1 00:00:00,960 --> 00:00:05,631 面白くない世の中 2 00:00:05,923 --> 00:00:09,468 面白くすればいいさ 3 00:00:20,438 --> 00:00:25,025 “つまらねえ”のが口癖なのは 4 00:00:25,109 --> 00:00:29,321 それこそホントにつまらない 5 00:00:29,822 --> 00:00:34,326 文句を言うのは簡単だけど 6 00:00:34,493 --> 00:00:38,372 誰かは何もくれない 7 00:00:38,581 --> 00:00:43,127 走らないけど止まりはしない 8 00:00:43,252 --> 00:00:47,465 誰にも流れる阿呆の血 9 00:00:47,757 --> 00:00:52,678 騒げば騒ぐ程かき立てる 10 00:00:52,845 --> 00:00:57,683 なんと素晴らしき日々 11 00:00:59,185 --> 00:01:03,606 面白くない世の中 12 00:01:04,106 --> 00:01:08,402 面白くすればいいのさ 13 00:01:09,361 --> 00:01:12,907 自分で見つけりゃ 14 00:01:13,449 --> 00:01:17,119 ほどほどにパラダイスだ 15 00:01:18,078 --> 00:01:22,958 気がつけば何時だって 16 00:01:23,125 --> 00:01:27,797 有頂天人生だ 17 00:01:38,140 --> 00:01:39,099 矢二郎よ 18 00:01:40,059 --> 00:01:41,352 おや 兄さん 19 00:01:42,144 --> 00:01:44,313 えらくご機嫌の悪い声だ 20 00:01:44,563 --> 00:01:46,482 何か説教をする気かい? 21 00:01:47,566 --> 00:01:50,110 ご期待に応えられる自信が無い 22 00:01:50,820 --> 00:01:53,280 俺は何しろ蛙だからな 23 00:01:53,739 --> 00:01:54,490 矢二郎 24 00:01:55,491 --> 00:01:59,495 俺は父上と最後に会った日のことを よく覚えている 25 00:02:00,704 --> 00:02:05,334 あの日 俺は父上と一緒に 長老たちの所へ出掛けていた 26 00:02:06,418 --> 00:02:10,005 その後 父上は大切な約束があると言った 27 00:02:10,798 --> 00:02:13,259 だからお前は先に帰れと言われた 28 00:02:13,843 --> 00:02:18,389 珍しいことじゃない 父上はいつも忙しかったからな 29 00:02:19,390 --> 00:02:22,351 父上は東大路まで送ってきて 30 00:02:22,768 --> 00:02:25,229 俺がバスに乗り込むのを見送ってくれた 31 00:02:26,772 --> 00:02:29,233 その姿を俺は今でも思い出す 32 00:02:30,276 --> 00:02:31,569 何故ならそれが 33 00:02:32,570 --> 00:02:35,531 俺が見た父上の最後の姿だったからだ 34 00:02:36,574 --> 00:02:37,283 兄さん 35 00:02:38,951 --> 00:02:40,286 俺が聞きたいのはな 36 00:02:41,120 --> 00:02:43,289 お前が最後に父上に会ったのは 37 00:02:44,123 --> 00:02:46,208 いつ どこだったのかということだ 38 00:02:49,211 --> 00:02:49,879 お前は 39 00:02:51,422 --> 00:02:52,006 あの夜 40 00:02:52,464 --> 00:02:54,341 父上と一緒に酒を飲んだのか? 41 00:02:55,426 --> 00:02:56,760 お前は酔っ払ったのか? 42 00:02:57,678 --> 00:02:58,804 父上はどうした? 43 00:03:00,973 --> 00:03:03,893 お前は酔っ払った父上をそのままにしたのか? 