1 00:00:04,980 --> 00:00:25,016 ・~ 2 00:00:25,016 --> 00:00:44,986 ・~ 3 00:00:44,986 --> 00:00:58,650 ・~ 4 00:00:58,650 --> 00:01:03,154 ・~ 5 00:01:03,154 --> 00:01:11,254 ・~ 6 00:01:15,166 --> 00:01:32,566 ・~ 7 00:01:33,985 --> 00:01:36,021 パン! カン カン! パン! (張り扇と小拍子でたたく音) 8 00:01:36,021 --> 00:01:38,923 (萬月)上方落語っちゅうんは 東京と違いまして・ 9 00:01:38,923 --> 00:01:41,676 この 前に置いてあんのが 膝隠し・ 10 00:01:41,676 --> 00:01:44,679 そして この 手前の見台がありまして・ 11 00:01:44,679 --> 00:01:47,315 なんでか知らんけど 昔っから ガチャガチャと・ 12 00:01:47,315 --> 00:01:49,884 たたいてしゃべるんでございます。 パン! カン! パン! カン! 13 00:01:49,884 --> 00:01:51,987 (萬月)こっち側のんは 小拍子と 申しまして・ 14 00:01:51,987 --> 00:01:54,773 小さい拍子木。 こっち側は・ 15 00:01:54,773 --> 00:01:57,559 張り扇… 「叩き」と 申しまして・ 16 00:01:57,559 --> 00:01:59,628 皮で こしらえてございます。・ 17 00:01:59,628 --> 00:02:02,030 これをこう…。 パン! カン カン! パン! 18 00:02:02,030 --> 00:02:05,166 (萬月)やかましゅう鳴らして しゃべります。 19 00:02:05,166 --> 00:02:09,004 もう 久しぶりやさかい えらい下手くそんなってて・ 20 00:02:09,004 --> 00:02:11,089 変な汗 出てきましたわ。・ 21 00:02:11,089 --> 00:02:14,976 これらを使いまして 「東の旅」という噺。・ 22 00:02:14,976 --> 00:02:18,780 大阪を ご陽気に旅立ちます 喜六 清八・ 23 00:02:18,780 --> 00:02:21,182 長~い噺の ほんのさわりを・ 24 00:02:21,182 --> 00:02:23,585 今日は聞いていただこうという。 カン カン! パン! 25 00:02:23,585 --> 00:02:26,805 (拍手) 26 00:02:26,805 --> 00:02:28,805 ・(与太郎)よっ 円屋ご宗家! あっ。 27 00:02:30,241 --> 00:02:34,195 あきまへんわ…。 10年ぶりは だてやおへん。 28 00:02:34,195 --> 00:02:36,715 落語は ほんま恐ろしなぁ。 29 00:02:36,715 --> 00:02:39,384 いいねぇ その落ち込みっぷり。 30 00:02:39,384 --> 00:02:42,037 さよか… 一生 恨むで。 31 00:02:42,037 --> 00:02:44,072 (小太郎)失礼します。 えっ? 32 00:02:44,072 --> 00:02:46,925 (小太郎)あの~ 萬月さん。 「さん」付けは失礼! 33 00:02:46,925 --> 00:02:50,412 (小太郎)わあ~ すみません! 萬月師匠!・ 34 00:02:50,412 --> 00:02:52,747 あのテーブルも 僕が片づけてしまって・ 35 00:02:52,747 --> 00:02:55,717 よろしかったでしょうか? (萬月)「見台」な。・ 36 00:02:55,717 --> 00:02:59,154 お頼申します。 (小太郎)へい。 37 00:02:59,154 --> 00:03:02,841 (萬月) なんやったっけ? 君の一番弟子。 38 00:03:02,841 --> 00:03:06,695 小太郎です。 粗忽者だけど面白ぇヤツで。 39 00:03:06,695 --> 00:03:08,913 (萬月)月日がたってしもたな。・ 40 00:03:08,913 --> 00:03:11,416 丸太ん棒みたいに 突っ立っとったヤツが・ 41 00:03:11,416 --> 00:03:14,419 弟子取っても おかしないような 顔にならはるんやね。 42 00:03:14,419 --> 00:03:16,838 へへへっ。 43 00:03:16,838 --> 00:03:20,742 (信之助) ・ かねが ぼんとなぁりゃさ 44 00:03:20,742 --> 00:03:24,612 (信之助) ・ あげ~しお みなみさぁ~ 45 00:03:24,612 --> 00:03:28,349 (信之助)・ からすが ぱっとで~りゃ こりゃさのさあ 46 00:03:28,349 --> 00:03:30,935 (有楽亭八雲)これ 信之助さん。 ん? 47 00:03:30,935 --> 00:03:34,989 お前さん 一体 どこで覚えたぃ? そんな唄。 