1 00:00:04,012 --> 00:00:23,999 ・~ 2 00:00:23,999 --> 00:00:44,102 ・~ 3 00:00:44,102 --> 00:00:58,833 ・~ 4 00:00:58,833 --> 00:01:03,071 ・~ 5 00:01:03,071 --> 00:01:11,371 ・~ 6 00:01:15,150 --> 00:01:33,250 ・~ 7 00:01:35,203 --> 00:01:37,489 ・トン トン(ノック) ・(与太郎)師匠・ 8 00:01:37,489 --> 00:01:39,641 ・お膳 お下げしやす。 (有楽亭八雲)うん。 9 00:01:39,641 --> 00:01:42,394 スーッ(ふすまの音) おはようさん。 10 00:01:42,394 --> 00:01:44,394 おはようございやす 師匠! 11 00:01:46,931 --> 00:01:49,250 あの~ これ…。 12 00:01:49,250 --> 00:01:53,204 書き物が忙しくてね。 いいから下げとくれ。 13 00:01:53,204 --> 00:01:55,204 へい。 14 00:01:58,009 --> 00:02:01,696 師匠 昼まで お時間 頂けませんか? 15 00:02:01,696 --> 00:02:05,317 稽古かい? へい! 16 00:02:05,317 --> 00:02:07,819 かまぁないよ。 17 00:02:07,819 --> 00:02:12,207 お前さん 寄席じゃあ 随分 評判が上がってるってなぁ。 18 00:02:12,207 --> 00:02:15,260 へい。 師匠の「居残り」見てから・ 19 00:02:15,260 --> 00:02:17,929 もやもやしたもんが 吹っ飛んじまったみてぇで。 20 00:02:17,929 --> 00:02:20,498 そうかぇ。 そいじゃあ…。 21 00:02:20,498 --> 00:02:22,600 そいからね・ 22 00:02:22,600 --> 00:02:25,920 二ヶ月後に かぶき座で 親子会やりますよ。 23 00:02:25,920 --> 00:02:29,357 ええ~~! あっ 声が大きい。 24 00:02:29,357 --> 00:02:31,393 書き損じたじゃないかぇ。 25 00:02:31,393 --> 00:02:34,529 そいじゃあ オイラの「居残り」 やっと認めてくださるんで? 26 00:02:34,529 --> 00:02:37,816 てめぇの「居残り」なんざ 聴けたもんじゃねぇや。 27 00:02:37,816 --> 00:02:41,736 うへ…。 先様からお話を頂いたんだ。 28 00:02:41,736 --> 00:02:44,506 頂いちまったら やるしきゃねぇだろう。 29 00:02:44,506 --> 00:02:47,325 こんな ありがてぇ話ぁ ねぇんだから。 30 00:02:47,325 --> 00:02:50,945 そんなことで 決められちまうんですかい? 31 00:02:50,945 --> 00:02:53,365 できっこねぇや… んなもん。 32 00:02:53,365 --> 00:02:55,934 前座のときとは訳が違いますぜ。 33 00:02:55,934 --> 00:03:00,321 ふふっ。 お前さんも分かってきたね。 34 00:03:00,321 --> 00:03:03,525 人前に出りゃあ どうとでもなるもんさ。 35 00:03:03,525 --> 00:03:07,429 ハコに合わせて 中身が 大きくなることだってあらぁな。 36 00:03:07,429 --> 00:03:09,464 へえ…。 37 00:03:09,464 --> 00:03:12,500 ・~ 38 00:03:12,500 --> 00:03:14,552 (助六)「お前も この商売で」…。 「お前も この商売で・ 39 00:03:14,552 --> 00:03:17,589 飯 食おうってんなら 俺の面ぁ よく覚えとけ。・ 40 00:03:17,589 --> 00:03:20,291 吉原でも千住でも どこでも 相手に仕手のねぇ・ 41 00:03:20,291 --> 00:03:24,396 居残りを商売にしてる佐平次たぁ 俺のことよ。・ 42 00:03:24,396 --> 00:03:26,898 楼へ帰って 旦那によろしく言ってくれ。・ 43 00:03:26,898 --> 00:03:28,933 あばよ!」。 カチャ 44 00:03:28,933 --> 00:03:31,102 はぁ~あ。 45 00:03:31,102 --> 00:03:34,556 やっぱ 助六師匠の落語は面白ぇな。 46 00:03:34,556 --> 00:03:37,992 目の前に本物がいるみてぇだ。 47 00:03:37,992 --> 00:03:40,628 オイラの落語か…。 48 00:03:40,628 --> 00:03:43,581 我を出せって 師匠は言ってたけど…。 49 00:03:43,581 --> 00:03:47,368 んん~ 我か… オイラの我…。 50 00:03:47,368 --> 00:03:50,655 ああ~! 