44 00:03:04,935 --> 00:03:06,478 どうか違うと言ってくれ 45 00:03:11,775 --> 00:03:12,484 兄さん 46 00:03:13,110 --> 00:03:14,153 その通りだよ 47 00:03:15,613 --> 00:03:18,324 父上を死なせたのは この俺だ 48 00:03:18,324 --> 00:03:22,161 うああ ああ 何ということだ う 49 00:03:22,995 --> 00:03:23,829 く 50 00:03:25,331 --> 00:03:26,999 この大バカ者め 51 00:03:38,510 --> 00:03:44,058 俺は京都で一番やる気の無い狸として 勇名を馳せてきた 52 00:03:46,393 --> 00:03:49,521 誰からも尊敬の念を払われることなく 53 00:03:50,189 --> 00:03:52,900 達磨ごっこにふける役立たずの俺が 54 00:03:53,442 --> 00:03:55,569 やる気を発揮する唯一の場所は 55 00:03:57,112 --> 00:03:58,697 酒の席だけだった 56 00:04:00,824 --> 00:04:02,242 あの日の父上の 57 00:04:02,576 --> 00:04:06,914 大切な約束というのは俺との秘密の相談事だった 58 00:04:09,875 --> 00:04:11,418 その当時の俺は 59 00:04:11,794 --> 00:04:13,963 厄介な問題を抱えていたからだ 60 00:04:15,714 --> 00:04:17,341 俺は大いに悩み 61 00:04:18,008 --> 00:04:22,012 その思いを父に打ち明け 判断を仰いでいた 62 00:04:24,723 --> 00:04:25,432 俺は 63 00:04:26,225 --> 00:04:28,310 カタのつけようのない恋をしていた 64 00:04:29,603 --> 00:04:32,189 何故それにカタをつけられないかというと 65 00:04:33,190 --> 00:04:37,194 俺が恋した相手は まだ大変若い狸で 66 00:04:37,820 --> 00:04:39,738 さらには許嫁がいたからだ 67 00:04:41,824 --> 00:04:43,450 その許嫁というのは 68 00:04:43,909 --> 00:04:46,996 自分の弟 矢三郎だった 69 00:04:48,789 --> 00:04:51,583 そう 俺が恋した相手とは 70 00:04:52,376 --> 00:04:53,752 夷川海星だ 71 00:04:54,837 --> 00:04:58,590 俺は家族と別れて京都を去りたいと 父に繰り返してきた 72 00:04:59,717 --> 00:05:01,844 だがその日も父は反対した 73 00:05:03,429 --> 00:05:05,931 天狗さえ化かしたことのある父には 74 00:05:06,598 --> 00:05:09,435 この世に恐ろしいものなど何一つ無い 75 00:05:10,436 --> 00:05:11,770 俺はそう思っていたが 76 00:05:12,479 --> 00:05:15,441 そんな父が恐れているものが一つだけあった 77 00:05:16,692 --> 00:05:20,946 それは自分の息子たちが離れ離れになり 78 00:05:21,280 --> 00:05:24,116 あるいは互いに憎み合うことだった 79 00:05:25,617 --> 00:05:28,370 それは実弟である夷川早雲と 80 00:05:28,954 --> 00:05:32,958 不幸にも憎み合う仲となってしまった 父の 81 00:05:33,375 --> 00:05:34,793 切実な願いだった 82 00:05:39,465 --> 00:05:42,760 俺はお前たちに四つの血を分けた 83 00:05:43,469 --> 00:05:45,804 だから誰が欠けてもいかんのだ 84 00:05:47,139 --> 00:05:49,558 お前は散々悪く言われているが 85 00:05:50,100 --> 00:05:52,770 物事には釣り合いというものがある 86 00:05:54,104 --> 00:05:57,024 お前もまた下鴨家の重石なのだ 87 00:05:58,150 --> 00:06:01,236 それが分からん連中の言うことに耳を貸すな 88 00:06:02,488 --> 00:06:04,907 お前は兄弟と離れてはいかん 89 00:06:05,324 --> 00:06:06,575 しかし父上… 90 00:06:10,287 --> 00:06:13,957 では 私はこのまま耐えてゆく他 無いのでしょうか 91 00:06:19,963 --> 00:06:21,381 何とかしてみよう 92 00:06:22,424 --> 00:06:24,384 うまくいくかどうか分からんが 