1 00:00:05,646 --> 00:00:08,616 (与太郎) どうも ご無沙汰しておりやして。 2 00:00:08,616 --> 00:00:10,868 といっても こちとら 頭下げっぱなしで・ 3 00:00:10,868 --> 00:00:13,754 どいだけ たったか なんてのは よく分かっちゃいねぇんですが。 4 00:00:13,754 --> 00:00:15,940 ははっ。 なんだって? 5 00:00:15,940 --> 00:00:17,992 春が過ぎて 夏も終わり・ 6 00:00:17,992 --> 00:00:21,462 また冬になったってぇんだから たまげたね どうも。 7 00:00:21,462 --> 00:00:24,648 オイラ 1年も頭下げっぱなし ってことになんのかい? 8 00:00:24,648 --> 00:00:27,518 どうりで こちとら どっちが頭か足元か・ 9 00:00:27,518 --> 00:00:30,354 分かんなくなっちまうってわけだ。 10 00:00:30,354 --> 00:00:33,207 あ痛ててて… 頭 しびれてきやがった。 11 00:00:33,207 --> 00:00:36,577 ん? こっちは足か。 12 00:00:36,577 --> 00:00:40,181 さて お待ちかねの「昭和元禄落語心中」。 13 00:00:40,181 --> 00:00:42,483 この話は 刑務所帰りの与太郎が・ 14 00:00:42,483 --> 00:00:46,070 名人・八雲師匠に弟子入りする ってとこから始まりですが・ 15 00:00:46,070 --> 00:00:49,490 この与太郎 名前のとおり どうしようもねぇバカで・ 16 00:00:49,490 --> 00:00:53,144 なんと 師匠の大舞台の最中に 居眠り こきやがって・ 17 00:00:53,144 --> 00:00:55,479 大失態をかましちまう。 18 00:00:55,479 --> 00:00:58,716 これには 師匠も怒り心頭。 19 00:00:58,716 --> 00:01:02,820 「与太郎や あたしの落語は よく眠れたかい?・ 20 00:01:02,820 --> 00:01:04,839 お前さんは破門だよ」。 21 00:01:04,839 --> 00:01:09,226 「はっ! すいやせん 師匠! 破門だきゃあ勘弁してくれ。・ 22 00:01:09,226 --> 00:01:12,012 このとおり」! 23 00:01:12,012 --> 00:01:14,064 泣きついて 置いてかれて・ 24 00:01:14,064 --> 00:01:18,936 ようやく話を聞いてくれた師匠は おもむろに こう切り出した。 25 00:01:18,936 --> 00:01:21,856 「破門しない代わりに なあ 与太郎。・ 26 00:01:21,856 --> 00:01:25,956 お前さんは あたしと三つの約束を しないといけないよ」。 27 00:01:27,394 --> 00:01:32,082 「一つ あたしと助六の落語を 全部覚えること。・ 28 00:01:32,082 --> 00:01:37,972 二つ 助六とした 二人で 落語の生きる道を作ろうって約束・ 29 00:01:37,972 --> 00:01:40,858 欠けちまった その穴 埋めること。・ 30 00:01:40,858 --> 00:01:45,558 三つ 絶対に あたしより先に死なねぇこと」。 31 00:01:46,964 --> 00:01:50,084 どうして師匠が そんなことを言いだしたかって? 32 00:01:50,084 --> 00:01:53,003 実は 師匠には 一緒に落語を背負ってこうとした・ 33 00:01:53,003 --> 00:01:56,590 兄弟子であり 莫逆の友ってやつがいた。 34 00:01:56,590 --> 00:01:59,560 その人の名前が助六。 35 00:01:59,560 --> 00:02:01,912 オイラとアネさんは そのときの話を・ 36 00:02:01,912 --> 00:02:05,349 ひと晩かけて たっぷり 語ってもらった。 37 00:02:05,349 --> 00:02:08,853 それから 月日は流れに流れて10数年。 38 00:02:08,853 --> 00:02:11,388 師匠との約束を胸に 修業を積んだオイラは・ 39 00:02:11,388 --> 00:02:16,076 念願かなって ようやく真打ちに してもらえるって話になった。 40 00:02:16,076 --> 00:02:18,496 ところがどっこい 浮かれたオイラに・ 41 00:02:18,496 --> 00:02:22,082 アネさんが とんでもねぇことを言ってきた。 42 00:02:22,082 --> 00:02:24,985 「与太 あたしね 子供 産むんだ」。 43 00:02:24,985 --> 00:02:29,306 「えっ 子供・ どういうこってぇ アネさん。・ 44 00:02:29,306 --> 00:02:32,676 父親は?」。 「言いたかないね。・ 45 00:02:32,676 --> 00:02:35,596 この子は あたしが 一人で育てるって決めたんだ。・ 46 00:02:35,596 --> 00:02:39,817 文句は言わせないよ」。 「そうかい。・ 47 00:02:39,817 --> 00:02:44,455 なあ アネさん。 オイラ その子の父親になれねぇかい?」。 48 00:02:44,455 --> 00:02:47,474 なんも考えず つい 口をついて出た言葉。 49 00:02:47,474 --> 00:02:49,543 だが 悪い考えじゃねぇだろ? 50 00:02:49,543 --> 00:02:52,112 アネさんが 一人で 苦労するとこなんざ・ 51 00:02:52,112 --> 00:02:54,915 見たかねぇし。 それだけ言ったら・ 52 00:02:54,915 --> 00:02:57,518 今度は 師匠んとこに 行かなくちゃならねぇ。 53 00:02:57,518 --> 00:03:01,622 協会の会長になった師匠は 以前にも増して大忙しだが・ 54 00:03:01,622 --> 00:03:03,674 オイラ どうしても 真打ちになる前に・ 55 00:03:03,674 --> 00:03:06,026 頼みてぇことが あったんだ。 