1 00:00:01,570 --> 00:00:04,072 (羽貫(はぬき)さん) うわっ なんだか これ ウニョウニョしてる 2 00:00:04,172 --> 00:00:05,707 (小津(おづ)) 何ですか? これは 3 00:00:05,807 --> 00:00:07,075 エイリアンの ヘソの緒ですか? 4 00:00:07,909 --> 00:00:10,245 (私)どうせ お前が 入れたんだろう お前が食え 5 00:00:10,345 --> 00:00:11,246 イヤです 6 00:00:11,346 --> 00:00:14,349 (樋口(ひぐち)師匠)諸君 食べ物を粗末にしては いけない 7 00:00:14,649 --> 00:00:17,085 (私)小津 てめえ 茶巾にチョコ入れやがったな 8 00:00:17,185 --> 00:00:18,153 (小津)ニヒヒッ 9 00:00:18,253 --> 00:00:19,154 (すする音) 10 00:00:19,254 --> 00:00:21,022 (小津) 羽貫さん ビール入れたでしょう? 11 00:00:21,122 --> 00:00:23,959 (羽貫さん)バレた? でも 味に深みが出るでしょう? 12 00:00:24,059 --> 00:00:27,629 (私)もはや深すぎて 何が何の味だか分かりません 13 00:00:27,729 --> 00:00:30,899 すいませんが 一度 カーテンを 開けても よろしいでしょうか? 14 00:00:31,700 --> 00:00:32,968 (樋口師匠)しょうがないな 15 00:00:36,304 --> 00:00:37,272 (私)んっ 16 00:00:38,873 --> 00:00:39,975 うん 17 00:00:42,610 --> 00:00:44,346 (樋口師匠)あーん 18 00:00:45,981 --> 00:00:48,049 (小津)さすがだな 師匠は 19 00:00:48,149 --> 00:00:51,152 (私)ところで これは一体 何の修行なのですか? 20 00:00:51,252 --> 00:00:53,154 人生 一寸先は闇である 21 00:00:53,955 --> 00:00:55,991 我々は底知れぬ闇の中から— 22 00:00:56,091 --> 00:01:00,028 自分の益となるものを過(あやま)たず つかみ出さねばならない 23 00:01:02,931 --> 00:01:05,800 そういう哲学を実地で学ぶ訓練だ 24 00:01:09,904 --> 00:01:13,208 (羽貫さん) ハア~ 暗闇で飲むと 全然 ビールっぽくない 25 00:01:13,308 --> 00:01:15,210 (私の声)羽貫さんは 樋口師匠の下へ出入りしている 26 00:01:15,310 --> 00:01:16,645 謎の歯科衛生士である 27 00:01:17,012 --> 00:01:18,346 好物は エチルアルコールと カステラで— 28 00:01:18,646 --> 00:01:20,248 酔うと人の顔をなめる癖がある 29 00:01:20,348 --> 00:01:21,316 羽貫さんと飲むならば— 30 00:01:21,416 --> 00:01:23,251 地獄のエンドレスナイトを 覚悟するがよい 31 00:01:23,351 --> 00:01:24,919 (羽貫さん)ヒーハーッ 32 00:01:25,020 --> 00:01:27,655 (私の声)私は かつて木屋町(きやまち)から 縦横無尽に引きずり回され 33 00:01:27,756 --> 00:01:28,690 気が付くと 独りぼっちで— 34 00:01:28,790 --> 00:01:31,960 夷川(えびすがわ)発電所のそばに 倒れ伏していたことがある 35 00:01:33,194 --> 00:01:34,262 (くしゃみ) 36 00:01:35,163 --> 00:01:36,664 あーん 37 00:01:37,866 --> 00:01:39,701 (私の声)そして 小津は およそ褒めるべきところが 38 00:01:39,801 --> 00:01:42,437 1つもなく 人の不幸で 飯が3杯 食える男である 39 00:01:42,737 --> 00:01:45,373 私より15分早いだけの 樋口師匠の1番弟子であり— 40 00:01:45,674 --> 00:01:47,676 無意義な暮らしぶりを謳歌(おうか)してた 41 00:01:48,443 --> 00:01:50,412 (私)明石(あかし)さんは どうして来ないのですか? 