1 00:01:40,367 --> 00:01:45,038 (栄吉)一太郎が店番を? それは珍しいことで。 2 00:01:45,038 --> 00:01:49,543 (一太郎)ああ。 薬が効いたのか 今日は調子がいいからね。 3 00:01:49,543 --> 00:01:51,878 そうかい。 それはよかった。 4 00:01:51,878 --> 00:01:55,882 これは見舞いの品… 一応 渡しておくよ。 5 00:01:55,882 --> 00:01:59,052 お茶をいれようかね。 いや。 6 00:01:59,052 --> 00:02:02,155 今日はちょっと忙しいから 店に戻るよ。 7 00:02:02,155 --> 00:02:04,157 お前も仕事があるんだろ? 8 00:02:04,157 --> 00:02:07,160 そうかい。 じゃあまたね 栄吉。 9 00:02:12,165 --> 00:02:14,167 うっ…。 10 00:02:14,167 --> 00:02:16,670 (仁吉)若だんな。 喉に詰まったんですか? 11 00:02:16,670 --> 00:02:19,172 ううん まずかっただけ。 12 00:02:19,172 --> 00:02:22,009 栄吉さんが作ったんですか それ。 13 00:02:22,009 --> 00:02:26,179 なんでわかったの? フフ…。 14 00:02:26,179 --> 00:02:29,016 誰ぞにあげますから。 若だんなには➡️ 15 00:02:29,016 --> 00:02:32,019 別のお菓子を持ってきますね。 フッ…。 16 00:02:32,019 --> 00:02:34,021 (小僧)お客さん! あっ。 17 00:02:34,021 --> 00:02:36,023 そう言われましても…。 18 00:02:38,525 --> 00:02:41,695 (長五郎)譲っておくれ。 確かにあると聞いたんだ。 19 00:02:41,695 --> 00:02:43,697 (小僧)そんな薬…。 20 00:02:43,697 --> 00:02:46,366 どうしたんだい? (長五郎)ここに薬があるだろう? 21 00:02:46,366 --> 00:02:50,037 特別な薬だよ。 命をあがなうやつだ。 22 00:02:50,037 --> 00:02:52,706 ハッ…。 それをおくれ。 23 00:02:52,706 --> 00:02:55,375 お客様 手前どもの店では➡️ 24 00:02:55,375 --> 00:02:59,880 確かに いろいろな薬を そろえておりますが その…。 25 00:02:59,880 --> 00:03:03,150 珍かな薬は それなりの値がいたしますんで。 26 00:03:03,150 --> 00:03:05,552 おうさ わかってる。 27 00:03:07,821 --> 00:03:11,324 ヘッ…。 んっ…。 28 00:03:11,324 --> 00:03:15,662 足りないのか? いくら足りない? 売ってくれ お願いだから! 29 00:03:15,662 --> 00:03:18,832 《病気の家族でも いるのだろうか…》 30 00:03:18,832 --> 00:03:22,169 しかたありませんね。 とにかく いくらあるのか➡️ 31 00:03:22,169 --> 00:03:24,504 銭を数えましょうか。 仁吉。 32 00:03:24,504 --> 00:03:27,507 んっ? お客様を奥へお連れして。 33 00:03:30,510 --> 00:03:35,849 間違いない 臭いがする…。 薬をくれ! 早くしておくれ! 34 00:03:35,849 --> 00:03:40,353 お客さん 失礼ですが 家にご病人でもいなさるのか? 35 00:03:40,353 --> 00:03:42,689 病人? いないよ。 36 00:03:42,689 --> 00:03:46,526 いるはずがない! 皆元気さ! なぜ そんなことを聞く? 37 00:03:46,526 --> 00:03:50,030 なぜって… うちは薬種問屋ですんでね。 38 00:03:50,030 --> 00:03:54,534 病人を抱えたお客さんが 多いんですよ。 んっ…。 39 00:03:54,534 --> 00:03:58,371 身内に病人がいないならば 悪いことは言わない。 40 00:03:58,371 --> 00:04:00,807 薬は買わずにおきなさいな。 41 00:04:00,807 --> 00:04:04,311 んっ…! あっ…。 42 00:04:04,311 --> 00:04:07,147 《木乃伊は希少な秘薬だ。 43 00:04:07,147 --> 00:04:10,150 万能薬のような 触れ込みになっているが➡️ 44 00:04:10,150 --> 00:04:12,652 高いだけで効かない。 