56 00:03:06,026 --> 00:03:08,345 先代の墓参りに 来ていた師匠。 57 00:03:08,345 --> 00:03:12,116 その墓前で オイラは 頭下げて頼み込んだ。 58 00:03:12,116 --> 00:03:16,116 「三代目 助六を 継がせてくだせぇ」ってな。 59 00:03:26,564 --> 00:03:29,617 ・与太ちゃん おめでとう! ひひひっ。 60 00:03:29,617 --> 00:03:33,120 ・やったな 与太郎! ・よっ 真打ち! 61 00:03:33,120 --> 00:03:35,205 ・きまってるね 与太! 62 00:03:35,205 --> 00:03:37,558 もう。 オイラ 名前が 変わるんだよ。 63 00:03:37,558 --> 00:03:40,494 はははっ! 助六って誰だよ。 64 00:03:40,494 --> 00:03:42,513 与太ちゃんは与太ちゃんだろ? 65 00:03:42,513 --> 00:03:45,399 お前にゃ与太郎が お似合いだよ。 66 00:03:45,399 --> 00:03:47,885 てめぇら いいかげんにしやがれ! 痛て…。 67 00:03:47,885 --> 00:03:50,955 (有楽亭八雲)これ 与太。 んん~。 68 00:03:50,955 --> 00:03:53,057 とっとと 先 進みな。 69 00:03:53,057 --> 00:03:55,376 お客様は あたしが見たくて 来てくだすってんだから。 70 00:03:55,376 --> 00:03:58,429 ・八雲さ~ん! ・きゃあ~ 八代目! 71 00:03:58,429 --> 00:04:00,447 はいはい こっちもかい。 72 00:04:00,447 --> 00:04:02,783 師匠がやりたかっただけでしょ。 73 00:04:02,783 --> 00:04:06,003 いいんだよ あたしが会長なんだから。 74 00:04:06,003 --> 00:04:09,256 んん~。 ・いつまで止まってんだい? 75 00:04:09,256 --> 00:04:13,260 ・与太ちゃん ほら 歩いて。 76 00:04:13,260 --> 00:04:17,247 与太郎 似合ってるよ! ・おめでとさん! 77 00:04:17,247 --> 00:04:21,235 ・与太郎 日本一! ・よっ! 大統領! 78 00:04:21,235 --> 00:04:23,835 ・頑張れ! ・与太郎! 79 00:04:26,223 --> 00:04:30,444 みんな ありがとよ! ・与太郎師匠のお通りだ! 80 00:04:30,444 --> 00:04:33,764 ・頑張って~! ・よかったね! 81 00:04:33,764 --> 00:04:37,564 ・~ 82 00:04:41,255 --> 00:04:43,273 ありがとうございます どうも。 ・(萬月)与太郎はん。 83 00:04:43,273 --> 00:04:45,676 ん? (萬月)お久しぶりどす。・ 84 00:04:45,676 --> 00:04:48,195 この度は おめでとう。 85 00:04:48,195 --> 00:04:51,849 わあ~! 萬月兄さん! 出張 重なって・ 86 00:04:51,849 --> 00:04:55,085 大初日に来られましたわ。 わざわざ すいやせん。 87 00:04:55,085 --> 00:04:58,973 いやいや おめでとうさん。 で 八雲師匠 いはる? 88 00:04:58,973 --> 00:05:01,525 あっ… すいやせん。 今 お一人で・ 89 00:05:01,525 --> 00:05:03,577 今日のネタ さらってらっしゃいます。 90 00:05:03,577 --> 00:05:05,980 ほんなら 待たせてもらうわ。 91 00:05:05,980 --> 00:05:08,115 これな ご祝儀。 92 00:05:08,115 --> 00:05:10,417 えっ? いやいや いやいや こんなには頂けません…。 93 00:05:10,417 --> 00:05:12,417 ええねん。 94 00:05:14,788 --> 00:05:18,142 (萬月)あんたはん 思い切ったこと しはりましたな。 95 00:05:18,142 --> 00:05:21,662 なんやねんな 助六襲名て 今更。 96 00:05:21,662 --> 00:05:23,714 いやね 与太郎で真打ちじゃ・ 97 00:05:23,714 --> 00:05:25,749 どうも まずいってぇし・ 98 00:05:25,749 --> 00:05:28,535 ほかに縁のある名が あるわけじゃねぇし…。 99 00:05:28,535 --> 00:05:30,871 八雲師匠は なんて? 100 00:05:30,871 --> 00:05:35,559 へえ。 眉一つ動かさねぇで 好きにしろって そいだけ。 101 00:05:35,559 --> 00:05:38,645 はあ…。 歴史もない・ 102 00:05:38,645 --> 00:05:41,081 大名跡でも 止め名でもねぇから・ 103 00:05:41,081 --> 00:05:44,151 継ぐこと自体にゃ 問題はねぇってんですけど。 104 00:05:44,151 --> 00:05:47,588 せやな。 昔は熱烈なファンもおったけど・ 105 00:05:47,588 --> 00:05:52,426 もう少ななってるし。 少しの写真と少しのレコード・ 106 00:05:52,426 --> 00:05:57,114 それが全てや。 死んだら もう しゃべらしまへん。 107 00:05:57,114 --> 00:05:59,166 せやかて 与太郎はん…・ 108 00:05:59,166 --> 00:06:01,485 あっ ちゃうわ 助六か。 109 00:06:01,485 --> 00:06:04,421 いや いいんですよ。 好きに呼んでください。 110 00:06:04,421 --> 00:06:07,508 ってか 兄さん 今 副業でもなさってるんで? 