42 00:01:50,712 --> 00:01:52,714 外せないレポートがあるらしい 43 00:01:52,814 --> 00:01:55,283 私だって 外せないレポートが あったのに ふん! 44 00:01:55,984 --> 00:01:57,819 (私の声)この いかにも 不毛な面子に囲まれて 45 00:01:57,919 --> 00:02:00,388 学問そっちのけで さまざまな 修行に明け暮れた結果— 46 00:02:00,689 --> 00:02:03,291 私は2年間の学生生活を棒に振った 47 00:02:03,925 --> 00:02:05,293 なにゆえ こんなことに なってしまったのか— 48 00:02:05,393 --> 00:02:08,129 責任者に問いただす必要がある 責任者は どこか? 49 00:02:08,229 --> 00:02:10,265 ホワー! 50 00:03:41,460 --> 00:03:44,263 (私の声) 当時 ピカピカの大学1回生だった 私の目の前には 51 00:03:44,363 --> 00:03:47,900 薔薇色(ばらいろ)のキャンパスライフへの 扉が無数に開かれていた 52 00:03:48,067 --> 00:03:50,369 しかし この時 私は何やら悪い予感がした 53 00:03:50,469 --> 00:03:52,071 この いかにも うさんくさいチラシの向こうに— 54 00:03:52,171 --> 00:03:53,372 いかなる栄光の未来をも— 55 00:03:53,472 --> 00:03:55,474 思い描くことが できなかったからだ 56 00:03:58,377 --> 00:04:00,179 (私の声)今すぐ このチラシを手放さねば 57 00:04:00,279 --> 00:04:02,314 そして できるだけ ここより遠くへ 58 00:04:03,949 --> 00:04:06,285 しかし 逃れることは できなかった 59 00:04:08,754 --> 00:04:12,091 (小津)“その千里眼は祇園(ぎおん)の 雑踏から意中の乙女を見つけ” 60 00:04:12,191 --> 00:04:15,427 “その地獄耳は 疎水へ桜の降り散る音も逃さず” 61 00:04:15,728 --> 00:04:17,730 “我こそは 樋口清太郎(せいたろう)” 62 00:04:17,830 --> 00:04:19,932 “来たれ 仙才を秘めたる若者よ” 63 00:04:20,432 --> 00:04:21,834 よっ 師匠 64 00:04:21,934 --> 00:04:24,069 (私の声) 私の悪い予感は的中した 65 00:04:24,169 --> 00:04:26,905 決して心を許すまいと 構えていた私だったが— 66 00:04:27,005 --> 00:04:29,975 樋口師匠が自分と同じ下鴨幽水荘(しもがもゆうすいそう)に 住んでいると聞いて— 67 00:04:30,075 --> 00:04:33,045 意気投合し 酒を飲める年に なったばかりなのも手伝い— 68 00:04:33,145 --> 00:04:35,214 やがて大いに羽目(はめ)を外していった 69 00:04:36,215 --> 00:04:39,518 そして 明け方まで 乳について 熱い論争が交わされた揚げ句… 70 00:04:40,085 --> 00:04:43,822 (樋口師匠)本物の乳であるか 偽物の乳かが問題ではない 71 00:04:43,922 --> 00:04:45,524 信じるか信じないかだ 72 00:04:45,824 --> 00:04:48,961 スイッチ オン ワン ツー スリー! 73 00:04:49,061 --> 00:04:50,295 (小津・私)わあっ 74 00:04:50,395 --> 00:04:53,031 (私)わっ おわあ! (小津)あ… ああ 75 00:04:53,999 --> 00:04:57,269 (私の声)そうして 私は師匠の2番弟子となった 76 00:05:00,105 --> 00:05:03,442 師匠から酒をおごってもらったのは もちろん その一度きりである 77 00:05:05,010 --> 00:05:06,411 樋口清太郎の弟子 78 00:05:06,512 --> 00:05:10,415 それが 何の弟子であるかは 2年経(た)っても明らかにならなかった 79 00:05:13,018 --> 00:05:14,219 そして フタを開けてみれば— 80 00:05:14,319 --> 00:05:18,357 樋口師匠は仙人でも何でもなく 単なる大学の8回生であった 81 00:05:18,457 --> 00:05:21,260 ただ長生きした動物が 神秘的気配を身につけるように— 82 00:05:21,360 --> 00:05:24,429 師匠も また 常人ならざる雰囲気をまとっていた 83 00:05:25,030 --> 00:05:27,332 一年中 同じ浴衣と高下駄(たかげた)で どこへでも出かけ— 84 00:05:27,432 --> 00:05:29,935 夏に涼める場所を 100個は知っている 85 00:05:30,035 --> 00:05:31,036 日本語以外 できないのに— 86 00:05:31,136 --> 00:05:33,038 どこの国の人とも 誰とでも仲良く話せ— 87 00:05:33,138 --> 00:05:35,340 常人ではない感知力を 持っているように見える時がある 88 00:05:35,908 --> 00:05:37,342 身が軽く 体もすごいらしい 89 00:05:37,442 --> 00:05:39,178 かといって 何らかの行動に出るでもなく— 90 00:05:39,278 --> 00:05:41,914 ただ ひたすら堂々と 暮らすことだけに専念していた 91 00:05:42,014 --> 00:05:45,384 