1 00:00:04,963 --> 00:00:24,983 ・~ 2 00:00:24,983 --> 00:00:44,969 ・~ 3 00:00:44,969 --> 00:00:58,750 ・~ 4 00:00:58,750 --> 00:01:03,138 ・~ 5 00:01:03,138 --> 00:01:11,238 ・~ 6 00:01:15,116 --> 00:01:33,216 ・~ 7 00:01:38,256 --> 00:01:40,956 (席亭)なんでも 原因が 分かんねぇってんだよ。 8 00:01:43,027 --> 00:01:45,814 コンロでも 電気でも 火鉢でもねぇ。 9 00:01:45,814 --> 00:01:49,884 そういうのは 不審火ってんで おとがめは なしでいいんだってよ。 10 00:01:49,884 --> 00:01:51,903 (小太郎)はぁ…。 11 00:01:51,903 --> 00:01:55,523 (席亭)寄席中 至る所に火元があったてぇんだ。・ 12 00:01:55,523 --> 00:01:58,423 起きちまったことは しょうがねぇんだからな。 13 00:02:01,780 --> 00:02:06,217 (樋口)ちょっといい? 八雲師匠は お一人で 何をされてたの? 14 00:02:06,217 --> 00:02:10,371 (小太郎)私は いつものように 高座の支度をして…・ 15 00:02:10,371 --> 00:02:12,957 そこに お一人で座ってらしたんです。 16 00:02:12,957 --> 00:02:16,561 ・~ 17 00:02:16,561 --> 00:02:20,498 (小太郎)出ようと思ったら 声が聞こえてまいりました。 18 00:02:20,498 --> 00:02:23,568 落語をされていたと 思うんですが・ 19 00:02:23,568 --> 00:02:27,155 その声が なんだか この世のものじゃないみたいで・ 20 00:02:27,155 --> 00:02:32,227 無性に怖くなって 逃げるように出てしまったんです。 21 00:02:32,227 --> 00:02:34,696 (樋口)その演目は もしかして…。 22 00:02:34,696 --> 00:02:37,966 (萬月)先生! 余計な詮索は おやめやす。・ 23 00:02:37,966 --> 00:02:41,236 そういうの こっちでは野暮って言うんやて。・ 24 00:02:41,236 --> 00:02:43,955 僕にかて分かるわ。 (樋口)んん…。 25 00:02:43,955 --> 00:02:48,343 (萬月)高座の上のことは 芸人にしか分からしまへん。 26 00:02:48,343 --> 00:02:51,162 (樋口)やめてたじゃん。 (萬月)別にええやん。 27 00:02:51,162 --> 00:02:54,165 (アニさん) 終わりだ…。 お先 真っ暗だ。 28 00:02:54,165 --> 00:02:57,001 (与太郎)ん? アニさん。 29 00:02:57,001 --> 00:03:00,688 いたんですかい。 (アニさん)うち 近いからね。・ 30 00:03:00,688 --> 00:03:04,175 職場が燃えてるのに 寝てられるかい。・ 31 00:03:04,175 --> 00:03:07,428 知らなかったろ 君。 僕はね・ 32 00:03:07,428 --> 00:03:10,999 最近 ここで もぎりのバイト やってんだ。 33 00:03:10,999 --> 00:03:13,801 落語だけじゃ食えないからさ。・ 34 00:03:13,801 --> 00:03:17,901 でも ここにいるだけで 落語に しがみついてられたんだ。 35 00:03:19,591 --> 00:03:21,893 ここがなくなるってことは・ 36 00:03:21,893 --> 00:03:25,446 そういうものも全部 パァになるってことさ。・ 37 00:03:25,446 --> 00:03:29,000 人生終わりだ…。 何言ってんでぇ。 38 00:03:29,000 --> 00:03:33,454 なくなっちゃいねぇよ。 ほら 目ぇかっぽじって よく見ろぃ。 39 00:03:33,454 --> 00:03:37,292 はいはい。 人生に区切りがついたら・ 40 00:03:37,292 --> 00:03:39,592 お前らみんな とっとと帰れ。 41 00:03:43,848 --> 00:03:46,034 はぁ~っと。 (席亭)与太ちゃん・ 42 00:03:46,034 --> 00:03:49,020 今日は 片づけはいいよ。・ 43 00:03:49,020 --> 00:03:52,307 こんな寒い中 すまなかったなぁ。 44 00:03:52,307 --> 00:03:55,076 救急車に 付き添ってやりたかったろ。・ 45 00:03:55,076 --> 00:03:59,647 病院行ってやんなよ。 アネさんと松田さんもいるんで。 