45 00:04:12,652 --> 00:04:16,990 もし効果があるなら 私に飲ませているはずだもの》 46 00:04:16,990 --> 00:04:20,327 お金は滋養のある物を 食べるなりしたほうが➡️ 47 00:04:20,327 --> 00:04:22,329 よほど役に立ちますよ。 48 00:04:22,329 --> 00:04:25,165 つまり何かい あっしが裕福でないから➡️ 49 00:04:25,165 --> 00:04:27,667 そんなぜいたくな物は 売れないと言うんですかい? 50 00:04:27,667 --> 00:04:31,838 若だんな ここまで欲しがっておいでなら➡️ 51 00:04:31,838 --> 00:04:33,840 お譲りしましょう。 仁吉? 52 00:04:33,840 --> 00:04:35,842 薬が手に入らないと➡️ 53 00:04:35,842 --> 00:04:39,179 この人は ひどく後悔を残しそうだ。 54 00:04:39,179 --> 00:04:42,015 たかが木乃伊 一かけで➡️ 55 00:04:42,015 --> 00:04:46,186 若だんなが恨まれちゃあ かないませんよ。 わかったよ…。 56 00:04:46,186 --> 00:04:49,890 では 売らせていただきます。 ハッ…! 57 00:04:55,529 --> 00:04:57,531 間違いない…。 ハッ? 58 00:04:57,531 --> 00:05:00,967 この香りだ… 間違いない! 59 00:05:00,967 --> 00:05:04,971 《香り…? あれに香りなど あっただろうか?》 60 00:05:09,976 --> 00:05:14,981 《人には違いない。 それは一目見ればわかる。 61 00:05:14,981 --> 00:05:18,151 だが この男が 後ろにいるというだけで➡️ 62 00:05:18,151 --> 00:05:21,488 どうにも肌が 総毛立つ気がしてくる…。 63 00:05:21,488 --> 00:05:25,158 早いところ薬を渡して 帰ってもらおう》 64 00:05:25,158 --> 00:05:34,334 🎵~ 65 00:05:34,334 --> 00:05:36,336 あっ…。 66 00:05:38,338 --> 00:05:40,841 んっ…。 あっ。 67 00:05:40,841 --> 00:05:43,677 お客さん 何をなさる! 薬だな。 68 00:05:43,677 --> 00:05:48,181 これで助かる。 これで… 俺は…。 69 00:05:48,181 --> 00:05:50,517 んっ! んっ くっ…。 70 00:05:50,517 --> 00:05:52,519 うぅっ。 うぅ…。 (木乃伊のきしむ音) 71 00:05:52,519 --> 00:05:54,854 お客さん それは高いんですよっ! 72 00:05:54,854 --> 00:05:56,856 (臭いを嗅ぐ音) 73 00:05:56,856 --> 00:06:00,460 あっ…! これじゃない。 違う! 74 00:06:00,460 --> 00:06:03,296 だましたな! うっ ううっ! 75 00:06:03,296 --> 00:06:05,298 ぼっちゃん! 76 00:06:05,298 --> 00:06:07,467 大丈夫ですか。 ハッ…。 77 00:06:07,467 --> 00:06:09,803 んっ! うわっ! 仁吉! 78 00:06:09,803 --> 00:06:11,805 《仁吉を一撃で? 79 00:06:11,805 --> 00:06:15,141 コイツ… 何者なんだ?》 んんっ…。 80 00:06:15,141 --> 00:06:17,310 いきなり何をする! 81 00:06:17,310 --> 00:06:19,613 仁吉 大丈夫か…。 82 00:06:21,815 --> 00:06:23,817 ((日限の親分:どいつもコイツも➡️ 83 00:06:23,817 --> 00:06:26,152 これといって特徴のない顔だと 抜かすんだよ。 84 00:06:26,152 --> 00:06:29,322 年の頃は みそじは過ぎてたと言うんだが。 85 00:06:29,322 --> 00:06:33,326 (長五郎)香りがする… する…。 86 00:06:33,326 --> 00:06:37,330 よこせ… よこせ…)) 87 00:06:37,330 --> 00:06:39,100 《まさか… この男が。 88 00:06:39,100 --> 00:06:44,504 あの夜 聖堂近くで出会った 大工殺し…。 89 00:06:44,504 --> 00:06:47,674 もしかして 私を殺しに来たのだろうか…。 