1 00:00:04,989 --> 00:00:24,008 ・~ 2 00:00:24,008 --> 00:00:43,978 ・~ 3 00:00:43,978 --> 00:00:58,776 ・~ 4 00:00:58,776 --> 00:01:03,097 ・~ 5 00:01:03,097 --> 00:01:11,397 ・~ 6 00:01:15,126 --> 00:01:32,526 ・~ 7 00:01:33,978 --> 00:01:36,247 (店員)いらっしゃいませ。 ぜひ この機会に…。・ 8 00:01:36,247 --> 00:01:38,282 いらっしゃいませ。 9 00:01:38,282 --> 00:01:41,319 (アニキ) おやじが実刑 決まったんだ。・ 10 00:01:41,319 --> 00:01:43,419 懲役6年だってよ。 11 00:01:45,440 --> 00:01:47,675 (与太郎)6年ってったら うちの坊が・ 12 00:01:47,675 --> 00:01:49,944 この春に小学校へ上がってよ・ 13 00:01:49,944 --> 00:01:51,996 出てくる頃には中坊だぜ。 14 00:01:51,996 --> 00:01:54,031 長ぇよな…。 15 00:01:54,031 --> 00:01:57,235 でも まあ 元気でいりゃ また会えるんだしよ。 16 00:01:57,235 --> 00:02:00,438 どこ入るって? (アニキ)鈴ヶ森刑務所。 17 00:02:00,438 --> 00:02:02,707 おっかねぇとこだな。 18 00:02:02,707 --> 00:02:06,260 (アニキ)はぁ~。 なあ 与太公・ 19 00:02:06,260 --> 00:02:08,980 時代ってのは終わるんだな。・ 20 00:02:08,980 --> 00:02:12,380 あの人が いなくなりゃ 何もかもが変わっちまうんだよ。 21 00:02:15,103 --> 00:02:19,707 コツ コツ コツ…(足音) 22 00:02:19,707 --> 00:02:22,777 ん? (信之助)与太ちゃん おかえり! 23 00:02:22,777 --> 00:02:25,046 おっ! 坊ちゃん お出かけかい? 24 00:02:25,046 --> 00:02:27,081 (信之助)じいじと銭湯行くの。 25 00:02:27,081 --> 00:02:30,184 (有楽亭八雲)松田さんが 行ってこいって うるさいんだよ。 26 00:02:30,184 --> 00:02:32,653 (松田) ちったぁ動いてもらわねぇと。 27 00:02:32,653 --> 00:02:37,041 オイラも お相伴しよっかな。 そいつぁ頼もしい。 28 00:02:37,041 --> 00:02:39,410 ランドセル置いてけば? やだ! 29 00:02:39,410 --> 00:02:42,510 ああ~ はいはい。 いいよ 別に。 はぁ…。 30 00:02:44,232 --> 00:02:48,536 うっ ああっ ああ~! 31 00:02:48,536 --> 00:02:51,255 最高だぁ~! はははっ。 32 00:02:51,255 --> 00:02:54,642 地獄の釜みてぇな声 およしなさい。 33 00:02:54,642 --> 00:02:56,642 あい すいやせん。 34 00:02:58,579 --> 00:03:00,932 今日 アニキに会ったんすよ。 35 00:03:00,932 --> 00:03:03,951 親分さん オツトメ6年だそうで。 36 00:03:03,951 --> 00:03:07,238 決まったかぇ。 随分長いね。 37 00:03:07,238 --> 00:03:09,707 鈴ヶ森刑務所だそうです。 38 00:03:09,707 --> 00:03:12,743 オイラ 今度 慰問に行ってみようと思って。 39 00:03:12,743 --> 00:03:15,730 よくやってるんで すぐに話 通りますよ。 40 00:03:15,730 --> 00:03:18,332 そんなことをやってたんかぇ。 41 00:03:18,332 --> 00:03:21,335 なんせ オイラが 師匠に出会ったきっかけですから。 42 00:03:21,335 --> 00:03:24,021 恩返ししてんすよ。 43 00:03:24,021 --> 00:03:27,041 もう 何年前になりやすかねぇ。 44 00:03:27,041 --> 00:03:31,179 今でも 目の裏に 強烈に焼き付いてます。 45 00:03:31,179 --> 00:03:34,348 何しろ あんなハコでは そうそう見れねぇ芸ですから。 