46 00:03:59,647 --> 00:04:02,300 それに こういうときに オイラが そばにいると・ 47 00:04:02,300 --> 00:04:04,569 師匠 嫌がるんで。 48 00:04:04,569 --> 00:04:08,969 あの人が生きてたことが 何よりの幸いだよ。 49 00:04:11,993 --> 00:04:14,012 (席亭)あんなふうに やけどを負っちゃあ・ 50 00:04:14,012 --> 00:04:18,066 高座へ上がんのは ますます難しかろうが…・ 51 00:04:18,066 --> 00:04:22,166 ここの大看板を長ぇこと 一人で背負ってくれたんだ。・ 52 00:04:23,588 --> 00:04:27,888 恩こそあれ 恨みなんざ これっぽっちもねぇからな。・ 53 00:04:29,527 --> 00:04:32,297 これからの 落語のことを考ぇると・ 54 00:04:32,297 --> 00:04:36,451 途方に暮れちまうけど まっ 元気でいりゃ・ 55 00:04:36,451 --> 00:04:40,421 落語なんざ どこだってできる。 なあ 与太公。・ 56 00:04:40,421 --> 00:04:44,225 それが 俺たちの いちばんの強みだろ。 57 00:04:44,225 --> 00:04:46,225 最近 よく思うんだ。・ 58 00:04:48,096 --> 00:04:51,396 お前がいてくれて ほんとによかったって。・ 59 00:04:53,618 --> 00:04:56,487 じき 春だ。 60 00:04:56,487 --> 00:04:58,790 人さえいりゃ なんとかなる。 61 00:04:58,790 --> 00:05:07,949 ・~ 62 00:05:07,949 --> 00:05:19,249 ・~ 63 00:05:20,795 --> 00:05:25,550 (小夏)匂いがする。 いい匂い。 64 00:05:25,550 --> 00:05:28,503 だべ? オイラ 桜に匂いがあるなんて・ 65 00:05:28,503 --> 00:05:31,673 知らなかったぜ。 師匠に お見舞いって・ 66 00:05:31,673 --> 00:05:33,773 団子屋のおばちゃんに もらったんだ。 67 00:05:35,460 --> 00:05:39,530 はぁ~。 アネさん パート 12時からだっけ? 68 00:05:39,530 --> 00:05:43,267 うん そう。 いい仕事 見つかってよかったな。 69 00:05:43,267 --> 00:05:45,820 この喫茶店なら なじみだし 安心だべ。 70 00:05:45,820 --> 00:05:48,656 まったくよ。 寄席がなけりゃ・ 71 00:05:48,656 --> 00:05:52,226 あのおっさんと二人で ずっと 家にいるしかないんだからさぁ。 72 00:05:52,226 --> 00:05:55,863 ほんとに いつまでたっても 仲が悪ぃな。 73 00:05:55,863 --> 00:05:58,599 (小夏)犬と猿みてぇなもんさ。 74 00:05:58,599 --> 00:06:01,369 師匠 あんなに かっこいいのに。 75 00:06:01,369 --> 00:06:04,722 (小夏)八雲バカには 分からねぇ感情だよ。・ 76 00:06:04,722 --> 00:06:08,593 あのさ お団子 早く開けて。 まだ あったかいんだろ? 77 00:06:08,593 --> 00:06:11,629 へいへい。 アネさんの大好物・ 78 00:06:11,629 --> 00:06:16,150 蜜たっぷりにしてもらいやしたぜ。 ちょいと たれてるよ! 79 00:06:16,150 --> 00:06:18,186 お~っとっとっと…。 (小夏)なめないで!・ 80 00:06:18,186 --> 00:06:20,722 「初天神」じゃねぇんだから。 えへへへっ。 81 00:06:20,722 --> 00:06:22,722 そのまま持ってて。 82 00:06:24,659 --> 00:06:27,128 ふふふ~ん。 83 00:06:27,128 --> 00:06:30,928 ん? ふふふふっ なんでもねぇで~す。 84 00:06:33,584 --> 00:06:38,106 アネさん 最近 団子ブームか? しょっちゅう食ってんな。 85 00:06:38,106 --> 00:06:40,425 (小夏)しんちゃんときも そうだったんだわ。 86 00:06:40,425 --> 00:06:42,460 へえ~。 私・ 87 00:06:42,460 --> 00:06:45,229 甘いもんが食べたくなるみたい。 88 00:06:45,229 --> 00:06:49,367 へえ~。 (小夏)ってなわけで よろしくな。 89 00:06:49,367 --> 00:06:53,354 何が? (小夏)何がじゃないよ 察しなよ。 