました。 153 00:10:14,080 --> 00:10:17,083 われなど 20軒も回ったからな。 154 00:10:17,083 --> 00:10:22,088 そういえば 金槌を見つけた店に かわいそうな墨壺があったね。➡ 155 00:10:22,088 --> 00:10:27,093 そりゃあ凝った細工で 人の手が 墨壺をつかんでいる格好の➡ 156 00:10:27,093 --> 00:10:31,030 彫り物があったっけね。 いいものだったに違いないのに➡ 157 00:10:31,030 --> 00:10:36,035 底の木が縦に割れていたんだよ。 あれじゃ使い物にならないね。 158 00:10:36,035 --> 00:10:41,040 それなら われも見たぞ。 鑿を見つけた質屋にあったんだ。 159 00:10:41,040 --> 00:10:43,042 私も それは知ってますよ。➡ 160 00:10:43,042 --> 00:10:46,045 ぼてふりから 鋸を買い取った店に 置いてありました。 161 00:10:46,045 --> 00:10:48,047 知ってる 知ってる。 162 00:10:48,047 --> 00:10:50,049 かわいそうでしたねぇ。 163 00:10:50,049 --> 00:10:53,052 あれは 職人が 魂を込めて作ったものですよ。 164 00:10:53,052 --> 00:10:57,056 相当古い道具に見えたから うまくいけば遠からず➡ 165 00:10:57,056 --> 00:10:59,058 付喪神にも なれたかもしれないのに。 166 00:10:59,058 --> 00:11:04,731 でも ああ損なわれてしまっちゃあ とてものこと付喪神にはなれまい。 167 00:11:04,731 --> 00:11:07,066 100年を経た古いものでも➡ 168 00:11:07,066 --> 00:11:09,402 壊れていては 付喪神になれないの? 169 00:11:09,402 --> 00:11:12,071 (ふらり火) そりゃあそうですよ 若だんな。➡ 170 00:11:12,071 --> 00:11:15,074 ただの道具が 妖になろうっていうんですよ。➡ 171 00:11:15,074 --> 00:11:19,078 その身を損なっていては 金輪際なれたものじゃありません。 172 00:11:19,078 --> 00:11:23,750 ねぇ さっき 割れた墨壺を 見たと言ったのは誰だったかね。 173 00:11:23,750 --> 00:11:25,752 私ですよ。 (野寺坊)われも。 174 00:11:25,752 --> 00:11:28,087 あたしが話を始めまして。 175 00:11:28,087 --> 00:11:30,089 その墨壺を買った者を見たかい? 176 00:11:30,089 --> 00:11:33,693 (蛇骨婆)いえ。 (野寺坊)われも知りませんが。 177 00:11:33,693 --> 00:11:36,029 見ました。 (妖たち)おぉ~。 178 00:11:36,029 --> 00:11:39,032 私が墨壺に気付いたのは➡ 179 00:11:39,032 --> 00:11:42,035 客が安さに引かれて それを買おうとしていたからで。➡ 180 00:11:42,035 --> 00:11:44,037 大工ではないから➡ 181 00:11:44,037 --> 00:11:46,039 飾っておくのにいいと言って 求めていきました。 182 00:11:46,039 --> 00:11:50,043 確か 植木職人だと 言っていましたよ。 183 00:11:50,043 --> 00:11:54,380 柳家の若だんなを襲ったのは 出入りの植木職人だったね。 184 00:11:54,380 --> 00:11:58,051 ええ。 ねぇ 蛇骨婆に野寺坊。 185 00:11:58,051 --> 00:12:00,720 頼みがあるのだけど。 何です? 186 00:12:00,720 --> 00:12:02,722 それぞれが見掛けた店から➡ 187 00:12:02,722 --> 00:12:06,059 底の抜けた墨壺を買ったはずの者を 知りたいんだ。 188 00:12:06,059 --> 00:12:08,027 調べてくれないか。 (野寺坊・蛇骨婆)えっ? 189 00:12:31,918 --> 00:12:33,920 (日限の親分)棟梁のおかみさんは 墨壺のことを➡ 190 00:12:33,920 --> 00:12:37,590 よく覚えていなさったよ。 