それは 恐るべき紳士的態度 もしくは アホの骨頂である 92 00:05:45,484 --> 00:05:47,119 ただし 苦手なものもあった 93 00:05:47,219 --> 00:05:49,922 (ノックの音) (樋口師匠)うん? 94 00:05:50,556 --> 00:05:52,124 (私の声) 図書館からの取り立てである 95 00:05:52,224 --> 00:05:53,926 1年近くも本を返さない師匠を— 96 00:05:54,026 --> 00:05:57,129 図書館警察という 秘密の図書回収組織が狙っていた 97 00:05:57,229 --> 00:05:59,464 逃亡を手助けするのは 私たち弟子の役目であった 98 00:05:59,565 --> 00:06:00,599 (ドアの閉まる音) 99 00:06:01,266 --> 00:06:02,434 (私・小津)ニヒヒッ 100 00:06:03,302 --> 00:06:05,003 むっ! 曲者だ 101 00:06:06,305 --> 00:06:08,307 (私の声)それと 師匠は 図書館警察だけでなく 102 00:06:08,407 --> 00:06:11,944 城ヶ崎(じょうがさき)という男との 本当の戦いを続けていたのだった 103 00:06:13,111 --> 00:06:14,880 (樋口師匠)何色だった? 104 00:06:14,980 --> 00:06:16,114 (私)ピンクです 105 00:06:16,215 --> 00:06:19,218 (私の声)その戦いを師匠は自ら “自虐的 代理代理戦争”と呼び 106 00:06:19,318 --> 00:06:21,420 その名称からも分かるとおり 戦争というには— 107 00:06:21,520 --> 00:06:22,421 いかにも みみっちい— 108 00:06:22,521 --> 00:06:25,557 汚い汁を汚い汁で洗うような みっともない争いであった 109 00:06:29,194 --> 00:06:32,130 約5年前 2人の間に 深刻な確執が生まれ— 110 00:06:32,231 --> 00:06:33,865 戦いの火ぶたが切られたらしい 111 00:06:33,966 --> 00:06:36,034 そして 師匠の弟子である 我々もまた— 112 00:06:36,134 --> 00:06:38,237 この不毛な戦いに 巻き込まれていた 113 00:06:39,304 --> 00:06:41,940 ちなみに 寿司(すし) 20人前が届けられた時— 114 00:06:42,040 --> 00:06:44,977 師匠は留学生を集め 悠々と 寿司(すし)パーティーを開いたが— 115 00:06:45,077 --> 00:06:47,312 その代金は私と小津が折半した 116 00:06:47,412 --> 00:06:50,449 要するに 割を食っていたのは 常に我々ということになる 117 00:06:51,883 --> 00:06:52,951 こんな争いに加担し— 118 00:06:53,051 --> 00:06:55,554 貴重な青春時代を無駄にして よいものかと思いつつも— 119 00:06:55,654 --> 00:06:58,156 今日も今日とて 仕返しに いそしむ私である 120 00:06:58,257 --> 00:06:59,892 (城ヶ崎先輩)うわっ うわー! 121 00:06:59,992 --> 00:07:01,193 香織(かおり) 香織~! 122 00:07:01,293 --> 00:07:03,061 (私の声)城ヶ崎とは 映画サークルを主催する 123 00:07:03,161 --> 00:07:05,364 樋口師匠と 同回生の色男なのだが— 124 00:07:05,464 --> 00:07:08,333 かつて 2人の間に どんな遺恨があったかは定かでない 125 00:07:20,012 --> 00:07:22,180 旅が終わったんだ 126 00:07:27,920 --> 00:07:28,587 あっ? 127 00:07:31,657 --> 00:07:32,925 これは? 128 00:07:33,191 --> 00:07:35,193 (私の声) 太平洋戦争直後の混乱期 129 00:07:35,294 --> 00:07:38,330 西尾(にしお)商店の“亀の子タワシ”製法を 盗んだ医科大の学生が 130 00:07:38,430 --> 00:07:40,666 台湾に生息する 特殊な棕櫚(しゅろ)の繊維を用い 131 00:07:40,966 --> 00:07:42,567 魅惑の洗浄兵器を作り上げた 132 00:07:42,668 --> 00:07:45,671 強靱(きょうじん)かつ細やかな繊維の先っぽが ファンデルワールス力(りょく)によって— 133 00:07:45,971 --> 00:07:48,707 汚れ成分と 分子結合を作り出すらしい 134 00:07:49,308 --> 00:07:51,710 ところが 自社の洗剤の売れ行き 低下を懸念した企業から— 135 00:07:52,010 --> 00:07:53,312 圧力が かかった 136 00:07:53,412 --> 00:07:54,579 驚異の洗浄力を持ちながら— 