何なんだよ そらぁよ! 51 00:03:50,655 --> 00:03:52,690 (アニさん)親子会かぁ。・ 52 00:03:52,690 --> 00:03:55,560 与太さんは 今や 落語界のホープだし・ 53 00:03:55,560 --> 00:03:57,846 これは盛り上がること 間違いなしですね。 54 00:03:57,846 --> 00:04:01,266 そらなぁ。 八代目の いまだ衰えぬ芸には・ 55 00:04:01,266 --> 00:04:04,352 常連のうるさ方だって 文句のつけようがねぇしな。 56 00:04:04,352 --> 00:04:06,805 こら すごい会になるよ。 57 00:04:06,805 --> 00:04:09,991 しかしな 完璧ってわけにゃいかねぇよな。 58 00:04:09,991 --> 00:04:13,094 なんだい? 人が景気いい話 してるってぇのに。 59 00:04:13,094 --> 00:04:16,581 いやね こんな大きな会で 落語が注目されんのは・ 60 00:04:16,581 --> 00:04:20,084 あたしだって うれしいよ。 だけど 最近の八代目・ 61 00:04:20,084 --> 00:04:22,987 ちょいと 声に張りがねぇ気がして。・ 62 00:04:22,987 --> 00:04:25,557 お体の具合 あまり よくないんじゃないかって・ 63 00:04:25,557 --> 00:04:29,461 心配してんだよ。 (師匠)そりゃ 年も年だしな。・ 64 00:04:29,461 --> 00:04:31,496 しかたねぇっちゃ しかたねぇだろ。 65 00:04:31,496 --> 00:04:34,782 そうだろ? まあ 八代目のことだ・ 66 00:04:34,782 --> 00:04:38,336 きっと大丈夫だ。 それより 俺ぁ 助六のヤツが・ 67 00:04:38,336 --> 00:04:41,389 はめ外し過ぎねぇかのが 心配だよ。・ 68 00:04:41,389 --> 00:04:44,792 聞いたかい? あの話。 ああ 例の。 69 00:04:44,792 --> 00:04:47,612 でも 何かの見間違いじゃないですか? 70 00:04:47,612 --> 00:04:49,614 立派な女将さんだっているのに…。 71 00:04:49,614 --> 00:04:52,967 分かってねぇな。 女房 子供がいるからこそ・ 72 00:04:52,967 --> 00:04:55,487 男ってもんは…。 ・おはようさん。 73 00:04:55,487 --> 00:04:57,555 大層な盛り上がりで。 74 00:04:57,555 --> 00:04:59,958 うちの与太郎が どうかしましたかな? 75 00:04:59,958 --> 00:05:03,461 ・・~(寄席囃子) 76 00:05:03,461 --> 00:05:05,861 (アニさん)師匠 実は…。 77 00:05:09,601 --> 00:05:11,853 (部長)与太ちゃ~ん! ん? 78 00:05:11,853 --> 00:05:14,455 部長さん どうも。 ご無沙汰してます。 79 00:05:14,455 --> 00:05:16,941 (部長) 相変わらず 引っ張りだこだね。・ 80 00:05:16,941 --> 00:05:20,795 テレビ見てるよ。 寄席のことも 忘れないでいてくれて・ 81 00:05:20,795 --> 00:05:22,931 ありがたいかぎりだよ。 82 00:05:22,931 --> 00:05:25,700 オイラは寄席の宣伝担当だからな。 83 00:05:25,700 --> 00:05:28,786 (部長)そうそう 今日はね…・ 84 00:05:28,786 --> 00:05:31,189 見てくれ。 ついに刷れたんだ! 85 00:05:31,189 --> 00:05:34,158 むっは~! かっこいい~! 86 00:05:34,158 --> 00:05:38,897 我が大江戸落語協会の 威信を懸けた催しですからね。 87 00:05:38,897 --> 00:05:42,517 師匠と こんなふうに 並べる日が来るなんてな…。 88 00:05:42,517 --> 00:05:44,552 バン! (部長)いの一番に・ 89 00:05:44,552 --> 00:05:46,604 ここに貼りに来たよ。・ 90 00:05:46,604 --> 00:05:49,557 席亭に 特等席 取っといてもらったんだ。 91 00:05:49,557 --> 00:05:52,777 ・(樋口)あっ 与太さん。 先生 どうも。 92 00:05:52,777 --> 00:05:55,663 (樋口)ポスター 出来たんですか。 かっこいいね~。 93 00:05:55,663 --> 00:05:59,234 (部長)先生 どうも。 (樋口)ああ これは どうも。 94 00:05:59,234 --> 00:06:02,870 えっ 顔見知りですかい? いつの間に? 95 00:06:02,870 --> 00:06:06,758 (樋口)落語の取材で 何度もお世話になってましてね。