殺された 棟梁が持っていた墨壺には➡ 191 00:12:37,590 --> 00:12:39,926 大きな左手が 彫り込まれていたそうだ。 192 00:12:39,926 --> 00:12:41,928 そうですか。 193 00:12:41,928 --> 00:12:45,932 でも どうして 墨壺のことなぞ 気に掛かったんで? 194 00:12:45,932 --> 00:12:49,936 若だんなと 最近の殺しのことを 話していたんですよ。 195 00:12:49,936 --> 00:12:52,939 たまたま 棟梁のところから 盗まれた道具のことが➡ 196 00:12:52,939 --> 00:12:54,941 話題に上がったもので。 197 00:12:54,941 --> 00:12:57,944 なるほど。 そうかい。 (仁吉)すみませんねぇ➡ 198 00:12:57,944 --> 00:13:00,947 くだらないことを 親分さんにお聞きしてしまって。 199 00:13:00,947 --> 00:13:04,951 若だんなは襲われた口だから 気になるのは分かるがね➡ 200 00:13:04,951 --> 00:13:08,955 あまり考えなさんなよ。 体に障る。 201 00:13:08,955 --> 00:13:10,957 そうですね。 202 00:13:10,957 --> 00:13:13,960 (蛇骨婆)あたしの調べた店の 墨壺は 売れていました。 203 00:13:13,960 --> 00:13:16,963 買ったのは まだ若い男です。➡ 204 00:13:16,963 --> 00:13:20,967 はんてんを着ていて 大工か左官のようだったと。 205 00:13:20,967 --> 00:13:22,969 そう ありがとう。 206 00:13:22,969 --> 00:13:25,972 われが訪ねた店で 墨壺を買ったのは➡ 207 00:13:25,972 --> 00:13:28,975 ごま塩頭のじいさんだったとか。 208 00:13:28,975 --> 00:13:32,945 左官と ごま塩頭のじいさん…。 209 00:13:36,916 --> 00:13:40,920 やはり 墨壺は 下手人たちに渡っていたね。 210 00:13:40,920 --> 00:13:43,923 偶然とは思えない。 この墨壺が➡ 211 00:13:43,923 --> 00:13:48,928 人について殺しをしていた 張本人だと思うのだが どうだい? 212 00:13:48,928 --> 00:13:52,932 確かに怪しいですがね。 ただ 妖たちは➡ 213 00:13:52,932 --> 00:13:56,936 壊れた墨壺が付喪神になっている とは言わなかった。➡ 214 00:13:56,936 --> 00:13:59,939 将来なれたかもしれないのにと 惜しんでいたんです。 215 00:13:59,939 --> 00:14:02,942 (佐助)妖でないのなら どうやって人につくんです? 216 00:14:02,942 --> 00:14:07,947 これは私が考えた話だから 裏打ちがあるわけじゃないけど…。 217 00:14:07,947 --> 00:14:12,952 始まりは ぼてふりの 親心からだと思うんだよ。 218 00:14:12,952 --> 00:14:14,954 長五郎は 息子に➡ 219 00:14:14,954 --> 00:14:17,957 もう少し ましな暮らしを させたかった。 220 00:14:17,957 --> 00:14:22,962 そこで棟梁に頼み込んでみるが あっさり断られてしまった。 221 00:14:22,962 --> 00:14:26,966 思うに ここで長五郎は 墨壺を盗んだんじゃないかな。 222 00:14:26,966 --> 00:14:28,968 軽くあしらわれたと恨んで➡ 223 00:14:28,968 --> 00:14:31,904 意趣返しのつもりで 持ち出したのさ。 224 00:14:31,904 --> 00:14:37,910 その後 うっかり壊したか 己の手で わざと傷つけたか…。 225 00:14:37,910 --> 00:14:42,915 大工は 盗まれたことに気付いて 長五郎に返せと迫った。 226 00:14:42,915 --> 00:14:45,918 しかし 墨壺は壊れてしまった。 227 00:14:45,918 --> 00:14:48,921 返すわけにいかなくなった 長五郎は➡ 228 00:14:48,921 --> 00:14:52,925 聖堂の堀脇に大工を呼び出した。 