111 00:06:07,508 --> 00:06:09,910 随分 景気がいいんすね。 112 00:06:09,910 --> 00:06:12,479 当たり前や バブルやで! 113 00:06:12,479 --> 00:06:15,315 今な テレビの仕事さしてもろてんねん。 114 00:06:15,315 --> 00:06:19,136 もう えらいこっちゃで 忙しぃて身がもたんわ。 115 00:06:19,136 --> 00:06:23,741 でも そんなんじゃ 稽古の時間も 取れねぇんじゃねぇですか? 116 00:06:23,741 --> 00:06:27,061 実はな 落語家は もう 廃業してん。 117 00:06:27,061 --> 00:06:29,430 えっ・ 父が亡うなって・ 118 00:06:29,430 --> 00:06:32,216 縛りも消えたら やる気も のうなった。 119 00:06:32,216 --> 00:06:35,753 才能あるとも思われへんし。 いや でも だからって…。 120 00:06:35,753 --> 00:06:39,156 それに 上方落語は もう あきまへんわ。 121 00:06:39,156 --> 00:06:43,077 漫才でもなんでも とにかく スピードが求められる時代に・ 122 00:06:43,077 --> 00:06:46,077 誰が悠長に 落語なんか 聴いてくれはりますねや。 123 00:06:48,949 --> 00:06:52,419 関西は ついに 寄席も のうなってしもた。・ 124 00:06:52,419 --> 00:06:56,056 東京かて もう ここ1軒しかあらへんねやろ? 125 00:06:56,056 --> 00:06:59,159 求められんようなったら 場所も のうなってく。 126 00:06:59,159 --> 00:07:01,659 笑いいうんは そういう運命やねん。 127 00:07:03,347 --> 00:07:06,047 落語は 共感を得るための芸です。 128 00:07:07,951 --> 00:07:10,387 笑わせるだけのもんじゃない。 129 00:07:10,387 --> 00:07:14,487 共感は 時代では変わらない。 だから 大丈夫。 130 00:07:16,493 --> 00:07:20,214 って 師匠が言ってました。 (萬月)なんやねんな! 131 00:07:20,214 --> 00:07:23,200 講釈か。 偉なったな。・ 132 00:07:23,200 --> 00:07:26,887 そないな受け売りでも 実感が目に宿ってはる。 133 00:07:26,887 --> 00:07:28,922 それだけ付きっきりで 八雲師匠に・ 134 00:07:28,922 --> 00:07:33,610 たたっ込まれたいうことやろ。 へへへっ。 135 00:07:33,610 --> 00:07:36,580 (萬月)僕は やっぱり 見込みないんかな。・ 136 00:07:36,580 --> 00:07:39,716 結局 一回も 見てもらわれへんかったわ。・ 137 00:07:39,716 --> 00:07:42,035 妬ましいな。 兄さん・ 138 00:07:42,035 --> 00:07:44,755 落語なんて いつだって できんすから。 139 00:07:44,755 --> 00:07:46,857 そっち失敗したら 戻ってきてね。 140 00:07:46,857 --> 00:07:49,710 やかましいわ! ひひっ。 141 00:07:49,710 --> 00:07:51,745 八雲師匠 上がられます。 142 00:07:51,745 --> 00:07:55,332 ・・~(出囃子) 143 00:07:55,332 --> 00:07:57,684 あっ。 おっ。 144 00:07:57,684 --> 00:07:59,684 あっ 師匠。 145 00:08:02,506 --> 00:08:04,558 与太。 へい。 146 00:08:04,558 --> 00:08:12,349 ・~ 147 00:08:12,349 --> 00:08:14,384 (一同)ご苦労さまです。 148 00:08:14,384 --> 00:08:17,354 パチパチパチ…(拍手) (観客)待ってました! 149 00:08:17,354 --> 00:08:19,389 (観客)八代目! (観客)八雲さ~ん。 150 00:08:19,389 --> 00:08:26,889 ・~ 151 00:08:28,248 --> 00:08:32,119 ええ~ どうも。 本日は このような祝いの席の・ 152 00:08:32,119 --> 00:08:37,119 大初日に お運びいただきまして 誠に感謝申し上げます。 153 00:08:38,492 --> 00:08:42,346 こういう日には あたくしが 真打ちになったときのことを・ 154 00:08:42,346 --> 00:08:45,282 嫌でも 思い出しちまうってもんです。 155 00:08:45,282 --> 00:08:47,784 あんときも 大師匠含め・ 156 00:08:47,784 --> 00:08:50,120 たくさんの方に 祝っていただきました。 157 00:08:50,120 --> 00:08:53,373 (萬月) 客席の空気が 丸ごと変わった。・ 158 00:08:53,373 --> 00:08:57,978 動いて しゃべらはるだけで こんなに 人を満足させる。・ 159 00:08:57,978 --> 00:09:00,547 噺家の夢や。 160 00:09:00,547 --> 00:09:03,400 みんな こんな存在になりたぁて・ 161 00:09:03,400 --> 00:09:05,719 日々 精進しはるんや。・ 162 00:09:05,719 --> 00:09:08,889 噺家は 老いてからが華や言うけど・ 163 00:09:08,889 --> 00:09:14,044 間違いなく 八代目は 今が いちばんお美しい。・ 164 00:09:14,044 --> 00:09:16,847 それを この目で見れる。・ 165 00:09:16,847 --> 00:09:19,247 こんなぜいたく あらしまへん。 