46 00:03:34,348 --> 00:03:37,702 ・~ 47 00:03:37,702 --> 00:03:40,671 どうして あんなとこで 「死神」やったんす? 48 00:03:40,671 --> 00:03:43,875 慰問は 親分さんに頼まれてね。 49 00:03:43,875 --> 00:03:46,577 あすこの空気は 好きでしたよ。 50 00:03:46,577 --> 00:03:49,080 「あすこ」って 刑務所がですかい? 51 00:03:49,080 --> 00:03:52,416 ああ。 ありゃ ようござんした。 52 00:03:52,416 --> 00:03:55,836 完全に冷えきったあの空気が。 53 00:03:55,836 --> 00:04:00,858 ああいう中で掛けると 本当に死神が見えるんだよ。 54 00:04:00,858 --> 00:04:04,212 サゲが あんまりにも寒々しいもんで・ 55 00:04:04,212 --> 00:04:06,747 刑務官さんに嫌な顔されてね。 56 00:04:06,747 --> 00:04:10,818 ふふっ。 ありゃ 本当におかしかった。 57 00:04:10,818 --> 00:04:15,206 そいじゃあ オイラのために 掛けてくれた「死神」は? 58 00:04:15,206 --> 00:04:18,276 そんなことあったかぇ? ありました! 59 00:04:18,276 --> 00:04:22,079 弟子入りしてすぐ 寄席で。 忘れねぇでくださいよ。 60 00:04:22,079 --> 00:04:24,732 思いつきでがしょう。 そういや・ 61 00:04:24,732 --> 00:04:27,668 お前さんを拾ったのも ふとした思いつきだ。 62 00:04:27,668 --> 00:04:31,239 けど オイラにとっちゃ 天啓だったんすから。 63 00:04:31,239 --> 00:04:33,758 オイラん中で 絶対 揺るぎねぇこと・ 64 00:04:33,758 --> 00:04:35,793 それが 師匠なんす。 65 00:04:35,793 --> 00:04:40,364 丸腰んときに言われるのは なんだか ゾッとするね。 66 00:04:40,364 --> 00:04:43,200 犬みてぇに まっつぐな野郎だよ。 67 00:04:43,200 --> 00:04:46,120 お望みとあらぁ どこへでも! 68 00:04:46,120 --> 00:04:49,707 調子に乗るなぃ。 へい。 69 00:04:49,707 --> 00:04:53,094 望みなんざ 何もありゃしねぇ。 70 00:04:53,094 --> 00:04:56,647 けど たった一つ願えるなら・ 71 00:04:56,647 --> 00:05:01,035 死ぬときゃ落語をしながら ころっと逝きたい。 72 00:05:01,035 --> 00:05:05,122 師匠 それには まず 落語を 今やらねぇと。 73 00:05:05,122 --> 00:05:08,242 家で ぼう~っとしてちゃ 高座の上で死ねねぇでしょ! 74 00:05:08,242 --> 00:05:11,128 手始めに 鈴ヶ森の慰問会に 行きやしょう。 75 00:05:11,128 --> 00:05:15,182 親分さんとの会だって 中途半端なままじゃねぇですか。 76 00:05:15,182 --> 00:05:19,370 親分と あすこに入ってる人たちが ちゃんと気持ちを入れ替えて・ 77 00:05:19,370 --> 00:05:22,006 待ってる人んとこへ 早く帰れるように。 78 00:05:22,006 --> 00:05:24,041 そんな落語を思いつきで 一丁。 79 00:05:24,041 --> 00:05:26,410 ねえ どうです? わあっ! 80 00:05:26,410 --> 00:05:29,547 ザブン! しん坊! 81 00:05:29,547 --> 00:05:31,582 ははははっ! うう…。 82 00:05:31,582 --> 00:05:34,935 銭湯で そういうこと すんなってんだよ バカ! 83 00:05:34,935 --> 00:05:38,222 ったく しょうがねぇな。 84 00:05:38,222 --> 00:05:41,025 じいじ 落語するの? 85 00:05:41,025 --> 00:05:43,244 聞いてたんかぇ。 86 00:05:43,244 --> 00:05:45,244 僕も 聴きたいなぁ。 87 00:05:46,630 --> 00:05:49,317 ははははっ! 