1 00:00:06,534 --> 00:00:11,167 面白くない世の中 2 00:00:11,467 --> 00:00:15,000 面白くすればいいさ 3 00:00:25,968 --> 00:00:30,567 “つまらねえ”のが口癖なのは 4 00:00:30,634 --> 00:00:34,834 それこそホントにつまらない 5 00:00:35,334 --> 00:00:39,868 文句を言うのは簡単だけど 6 00:00:40,000 --> 00:00:43,901 誰かは何もくれない 7 00:00:44,133 --> 00:00:48,634 走らないけど止まりはしない 8 00:00:48,767 --> 00:00:52,968 誰にも流れる阿呆の血 9 00:00:53,300 --> 00:00:58,167 騒げば騒ぐ程かき立てる 10 00:00:58,334 --> 00:01:03,234 なんと素晴らしき日々 11 00:01:04,734 --> 00:01:09,167 面白くない世の中 12 00:01:09,667 --> 00:01:13,968 面白くすればいいのさ 13 00:01:14,934 --> 00:01:18,467 自分で見つけりゃ 14 00:01:19,000 --> 00:01:22,667 ほどほどにパラダイスだ 15 00:01:23,634 --> 00:01:28,501 気がつけば何時だって 16 00:01:28,667 --> 00:01:33,334 有頂天人生だ 17 00:01:43,667 --> 00:01:44,634 矢二郎よ 18 00:01:45,567 --> 00:01:46,868 おや 兄さん 19 00:01:47,667 --> 00:01:49,834 えらくご機嫌の悪い声だ 20 00:01:50,133 --> 00:01:52,033 何か説教をする気かい? 21 00:01:53,067 --> 00:01:55,634 ご期待に応えられる自信が無い 22 00:01:56,334 --> 00:01:58,801 俺は何しろ蛙だからな 23 00:01:59,300 --> 00:02:00,067 矢二郎 24 00:02:01,100 --> 00:02:05,067 俺は父上と最後に会った日のことをよく覚えている 25 00:02:06,267 --> 00:02:10,901 あの日 俺は父上と一緒に長老たちの所へ出掛けていた 26 00:02:11,968 --> 00:02:15,567 その後 父上は大切な約束があると言った 27 00:02:16,367 --> 00:02:18,801 だからお前は先に帰れと言われた 28 00:02:19,400 --> 00:02:23,934 珍しいことじゃない 父上はいつも忙しかったからな 29 00:02:24,934 --> 00:02:27,901 父上は東大路まで送ってきて 30 00:02:28,334 --> 00:02:30,767 俺がバスに乗り込むのを見送ってくれた 31 00:02:32,334 --> 00:02:34,767 その姿を俺は今でも思い出す 32 00:02:35,834 --> 00:02:37,133 何故ならそれが 33 00:02:38,133 --> 00:02:41,100 俺が見た父上の最後の姿だったからだ 34 00:02:42,133 --> 00:02:42,834 兄さん 35 00:02:44,501 --> 00:02:45,834 俺が聞きたいのはな 36 00:02:46,634 --> 00:02:48,834 お前が最後に父上に会ったのは 37 00:02:49,667 --> 00:02:51,734 いつ どこだったのかということだ 38 00:02:54,734 --> 00:02:55,400 お前は 39 00:02:56,934 --> 00:02:57,534 あの夜 40 00:02:58,000 --> 00:02:59,868 父上と一緒に酒を飲んだのか? 41 00:03:01,000 --> 00:03:02,334 お前は酔っ払ったのか? 42 00:03:03,267 --> 00:03:04,400 父上はどうした? 43 00:03:06,567 --> 00:03:09,467 お前は酔っ払った父上をそのままにしたのか? 