1 00:00:06,150 --> 00:00:08,185 (与太郎) 「仕事は いつから始まるんで?」。 2 00:00:08,185 --> 00:00:10,221 「だから 明日っからと言ったじゃねぇか」。 3 00:00:10,221 --> 00:00:12,221 「そいつぁ 困っちゃったなぁ」。 4 00:00:13,641 --> 00:00:16,441 (アマケン・回想)君には 自分の落語が まだない! 5 00:00:18,779 --> 00:00:20,814 ヒューー(花火の音) 6 00:00:20,814 --> 00:00:23,651 ドン! ドーン! 7 00:00:23,651 --> 00:00:26,287 「おう! てめぇなんざ 丸太ん棒に違ぇねぇや!・ 8 00:00:26,287 --> 00:00:28,305 血も涙も目も鼻もねぇ ちんけえとう・ 9 00:00:28,305 --> 00:00:30,357 株っかじり 芋っ堀りめぇ!」。 10 00:00:30,357 --> 00:00:33,377 (樋口)いよっ 大棟梁!・ 11 00:00:33,377 --> 00:00:37,064 また お稽古か。 最近 めっきり つきあい悪いから・ 12 00:00:37,064 --> 00:00:39,083 舟にでも連れ込んじゃえば・ 13 00:00:39,083 --> 00:00:41,385 逃げられまいと思ったのに。 14 00:00:41,385 --> 00:00:44,021 当たり前です 真打ちなんすから。 15 00:00:44,021 --> 00:00:46,790 何 そんなに焦ってんの? 16 00:00:46,790 --> 00:00:48,809 「てめっちに頭 下げるような おアニさんと・ 17 00:00:48,809 --> 00:00:51,111 おアニさんの出来が 少~しばかり違うんでぇ!・ 18 00:00:51,111 --> 00:00:53,163 黙って聞いてりゃ 増長して 御託が過ぎらぃ!・ 19 00:00:53,163 --> 00:00:56,383 昔のことを忘れたか・ どこの町内のおかげでもって・ 20 00:00:56,383 --> 00:00:59,103 大家とか町役とか 膏薬とか 言われるようになったんでぇ・ 21 00:00:59,103 --> 00:01:01,989 バ~カ! 元のこと 知らねぇと思ってやんのか。・ 22 00:01:01,989 --> 00:01:04,008 蛸の頭! あんにゃもんにゃ!・ 23 00:01:04,008 --> 00:01:06,510 うぬは なんだ!」。 はぁ~。 24 00:01:06,510 --> 00:01:08,646 (樋口) その啖呵の文句って なんなの?・ 25 00:01:08,646 --> 00:01:11,815 「ちんけえとう」? 「株っかじり」に「芋っ堀り」? 26 00:01:11,815 --> 00:01:14,685 「蛸の頭」に 極め付けは 「あんにゃもんにゃ」? 27 00:01:14,685 --> 00:01:16,720 センセー よく覚えたなぁ。 28 00:01:16,720 --> 00:01:19,790 このパート 好きなもんで 前に調べたんだ。 29 00:01:19,790 --> 00:01:22,593 けど 辞書にも載ってない。 なんて意味なのさ? 30 00:01:22,593 --> 00:01:25,930 さあ? 知らないでやってんの? 31 00:01:25,930 --> 00:01:27,965 教わったのを しゃべってるだけでぇ。 32 00:01:27,965 --> 00:01:30,284 はぁ~。 33 00:01:30,284 --> 00:01:32,720 知らないと 気が済まないたちなんだ。 34 00:01:32,720 --> 00:01:35,439 意味がどうだって お客は気にしねぇよ。 35 00:01:35,439 --> 00:01:38,492 (樋口) 書く方は そうはいかんのだ。 36 00:01:38,492 --> 00:01:41,312 なぜ 棟梁は ここで啖呵を切るんだろう? 37 00:01:41,312 --> 00:01:44,682 棟梁が啖呵を切る理由? 38 00:01:44,682 --> 00:01:47,584 考えたこともなかったな。 39 00:01:47,584 --> 00:01:51,889 そういや オイラ 一つだけ 師匠に褒められたことがあるんだ。 40 00:01:51,889 --> 00:01:54,892 「お前さんは耳がいい」って。 41 00:01:54,892 --> 00:01:57,227 聞いた言葉が すぐ交ざっちまう。 42 00:01:57,227 --> 00:01:59,279 さんざっぱら 直せって言われたんだけど・ 43 00:01:59,279 --> 00:02:03,083 師匠に言わせりゃ それが 耳がいい証拠なんだってさ。 44 00:02:03,083 --> 00:02:05,119 (樋口)へえ~。 45 00:02:05,119 --> 00:02:08,756 落語の啖呵 甚句 唄なんかも すぐ覚えちゃう。 46 00:02:08,756 --> 00:02:11,342 耳がいいのは 落語家にゃ得なんだ。 47 00:02:11,342 --> 00:02:13,694 なるほど。 要は 意味なんかよりも・ 48 00:02:13,694 --> 00:02:15,913 リズムで覚えろってことか。 49 00:02:15,913 --> 00:02:18,232 うまく言えたときなんかさぁ・ 50 00:02:18,232 --> 00:02:20,351 歌ってるみてぇに気持ちいいんだ。 51 00:02:20,351 --> 00:02:23,520 落語やっててよかったな って思うよ。 52 00:02:23,520 --> 00:02:26,774 あんまり気持ちよくできると お客さんまで寝ててさ。 53 00:02:26,774 --> 00:02:29,274 そんときは オイラなんか しめたって思うね。 54 00:02:31,161 --> 00:02:33,897 オイラ 前座のとき 師匠の高座のソデで・ 55 00:02:33,897 --> 00:02:36,283 イビキかいたことがあって…。 ええ~! 56 00:02:36,283 --> 00:02:40,304 結構な大舞台でさ。 