88 00:05:49,317 --> 00:05:52,703 坊ちゃんのおねだりには かなわねぇなぁ。 89 00:05:52,703 --> 00:05:56,203 子供てぇのは とんでもねぇ生き物だね。 90 00:06:03,597 --> 00:06:06,717 うう…。 (小夏)一体どういう了見だい?・ 91 00:06:06,717 --> 00:06:10,304 あんたが 人様のために落語をやるなんて。 92 00:06:10,304 --> 00:06:14,775 なんのこたぁねぇ ほんの出来心でね。 93 00:06:14,775 --> 00:06:23,484 ・~(出囃子) 94 00:06:23,484 --> 00:06:29,323 (拍手) 95 00:06:29,323 --> 00:06:35,413 ・~(出囃子) 96 00:06:35,413 --> 00:06:38,966 ええ どうも。 先ほどの者に成り代わりまして・ 97 00:06:38,966 --> 00:06:43,687 一席 お噺 申し上げます。 よろしくおつきあいのほどを。 98 00:06:43,687 --> 00:06:46,474 お久しぶりのことでございます。 99 00:06:46,474 --> 00:06:49,276 お懐かしい顔も いらっしゃいますようで。 100 00:06:49,276 --> 00:06:52,797 皆様にも きっと 待つ人がおありでしょう。 101 00:06:52,797 --> 00:06:56,217 今日は そんなお噺を一席。 102 00:06:56,217 --> 00:06:59,620 昔は お茶屋さんに芸者が入りますと・ 103 00:06:59,620 --> 00:07:02,256 お線香を1本 立てます。 104 00:07:02,256 --> 00:07:05,676 この線香が 「たちきり」と申しまして・ 105 00:07:05,676 --> 00:07:08,279 これが消えるまでの 2時間ひとざし・ 106 00:07:08,279 --> 00:07:11,579 玉串というご祝儀を 頂いたんだそうで…。 107 00:07:12,967 --> 00:07:17,288 「若旦那 今日から百日 蔵住まいをしていただきます」。 108 00:07:17,288 --> 00:07:19,940 「番頭 そりゃ しどいんじゃないかぇ。・ 109 00:07:19,940 --> 00:07:23,577 あたしが 一体 なんの悪さをしたてぇんです」。 110 00:07:23,577 --> 00:07:27,114 番頭 若旦那を蔵へ入れますと・ 111 00:07:27,114 --> 00:07:30,484 錠前を ガチャリと閉めてしまいます。 112 00:07:30,484 --> 00:07:35,706 脅かされて蔵住まい。 いわゆる軟禁処分ですな。 113 00:07:35,706 --> 00:07:38,742 どうして こういうことに なったかてぇますと・ 114 00:07:38,742 --> 00:07:43,747 その年の春 柳橋の料亭で 寄り合いがございました。 115 00:07:43,747 --> 00:07:46,383 大勢 芸者衆が参ります中に・ 116 00:07:46,383 --> 00:07:49,920 「ひさのや」の小糸という娘芸者が。 117 00:07:49,920 --> 00:07:53,340 若旦那は ふいに ひと目惚れをしてしまいました。 118 00:07:53,340 --> 00:07:57,912 昼も夜も ただただ 小糸のもとへ通い詰める。 119 00:07:57,912 --> 00:08:00,948 遠くて近きが男女の仲。 120 00:08:00,948 --> 00:08:03,601 いつしか わりない仲になります。 121 00:08:03,601 --> 00:08:07,371 何しろ 花柳界のことですから 僅かの間にも・ 122 00:08:07,371 --> 00:08:10,174 莫大もないお金を 使い込んじまって・ 123 00:08:10,174 --> 00:08:13,477 さあ 親旦那様はご立腹。 124 00:08:13,477 --> 00:08:16,764 ズズッ… そんなわけで始まりました・ 125 00:08:16,764 --> 00:08:18,799 若旦那の蔵ごもり。 126 00:08:18,799 --> 00:08:21,852 そこに女文字の手紙が1通。 127 00:08:21,852 --> 00:08:25,739 「おや? 柳橋よりと書いてあるな」。 128 00:08:25,739 --> 00:08:30,039 番頭 これを封も切らずに 帳場の引き出しに放り込んじまう。 