1 00:00:02,252 --> 00:00:08,258 ♪〜 2 00:01:24,876 --> 00:01:30,882 〜♪ 3 00:01:31,216 --> 00:01:34,928 (客引きの声) 4 00:01:35,512 --> 00:01:37,931 (兄貴) 親父が実刑決まったんだ 5 00:01:38,598 --> 00:01:40,433 懲役6年だってよ 6 00:01:42,811 --> 00:01:44,938 (与太郎(よたろう)) 6年ってったら うちの坊(ぼん)が— 7 00:01:45,063 --> 00:01:47,106 この春に小学校へ上がってよ 8 00:01:47,232 --> 00:01:50,693 出てくる頃には 中坊だぜ 長えよなあ 9 00:01:51,402 --> 00:01:54,572 でも まあ 元気でいりゃ また会えるんだしよ 10 00:01:54,697 --> 00:01:55,865 どこ入(へえ)るって? 11 00:01:55,990 --> 00:01:59,327 (兄貴)鈴ケ森(すすがもり)刑務所 (与太郎)おっかねえとこだな 12 00:02:00,078 --> 00:02:01,454 ああ… 13 00:02:01,913 --> 00:02:05,750 なあ 与太公 時代ってえのは終わるんだな 14 00:02:06,292 --> 00:02:09,587 あの人がいなくなりゃ 何もかもが変わっちまうんだよ 15 00:02:12,549 --> 00:02:15,844 (ゲタの音) 16 00:02:16,928 --> 00:02:17,595 お! 17 00:02:18,096 --> 00:02:20,098 (信之助(しんのすけ)) 与太ちゃん おかえり〜 18 00:02:20,223 --> 00:02:22,475 (与太郎) おっ 坊ちゃん お出掛けかい? 19 00:02:22,600 --> 00:02:24,102 (信之助)じいじと銭湯行くの 20 00:02:24,352 --> 00:02:25,979 (八雲(やくも)) 松田(まつだ)さんが行ってこいって— 21 00:02:26,104 --> 00:02:27,397 うるさいんだよ 22 00:02:27,522 --> 00:02:29,607 (松田) ちっとは 動いてもらわねえと 23 00:02:29,983 --> 00:02:31,985 おいらも お相伴しようかな〜 24 00:02:32,277 --> 00:02:33,987 そいつは頼もしい 25 00:02:34,487 --> 00:02:36,489 (与太郎)ランドセル置いてけば? (信之助)嫌だ! 26 00:02:36,781 --> 00:02:38,658 (与太郎) あ〜 はいはい いいよ 別に 27 00:02:38,783 --> 00:02:39,993 フウ… 28 00:02:42,203 --> 00:02:45,748 は〜 うわ〜! 29 00:02:45,874 --> 00:02:48,459 最高だ〜! ハハハハハ 30 00:02:48,585 --> 00:02:51,629 地獄の釜みてえな声 およしなさい 31 00:02:52,005 --> 00:02:53,631 あい すいやせん! 32 00:02:56,050 --> 00:03:00,763 今日 兄貴に会ったんすよ 親分さん おつとめ6年だそうで 33 00:03:01,139 --> 00:03:04,517 決まったかい 随分長いね 34 00:03:04,642 --> 00:03:06,978 鈴ケ森刑務所だそうです 35 00:03:07,103 --> 00:03:09,939 おいら 今度 慰問に行ってみようと思って 36 00:03:10,064 --> 00:03:12,525 よくやってるんで すぐに話 通りますよ 37 00:03:13,026 --> 00:03:15,153 そんなこと やってたんかえ 38 00:03:15,695 --> 00:03:18,531 (与太郎) なんせ おいらが師匠に出会った きっかけですから— 39 00:03:18,656 --> 00:03:20,450 恩返し してんすよ 40 00:03:21,326 --> 00:03:24,245 もう 何年前になりやすかね… 41 00:03:24,370 --> 00:03:27,665 今でも目の裏に 強烈に焼きついてます 42 00:03:28,499 --> 00:03:31,920 (与太郎) 何しろ あんなハコでは そうそう見れねえ芸ですから 43 00:03:34,964 --> 00:03:37,675 どうして あんな所で 「死神」やったんです? 