93 00:06:25,052 --> 00:06:27,513 ひとまず一切を俺に任せるがいい 94 00:06:28,889 --> 00:06:30,808 しばらく辛抱して暮らせ 95 00:06:38,732 --> 00:06:40,692 それから俺と父上は 96 00:06:41,819 --> 00:06:43,529 悩みを忘れることにして 97 00:06:44,029 --> 00:06:45,364 しこたま酒を飲んだ 98 00:06:53,997 --> 00:06:54,915 あれをやれ 99 00:06:55,749 --> 00:06:57,835 あ ふふ 100 00:06:59,253 --> 00:07:01,713 ああ ああ 101 00:07:02,339 --> 00:07:04,466 どわ うひ 102 00:07:07,553 --> 00:07:08,512 はあ あ 103 00:07:08,887 --> 00:07:09,888 あ 104 00:07:12,099 --> 00:07:12,558 ああ 105 00:07:12,683 --> 00:07:17,563 俺は当時洛中を震撼させていた 偽叡山電車に化けて… 106 00:07:17,938 --> 00:07:20,774 -あ おお -父上を乗せて四条界隈を走り回った 107 00:07:22,067 --> 00:07:22,901 ああ 108 00:07:23,902 --> 00:07:26,655 それは俺と父上が繰り返してきた 109 00:07:26,989 --> 00:07:28,407 -お気に入りの遊びだった -きゃあ 110 00:07:38,292 --> 00:07:41,253 俺が得意の偽叡山電車に化けたのは 111 00:07:42,337 --> 00:07:43,797 あの夜が最後だった 112 00:07:49,595 --> 00:07:52,514 -ん ん -あの日 父上は戻らなかった 113 00:07:54,433 --> 00:07:56,476 てて ん はあ 114 00:07:58,937 --> 00:07:59,438 な 115 00:08:06,195 --> 00:08:07,571 父上を見なかったか? 116 00:08:18,498 --> 00:08:20,125 そして次の日も 117 00:08:21,126 --> 00:08:22,794 父上は戻らなかった 118 00:08:23,962 --> 00:08:24,796 んん ん 119 00:08:25,923 --> 00:08:26,632 ん 120 00:08:31,637 --> 00:08:32,095 ん 121 00:08:32,137 --> 00:08:33,513 はあ はあ はあ く 122 00:08:33,764 --> 00:08:36,058 -はあ はあ はあ はあ く く -あ 123 00:08:36,350 --> 00:08:37,476 偽右衛門が は 124 00:08:39,686 --> 00:08:41,855 金曜倶楽部に 喰われた 125 00:08:41,980 --> 00:08:42,981 -え!? -わあ!! 126 00:08:43,607 --> 00:08:45,192 -ああ う -あ 127 00:08:45,859 --> 00:08:46,902 はあ 128 00:08:47,819 --> 00:08:48,612 は は 129 00:08:49,988 --> 00:08:51,531 酔っ払った父上を 130 00:08:52,407 --> 00:08:54,743 俺が街中に置き去りにしたばかりに 131 00:08:55,953 --> 00:08:58,622 父上は金曜倶楽部の手に落ちたんだ 132 00:09:11,843 --> 00:09:12,594 矢二郎 133 00:09:13,512 --> 00:09:14,012 あっ 134 00:09:15,889 --> 00:09:16,556 -あ… -ん 135 00:09:23,689 --> 00:09:25,232 はあ はあ はあ 136 00:09:25,649 --> 00:09:26,233 兄さん 137 00:09:28,610 --> 00:09:31,029 息をするのも面倒くさい 138 00:09:31,655 --> 00:09:32,114 んっ 139 00:09:34,199 --> 00:09:35,701 いい加減にしなさい 140 00:09:43,333 --> 00:09:46,920 泳ぐというのも面倒なことだ 141 00:09:49,881 --> 00:09:52,050 俺は父上を殺してしまったのだ 