48 00:03:34,989 --> 00:03:38,610 う~んと こないだ見たの。 ん? 49 00:03:38,610 --> 00:03:43,047 お母さんがね 大好きなんだって。 じいじは? 50 00:03:43,047 --> 00:03:48,052 あたしゃ 苦手ですよ こんな騒々しい噺は。 51 00:03:48,052 --> 00:03:50,739 やったことある? ありますよ。 52 00:03:50,739 --> 00:03:53,139 聴きたい。 嫌だ。 53 00:03:55,960 --> 00:03:59,981 年々 似てくるね。 恐ろしいことだ。 54 00:03:59,981 --> 00:04:03,818 誰? お前さんのおじい様。 55 00:04:03,818 --> 00:04:07,218 もう一人 じいじがいるの? うん。 56 00:04:11,443 --> 00:04:14,779 この人が お前さんの 本当のおじいさん。 57 00:04:14,779 --> 00:04:17,048 本当の? お母さんの・ 58 00:04:17,048 --> 00:04:20,602 生みのお父さんてことさね。 あっ。 59 00:04:20,602 --> 00:04:24,973 もういねぇんだ 死んじゃって。 どうして? 60 00:04:24,973 --> 00:04:27,473 さあ… どうしてかね。 61 00:04:30,145 --> 00:04:32,781 (松田) おくつろぎのところ失礼します。 62 00:04:32,781 --> 00:04:35,583 お客様がいらっしゃってまして。 63 00:04:35,583 --> 00:04:40,205 (樋口)どうも。 こりゃ 旦さん ご無沙汰してます。 64 00:04:40,205 --> 00:04:42,941 また 年寄りを いじめにいらしたんで? 65 00:04:42,941 --> 00:04:45,093 (樋口) 急に押しかけて すみません。・ 66 00:04:45,093 --> 00:04:47,595 お願いしたら 断られると思って。・ 67 00:04:47,595 --> 00:04:50,248 面白いものを持参しました。・ 68 00:04:50,248 --> 00:04:52,600 演芸雑誌 落語会のチラシに・ 69 00:04:52,600 --> 00:04:56,588 ネタ帳 香盤表… 新聞記事の小さなものまで・ 70 00:04:56,588 --> 00:04:58,773 あなたのものなら なんでもあります。 71 00:04:58,773 --> 00:05:01,459 なんといっても 目玉はこちら。 72 00:05:01,459 --> 00:05:03,862 戦後すぐくらいの寄席の写真です。 73 00:05:03,862 --> 00:05:05,980 (松田)へえ~ よくこんなもんが。 74 00:05:05,980 --> 00:05:09,300 ・~ 75 00:05:09,300 --> 00:05:12,353 (松田)ああ~ こりゃすごい。 あのころのお師匠が・ 76 00:05:12,353 --> 00:05:16,925 みんな写ってらぁ。 助六師匠も たくさんありますね。 77 00:05:16,925 --> 00:05:19,844 この時分は まだ二つ目だね。 78 00:05:19,844 --> 00:05:22,680 上野で 「夢金」 掛けてるよ。 79 00:05:22,680 --> 00:05:25,884 ああ~ 確か そん年の初雪が降った日だ。 80 00:05:25,884 --> 00:05:28,853 懐かしいねぇ。 81 00:05:28,853 --> 00:05:31,873 (松田)菊比古さんも…・ 82 00:05:31,873 --> 00:05:35,176 あった。 けど 1枚だけ。 83 00:05:35,176 --> 00:05:39,314 このころの あたしゃ 何者でもなかった。 84 00:05:39,314 --> 00:05:42,600 落語も下手くそでね。 カメラマンさんに・ 85 00:05:42,600 --> 00:05:46,170 なんの引っ掛かりも 残せなかったんでしょうよ。 86 00:05:46,170 --> 00:05:49,707 あの~ ちょっと 申し上げにくいんですが・ 87 00:05:49,707 --> 00:05:54,379 実は 師匠の高座を こっそり撮影しているんです。 88 00:05:54,379 --> 00:05:57,432 なんですと? (樋口)ああ~ 怒らないで。・ 89 00:05:57,432 --> 00:06:00,251 皆さんには 断って やっております。・ 90 00:06:00,251 --> 00:06:04,556 あなたには黙って 外へ出さないと約束して。・ 91 00:06:04,556 --> 00:06:08,693 関係者の皆さん 一様に あなたの芸を残したいと・ 92 00:06:08,693 --> 00:06:11,913 思ってらっしゃいますよ。 磨き上げた芸は・ 93 00:06:11,913 --> 00:06:14,849 もう あなただけのものじゃ ないんです。