44 00:03:37,967 --> 00:03:41,054 慰問は親分さんに 頼まれてね 45 00:03:41,179 --> 00:03:43,431 あすこの空気は 好きでしたよ 46 00:03:43,973 --> 00:03:45,934 あすこって 刑務所がですかい? 47 00:03:46,392 --> 00:03:49,604 (八雲) ああ あれは ようござんした 48 00:03:49,771 --> 00:03:53,066 完全に冷え切ったあの空気が 49 00:03:53,191 --> 00:03:57,487 ああいう中で かけると 本当に死神が見えるんだよ 50 00:03:58,196 --> 00:04:01,241 サゲが あんまりにも 寒々しいもんで— 51 00:04:01,366 --> 00:04:03,910 刑務官さんに 嫌な顔されてね 52 00:04:04,035 --> 00:04:07,705 フフ… あれは本当に おかしかった 53 00:04:08,039 --> 00:04:11,459 それじゃあ おいらのために かけてくれた「死神」は? 54 00:04:12,377 --> 00:04:14,087 (八雲)そんなことあったかい? 55 00:04:14,212 --> 00:04:17,382 (与太郎) ありました! 弟子入りしてすぐ 寄席で 56 00:04:17,507 --> 00:04:21,219 (与太郎)忘れねえでくださいよ (八雲)思いつきでがしょう 57 00:04:21,344 --> 00:04:24,764 そういや お前さんを拾ったのも ふとした思いつきだ 58 00:04:24,889 --> 00:04:27,976 けど おいらにとっちゃ 天啓(てんけい)だったんすから 59 00:04:28,601 --> 00:04:32,480 おいらの中で 絶対揺るぎねえこと それが師匠なんです 60 00:04:32,855 --> 00:04:37,318 丸腰のときに 言われるのは なんだか ぞっとするねえ 61 00:04:37,610 --> 00:04:40,196 犬みてえに 真っつぐな野郎だよ 62 00:04:40,571 --> 00:04:43,241 お望みとあらば どこへでも〜! 63 00:04:43,366 --> 00:04:45,952 (八雲)調子に乗るな (与太郎)へい… 64 00:04:47,036 --> 00:04:49,956 (八雲) 望みなんざ 何もありゃしねえ 65 00:04:50,456 --> 00:04:53,835 けど たった一つ願えるなら— 66 00:04:53,960 --> 00:04:57,964 死ぬときは落語をしながら コロッと逝きたい 67 00:04:58,298 --> 00:05:01,968 師匠! それには まず 落語を今やらねえと 68 00:05:02,427 --> 00:05:04,971 家でボーっとしてちゃ 高座の上で 死ねねえでしょ 69 00:05:05,513 --> 00:05:08,224 手始めに 鈴ケ森の慰問会に 行きやしょう 70 00:05:08,349 --> 00:05:11,728 親分さんとの会だって 中途半端なままじゃねえですか 71 00:05:12,395 --> 00:05:16,482 親分と あすこに入(へえ)ってる人たちが ちゃんと気持ちを入れ替えて 72 00:05:16,607 --> 00:05:18,985 待ってる人の所へ 早く帰(けえ)れるように— 73 00:05:19,277 --> 00:05:22,238 そんな落語を 思いつきで一丁 ねえ どうです? 74 00:05:22,363 --> 00:05:23,531 (信之助)わあ 75 00:05:26,200 --> 00:05:27,160 信坊! 76 00:05:27,285 --> 00:05:28,161 ハハハハ 77 00:05:28,786 --> 00:05:31,914 銭湯で そういうこと すんなってんだよ バカ! 78 00:05:32,248 --> 00:05:34,667 (与太郎) ったく しょうがねえなあ 79 00:05:35,501 --> 00:05:37,670 じいじ 落語するの? 80 00:05:38,296 --> 00:05:40,173 聞いてたんかい 81 00:05:40,631 --> 00:05:42,425 僕も聞きたいなあ 82 00:05:43,885 --> 00:05:46,054 (与太郎の笑い声) 83 00:05:46,637 --> 00:05:49,557 坊ちゃんのおねだりには かなわねえなあ 84 00:05:50,016 --> 00:05:53,895 子供ってえのは とんでもねえ生き物だねえ 85 00:06:01,277 --> 00:06:03,571 (小夏(こなつ))一体どういう了見だい? 