129 00:08:33,180 --> 00:08:37,918 すると 明くる日には3本。 明くる日には5本と・ 130 00:08:37,918 --> 00:08:41,038 だんだん手紙が増えてまいります。 131 00:08:41,038 --> 00:08:44,825 そうこうするうちに 月日のたつのは早いもんで・ 132 00:08:44,825 --> 00:08:48,262 あっという間に百日がたちました。 133 00:08:48,262 --> 00:08:52,082 「若旦那 よく ご辛抱なさいました」。 134 00:08:52,082 --> 00:08:55,669 「ああ 番頭さん」。 「実は これが・ 135 00:08:55,669 --> 00:08:58,369 柳橋より届いておりました」。 136 00:09:04,345 --> 00:09:07,965 「これは 小糸の…」。 137 00:09:07,965 --> 00:09:11,135 「あたしは つくづく感心いたしました。・ 138 00:09:11,135 --> 00:09:15,839 花柳界にも こうした殊勝な女性が いらっしゃるのかと。・ 139 00:09:15,839 --> 00:09:19,126 しかし 八十日目になりますか…・ 140 00:09:19,126 --> 00:09:22,162 ぴたりと手紙がやみましてな。・ 141 00:09:22,162 --> 00:09:24,481 やはり芸者ですから 見切りがつきゃ・ 142 00:09:24,481 --> 00:09:26,550 こんなものなのでしょう。・ 143 00:09:26,550 --> 00:09:29,603 こちらが 最後の手紙でございます」。 144 00:09:29,603 --> 00:09:32,573 「あっ 嫌… 見たくない。・ 145 00:09:32,573 --> 00:09:35,025 お前さん 読んどくれ」。 146 00:09:35,025 --> 00:09:37,025 「では 代わって。・ 147 00:09:38,479 --> 00:09:41,365 再三のお手紙 差し上げ候えども・ 148 00:09:41,365 --> 00:09:45,419 お越しくれない。 この手紙にて お見えくださらねば・ 149 00:09:45,419 --> 00:09:50,507 もはや若旦那様には この世にて お目に掛かれまじく存じ候。・ 150 00:09:50,507 --> 00:09:53,477 取り急ぎ あらあらかしこ」。 151 00:09:53,477 --> 00:09:58,048 蔵から出ました若旦那 一路 柳橋の料亭へ。 152 00:09:58,048 --> 00:10:01,448 そこには 憔悴しきった女将の姿が。 153 00:10:02,803 --> 00:10:06,173 「小糸が 死んだ・・ 154 00:10:06,173 --> 00:10:10,044 どうして…」。 「どうしてとおっしゃりゃあ・ 155 00:10:10,044 --> 00:10:13,097 あなたが殺したと 言わなけりゃなりません。・ 156 00:10:13,097 --> 00:10:15,599 あの子 痩せてしまいましてね・ 157 00:10:15,599 --> 00:10:18,602 起き上がることも できないんです。・ 158 00:10:18,602 --> 00:10:21,572 抱えるように抱き起こして・ 159 00:10:21,572 --> 00:10:25,392 あなた様に頂いた 三味線を持たせますと・ 160 00:10:25,392 --> 00:10:28,796 ひとまず しゃんと はたいたっきり・ 161 00:10:28,796 --> 00:10:31,815 もう つらいのと横になって…」。 162 00:10:31,815 --> 00:10:36,103 「なんてことだ。 こんなことなら・ 163 00:10:36,103 --> 00:10:40,240 蔵ぁ破ってでも 出てまいりましたのに」。 164 00:10:40,240 --> 00:10:44,712 「そうなんでしたの。 あなたが蔵住まいを…。・ 165 00:10:44,712 --> 00:10:49,149 それは おつらかったでしょう。 いくら手紙を出したって・ 166 00:10:49,149 --> 00:10:53,454 届きゃしませんわね。 さあ 仏前へ。・ 167 00:10:53,454 --> 00:10:55,756 今日は あの子の三七日。・ 168 00:10:55,756 --> 00:10:58,776 お線香 上げて 一杯 飲んでくださいな」。 169 00:10:58,776 --> 00:11:00,811 ・~(三味線の演奏「雪」) 170 00:11:00,811 --> 00:11:04,448 「ねえ 三味線が聴こえませんこと?」