229 00:14:52,925 --> 00:14:55,928 (佐助)なぜ そんな手間を かけたんですかね。 230 00:14:55,928 --> 00:14:57,930 そのことを 人のいるところで言うのは➡ 231 00:14:57,930 --> 00:14:59,932 嫌だったんだろうさ。 232 00:14:59,932 --> 00:15:02,935 それに 墨壺は 凝った細工の上物で➡ 233 00:15:02,935 --> 00:15:06,939 大きく底が裂けていても 売り物になる品だよ。 234 00:15:06,939 --> 00:15:10,910 弁償するといったって ぼてふりの稼ぎじゃ大変だろう。 235 00:15:13,946 --> 00:15:16,949 2人の間で話はこじれた。 236 00:15:16,949 --> 00:15:18,951 そして 何かの拍子に➡ 237 00:15:18,951 --> 00:15:22,955 長五郎は 持っていった刃物を 使う羽目になった。 238 00:15:22,955 --> 00:15:25,625 だけど はなから大工の首が➡ 239 00:15:25,625 --> 00:15:28,961 落とされるようなことに なったとは思えない。 240 00:15:28,961 --> 00:15:32,965 ここで妖が関わってくるんだ。 241 00:15:32,965 --> 00:15:35,968 墨壺は 古い古いものだった。 242 00:15:35,968 --> 00:15:39,972 たぶん 付喪神になりかかって いたのじゃないのかしら。 243 00:15:39,972 --> 00:15:43,976 だが もう少しというところで 無残に裂かれてしまった。 244 00:15:43,976 --> 00:15:45,978 さぞかし無念だったろうね。 245 00:15:45,978 --> 00:15:49,982 そのなりそこないが 暴発をしたということですか? 246 00:15:49,982 --> 00:15:53,986 たぶん 血だよ。 血のにおいで とんでもないことをする妖は➡ 247 00:15:53,986 --> 00:15:55,988 時々いるだろう? 248 00:15:55,988 --> 00:15:57,990 そいつが 墨壺の上に掛かったとしたら? 249 00:15:57,990 --> 00:16:00,993 (佐助)それは推測です。 誰も見ちゃあいない。 250 00:16:00,993 --> 00:16:02,995 大工が殺された夜➡ 251 00:16:02,995 --> 00:16:06,999 私は 刃物を血にぬらした ぼてふりに行き合っているんだよ。 252 00:16:06,999 --> 00:16:09,001 私が見たときは➡ 253 00:16:09,001 --> 00:16:12,004 もう なりそこないに 取りつかれていたんだろう。 254 00:16:12,004 --> 00:16:16,008 最初に付けたのは 小さな傷だったかもしれない。 255 00:16:16,008 --> 00:16:19,011 でも その血で なりそこないは狂い➡ 256 00:16:19,011 --> 00:16:22,014 ぼてふりに取りついてしまった。 257 00:16:22,014 --> 00:16:25,985 そして 己の不満を吐き出して…。 258 00:16:28,020 --> 00:16:30,957 大工を殺した。 259 00:16:30,957 --> 00:16:34,961 その去り際に 私と鉢合わせた。 260 00:16:34,961 --> 00:16:38,965 だから 後でその首が 落とされることになったんだ。 261 00:16:38,965 --> 00:16:41,968 通り掛かった私を逃がして➡ 262 00:16:41,968 --> 00:16:44,971 なりそこないのやつ 腹が立ったのさ。 263 00:16:44,971 --> 00:16:47,974 その後 己の名が出ないように➡ 264 00:16:47,974 --> 00:16:50,977 墨壺は 道具を ばらばらに売り払った。 265 00:16:50,977 --> 00:16:53,980 ここまでは 当たっているんじゃ ないかと思うんだよ。 266 00:16:53,980 --> 00:16:58,985 だが ここからが難物なんだ。 そいつは人殺しを繰り返している。 267 00:16:58,985 --> 00:17:02,989 大工に付ける薬欲しさとは とても思えない。 268 00:17:02,989 --> 00:17:05,992 どうして 罪を重ね続けるんだか…。 