86 00:06:03,946 --> 00:06:07,075 あんたが人様のために 落語をやるなんて 87 00:06:07,492 --> 00:06:11,829 なんのことはねえ ほんの出来心でね 88 00:06:12,080 --> 00:06:18,086 (寄席囃子(よせばやし)の音) 89 00:06:20,171 --> 00:06:24,342 (拍手) 90 00:06:32,642 --> 00:06:35,937 ええ どうも 先ほどの者に成り代わりまして— 91 00:06:36,229 --> 00:06:40,691 一席 お話し申し上げます よろしくお付き合いのほどを 92 00:06:40,983 --> 00:06:43,653 お久しぶりのことでございます 93 00:06:43,778 --> 00:06:46,447 お懐かしい顔も いらっしゃいますようで 94 00:06:46,572 --> 00:06:49,951 皆様にも きっと待つ人が おありでしょう 95 00:06:50,076 --> 00:06:52,995 今日(こんち)は そんなお噺(はなし)を一席 96 00:06:53,454 --> 00:06:56,749 昔は お茶屋さんに 芸者が入りますと— 97 00:06:56,874 --> 00:06:58,960 お線香を1本立てます 98 00:06:59,335 --> 00:07:02,755 この線香が “たちきり”と申しまして— 99 00:07:02,880 --> 00:07:05,383 これが消えるまでの2時間ひとざし 100 00:07:05,508 --> 00:07:08,886 “玉ぐし”というご祝儀を 頂いたんだそうで 101 00:07:10,263 --> 00:07:14,392 若旦那 今日から100日 蔵住まいをしていただきます 102 00:07:14,517 --> 00:07:17,061 番頭 そりゃ ひどいんじゃないかい 103 00:07:17,186 --> 00:07:20,481 あたしが一体 何の悪さを したってえんです 104 00:07:20,773 --> 00:07:27,238 番頭 若旦那を蔵へ入れますと 錠前(じょうまえ)をガチャリと閉めてしまいます 105 00:07:27,613 --> 00:07:32,243 脅かされて 蔵住まい いわゆる軟禁処分ですな 106 00:07:32,910 --> 00:07:35,746 どうして こういうことになったか といいますと— 107 00:07:35,997 --> 00:07:40,751 その年の春 柳橋の料亭で 寄り合いがございました 108 00:07:41,043 --> 00:07:47,008 大勢 芸者衆が参ります中に ひさのやの小糸(こいと)という娘芸者が 109 00:07:47,133 --> 00:07:50,511 若旦那は ふいに 一目ぼれをしてしまいました 110 00:07:50,636 --> 00:07:54,515 昼も夜も ただただ 小糸のもとへ通い詰める 111 00:07:55,099 --> 00:07:57,768 遠くて近きが男女の仲 112 00:07:58,186 --> 00:08:00,646 いつしか わりない仲になります 113 00:08:00,771 --> 00:08:03,191 何しろ 花柳界(かりゅうかい)のことですから— 114 00:08:03,316 --> 00:08:07,278 わずかの間にも 莫大(ばくだい)もないお金を使い込んじまって 115 00:08:07,403 --> 00:08:10,281 さあ 親旦那様はご立腹 116 00:08:12,200 --> 00:08:15,870 (八雲) そんなわけで始まりました 若旦那の蔵ごもり 117 00:08:15,995 --> 00:08:18,748 そこに女文字の手紙が1通 118 00:08:19,123 --> 00:08:22,752 おや? “柳橋より”と書いてあるな 119 00:08:22,960 --> 00:08:27,131 番頭 これを封も切らずに 帳場の引き出しに放り込んじまう 120 00:08:30,426 --> 00:08:34,847 すると 明くる日には3本 明くる日には5本と— 121 00:08:35,181 --> 00:08:35,806 だんだん手紙が増えてまいります 122 00:08:35,806 --> 00:08:37,850 だんだん手紙が増えてまいります 123 00:08:35,806 --> 00:08:37,850 (男のすすり泣き) 124 00:08:38,226 --> 00:08:41,896 そうこうするうちに 月日のたつのは早いもんで— 125 00:08:42,021 --> 00:08:44,941 あっという間に100日がたちました 126 