90 00:06:47,674 --> 00:06:49,676 だとしたら まずい》 91 00:06:52,512 --> 00:06:54,514 だまされた…。 92 00:06:54,514 --> 00:06:57,517 これじゃ役に立たない。 畜生! 93 00:06:57,517 --> 00:06:59,953 鳴家 早く来ておくれ。 94 00:06:59,953 --> 00:07:03,456 畜生… んんっ。 95 00:07:03,456 --> 00:07:06,559 ハッ… ハァッ…。 96 00:07:10,463 --> 00:07:12,465 うわぁ! (鳴家たち)きゅわ~! 97 00:07:12,465 --> 00:07:15,302 わっ… クソッ クソッ! 98 00:07:15,302 --> 00:07:17,971 鳴家っ 佐助だ 佐助を呼んできてくれ! 99 00:07:17,971 --> 00:07:19,973 早くっ! きゅわ! 100 00:07:19,973 --> 00:07:22,642 《どうする? ハッ》 101 00:07:22,642 --> 00:07:24,978 消せっ! きゅわ… フッ。 102 00:07:24,978 --> 00:07:27,480 なっ… んっ! 畜生! 103 00:07:27,480 --> 00:07:29,482 畜生~! 104 00:07:29,482 --> 00:07:33,153 《ハァ… 佐助 早く来ておくれ》 105 00:07:33,153 --> 00:07:35,555 ハァッ… んっ…。 106 00:07:38,992 --> 00:07:41,661 (足音) 107 00:07:41,661 --> 00:07:43,663 ハッ…。 108 00:07:43,663 --> 00:07:45,665 (階段を上る音) 109 00:07:45,665 --> 00:07:48,835 《上? 入り口を開けるつもりか…。 110 00:07:48,835 --> 00:07:51,004 そしたら日の光が…。 111 00:07:51,004 --> 00:07:55,508 仁吉 まずいよ 気が付いておくれ 仁吉!》 112 00:07:55,508 --> 00:07:57,510 んっ…。 113 00:08:00,613 --> 00:08:02,615 ハッ。 114 00:08:04,617 --> 00:08:06,619 おりゃあ~! 115 00:08:06,619 --> 00:08:09,122 (砕ける音) 116 00:08:11,958 --> 00:08:14,127 《死ぬのかな》 117 00:08:14,127 --> 00:08:16,296 おりゃ… うあっ! 118 00:08:16,296 --> 00:08:18,298 若だんな 早く…。 119 00:08:18,298 --> 00:08:20,300 あっ…。 120 00:08:20,300 --> 00:08:22,469 仁吉を放って行けないよ。 121 00:08:22,469 --> 00:08:24,471 離せっ! 122 00:08:24,471 --> 00:08:26,473 あっ! うぅ… 若だんな…。 123 00:08:28,475 --> 00:08:30,477 ハッ… うっ! 124 00:08:33,313 --> 00:08:36,816 んっ…。 125 00:08:36,816 --> 00:08:40,153 ハッ…。 126 00:08:40,153 --> 00:08:42,989 食らえ! お前が食らえ! 127 00:08:42,989 --> 00:08:44,991 ぐあっ! 128 00:08:44,991 --> 00:08:46,993 うっ… ぐぅ…。 129 00:08:46,993 --> 00:08:48,995 ハァッ…! (短刀を投げる音) 130 00:08:48,995 --> 00:08:50,997 ハァ ハァ ハァ…。 131 00:08:50,997 --> 00:08:52,999 ハァッ…。 132 00:08:52,999 --> 00:08:56,002 ハァ ハァ…。 《仁吉を連れて逃げないと》 133 00:08:56,002 --> 00:08:58,171 うっ… ハァ…。 134 00:08:58,171 --> 00:09:00,106 (足音) 135 00:09:00,106 --> 00:09:03,610 (佐助)若だんな! ソイツが… 仁吉を…。 136 00:09:03,610 --> 00:09:06,446 若だんなと仁吉に何をした! 137 00:09:06,446 --> 00:09:08,448 があっ…。 138 00:09:08,448 --> 00:09:11,551 ハァッ…。 139 00:09:29,636 --> 00:09:32,138 《あのあと 下手人は➡️ 140 00:09:32,138 --> 00:09:34,974 日限の親分さんに 捕らえてもらったという。 