ヒラメみてぇに謝ってたらよ・ 57 00:02:40,304 --> 00:02:43,674 師匠が ひと言 「落語 聴いて寝入るなんざ・ 58 00:02:43,674 --> 00:02:46,727 昼から 最高の贅沢じゃないかェ」。 59 00:02:46,727 --> 00:02:49,530 (与太郎・樋口)かっこいい~! ドーン! 60 00:02:49,530 --> 00:02:53,100 あんときゃ 首の皮一枚で破門だったんだ。 61 00:02:53,100 --> 00:02:55,419 (樋口) やっと昔話 してくれたね。・ 62 00:02:55,419 --> 00:02:58,489 で どうして チンピラやってた君が落語を? 63 00:02:58,489 --> 00:03:00,524 なんでぇ こないだっから。 64 00:03:00,524 --> 00:03:04,211 さっき言ったろ。 性分なんだ。 65 00:03:04,211 --> 00:03:07,698 昔話なんて 先の週刊誌で こりごりなんだよ。 66 00:03:07,698 --> 00:03:10,851 ヒューー 67 00:03:10,851 --> 00:03:13,670 ドン! ドン! 68 00:03:13,670 --> 00:03:16,270 玉屋~・ 69 00:03:17,558 --> 00:03:21,145 (小夏)ん? ねえ 今 与太の声 聞こえなかった? 70 00:03:21,145 --> 00:03:23,680 (お栄)そうかぇ? ふふふっ。・ 71 00:03:23,680 --> 00:03:27,851 いとしい旦那様。 連れ合やいいのに 別々かい? 72 00:03:27,851 --> 00:03:31,305 (小夏)今日は お得意様の旦さんと 一緒なんだって。・ 73 00:03:31,305 --> 00:03:35,092 最近 あいつ うちにいりゃ ずっと稽古か子守なんだから。・ 74 00:03:35,092 --> 00:03:38,212 真打ちになって 伸び悩んでんのよ。 75 00:03:38,212 --> 00:03:41,012 女将さん 芸者さんでも紹介してあげて。 76 00:03:42,549 --> 00:03:46,136 (お栄)そんなときこそ 女房の出番じゃないか。 77 00:03:46,136 --> 00:03:48,689 精いっぱい 力になっておやりよ。 78 00:03:48,689 --> 00:03:50,741 (信之助)ああ~。 79 00:03:50,741 --> 00:03:53,143 (お栄) 聞いたときゃびっくりしたけど・ 80 00:03:53,143 --> 00:03:56,647 蓋開けてみりゃ いい亭主じゃないか。 81 00:03:56,647 --> 00:03:59,747 あたしも ついぞ家庭なんて持てなかった。 82 00:04:01,251 --> 00:04:05,906 あたしや みよ吉さんの分まで 幸せになっとくれよ。 83 00:04:05,906 --> 00:04:09,226 (小夏) 女将さん 実は お願いがあって。 84 00:04:09,226 --> 00:04:12,212 (お栄)ん? (小夏)この産休のあと・ 85 00:04:12,212 --> 00:04:14,615 料亭の仕事 辞めさせてほしいの。 86 00:04:14,615 --> 00:04:17,818 (お栄)辞めて どうするんだい? どうもしないよ。 87 00:04:17,818 --> 00:04:20,270 ちょっと考えてることがあるだけ。 88 00:04:20,270 --> 00:04:22,923 (お栄)どっか行こうってんじゃ ないだろうね? 89 00:04:22,923 --> 00:04:26,743 (小夏)まさか…。 (お栄)ごめんね。 90 00:04:26,743 --> 00:04:28,912 なんだか みよ吉っつぁんのとき・ 91 00:04:28,912 --> 00:04:31,582 思い出しちまって…。 92 00:04:31,582 --> 00:04:33,650 あんなのと一緒にしないで。 93 00:04:33,650 --> 00:04:36,487 (お栄)そうだよね 違うよね。・ 94 00:04:36,487 --> 00:04:40,858 あの人とは違う。 あんなふうに恋に溺れない。・ 95 00:04:40,858 --> 00:04:44,294 てめぇの芯が一本 す~っと通って。 96 00:04:44,294 --> 00:04:49,016 八雲さんは よく こんないい娘に育ててくれたよ。 97 00:04:49,016 --> 00:04:51,752 やめてってば…。 98 00:04:51,752 --> 00:04:55,239 よう! おそろいで。 99 00:04:55,239 --> 00:04:57,641 (信之助)ああ~! 100 00:04:57,641 --> 00:05:01,228 へへっ クソ坊主 お前も来てたのか。 101 00:05:01,228 --> 00:05:03,228 はははっ。 102 00:05:04,565 --> 00:05:07,584 アネさん ちったぁ気分が晴れたかい? 103 00:05:07,584 --> 00:05:09,620 ずっと こもって子守してんだから・ 104 00:05:09,620 --> 00:05:11,655 たまにゃパッと遊ばねぇと。 105 00:05:11,655 --> 00:05:15,159 (お栄) あら やだ。 似た者夫婦かい? 106 00:05:15,159 --> 00:05:17,945 女将さ~ん! ん?・ 107 00:05:17,945 --> 00:05:21,348 板さん どうしたの? そんなにせいて。 108 00:05:21,348 --> 00:05:24,051 (板前) へえ。 店の前に刑事が来てて…。 109 00:05:24,051 --> 00:05:27,804 ちっ。 あのじじい どこで調べたんだか。 110 00:05:27,804 --> 00:05:29,907 (板前)もう 親分さん お見えになるってのに・ 111 00:05:29,907 --> 00:05:32,509 どうしたら…。 (お栄)分かった。 急いで戻ろう。 112 00:05:32,509 --> 00:05:35,109 (板前)へえ。 ちょいと見てくるよ。 113 00:05:36,864 --> 00:05:40,050 (小夏)あたしも行ってくる。 