00:08:45,525 --> 00:08:48,861 若旦那 よくご辛抱なさいました 127 00:08:49,237 --> 00:08:51,113 ああ… 番頭さん 128 00:08:51,614 --> 00:08:55,910 実はこれが 柳橋より届いておりました 129 00:08:56,911 --> 00:09:00,164 ん? ああ… 130 00:09:01,582 --> 00:09:04,627 これは 小糸の… 131 00:09:05,211 --> 00:09:08,172 あたしはつくづく感心致しました 132 00:09:08,339 --> 00:09:12,760 花柳界にも こうした殊勝な 女性がいらっしゃるのかと 133 00:09:12,885 --> 00:09:19,141 しかし 80日目になりますか ピタリと手紙がやみましてな 134 00:09:19,433 --> 00:09:23,271 やはり芸者ですから見切りがつきゃ こんなものなのでしょう 135 00:09:23,604 --> 00:09:26,524 こちらが最後の手紙でございます 136 00:09:26,857 --> 00:09:31,529 あっ 嫌だ 見たくない お前さん 読んどくれ 137 00:09:31,904 --> 00:09:34,532 あ… では 代わって 138 00:09:35,658 --> 00:09:40,079 “再三のお手紙 差し上げ候(そうら)えども お越しくれない” 139 00:09:40,204 --> 00:09:42,540 “この手紙にて お見えくださらねば—” 140 00:09:42,665 --> 00:09:47,753 “もはや 若旦那様には この世にて お目にかかれまじく存じ候(そうろう)” 141 00:09:47,878 --> 00:09:50,006 とりいそぎ あらあらかしこ 142 00:09:50,756 --> 00:09:55,177 蔵から出ました若旦那 一路 柳橋の料亭へ 143 00:09:50,756 --> 00:09:55,177 (すすり泣き) 144 00:09:55,303 --> 00:09:58,681 そこには憔悴しきった女将の姿が 145 00:09:59,974 --> 00:10:02,935 小糸が… 死んだ! 146 00:10:03,477 --> 00:10:05,187 どうして? 147 00:10:05,396 --> 00:10:07,315 どうしてとおっしゃりゃ— 148 00:10:07,440 --> 00:10:09,942 あなたが殺したと 言わなけりゃなりません 149 00:10:10,443 --> 00:10:12,445 あの子 やせてしまいましてねえ 150 00:10:12,903 --> 00:10:15,197 起き上がることもできないんです 151 00:10:15,948 --> 00:10:18,743 抱えるように抱き起して— 152 00:10:18,868 --> 00:10:22,204 あなた様に頂いた 三味線を持たせますと 153 00:10:22,705 --> 00:10:25,958 ひとまず シャンと はたいたっきり— 154 00:10:26,083 --> 00:10:28,711 “もう つらいの”と横になって 155 00:10:29,003 --> 00:10:31,255 なんてことだ 156 00:10:31,714 --> 00:10:37,053 こんなことなら 蔵を破ってでも 出てまいりましたのに 157 00:10:37,178 --> 00:10:41,974 ああ そうなんでしたの あなたが蔵住まいを… 158 00:10:42,099 --> 00:10:44,435 それは おつらかったでしょう 159 00:10:44,560 --> 00:10:48,481 いくら手紙を出したって 届きゃしませんわね 160 00:10:48,856 --> 00:10:52,485 さあ 仏前へ 今日は あの子の三七日(みなのか) 161 00:10:53,110 --> 00:10:56,238 お線香を上げて 一杯 飲んでくださいな 162 00:10:56,781 --> 00:10:57,490 (三味線の音) 163 00:10:57,823 --> 00:11:01,494 ねえ 三味線が聴こえませんこと 164 00:11:05,039 --> 00:11:09,502 あの子があなたの好きな 地唄(じうた)の「雪」を歌ってますわ 165 00:11:11,128 --> 00:11:17,259 (小夏)ほんに♪ 166 00:11:17,760 --> 00:11:19,095 (八雲)ああ… 167 00:11:19,553 --> 00:11:26,519 昔の♪ 168 00:11:27,353 --> 