166 00:09:22,236 --> 00:09:25,539 ええ~ まさか てめぇの弟子の・ 167 00:09:25,539 --> 00:09:29,309 しかも あんな与太郎の膝前 務める日が来るなんざ・ 168 00:09:29,309 --> 00:09:31,345 ついぞ思いやしませんでしたが…。 169 00:09:31,345 --> 00:09:34,114 (観客たち)はははっ。 170 00:09:34,114 --> 00:09:38,151 その与太郎が 助六を継ごうってんですから。 171 00:09:38,151 --> 00:09:41,521 あたくしも 先代から ちょうだいした名前ですから・ 172 00:09:41,521 --> 00:09:43,707 なんとはなしに分かりますが・ 173 00:09:43,707 --> 00:09:46,209 結局は先代と おんなじこと やったって・ 174 00:09:46,209 --> 00:09:49,279 つまんねぇわけです。 継ごうが継ぐまいが・ 175 00:09:49,279 --> 00:09:51,315 何も変わりゃしない。 176 00:09:51,315 --> 00:09:54,217 それが噺家の定めだってこたぁ・ 177 00:09:54,217 --> 00:09:57,037 あの人だって 分かってるはず。 178 00:09:57,037 --> 00:09:59,256 あれ オイラのこと 言ってくれてんのかな? 179 00:09:59,256 --> 00:10:01,275 ふんっ。 180 00:10:01,275 --> 00:10:05,279 何商売でも 易しいという商売は ございませんで。 181 00:10:05,279 --> 00:10:07,998 とりわけ難しいのが 幇間。 182 00:10:07,998 --> 00:10:11,018 つまり 太鼓持ちでございますな。 183 00:10:11,018 --> 00:10:13,870 「おや お梅ちゃん おかえんなさい。・ 184 00:10:13,870 --> 00:10:17,975 へへっ。 今日は 鬢の具合がよろしくて…。・ 185 00:10:17,975 --> 00:10:20,510 なんだい。 スゥ~っと向こうの部屋へ・ 186 00:10:20,510 --> 00:10:24,464 入っちった。 けど いい女だなぁ。・ 187 00:10:24,464 --> 00:10:28,318 俺は4年半 岡惚れしてんだ。 なあ。・ 188 00:10:28,318 --> 00:10:30,454 こりゃどうも お梅ちゃん。・ 189 00:10:30,454 --> 00:10:34,424 鏡台の前で 諸肌脱いで。 お化粧ですか?」。 190 00:10:34,424 --> 00:10:36,476 「そっち 行ってらっしゃいよ。・ 191 00:10:36,476 --> 00:10:39,129 男の人の来る所じゃないわよ」。 192 00:10:39,129 --> 00:10:41,729 「へへへっ。 なんですよ もう」。 193 00:10:43,784 --> 00:10:45,969 「ねえ 一八っつぁん。・ 194 00:10:45,969 --> 00:10:49,122 いつか 寝ずの番をしてくだすったわね。・ 195 00:10:49,122 --> 00:10:53,093 あの親切が 本当にありがたいと思ってるの。・ 196 00:10:53,093 --> 00:10:55,495 あたしゃね 芸人のあんたと・ 197 00:10:55,495 --> 00:10:58,615 色だの恋だのってぇ気には なれないけれど・ 198 00:10:58,615 --> 00:11:03,153 真剣だってぇんなら 嫁にもらっていただきたいわ」。 199 00:11:03,153 --> 00:11:05,989 「えっ 本当ですかい?」。 200 00:11:05,989 --> 00:11:08,775 「いい? 今晩 2時を打ったら・ 201 00:11:08,775 --> 00:11:10,844 あたしの部屋へ来てちょうだい」。 202 00:11:10,844 --> 00:11:12,879 「ようがす。・ 203 00:11:12,879 --> 00:11:16,850 へへへっ うれしいな。 ついに お梅ちゃんと…。・ 204 00:11:16,850 --> 00:11:20,454 あっ? あっ どうも 大将」。 205 00:11:20,454 --> 00:11:23,256 「なんだ 一八 そんなに浮かれて。・ 206 00:11:23,256 --> 00:11:25,909 柳橋で夜っぴぃて騒ごうや」。 207 00:11:25,909 --> 00:11:29,009 「あっ いや 大将 今晩ばかりは…」。 208 00:11:31,298 --> 00:11:35,218 へへへっ。 ・(松田)助六師匠。・ 209 00:11:35,218 --> 00:11:37,437 お嬢さん こっそり いらしてましたよ。 210 00:11:37,437 --> 00:11:41,274 (小夏)松田さん よして。 ちょっと寄ってみただけだってば。 211 00:11:41,274 --> 00:11:43,274 アネさん 来てたの? (萬月)えっ! 212 00:11:44,861 --> 00:11:46,880 (萬月)うそやわ 小夏はん!・ 213 00:11:46,880 --> 00:11:48,982 今度こそ 口説こう思うて 来たのに。・ 214 00:11:48,982 --> 00:11:51,017 いつ結婚しはったん?・ 215 00:11:51,017 --> 00:11:54,788 旦那は誰なん? どんな男やの? 216 00:11:54,788 --> 00:11:56,823 オイラの跡継ぎ。 (萬月)あっ…。 217 00:11:56,823 --> 00:11:59,309 四代目 助六です。 (小夏)バッ…。 218 00:11:59,309 --> 00:12:02,245 にひっ。 (萬月)うそや!・ 219 00:12:02,245 --> 00:12:04,898 妬ましいわ!・ 220 00:12:04,898 --> 00:12:06,898 なんで こんなもんに 持って…。 