142 00:09:53,760 --> 00:09:56,596 散々皆に言われてきた通りだと思った 143 00:09:58,098 --> 00:10:00,434 俺は全くダメな狸だった 144 00:10:01,893 --> 00:10:06,106 役に立たないどころか 取り返しのつかない害をなしてしまった 145 00:10:07,607 --> 00:10:10,444 悲しんでいる皆にそんなことが言えようか 146 00:10:11,820 --> 00:10:14,781 かと言って そのまま平気な面をして 147 00:10:14,906 --> 00:10:17,451 家族に混じって暮らすこともできない 148 00:10:20,746 --> 00:10:21,830 だから俺は 149 00:10:22,622 --> 00:10:26,585 一切を飲み込んで井戸の中の蛙になった 150 00:10:28,670 --> 00:10:30,672 狸であることをやめたのだ 151 00:10:32,424 --> 00:10:34,134 母上に合わせる顔が無い 152 00:10:35,218 --> 00:10:38,263 俺には もう息子たる資格が無い 153 00:10:51,318 --> 00:10:53,612 あ 先生忘れてた 154 00:10:55,280 --> 00:10:57,157 迎えに行かなくちゃならんな 155 00:10:57,866 --> 00:10:58,408 いいよ 156 00:10:59,242 --> 00:11:00,202 兄貴は帰れ 157 00:11:00,619 --> 00:11:01,286 俺が行く 158 00:11:15,467 --> 00:11:17,803 お前は師匠を放ったらかして 159 00:11:18,303 --> 00:11:21,264 このわしに1人で歩いて帰れというのか 160 00:11:22,557 --> 00:11:24,518 誠に申し訳ございません 161 00:11:37,572 --> 00:11:38,031 おや? 162 00:11:39,699 --> 00:11:40,992 羨ましかろう 163 00:11:41,743 --> 00:11:43,829 海星が献上してきたのだ 164 00:11:44,704 --> 00:11:45,580 なにゆえ? 165 00:11:46,164 --> 00:11:50,210 お前がわしをないがしろにして 大阪へ行っている間 166 00:11:50,585 --> 00:11:52,963 海星がよく訪ねてきたのだ 167 00:11:53,588 --> 00:11:57,676 それで そろそろ寒くなるからと言って これをよこした 168 00:11:58,677 --> 00:12:01,638 あれも口は悪いがよく気が付く 169 00:12:02,180 --> 00:12:05,517 先生は 狸だろうが人間だろうが 170 00:12:05,851 --> 00:12:08,019 相手が雌なら甘いのですな 171 00:12:08,437 --> 00:12:09,438 やかましいわ 172 00:12:11,648 --> 00:12:15,318 それぐらいしかもう楽しみは無いからな 173 00:12:37,966 --> 00:12:40,385 俺は父上を殺してしまったのだ 174 00:12:41,386 --> 00:12:44,681 散々皆に言われてきた通りだと思った 175 00:12:46,183 --> 00:12:48,477 俺は全くダメな狸だった 176 00:12:58,945 --> 00:12:59,905 はあ 177 00:13:03,700 --> 00:13:04,576 はあ 178 00:13:11,791 --> 00:13:12,792 はあ 179 00:13:22,719 --> 00:13:23,261 ちめた 180 00:13:24,054 --> 00:13:25,305 ははははは 181 00:13:25,889 --> 00:13:27,307 ははははは 182 00:13:27,557 --> 00:13:29,643 はははは… 183 00:13:32,229 --> 00:13:33,730 -矢三郎よ -はっ 184 00:13:35,023 --> 00:13:37,734 いやに口数が少ないではないか 185 00:13:38,693 --> 00:13:41,112 父のことを考えているのです 186 00:13:41,571 --> 00:13:44,407 乳? 