00:11:29,855 ああ… 南無阿弥陀仏 169 00:11:30,773 --> 00:11:32,566 悪かった… 170 00:11:33,901 --> 00:11:39,365 すまなかったよ あたしゃ 何も知らなかったんだ 171 00:11:39,990 --> 00:11:43,369 よくあたしのことを そこまで思ってくれた 172 00:11:43,994 --> 00:11:45,371 ありがとう 173 00:11:45,830 --> 00:11:48,374 ありがとう ありがとう… 174 00:11:50,709 --> 00:11:55,714 その代わり あたしも これから生涯 女房は持たないよ 175 00:11:56,257 --> 00:11:59,385 それで… 許しておくれ 176 00:12:02,054 --> 00:12:08,144 (小夏)待ちけん♪ 177 00:12:12,356 --> 00:12:15,151 (八雲)みよ吉(きち)さんの声だ 178 00:12:17,695 --> 00:12:22,158 あたしから みんな奪った あの人の声だ 179 00:12:22,616 --> 00:12:27,872 やっぱり お前さんが みんな持ってこうってのかい… 180 00:12:38,382 --> 00:12:41,677 はっ 三味線が消えたね 181 00:12:41,886 --> 00:12:45,181 後生だよ もう少し聞かせておくれ 182 00:12:46,765 --> 00:12:49,768 若旦那 もうダメですよ 183 00:12:50,853 --> 00:12:53,397 仏様のお線香が— 184 00:12:53,814 --> 00:12:56,066 断ち切りました 185 00:13:07,369 --> 00:13:10,998 (樋口(ひぐち)) ついにあなたも 与太郎君の落語を 認める日が来ましたか 186 00:13:11,123 --> 00:13:13,000 (アマケン) 認めたわけじゃ ございません! 187 00:13:13,584 --> 00:13:17,171 最近 すっかり八雲師の落語が 聞けませんからな 188 00:13:17,171 --> 00:13:17,588 最近 すっかり八雲師の落語が 聞けませんからな 189 00:13:17,171 --> 00:13:17,588 (寄席囃子の音) 190 00:13:17,588 --> 00:13:17,713 (寄席囃子の音) 191 00:13:17,713 --> 00:13:20,925 (寄席囃子の音) 192 00:13:17,713 --> 00:13:20,925 さみしさを 紛らわせに来たのです 193 00:13:20,925 --> 00:13:21,050 (寄席囃子の音) 194 00:13:21,050 --> 00:13:21,759 (寄席囃子の音) 195 00:13:21,050 --> 00:13:21,759 おお! 196 00:13:21,967 --> 00:13:23,719 (アマケン)ちょ ちょ ちょっ… (樋口)なんですか? 197 00:13:23,844 --> 00:13:25,638 あれ あれ! 198 00:13:27,389 --> 00:13:30,643 (拍手) 199 00:13:30,976 --> 00:13:33,646 どうも どもども〜 200 00:13:37,024 --> 00:13:38,150 (観客の笑い声) 201 00:13:38,275 --> 00:13:40,402 (与太郎) ここは魚が絶品だってなあ 202 00:13:41,028 --> 00:13:43,155 そいつが 何よりも 楽しみなんだ 俺は 203 00:13:43,697 --> 00:13:45,157 じゃんじゃん 持ってきておくれよ 204 00:13:45,282 --> 00:13:47,159 (観客の笑い声) 205 00:13:48,702 --> 00:13:49,411 (樋口)師匠! 206 00:13:51,622 --> 00:13:54,291 最後まで ご覧にならないんですか? 207 00:13:54,416 --> 00:13:57,836 (八雲) 「居残り」の会なんざ これみよがしにやりやがって 208 00:13:57,962 --> 00:14:00,130 見てやらなきゃしょうがねえもんで 209 00:14:00,714 --> 00:14:02,132 (樋口)いかがでした? 