・ 94 00:06:14,849 --> 00:06:17,101 ただ あなたが 本当にお嫌なら・ 95 00:06:17,101 --> 00:06:19,587 資料もテープも 全て処分します。・ 96 00:06:19,587 --> 00:06:22,087 そこは あなたのご意志に。 97 00:06:23,458 --> 00:06:28,413 まったく… ここまで ずけずけと 人様の神棚を・ 98 00:06:28,413 --> 00:06:32,250 荒らすようなことを言う 失礼な人ぁ 初めてですよ。 99 00:06:32,250 --> 00:06:36,150 (樋口)はははっ! 地獄の果てまで ついていきますよ。 100 00:06:38,423 --> 00:06:40,623 考ぇさしてください。 101 00:06:45,930 --> 00:06:47,966 (小夏)はぁ~ くたくた…。 102 00:06:47,966 --> 00:06:50,285 毎日 お疲れさん。 103 00:06:50,285 --> 00:06:53,571 師匠の病院の用事 そろそろ終わりだろ? 104 00:06:53,571 --> 00:06:56,891 (小夏)考えたくない。 そうか。 105 00:06:56,891 --> 00:06:59,394 そういや 今日 奇術のハッピー先生が・ 106 00:06:59,394 --> 00:07:02,947 おっかしくてよぉ。 アネさん あの事件 知ってるかい? 107 00:07:02,947 --> 00:07:07,147 ひひっ! ハッピー先生と 犬のワンちゃんの…。 108 00:07:08,553 --> 00:07:12,357 なんで黙るんだよ? なんかしゃべれ。 109 00:07:12,357 --> 00:07:15,910 だって この話 オチが べらぼうにくだらねぇんで。 110 00:07:15,910 --> 00:07:19,681 (小夏)違うのにしな。 落語でもしますかい? 111 00:07:19,681 --> 00:07:21,681 いいね。 112 00:07:25,053 --> 00:07:28,306 「四方の山々 雪 解けて・ 113 00:07:28,306 --> 00:07:31,409 水かさ増さる大川の・ 114 00:07:31,409 --> 00:07:37,298 上げ潮南で ザブ~リザブリと 水の音」。 115 00:07:37,298 --> 00:07:39,651 「野ざらし」。 116 00:07:39,651 --> 00:07:42,286 「やい 先生! ごまかしちゃいけねぇ。・ 117 00:07:42,286 --> 00:07:44,756 わしは婦人は好かん なんてぇやがって」…。 118 00:07:44,756 --> 00:07:47,442 ん? 師匠? (小夏)ん? 119 00:07:47,442 --> 00:07:50,478 まさか…。 ずっと 外なんか出てないんだよ? 120 00:07:50,478 --> 00:07:52,478 んっ! ああっ! 121 00:07:54,282 --> 00:07:57,635 師匠! ん? 与太。 122 00:07:57,635 --> 00:08:01,723 どうされやした? ああ~ なんでもないよ。 123 00:08:01,723 --> 00:08:06,027 散歩に出てみたけど ちょいと 気分が悪くなっちまってね。 124 00:08:06,027 --> 00:08:09,814 なんでぇ… そういうのは オイラのいるときにしてくだせぇ。 125 00:08:09,814 --> 00:08:13,434 いつでも おんぶしますぜ。 あんた まさか・ 126 00:08:13,434 --> 00:08:15,734 死のうなんざ 思っちゃいないだろうね? 127 00:08:18,556 --> 00:08:20,875 (小夏) てめぇの落語ができなくなったら・ 128 00:08:20,875 --> 00:08:23,144 全部 見捨てて 逃げようってんだろ!・ 129 00:08:23,144 --> 00:08:25,930 あんたは まだ 罪を滅ぼしちゃいねぇんだ!・ 130 00:08:25,930 --> 00:08:29,283 自死なんてさせるかい。 絶対に!・ 131 00:08:29,283 --> 00:08:32,053 うっ… うぅ…。 132 00:08:32,053 --> 00:08:37,241 ・~ 133 00:08:37,241 --> 00:08:40,528 (小夏)父ちゃんと 母ちゃんみたいに ならないで。・ 134 00:08:40,528 --> 00:08:44,882 ううっ…。 やっぱりだ。 135 00:08:44,882 --> 00:08:49,737 あたしゃ てめぇじゃ死ねねぇ お定めのようだ。 136 00:08:49,737 --> 00:08:52,140 みんな 邪魔しに来る。 137 00:08:52,140 --> 00:08:57,178 ・~ 138 00:08:57,178 --> 00:08:59,647 人の情てぇのは・ 139 00:08:59,647 --> 00:09:04,252 拭っても拭っても まとわりついてきやがる。 140 00:09:04,252 --> 00:09:09,490 死んじまうには この世は あまりに いとおしい。 