90 00:06:53,354 --> 00:06:57,008 えっ 何が? (小夏)まだ分かんないのかい?・ 91 00:06:57,008 --> 00:06:59,961 この与太郎は…。・ 92 00:06:59,961 --> 00:07:02,361 面倒だから すっぱり言うよ。 93 00:07:03,631 --> 00:07:06,768 赤ん坊 できたの。 94 00:07:06,768 --> 00:07:08,803 えっ…。 95 00:07:08,803 --> 00:07:12,640 ・~ 96 00:07:12,640 --> 00:07:14,926 あんたの子だよ。 97 00:07:14,926 --> 00:07:19,931 ア ア… アネさ~ん! 98 00:07:19,931 --> 00:07:23,334 (小夏)家族が増えるよ。 うん…。 99 00:07:23,334 --> 00:07:27,371 (小夏)うれしいね 与太。 うん! 100 00:07:27,371 --> 00:07:30,224 うう~! うぅ…。 101 00:07:30,224 --> 00:07:32,860 (小夏)泣くんじゃないよ。 102 00:07:32,860 --> 00:07:36,898 よかったな… やっとだ。 うぅ…。 103 00:07:36,898 --> 00:07:41,486 うん。 うぅ… ううっ…。 104 00:07:41,486 --> 00:07:44,772 もう離れて。 着物 汚れんだろ。 105 00:07:44,772 --> 00:07:46,808 ああ~ すいやせん。 106 00:07:46,808 --> 00:07:51,879 ・~ 107 00:07:51,879 --> 00:07:55,933 名前 何がいいかな? 師匠に付けてもらおっかな~。 108 00:07:55,933 --> 00:07:58,636 (小夏)出たよ 八雲バカ。 109 00:07:58,636 --> 00:08:01,239 お待たせ~。 先生! 110 00:08:01,239 --> 00:08:05,092 もう一人 八雲バカが来やがった。 ひひひっ。 111 00:08:05,092 --> 00:08:08,729 (小夏)じゃあ あたし そろそろ仕事始まるから。・ 112 00:08:08,729 --> 00:08:11,966 今晩 夕飯は? 食べる~! 113 00:08:11,966 --> 00:08:14,902 夕方のラジオ 聴いてね。 今日は アネさんの・ 114 00:08:14,902 --> 00:08:17,321 いっちゃん好きなネタ 掛けてやっからよぉ。 115 00:08:17,321 --> 00:08:21,221 うふふっ 楽しみ。 じゃあね。 116 00:08:22,760 --> 00:08:24,779 へへへっ。 よっ。 117 00:08:24,779 --> 00:08:27,832 いってぇな! 何すんだよ~。 118 00:08:27,832 --> 00:08:31,232 お幸せそうで。 えへへへっ! 119 00:08:34,672 --> 00:08:37,825 (樋口)ねえ 与太さん ラジオ 好評だってよ。 120 00:08:37,825 --> 00:08:40,862 ありがてぇや。 テレビに いくら出たって・ 121 00:08:40,862 --> 00:08:43,998 好きな落語なんざ やらせてもらえねぇしな。 122 00:08:43,998 --> 00:08:47,552 落語をやらせてもらえんなら 俺ぁ どこだって飛んでくぜぇ。 123 00:08:47,552 --> 00:08:52,640 ひひひっ。 なあ 先生 新作って まだ作ってんの? 124 00:08:52,640 --> 00:08:56,694 なんと! ついに 新作に 興味を示してくれるのかい? 125 00:08:56,694 --> 00:08:59,664 初めてのことですなぁ。 なんべん言っても・ 126 00:08:59,664 --> 00:09:01,766 のれんに腕押しで 君は もはや・ 127 00:09:01,766 --> 00:09:06,153 完全に 古典派になったのかと 思っておりましたがねぇ。 128 00:09:06,153 --> 00:09:11,092 いや~ すばらしい傾向ですな。 たっくさん出来てるんですよ。 129 00:09:11,092 --> 00:09:13,144 タイトル 聞きます?・ 130 00:09:13,144 --> 00:09:17,448 「たぬき売り」 「与太郎包丁」 「時間風呂」 「三文芝居」。 131 00:09:17,448 --> 00:09:21,319 与太さん用に作ったやつですよ。 まだまだあります。 132 00:09:21,319 --> 00:09:24,138 これからは 古典になりうる 新作というものを…。 133 00:09:24,138 --> 00:09:28,659 あのさ そういうんじゃなくて 女の人の落語ってねぇの? 134 00:09:28,659 --> 00:09:32,029 はあ? 女? 廓噺ってこと? 