141 00:09:34,974 --> 00:09:37,143 けど私ときたら➡️ 142 00:09:37,143 --> 00:09:39,979 あの日から数日の間 目を覚まさず➡️ 143 00:09:39,979 --> 00:09:44,984 おまけに高い熱まで出して 寝込んでしまっていたらしい。 144 00:09:44,984 --> 00:09:49,656 下手人は 長五郎という名の 野菜を売る ぼてふりだった。 145 00:09:49,656 --> 00:09:52,158 親分さんの話によると➡️ 146 00:09:52,158 --> 00:09:54,828 殺された徳兵衛さんとは 顔見知りで➡️ 147 00:09:54,828 --> 00:09:56,830 自分の子を大工にしたくて➡️ 148 00:09:56,830 --> 00:09:59,165 棟りょうの徳兵衛さんに 頼んだところ➡️ 149 00:09:59,165 --> 00:10:02,335 人手が足りているので 他を当たるようにと➡️ 150 00:10:02,335 --> 00:10:04,671 断られての犯行だとか…。 151 00:10:04,671 --> 00:10:08,174 うちに秘薬を求めて やってきた訳については➡️ 152 00:10:08,174 --> 00:10:11,344 当の長五郎は ダンマリを決め込んでいるが➡️ 153 00:10:11,344 --> 00:10:13,847 お役人さんの見立てでは➡️ 154 00:10:13,847 --> 00:10:17,183 徳兵衛さんをなんとか 生き返らせようとしたが➡️ 155 00:10:17,183 --> 00:10:19,853 そんな薬がないことに腹を立て➡️ 156 00:10:19,853 --> 00:10:23,523 短刀を振り回して 暴れたのではないかと…》 157 00:10:23,523 --> 00:10:25,525 ねぇ佐助。 158 00:10:25,525 --> 00:10:28,695 おかしいと思わないかい? 長五郎は うちに➡️ 159 00:10:28,695 --> 00:10:31,531 人を生き返らせる薬を 買いに来たんだろう? 160 00:10:31,531 --> 00:10:34,701 そんな物 売ってる店なんて あるわけない。 161 00:10:34,701 --> 00:10:39,873 それなのに長五郎は 欲しい薬が 長崎屋にあると思っていた。 162 00:10:39,873 --> 00:10:41,875 木乃伊以外に➡️ 163 00:10:41,875 --> 00:10:44,377 うちには秘薬と 言えるほどの物は ありませんよ。 164 00:10:44,377 --> 00:10:46,379 わかっているよ。 165 00:10:46,379 --> 00:10:49,883 目当ての物がないから 怒ってたようだしね。 166 00:10:49,883 --> 00:10:53,720 だけど 欲しかった物って なんだったんだろう。 167 00:10:53,720 --> 00:10:58,057 さあ…。 あの巾着のお金…。 168 00:10:58,057 --> 00:11:01,661 あれはきっと 徳兵衛さんの 大工道具を売ったお金だ…。 169 00:11:01,661 --> 00:11:04,564 ほら そんなにしゃべると。 (せきこみ) 170 00:11:06,499 --> 00:11:08,801 (栄吉)一太郎。 あっ。 171 00:11:11,004 --> 00:11:14,173 心配したぞ 一太郎。 172 00:11:14,173 --> 00:11:16,509 ってまぁ いつものことだけれど。 173 00:11:16,509 --> 00:11:19,345 (お春)ずいぶんと顔色が よくなってるわね。 174 00:11:19,345 --> 00:11:22,182 ああ もう大丈夫だよ。 175 00:11:22,182 --> 00:11:25,685 (お春)お見舞いの品です。 ありがとうございます。 176 00:11:25,685 --> 00:11:29,355 餡こだよ。 具合が ひどく悪いときの一太郎は➡️ 177 00:11:29,355 --> 00:11:32,192 飲み下すようなものしか 口に入らないでしょう。 178 00:11:32,192 --> 00:11:35,028 これなら 汁粉にすればいいから。 179 00:11:35,028 --> 00:11:37,030 あぁ…。 180 00:11:37,030 --> 00:11:40,199 安心しろ。 この餡は おとっつぁんが作ったんだ。 181 00:11:40,199 --> 00:11:42,202 そうかい。 182 00:11:42,202 --> 00:11:47,207 兄さんたら。 では 早速こしらえてまいります。 183 00:11:47,207 --> 00:11:51,377 それしても 今度のことは運が悪かったな。 