。 171 00:11:04,448 --> 00:11:07,651 ・~(三味線の演奏「雪」) 172 00:11:07,651 --> 00:11:12,251 「あの子が あなたの好きな 地唄の雪を唄ってますわ」。 173 00:11:13,741 --> 00:11:22,266 (小夏)・ ほんに 174 00:11:22,266 --> 00:11:30,107 (小夏)・ 昔の 175 00:11:30,107 --> 00:11:32,543 「な… 南無阿弥陀仏」。 176 00:11:32,543 --> 00:11:38,766 (みよ吉の声)・ 昔の 「悪かった。 すまなかったよ。・ 177 00:11:38,766 --> 00:11:42,720 あたしぁ 何も知らなかったんだ。・ 178 00:11:42,720 --> 00:11:46,707 よく あたしのことを そこまで思ってくれた。・ 179 00:11:46,707 --> 00:11:50,177 ありがとう ありがとう・ 180 00:11:50,177 --> 00:11:53,380 ありがとう…。・ 181 00:11:53,380 --> 00:11:56,266 そのかわり あたしも これから 生涯・ 182 00:11:56,266 --> 00:11:58,986 女房は持たないよ。・ 183 00:11:58,986 --> 00:12:02,286 それで許しておくれ…」。 184 00:12:04,742 --> 00:12:10,564 (みよ吉の声)・ 待ちけん 185 00:12:10,564 --> 00:12:15,269 ・~(三味線の演奏「雪」) 186 00:12:15,269 --> 00:12:17,669 (心の声)≪みよ吉さんの声だ≫ 187 00:12:20,441 --> 00:12:25,345 ≪あたしから みんな奪った あの人の声だ≫ 188 00:12:25,345 --> 00:12:30,401 ≪やっぱり お前さんが みんな持ってこうってのかい≫ 189 00:12:30,401 --> 00:12:35,701 ・~(三味線の演奏「雪」) 190 00:12:41,111 --> 00:12:44,681 「ん? 三味線が消えたね。・ 191 00:12:44,681 --> 00:12:48,081 後生だよ もう少し聴かしとくれ」。 192 00:12:49,486 --> 00:12:53,474 「若旦那 もうダメですよ。・ 193 00:12:53,474 --> 00:12:58,474 仏様のお線香が断ち切りました」。 194 00:15:10,010 --> 00:15:12,262 (樋口)ついに あなたも 与太郎君の落語を・ 195 00:15:12,262 --> 00:15:15,065 認める日が来ましたか。 (アマケン)認めたわけじゃ・ 196 00:15:15,065 --> 00:15:17,401 ございません。 最近 すっかり・ 197 00:15:17,401 --> 00:15:20,404 八雲師の落語が聴けませんからな。 198 00:15:20,404 --> 00:15:23,724 さみしさを 紛らわせに来たのです。 199 00:15:23,724 --> 00:15:25,759 ぬおっ! ちょっ ちょっ ちょっ…。 200 00:15:25,759 --> 00:15:28,579 なんですか? あれ あれ。 201 00:15:28,579 --> 00:15:31,114 ・~(出囃子) 202 00:15:31,114 --> 00:15:33,667 (拍手) 203 00:15:33,667 --> 00:15:36,367 どうも~。 どうも どうも。 204 00:15:39,656 --> 00:15:43,677 (一同)ははははっ。 「ここは 魚が絶品だってなぁ。・ 205 00:15:43,677 --> 00:15:46,446 そいつが 何よりも楽しみなんだ 俺ぁ。・ 206 00:15:46,446 --> 00:15:50,046 じゃんじゃん持ってきてくれよ」。 (観客たち)ははははっ。 207 00:15:51,501 --> 00:15:54,371 ・(樋口)師匠! ・タッタッタッ…(足音) 208 00:15:54,371 --> 00:15:57,140 (樋口)最後まで ご覧にならないんですか? 209 00:15:57,140 --> 00:16:00,677 「居残りの会」なんざ これみよがしに やりゃあがって。 210 00:16:00,677 --> 00:16:03,380 見てやらなきゃ しょうがねぇもんで。 211 00:16:03,380 --> 00:16:08,368 いかがでした? ダメ。 