210 00:14:02,258 --> 00:14:05,135 ダメ 不愉快でなりません 211 00:14:05,594 --> 00:14:09,139 笑わせるか 泣かせるか それしかねえんだ 212 00:14:09,473 --> 00:14:12,560 分かりやすくだの やさしくだの そんなことより— 213 00:14:12,685 --> 00:14:15,271 芸には 品がなくちゃいけません 214 00:14:15,396 --> 00:14:19,024 なのに あいつは それがいいと思ってやってんだから 215 00:14:19,149 --> 00:14:21,110 お話にならねえ 216 00:14:21,235 --> 00:14:23,654 与太さん がっかりするだろうな 217 00:14:24,905 --> 00:14:28,951 (八雲)そろそろ いいですかな (樋口)すみません 寒い中 218 00:14:29,076 --> 00:14:31,662 (樋口) お送りしましょうか? ひどい雪だ 219 00:14:31,787 --> 00:14:32,913 (八雲)いいえ 220 00:14:36,375 --> 00:14:40,170 旦さん 頼みもしねえのに この老いぼれに— 221 00:14:40,296 --> 00:14:43,424 かまけてくだすって ありがとうございます 222 00:14:43,966 --> 00:14:47,094 あなたみてえな人に 会えるんですから 223 00:14:47,219 --> 00:14:51,181 この商売は まったく 面白えもんですなあ 224 00:14:51,599 --> 00:14:56,186 すみませんが これをあのバカに 渡してやってくれますか 225 00:14:56,478 --> 00:15:00,190 (樋口)なんですか? (八雲)渡しゃ分かります 226 00:15:01,525 --> 00:15:05,738 旦さん どうぞ 助六をごひいきに 227 00:15:12,286 --> 00:15:13,913 (萬月(まんげつ))フフフ 228 00:15:17,041 --> 00:15:18,417 (小太郎(こたろう))萬月師匠 229 00:15:18,709 --> 00:15:20,753 お言葉ですけど… 230 00:15:21,086 --> 00:15:22,171 早く帰って! 231 00:15:22,421 --> 00:15:27,092 やかましいわ ボケ! 念願の寄席の感慨にふけっとんねん 232 00:15:27,217 --> 00:15:29,178 どうでもいいっす 早く帰りたい 233 00:15:29,720 --> 00:15:31,430 帰ったら よろしおすがな 234 00:15:31,764 --> 00:15:34,850 (小太郎) 師匠が残ってらっしゃるうちは 帰れないんす 235 00:15:34,975 --> 00:15:36,560 これはどうも 236 00:15:36,852 --> 00:15:37,811 八雲師匠! 237 00:15:37,937 --> 00:15:40,564 あら〜 どうしはりましたんえ? 238 00:15:41,148 --> 00:15:44,693 今晩から泊まりなんで ぜひ 食事でも ご一緒に 239 00:15:44,818 --> 00:15:47,446 1人になりたくて来たんです 240 00:15:48,489 --> 00:15:50,240 お引き取りください 241 00:15:51,450 --> 00:15:54,662 ああ… はい 242 00:15:56,872 --> 00:16:02,461 前座さん 座布団出して 高座の電灯(あかり)だけ ともしといてくれ 243 00:16:03,003 --> 00:16:05,381 そしたら お前さんも先帰りな 244 00:16:05,506 --> 00:16:06,715 いやあ でも… 245 00:16:08,550 --> 00:16:12,471 大丈夫だよ 席亭さんには言ってあるから 246 00:16:12,888 --> 00:16:13,973 (小太郎)え〜 247 00:16:14,181 --> 00:16:16,684 “え〜”じゃありませんよ 248 00:16:18,352 --> 00:16:19,687 は〜い 249 00:16:20,562 --> 00:16:24,233 ほんなら 僕 与太郎はんとこ 顔出してくるさかい 250 00:16:24,358 --> 00:16:26,110 (小太郎)お疲れ様です 251 00:16:26,568 --> 00:16:30,990 なあ 八雲師匠って よう こういう風に来はるんどすか? 