184 00:11:51,377 --> 00:11:53,546 一太郎は おとなしく家の中にいたのに➡️ 185 00:11:53,546 --> 00:11:56,049 人殺しが出張ってくるなんてさ。 186 00:11:56,049 --> 00:12:00,486 下手人について 町で何か 言っている人はいるのかい? 187 00:12:00,486 --> 00:12:04,657 ぼてふりのこと? バカなヤツだと皆 言ってるよ。 188 00:12:04,657 --> 00:12:07,493 もうそんな評判になっているのか。 189 00:12:07,493 --> 00:12:11,831 ああ。 自分の子どもの奉公を 断られたからって➡️ 190 00:12:11,831 --> 00:12:14,834 棟りょうを殺して どうなるというんだ… ってな。 191 00:12:14,834 --> 00:12:19,005 けど なんで そんなに子どもを 大工にしたかったんだろう? 192 00:12:19,005 --> 00:12:21,841 わからないよ。 193 00:12:21,841 --> 00:12:24,344 そうね 一太郎さんには➡️ 194 00:12:24,344 --> 00:12:27,013 どうにも合点が いかないことばかりかもね。 195 00:12:27,013 --> 00:12:29,849 実入りがいいんだよ 大工ってのは。 196 00:12:29,849 --> 00:12:31,851 あっ? (栄吉)まったく…。 197 00:12:31,851 --> 00:12:35,688 一太郎は世間知らずだからな。 いいかい? 198 00:12:35,688 --> 00:12:41,027 大工は手間賃が一日 銀5匁。 朝出をすると5割増し。 199 00:12:41,027 --> 00:12:45,031 夕方まで仕事をすれば 朝出居残りで倍額。 200 00:12:45,031 --> 00:12:47,700 火事にでもなって 人手が足りなければ➡️ 201 00:12:47,700 --> 00:12:52,038 二時ばかり働くだけで 一日 銀10匁になる。 202 00:12:52,038 --> 00:12:54,207 それって 多いのかい? 203 00:12:54,207 --> 00:12:57,377 そうか お前さんには わからないか。 204 00:12:57,377 --> 00:13:01,814 いいかい? ぼてふりの長五郎は 野菜売りだったよな。 205 00:13:01,814 --> 00:13:06,319 だとしたら 一日の稼ぎが 200文にもならない。 206 00:13:06,319 --> 00:13:10,990 大工の稼ぎ 一日 銀10匁は 文にすると700文。 207 00:13:10,990 --> 00:13:13,993 同じ長屋住まいでも これだけ差があるんだぜ。 208 00:13:13,993 --> 00:13:15,995 なるほどね…。 209 00:13:15,995 --> 00:13:19,999 だから 子どもを大工や左官に したいって親は多いんだ。 210 00:13:19,999 --> 00:13:23,169 別に ぼてふりの子どもじゃ なれないってわけではないが➡️ 211 00:13:23,169 --> 00:13:26,839 棟りょうの手が足りていれば 奉公は無理だな。 212 00:13:26,839 --> 00:13:28,841 まぁ 運しだいさね。 213 00:13:28,841 --> 00:13:31,678 運ねぇ…。 とにかく➡️ 214 00:13:31,678 --> 00:13:34,847 ひとまずは長五郎が お縄になって一安心だな。 215 00:13:34,847 --> 00:13:37,016 うん…。 216 00:13:37,016 --> 00:13:39,018 《だとしても➡️ 217 00:13:39,018 --> 00:13:42,522 なぜ わざわざ戻って死体の首を 斬り落としたりしたんだ? 218 00:13:42,522 --> 00:13:44,524 わからない…。 219 00:13:44,524 --> 00:13:48,528 それに 死んで葬式まで済ませた 徳兵衛さんに➡️ 220 00:13:48,528 --> 00:13:51,197 なぜ薬を 飲ませようと思ったのか…。 221 00:13:51,197 --> 00:13:55,201 木乃伊を見たとき なぜ 「違う」と言ったのか…》 222 00:13:55,201 --> 00:13:57,203 (栄吉)なんだよ。 223 00:13:57,203 --> 00:14:00,473 まだ気になることがあるのかい? あっ… いや…。 224 00:14:00,473 --> 00:14:04,310 あの… 日限の親分さんから 聞いたんだけど…。 