えっ? 114 00:05:40,050 --> 00:05:42,050 ん? 115 00:05:43,520 --> 00:05:47,120 んっ。 (樋口)あっ ちょっと…。 116 00:05:48,492 --> 00:05:50,878 ・ガラガラガラ(戸の音) (アニキ)ん? 117 00:05:50,878 --> 00:05:53,564 はぁ はぁ はぁ…。 118 00:05:53,564 --> 00:05:57,467 (アニキ)おおっ 与太郎か? うわっ アニキ? 119 00:05:57,467 --> 00:05:59,503 女将さんとアネさんは? 120 00:05:59,503 --> 00:06:01,572 (アニキ) なんだ お前 一緒だったのか。・ 121 00:06:01,572 --> 00:06:04,992 このあと 椋鳥組との会合予定だったんだ。 122 00:06:04,992 --> 00:06:07,895 刑事なんかいたら 一発で おじゃんだったぜ。・ 123 00:06:07,895 --> 00:06:10,597 女将が根回ししてくれて なしになった。・ 124 00:06:10,597 --> 00:06:12,799 こういう店は ありがてぇ。 125 00:06:12,799 --> 00:06:14,818 そうかい。 そりゃよかった。 126 00:06:14,818 --> 00:06:17,421 っていうか お前 久々だな。 127 00:06:17,421 --> 00:06:19,521 テレビじゃ ちょこちょこ見かけたけど。 128 00:06:21,425 --> 00:06:25,225 なんだ この頭。 しかも一丁前に 子連れか てめぇ。 129 00:06:26,647 --> 00:06:29,466 (アニキ) にしても 随分 甘ったりぃ顔して。 130 00:06:29,466 --> 00:06:32,019 お前に似てねぇな。 オイラの息子! 131 00:06:32,019 --> 00:06:35,672 女房はアネさんです! えっ こ… 小夏ちゃん…。 132 00:06:35,672 --> 00:06:39,393 ちょっと待て 頭が追いつかねぇな。 133 00:06:39,393 --> 00:06:41,979 アニキに なんか関係があるのかい。 134 00:06:41,979 --> 00:06:44,481 随分 見知った仲みてぇじゃねぇか。 135 00:06:44,481 --> 00:06:47,184 (アニキ)お前の件から うちのおやじと八雲さんが・ 136 00:06:47,184 --> 00:06:51,021 よく ここで飲むようになって 俺も連れてきてもらってたんだ。・ 137 00:06:51,021 --> 00:06:53,457 そんで ここで働いている 小夏ちゃんとも・ 138 00:06:53,457 --> 00:06:55,776 ちょいちょい しゃべっててよ。 139 00:06:55,776 --> 00:06:58,795 けど まあ ここを贔屓にしてんのは・ 140 00:06:58,795 --> 00:07:00,931 女将とおやじさんが できてんだよ。 141 00:07:00,931 --> 00:07:03,951 えっ? もちろん 奥さんも ちゃんといる。 142 00:07:03,951 --> 00:07:07,187 そのへんは 緩い人だからな。 いいか・ 143 00:07:07,187 --> 00:07:11,224 今後は 全部 それが大前提で物を考えろ。 144 00:07:11,224 --> 00:07:14,127 なんで オイラ 釘 刺されてんのかなぁ。 145 00:07:14,127 --> 00:07:16,730 (アニキ)バカが 頭使わなくていいよ。 146 00:07:16,730 --> 00:07:19,583 極道通ったお前なら 分かんだろ? 147 00:07:19,583 --> 00:07:21,868 今 おやじさんは ここに いなさるんで? 148 00:07:21,868 --> 00:07:24,938 ああ? ちょいと挨拶さしてもらいてぇな。 149 00:07:24,938 --> 00:07:26,974 おい!・ 150 00:07:26,974 --> 00:07:30,043 バカ。 お前みてぇな下っ端が・ 151 00:07:30,043 --> 00:07:32,095 会って話せる人じゃねぇぞ! 152 00:07:32,095 --> 00:07:35,495 下っ端じゃねぇ! 真打ちでぃ。 153 00:07:40,787 --> 00:07:42,823 あははっ ああ~。 154 00:07:42,823 --> 00:07:45,323 与太・ あんた 何来てんのよ! 155 00:07:47,210 --> 00:07:49,246 なんで こんなとこ 突っ立ってんの? 156 00:07:49,246 --> 00:07:51,548 (小夏) 別に どうだっていいでしょ。 157 00:07:51,548 --> 00:07:53,748 アネさん 泣いてたね? 158 00:07:58,288 --> 00:08:00,288 ・失礼しやす! 159 00:08:02,359 --> 00:08:05,078 突然のご無礼 ご容赦ください! 160 00:08:05,078 --> 00:08:07,647 師匠が いつも お世話になっておりやす! 161 00:08:07,647 --> 00:08:11,468 不肖 私も少なからず 昔に お世話になりまして・ 162 00:08:11,468 --> 00:08:13,887 多少の縁がございますんでぇ・ 163 00:08:13,887 --> 00:08:17,541 ぶしつけながら 浴衣風情の はしたねぇ格好のままで・ 164 00:08:17,541 --> 00:08:20,894 ご挨拶に 上がらせていただきました! 165 00:08:20,894 --> 00:08:23,594 (親分) 聞きしに勝るでけぇ声だな。・ 166 00:08:25,048 --> 00:08:29,536 いい挨拶だ。 会いたかったよ 与太ちゃん。・ 167 00:08:29,536 --> 00:08:31,536 名前 変わったんだっけ? 168 00:08:33,640 --> 00:08:36,810 (親分) こっち来いよ。 花火がきれいだよ。 169 00:08:36,810 --> 00:08:39,229 もう~ なんだい 与太ちゃん・ 170 00:08:39,229 --> 00:08:41,298 討ち入りかと思ったよ。 