・ 96 00:06:06,758 --> 00:06:10,495 最近は 演芸記者のような仕事も よく やってるんだ。 97 00:06:10,495 --> 00:06:13,331 まったく道楽仕事だよ。 はははっ。 98 00:06:13,331 --> 00:06:16,884 へえ~ 先生は顔が広ぇな。 (樋口)ははっ いやいや。 99 00:06:16,884 --> 00:06:20,171 親子会も来てくれんだろ? (樋口)当たり前ですよ。・ 100 00:06:20,171 --> 00:06:23,992 出版社経由で 正式に 取材を申し込んであるんです。 101 00:06:23,992 --> 00:06:26,778 (部長) ドカンと紹介してくださいよ! 102 00:06:26,778 --> 00:06:29,964 オイラを面白がって 寄席に来てくれる人たちが・ 103 00:06:29,964 --> 00:06:33,551 ホールで師匠の落語 聴いたら びっくりすると思うんだ。 104 00:06:33,551 --> 00:06:36,988 そんで 落語も 好きになってくれたら最高だなぁ。 105 00:06:36,988 --> 00:06:41,192 ははっ。 自分よりも 落語を好きになってほしいわけか。 106 00:06:41,192 --> 00:06:43,595 与太さんらしい考え方だね。 107 00:06:43,595 --> 00:06:46,230 きっと そこに 鍵があるんじゃないかい? 108 00:06:46,230 --> 00:06:48,766 鍵? (樋口)自分の落語・ 109 00:06:48,766 --> 00:06:51,135 まだ 見つけられてないんだろう? 110 00:06:51,135 --> 00:06:54,935 少しつきあってよ。 君の力になれると思うんだ。 111 00:06:57,558 --> 00:06:59,827 (樋口)ほら。 うえっ。 112 00:06:59,827 --> 00:07:02,363 歴代の名人たちの 「居残り」を集めて・ 113 00:07:02,363 --> 00:07:05,800 テープに落とした。 音源として残っているものは・ 114 00:07:05,800 --> 00:07:08,569 僕の知るかぎりでは これで全部だ。 115 00:07:08,569 --> 00:07:11,623 すげぇ! これ オイラのために? 116 00:07:11,623 --> 00:07:13,725 参考になるかと思いましてね。 117 00:07:13,725 --> 00:07:16,027 センセ~イ! あぁ…。・ 118 00:07:16,027 --> 00:07:19,330 八雲師匠が 君に 「居残り」をやれって言った意味・ 119 00:07:19,330 --> 00:07:21,983 なんとなく分かった気がするよ。 120 00:07:21,983 --> 00:07:25,420 僕も ここにある「居残り」を 聴いてみたんだけど・ 121 00:07:25,420 --> 00:07:27,689 全部 違うんだ。・ 122 00:07:27,689 --> 00:07:32,293 演者が何をもって粋とするかが 如実に出る噺なんだよ。・ 123 00:07:32,293 --> 00:07:35,830 こんなにも 違いが出るもんなんですなぁ。 124 00:07:35,830 --> 00:07:40,151 へえ~。 師匠も 我が出る落語だって言ってました。 125 00:07:40,151 --> 00:07:42,687 だからこそ 君自身の居残り佐平次を・ 126 00:07:42,687 --> 00:07:45,223 引き出せると思ったんだね。 127 00:07:45,223 --> 00:07:47,258 けど 僕からすれば・ 128 00:07:47,258 --> 00:07:50,128 我を出すことも 一つの型にすぎない。 129 00:07:50,128 --> 00:07:52,163 ん? 130 00:07:52,163 --> 00:07:55,650 ははっ。 理屈で言っても分かんないか。 131 00:07:55,650 --> 00:07:58,052 何かに とらわれる必要はない。 132 00:07:58,052 --> 00:08:01,773 君が落語をどう思うか どうしたいか。・ 133 00:08:01,773 --> 00:08:04,959 そこに 君の佐平次の答えは あるはずだよ。 134 00:08:04,959 --> 00:08:07,228 へい。 135 00:08:07,228 --> 00:08:10,782 (名人)「ちきしょうめ。 ひでぇ野郎だ あいつ。・ 136 00:08:10,782 --> 00:08:13,282 旦那! 大変でございます」…。 137 00:08:15,870 --> 00:08:17,889 (小夏)こら 信之助! (信之助)うわっ。 138 00:08:17,889 --> 00:08:20,589 (小夏)寝てなって言ったのに。 (信之助)は~い! 139 00:08:22,460 --> 00:08:24,495 ・ドサッ はっ。 140 00:08:24,495 --> 00:08:26,531 ははははっ! ・スーッ バン!