44 00:03:10,501 --> 00:03:12,067 どうか違うと言ってくれ 45 00:03:17,334 --> 00:03:18,067 兄さん 46 00:03:18,667 --> 00:03:19,701 その通りだよ 47 00:03:21,167 --> 00:03:23,868 父上を死なせたのは この俺だ 48 00:03:23,901 --> 00:03:27,734 うああ ああ 何ということだ う 49 00:03:28,534 --> 00:03:29,400 く 50 00:03:30,868 --> 00:03:32,534 この大バカ者め 51 00:03:44,067 --> 00:03:49,601 俺は京都で一番やる気の無い狸として 勇名を馳せてきた 52 00:03:51,934 --> 00:03:55,067 誰からも尊敬の念を払われることなく 53 00:03:55,734 --> 00:03:58,434 達磨ごっこにふける役立たずの俺が 54 00:03:58,968 --> 00:04:01,200 やる気を発揮する唯一の場所は 55 00:04:02,701 --> 00:04:04,267 酒の席だけだった 56 00:04:06,400 --> 00:04:07,834 あの日の父上の 57 00:04:08,167 --> 00:04:12,501 大切な約束というのは俺との秘密の相談事だった 58 00:04:15,434 --> 00:04:17,033 その当時の俺は 59 00:04:17,367 --> 00:04:19,534 厄介な問題を抱えていたからだ 60 00:04:21,267 --> 00:04:22,901 俺は大いに悩み 61 00:04:23,567 --> 00:04:27,567 その思いを父に打ち明け 判断を仰いでいた 62 00:04:30,300 --> 00:04:31,033 俺は 63 00:04:31,767 --> 00:04:33,868 カタのつけようのない恋をしていた 64 00:04:35,167 --> 00:04:37,734 何故それにカタをつけられないかというと 65 00:04:38,734 --> 00:04:42,734 俺が恋した相手は まだ大変若い狸で 66 00:04:43,400 --> 00:04:45,300 さらには許嫁がいたからだ 67 00:04:47,367 --> 00:04:49,000 その許嫁というのは 68 00:04:49,434 --> 00:04:52,534 自分の弟 矢三郎だった 69 00:04:54,334 --> 00:04:57,100 そう 俺が恋した相手とは 70 00:04:57,901 --> 00:04:59,267 夷川海星だ 71 00:05:00,434 --> 00:05:04,200 俺は家族と別れて京都を去りたいと 父に繰り返してきた 72 00:05:05,300 --> 00:05:07,434 だがその日も父は反対した 73 00:05:09,000 --> 00:05:11,534 天狗さえ化かしたことのある父には 74 00:05:12,167 --> 00:05:15,000 この世に恐ろしいものなど何一つ無い 75 00:05:16,000 --> 00:05:17,400 俺はそう思っていたが 76 00:05:18,067 --> 00:05:21,000 そんな父が恐れているものが一つだけあった 77 00:05:22,267 --> 00:05:26,501 それは自分の息子たちが離れ離れになり 78 00:05:26,834 --> 00:05:29,667 あるいは互いに憎み合うことだった 79 00:05:31,167 --> 00:05:33,934 それは実弟である夷川早雲と 80 00:05:34,501 --> 00:05:38,501 不幸にも憎み合う仲となってしまった 父の 81 00:05:38,934 --> 00:05:40,334 切実な願いだった 82 00:05:45,000 --> 00:05:48,300 俺はお前たちに四つの血を分けた 83 00:05:49,000 --> 00:05:51,400 だから誰が欠けてもいかんのだ 84 00:05:52,667 --> 00:05:55,100 お前は散々悪く言われているが 85 00:05:55,634 --> 00:05:58,300 物事には釣り合いというものがある 86 00:05:59,634 --> 00:06:02,634 お前もまた下鴨家の重石なのだ 87 00:06:03,734 --> 00:06:06,834 それが分からん連中の言うことに耳を貸すな 88 00:06:08,100 --> 00:06:10,501 お前は兄弟と離れてはいかん 89 00:06:10,934 --> 00:06:12,167 しかし父上… 90 00:06:15,868 --> 00:06:19,534 では 私はこのまま耐えてゆく他無いのでしょうか 91 00:06:25,534 --> 00:06:26,968 何とかしてみよう 92 00:06:28,033 --> 00:06:29,968 うまくいくかどうか分からんが 93 