137 00:07:54,680 --> 00:07:56,548 歴史の闇に 葬り去られてしまったが— 138 00:07:56,648 --> 00:08:00,385 今も どこかで 密(ひそ)かに幻のタワシは 作り続けられているらしい 139 00:08:02,120 --> 00:08:05,424 この 幻の 亀の子タワシを手に入れたい 140 00:08:05,524 --> 00:08:06,591 ええ? 141 00:08:14,399 --> 00:08:16,468 (樋口師匠) これも修行の一環だ 142 00:08:16,635 --> 00:08:17,636 (私の声) これまでも師匠は 143 00:08:17,736 --> 00:08:19,371 いろいろな物を 欲しがったが— 144 00:08:19,471 --> 00:08:21,273 調達するのは 常に我々である 145 00:08:23,008 --> 00:08:24,376 (樋口師匠) これは最終試練だ 146 00:08:24,476 --> 00:08:28,046 明日の正午までに それを 何としても手に入れてきなさい 147 00:08:28,146 --> 00:08:30,315 …でないと破門だ 148 00:08:31,583 --> 00:08:34,052 (私の声) おおかた四畳半の掃除でも 思いついたのであろうが 149 00:08:34,152 --> 00:08:36,388 実現する者の身にも なってほしいものだ 150 00:08:36,488 --> 00:08:37,689 師匠の部屋の汚れっぷりは— 151 00:08:37,990 --> 00:08:39,524 深窓の令嬢ならば いちべつするだけで— 152 00:08:39,624 --> 00:08:42,194 卒倒するであろうことを 保証する惨状である 153 00:08:42,294 --> 00:08:44,129 かつて 地球上に 存在しなかった生命体が— 154 00:08:44,229 --> 00:08:45,998 こっそりと別枠で 進化していたとしても— 155 00:08:46,098 --> 00:08:46,999 なんら不思議はない 156 00:08:58,276 --> 00:08:59,244 (私の声) 三条(さんじょう)の橋まで来ると 157 00:08:59,344 --> 00:09:00,712 昼間っから ネギマが並んでいたので— 158 00:09:01,013 --> 00:09:02,781 いっそ花火でも打ち込んで くれようかと思ったが— 159 00:09:03,081 --> 00:09:04,750 そういうことを かつて やっていたような気もして— 160 00:09:05,050 --> 00:09:07,486 なおさら 言い知れない 焦燥に駆られた 161 00:09:08,153 --> 00:09:09,087 あうっ 162 00:09:09,421 --> 00:09:10,355 ああ… 163 00:09:13,725 --> 00:09:16,028 (私の声)気が付くと私は 木屋町に移動しており 164 00:09:16,128 --> 00:09:17,629 そこでは まだ日が高いにも関わらず— 165 00:09:17,729 --> 00:09:20,532 占いの老婆が ただならぬ妖気を 垂れ流していた 166 00:09:20,632 --> 00:09:23,468 こんな人物の占いが 当たらないわけがない 167 00:09:25,537 --> 00:09:27,205 (占い婆(ばば))また来なすったか 168 00:09:27,305 --> 00:09:28,540 またとは何ですか? 169 00:09:28,640 --> 00:09:31,076 あなたは不満を抱いていらっしゃる 170 00:09:31,176 --> 00:09:33,545 大変 真面目で 才能も おありだから 171 00:09:34,246 --> 00:09:35,747 (私の声)老婆の慧眼(けいがん)に脱帽 172 00:09:36,048 --> 00:09:38,750 とにかく 好機を逃さないことが肝心じゃ 173 00:09:39,051 --> 00:09:40,185 うん? 174 00:09:40,285 --> 00:09:42,587 (占い婆)あなたの目の前に ぶら下がってる好機を— 175 00:09:42,687 --> 00:09:44,523 捕まえてごらんなさい 176 00:09:44,623 --> 00:09:45,490 (ため息) 177 00:09:45,590 --> 00:09:47,259 はい 4千円 178 00:09:47,592 --> 00:09:49,661 どんどん はしょられてませんか? 