225 00:14:04,310 --> 00:14:08,648 あの日 下手人は徳兵衛さんが 死んだのが怖くなったから➡️ 226 00:14:08,648 --> 00:14:12,652 生き返らせる薬を 長崎屋で買うつもりだったって。 227 00:14:12,652 --> 00:14:15,321 本当にそんな物を買いに来たの? 228 00:14:15,321 --> 00:14:19,826 死人を生き返らせる? 真実 そんな薬 あるのかい? 229 00:14:19,826 --> 00:14:23,663 そんな物を売ってたら 私が真っ先に飲んでるよ。 230 00:14:23,663 --> 00:14:26,666 ハハハッ 一太郎は しょっちゅう死にかけて➡️ 231 00:14:26,666 --> 00:14:31,170 大騒ぎを繰り返している。 なるほど そんな薬はない と。 232 00:14:31,170 --> 00:14:33,673 あったらいいと思うけどね。 233 00:14:33,673 --> 00:14:37,510 世の中 願っても どうにも かなわないこともあるんだ。 234 00:14:37,510 --> 00:14:40,680 おや 今頃そんなことを 悟ったのかい? 235 00:14:40,680 --> 00:14:43,015 現し世は厳しいのさ。 236 00:14:43,015 --> 00:14:46,686 なんだい 心得たふうの口を利くじゃないか。 237 00:14:46,686 --> 00:14:50,857 オイラぁ 身に染みているのさね。 何をだい? 238 00:14:50,857 --> 00:14:54,360 どうにもならないことは あるものなのさ。 239 00:14:54,360 --> 00:14:58,030 例えば俺の場合 菓子作りの腕だな。 240 00:14:58,030 --> 00:14:59,966 兄さん それは…。 241 00:14:59,966 --> 00:15:02,468 これから精進していけば…。 お春➡️ 242 00:15:02,468 --> 00:15:06,139 お前だって心得ておかなきゃ いけないことはある。 あっ。 243 00:15:06,139 --> 00:15:08,141 一太郎のことを好きでも➡️ 244 00:15:08,141 --> 00:15:10,977 お前さんは長崎屋の 若おかみにはなれないよ。 245 00:15:10,977 --> 00:15:12,979 兄さん! 246 00:15:17,984 --> 00:15:22,321 お春ちゃん! 247 00:15:22,321 --> 00:15:25,491 栄吉! しかたないだろう。 248 00:15:25,491 --> 00:15:27,994 一度は言っておく 必要があったのさ。 249 00:15:27,994 --> 00:15:30,830 どう願っても かなわないことはある。 250 00:15:30,830 --> 00:15:34,333 お前さんが 急に丈夫になれないのと同じだ。 251 00:15:34,333 --> 00:15:37,837 だからって あの言い方は… きついじゃないか。 252 00:15:37,837 --> 00:15:41,674 一太郎 お前 お春を嫁にできるかい? 253 00:15:41,674 --> 00:15:46,345 妹のようにしか思ってないくせに。 あっ…。 254 00:15:46,345 --> 00:15:50,516 だいたい長崎屋さんが うちみたいな小さな店から➡️ 255 00:15:50,516 --> 00:15:53,186 嫁を迎えることを 許すわけがない。 256 00:15:53,186 --> 00:15:56,022 お前の嫁は 大店から来ることになる。 257 00:15:56,022 --> 00:16:00,626 いざとなったら 病弱なお前を 支えてくれる大店の出。 258 00:16:00,626 --> 00:16:02,962 それが嫁の条件だろう? 259 00:16:02,962 --> 00:16:05,298 頭がいいねぇ。 260 00:16:05,298 --> 00:16:09,635 菓子屋の若主人にしておくのは 惜しいくらいさね。 261 00:16:09,635 --> 00:16:14,640 《栄吉ほどの才があったら 長崎屋の番頭にだってなれる。 262 00:16:14,640 --> 00:16:17,977 相性のよくない菓子と 格闘するより➡️ 263 00:16:17,977 --> 00:16:21,814 よほど似合っているのかも しれない… だけど…》 264 00:16:21,814 --> 00:16:25,318 んっ…。 なんだよ。 265 00:16:25,318 --> 00:16:28,821 これを渡そうかどうしようか 迷っていたのさ。 266 00:16:28,821 --> 00:16:31,324 んっ? 267 00:16:31,324 --> 00:16:35,995 一太郎はお春にほれられるほど きれいな顔をしているよね。 