00:06:30,634 --> 00:06:33,100 ひとまず一切を俺に任せるがいい 94 00:06:34,467 --> 00:06:36,400 しばらく辛抱して暮らせ 95 00:06:44,300 --> 00:06:46,234 それから俺と父上は 96 00:06:47,367 --> 00:06:49,100 悩みを忘れることにして 97 00:06:49,567 --> 00:06:50,901 しこたま酒を飲んだ 98 00:06:59,534 --> 00:07:00,534 あれをやれ 99 00:07:01,367 --> 00:07:03,434 あ ふふ 100 00:07:04,868 --> 00:07:07,300 ああ ああ 101 00:07:07,934 --> 00:07:10,067 どわ うひ 102 00:07:13,167 --> 00:07:14,100 はあ あ 103 00:07:14,501 --> 00:07:15,467 あ 104 00:07:17,701 --> 00:07:18,200 ああ 105 00:07:18,267 --> 00:07:23,167 俺は当時洛中を震撼させていた 偽叡山電車に化けて… 106 00:07:23,534 --> 00:07:26,400 -あ おお -父上を乗せて四条界隈を走り回った 107 00:07:27,667 --> 00:07:28,467 ああ 108 00:07:29,467 --> 00:07:32,234 それは俺と父上が繰り返してきた 109 00:07:32,567 --> 00:07:34,033 -お気に入りの遊びだった -きゃあ 110 00:07:43,868 --> 00:07:46,801 俺が得意の偽叡山電車に化けたのは 111 00:07:47,901 --> 00:07:49,367 あの夜が最後だった 112 00:07:55,167 --> 00:07:58,067 -ん ん -あの日 父上は戻らなかった 113 00:08:00,000 --> 00:08:02,133 てて ん はあ 114 00:08:04,567 --> 00:08:05,067 な 115 00:08:11,801 --> 00:08:13,200 父上を見なかったか? 116 00:08:24,100 --> 00:08:25,701 そして次の日も 117 00:08:26,734 --> 00:08:28,367 父上は戻らなかった 118 00:08:29,534 --> 00:08:30,400 んん ん 119 00:08:31,501 --> 00:08:32,234 ん 120 00:08:37,234 --> 00:08:37,667 ん 121 00:08:37,701 --> 00:08:39,100 はあ はあ はあ く 122 00:08:39,334 --> 00:08:41,634 -はあ はあ はあ はあ く く -あ 123 00:08:41,934 --> 00:08:43,067 偽右衛門が は 124 00:08:45,300 --> 00:08:47,434 金曜倶楽部に 喰われた 125 00:08:47,567 --> 00:08:48,534 -え!? -わあ!! 126 00:08:49,167 --> 00:08:50,767 -ああ う -あ 127 00:08:51,434 --> 00:08:52,467 はあ 128 00:08:53,400 --> 00:08:54,167 は は 129 00:08:55,534 --> 00:08:57,133 酔っ払った父上を 130 00:08:57,968 --> 00:09:00,400 俺が街中に置き去りにしたばかりに 131 00:09:01,567 --> 00:09:04,234 父上は金曜倶楽部の手に落ちたんだ 132 00:09:17,434 --> 00:09:18,200 矢二郎 133 00:09:19,133 --> 00:09:19,634 あっ 134 00:09:21,501 --> 00:09:22,167 -あ… -ん 135 00:09:29,267 --> 00:09:30,834 はあ はあ はあ 136 00:09:31,234 --> 00:09:31,834 兄さん 137 00:09:34,200 --> 00:09:36,601 息をするのも面倒くさい 138 00:09:37,234 --> 00:09:37,701 んっ 139 00:09:39,801 --> 00:09:41,300 いい加減にしなさい 140 00:09:48,901 --> 00:09:52,501 泳ぐというのも面倒なことだ 141 00:09:55,434 --> 00:09:57,634 俺は父上を殺してしまったのだ 