不愉快でなりません。 212 00:16:08,368 --> 00:16:12,272 笑わせるか泣かせるか それしきゃねぇんだ。 213 00:16:12,272 --> 00:16:15,392 分かりやすくだの易しくだの そんなことより・ 214 00:16:15,392 --> 00:16:18,045 芸には 品がなくちゃあいけません。 215 00:16:18,045 --> 00:16:21,765 なのに あいつぁ それが いいと思って やってんだから・ 216 00:16:21,765 --> 00:16:24,034 お話にならねぇ。 217 00:16:24,034 --> 00:16:27,671 与太さん がっかりするだろうなぁ。 218 00:16:27,671 --> 00:16:31,808 そろそろいいですかな? (樋口)すみません 寒い中。・ 219 00:16:31,808 --> 00:16:35,408 お送りしましょうか? ひどい雪だ。 いえ。 220 00:16:39,149 --> 00:16:42,953 旦さん 頼みもしねぇのに この老いぼれに・ 221 00:16:42,953 --> 00:16:46,657 かまけてくだすって ありがとうございます。 222 00:16:46,657 --> 00:16:49,943 あなたみてぇな人に 会えるんですから・ 223 00:16:49,943 --> 00:16:54,247 この商売は まったく面白ぇもんですなぁ。 224 00:16:54,247 --> 00:16:59,202 すみませんが これを あのバカに 渡してやってくれますか? 225 00:16:59,202 --> 00:17:02,702 (樋口)なんですか? 渡しゃあ分かります。 226 00:17:04,374 --> 00:17:08,074 旦さん どうぞ助六を ご贔屓に。 227 00:17:15,002 --> 00:17:17,002 (萬月)ふふっ! 228 00:17:19,873 --> 00:17:23,777 (小太郎) 萬月師匠 お言葉ですけど…・ 229 00:17:23,777 --> 00:17:27,080 早く帰って! やかましいわ ボケ! 230 00:17:27,080 --> 00:17:29,950 念願の 寄席の感慨にふけっとんねん。 231 00:17:29,950 --> 00:17:32,486 どうでもいいっす。 早く帰りたい。 232 00:17:32,486 --> 00:17:35,072 (萬月)帰ったらよろしおすがな。 (小太郎)師匠が・ 233 00:17:35,072 --> 00:17:37,708 残ってらっしゃるうちは 帰れないんす。 234 00:17:37,708 --> 00:17:40,544 こらぁ どうも。 八雲師匠! 235 00:17:40,544 --> 00:17:43,914 あ~ら! どうしはりましたんえ?・ 236 00:17:43,914 --> 00:17:47,718 今晩から泊まりなんで ぜひ 食事でも ご一緒に。 237 00:17:47,718 --> 00:17:52,818 一人になりたくて来たんです。 お引き取りください。 238 00:17:54,074 --> 00:17:57,074 あっ… はい。 239 00:17:59,563 --> 00:18:02,666 前座さん 座布団出して・ 240 00:18:02,666 --> 00:18:05,769 高座の明かりだけ ともしといてくれ。 241 00:18:05,769 --> 00:18:09,769 そしたら お前さんも 先ぃ帰りな。 いや でも…。 242 00:18:11,308 --> 00:18:15,679 大丈夫だよ 席亭さんには言ってあるから。 243 00:18:15,679 --> 00:18:19,179 (小太郎)ええ~! 「ええ~!」じゃありませんよ。 244 00:18:21,268 --> 00:18:23,286 はい。 245 00:18:23,286 --> 00:18:27,107 ほんなら 僕 与太郎はんとこ 顔出してくるさかい。 246 00:18:27,107 --> 00:18:29,392 (小太郎)お疲れさまです。 247 00:18:29,392 --> 00:18:33,780 なあ 八雲師匠て よう こういうふうに来はるんどすか? 248 00:18:33,780 --> 00:18:37,580 いいえ 初めてのことで。 さよか。 249 00:18:45,759 --> 00:18:49,746 お前さんも 随分 古びれたね。 250 00:18:49,746 --> 00:18:52,799 よ~く頑張った。 251 00:18:52,799 --> 00:18:55,799 最後に 一席 つきあっとくれるかい。 