171 00:08:41,298 --> 00:08:43,298 すいやせん。 172 00:08:47,104 --> 00:08:49,956 (お栄)親分さんとは 初対面かい? 173 00:08:49,956 --> 00:08:53,026 (親分)俺は 何回か 落語を聴いたことがあるんだよ。・ 174 00:08:53,026 --> 00:08:56,296 めちゃくちゃだけど 古臭くて いい落語なんだ。 175 00:08:56,296 --> 00:08:59,466 見ていただいてたなんて お恥ずかしいかぎりで。 176 00:08:59,466 --> 00:09:01,618 オイラが 話させていただいてんのは・ 177 00:09:01,618 --> 00:09:03,687 10年以上ぶりです。 178 00:09:03,687 --> 00:09:06,490 アニキの代わりに オツトメ行ってこいって・ 179 00:09:06,490 --> 00:09:08,790 言いつけられた あの日以来で。 180 00:09:10,744 --> 00:09:12,879 (親分)そんなこともあったか。・ 181 00:09:12,879 --> 00:09:16,679 ・悪いが 舎弟の顔は いちいち覚えてられねぇんだ。 182 00:09:18,518 --> 00:09:22,839 まさか そいつが落語家になって 今 俺の前にいるなんて・ 183 00:09:22,839 --> 00:09:26,042 夢にも思わねぇよな。・ 184 00:09:26,042 --> 00:09:28,979 ふぅ~。 なあ 与太ちゃん・ 185 00:09:28,979 --> 00:09:31,014 縁ってやつだなぁ。 186 00:09:31,014 --> 00:09:34,751 もちろん お忘れでしょうけど あんときゃ 下っ端風情が・ 187 00:09:34,751 --> 00:09:38,338 だだこねて 行きたくねぇなんて ぬかしやがって・ 188 00:09:38,338 --> 00:09:40,857 怒らせちまって すいやせんでした。 189 00:09:40,857 --> 00:09:43,844 なんせ 人の代わりで 罰を受けるなんざ・ 190 00:09:43,844 --> 00:09:47,514 どう考えたって 道理に合わねぇ。 それでも・ 191 00:09:47,514 --> 00:09:50,133 親がどうなってもいいのか なんて言われたんで・ 192 00:09:50,133 --> 00:09:53,153 怖くって ブルブル震えながら 引き受けたんっす。 193 00:09:53,153 --> 00:09:56,553 あのころは 今以上に与太郎で バカでした。 194 00:09:57,924 --> 00:10:00,911 したらね 刑務所にいるうちに・ 195 00:10:00,911 --> 00:10:04,531 たった一人のおやじが 病気で亡くなっちまったんっす。 196 00:10:04,531 --> 00:10:06,850 刑務所に入ろうが入るまいが・ 197 00:10:06,850 --> 00:10:10,587 どちらにしろ 後悔まみれの人生になりやした。 198 00:10:10,587 --> 00:10:12,622 10代の頃は 考えなしに・ 199 00:10:12,622 --> 00:10:15,408 誘われるまま チンピラやってたけど・ 200 00:10:15,408 --> 00:10:17,461 後悔するくれぇなら・ 201 00:10:17,461 --> 00:10:20,997 オイラは そんなこと やっちゃいけない人間だったんだ。 202 00:10:20,997 --> 00:10:24,697 背中の彫り物が 今の人生に邪魔でしょうがねぇ。 203 00:10:26,887 --> 00:10:30,690 っていうのをね そんなの どうってことはねぇ・ 204 00:10:30,690 --> 00:10:33,677 そのまま生きりゃいいじゃねぇか って思わせてくれたのが・ 205 00:10:33,677 --> 00:10:37,647 落語なんです。 あんときゃ 怖くて ブルブル震えてたのに・ 206 00:10:37,647 --> 00:10:40,700 今ぁ こうやって サシで しゃべらせてもらってる。 207 00:10:40,700 --> 00:10:43,000 生きてりゃ こんな変なことも起こりますよ。 208 00:10:44,354 --> 00:10:48,842 ふん。 まあ それが 10年も前の恨みつらみ。 209 00:10:48,842 --> 00:10:51,077 出会いっぱなに たたいていい理由には・ 210 00:10:51,077 --> 00:10:53,330 ならねぇよな。・ 211 00:10:53,330 --> 00:10:57,684 どうも 俺は お前に ケンカ売られてる気がしてならねぇ。 212 00:10:57,684 --> 00:11:00,754 オツトメ行ってくれたことも 感謝してる。 213 00:11:00,754 --> 00:11:03,823 八雲師匠にも 随分 世話んなってるし・ 214 00:11:03,823 --> 00:11:07,143 だから 無傷で 足抜けさしてやったじゃねぇか。 215 00:11:07,143 --> 00:11:10,313 それで トントンじゃねぇのか? そいとも 何か? 216 00:11:10,313 --> 00:11:13,013 ほかに 因縁つけてぇことでもあるのか。 217 00:11:14,417 --> 00:11:16,517 アネさん こっち来なよ! はっ! 218 00:11:18,922 --> 00:11:20,941 オイラ さっきから もしかしてって考えが・ 219 00:11:20,941 --> 00:11:24,711 全然消えねぇんだ。 こうなったら はっきりさせとこうぜ。 220 00:11:24,711 --> 00:11:34,955 ・~ 221 00:11:34,955 --> 00:11:37,240 親分には どうでもいいことでしょうけど・ 222 00:11:37,240 --> 00:11:39,826 俺たちゃ こないだ 籍入れたんっす。 223 00:11:39,826 --> 00:11:44,114 この子は生まれて9か月。 11月23日生まれ。 