142 00:09:59,334 --> 00:10:02,167 散々皆に言われてきた通りだと思った 143 00:10:03,667 --> 00:10:06,033 俺は全くダメな狸だった 144 00:10:07,434 --> 00:10:11,667 役に立たないどころか 取り返しのつかない害をなしてしまった 145 00:10:13,167 --> 00:10:16,033 悲しんでいる皆にそんなことが言えようか 146 00:10:17,400 --> 00:10:20,334 かと言って そのまま平気な面をして 147 00:10:20,467 --> 00:10:23,033 家族に混じって暮らすこともできない 148 00:10:26,267 --> 00:10:27,400 だから俺は 149 00:10:28,167 --> 00:10:32,133 一切を飲み込んで井戸の中の蛙になった 150 00:10:34,200 --> 00:10:36,200 狸であることをやめたのだ 151 00:10:37,934 --> 00:10:39,667 母上に合わせる顔が無い 152 00:10:40,734 --> 00:10:43,767 俺には もう息子たる資格が無い 153 00:10:56,834 --> 00:10:59,100 あ 先生忘れてた 154 00:11:00,868 --> 00:11:02,734 迎えに行かなくちゃならんな 155 00:11:03,434 --> 00:11:03,968 いいよ 156 00:11:04,801 --> 00:11:05,767 兄貴は帰れ 157 00:11:06,200 --> 00:11:06,868 俺が行く 158 00:11:21,000 --> 00:11:23,367 お前は師匠を放ったらかして 159 00:11:23,868 --> 00:11:26,801 このわしに1人で歩いて帰れというのか 160 00:11:28,100 --> 00:11:30,067 誠に申し訳ございません 161 00:11:43,133 --> 00:11:43,567 おや? 162 00:11:45,234 --> 00:11:46,534 羨ましかろう 163 00:11:47,300 --> 00:11:49,367 海星が献上してきたのだ 164 00:11:50,234 --> 00:11:51,100 なにゆえ? 165 00:11:51,667 --> 00:11:55,734 お前がわしをないがしろにして大阪へ行っている間 166 00:11:56,100 --> 00:11:58,467 海星がよく訪ねてきたのだ 167 00:11:59,100 --> 00:12:03,234 それで そろそろ寒くなるからと言ってこれをよこした 168 00:12:04,267 --> 00:12:07,200 あれも口は悪いがよく気が付く 169 00:12:07,767 --> 00:12:11,100 先生は 狸だろうが人間だろうが 170 00:12:11,434 --> 00:12:13,567 相手が雌なら甘いのですな 171 00:12:14,000 --> 00:12:15,033 やかましいわ 172 00:12:17,200 --> 00:12:20,868 それぐらいしかもう楽しみは無いからな 173 00:12:43,501 --> 00:12:45,934 俺は父上を殺してしまったのだ 174 00:12:46,901 --> 00:12:50,200 散々皆に言われてきた通りだと思った 175 00:12:51,701 --> 00:12:54,033 俺は全くダメな狸だった 176 00:13:04,534 --> 00:13:05,467 はあ 177 00:13:09,300 --> 00:13:10,167 はあ 178 00:13:17,367 --> 00:13:18,367 はあ 179 00:13:28,267 --> 00:13:28,801 ちめた 180 00:13:29,601 --> 00:13:30,868 ははははは 181 00:13:31,434 --> 00:13:32,868 ははははは 182 00:13:33,100 --> 00:13:35,200 はははは… 183 00:13:37,767 --> 00:13:39,300 -矢三郎よ -はっ 184 00:13:40,567 --> 00:13:43,300 いやに口数が少ないではないか 185 00:13:44,234 --> 00:13:46,634 父のことを考えているのです 186 00:13:47,100 --> 00:13:49,934 乳? 