252 00:18:59,539 --> 00:19:03,460 「誰だい お前は? 薄汚ぇナリしやがって」。 253 00:19:03,460 --> 00:19:08,048 「あたしかい? あたしゃ死神だよ。・ 254 00:19:08,048 --> 00:19:11,985 あたしが いいこと教ぇてやろうか?」。 255 00:19:11,985 --> 00:19:16,273 「あぁ… ろうそくが どっさりついて…。・ 256 00:19:16,273 --> 00:19:18,308 なんです こりゃあ?」。 257 00:19:18,308 --> 00:19:21,511 「み~んな 人の寿命だよ」。 258 00:19:21,511 --> 00:19:23,964 「こっちのは 今にも消ぇそうだ」。 259 00:19:23,964 --> 00:19:28,351 「そりゃ お前のだ」。 「えっ!」。 260 00:19:28,351 --> 00:19:32,839 「消ぇる途端に命はねぇ。 じきに死ぬよ」。 261 00:19:32,839 --> 00:19:35,792 「だって 死神さん 初めて会った時分に・ 262 00:19:35,792 --> 00:19:39,813 お前にゃ まだ長い寿命がある そう言ってたじゃないかぇ。・ 263 00:19:39,813 --> 00:19:42,949 うそなのかい ありゃあ?」。 「お前さんは・ 264 00:19:42,949 --> 00:19:47,170 金に目がくらんで 病人と 寿命 取っ替えた。・ 265 00:19:47,170 --> 00:19:50,790 ふふふっ もうじき死ぬよ」。 266 00:19:50,790 --> 00:19:53,243 「そんなこと知らなかったんだ。・ 267 00:19:53,243 --> 00:19:56,746 金なら返すから 元に戻しとくれよ!」。 268 00:19:56,746 --> 00:20:01,818 「ダメ」。 「そんな不人情なこと 言わねぇでくれよ。・ 269 00:20:01,818 --> 00:20:05,238 頼むよ。 なあ 死ぃさん。 もっぺんだけ! ねっ?・ 270 00:20:05,238 --> 00:20:09,459 金は まるっと返す。 もっぺん 寿命 取っ替えてくれ」。 271 00:20:09,459 --> 00:20:12,345 「しょうのねぇ野郎だ。・ 272 00:20:12,345 --> 00:20:16,116 この燃えさしに ろうそくの火 移してみろ。・ 273 00:20:16,116 --> 00:20:20,220 しくじったら そのまま死ぬ。 いいな?」。 274 00:20:20,220 --> 00:20:22,772 「ろ… ろうそくの火を…」。 275 00:20:22,772 --> 00:20:26,810 ゴクン 「上手に…」。 276 00:20:26,810 --> 00:20:31,481 「へへへっ 震えてるな。・ 277 00:20:31,481 --> 00:20:33,750 震えると 消ぇちまう。・ 278 00:20:33,750 --> 00:20:37,304 消ぇたら死んじまうなぁ。・ 279 00:20:37,304 --> 00:20:41,942 ほ~ら 消ぇる・ 280 00:20:41,942 --> 00:20:45,929 消ぇる 消ぇるよ…」。 281 00:20:45,929 --> 00:20:50,850 「よ… よしとくれよ。 黙っててくれ!」。 282 00:20:50,850 --> 00:20:57,050 「消ぇる 消ぇる 消ぇる…」。 283 00:20:59,709 --> 00:21:02,078 「はっ…」。 284 00:21:02,078 --> 00:21:05,878 「ほら 消ぇた」。 285 00:21:09,819 --> 00:21:15,625 (拍手) 286 00:21:15,625 --> 00:21:18,125 (助六)よっ 八代目! 287 00:21:20,313 --> 00:21:24,517 はぁ はぁ… どうして しゃべってんだい? 288 00:21:24,517 --> 00:21:27,370 えっ・ 聞こえてんのかい。 289 00:21:27,370 --> 00:21:30,607 ああ~ あいつのおかげか。 290 00:21:30,607 --> 00:21:34,711 へへっ 変なこと言わねぇでよかったなぁ。 291 00:21:34,711 --> 00:21:38,211 なあ 坊 いい「死神」だったぜ。 292 00:21:40,650 --> 00:21:44,421 声が 全然出ねぇんだ。 おう。 293 00:21:44,421 --> 00:21:47,691 一席やるだけで こんなに くたくただ。 