(ふすまの音) 141 00:08:26,531 --> 00:08:28,549 あっ アネさん。 142 00:08:28,549 --> 00:08:30,868 なんだい 驚かせるんじゃないよ。 143 00:08:30,868 --> 00:08:32,970 へへっ へへへっ。 144 00:08:32,970 --> 00:08:35,857 (小夏) 何 笑ってんだい? 気色悪い。 145 00:08:35,857 --> 00:08:39,827 オイラ やっぱり 落語が好きだ。 (小夏)はっ? 146 00:08:39,827 --> 00:08:44,165 落語が好きで 落語に出てくるヤツらが大好きだ。 147 00:08:44,165 --> 00:08:46,165 自分のことより ずっとよ。 148 00:08:48,336 --> 00:08:51,756 そう。 いいかげんにして寝なよ。・ 149 00:08:51,756 --> 00:08:54,242 親子会 もう あさってだろ。 痛っ。 150 00:08:54,242 --> 00:08:57,942 へい。 ヘへへへっ。 151 00:11:03,654 --> 00:11:05,706 ドン ドン ドン ドン…(太鼓の音) 152 00:11:05,706 --> 00:11:07,742 ドンドン ドンドン… 153 00:11:07,742 --> 00:11:11,012 ドンドンドン… 154 00:11:11,012 --> 00:11:13,231 パン パン(柏手) 155 00:11:13,231 --> 00:11:16,100 (小夏)失敗しませんように。 とちりませんように。・ 156 00:11:16,100 --> 00:11:18,135 やらかしませんように…。 157 00:11:18,135 --> 00:11:20,721 アネさん 随分長ぇお祈りだな。 158 00:11:20,721 --> 00:11:23,524 (小夏)当たり前よ。 こんな大きいとこで・ 159 00:11:23,524 --> 00:11:27,995 落語の鳴り物やれだなんて。 あたし まだ全然 下っ端なのに。・ 160 00:11:27,995 --> 00:11:30,882 ほんとに えげつないじじいだわ。 161 00:11:30,882 --> 00:11:33,417 認めてくれてる ってことじゃねぇか。 162 00:11:33,417 --> 00:11:36,137 あんたの「居残り」だけでも 胃がキリキリするのに・ 163 00:11:36,137 --> 00:11:38,506 もう吐きそう。 164 00:11:38,506 --> 00:11:42,176 (萬月)与太郎はん 小夏さん。 萬月アニさん! 165 00:11:42,176 --> 00:11:45,897 (萬月)親子会 おめでとうさん。 こんなとこいてええの?・ 166 00:11:45,897 --> 00:11:48,966 坊ちゃん 大騒ぎして 松田はん 困ってはったで。 167 00:11:48,966 --> 00:11:51,466 (小夏)えっ・ あたし見てくるね。 168 00:11:53,120 --> 00:11:56,057 夫婦らしい見えて憎たらしいわ。・ 169 00:11:56,057 --> 00:11:58,157 八雲師匠のとこ連れてってぇな。 170 00:12:01,562 --> 00:12:06,050 ここも懐かしいなぁ。 もう 10何年も たったんやな。 171 00:12:06,050 --> 00:12:08,085 八雲師匠の「鰍沢」と・ 172 00:12:08,085 --> 00:12:10,671 あんたがアホしたことしか 覚えてへんわ。 173 00:12:10,671 --> 00:12:14,171 はははっ。 あんときゃ肝が冷えました。 174 00:12:16,210 --> 00:12:18,262 アニさん ちょっと待ってろな。 175 00:12:18,262 --> 00:12:21,799 タイミング外すと すげぇ怒ら…。 ・与太! いるんだろ! 176 00:12:21,799 --> 00:12:24,435 ひっ… へい! 177 00:12:24,435 --> 00:12:26,454 どこ行ってたんだい。 178 00:12:26,454 --> 00:12:29,156 お前がいねぇから しっきりなしに人が来て・ 179 00:12:29,156 --> 00:12:31,156 稽古ができねぇだろ! 180 00:12:32,960 --> 00:12:37,360 すいやせん…。 ほな 前から見させてもらいます。 181 00:12:41,686 --> 00:12:44,472 稽古は足りてんのかい? へい。 182 00:12:44,472 --> 00:12:48,526 そうかぇ。 ほかのことで 随分と忙しいってぇから・ 183 00:12:48,526 --> 00:12:52,096 稽古が おろそかになってんのかと 思ってましたよ。 184 00:12:52,096 --> 00:12:55,983 へっ? お前さん 観音様の裏っ手の方・ 185 00:12:55,983 --> 00:13:00,838 歩いてたってねぇ。 えっ? どうして それを…。 