135 00:09:32,029 --> 00:09:35,299 いや そうじゃなくて 女の人がやった方が・ 136 00:09:35,299 --> 00:09:37,568 面白くなんのもあんだろ? 137 00:09:37,568 --> 00:09:41,389 何それ? どういうこと? う~ん…・ 138 00:09:41,389 --> 00:09:44,442 オイラにも うまく説明できねぇんだ。 139 00:09:44,442 --> 00:09:47,061 まあいいや。 いちばん上のやつ 見して。 140 00:09:47,061 --> 00:09:49,061 はい! 141 00:09:52,049 --> 00:09:54,049 う~ん…。 142 00:09:55,353 --> 00:09:57,638 分かんねぇ。 なんだよ それ! 143 00:09:57,638 --> 00:10:00,391 3行も 読んでないんじゃないかね 君は! 144 00:10:00,391 --> 00:10:03,794 落語ってのは 口に出して しゃべって・ 145 00:10:03,794 --> 00:10:07,281 客の前に出して それを こねくり回して・ 146 00:10:07,281 --> 00:10:11,381 なんべんも なんべんも失敗して そいから やっと始まんだよ。 147 00:10:12,870 --> 00:10:15,122 ついに 新作に取りかかってくれる気に・ 148 00:10:15,122 --> 00:10:19,493 なったんですか? いや やらねぇな。 149 00:10:19,493 --> 00:10:23,030 師匠の目の黒いうちは 絶対にやらねぇ。 150 00:10:23,030 --> 00:10:26,133 オイラ 師匠に 嫌われたくねぇんだ。 151 00:10:26,133 --> 00:10:28,169 はぁ… そんなことじゃ・ 152 00:10:28,169 --> 00:10:30,805 いつまでたっても 師匠を超えられんよ。 153 00:10:30,805 --> 00:10:33,305 そいでいいんだよ。 ん? 154 00:10:34,859 --> 00:10:39,096 オイラ 師匠の背中を見てんのが いちばん好きだ。 155 00:10:39,096 --> 00:10:42,533 師匠ってのは超えるもんじゃねぇ。 156 00:10:42,533 --> 00:10:47,133 別々の道を おんなじ方を見て 少し後ろを歩いてく。 157 00:10:48,806 --> 00:10:51,692 仲間ってぇたら変だけど・ 158 00:10:51,692 --> 00:10:54,992 そうだな… 同志みてぇなもんだ。 159 00:10:56,414 --> 00:11:00,401 オイラは 師匠の落語を 生涯 愛していくよ。 160 00:11:00,401 --> 00:11:04,138 超えちまったら愛せねぇだろ? へへっ。 161 00:11:04,138 --> 00:11:07,538 愛せるもんは 多けりゃ多いほどいいんだ。 162 00:11:08,943 --> 00:11:10,943 ふふふっ。 163 00:13:14,385 --> 00:13:16,385 スゥー スゥー(嗅ぐ音) 164 00:13:23,327 --> 00:13:26,831 (有楽亭八雲) 桜 どこかで盗ってきたんかぇ? 165 00:13:26,831 --> 00:13:30,651 なわけねぇだろ。 団子屋のおばちゃんにもらったの。 166 00:13:30,651 --> 00:13:33,671 あんたへの お見舞いだと。 花見がしたいって・ 167 00:13:33,671 --> 00:13:35,973 ずっと言ってたろ。 168 00:13:35,973 --> 00:13:39,673 そばへ持ってきとくれ。 起きて平気? 169 00:13:41,312 --> 00:13:44,012 今日は体が軽いんだよ。 170 00:13:46,917 --> 00:13:49,717 あぁ… もう 煩わしい。 171 00:13:54,291 --> 00:13:58,896 (小夏)痛む? 痛みはないよ。 172 00:13:58,896 --> 00:14:03,467 さっき しとっ風呂浴びたら 包帯を湿らしちまったんだ。 173 00:14:03,467 --> 00:14:08,489 (小夏)勝手に一人で入ったのかい。 危ないだろ。・ 174 00:14:08,489 --> 00:14:10,489 ひなたへ移る? 175 00:14:21,218 --> 00:14:24,718 頭もボサボサ… くし やる? 176 00:14:26,907 --> 00:14:33,047 ・~(三味線の演奏) 177 00:14:33,047 --> 00:14:35,566 そのラジオ 何なんだぇ。 178 00:14:35,566 --> 00:14:38,986 (小夏) このあと 与太が出るんだって。 179 00:14:38,986 --> 00:14:42,056 そうかぇ。 