252 00:16:31,115 --> 00:16:35,244 (小太郎)いいえ 初めてのことで (萬月)さよか 253 00:16:43,043 --> 00:16:46,505 (八雲) お前さんも 随分古びれたね 254 00:16:47,047 --> 00:16:49,299 よく頑張った 255 00:16:50,009 --> 00:16:53,345 最後に一席 付き合っとくれるかい 256 00:16:56,849 --> 00:17:00,269 誰だよ お前は 薄汚ねえナリしやがって 257 00:17:00,602 --> 00:17:04,398 あたしかい? あたしゃ 死神だよ 258 00:17:05,315 --> 00:17:08,402 あたしがいいこと教えてやろうか? 259 00:17:09,236 --> 00:17:12,906 うわ… ろうそくがどっさりついて 260 00:17:13,532 --> 00:17:15,409 なんです こりゃあ 261 00:17:15,534 --> 00:17:18,162 みんな 人の寿命だよ 262 00:17:18,537 --> 00:17:21,040 こっちのは今にも消えそうだ 263 00:17:21,290 --> 00:17:23,292 そりゃ お前のだ 264 00:17:23,625 --> 00:17:24,793 ええ! 265 00:17:25,544 --> 00:17:30,007 消える途端に命はない じきに死ぬよ 266 00:17:30,132 --> 00:17:32,968 だって 死神さん 初めて会った時分に— 267 00:17:33,093 --> 00:17:36,889 “お前には まだ長い寿命がある” そう言ってたじゃないかい 268 00:17:37,014 --> 00:17:38,974 ウソなのかい? ありゃあ 269 00:17:39,099 --> 00:17:44,480 お前さんは 金に目がくらんで 病人と寿命を取っ換えた 270 00:17:44,605 --> 00:17:47,816 フフフフ もうじき死ぬよ 271 00:17:47,941 --> 00:17:50,444 そんなこと知らなかったんだ 272 00:17:50,569 --> 00:17:53,572 金なら返すから 元に戻しとくれよ 273 00:17:54,073 --> 00:17:55,199 ダメ 274 00:17:55,616 --> 00:17:59,036 そんな不人情なこと 言わねえでくれよ 275 00:17:59,161 --> 00:18:00,913 頼むよ なあ 死(しい)さん 276 00:18:01,038 --> 00:18:03,957 もう一遍だけ! ね? 金は まるっと返す 277 00:18:04,083 --> 00:18:06,210 もう一遍 寿命 取っ換えてくれえ 278 00:18:06,668 --> 00:18:09,379 しょうのねえ野郎だ 279 00:18:09,588 --> 00:18:13,258 この燃えさしに ろうそくの火 移してみろ 280 00:18:13,383 --> 00:18:16,970 しくじったら そのまま死ぬ いいね? 281 00:18:17,513 --> 00:18:20,849 ろ… ろうそくの火を… 282 00:18:21,809 --> 00:18:23,727 上手に… 283 00:18:24,186 --> 00:18:28,607 へへへへ 震えてるな 284 00:18:28,732 --> 00:18:30,734 震えると消えちまう 285 00:18:30,984 --> 00:18:33,987 消えたら死んじまうなあ 286 00:18:34,571 --> 00:18:36,406 ほうら 287 00:18:37,074 --> 00:18:42,412 消える 消える 消える… 288 00:18:42,871 --> 00:18:47,167 うう… よしとくれよ 黙っててくれ! 289 00:18:48,168 --> 00:18:51,421 消える 消える 290 00:18:52,923 --> 00:18:54,800 消える… 291 00:18:57,010 --> 00:18:57,678 は… 292 00:18:59,346 --> 00:19:04,017 ほら… 消えた 293 00:19:07,104 --> 00:19:10,732 (手をたたく音) 294 00:19:10,858 --> 00:19:11,525 うう… 295 00:19:12,860 --> 00:19:15,654 (助六(すけろく))いよ! 八代目! 296 00:19:17,656 --> 00:19:19,867 ハア ハア… 297 00:19:19,992 --> 00:19:21,660 どうして しゃべってんだい? 298 00:19:21,910 --> 00:19:24,329 あ? 