221 00:12:10,787 --> 00:12:13,123 アネさ~ん! 222 00:12:13,123 --> 00:12:15,158 (小夏) 紋付きで うろつくんじゃないよ! 223 00:12:15,158 --> 00:12:17,444 大初日に 主役が抜けて どうすんの。・ 224 00:12:17,444 --> 00:12:20,947 打ち上げ あんだろ? 松田さんに頼んできた。 225 00:12:20,947 --> 00:12:23,884 送って すぐ戻りゃ大丈夫でぇ。 226 00:12:23,884 --> 00:12:25,919 はい。 (小夏)あっ。 227 00:12:25,919 --> 00:12:28,755 萬月の兄さんが これ着せてやれって。 228 00:12:28,755 --> 00:12:30,791 どうしたんでぇ こんな薄着で? 229 00:12:30,791 --> 00:12:33,427 買い物ついでに 気になって入っちゃったのよ。 230 00:12:33,427 --> 00:12:37,247 あんたが あることないこと 吹聴するから…・ 231 00:12:37,247 --> 00:12:40,050 すっかり 行きづらくなっちゃったじゃない。 232 00:12:40,050 --> 00:12:44,187 だって 一緒になってくれんだろ? 233 00:12:44,187 --> 00:12:48,024 今は披露目中だから 終わったら 役所行って・ 234 00:12:48,024 --> 00:12:50,710 式は アネさんが やりてぇってんなら やって…。 235 00:12:50,710 --> 00:12:53,663 やっぱ やめた。 ええ~・ 236 00:12:53,663 --> 00:12:56,750 なんで~? (小夏)あんたとじゃ・ 237 00:12:56,750 --> 00:12:58,969 あんまりにも不安すぎんのよ。・ 238 00:12:58,969 --> 00:13:02,522 金ないし バカすぎるし 芸人だし 未来もないし。・ 239 00:13:02,522 --> 00:13:05,158 考えれば考えるほど やっぱ無理。 240 00:13:05,158 --> 00:13:08,595 んんっ! まだるっこしいな アネさんは! 241 00:13:08,595 --> 00:13:11,097 すぐ悪い方に考える。 242 00:13:11,097 --> 00:13:15,418 (小夏)あんたのそれは哀れみよ。 同情なんて勘弁して。・ 243 00:13:15,418 --> 00:13:17,521 あんたなんかに 何が分かるんだい。 244 00:13:17,521 --> 00:13:20,991 哀れんじゃいねぇよ! けどな・ 245 00:13:20,991 --> 00:13:23,727 これだって 立派な情だ。 (小夏)あっ。 246 00:13:23,727 --> 00:13:27,714 同じ屋根の下で ず~っと 今まで 世話んなって 一緒に暮らして・ 247 00:13:27,714 --> 00:13:31,685 そいで湧いてきたこれが 情以外のなんだってんだ。 248 00:13:31,685 --> 00:13:34,354 色っぽさのかけらもねぇ。 惚れた腫れたのとは・ 249 00:13:34,354 --> 00:13:38,608 ちと違うかもしれねぇ。 なんの情だか分かんねぇけどよ・ 250 00:13:38,608 --> 00:13:42,208 とにかく アネさんは オイラにだって大事なんだ。 251 00:13:44,648 --> 00:13:48,585 そんな苦ぇ顔で暮らしてたら どん底になっちゃうよ。 252 00:13:48,585 --> 00:13:53,373 オイラといりゃあ 大丈夫! 絶対 毎日 笑わしてやりやすから。 253 00:13:53,373 --> 00:13:56,977 どうせ 今までだってよ 一緒に暮らしてたんだし・ 254 00:13:56,977 --> 00:13:59,613 そんなに 生活が変わるってわけでもねぇし・ 255 00:13:59,613 --> 00:14:01,915 なんたって オイラ 真打ちに…。 (小夏)与太…。 256 00:14:01,915 --> 00:14:04,551 へっ? 257 00:14:04,551 --> 00:14:07,951 ありがと…。 へっ? 258 00:14:09,573 --> 00:14:12,209 えっ? えっ… あっ あっ…。 259 00:14:12,209 --> 00:14:14,394 おっ おおっ… おお おお…。 260 00:14:14,394 --> 00:14:17,781 んんっ んんっ… んん~! (小夏)ああ~ 寒っ! 261 00:14:17,781 --> 00:14:20,817 い… 行くよ。 んん~~! 262 00:14:20,817 --> 00:14:24,017 ま ま… 待って アネさん! 263 00:16:28,662 --> 00:16:30,680 「おい 半公! んなとこで寝てねぇで起きろぃ!・ 264 00:16:30,680 --> 00:16:32,882 床へ来て 寝るなんざ よっぽどだな」。 265 00:16:32,882 --> 00:16:36,052 「んなこと言わねぇでさ 寝かしといてくれよ。・ 266 00:16:36,052 --> 00:16:39,389 オイラ ここんとこ 年増にせめられて寝てねぇんだ。・ 267 00:16:39,389 --> 00:16:42,742 ふぁ~あ…」。 「何? 年増・・ 268 00:16:42,742 --> 00:16:44,778 てめぇ 詳しく聞かせろぃ!」。 269 00:16:44,778 --> 00:16:48,114 「おう 言ってやらぁ。 俺が 芝居 行ったときのことだ。・ 270 00:16:48,114 --> 00:16:51,551 升席に 女が2人 座ってる。 そしたら そのお嬢さん・ 271 00:16:51,551 --> 00:16:54,554 おにいさ~ん ここへ来て あたくしの代わりに・ 272 00:16:54,554 --> 00:16:57,257 音羽屋! って 声 掛けてくださる~?。