294 00:21:47,691 --> 00:21:51,244 そうか。 寒くて 舌も回らねぇ…。 295 00:21:51,244 --> 00:21:53,280 へえ~。 296 00:21:53,280 --> 00:21:56,333 あたしの好きな落語が…・ 297 00:21:56,333 --> 00:21:59,219 客に 言葉が通じねぇんだ。 298 00:21:59,219 --> 00:22:03,106 挙句の果てにゃあ 客が一人もいやしねぇって…・ 299 00:22:03,106 --> 00:22:05,308 このザマか。 300 00:22:05,308 --> 00:22:09,679 あたしゃ 落語を 道連れにしようとしてるんだよ。 301 00:22:09,679 --> 00:22:11,715 そうなったなぁ。 302 00:22:11,715 --> 00:22:15,719 お前さんが あんなに愛した落語じゃあないか。 303 00:22:15,719 --> 00:22:18,004 よせやぁ。 俺ぁ関係ねぇ。 304 00:22:18,004 --> 00:22:22,192 お前さんが望んで 実際に そうなったんだろ。 305 00:22:22,192 --> 00:22:24,444 怒ってないのかぇ? 306 00:22:24,444 --> 00:22:28,081 これが お前さんの落語なら しょうがねぇ。・ 307 00:22:28,081 --> 00:22:31,881 ただな… 詰めが甘ぇな。 308 00:22:33,586 --> 00:22:36,373 情にほだされる… それが お前さんの・ 309 00:22:36,373 --> 00:22:38,573 いちばん深ぇ業だな。・ 310 00:22:40,193 --> 00:22:45,281 未練を断ち切れ。 これが お前の望みなんだろ? 311 00:22:45,281 --> 00:22:52,605 ・~ 312 00:22:52,605 --> 00:22:56,543 (助六)よく燃えらぁ。 あぁ…。 313 00:22:56,543 --> 00:22:59,112 (助六)怖ぇか? 314 00:22:59,112 --> 00:23:02,382 死ぬってのは こういうもんだ。・ 315 00:23:02,382 --> 00:23:04,634 坊 よく見ろ。 316 00:23:04,634 --> 00:23:11,041 ・~ 317 00:23:11,041 --> 00:23:14,444 お前は死神…。 318 00:23:14,444 --> 00:23:18,932 ・~ 319 00:23:18,932 --> 00:23:21,651 ≪芸の神様てのは・ 320 00:23:21,651 --> 00:23:24,051 お前のことだったんだね≫ 321 00:23:25,772 --> 00:23:28,942 ≪ようやく お会いできた≫ 322 00:23:28,942 --> 00:23:41,855 ・~ 323 00:23:41,855 --> 00:23:44,207 んんっ! あっ…。 324 00:23:44,207 --> 00:23:46,242 師匠~・ 325 00:23:46,242 --> 00:23:50,880 ・~ 326 00:23:50,880 --> 00:23:54,080 与太? つかまって! 早く! 327 00:23:56,236 --> 00:23:58,288 手ぇ出して! 328 00:23:58,288 --> 00:24:01,074 ・~ 329 00:24:01,074 --> 00:24:04,874 嫌だ… 死にたくない。 330 00:24:07,730 --> 00:24:12,230 あっ! 助けて… 助けて…。 331 00:24:15,171 --> 00:24:19,371 ≪あたしゃ また未練を…≫ 332 00:24:22,195 --> 00:24:24,447 ≪残しちまうのか≫ 333 00:24:24,447 --> 00:24:28,947 ・~ 334 00:24:30,937 --> 00:24:50,957 ・~ 335 00:24:50,957 --> 00:25:10,994 ・~ 336 00:25:10,994 --> 00:25:30,947 ・~ 337 00:25:30,947 --> 00:25:50,950 ・~ 338 00:25:50,950 --> 00:25:58,950 ・~ 339 00:27:33,136 --> 00:27:38,608 次回 「昭和元禄落語心中 -助六再び篇-」・ 340 00:27:38,608 --> 00:27:40,810 第10話。 341 00:27:40,810 --> 00:27:44,010 どうぞ ご贔屓 ご鞭撻のほどを。