聞こえてんのかい 299 00:19:24,663 --> 00:19:27,166 へえ あいつのおかげか 300 00:19:28,000 --> 00:19:31,044 ヘヘヘ 変なこと言わねえで 良かったなあ 301 00:19:32,087 --> 00:19:35,549 なあ 坊 いい「死神」だったぜ 302 00:19:36,884 --> 00:19:37,551 フッ… 303 00:19:37,968 --> 00:19:41,388 (八雲)声が全然出ねえんだ (助六)おう 304 00:19:41,722 --> 00:19:44,808 一席やるだけで こんなにクタクタだ 305 00:19:44,933 --> 00:19:46,268 そうか 306 00:19:46,602 --> 00:19:49,813 (八雲)寒くて 舌も回らねえ (助六)へえ 307 00:19:50,606 --> 00:19:53,233 あたしの好きな落語が 308 00:19:53,650 --> 00:19:56,320 客に 言葉が通じねえんだ 309 00:19:56,612 --> 00:20:01,909 揚げ句の果てには客が1人も いやしねえって このざまか 310 00:20:02,492 --> 00:20:06,580 あたしゃ 落語を道連れに しようとしてるんだよ 311 00:20:06,955 --> 00:20:08,582 そうなったなあ 312 00:20:09,041 --> 00:20:12,586 お前さんが あんなに愛した 落語じゃあないか 313 00:20:13,003 --> 00:20:15,214 よせやい 俺は関係ねえ 314 00:20:15,339 --> 00:20:18,467 お前さんが望んで 実際に そうなったんだろ 315 00:20:19,509 --> 00:20:21,220 怒ってないのかい? 316 00:20:21,762 --> 00:20:24,723 これが お前さんの落語なら しょうがねえ 317 00:20:25,474 --> 00:20:26,725 ただな… 318 00:20:27,476 --> 00:20:28,977 詰めが甘えな 319 00:20:30,729 --> 00:20:32,648 情にほだされる 320 00:20:32,773 --> 00:20:35,734 それがお前さんの一番深え業(ごう)だな 321 00:20:35,859 --> 00:20:37,319 (八雲)ああ… 322 00:20:37,444 --> 00:20:39,196 (助六)未練を断ち切れ 323 00:20:39,905 --> 00:20:42,658 これが お前の望みなんだろう 324 00:20:49,957 --> 00:20:53,377 (助六)よく燃えらあ (八雲)うう… 325 00:20:53,877 --> 00:20:55,254 (助六)怖えか? 326 00:20:56,421 --> 00:20:59,132 死ぬってのは こういうもんだ 327 00:20:59,633 --> 00:21:02,135 坊 よく見ろ 328 00:21:02,261 --> 00:21:03,136 ああ… 329 00:21:08,475 --> 00:21:11,645 お前は… 死神! 330 00:21:16,275 --> 00:21:21,655 (八雲) 芸の神様ってのは お前のことだったんだね 331 00:21:23,073 --> 00:21:26,368 ようやく お会いできた 332 00:21:41,425 --> 00:21:42,718 師匠! 333 00:21:48,140 --> 00:21:48,932 与太… 334 00:21:49,182 --> 00:21:51,268 つかまって! 早く 335 00:21:52,602 --> 00:21:53,270 うっ… 336 00:21:53,645 --> 00:21:55,397 手 出して! 337 00:21:58,275 --> 00:21:59,776 (八雲)嫌だ… 338 00:22:00,235 --> 00:22:02,779 死にたくない 339 00:22:05,115 --> 00:22:05,907 あっ… 340 00:22:06,366 --> 00:22:09,161 助けて… 助けて! 341 00:22:12,331 --> 00:22:16,668 (八雲)あたしゃ また未練を… 342 00:22:19,254 --> 00:22:21,173 残しちまうのか… 343 00:22:28,305 --> 00:22:34,311 ♪〜 344 00:23:50,887 --> 00:23:56,893 〜♪ 345 00:24:00,313 --> 00:24:07,028 (八雲) 次回 昭和元禄落語心中 助六再び篇 第10話 346 00:24:07,988 --> 00:24:10,907 どうぞ ごひいき ご鞭撻(べんたつ)のほどを