・ 273 00:16:57,257 --> 00:16:59,275 女が ツンツ~ンっと 合図してきたから・ 274 00:16:59,275 --> 00:17:01,578 こちとら もう とっときのでけぇ声で…・ 275 00:17:01,578 --> 00:17:05,014 音羽屋! 音羽屋! 音羽屋! 音羽屋!・ 276 00:17:05,014 --> 00:17:09,114 お~たおたおたおた… 音羽屋~~!」。 277 00:17:13,490 --> 00:17:16,276 ・(樋口)与太郎君。 ん? へい。 278 00:17:16,276 --> 00:17:19,062 (樋口) ああ~ ごめん 今は助六か。・ 279 00:17:19,062 --> 00:17:22,515 しばらく前に一度 君の高座を見たことあってね。・ 280 00:17:22,515 --> 00:17:25,819 「与太郎」なんて すごい芸名だから覚えてたんだ。 281 00:17:25,819 --> 00:17:28,722 へへっ 見たまんまの名前でしょ? 282 00:17:28,722 --> 00:17:32,041 おかげで 今でも みんなからは 「与太郎 与太郎」って呼ばれてます。 283 00:17:32,041 --> 00:17:36,846 (樋口)はははっ。 それよりさ すんごくよかったよ 落語。 284 00:17:36,846 --> 00:17:39,182 ほんとですかい? ああ。 285 00:17:39,182 --> 00:17:42,085 悪い虫がうずいて 久々に寄席なんて来たけど・ 286 00:17:42,085 --> 00:17:46,189 まだ こんなのが 残ってたんだ。 感激しました。 287 00:17:46,189 --> 00:17:49,175 へへへっ! そう言ってくれると ありがてぇや。 288 00:17:49,175 --> 00:17:51,277 「助六」なんて懐かしい名前・ 289 00:17:51,277 --> 00:17:54,597 どんな噺家さんが 継いだんだろうと思ったけど・ 290 00:17:54,597 --> 00:17:57,884 先代に劣らず 君も面白いね。 えっ? 291 00:17:57,884 --> 00:18:00,620 旦那 もしかして 助六 知ってんのかい? 292 00:18:00,620 --> 00:18:02,972 (樋口)昔 何度か高座を見たよ。 293 00:18:02,972 --> 00:18:05,742 我が強いけど いい噺家だった。 ええ~! 294 00:18:05,742 --> 00:18:09,562 助六の高座 見たの・ こりゃあ すげぇ! 295 00:18:09,562 --> 00:18:12,115 なあ 今度 その話 聞かせてくれよ。 296 00:18:12,115 --> 00:18:16,085 いいよ。 今度と言わず よかったら どうかな 今晩? 297 00:18:16,085 --> 00:18:18,121 えっ? ひひっ! 298 00:18:18,121 --> 00:18:20,290 (樋口) 与太さん 贔屓にしちゃうよ? 299 00:18:20,290 --> 00:18:22,308 オールオッケー! 300 00:18:22,308 --> 00:18:25,311 ・~(三味線の演奏「奴さん」) 301 00:18:25,311 --> 00:18:28,431 (芸者)・ エー 奴さん 302 00:18:28,431 --> 00:18:32,352 (芸者)・ どちら行く 303 00:18:32,352 --> 00:18:34,387 (与太郎・芸者) ・ ハア コリャコリャ 304 00:18:34,387 --> 00:18:38,408 (芸者)・ 旦那 お迎えに (樋口・ハミング「奴さん」)・ ふふん… 305 00:18:38,408 --> 00:18:42,495 (芸者)・ さても 寒いのに (樋口)・ ふ~んふんふん… 306 00:18:42,495 --> 00:18:44,614 (芸者)・ 供揃え 307 00:18:44,614 --> 00:18:46,649 (与太郎・芸者)・ 雪の 308 00:18:46,649 --> 00:18:52,372 (芸者)・ 降る夜も 風の日も サテ 309 00:18:52,372 --> 00:18:56,159 (芸者・与太郎)・ お供はつらいね 310 00:18:56,159 --> 00:18:59,959 ・~(三味線の演奏「奴さん」) 311 00:19:02,215 --> 00:19:06,452 お粗末さまでした。 すごい すごい! 大したもんだ。・ 312 00:19:06,452 --> 00:19:09,122 踊れる芸人なんて 近頃 珍しいよ。 313 00:19:09,122 --> 00:19:11,591 師匠に たたっ込まれまして。 314 00:19:11,591 --> 00:19:13,710 先生こそ 大したもんだ。 315 00:19:13,710 --> 00:19:16,379 演芸のこと べらぼうに詳しいんだな。 316 00:19:16,379 --> 00:19:20,216 嫌だ 与太ちゃん。 知らないで来んのかい この子は。 317 00:19:20,216 --> 00:19:22,986 えっ? (芸者)樋口栄助センセ。・ 318 00:19:22,986 --> 00:19:26,189 通称・ひーさん。 売れっ子作家さんなのよ。 319 00:19:26,189 --> 00:19:29,025 えっ! そうだったのかい? (樋口)ははっ。・ 320 00:19:29,025 --> 00:19:31,177 そんな大層なもんじゃないがね。 321 00:19:31,177 --> 00:19:34,113 (芸者) いい旦那さんに見込まれたわねぇ。 322 00:19:34,113 --> 00:19:36,113 贔屓にしてもらいなさいな。 323 00:19:37,717 --> 00:19:40,737 先生 うちの芸者も また呼んでね。 324 00:19:40,737 --> 00:19:43,940 芸者は もう こりごりだ。 お金はかかるし・ 325 00:19:43,940 --> 00:19:47,110 奥さんが 嫌な顔するんだもんなぁ。・ 326 00:19:47,110 --> 00:19:50,680 今日も ふらっと 寄席へ逃げ込んでみてよかったよ。 327 00:19:50,680 --> 00:19:52,999 また いい落語に会えた。 