141 00:09:09,490 --> 00:09:11,509 あっ…。 142 00:09:11,509 --> 00:09:14,629 ・~ 143 00:09:14,629 --> 00:09:20,151 けど そいじゃあ 芸の神様に お会いできねぇんだ。 144 00:09:20,151 --> 00:09:22,837 あの ほんの一時のために・ 145 00:09:22,837 --> 00:09:26,237 あたしゃ 何もかも奪われても惜しくないよ。 146 00:09:27,825 --> 00:09:30,912 お前さん方にゃ 分からねぇだろう・ 147 00:09:30,912 --> 00:09:34,515 体が朽ちていく恐ろしさが。 148 00:09:34,515 --> 00:09:37,485 今まで どいだけ てめぇの肉体に依存して・ 149 00:09:37,485 --> 00:09:39,485 落語をやっていたか…。 150 00:09:41,372 --> 00:09:45,872 ほんの少し欠けるだけで 怖くて ずっと震えてらぁ。 151 00:09:47,462 --> 00:09:51,015 オイラは 今の師匠の落語が聴きてぇ! 152 00:09:51,015 --> 00:09:53,351 そっから 何かが生まれるかしれねぇ。 153 00:09:53,351 --> 00:09:55,419 やらねぇで 何が分かるんだよ。 154 00:09:55,419 --> 00:09:58,890 なんで それを楽しもうとしねぇんだよ! 155 00:09:58,890 --> 00:10:02,760 お前みてぇな噺家に 何が分かる? 156 00:10:02,760 --> 00:10:05,413 思うとおり 声が出せねぇのも・ 157 00:10:05,413 --> 00:10:10,218 噺を忘れてく恐ろしさも 何も分かっちゃいねぇ。 158 00:10:10,218 --> 00:10:12,218 お前さんは…。 あっ。 159 00:10:14,122 --> 00:10:18,075 師匠に オイラの「居残り」 まだ聴いてもらってねぇ。 160 00:10:18,075 --> 00:10:21,112 どうか頼んます。 聴いてやってくだせぇ。 161 00:10:21,112 --> 00:10:23,712 師匠がいなきゃ できなかったやつで。 162 00:10:26,851 --> 00:10:28,886 まっ 確かにそうだな。 163 00:10:28,886 --> 00:10:31,823 落語なんて 無理して やるもんじゃねぇ。 164 00:10:31,823 --> 00:10:35,543 やりたくなったら また やりゃいいだけで こんなもん。 165 00:10:35,543 --> 00:10:39,514 それまでは いくらでも 八つ当たりしてくだせぇ。 166 00:10:39,514 --> 00:10:42,614 (助六・回想)八つ当たりぐれぇ いくらでも ぶん投げなよ 167 00:10:45,303 --> 00:10:47,303 師匠? 168 00:12:52,630 --> 00:12:56,267 ザァーー(雨音) いつ見ても いいお庭ですな。 169 00:12:56,267 --> 00:13:00,567 (親分)師匠に褒めていただけりゃ ただの道楽も報われますよ。・ 170 00:13:02,073 --> 00:13:04,842 引退ってのは 本当ですかい? 171 00:13:04,842 --> 00:13:07,778 これは お耳障りを失礼。 172 00:13:07,778 --> 00:13:11,716 けど ガキどもが なかなか許してくれません。 173 00:13:11,716 --> 00:13:14,685 (親分)俺も さっさと 引退しちまいてぇんだけど・ 174 00:13:14,685 --> 00:13:18,706 せがれが頼りなくて。 俺がいなくなりゃ・ 175 00:13:18,706 --> 00:13:21,309 うちなんざぁ終わりでしょう。・ 176 00:13:21,309 --> 00:13:24,595 てめぇんとこ 大きくすることばかりに夢中で・ 177 00:13:24,595 --> 00:13:27,948 下のことなんか 何も見てやれなかった。 178 00:13:27,948 --> 00:13:30,918 そういう 目の上のたんこぶみてぇな人ぁ・ 179 00:13:30,918 --> 00:13:35,356 必要ですよ。 いるだけで秩序を生む。 180 00:13:35,356 --> 00:13:40,294 それが 伝統になっていくんです。 親分さんのような御仁が・ 181 00:13:40,294 --> 00:13:43,597 そんなふうに しょぼくれたんじゃ 困りますよ。 182 00:13:43,597 --> 00:13:46,297 世の中だって 調子が狂っちまう。 183 00:13:47,985 --> 00:13:53,074 (親分)ははっ! こりゃ参った。 愚痴を言いくるめられちまった。 184 00:13:53,074 --> 00:13:56,560 愚痴くらい いつでも お相手しますよ。 185 00:13:56,560 --> 00:14:00,715 親分さんには 返しきれない恩義が あるんですから。 