180 00:14:42,056 --> 00:14:47,394 この庭にも 桜くれぇ 植えてやりゃあよかったな。 181 00:14:47,394 --> 00:14:50,965 お前さんの 子供の時分に植えてりゃ・ 182 00:14:50,965 --> 00:14:53,234 そろそろ見頃だったろうよ。 183 00:14:53,234 --> 00:14:55,252 何言ってやんでぇ。 184 00:14:55,252 --> 00:14:57,421 あたしのために してくれたことなんざ・ 185 00:14:57,421 --> 00:15:02,359 一つもねぇだろ。 小さい頃 散髪してやったろ。 186 00:15:02,359 --> 00:15:05,162 そんだけじゃないか。 187 00:15:05,162 --> 00:15:08,032 こうして ぼんやり過ごしてると・ 188 00:15:08,032 --> 00:15:11,135 そういうことばっかりに 気が付くんだ。 189 00:15:11,135 --> 00:15:14,688 落語以外のあらゆることをね。 190 00:15:14,688 --> 00:15:16,740 ほかにも いろいろ・ 191 00:15:16,740 --> 00:15:20,540 してやりゃあよかったことが たくさんあらぁな。 192 00:15:22,162 --> 00:15:25,266 落語は もう おしまい? 193 00:15:25,266 --> 00:15:28,352 ああ。 もう怖くってね。 194 00:15:28,352 --> 00:15:31,505 (小夏)怖いって 母さんのこと? 195 00:15:31,505 --> 00:15:35,359 あんた そのうち 取り殺されるんじゃないのかい? 196 00:15:35,359 --> 00:15:37,912 お前さんは あの人のことを・ 197 00:15:37,912 --> 00:15:40,948 少~し 思い違いしているね。 198 00:15:40,948 --> 00:15:46,220 みよ吉さんは あたしといるときは 大層 優しかったよ。 199 00:15:46,220 --> 00:15:50,424 あの人には 女の人の酸いも 甘いも・ 200 00:15:50,424 --> 00:15:56,030 苦しみも ぬくもりも 冷たさも みんな教わった。 201 00:15:56,030 --> 00:16:01,630 そして 落語を与えてくれたのは ほかでもない助六さん。 202 00:16:04,288 --> 00:16:09,627 あたしの味気ない人生に 色を与えた二人だ。 203 00:16:09,627 --> 00:16:13,030 永遠に手が届かない二人…。 204 00:16:13,030 --> 00:16:17,584 (小夏)へえ~。 じゃあ どうして殺したの? 205 00:16:17,584 --> 00:16:22,089 さあ… どうしてかね。 206 00:16:22,089 --> 00:16:26,026 あたしゃ あの人と心中しようとしたんだ。 207 00:16:26,026 --> 00:16:29,330 それを身代わりになってくれた。 208 00:16:29,330 --> 00:16:35,230 そして あたしゃ死に損なって 一生かけて心中の罪を償ってる。 209 00:16:36,920 --> 00:16:39,120 そいだけのことさ。 210 00:16:44,812 --> 00:16:48,365 あんたも死にゃあよかったね。 211 00:16:48,365 --> 00:16:52,865 お前さん抱ぇて 死んでる暇なんかあるかい。 212 00:16:55,673 --> 00:17:01,562 じゃあ あたしがいなけりゃ そんなに苦しまなかった? 213 00:17:01,562 --> 00:17:06,962 お前さんのおかげで 後悔してる暇なんざ なかったよ。 214 00:17:08,435 --> 00:17:12,923 子供ってのぁ 本当に 毎日毎日 せわしなくて・ 215 00:17:12,923 --> 00:17:17,161 いくら眺めてたって飽きねぇんだ。 216 00:17:17,161 --> 00:17:21,699 なあ 小夏 なんて顔してんだい。 217 00:17:21,699 --> 00:17:24,335 そんな目で見ないでおくれ。 218 00:17:24,335 --> 00:17:33,227 ・~ 219 00:17:33,227 --> 00:17:37,881 どうしたんだぇ。 今日は やけに甘えるじゃねぇか。 220 00:17:37,881 --> 00:17:40,181 あたしの血が そうさせるのよ。 221 00:17:42,536 --> 00:17:47,424 ふんぎりは つけたってぇたろ。 そうだよ。・ 222 00:17:47,424 --> 00:17:52,863 でも もう この気持ちに 名前なんて付けられない。 223 00:17:52,863 --> 00:17:57,768 憎んだり 甘えたり 泣いたり せわしないね。 