328 00:19:52,999 --> 00:19:56,669 与太さん まあ まあ 飲まんかね。 うへぇ~! 329 00:19:56,669 --> 00:19:58,721 カコン(鹿威しの音) 330 00:19:58,721 --> 00:20:01,190 (樋口) 文化の寿命って知ってますか? 331 00:20:01,190 --> 00:20:03,226 えっ? 解説のいらない・ 332 00:20:03,226 --> 00:20:08,331 大衆文化としての寿命は だいたい 50年だっていわれてます。 333 00:20:08,331 --> 00:20:10,383 それ以降は 残ったとしても・ 334 00:20:10,383 --> 00:20:14,220 大衆のものでは なくなってしまうんだって。 335 00:20:14,220 --> 00:20:16,806 けれど 落語は生まれて300年。 336 00:20:16,806 --> 00:20:19,342 そして まだ 大衆に寄り添っている。 337 00:20:19,342 --> 00:20:21,342 どうしてでしょうね? 338 00:20:22,745 --> 00:20:27,283 難しすぎて分かんねぇな。 (樋口)あっは~ ですよね。 339 00:20:27,283 --> 00:20:31,654 実は昔 八雲師匠に 弟子入りを 断られたことがあるんだ。 340 00:20:31,654 --> 00:20:34,457 ええ~! いや~ 若かった。 341 00:20:34,457 --> 00:20:37,293 好きすぎて 空回ってたんだ。・ 342 00:20:37,293 --> 00:20:42,749 断られて ヤケになって そこから 落語を断ってしまった。・ 343 00:20:42,749 --> 00:20:45,735 あの人の落語は 圧倒的すぎて・ 344 00:20:45,735 --> 00:20:50,035 僕なんか弟子入りしたって 考え過ぎて 絶望してたと思う。 345 00:20:51,491 --> 00:20:55,645 けど あの時期 少しでも 弟子を取ってくれてたら・ 346 00:20:55,645 --> 00:20:59,065 現状の落語界は もう少し よかったはず。 347 00:20:59,065 --> 00:21:03,519 この状況は あの人の意志で 作られたかのようだ。・ 348 00:21:03,519 --> 00:21:06,219 まるで 落語界の死神だよ。・ 349 00:21:07,590 --> 00:21:10,009 その死神が どうして 君のような未練を・ 350 00:21:10,009 --> 00:21:13,809 今更 残そうと思ったのか 非常に興味深い。 351 00:21:16,015 --> 00:21:19,602 君は 落語で 師匠を 超えられる日が来ると思う? 352 00:21:19,602 --> 00:21:23,740 天地が ひっくり返っても無理! だよね。 353 00:21:23,740 --> 00:21:27,377 惚れて弟子になるって そうだもの。 ひひっ。 354 00:21:27,377 --> 00:21:29,412 古典に挑むってことは・ 355 00:21:29,412 --> 00:21:33,900 あまたの名人 大師匠が 全身全霊で磨き上げたものを・ 356 00:21:33,900 --> 00:21:37,470 否定して 更新しなくてはいけない ということ。・ 357 00:21:37,470 --> 00:21:40,690 それを 今 君がやる利点は? 358 00:21:40,690 --> 00:21:43,609 う~ん… ねぇなぁ。 359 00:21:43,609 --> 00:21:46,379 (樋口)ふっ。 けど 君が・ 360 00:21:46,379 --> 00:21:49,816 大名人たちに勝てるところが 一つだけある。・ 361 00:21:49,816 --> 00:21:53,302 君は 生の高座を 客に見せられる。 362 00:21:53,302 --> 00:21:57,102 それが いかに強みか 落語家さんなら すぐ分かるだろ? 363 00:21:58,925 --> 00:22:02,095 やっぱり 落語は 生で見てこその芸。 364 00:22:02,095 --> 00:22:05,648 伝わる情報量が違う。 僕は そこにこそ・ 365 00:22:05,648 --> 00:22:08,851 落語の魅力の秘密が あると思うよ。・ 366 00:22:08,851 --> 00:22:11,704 現代の落語だって 捨てたもんじゃないよ。・ 367 00:22:11,704 --> 00:22:16,142 口伝の芸の弱点は 資料が ほとんど残ってないことだ。 368 00:22:16,142 --> 00:22:18,811 けど 僕らには たくさんの記録がある。・ 369 00:22:18,811 --> 00:22:23,850 明治 大正 戦前の落語家には かなわなかった夢だ。・ 370 00:22:23,850 --> 00:22:26,819 伝承に 血筋が必要なわけでもない。・ 371 00:22:26,819 --> 00:22:31,040 名人や伝統を失う代わりに しがらみもなくなった。・ 372 00:22:31,040 --> 00:22:33,740 落語は今 かつてなく自由だ。・ 373 00:22:35,261 --> 00:22:38,347 ただし 守ってばかりでもいけない。・ 374 00:22:38,347 --> 00:22:40,633 古典を しっかり受け継ぐこと。・ 375 00:22:40,633 --> 00:22:43,219 それと 新しい落語を作り出すこと。 376 00:22:43,219 --> 00:22:46,773 その両方が大事だと 僕なんかは思うがね。 377 00:22:46,773 --> 00:22:49,308 どうだい 与太郎君! 僕と一緒に・ 378 00:22:49,308 --> 00:22:51,344 新作落語を作ってみないか? 379 00:22:51,344 --> 00:22:55,181 ・~ 380 00:22:55,181 --> 00:22:58,801 先生は物知りで すげぇな。 バン!