186 00:14:00,715 --> 00:14:03,984 過ぎたことじゃねぇか。 俺は 口の堅さで・ 187 00:14:03,984 --> 00:14:06,570 ここまで 昇ってきたようなもんさ。・ 188 00:14:06,570 --> 00:14:09,857 安心してくれ。 ええ…。 189 00:14:09,857 --> 00:14:13,411 ・~ 190 00:14:13,411 --> 00:14:16,347 ・(アニキ)なあ 松田さん。 ん? 191 00:14:16,347 --> 00:14:20,201 (アニキ)八雲先生は もう 落語は やんねぇのかな? 192 00:14:20,201 --> 00:14:24,872 (松田)八雲師匠ですか。 どうしたもんですかな。 193 00:14:24,872 --> 00:14:28,976 (アニキ)おやじのためってんでも 難しいかな? 194 00:14:28,976 --> 00:14:31,512 最近 すっかり元気なくて。 195 00:14:31,512 --> 00:14:35,149 八雲の落語が聴きてぇって しょっちゅう うるせぇんだ。 196 00:14:35,149 --> 00:14:37,451 (松田)はあ さいですか。・ 197 00:14:37,451 --> 00:14:40,087 ん? 承知しました。 198 00:14:40,087 --> 00:14:43,087 あたくしに 一つ いい考えがあるんですよ。 199 00:14:47,728 --> 00:14:50,648 師匠 お誘い ありがとうございます。・ 200 00:14:50,648 --> 00:14:53,150 お芝居も いいもんですな。 201 00:14:53,150 --> 00:14:55,686 ずっと 連れてってやりたかったんだよ。 202 00:14:55,686 --> 00:14:57,721 ふだんじゃ忙しくて・ 203 00:14:57,721 --> 00:15:00,421 そんなことも ろくにできなかったからね。 204 00:15:02,793 --> 00:15:05,946 松田さん どうして曲がらない? 205 00:15:05,946 --> 00:15:09,650 うちとは逆だ。 ちょいと 遊びついでに・ 206 00:15:09,650 --> 00:15:12,019 お連れしたいとこがございます。 207 00:15:12,019 --> 00:15:14,054 ん? 208 00:15:14,054 --> 00:15:16,354 ・ブォーー(車のエンジン音) お~い! 209 00:15:18,375 --> 00:15:21,275 なんだい 「柳しま」じゃないかぇ。 ガチャ バタン(車のドアの音) 210 00:15:23,380 --> 00:15:26,050 どうしたん? 紋付き着て。 うっ…・ 211 00:15:26,050 --> 00:15:29,987 オ… オ… オイラも 今日 お座敷が入ったんですよ・ 212 00:15:29,987 --> 00:15:32,089 偶然。 ああ… とりあえず・ 213 00:15:32,089 --> 00:15:35,889 まあ まあ 中へ。 何をたくらんでるんだぇ? 214 00:15:39,513 --> 00:15:41,715 (お栄)うふっ。 215 00:15:41,715 --> 00:15:43,751 師匠。 216 00:15:43,751 --> 00:15:46,954 実は この中に 20人ほどいらしてます。 217 00:15:46,954 --> 00:15:50,257 八雲の落語が どうしても 聴きたいってご贔屓さんに・ 218 00:15:50,257 --> 00:15:52,376 集まっていただきました。 219 00:15:52,376 --> 00:15:55,913 絶対に 落語を やってくれってんじゃねぇんです。 220 00:15:55,913 --> 00:15:59,400 嫌なら 座って 世間話でもしてくれりゃあいい。 221 00:15:59,400 --> 00:16:03,087 オイラ その前に一席 掛けます。 どうしても 師匠に・ 222 00:16:03,087 --> 00:16:07,007 聴いてもらわねぇと済まねぇ噺が あるんです。 223 00:16:07,007 --> 00:16:10,244 ダメ? 帰ります。 224 00:16:10,244 --> 00:16:12,463 まっ! 皆様・ 225 00:16:12,463 --> 00:16:14,715 お待たせしましたわ! 226 00:16:14,715 --> 00:16:16,715 んっ あっ あっ…。 227 00:16:18,018 --> 00:16:20,054 (観客)よっ! (観客)八代目! 228 00:16:20,054 --> 00:16:23,357 (観客)おかえりなさい! (観客)こらぁ 縁起物だね。 229 00:16:23,357 --> 00:16:26,157 はぁ…。 230 00:16:31,515 --> 00:16:35,052 こらぁ どうも。 お懐かしい顔ばかり。 