186 00:13:00,838 --> 00:13:04,525 うわさなんざ 嫌でも 耳に入ってくるよ。 187 00:13:04,525 --> 00:13:07,144 狭ぇ町だ まったく。 188 00:13:07,144 --> 00:13:10,965 ああ…。 お前さん 所帯持ったってぇのに・ 189 00:13:10,965 --> 00:13:13,234 まだ あんなとこで遊んでんのかい? 190 00:13:13,234 --> 00:13:17,722 芸の肥やしもいいけれど あんまり おおっぴらにはしなさんな。 191 00:13:17,722 --> 00:13:21,759 あっ あっ… 違うんです 師匠。 ん? 192 00:13:21,759 --> 00:13:25,346 すいやせん 余計な心配 かけちまって。 193 00:13:25,346 --> 00:13:28,265 あすこに通ってんのは そうじゃねぇんです。 194 00:13:28,265 --> 00:13:30,665 どうしても 今日までに仕上げたくて。 195 00:13:38,659 --> 00:13:46,100 ・~ 196 00:13:46,100 --> 00:13:49,100 鯉金 仕上げてめぇりやした。 197 00:13:50,571 --> 00:13:54,625 もう 中途半端はしたくねぇんで。 198 00:13:54,625 --> 00:13:58,963 いい色が刺した。 立派なもんじゃねぇか。 199 00:13:58,963 --> 00:14:01,332 ほんとは 師匠のお名前も 入れてもらおうかと・ 200 00:14:01,332 --> 00:14:05,803 思ったんすけど。 おお~ 嫌だ。 勘弁しとくれ。 201 00:14:05,803 --> 00:14:08,856 ・~ 202 00:14:08,856 --> 00:14:13,411 師匠 「居残り」を伝えてくださって ありがとうございやす。 203 00:14:13,411 --> 00:14:16,011 誠心誠意 務めさせていただきやす。 204 00:14:17,331 --> 00:14:20,234 てめぇの我を 目いっぱい出しなさい。 205 00:14:20,234 --> 00:14:24,338 佐平次を通して 己が見えてくるはずだよ。 206 00:14:24,338 --> 00:14:29,060 オイラ 「居残り」をさしてもらって 分かったことが一つあります。 207 00:14:29,060 --> 00:14:32,863 師匠に教わった「居残り」を 軸にして いろんな大師匠のも・ 208 00:14:32,863 --> 00:14:35,666 聴き比べさせて いただいたんですが・ 209 00:14:35,666 --> 00:14:39,103 おんなじ佐平次が 一人もいねぇってことです。 210 00:14:39,103 --> 00:14:42,907 佐平次ってのは 佐平次を演じる 落語家の顔をして・ 211 00:14:42,907 --> 00:14:44,942 噺に出てくるんすね。 212 00:14:44,942 --> 00:14:48,729 けどさ オイラのは そうじゃねぇんだ。 213 00:14:48,729 --> 00:14:51,649 我を張れったって 我がねぇのがオイラです。 214 00:14:51,649 --> 00:14:54,735 ・~ 215 00:14:54,735 --> 00:14:58,435 自分のことは空っぽにして 佐平次兄ィになりたい。 216 00:15:00,224 --> 00:15:03,624 あたしの言うことが 間違ぇてるってぇのかい? 217 00:15:05,162 --> 00:15:08,199 そんなやり方じゃ 人様の心の芯まで・ 218 00:15:08,199 --> 00:15:11,001 届きゃしないよ。 219 00:15:11,001 --> 00:15:15,456 へえ。 でも それがいいと思っちまった。 220 00:15:15,456 --> 00:15:18,459 これが正解かどうか ちっとも分かりません。 221 00:15:18,459 --> 00:15:21,495 けど このやり方が オイラにゃ いちばん楽しいんで。 222 00:15:21,495 --> 00:15:24,595 楽しい? 落語が? 223 00:15:26,717 --> 00:15:30,417 もういい… 好きにしな。 へい! 224 00:15:32,323 --> 00:15:38,145 ・~(出囃子) 225 00:15:38,145 --> 00:15:40,331 (観客)待ってました! (観客)与太ちゃん! 226 00:15:40,331 --> 00:15:42,750 (観客)三代目! (観客)助六! 227 00:15:42,750 --> 00:15:46,153 (樋口)よっ! どうも どうも。 どうも~ ははっ。 228 00:15:46,153 --> 00:15:51,008 ・~(出囃子) 229 00:15:51,008 --> 00:15:54,762 (拍手) 230 00:15:54,762 --> 00:15:58,749 そちら様も そちら様も そちら様も・ 231 00:15:58,749 --> 00:16:02,336 本日は お寒い中 いっぱいのお運び 誠に・ 232 00:16:02,336 --> 00:16:05,773 おありがとうございます。 