179 00:09:52,697 --> 00:09:55,734 (私の声) 師匠は私たちに修行と称して 無意義なことをさせたが 180 00:09:55,834 --> 00:09:57,302 ほとんど意味不明であった 181 00:09:57,402 --> 00:09:59,738 あの時 ああしていなければと 思うことは無数にあれど— 182 00:09:59,838 --> 00:10:02,674 師匠に出会ってさえいなければ という思いは 拭い去れない 183 00:10:02,774 --> 00:10:05,143 もう いっそのこと 自主破門されてやろうか 184 00:10:05,243 --> 00:10:06,778 うん… あっ 185 00:10:07,079 --> 00:10:07,779 (明石さん)先輩 186 00:10:12,818 --> 00:10:15,387 (私の声) 明石さんは小津と同じ工学部の 1回生であり 187 00:10:15,487 --> 00:10:17,255 私の妹弟子に当たる 188 00:10:20,659 --> 00:10:23,595 (明石さん) 幻の亀の子タワシ… ですか? 189 00:10:23,695 --> 00:10:26,698 (私) そんな物が存在するのか どうかも分からないが 190 00:10:26,798 --> 00:10:28,500 (明石さん) 弱気なことでは いけません 191 00:10:28,600 --> 00:10:29,668 探しましょう 192 00:10:35,807 --> 00:10:38,710 (私の声) 先ほど 私が訪れた時は 煮ダコ同然だったオヤジが 193 00:10:38,810 --> 00:10:42,647 今度は かぐや姫を見つけた 竹取の翁(おきな)ごときメロメロの有(あ)り様(さま)だ 194 00:10:42,747 --> 00:10:43,615 ふん 195 00:10:46,351 --> 00:10:49,621 錦(にしき)市場にある雑貨屋さんが 知っているかもしれません 196 00:10:50,889 --> 00:10:53,625 仏光寺通(ぶっこうじどおり)に面した 雑貨屋さんの主人ならば 197 00:10:57,462 --> 00:10:59,297 (カサゴ店主)あそこの 古本屋のオヤジさんなら— 198 00:10:59,397 --> 00:11:01,500 何か知ってるかも しれませんな 199 00:11:01,633 --> 00:11:04,236 (ウニ店主)新京極(しんきょうごく)の古道具屋は どうでっしゃろ? 200 00:11:04,336 --> 00:11:06,371 (私の声)明石さんは 実に手際よく情報を集め 201 00:11:06,471 --> 00:11:08,273 タワシの在りかを絞り込んでいった 202 00:11:09,708 --> 00:11:12,210 (セミの鳴き声) 203 00:11:13,712 --> 00:11:15,213 (私の声)そして… 204 00:11:15,313 --> 00:11:19,150 すいません 幻の亀の子タワシを 探しているのですが 205 00:11:21,520 --> 00:11:23,788 あのう 幻の亀の子タワシ… 206 00:11:23,889 --> 00:11:25,924 (古道具屋店主) それを どこで聞きました? 207 00:11:26,224 --> 00:11:28,360 樋口師匠という お方です 208 00:11:30,362 --> 00:11:31,763 少し待っていなさい 209 00:11:31,863 --> 00:11:33,532 (風鈴の音) 210 00:11:36,668 --> 00:11:38,370 (私)こ… これが? 211 00:11:38,803 --> 00:11:40,939 あの お幾らになりますか? 212 00:11:41,506 --> 00:11:43,875 10万円ほど 頂きましょうか 213 00:11:52,551 --> 00:11:55,787 買うものか タワシに10万とはムチャな話だ 214 00:11:55,887 --> 00:11:59,291 ヘドロにまみれた四畳半下宿の 流し台を洗う物ではない 215 00:12:01,393 --> 00:12:05,230 もういい タワシのことは諦める いよいよ私は破門だ 216 00:12:05,630 --> 00:12:08,900 あの師匠が そうやすやすと 縁を切るわけがありません 217 00:12:09,200 --> 00:12:10,735 私からも頼んでみます 218 00:12:10,835 --> 00:12:14,973 ♪~(ギター) 219 00:12:17,542 --> 00:12:20,445 (樋口師匠) ♪ 君と丸になれぬなら 220 00:12:20,545 --> 00:12:22,581 あっ あれは… 221 00:12:25,350 --> 00:12:30,388 ♪ さよなら三角 また来て四角 222 00:12:33,558 --> 00:12:38,263 ♪ 丸バツ三角 いつも四角 223 00:12:39,864 --> 00:12:43,301 ♪ とかく世は 四角四面の 224 00:12:43,401 --> 00:12:47,305 ♪ 五角 六角 七面鳥 225 00:12:49,374 --> 00:12:52,310 ♪ 丸を探して 226 00:12:53,478 --> 00:12:55,981 ♪ 丸を探して 227 00:12:57,482 --> 00:13:04,489 ♪ 丸になれぬの学ぶため 228 00:13:05,490 --> 00:13:07,859 ♪ どこにも ないかも 229 00:13:09,494 --> 00:13:12,364 ♪ あるいは あるかも 230 00:13:13,498 --> 00:13:19,404 ♪ 