224 00:11:44,114 --> 00:11:47,751 アネさんが 必死で産んでくれた 助六さんの孫。 225 00:11:47,751 --> 00:11:49,769 助六さんの風貌 知ってますかい? 226 00:11:49,769 --> 00:11:52,889 この目元も癖っ毛も そっくりだろ。 227 00:11:52,889 --> 00:11:55,191 アネさんと合わせて うり三つ! 228 00:11:55,191 --> 00:11:58,945 よくよく見たら 親分さんも ちょいと雰囲気が似てねぇか? 229 00:11:58,945 --> 00:12:01,581 なあ アニキ? はぁ~。 230 00:12:01,581 --> 00:12:03,683 惚れちまうのも分かるってことさ。 231 00:12:03,683 --> 00:12:07,120 (小夏)与太 やめな。 それ以上 何も言うんじゃないよ! 232 00:12:07,120 --> 00:12:09,739 なんでぇ! おかしいだろ それ! 233 00:12:09,739 --> 00:12:11,739 (小夏)いいから やめて! 234 00:12:13,276 --> 00:12:16,046 むんっ! うわっ! 235 00:12:16,046 --> 00:12:18,348 頭冷やせ クソガキ!・ 236 00:12:18,348 --> 00:12:20,717 小夏が嫌がってんだろうが。・ 237 00:12:20,717 --> 00:12:23,737 てめぇの正義で 突っ走ってんじゃねぇ! 238 00:12:23,737 --> 00:12:28,525 はっ。 与太を許して お願いです! 239 00:12:28,525 --> 00:12:33,363 ごめんなさい 迷惑かけて。 私のせいです。 うっ…。 240 00:12:33,363 --> 00:12:36,950 ごめん… ごめんなさい。・ 241 00:12:36,950 --> 00:12:39,369 うぅ…。 242 00:12:39,369 --> 00:12:41,369 やい やい やい! 243 00:12:43,173 --> 00:12:46,743 ぶっ! てめぇら勝手に解決すんな! 244 00:12:46,743 --> 00:12:49,329 オイラが納得いかねぇんだよ! 245 00:12:49,329 --> 00:12:53,900 ・~ 246 00:12:53,900 --> 00:12:56,286 (アニキ)あっ 親分 すいやせん。 ちょっと失礼しやす。 247 00:12:56,286 --> 00:12:58,555 ああっ…。 248 00:12:58,555 --> 00:13:02,392 何考えてんだ! お前 こんなことで死にてぇのかよ! 249 00:13:02,392 --> 00:13:04,511 死ぬわきゃいかねぇ。 250 00:13:04,511 --> 00:13:08,014 絶対に 先に死なねぇって 師匠と約束したんでぇ。 251 00:13:08,014 --> 00:13:10,083 (アニキ)あっ? 252 00:13:10,083 --> 00:13:12,952 (親分) 何ごちゃごちゃ やってんだよ。・ 253 00:13:12,952 --> 00:13:15,288 この際だ なんでも言ってみろ。・ 254 00:13:15,288 --> 00:13:17,824 どうするかは それから考えてやるよ。 255 00:13:17,824 --> 00:13:36,324 ・~ 256 00:15:41,634 --> 00:15:43,634 よし 言ってやらぁ! 257 00:15:45,538 --> 00:15:48,608 てめぇなんぞ 丸太ん棒でぇ! 血も涙もねぇ 目も鼻もねぇ・ 258 00:15:48,608 --> 00:15:52,095 丸太ん棒みてぇなヤツだ。 呆助 ちんけえとう 株っかじり・ 259 00:15:52,095 --> 00:15:54,647 この芋っ掘りめぇ! でけぇ面するない! 260 00:15:54,647 --> 00:15:57,934 黙って聞いてりゃ増長しやがって 御託が過ぎらぁ! 261 00:15:57,934 --> 00:15:59,953 こちとら でけぇ声は地声なんでぇ! 262 00:15:59,953 --> 00:16:02,121 まだまだ まだまだ せり上がらぁ! 263 00:16:02,121 --> 00:16:04,691 この蛸の頭に すっぱらべっちょに あんにゃもんにゃ! 264 00:16:04,691 --> 00:16:07,577 それからなぁ おまけに 馬の骨に 牛の骨・ 265 00:16:07,577 --> 00:16:10,063 ひょうたんボックリコ~! 266 00:16:10,063 --> 00:16:14,417 誰が なんと言おうと あの子は オイラの息子でぇ! 267 00:16:14,417 --> 00:16:16,769 似てようが似てまいが 関係あるかい! 268 00:16:16,769 --> 00:16:20,273 いいか! あとから くれったって 絶対あげねぇど! 269 00:16:20,273 --> 00:16:22,826 なんにも疑うこたぁねぇ。 270 00:16:22,826 --> 00:16:26,626 だから この話は 今日かぎり これっきりで おしめぇだ! 271 00:16:29,115 --> 00:16:33,386 ってぇのが… 私の言い分でございます。 272 00:16:33,386 --> 00:16:35,386 お粗末さまでございました。 273 00:16:36,789 --> 00:16:40,260 (親分)ぷっ 啖呵売りか。・ 274 00:16:40,260 --> 00:16:42,529 でけぇ声で つるつると出やがるから・ 275 00:16:42,529 --> 00:16:44,964 全く聴き惚れちまった。 276 00:16:44,964 --> 00:16:47,417 商売道具 出されちゃあなぁ。・ 277 00:16:47,417 --> 00:16:51,788 よく踏ん張ったな。 それが 男の優しさだよ。・ 278 00:16:51,788 --> 00:16:56,643 なあ 真打ち 長ぇこと精進してきたんだな。・ 279 00:16:56,643 --> 00:16:59,343 随分いい噺家になったじゃねぇか。 