何をたわけたことを 187 00:13:50,601 --> 00:13:52,901 乳ではなく父であります 188 00:13:53,601 --> 00:13:54,334 なるほど 189 00:13:54,634 --> 00:13:56,467 乳ではなく父か 190 00:13:59,701 --> 00:14:01,667 総一郎がどうしたのだ? 191 00:14:02,267 --> 00:14:06,000 あの世へ転居した者のことをいくら思い返してみても 192 00:14:06,033 --> 00:14:07,734 詮無いことではないか 193 00:14:08,467 --> 00:14:11,167 それだからお前は阿呆なのだ 194 00:14:13,300 --> 00:14:14,534 つい先ほど 195 00:14:14,968 --> 00:14:19,400 父に最後に会ったのが 兄の矢二郎だと知ったところです 196 00:14:21,033 --> 00:14:22,767 父は兄と酒を飲み 197 00:14:23,400 --> 00:14:26,567 酔いつぶれて人間の手に落ちたそうです 198 00:14:27,501 --> 00:14:29,767 落ちた先は鍋であろう 199 00:14:30,133 --> 00:14:31,901 それは そうです 200 00:14:33,767 --> 00:14:36,634 しかしな 生きている限り 201 00:14:37,000 --> 00:14:40,334 天狗も狸もいずれ落ちるものであるからな 202 00:14:41,367 --> 00:14:44,400 天空を自在に飛行する天狗でさえも 203 00:14:45,133 --> 00:14:47,767 人家の屋根に落ちる時が来る 204 00:14:49,033 --> 00:14:51,334 狸の落ちる先が鍋だとて 205 00:14:51,701 --> 00:14:53,267 何の不思議がある 206 00:14:53,834 --> 00:14:58,067 総一郎は落ち所を間違えたわけではないのだ 207 00:14:58,300 --> 00:15:00,334 そんなことは分かっているのです 208 00:15:00,767 --> 00:15:01,200 むっ 209 00:15:02,501 --> 00:15:03,367 んん 210 00:15:05,834 --> 00:15:08,267 総一郎に最後に会ったのは 211 00:15:08,767 --> 00:15:10,534 矢二郎ではあるまいぞ 212 00:15:27,033 --> 00:15:27,601 ん? 213 00:15:30,067 --> 00:15:32,868 これはこれは先生 こんばんは 214 00:15:33,534 --> 00:15:37,534 総一郎か ここは寒かろう 215 00:15:38,501 --> 00:15:39,667 あ どうだ やらんか 216 00:15:40,534 --> 00:15:43,267 では お言葉に甘えて一献 217 00:15:47,334 --> 00:15:49,734 なにゆえ毛玉のままなのだ? 218 00:15:50,434 --> 00:15:53,434 もはや化けられる身ではございませんから 219 00:15:56,133 --> 00:15:58,267 ん ん ん ん 220 00:16:00,200 --> 00:16:02,100 これが飲み納めですな 221 00:16:03,100 --> 00:16:04,400 総一郎よ 222 00:16:04,901 --> 00:16:06,367 お前は死んだのか 223 00:16:07,567 --> 00:16:11,634 憚りながら つい先ほど鍋になったような案配で 224 00:16:12,033 --> 00:16:12,467 ん 225 00:16:15,367 --> 00:16:16,434 ごく ごく 226 00:16:16,601 --> 00:16:19,067 全く 阿呆なことをする 227 00:16:19,434 --> 00:16:20,834 そう仰いますな 228 00:16:21,534 --> 00:16:23,767 誰しも一度は辿る道です 229 00:16:24,200 --> 00:16:26,234 だから言うたではないか 230 00:16:26,601 --> 00:16:28,701 ふざけるのもほどほどにしておけと 231 00:16:29,767 --> 00:16:31,934 何しろ私は狸ですから 232 00:16:32,567 --> 00:16:35,267 なかなかそういうわけには いかんものです 233 00:16:36,167 --> 00:16:39,734 これもまた 阿呆の血のしからしむるところで 