君かもしれぬ この鴨川(かもがわ)で 231 00:13:19,904 --> 00:13:22,774 ♪ 丸を探して 232 00:13:23,508 --> 00:13:25,777 ♪ 丸を探して 233 00:13:25,877 --> 00:13:26,945 (私の声) 師匠の歌を聞きながら 234 00:13:27,045 --> 00:13:30,415 私は ふと師匠が どこか遠い所へ 行ってしまうような気がした 235 00:13:40,425 --> 00:13:42,927 さっきまで 樋口君と城ヶ崎君がいたのよ 236 00:13:43,028 --> 00:13:45,063 久しぶりに2人で会って 237 00:13:45,563 --> 00:13:47,932 城ヶ崎さんって クールな人ですね 238 00:13:48,033 --> 00:13:48,900 そう? 239 00:13:49,000 --> 00:13:51,936 本当は樋口君と あんまり 変わらないけどね 240 00:13:52,570 --> 00:13:53,805 信じられませんな 241 00:13:54,439 --> 00:13:57,809 城ヶ崎君は 昔から 樋口君の他に友達 いないから 242 00:13:58,376 --> 00:14:02,480 ねっ 樋口君は あなたに自分の跡を 継がせようとしてるみたいよ 243 00:14:02,580 --> 00:14:04,549 私は もう破門になるんです 244 00:14:04,949 --> 00:14:07,018 それに生き馬の目を 抜くような生き方は— 245 00:14:07,318 --> 00:14:08,753 私には不向きです 246 00:14:10,021 --> 00:14:12,324 (猫ラーメン店主) それは高等学校の 学生同士の— 247 00:14:12,424 --> 00:14:14,492 恋の鞘当(さやあ)てが発端だ 248 00:14:14,626 --> 00:14:15,493 (私)うん? 249 00:14:15,860 --> 00:14:18,596 (店主) にごり酒の飲み比べだったとも 言われているが— 250 00:14:18,697 --> 00:14:21,433 詳しいことは既に歴史の闇の中だ 251 00:14:21,533 --> 00:14:23,735 ともあれ その争いは長く尾を引き— 252 00:14:23,835 --> 00:14:26,404 事が うやむやになることを拒んだ 253 00:14:26,504 --> 00:14:29,874 そして 苦し紛れに 考え出されたのが代理戦争だ 254 00:14:29,974 --> 00:14:32,644 その発端となった争いの理由は 忘れられ— 255 00:14:32,744 --> 00:14:36,481 社会の動向とは全く無関係に 連綿と受け継がれた 256 00:14:36,881 --> 00:14:43,455 正確には自虐的代理 代理 代理 代理 代理… 戦争だけどね 257 00:14:44,489 --> 00:14:45,824 なんで そんな話を? 258 00:14:46,424 --> 00:14:48,360 君が引き継ぐからさ 259 00:14:58,937 --> 00:14:59,804 (私)ああ? 260 00:15:00,038 --> 00:15:03,475 (私の声)部屋に戻ると なぜか 見知らぬリュックが置いてあった 261 00:15:04,976 --> 00:15:05,877 (私)こ… これは! 262 00:15:06,511 --> 00:15:08,646 代理戦争を引き継ぐ軍資金か!? 263 00:15:08,747 --> 00:15:10,482 (私の声) もう何が何だか分からない 264 00:15:10,582 --> 00:15:12,884 奇(く)しくも あのタワシが ちょうど買える額であった 265 00:15:19,090 --> 00:15:21,593 このまま叡電(えいでん)に乗って 鞍馬(くらま)で牛若丸を偲(しの)ぶか— 266 00:15:21,693 --> 00:15:24,829 京阪(けいはん)に乗って 黒髪の乙女と 浪速(なにわ)の街を駆け回るか? 267 00:15:27,132 --> 00:15:28,166 ハッ 268 00:15:32,003 --> 00:15:32,871 (私の声)それは明石さんが 269 00:15:32,971 --> 00:15:34,906 かつて なくしたと言っていた モチグマンであった 270 00:15:35,607 --> 00:15:38,410 5匹で一揃(ひとそろ)いなのを 1匹 なくしてしまったらしい 271 00:15:42,113 --> 00:15:44,816 (占い婆)あなたの目の前に ぶら下がってる好機を 272 00:15:44,916 --> 00:15:46,818 捕まえてごらんなさい 273 00:15:51,523 --> 00:15:52,724 (2人の笑い声) 274 00:15:56,628 --> 00:15:57,529 うんっ 275 00:15:58,630 --> 00:15:59,998 (私の声) 自主破門させてもらおう 276 00:16:00,098 --> 00:16:03,134 この10万円で あるべき人生へと舞い戻るのだ 277 00:16:08,506 --> 00:16:11,009 ハハハハ よくやった 278 00:16:11,109 --> 00:16:13,945 これで君は晴れて最終試練クリアだ 279 00:16:14,679 --> 00:16:15,914 (私の声) 私は この笑顔 見たさに 280 00:16:16,014 --> 00:16:19,150 2年間 師匠の言いつけを 聞いてきただけなのかもしれない 281 00:16:19,451 --> 00:16:20,652 (ため息) 282 00:16:21,986 --> 00:16:25,490 (樋口師匠)これから儀式がある 貴君も ついてきたまえ 283 00:16:25,590 --> 00:16:27,091 師匠! 