231 00:16:35,052 --> 00:16:38,589 わざわざ あたしのためなんぞに お集まりいただいて・ 232 00:16:38,589 --> 00:16:41,325 ご足労ありがとう存じます。 233 00:16:41,325 --> 00:16:44,044 親分さん 会長さん 先生・ 234 00:16:44,044 --> 00:16:48,082 ああ~ お懐かしい。 大きいお姐さんまで。 235 00:16:48,082 --> 00:16:50,100 なんてことだ。 236 00:16:50,100 --> 00:16:54,054 これは どうも もう 引っ込みがつきません。 237 00:16:54,054 --> 00:16:58,075 ひとまず うちのでくのぼうが 一席 ご披露いたします。 238 00:16:58,075 --> 00:17:02,246 お楽しみください。 (観客)わあ~!・ 239 00:17:02,246 --> 00:17:04,246 こらぁ 縁起物だね。 240 00:17:07,184 --> 00:17:09,887 お前さんも共犯かい? ふんっ。 241 00:17:09,887 --> 00:17:12,489 ・~(出囃子) 242 00:17:12,489 --> 00:17:16,293 ふふっ。 どうも! パチパチパチ…(拍手) 243 00:17:16,293 --> 00:17:18,329 (親分)待ってました! 244 00:17:18,329 --> 00:17:22,650 ・~(出囃子) 245 00:17:22,650 --> 00:17:25,519 偉い親分さん 偉い先生・ 246 00:17:25,519 --> 00:17:28,489 偉い会長さんに 学者さんに 芸者のお姐さん・ 247 00:17:28,489 --> 00:17:32,543 極め付けに 師匠まで。 248 00:17:32,543 --> 00:17:35,613 こんなおっかねぇお座敷は 生まれて初めてでして。 249 00:17:35,613 --> 00:17:37,648 (観客たち)はははっ。 250 00:17:37,648 --> 00:17:41,051 けど まあ こういう高座に 上がらしてもらうってぇと・ 251 00:17:41,051 --> 00:17:44,838 ちょいと変わったご趣向で 楽しんでっていただきてぇ・ 252 00:17:44,838 --> 00:17:49,410 なんて欲が むくむくっと 湧き上がってめぇりやして。 253 00:17:49,410 --> 00:17:51,629 ええ~…・ 254 00:17:51,629 --> 00:17:54,929 たくさんのお運びで 誠に どうも。 255 00:17:59,353 --> 00:18:03,891 その昔 東京の魚河岸が まだ日本橋に来る前・ 256 00:18:03,891 --> 00:18:06,443 芝の浜に 河岸がありましたときに・ 257 00:18:06,443 --> 00:18:09,546 棒手売のクマってぇ男がいた。 258 00:18:09,546 --> 00:18:12,650 「ねえ お前さん 酔って寝てねぇで・ 259 00:18:12,650 --> 00:18:16,203 起きて 河岸行っとくれよ」。 「ええっ? なんでぇ・ 260 00:18:16,203 --> 00:18:20,257 商売に行けってなぁ」。 「嫌だ 忘れてんのかい?・ 261 00:18:20,257 --> 00:18:23,060 昨日の晩に約束したじゃない」。 262 00:18:23,060 --> 00:18:25,095 「うう~ 寒い! 寒いねぇ。・ 263 00:18:25,095 --> 00:18:27,698 やだなぁ こんなに早くに商売なんてよ。・ 264 00:18:27,698 --> 00:18:30,384 起きてんなぁ 俺と むく犬くれぇなもんだ。・ 265 00:18:30,384 --> 00:18:33,220 おっ? 切り通しの鐘が鳴ってらぁ。・ 266 00:18:33,220 --> 00:18:35,220 今 何時でぇ?・ 267 00:18:36,624 --> 00:18:41,445 ん? かかあめ 時刻 間違ぇて 起こしやがったな!・ 268 00:18:41,445 --> 00:18:44,014 いまいましいな あんにゃろう!・ 269 00:18:44,014 --> 00:18:47,818 はぁ… しょうがねぇ ここで一服やってるうちに・ 270 00:18:47,818 --> 00:18:51,118 白々 夜が明けんだろ。 よっ」。 271 00:18:54,658 --> 00:18:56,694 「すぅ~… ん?・ 272 00:18:56,694 --> 00:18:58,812 お天道様が昇ってきた」。 273 00:18:58,812 --> 00:19:02,783 パン パン 「んん~」。 274 00:19:02,783 --> 00:19:06,837 (小夏)あっ。 「ぽぅ~っと白んできやがった。・ 275 00:19:06,837 --> 00:19:10,791 いい空だなぁ。 どうでぇ あの空。・ 276 00:19:10,791 --> 00:19:13,560 まるで鯛の色だ」。 277 00:19:13,560 --> 00:19:15,596 これ…。 