パチ パチ パチ…(拍手) 233 00:16:05,773 --> 00:16:08,409 いや ついに来ちまったよ 今日という日が。 234 00:16:08,409 --> 00:16:11,162 (観客たち)ははははっ。 ええ~・ 235 00:16:11,162 --> 00:16:14,965 皆々様のお手元へ 舞い込みましたる 紙切れ一片。 236 00:16:14,965 --> 00:16:17,001 ひょいと のぞいていただきますれば・ 237 00:16:17,001 --> 00:16:19,553 そちらに 本日の演目が書いてございます。 238 00:16:19,553 --> 00:16:22,740 まずは 私めが お耳慣らしに「錦の袈裟」。 239 00:16:22,740 --> 00:16:26,760 続いて 師匠の「反魂香」。 そして あたしの「居残り」! 240 00:16:26,760 --> 00:16:29,697 (観客たち)ははははっ。 ちょいと そこの人・ 241 00:16:29,697 --> 00:16:31,799 笑わねぇでくれるかい。 242 00:16:31,799 --> 00:16:34,902 ・そのあとは いよいよ…。 (小夏・ハミング)・ ふん ふん… 243 00:16:34,902 --> 00:16:39,106 ・お前さんも 負けず劣らず緊張してるねぇ。 244 00:16:39,106 --> 00:16:41,358 (小夏)あんたのせいで 胃がキリキリだよ。 245 00:16:41,358 --> 00:16:44,762 はははっ ざまぁねぇな。 246 00:16:44,762 --> 00:16:48,048 お前さんに 大事な仕事がある。 あっ。 247 00:16:48,048 --> 00:16:52,620 「反魂香」で焚いとくれ。 主催さんには言ってある。 248 00:16:52,620 --> 00:16:54,755 鳴り物の入るような噺は・ 249 00:16:54,755 --> 00:16:57,775 これくらいは したって 野暮はねぇだろ。 250 00:16:57,775 --> 00:17:01,745 お前さんなら いい頃合いも分かるだろ。 251 00:17:01,745 --> 00:17:03,745 頼んだよ。 あっ…。 252 00:17:05,165 --> 00:17:07,835 (観客たち)ははははっ。 253 00:17:07,835 --> 00:17:11,505 「でさぁ みんなで 吉原 行こうっての。・ 254 00:17:11,505 --> 00:17:14,158 そんなの あたいだって 殊の外 行きたいよ」。 255 00:17:14,158 --> 00:17:17,428 ・(観客たち)ははははっ。 256 00:17:17,428 --> 00:17:22,516 あの野郎 やけに バカバカ笑わしやがる。 257 00:17:22,516 --> 00:17:25,169 やりにくくてしかたねぇや。 258 00:17:25,169 --> 00:17:27,671 ・「買えるわけないだろう」。 ・(観客たち)ははははっ。 259 00:17:27,671 --> 00:17:31,992 ・~(出囃子) 260 00:17:31,992 --> 00:17:43,153 (拍手) 261 00:17:43,153 --> 00:17:47,658 ・~(出囃子) 262 00:17:47,658 --> 00:17:51,895 ええ~ ただいまのは お三味線でございまして・ 263 00:17:51,895 --> 00:17:55,349 三味線てぇのは 大変 陽気なものでございます。 264 00:17:55,349 --> 00:17:59,753 おんなじ鳴り物でも 木魚とくると 陰気になってきますなぁ。 265 00:17:59,753 --> 00:18:03,807 ・木魚をたたいて 都々逸 歌ったてぇ人は聞きませんが。 266 00:18:03,807 --> 00:18:07,461 まあ なんにでも 陰陽というものはございます。 267 00:18:07,461 --> 00:18:10,130 寂しいのは何かてぇますと・ 268 00:18:10,130 --> 00:18:13,968 夜中の一つ鉦ってやつでして…。 269 00:18:13,968 --> 00:18:17,271 カーン… カーン…。 270 00:18:17,271 --> 00:18:20,941 幼子が形見に残す風車。 271 00:18:20,941 --> 00:18:25,929 「南無やぁ 南無南無 南無阿弥陀…」。 272 00:18:25,929 --> 00:18:28,365 カーン…。 273 00:18:28,365 --> 00:18:32,219 「隣の坊主が また 夜んなると 鉦たたいてやがる。・ 274 00:18:32,219 --> 00:18:35,522 寂しくって オイラ 寝つかれねぇ。 ちくしょう!・ 275 00:18:35,522 --> 00:18:38,058 忌々しいから 文句言ってやろう。・ 276 00:18:38,058 --> 00:18:40,928 お坊さん! ちょいと開けてくんねぇ。