何をたわけたことを 187 00:13:45,075 --> 00:13:47,369 乳ではなく父であります 188 00:13:48,078 --> 00:13:48,787 なるほど 189 00:13:49,120 --> 00:13:50,956 乳ではなく父か 190 00:13:54,167 --> 00:13:56,086 総一郎がどうしたのだ? 191 00:13:56,670 --> 00:14:00,423 あの世へ転居した者のことを いくら思い返してみても 192 00:14:00,423 --> 00:14:02,133 詮無いことではないか 193 00:14:02,884 --> 00:14:05,595 それだからお前は阿呆なのだ 194 00:14:07,681 --> 00:14:08,974 つい先ほど 195 00:14:09,391 --> 00:14:13,812 父に最後に会ったのが 兄の矢二郎だと知ったところです 196 00:14:15,438 --> 00:14:17,190 父は兄と酒を飲み 197 00:14:17,816 --> 00:14:20,986 酔いつぶれて人間の手に落ちたそうです 198 00:14:21,945 --> 00:14:24,197 落ちた先は鍋であろう 199 00:14:24,531 --> 00:14:26,324 それは そうです 200 00:14:28,201 --> 00:14:31,079 しかしな 生きている限り 201 00:14:31,454 --> 00:14:34,791 天狗も狸もいずれ落ちるものであるからな 202 00:14:35,834 --> 00:14:38,837 天空を自在に飛行する天狗でさえも 203 00:14:39,546 --> 00:14:42,215 人家の屋根に落ちる時が来る 204 00:14:43,466 --> 00:14:45,802 狸の落ちる先が鍋だとて 205 00:14:46,177 --> 00:14:47,721 何の不思議がある 206 00:14:48,305 --> 00:14:52,517 総一郎は落ち所を間違えたわけではないのだ 207 00:14:52,726 --> 00:14:54,728 そんなことは分かっているのです 208 00:14:55,186 --> 00:14:55,604 むっ 209 00:14:56,896 --> 00:14:57,772 んん 210 00:15:00,233 --> 00:15:02,694 総一郎に最後に会ったのは 211 00:15:03,194 --> 00:15:04,946 矢二郎ではあるまいぞ 212 00:15:21,421 --> 00:15:22,047 ん? 213 00:15:24,507 --> 00:15:27,302 これはこれは先生 こんばんは 214 00:15:27,969 --> 00:15:31,973 総一郎か ここは寒かろう 215 00:15:32,932 --> 00:15:34,100 あ どうだ やらんか 216 00:15:34,976 --> 00:15:37,729 では お言葉に甘えて一献 217 00:15:41,775 --> 00:15:44,194 なにゆえ毛玉のままなのだ? 218 00:15:44,903 --> 00:15:47,906 もはや化けられる身ではございませんから 219 00:15:50,575 --> 00:15:52,744 ん ん ん ん 220 00:15:54,579 --> 00:15:56,498 これが飲み納めですな 221 00:15:57,499 --> 00:15:58,750 総一郎よ 222 00:15:59,292 --> 00:16:00,752 お前は死んだのか 223 00:16:01,961 --> 00:16:06,049 憚りながら つい先ほど鍋になったような案配で 224 00:16:06,424 --> 00:16:06,883 ん 225 00:16:09,761 --> 00:16:10,845 ごく ごく 226 00:16:11,012 --> 00:16:13,473 全く 阿呆なことをする 227 00:16:13,848 --> 00:16:15,266 そう仰いますな 228 00:16:15,934 --> 00:16:18,186 誰しも一度は辿る道です 229 00:16:18,603 --> 00:16:20,647 だから言うたではないか 230 00:16:21,022 --> 00:16:23,108 ふざけるのもほどほどにしておけと 231 00:16:24,192 --> 00:16:26,361 何しろ私は狸ですから 232 00:16:26,986 --> 00:16:29,698 なかなかそういうわけには いかんものです 233 00:16:30,615 --> 00:16:34,160 これもまた 阿呆の血のしからしむるところで 