「こんなきれいな空・ 278 00:19:15,596 --> 00:19:18,696 この商売やってる者にしか 見られねぇ空だ」。 279 00:19:20,918 --> 00:19:22,953 「なんでぇ? こりゃ。・ 280 00:19:22,953 --> 00:19:25,089 汚ぇ財布だなぁ。・ 281 00:19:25,089 --> 00:19:28,575 革には違ぇねぇが ぬるぬるだよ。・ 282 00:19:28,575 --> 00:19:31,445 長く水に入ってやがったな。・ 283 00:19:31,445 --> 00:19:35,749 砂入ってると見えて なんだか重てぇな。・ 284 00:19:35,749 --> 00:19:37,785 あっ!」。 ゴクッ 285 00:19:37,785 --> 00:19:39,803 トン トン トン 「おっかあ!」。 286 00:19:39,803 --> 00:19:41,855 トン トン トン 「おっかあ 開けろ!・ 287 00:19:41,855 --> 00:19:43,891 ひとよ ひとよ ひとよ… ふた ふた ふた…・ 288 00:19:43,891 --> 00:19:46,410 みっちょ みっちょ みっちょ… おい どうでぇ・ 289 00:19:46,410 --> 00:19:50,214 四十八両も入ってるぜ! 今日は祝い酒だ!」。 290 00:19:50,214 --> 00:19:52,750 (一同)ははははっ。 291 00:19:52,750 --> 00:19:55,803 「どうすんだい? ただでさえ 借金だらけだってのに・ 292 00:19:55,803 --> 00:19:59,356 こんなに飲み食いしちゃって。 どうやって払うんだよ?」。 293 00:19:59,356 --> 00:20:02,943 「なんだ 夢か… はははっ。 なあ おっかあ・ 294 00:20:02,943 --> 00:20:06,313 めんどくせぇから いっそ 死んじまうか?」。 295 00:20:06,313 --> 00:20:08,682 「バカ言ってんじゃないよ。・ 296 00:20:08,682 --> 00:20:11,969 はぁ… もう どうすりゃいいんだい。・ 297 00:20:11,969 --> 00:20:14,455 実はね お前さんに・ 298 00:20:14,455 --> 00:20:16,755 話さなきゃいけないことが あるの。・ 299 00:20:18,142 --> 00:20:20,277 ほら これ」。 300 00:20:20,277 --> 00:20:23,647 「ん? その小汚ぇ財布は…。・ 301 00:20:23,647 --> 00:20:25,783 どういうこったい?」。 302 00:20:25,783 --> 00:20:29,553 「あれね 夢じゃなかったのよ。・ 303 00:20:29,553 --> 00:20:32,823 ごめん… ごめんね。・ 304 00:20:32,823 --> 00:20:36,944 あたし うそついちゃった」。 「えっ…」。 305 00:20:36,944 --> 00:20:48,572 ・~ 306 00:20:48,572 --> 00:20:51,909 「なあ お前 もう 泣くのは やめてよ・ 307 00:20:51,909 --> 00:20:55,712 顔を上げておくれ。 俺ぁ ちっとも怒っちゃいねぇよ」。 308 00:20:55,712 --> 00:20:58,649 「本当かい?」。 「お前がいなけりゃ・ 309 00:20:58,649 --> 00:21:00,717 俺ぁ こんなふうには なれなかった。・ 310 00:21:00,717 --> 00:21:04,004 へっ… 感謝してるよ。・ 311 00:21:04,004 --> 00:21:07,374 うっ… ありがとう」。 312 00:21:07,374 --> 00:21:11,795 「ねえ お前さん お酒 もう飲んだっていいよ」。 313 00:21:11,795 --> 00:21:14,481 「えっ! いいのかい?・ 314 00:21:14,481 --> 00:21:17,017 ありがてぇなぁ。 おっとっとっと…・ 315 00:21:17,017 --> 00:21:21,455 はははっ。 どうでぇ いい色だなぁ。・ 316 00:21:21,455 --> 00:21:23,490 ありがてぇ」。 317 00:21:23,490 --> 00:21:28,195 ・~ 318 00:21:28,195 --> 00:21:31,982 「いや やっぱりよそう。・ 319 00:21:31,982 --> 00:21:35,752 また 夢になるといけねぇ」。 320 00:21:35,752 --> 00:21:41,152 (拍手) 321 00:21:42,860 --> 00:21:44,895 師匠。 322 00:21:44,895 --> 00:21:48,849 どうやって知った? 四国の「亀屋旅館」。 323 00:21:48,849 --> 00:21:53,153 撮影フィルムが残ってるって 先生が見つけてくれたんです。 324 00:21:53,153 --> 00:21:57,574 ダメだ 一回泣いたら止まらねぇ。 ちくしょう! 