269 00:17:05,992 --> 00:17:07,994 ⚟(屏風のぞき)哀れだねぇ。 270 00:17:07,994 --> 00:17:09,996 聞いていたのかい 屏風のぞき。 271 00:17:09,996 --> 00:17:12,999 何だか 身に覚えがある話だったからさ。 272 00:17:12,999 --> 00:17:15,001 あたしも せんだって➡ 273 00:17:15,001 --> 00:17:18,004 屏風を池に放り投げられそうに なったからね。 274 00:17:18,004 --> 00:17:21,007 付喪神として生きるためには➡ 275 00:17:21,007 --> 00:17:25,011 思いだけじゃなく かえるべき元の物が必要なのさ。 276 00:17:25,011 --> 00:17:27,346 そのなりそこないは 今➡ 277 00:17:27,346 --> 00:17:30,016 何とかして生き残ろうと 必死なんだろう。 278 00:17:30,016 --> 00:17:32,952 どうやって 生き残るつもりなんだろう。 279 00:17:32,952 --> 00:17:35,955 野寺坊は あそこまで墨壺が壊れたら➡ 280 00:17:35,955 --> 00:17:38,958 付喪神になるのは 無理だろうと言っていたよね。 281 00:17:38,958 --> 00:17:40,960 なりそこないは➡ 282 00:17:40,960 --> 00:17:43,963 墨壺を買った人間に 次々に取りついた。 283 00:17:43,963 --> 00:17:50,970 そして 取りついた人間を操って 捕まる前に骨董屋に売り払った。 284 00:17:50,970 --> 00:17:53,973 (仁吉)もし 若だんなの推理が 当たっていれば➡ 285 00:17:53,973 --> 00:17:55,975 一連の殺しは 程なくやみますよ。 286 00:17:55,975 --> 00:17:58,978 なぜだい? なりそこないってものは➡ 287 00:17:58,978 --> 00:18:00,980 付喪神に なれなかったやつですからね。 288 00:18:00,980 --> 00:18:04,984 しばらくすれば ただの壊れた道具に戻るはずです。 289 00:18:04,984 --> 00:18:08,988 そうなの? 妖の世界には 不思議な定めがあるんだね。 290 00:18:08,988 --> 00:18:12,325 (佐助) では 人殺しの噂がなくなるまで➡ 291 00:18:12,325 --> 00:18:14,327 おとなしく 家にいてもらいましょう。 292 00:18:14,327 --> 00:18:15,995 そんな。 293 00:18:15,995 --> 00:18:18,331 (仁吉)屏風のぞき 協力しておくれだね? 294 00:18:18,331 --> 00:18:22,001 おや あたしに頼むのかい? 珍しいことで。➡ 295 00:18:22,001 --> 00:18:24,003 承知した。 えっ!? 296 00:18:24,003 --> 00:18:26,005 何で今日に限って仲良しなのさ! 297 00:18:26,005 --> 00:18:30,009 では 店に戻りますので 素直に休んでいるんですよ。 298 00:18:30,009 --> 00:18:33,946 お待ちよ。 まだ聞きたいことが 残っているんだよ。 299 00:18:33,946 --> 00:18:36,949 (仁吉)何です? そのなりそこないは➡ 300 00:18:36,949 --> 00:18:40,953 何を欲しがっているのか ということさ。 301 00:18:40,953 --> 00:18:44,957 人を何人も殺してまで 手に入れようとしているものは➡ 302 00:18:44,957 --> 00:18:46,959 何だと思う? (仁吉)分かりませんね。 303 00:18:46,959 --> 00:18:50,930 あたしらは 若だんなが無事なら それでいいんで。 304 00:18:53,966 --> 00:18:57,970 (佐助)まずい話だ。 もしかしたら なりそこないは➡ 305 00:18:57,970 --> 00:18:59,972 あの薬を 探しているんじゃないかい。 306 00:18:59,972 --> 00:19:03,976 薬のことを いったいどこから聞いたのやら。 307 00:19:03,976 --> 00:19:07,980 あれがあれば なりそこないは 付喪神になれるのかね。 