234 00:16:37,789 --> 00:16:40,291 先生 矢三郎のこと 235 00:16:40,959 --> 00:16:43,253 くれぐれもよろしくお願いします 236 00:16:44,129 --> 00:16:45,714 あれは曲者だな 237 00:16:46,881 --> 00:16:49,551 阿呆なところがお前によく似ている 238 00:16:50,385 --> 00:16:52,554 しかし阿呆過ぎはしないか 239 00:16:53,388 --> 00:16:54,389 誠に 240 00:16:55,598 --> 00:16:58,852 しかしながらそこを私は見込んでいるのです 241 00:16:59,978 --> 00:17:02,313 ご迷惑をおかけするとは存じますが 242 00:17:02,647 --> 00:17:04,065 何とぞどうか 243 00:17:05,483 --> 00:17:08,987 いつの日か 必ずや先生のお役に立ちましょう 244 00:17:11,114 --> 00:17:11,948 うんむ 245 00:17:13,116 --> 00:17:15,493 では 私はそろそろ行かねば 246 00:17:16,494 --> 00:17:16,995 ああ 247 00:17:17,495 --> 00:17:18,830 総一郎よ 248 00:17:20,665 --> 00:17:23,877 わしはお前と別れるのが残念である 249 00:17:24,836 --> 00:17:26,671 ここだけの話であるが 250 00:17:27,589 --> 00:17:31,342 ふっははは それは良いことを聞いたものです 251 00:17:32,260 --> 00:17:34,179 冥土の土産ができました 252 00:17:44,439 --> 00:17:45,273 んん 253 00:17:47,776 --> 00:17:51,946 下鴨総一郎 ひと足お先にごめんこうむります 254 00:17:52,989 --> 00:17:55,200 面倒事も沢山ございましたが 255 00:17:55,742 --> 00:17:58,244 まずまずの愉快な一生でした 256 00:17:59,662 --> 00:18:03,458 如意ヶ嶽薬師坊様には長いご厚誼を賜りまして 257 00:18:04,209 --> 00:18:06,836 誠にかたじけなく存じます 258 00:18:18,223 --> 00:18:19,390 そんなことが 259 00:18:20,391 --> 00:18:23,394 しまいのしまいまで阿呆であった 260 00:18:24,312 --> 00:18:26,898 狸にしておくのは惜しかった 261 00:18:29,901 --> 00:18:33,196 それでは おやすみなさい 先生 262 00:19:08,940 --> 00:19:09,899 兄さんよ 263 00:19:11,568 --> 00:19:12,610 父上よ 264 00:19:18,408 --> 00:19:19,284 ん 265 00:19:22,120 --> 00:19:23,162 何かあった? 266 00:19:24,330 --> 00:19:27,083 矢二郎兄さんのとこに行ってたんだ 267 00:19:27,959 --> 00:19:29,377 喧嘩でもしたの? 268 00:19:36,342 --> 00:19:37,051 母上 269 00:19:38,469 --> 00:19:42,098 父上が帰ってこなかった あの日の夜なんだけど 270 00:19:43,433 --> 00:19:44,267 その 271 00:19:45,476 --> 00:19:46,436 あの子ね 272 00:19:47,437 --> 00:19:49,105 すごく悩んでいたの 273 00:19:51,357 --> 00:19:52,275 あの子はね 274 00:19:53,318 --> 00:19:55,403 海星が好きだったのよ 275 00:19:56,779 --> 00:19:57,488 そう 276 00:19:58,781 --> 00:20:03,036 それで 総さんに相談していたんだけどもね 277 00:20:04,913 --> 00:20:05,622 兄貴 278 00:20:06,623 --> 00:20:08,333 母上が心配している 279 00:20:09,208 --> 00:20:10,084 何とか言え 280 00:20:12,337 --> 00:20:13,254 母上 281 00:20:14,172 --> 