224 00:17:57,768 --> 00:18:01,588 人間なんてなぁ そんなような 訳の分からねぇ・ 225 00:18:01,588 --> 00:18:06,488 心持ちで出来てんだ 落語みてぇにな。 226 00:18:08,595 --> 00:18:12,266 あたしのこと 見捨てないで育ててくれて・ 227 00:18:12,266 --> 00:18:16,553 ありがとう。 あいよ。 228 00:18:16,553 --> 00:18:19,857 ・~(出囃子) 229 00:18:19,857 --> 00:18:22,726 (小夏)あっ 与太。 始まった。 230 00:18:22,726 --> 00:18:26,730 ええ~ どうも。 一席 おつきあいを願いまして…。・ 231 00:18:26,730 --> 00:18:29,400 ええ~ この… 道楽なんてぇますが。・ 232 00:18:29,400 --> 00:18:32,302 十人寄ると気は十色といいます。・ 233 00:18:32,302 --> 00:18:34,688 好物なんてのも 変わってまいりますな。・ 234 00:18:34,688 --> 00:18:37,024 「どうです? 肉なんか つついて この~・ 235 00:18:37,024 --> 00:18:40,027 ちょいと 一杯やろうっての どう?」。 236 00:18:40,027 --> 00:18:42,663 「野ざらし」! 「嫌いかい?」。・ 237 00:18:42,663 --> 00:18:44,932 「いえ 大好きです」。・ 238 00:18:44,932 --> 00:18:47,267 「なんだよ。 じゃあ お前さんは?」。・ 239 00:18:47,267 --> 00:18:49,319 「オイラは 煮魚の方が好き」。・ 240 00:18:49,319 --> 00:18:52,423 「オイラは 菜っぱ!」。 「鳥だね この人ぁ。・ 241 00:18:52,423 --> 00:18:55,859 お前さん どうだい?」。 「天ぷら! 天ぷら 天ぷら!」。・ 242 00:18:55,859 --> 00:18:57,961 「分かったよ。 唾が掛かんねぇように・ 243 00:18:57,961 --> 00:19:01,298 やってもらいてぇなぁ」。 「じゃあ 天ふら」。・ 244 00:19:01,298 --> 00:19:05,102 「なんだってんだい そりゃ」。 てんで 変わってまいります。・ 245 00:19:05,102 --> 00:19:07,471 道楽も また同じってんで…。・ 246 00:19:07,471 --> 00:19:09,923 道楽の一つに 釣りってのがありまして・ 247 00:19:09,923 --> 00:19:11,959 陸釣りなどをしてるってぇと・ 248 00:19:11,959 --> 00:19:15,062 同じ釣り好きが 後ろへ回って見物だ。・ 249 00:19:15,062 --> 00:19:18,532 大きな荷物をしょいながら 浮きと にらめっこ。・ 250 00:19:18,532 --> 00:19:22,636 浮きの浮き沈みと同じように こう 首が動いちまってる。・ 251 00:19:22,636 --> 00:19:26,490 「はあ~っと! あっ 餌 取られちまったな。・ 252 00:19:26,490 --> 00:19:29,626 こう もう少し きゅったぁ できねぇのかい。・ 253 00:19:29,626 --> 00:19:32,629 おいおいおい 右の竿 こら 右の竿!・ 254 00:19:32,629 --> 00:19:35,616 なかなか いるじゃねぇか ここは」。・ 255 00:19:35,616 --> 00:19:38,452 「うるせぇな この人ぁ。 どうでもいいだろう」。・ 256 00:19:38,452 --> 00:19:40,604 「いやいやいや どうでもよくねぇんだよ。・ 257 00:19:40,604 --> 00:19:44,475 どうにかしてくれ。 オイラ 忙しいんだよ」。・ 258 00:19:44,475 --> 00:19:46,693 忙しかったら そんなことしねぇで・ 259 00:19:46,693 --> 00:19:49,012 早く出かけりゃいいんで…。・ 260 00:19:49,012 --> 00:19:52,015 「やいやい やいやい 先生。 先生 いるかい?」。・ 261 00:19:52,015 --> 00:19:54,701 「どうした? だいぶ 朝からご立腹で」。・ 262 00:19:54,701 --> 00:19:57,087 「ゆんべの女 どっから引っ張ってきやがった。・ 263 00:19:57,087 --> 00:19:59,623 毎日 釣り竿 担いで 向島へ行きやがって。・ 264 00:19:59,623 --> 00:20:01,775 世の中を去ってるなんて 言いやがって・ 265 00:20:01,775 --> 00:20:04,194 どうも変だと思ってたんだ。 やい!