・ 277 00:18:40,928 --> 00:18:45,249 お坊さん!」。 「おや お隣の八五郎さん。・ 278 00:18:45,249 --> 00:18:48,385 ただいま開けますので 少々お待ちください。・ 279 00:18:48,385 --> 00:18:51,922 夜分遅くに なんの御用入りですかな?」。 280 00:18:51,922 --> 00:18:56,427 「何か御用か? なんで 夜になって そうやって 鉦たたくんだい?・ 281 00:18:56,427 --> 00:18:59,146 長屋の者が寝つかれねぇで 困ってんだよ」。 282 00:18:59,146 --> 00:19:03,233 「これは 誠に お耳障りで 相すいません。・ 283 00:19:03,233 --> 00:19:06,920 これも 亡き妻の 回向のためでございまして。・ 284 00:19:06,920 --> 00:19:10,307 ええ~ 私 これでも 若い時分は侍で・ 285 00:19:10,307 --> 00:19:13,143 島田重三郎と申しました。・ 286 00:19:13,143 --> 00:19:17,064 若気の至りで踏み入った吉原で 出会いましたのが・ 287 00:19:17,064 --> 00:19:20,764 当時 全盛 三浦屋の高尾大夫。・ 288 00:19:22,286 --> 00:19:27,141 いかなる過世の縁やら 互いに 真を明かし合い・ 289 00:19:27,141 --> 00:19:29,660 末は 夫婦と言い交わし・ 290 00:19:29,660 --> 00:19:35,332 末の松山 末かけて 互いに 起請を誓い合い…。・ 291 00:19:35,332 --> 00:19:39,303 その後 高尾は 仙台侯に身請けされたが・ 292 00:19:39,303 --> 00:19:42,856 拙者に操立てて 威勢に従わぬ。・ 293 00:19:42,856 --> 00:19:47,227 それがため 三股川にて お手討ちと相なった。・ 294 00:19:47,227 --> 00:19:50,164 それが不憫で 毎夜 回向の折・ 295 00:19:50,164 --> 00:19:54,334 この 魂返す反魂香を焚いて 弔っておる。・ 296 00:19:54,334 --> 00:19:59,289 この反魂香も あと僅かゆえ 何とぞ しばし ご容赦を」。 297 00:19:59,289 --> 00:20:03,827 「はあ~ そうかい。 そらぁ知らなかった。・ 298 00:20:03,827 --> 00:20:06,663 じゃあ ここで一つ その反魂香というのを・ 299 00:20:06,663 --> 00:20:09,433 くべてみつくれ。 本当に出やがるか・ 300 00:20:09,433 --> 00:20:12,486 この目で見てみてぇや」。 「う~ん…・ 301 00:20:12,486 --> 00:20:15,522 疑念を晴らすには やむをえぬこと。・ 302 00:20:15,522 --> 00:20:17,522 一粒だけじゃ」。 303 00:20:19,827 --> 00:20:22,646 「かよう 火鉢に入れますと…」。 304 00:20:22,646 --> 00:20:26,834 ・~(地囃子) 305 00:20:26,834 --> 00:20:32,489 「おお… そちゃ女房 高尾じゃないか」。 306 00:20:32,489 --> 00:20:37,728 「お前は 島田じゅうざ様。・ 307 00:20:37,728 --> 00:20:41,231 取り交わせし反魂香。・ 308 00:20:41,231 --> 00:20:45,969 香の切れ目が 縁の切れ目。・ 309 00:20:45,969 --> 00:20:52,292 あだにゃあ焚いてぇ くだしゃんすなぁ」。 310 00:20:52,292 --> 00:20:54,828 「そりゃ焚くまいと思えども・ 311 00:20:54,828 --> 00:21:00,534 そなたの顔が見たきゆえ 俗名 高尾!・ 312 00:21:00,534 --> 00:21:04,838 頓証菩提 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏…」。 313 00:21:04,838 --> 00:21:09,438 ・~(地囃子) 314 00:21:10,861 --> 00:21:12,896 「なんでぇ あのしみったれ・ 315 00:21:12,896 --> 00:21:15,732 少し分けてくれたって いいじゃねぇか。・ 316 00:21:15,732 --> 00:21:18,285 あんなもん見せられたら お前 俺だって・ 317 00:21:18,285 --> 00:21:21,622 3年前に亡くした かかあに 会いたくなっちまったよ。・ 318 00:21:21,622 --> 00:21:23,657 こんなときは生薬屋だな」。 319 00:21:23,657 --> 00:21:26,660 トン トン トン 「お~い 薬屋さん!・ 320 00:21:26,660 --> 00:21:28,695 いけねぇな どうも…。 