280 00:17:05,318 --> 00:17:07,921 ほいじゃあ 女将さん ぎゃあぎゃあ やかましく・ 281 00:17:07,921 --> 00:17:10,990 失礼しました。 (お栄)ほんとよ まったく。・ 282 00:17:10,990 --> 00:17:12,990 花火の日で よかったわね。 283 00:17:15,328 --> 00:17:17,328 (小夏)女将さん…。 284 00:17:18,781 --> 00:17:22,452 いいから 胸にしまっておきな。 285 00:17:22,452 --> 00:17:24,871 与太ちゃんが ああまで言ってくれたのを・ 286 00:17:24,871 --> 00:17:27,557 むげにしたら 女が廃るだろう。 287 00:17:27,557 --> 00:17:30,057 (小夏)分かった。 ありがとう。 288 00:17:31,744 --> 00:17:35,148 アネさん もう帰る? もうちょっと お祭り…。 289 00:17:35,148 --> 00:17:37,548 ちょいと 顔貸しな。 えっ? 290 00:17:39,752 --> 00:17:42,422 (小夏)あんた なんてことしてくれたの?・ 291 00:17:42,422 --> 00:17:44,807 余計な詮索は するなって言ったでしょ。 292 00:17:44,807 --> 00:17:46,910 やっぱり当たりだったかい。 293 00:17:46,910 --> 00:17:49,579 なんとなく そうじゃねぇかと思ってたんだ。 294 00:17:49,579 --> 00:17:51,631 (小夏) なんとなくで あんなことしたの? 295 00:17:51,631 --> 00:17:54,217 あんた バカなの? 親分さんの怖さは・ 296 00:17:54,217 --> 00:17:57,637 よく知ってるでしょ。 よ~く知ってるよ。 297 00:17:57,637 --> 00:18:01,437 見つくれよ これ。 まだ 手が震えてらぁ。 298 00:18:04,460 --> 00:18:07,113 (小夏) あの人には 非は何もないのよ。・ 299 00:18:07,113 --> 00:18:09,899 あたしが むちゃ言ってるだけなんだから。 300 00:18:09,899 --> 00:18:12,452 アネさんが そうしたくてしてるんだね? 301 00:18:12,452 --> 00:18:15,722 (小夏) 全部 覚悟して やってることよ。 302 00:18:15,722 --> 00:18:18,591 なら もう話してくれなくていいや。 303 00:18:18,591 --> 00:18:22,679 世の中には 言葉にしねぇ方がいいこともある。 304 00:18:22,679 --> 00:18:25,679 隠し事のねぇ人間なんて 色気がねぇ。 305 00:18:27,283 --> 00:18:30,153 (小夏)ほんとは怖くなってたの。 あたし・ 306 00:18:30,153 --> 00:18:32,956 母さんと 同じに なってるんじゃないかって。・ 307 00:18:32,956 --> 00:18:36,025 あたしに流れる血が そうさせるのかと思うと・ 308 00:18:36,025 --> 00:18:39,579 心底 ぞっとした。 けど あんたといたら・ 309 00:18:39,579 --> 00:18:43,166 不幸だって思ってんのも バカバカしくなりそう。 310 00:18:43,166 --> 00:18:46,853 ねえ 与太。 あんたの落語が聴きたいの。 311 00:18:46,853 --> 00:18:50,139 八雲とも助六とも違う あんたの落語が・ 312 00:18:50,139 --> 00:18:53,660 これから どうなるのか 見てみたくなったんだ。 313 00:18:53,660 --> 00:18:55,660 オイラの落語…。 314 00:18:57,246 --> 00:18:59,766 ああ~ どんなんだと思う? 315 00:18:59,766 --> 00:19:04,587 (小夏)知るかい。 てめぇで考えな。 ふえぇ~~! 316 00:19:04,587 --> 00:19:07,156 じゃあ アネさん もうちょっと 縁日 見てこうか。 317 00:19:07,156 --> 00:19:09,559 (小夏)何 その手? 手ぇつなぐ。 318 00:19:09,559 --> 00:19:11,678 (小夏)人前で 手ぇつなごうとか言うヤツ・ 319 00:19:11,678 --> 00:19:16,282 大嫌いなんだけど。 はははっ… すいやせん。 320 00:19:16,282 --> 00:19:19,318 つなぎたいときは あたしから言うよ。 321 00:19:19,318 --> 00:19:22,739 へえ…。 もう疲れた。 帰るね。 322 00:19:22,739 --> 00:19:25,892 お祭り! オイラ まだ見てない! 323 00:19:25,892 --> 00:19:29,712 (小夏)一人で見てきなよ。 ええ~! 324 00:19:29,712 --> 00:19:31,748 ・(樋口)与太さ~ん。 えっ? 325 00:19:31,748 --> 00:19:35,585 もう終わったかね? あっ センセー。 いたんすかい? 326 00:19:35,585 --> 00:19:39,422 (樋口)なんだ その言いぐさ? ええ ええ おりましたよ。 327 00:19:39,422 --> 00:19:42,241 今のも ずっと聞いてたの? (樋口)さすがに悪いから・ 328 00:19:42,241 --> 00:19:47,180 そこで 金魚すくいしてたがね。 君に差し上げましょう。 329 00:19:47,180 --> 00:19:50,133 2匹。 君と奥さんみたいだね。 330 00:19:50,133 --> 00:19:53,453 へへへへっ。 (樋口)バカ 嫌みだよ。 331 00:19:53,453 --> 00:19:57,640 そんなことより ついに 君は 自分の落語を見つけたね。 332 00:19:57,640 --> 00:20:01,477 えっ? そうなの? でないと あの啖呵 切れんだろ? 333 00:20:01,477 --> 00:20:03,813 啖呵? ああ~ あれな。 334 00:20:03,813 --> 00:20:06,315 オイラ あれで 一つ分かったんだ。 