234 00:16:43,400 --> 00:16:45,834 先生 矢三郎のこと 235 00:16:46,501 --> 00:16:48,801 くれぐれもよろしくお願いします 236 00:16:49,701 --> 00:16:51,267 あれは曲者だな 237 00:16:52,434 --> 00:16:55,133 阿呆なところがお前によく似ている 238 00:16:55,934 --> 00:16:58,133 しかし阿呆過ぎはしないか 239 00:16:58,934 --> 00:16:59,934 誠に 240 00:17:01,200 --> 00:17:04,467 しかしながらそこを私は見込んでいるのです 241 00:17:05,567 --> 00:17:07,901 ご迷惑をおかけするとは存じますが 242 00:17:08,300 --> 00:17:09,667 何とぞどうか 243 00:17:11,133 --> 00:17:14,567 いつの日か 必ずや先生のお役に立ちましょう 244 00:17:16,701 --> 00:17:17,534 うんむ 245 00:17:18,701 --> 00:17:21,133 では 私はそろそろ行かねば 246 00:17:22,100 --> 00:17:22,601 ああ 247 00:17:23,133 --> 00:17:24,434 総一郎よ 248 00:17:26,300 --> 00:17:29,467 わしはお前と別れるのが残念である 249 00:17:30,400 --> 00:17:32,234 ここだけの話であるが 250 00:17:33,167 --> 00:17:36,934 ふっははは それは良いことを聞いたものです 251 00:17:37,834 --> 00:17:39,767 冥土の土産ができました 252 00:17:50,000 --> 00:17:50,834 んん 253 00:17:53,334 --> 00:17:57,501 下鴨総一郎 ひと足お先にごめんこうむります 254 00:17:58,534 --> 00:18:00,834 面倒事も沢山ございましたが 255 00:18:01,367 --> 00:18:03,868 まずまずの愉快な一生でした 256 00:18:05,267 --> 00:18:09,067 如意ヶ嶽薬師坊様には長いご厚誼を賜りまして 257 00:18:09,834 --> 00:18:12,434 誠にかたじけなく存じます 258 00:18:23,801 --> 00:18:25,000 そんなことが 259 00:18:26,000 --> 00:18:29,033 しまいのしまいまで阿呆であった 260 00:18:29,901 --> 00:18:32,467 狸にしておくのは惜しかった 261 00:18:35,467 --> 00:18:38,767 それでは おやすみなさい 先生 262 00:19:14,567 --> 00:19:15,501 兄さんよ 263 00:19:17,167 --> 00:19:18,234 父上よ 264 00:19:24,033 --> 00:19:24,868 ん 265 00:19:27,701 --> 00:19:28,767 何かあった? 266 00:19:29,934 --> 00:19:32,667 矢二郎兄さんのとこに行ってたんだ 267 00:19:33,534 --> 00:19:34,968 喧嘩でもしたの? 268 00:19:41,934 --> 00:19:42,634 母上 269 00:19:44,067 --> 00:19:47,667 父上が帰ってこなかった あの日の夜なんだけど 270 00:19:49,033 --> 00:19:49,834 その 271 00:19:51,100 --> 00:19:52,000 あの子ね 272 00:19:53,000 --> 00:19:54,667 すごく悩んでいたの 273 00:19:56,934 --> 00:19:57,834 あの子はね 274 00:19:58,901 --> 00:20:00,968 海星が好きだったのよ 275 00:20:02,334 --> 00:20:03,067 そう 276 00:20:04,334 --> 00:20:08,601 それで 総さんに相談していたんだけどもね 277 00:20:10,467 --> 00:20:11,167 兄貴 278 00:20:12,167 --> 00:20:13,901 母上が心配している 279 00:20:14,767 --> 00:20:15,634 何とか言え 280 00:20:17,901 --> 00:20:18,801 母上 281 00:20:19,734 --> 