歩いてたら・ 321 00:21:28,695 --> 00:21:32,032 香の名前 忘れちまった。 何があるんだい?・ 322 00:21:32,032 --> 00:21:34,668 んん~ 何? 何? 越中富山の…・ 323 00:21:34,668 --> 00:21:36,703 反魂丹!・ 324 00:21:36,703 --> 00:21:39,790 それだ! それ 300くれ。・ 325 00:21:39,790 --> 00:21:44,228 どうでぇ 300も買ってやったぞ あのしみったれ坊主。・ 326 00:21:44,228 --> 00:21:47,598 今度は 逆に 俺が寝かせねぇからな。・ 327 00:21:47,598 --> 00:21:51,952 さあ おうめ~ 出ておいで~と。・ 328 00:21:51,952 --> 00:21:55,052 いとしい おうめ~…」。 329 00:21:56,507 --> 00:22:06,800 ・~(地囃子) 330 00:22:06,800 --> 00:22:09,386 あっ…。 331 00:22:09,386 --> 00:22:11,421 (みよ吉)ふふっ。 332 00:22:11,421 --> 00:22:13,907 うっ! (小夏)はっ! 333 00:22:13,907 --> 00:22:18,295 はぁ はぁ はぁ はぁ…。 334 00:22:18,295 --> 00:22:20,564 「お… おかしいな。・ 335 00:22:20,564 --> 00:22:24,151 煙ばかりで 出てきゃしねぇ…」。 336 00:22:24,151 --> 00:22:28,255 トン トン トン 「ちょいと はっつぁん 開けとくれ」。 337 00:22:28,255 --> 00:22:32,042 「なんだ… 表から 堂々と来やがるのかい」。 338 00:22:32,042 --> 00:22:35,662 「いや あたしゃ 隣の おさきだよ。・ 339 00:22:35,662 --> 00:22:39,199 さっきから きな臭ぇのは おまはんとこだね」。 340 00:22:39,199 --> 00:22:41,768 (観客たち)ははははっ。 341 00:22:41,768 --> 00:22:44,855 「反魂香」という… お噺でした。 342 00:22:44,855 --> 00:22:57,117 (拍手) 343 00:22:57,117 --> 00:22:59,117 キィーン…(ハウリング) 師匠! 344 00:23:02,005 --> 00:23:04,174 (みよ吉)菊さん。 345 00:23:04,174 --> 00:23:10,631 ・~ 346 00:23:10,631 --> 00:23:14,985 (心の声) ≪いとしい いとしい 俺の…≫ 347 00:23:14,985 --> 00:23:17,337 はぁ はぁ…。 348 00:23:17,337 --> 00:23:27,998 ・~ 349 00:23:27,998 --> 00:23:31,468 ≪あたしゃ まだ あの人に・ 350 00:23:31,468 --> 00:23:34,068 未練があるってぇのかい?≫ 351 00:23:35,856 --> 00:23:38,175 ≪冗談じゃねぇや≫ 352 00:23:38,175 --> 00:23:45,248 ・~ 353 00:23:45,248 --> 00:23:48,001 んん… あっ。 354 00:23:48,001 --> 00:23:52,356 ・~ 355 00:23:52,356 --> 00:23:54,591 ははっ…。 356 00:23:54,591 --> 00:23:57,094 (助六)どうして来たぃ? 357 00:23:57,094 --> 00:24:01,231 お前さん やっと口利いたね。 358 00:24:01,231 --> 00:24:06,436 あっ みよ吉さんは? ここは どこなんだい? 359 00:24:06,436 --> 00:24:09,773 このろうそくは 何なんです? 360 00:24:09,773 --> 00:24:13,773 極楽か? そいとも地獄かい? 361 00:24:16,363 --> 00:24:19,963 (助六)坊 すまねぇ。 ああっ! 362 00:24:22,703 --> 00:24:26,103 うっ ううっ… ああ…。 363 00:24:31,044 --> 00:24:50,997 ・~ 364 00:24:50,997 --> 00:25:10,984 ・~ 365 00:25:10,984 --> 00:25:31,021 ・~ 366 00:25:31,021 --> 00:25:51,007 ・~ 367 00:25:51,007 --> 00:25:59,307 ・~ 368 00:27:32,659 --> 00:27:41,001 ・~ 369 00:27:41,001 --> 00:27:47,824 ・~ 370 00:27:47,824 --> 00:27:54,264 次回 「昭和元禄落語心中 -助六再び篇-」 第6話。 371 00:27:54,264 --> 00:27:57,664 どうぞ ご贔屓 ご鞭撻のほどを。