えっ? 335 00:20:06,315 --> 00:20:08,651 「大工調べ」で 棟梁が 啖呵切る理由。 336 00:20:08,651 --> 00:20:10,703 何? 何? なんなの? 337 00:20:10,703 --> 00:20:13,823 ありゃな すっきりするからだ。 338 00:20:13,823 --> 00:20:17,343 ただ言いたくて言ってんだよ。 んん…。 339 00:20:17,343 --> 00:20:19,896 なんだよ その顔? まあいい。 340 00:20:19,896 --> 00:20:22,982 君が分かっていればいいんだ。 それより センセー。 341 00:20:22,982 --> 00:20:25,384 これやってるとこ 連れてってよ。 342 00:20:25,384 --> 00:20:27,484 オイラもやりたい! (樋口)うわっ! 343 00:20:28,855 --> 00:20:30,890 ・トントン…(足音) ・スーッ(ふすまの音) 344 00:20:30,890 --> 00:20:33,276 ・ただいま戻りました。 (有楽亭八雲)ん? 345 00:20:33,276 --> 00:20:35,962 (松田) あっ 助六師匠 おかえりなさい。 346 00:20:35,962 --> 00:20:38,064 ふふ~ん! 347 00:20:38,064 --> 00:20:41,084 ハナ公~! (松田)花火は どうでした? 348 00:20:41,084 --> 00:20:44,120 どうって ありゃあ 混んでて 花火どころじゃねぇや。 349 00:20:44,120 --> 00:20:47,607 (松田)ここからも いくらか見えるんですよ。 350 00:20:47,607 --> 00:20:49,607 師匠 お土産。 351 00:20:51,194 --> 00:20:53,846 (松田) はあ~ 金魚。 涼しげですなぁ。 352 00:20:53,846 --> 00:20:55,982 暑気払いに ぴったりだろ。 353 00:20:55,982 --> 00:21:00,887 師匠 アネさん 赤ん坊とオイラ 家族4人分 とってきたんだ。 354 00:21:00,887 --> 00:21:03,306 あたしのは ねぇんですかい? 355 00:21:03,306 --> 00:21:07,406 えっ ちょ…。 だって 松田さん 孫までいるじゃねぇか。 356 00:21:09,178 --> 00:21:13,983 よく この縁側で 師匠に 耳かきしていただきやしたねぇ。 357 00:21:13,983 --> 00:21:16,552 あのころは とんでもねぇ失礼な野郎で・ 358 00:21:16,552 --> 00:21:18,588 自分でも ぞっとしまさぁ。 359 00:21:18,588 --> 00:21:21,274 あの時分は お前さんのこたぁ・ 360 00:21:21,274 --> 00:21:24,460 犬っころとしか思ってなかったよ。 361 00:21:24,460 --> 00:21:27,013 立場ってのは変わりますねぇ。 362 00:21:27,013 --> 00:21:31,413 落語ってのを知れば知るほど 師匠のすごさが 身にしみてます。 363 00:21:32,885 --> 00:21:36,355 いつかまた 立場が変わったら…・ 364 00:21:36,355 --> 00:21:38,741 師匠に ちょっとでも近づけたら・ 365 00:21:38,741 --> 00:21:42,762 また でっけぇ会場で 親子会がしてぇっす。 366 00:21:42,762 --> 00:21:45,781 嫌だ。 えっ? 367 00:21:45,781 --> 00:21:48,050 面倒。 あたしゃ・ 368 00:21:48,050 --> 00:21:51,287 静かに てめぇの落語が できりゃいいんだ。 369 00:21:51,287 --> 00:21:55,908 もう大それたことをして 心 乱したくないんです。 370 00:21:55,908 --> 00:21:58,528 師匠が落語をするのは そのためですか。 371 00:21:58,528 --> 00:22:01,714 ご自分を高めるため。 372 00:22:01,714 --> 00:22:04,617 オイラの場合は 自分なんて どうだっていいんです。 373 00:22:04,617 --> 00:22:08,154 こんな世界一のバカ 高めたって屁にもならねぇ。 374 00:22:08,154 --> 00:22:10,173 オイラは とにかく 落語に出てくる人が・ 375 00:22:10,173 --> 00:22:13,476 好きでたまらないんです。 どんなどん底にいたって・ 376 00:22:13,476 --> 00:22:15,761 あいつらなら 這い上がってくらぁ。 377 00:22:15,761 --> 00:22:18,447 あいつらを みんなに紹介してぇんで。 378 00:22:18,447 --> 00:22:21,884 それが 落語のためってことかぇ。 379 00:22:21,884 --> 00:22:24,820 そいじゃ お前さんが やる意味がないじゃないか。 380 00:22:24,820 --> 00:22:27,974 へえ いいんです オイラのことなんか。 381 00:22:27,974 --> 00:22:30,426 考ぇられないね。 382 00:22:30,426 --> 00:22:33,329 お前さんは 我欲がなさ過ぎる。 383 00:22:33,329 --> 00:22:36,629 あり過ぎんのも なさ過ぎんのも問題だろ。 384 00:22:38,050 --> 00:22:41,650 親子会は やってやらぁ。 ええ~! 385 00:22:43,039 --> 00:22:47,126 ただし 「居残り」を覚えなさい。 えっ? 386 00:22:47,126 --> 00:22:49,679 あれは てめぇの我が出やすい。 387 00:22:49,679 --> 00:22:53,249 我を引き出すには 佐平次って男は うってつけだ。 388 00:22:53,249 --> 00:22:55,301 あの演じ分けを やってごらん。 389 00:22:55,301 --> 00:22:57,687 もっと 我を張りなさい。 