(突っ伏す音) 381 00:22:58,801 --> 00:23:02,505 (樋口)何それ…。 先生の話は面白ぇ! 382 00:23:02,505 --> 00:23:05,625 落語が好きだって伝わってくる。 (樋口)ふん…。 383 00:23:05,625 --> 00:23:08,325 とりあえず 師匠に聞いてみっからよ。 384 00:23:10,313 --> 00:23:12,348 (信之助) ああ~ はははっ あはははっ! 385 00:23:12,348 --> 00:23:15,318 ふふふっ。 (信之助)ああ~ ああ~! 386 00:23:15,318 --> 00:23:17,787 あっ 師匠。 ざいや~すっ! 387 00:23:17,787 --> 00:23:21,487 なんだい 来てたのかぇ。 おはようさん。 388 00:23:23,960 --> 00:23:26,763 小夏さんは? お使いで出かけるってんで・ 389 00:23:26,763 --> 00:23:29,816 留守番してます。 ちょうどよかった。 390 00:23:29,816 --> 00:23:31,916 肩 さすっとくれよ。 391 00:23:39,442 --> 00:23:44,113 師匠は 新作落語ってのは どう思ってますか? 392 00:23:44,113 --> 00:23:46,113 邪道。 393 00:23:47,950 --> 00:23:51,487 なんだぇ その面。 やりてぇってのかい? 394 00:23:51,487 --> 00:23:54,891 いや… へえ。 実は ちょっと…。 395 00:23:54,891 --> 00:23:58,494 なんでも あたしの顔色 うかがうんじゃありませんよ。 396 00:23:58,494 --> 00:24:02,632 真打ちなんですから ご自分の責任で おやんなさい。 397 00:24:02,632 --> 00:24:05,852 へい。 それから あの…・ 398 00:24:05,852 --> 00:24:09,122 ア… アネさんとのことですけど。 399 00:24:09,122 --> 00:24:12,922 んん~? そりゃ あたしに 断ることじゃねぇだろ。 400 00:24:15,011 --> 00:24:19,949 ふぅ~…。 あの子が どう生きようと自由。 401 00:24:19,949 --> 00:24:23,302 けどね お前さんのことは どこに出したって・ 402 00:24:23,302 --> 00:24:28,908 恥ずかしくない弟子に 育て上げたてぇ自負はありますよ。 403 00:24:28,908 --> 00:24:31,677 それにあたり 一つ お願いがありやす! 404 00:24:31,677 --> 00:24:34,213 二つ目を機に ほかで 暮らしておりましたが・ 405 00:24:34,213 --> 00:24:36,249 また この家に ご厄介になっても・ 406 00:24:36,249 --> 00:24:39,068 よろしいでしょうか? 407 00:24:39,068 --> 00:24:41,504 オイラ 家族になりてぇんだ・ 408 00:24:41,504 --> 00:24:44,807 ずっと一人で生きてきた アネさんと師匠の。 409 00:24:44,807 --> 00:24:48,761 それにはさ また みんなで暮らさなくっちゃ。 410 00:24:48,761 --> 00:24:52,064 助六を名乗ったからって 代わりになんて なれっこねぇ。 411 00:24:52,064 --> 00:24:54,717 でも いつか 名前がなじみゃ・ 412 00:24:54,717 --> 00:24:57,737 二人ん中の助六を きっと変えられる。 413 00:24:57,737 --> 00:25:00,122 師匠が あの話を 教えてくれたってことは・ 414 00:25:00,122 --> 00:25:03,442 それを託されたんだと 思ってるよ。 415 00:25:03,442 --> 00:25:06,546 そのための三つの約束だ。 416 00:25:06,546 --> 00:25:09,182 「師匠より 先に死なない」。 417 00:25:09,182 --> 00:25:11,784 「二人の落語を 全部覚える」。 418 00:25:11,784 --> 00:25:14,084 「落語の寿命を オイラが延ばす」! 419 00:25:15,521 --> 00:25:19,108 驚ぇた。 10年も前の話だ。 420 00:25:19,108 --> 00:25:22,645 覚えてたのかぇ? 当ったり前です。 421 00:25:22,645 --> 00:25:25,481 ・~ 422 00:25:25,481 --> 00:25:28,784 言っとくけど あたしゃ やっぱり落語なんかは・ 423 00:25:28,784 --> 00:25:31,370 汚れる前に きれいさっぱり なくなった方が・ 424 00:25:31,370 --> 00:25:33,656 いいと思ってるよ。 425 00:25:33,656 --> 00:25:38,356 落語と心中… それが あたしの定めさ。 426 00:25:41,063 --> 00:25:43,115 そうはさせません。 427 00:25:43,115 --> 00:25:47,770 じゃあ 与太郎 あたしも 一つだけ聞いていいかい? 428 00:25:47,770 --> 00:25:50,573 へい。 お前さん・ 429 00:25:50,573 --> 00:25:52,973 なんのために 落語をやるんだぇ? 430 00:25:54,343 --> 00:25:56,712 へえ そりゃあもう・ 431 00:25:56,712 --> 00:25:58,712 落語のためです。 432 00:27:32,658 --> 00:27:40,983 ・~ 433 00:27:40,983 --> 00:27:46,822 ・~ 434 00:27:46,822 --> 00:27:52,995 次回 「昭和元禄落語心中 ー助六再び篇ー」・ 435 00:27:52,995 --> 00:27:55,047 第2話。 436 00:27:55,047 --> 00:27:58,447 どうぞ ご贔屓 ご鞭撻のほどを。