268 00:16:35,995 --> 00:16:38,164 芝居をやっていたら➡️ 269 00:16:38,164 --> 00:16:41,334 千両稼げたかもしれない。 栄吉? 270 00:16:41,334 --> 00:16:44,003 頭だって俺なんかよりも上等さね。 271 00:16:44,003 --> 00:16:46,839 医者の源信先生が褒めていたもの。 272 00:16:46,839 --> 00:16:48,841 寝込んでばかりいるようで➡️ 273 00:16:48,841 --> 00:16:53,012 一太郎は薬種問屋の薬のことは すっかり把握しているって。 274 00:16:53,012 --> 00:16:55,348 書きつけを おくれでないか。 275 00:16:55,348 --> 00:16:59,352 でも お前のその才は 役には立たないかもしれない。 276 00:16:59,352 --> 00:17:01,287 いつぞや言っていたよね。 277 00:17:01,287 --> 00:17:05,791 大店の主人の務めは 店を切り回すことじゃない。 278 00:17:05,791 --> 00:17:08,127 それは番頭のやること。 279 00:17:08,127 --> 00:17:12,131 主人は 外でのつきあいをこなし 雇い人を選ぶ。 280 00:17:12,131 --> 00:17:14,133 丈夫で長生きをし➡️ 281 00:17:14,133 --> 00:17:17,637 跡取りをこさえて…。 栄吉 何が言いたいんだい? 282 00:17:17,637 --> 00:17:20,640 もうこんなことはよせって 言っているんだよ。 283 00:17:20,640 --> 00:17:23,476 お前 自分で 立つこともできないのに➡️ 284 00:17:23,476 --> 00:17:25,478 どうしようっていうんだい? 285 00:17:25,478 --> 00:17:28,080 なんとかしたくても できないことはあるって…。 286 00:17:30,149 --> 00:17:32,151 わかってる! 287 00:17:32,151 --> 00:17:34,153 大丈夫か? (せきこみ) 288 00:17:36,822 --> 00:17:38,824 (せきこみ) 289 00:17:40,826 --> 00:17:43,329 ハァ…。 290 00:17:43,329 --> 00:17:47,500 先にな お春に縁談があったんだ。 えっ…。 291 00:17:47,500 --> 00:17:50,836 相手は表通りの 小間物屋の主人でな。 292 00:17:50,836 --> 00:17:54,674 お春を三味線のお稽古のときに 見かけたそうなんだ。 293 00:17:54,674 --> 00:17:58,177 アイツはまだ15だが そりゃあいい話だからと➡️ 294 00:17:58,177 --> 00:18:00,279 親類の者が持ってきた。 295 00:18:00,279 --> 00:18:05,117 けど お春のヤツ その話を断ったんだ。 えっ。 296 00:18:05,117 --> 00:18:08,955 (栄吉)アイツはお前のことを 好いているからしようがない。 297 00:18:08,955 --> 00:18:11,791 だけど 親父もお袋も➡️ 298 00:18:11,791 --> 00:18:14,627 その場で断りを入れたんだ。 どうして? 299 00:18:14,627 --> 00:18:17,797 うちには職人を雇う余裕はない。 300 00:18:17,797 --> 00:18:20,800 もし俺が どうでも使い物にならなければ➡️ 301 00:18:20,800 --> 00:18:23,302 お春に職人の婿を取るしかない。 302 00:18:23,302 --> 00:18:27,306 だから今 嫁に出すわけには いかなかったのさ。 303 00:18:27,306 --> 00:18:29,308 お春ちゃんに婿って…。 304 00:18:29,308 --> 00:18:31,978 そうでもしなければ 店が潰れると➡️ 305 00:18:31,978 --> 00:18:37,149 親父が叔父貴に言われたらしい。 大きなお世話さね。 306 00:18:37,149 --> 00:18:39,819 《栄吉がいらないというなら➡️ 307 00:18:39,819 --> 00:18:43,322 なんで早いうちに 家から出してやらなかったのさ。 308 00:18:43,322 --> 00:18:47,159 今更どうしようっていうの もう18だろう?》 309 00:18:47,159 --> 00:18:51,831 まぁ 俺としても他に やれることがあるわけじゃなし。 