・ 266 00:20:04,194 --> 00:20:06,730 こちとら ゆんべは 一杯飲んで うたた寝よ。・ 267 00:20:06,730 --> 00:20:08,866 夜中に 寒いってんで ひょいと目ぇ覚ますと・ 268 00:20:08,866 --> 00:20:10,884 お前さんのところで ひそひそ声。・ 269 00:20:10,884 --> 00:20:13,837 はて 先生は独り者。 相手のいようはずもなしと・ 270 00:20:13,837 --> 00:20:17,241 聞き耳を立ててみると 相手の声が女。・ 271 00:20:17,241 --> 00:20:19,826 それだよ ますます勘弁できねぇ。・ 272 00:20:19,826 --> 00:20:22,079 ふだんに言う口と違うじゃねぇか」。 ふふっ。 273 00:20:22,079 --> 00:20:25,179 えらく威勢のよすぎる八五郎だね。 274 00:20:26,650 --> 00:20:29,186 「ご存じのように わしは釣り好き。・ 275 00:20:29,186 --> 00:20:31,972 彼岸中のハゼは 中気のまじないになるから・ 276 00:20:31,972 --> 00:20:34,274 ぜひ頼むと お前さんに言われたのが・ 277 00:20:34,274 --> 00:20:37,060 頭にあったので 釣り竿をかたげ・ 278 00:20:37,060 --> 00:20:40,597 向島に出かけたが 昨日は魔日というのか・ 279 00:20:40,597 --> 00:20:43,050 雑魚一匹 掛からん。 ああ~ こういう日は・ 280 00:20:43,050 --> 00:20:45,652 殺生してはならん。 戒めと思うて・ 281 00:20:45,652 --> 00:20:49,273 釣り糸を巻いていると 折から夕暮れ・ 282 00:20:49,273 --> 00:20:53,076 浅草弁天山で 打ち出す暮れ六つの鐘が・ 283 00:20:53,076 --> 00:20:58,799 陰にこもって ものすごく ぼ~ん ぼぉ~~ん」…。 284 00:20:58,799 --> 00:21:01,585 与太の「野ざらし」 おっかしいのよ・ 285 00:21:01,585 --> 00:21:04,404 どこまでもバカバカしくってさぁ。 286 00:21:04,404 --> 00:21:07,658 おなかの子に障るんじゃないかぇ。 287 00:21:07,658 --> 00:21:10,027 大丈夫よ あいつの子だし。 288 00:21:10,027 --> 00:21:14,514 「あれが幽霊かい? ふ~ん それにしても いい女だね 先生。・ 289 00:21:14,514 --> 00:21:17,050 あんないい女だったら 幽霊でも お化けでも・ 290 00:21:17,050 --> 00:21:20,120 かまわねぇや。 向島… 向島 行きゃあ・ 291 00:21:20,120 --> 00:21:22,239 まだ その骨はあるのかね?・ 292 00:21:22,239 --> 00:21:25,759 竿を担いで向島~。・ 293 00:21:25,759 --> 00:21:29,463 このやろう 骨は釣れるかい?・ 294 00:21:29,463 --> 00:21:33,183 骨ぅ~ 骨ぅ~!・ 295 00:21:33,183 --> 00:21:35,235 えっ? 餌が付いてなけりゃあ・ 296 00:21:35,235 --> 00:21:37,754 釣れっこありません? 何を言ってやんでぇ。・ 297 00:21:37,754 --> 00:21:40,540 連れっ子も ままっ子もあるかい なんも知らねぇくせに。・ 298 00:21:40,540 --> 00:21:42,576 素人は 黙って引っ込んでろってんだ。・ 299 00:21:42,576 --> 00:21:44,628 こうやってやりゃあ 鐘が ぼ~んと鳴るだろう。・ 300 00:21:44,628 --> 00:21:47,331 葦が がさがさっとくらぁ 烏が ばっと出てくりゃあ・ 301 00:21:47,331 --> 00:21:51,031 こっちのもんだ。 べらぼうめ こっちは それを待ってるんだい」。 302 00:21:53,103 --> 00:21:56,690 「・ 鐘が ぼんと鳴ぁりゃさ」 (信之助)・ 鐘が ぼんと鳴ぁりゃさ 303 00:21:56,690 --> 00:22:00,327 「・ あげ~しお みなみさぁ」 (信之助)・ あげ~しお みなみさぁ 304 00:22:00,327 --> 00:22:04,898 ・ からすが ぱっと出~りゃ こりゃさのさぁ 305 00:22:04,898 --> 00:22:08,201 (信之助) ・ 骨があぁる さいさいさい 306 00:22:08,201 --> 00:22:10,721 信之助! うっ…。・ 307 00:22:10,721 --> 00:22:15,525 だって じいじが お花見したいって言ってたもん。 308 00:22:15,525 --> 00:22:19,346 信之助 もっとやんな。 