390 00:22:57,687 --> 00:22:59,705 落語で お前さんの意志が・ 391 00:22:59,705 --> 00:23:01,805 ちぃとも見えないよ。 392 00:23:04,043 --> 00:23:07,647 ただなぁ うまい師匠が 今いねぇんだ。 393 00:23:07,647 --> 00:23:11,083 あたしも とうに諦めて 手放した噺で…。 394 00:23:11,083 --> 00:23:13,653 ちっ まあいい。 395 00:23:13,653 --> 00:23:15,653 ちょいと来てみな。 痛っ…。 396 00:23:17,256 --> 00:23:19,756 そこぃ お座んなさい。 へえ。 397 00:23:27,516 --> 00:23:29,616 ん? パチン 398 00:23:31,587 --> 00:23:35,958 ええ~ 遊びにも 上・中・下とございまして・ 399 00:23:35,958 --> 00:23:38,644 上というのは 廓へは来ない客。 400 00:23:38,644 --> 00:23:41,714 上は来ず 中は昼来て昼帰り・ 401 00:23:41,714 --> 00:23:43,749 下は夜来て朝帰り…。 402 00:23:43,749 --> 00:23:46,252 (心の声)≪えっ 「居残り」やってくれんの?≫ 403 00:23:46,252 --> 00:23:49,372 ≪オイラのために? ええ~ すげぇ!≫ 404 00:23:49,372 --> 00:23:52,908 「おうおう 世直しに 景気よく行こうじゃねぇか。・ 405 00:23:52,908 --> 00:23:56,162 お前ら みんなで久々に 南に押し出そう」。 406 00:23:56,162 --> 00:23:58,431 「南って 品川ですかい?」。 407 00:23:58,431 --> 00:24:03,035 「おうよ。 女郎買いは吉原とばかり 相場が決まっちゃいねぇだろ。・ 408 00:24:03,035 --> 00:24:05,454 お前ら 1両ずつ出せ。 あとの おあしは・ 409 00:24:05,454 --> 00:24:07,740 みんな 俺が出してやる」…。 410 00:24:07,740 --> 00:24:11,160 ≪あれ? これ 助六師匠の「居残り」だ≫ 411 00:24:11,160 --> 00:24:14,513 「伊之どん! 火種 持ってきてくださいな」。 412 00:24:14,513 --> 00:24:17,033 「へい ただいま」。 「伊之どん・ 413 00:24:17,033 --> 00:24:20,886 水持ってきておくんな」。 「へえ お待ちどおさま。・ 414 00:24:20,886 --> 00:24:23,389 お手紙の上書き? ああ ようがす。・ 415 00:24:23,389 --> 00:24:26,258 住所書き? よろしゅうございます」…。 416 00:24:26,258 --> 00:24:31,380 ≪すげぇ… すげぇ。 師匠の面影が まるでねぇ≫ 417 00:24:31,380 --> 00:24:33,599 ≪助六さん そのものだ≫ 418 00:24:33,599 --> 00:24:37,019 ≪生きて動いてたら こんな感じだったのか≫ 419 00:24:37,019 --> 00:24:39,288 はぁ はぁ…。 420 00:24:39,288 --> 00:24:42,775 ・~ 421 00:24:42,775 --> 00:24:45,511 「お前も この商売で 飯食おうってんなら・ 422 00:24:45,511 --> 00:24:48,114 俺の面ぁ 覚えとけ。 吉原でも千住でも・ 423 00:24:48,114 --> 00:24:50,266 どこにも相手に仕手のねぇ・ 424 00:24:50,266 --> 00:24:54,086 居残りを商売にしている佐平次たぁ 俺のことよ。・ 425 00:24:54,086 --> 00:24:57,540 うちへ帰って 旦那に よろしく言っとくれ。 あばよ!」。 426 00:24:57,540 --> 00:25:01,360 「あっ おいおいおい! ちくしょうめ。・ 427 00:25:01,360 --> 00:25:05,815 ひでぇ野郎だ あいつ。 旦那 大変でございます!」。 428 00:25:05,815 --> 00:25:08,434 「何? 居残り商売だと?・ 429 00:25:08,434 --> 00:25:12,388 じゃあ 俺は 詐欺にかかったのか」。 430 00:25:12,388 --> 00:25:16,575 「へえ。 旦那の頭が 胡麻塩ですから」。 431 00:25:16,575 --> 00:25:23,082 (拍手) 432 00:25:23,082 --> 00:25:25,082 はぁ…。 433 00:25:28,871 --> 00:25:33,025 ・「野暮なことを お言いでないよ。 今じゃ 刻限が悪いんだよ」。 434 00:25:33,025 --> 00:25:37,046 「だから言ったろ。 なんで早く ケリをつけねぇ」。 435 00:25:37,046 --> 00:25:40,182 「だってよ なんの因果か あいつの顔を見てると・ 436 00:25:40,182 --> 00:25:43,619 どうも 舌先三寸に うまく丸め込まれちまう」。 437 00:25:43,619 --> 00:25:45,654 チリン チリン…(風鈴の音) ・明かりが入ると・ 438 00:25:45,654 --> 00:25:49,308 ・がらりと変わる別世界。 20~30人の奉公人が・ 439 00:25:49,308 --> 00:25:53,195 ・働いちゃいるが 替り番や何かで 客が立て込むってぇと…。 440 00:25:53,195 --> 00:25:56,265 父ちゃんの落語が聞こえるよ。・ 441 00:25:56,265 --> 00:25:58,765 ねっ 信ちゃん。 442 00:27:32,645 --> 00:27:40,970 ・~ 443 00:27:40,970 --> 00:27:49,578 ・~ 444 00:27:49,578 --> 00:27:55,718 次回 「昭和元禄落語心中 -助六再び篇-」 第4話。 445 00:27:55,718 --> 00:27:58,318 どうぞ ご贔屓 ご鞭撻のほどを。