310 00:18:51,831 --> 00:18:55,001 菓子作り 頑張るつもりだよ。 311 00:18:55,001 --> 00:18:59,939 だがまぁ そんなわけでさ お春にはきついことを言った。 312 00:18:59,939 --> 00:19:04,610 栄吉 親戚の意見なぞ 簡単に聞くんじゃないよ。 313 00:19:04,610 --> 00:19:07,279 わかってるって。 ハァ…。 314 00:19:07,279 --> 00:19:10,616 それじゃあ 長居はお前さんの体に毒だから➡️ 315 00:19:10,616 --> 00:19:13,819 俺はそろそろ帰るよ。 遅くなりました。 316 00:19:16,455 --> 00:19:18,958 食べていかないのかい? 317 00:19:18,958 --> 00:19:23,062 自分の家の餡こだもの。 少しばかり飽きているんだよ。 318 00:19:27,133 --> 00:19:30,136 支度が遅くなって 申し訳ありません。 319 00:19:36,308 --> 00:19:38,811 お汁粉 ついでよ 飲むから。 320 00:19:38,811 --> 00:19:43,816 おや 食欲がありそうですね。 あられか餅でも入れましょうか? 321 00:19:43,816 --> 00:19:46,619 じゃあ あられ。 はいはい。 322 00:19:51,490 --> 00:19:53,826 《甘くておいしい。 323 00:19:53,826 --> 00:19:58,664 栄吉も早く これくらいのものが 作れるようになるといいのにね》 324 00:19:58,664 --> 00:20:01,167 若だんな… こたびのことは…。 325 00:20:01,167 --> 00:20:05,171 本当に面目ございません。 アタシがついていながら…。 326 00:20:05,171 --> 00:20:07,673 いいんだよ それはもう。 327 00:20:07,673 --> 00:20:11,677 私も仁吉も助かったのだから それでいいじゃないか。 328 00:20:16,348 --> 00:20:18,350 フゥ…。 若だんな。 んっ? 329 00:20:18,350 --> 00:20:20,352 お薬をどうぞ。 330 00:20:20,352 --> 00:20:24,857 それは すごい臭いのする とびきり苦い丸薬だよね…。 331 00:20:24,857 --> 00:20:28,527 せっかく今しがた いただいた おいしいお汁粉の味が➡️ 332 00:20:28,527 --> 00:20:30,696 打ち消されてしまうじゃないか。 333 00:20:30,696 --> 00:20:33,199 早く よくなって いただきたいので。 334 00:20:33,199 --> 00:20:36,702 それは… そうなんだけど…。 335 00:20:36,702 --> 00:20:39,872 これがよく効くのは ご存じのはずでしょう? 336 00:20:39,872 --> 00:20:44,210 包みを開けないでおくれよ。 すごい臭いがしているよ。 337 00:20:44,210 --> 00:20:47,546 はい。 ですが ぜひとも のんでいただかないと。 338 00:20:47,546 --> 00:20:49,548 ん~…。 339 00:20:49,548 --> 00:20:51,717 では この丸薬がのめたら➡️ 340 00:20:51,717 --> 00:20:54,720 アタシが取って置きの 話をして差し上げましょう。 341 00:20:54,720 --> 00:20:56,722 取って置き? 342 00:20:56,722 --> 00:21:00,659 なぁに 仁吉の失恋話ですがね。 おい 佐助! フン。 343 00:21:00,659 --> 00:21:03,162 本当に そんなことがあったの? 344 00:21:03,162 --> 00:21:06,332 アタシは若だんなに ウソは言いませんよ。 345 00:21:06,332 --> 00:21:09,335 それなら どうでも薬を のみ込んでみるよ。 346 00:21:09,335 --> 00:21:13,339 えっ… しかたありませんね。 フッ。 347 00:21:16,509 --> 00:21:21,514 ハァッ…! の のんだよ。 約束どおり 聞かせてよ。 348 00:21:21,514 --> 00:21:24,850 では…。 佐助に勝手に語られたんじゃあ➡️ 349 00:21:24,850 --> 00:21:28,354 気恥ずかしくていけない。 自分で白状しますよ。 350 00:21:31,023 --> 00:21:33,526 始まりは… そう。 351 00:21:33,526 --> 00:21:37,530 1,000年も前のことでしょうかね。