00:20:14,839 何だい? 282 00:20:16,549 --> 00:20:18,509 母上は知っていたのですか 283 00:20:19,260 --> 00:20:20,178 何をだい? 284 00:20:21,804 --> 00:20:24,515 矢二郎が井戸に籠もった理由です 285 00:20:25,808 --> 00:20:26,309 あ 286 00:20:28,728 --> 00:20:30,480 我が子のことだもの 287 00:20:31,314 --> 00:20:35,818 私が分かってやらなくては あの子があんまり可哀想だよ 288 00:20:37,820 --> 00:20:38,905 ねえ矢一郎 289 00:20:40,031 --> 00:20:43,409 お願いだから あの子をあんまり責めないでやっておくれ 290 00:20:44,744 --> 00:20:46,287 私には分かっているよ 291 00:20:47,038 --> 00:20:49,749 あの子のことは よーく分かっているよ 292 00:20:51,042 --> 00:20:52,460 あなたも兄さんならば 293 00:20:53,211 --> 00:20:54,963 あの子の気持ちを分かっておやり 294 00:20:55,630 --> 00:20:57,590 分かっていますよ母上 295 00:20:58,383 --> 00:21:00,051 あいつは俺の弟だ 296 00:21:00,718 --> 00:21:02,011 俺にだって分かる 297 00:21:03,513 --> 00:21:06,933 分かっているから辛いのです く 298 00:21:10,937 --> 00:21:13,022 この世にさよならするにあたり 299 00:21:14,023 --> 00:21:18,778 我らの父は偉大なるその血を律儀に四つに分けた 300 00:21:20,238 --> 00:21:22,740 長兄は責任感だけを受け継ぎ 301 00:21:23,449 --> 00:21:26,077 次兄はのんきな性格だけを受け継ぎ 302 00:21:27,245 --> 00:21:29,539 弟は純真さだけを受け継ぎ 303 00:21:30,873 --> 00:21:34,419 私は 阿呆ぶりだけを受け継いだ 304 00:21:37,338 --> 00:21:40,425 てんでバラバラの兄弟をつなぎ止めているのは 305 00:21:41,384 --> 00:21:43,469 海よりも深い母の愛と 306 00:21:44,595 --> 00:21:46,931 偉大なる父とのサヨナラである 307 00:21:49,058 --> 00:21:50,935 一つの大きなサヨナラが 308 00:21:52,395 --> 00:21:55,106 残された者たちをつなぐこともある 309 00:22:12,498 --> 00:22:16,044 繋いだ手を振りほどけば 310 00:22:16,377 --> 00:22:20,214 いたずらに 君微笑む 311 00:22:20,506 --> 00:22:24,093 春は嵐 ざわざわする 312 00:22:24,385 --> 00:22:28,389 もう花びら散りすぼんだ 313 00:22:28,890 --> 00:22:32,935 口癖はケセラセラ 314 00:22:33,311 --> 00:22:36,814 また呟く声がする 315 00:22:36,939 --> 00:22:44,906 彼女はいつもさよなら言わずに 316 00:22:44,989 --> 00:22:47,658 風と消える 317 00:22:49,577 --> 00:22:55,291 未来のことはわからないけれど 318 00:22:55,500 --> 00:23:02,340 今ここにある奇蹟は僕のものと 319 00:23:02,507 --> 00:23:04,842 信じてる 320 00:23:05,426 --> 00:23:11,516 約束なんてしたくないけれど 321 00:23:13,184 --> 00:23:19,357 その手をかざして確かなもの 322 00:23:19,607 --> 00:23:21,943 手に入れよう 323 00:23:22,026 --> 00:23:29,367 それは僕らを輝かす 324 00:23:31,702 --> 00:23:33,246 伯父様が生きていらしたら 325 00:23:33,704 --> 00:23:35,540 一度聞いてみたかったことがある 326 00:23:36,541 --> 00:23:39,418 何故私の名は海星なのかと