あっ。 309 00:22:19,346 --> 00:22:22,399 たくさん見しとくれ。 310 00:22:22,399 --> 00:22:25,135 ははっ。 「かき回すってのはな・ 311 00:22:25,135 --> 00:22:27,471 こうやるんでぇ!」。 ははっ。 312 00:22:27,471 --> 00:22:29,506 「ありゃ こりゃだめだ。・ 313 00:22:29,506 --> 00:22:31,925 もう 釣りは やめて この人見てる方が面白ぇや」。 314 00:22:31,925 --> 00:22:34,511 (信之助)こうやるんでぇ! 「先生んとこへ来た骨は・ 315 00:22:34,511 --> 00:22:39,032 年が若すぎるなぁ」…。 ねえ お願いがあるんだけど。 316 00:22:39,032 --> 00:22:41,068 なんだぇ。 317 00:22:41,068 --> 00:22:44,271 「きっと こんなふうに来るよ。 カランコロン カラ~ン」…。 318 00:22:44,271 --> 00:22:47,190 弟子にしてください。 319 00:22:47,190 --> 00:22:50,694 ははははっ。 320 00:22:50,694 --> 00:22:54,731 寝転がりながら 言うヤツがありますか。 321 00:22:54,731 --> 00:22:58,031 いいのね? はい。 322 00:23:00,103 --> 00:23:02,189 やった! 323 00:23:02,189 --> 00:23:18,555 ・~ 324 00:23:18,555 --> 00:23:20,590 「そばへ行ってもいいの?」。 (信之助)「行ってもいいの?。・ 325 00:23:20,590 --> 00:23:22,626 ああ いいとも 座ってくんな」。 「ああ いいとも」…。 326 00:23:22,626 --> 00:23:24,661 (信之助) 「じゃあ そうさせてもらうよ。・ 327 00:23:24,661 --> 00:23:28,515 ってんで 骨が つ~んと来て あたしの脇ぃべたっと座る。・ 328 00:23:28,515 --> 00:23:32,469 あれ? ご覧よ。 水たまり ぺったり座っちゃった!」。 329 00:23:32,469 --> 00:23:35,589 はははっ。 ふふっ。 330 00:23:35,589 --> 00:23:37,624 「あぁ~あ あの人」…。 (信之助)「あぁ~あ あの人・ 331 00:23:37,624 --> 00:23:39,624 てめぇの顎を釣っちまった」。 「てめぇの顎を釣っちまった」。 332 00:23:43,497 --> 00:23:48,085 ・~ 333 00:23:48,085 --> 00:23:51,471 ・(助六) 「乱菊や 狐にもせよ この姿。・ 334 00:23:51,471 --> 00:23:55,892 ・ゆうべの娘が うちへ すぅ~っと 入ってきたと思いなよ 八っつぁん。・ 335 00:23:55,892 --> 00:23:58,862 ・私は 向島に かばねを さらしておりました者。・ 336 00:23:58,862 --> 00:24:00,914 ・あなたの唱えた 句の徳によりまして・ 337 00:24:00,914 --> 00:24:03,700 ・今日 初めて 浮かぶことができました。・ 338 00:24:03,700 --> 00:24:07,754 ・恩返しに そのおみ足なりとも おさすりいたしましょうか」。 339 00:24:07,754 --> 00:24:12,092 ・~ 340 00:24:12,092 --> 00:24:15,796 ・(助六)「カラ~ン コロ~ン カラ~ン コロ~ン・ 341 00:24:15,796 --> 00:24:20,217 コンコン!」。 「向島から いらしたの?」。・ 342 00:24:20,217 --> 00:24:23,587 いよっ 骨さん 遅かったね。・ 343 00:24:23,587 --> 00:24:26,189 待ちくたびれたぜ。・ 344 00:24:26,189 --> 00:24:28,341 ようこそ冥途へ。・ 345 00:24:28,341 --> 00:24:30,360 さあ 行くぜ。 346 00:24:30,360 --> 00:24:49,946 ・~ 347 00:24:49,946 --> 00:25:09,966 ・~ 348 00:25:09,966 --> 00:25:30,003 ・~ 349 00:25:30,003 --> 00:25:49,956 ・~ 350 00:25:49,956 --> 00:25:58,956 ・~ 351 00:27:34,344 --> 00:27:39,299 (助六)次回 「昭和元禄落語心中 -助六再び篇-」。 352 00:27:39,299 --> 00:27:41,334 第11話。 353 00:27:41,334 --> 00:27:44,134 (助六・菊比古) どうぞ ご贔屓 ご鞭撻のほどを。