308 00:19:07,980 --> 00:19:11,984 たぶん。 あればの話だが…。 309 00:19:11,984 --> 00:19:14,987 (栄吉)相変わらず 出してもらえないようだね。 310 00:19:14,987 --> 00:19:19,992 ご覧のとおりだよ。 いつまで こんなふうなんだか。 311 00:19:19,992 --> 00:19:24,664 一太郎 言うべきかどうか 迷ったんだけど…。 312 00:19:24,664 --> 00:19:26,999 兄さんのこと? 313 00:19:26,999 --> 00:19:30,002 言いなよ。 気になるじゃないか。 314 00:19:30,002 --> 00:19:32,938 今 松之助さん 大ごとになってしまって。 315 00:19:32,938 --> 00:19:34,940 何かあったの? 316 00:19:34,940 --> 00:19:38,944 東屋には 息子と娘がいるんだがね➡ 317 00:19:38,944 --> 00:19:42,948 この娘が 松之助さんを 憎からず思っているのが分かって➡ 318 00:19:42,948 --> 00:19:44,950 もめているらしいんだ。➡ 319 00:19:44,950 --> 00:19:47,953 東屋の若だんなは 俺が言うのもなんだが➡ 320 00:19:47,953 --> 00:19:50,956 出来のいい方じゃないのさ。 そこへもって➡ 321 00:19:50,956 --> 00:19:53,959 妹が仕事のできる奉公人と くっつきでもしたら➡ 322 00:19:53,959 --> 00:19:56,962 若隠居でもと言われかねない。➡ 323 00:19:56,962 --> 00:19:59,965 女将も 娘にはもっといい縁を と望んでいて➡ 324 00:19:59,965 --> 00:20:02,968 松之助さんのことが 気に食わない。 325 00:20:02,968 --> 00:20:05,971 ありていに言うと 追い出されかけているのさ。 326 00:20:05,971 --> 00:20:09,975 そんな… 店を追い出されたら 兄さん どうするのさ。 327 00:20:09,975 --> 00:20:14,980 まあ 若いし体も丈夫だ。 新しい奉公の口を探すだろう。➡ 328 00:20:14,980 --> 00:20:18,951 本郷の実家には いまさら帰れまいしね。 329 00:20:20,986 --> 00:20:24,990 栄吉… 見つかったら また 嫌なことを言われるかもしれない。 330 00:20:24,990 --> 00:20:27,993 それでも頼まれてくれるかい? 331 00:20:27,993 --> 00:20:31,964 俺から言いだした話だからね。 332 00:20:34,934 --> 00:20:38,938 これで どこぞに落ち着く 足しになるかも…。 333 00:20:38,938 --> 00:20:41,941 あっ でも どこの誰か 分からない者の金では➡ 334 00:20:41,941 --> 00:20:43,909 受け取らないか。 335 00:20:45,945 --> 00:20:47,947 (栄吉)いいのかい? 336 00:20:47,947 --> 00:20:51,951 こんなことをしたら 店を訪ねてくるかもしれないよ。 337 00:20:51,951 --> 00:20:54,920 それでも 放っておけないじゃないか。 338 00:20:58,958 --> 00:21:01,961 それじゃあ いいんだね。 行ってくるよ。 339 00:21:01,961 --> 00:21:05,965 栄吉 迷惑ばかりかけてすまない。 340 00:21:05,965 --> 00:21:07,967 いつかきっと お返しはするからね。 341 00:21:07,967 --> 00:21:09,935 うん。 342 00:21:22,982 --> 00:21:25,985 (武士)香りがする…。 343 00:21:25,985 --> 00:21:28,954 お前 持っているだろう…。 344 00:21:30,923 --> 00:21:32,892 よこせ。 345 00:21:37,930 --> 00:21:39,899 これで見逃してくれ。 346 00:21:42,935 --> 00:21:44,904 (武士)違う! 347 00:21:50,943 --> 00:21:54,947 (栄吉)ハッ… うっ…。 348 00:21:54,947 --> 00:22:04,924 ♬~