折り入って話が… 284 00:16:27,725 --> 00:16:31,696 賀茂大橋(かもおおはし)の決闘だ 代理代理戦争を貴君に引き継ぐ 285 00:16:32,197 --> 00:16:33,631 あああっ 待ってください 286 00:16:33,731 --> 00:16:35,700 (樋口師匠)やあ ご両人 (私)あっ 287 00:16:38,002 --> 00:16:39,971 見届けさせてもらうわよ 288 00:16:43,842 --> 00:16:45,643 よし 行こう 289 00:16:53,985 --> 00:16:56,054 (私の声) そして 決戦の火ぶたが切られた 290 00:16:56,154 --> 00:16:57,989 西詰より城ヶ崎氏が歩いてくる 291 00:16:58,089 --> 00:17:01,125 やがて2人は賀茂大橋の中央で 相まみえた 292 00:17:01,860 --> 00:17:03,995 (城ヶ崎先輩)おや 明石さん (明石さん)どうも 293 00:17:05,897 --> 00:17:07,131 (明石さん)え? (羽貫さん)ええ? 294 00:17:07,765 --> 00:17:09,067 おわ! 295 00:17:10,068 --> 00:17:11,169 ニィッ 296 00:17:12,871 --> 00:17:15,106 よく会うわね 具合はいかが? 297 00:17:15,607 --> 00:17:18,209 (城ヶ崎先輩) おかげさまで健康そのものさ 298 00:17:20,645 --> 00:17:22,580 君は樋口一門だったのか 299 00:17:22,680 --> 00:17:25,750 はい 去年の秋に弟子入りしました 300 00:17:26,885 --> 00:17:29,587 それは 我が弟子 小津ではないかい? 301 00:17:29,687 --> 00:17:32,991 ああ これが俺の跡を継ぐ うちの代理人だ 302 00:17:33,291 --> 00:17:35,760 お前は自分の弟子だと 思っていただろうが— 303 00:17:35,860 --> 00:17:38,997 こいつは俺のスパイだったわけさ だまされただろ? 304 00:17:42,300 --> 00:17:43,668 やられたな 305 00:17:43,768 --> 00:17:45,537 師匠 すいませんでした 306 00:17:46,170 --> 00:17:50,542 (樋口師匠) 自虐的 代理代理戦争 史上 前代未聞の出来事だよ 307 00:17:50,642 --> 00:17:52,176 お前は歴史に名を残す 308 00:17:52,277 --> 00:17:53,611 (小津)ニヘヘッ 309 00:17:53,711 --> 00:17:57,181 (城ヶ崎先輩)今回は長引いたな 5年か… もっとか? 310 00:17:57,282 --> 00:18:00,885 (樋口師匠)忘れたよ なにせ 長い戦いだったからねえ 311 00:18:01,152 --> 00:18:02,720 (私の声) 小津は八面六臂(はちめんろっぴ)の活躍で 312 00:18:02,820 --> 00:18:05,023 城ヶ崎氏の暴露ドキュメンタリーを 撮る一方— 313 00:18:05,123 --> 00:18:07,158 樋口師匠の浴衣を 桃色に染めるという— 314 00:18:07,258 --> 00:18:08,993 意味不明な あきれた二重スパイぶりを— 315 00:18:09,093 --> 00:18:10,795 発揮していたらしい 316 00:18:11,796 --> 00:18:13,231 そっちの代理人は彼かい? 317 00:18:13,331 --> 00:18:15,900 ああ よろしく頼むよ 318 00:18:16,200 --> 00:18:17,902 ああ… いや ちょっと待ってください! 319 00:18:18,937 --> 00:18:21,606 (樋口師匠)じゃあ やるかね (城ヶ崎先輩)ああ 320 00:18:21,706 --> 00:18:23,074 さっさとやって! 321 00:18:23,174 --> 00:18:24,709 (樋口師匠)うん! (城ヶ崎先輩)ぬう! 322 00:18:25,577 --> 00:18:28,079 (私の声)勝負は あまりにも 気の抜けたセリフで始まった 323 00:18:32,250 --> 00:18:34,919 息を詰めるような一瞬のあと 2人は激突した 324 00:18:35,019 --> 00:18:36,321 (樋口師匠)行くぞ! (城ヶ崎先輩)いいとも! 325 00:18:39,123 --> 00:18:40,825 じゃんけんぽん! 