00:20:20,400 何だい? 282 00:20:22,133 --> 00:20:24,067 母上は知っていたのですか 283 00:20:24,801 --> 00:20:25,734 何をだい? 284 00:20:27,334 --> 00:20:30,067 矢二郎が井戸に籠もった理由です 285 00:20:31,334 --> 00:20:31,834 あ 286 00:20:34,267 --> 00:20:36,033 我が子のことだもの 287 00:20:36,834 --> 00:20:41,334 私が分かってやらなくては あの子があんまり可哀想だよ 288 00:20:43,334 --> 00:20:44,434 ねえ矢一郎 289 00:20:45,534 --> 00:20:48,934 お願いだから あの子をあんまり責めないでやっておくれ 290 00:20:50,300 --> 00:20:51,801 私には分かっているよ 291 00:20:52,567 --> 00:20:55,267 あの子のことは よーく分かっているよ 292 00:20:56,534 --> 00:20:57,968 あなたも兄さんならば 293 00:20:58,701 --> 00:21:00,534 あの子の気持ちを分かっておやり 294 00:21:01,200 --> 00:21:03,167 分かっていますよ母上 295 00:21:03,934 --> 00:21:05,601 あいつは俺の弟だ 296 00:21:06,300 --> 00:21:07,567 俺にだって分かる 297 00:21:09,067 --> 00:21:12,501 分かっているから辛いのです く 298 00:21:16,501 --> 00:21:18,567 この世にさよならするにあたり 299 00:21:19,567 --> 00:21:24,334 我らの父は偉大なるその血を律儀に四つに分けた 300 00:21:25,801 --> 00:21:28,267 長兄は責任感だけを受け継ぎ 301 00:21:29,033 --> 00:21:31,634 次兄はのんきな性格だけを受け継ぎ 302 00:21:32,767 --> 00:21:35,067 弟は純真さだけを受け継ぎ 303 00:21:36,400 --> 00:21:39,968 私は 阿呆ぶりだけを受け継いだ 304 00:21:42,868 --> 00:21:45,934 てんでバラバラの兄弟をつなぎ止めているのは 305 00:21:46,901 --> 00:21:49,033 海よりも深い母の愛と 306 00:21:50,133 --> 00:21:52,434 偉大なる父とのサヨナラである 307 00:21:54,567 --> 00:21:56,467 一つの大きなサヨナラが 308 00:21:57,901 --> 00:22:00,701 残された者たちをつなぐこともある 309 00:22:18,100 --> 00:22:21,601 繋いだ手を振りほどけば 310 00:22:21,934 --> 00:22:25,767 いたずらに 君微笑む 311 00:22:26,100 --> 00:22:29,634 春は嵐 ざわざわする 312 00:22:29,934 --> 00:22:33,934 もう花びら散りすぼんだ 313 00:22:34,434 --> 00:22:38,467 口癖はケセラセラ 314 00:22:38,868 --> 00:22:42,334 また呟く声がする 315 00:22:42,467 --> 00:22:50,434 彼女はいつもさよなら言わずに 316 00:22:50,501 --> 00:22:53,200 風と消える 317 00:22:55,133 --> 00:23:00,868 未来のことはわからないけれど 318 00:23:01,100 --> 00:23:07,934 今ここにある奇蹟は僕のものと 319 00:23:08,067 --> 00:23:10,434 信じてる 320 00:23:11,033 --> 00:23:17,100 約束なんてしたくないけれど 321 00:23:18,767 --> 00:23:24,901 その手をかざして確かなもの 322 00:23:25,167 --> 00:23:27,501 手に入れよう 323 00:23:27,601 --> 00:23:34,901 それは僕らを輝かす 324 00:23:37,234 --> 00:23:38,801 伯父様が生きていらしたら 325 00:23:39,234 --> 00:23:41,067 一度聞いてみたかったことがある 326 00:23:42,133 --> 00:23:44,968 何故私の名は海星なのかと