325 00:21:57,574 --> 00:22:02,379 そのフィルムで 助六は泣いていたのかい? 326 00:22:02,379 --> 00:22:05,165 へえ。 そういうふうに見えました。 327 00:22:05,165 --> 00:22:08,852 (小夏) あたしも見たわ。 確かに泣いてた。 328 00:22:08,852 --> 00:22:12,623 師匠 楽しそうだったじゃねぇか。 329 00:22:12,623 --> 00:22:15,523 あのときみたいに 落語 楽しんでほしい。 330 00:22:18,478 --> 00:22:23,317 (親分)お師匠 随分でっかい 目の下のたんこぶですな。・ 331 00:22:23,317 --> 00:22:25,586 お師匠がしょぼくれてたんじゃ・ 332 00:22:25,586 --> 00:22:29,406 あいつらだって 調子が狂っちまうよ。 333 00:22:29,406 --> 00:22:33,277 (小夏)これ 親子会で倒れたとき・ 334 00:22:33,277 --> 00:22:36,747 あんたの懐に入ってたやつだよ。・ 335 00:22:36,747 --> 00:22:38,747 お守りなんだろ? 336 00:22:41,084 --> 00:22:43,587 ふぅ…。 337 00:22:43,587 --> 00:22:47,708 (拍手) 338 00:22:47,708 --> 00:22:49,743 待ってました! 339 00:22:49,743 --> 00:22:55,943 ・~(出囃子) 340 00:22:57,384 --> 00:23:01,555 ええ~ どうも。 ご心配をおかけしまして。 341 00:23:01,555 --> 00:23:05,655 どうやら あたしは まだまだ休めないようで。 342 00:23:07,377 --> 00:23:11,798 この商売をやってる者にしか 見られない空・ 343 00:23:11,798 --> 00:23:15,586 どんな商売にも そういうものはありますな。 344 00:23:15,586 --> 00:23:20,157 声量もございません。 舌もカラッカラでございますが・ 345 00:23:20,157 --> 00:23:22,693 また 夢にならねぇうちに・ 346 00:23:22,693 --> 00:23:25,112 どうぞ あきれて 一席 おつきあいのほど…。 347 00:23:25,112 --> 00:23:27,264 (刑事) お静かに願います。 警察です。 348 00:23:27,264 --> 00:23:29,316 (お栄)はっ。 ん? 349 00:23:29,316 --> 00:23:32,369 吉切組組長 城戸績・ 350 00:23:32,369 --> 00:23:34,655 銃刀法違反容疑で 逮捕いたします! 351 00:23:34,655 --> 00:23:36,707 (お栄)なんてこと…。 352 00:23:36,707 --> 00:23:41,144 組長殿 ついに逮捕状 取れたぜ。 353 00:23:41,144 --> 00:23:43,180 なんて野暮なじじいだい! 354 00:23:43,180 --> 00:23:45,432 こんなときに 来るこたぁねぇだろ!・ 355 00:23:45,432 --> 00:23:48,185 皆さん 堅気の方ばっかりだよ。 356 00:23:48,185 --> 00:23:52,172 お栄ちゃん 騒ぎゃあ余計 皆さんの迷惑だ。 357 00:23:52,172 --> 00:23:54,172 悪あがきはしねぇよ。 358 00:23:55,809 --> 00:23:58,245 うっ…。 ガチャン 359 00:23:58,245 --> 00:24:00,280 ガチャン (親分)皆さん・ 360 00:24:00,280 --> 00:24:03,717 せっかくの会に 失礼しました。・ 361 00:24:03,717 --> 00:24:07,771 この借りは 戻ったら きっと お返しいたします。 362 00:24:07,771 --> 00:24:11,158 ・~ 363 00:24:11,158 --> 00:24:13,810 (親分)お師匠・ 364 00:24:13,810 --> 00:24:17,347 すまねぇ。 どうか お元気で。 365 00:24:17,347 --> 00:24:24,204 ・~ 366 00:24:24,204 --> 00:24:26,289 (お栄)うっ… うぅ…。 367 00:24:26,289 --> 00:24:29,589 ・~ 368 00:24:31,011 --> 00:24:50,947 ・~ 369 00:24:50,947 --> 00:25:10,984 ・~ 370 00:25:10,984 --> 00:25:30,954 ・~ 371 00:25:30,954 --> 00:25:50,941 ・~ 372 00:25:50,941 --> 00:25:58,941 ・~ 373 00:27:35,779 --> 00:27:41,618 次回 「昭和元禄落語心中 -助六再び篇-」 第9話。 374 00:27:41,618 --> 00:27:44,218 どうぞ ご贔屓 ご鞭撻のほどを。