326 00:18:40,925 --> 00:18:42,126 はい おしまーい! 327 00:18:42,226 --> 00:18:45,129 城ヶ崎君が勝ったから 次は小津君が先攻ね 328 00:18:50,969 --> 00:18:53,605 ようやく肩の荷が下りたよ 329 00:18:57,609 --> 00:18:58,943 これから どうするんだ? 330 00:18:59,744 --> 00:19:00,945 旅に出る 331 00:19:01,212 --> 00:19:02,246 (2人)えっ? 332 00:19:02,847 --> 00:19:06,718 おいおい 羽貫 樋口が わけの分からないことを言ってるぞ 333 00:19:06,818 --> 00:19:09,153 (樋口師匠)とりあえず 世界一周してくるつもりだ 334 00:19:09,253 --> 00:19:10,722 羽貫も一緒に行くかい? 335 00:19:10,822 --> 00:19:13,091 君は英語が しゃべれるからな 336 00:19:13,291 --> 00:19:15,860 ムチャ言わないでよ バカバカしい 337 00:19:17,929 --> 00:19:19,330 金は あるのか? 338 00:19:19,631 --> 00:19:21,866 しまなみ杯の賞金が あるからねえ 339 00:19:22,266 --> 00:19:25,670 貴君 すまないが あの部屋を これで掃除しておいてくれ 340 00:19:28,306 --> 00:19:29,707 ああ… 341 00:19:46,758 --> 00:19:49,894 (私の声)そして 師匠は 風と共に消えていった 342 00:19:52,397 --> 00:19:53,364 ああ… 343 00:19:55,099 --> 00:19:56,200 (羽貫さん)飲みに行こうか? 344 00:19:56,300 --> 00:19:58,770 (城ヶ崎先輩) おっ やっと その気になったかい? 345 00:19:58,870 --> 00:20:00,672 (羽貫さん)ラブドールに 入れあげてるんでしょ? 346 00:20:00,772 --> 00:20:02,440 (城ヶ崎先輩) どこから その情報を… 347 00:20:02,740 --> 00:20:05,376 (羽貫さん) 小津君 何でも話してくれるわよ 348 00:20:05,677 --> 00:20:08,780 (城ヶ崎先輩)あいつめ… 一体 どういうヤツなんだ 349 00:20:09,714 --> 00:20:11,015 ニーッ 350 00:20:13,051 --> 00:20:14,318 (私)ああっ! 351 00:20:14,419 --> 00:20:16,688 (私)イヤだあー! (亡霊1)痛い 痛いっ 352 00:20:16,788 --> 00:20:17,889 (私)あああっ! (亡霊1)待ちたまえ 353 00:20:17,989 --> 00:20:19,457 (亡霊1)こんちくしょう! (亡霊2)待ちやがれ! 354 00:20:23,461 --> 00:20:26,030 (私の声)いっそ ひと思いに 鴨川へ飛び込んでしまおうか? 355 00:20:26,130 --> 00:20:29,434 京都から落ち延びて 室戸岬(むろとみさき)で悟りを開いてこようか? 356 00:20:33,137 --> 00:20:36,074 (小津の声)“今後とも よろしくお願いします” 357 00:20:36,708 --> 00:20:37,842 こ… これは!? 358 00:20:39,343 --> 00:20:40,211 うわ! 359 00:20:42,213 --> 00:20:43,147 うん? 360 00:20:44,215 --> 00:20:46,451 (小津の声) “そちらが先攻でしたら失礼” 361 00:20:46,751 --> 00:20:49,287 “これからはダーティープレイで 行きましょう” 362 00:20:49,987 --> 00:20:51,823 ええっ!? わあ! 363 00:20:54,358 --> 00:20:57,261 (私の声) 既に 代理代理戦争の火ぶたは 切られていた 364 00:20:57,361 --> 00:21:00,064 やはり あの時計台前で 樋口師匠に捕まったことが— 365 00:21:00,164 --> 00:21:01,866 運命の分かれ目であったろう 366 00:21:01,966 --> 00:21:03,267 もし 他のサークルを 選んでいれば— 367 00:21:03,367 --> 00:21:06,237 私は もっと別の2年間を 送っていたに違いない 368 00:21:06,337 --> 00:21:07,905 何より 小津と 出会ってしまったことが— 369 00:21:08,005 --> 00:21:09,507 1番の失敗であった 370 00:21:10,108 --> 00:21:11,275 (ため息)